説明

コーヒーからのアラビノガラクタンの単離

本発明は、10℃〜95℃の温度で2時間から1週間豆を水で前処理し、次いで豆のまま又は挽いた、生又は焙煎したコーヒー豆を酵素的に加水分解し、それによって部分的に加水分解されたコーヒー豆及びアラビノガラクタンを含む水性分散液を得ることを含む、コーヒー豆からアラビノガラクタンを抽出する方法に関する。さらに、本発明はまた、コーヒー由来アラビノガラクタン生成物の使用を含み、その場合コーヒー由来アラビノガラクタンをグラッシー基質、純粋可溶性コーヒー及び飲料組成物などとして使用する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、コーヒーからアラビノガラクタンを抽出するための方法、コーヒー由来アラビノガラクタンの使用及びこうしたアラビノガラクタンを含む生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食料品の官能品質は、栄養価及び安全性に次いで、食品の消費者人気を決定する最も重要な要素である。例えば、その生理的影響の他に、コーヒー飲料は、その官能特性が喜ばれている。これらの官能特性のうち最も重要なものは、コーヒーの香り及び味であるが、飲料の口あたり及びその外観のような他の特性も重要である。
【0003】
可溶性コーヒーでは、しばしば、作りたての、焙煎して挽いたコーヒーの官能特性をできるだけ忠実に再現しようと試みられている。時には、可溶性コーヒーの開発及び製造において、主眼は、従来の焙煎して挽いたコーヒーとは異なる官能特性を開発することであるが、目的は、常に、消費者の好みが最も満たされるように可溶性コーヒーの官能特徴を最適化することである。
【0004】
可溶性コーヒーの官能特性は、その製造に使用するコーヒーブレンド、その焙煎条件、乾燥技術、粉末の貯蔵条件、及び消費者による可溶性コーヒーの調製方法によって複合的に決まる。可溶性コーヒーのいくつかの官能特性に関して、可溶性コーヒーの官能特性と化学的、構造的及び物理的特性との間に相関が十分に確立されているので、現在の可溶性コーヒーの開発は容易になっている。
【0005】
例えば、飲料の口あたりは、飲料の粘度をある一定の範囲内に最適化することによって向上することが知られている。溶液又は分散液の粘度は、その高分子量成分によって主に影響を受け、食物中ではしばしば親水コロイドと表され、またしばしば炭水化物からなるものであることは、一般的な流動学的知識である。
【0006】
官能特性と関連がある物理的、構造的及び化学的パラメーターとの関係は、多くのより複雑な場合においても依然として定量的に特定できるが、必ずしも飲料の口あたりの場合ほど単純であるとは限らない。例えば、可溶性コーヒー飲料の香りの重要な官能特性は、約800個の揮発性化合物の複雑であるがバランスのとれた混合物の嗅上皮への影響の結果である。これらの800個の化合物の多くの物理化学的及び官能特性は既知であり、それらがコーヒー香気の特徴にどのようにして寄与するのかも知られている。揮発性香気化合物は、主として焙煎プロセス中に生成し、最終可溶性コーヒー製品中に部分的に取り込まれる。飲料の調製中に、可溶性コーヒー製品は溶解し、香気化合物はいくつかの中間ステップを経て嗅上皮へ放出される。
【0007】
純粋可溶性コーヒーなどの可溶性コーヒーについて直面する重要な問題の1つは、その香りの強度及び品質が粉末の貯蔵時間と共に減少することである。この香りの強度及び品質の減少により、ほぼ最適な貯蔵条件(低い湿度及び周囲温度)下で可溶性コーヒーを貯蔵している間及び可溶性コーヒーの一般的な貯蔵期限、通常1年から最長3年までの間でもそれ自体が明らかである。しかし、それは高湿度レベル又は高温のような劣悪な貯蔵条件下で深刻に悪化する。さらに、それは繊細な香りの場合特に問題となる。したがって、コーヒー中の繊細な香りを保護する方法を提供することが望ましい。
【0008】
繊細な香りは、グラッシー炭水化物基質(glassy carbohydrate matrix)中への封入又は取込みによって保護できることが知られている。この保護は、一般に完全ではなく、保護の程度は、香気化合物によって変わり得るが、このようないわゆる香りのガラス封入(glass encapsulation)の総合的な効果は、その品質が、封入されていない香りのものよりも感知できるほどよく保たれていることである。香りのガラス封入は、非晶状態の炭水化物を用いて常に達成される。
【0009】
しかし、コーヒー中に別々の成分を加えることは望ましくない。第1に、純粋可溶性コーヒーの製造における調節要件のために、こうした炭水化物は、デンプンのような一般に許容されている野菜供給源を起源とすることができないが、それらはコーヒー自体に由来すべきである。第2に、新しい成分を加えると、しばしば複雑さと製造コストが増大する。驚くべきことに、本発明者らは、こうした炭水化物が実際にコーヒーから抽出でき、かつ記載した目的に使用できることを発見した。
【0010】
結論として、可溶性コーヒーの官能特性、特にその口あたり及び香りの効果並びにその香りの新鮮さを含む品質の最適化を可能にする方法が依然としてはっきりと求められている。これらの方法が、可溶性コーヒーの製造及びマーケティングで可能であるべきことが重要である。したがって、有用な炭水化物をコーヒーから比較的純粋な形態で抽出できる任意の方法は、官能特性を高めた新規なタイプの食料品、特に可溶性コーヒーの生成に重要である。
【0011】
国際公開第99/55736号パンフレット及び米国特許出願公報第2001/0000486号明細書では、流動学的、pH、及び粘度特徴を改善したアラビノガラクタン誘導体が特許請求されている。誘導体化は、食物の観点からは望ましくない化学的変化を誘導する。
【0012】
国際公開第00/44238号パンフレットは、香りをつけた可溶性クリーマ粉末に関する。この出願は、コーヒー香気成分及び安定量の可溶性コーヒー固形物を含む芳香システムを含んだ基質を含む可溶性クリーマ粉末を開示している。この明細書は、水性の香気成分が、適当な量のコーヒー固形物をそれらに加えることによって安定化することをさらに開示している。非コーヒー起源の原料を使用しているので、香りをつけた可溶性クリーマ粉末は、純粋可溶性コーヒーに明らかに使用することができない。さらに、コーヒー固形物はコーヒー香気の分解を誘発するはずなので、コーヒー固形物を加えていることが分かることは驚きである。
【0013】
国際公開第00/25606号パンフレットは、数ある中でアラビノース又はガラクトースを含む糖又は糖誘導体又はその混合物を押し出すことによって得られる、香気原料のための固形物送達システムに関する。非コーヒー起源の原料を使用しているので、この送達システムは、純粋可溶性コーヒーに明らかに使用することができない。
