説明

コーストストップ車両及びコーストストップ方法

【課題】走行中に駆動力源を停止可能な車両において油圧の低下を抑制するコーストストップ車両を提供する。
【解決手段】プーリに挟持されるベルトの巻き掛け径を変更することによって変速比を無段階に変更することができるバリエータ(20)と、バリエータ(20)に対して直列に接続され、複数の摩擦締結要素の締結状態を変更して有段の変速段を変速可能な副変速機構(30)と、走行中にコーストストップ条件が成立したときに駆動力源の回転を停止させると共に、締結中の摩擦締結要素を解放状態とするコーストストップ手段と、を備え、コーストストップ手段は、コーストストップ条件の成立の判定時に、コーストストップの実行により、プーリのベルトの挟持力が締結状態の摩擦締結要素の締結力を下回ると予測した場合は、コーストストップ条件にかかわらず、コーストストップを禁止するコーストストップ禁止手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中に駆動力源を停止可能な車両において、ベルトのスリップを予防するコーストストップ車両を提供する。
【背景技術】
【0002】
車両が停車中に駆動力源であるエンジンを停止するアイドルストップ制御が知られている。さらに、車両が走行中にもエンジンを停止させる車両(特許文献1参照。)が知られている。このような制御によって、エンジンの燃費を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−170295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速比を無段階に変速可能なバリエータと有段の変速段とを有する副変速機構とを組み合わせて変速領域を拡大した無段変速機が開発されている。この無段変速機を、前述のように、走行中にエンジンを停止する制御(以下、コーストストップと呼ぶ)を行うと、次のような状態が発生しうる。
【0005】
エンジンの停止によって、エンジンの回転軸に接続されるオイルポンプの回転も低下すると、オイルポンプによって供給されるライン圧が低下する。
【0006】
バリエータのベルト挟持力及び副変速機構の摩擦締結要素の締結力はオイルポンプによって供給されるライン圧によって制御される。このライン圧が低下すると、摩擦締結要素の油路上にアキュームレータが配される油圧回路である場合や、摩擦締結要素への油圧を制御するソレノイドの通電状態が遮断されるフェールが生じることで、ライン圧が摩擦締結要素に供給されるような油圧回路である場合は、ベルト挟持力よりも摩擦締結要素の締結力が上回ってベルトがスリップするという問題が発生しうる。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、走行中に駆動力源であるエンジンを停止可能なコーストストップ車両において、エンジンの停止によりベルト挟持力よりも摩擦締結要素の締結力が上回ってベルトがスリップする等の不具合を防止するコーストストップ車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様によると、車両走行中に駆動力源(エンジン)を停止させるコーストストップ車両であって、駆動力源の回転によって油路にライン圧を発生させるオイルポンプと、ライン圧を用いてプーリに挟持されるベルトの巻き掛け径を変更することによって変速比を無段階に変更することができるバリエータと、バリエータに対して直列に接続され、ライン圧を用いて複数の摩擦締結要素の締結状態を変更して有段の変速段を変速可能な副変速機構と、車両走行中にコーストストップ条件の成立を判定し、コーストストップ条件が成立したときに駆動力源の回転を停止させるコーストストップを実行するコーストストップ手段と、を備え、コーストストップ手段は、コーストストップ条件の成立の判定時に、コーストストップの実行により、プーリのベルト挟持力が締結状態の摩擦締結要素の締結力を下回ると予測した場合は、コーストストップ条件の成立にかかわらず、コーストストップを禁止するコーストストップ禁止手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、車両が走行中にコーストストップ条件が成立したとしても、コーストストップの実行により、プーリのベルト挟持力が締結状態の摩擦締結要素の締結力を下回ると予測される状況では、駆動力源の回転の停止を禁止するので、プーリのベルト挟持力が締結状態の摩擦締結要素の締結力を下回ってベルトがスリップすることによって発生する不具合を未然に防ぐこととができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態の無段変速機を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の変速機コントローラの構成の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態の変速マップの一例を示す説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態の油圧制御回路の説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態のコーストストップ時におけるバリエータ及び副変速機構の状態を示す説明図である。
【図6】本発明の第1実施形態のコーストストップ時におけるバリエータ及び副変速機構の状態を示す説明図である。
【図7】本発明の第1実施形態のコーストストップ時におけるバリエータ及び副変速機構の状態を示す説明図である。
【図8】本発明の第1実施形態のコントローラのフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態の油圧制御回路の説明図である。
【図10】本発明の第2実施形態のライン圧とクラッチ圧との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の最大変速比、「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比である。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係るコーストストップ車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0013】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。電動オイルポンプ10eは、オイルポンプ本体と、これを回転駆動する電気モータ及びモータドライバとで構成され、運転負荷を任意の負荷に、あるいは、多段階に制御することができる。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eからの油圧(以下、「ライン圧PL」という。)を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0014】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0015】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0016】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0017】
