説明

コード処理機のオーブン装置

【課題】 伝動ベルト用心線であるコードを接着処理液に浸漬した後に乾燥処理するオーブン装置において、コンパクトで熱効率の良い構成を提供する。
【解決手段】 オーブン本体11は細長い形状とされ、その長手方向一端側及び他端側には、熱風を滞留させる入気側チャンバー12及び排気側チャンバー13をそれぞれ備える。また、未加熱処理のコード2を前記オーブン本体11内に入れて、リターンロール23・24により折り返させながら本体11の長手方向に沿って走行させ、その後、装置外へ排出させるコード走行部14と、を備える。前記入気側チャンバー12に上側から供給されて滞留した熱風(白抜き矢印)は、その流れ方向を変えて本体11の長手方向に沿って流れ、前記本体11内を走行する前記コード2と平行に流動した後、前記排気側チャンバー13に滞留させ、更に流れ方向を上向きに変えて排気側へ流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコード処理機のオーブン装置に係り、詳細には、動力伝動用などの工業用ベルトの心線に用いるコードを接着剤等の処理液でディップ処理した後、コードを乾燥させるコード処理機のオーブン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のオーブン装置については、例えば特許文献1は、平行に配置した複数本のコードを細長いコード乾燥室の長手方向に沿ってリターンさせ(折り返させ)、コード乾燥室の上下部にそれぞれ熱風供給室と熱風回収室を隣接して配置し、熱風を熱風供給室からコード乾燥室、そして熱風回収室へ流すことで、コードを乾燥させる構成を開示している。
【0003】
この特許文献1では、熱風をコード乾燥室の下面から上面全体へ向かって吹き出す構造になっており、熱風をコードと直角な方向に大量に送り込む構成になっており、これによりオーブン内の温度分布を均一にすることができる。
【特許文献1】特許第2974942号公報(図3〜図7、コード10、コード乾燥室124、熱風供給室125、熱風回収室126)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のオーブン装置は、コード乾燥室の上下部に熱風供給室と熱風回収室とが設けられているために、大型な構造となってコストが高くなり、また熱損失が大きく、熱効率の観点から満足できるものではなかった。また、装置の小型化という点からも改善の余地が残されていた。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてされたものであって、その目的は、熱効率が高く、小型で、かつコストが安いオーブン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
◆本発明の第1の観点によれば、伝動ベルト用心線であるコードを少なくとも1つの接着処理液に浸漬した後、オーブン本体で熱媒体により加熱処理するコード処理機のオーブン装置の、以下のような構成が提供される。細長い形状とされたオーブン本体と、このオーブン本体の長手方向一端側に配置された、熱風を滞留させる入気側チャンバーと、前記オーブン本体の長手方向他端側に配置された、熱風を滞留させる排気側チャンバーと、未加熱処理のコードを前記オーブン本体内に入れて、折り返させながら前記オーブン本体の長手方向に沿って走行させ、その後、装置外へ排出させるコード走行部と、を備える。前記入気側チャンバーに供給されて滞留する熱風を、その流れ方向を変えてオーブン本体の長手方向に沿って流し、前記オーブン本体内を走行する前記コードと平行に流動させた後、前記排気側チャンバーに滞留させ、更に流れ方向を変えて排気側へ流れるように熱風経路を構成した。
【0008】
これにより、オーブン本体を細長くでき、その容積を小さくできるから、熱容量を小さくでき、省エネルギーな構成にできる。また、オーブン本体の長手方向に沿って一端側から他端側へ熱風を流動させる構成であるので、簡素な熱風経路が実現されるとともに、特にオーブン本体をコンパクト化し易い構成であり、装置の小型化が容易である。また、オーブン本体が細長いことから、その内部の流路断面積が小さいので、風速が増大し、乾燥効率を向上できる。更には、熱風を上記のような大きな風速で移動させることができるので、オーブン本体内の溶剤等から生じる爆発性ガス等の滞留を防止できる。
【0009】
