説明

コレット

【課題】従来同様の低コストな簡単な構成で半導体チップの搭載精度を悪化させることなく半導体チップの持ち帰り問題を解消し且つ高速搭載が可能で長寿命なコレットを提供する。
【解決手段】コレット10は、硬質材のシャンク13の先端の従来の半導体チップ吸着孔に圧入されて固定された硬質材の円筒突起14と、この円筒突起14に外嵌しゴム性の締め付け力で固定して設けられたラバーチップ12とで構成される。円筒突起14の先端吸着面14aは、ラバーチップ12の先端吸着面12aから突出しないように、ラバーチップ12の先端吸着面12aと同一平面か又は先端吸着面12aよりも高さh以内に引き込んだ形状で構成される。高さhは0.2mm以内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICチップ実装機でウエハから分割された小型ICチップを1個ずつ真空吸着により保持して高速で搬送し回路基板に搭載するコレットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の半導体チップ(以下、ICチップともいう)が作成され、それら複数のICチップが個々に細分化された境界線に切れ目を入れられたウエハから、ICチップを個々に吸着して取り出し、その取り出したICチップをプリント基板に搭載するコレットが知られている。
【0003】
図8(a),(b),(c),(d)は、従来の例えばRFID(Radio Frequency Identification)タグ向けのICチップ実装機においてコレットがICチップをプリント基板に搭載するまでの工程を模式的に簡略に示す図である。
【0004】
図8(a)に示す工程1では、導電パターンが付与されたプリント基板3が矢印aで示すようにディスペンサ等に搬送される。ディスペンサでは、図8(b)の工程2に示すようにプリント基板3の回路パターンに例えば異方性導電性接着剤5又はレジストや導電性フィルム等が塗布される。
【0005】
図8(c)に示す工程3では、接着剤などを塗布されたプリント基板3がマウンターに搬送される。ここで、コレット1が、ウエハから取り出して吸着したICチップ2を搬送し、そのICチップ2をプリント基板3のICチップ搭載位置に搭載する。ICチップ2の下面には複数のバンプ4が形成されている。
【0006】
図8(d)に示す工程4では、搭載によりプリント基板3の所定の位置に接着されたICチップ2に対し、上と下から加圧すると共に熱や紫外線を照射して接着剤(又はレジストや導電性フィルム)5を硬化させ、接着剤5を介してICチップ2のバンプ4とプリント基板3の所定の配線とを電気的に接続する。
【0007】
図9(a)は上記の工程3を更に具体的に細分化して示す図である。同図(a)は左上から時計回り方向に4つの仕切り内に、工程A、B、C、Dを示している。先ず工程Aでは、ウェハからピックアップされたICチップは、搭載ヘッド先端のコレットで真空吸着により保持される。
【0008】
次に、工程Bでは、ICチップは搭載ヘッドにより基板上まで搬送される。そして、工程Cにおいて、接着剤又はレジストや導電性フィルム等が塗布されている基板上にICチップが搭載され、真空吸着が解放されて、ICチップとコレットとが離隔する。
【0009】
最後の、工程DではICチップと離隔した搭載ヘッドはウエハ上に移動する。そして再び上述した工程A〜工程Dが繰り返される。
ところで、ICチップの中でも、特にRFIDタグは、近年に至って多用されるICチップである。多用されるため廉価であることが必要となる。廉価とするためにICチップは、0.5mm角以下に小型化されている。この寸法は業界の標準規格となりつつある。
【0010】
また、多用されるには大量生産の必要がある。すなわちプリンタ基板に対するICチップの搭載の高速化が要求される。0.500mm角以下という小型ICチップの高速搭載では、搭載工程においてICチップの持ち帰りや落下の不具合な問題が高い頻度で発生する。
【0011】
図9(b)は、そのような不具合な問題が発した場合の「問題時の」工程C及びDを示す図である。同図(b) に示す「問題時の工程C」では、コレット1が真空吸着を解除してもICチップ2をリリースできない状態を示している。
【0012】
