説明

スタビライザ装置

【課題】 消費動力を低減することができ、アクチュエータの小型化が可能なスタビライザ装置を提供する。
【解決手段】 コントローラ20は、操舵角センサ21で検出した操舵角と車速センサ22で検出した車速とに基づいて、走行車両に働く横加速度を推定演算して予測する。予測された横加速度に基づきFF制御にてモータ目標位置Stを演算する。モータ位置センサ23により検出した電動モータ19の現在位置Siとモータ目標位置Stとの偏差ΔSが不感帯の閾値eの範囲内となるように、電動モータ19の回転位置を制御する。これにより、コントローラ20は、車体が次の挙動を開始する前に可変剛性部4を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段を実現するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載され、車体のロール運動を抑制するのに好適なスタビライザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、コーナリング等の旋回走行時に車体の姿勢を安定させるためにスタビライザ装置を備えているものがある。昨今では従前から開発されている油圧式のスタビライザ装置の他に、搭載性に優れた電動式スタビライザ装置の開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の旋回走行時にローリング(ロール)が発生しようとすると、スタビライザ装置は車体側のロールを抑えるためにアクチュエータを駆動して第1,第2のスタビライザバー間の捩り剛性を高める制御を行う。しかし、従来技術のスタビライザ装置は、車両の挙動に応じて頻繁に制御を行う傾向があり、結果的に電力が過剰に消費され、消費動力が大きいという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、消費動力を低減することができ、アクチュエータの小型化が可能なスタビライザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、第1のスタビライザバーと、第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結しアクチュエータによってねじり剛性を調整する可変剛性部と、前記アクチュエータを制御する制御手段とからなり、前記制御手段は、車体が次の挙動を開始する前に前記可変剛性部を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段を有する構成としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、消費動力を低減することができ、アクチュエータの小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態によるスタビライザ装置が適用された車両を模式的に示す全体構成図である。
【図2】実施の形態によるスタビライザ装置の具体的構成を示す縦断面図である。
【図3】図1中のコントローラによる目標剛性制御手段を、電動モータの駆動制御処理として示す流れ図である。
【図4】第2の実施の形態によるコントローラの目標剛性制御手段を、電動モータの駆動制御処理として示す流れ図である。
【図5】第3の実施の形態によるコントローラの目標剛性制御手段を、電動モータの駆動制御処理として示す流れ図である。
【図6】第4の実施の形態によるコントローラの目標剛性制御手段を、フロント,リヤ側の電動モータの駆動制御処理として示す流れ図である。
【図7】第5の実施の形態によるコントローラの目標剛性制御手段を、フロント,リヤ側の電動モータの駆動制御処理として示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態によるスタビライザ装置を、4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照して説明する。
【0010】
図1ないし図3は本発明の第1の実施の形態を示している。図1はスタビライザ装置1を車両の前輪側と後輪側とに使用した場合の全体構成を示し、このスタビライザ装置1は、下記の構成を有することにより車両の横転防止、操縦安定性の向上、さらには乗り心地の向上を図るものである。即ち、車両が道路のコーナ部分等を旋回走行するような状態で、車両にロール方向の慣性力が作用した場合に、車両の前,後に設けられたスタビライザ装置1は、後述するコントローラ20からの制御信号に基づいてそれぞれ車両のロール運動(ローリング)を抑制するように動作し、これにより、車両の横転防止を図り、車両の操縦安定性や乗り心地を向上するための機能を実現する。
【0011】
スタビライザ装置1は、長さ方向の中央部分が車両を構成する車体側にブッシュを介して回転可能に取付けられ、図1に示すように、両端側が左,右の車輪側にそれぞれ接続(連結)されている。そして、スタビライザ装置1は、図1、図2に示すように、軸方向の一側に配置される第1のスタビライザバー2と、軸方向の他側に配置される第2のスタビライザバー3と、第1,第2のスタビライザバー2,3の間を連結し、スタビライザバー2,3間の捩り剛性を調整する可変剛性部4とを備えている。
【0012】
車体の左側に配設された第1のスタビライザバー2は柔軟性をもったばね鋼からなり、車体のレイアウト等に応じて図1に示す如く所望の形状に曲げられている。第1のスタビライザバー2の基端側は、可変剛性部4を介して第2のスタビライザバー3に連結され、先端側が左車輪側に接続されている。また、第1のスタビライザバー2の基端側には、ねじり剛性を持ってねじり運動を互いに伝達するための機構(以下、直動機構と記す)として作用するボールアンドランプ機構9に接続されている。
【0013】
第1のスタビライザバー2は、ボールアンドランプ機構9の一方端に機械的に接続され、第2のスタビライザバー3は、ボールアンドランプ機構9の他方端に機械的に接続されている。このボールアンドランプ機構9は、前記直動機構の一例であり、第1のプレート10と第2のプレート12と複数のボール14とを備えている。上記第1のプレート10と第2のプレート12には、付勢機構(コイルばね15)による推力が作用している。この推力により、前記ボール14は、前記第1のプレート10と第2のプレート12にそれぞれ形成されたランプ溝(ランプ11,13)に押付けられる。前記推力と前記溝の形状とに基づきトルク伝達係数が調整される。
【0014】
車体の右側に配設された第2のスタビライザバー3は、第1のスタビライザバー2とほぼ同様に、柔軟性をもったばね鋼からなり、図1に記載の如く第1のスタビライザバー2とほぼ対称形状をなすように曲げられている。第2のスタビライザバー3の基端側が可変剛性部4を介して第1のスタビライザバー2に連結され、先端側が右車輪側に接続されている。また、第2のスタビライザバー3の基端部は、後述するケーシング5のモータケース8と機械的に接続されている。
【0015】
第1のスタビライザバー2の基端側と第2のスタビライザバー3の基端側とは、軸線O−O上に配置され、車体側に対し軸線O−Oを中心にして図2の上,下方向に回動自在となるように支持されている。第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3との間を連結して設けられた可変剛性部4は、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を調整するものである。また、可変剛性部4は、ケーシング5、ボールアンドランプ機構9、コイルばね15、付勢力調整機構16を備えている。