◆前記のコード処理機のオーブン装置においては、前記コード走行部は、未加熱処理のコードを前記排気側チャンバーの側から装置内へ導入し、オーブン本体内を走行後のコードを前記排気側チャンバーの側から装置外へ排出させるように、コードの走行経路を構成することが好ましい。
【0010】
これにより、コードの装置への導入口あるいは排出口をコンパクトにでき又は集約できるので、オーブン本体内の溶剤等から生じる有害なガスの漏出を抑制できる。
【0011】
◆前記のコード処理機のオーブン装置においては、前記排気側チャンバーを負圧にするための熱風排出手段を設けることが好ましい。
【0012】
これにより、オーブン本体内の溶剤等から生じる有害なガスが、コードの装置への導入口あるいは排出口を介して漏れ出すことを有効に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係るオーブン装置の全体的な構成を示す平面図、図2はオーブン装置の側面図である。
【0014】
本実施形態のオーブン装置1で乾燥処理されるコード2は、例えばVベルト、Vリブドベルト、歯付ベルト等の伝動ベルト用心線であり、ポリエステル繊維、アラミド繊維、あるいはガラス繊維からなる。
【0015】
一般にベルト用心線に使用するコードは、ゴム材料との接着性を高めるために、予めエポキシ又はイソシアネート化合物を溶剤に混合した前処理液に浸漬した後に乾燥処理するプレディップ処理、続いてレゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)溶液に浸漬した後に加熱処理するRFL処理、最後にゴム組成物を溶剤に溶解したゴム糊を付着した後に乾燥処理するソーキング処理を行う。本実施形態では、主に溶剤を使用した前処理液あるいはゴム糊に浸漬処理されたコード2が、図1及び図2に示すオーブン装置1で乾燥処理される。
【0016】
このオーブン装置1は、細長く構成され、その長手方向を水平方向に向けて設置された中空のオーブン本体11と、このオーブン本体11の一端側に接続された入気側チャンバー12と、他端側に接続された排気側チャンバー13と、を備えている。またオーブン装置1はコード走行部14を備えており、このコード走行部14は、コード2の走行経路を前記オーブン本体11内で複数回折り返すように形成するための、複数のリターンロール23・24を備えている。
【0017】
オーブン本体11は、その長手方向に垂直な平面で切った断面が一様な矩形となるような、細長い形状に構成されている。一方、オーブン本体11の長手方向両端に配置された入気側チャンバー12及び排気側チャンバー13は、いずれも中空箱状に構成されている。入気側チャンバー12の上面には熱風導入口12aが構成されており、排気側チャンバー13の上面には熱風排出口13aが構成されている。
【0018】
図1に示すように、入気側チャンバー12側には、上記オーブン本体11に熱風を供給するための給気ファン16及び電気ヒータ17が備えられている。本実施形態では給気ファン16は、電気モータで駆動する遠心ファンに構成しているが、ファンの形式はこれに限られない。給気ファン16の給気口16aから導入された空気(熱媒体)は、電気ヒータ17の通過に伴って熱せられて熱風となり、配管18を経由して入気側チャンバー12に上側から供給される。なお、入気側チャンバー12の内部空間はやや広く構成しており、その流路断面積が配管18やオーブン本体11の流路断面積より大きくなっている。従って熱風は、熱風導入口12aを介して上側から供給された後、入気側チャンバー12内で若干滞留する。
【0019】
また図1に示すように、排気側チャンバー13側には、オーブン本体11から熱風を排出するための排気ファン(熱風排出手段)19が備えられている。この排気ファン19は排気口19aを有するとともに、その吸込側は、排気側チャンバー13の上面の熱風排出口13aに対し、配管20を介して接続されている。
【0020】
図2に示すように、入気側チャンバー12のオーブン本体11へ接続する部分と反対側の位置にはロールスタンド21が立設されている。このロールスタンド21には複数のリターンロール23が上下に並べて配設されている。一方、排気側チャンバー13のオーブン本体11へ接続する部分と反対側の位置にもロールスタンド22が立設されており、このロールスタンド22にはリターンロール24及びガイドロール25・26が上下に並べて配設されている。
【0021】