このため「問題時の工程D」では、コレット1が真空吸着を解除したはずのICチップ2を先端に密着させたまま、ウエハ上に移動する工程Aへ移行してしまういわゆる「持ち帰り」という不具合が発生する。
【0013】
この持ち帰りの不具合は、次のような2つの問題が複合的な原因となって発生すると考えられる。先ず、第1には、コレットがICチップをプリント基板上に搭載した直後はICチップは接着剤の粘性抵抗や表面張力等のみでプリント基板上に保持されている。ところがICチップが小型化されるに応じて接着剤の量も減少しているため接着剤の保持力が低下している。
【0014】
第2には、コレットが後述するNBRのラバーチップの場合、ICチップのサイズ小型化に伴いラバーチップの先端も小型化されるので、ラバーチップの耐摩耗性が低下する。摩耗劣化したNBRの表面では粘着力が増加しICチップが離脱し難くなる。この2つの問題が原因であると考えられる。
【0015】
ところで、上記のようなICチップの持ち帰りを防止し且つICチップを所定の場所へ確実に供給するコレットとして、コレットの接触面に半球状の複数の突起部を形成し、ICチップを真空吸着するとき突起部を弾性変形させて接触面をICチップの上面に接触させ、搬送終了後に真空吸着を解除して突起部の復元力により接触面とICチップとの分離作用を円滑に行うようにしたものが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
また、ICチップに損傷を与えず、しかも吸着面の耐久性を向上させたコレットとして、導電性ゴム材からなるコレット本体の先細り先端を円筒形状に形成し、先端の中心開口部に嵌入固定した導電性樹脂材で鍔付き円筒形状に形成されている吸着部を設けたものが提案されている。(例えば、特許文献2参照。)
一般的に、コレットには、特許文献1に示されるような一体型と、特許文献2に示されるような分離型がある。
【0016】
図10(a)に示す従来のコレットは、耐久性向上のためコレット全体を金属またはエンジニアリング・プラスチックのような硬質材とする一体型コレットを示している。このようなコレットではICチップとコレットの接触面の摩擦力がゴム材より劣るため、高速動作の慣性力でICチップの保持姿勢が乱れ、基板への搭載精度が劣るという欠点がある。
【0017】
図10(b) は分離型のコレットを示す図である。この図10(b)に示す分離型のコレット6は、シャンク(軸部分)8とチップ(ICチップとの接触部分)7とに分けられる。このチップ部分の材質はICチップへの衝撃による損傷を軽減するためNBR(ニトリルゴム)が使われる場合が多い。
【0018】
このため分離型コレットの先端のチップ部分は、ICチップのチップと区別するため、ラバーチップと呼称される場合が多い。また、このような分離型のコレットは、吸着対象のICチップのサイズの変更や、コレット先端の吸着部の摩耗劣化に対して、ラバーチップの部分のみを交換することで対処できるため広く普及している。しかし、ラバーチップ内径側(吸着穴)のエッジが劣化し易く、劣化に伴いICチップ持ち帰り問題の頻度が増加する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2007−042684号公報
【特許文献2】特開2010−129588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、特許文献1においては、持ち帰りの防止と搭載精度向上のため、コレットの接触面に半球状の複数の微小突起部を形成しているが、このコレットを0.500mm角以下の半導体チップに適用するには微小突起を10μm前後のサイズに形成する必要がある。
【0021】
しかし、10μm前後の小サイズの微小突起では耐久性が低く大量生産には使用できない。そればかりでなく、微小突起を有する吸着接触面の特殊な表面加工によりコレットそのもののコストが上昇する恐れがある。
【0022】
また、特許文献2においては、耐摩耗性を向上させるためコレット先端のみを樹脂材料で構成しているが、樹脂材料が柔軟なゴム性であれば耐摩耗性が低下するに応じて摩耗劣化した表面が粘着力を増加させ半導体チップが離脱し難くなって持ち帰りが発生する。
【0023】