例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速である場合に「変速機4が低速モードである」と表現し、2速である場合に「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0018】
各摩擦締結要素は、動力伝達経路上、バリエータ20の前段又は後段に設けられ、いずれも締結されると変速機4の動力伝達を可能にし、解放されると変速機4の動力伝達を不能にする。
【0019】
コントローラ12は、エンジン1及び変速機4を統合的に制御するコントローラであり、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0020】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、ライン圧PLを検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46の出力信号等が入力される。
【0021】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号、電動オイルポンプ10eの駆動信号を生成し、生成した信号を、出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、電動オイルポンプ10eのモータドライバに出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0022】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10m又は電動オイルポンプ10eで発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0023】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。コントローラ12は、この変速マップに基づき、車両の運転状態(この実施形態では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、アクセル開度APO)に応じて、バリエータ20、副変速機構30を制御する。
【0024】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比」という。)に対応する。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8の場合の変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8の場合の変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0/8の場合の変速線)のみが示されている。
【0025】
変速機4が低速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0026】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にある場合は、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0027】
また、この変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比と等しい値に設定される。モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータ20の変速比が小さいほど副変速機構30への入力トルクが小さくなり、副変速機構30を変速させる際の変速ショックを抑えられるからである。
【0028】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、スルー変速比の実際値(以下、「実スルー変速比Ratio」という。)がモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、コントローラ12は以下に説明する協調変速を行い、高速モード−低速モード間の切換えを行う。
【0029】
協調変速では、コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比が変化する方向と逆の方向に変更する。この時、副変速機構30の変速比が実際に変化するイナーシャフェーズとバリエータ20の変速比が変化する期間を同期させる。バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比変化と逆の方向に変化させるのは、実スルー変速比Ratioに段差が生じることによる入力回転の変化が運転者に違和感を与えないようにするためである。
【0030】
具体的には、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをLow側からHigh側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(1−2変速)するとともに、バリエータ20の変速比をLow側に変更する。
【0031】
逆に、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをHigh側からLow側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(2−1変速)するとともに、バリエータ20の変速比をHigh側に変更する。
【0032】
また、コントローラ12は、燃料消費量を抑制するために、以下に説明するコーストストップ制御を行う。
【0033】
コーストストップ制御は、低車速域で車両が走行している間、エンジン1を自動的に停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制する制御である。アクセルオフ時に実行される燃料カット制御とはエンジン1への燃料供給が停止される点で共通するが、ロックアップクラッチ及び摩擦締結要素(Lowブレーキ32又はHighクラッチ33)を解放してエンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路を絶ち、エンジン1の回転を完全に停止させる点において相違する。