【0016】
可変剛性部4の外形をなすケーシング5は、軸線O−Oに沿って軸方向に延びる円筒状の容器として形成されている。また、ケーシング5は、十分な剛性をもった金属材料等からなり、プレートケース6と蓋体7とモータケース8とを備えている。ケーシング5は、直動機構として作用するボールアンドランプ機構9や前記直動機構に推力を加える付勢機構(コイルばね15)を内部に収納するだけでなく、ケーシング5自身が、捩れ力すなわちトルクを伝えるための伝達部材として作用する。これにより、スタビライザ構造をシンプルにすることができる効果が生じる。なお、この実施の形態では、付勢機構は付勢力を発生するコイルばね15とコイルばね15の軸長を調整する直動変換機構とを備えている。直動変換機構は、保持手段を構成する雌ねじ17Cと雄ねじ18Bとを有している。
【0017】
一方、蓋体7は、段付円筒状をなし、筒部6Aの左端部を閉塞するように一体的に固着されている。また、蓋体7の内周側には、第1のスタビライザバー2の基端側を回転自在に支持するためのすべり軸受7Aが設けられている。
【0018】
プレートケース6の右側に設けられたモータケース8は、後述の電動モータ19を収容するもので、筒部8Aと底部8Bとにより有底筒状に形成されている。また、筒部8Aは、その開口側がプレートケース6の底部6B外周側に一体的に固着され、底部8Bの中心位置には、電動モータ19の固定軸19Bが回転不能に挿嵌される軸固定穴8Cが形成されている。そして、底部8Bの中心部は、第2のスタビライザバー3の基端部に一体的に接続され、これにより、ケーシング5は、第2のスタビライザバー3と一緒に、第1のスタビライザバー2に対して回動することができる。
【0019】
プレートケース6の左側寄りに収容された直動機構であるボールアンドランプ機構9は、第1のスタビライザバー2と、第2のスタビライザバー3と機械的に接続されたケーシング5との相対回転運動に応じて直動運動するものであり、具体的にはランプの形状により伝達係数を調整している。スタビライザ装置としては剛性特性が調整されたように作用する。上記相対回転位相差を直動運動に変換すると共に直線運動の軸方向に沿って付勢手段による推力を加えることで、上記直動運動による推力と付勢手段による推力とをバランスさせ、バランス位置により、伝達係数が定まる構成とする。上記直動機構として、具体的にはボールアンドランプ機構9を使用する。ボールアンドランプ機構9は、第1のプレート10と第2のプレート12および該各プレート10と12の間に設けられたボール14により大略構成されている。
【0020】
図2でプレートケース6内の左部に設けられた第1のプレート10は、軸線O−Oを中心とする厚肉な円板状に形成されている。そして、第1のプレート10は、その左端面の中心部が第1のスタビライザバー2の基端部に一体的に接続され、これにより、第1のプレート10は、第1のスタビライザバー2と一緒に第2のスタビライザバー3に対して回動することができる。また、第1のプレート10の右端面(表面)には、第1の傾斜部としての第1のランプ11が、複数個(例えば、3個)円周方向に延びて設けられている。
【0021】
ここで、各ランプ11は、円弧状に湾曲して形成されている。また、各ランプ11は、長さ方向の中央部が最深部となり、最深部から両端側に向けて所望の曲率で浅くなる傾斜部としての円弧状溝として形成されている。
【0022】
第1のプレート10の右側に対面して設けられた第2のプレート12は、第1のプレート10とほぼ同様に、軸線O−Oを中心とする厚肉な円板状に形成されている。ここで、第2のプレート12の外周面には、周方向にほぼ等間隔で3個の係合溝12Aが形成され、該各係合溝12Aは、プレートケース6の各突条6Dに係合している。これにより、第2のプレート12は、ケーシング5を介して第2のスタビライザバー3に回転不能に連結されている。
【0023】
また、第1のプレート10に対面する第2のプレート12の左端面(表面)には、第2の傾斜部としての第2のランプ13が複数個(例えば、3個)設けられている。この3個のランプ13は、第1のランプ11とほぼ同様に、円弧状に湾曲して形成され、長さ方向の中央部が最深部となり、この最深部から両端側に向けて浅くなる傾斜部としての円弧状溝として形成されている。この湾曲形状により、車両の乗り心地を調整することができる。
【0024】
捩れ角が小さい範囲ではばね定数を低くし、乗り心地に影響を与えないことが望まれ、捩れ角が大きい範囲ではばね定数を大きくし旋回時のロールを抑えることが望まれている。その要求を実現するため、捩れ角が小さい範囲には、ねじり力が発生しないよう曲率半径が大きい円弧状とし、捩れ角が大きい範囲に入ったら急激にトルクが立ち上がるように曲率半径を小さくするといった非線形特性を溝の形状により調整することができる。また、曲線と直線を組みあわせる等、所望の特性に合わせて溝のプロフィールを決めればよい。
【0025】
第1のプレート10と第2のプレート12とに挟まれた複数個(具体的には3個)のボール14は、第1のランプ11と第2のランプ13とに収められている。また、各ボール14は、各ランプ11と13との間に収められた状態で、各プレート10と12が当接しないような直径寸法をもった金属球等として形成されている。
【0026】
そして、このように構成されたボールアンドランプ機構9は、後述するコイルばね15の付勢力により、第1のプレート10と第2のプレート12とを押付けることにより、ボール14を各ランプ11,13の最深部に配置されるように、即ち各プレート10,12は最小の距離寸法となるように付勢される。これにより、常に、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とは初期角度(車が傾斜してない角度)になるように付勢される。
【0027】
一方、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3、ケーシング5とが軸線O−Oを中心に相対回転した場合には、第1のランプ11と第2のランプ13とが周方向に相対的に位置ずれするから、ボール14は、各ランプ11,13の端部側に移動する。これにより、各プレート10,12は、前記最小の距離寸法よりも各ランプ11,13からボール14が突出した分だけ大きな距離寸法をもって離間する。この場合、第2のランプ13を第1のランプ11に向け押付けているコイルばね15の付勢力を大きくすることにより、このときの捩り剛性を大きくすることができる。
【0028】
第2のプレート12の右側に位置してプレートケース6内に設けられた付勢機構としてのコイルばね15は、第2のプレート12の直線運動を抑制する方向に該プレート12を付勢するもので、第1のプレート10に向け第2のプレート12を押付ける押付力を発生する弾性部材により構成されている。弾性部材としてコイルばねを用いると一部材で済み、例えば皿ばねを用いる場合と比較して組立て性に優れる。
【0029】