【0014】
国際公開第2002/26055号パンフレットでは、アラビノガラクタン及びビタミンを含む飲料組成物が特許請求されている。コーヒーは、アラビノガラクタンの供給源として引用されているが、その抽出又は使用の例が示されていない。アラビノガラクタンは、飲料の粘度を著しく増大させない健康促進成分として記載されている。しかし、我々は驚くべきことに、コーヒー由来アラビノガラクタンが粘度増大を含む珍しい流動学的性質を有することを示した。さらに、この出願中に記載されている方法では、コーヒーからの必要とされる分子量のアラビノガラクタンの抽出が可能ではない。
【0015】
米国特許第5882520号明細書では、少なくとも一方の相にアラビノガラクタンが含まれる水性二相システムについて論じている。このアラビノガラクタンは、コーヒー起源のものではなく、この方法は、生物学的物質の抽出に関する。
【0016】
米国特許第6271001号明細書は、植物細胞培養物から単離したゴムについて論じている。この特許は、植物細胞ゴムの化学的性質又は組成を明らかにすることなく植物細胞培養物由来のポリマーをもっぱら扱っている。我々は植物細胞培養物を炭水化物の供給源に適用しないが、植物果実、すなわちコーヒー豆からアラビノガラクタンを抽出する。
【0017】
国際公開第2002/041928号パンフレットでは、制御放出担体として有用な医用生体材料が特許請求されている。この医用生体材料は、親水性又は両親媒性ポリマー基質の孔に多孔質ポリマーゲル基質を含む。しかし、我々はこうした二相性封入基質を使用しない。
【0018】
米国特許第6296890号明細書では、激しく泡立ったコーヒー画分ならびにそれを製造するための方法が特許請求されている。この画分は、熱水中で焙煎した豆から抽出し、続いて沈殿させる。これは、化学的に十分に特徴付けられてなく、60%多糖類と40%メラノイジン型化合物からなる。可溶性コーヒーの官能特性の改善を目的としているために、これは流動学的観点から十分に明確ではなく、また香りの安定化に関して、これはメラノイジン型化合物の含有量が高いので有用ではない。
【0019】
「coffee bean arabinogalactans:acidic polymers covalently linked to protein」Redgwell RJら、vol 337 No.3、Carbohydrate Research、Elsevier Scientific Publishing Co.では、コーヒー豆からの少量のアラビノガラクタンの単離について開示されている。しかし、強酸又はアルカリ、例えば8M KOHを用いた豆の前処理が必要とされる。これは、本発明の技術分野、すなわち食物で使用するのに明らかに不適当である。
【0020】
要約すれば、従来技術はいずれも、a)極端な処理条件を必要としない酵素的手段による生の又は焙煎したコーヒーからのアラビノガラクタンの抽出、及びb)その食物、特に可溶性コーヒーの特徴の増強剤としてのその後の使用について論じていない。
【0021】
1つもしくは複数の利点を提供すること及び/又は上記の1つもしくは複数の問題を解決することが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0022】
したがって、本発明によれば、酵素処理の直前に10℃〜95℃の温度で2時間から最長1週間水で前処理を行った、豆のまま又は挽いた、生又は焙煎したコーヒー豆を酵素的に加水分解し、それによって部分的に加水分解されたコーヒー豆及びアラビノガラクタン(arabinogalactan)を含む水性分散液を得ることを含む、コーヒーからアラビノガラクタンを抽出する方法を提供している。
【0023】
本発明は、コーヒー由来アラビノガラクタンの食品成分としての使用をさらに提供する。
【0024】
本発明は、コーヒー由来アラビノガラクタンの健康促進物質としての使用をさらに提供する。
【0025】
本発明は、重量平均分子量が約150kDa超、好ましくは約500kDa超、より好ましくは約2000kDa超のコーヒー由来アラビノガラクタンの、食物及び/又は飲料中の結着剤(texturiser)としての使用をさらに提供する。
【0026】
本発明は、コーヒー由来アラビノガラクタンの、食物及び飲料中の粘度増強剤としての使用をさらに提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、コーヒー由来アラビノガラクタンの、可溶性コーヒーのための口あたり増強剤としての使用を提供する。
【0028】
さらに別の態様では、本発明は、コーヒー由来アラビノガラクタンの、食物及び飲料、好ましくはコーヒー飲料中の起泡増強剤又は泡安定剤としての使用を提供する。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、コーヒー由来アラビノガラクタンの、乾燥食品、好ましくは飲料中に風味又は香り、好ましくはコーヒー香気、又はその混合物を閉じ込めるためのグラッシー基質(glassy matrix)としての使用を提供する。
【0030】
本発明はまた、コーヒー由来アラビノガラクタン中に閉じ込めたコーヒー香気を有する固形コーヒー組成物に関する。
【0031】
他の態様では、本発明は、コーヒー由来アラビノガラクタンを含むことを特徴とする、コーヒー香気を有するグラッシー基質に関する。
【発明の詳細な説明】
【0032】
アラビノガラクタンは、植物の成長及び発生に関係する多糖類(プロテオグリカン)のファミリーである。これらは高等植物に含まれているプロテオグリカンのファミリーであり、多くの異なる組織中:原形質膜上、細胞壁中及び細胞外基質中に存在する。最も一般的な供給源は、カラマツ(カラマツ属)である。カラマツアラビノガラクタンは、米国食品医薬品局(FDA)によって食物繊維の供給源として承認されているが、さらに免疫刺激剤及び癌プロトコル補助剤としての潜在的な治療利点があると思われている。アラビノガラクタンは、一般に、分子量が10kDa〜4000kDaである。これらは通常タンパク質を<10%含み、このタンパク質は、普通は主にプロリン/ヒドロキシプロリン、アラニン、セリン、及びスレオニンから構成されている。アラビノガラクタンの大部分(>90%)は、主にアラビノシル残基で終端しているβ−(1〜6)−ガラクトシル側鎖を含むβ−(1〜3)−ガラクタン鎖から構成される多糖類からなる。
【0033】
生のコーヒー及び焙煎したコーヒーは、アラビノガラクタンを含むことが知られているが、これらのアラビノガラクタンの単離は、手に負えないほど困難であると考えられており、コーヒーからアラビノガラクタンを得るための適当な実用的な手順は現在知られていない。当業者に既知の手順を適用すると、コーヒーに適用した場合、結果的に分子量の激しい低下ならびにその粘度調整剤及び封入基質としての用途を無用にする著しい化学的改変を伴うアラビノガラクタンの過剰分解が生じる。
