説明

スキャンクロック分配システム及び半導体集積回路装置

【課題】 従来技術のマルチクロックドメインを有するLSIのスキャンクロック分配システムではLSIテスタ装置から外部端子を介しクロックドメイン毎にスキャンクロック信号を供給する構成でありLSIテスタ装置が発生する信号間のスキューにより正確な遷移遅延故障テストが不可能である。
【解決手段】 外部端子から供給するスキャンクロック信号を一本化し、マルチドメインに供給する通常動作モード時のクロック信号の根源となるノード(以下、「ルートノード」と言う)と、スキャンモードのスキャンクロック信号のルートノードを共通の分岐点とすると共に、クロックドメイン毎にスキャンクロック信号を分周する分周比をスキャンモードに応じ切り替える分周器を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSIテスト容易化手法であるスキャンテスト方式を敷設したスキャンクロック分配方法及びシステムに関し、特に同一のクロックにより動作する回路の範囲を定義するクロックドメインが複数個だけ存在する態様(以下「マルチクロックドメイン」と言う)によるスキャンクロック分配方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のLSIの大規模化や高集積化に伴い、テスト品質の向上を目的としたLSIテスト容易化手法の重要性が益している。 LSIテスタ装置による故障検出率の向上は、製品の品質に直接的に関わることから、故障検出率の向上が重要課題となっている。 信号の変化がフリップフロップ間のパス上を規定時間内に伝わらない故障、すなわち遅延故障(Delay Fault)の検出率の向上が、特に重要課題である。
【0003】
また、LSIの大規模化は搭載する機能の複雑化を招いており、それに伴うテストの難易度や製品出荷テストコストの増加を回避するために設けられた付加回路やテスト専用端子などのオーバヘッドを最小化できる効率的なテスト設計手法が望まれる。
【0004】
そこで、先の遅延故障をテストする手法として、スキャンテスト方式を利用した遷移遅延故障(Transition Delay Fault)テストがあり、以下に説明する。 図1、即ち1はスキャンクロック分配システムを示し、LSIテスト容易化手法であるスキャンテスト方式に準拠して敷設されたスキャンクロック分配の典型的な構成例を示している。
【0005】
更に、この構成例ではマルチクロックドメインを有し、且つクロックドメイン毎に異なるクロック周波数で動作する。 30、31、32はCTS(Clock Tree Synthesis)バッファであり、クロックツリー合成により各クロックドメインに帰属する同期回路へ分配されるクロック信号のスキューを最小限に抑えたクロックツリーを構成するバッファ郡を表します。
【0006】
10、11、12は、各々が2分の1、4分の1、8分の1の分周器を示し、同一のクロック信号を源泉として位相同期が取られた分周信号を出力する。 2はPLL(Phase Locked Loop)回路を示し、本回路が発振するクロック信号が分周器10、11、12の各々に共通するクロック信号の源泉となる。
【0007】
なお、N1はノードを示し、特にPLL回路2が発信するクロック信号を分周器10、11、12の各々へ分配する分岐点をも表します。
【0008】
20、21、22は通常動作モードとスキャンモードとで切り替えられるセレクタであり、分周器20、21、22の各々の後段に配置される。 SMはスキャンモード信号、SC0、SC1、SC2はLSI外部から供給されるスキャンクロック信号を示す。
【0009】
スキャンモード信号SMがLowのときにスキャンクロック分配システム1は通常動作モードに入り、分周器10、11、12の各々が出力する分周信号を選択的にCSTバッファ30、31、32の各々へ入力する。 他方、スキャンモード信号SMがHighのときにはスキャンモードに入り、スキャンクロック信号SC0、SC1、SC2の各々を選択的にCSTバッファ30、31、32の各々へ入力する。
【0010】
このように、通常動作モードとスキャンモードとの間でクロック信号の供給源が異なるが、クロック信号をクロックドメインの末端にある同期回路へ分配するための基幹経路であるクロックツリー及びCTSバッファを共有化する構成を有する。
【0011】
なお、N10、N11、N12、並びにN20、N21、N22はノードを示し、特にセレクタ20、21、22の各々の入力端子の直前を表します。
【0012】
40、41、42はスキャンフリップフロップ(以下「スキャンFF」とも言う)を示し、各々が異なるクロックドメインに帰属する同期回路であり、具体的にはCTSバッファ30、31、32の各々が分配するクロック信号により同期が取られる。
【0013】
また、N30、N31、N32はノードを示し、特にスキャンFF40、41、42のクロック入力端子の直前を表します。
【0014】
従来の技術に拠れば、マルチクロックドメインを有するLSIのスキャンクロック分配システムにおけるスキャンクロック信号は、クロックドメイン毎に異なる外部端子から供給されていた。
【0015】
ここで更に、図1に示したスキャンクロック分配システム1の構成の説明を付け加えておく。 TMはテストモード信号、SIはスキャンイン入力信号、SOはスキャンアウト出力信号を示す。
【0016】
スキャンFF40、41、42は、セレクタを介してデータが入力されるD型フリップフロップにより構成され、このセレクタはスキャンシフトモードとスキャンキャプチャシフトモードとに切り替えられる。
【0017】
50、51、52、59は、スキャンモードにおける被テスト対象である組合せ回路、70、71はインバータ、60、61はロックアップラッチを示す。 ロックアップラッチ60、61は、スキャンFF40、41、42から成るスキャンクチェインの各々の合間に挿入され、且つこの態様を更に詳述するならば、マルチクロックドメインにおいて異なるクロックドメインに帰属する二つのスキャンFFの合間に挿入される。
【0018】
また、N40、N41、N42はノードを示し、特にスキャンFF40、41、42のデータ出力端子の直後を表します。 同様に、N50、N51、N52、N59もノードを示し、特に組合せ回路50、51、52、59のデータ出力端子の直後を表します。
【0019】
スキャンモード信号SMがHigh、即ちスキャンモードに入り、且つテストモード信号TMがHighのときにスキャンクロック分配システム1はスキャンシフトモードに入り、スキャンFF40、41、42で構成されたスキャンクチェインによるシフトレジスタ動作、即ちスキャンシフト動作を行う。
【0020】
他方、スキャンモード(スキャンモード信号SMがHigh)、且つテストモード信号TMがLowのときにはスキャンキャプチャモードに入り、そしてスキャンFF40、41、42はノードN59、N50、N51に現れている組合せ回路59、50、51の各々の出力信号をノードN40、N41、N42へと同期出力する、いわゆるラウンチ(Launch)動作を行い、更に続けてスキャンFF41、42は、先の同期出力によりノードN40、N41に現れた出力信号に基づき、ノードN50、N51に現れる組合せ回路50、51の演算結果としての出力信号を、スキャンFF41、42のそれ自身にラッチする、いわゆるキャプチャ(Capture)動作を行う。 なお、これら動作はタイミングチャートを用いて詳細を後述する。