コイルばね15の付勢力を調整するためにケーシング5内に設けられた付勢力調整機構16は、コイルばね15の伸縮方向に任意の大きさの初期荷重を付与する荷重付与部として構成されている。また、付勢力調整機構16は、プレートケース6内に設けられた後述のピストン17、ねじ部材18と、モータケース8内に設けられた電動モータ19とにより大略構成されている。ここで、電動モータ19はモータケース8内に収め、ボールアンドランプ機構9や付勢力調整機構16と軸方向に並べて配置しているが、それに限らず、軸方向長さに制約がある場合には、付勢力調整機構と並列に配置する構成としてもよい。
【0030】
第2のプレート12との間にコイルばね15を挟むように該プレート12に対向して設けられたピストン17は、本発明の構成要件をなす支持手段を構成し、段付筒状に形成されている。また、ピストン17には、大径なばね受部17Aの外周面に位置して、周方向にほぼ等間隔で3個の係合溝17Bが形成され、こられの係合溝17Bは、プレートケース6の各突条6Dに係合している。これにより、ピストン17は、ケーシング5に対し回転が規制された状態で軸方向に移動可能に連結されている。
【0031】
また、ピストン17の内周側には、例えば台形ねじからなる雌ねじ17Cが形成され、該雌ねじ17Cは、後述するねじ部材18の雄ねじ18Bと共に、後述の電動モータ19による回転運動をピストン17の直線運動に変換するねじ機構を構成している。ピストン17の雌ねじ17Cとねじ部材18の雄ねじ18Bとは、例えば台形ねじを用いて形成することにより、後述の電動モータ19に対する給電を停止した状態でも、ピストン17を任意の位置で摩擦力(保持力)により保持する保持手段を構成している。
【0032】
ピストン17の内周側に螺合して設けられたねじ部材18は、基端側の軸取付部18Aが後述する電動モータ19の出力軸19Cに取付けられている。また、ねじ部材18の外周側には、ピストン17の雌ねじ17Cに螺合する台形ねじからなる雄ねじ18Bが形成され、該雄ねじ18Bは、雌ねじ17Cと一緒にねじ機構を構成している。
【0033】
回転アクチュエータとしての電動モータ19がモータケース8内に設けられている。この電動モータ19は、固定子、回転子等(いずれも図示せず)を内蔵した本体部19Aと、該本体部19Aの右端部から突出し、モータケース8の軸固定穴8Cに回転不能に挿嵌された固定軸19Bと、前記本体部19Aの左端部から突出し、前記回転子に接続された出力軸19Cとにより大略構成されている。また、出力軸19Cは、プレートケース6の軸挿通孔6C内でねじ部材18の軸取付部18Aに一体回転するように挿嵌されている。
【0034】
このように構成された付勢力調整機構16は、コイルばね15の初期荷重を、第2のプレート12とピストン17のばね受部17Aとの間隔寸法Lx により決定する。この場合、電動モータ19によってねじ部材18を回転駆動し、ピストン17を第2のプレート12側に直線移動したときには、第2のプレート12とピストン17のばね受部17Aとの間隔寸法Lx が小さくなるので、コイルばね15の初期荷重を大荷重側に調整することができる。一方、電動モータ19によってねじ部材18を逆方向に回転駆動したときには、前記間隔寸法Lx を大きくすることにより、コイルばね15の初期荷重を小荷重側に調整することができる。
【0035】
従って、付勢力調整機構16は、電動モータ19によってねじ部材18を回転駆動し、コイルばね15の初期荷重を調整することにより、各スタビライザバー2,3間の捩れ角に対するトルク(即ち、捩り剛性)を、直進走行、コーナリング走行等の走行状態に応じて調整することができる。
【0036】
スタビライザ装置1の電動モータ19は、制御手段を構成するコントローラ20(図1参照)に電気的に接続され、該コントローラ20によって電動モータ19の出力回転が制御される。コントローラ20の入力側には、ハンドルの操舵角を検出する操舵角センサ21、車両の走行速度を検出する車速センサ22およびモータ位置センサ23等が接続され、出力側にはスタビライザ装置1のアクチュエータである電動モータ19が接続されている。
【0037】
ここで、コントローラ20は、ROM,RAMおよび不揮発性メモリ等からなる記憶部(図示せず)を有し、この記憶部内には図3に示す電動モータ19用の制御処理プログラム(目標剛性制御手段を構成)と、後述の不感帯に対応した閾値e等とが更新可能に格納されている。電動モータ19を制御するコントローラ20は、車体が次の挙動を開始する前に可変剛性部4を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段を、図3に示す制御処理として実現するものである。
【0038】
また、コントローラ20は、操舵角センサ21で検出した操舵角の信号と車速センサ22で検出した車速の信号とに基づいて、下記の数1式による車両の横加速度αy を推定演算する。推定された横加速度αy に基づきフィードフォワード制御(FF制御)にてモータ目標位置St(図3参照)を演算する。モータ位置センサ23は、電動モータ19の実際の回転位置を現在位置Siとして検出するものである。なお、車両の操舵情報としては、前述した操舵角の信号に限らず、例えば操舵角速度の信号であってもよい。
【0039】
本実施の形態によるスタビライザ装置1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0040】
まず、車両が直進している場合には、車体がロールすることはほとんどない。このために、スタビライザ装置1に求められる捩り剛性は小さく、各スタビライザバー2,3は比較的容易に独立して回動することができる。これにより、例えば直進走行時に一方の車輪が凹部に落ちることがあっても、この一方の車輪だけをストロークさせることができ、安定した走行姿勢を得ることができる。
【0041】
即ち、操舵角、アクセル操作量、ブレーキ操作量、横加速度等の情報を基にして車両の走行状態を判断し、直進走行していると判断した場合には、スタビライザ装置1のねじ部材18を電動モータ19によって予め決められた位置まで回転させ、付勢機構(コイルばね15)による軸力(推力)が発生する範囲内で直動側の第2のプレート12とピストン17のばね受け部17Aとの間隔寸法Lx を大きくする。これにより、コイルばね15に付加される初期荷重を小さくし、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り力(即ち、捩りトルク)も小さくする。従って、スタビライザ装置1の捩り剛性を小さくできるから、左,右の車輪は、路面の凹凸に合わせて独立してストロークすることができ、良好な乗り心地を得ることができる。
【0042】
次に、ハンドルを操作して道路のコーナ部分等をステアリング走行する場合には、外側へのロールを抑える必要がある。そこで、このような場合には、スタビライザ装置1のねじ部材18を電動モータ19によって先程とは逆方向に回転させ、第2のプレート12とピストン17のばね受け部17Aとの間隔寸法Lx を直進時よりも小さくする。これにより、コイルばね15に付加される軸力(初期荷重)が大きくなるから、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り力も大きくなる。従って、スタビライザ装置1は、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を高めることで、車体が外側にロールするのを抑えることができ、コーナリング時の走行姿勢を安定させることができる。
【0043】