【0034】
この酵素的方法は、驚くべきことに、生の及び焙煎したコーヒー豆から、分子量が制御されており、最低限分解されたアラビノガラクタン−タンパク質を単離する。これらの抽出アラビノガラクタンは、食物、例えば飲料、特に可溶性コーヒーの官能性質を高めるのに特に有用であることが判明し、可溶性コーヒー中の香りなどの繊細な有効成分を送達するための封入基質として有益に使用することができる。
【0035】
このタンパク質は、水性分散液中に抽出される。
【0036】
この方法は、
a)水性分散液を処理して、アラビノガラクタンを含む水溶液、又は任意選択で、アラビノガラクタンに富んだ粉末を得るステップと、
b)水溶液を濃縮し、アラビノガラクタンを沈殿させ、それによって抽出アラビノガラクタンの分散液を得ることによりアラビノガラクタンを単離するステップと
を含むことが好ましい。
【0037】
抽出及び単離した後、アラビノガラクタンの特性は、最終用途のためにさらに改変してもよく、例えば、アラビノガラクタンを慎重に加水分解して所望の分子量特徴にすることによって、必要に応じてコーヒー飲料の口あたり、又はコーヒー香気のための封入基質としての使用を改善する粘度制御を行う。
【0038】
驚くべきことに、生の及び/又は焙煎したコーヒーからこのようにして得たアラビノガラクタンは、食物、例えば飲料、特に可溶性コーヒー、とりわけ純粋可溶性コーヒーの重要な官能特性を最適化するのに特に有用であることに我々は気付いた。これは、珍しい流動学的挙動をもたらすこと、及びそのコーヒー香気などの繊細な有効成分を封入するためのグラッシー基質を形成する能力に関して有用であることが特に判明している。
【0039】
特に好ましい実施形態では、水で処理したアラビノガラクタンは、ガンマナーゼ(Gammanase)及びセルクラスト酵素製剤を用いた壁のマンナン−セルロース成分の酵素加水分解によって生の及び焙煎したコーヒー豆から放出され、好ましくはそれに続き粉末状豆の水抽出を行い、続いて濃縮及び沈殿によって適切に精製する。
【0040】
生の及び/又は焙煎したコーヒー豆の酵素加水分解は、以下のステップによって実施することが好ましい。まず、コーヒー豆を平均粒径10μm〜2mm、好ましくは100μm〜800μm、より好ましくは200μm〜400μmまで挽く。次に、10℃〜95℃、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは50℃〜70℃の温度で、2時間から最長1週間、好ましくは12時間から最長48時間、より好ましくは20時間から最長28時間、挽いたコーヒー豆を水で前処理する。その後、前処理した挽いたコーヒーをセルラーゼ及びガマナーゼ(gamanase)と一緒にインキュベートする。インキュベーションは、30℃〜80℃、好ましくは40℃〜70℃、より好ましくは55℃〜65℃の温度で、12時間から最長1週間、好ましくは48時間から最長96時間、より好ましくは50時間から最長70時間実施する。インキュベーションが完了した後、懸濁液を周囲温度まで冷まし、固形残留物を除去して可溶性画分を得る。
【0041】
この可溶性画分は、抽出アラビノガラクタンを含むが、多くの目的のためにはさらに処理しなければならない。水性分散液を処理してアラビノガラクタン水溶液を得るステップ(ステップa)と、その後の単離及び濃縮ステップ(ステップb)を実施する正確な方法は、コーヒー豆の供給源、焙煎の程度、及び最終用途に必要とされる特性に応じて異なることがあることは明らかである。こうした変形形態を有益に使用する方法は当業者に周知であるが、例示的な目的のために、我々はステップa及びbのそれぞれのいくつかの特定の実施形態を提供する。
【0042】
しかし、まず、当業者が本発明の枠内である種の一般的な操作を実施するためにどのようにして異なる単位操作を用いることができるかを我々は例示する。例えば、この方法において使用することが好ましい濃縮操作の場合、我々は、蒸発又は限外ろ過が特に有用であることを発見した。
【0043】
さらに、乾燥方法を使用する場合、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、ベルト乾燥又は流動床乾燥、あるいは記載した乾燥法の任意の組合せなど、任意の乾燥法を実施することができる。この場合も、こうした乾燥技術の使用は当業者に周知である。
【0044】
水性分散液を処理してアラビノガラクタンを含む水溶液を得る好ましい実施形態は、以下のステップを含む。酵素加水分解後に得た可溶性画分を希釈し、濃縮した後、さらに操作する。可溶性画分は、その元の体積の5%〜95%、好ましくは10%〜80%、より好ましくは約20%〜約30%まで濃縮してもよい。その後、濃縮した可溶性画分を遠心分離して、少量の残留物とクリーム状の茶色表層を分離する。このクリーム状の茶色層を取り出して、抽出アラビノガラクタンを含む透明な茶色着色上清(supernatant)を得る。必要に応じて、この上清を乾燥させて、アラビノガラクタンに富んだ粉末状抽出物を得ることができるが、これは液体状態でさらに操作してもよい。
【0045】
この方法の単離ステップ(ステップb)は、以下のステップに従って実施することができる。まず、透明な茶色着色上清を水で希釈し、溶液にする。既に粉末が得られている場合、これを水に溶解させて同じ濃度にしてもよい。必要に応じて、分子量カットオフが5kDa〜100kDa、好ましくは10〜50kDa、より好ましくは約14kDaの膜を用いた溶液の透析によって低分子量物質を除去してもよい。必要に応じて、透析した溶液を濃縮して粘稠液体にしてもよい。次いで、水中では本質的に混和性の50〜90体積%、好ましくは60〜80体積%、より好ましくは約70体積%の液体と溶液を混合又はインキュベートすることによって、溶液中のアラビノガラクタンを沈殿させる。こうした液体は、低分子量アルコール、アルデヒド及びケトン、又はこの3種類の化合物の混合物などの水溶性有機溶媒を含むことが好ましい。エタノール、プロパノール、ブタノール及びその異性体によって例示される水溶性アルコールが特に好ましい。その後、沈殿物を洗浄及び乾燥してよい。最終生成物は、アラビノガラクタン含有量が50%超、好ましくは70%超、より好ましくは80%超のオフホワイト粉末である。
【0046】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、初めに水で処理するアラビノガラクタンは、生豆からしか抽出しない。
【0047】