また、樹脂材料が硬質性の樹脂であれば、良好な耐摩耗性を発揮できるが、半導体チップとコレット先端の吸着面との摩擦力が低下し、特にコレットが水平方向に高速移動する際の慣性力に影響されて搭載精度が悪化する恐れが高い。
【0024】
また、摩擦力が低いと、水平方向の高速移動で半導体チップを搭載前に落下させてしまうという問題も発生しやすい。更には、吸着面の硬質材によって、半導体チップに衝撃破損が発生するという問題も残されている。
【0025】
また、特許文献2のコレットは、コレット本体の内部構造が複雑で、その製作には高度な技術と高コストを要するという解決すべき課題がある。
つまり、RFIDタグのような小型半導体チップの製造においては、「半導体チップ持ち帰り」の問題は、高速搭載動作を前提にし且つ搭載精度を悪化させることなく且つ低コストで解決しなければならない課題である。
【0026】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであって、小型半導体チップを吸着して高速にプリント基板に搭載するコレットにおいて、従来同様の低コストで簡単な構成で半導体チップの搭載精度を悪化させることなく半導体チップの持ち帰り問題を解消し且つ高速搭載が可能で長寿命なコレットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、本発明のコレットは、半導体チップを吸着するコレットにおいて、硬質材のシャンクの先端に設けられた硬質材の円筒突起と、該円筒突起に外嵌して設けられたラバーチップと、を有し、上記円筒突起の先端が上記ラバーチップの先端から突出しないように構成された、ことを特徴とする。
【0028】
このコレットにおいて、例えば、上記シャンク又は上記円筒突起を形成する上記硬質材は、エンジニアリング・プラスチック又は金属である、ことを特徴とする。
また、例えば、上記円筒突起の先端が上記ラバーチップの先端から突出しない上記円筒突起の先端と上記ラバーチップの先端との段差は0.0mm〜0.2mmである、ことを特徴とする。
【0029】
また、例えば、上記半導体チップの被吸着面が0.500mm×0.500mmの正方形であるとしたとき、上記円筒突起の外径をOD、内径をID、上記ラバーチップの先端の外径をOφ、内径をIφとして、OD=0.400mm、ID=0.200mm、Oφ=0.700mm、Iφ=0.360mmである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、従来同様の低コストな簡単な構成で半導体チップの搭載精度を悪化させることなく半導体チップの持ち帰り問題を解消し且つ高速搭載が可能で耐久性に優れて長寿命なコレットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1に係るコレットの構成を示す図である。
【図2】(a),(b)は実施例1に係るコレットの先端部の構成を示す断面拡大図、(c)はその不具合となる場合の構成を示す図である。
【図3】(a),(b)は実施例1に係るコレットで吸着すべき半導体チップの被吸着面が一辺L=0.500mmの正方形であるとしたときのコレットの円筒突起の先端吸着面とラバーチップの先端吸着面との寸法関係を示す図である。
【図4】(a)は式(2)において±5σのバラツキ範囲で確率密度をプロットして得られる立体グラフ、(b)は中心差にバラツキが生じた際のICチップとコレットの接触面積の変化をシミュレーションするためのモデルを示す図である。
【図5】図4(b)のシミュレーションにおいてICチップの1辺Lを、L=0.500mmとした場合に得られる結果を示す図である。
【図6】(a)〜(d)はICチップの形状と寸法Lの指示箇所を示す図である。
【図7】従来のコレットと、本実施例のコレットによる搭載実験値を示す図表である。
【図8】(a),(b),(c),(d)は従来の例えばRFID(Radio Frequency Identification)タグ向けのICチップ実装機においてコレットがICチップをプリント基板に搭載するまでの工程を模式的に簡略に示す図である。
【図9】(a)は図8の工程3を更に具体的に工程A〜Dに細分化して示す図、(b)は工程C、Dで不具合が発した場合の「問題時の工程C」及び「問題時の工程D」を示す図である。
