説明

サセプタ、該サセプタを用いた気相成長装置およびエピタキシャルウェーハの製造方法

【課題】ウェーハに設けられたノッチ部周辺においても高い平坦性を有するエピタキシャルウェーハを製造することを可能にするサセプタおよび該サセプタを用いたエピタキシャルウェーハの製造方法を提案する。
【解決手段】上面にウェーハWが載置される円形凹状の座ぐり部11が形成され、該座ぐり部11は、ウェーハWの裏面周縁部を支持する上部座ぐり部12と、上部座ぐり部12よりも中心側下段に形成された下部座ぐり部13とを有する二段の座ぐり部で構成され、上部座ぐり部12の環状底面部14にウェーハWを載置してエピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際、ウェーハWの周縁部に設けられたノッチ部Nから下部座ぐり部13内に流入する原料ソースガスの流入を抑制する、下部座ぐり部13の内周壁面の一部に下部座ぐり部13の内周壁面よりも内側に突出する突出部15が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サセプタ、該サセプタを用いた気相成長装置、およびエピタキシャルウェーハの製造方法に関し、特に、高い平坦性を有するエピタキシャルウェーハを製造することが可能なサセプタ、該サセプタを用いた気相成長装置、およびエピタキシャルウェーハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコンウェーハは、チョクラルスキー法(CZ法)等により単結晶シリコンを育成し、該シリコン単結晶をブロックに切断した後、薄くスライスし、平面研削(ラッピング)工程、エッチング工程および鏡面研磨(ポリッシング)工程を経て最終洗浄することにより得られる。その後、各種品質検査を行って異常が確認されなければ製品として出荷される。
【0003】
ここで、より高い結晶性や平坦性が要求される場合には、シリコンウェーハ上にエピタキシャル膜を更に成長させてエピタキシャルウェーハを製造する。具体的には、まず基板として用いるシリコンウェーハを気相成長装置の成長炉内に導入して該炉内に設けられたサセプタ上に載置し、基板温度を1000℃以上の温度に上昇させてシリコンソースガスを供給して、所定の厚さのエピタキシャル膜を成長させる。
【0004】
高平坦度が要求されるシリコンウェーハのエピタキシャル成長は、枚葉処理によって膜厚均一性の向上が図られている。しかし、基板となるシリコンウェーハの周縁部に向って、エピタキシャル層の膜厚が減少する傾向があり、エピタキシャル膜の形成の際に平坦度を維持することは容易ではない。特にウェーハの周縁部では、エピタキシャル層の形成膜厚の急激な変化が生じやすく、エピタキシャル膜の平坦化は困難である。
【0005】
そこで、特許文献1には、環状底面部14にテーパ処理を施し、環状底面部14の幅を変更することにより、エピタキシャル層膜厚を調整できる技術について記載されている。図1は、特許文献1に記載された従来のサセプタの断面図を示している。このサセプタ100の上面には、2段の座ぐり部11が形成されており、座ぐり部11は、ウェーハWを支持する上部座ぐり部12と、下部座ぐり部13とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−273623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、高純度のエピタキシャル膜を有するエピタキシャルウェーハが望まれている。そのため、サセプタの表面をシリコンコートすることにより、サセプタ基材からの汚染を防止する手法が採用されつつある。
【0008】
しかし、発明者が検討したところ、シリコンコートが施されたサセプタを用いてエピタキシャルウェーハを製造すると、環状底面部14の幅が大きい場合には、エピタキシャル膜の成長中にサセプタ上に堆積したポリシリコン膜がシリコンウェーハWの裏面に転写する、いわゆるマストランスファー(物質移動)と呼ばれる現象が発生し、ウェーハ周縁部の裏面側においてシリコン成長(裏面デポ)が数多く発生することが明らかとなった。
【0009】