したがって、生又は焙煎したコーヒーから酵素的に抽出したアラビノガラクタンは、食品成分として有益に使用することができる。これらは、その食物の官能品質を高めるために食物で特に使用することができる。本発明において、「食物」という用語には、飲料及びヒトが消化できる任意の他の製品も含まれる。重要な用途は、それだけには限らないが、粘度調節、繊細な有効成分の封入及び泡の安定化である。本発明は、飲料、特に純粋可溶性コーヒーなどの可溶性コーヒーに特に適している。抽出アラビノガラクタンの予想外の新規な特性には、界面挙動を含む珍しい流動学的挙動及び例えばコーヒー香気のような繊細な有効成分を封入するためのグラッシー基質を形成する能力がある。
【0048】
抽出及び単離した後、アラビノガラクタンの特性は、最終用途のために特に最適化してもよく、例えばアラビノガラクタンを加水分解して所望の分子量特徴にすること又は膜を用いた透析によってアラビノガラクタンの分子量分布を改変することにより、例えばコーヒー飲料の口あたり又はコーヒー香気のための封入基質としての使用を改善するための粘度制御を行う。
【0049】
コーヒー由来アラビノガラクタンの組成及び特性は、コーヒー豆の供給源、焙煎したコーヒーの場合には焙煎条件、及び最も重要なこととして、最終用途に応じて異なっていてよい。
【0050】
例えば、粘度調節及び泡又は界面安定化に関して、一般的に高分子量アラビノガラクタンが望ましい。この抽出方法は、その穏やかな性質のために、このような高分子量アラビノガラクタンを得るのに特に適している。粘度調節に使用するのが好ましい重量平均分子量は、100kDaより高く、好ましくは500kDaより高く、より好ましくは2000kDaより高い。
【0051】
この物質を封入基質として使用する場合にそうであり得るように、アラビノガラクタンの分子量が高すぎる場合、前述したように希酸を用いて穏やかな条件下で加水分解することによって適切に、当業者に周知の任意の方法によって制御可能なように低減させることができる。封入するためのグラッシー基質を形成するのに適した重量平均分子量は、10kDa超、好ましくは30kDa超、より好ましくは100kDa超である。
【0052】
さらに、単離したアラビノガラクタンの純度は、特定の用途に必要とされる特性に応じて異なっていてよい。例えば、粘度調節物質として、抽出アラビノガラクタンの純度は、50%超、好ましくは75%超、より好ましくは90%超であってよい。封入基質としての使用では、純度は、75%超、好ましくは90%超、より好ましくは95%超であってよい。
【0053】
酵素処理からのコーヒー由来アラビノガラクタンのモル比は、ガラクトース対アラビノースが約2:1超、好ましくは約2.5:1超である。記載したように、抽出アラビノガラクタンは、食品成分として、特に食料品の官能性質を高めるのに極めて有用である。抽出アラビノガラクタンは、2つの特性:1)低濃度の添加アラビノガラクタンにおける液体の粘度の向上及び2)繊細な香気化合物を取り込むのに適したグラッシー基質を形成する能力のために、主に食料品の官能性質を改善する。特定の事例では、2つの有益な特性は、同時に利用することができる。
【0054】
液状の食料品、特に可溶性コーヒー又はすぐ飲めるコーヒーなどの飲料の粘度増強剤としての使用では、抽出アラビノガラクタンは、食品の全質量に対して質量により0.1%〜10%、好ましくは0.5%〜5%、より好ましくは1%〜2%の最終濃度で食品に加える。
【0055】
食料品中の泡の安定剤としての使用では、抽出アラビノガラクタンは、食品の全質量に対して質量により0.1%〜10%、好ましくは0.5%〜5%、より好ましくは1%〜2%の最終濃度で食品に加える。
【0056】
繊細な食品成分を封入するための基質として、抽出アラビノガラクタンは、それらのグラッシー態で使用することが好ましい。アラビノガラクタンのこのグラッシー態の特性は、アラビノガラクタンの抽出条件を変えることによって、他の供給源、特に二糖類から炭水化物を加えることによって、あるいは含水量を変えることによって改変することができる。有効成分は基質中に分散しており、分子的に分散していてよく、あるいは小さな液体又は固体封入体の形態であってもよい。
【0057】
有効成分は、最終食品に付加価値を付与する任意の食品成分であってよい。その例の完全ではないリストには、以下のもの:酸化防止剤、香味料、生理活性成分、ミネラル、プロバイオティックスが含まれる。重要なのは、呈味化合物と香気化合物の両方を含む香味料を封入するためのアラビノガラクタンの適用である。特に重要な用途は、可溶性コーヒーで使用するためのコーヒー香気の封入への適用である。
【0058】
コーヒー香気を持つことは、嗅上皮中の受容器細胞を刺激することによって飲んだ人が経験する臭気/風味感覚をもたらす揮発性化合物の混合物を示す。香気化合物は、鼻から吸い込むことによって外部から(そうすると臭気分子が臭気として認知される)あるいは口及び喉の後方で後鼻腔を介して飲むことによって内部的に(そうすると風味として認知される)鼻腔に入る。コーヒー香気には、コーヒーの香りに寄与することが分かっている数百個の化合物が含まれており、その最も重要なもののうちのいくつかは、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン、1−メチルピロール、フルフリルチオール(FFT)、1H−ピロール、メタンチオール、エタンチオール、ペンタンチオール、プロパナール、ブタナール、エタナール、メチルホルメート、メチルアセテート、メチルフラン、2−ブタノン、メタノール、エタノール、プロパノール、ピラジン、フルフラール、ジメチルスルフィド、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン、2−メチルブタナール、2(5)−エチル−4−ヒドロキシル−5(2)−メチル−3(2H)−フラノン、メチルプロパナール、4−エテニル−2−メトキシフェノール、3−メチルブタナール、バニリン、2−メトキシフェノール、3−ヒドロキシ−4,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、4−エチル−2−メトキシフェノール、2−エチル−3,5−ジメチルピラジン、メチオナール、3−メルカプト−3−メチルブチルホルメート、2,3−ジエチル−5−メチルピラジン、(E)−□−ダマセノン、3−イソブチル−2−メトキシピラジン、2−メチル−3−フランチオール、2−エテニル−3,5−ジメチルピラジン、3−メチル−2−ブテン−1−チオール及び2−エテニル−3−エチル−5−メチルピラジンである。
【0059】