【図10】(a)は従来の耐久性向上のためコレット全体を金属またはエンジニアリング・プラスチックのような硬質材からなる一体型で構成したコレットを示す図、(b)は従来のシャンクとラバーチップとからなる分離型のコレットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、本発明のコレットは、例えばICチップ実装機で小型ICチップ(特に0.5mm×0.5mm以下のサイズ)を高速で搭載(特に0.5秒/ 個以下)する際に使用するコレットを想定している。
【実施例1】
【0033】
図1(a),(b),(c)は、本発明の実施例1に係るコレットの構成を示す図である。尚、図1(a),(b),(c)では、便宜上コレットを上向きにして示している。図1(a)に示すように、本例のコレット10は、シャンク11と、このシャンク11の先端に取り付けられたラバーチップ12とで構成されている。
【0034】
図1(b)は、コレット10の分解図である。図1(b)に示すように、シャンク11は従来型のシャンク13の先端に本例特注の硬質材の円筒突起14が取り付けられている。ラバーチップ12は、寸法の制約があることを除けば従来と同様のラバーチップである。
【0035】
シャンク11の形状は、全て切削加工によって形成することもできる。本例の場合は、図1(c)に示すように、従来型シャンク13に、円筒突起14となる円筒を、矢印aで示すように、圧入又は接着剤等により固定している。
【0036】
このように、本例のコレットでは、ラバーチップ12の先端吸着部の内径側をエンジニアリング・プラスチックや金属等の硬質材でシャンク先端を補強しているのでラバーチップの劣化を防止することができる。
【0037】
この場合、円筒突起14の硬質材としての金属は一般的にはSUSでよい。ただし、より耐久性を考慮するのであれば、上記のタングステンカーバイドやセラミックを用いることもできる。
【0038】
図2(a)はコレット10の先端部の断面拡大図であり、同図(b)(c)は円筒突起14の先端とラバーチップ12の先端の突出関係を示す図である。
図2(a)に示すように、本例のシャンク11の円筒突起14は、下端部を従来型シャンク13の先端開口孔(従来の半導体チップ吸着孔)に圧入されて固定されている。その上から覆うようにラバーチップ12が外嵌してゴム性の締め付け力により固定されている。
【0039】
このように、コレット先端の吸着面の外周部をゴム材とすることで、高速移動の慣性力に耐えうる摩擦力を維持しており、且つ搭載精度が悪化することはない。更に従来のラバーチップをそのまま利用することもできる。
【0040】
図2(a)では、円筒突起14の先端吸着面14aとラバーチップ12の先端吸着面12aは同一平面を形成している。この形状は、円筒突起14の先端吸着面14aとラバーチップ12の先端吸着面12aとが協働して半導体チップを吸着し、且つプリント基板等に搭載するための最も理想的な形状である。
【0041】
図2(b)では、円筒突起14の先端吸着面14aが、ラバーチップ12の先端吸着面12aよりも引っ込んでいる。換言すれば、円筒突起14の先端吸着面14aが、ラバーチップ12の先端吸着面12aから突出しない形状になっている。
【0042】
この形状でも半導体チップに対する吸着機能は正常に働くが、ラバーチップ12の先端吸着面12aの突出度が大きいと搭載精度に悪影響がでる。円筒突起14の先端吸着面14aとラバーチップ12の先端吸着面12aとの段差hは0.2mm以下であることが好ましい。
【0043】
段差hが0.2mm以下であると、ラバーチップ12の先端吸着面12aが半導体チップの被吸着面に当接したとき先端吸着面12aが押し潰されても、潰された部分が中心の軸線に対し輻射方向に外側に膨張するので円筒突起14の搭載機能に悪影響は与えない。
【0044】
しかし、段差hが0.2mmを超えると、ラバーチップ12の先端吸着面12aが半導体チップの被吸着面に当接して潰れたとき、中心の軸線に対し輻射方向に外側だけでなく内側にも膨張するので、円筒突起14の先端吸着面14aの縁に乗り上げて円筒突起14の搭載機能を損なう。
【0045】
