説明

シームレスベルトおよびその製造方法

【課題】 ポリアミド酸の加熱製膜工程を短時間で効率よく行い、かつカーボンブラックなどの導電性フィラーを多量に含有させた場合でも良好な可撓性を有するシームレスベルトを提供すること。
【解決手段】 ポリマー5〜30重量%と溶剤95〜70重量%とからなるポリアミド酸ワニスを用いて作製されるシームレスベルトにおいて、前記溶剤が、第1成分として沸点が200℃未満の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の10〜70重量%と、第2成分として沸点が200℃以上の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の90〜30重量%とを含有する混合溶剤であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、複写機、レーザビームプリンター、ファクシミリ及びこれらの複合装置などの電子写真式画像形成装置に用いられるシームレスベルトに関し、特には定着用、感光体基体用、中間転写用、紙搬送用及び転写定着用等に使用されるシームレスベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真式画像形成装置においては、一般的に、帯電させた感光体の表面に、画像読取装置で得られた画像に対応する静電潜像を形成し、現像器によってトナー画像とした後、シームレスベルトからなる中間転写体に静電転写(一次転写)し、中間転写体から紙等へ再度転写(二次転写)して定着ロールまたは定着ベルトで加熱定着される。このとき、中間転写体だけではなく、感光体や転写を兼ねた定着等にもシームレスベルトの使用が検討されている。
【0003】
従来より、こうしたシームレスベルトの材料としては、成形性が良いこと、軽量であること等の理由からプラスチック材料が使用され、このプラスチック材料としては、耐熱性、機械的強度、耐環境特性に優れることから、ポリイミド系樹脂を使用したポリイミドベルトが検討されている。また、静電的な転写方式に用いられるベルト材料に要求される特性としては、表面抵抗値が10〜1013Ω・cm程度の、いわゆる中抵抗を有することが挙げられる。一般には、こうした特性を確保するために、ポリイミド樹脂中にカーボンブラックなどの導電性フィラーを含有せしめる手法が用いられている(例えば特許文献1または2参照)。
【特許文献1】特開平5‐77252号公報
【特許文献2】特開平10‐63115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂中に存在するカーボンブラックなどの導電性フィラーは、樹脂の可撓性を著しく低下させ、このようなベルトを装置中に組み込んだ場合、半導電性ベルトの寿命の短命化につながるおそれがある。すなわち、ベルトのクラック発生などの部品破損が生じるまでの期間が短くなり、電子写真方式の画像形成装置における、ベルト交換等のメンテナンスの手間とランニングコストを押し上げる結果につながる。
【0005】
また、こうした可撓性をなるべく落とさないように、ポリアミド酸の加熱製膜工程を十分な温度と時間で加熱処理する方法などが工夫されているが、生産時間が長くなり成膜の均一性を確保することが難しいという問題があり、シームレスベルトの生産効率の面からも望ましくない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ポリアミド酸の加熱製膜工程を短時間で効率よく行い、かつカーボンブラックなどの導電性フィラーを多量に含有させた場合でも良好な可撓性を有するシームレスベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すシームレスベルトおよびその製造方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、ポリマー5〜30重量%と溶剤95〜70重量%とからなるポリアミド酸ワニスを用いて作製されるシームレスベルトの製造方法において、前記溶剤が、第1成分として沸点が200℃未満の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の10〜70重量%と、第2成分として沸点が200℃以上の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の90〜30重量%とを含有する混合溶剤であることを特徴とする。
【0009】
本発明は、ポリイミドベルトにおける可撓性低下の原因が、加熱イミド化時のポリアミド酸ワニスに含まれる溶剤蒸発によるものであり、成膜時の溶剤除去工程において溶剤蒸発率を制御することにより、シームレスベルトの可撓性を向上することができることを見出したものである。また、溶剤の成分についても、1つの溶剤のみを使用する場合よりも異なる沸点を有する複数の成分からなり所定の範囲の混合比によって作製された混合溶媒が、シームレスベルトの可撓性向上に有用であることを見出したものである。具体的には、ポリアミド酸ワニスを構成する溶剤の複数の成分を、沸点200℃を基準に2つに分け、上記範囲の比率で混合することによって、ポリアミド酸の加熱製膜工程を短時間で効率よく行い、かつカーボンブラックなどの導電性フィラーを多量に含有させた場合でも良好な可撓性を有するシームレスベルトを提供することが可能となった。
【0010】