本発明では、コーヒー香気は、コーヒーの香り中に含まれている香気化合物の任意の混合物を意味するが、コーヒー香気は、天然に由来する必要はない。例えば、天然のコーヒー香気抽出物又は凝縮物は、一定量の限定香気化合物を添加することによって強化することができる。添加したこれらの香気化合物は、例えば非コーヒー供給源由来で天然であってよく、あるいは性質が同じであってよい。ある種の香気化合物を強化したこのようなコーヒー香気は、コーヒー香気組成物と示されることになる。我々は、単一の、純粋な香気化合物又は非コーヒー香気から調製したコーヒー香気に同じ名称を与える。コーヒー香気は、香気化合物しか含まない本質的に純粋な組成物、すなわち濃縮物として加工してもよいが、香気キャリアー(aroma carrier)、例えばコーヒーオイル又は水、及び任意選択で不揮発性コーヒー化合物を含む抽出物又は凝縮物の形態であってもよい。このようなキャリアー中のコーヒー香気もコーヒー香気組成物と示されることになる。コーヒー香気組成物中のコーヒー香気化合物の濃度は、その供給源、その用途及び使用するキャリアーの種類に応じて異なっていてよい。例えば、水をキャリアーとして使用した場合、コーヒー香気化合物の濃度は通常低く、例えば全組成物の質量により0.001%〜10%、しばしば0.1%〜1%である。油性の香気の香気濃度は一般に、全組成物の質量により1%〜90%、好ましくは5%〜20%である。90%以上のコーヒー香気化合物からなる任意の香気組成物は、純粋なコーヒー香気又はコーヒー香気濃縮物と示されることになる。本発明によるコーヒー香気は、当業者に周知の任意の手段によって得ることができる。
【0060】
アラビノガラクタン基質中へのコーヒー香気の封入又は取込みは、当技術分野で一般に使用されている技術のいずれかに従って実施することができる。こうした技術には、それだけには限らないが、噴霧乾燥、凍結乾燥、溶融押出、流動床乾燥、凝集と組み合わせた噴霧乾燥、減圧乾燥、又は前記封入法の任意の組合せがある。よく見られる技術の一般的な概要は、例えばJ.Ubbink及びA.Schoonman、「Flavor Delivery Systems」、Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、Wiley Interscience(2003)に見られる。
【0061】
最も適切な技術の選択は、加工、粉末特性及び消費者の好みに対する多くの要求を最適に満足させることによって通常決定する。例えば、技術の選択は、装置の可用性、その操業コスト、単位製品当りに必要なエネルギー入力及び類似の問題によって決定することができる。粉末特性が重要な場合、この選択は、粉末流動性、再構成挙動及び混合挙動に対する制約によって影響を受けることがある。消費者の好みは、粉末の外観が消費者による製品の認識に影響を与えことになるという点で技術の選択において重要な役割を演じるかもしれない。
【0062】
例えば、封入コーヒー香気を含むアラビノガラクタンカプセルが噴霧乾燥可溶性コーヒーを強化するために使用される場合、カプセルも噴霧乾燥されていることが好ましい。これにより、より容易な加工、より優れた粉末特性及び消費者による製品の著しく優れた視覚的な受容がもたらされる。別の事例では、凍結乾燥可溶性コーヒー粉末とブレンドされるアラビノガラクタンカプセルも、粉末混合物の外観を最適化するために凍結乾燥すべきである。さらに別の事例では、アラビノガラクタンカプセルは、流動床乾燥によって生成し、凍結乾燥可溶性コーヒー粉末と混合して、凍結乾燥コーヒー粒子と流動床乾燥アラビノガラクタンカプセルの間に視覚的に満足なコントラストがある最終粉末混合物を得る。
【0063】
取込み又は封入とも呼ぶことができるアラビノガラクタンカプセル中にコーヒー香気を組み込む方法は、任意の既知の方法によって実施することができる。適宜、方法は、以下のステップ:
−水中でアラビノガラクタンを溶解するステップと、
−前述のように任意の物理的形態のコーヒー香気を添加するステップと、
−混合物を均質化して、均質溶液又は分散液を得るステップと、
−コーヒー香気を含む分散液の溶液を乾燥させて、封入コーヒー香気を含むアラビノガラクタンカプセルを得るステップと
−粒径、粒子形態又は粉末特性を改変するためにアラビノガラクタンカプセルを後加工するステップと
を含む。
【0064】
これらのステップは、アラビノガラクタンカプセル中にコーヒー香気抽出物、濃縮物、抽出物又は組成物を封入する方法の一般的な説明を提供している。言うまでもなく、各ステップは、上記操作に依然として含まれる様々な方法で実施することができる。また、上記ステップは、アラビノガラクタン内への香気封入が達成されている限り任意の順番で実施してもよく、あるいは完全に省略してもよい。
【0065】
(方法)
以下の非限定的な実施例は、アラビノガラクタン内にコーヒー香気を封入するのに適した方法を示す。例えば、単離及び精製アラビノガラクタンが既に水溶液の形態である場合、封入方法におけるその使用の前に水に溶解させる必要はない。
【0066】
アラビノガラクタン溶液が極めて薄い場合、適切な固形分まで濃縮すべきである。
【0067】
コーヒー香気を水性組成物として供給した場合、ことによると水の添加さえ行うことなくアラビノガラクタンをコーヒー香気組成物中に溶解させることもできる。
【0068】
さらに、凍結乾燥を乾燥方法として利用する場合、乾燥ステップには凍結ステップを含めてもよい。後加工は、例えば凍結乾燥後のように、多少広範囲であってよく、所望のサイズのカプセルを得るために、得られたケーキは、粉砕又は破壊する必要がある。封入方法として溶融押出を使用する場合、アラビノガラクタンカプセルの磨砕もしばしば望まれる。カプセルは一般に既に所望の粒径及び形状を備えているので、噴霧乾燥又は流動床乾燥を使用する場合、後加工は通常ほとんど又は全く必要ではない。後加工ステップとして凝集を使用する場合は例外である。凝集は、粒径を増大させるため、粉末特性を向上させるため又はカプセルの外観を改変するために使用することができる。凝集は、カプセルを用いて、あるいはコーヒー粉末、又は同等に、クリーマ及び甘味料など飲料粉末の他の成分のいずれかと併せてカプセルを用いて実施することができる。
【0069】
上記の概略を説明したコーヒー香気を封入するための方法により、コーヒー由来アラビノガラクタンを通常約70質量%超、好ましくは約80質量%超含む粒子を主に生成する。コーヒー由来アラビノガラクタンを含むグラッシー基質と呼ぶことができる前記得られた粒子は、可溶性コーヒー粉末と適切に混合し、それによってコーヒー由来アラビノガラクタン中に封入したコーヒー香気を含む純粋可溶性コーヒー組成物などの可溶性コーヒー組成物が得られる。コーヒー由来アラビノガラクタンは、適切に約10kDa超、好ましくは約30kDa超の重量平均分子量を有し、さらに、ガラクトース対アラビノースのモル比は、通常約2:1超、好ましくは約2.5:1超である。コーヒー由来アラビノガラクタン中に封入したコーヒー香気を含む可溶性コーヒー組成物は、本発明による酵素的抽出手順と全可溶性コーヒー組成物に対する従来の抽出の両方によって、約10質量%超のコーヒー由来アラビノガラクタンを含む。ここで、可溶性コーヒー組成物は、コーヒー豆、すなわち生豆及び焙煎した豆を起源とする化合物だけを表す。したがって、クリーマ、甘味料又は他の一般的な添加物などの添加物は除外される。そのようにして生成した可溶性コーヒー組成物に対して、好ましくは他の成分を混合し、それによってクリーマ及び場合によっては甘味料を含む様々なコーヒー飲料が得られる。