これらを総括すると、円筒突起14の先端吸着面14aとラバーチップ12の先端吸着面12aとの段差hは、図2(a)に示す0.0mmから、図2(b)で説明した0.2mm以下、すなわち段差h=0.0mm〜0.2mmであることが望ましいといえる。
【0046】
また、図2(c)では、円筒突起14の先端吸着面14aが、ラバーチップ12の先端吸着面12aよりも突出した形状になっている。これは従来の硬質材のみの一体型のコレットの吸着面と同一であり、ラバーチップ12を用いた意味が失われ、高速水平移動中では半導体チップの吸着を維持できない恐れが多分にある。
【0047】
本例のコレット10は、上記の図1(a),(b)及び図2(a),(b)のように、従来のラバーチップ先端の吸着部の内径を、金属又はエンジニアリング・プラスチック等の硬質材の円筒で補強するので、ラバーチップの劣化を大きく遅らせることができる。
【0048】
また、本例のコレットでは、吸着孔の外周部をゴム材で構成している。したがって半導体チップに対して、コレットが上下左右に高速に移動する際の慣性力に耐えうる摩擦力を維持できる。これにより高速移動後も半導体チップの搭載精度が悪化することはない。
【0049】
更に、シャンクは、従来型シャンクに硬質材の円筒を取付加工するだけであり、また、ラバーチップは、従来のラバーチップをそのまま利用できる。また、ラバーチップの吸着孔の内径が円筒で補強されているので、ラバーチップへの負荷が低減され、ラバーチップの寿命が従来よりも長期化する。
【0050】
したがって、本例のコレットは、シャンク製作の初期コストは発生するが、従来のコレットに要したランニングコスト以下のランニングコストで使用することができる。また、形状が複雑でなく簡単な形状であるため、シャンクの製作も容易である。
【0051】
図3(a),(b)は、本例のコレット10で吸着すべき半導体チップの被吸着面が正方形であり、その正方形の一辺LがL=0.500mmであるとしたときの、円筒突起14の先端吸着面14aと、ラバーチップ12の先端吸着面12aとの寸法関係を示す図である。
【0052】
上記の寸法関係は、図3(a)に示すように、円筒突起14の先端吸着面14aの外径をOD、内径をIDとして、OD=0.400mm、ID=0.200mmである。また、図3(b)に示すように、ラバーチップ12の先端吸着面12aの外径をOφ、内径をIφとして、Oφ=0.700mm、Iφ=0.360mmである。
【0053】
また、図3(a),(b)に示すように、円筒突起14(ラバーチップが嵌合する部分)の高さを3.60mmとすると、ラバーチップ12そのものの高さは3.70±0.10mmである。
【0054】
この寸法関係は、次の理由による。まず、ゴム性の伸縮によりラバーチップ12をシャンク11に固定する観点から、ラバーチップ12の先端吸着面12a(以下、単にラバーチップ12という)の内径Iφはシャンク11の先端吸着面14a(以下、単にシャンク11という)の外径ODよりも0.040mm程度小さい方が望ましい。
【0055】
また、円筒突起14の周辺ゴム材によって搭載精度の悪化を防止するという本発明の主旨により、ゴム性のラバーチップ12の先端吸着面12aが半導体チップの被吸着面に接触することが必要である。
【0056】
つまり、硬質材で構成されたシャンク11の突端のみで半導体チップに接触して保持するのは本発明の主旨にもとる。このことから、ラバーチップ12の先端吸着面12aの内側に配置されるシャンク11の外径ODは、正方形の半導体チップの一辺Lよりも小さいことが要求される。
【0057】
次にラバーチップ12の外径Oφと、シャンク11の内径IDは、コレット10による半導体チップ保持位置のバラツキを考慮しなければならない。このバラツキの発生は、本例のコレット10は、ウエハから半導体チップを正確に取り出す取出側コレットから半導体チップの保持を引き継ぐ搭載側コレットであるからである。
【0058】
したがって、必ずしも半導体チップの中心とコレット10の中心が一致するとは限らない。あるバラツキの条件下で中心差が生じる。このバラツキは標準偏差σの正規分布に従うと考えるのが一般的である。
【0059】
ここで、一次元方向xの確率密度関数は平均値をゼロとすると次式
【数1】

で与えられる。
【0060】