【0034】
コーストストップを実行するにあたっては、コントローラ12は、まず、例えば以下に示す条件a〜dを判断する。
【0035】
a:アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)
b:ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ液圧が所定値以上)
c:車速が所定の低車速(例えば、15km/h)以下
d:ロックアップクラッチが解放されている
これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。
【0036】
ロックアップクラッチは変速マップ上に設定されるロックアップ解除線(不図示)を高速側又は高回転側から低速側又は低回転側に横切った場合に解放される。コントローラ12は、これらの条件a〜dが全て成立した場合にコーストストップ条件成立と判断する。
【0037】
コーストストップでは、エンジン1への燃料供給を停止し、エンジン1を自動的に停止させる。エンジン1が停止すると、エンジン1の動力によって駆動されるメカオイルポンプ10mも停止してその吐出圧がゼロになり、Lowブレーキ32が完全に解放される。Lowブレーキ32は、エンジン1及びメカオイルポンプ10mの停止と略同時に解放される。
【0038】
メカオイルポンプ10mからプーリ21、22の油圧シリンダ23a、23bへの供給油圧がゼロになり、かつ、Lowブレーキ32が解放されてバリエータ20が回転方向にフリーになると、バリエータ20の変速比は油圧シリンダ23a、23b内に配置されるリターンスプリングによって最Low変速比に向けて変化する。
【0039】
メカオイルポンプ10mが停止すると、電動オイルポンプ10eの駆動が開始され、電動オイルポンプ10eで発生させた油圧が油圧シリンダ23a、23bに供給され、バリエータ20を最Low変速比まで変化させる。
【0040】
油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧は、プーリ21、22でベルト23を挟持するだけの油圧で、動力を伝達するのには十分な油圧ではない。しかしながら、Lowブレーキ32が解放され、副変速機構30がニュートラル状態になっているので、仮にブレーキング等で駆動輪7からトルクが入力されたとしてもこのトルクが副変速機構30を介してバリエータ20に伝達されることはなく、ベルト23の滑りが防止される。
【0041】
また、コントローラ12は、Lowブレーキ32が解放された後、Lowブレーキ32への供給油圧を、Lowブレーキ32を入力側要素と出力側要素との間の隙間がゼロで、かつ、Lowブレーキ32のトルク容量(伝達可能なトルク)がゼロとなる油圧(以下、「ゼロ点油圧」という。)まで上昇させる。これは、コーストストップ中、Lowブレーキ32を締結直前の状態に維持しておくことで、再加速時にはLowブレーキ32のトルク容量を速やかに上昇させ、再加速応答性を向上させるためである。
【0042】
なお、上記a〜dの条件はコーストストップ中も成立しているかの判断が継続される。そして、いずれか一つでも不成立になるとコーストストップ条件が不成立になり、コントローラ12は、エンジン1への燃料供給を再開してエンジン1を再始動するとともに、メカオイルポンプ10mが十分な油圧を発生するようになった時点で電動オイルポンプ10eを停止させる。
【0043】
図4は、本実施形態の油圧制御回路11の構成を示す説明図である。
【0044】
油圧制御回路11は、エンジン1の駆動力によって駆動されるメカオイルポンプ10mを備える。メカオイルポンプ10mが発生する油圧はプレッシャーレギュレータ弁51によって所定のライン圧に調圧されて、油路50を介してバリエータ20及び副変速機構30の各部に分配される。
【0045】
また、メカオイルポンプ10mが発生する油圧はプレッシャーレギュレータ弁51を介してトルクコンバータ2に供給される。この油圧はトルクコンバータ2のトルク伝達及びロックアップクラッチの締結・解放に用いられる。
【0046】
油路50のライン圧は、セカンダリプーリ22の油圧シリンダ23bの油室に供給される。また、油路50のライン圧は、減圧弁52によって減圧されて、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aの油室に供給される。減圧弁52によって油圧シリンダ23aの油室に供給される油圧を調整することによって、油圧シリンダ23bの油室に供給されるライン圧との差圧によりそれぞれのV溝の幅が変化してVベルト23とプーリとの接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0047】
また、油路50のライン圧は、副変速機構30において、減圧弁53を介してLowブレーキ32に、減圧弁54を介してHighクラッチ33に、それぞれ供給される。減圧弁53は、Lowブレーキ32に供給する油圧を調整してLowブレーキ32の締結力を制御する。減圧弁54は、Highクラッチ33に供給する油圧を調整してHighクラッチ33の締結力を制御する。
【0048】
減圧弁53とLowブレーキ32との間の油路56には、アキュームレータ60が接続されている。アキュームレータ60は、内部に作動油を貯留して、この作動油によって油路56の油圧の変化を緩和する。
【0049】
具体的には、油圧が所定圧力以上である場合には、アキュームレータ60の内部に作動油が貯留される。油圧が所定圧力よりも低下した場合は、アキュームレータ60に貯留された作動油が油路56に供給されて油路56の油圧の低下の応答を遅らせる。また、油路56の油圧が低い状態から上昇した場合は作動油がアキュームレータ60内に貯留され油路56の油圧の上昇の応答を遅らせる。これにより、油圧56の油圧の応答性を遅らせ、油圧が急激に上昇、下降することを抑制するので、Lowブレーキ32の締結、解放時のショックを抑えることができる。
【0050】
コントローラ12は、プレッシャーレギュレータ弁51を制御してライン圧を調整する。また、減圧弁52を制御してプライマリプーリ21の油圧シリンダ23aへの油圧を調整して、バリエータ20の変速比を制御する。また、減圧弁53を制御してLowブレーキ32の締結状態を制御する。また、減圧弁54を制御してHighクラッチ33の締結状態を制御する。
【0051】