【実施例】
【0070】
実施例1:生のコーヒーからのアラビノガラクタンの抽出
セルクラスト1.5L及びガマナーゼは、Novo−Nordisk社から購入した。セルクラスト1.5Lは、トリコデルマリーセイ(Trichoderma reesei)由来の液体セルラーゼ製剤である。この製剤の活性は、700エンド−グルカナーゼ単位/gである。ガマナーゼは、アスペルギルス属(Aspergillus)の微生物から得られ、1g当り1,000,000粘度酵素単位の活性がある。酵素製剤200mlを95%アルコール800mlに4℃で加えることによって各酵素を部分的に精製した。生成したタンパク質沈殿は、80%アルコール中で洗浄した後回収し、使用する直前に水200ml中に再溶解させた。生のコーヒー豆を平均粒径200〜400μmに粉砕した。液体窒素を冷却剤として使用した。粉末状の豆10kgを蒸留水中60℃で24時間撹拌した。酵素(溶解沈殿物200ml)を豆懸濁液に加え、撹拌を60℃で62時間続けた。この混合物を冷却させ、残留物を可溶性画分から分離した。次いで可溶性画分を、その元の体積の4分の1に濃縮し、実験用遠心分離機を用いて1L容器中7000rpmで濃縮物を遠心分離した。表面に脂肪質のクリーム状茶色層が生成し、除去し、透明な茶色着色上清を凍結乾燥し、コーヒー由来アラビノガラクタンを含む粉末を得た。アラビノガラクタンの存在はサイズ排除クロマトグラフィーによって検出し、重量平均分子量は3.78×10Daであることが確認され、数平均分子量はMn=2.83×10であり、Mw/Mn比は1.34を示した。アラビノース含有量22.6モル%及びガラクトース含有量68.4モル%から求めた通り、ガラクトース対アラビノースのモル比は、3:1であることが確認された。
【0071】
実施例2:焙煎したコーヒーからのアラビノガラクタンの抽出
実施例1の手順を繰り返したが、今回は焙煎したコーヒー(CTN 110)について行った。アラビノガラクタンの存在はサイズ排除クロマトグラフィーによって検出し、重量平均分子量は10〜100kDaの範囲であることが確認された。抽出物のアラビノース含有量は26.3モル%、ガラクトース含有量は67.3モル%であることが確認され、ガラクトース対アラビノースのモル比約2.5を得た。
【0072】
実施例3:アラビノガラクタン粉末の抽出物及び調製物からのアラビノガラクタンの単離
実施例1の凍結乾燥抽出物(500g)を水700ml中に溶解し、分子量カットオフが14kDaの膜中で透析した。この溶液を粘稠液体(約1300ml)に濃縮し、最終濃度70%(3000ml)に達するまで連続撹拌しながらアルコール(95%)をゆっくり加えた。沈殿物を周囲温度で終夜沈降させ、上清の大半をデカントした。沈殿物を70%アルコール中に再懸濁し、遠心分離し、上清を捨てた。沈殿物を再懸濁し、アセトン(200ml)中で撹拌し、遠心分離し、上清を捨てた。最後に、沈殿物を少量のアセトン中に懸濁させ、結晶皿に注ぎ、そこで室温で終夜、換気フード中で乾燥させた。アラビノガラクタンを白色物質として回収し、それを粉末に破砕した(収量80g)。アラビノガラクタン含有量は85質量%であり、タンパク質含有量は10質量%であった。ガラクトース/アラビノース比は、3:1であり、約7質量%グルクロン酸も含まれていた。
【0073】
実施例4:飲料の食感を高めるためのコーヒー由来アラビノガラクタンの使用
可溶性コーヒー飲料は、脱イオン水150ml当りNESCAFE GOLD(登録商標)可溶性コーヒー2グラムを用いて調製した。水の温度は70℃であった。アラビノガラクタンを含まないもの、及び実施例3のアラビノガラクタンを1%及び2%w/w含む試料を調製した。3種類の試料の間の差を定量的に評価するように頼まれた5人の食味検査員の審査団によってこれらの試料が評価された。共通の意見は、1%及び2%アラビノガラクタンを含む飲料は、こくがよりしっかりしており、口の中で若干膜が形成されることであった。さらに、2人の食味検査員は、アラビノガラクタン含有飲料がより高い泡形成能力を有すると評価した。
【0074】
同時に、実施例3のアラビノガラクタンの1%及び2%溶液の流動学的挙動は、Haake RS150 RheoStressレオメーターを用いて37℃にて種々の剪断速度で測定して決定した。この実験は、いわゆるダブルギャップ配置を用いて37℃で実施した。この配置は、他の2本のステンレス鋼円柱の間に同軸形につるした中空のステンレス鋼円柱から構成される。
【0075】

【0076】
流動学的データから、アラビノガラクタン濃度1%及び2%において、溶液の粘度は、既に実質的に水のものより高いことが観察される。食品の消費中のように、剪断速度は、約1 1/s〜300 1/sで異なっていてよく、粘度の適切な定量的基準は、200 1/sにおける粘度である。
【0077】

【0078】
剪断速度200 1/sにおける粘度の値は、アラビノガラクタンが溶液の粘度を増大させる強い傾向を有することを実証している。
【0079】
官能評価と流動学的測定の両方から、我々は、コーヒー由来アラビノガラクタンが飲料の食感を改変するのに適切な化合物であることを結論付ける。
【0080】
実施例5:起泡性
アラビアゴム及びコーヒーアラビノガラクタン粉末を5wt%の濃度で脱イオンミリQ水(18.2μS/cm)中に分散させて、非緩衝条件で親水コロイドの起泡性を試験した。Guillermeら(Journal of Texture Studies、24、287〜302(1993))によって開発された標準化された発泡法を使用し、その方法では、ガスがガラスフリットを通って発泡することによって(気孔率及びガス流は制御されている)定義済みの量の溶液を泡立たせ、泡がガラスカラムに沿って上昇し、そこでCCDカメラを用いて画像解析によってその体積を求めた。電極を用いて液体を含むキュベット中の、及びカラム中の異なる高さで伝導率を測定することにより、泡中に取り込まれた液体の量及び泡の均一性を計算した。市販のFoamscan装置(ITConcept、フランスLongessaigne)を使用した。コーヒーアラビノガラクタン及びアラビアゴムの発泡能力を様々なpH値で比較した。これらの結果を以下の表に示す。
【0081】

【0082】