そこで、発明者は、上記裏面デポを抑制する方途を検討したところ、環状底面部14の幅を小さくすることが有効であることを見出した。しかしながら、環状底面部14の幅を小さくしすぎると、今度はウェーハWのノッチ部Nからウェーハ裏面への原料ソースガスの回り込みが発生し、ノッチ部N近傍において、裏面デポを抑制できないことが新たな問題がとなっていた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、シリコンウェーハの周縁部に設けられたノッチ部近傍における裏面デポを抑制し、ノッチ部の周辺領域においても高い平坦性を有するエピタキシャルウェーハを製造することが可能なサセプタ、該サセプタを用いた気相成長装置、およびエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、上記課題を解決する方途について鋭意検討した結果、上部座ぐり部12の環状底面部14にウェーハWを載置してエピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際、ウェーハWの周縁部に設けられたノッチ部Nから下部座ぐり部13内に流入する原料ソースガスの流入を抑制する、下部座ぐり部13の内周壁面の一部に下部座ぐり部13の内周壁面よりも内側に突出する突出部を設けることが有効であることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0012】
即ち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)エピタキシャル成長装置内でウェーハを載置するためのサセプタであって、上面にウェーハが載置される円形凹状の座ぐり部が形成され、前記座ぐり部は、前記ウェーハの裏面周縁部を支持する上部座ぐり部と、前記上部座ぐり部よりも中心側下段に形成された下部座ぐり部とを有する二段の座ぐり部で構成され、前記上部座ぐり部の環状底面部に前記ウェーハを載置して前記エピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際、前記ウェーハの周縁部に設けられたノッチ部から前記下部座ぐり部内に流入する前記原料ソースガスの流入を抑制する、前記下部座ぐり部の内周壁面の一部に前記下部座ぐり部の内周壁面よりも内側に突出する突出部が設けられていることを特徴とするサセプタ。
【0013】
(2)前記ウェーハの中心を前記サセプタの中心と一致させて前記サセプタ上に前記ウェーハを載置して上面視した際、前記上部座ぐりの環状底面部および前記突出部は、予め前記ウェーハに設定される製品保証領域と製品除外領域との境界ラインよりも前記ウェーハの径方向外側に位置することを特徴とする前記(1)に記載のサセプタ。
【0014】
(3)前記ウェーハの半径をr1とし、前記ウェーハに設定された前記境界ラインの半径をr2とし、前記境界ラインのうち前記ノッチ部に対応する境界ラインの最小半径をr3とし、前記下部座ぐり部の内周壁の半径をr4とし、前記サセプタの中心から前記突出部先端までの距離をr5としたとき、下記の式(A)を満足することを特徴とする前記(2)に記載のサセプタ。
r2<r4<r1 かつ r3<r5 (A)
【0015】
(4)前記ノッチ部の深さをd1としたとき、下記の式(B)を満足することを特徴とする前記(3)に記載のサセプタ。
r5≦(r1−d1)<r4 (B)
【0016】
(5)前記上部座ぐりの環状底面部は、該環状底面部の中心に向けて下向きに傾斜させた傾斜面であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のサセプタ。
【0017】
(6)前記下部座ぐり部の底面に、前記サセプタの裏面側に貫通する貫通孔が複数箇所設けられていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のサセプタ。
【0018】
(7)前記サセプタの表面がシリコン膜で被覆されていることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のサセプタ。
【0019】
(8)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載のサセプタ上に、ノッチ部の位置を前記突出部の位置に対応させてウェーハを載置した状態で、前記ウェーハ表面にエピタキシャル膜を形成することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0020】
(9)前記エピタキシャル膜はシリコンエピタキシャル膜であり、前記サセプタ上に前記ウェーハを載置する前に、前記サセプタ表面をシリコン膜で被覆しておくことを特徴とする前記(8)記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0021】