【0021】
図2は、図1のスキャンクロック分配システム1が通常動作モード(SM=“Low”、且つTM=“Low”)にある場合のタイミングチャートを示す。
【0022】
PLL回路2が発振出力するクロック信号は周期Tを有し、各分周器10、11、12へ分配され、且つ分周された後にノードN10、N11、N12へ達する。 このとき、各分周信号は周期2T、4T、8Tを有し、且つ分岐点であるノードN1を基点に遅延時間tDV0、tDV1、tDV2を要する。 更に各分周信号は、クロックツリーを構成するCTSバッファ30、31、32を介してマルチクロックドメインの各同期回路(この例においては、各スキャンFF40、41、42に相当する)へ分配され、末端のノードN30、N31、N32へ達する。 このとき、ノードN10、N11、N12の各々を基点に遅延時間tCTS0、tCTS1、tCTS2を要する。
【0023】
このように、マルチクロックドメインを構成する各クロックドメイン末端にある同期回路であるスキャンFF40、41、42へのクロック分配は、ノードN1を基点に各々が固定の遅延時間でクロックが到達する態様、即ち位相同期が取れたLSI設計が成される。
【0024】
具体的なデータ授受の同期動作として、先ずスキャンFF40はクロックエッジ2Aを基点にノードN59に現れた信号をキャプチャし、且つ遅延時間tFF0を経て組合せ回路50へラウンチする。 次に、組合せ回路50は遅延時間tCM0を経てノードN50、即ち次段のスキャンFF41へデータを送る。 そこで、スキャンFF41はセットアップ時間マージンtSETUPを確保しつつ、クロックエッジ2Bに拠りデータをキャプチャし、これで一連のラウンチ(Launch)動作及びキャプチャ(Capture)動作が完了する。 なお、クロックエッジ2Aの次のクロックエッジに依るデータの遷移及び伝播は、スキャンFF41に対するクロックエッジ2Bのホールド時間マージンtHOLDも確保され得るようにLSI設計が成される。
【0025】
また、スキャンFF42にとってのクロックエッジ2Bとクロックエッジ2Cとの関係は、先のスキャンFF41のクロックエッジ2Aとクロックエッジ2Bとの関係に等しい。 ここで、遅延時間tFF1はスキャンFF42のクロックエッジ2Bに対しデータをラウンチする時間であり、遅延時間tCM1は組合せ回路51の伝播時間である。 なお、セレクタ20、21、22は同一の回路を用い、従って同一の遅延時間を有するので、クロックドメイン間の相対的な位相同期の関係が崩れることはない。 そこでセレクタ20、21、22の遅延時間は、図1に関わるタイミングチャート上において零として省略する。
【0026】
他方、図3はスキャンモード(SM=“High”)、且つスキャンキャプチャモード(TM=“Low”)にある場合、すなわちスキャンキャプチャモードにあるタイミングチャートを示す。 特に、LSI外部から供給されるスキャンクロック信号SC0、SC1、SC2は信号間の位相同期が取られた理想状態を前提としている。
【0027】
そして、各スキャンクロック信号SC0、SC1、SC2は周期2T、4T、8Tを有し、且つ各々のLSI外部から供給される外部端子を基点に遅延時間tSC0、tSC1、tSC2を要して、ノードN20、N21、N22へ達する。 この後、各スキャンクロック信号は、通常動作モードと同様に、CTSバッファ30、31、32を介してマルチクロックドメインの各スキャンFF40、41、42へ分配され、末端のノードN30、N31、N32へ達する。
【0028】
このとき、ノードN20、N21、N22の各々を基点とするノードN30、N31、N32までの遅延時間は、セレクタ20、21、22を共有しているため、先のノードN10、N11、N12を基点とする遅延時間tCTS0、tCTS1、tCTS2と等値となる。 更に、ノードN1からノードN10、N11、N12までの遅延時間tDV0、tDV1、tDV2の相対的な関係と、遅延時間tSC0、tSC1、tSC2の相対的な関係とが、等価となるようにLSI設計へ反映させることができたと仮定するならば、図2におけるスキャンFF41のクロックエッジ2Aとクロックエッジ2Bとの関係は、図3におけるスキャンFF41のクロックエッジ3Aとクロックエッジ3Bとの関係に、セットアップ時間マージン及びホールド時間マージンなどの動作余裕度時間の関係において等価となる。 同様に、図2におけるスキャンFF42のクロックエッジ2Bとクロックエッジ2Cとの関係は、図3におけるスキャンFF42のクロックエッジ3Bとクロックエッジ3Cとの関係に等価となる。
【0029】
具体的なデータ授受の同期動作として、先ずスキャンFF40はクロックエッジ3Aを基点にノードN59に現れた信号をキャプチャし、且つ遅延時間tFF0を経て組合せ回路50へラウンチする。 次に、組合せ回路50は遅延時間tCM0を経てノードN50、即ち次段のスキャンFF41へデータを送る。 そこで、スキャンFF41はセットアップ時間マージンtSETUPを確保しつつ、クロックエッジ3Bに拠りデータをキャプチャし、これで一連のラウンチ(Launch)動作及びキャプチャ(Capture)動作が完了する。 なお、クロックエッジ3Aの次のクロックエッジに依るデータの遷移及び伝播は、スキャンFF41に対するクロックエッジ3Bのホールド時間マージンtHOLDも確保される。 また、スキャンFF42にとってのクロックエッジ3Bとクロックエッジ3Cとの関係は、先のスキャンFF41のクロックエッジ3Aとクロックエッジ3Bとの関係に等しい。 ここで、遅延時間tFF1はスキャンFF42のクロックエッジ3Bに対しデータをラウンチする時間であり、遅延時間tCM1は組合せ回路51の伝播時間である。
【0030】
このように図3においては、フリップフロップ間のパス上を信号変化が伝わる時間、すなわち遅延時間tCM0や遅延時間tCM1が規定の時間内に伝播し、正常なラウンチ動作とキャプチャ動作が行われている。 つまり、製品として遷移遅延故障を起こしていない正常なLSIであるとテスト判定できる。 これら一連のテストが、すなわちスキャンテスト方式を利用した遷移遅延故障テストである。
【0031】
この他の従来技術として、マルチクロックドメインを有するLSIのテスト方法に係る特許文献1及び2がある。
【特許文献1】特開2003−270301号公報(図1、図17)
【特許文献1】特開2005−026335号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
しかしながら上述したような従来技術のマルチクロックドメインを有するLSIのスキャンクロック分配システムでは製品出荷テストにおけるスキャンクロック信号はLSIテスタ装置から外部端子を介して供給しており、クロックドメイン毎のスキャンFFに供給されるスキャンクロック信号の間のスキューはLSIテスタ装置が発生する信号間のスキュー精度に制限される課題がある。
【0033】