コーヒー由来AGのより高い発泡能力は表面張力によって裏付けられ、それは同じ質量濃度においてコーヒー由来アラビノガラクタンではより低い。すなわち、コーヒー由来アラビノガラクタンは、安定性は変化しないまま発泡能力が改善されている。したがって、コーヒー由来アラビノガラクタンは、食物及び飲料に適用するのに非常に優れた発泡成分である。
【0083】
実施例6:コーヒー由来アラビノガラクタンへのコーヒー香気の封入
実施例3のアラビノガラクタン粉末を室温で新鮮な水性コーヒー香気抽出物(15倍化学量論的コーヒー香気)中に濃縮物の全固形含有量25.9%まで溶解させた。水性抽出物を使用したので、水を加える必要がなかった。アラビノガラクタン粉末の完全な溶解後及び均質化後、得られたコーヒー抽出物を−80℃のフリーザーに入れ、次いで制御条件下で凍結乾燥した。
【0084】
凍結乾燥後、封入コーヒー香気を含む多孔質のグラッシー基質を得た。このグラッシー基質は、容易にかみ砕くことができ、ガス比重瓶法によって測定した見掛け密度が1.64g/cmの易流動性粉末を生じる。
【0085】
アラビノガラクタンカプセルの香りの保持率は、GC分析によって測定した。コーヒー香気からのいくつかの影響化合物について、以下に結果をまとめて示す。
【0086】

【0087】
この表から分かるように、高い揮発性のものを含むすべての化合物が基質中に十分に保持されているので、香り保持率は満足できるものである。
【0088】
実施例7:アラビノガラクタンカプセル中のコーヒー香気の安定性を測定する貯蔵試験
コーヒー香気濃度が標準的な可溶性コーヒー中のものより15倍高いアラビノガラクタンカプセルを実施例6に基づいて生成した。対照として、標準実施法に従って香気濃度が通常よりも15倍高い凍結乾燥コーヒーを調製した。飽和塩溶液(MgCl)を含む乾燥器中25℃で貯蔵することによって、アラビノガラクタンカプセルと可溶性コーヒー対照のどちらもa=0.32で平衡にした。相対湿度センサー(Hygrolyt、Rotronic AG、スイス)を用いて水分活性を測定した。平衡にした後、アラビノガラクタンカプセルと可溶性コーヒー対照の両方に対して3ヶ月間に渡って2つの温度、−25℃及び+37℃で貯蔵試験を実施した。一定の間隔で、2つの温度で貯蔵したカプセル及び対照中のいくつかの香気化合物の濃度を測定した。香気化合物の安定性は、37℃で貯蔵した試料中の香気化合物の濃度と、同じ試料だが−25℃で貯蔵した試料中の香気化合物の濃度の比として計算される相対保持率として表す。相対保持率は、アラビノガラクタンカプセルについてより高くなったが、アラビノガラクタンカプセルと可溶性コーヒー対照の間の安定性の改善は、化合物ごとに異なっていた。これを以下のグラフに示し、そこではアセトアルデヒド及びピロールに関して、可溶性コーヒー対照と比較してアラビノガラクタンカプセルで大きな改善が見られる。
【0089】

【0090】

【0091】
実施例8:コーヒー香気−アラビノガラクタンカプセルを含むコーヒーミックス
コーヒー香気濃度が標準的な可溶性コーヒー中のものより15倍高いアラビノガラクタンカプセルを実施例6に基づいて生成した。アラビノガラクタンカプセルを、凍結乾燥によって調製した香りをつけてない可溶性コーヒーと1対15の質量比で混合し、標準的な全香気濃度のコーヒーミックスを得た。このようにして得たコーヒーミックスは好ましい外観を有していた。さらに、粉末ミックス中でアラビノガラクタンカプセルと可溶性コーヒーが分離する傾向は許容可能であった。
【0092】
実施例9:官能特性の改善
コーヒー香気濃度が標準的な可溶性コーヒー中のものより15倍高いアラビノガラクタンカプセルを実施例6に基づいて生成した。対照として、標準実施法に従って香気濃度が通常よりも15倍高い凍結乾燥コーヒーを調製した。増強した試料の生成は、加えた香りの量、凍結乾燥前の全固形分ならびに凍結乾燥装置及び条件に関して同じにした。試料の官能特徴は、試料を生成した直後に実施した(T)。味見のための試料を以下のように作製した(水の温度:70℃、水のタイプ:2/3ミネラルウォーターと1/3脱イオン水)。以下の表に記載した濃度に応じてコーヒー粉末を希釈した。最終生成物中の増強した物質の合計量は、約6〜7%である。
【0093】

【0094】
コーヒー飲料は、11人の訓練を受けた食味検査員の審査団によって20種の臭気/風味属性を用いて評価される。評価人は、各属性を0(強くない)から10(極めて強い)のスケールに採点するように求められた。
【0095】

【0096】
どちらの生成物も、香り及び風味の点で高いコーヒー特徴を有することが判明し、すべての相違点は意義のあるものではなかった。したがって、可溶性コーヒーは、アラビノガラクタンカプセルを用いて、その可溶性コーヒーの最初の官能特徴を著しく変えずに増強することができる。
【0097】
アラビノガラクタンカプセル及び増強した可溶性コーヒー中の香りの相対安定性を評価するために貯蔵試験を行った。飽和塩溶液(MgCl)を含む乾燥器中25℃で貯蔵することによって、アラビノガラクタンカプセルと可溶性コーヒー対照のどちらもa=0.32で平衡にした。平衡にした後、試料を3ヶ月間2つの温度、−25℃及び+37℃で貯蔵した。香りを再取込みしていないコーヒーベースの粉末を−25℃及び37℃で、ただし不揮発物の分解及び酸性度の進行を防ぐために低含水量(a=0.17)で貯蔵した。
【0098】
貯蔵1ヶ月後(T)及び3ヶ月の全貯蔵期間後(T)の−25℃及び+37℃で保持した各生成物の試料の間で3点比較法を実施した。味見のために、香りをつけていない可溶性コーヒー粉末1.4g及び増強した粉末0.1g(アラビノガラクタンカプセル及び増強した可溶性コーヒー粉末)を用いて、100mLカップにそれぞれ飲料をいれた。
【0099】

【0100】
上記表中のデータは、様々なコーヒー香気組成物の臭気/風味属性に対する1ヶ月及び3ヶ月間の貯蔵の影響の程度である(左側の列)。数字(X/Y)は、試験の総数(Y)に対して−25℃及び+37℃で貯蔵したバッチが異なると評価した評価人の数(X)を表す。したがって、Yに対するXの割合が高いことは、1又は3ヶ月間貯蔵した後、コーヒー香気組成物に臭気/風味の点で有意差があると判断されたことを表す。
【0101】
3点比較法の結果は、可溶性コーヒー対照に関して、−25℃及び+37℃で貯蔵した試料間の差が、過酷な条件下(T=37℃、a=0.32)では貯蔵1ヶ月後で既に有意であることを示しているが、これらの過酷な条件下で3ヶ月貯蔵した後でもアラビノガラクタンカプセルに関して著しい変化(no significant variations)は観察されていない。したがって、アラビノガラクタンカプセルへのコーヒー香気の取込みは、可溶性コーヒーの最初の香りの品質及び強さを保持するのに有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒーからアラビノガラクタンを抽出する方法であって、豆のまま又は挽いた、生又は焙煎したコーヒー豆を酵素的に加水分解し、それによって、部分的に加水分解されたコーヒー豆及びアラビノガラクタンを含む水性分散液を得るステップを含み、前記コーヒー豆を前記酵素処理の直前に10℃〜95℃の温度で2時間から最長1週間水で前処理する、方法。