メカオイルポンプ10mは、エンジン1の回転により駆動される。エンジン1が回転している間は常にメカオイルポンプ10mが回転し、変速機4の動作に必要な油圧を発生する。変速機4は車両停止状態でも車両の発進に備えて油圧が必要となるので、車両停止時にエンジン1が回転している状態は、メカオイルポンプ10mの駆動によりライン圧が発生される。
【0052】
一方で、コーストストップ等によりエンジン1の回転を停止した場合には、メカオイルポンプ10mの駆動が停止し、油圧が低下する。これに備えて、油路50に電動オイルポンプ10eが備えられている。
【0053】
電動オイルポンプ10eは、エンジン1の回転が停止してメカオイルポンプ10mが作動していないときに変速機4への油圧の供給するために、コントローラ12の制御によって、バッテリ13からの電力の供給によって駆動して、油圧を発生する。
【0054】
なお、電動オイルポンプ10eは、アイドルストップ又はコーストストップ等の比較的低負荷時に作動するものである。従って、このような運転状況における必要油圧を満足できる程度の容量を持ち、かつ、車両の重量の増加及びコストの上昇とならない程度の容量であることが望ましい。
【0055】
次に、コントローラ12によるコーストストップ時の動作を説明する。
【0056】
図5は、本実施形態のコーストストップ時におけるバリエータ20及び副変速機構30の状態を示す説明図である。
【0057】
前述のように、コーストストップ条件が成立した場合は、コントローラ12は、エンジン1を停止させてコーストストップを実行する。
【0058】
コーストストップが実行されると、エンジン1の回転速度は漸減し、その後、回転速度が0となる。これにより、エンジン1により駆動されるメカオイルポンプ10mの回転も漸減し、メカオイルポンプ10mが発生する油圧も漸減する。なお、この場合は、メカオイルポンプ10mから油路50に供給される油圧は直ちには低下しないので、暫くは、変速機4の摩擦締結要素の締結やバリエータ20のVベルト23の挟持に必要なライン圧を確保することができる。
【0059】
コントローラ12は、コーストストップを実行すると共に電動オイルポンプ10eを作動させる。これにより、油圧制御回路11のライン圧は、メカオイルポンプ10mに代わり、電動オイルポンプ10eによって発生される。変速機4では、副変速機構30の摩擦締結要素の締結圧やバリエータ20のVベルト23の締結圧は、電動オイルポンプ10eが発生したライン圧を元圧として制御される。締結中の摩擦締結要素は、このライン圧によって解放制御される。
【0060】
なお、コーストストップによって、エンジン1の回転が停止する直前には、シリンダの圧縮反力によってエンジン1が逆方向に回転する場合がある。これにより、エンジン1の回転軸と直結して回転するメカオイルポンプ10mが逆方向に回転して、吐出側にマイナスの油圧が発生し、ライン圧が一旦ゼロ付近まで過渡的に低下する。その後、エンジン1の回転が完全に停止した後は、電動オイルポンプ10eが発生する油圧によりライン圧として供給される。なお、必ずしもコーストストップ時にエンジン1が逆回転することを意味しない。
【0061】
バリエータ20及び副変速機構30において、各プーリによるVベルト23の挟持力及び摩擦締結要素の締結力は、ライン圧によって保たれているが、これらは、ライン圧の低下に伴って低下する。なお、本実施形態では、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22によってVベルト23を挟持する力を、プーリのベルト挟持力と呼ぶ(一点鎖線で示す)。また、副変速機構30において、現在締結中の摩擦締結要素(Lowブレーキ32又はHighクラッチ33)に油圧を供給することにより発生する摩擦締結要素に発生する力を、クラッチの締結力(点線で示す)と呼ぶ。
【0062】
通常、副変速機構30の変速時には、摩擦締結要素がスリップを行いながら締結/解放を行う。一方で、回転中のバリエータ20のVベルト23がスリップすると、プライマリプーリ21又はセカンダリプーリ22のシーブ面に傷がついたり、シーブ面の破損やVベルト23自体の破損が発生する可能性があるため、Vベルト23がスリップを発生しないことが求められる。
【0063】
コーストストップの実行によりライン圧が低下して、プーリのベルト挟持力及びクラッチの締結力が低下する。このとき、コーストストップ実行前において、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を上回っているため、コーストストップ実行後、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を上回った状態を維持しながらプーリのベルト挟持力及びクラッチの締結力が低下する。従って、摩擦締結要素が先に解放され、バリエータ20に駆動輪側からの駆動力が入力されることはないので、Vベルト23にスリップが発生することはない。
【0064】
図6は、本実施形態におけるコーストストップ時におけるバリエータ20及び副変速機構30の状態を示す一例の説明図である。
【0065】
図5で前述したように、コーストストップが実行され、エンジン1の回転速度が低下することによりメカオイルポンプ10mの吐出圧が低下して、ライン圧も低下する。これにより、プーリのベルト挟持力及びクラッチの締結力がそれぞれ低下する。
【0066】
コントローラ12は、コーストストップの実行時に、締結中のLowブレーキ32の解放を行う。このとき、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路56にはアキュームレータ60が備えられているので、アキュームレータ60に蓄積されている油圧によって、Lowブレーキ32に供給される油圧の低下の応答性が遅れる。
【0067】
そのため、クラッチの締結力の低下よりもプーリのベルト挟持力の低下が速くなり、Lowブレーキ32の締結力よりもVベルト23の挟持力が下回って、Vベルト23にスリップが発生する可能性がある。
【0068】
図7は、本実施形態におけるコーストストップ時におけるバリエータ20及び副変速機構30の状態を示す他の例の説明図である。
【0069】
図5で前述したように、コーストストップが実行され、エンジン1の回転速度が低下することによりメカオイルポンプ10mの吐出圧が低下して、ライン圧も低下する。これにより、プーリのベルト挟持力及びクラッチの締結力がそれぞれ低下する。
【0070】
ここで、バリエータ20及び摩擦締結要素のそれぞれの特性により、ある摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)のクラッチの締結力がプーリのベルト挟持力を上回っている場合がある。このような場合において、通常の運転時にはコントローラ12によって常にプーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を上回るように油圧が制御される。