図4に示すタイミングチャートを用いて更に本課題を説明する。 図4は図3と同様にスキャンモード(SM=“High”)、且つスキャンキャプチャモード(TM=“Low”)にある場合、すなわちスキャンキャプチャモードにあるタイミングチャートを示す。 そこで、LSIテスタ装置から供給されるスキャンクロック信号SC1はSC0に対し位相がLSIテスタ装置スキュー時間tSKEWだけ遅れた位相を有している。 なおスキャンクロック信号SC2はSC1と位相同期が取れた状態にある。
【0034】
そして図3と同様に、各スキャンクロック信号SC0、SC1、SC2は周期2T、4T、8Tを有し、且つ各々のLSI外部から供給される外部端子を基点に遅延時間tSC0、tSC1、tSC2を要して、ノードN20、N21、N22へ達する。 この後、各スキャンクロック信号は、通常動作モードと同様に、CTSバッファ30、31、32を介してマルチクロックドメインの各スキャンFF40、41、42へ分配され、末端のノードN30、N31、N32へ達する。
【0035】
しかしながら、図4におけるノードN30とN31との位相差(図4におけるスキャンFF41のクロックエッジ4Aとクロックエッジ4Bとの関係)は、図3における末端のノードN30とN31との位相差(図3におけるスキャンFF41のクロックエッジ3Aとクロックエッジ3Bとの関係)に、スキャンクロック信号SC0とSC1とのLSIテスタ装置スキュー時間tSKEWを更に加算した関係になる。 その結果、図4の状態にあるスキャンFF41のホールド時間は、図3の状態にあるスキャンFF41のホールド時間よりも位相差tSKEWだけ短くなり、ホールド時間マージンtHOLDを満足できない状態に陥る。
【0036】
なお、図4の状態にあるスキャンFF41のセットアップ時間は、ホールド時間の現象とは逆に、図3の状態にあるスキャンFF41のセットアップ時間よりも位相差tSKEWだけ長くなり、セットアップ時間マージンtHOLDが更に余裕を益した状態に成る。
【0037】
図4の状態にあるスキャンFF41はクロックエッジ4Bにおけるホール時間マージンtHOLDを満足できず、次段のスキャンFF42へ誤ったデータを伝播させてしまい、期待する正常なキャプチャ動作を行えなかったという出荷テスト判定の結果を得ることになる。 すなわち、製品として遷移遅延故障を起こしていない正常なLSIであるにもかかわらず、LSIテスタ装置が発生する信号間のスキューが存在することに因って、遅延故障を起こしたLSIとして誤った出荷テスト判定の結果を得ると言う問題が発生する。 近年の半導体の微細化に伴うLSIの高速化は、この問題を助長する傾向にある。 すなわち、LSIテスタ装置が発生する信号間スキューの分解能の向上よりも、LSI内部で適用されるクロックドメインの高速化に伴うクロック周期の短縮が、上回る傾向である。
【0038】
なお、このクロックドメイン毎のスキャンFFに供給されるスキャンクロック信号の間のスキューがもたらす問題が、スキャンシフトモードにもたらす影響を更に述べておく。 すならち、先に述べたロックアップラッチ60、61は、マルチクロックドメインにおいて異なるクロックドメインに帰属し且つスキャンチェインを構成するスキャンFF40、41、42の合間に挿入することによって、先のスキューに依らず正常なスキャンシフト動作を保証する。 言い換えれば、新たに設けられた付加回路と言うオーバヘッドを許容することによって先のスキューの影響を回避している。
【0039】
そこで、ロックアップラッチ60、61の動作を説明することにより、先のスキューの影響を回避できることを示しておく。 ロックアップラッチ60、61の各々は、インバータ、70、71が出力するクロック信号がHighでアクティブ状態となりノードN40、N41に現れているデータ信号を出力へ透過し、先のクロック信号がLowに遷移した瞬間に直前のノードN40、N41に現れているデータ信号をラッチし且つ先のクロック信号がLowである間はそのデータ信号を保持し続ける。
【0040】
図4で示したように、スキャンクロック信号SC1がSC0に対し位相がLSIテスタ装置スキュー時間tSKEWだけ遅れた状態を想定し、ロックアップラッチ60とスキャンFF40、41に着目してスキャンシフト動作を説明する。 ノードN30に現れるクロック信号、すなわちスキャンFF40に入力するクロック信号がHighに遷移した瞬間に、スキャンFF40は直前のスキャンイン入力信号SIを取り込み保持すると共に出力する。 このとき同時に、ロックアップラッチ60は直前のノードN40に現れているデータ信号をラッチし保持すると共に出力する。
【0041】
他方、スキャンFF41に入力されるノードN31に現れるクロック信号は、スキャンクロック信号SC0がスキャンFF40に到達する時間に対し、その到達時間差である {(tSC1+tCTS1)−(tSC0+tCTS0)} に対し更にLSIテスタ装置スキュー時間SKEWだけ遅れてHighに遷移する。 このとき、ロックアップ60は、先に述べたスキャンFF40がスキャンイン入力信号SIを取り込み保持し且つノードN40に出力する以前に、ノードN40に現れていたデータ信号を保持し出力しており、且つこの保持状態をノードN30に現れるクロック信号がHigh状態である間中は維持し続ける。 従って、先に述べたスキャンFF41に入力されるノードN31に現れるクロック信号の遅れが生じたとしても、先に述べたスキャンFF40がスキャンイン入力信号SIを取り込み保持し且つノードN40に出力する以前に、ノードN40に現れていたデータ信号を正常に取り込み保持すると共に出力することができる。
【課題を解決するための手段】
【0042】
上記課題を解決するために、通常動作モード時にマルチクロックドメインへ供給するクロック信号のルートノードへ、スキャンモード時にスキャンクロック信号を供給するスキャンクロック分配システムにおいて、クロックドメインへ供給するスキャンクロック信号を分周する分周比をスキャンモードに応じ切り替える分周器を備えたことを特徴としている。
【0043】
本発明のスキャンクロック分配システムにおいて、分周比を切り替えた前後で遅延時間が等しい前記分周器を備えたことを特徴とする。
【0044】
本発明のスキャンクロック分配システムにおいて、スキャンシフトモード時に前記分周器の分周比をクロックドメイン間で等しくすることを特徴としている。
【0045】
本発明のスキャンクロック分配システムにおいて、通常動作モード時とスキャンキャプチャモード時における前記分周器の分周比の各クロックドメイン間の相対的な比率が同じで、且つ通常動作モード時よりもスキャンキャプチャモード時の分周比が小さいことを特徴としている。
【発明の効果】
【0046】
本発明により、外部端子からLSIテスタ装置で供給するスキャンクロック信号に関し、LSIテスタ装置が発生する信号間のスキューの影響を排除することが可能なマルチクロックドメインを有するLSIのスキャンクロック分配システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下では、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略する。
【0048】
実施の形態1.