このコーナリング時の制御では、左コーナーを走行する場合、右コーナーを走行する場合のいずれでも、付勢力調整機構16によって付勢機構(コイルばね15)の初期荷重を大きくすることになる。これにより、山道を走行する場合、スラローム走行を行う場合のように、左コーナーと右コーナーとが交互に続く場合でも、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を一度高めた後には、速度やコーナーの大きさに応じて微調整するだけでよく、電動モータ19の頻繁な駆動を防止することができる。
【0044】
そこで、コントローラ20による電動モータ19の制御処理について、図3を参照して説明する。
【0045】
即ち、図3に示す処理動作がスタートすると、ステップ1では、操舵角センサ21により検出されるハンドルの操舵角、車速センサ22により検出される車両の車速、およびモータ位置センサ23により検出される電動モータ19の実回転位置を読込む。
【0046】
次のステップ2では、前記操舵角(前輪舵角δf )と車速Vとより、下記の数1式を用いて車両の横加速度αy を推定演算する。ここで、横加速度αy は車両の線形モデルを仮定し、動特性を無視すると、数1式により求めることができる。但し、Vは車速(m/s)、Aはスタビリティファクタ(S/m)、δf は前輪舵角(rad)、Lはホイールベース(m)である。
【0047】
【数1】

【0048】
次のステップ3では、数1式によって求めた横加速度αy に基づいて車両のロール制御を行うため、電動モータ19を回転駆動する上での目標位置をモータ目標位置Stとして演算する。また、ステップ4では、モータ位置センサ23から読込んだ電動モータ19の実回転位置、即ち現在位置Siと前記モータ目標位置Stとから、両者の偏差ΔSを下記の数2式により算定する。
【0049】
【数2】

【0050】
次のステップ5では、偏差ΔSの絶対値が不感帯の閾値e以下となっているか否かを判定する。ステップ5で「YES」と判定するときには、電動モータ19の現在位置Siがモータ目標位置Stに対し不感帯の範囲内となっているので、車両のロール制御を適正に行うことができると判断できる。そこで、次のステップ6では、電動モータ19への給電を止めてモータを停止させ、次のステップ7でリターンする。
【0051】
また、ステップ5で「NO」と判定するときには、電動モータ19の現在位置Siがモータ目標位置Stに対し不感帯の範囲外となっているので、ステップ8に移って現在位置Siがモータ目標位置Stよりも大きいか否かを判定する。ステップ8で「YES」と判定したときには、電動モータ19の現在位置Siがモータ目標位置Stよりも大きいために、ステップ9で電動モータ19を回転角が小さくなる方向に逆回転させ、現在位置Siがモータ目標位置Stに対し不感帯の範囲内となるように電動モータ19の回転位置を制御する。
【0052】
電動モータ19を逆回転する場合には、コイルばね15に付加される初期荷重が小さくなるから、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り力となるトルクも小さくなる。従って、スタビライザ装置1の捩り剛性を小さくできるから、左,右の車輪は、路面の凹凸に合わせて独立してストロークすることができ、良好な乗り心地を得ることができる。
【0053】
一方、ステップ8で「NO」と判定するときには、次のステップ10で電動モータ19を回転角が大きくなるように正方向に回転させ、電動モータ19の回転位置を目標位置Stに近付けるようにモータの回転制御を行う。これにより、電動モータ19の現在位置Siとモータ目標位置Stとの偏差ΔSが閾値eによる不感帯の範囲内となるように、電動モータ19の回転位置を制御することができる。
【0054】
電動モータ19を正回転させる場合には、コイルばね15に付加される初期荷重が大きくなるから、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り力も大きくなる。従って、スタビライザ装置1は、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を高めることで、車体が外側にロールするのを抑えることができ、コーナリング時の走行姿勢を安定させることができる。
【0055】
かくして、第1の実施の形態によれば、操舵角センサ21および車速センサ22からの検出信号により、車両走行中に発生する横加速度αy を前記数1式を用いて予め推定演算により予測し、この予測値である横加速度αy に応じて必要なロール剛性から可変剛性スタビライザの目標ばね荷重、即ちピストン17の目標位置=モータ目標位置Stを、予め実験データ等により作成したマップ等を用いて演算する。なお、演算の仕方は、マップの他、例えば横加速度αy に任意の所定値を乗算してモータ目標位置Stを求めてもよい。
【0056】
その結果、図3中のステップ4,5に示す処理により、モータ目標位置Stが現在のモータ位置(即ち、現在位置Si)とほぼ等しい、つまり不感帯の範囲内であれば、ステップ5で「YES」と判定されるので、ステップ6の処理により電動モータ19を停止させる。また、モータ目標位置Stがモータの現在位置Siよりも大きい場合には、ステップ10の処理により電動モータ19を正方向に駆動して、スタビライザ装置1の捩り剛性を上げる。一方、モータ目標位置Stがモータの現在位置Siよりも小さい場合には、ステップ9の処理により電動モータ19を逆方向に駆動し、前記捩り剛性を下げる制御を行う。
【0057】
この構成により、車両が旋回を開始する前に発生する横加速度αy を予測し、この予測値に基づいてモータ目標位置Stを演算して求めることにより、コイルばね15(付勢機構)のセット荷重が小さいうちに電動モータ19を動かし、少ない消費動力でスタビライザ装置1の捩り剛性を変更することが可能になる。
【0058】
さらに、車両がスラロームしている場合等に横加速度αy が不感帯の範囲内で発生し続けている間は、電動モータ19を停止して余計な制御は行わずに、動力を消費させることなく、車両の操縦安定性が高いハードな特性を維持することができる。また、同様に車両の直進中は横加速度αy 、即ち偏差ΔSが不感帯の範囲を超えない限り、電動モータ19を停止して動力を消費することなく、乗り心地の良いソフトな特性を維持することができる。
【0059】
従って、本実施の形態によれば、車両の挙動に応じて頻繁に制御を行う必要がなくなり、電動モータ19の駆動時間を短縮して電力の余分な消費を抑えることができ、消費動力を低減できると共に、アクチュエータとしての電動モータ19の小型化が可能となる。
【0060】
また、可変剛性部4は、捩り剛性を調整する場合、付勢力調整機構16によってコイルばね15の付勢力を小さくするか、大きくするかの調整となるため、左コーナーと右コーナーとで同様の制御とすることができる。この結果、左コーナーと右コーナーとが交互に続くような場合でも、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を電動モータ19によって一度高めておけば、雌ねじ17Cと雄ねじ18Bからなる保持手段によりピストン17を任意の位置に摩擦力(保持力)で保持することができ、電動モータ19の頻繁な駆動を防止することができる。これにより、調整動作の回数削減による省電力化、モータの小型化等を図ることができる。
【0061】