(10)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載のサセプタを有するエピタキシャル成長装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、下部座ぐり部の内周壁面の一部に下部座ぐり部の内周壁面よりも内側に突出する突出部を設けることにより、上部座ぐり部の環状底面部にウェーハを載置してエピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際、ウェーハの周縁部に設けられたノッチ部から下部座ぐり部内に流入する原料ソースガスの流入を抑制することができるため、ノッチ部近傍における裏面デポが抑制され、ひいてはノッチ部の周辺領域においても高い平坦性を有するエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のサセプタの断面図である。
【図2】本発明によるサセプタの(a)上面図および(b)断面図である。
【図3】ウェーハが載置された状態の本発明によるサセプタの(a)上面図および(b)断面図である。
【図4】本発明によるサセプタおよびにウェーハの上面図である。
【図5】環状底面部の幅がノッチ部の深さ以上の場合のサセプタとウェーハとの位置関係を示す図である。
【図6】環状底面部の幅がノッチ部の深さより小さい場合のサセプタとウェーハとの位置関係を示す図である。
【図7】本発明によるサセプタを適用した気相成長装置を示す図である。
【図8】(a)比較例1、および(b)発明例2に対するエピタキシャルウェーハの平担度(Site Front least sQares Range,SFQR)のサイトマップを示す図である。
【図9】(a)比較例2、および(b)発明例2に対するエピタキシャルウェーハのSFQRのサイトマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図2は、本発明によるサセプタを示す図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。ここで、図1に示した従来のサセプタ100と同じ構成には同じ符号が使用されている。本発明によるサセプタ1は、上面にウェーハWが載置される円形凹状の座ぐり部11が形成されており、この座ぐり部11は、ウェーハWの裏面周縁部を支持する上部座ぐり部12と、上部座ぐり部12よりも中心側下段に形成された下部座ぐり部13とを有する二段の座ぐり部で構成されている。ウェーハWは、上部座ぐり部12の環状底面部14に載置される。ここで、エピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際に、ウェーハWの周縁部に設けられたノッチ部Nから、下部座ぐり部13内に流入する原料ソースガスの流入を抑制する、下部座ぐり部13の内周壁面の一部に下部座ぐり部13の内周壁面よりも内側に突出する突出部15を設けることが肝要である。
【0025】
図3は、ウェーハWが載置された状態のサセプタ1を示す図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。ウェーハWの周縁部の一部には、上述のように、V字状の切り欠きであるノッチ部Nが設けられており、このノッチ部Nを用いてウェーハWの位置合わせや方位合わせが行われている。ノッチ部Nは、例えば、紡錘形状をした砥石を使用して形成することができる。このようなノッチ部Nの形状は、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International) M1−0707において規定されており、例えば、直径300mmのウェーハWの周縁部に90°に開いたV字状のノッチ部Nを、深さ:1mm、径:3mmのピンが入って位置合わせ等が可能なように形成される。
【0026】
ここで、サセプタ1の環状底面部14の幅を小さく設定しすぎると、ウェーハWのノッチ部Nからウェーハ裏面への原料ソースガスの回り込みが発生し、ノッチ部N付近の領域において、裏面デポを抑制することができない。そこで、突出部15を設けることにより、ウェーハWの表面側から流される原料ソースガスが、ノッチ部NからウェーハWの裏面側に回り込むことが抑制されて裏面デポが抑制され、ひいてはノッチ部Nの周辺領域においても高い平坦度を有するウェーハWを得ることが可能となるのである。以下、本発明によるサセプタ1の各構成について説明する。
【0027】
サセプタ1の素材としては、エピタキシャル膜の形成の際、サセプタ1からの汚染を低減するために、炭素基材の表面にシリコンカーバイド(SiC)をコーティングしたものを用いることが一般的であるが、サセプタ1全体がSiCで形成されても良い。または、表面がSiCでコーティングされていれば、内部には他の材料を含んで構成されていても良い。