図5、即ち101はスキャンクロック分配システムを示し、本発明の実施の形態1からなるLSIテスト容易化手法であるスキャンテスト方式に準拠して敷設されたスキャンクロック分配の構成を示す。 ノードN13、N14、N15以降に示されたスキャンFF、組合せ回路の接続関係は図1で示したものと同一である。 但し、ロックアップラッチ60、61及びインバータ70、71は削除され、従ってスキャンFF40、41、42から成るスキャンクチェインは図1に示したスキャンチェイン列と順番を同一としつつロックアップラッチを含まない構成を成している。 なおロックアップラッチが不要となる理由は本発明に因る効果であり、後述する。
【0049】
2はクロック発生源であるPLL回路、10は2分の1の分周器、SMはスキャンモード信号を示し、何れも図1で示したものと同一である。 23は通常動作モードとスキャンモードで切り替えられるセレクタ、SCKはLSI外部から供給される唯一のスキャンクロック信号を示す。 スキャンクロック信号SCKとPLL回路2が発振するクロック信号は、各々がノードN23、N2を介してセレクタ23に入力されノードN3へ出力される。 111、112は分周比切替付き分周器であり、後に図6、8で各々の構成を、図7、9で動作を説明する。 なおノードN3は、スキャンクロック信号SCKまたはとPLL回路2のクロック信号が分岐し、2分の1分周器10、分周比切替付き分周器111、112の各々へ分配される分岐点でもある。
【0050】
そこで、図6を用いて分周比切替付き分周器111の構成を説明する。 206、207はフリップフロップ回路であり、202のNAND回路や203の反一致回路を介したシフトレジスタ構成を基本とする。 同様に、図8は分周比切替付き分周器112の構成を示し、306、307、308はフリップフロップ回路であり、302のNAND回路、303の反一致回路、304のAND回路や305の一致回路を介したシフトレジスタ構成を基本とする。 なお、201、301は否定回路であり、分周比切替え信号が入力される。
【0051】
図7を用いて分周比切替付き分周器111の動作を説明する。 分周比切替え信号がLowのとき、分周比切替付き分周器111の分周クロック出力信号は、クロック入力信号に対し4分の1に分周された信号となる。 そして、フリップフロップ回路206、207が共にLowを出力している状態、すなわちリセット状態から動作を開始すれば、クロック入力信号の最初の立ち上がりエッジに対し、4分の1分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力する同期状態が得られる。 他方、分周比切替え信号がHighのとき、分周比切替付き分周器111の分周クロック出力信号は、クロック入力信号に対し2分の1に分周された信号となる。 フリップフロップ回路206、207が共にLowを出力している状態から動作を開始すれば、クロック入力信号の最初の立ち上がりエッジに対し、2分の1分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力する位相同期状態が得られる。 分周比切替え信号の状態に依存しない共通の特性、すなわち分周クロック出力信号が4分の1分周であろうと2分の1分周であろうと、クロック入力信号に対し分周クロック出力信号が変化するまでの遅延は、最終段のフリップフロップ回路207の遅延時間tFF7により決定されることである。
【0052】
同様に、図9を用いて分周比切替付き分周器112の動作を説明する。 分周比切替え信号がLowのとき、分周比切替付き分周器112の分周クロック出力信号は、クロック入力信号に対し8分の1に分周された信号となる。 そして、フリップフロップ回路306、307、308が共にLowを出力している状態、すなわちリセット状態から動作を開始すれば、クロック入力信号の最初の立ち上がりエッジに対し、8分の1分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力する同期状態が得られる。 他方、分周比切替え信号がHighのとき、分周比切替付き分周器112の分周クロック出力信号は、クロック入力信号に対し2分の1に分周された信号となる。 フリップフロップ回路306、307、308が共にLowを出力している状態から動作を開始すれば、クロック入力信号の最初の立ち上がりエッジに対し、2分の1分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力する位相同期状態が得られる。 分周比切替え信号の状態に依存しない共通の特性、すなわち分周クロック出力信号が8分の1分周であろうと2分の1分周であろうと、クロック入力信号に対し分周クロック出力信号が変化するまでの遅延は、最終段のフリップフロップ回路308の遅延時間tFF8により決定されることである。
【0053】
そこで更に、図5における分周比切替付き分周器111、112に関わる構成の説明を追加する。 分周器111、112の各々のクロック入力信号はノードN3から分岐されたクロック信号を入力し、分周比切替え信号はスキャンモード信号SMを入力する構成であり、また出力された分周クロック出力信号は各々がノードN14、N15を介しCTSバッファ31、32へ入力される構成である。 セレクタ23の遅延時間は、図1に関わるタイミングチャート上において適用したように、零として省略する。
【0054】
なお図示してはいないが、フリップフロップ回路206、207、306、307、308を共に且つ同時にリセットするための信号を各々に供給する回路を設けてもよい。 そのリセット信号は、また更に2分の1分周器10へも供給することにより、全てのクロックドメインを一括にリセット状態にすると共に、ノードN3に供給されたクロック信号の最初の立ち上がりエッジに対し、各々のクロックドメインへ供給される分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力するようなスキャンクロック分配システム101の全体に亘る位相同期状態が得られる。
【0055】
次に、本発明の実施の形態1からなるスキャンクロック分配システム101の動作を説明する。 図10はスキャンクロック分配システム101が通常動作モード(SM=“Low”、且つTM=“Low”)にある場合のタイミングチャートを示す。
【0056】
PLL回路2が発振出力するクロック信号は周期Tを有し、2分の1分周器10及び分周比切替付き分周器111、112へ分配される。 このとき、分周比切替付き分周器111、112は、各々が分周比4分の1と分周比8分の1を有する分周器として働く。 従って、ノードN13、N14、N15へ達する分周信号は、各々が周期2T、4T、8Tを有し、且つ分岐点であるノードN3を基点に遅延時間tDV0、tDV3、tDV4を有する。 なお、遅延時間tDV3、tDV4は、各々が図7に示した遅延時間tFF7と図9に示した遅延時間tFF8に等しい。