なお、入気側チャンバー12側のロールスタンド21には中空箱状のロール収容室27が備えられており、このロール収容室27の内部空間が入気側チャンバー12の内部空間と連通している。前記リターンロール23は上記ロール収容室27の内部に収納されている。
【0022】
また、排気側チャンバー13のオーブン本体11へ接続する部分の反対側の面には、コード2を導入あるいは排出するための開口13bが形成されている。
【0023】
この構成で、RFL処理等がされたコード2は、オーブン本体11の長手方向に沿う向きに走行して、排気側チャンバー13側から装置内に導入され、真っ直ぐにオーブン本体11内を通り、更に入気側チャンバー12を通り抜けてロール収容室27内のリターンロール23に巻き掛かり、180°リターンする。折り返されたコード2は、入気側チャンバー12→オーブン本体11→排気側チャンバー13と戻り、リターンロール24に巻き掛かって、再び180°リターンする。そして再度、上記と同様にオーブン本体11内をリターンしながら往復走行する。こうしてオーブン本体11内を2往復することで加熱処理は終了し、コード2は前記開口13bを通過することで排気側チャンバー13側から装置外へ排出され、ガイドロール25・26でその走行経路をガイドされながら、図示しない次工程の装置へ向かって走行する。
【0024】
なお、本実施形態では、図2に示すリターンロール23・24及びガイドロール25によってコード走行部14が構成されており、このコード走行部14における各ロール23・24・25の配置により、排気側チャンバー13の側からコード2を導入して複数回折り返させつつオーブン本体11内をそのオーブン本体11の長手方向に平行に往復走行させ、最終的に排気側チャンバー13の側からコード2を排出する、コード走行経路が構成されている。
【0025】
一方、熱媒体としての空気の移動方向としては、先ず図1の白抜き矢印に示すように、給気ファン16の給気口16aから導入され電気ヒータ17で熱された空気は、配管18を経由して、図2に示すように熱風導入口12aから(上側から)入気側チャンバー12内へ入る。そして入気側チャンバー12内で若干滞留した後、その流れの向きを水平方向に変えて、オーブン本体11内を長手方向に沿って(コード2と平行に)流れる。このとき、オーブン本体11は細長く形成されているので、その流路断面積は小さく、熱風はオーブン本体11内を相当に大きい速度で流動することになる。
【0026】
オーブン本体11を抜けた熱風は排気側チャンバー13に至るが、排気側チャンバー13は流路断面積がオーブン本体11のそれよりも大きく構成されているために、熱風は排気側チャンバー13でも若干滞留する。その後熱風は、その流れの向きを上方向に変えて、排気側チャンバー13の熱風排出口13aから配管20を経由して排気ファン19に至り、排気口19aから排出される。
【0027】
以上に示すように本実施形態のコード処理機のオーブン装置1は、細長い形状とされたオーブン本体11と、このオーブン本体11の長手方向一端側に配置された、熱風を滞留させる入気側チャンバー12と、前記オーブン本体11の長手方向他端側に配置された、熱風を滞留させる排気側チャンバー13と、未加熱処理のコード2を前記オーブン本体11内に入れて、折り返させながらオーブン本体11の長手方向に沿って走行させ、その後、当該オーブン本体11の外へ排出させるコード走行部14と、を備える。そして、このオーブン装置1では、入気側チャンバー12に上側の配管18から供給されて滞留する熱風を、その流れ方向を水平向きに変えてオーブン本体11の長手方向に沿って流し、前記オーブン本体11内を走行する前記コード2と平行に流動させた後、前記排気側チャンバー13に滞留させ、更に流れ方向を上向きに変えて配管20から外部へ排気するように熱風経路を構成している。
【0028】
従って、オーブン本体11を細長くしてその容積を小さくすることから、熱容量を小さくでき、燃料消費量を減らすことができる。また、オーブン本体11の長手方向に沿って一端側から他端側へ熱風を流動させる構成であるので、簡素な熱風経路が実現されるとともに、特にオーブン本体11をコンパクト化し易い構成であり、装置の小型化が容易である。また、オーブン本体11内の熱風通路の断面積(流路断面積)が小さいことから、熱風のオーブン本体11内での風速を増大させることができ、乾燥性を向上できる。また、オーブン本体11内を熱風が速い速度で通り抜けることから、オーブン本体11内で前処理液あるいはゴム糊に含まれる溶剤等から生じた引火性ガス(例えば、トルエン)等の滞留を防ぐことができ、安全性の高い構成を低コストで得ることができる。