本例の場合は半導体チップの被吸着面、すなわち二次元平面なので、x、yそれぞれの確率密度関数の積をとった次式
【数2】

を用いる。
【0061】
この式(2)において、「x^2+y^2」が一定になるようにして、同じ確率密度を結んだ線は円の軌跡となることが判る。 この式(2)に、±5σの範囲で確率密度をプロットすると図4(a)に示すような立体グラフになる。この立体グラフでみると、確率密度は約±3σまで裾野が広がっている。つまり「(x^2+y^2)^1/2≦3σ」の範囲に中心差の生じる可能性がある。
【0062】
この範囲内でICチップとコレットの接触面積が小さくならないようにしなければならない。接触面積が小さい場合は高速動作によってICチップの落下や、搭載精度の悪化を招くことになるためである。
【0063】
ここで図4(b)に示すモデルを用いて、中心差にバラツキが生じた際のICチップとコレットの接触面積の変化をシミュレーションする。ICチップを1辺Lの正方形、コレット内径をシャンク内径ID、コレット外径をラバーチップ外径Oφとすると、斜線で図示している部分が接触面積である。
【0064】
中心差x,yを±5σの範囲で変化させ、その接触面積をプロットする。中心差が発生する可能性のある「(x^2+y^2)^1/2≦3σ」の範囲で接触面積はICチップの面積(=L^2)の60%以上あることが望ましい。
【0065】
図5は、上記のシミュレーションにおいて、ICチップの1辺Lを、L=0.500mmとした場合に得られる結果を示す図である。同図は上から下へ条件(1)、条件(2)、条件(3)と3段に分けて条件が異なる場合のシミュレーション結果を示している。
【0066】
条件(1)、(2)、(3)の右方の欄には、条件(1)、(2)、(3)の内容としてICチップの1辺L=0.500mmを不変とし、他の条件のID、Oφ、σをそれぞれ変更した場合を示している。
【0067】
それら条件内容の右方の欄には、それらの条件内容でシミュレーションした結果の立体グラフを示している。立体グラフの右方の欄には、縦軸にL^2=1としたときの接触面積を示し、横軸にY(=X)の−5σ〜+5σの範囲のバラツキを示す座標の中に、立体グラフのy=xの断面を実線で示し、「(x^2+y^2)^1/2≦3σ」の範囲を破線で示している。
【0068】
同図に示す条件(1)では「(x^2+y^2)^1/2≦3σ」の範囲で接触面積が60%を超えており望ましい状態であると言える。一方、条件(2)(3)では接触面積が60%を下回るため搭載精度の悪化やICチップの落下などの不具合が発生する懸念がある。
【0069】
このように、ラバーチップの外径Oφや、シャンクの内径IDは、ICチップのサイズや、バラツキσのバランスにより決定しなければならない。
y=x、且つ(x^2+y^2)^1/2=3σの条件下、即ち(x^2+y^2)^1/2≦3σの範囲で接触面積が最小となる条件下で一般化すると、L^2に対する接触面積Sは次式
【数3】

で近似できる。尚、Sは、それぞれIDの効果、Oφの効果、σの効果に分別することができ、それぞれ2次関数、シグモイド関数、一次関数でより良く近似できるため、上記の近似式を用いている。
【0070】
ここで、式(3)を用い、L及びσに応じてSが0.6以上になるようにID及びOφを決定すれば良い。例えば図5に示す条件(1)、(2)、(3)においてSを算出すると、条件(1)のときのみ、Sが0.6以上となる。
【0071】
例えば、式(3)において、係数の条件を、ID/L=0.1〜0.7、Oφ/L=0.2〜2.2、σ/L=0.01〜0.25として、演算すれば、図5の条件(1)ではS≒0.71,条件(2)ではS≒0.29,条件(3)ではS≒0.45、となる。
【0072】
本例のコレットの、図3に示したシャンクとラバーチップの寸法は、上記の観点から決定されたものである。尚、ICチップはかならずしも正方形と限るものではない、長方形のもの、円形のもの、楕円形のものと種々考えられる。
【0073】
図6(a)〜(d)は、ICチップの形状と寸法Lの指示箇所を示す図である。同図(a)は正方形の場合、同図(b)は長方形の場合、同図(c)は円形の場合、同図(d)は楕円形の場合を示している。いずれもLは、形状の中心を通る直線が外周と交わる交点間の寸法が最小となる直線である。