【0057】
ノードN13、N14、N15以降の遅延時間は、図2で示したノードN10、N11、N12以降の遅延時間の関係と同一である。 スキャンFF40、41、42へのクロック分配がノードN3を基点に各々が固定の遅延時間でクロックが到達する態様、即ち位相同期が取れたLSI設計が成される。
【0058】
その結果、クロックエッジ2Aに対するクロックエッジ2Bとの関係は、クロックエッジ10Aに対するクロックエッジ10Bとの関係に等しくなる。 同様に、クロックエッジ2Bに対するクロックエッジ2Cとの関係は、クロックエッジ10Bに対するクロックエッジ10Cとの関係に等しくなる。
【0059】
図11はスキャンモード(SM=“High”)、且つスキャンキャプチャモード(TM=“Low”)にある場合、すなわちスキャンキャプチャモードにあるタイミングチャートを示す。
【0060】
唯一のスキャンクロック信号SCKは周期Tを有し、且つLSI外部から供給される外部端子を基点に遅延時間tSCKを要してノードN23へ、更にセレクタ23を介して分岐点であるノードN3に達した後に、2分の1分周器10及び分周比切替付き分周器111、112へ分配される。 このとき、分周比切替付き分周器111、112は、共に分周比2分の1を有する分周器として働き、ノードN13、N14、N15へ達する分周信号は全て周期2Tを有する。
【0061】
このように、マルチクロックドメインを有するLSIのスキャンクロック分配システムにおいて、外部端子からLSIテスタ装置で供給するスキャンクロック信号を唯一本に集約化することにより、LSIテスタ装置が発生する信号間のスキューがマルチドメイン毎のスキャンクロックの間に投影される態様、それ自体を排除できる。 これにより、スキャンクロック信号の間のスキューがスキャンシフトモードにもたらす影響を回避するために設ける必要があったロックアップラッチが不要となる。 また、テスト専用端子と設けられたスキャンクロック信号の外部入力端子を削減できるので、テストのオーバヘッドを最小化できる効率的なテスト設計手法と言える。
【0062】
図7及び9で説明したように、分周比切替付き分周器111、112は分周比切替え信号の状態に依存せずに、クロック入力信号に対し分周クロック出力信号が変化するまでの遅延時間が等しくなるような態様の造り込みを実現している。 これにより、ノードN3を基点とする末端のノードN30、N31、N32までに至るクロック信号の遅延時間並びに相対的な位相同期状態の関係は、分周比切替付き分周器111、112の分周比切替え信号、即ちスキャンモード信号SMに依存せず、延いては通常動作モードとスキャンキャプチャモードの何れの状態に在るかに関わらず等しくできる。
【0063】
図3のタイミングチャートを説明したときに述べたように、ノードN1からノードN10、N11、N12までの遅延時間tDV0、tDV1、tDV2の相対的な関係と、遅延時間tSC0、tSC1、tSC2の相対的な関係とが、等価となるようにLSI設計へ反映させることができる前提において従来技術は成立していたが、本発明に拠ればLSI設計において通常動作モードとスキャンキャプチャモードとの間で遅延時間を合わせ込む必要性がなくなる。
【0064】
今少し図11に示したタイミングチャートに追加の説明をすれば、先ずスキャンFF40はクロックエッジ11Aを基点にノードN59に現れた信号をキャプチャし、且つ遅延時間tFF0を経て組合せ回路50へラウンチする。 次に、組合せ回路50は遅延時間tCM0を経てノードN50、即ち次段のスキャンFF41へデータを送る。 そこで、スキャンFF41はセットアップ時間マージンtSETUPを確保しつつ、クロックエッジ11Bに拠りデータをキャプチャし、これで一連のラウンチ(Launch)動作及びキャプチャ(Capture)動作が完了する。 なお、クロックエッジ11Aの次のクロックエッジに依るデータの遷移及び伝播は、スキャンFF41に対するクロックエッジ11Bのホールド時間マージンtHOLDも確保される。 また、スキャンFF42にとってのクロックエッジ11Dとクロックエッジ11Eとの関係は、先のスキャンFF41のクロックエッジ11Aとクロックエッジ11Bとの関係に等しい。
【0065】
上述したスキャンFF40のラウンチ動作乃至スキャンFF41のキャプチャ動作の一連に必要なパタン数に関し、図10の通常動作モードと図11のスキャンキャプチャモードとを比較する。 図10において、クロックエッジ10B(キャプチャ動作のためのクロック)の1周期前のクロックエッジと位相同期を取る必要があるクロックエッジ10Aの1周期前のクロックエッジが第1基準点となり、クロックエッジ10Bと位相同期の関係にあるクロックエッジ10Aの1周期後のクロックエッジが第2基準点となる。 周期Tをパタン単位とすれば、この第1基準点乃至第2基準点のパタン数は4パタンである。 他方、図11において、クロックエッジ11B(キャプチャ動作のためのクロック)の1周期前のクロックエッジと位相同期を取る必要があるクロックエッジ11Aが第1基準点となり、クロックエッジ11Bと位相同期の関係にあるクロックエッジ11Aの1周期後のクロックエッジが第2基準点となる。 周期Tをパタン単位とすれば、この第1基準点乃至第2基準点のパタン数は2パタンである。 すなわち、スキャンキャプチャモードにおいて、異なるクロックドメイン間に供給するスキャンクロック信号の分周比を統一したことに因り、発生すべきパタン数を削減することが可能となる。 図5で示したスキャンクロック分配システムでは、通常動作モードにおいて最小の分周比を有する2分の1分周器10の分周比2に統一しており、つまり分周比切替付き分周器111、112はスキャンキャプチャモードにおいて分周比2に統一するようにスキャンモード信号SMにより制御されることになる。
【0066】
また図11においては、フリップフロップ間のパス上を信号変化が伝わる時間、すなわち遅延時間tCM0や遅延時間tCM1が規定の時間内に伝播し、正常なラウンチ動作とキャプチャ動作が行われている。 そこで更に、これら一連の遷移遅延故障テストが正常と判定される限界まで周期Tを狭めた時に得られる、スキャンFF40とFF41との間、並びにスキャンFF41とFF42との間のパス上を伝わる信号変化の時間が、即ち遅延時間tCM0並びに遅延時間tCM1に各々が全く等しくなる。
【0067】
以上のようにして、異なるクロックドメインに帰属するスキャンFFへ分配されるクロック信号の位相同期関係が、通常動作モードとスキャンキャプチャモードとの間で完全に一致させることができ、つまりスキャンテスト方式を利用した正確な遷移遅延故障テストが可能となる。
【0068】
実施の形態2.