本発明は、ポリマー5〜30重量%と溶剤95〜70重量%とからなるポリアミド酸ワニスを用いて作製されるシームレスベルトの製造方法において、前記溶剤が、第1成分として沸点が200℃未満の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の10〜70重量%と、第2成分として沸点が200℃以上の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物と沸点が200℃以上の複素環式第3級アミン類または沸点が200℃以上の塩基性有機化合物系触媒の合計量が90〜30重量%とを含有する混合溶剤であることを特徴とする。
【0011】
上記のように、溶剤の成分を調整し成膜時の溶剤除去工程において溶剤蒸発率を制御することにより、良好な可撓性を有するシームレスベルトの作製が可能となる。本発明は、さらに、溶剤に添加するイミド化促進剤についても高沸点のイミド化促進剤を所定量混合することによって、一層効果的にイミド化を促進するとともに、合せて有効に可撓性の向上を図ることができる。従って、ポリアミド酸の加熱製膜工程を短時間で効率よく行い、優れた特性のシームレスベルトの製造方法を提供することが可能となった。
【0012】
本発明は、ポリイミド樹脂を主成分としてなる上記のシームレスベルトの製造方法であって、ポリイミド樹脂がポリイミド前駆体である前記ポリアミド酸ワニスを150℃以上で加熱して溶媒を90%以上蒸発させた後、さらに200℃を越えて加熱することによりイミド転化して得られたものであることを特徴とする。
【0013】
本発明は、成膜時の溶剤除去工程において、溶剤蒸発率に大きく関与する加熱温度を制御することにより可撓性を向上することを見出したものである。つまり、沸点の異なる複数の成分から構成される溶剤を用い、加熱温度を段階的に変更して溶剤の蒸散およびイミド化を行うことによって、ポリアミド酸の加熱製膜工程を短時間で効率よく行い、かつ優れた可撓性を有するシームレスベルトを作製することが可能となった。特に、イミド化促進剤を添加した場合にあっては、高温処理段階において高沸点のイミド化促進剤の機能を有効に生かすことが可能となり、一層効果的にイミド化を促進することができる。
【0014】
本発明は、上記のシームレスベルトの製造方法であって、ベルトの耐折強さが200回以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の製造方法によって作製されたことを特徴とするシートベルトである。さらには、ベルトの耐折強さが200回以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明において作製されたベルトは優れた可撓性を有し、特にその指標である耐折強さを所定値以上有するベルトは、転写方式等に用いられるベルト材料に要求される機械的な強度・弾性を満たし、かつ可撓性に優れたシームレスベルトおよびその製造方法を提供することができる。なお、「ベルトの耐折強さ」の値は、後述する〔実施例〕<評価方法>に記載する測定方法に基づく測定値による。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明のシームレスベルトによると、ポリアミド酸の加熱製膜工程を短時間で効率よく行うことができ、かつカーボンブラックを多量に含有させた場合でも良好な可撓性を有するシームレスベルトを提供できる。このため、低コストのベルトで長寿命化が実現可能となり、かつベルトの交換等のメンテナンスの手間とランニングコストをも低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明のシームレスベルトは、ポリイミド樹脂を主成分としてなるシームレスベルトであって、前記ポリイミド樹脂は、ポリマー5〜30重量%と溶剤95〜70重量%とからなるポリアミド酸ワニスを用い、イミド転化して得られたものである。
【0020】
ここで、ポリアミド酸ワニスを形成する溶剤が、第1成分として沸点が200℃未満の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の10〜70重量%と、第2成分として沸点が200℃以上の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の90〜30重量%とを含有する混合溶剤であることが好適である。
【0021】
加熱イミド化の温度である200℃を基準に溶剤の成分構成を調整することによって、成膜時の溶剤除去工程における溶剤蒸発率を効率的に制御することが可能となる。また、200℃未満の沸点を有する溶剤と200℃以上の沸点を有する溶剤との混合溶剤において前者の混合溶剤に対する比率が10重量%を下回る場合には、イミド化段階でのポリアミド酸ワニス中の溶剤成分が過剰となり、可撓性はよくなるがベルトの強度が低下する場合がある。逆に、70重量%を超える場合には、イミド化段階でのポリアミド酸ワニス中の溶剤成分が不足し、可撓性の低下および脆性の増大を生じる可能性がある。特に、導電性フィラーを多量に含有させた場合には、こうした溶剤の成分構成を調整することにより、良好な可撓性を有するシームレスベルトを作製することが可能となった。
【0022】
重合反応させる際の溶媒としては、上記したテトラカルボン酸二無水物とジアミンを適宜用いうるが、沸点が200℃以上の非プロトン性溶剤としてγ−ブチルラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、テトラメチレンスルホン等が挙げられる。
【0023】