しかも、ボールアンドランプ機構9は、第1のスタビライザバー2に連結され第1のランプ11が形成された第1のプレート10と、第2のスタビライザバー3に連結され第2のランプ13が形成された第2のプレート12と、前記第1のランプ11と第2のランプ13に収められた状態で前記第1のプレート10と第2のプレート12とに挟まれたボール14とにより構成している。従って、ボールアンドランプ機構9は、各スタビライザバー2,3間の捩れとなる相対回転運動を、簡単な構成で直線運動に変換することができ、構成を簡略化することができる。これにより、スタビライザ装置1を小型化することができ、車体に対する取付けの自由度を高めることができる。
【0062】
また、付勢力調整機構16は、コイルばね15に当接するピストン17と、回転運動を該ピストン17の直線運動に変換するために該ピストン17に螺合したねじ部材18と、該ねじ部材18に連結された電動モータ19とにより構成しているから、制御が容易な電動モータ19を用いてコイルばね15の初期荷重を調整することができ、構成の簡略化による小型化、製造コストの低減等を図ることができる。
【0063】
さらに、各プレート10,12に設けたランプ11,13は、長さ方向の中央部が最深部(図示せず)となり両端側に向けて浅くなる円弧状溝として形成している。これにより、各スタビライザバー2,3間の捩れ角が小さい範囲では、トルクに影響するばね定数を低くして乗り心地を良好にすることができる。また、各スタビライザバー2,3間の捩れ角が大きい範囲では、ばね定数を高くして捩り剛性を高めることができ、コーナーを走行するときのロールを抑制して走行姿勢を安定させることができる。
【0064】
次に、図4は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、横加速度の推定演算、即ち横加速度の予測を、カメラ、カーナビゲーションによる情報を用いて、より早い段階で予測できるように構成したことにある。なお、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0065】
電動モータ19を制御する制御手段としてのコントローラ(図示せず)は、車体が次の挙動を開始する前に可変剛性部4を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段を、図4に示す制御処理として実現するものである。即ち、図4に示す処理動作がスタートすると、ステップ11では、車両の前方等に設置したカメラ等の撮像手段(図示せず)で撮像した画像情報、前記車両に搭載したカーナビゲーションシステム(図示せず)からのカーナビ情報、車速センサ22により検出される車両の車速情報、およびモータ位置センサ23により検出される電動モータ19の実回転位置(現在位置Si)を読込む。
【0066】
次のステップ12では、前記画像情報、カーナビ情報および車両の車速により、走行中の車両に慣性力として働く横加速度を推定演算して予測する。そして、ステップ13では、この予測値に従ってモータ目標位置Stを演算により求め、ステップ14〜ステップ20にわたる処理を、前記第1の実施の形態(図3に示す流れ図)のステップ4〜ステップ10にわたる処理と同様に行う。
【0067】
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、車両走行中の横加速度をカメラやカーナビゲーションシステムを用いて、より早い段階で予測することができる。即ち、カメラやカーナビゲーションシステムから得た情報に基づき、車両走行路のコーナー情報、旋回時の曲率と車速とから横加速度を予測することができ、スタビライザ装置1の捩り剛性を事前に変更することができる。
【0068】
次に、図5は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、横加速度の推定演算(即ち、横加速度の予測)をカメラ、カーナビゲーションシステムによる情報と操舵角センサ、車速センサによる情報とを用いて予測することにより、制御回数を少なくできるように構成したことにある。なお、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0069】
ここで、電動モータ19を制御する制御手段としてのコントローラ(図示せず)は、車体が次の挙動を開始する前に可変剛性部4を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段を、図5に示す制御処理として実現するものである。
【0070】
即ち、図5に示す処理動作がスタートすると、ステップ21では、車両の前方等に設置したカメラ等の撮像手段(図示せず)で撮像した画像情報、前記車両に搭載したカーナビゲーションシステム(図示せず)からのカーナビ情報、操舵角センサ21により検出されるハンドルの操舵角、車速センサ22により検出される車両の車速情報、およびモータ位置センサ23により検出される電動モータ19の実回転位置(現在位置Si)を読込む。
【0071】
次のステップ22では、前記画像情報、カーナビ情報、操舵角の情報および車両の車速により、走行中の車両に慣性力として働く横加速度を推定演算して予測する。そして、ステップ23では、この予測値に従ってモータ目標位置Stを演算により求める。
【0072】
次のステップ24では、車両の旋回走行(ステアリング)に伴い頻繁な操舵を運転状況にあるか否か、即ち規定時間内に前記予測値である横加速度が規定回数以上に閾加速度(閾値)を越えたか否かを判定する。例えば、前記横加速度が1分間に3回以上、0.15G(閾値)を越えるような操舵を行った場合に、走行路が峠道等のようなワインディングロードに入ったと判断する。
【0073】
ステップ24で「YES」と判定したときには、例えば前記ワインディングロードに入るような運転状況にあるので、次のステップ25に移ってモータ目標位置Stを、これまでの演算により求めた前回値のモータ目標位置Stに維持し、これを継続させて次のステップ26〜ステップ32にわたる処理を行う。この場合、次のステップ26〜ステップ32にわたる処理は、前記第1の実施の形態(図3に示す流れ図)のステップ4〜ステップ10にわたる処理と同様に行う。
【0074】
一方、ステップ24で「NO」と判定するときには、次のステップ33に移ってモータ目標位置Stを更新し、更新されたモータ目標位置Stに従ってステップ26〜ステップ32にわたる処理を実行する。即ち、ステップ24で「NO」と判定するときには、前記第1の実施の形態で述べた図3に示す処理と同様に、車両の操舵角と車速に応じてスタビライザ装置1に必要な捩り剛性を確保する処理を行うものである。
【0075】
かくして、このように構成される第3の実施の形態でも、前記第1の実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。例えば、高速道路で車線変更を行うような場合には、前記ステップ24で「旋回中」であるとは判断されずに「NO」と判定され、ステップ33の処理によりモータ目標位置Stが更新されるため、前記第1の実施の形態と同様に操舵情報や車速情報に応じて必要な剛性を確保することができる。
【0076】
特に、第3の実施の形態では、図5に示す制御処理の如きロジックを採用することにより、特性の保持期間を判断し、さらに制御回数を少なくし、消費動力低減を図ることができる。即ち、峠道等のようなワインディングロードに入り、頻繁な操舵を行った場合には前記ステップ24で「旋回中」との判断がなされ、その直前のロール剛性が保持されることで、余分な制御は行われなくなる。
【0077】