【0071】
一方で、当該摩擦締結要素が締結されている場合にコーストストップが実行された場合は、ライン圧の低下によって、コントローラ12による制御代が少なくなる。この場合、ライン圧がある所定値よりも小さくなったときに滑り限界(点線で示す)以下の領域となり、その際、クラッチの締結力がプーリのベルト挟持力を上回っているため、当該摩擦締結要素の締結力よりもVベルト23の挟持力が下回り、Vベルト23にスリップが発生する可能性がある。
【0072】
このように、ある摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)が締結状態にある場合において、コーストストップが実行され、エンジン1の回転速度が低下することによりメカオイルポンプ10mの吐出圧が低下してライン圧が低下することを起因として、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下まわりVベルト23にスリップが発生する可能性がある。
【0073】
そこで、本実施形態では、このような状況によってVベルト23にスリップが発生することを防ぐために、コントローラ12が次のような制御を実行する。
【0074】
図8は、本実施形態のコントローラ12によるコーストストップの実行判定のフローチャートである。なお、本フローチャートの処理はコントローラ12において所定間隔(例えば10ms)で実行される。
【0075】
コントローラ12は、現在の車両の運転状態から、コーストストップ条件が成立したか否かを判定する(ステップS101)。
【0076】
コーストストップ条件とは、前述したように、例えば、アクセルペダルから足が離されている、ブレーキペダルが踏み込まれている、車速が所定の低車速以下である、かつ、ロックアップクラッチが解放されている場合である。
【0077】
コーストストップ条件が成立していないと判定した場合は本フローチャートのよる処理を終了し、コーストストップを実行しない。
【0078】
コーストストップ条件が成立したと判定した場合は、コントローラ12は、現在のバリエータ20及び副変速機構30の状態が、コーストストップの実行によって、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下回ると予測される状態であるか否かを判定する(ステップS102)。
【0079】
より具体的には、図6で前述したように、摩擦締結要素に油圧を供給する油路56にアキュームレータ60が備えられている場合、コーストストップの実行前に当該摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)が締結状態であり、コーストストップの実行によって当該摩擦締結要素の解放を行う必要がある場合に、コーストストップの実行によって、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下回ると予測される状態であると判定する。
【0080】
また、図7で前述したように、摩擦締結要素のクラッチの締結力がプーリのベルト挟持力を上回っており、コーストストップの実行前に当該摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)が締結状態であり、コーストストップの実行によって当該摩擦締結要素の解放を行う必要がある場合に、コーストストップの実行によって、滑り限界以下の領域内でプーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下回ると予測される状態であると判定する。
【0081】
このように、ある特定の摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)が締結状態であって、副変速機構30が、その摩擦締結要素の締結によって実現される変速段(例えば1速)であるとことローラ12が判定した場合は、コーストストップの実行によって、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下回ると予測して、コーストストップ条件の成立にかかわらず、コーストストップを実行しないと判定する。
【0082】
ステップS102において、コントローラ12は、コーストストップを実行しないと判定した場合は、本フローチャートのよる処理を終了し、コーストストップを実行しない。すなわち、コーストストップ禁止手段が構成される。
【0083】
一方、コーストストップの実行によって、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下回ると予測される状態でない場合(例えばHighクラッチ33が締結状態の2速)は、コントローラ12は、コーストストップを実行する(ステップS103)。すなわち、コーストストップ手段が構成される。
【0084】
この結果、副変速機構30が、ある摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)が締結状態でとなっている変速段(例え1速)である場合には、コーストストップ条件が成立しているにもかかわらず、バリエータ20におけるVベルト23のスリップを予防するためにコーストストップを実行しない。
【0085】
ここで、本発明の第1実施形態にて用いられるプーリのベルト挟持力とは、セカンダリプーリ22のベルト挟持力である。これは、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aの受圧面積に対してセカンダリプーリ22の油圧シリンダ23bの受圧面積が小さく設定されているため、両プーリに同じ油圧が供給されると、プライマリプーリ21の挟持力よりセカンダリプーリ22の挟持力のほうが小さくなり、セカンダリプーリ22にて滑りが発生する。従って、クラッチの締結力がセカンダリプーリ22のベルト挟持力を下回っていれば、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22に滑りが生じることはない。なお、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aの受圧面積に対してセカンダリプーリ22の油圧シリンダ23bの受圧面積が大きく設定されている場合は、プーリのベルト挟持力はプライマリプーリ21のベルト挟持力となる。
【0086】
以上のように、本発明の第1実施形態は、無段変速機構(バリエータ)20と複数の変速段を有する副変速機構30とからなり、変速領域を拡大できる無段変速機において、コーストストップによって走行中にエンジンの停止を行うことで、エンジン1の燃料を削減でき領域を拡大して燃費効率を向上できるコーストストップ車両である。
【0087】