図12、即ち201はスキャンクロック分配システムを示し、本発明の実施の形態2からなるLSIテスト容易化手法であるスキャンテスト方式に準拠して敷設されたスキャンクロック分配の構成を示す。
【0069】
43、45、46はスキャンFFを示し、スキャンFF45,46は同一のクロックドメインに帰属し、スキャンFF43のみ異なるクロックドメインに帰属する同期回路であり、具体的には前者はCTSバッファ35が、後者はCTSバッファ33が、分配するクロック信号により同期が取られる。 また、N33、N35はノードを示し、特に前者はスキャンFF43のクロック入力端子の直前を表し、後者はスキャンFF45、46のクロック入力端子の直前を表します。 TMはテストモード信号、SIはスキャンイン入力信号、SOはスキャンアウト出力信号を示す。 スキャンFF43、45、46は、セレクタを介してデータが入力されるD型フリップフロップにより構成され、このセレクタはスキャンシフトモードとスキャンキャプチャシフトモードとに切り替えられる。 53、55、56、58は、スキャンモードにおける被テスト対象である組合せ回路を示す。 また、N43、N45、N46はノードを示し、特にスキャンFF43、45、462のデータ出力端子の直後を表します。 同様に、N53、N54ノードを示し、特に組合せ回路53のデータ出力端子の直後を表し、N58は組合せ回路58のデータ出力端子の直後を表します。
【0070】
2はクロック発生源であるPLL回路、SMはスキャンモード信号を示し、何れも図1で示したものと同一である。 24は通常動作モードとスキャンモードで切り替えられるセレクタ、SCKはLSI外部から供給される唯一のスキャンクロック信号を示し、スキャンクロック信号SCKとPLL回路2が発振するクロック信号は、各々がノードN24、N4を介してセレクタ24に入力されノードN5へ出力される。 分周比切替付き分周器111は既に図6で構成を、図7で動作を説明した通りである。 113も分周比切替付き分周器であり、図13で構成を、図14、15で動作を説明する。 なおノードN5は、スキャンクロック信号SCKまたはとPLL回路2のクロック信号が分岐し、2分の1分周器10、分周比切替付き分周器111、112の各々へ分配される分岐点でもある。
【0071】
図13は分周比切替付き分周器113の構成を示し、406、407、408はフリップフロップ回路であり、402のNAND回路、403の反一致回路、404のAND回路や405の一致回路を介したシフトレジスタ構成を基本とする。 なお、401は否定回路、409はNAND回路であり、分周比切替え信号が入力される。
【0072】
そこで先ず、図14を用いて分周比切替付き分周器113の動作を説明する。 分周比切替え信号Bの信号に関わらず、分周比切替え信号AがLowのとき、分周比切替付き分周器113の分周クロック出力信号は、クロック入力信号に対し8分の1に分周された信号となる。 そして、フリップフロップ回路406、407、408が共にLowを出力している状態、すなわちリセット状態から動作を開始すれば、クロック入力信号の最初の立ち上がりエッジに対し、8分の1分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力する同期状態が得られる。 分周比切替え信号A、Bが共にHighのとき分周比切替付き分周器113の分周クロック出力信号は、クロック入力信号に対し2分の1に分周された信号となる。 同様に、フリップフロップ回路406、407、408が共にLowを出力している状態から動作を開始すれば、クロック入力信号の最初の立ち上がりエッジに対し、2分の1分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力する位相同期状態が得られる。 更に、図15において、分周比切替え信号AがHigh、且つ分周比切替え信号BがLowのとき、分周比切替付き分周器113の分周クロック出力信号は、クロック入力信号に対し4分の1に分周された信号となる。 同様に、フリップフロップ回路406、407、408が共にLowを出力している状態、すなわちリセット状態から動作を開始すれば、クロック入力信号の最初の立ち上がりエッジに対し、4分の1分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力する同期状態が得られる。 これら分周比切替え信号の状態に依存しない共通の特性、すなわち分周クロック出力信号が8分の1分周であろうと2分の1分周であろうと、また4分の1分周であろうと、クロック入力信号に対し分周クロック出力信号が変化するまでの遅延は、最終段のフリップフロップ回路408の遅延時間tFF8により決定されることである。
【0073】
そこで更に、図12における分周比切替付き分周器113、111に関わる構成の説明を追加する。 分周器113、111の各々のクロック入力信号はノードN5から分岐されたクロック信号を入力し、出力された分周クロック出力信号は各々がノードN16、N17を介しCTSバッファ33、35へ入力される構成である。 分周器111の分周比切替え信号はスキャンモード信号SMを入力し、分周器113の分周比切替え信号A、Bはスキャンモード信号SM及びテストモード信号TMの各々を入力する構成である。 なお、セレクタ24の遅延時間は、図1に関わるタイミングチャート上において適用したように、零として省略する。
【0074】