このように、旋回頻度が高く「旋回中」との判断がなされている間は、仮に少しの間だけ直進走行を行うような状態があっても、スタビライザ装置1の捩り剛性をハードな特性に保ち、ソフトな特性には戻さない制御を行い、制御回数を少なくすることができる。また、カーナビゲーションシステムの情報を用いて旋回の多い地帯に入ったか否かを、例えばステップ24の判定処理で判断することができるため、上記のような条件(即ち、横加速度が1分間に3回以上、0.15Gの閾値を越えるような操舵を行った場合等)によらず「旋回中」の判断を行うことができ、これによっても、さらに制御回数、作動頻度を下げて消費動力を少なくすることができる。
【0078】
一方、車両の走行路が直進状態に戻り、操舵の頻度が下がったときには、「旋回中」との判断が解除されて、ステップ33の処理によりモータ目標位置Stが更新され、前記第1の実施の形態と同様な処理が行われる。直進走行に戻った場合は横加速度も小さくなるため、モータ目標位置Stは低くなり、スタビライザ装置1の捩り剛性をソフトな特性に制御して、良好な乗り心地を得ることができる。
【0079】
しかも、本実施の形態では、車両走行中の横加速度をカメラやカーナビゲーションシステムを用いて、より早い段階で予測することができる。即ち、カメラやカーナビゲーションシステムから得た情報に基づき、車両走行路のコーナー情報、旋回時の曲率と車速とから横加速度を予測することができ、スタビライザ装置1の捩り剛性を事前に変更することができる。
【0080】
次に、図6は本発明の第4の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、車速に応じて車両の旋回特性を変更するロジックを採用する構成したことにある。なお、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0081】
ここで、フロント,リヤ側の電動モータ19を制御する制御手段としてのコントローラ(図示せず)は、車体が次の挙動を開始する前に可変剛性部4を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段を、図6に示す制御処理として実現するものである。
【0082】
即ち、図6に示す処理動作がスタートすると、ステップ41では、操舵角センサ21により検出されるハンドルの操舵角、車速センサ22により検出される車両の車速、およびモータ位置センサ23により検出される電動モータ19の実回転位置(後述するフロントモータの現在位置Sfiとリヤモータの現在位置Sri)を読込む。次のステップ42では、前記操舵角の情報および車両の車速により、走行中の車両に慣性力として働く横加速度を、例えば前記数1式により推定演算して予測する。
【0083】
次のステップ43では、予め記憶しているマップの基準車速と現在の車速とを比較し、現在の車速が前記基準車速よりも小さく遅い場合には、ステップ43で「YES」と判定して次のステップ44に移る。現在の車速が前記基準車速以上に速い場合には、ステップ43で「NO」と判定し、後述するステップ58の演算処理に移る。
【0084】
現在の車速が前記基準速度よりも遅い場合、ステップ44の処理によりフロント側のモータ目標位置Sftとリヤ側のモータ目標位置Srtとを、それぞれ下記のように演算して決定する。即ち、ステップ44の処理では、車両の旋回性能をあげるように車両の操舵状態を「オーバーステア」の状態とするための演算処理を行う。
【0085】
このため、車両の前輪側(フロント)に設けたスタビライザ装置1の捩り剛性が、後輪側(リヤ)に設けたスタビライザ装置1の捩り剛性よりも小さくなるように、フロント側のモータ目標位置Sftとリヤ側のモータ目標位置Srtとを、それぞれ車速に応じて決定する。この場合、フロント側のモータ目標位置Sftは、下記の数3式のようにリヤ側のモータ目標位置Srtよりも小さく設定される。
【0086】
【数3】

【0087】
次のステップ45では、車両の前輪側に設けたフロントモータ(電動モータ19)のモータ位置センサ23から読込んだ実回転位置、即ちフロントモータの現在位置Sfiと前記フロント側のモータ目標位置Sftとから、両者の偏差ΔSf を下記の数4式により算定する。
【0088】
【数4】

【0089】
次のステップ46では、偏差ΔSf の絶対値が不感帯の閾値e以下となっているか否かを判定する。ステップ46で「YES」と判定するときには、フロントモータの現在位置Sfiがフロント側のモータ目標位置Sftに対し不感帯の範囲内となっているので、車両のロール制御を適正に行うことができると判断できる。そこで、次のステップ47では、フロント側の電動モータ19への給電を止めてフロントモータを停止させる。
【0090】
また、ステップ46で「NO」と判定するときには、フロントモータである電動モータ19の現在位置Sfiが、フロント側のモータ目標位置Sftに対し不感帯の範囲外となっているので、ステップ48に移って現在位置Sfiがモータ目標位置Sftよりも大きいか否かを判定する。ステップ48で「YES」と判定したときには、フロント側の電動モータ19の現在位置Sfiがモータ目標位置Sftよりも大きいために、ステップ49でフロント側の電動モータ19を回転角が小さくなる方向に逆回転させ、現在位置Sfiがモータ目標位置Sftに対し不感帯の範囲内となるようにフロント側の電動モータ19の回転位置を制御する。
【0091】
一方、ステップ48で「NO」と判定するときには、次のステップ50でフロント側の電動モータ19を回転角が大きくなるように正方向に回転させ、フロント側の電動モータ19の回転位置をフロント側のモータ目標位置Sftに近付けるようにモータの回転制御を行う。これにより、フロント側の電動モータ19の現在位置Sfiとモータ目標位置Sftとの偏差ΔSf が閾値eによる不感帯の範囲内となるように、フロントモータである電動モータ19の回転位置を制御することができる。
【0092】
次のステップ51では、車両の後輪側に設けたリヤモータ(電動モータ19)のモータ位置センサ23から読込んだ実回転位置、即ちリヤモータの現在位置Sriと前記リヤ側のモータ目標位置Srtとから、両者の偏差ΔSr を下記の数5式により算定する。
【0093】
【数5】

【0094】
次のステップ52では、偏差ΔSr の絶対値が不感帯の閾値e以下となっているか否かを判定する。ステップ52で「YES」と判定するときには、リヤモータの現在位置Sriがリヤ側のモータ目標位置Srtに対し不感帯の範囲内となっているので、車両のロール制御を適正に行うことができると判断できる。そこで、次のステップ53では、リヤ側の電動モータ19への給電を止めてリヤモータを停止させ、次のステップ54でリターンする。
【0095】
また、ステップ52で「NO」と判定するときには、リヤモータの現在位置Sriがリヤ側のモータ目標位置Srtに対し不感帯の範囲外となっているので、ステップ55に移って現在位置Sriがモータ目標位置Srtよりも大きいか否かを判定する。ステップ55で「YES」と判定したときには、リヤモータの現在位置Sriがモータ目標位置Srtよりも大きいために、ステップ56でリヤ側の電動モータ19を回転角が小さくなる方向に逆回転させ、現在位置Sriがモータ目標位置Srtに対し不感帯の範囲内となるようにリヤ側の電動モータ19の回転位置を制御する。
【0096】