さらに、このサセプタ1の表面をシリコン膜で被覆されていることが好ましい。これにより、サセプタ1からエピタキシャル膜への汚染を防止することができる。
【0028】
環状底面部14は、ウェーハWの周縁部を支持する。ここで、環状底面部14が水平面である場合、ウェーハWを面接触して支持することになるため、ノッチ部Nからの原料ソースガスの回り込みを抑制する点においては有利である。しかし、環状底面部14とウェーハWとの接触面積が大きいため、接触キズが発生する領域も大きい。ウェーハWには、品質が保証された製品保証領域が設定されており、例えば「外周全域において外周から2mm内側の領域」のように設定される。しかし、たとえ接触キズが品質保証領域の外に形成された場合であっても、キズが散見される場合には外観不良として製品出荷できなくなってしまう。
【0029】
この接触キズを低減するためには、環状底面部14とウェーハWとの接触面積をできるだけ小さくすることが有効である。そのためには、環状底面部14に対してテーパ処理を施して、環状底面部14の中心に向けて下向きに傾斜させた傾斜面とし、ウェーハ裏面を線接触支持するように構成することが有効である。これにより、環状底面部14とウェーハWの周縁部との接触は線接触となり、接触面積が低減されるため、接触キズの発生を低減することができる。また、傾斜面とすることにより、ウェーハ裏面との間隔が長くなるため、マストランスファーによる裏面デポの発生も低減することができる。
【0030】
ところで、ウェーハWの周縁部は、面取り加工が施されているのが通例である。この面取り加工により形成された面取り部Eの形状としては、ラウンド形状の他、テーパ形状、テーパ面角度が上下で異なる非対象面取り形状などが挙げられ、面取り部Eの幅は200〜500μm(300μm)程度の範囲に設定される。この面取り部Eには鏡面研磨処理が施されるが、面取り部Eの表面性状は周方向で均一ではなく微小な凹凸が存在する。そのため、面取り部Eを環状底面部14で支持すると、接触支持によるパーティクルの発塵などを招く虞がある。
【0031】
また、面取り部Eをテーパ面で支持しようとすると、環状底面部14のテーパ面角度をかなり鋭角な面として面取り部Eを支持しなければならず、この場合、載置するウェーハWに傾きを生じやすく、ウェーハ表面全面に均一なエピタキシャル膜を成長させることが困難となる。
【0032】
そこで、ウェーハWを上部座ぐり部12の環状底面部14で支持する場合、ウェーハWの面取り部Eを支持せずに、ウェーハ裏面を支持するように構成されている。具体的にはウェーハ裏面側の面取り部Eとウェーハ裏面との境界付近と環状底面部14が接触するように、ウェーハWが支持されることが好ましい。そのため、環状底面部14の水平面に対する傾斜角度を2°以下とすることが好ましい。
【0033】
突出部15は、下部座ぐり部13の内周壁面の一部に下部座ぐり部13の内周壁面よりも内側に突出するように設けられる。これにより、上述のように、エピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際に、ウェーハWの周縁部に設けられたノッチ部Nから、下部座ぐり部13内に流入する原料ソースガスの流入を抑制することができる。
【0034】
突出部15の形状や大きさは、少なくともノッチ部Nの直下の少なくとも一部を覆うように構成されていれば、ノッチ部Nから下部座ぐり部13内に流入する原料ソースガスの流入を抑制する効果があるが、図3(a)に示したように、ウェーハWの中心をサセプタ1の中心と一致させてサセプタ1上にウェーハWを載置して上面視した時に、突出部15がノッチ部Nの全ての領域を覆うように構成することが好ましい。
また、後述するように、突出部15がノッチ部Nの直下を覆わない場合でも、ノッチ部Nの直下を覆う場合と同様な突出部形状のものを採用すればよく、ウェーハ中心からノッチ部Nを結ぶ直線上に突出部15を配置すればよい。特に、突出部15のウェーハ径方向長さは、製品保証領域内に達しないようにすることが好ましい。
【0035】
このように、下部座ぐり部の内周壁面の一部に下部座ぐり部の内周壁面よりも内側に突出する突出部を設けることにより、上部座ぐり部の環状底面部にウェーハを載置してエピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際、ウェーハの周縁部に設けられたノッチ部から下部座ぐり部内に流入する原料ソースガスの流入を抑制することができるため、ノッチ部近傍における裏面デポが抑制され、ひいてはノッチ部の周辺領域においても高い平坦性を有するエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【0036】