なお図示してはいないが、フリップフロップ回路406、407、408及び分周器111を構成するフリップフロップ回路206、207は共に且つ同時にリセットするための信号を各々に供給する回路を設けてもよい。 これにより、そのリセット信号は、全てのクロックドメインを一括にリセット状態にすると共に、ノードN5に供給されたクロック信号の最初の立ち上がりエッジに対し、各々のクロックドメインへ供給される分周クロック出力信号も立ち上りエッジを出力するようなスキャンクロック分配システム201の全体に亘る位相同期状態が得られる。
【0075】
次に、本発明の実施の形態2からなるスキャンクロック分配システム201の動作を説明する。 図16はスキャンクロック分配システム101が通常動作モード(SM=“Low”、且つTM=“Low”)にある場合のタイミングチャートを示す。
【0076】
PLL回路2が発振出力するクロック信号は周期Tを有し、分周比切替付き分周器113、111へ分配される。 このとき、分周比切替付き分周器113、111は、各々が分周比8分の1と分周比4分の1を有する分周器として働く。 従って、ノードN16、N17へ達する分周信号は、各々が周期8T、4Tを有し、且つ分岐点であるノードN5を基点に遅延時間tDV6、tDV7を有する。 なお、遅延時間tDV6、tDV7は、各々が図14に示した遅延時間tFF9と図7に示した遅延時間tFF7に等しい。 更に各分周信号は、クロックツリーを構成するCTSバッファ33、35を介してマルチクロックドメインの各同期回路へ分配され、末端のノードN33、N35へ達する。 このとき、ノードN16、N17の各々を基点に遅延時間tCTS3、tCTS4を要する。
【0077】
具体的なデータ授受の同期動作として、先ずスキャンFF43はクロックエッジ16Aを基点にノードN58に現れた信号をキャプチャし、且つ遅延時間tFF3を経て組合せ回路53へラウンチする。 次に、組合せ回路53は遅延時間tCM3を経てノードN53、即ち次段のスキャンFF45へデータを送ると共に、遅延時間tCM4を経てノードN54、即ち次段のスキャンFF46へデータを送る。 そこで、スキャンFF45はセットアップ時間マージンtSETUPを確保しつつクロックエッジ16Bに拠りデータをキャプチャする。 他方、スキャンFF46もセットアップ時間マージンtSETUPを確保しつつクロックエッジ16BBに拠りデータをキャプチャし、これで一連のラウンチ動作及びキャプチャ動作が完了する。
【0078】
他方、図17はスキャンモード(SM=“High”)、且つスキャンキャプチャモード(TM=“Low”)にある場合、すなわちスキャンキャプチャモードにあるタイミングチャートと、スキャンモード(SM=“High”)、且つスキャンキャプチャモード(TM=“High”)にある場合、すなわちスキャンシフトモードにあるタイミングチャートと両方を示している。
【0079】
先ず、スキャンキャプチャモードのタイミングチャート部分の動作を説明する。 唯一のスキャンクロック信号SCKは周期Tを有し、且つLSI外部から供給されてノードN24へ、更にセレクタ24を介して分岐点であるノードN5に達した後に、分周比切替付き分周器113、111へ分配される。 このとき、分周比切替付き分周器113、111は各々が分周比4分の1及び2分の1を有する分周器として働き、ノードN16、N17へ達する分周信号は各々が周期4T及び2Tを有する。
【0080】
具体的なデータ授受の同期動作として、先ずスキャンFF43はクロックエッジ17Aを基点にノードN58に現れた信号をキャプチャし、且つ遅延時間tFF3を経て組合せ回路53へラウンチする。 次に、組合せ回路53は遅延時間tCM3を経てノードN53、即ち次段のスキャンFF45へデータを送ると共に、遅延時間tCM4を経てノードN54、即ち次段のスキャンFF46へデータを送る。 そこで、スキャンFF45はセットアップ時間マージンtSETUPを確保しつつクロックエッジ17Bに拠りデータをキャプチャする。 他方、スキャンFF46もセットアップ時間マージンtSETUPを確保しつつクロックエッジ17BBに拠りデータをキャプチャする。
【0081】
これら一連のラウンチ動作及びキャプチャ動作は先に図16で示した一連の動作と全く相似であり、唯一に異なるものは要するパタン数である。 そこで、スキャンFF43のラウンチ動作乃至スキャンFF45のキャプチャ動作の一連に必要なパタン数に関し、図16の通常動作モードと図17のスキャンキャプチャモードとを比較する。 図16において、周期Tをパタン単位とすれば、クロックエッジ16A乃至クロックエッジ16Bのパタン数は4パタンである。 他方、図17において、周期Tをパタン単位とすれば、クロックエッジ17A乃至クロックエッジ17Bのパタン数は2パタンである。 すなわち、異なるクロックドメイン間に供給するスキャンクロック信号の分周比の相対的な比率の関係に関し、通常動作モードとスキャンキャプチャモードとの間で同一とし、且つ通常動作モードよりもスキャンキャプチャモードにおける分周比を小さくしたことに因り、発生すべきパタン数を削減することが可能となる
【0082】
次に、スキャンシフトモードのタイミングチャート部分の動作を説明する。 スキャンクロック信号SCKは周期Tを有し、分周比切替付き分周器113、111は共に分周比2分の1を有する分周器として働き、ノードN16、N17へ達する分周信号も共に周期2Tを有する。 従って、スキャンFF43、45、46の各々へ位相同期が取れ、且つ同一の周期を有するクロック信号が供給されることに因り、スキャンFF43、45、46の並びに順番に、且つ1クロック毎に各スキャンFFのデータをシフト動作できる。 更に説明を追加するならば、周期2Tを有し、且つ最小限のパタン数でシフト動作が可能となる。
【0083】
他の実施の形態.