一方、ステップ55で「NO」と判定するときには、次のステップ57でリヤ側の電動モータ19を回転角が大きくなるように正方向に回転させ、リヤ側の電動モータ19の回転位置をリヤ側のモータ目標位置Srtに近付けるようにモータの回転制御を行う。これにより、リヤ側の電動モータ19の現在位置Sriとモータ目標位置Srtとの偏差ΔSr が閾値eによる不感帯の範囲内となるように、リヤモータである電動モータ19の回転位置を制御することができる。
【0097】
次に、前記ステップ43で「NO」と判定する場合には、現在の車速が前記基準車速以上に速い状態であるから、次のステップ58の処理によりフロント側のモータ目標位置Sftとリヤ側のモータ目標位置Srtとを、それぞれ下記のように演算して決定する。即ち、ステップ58の処理では、車両の走行安定性を高めるように車両の操舵状態を「アンダーステア」の状態とするための演算処理を行う。
【0098】
このため、車両の前輪側(フロント)に設けたスタビライザ装置1の捩り剛性が、後輪側(リヤ)に設けたスタビライザ装置1の捩り剛性よりも大きくなるように、フロント側のモータ目標位置Sftとリヤ側のモータ目標位置Srtとを、それぞれ車速に応じて決定する。この場合、フロント側のモータ目標位置Sftは、下記の数6式のようにリヤ側のモータ目標位置Srtよりも小さく設定される。
【0099】
【数6】

【0100】
そして、この場合も前述したステップ45〜ステップ57の処理により、フロントモータの現在位置Sfiがフロント側のモータ目標位置Sftに対し不感帯の範囲内となるように、フロント側の電動モータ19の回転位置を制御し、リヤ側の電動モータ19についても、リヤモータの現在位置Sriがリヤ側のモータ目標位置Srtに対し不感帯の範囲内となるように回転位置を制御する。これにより、現在の車速が前記基準車速以上に速い場合に、車両の操舵状態を「アンダーステア」の状態とし、車両の走行安定性を高めるようにする。
【0101】
かくして、このように構成される第4の実施の形態でも、車両走行時の操舵情報や車速情報に応じて前輪側と後輪側のスタビライザ装置1に必要な剛性を確保することができ、前記第1の実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態によれば、車速に応じて車両の旋回特性を変更するロジックを採用しているため、旋回開始時の車速に応じて車両の旋回特性を決めることができ、これにより、フロント,リヤ側のスタビライザ装置1に対する頻繁な制御を行わずとも、車速に応じた適切な車両挙動を得ることができる。なお、本実施の形態では基準車速と実車速との大小に応じてオーバーステアかアンダーステアかを切り替えるようにしているが、車速に応じてオーバーステアとアンダーステアの度合いを連続的に変更するようにしてもよい。
【0102】
次に、図7は本発明の第5の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、旋回開始時のヨーレイトの立ち上がりに応じて車両の旋回特性を変更するロジックを採用する構成したことにある。なお、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0103】
ここで、フロント,リヤ側の電動モータ19を制御する制御手段としてのコントローラ(図示せず)は、車体が次の挙動を開始する前に可変剛性部4を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段を、図7に示す制御処理として実現するものである。
【0104】
即ち、図7に示す処理動作がスタートすると、ステップ61では、操舵角センサ21により検出されるハンドルの操舵角、車速センサ22により検出される車両の車速、ヨーレイトセンサ(図示せず)により検出される車両走行中の実ヨーレイト、およびモータ位置センサ23により検出される電動モータ19の実回転位置(フロントモータの現在位置Sfiとリヤモータの現在位置Sri)を読込む。次のステップ62では、前記操舵角の情報および車両の車速により、走行中の車両に慣性力として働く横加速度を、例えば前記数1式により推定演算する。
【0105】
次のステップ63では、前記操舵角(前輪舵角δf )と車速Vとより、下記の数7式を用いて目標ヨーレイトγを推定演算する。ここで、目標ヨーレイトγは車両の線形モデルを仮定し、動特性を無視すると、数7式により求めることができる。但し、Vは車速(m/s)、Aはスタビリティファクタ(S/m)、δf は前輪舵角(rad)、Lはホイールベース(m)である。
【0106】
【数7】

【0107】
次のステップ64では、前記ヨーレイトセンサで検出した実ヨーレイトが、数7式による目標ヨーレイトγよりも小さいか否かを判定する。ステップ64で「YES」と判定したときには、目標ヨーレイトγが実ヨーレイトよりも大きいので、次のステップ65で走行車両の旋回性能をあげるように、車両の操舵状態を「オーバーステア」の状態とする演算を行う。
【0108】
即ち、ステップ65では、前記第4の実施の形態による図6に示すステップ44とほぼ同様に、フロント側のモータ目標位置Sftとリヤ側のモータ目標位置Srtとを、それぞれ演算により求める。そして、その後はステップ66〜ステップ78にわたる処理を、前記第4の実施の形態によるステップ45〜ステップ57と同様に行う。これにより、目標ヨーレイトγが実ヨーレイトよりも大きい場合に、車両の操舵状態を「オーバーステア」の状態とし、走行車両の旋回性能を向上させる。
【0109】
また、ステップ64で「NO」と判定したときには、目標ヨーレイトγが実ヨーレイトよりも小さいので、次のステップ79で車両の走行安定性を高めるように、車両の操舵状態を「アンダーステア」の状態とする演算を行う。即ち、ステップ79では、前述した第4の実施の形態による図6に示すステップ58とほぼ同様に、フロント側のモータ目標位置Sftとリヤ側のモータ目標位置Srtとを、それぞれ演算により求める。
【0110】
その後はステップ66〜ステップ78にわたる処理を、前記第4の実施の形態によるステップ45〜ステップ57と同様に行う。これにより、目標ヨーレイトγが実ヨーレイトよりも小さい場合に、車両の操舵状態を「アンダーステア」の状態とし、車両の走行安定性を向上することができる。
【0111】
かくして、このように構成される第5の実施の形態でも、車両走行時の操舵情報や車速情報に応じて前輪側と後輪側のスタビライザ装置1に必要な剛性を確保することができ、前記第1の実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態によれば、旋回開始時のヨーレイトの立ち上がりに応じて車両の旋回特性を変更するロジックを採用しているため、フロント,リヤ側のスタビライザ装置1に対する頻繁な微調整を行うことなく、ステアリングの操舵角に応じた適切な車両の挙動特性を得ることができる。
【0112】
なお、前記第5の実施の形態では、車両の操舵角と車速とにより車両走行時の横加速度を推定演算して予測する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば第2の実施の形態で述べたように、例えばカメラ、カーナビゲーションによる情報を用いて横加速度の予測を行う構成としてもよい。
【0113】
また、前記第1〜第5の実施の形態による構成、作用効果は、それぞれ独立したものとは限らず、それぞれを組合せた制御のロジックによりそれぞれ効果を出すことが可能である。さらに、カメラ等の撮像手段、カーナビゲーションシステムだけではなく、横滑り防止装置や、アクティブステアリングとも協働することで、運転者の操舵によらず発生するヨー(横加速度)に対応して事前に剛性を変更することができる。