以上の本発明によるサセプタ1において、上部座ぐり部13の環状底面部14および突出部15は、予めウェーハWに設定される製品保証領域と製品除外領域との境界ラインLよりもウェーハWの径方向外側に位置することが好ましい。図4は、ウェーハWの中心をサセプタ1の中心と一致させてサセプタ1上にウェーハWを載置した状態の上面図である。ただし、説明のために、ウェーハWのノッチ部Nとサセプタ1の突出部15とは互いに180°回転されて配置されている。
【0037】
ここで、製品保証領域と製品除外領域との境界ラインLは、ウェーハWの外周形状に沿うように設定されるため、ノッチ部Nの周辺では、ウェーハWの他の周縁部よりもウェーハ径方向内側に設定されることになる。この製品除外領域の幅は、年々その狭小化の要求が厳しくなっており、従来は3mm程度であったものが、近年では2mmとなり、時には1mm程度が要求されているのが現状である。
【0038】
上部座ぐり部12の環状底面部14とウェーハ裏面とが接触あるいは近接する領域では、マストランスファーによる裏面デポが発生し易い。そこで、製品保証領域の直下に上部座ぐり部12の環状底面部14および突出部15を位置させないようにする、換言すれば、ウェーハWの製品除外領域直下に下部座ぐり部13の内周壁を位置させることにより、マストランスファーによる裏面デポの発生を抑制することができる。
【0039】
ここで、上述のように、製品保証領域の直下に上部座ぐり部12の環状底面部14および突出部15を位置させないようにする幾何学的要件について検討する。図4に示したように、ウェーハWの半径をr1、ウェーハWに設定された境界ラインLの半径をr2、境界ラインLのうちノッチ部Nに対応する境界ラインLの最小半径をr3、下部座ぐり部13の内周壁の半径をr4、サセプタ1の中心から突出部15の先端までの距離をr5とする。また、ノッチ部Nの深さをd1とする。
【0040】
上述のように、上部座ぐり部12の環状底面部14は、ウェーハWの周縁部を支持することから、r4<r1であることが必要である。また、製品保証領域の直下に突出部15を位置させないように、境界ラインLのうちノッチ部Nに対応する境界ラインLの最小半径r3は、突出部15の先端までの距離r5よりも小さいことが好ましい。即ち、r3<r5の関係を満足させることが好ましい。さらに、製品保証領域内における裏面デポの発生を抑制するために、ウェーハWに設定された境界ラインLの半径r2は、下部座ぐり部13の内周壁の半径r4よりも小さいことが好ましい。即ち、r2<r4の関係を満足させることが好ましい。以上から、下記の式(1)を満足させることにより、製品保証領域内における裏面デポの発生を抑制させることができることになる。
r2<r4<r1 かつr3<r5 (1)
【0041】
本発明によるサセプタ1上に、ウェーハWを載置した際に、サセプタ1における突起部15と、ウェーハWのノッチ部Nとの間の位置関係は、大きく次の2つに分けることができる。即ち、図5に示すように、上部座ぐり部12の環状底面部14の幅がノッチ部Nの深さd1以上であり、突出部15がノッチ部Nの直下を覆わない場合と、図6に示すように、環状底面部14の幅がノッチ部Nの深さd1より小さく、突出部15がノッチ部Nの直下の少なくとも一部を覆う場合である。ここで、図5および6においては、環状底面部14はテーパ処理が施された傾斜面であるが、水平面であっても良い。
【0042】
前者の場合、環状底面部14が傾斜面である場合には、ノッチ部Nから下部座ぐり部13内に原料ソースガスが流入するが、突出部15は、ノッチ部Nの直下を覆うことはできない。環状底面部14が水平面である場合でも同様であり、ノッチ部Nは環状底面部14により塞がれてはいるものの、微視的にはウェーハWと環状底面部14との間で原料ソースガスの流通が発生する。しかし、後述する実施例に示すように、図6のように突出部15を設けることにより、ウェーハ裏面上のノッチN周辺における裏面デポの発生が抑制されることが明らかとなった。
【0043】
この理由は明らかではないが、恐らく、突起部15を設けることにより、ノッチ部Nから下部座ぐり部13内に進入する原料ソースガスのガス流に対する抵抗が、原料ソースガスと接触する表面部位が増大することにより増大し、原料ソースガスの流れ易さ(コンダクタンス)が低減されて、ガスの流入量が抑制されるためと考えられる。
【0044】