【請求項2】
a.前記水性分散液を処理して、アラビノガラクタンを含む水溶液、又は任意選択で、アラビノガラクタンに富んだ粉末を得るステップと、
b.前記水溶液を濃縮し、前記アラビノガラクタンを沈殿させ、それによって抽出アラビノガラクタンの分散液を得ることにより前記アラビノガラクタンを単離するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下のステップ:
c.請求項1又は2の前記抽出アラビノガラクタンを加水分解して分子量を低減させるステップ、
d.前記水性分散液を濃縮して、高濃度のコーヒー由来アラビノガラクタンを含む粘稠液体を得るステップ、
e.任意選択でステップb)のアラビノガラクタン沈殿物又はステップd)の粘稠液体を乾燥させて、コーヒー由来アラビノガラクタンの固形剤を得るステップ
のうち1つ又は複数をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素加水分解は、以下のステップ:
前記コーヒー豆を平均粒径約10マイクロメートルから最大約2ミリメートルまで挽くステップと、
前記挽いたコーヒー豆を約10℃から最高約95℃の温度で約2時間から最長約1週間水で前処理するステップと、
前記前処理した挽いたコーヒーを約30℃から最高約80℃の温度で約12時間から最長約1間セルラーゼ及びガマナーゼと一緒にインキュベートするステップと、
ステップc)の懸濁液を周囲温度まで冷ますステップと、
ステップc)の懸濁液の残留物を除去して可溶性画分を得るステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)は、追加のステップ:
アラビノガラクタンを含む前記水溶液を、その元の体積の5%〜95%まで濃縮するステップと、
前記濃縮した水溶液を遠心分離し、それによって表層を得るステップと、
前記遠心分離した溶液の前記表層を取り出し、抽出アラビノガラクタンを含む上清を得るステップと、
任意選択で、ステップb)の上清を乾燥させて、アラビノガラクタンに富んだ粉末状抽出物を得るステップと
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)は、追加のステップ:
前記上清を希釈して、又はアラビノガラクタンに富んだ前記乾燥抽出物を水に溶解させて、水溶液を得るステップと、
任意選択で、分子量カットオフが約5kDa〜約100kDaの膜を用いて前記水溶液を透析するステップと、
前記水溶液又は前記任意選択で透析した溶液を濃縮して粘稠液体にするステップと、
前記粘稠液体を約50〜約90体積%の水溶性有機溶媒とインキュベートすることによって沈殿物を得るステップと、
任意選択で、アルコール水溶液及びアセトンを用いて前記沈殿物を洗浄するステップと、
任意選択で前記沈殿物を乾燥させるステップと
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記濃縮ステップを、蒸発又は限外ろ過によって実施する、請求項2、3、5及び6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥ステップを、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、ベルト乾燥又は流動床乾燥によって実施する、請求項3、5及び6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アラビノガラクタンを、豆のまま又は挽いた生のコーヒー豆から酵素によって抽出する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
コーヒー由来アラビノガラクタンの食品成分としての使用。
【請求項11】
コーヒー由来アラビノガラクタンの健康促進物質としての使用。
【請求項12】
重量平均分子量が約150kDa超、好ましくは約500kDa超、より好ましくは約2000kDa超のコーヒー由来アラビノガラクタンの、食物及び/又は飲料中の結着剤としての使用。
【請求項13】
コーヒー由来アラビノガラクタンの、食物及び飲料中の粘度増強剤としての使用。
【請求項14】
コーヒー由来アラビノガラクタンの、可溶性コーヒーのための口あたり増強剤としての使用。
【請求項15】
コーヒー由来アラビノガラクタンの、食物及び飲料、好ましくはコーヒー飲料中の起泡増強剤又は泡安定剤としての使用。
【請求項16】
コーヒー由来アラビノガラクタンの、乾燥食品、好ましくは飲料中に風味又は香り、好ましくはコーヒー香気、又はその混合物を閉じ込めるためのグラッシー基質としての使用。
【請求項17】
コーヒー由来アラビノガラクタン中に閉じ込めたコーヒー香気を有する固形コーヒー組成物。
【請求項18】
コーヒー由来アラビノガラクタンを含むことを特徴とする、コーヒー香気を有するグラッシー基質。
【請求項19】
前記コーヒー由来アラビノガラクタンの平均分子量が約10kDa超、好ましくは30kDa超であることを特徴とする、請求項18に記載のグラッシー基質。
【請求項20】
全固形グラッシー基質に対してコーヒー由来アラビノガラクタンを約80質量%超含む、請求項18に記載のグラッシー基質。
【請求項21】
前記コーヒー由来アラビノガラクタンのガラクトース対アラビノースの質量比が約2:1超、好ましくは約2.5:1超であることを特徴とする、請求項18〜20のいずれか一項に記載のグラッシー基質。
【請求項22】
コーヒー香気をコーヒー由来アラビノガラクタンの水性分散液と混合し、それによって混合物を生成し、その後得られた混合物を加工して前記固形グラッシー基質を生成することによって得られることを特徴とする、請求項18〜21のいずれか一項に記載のグラッシー基質。
【請求項23】
請求項18で定義したグラッシー基質を含む可溶性コーヒー組成物。

【公表番号】特表2008−500440(P2008−500440A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517003(P2007−517003)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004084
【国際公開番号】WO2005/116083
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】