そして、コーストストップを行うか否かの判定に、エンジン1の回転の低下によりメカオイルポンプ10mの回転が低下してライン圧が低下することによって、プーリのベルト挟持力が、締結中の摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)のクラッチの締結力を下回ると推定した場合には、コーストストップを行わない。これにより、Vベルト23のスリップによって、プライマリプーリ21又はセカンダリプーリ22のシーブ面の破損やVベルト23自体の破損等の不具合の発生を未然に防ぐことができる。この効果は請求項1、5に対応する。
【0088】
また、コーストストップを実行すると共に、締結中の摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)を解放状態とすることで、締結中の摩擦締結要素の締結力を低下させ、摩擦締結要素の締結力がプーリのベルト挟持力を上回ることを抑制することができる。この効果は請求項2に対応する。
【0089】
また、コーストストップを行わない条件として、油路56に、締結・解放のショックを緩和する目的でアキュームレータ60が備えられている摩擦締結要素(Lowブレーキ32)が締結状態であり、その摩擦締結要素が締結状態であることで副変速機構30が所定の変速段(1速)となっている場合には、コーストストップを実行しない。これにより、Vベルト23のスリップの防止と、コーストトップを実行する場合(Highクラッチ33締結時の2速)の燃費効率の向上と、を両立することができる。この効果は請求項3に対応する。
【0090】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態では油圧制御回路11の構成が第1実施形態と異なる。なお、第2実施形態の基本構成(図1から図3)は第1実施形態と同一であり、その説明は省略する。
【0091】
図9は、本発明の第2実施形態の油圧制御回路11の構成を示す説明図である。
【0092】
油圧制御回路11は、エンジン1の駆動力によって駆動されるメカオイルポンプ10mを備える。メカオイルポンプ10が発生する油圧はプレッシャーレギュレータ弁51によって所定のライン圧に調圧されて、油路50を介してバリエータ20及び副変速機構30の各部に分配される。
【0093】
バリエータ20においては、前述の第1の実施形態と同様に、ライン圧がセカンダリプーリ22の油圧シリンダ23bの油室に供給される。また、油路50のライン圧は、減圧弁52によって減圧されて、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aの油室に供給される。
【0094】
また、副変速機構30において、油路50ライン圧は、マニュアルバルブ70を介して、Highクラッチ33及びLowブレーキ32に分配される。マニュアルバルブ70は、セレクトレバーに応動して、ドライブ位置ではライン圧をLowブレーキ32及びHighクラッチ33へと供給し、ニュートラル又はパーキング位置では、ライン圧の供給を制限して、クラッチを解放させる。
【0095】
マニュアルバルブ70を経由したライン圧は、減圧弁54を介してHighクラッチ33に供給される。また、ライン圧は、調圧弁72を介してLowブレーキ32に供給される。
【0096】
調圧弁72は、供給されたライン圧を減圧弁71によって調圧された油圧によって調圧し、Lowブレーキ32に出力するものである。
【0097】
調圧弁72は、スプール72bがバネ72aにより一方向に付勢されている。この状態では、油路50側の油路とLowブレーキ32側の油路56とが連通して、ライン圧がそのままLowブレーキ32に出力される。
【0098】
また、調圧弁72には、減圧弁71によって調圧された油圧が入力される。この油圧は、バネ72aの付勢力に抗してスプール72bを押し上げる働きをする。減圧弁71はソレノイドを有しており、コントローラ12によるデューティー制御によって減圧弁71が出力する油圧が制御される。この油圧を調圧弁72に入力することによってスプール72bを上方向に移動させて調圧弁72のバルブ開度を変更することによって、Lowブレーキ32に供給する油圧を制御することができる。
【0099】
前述の第1実施形態では、Lowブレーキ32に供給する油圧を減圧弁53によって制御していた。また、Highクラッチ33に供給する油圧は減圧弁54によって制御する。これらはソレノイドを有しており、コントローラ12によるデューティー制御によって出力する油圧が制御される。
【0100】
ところで、このように電力によってソレノイドを制御する場合には、ノイズや接触不良などの原因によって、ソレノイドの通電状態が遮断されるようなフェールを生じる場合がある。このようなフェールが生じた場合は、ソレノイドによる油圧制御が不能となり、摩擦締結要素に油圧が締結されず締結不能となる。このような状況ではエンジン1からの駆動力を駆動輪に伝えることが不能となり、車両が走行不能となる可能性がある。
【0101】
本実施形態では、このように、ソレノイドのフェールによって車両が走行不能となることを防ぎ、摩擦締結要素を締結状態に維持するフェールセーフのために、摩擦締結要素の油圧をソレノイドによって直接制御するのではなく、ソレノイドによって制御された油圧によって物理的なバルブの開度を制御する調圧弁72をLowブレーキ32側に備えた。
【0102】
この調圧弁72の開度を制御するための油圧を供給する減圧弁71のソレノイドはノーマル・ローであり、電流信号がオフのときは油圧がゼロになり、電流信号が最大値のときは油圧が最大になるように構成されている。
【0103】
ここで、減圧弁71の通電状態が遮断されるフェールが発生した場合は、ノーマル・ローの減圧弁71の油圧がゼロとなる。これにより、調圧弁72は、バネ72aの付勢力によってスプール72bが下方に押し下げられ、油路50側の油路とLowブレーキ32側の油路56とが連通状態となる。これによりライン圧がそのままLowブレーキ32に供給され、Lowブレーキ32が締結状態となる。
【0104】
従って、電流により制御される減圧弁71にフェールが発生し、油圧を制御することができなくなった場合にも、Lowブレーキ32にライン圧が供給されてLowブレーキ32を締結状態とすることができ、最低限エンジン1の駆動力を駆動輪へと伝達することが可能となる。
【0105】
このように、調圧弁72と減圧弁71とによって、逆特性の油圧回路、すなわち、減圧弁71の出力油圧に対して調圧弁72によるLowブレーキ32の制御油圧が逆となるように構成することによって、フェールセーフを実現する。
【0106】
このように構成された本実施形態の油圧制御回路11において、コーストストップが実行された場合は、次のような問題が発生しうる。
【0107】