沸点が200℃未満の非プロトン性溶剤としては、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0024】
また、イミド化促進剤として、沸点が200℃以上の複素環式第3級アミン類または沸点が200℃以上の塩基性有機化合物系触媒を含有することが好ましい。
【0025】
沸点が200℃以上の複素環式第3級アミン類としては、例えばイミダゾール、フェニルイミダゾールおよびベンズイミダゾールなどを挙げることができる。沸点が200℃以上の塩基性有機化合物系触媒としては、例えばキノリンやイソキノリンなどが挙げられる。
【0026】
このとき、前記溶剤が、第1成分として沸点が200℃未満の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の10〜70重量%と、第2成分として沸点が200℃以上の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物と沸点が200℃以上の複素環式第3級アミン類または沸点が200℃以上の塩基性有機化合物系触媒の合計量が90〜30重量%とを含有する混合溶剤であることが好適である。
【0027】
溶剤にイミド化促進剤を添加する場合についても、上記のように、溶剤の成分を調整し成膜時の溶剤除去工程において溶剤蒸発率を制御することにより、良好な可撓性を有するシームレスベルトの作製を図るもので、溶剤調整の基準となる沸点および2つの成分の混合比率についても、同様の数値範囲およびその有効性を確保することができる。
【0028】
前記ポリイミド樹脂を生成するためのポリアミド酸溶液は、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンまたは脂肪族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させることにより調製することができる。
【0029】
ここで.ポリイミド系樹脂の原料液となるポリアミド酸溶液としては、例えばテトラカルボン酸二無水物やその誘導体とジアミンを溶媒中で重合反応させてなるポリアミド酸の溶液が使用可能である。
【0030】
前記ポリアミド酸はテトラカルボン酸二無水物あるいはその誘導体とジアミンの略等モルを有機溶媒中で反応させることにより得られるもので、通常、溶液状で用いられる。このようなテトラカルボン酸二無水物は、例えば下記の一般式(1)で示される。
[式1]

(式中、Rは4価の有機基であり、芳香族、脂肪族、環状脂肪族、芳香族と脂肪族を組み合せたもの、またはそれらの置換された基である。)
【0031】
前記したテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0032】
一方、ジアミンの例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロへキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ピペラジン
N(CHO(CHO(CH)NH
N(CHS(CHNH
N(CHN(CH(CHNH
等が挙げられる。
【0033】
また、芳香族ジアミンとしては、例えば4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−トルイレンジアミン、p−トルイレンジアミン、ベンチジン、1,5−ジアミノナフタレンなどが挙げられる。
【0034】
さらに、脂肪族ジアミンとしては、例えばヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピル、テトラメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチル−ヘプタビス−(3−アミノプロポキシメタン)、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシン,4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)などが挙げられる。
【0035】
上記のテトラカルボン酸二無水物(a)とジアミン(b)とを有機極性溶媒中で反応させることによりポリアミド酸が得られる。その際のモノマー濃度(溶媒中における(a)+(b)の濃度)は、種々の条件に応じて設定されるが、5〜30重量%が好ましい。また、反応温度は80℃以下に設定することが好ましく、特に好ましくは5〜50℃であり、反応時間は0.5〜10時間である。このようにして酸二無水物成分とジアミン成分とを有機極性溶媒中で反応させることによりポリアミド酸が生成し、その反応の進行に伴い溶液粘度が上昇する。本発明ではこの現象を利用して、導電性フィラーを含有するポリアミド酸溶液のB型粘度計における25℃の粘度を1〜1000Pa・sに調整することができる。また、前記モノマー濃度による調整も可能である。
【0036】
また、フィルム表面の滑性を良くするためにシリカ、アルミナ、リン酸カルシウム等のフィラーを混合できる。
【0037】
また、導電性を出すためにケッチェンブラックやアセチレンブラック等のカーボンブラック、アルミニウムやニッケルのような金属、酸化チタンや酸化錫のような酸化金属化合物、チタン酸カリウム等の導電性粉末、あるいはポリアニリンやポリアセチレンのような導電性ポリマー等の適宜なものの1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