これに対して、後者の場合、エピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際に、上述のようにウェーハWの周縁部に設けられたノッチ部Nから、下部座ぐり部13内に原料ソースガスが流入して裏面デポが発生してしまう。そのため、ノッチ部Nの開口領域直下を覆うように、突出部15を設けることが有効となり、ノッチ部Nからの原料ソースガスの流入を抑制して裏面デポの発生を抑制することができる。
【0045】
ここで、後者の場合にサセプタ1が満たすべき幾何学的条件は、上記の式(1)の条件に加えて、環状底面部14の幅がノッチ部Nの深さd1よりも小さいことから、(r1−d1)<r4であることが必要である。また、ノッチ部Nの開口領域直下を覆うように、突出部15を設けることが有効であることから、r5≦(r1−d1)の関係を満たすことが望ましい。以上から、下記の式(2)を満足させることにより、ノッチ部Nからの原料ソースガスの流入を抑制して裏面デポの発生を抑制することができる。
r5≦(r1−d1)<r4 (2)
【0046】
このように、下部座ぐり部13の内周壁面の一部に下部座ぐり部13の内周壁面よりも内側に突出部15を設けることにより、上部座ぐり部12の環状底面部14の幅がノッチ部Nの深さd1より小さい場合はもちろん、上部座ぐり部12の環状底面部14の幅がノッチ部Nの深さd1以上であり、突出部15がノッチ部Nの直下を覆わない場合であっても、ノッチ部Nを介した原料ソースガスのウェーハ裏面への回り込みが抑制され、ウェーハ裏面上のノッチN周辺における裏面デポの発生を抑制することができる。
【0047】
また、本発明のサセプタ1において、下部座ぐり部13の底面に、サセプタ1の裏面側に貫通する貫通孔が複数箇所設けられていることが好ましい。即ち、ウェーハWをサセプタ1上に載置する場合、ウェーハは一旦、昇降リフトピン(図示せず)上に載せられ、リフトピンを下降させることにより、サセプタ1の座ぐり部11内に載置されるが、リフトピンを下降させた際、ウェーハWとサセプタ1との間に存在するガスが速やかに抜けず、ウェーハWが載置される位置がずれ易い問題がある。本発明では、突出部15とノッチ部Nを正確に位置合わせして、ウェーハWを載置する必要がある。そこで、下部座ぐり部13の底面に、サセプタ1の裏面側に貫通する貫通孔が複数箇所設けることにより、サセプタ1の環状底面部14にウェーハWをローディングする際に、サセプタ1とウェーハWとの間のガスがサセプタ1の裏面側に排出され、ウェーハWを所定の位置に正確に載置することができるようになる。
【0048】
図7は、本発明によるサセプタ1を適用した気相成長装置2を示している。この気相成長装置2は、気密性を保持するためのアッパーライナー21およびローワーライナー22とを備え、アッパードーム23、ローワードーム24によってエピタキシャル成長炉が区画されている。このエピタキシャル成長炉の内部にウェーハWを水平に載置するためのサセプタ1が設けられている。大口径のエピタキシャルウェーハを製造する場合には、この図に示したような、枚葉式の気相成長装置を用いるのが一般的である。
【0049】
この気相成長装置2を用いてエピタキシャルウェーハの製造を行うには、まず、ウェーハWをサセプタ1の環状底面部14に載置する。このとき、ウェーハWの周縁部に形成されたノッチ部Nと、サセプタ1に設けられた突出部15が重なるように配置することが肝要である。ここで、図5に示したような突出部15がノッチ部Nの直下を覆わない場合には、ウェーハ中心からノッチ部Nを結ぶ直線上に突出部15を配置すればよい。
次いで、加熱機構によってウェーハWを所定の温度まで加熱し、このサセプタ1を、ローターによって回転させながら原料ソースガスであるシリコンソースガスをサセプタ1の上面に沿って水平方向に供給して、ウェーハW上に所定の厚さを有するエピタキシャル膜を成長させることにより、エピタキシャルウェーハを製造することができる。
【0050】
ここで、ウェーハWの周縁部に形成されたノッチ部Nと、サセプタ1に設けられた突出部15が重なるように配置されているため、ウェーハの周縁部に設けられたノッチ部から下部座ぐり部内に流入する原料ソースガスの流入を抑制することができ、ノッチ部近傍における裏面デポが抑制され、ひいてはノッチ部の周辺領域においても高い平坦性を有するエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【実施例1】
【0051】
(発明例1)
以下、本発明の実施例について説明する。