図10は、第2実施形態の油圧制御回路11におけるライン圧と調圧弁72が出力する油圧(クラッチ圧)との関係を示す説明図である。
【0108】
なお、ここでは調圧弁72がLowブレーキ32に出力する油圧を「クラッチ圧」と呼ぶ。
【0109】
調圧弁72において、クラッチ圧はライン圧を元圧として減圧弁71によって制御される。調圧弁72が出力するクラッチ圧はライン圧に対して逆特性となっている。ライン圧が所定値以上であればクラッチ圧を0[MPa]に制御できるが、所定値を下回った場合は、ライン圧によって制御できるクラッチ圧の下限値が、図中の特性線に沿って上昇する。なお、クラッチ圧を0に制御可能なライン圧の所定値を、ここでは「A点」と呼ぶ。
【0110】
ライン圧がA点よりも大きければ、調圧弁72は、クラッチ圧を、0からクラッチ圧とライン圧とが1:1となる線(ライン圧−クラッチ圧1:1線)との間で制御可能である。
【0111】
ここで、前述したように、コーストストップが実行され、エンジン1の回転速度が低下することによりメカオイルポンプ10mの吐出圧が低下して、ライン圧も低下する。その後は、ライン圧は電動オイルポンプ10eが出力する油圧と等しくなるまで低下する。
【0112】
このとき、第1実施形態で前述したように、バリエータ20におけるプーリのベルト挟持力が副変速機構30の締結中の摩擦締結要素(ここではLowブレーキ32)のクラッチの締結力を上回らなければ、Vベルト23にスリップが発生してしまう。
【0113】
セカンダリプーリ22の油圧シリンダ23bにはライン圧が直接入力されるので、プーリのベルト挟持力はライン圧とほぼ等しいか若干小さい値となる。
【0114】
一方、Lowブレーキ32には調圧弁72から出力されるクラッチ圧が入力されるが、プーリのベルト挟持力よりもクラッチの締結力が上回るためには、クラッチ圧をライン圧よりも小さい側に制御する必要がある。図11において、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を上回るためには、図中の一点鎖線よりも下側の領域にクラッチ圧を制御する必要がある。
【0115】
ところが、ライン圧がある圧力まで低下すると、調圧弁72のバネ72aの付勢力に打ち勝つことがでず、スプール72bを押し上げることができなくなって、油路50がLowブレーキ32側の油路と連通して、ライン圧が直接クラッチ圧として入力される状態が発生する。
【0116】
図10において、ライン圧によって調圧弁72のスプール72bを移動させることができなくなる油圧をB点として示す。ライン圧がB点を下回った場合は、ライン圧がクラッチ圧と等しくなり、クラッチ圧によるクラッチの締結力がプーリのベルト挟持力を上回る。このような状況ではVベルト23にスリップが発生する可能性がある。
【0117】
そこで、本実施形態では、副変速機構30が、逆特性となる調圧弁72によってクラッチ圧が調節される摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)が締結状態となる変速段(例えば1速)であり、コーストストップの実行によって当該摩擦締結要素の解放を行う必要がある場合は、コーストストップを実行しないように制御する。
【0118】
具体的には、第1実施形態の図8のステップS102において、逆特性となる調圧弁72によってクラッチ圧が制御される摩擦締結要素が締結状態であり、コーストストップの実行によって当該摩擦締結要素の解放を行う必要がある場合に、コーストストップの実行によって、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下回ると予測される状態であると判定する。
【0119】
コントローラ12は、コーストストップの実行によって、プーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下回ると予測される状態である場合は本フローチャートのよる処理を終了し、コーストストップを実行しない。
【0120】
このように制御することによって、バリエータ20におけるVベルト23のスリップを予防するために、コーストストップを実行しない。これにより、Vベルト23のスリップによって、プライマリプーリ21又はセカンダリプーリ22のシーブ面の破損やVベルト23自体の破損を未然に防ぐことができる。
【0121】
ここで、本発明の第2実施形態にて用いられるプーリのベルト挟持力についても、第1実施形態と同様の理由からセカンダリプーリ22のベルト挟持力である。
【0122】
以上のように、本発明の第2実施形態は、無段変速機構(バリエータ)20と複数の変速段を有する副変速機構30とからなり、変速領域を拡大できる無段変速機において、コーストストップによって走行中にエンジンの停止を行うことで、エンジン1の燃料を削減でき領域を拡大して燃費効率を向上できるコーストストップ車両である。
【0123】
そして、第1の実施形態と同様にVベルト23のプーリのベルト挟持力が、締結中の摩擦締結要素(例えばLowブレーキ32)のクラッチの締結力を下回ると推定した場合には、コーストストップ制御を行わない。
【0124】
より具体的には、コーストストップを行わない条件として、摩擦締結要素の締結力の制御が、減圧弁71(請求項4のソレノイドバルブに対応)よって調圧した制御圧によってバルブ開度が調整される調圧弁72によってライン圧を調圧して締結状態が制御される摩擦締結要素(Lowブレーキ32)が締結状態であり、その摩擦締結要素が締結状態であることで副変速機構30が所定の変速段(1速)となっている場合には、コーストストップを実行しないように制御する。これにより、Vベルト23のスリップの防止と、コーストトップを実行する場合(Highクラッチ33締結時の2速)の燃費効率の向上とを両立することができる。この効果は請求項4に対応する。
【0125】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0126】
なお、上記実施形態では、電動オイルポンプ10eを備えて、コーストストップ時のライン圧を確保できるように構成したが、必ずしも電動オイルポンプ10eを備える構成でなくてもよい。電動オイルポンプ10eを備えなくても、コーストストップによってメカオイルポンプ10mの動作が停止し、摩擦締結要素やプーリへの油圧の供給が停止しても、メカオイルポンプ10mから供給される油圧はすぐには低下しないので、エンジン1の停止開始から所定時間は、摩擦締結要素の締結力及びベルトの挟持力のためのライン圧を確保することができる。このため、車速がゼロとなる時点より所定時間前からエンジンを停止させることができ、燃費を向上することが可能になる。
【0127】