【0074】
図6(b)〜(d)のように、ICチップが正方形でない場合でも、前述した式(3)を用いて、実施例1の場合と同様に適正なコレットの寸法を算出することができきる。なお、その場合の寸法条件は、
OD(シャンク突起の外径)≦L、
Iφ(ラバーチップ内径)=OD−0.040mm、
ID(シャンク突起の内径)=※1を満たす条件、
Oφ(ラバーチップ外形)=※1を満たす条件、
但し、※1は、コレットとICチップの中心差が標準偏差σで与えられる場合、式(3)で、S≧0.6となるID及びOφとなる値である。さらに、
ID/L=0.1〜0.7、
Oφ/L=0.2〜2.2、
σ/L=0.01〜0.25、
の条件を満たすことが必要である。
【0075】
図7は、従来のコレットと、式(3)に上記の条件を満たす適正な係数を代入した数式により得られたS=0.6以上にとなる条件で作成された円筒突起とラバーチップとの関係を備えたコレットによる搭載実験値を示す図表である。
【0076】
この実験では、被吸着面が一辺0.450mmの正方形をなす半導体チップを、1個当たり0.5秒の速度で搭載基板に搭載した。従来のコレットでは図7の図表に示すように、20万個の半導体チップを搭載して、0.2%の持ち帰り不良が発生した。
【0077】
これに対して、本発明のコレットでは、50万個の半導体チップを搭載しても、持ち帰り不良は0.02%しか発生していない。つまり従来比において、2.5倍の使用条件下においても、持ち帰り不良率を1/10に低減できる。もちろん従来のコレットに比較して搭載精度の悪化も発生していない。
【0078】
上記の結果から、本発明のコレットは、半導体チップの寸法や搭載条件にも依存することでもあるが、小型半導体チップの高速搭載に対し十分有効に機能すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、半導体チップ実装機に用いられ、例えば0.5mm×0.5mm以下のサイズの小型半導体チップを、例えば0.5秒/個以下の高速でプリント基板に搭載する際に使用するコレットに利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 コレット
2 半導体チップ(ICチップ)
3 プリント基板
4 バンプ
5 接着剤
6 コレット
7 チップ(ICチップとの接触部分、ラバーリップ)
8 シャンク(軸部分)
10 コレット
11 シャンク
12 ラバーチップ
12a 先端吸着面
13 従来型シャンク
14 円筒突起
14a 先端吸着面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップを吸着するコレットにおいて、
硬質材のシャンクの先端に設けられた硬質材の円筒突起と、
該円筒突起に外嵌して設けられたラバーチップと、
を有し、
前記円筒突起の先端が前記ラバーチップの先端から突出しないように構成された、
ことを特徴とするコレット。
【請求項2】
前記シャンク又は前記円筒突起を形成する前記硬質材は、エンジニアリング・プラスチック又は金属である、ことを特徴とする請求項1記載のコレット。
【請求項3】
前記円筒突起の先端が前記ラバーチップの先端から突出しない前記円筒突起の先端と前記ラバーチップの先端との段差は0.0mm〜0.2mmである、ことを特徴とする請求項1記載のコレット。
【請求項4】
前記半導体チップの被吸着面が0.500mm×0.500mmの正方形であるとしたとき、前記円筒突起の外径をOD、内径をID、前記ラバーチップの先端の外径をOφ、内径をIφとして、OD=0.400mm、ID=0.200mm、Oφ=0.700mm、Iφ=0.360mmである、ことを特徴とする請求項1記載のコレット。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−46026(P2013−46026A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184947(P2011−184947)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000237639)富士通フロンテック株式会社 (667)
【Fターム(参考)】