【0029】
また、前記コード走行部14は、未加熱処理のコード2を前記排気側チャンバー13から導入し、オーブン本体内を走行後のコード2を前記排気側チャンバー13から排出させるように、コードの走行経路を構成している。従って、コード2の装置への導入口及び導出口が同じ排気側チャンバー13の側に集約されることから、オーブン本体11内で生じた上記のような有害なガスが装置外へ漏れ出すことを有効に抑制できる。本実施形態では、上記の導入口及び導出口を小さな(1つの)開口13bで実現でき、ガスの漏出量を有効に抑制できる構成となっている。
【0030】
また、本実施形態のオーブン装置1は、排気ファン19を備えており、この排気ファン19により、排気側チャンバー13が負圧になっている。従って、前記の有害なガスがコード2の装置への導入口及び排出口(開口13b)を介して漏れ出すことが、一層確実に防止される。
【0031】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
【0032】
リターンロール24は、排気側チャンバー13の内部に設けられていても良い。また、上記実施形態では熱風は入気側チャンバー12に対して上側から導入されているが、例えば水平横向きに導入されても良い。同様に、排気側チャンバー13から熱風が水平横向きに排出されても良い。
【0033】
上記の実施形態では、コード2はオーブン本体11内を2往復するように構成されているが、これに限定されず、1往復でも3往復以上であっても良い。
【0034】
また、装置には、熱風の温度制御装置や、ガス濃度検出器などが設けられていても良い。また、熱源としては前記の電気ヒータ17に限定されず、例えば熱媒油であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係るオーブン装置の全体的な構成を示す平面図。
【図2】オーブン装置の側面図。
【符号の説明】
【0036】
1 オーブン装置
2 コード
11 オーブン本体
12 入気側チャンバー
13 排気側チャンバー
14 コード走行部
16 給気ファン
17 電気ヒータ
18・20 配管
19 排気ファン(熱風排出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動ベルト用心線であるコードを少なくとも1つの接着処理液に浸漬した後、オーブン本体で熱媒体により加熱処理するコード処理機のオーブン装置において、
細長い形状とされたオーブン本体と、
このオーブン本体の長手方向一端側に配置された、熱風を滞留させる入気側チャンバーと、
前記オーブン本体の長手方向他端側に配置された、熱風を滞留させる排気側チャンバーと、
未加熱処理のコードを前記オーブン本体内に入れて、折り返させながら前記オーブン本体の長手方向に沿って走行させ、その後、装置外へ排出させるコード走行部と、を備え、
前記入気側チャンバーに供給されて滞留する熱風を、その流れ方向を変えてオーブン本体の長手方向に沿って流し、前記オーブン本体内を走行する前記コードと平行に流動させた後、前記排気側チャンバーに滞留させ、更に流れ方向を変えて排気側へ流れるように熱風経路を構成したことを特徴とする、
コード処理機のオーブン装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコード処理機のオーブン装置であって、
前記コード走行部は、未加熱処理のコードを前記排気側チャンバーから導入し、オーブン本体内を走行後のコードを前記排気側チャンバーから排出させるように、コードの走行経路を構成していることを特徴とする、コード処理機のオーブン装置。
【請求項3】
請求項2に記載のコード処理機のオーブン装置であって、前記排気側チャンバーを負圧にするための熱風排出手段を設けたことを特徴とする、コード処理機のオーブン装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−265772(P2006−265772A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85851(P2005−85851)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】