なお、電動オイルポンプ10eを備える構成においては、前述のようにメカオイルポンプ10mが停止した後にも油圧を発生させて、摩擦締結要素の締結力及びベルトの挟持力のためのライン圧を確保することができるので、コーストストップによりエンジン1を停止させることができる時間をさらに延長させることができ、電動オイルポンプ10eを備えない構成と比較して、より燃費を向上することができる。
【0128】
また、上記実施形態では、バリエータ20としてベルト式無段変速機構を備えているが、バリエータ20は、Vベルト23の代わりにチェーンがプーリ21、22の間に掛け回される無段変速機構であってもよい。あるいは、バリエータ20は、入力ディスクと出力ディスクの間に傾転可能なパワーローラを配置するトロイダル式無段変速機構であってもよい。
【0129】
また、上記実施形態では、バリエータ20の後段に副変速機構30が備えたがバリエータ20の前段、すなわち、トルクコンバータ2とバリエータ20との間に副変速機構30を備えた構成であってもよい。
【0130】
また、上記実施形態では、副変速機構30は前進用の変速段として1速と2速の2段を有する変速機構としたが、副変速機構30を前進用の変速段として3段以上の変速段を有する変速機構としても構わない。副変速機構30の変速段が3段以上である場合にも、一の変速段を実現するための摩擦締結要素が、コーストストップに伴うライン圧の低下時にプーリのベルト挟持力がクラッチの締結力を下回ると想定される場合に、当該変速段におけるコーストストップを行わないように制御することができる。
【0131】
また、第2実施形態においては、逆特性の調圧弁72によりLowブレーキ32のフェールセーフとしたが、必ずしもLowブレーキ32である必要はなく、副変速機構30の摩擦締結要素のうち、一つの摩擦締結要素に、このような調圧弁72によるセールセーフとしてもよい。例えば、Highクラッチ33に、ソレノイドがノーマルハイの減圧弁による油圧に制御される正特性の調圧弁を備え、これによりフェールセーフとしてもよい。
【0132】
また、副変速機構30はラビニョウ型遊星歯車機構を用いて構成したが、このような構成に限定されない。例えば、副変速機構30は、通常の遊星歯車機構と摩擦締結要素を組み合わせて構成してもよいし、あるいは、ギヤ比の異なる複数の歯車列で構成される複数の動力伝達経路と、これら動力伝達経路を切り換える摩擦締結要素とによって構成してもよい。
【0133】
また、プーリ21、22の可動円錐板を軸方向に変位させるアクチュエータとして油圧シリンダ23a、23bを備えているが、アクチュエータは油圧で駆動されるものに限らず電気的に駆動されるものあってもよい。
【符号の説明】
【0134】
1 エンジン
4 無段変速機
10m メカオイルポンプ
10e 電動オイルポンプ
11 油圧制御回路
12 コントローラ
20 バリエータ(無段変速機構)
21 プライマリプーリ
22 セカンダリプーリ
23 Vベルト
30 副変速機構
32 Lowブレーキ
33 Highクラッチ
34 Revブレーキ
50 油路
60 アキュームレータ
70 マニュアルバルブ
71 減圧弁
72 調圧弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行中に駆動力源を停止させるコーストストップ車両であって、
前記駆動力源の回転によって油路にライン圧を発生させるオイルポンプと、
前記ライン圧を用いてプーリに挟持されるベルトの巻き掛け径を変更することによって変速比を無段階に変更することができるバリエータと、
前記バリエータに対して直列に接続され、前記ライン圧を用いて複数の摩擦締結要素の締結状態を変更して有段の変速段を変速可能な副変速機構と、
車両走行中にコーストストップ条件の成立を判定し、前記コーストストップ条件が成立したときに前記駆動力源の回転を停止させるコーストストップを実行するコーストストップ手段と、を備え、
前記コーストストップ手段は、
前記コーストストップ条件の成立の判定時に、コーストストップの実行により、前記プーリのベルト挟持力が締結状態の前記摩擦締結要素の締結力を下回ると予測した場合は、コーストストップを禁止するコーストストップ禁止手段を備えることを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項2】
前記コーストストップ手段は、前記コーストストップを実行すると共に、締結中の前記摩擦締結要素を解放状態とすることを特徴とする請求項1に記載のコーストストップ車両。
【請求項3】
前記コーストストップ禁止手段は、前記コーストストップ条件の成立の判定時に、前記複数の摩擦締結要素のうち、油圧を供給する油路にアキュームレータが備えられている摩擦締結要素が締結状態であるときに、前記コーストストップ条件の成立にかかわらず、コーストストップを禁止することを特徴とする請求項1又は2に記載のコーストストップ車両。
【請求項4】
ソレノイドバルブと、前記ソレノイドバルブによって調圧した制御圧によってバルブ開度が調整される調圧弁と、を備え、
前記コーストストップ禁止手段は、前記コーストストップ条件の成立の判定時に、前記調圧弁によってライン圧を調圧して締結状態が制御される摩擦締結要素が締結状態であるときに、前記コーストストップ条件の成立にかかわらず、コーストストップを禁止することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のコーストストップ車両。
【請求項5】
駆動力源の回転によってライン圧を発生させるオイルポンプと、前記ライン圧を用いて一組のプーリに挟持されるベルトの巻き掛け径を変更することによって変速比を無段階に変更することができるバリエータと、前記バリエータに対して直列に接続され、前記ライン圧を用いて複数の摩擦締結要素の締結状態を変更して有段の変速段を変速可能な副変速機構と、を備え、車両走行中に駆動力源を停止させるコーストストップ車両のコーストストップ方法であって、
車両走行中にコーストストップ条件の成立を判定する手順と、
前記コーストストップ条件が成立したときに、前記駆動力源の回転を停止させてコーストストップを実行すると共に、締結中の前記摩擦締結要素を解放状態とする手順と、
コーストストップの実行により、前記プーリのベルトの挟持力が締結状態の前記摩擦締結要素の締結力を下回ると予測した場合は、前記コーストストップ条件の成立にかかわらず、コーストストップを禁止する手順と、
を備えることを特徴とするコーストストップ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−82847(P2012−82847A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227021(P2010−227021)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】