図5に示したサセプタ1、即ち、環状底面部14の幅が、ノッチ部Nの深さd1以上であるサセプタ1を用いて、エピタキシャルウェーハを製造した。ここで、サセプタ1は、カーボン基材の表面にSiCコートしたものを用いた。また、エピタキシャルウェーハの基板としては、ボロンドープされた直径300mmのシリコンウェーハWを用いた。このシリコンウェーハWの周縁部は面取り加工が施されており、面取り部の幅d2は300μmとした。また、シリコンウェーハWの製品除外領域の幅は2mmとした。シリコンウェーハWをサセプタ1上に載置した際、ウェーハWの外周端から下部座ぐり部13の内周壁位置までの距離は1.5mm、ウェーハ外周端から突出部15先端までの距離は2.5mmであった。
エピタキシャルウェーハの製造は以下のように行った。即ち、まず、サセプタ1が適用された気相成長装置2において、原料ソースガスであるトリクロロシランガスを温度1150℃にて供給し、サセプタ1の表面に対してシリコンコートを施した。次いで、シリコンウェーハWを気相成長装置2内に導入し、サセプタ1の上部座ぐり部12上に載置した。その際、ウェーハ中心からノッチ部Nを結ぶ直線上に突出部15を配置した。続いて、1150℃にて、水素ガスを供給し、水素ベークを行った後、1150℃にて、シリコンのエピタキシャル膜を4μm成長させてエピタキシャルウェーハを得た。ここで、原料ソースガスとしてはトリクロロシランガスを用い、また、ドーパントガスとしてジボランガス、キャリアガスとして水素ガスを用いた。
【0052】
(比較例1)
発明例1と同様に、エピタキシャルウェーハを製造した。ただし、サセプタとしては、突出部15が設けられていない従来のサセプタ100を使用した。それ以外の条件は、全て発明例1と全て同じである。
【0053】
(エピタキシャルウェーハの平坦度の評価)
上記のように製造した発明例および比較例のエピタキシャルウェーハの平坦度を評価した。その際、各エピタキシャルウェーハ上の各位置における厚さを測定し、SFQR(Site Front least sQares Range)を求めることにより評価した。SFQRは、ウェーハWの局所的な平坦度を示す指標である。具体的には、ウェーハWの各位置における基準面からの最大変位量の絶対値の和を算出することにより求められる。得られた結果を図8に示す。ここで、(a)は比較例1、(b)は発明例1のエピタキシャルウェーハについてのSFQRであり、各SFQRの値は、ノッチ部Nが下に配置されたウェーハの各位置に対応している。
【0054】
図8(a)に示したように、突出部が設けられていない従来のサセプタ100を用いた場合には、ノッチNの位置におけるSFQRの値は105nmと非常に高く、ノッチNの周辺領域におけるウェーハWの平坦度が低いことを示している。これに対して、図8(b)に示したように、本発明によるサセプタ1を用いた場合には、ノッチNの位置におけるSFQRの値は29nmへと大きく低減している。このことから、ノッチ部Nの周辺領域において、裏面デポが抑制され、エピタキシャルウェーハの高い平坦度がノッチNの周辺領域を含めて得られていることが分かる。
このように、本発明によるサセプタを用いることにより、ウェーハ周縁部に形成されたノッチ部から原料ソースガスのウェーハ裏面への回り込みを効果的に抑制することができ、ウェーハ裏面のノッチ部周辺領域におけるエピタキシャル膜の成長を抑制して高い平坦度を有するエピタキシャルウェーハを得ることができることが分かる。
【実施例2】
【0055】
(発明例2)
実施例1と同様に、エピタキシャルウェーハを製造した。ただし、サセプタ1としては、図6に示したサセプタ1、即ち、環状底面部14の幅が、ノッチ部Nの深さd1より小さいサセプタ1を用いた。また、シリコンウェーハWの製品除外領域の幅は1mmとした。シリコンウェーハWをサセプタ1上に載置した際、ウェーハWの外周端から下部座ぐり部13の内周壁位置までの距離は0.5mm、ウェーハ外周端から突出部15先端までの距離は1.5mmであった。
【0056】
(比較例2)
発明例2と同様に、エピタキシャルウェーハを製造した。ただし、サセプタとしては、突出部15が設けられていない従来のサセプタ100を使用した。それ以外の条件は、全て発明例1と全て同じである。
【0057】
(エピタキシャルウェーハの平坦度の評価)
実施例1の場合と同様に、発明例2および比較例2の場合において、各エピタキシャルウェーハ上の各位置における厚さを測定し、SFQRを求めることにより、エピタキシャルウェーハの平坦度を評価した。得られた結果を図9に示す。ここで、(a)は比較例2、(b)は発明例2に対するSFQRであり、各SFQRの値は、ノッチ部Nが下に配置されたウェーハの各位置に対応している。
【0058】