本発明に用いるカーボンブラックは、平均粒子径が5〜100nmであり、好ましくは10〜70nmであり、より好ましくは15〜60nmである。平均粒子径が5nm未満のものは、実質的に入手することが困難であり、平均粒子径が100nmを越える場合、該カーボンブラックを含有したポリイミド樹脂組成物の表面粗さ、機械的強度及び電気抵抗制御性等の観点から実用上満足できるものが得られ難いからである。
【0039】
前記平均粒子径は、電子顕微鏡などで測定された一次粒子径に基づく平均粒子径を示す。また、前記カーボンブラックは、粒子表面にポリマーをグラフト化させたり、絶縁材を被覆したりすることで電気抵抗を制御してもよく、カーボンブラック粒子表面に酸化処理を施してもよい。
【0040】
本発明に用いるカーボンブラックとしては、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。具体的には、ファーネスブラックとして、デグサ・ヒュルス社製の「Special Black 550」、「Special Black 350」、「Special Black 250」、「Special Black 100」、「Printex 35」、「Printex 25」、三菱化学社製の「MA 7」、「MA 77」、「MA 8」、「MA 11」、「MA 100」、「MA 100R」、「MA 220」、「MA 230」、キャボット社製、「MONARCH 1300」、「MONARCH 1100」、「MONARCH 1000」、「MONARCH 900」、「MONARCH 880」、「MONARCH 800」、「MONARCH 700」、「MOGUL L」、「REGAL 400R」、「VULCAN XC−72R」等が挙げられ、チャンネルブラックとしてデグサ・ヒュルス社製の「Color Black FW200」、「Color Black FW2」、「Color Black FW2V」、「Color Black FW1」、「Color Black FW18」、「Special Black 6」、「Color Black S170」、「Color Black S160」、「Special Black 5」、「Special Black 4」、「Special Black 4A」、「Printex 150T」、「Printex U」、「Printex V」、「Printex 140U」、「Printex 140V」等が挙げられ、単独及び複数種類のカーボンブラックを併用してもよい。
【0041】
本発明の目的の範囲内で、カーボンブラックの分散性を高めるため高分子材料、界面活性剤、無機塩害の分散安定化剤を用いることもできる。
【0042】
次に、半導電性ポリアミド酸溶液を調製するためには、有機極性溶媒中にジアミンと酸二無水物を溶解し、重合反応後得られたポリアミド酸溶液中に該カーボンブラック分散液を添加し混合・攪拌する方法、該カーボンブラック分散液中にジアミン及び酸二無水物を溶解し、重合反応する方法等が挙げられるが、カーボンブラックの分散性を均一にするためには、後者の方法が好ましい。
【0043】
半導電性ポリアミド酸溶液は、ディスペンサーにより鏡面仕上げした円筒状金型の内周面に塗布される。内面に塗布された溶液は遠心成形の高速回転により、脱泡、レベリングされ厚みが均一で精度の良い樹脂層が得られる。回転数は、金型径にもよるが、通常500〜2000rpm、好ましくは、800〜1500回転である。
【0044】
金属製金型内で回転成形により、均一な塗膜とされた半導電ポリアミド醗ワニスは、金型内でゆっくり回転されながら乾燥される。
【0045】
このとき加熱温度は、150℃以上であり、160〜200℃が好ましく、170〜190℃がより好ましい。150℃を下回る場合には、ポリアミド酸溶液中の溶媒がゆっくり蒸発するために十分な加熱時間が必要となり加熱時間短縮が行えず生産性の向上ができない。また、200℃を超える場合には、ポリアミド酸ワニスの粘度が著しく低下し、溶剤蒸発により膜面内の厚みムラやハジキが発生するため、十分な寸法安定性が得られない。
【0046】
この段階での加熱で、溶媒を80%以上より好ましくは90%以上蒸発させた後、更に200℃を越えて加熱することによりイミド転化する。通常、この時の加熱温度は上記溶媒蒸発温度以上から450℃以下、好ましくは250〜400℃、加熱時間は10〜60分である。冷却後、金型より離型され目的の半導電性シームレスベルトが得られる。
【0047】
得られた半導電性シームレスベルトについては、その機能を確認するために表面抵抗率などの所定の特性を測定する。特に、本発明においては、可撓性の評価が重要であり、ベルトの耐折強さが200回以上であることが好適ある。200回を下回る場合には、装置中に組み込んだ際、半導電性ベルトが短命となり保守の煩雑さを招くおそれがある。200回以上の耐折強さを有するベルトは、転写方式等に用いられるベルト材料に要求される機械的な強度・弾性を満たし、かつ可撓性に優れたシームレスベルトといえる。ここでいう「ベルトの耐折強さ」は、以下の<評価方法>の測定方法に基づくものである。
【実施例】
【0048】
以下、具体的実施例により本発明をさらに説明する。また、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。なお、本発明がかかる実施例、評価方法に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0049】
<評価方法>
(1)耐折強さ