【0114】
また、前記第1〜第5の実施の形態においては、操舵開始時の制御方法について説明したが、操舵終了時に剛性を下げる場合には、操舵動作を行わず直進状態に入ってから一定時間経過後、スタビライザが捩れていない状態で制御を行うことにより、少ない消費動力で剛性を下げることができる。
【0115】
一方、前記実施の形態では、第1,第2のプレート10,12にそれぞれ3個のランプ11,13を設け、該各ランプ11,13に3個のボール14を収容した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばランプ11,13を2個または4個以上設け、ボール14を2個または4個以上設ける構成としてもよい。また、ボール14に代えて円錐ころ等を用いる構成としてもよい。
【0116】
また、前記実施の形態では、付勢機構をコイルばね15により構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば皿ばね等の他の弾性体をコイルばねに代えて用いることにより付勢機構を構成してもよい。また、保持手段としては、台形ねじに限らず、例えばラチェット、トルクダイオード等を用いてもよい。
【0117】
次に、上記の実施の形態に含まれる発明について述べる。車体が次の挙動を開始する前に可変剛性部を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段は、車速、操舵情報から推定される値に応じて目標剛性を決める構成としている。この場合、車両の車速、操舵情報から走行中の車両に働く横加速度を推定演算により予測値として求めることができ、この予測値からモータ目標位置を目標剛性として算出することができる。
【0118】
また、前記目標剛性制御手段は、車両走行路のコーナー情報をカメラ、ナビゲーション情報から入手し、入手した情報から前記目標剛性を決める構成としている。これにより、車両に搭載のカメラ、ナビゲーションシステムの情報から走行中の車両に働く横加速度を予測値として求めることができ、この予測値からモータ目標位置を目標剛性として算出することができる。
【0119】
また、前記目標剛性制御手段は、次のコーナーの曲率の情報を入手し、このときの車速と曲率から横加速度を推定する構成としている。これにより、車両走行路のコーナー情報、旋回時の曲率と車速とから横加速度を予測することができ、スタビライザ装置の捩り剛性を事前に変更することができる。また、車速に応じて車両の旋回特性を変更するロジックを採用することにより、旋回開始時の車速に応じて車両の旋回特性を決めることができ、これにより、フロント,リヤ側のスタビライザ装置に対する頻繁な制御を行わずとも、車速に応じた適切な車両挙動を得ることができる。また、旋回開始時のヨーレイトの立ち上がりに応じて車両の旋回特性を変更するロジックを採用することにより、フロント,リヤ側のスタビライザ装置に対する頻繁な微調整を行うことなく、ステアリングの操舵角に応じた適切な車両の挙動特性を得ることができる。
【0120】
さらに、前記可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じて直線運動する直動機構と、前記直線運動を抑制する方向に前記直動機構を付勢する付勢機構と、該付勢機構を支持する支持手段と、該支持手段を任意の位置で保持力をもって保持する保持手段とを含んで構成し、アクチュエータは、前記支持手段の位置を変更するための力を前記支持手段に付与し、制御手段は、前記アクチュエータの出力を制御する構成としている。これにより、アクチュエータの回転出力を直動機構を用いて直線運動に変え、付勢機構の長さを調整して弾性力を変えることができ、第1,第2のスタビライザバー間の捩り剛性を調整することができる。
【0121】
この捩り剛性を保持する場合には直動機構の機械的な摩擦力を利用して付勢機構の長さを保持するため、アクチュエータのトルクを殆どあるいは全く用いないで調整された捩り剛性を保持できる。捩り剛性を調整しなければならない場合には、電動モータ等のアクチュエータに電力を供給し、捩り剛性を保持する状態では、電力の供給を不要にできるので、消費電力を低減できる効果が有る。これにより、上記の如く付勢力を保持する機能を有すると共に、電動モータが発生する回転トルクを小さくでき、アクチュエータとして小型の電動モータを採用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 スタビライザ装置
2 第1のスタビライザバー
3 第2のスタビライザバー
4 可変剛性部
5 ケーシング
9 ボールアンドランプ機構(直動機構)
10 第1のプレート
11 第1のランプ(第1の傾斜部)
12 第2のプレート
13 第2のランプ(第2の傾斜部)
14 ボール
15 コイルばね(付勢機構)
16 付勢力調整機構
17 ピストン(支持手段)
17C 雌ねじ(ねじ機構、保持手段)
18 ねじ部材
18B 雄ねじ(ねじ機構、保持手段)
19 電動モータ(アクチュエータ)
20 コントローラ(制御手段、目標剛性制御手段)
21 操舵角センサ
22 車速センサ
23 モータ位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスタビライザバーと、第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結しアクチュエータによってねじり剛性を調整する可変剛性部と、前記アクチュエータを制御する制御手段とからなり、
前記制御手段は、車体が次の挙動を開始する前に前記可変剛性部を目標剛性にする制御を開始する目標剛性制御手段を有することを特徴とするスタビライザ装置。
【請求項2】
前記目標剛性制御手段は、車速、操舵情報から推定される値に応じて目標剛性を決めることを特徴とする請求項1に記載のスタビライザ装置。
【請求項3】
前記目標剛性制御手段は、車両走行路のコーナー情報をカメラ、ナビゲーション情報から入手し、入手した情報から前記目標剛性を決めることを特徴とする請求項1に記載のスタビライザ装置。
【請求項4】
前記目標剛性制御手段は、次のコーナーの曲率の情報を入手し、このときの車速と曲率から横加速度を推定することを特徴とする請求項3に記載のスタビライザ装置。
【請求項5】
前記可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じて直線運動する直動機構と、前記直線運動を抑制する方向に前記直動機構を付勢する付勢機構と、該付勢機構を支持する支持手段と、該支持手段を任意の位置で保持力をもって保持する保持手段とを含んで構成し、
前記アクチュエータは、前記支持手段の位置を変更するための力を前記支持手段に付与し、前記制御手段は、前記アクチュエータの出力を制御する構成としたことを特徴とする請求項1,2,3または4に記載のスタビライザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158223(P2012−158223A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18050(P2011−18050)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】