実施例1の場合と同様に、突出部が設けられていない従来のサセプタ100を用いた場合には、図9(a)に示したように、ノッチNの位置におけるSFQRの値は172nmと非常に高く、ノッチNの周辺領域におけるウェーハWの平坦度が低いことを示している。これに対して、本発明によるサセプタ1を用いた場合には、図9(b)に示したように、ノッチNの位置におけるSFQRの値は94nmへと大きく低減している。このことから、ノッチ部Nの周辺領域において、裏面デポが抑制され、エピタキシャルウェーハの高い平坦度がノッチNの周辺領域を含めて得られていることが分かる。
【符号の説明】
【0059】
1 本発明によるサセプタ
2 気相成長装置
11 座ぐり部
12 上部座ぐり部
13 下部座ぐり部
14 環状底面部
15 突出部
21 アッパーライナー
22 ローワーライナー
23 アッパードーム
24 ローワードーム
100 従来のサセプタ
W ウェーハ
N ノッチ
E 面取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャル成長装置内でウェーハを載置するためのサセプタであって、
上面にウェーハが載置される円形凹状の座ぐり部が形成され、
前記座ぐり部は、前記ウェーハの裏面周縁部を支持する上部座ぐり部と、前記上部座ぐり部よりも中心側下段に形成された下部座ぐり部とを有する二段の座ぐり部で構成され、
前記上部座ぐり部の環状底面部に前記ウェーハを載置して前記エピタキャル装置内に原料ソースガスを供給した際、前記ウェーハの周縁部に設けられたノッチ部から前記下部座ぐり部内に流入する前記原料ソースガスの流入を抑制する、
前記下部座ぐり部の内周壁面の一部に前記下部座ぐり部の内周壁面よりも内側に突出する突出部が設けられている
ことを特徴とするサセプタ。
【請求項2】
前記ウェーハの中心を前記サセプタの中心と一致させて前記サセプタ上に前記ウェーハを載置して上面視した際、
前記上部座ぐりの環状底面部および前記突出部は、予め前記ウェーハに設定される製品保証領域と製品除外領域との境界ラインよりも前記ウェーハの径方向外側に位置することを特徴とする請求項1記載のサセプタ。
【請求項3】
前記ウェーハの半径をr1とし、
前記ウェーハに設定された前記境界ラインの半径をr2とし、
前記境界ラインのうち前記ノッチ部に対応する境界ラインの最小半径をr3とし、
前記下部座ぐり部の内周壁の半径をr4とし、
前記サセプタの中心から前記突出部先端までの距離をr5としたとき、
下記の関係式(A)を満足することを特徴とする請求項2に記載のサセプタ。
r2<r4<r1 かつ r3<r5 (A)
【請求項4】
前記ノッチ部の深さをd1としたとき、
下記の関係式(B)を満足することを特徴とする請求項3に記載のサセプタ。
r5≦(r1−d1)<r4 (B)
【請求項5】
前記上部座ぐりの環状底面部は、該環状底面部の中心に向けて下向きに傾斜させた傾斜面であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のサセプタ。
【請求項6】
前記下部座ぐり部の底面に、前記サセプタの裏面側に貫通する貫通孔が複数箇所設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のサセプタ。
【請求項7】
前記サセプタの表面がシリコン膜で被覆されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のサセプタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のサセプタ上に、ノッチ部の位置を前記突出部の位置に対応させてウェーハを載置した状態で、前記ウェーハ表面にエピタキシャル膜を形成することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項9】
前記エピタキシャル膜はシリコンエピタキシャル膜であり、前記サセプタ上に前記ウェーハを載置する前に、前記サセプタ表面をシリコン膜で被覆しておくことを特徴とする請求項8記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のサセプタを有するエピタキシャル成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−51290(P2013−51290A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187823(P2011−187823)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】