JIS P8110に準じて、試験片(全長110mm/幅15mm)が破断するまでの往復折り曲げ回数を測定した。
【0050】
<実施例1>
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1800g中にカーボンブラック(MA100、三菱化学社製、ファーネスブラック、一次粒子に基づく平均粒子径22nm)200gをボールミルで12時間室温で攪拌することにより分散した後、#400ステンレスメッシュでろ過しカーボン濃度10%のカーボン分散液を得た。このカーボン液1923.39gを5000mLの4つ口フラスコに移し、N−メチル−2−ピロリドン1000gとN,N−ジメチルアセトアミド1040.13gの混合溶剤とp−フェニレンジアミン227.09g(2.1モル)を仕込み、常温で攪拌させながら溶解した。次いで、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物617.86(2.1モル)を添加し、温度20℃で1時間反応させた後、75℃で20時間加熱しながら攪拌することにより、B型粘度計による溶液粘度が160Pa・sのカーボンブラック含有ポリイミド前駆体溶液(固形分濃度20wt%、カーボンブラックの添加量樹脂に対して25部)を得た。このカーボンブラック含有ポリイミド前駆体溶液を半導電性シームレスベルト形成用ワニスとした。次に、回転成形機にて1500rpmで10分間回転させて均一厚の展開層としたのち、50rpmで回転させながら該金属製円筒状金型の外側より180℃の熱風吹き付け溶剤蒸発率90%になるまで行った。次に380℃まで昇温加熱処理して、溶媒の除去とイミド化を完結させた。その後、冷却、金型より剥離して、75μmの半導電シームレスベルトを得た。
【0051】
<実施例2>
実施例1での混合溶剤をN−メチル−2−ピロリドン1000gとN,N−ジメチルアセトアミド949.41g、2−フェニルイミダゾール90.72gとした以外は、実施例1と同じ方法で75μmの半導電シームレスベルトを得た。
【0052】
<比較例1>
実施例1での混合溶剤をN−メチル−2−ピロリドン単独の溶剤とした以外は実施例1と同じ方法で75μmの半導電シームレスベルトを得た。
【0053】
<比較例2>
実施例1での混合溶剤をN,N−ジメチルアセトアミド単独の溶剤とした以外は実施例1と同じ方法で75μmの半導電シームレスベルトを得た。
【0054】
<比較例3>
実施例1で行った回転乾燥工程に要した時間で130℃の回転乾燥工程を行った以外は実施例1と同じ方法で75μmの半導電シームレスベルトを得た。
【0055】
<評価結果>
上記試料を評価した結果、表1の通りとなった。
【0056】
【表1】

表1に示すように、実施例1および2は耐屈曲性に優れることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー5〜30重量%と溶剤95〜70重量%とからなるポリアミド酸ワニスを用いて作製されるシームレスベルトの製造方法において、前記溶剤が、第1成分として沸点が200℃未満の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の10〜70重量%と、第2成分として沸点が200℃以上の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の90〜30重量%とを含有する混合溶剤であることを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【請求項2】
ポリマー5〜30重量%と溶剤95〜70重量%とからなるポリアミド酸ワニスを用いて作製されるシームレスベルトの製造方法において、前記溶剤が、第1成分として沸点が200℃未満の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物の10〜70重量%と、第2成分として沸点が200℃以上の非プロトン性溶剤から選ばれる少なくとも1種の化合物と沸点が200℃以上の複素環式第3級アミン類または沸点が200℃以上の塩基性有機化合物系触媒の合計量が90〜30重量%とを含有する混合溶剤であることを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【請求項3】
ポリイミド樹脂を主成分としてなるシームレスベルトの製造方法であって、ポリイミド樹脂がポリイミド前駆体である前記ポリアミド酸ワニスを150℃以上で加熱して溶媒を90%以上蒸発させた後、さらに200℃を越えて加熱することによりイミド転化して得られたものであることを特徴とする請求項1または2記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項4】
ベルトの耐折強さが200回以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載された製造方法によって作製されたことを特徴とするシームレスベルト。
【請求項6】
ベルトの耐折強さが200回以上であることを特徴とする請求項5記載のシームレスベルト。

【公開番号】特開2006−272839(P2006−272839A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98025(P2005−98025)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】