さらに、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、既に述べた本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0084】
本発明に拠れば、異なるクロックドメインに帰属するスキャンFFへ分配されるクロック信号の位相同期関係が、通常動作モードとスキャンモード(スキャンキャプチャモード又は/およびスキャンシフトモードを含む)との間で完全に一致させることができ、つまりスキャンテスト方式を利用して通常動作モード時を忠実に再現した正確な遷移遅延故障テストが可能となる。
【0085】
マルチクロックドメインを有するLSIのスキャンクロック分配システムにおいて、外部端子からLSIテスタ装置で供給するスキャンクロック信号を唯一本に集約化することにより、LSIテスタ装置が発生する信号間のスキューがマルチドメイン毎のスキャンクロックの間に投影されることを排除すると共に、マルチドメインに供給する通常動作モード時のクロック信号の根源(Root)となるノード(以下、「ルートノード」と言う)と、スキャンモード(スキャンキャプチャモード又は/およびスキャンシフトモードを含む)のスキャンクロック信号のルートノード(すんわち、図5におけるノードN3、図12におけるN5)を通常動作モードとスキャンモードとの間で共通の分岐点としたことに因る。
【0086】
そこで他の発明の態様として、クロック信号のルートノードに対し通常動作モードとスキャンモードとの間で供給すべきクロック信号を切り替える観点から、このルートノードへ信号を供給する1つのLSI外部端子を設け、LSI外部から供給すべき通常動作モード時のクロック信号とスキャンクロック信号とを使い分ける態様を採用してもよい。
【0087】
また、図5に示すセレクタ23又は図12に示すセレクタ24を温存したままに図5のノードN2又は図12のノードN4へ信号供給する1つのLSI外部端子を設けて通常動作モード時のクロック信号を供給してもよい。 他方、図5、12共にLSI外部端子からスキャンクロック信号SCKを供給する態様としているが、スキャンクロック信号を自動発生する装置をLSI内部に設けて、図5のノードN23又は図12のノードN24へ供給する態様としてもよい。
【0088】
通常動作モードとスキャンモード(スキャンキャプチャモード又は/およびスキャンシフトモードを含む)との間で異なるクロックドメインに帰属するスキャンFFへ分配されるクロック信号の位相同期関係を完全に一致させるために、分周比切替付き分周器は分周比切替え信号の状態に依存せずに等しい遅延値を有する。
【0089】
実施の形態1や2は自然数且つ偶数の分周比に切り替えが可能なシフトレジスタ構成を基本とする態様を示しているが、奇数や分数の分周比であってもよい。 この場合に、複数の分周器をセレクタやマルチプレクサを用いて切り替える装置の態様としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】従来のスキャンクロック分配システムの構成図である。
【図2】従来のスキャンクロック分配システムの通常動作モードの動作を示すタイミングチャートである。
【図3】従来のスキャンクロック分配システムのスキャンキャプチャモードにおいてスキャンクロック信号間のスキューが零の場合の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】従来のスキャンクロック分配システムのスキャンキャプチャモードにおいてスキャンクロック信号間のスキューを有する零の場合の動作を示すタイミングチャートである。
【図5】発明の実施の形態1にかかるスキャンクロック分配システムの構成図である。
【図6】発明の実施の形態1にかかる分周比切替付き分周器の構成図である。
【図7】発明の実施の形態1にかかる分周比切替付き分周器の動作を示すタイミングチャートである。
【図8】発明の実施の形態1にかかる他の分周比切替付き分周器の構成図である。
【図9】発明の実施の形態1にかかる他の分周比切替付き分周器の動作を示すタイミングチャートである。
【図10】発明の実施の形態1にかかるスキャンクロック分配システムの通常動作モードの動作を示すタイミングチャートである。
【図11】発明の実施の形態1にかかるスキャンクロック分配システムのスキャンキャプチャモードの動作を示すタイミングチャートである。
【図12】発明の実施の形態2にかかるスキャンクロック分配システムの構成図である。
【図13】発明の実施の形態2にかかる分周比切替付き分周器の構成図である。
【図14】発明の実施の形態2にかかる分周比切替付き分周器の動作を示すタイミングチャートである。
【図15】発明の実施の形態2にかかる分周比切替付き分周器の動作を示す他のタイミングチャートである。
【図16】発明の実施の形態2にかかるスキャンクロック分配システムの通常動作モードの動作を示すタイミングチャートである。
【図17】発明の実施の形態2にかかるスキャンクロック分配システムのスキャンキャプチャモード及びスキャンシフトモードの動作を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0091】
1、101、201 スキャンクロック分配システム
2 PLL回路
10、11、12 分周器
20、21、22、23、24 セレクタ
30、31、32、33、35 CTSバッファ
40、41、42、43、45、46 スキャンFF
50、51、52、53、55、56、58、59 組合せ回路
60、61 ロックアップラッチ
70、71 インバータ
111、112、113 分周比切替付き分周器
SCK、SC0、SC1、SC2 スキャンクロック信号
SIN スキャンイン信号
SO スキャンアウト信号
SM スキャンモード信号
TM テスト信号
206、207、306、307、308.406、407、408 フリップフロップ回路
202、302、402、409 NAND回路
203、303、403 反一致回路
304、404、 AND回路
305、405 一致回路
201、301、401 否定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常動作モード時にマルチクロックドメインへ供給するクロック信号のルートノードへ、スキャンモード時にスキャンクロック信号を供給するスキャンクロック分配システムであって、クロックドメインへ供給するスキャンクロック信号を分周する分周比をスキャンモードに応じ切り替える分周器を備えたことを特徴とするスキャンクロック分配システム。
【請求項2】
分周比を切り替えた前後で遅延時間が等しい前記分周器を備えたことを特徴とする請求項1記載のスキャンクロック分配システム。
【請求項3】
スキャンシフトモード時に前記分周器の分周比をクロックドメイン間で等しくすることを特徴とする請求項1または2に記載の
スキャンクロック分配システム。
【請求項4】
通常動作モード時とスキャンキャプチャモード時における前記分周器の分周比の各クロックドメイン間の相対的な比率が同じで、且つ通常動作モード時よりもスキャンキャプチャモード時の分周比が小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の
スキャンクロック分配システム。
【請求項5】
通常動作モード時にマルチクロックドメインへ供給するクロック信号のルートノードへ、スキャンモード時にスキャンクロック信号を供給するスキャンクロック分配システムを備えた半導体集積回路装置であって、クロックドメインへ供給するスキャンクロック信号を分周する分周比をスキャンモードに応じ切り替える分周器を備えたことを特徴とする半導体集積回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−134100(P2008−134100A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319140(P2006−319140)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】