スラッシュ成形表皮材の製造方法及びスラッシュ成形型
【課題】成形された表皮材から不要部分を容易にかつ確実に取り除くようにする。
【解決手段】加熱された型成形面37に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材を成形するスラッシュ成形型35において、張出部35cを型成形面37の製品形状部外周縁に全周に亘って型内方に張り出し形成する。溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の突条部39を張出部35cの型成形面37側中程に製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設する。
【解決手段】加熱された型成形面37に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材を成形するスラッシュ成形型35において、張出部35cを型成形面37の製品形状部外周縁に全周に亘って型内方に張り出し形成する。溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の突条部39を張出部35cの型成形面37側中程に製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラッシュ成形表皮材の製造方法及び該製造方法に用いるスラッシュ成形型の改良に関し、特に、成形されたスラッシュ表皮材から不要部分を取り除く対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スラッシュ成形型は、型成形面側外周縁を原料収容ボックスの開口端縁に当接させ、原料収容ボックス側に設けられたクランプ治具で外周が挟持されて原料収容ボックスにセットされる。上記スラッシュ成形型の型成形面には、原料収容ボックスの上下方向への反転動作により原料収容ボックス内の粉体樹脂原料が付着し、この付着した粉体樹脂原料は型温により加熱溶融して溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層が冷却硬化することでスラッシュ成形表皮材が型成形面全体に成形される。成形された表皮材は脱型後、不要部分が取り除かれて製品となる。この不要部分を取り除き易くするために、断面三角形状の突条部を型成形面外周縁寄りの縦面における製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設することにより、成形された表皮材の製品部分と不要部分との境目にV形のノッチにより薄肉部を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭63−165112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、図16に示すように、スラッシュ成形型aの型成形面b外周縁寄りの縦面cに断面三角形状の突条部dを突設すると、該突条部dの先端が型内方に向かって突出しているため、スラッシュ成形型aの型成形面bに供給されて付着溶融した粉体樹脂原料からなる溶融樹脂層eが硬化する間に、上記突条部dの上方の溶融樹脂層eが重力の作用で突条部dの先端に向かって垂れて該突条部dの先端に溶融樹脂層eの厚肉部fが形成され、冷却硬化後に当該箇所から不要部分を取り除き難くなる。特に、表皮材が伸び率の高い材料で成形されている場合には、取り除き難さが増大する。
【0004】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、成形された表皮材から不要部分を容易にかつ確実に取り除くようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、この発明は、成形時における突条部の向きを工夫したことを特徴とする。
【0006】
具体的には、請求項1,2に記載の発明は、スラッシュ成形表皮材の製造方法に関するものであり、そのうち、請求項1に記載の発明が講じた解決手段は、型成形面の製品形状部外周縁に張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側に断面三角形状の突条部が製品形状部外周縁に沿って一体に突設されたスラッシュ成形型を加熱し、次いで、上記スラッシュ成形型の型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、その後、上記突条部の先端を上に向けた状態で上記溶融樹脂層を冷却硬化してスラッシュ成形表皮材を成形した後、該表皮材を脱型することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明が講じた解決手段は、請求項1に記載の発明において、表皮材は、エアバッグ装置が作動していない状態では破断予定部が表面側から識別できず、エアバッグ装置の作動によって上記破断予定部を破断して開くエアバッグドア部を備えた成形品の表面層を構成する表皮材であることを特徴とする。
【0008】
請求項3,4に記載の発明は、加熱された型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材を成形するスラッシュ成形型に関するものであり、そのうち、請求項3に記載の発明が講じた解決手段は、上記型成形面の製品形状部外周縁には、張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側中程には、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の突条部が製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明が講じた解決手段は、上記型成形面の製品形状部外周縁には、張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側中程には、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第1突条部が製品形状部外周縁に沿って間欠的に一体に突設されているとともに、上記張出部の型成形面側における張出端部には、上記第1突条部と同様に上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第2突条部が上記第1突条部のない領域に対応するように製品形状部外周縁に沿って一体に突設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、スラッシュ成形型の型成形面に供給されて付着溶融した粉体樹脂原料からなる溶融樹脂層が硬化する間に、先端を上に向けた突条部のところでは、溶融樹脂層はその表面張力と重力との作用で突条部の先端から傾斜面を伝って張出部側に向かって垂れるため、該突条部の先端に溶融樹脂層の薄肉部が形成され、冷却硬化して成形された表皮材の製品部分と不要部分との境目にV形のノッチにより薄肉部が形成される。したがって、表皮材が伸び率の高い材料で成形されている場合であっても、表皮材を脱型した後に不要部分を手で引っ張ることで上記薄肉部を容易にかつ確実に引き裂くことができ、表皮材から不要部分を容易にかつ確実に取り除くことができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、表皮材にはエアバッグ装置の作動による大きな衝撃が作用するが、表皮材を伸び率の高い材料で成形することで、破断予定部が破断してエアバッグドア部が開いても表皮材は飛散しない。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、型成形面の製品形状部外周縁に張出部を形成し、該張出部に突条部を突設するだけで、スラッシュ成形型の型構造を大幅に改造することなく請求項1に記載の効果を奏することができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、成形された表皮材を脱型する際、スラッシュ成形型の型成形面を上に向けた状態で、つまり第1及び第2突条部の先端を下に向けた状態で、表皮材の端末を手で引っ張って型成形面から剥がすと、上記第2突条部が張出部の型成形面側における張出端部に突設されているため、第2突条部の先端が表皮材の薄肉部に食い込み、当該領域に対応した表皮材の薄肉部を容易にかつ確実に引き裂くことができる。一方、上記第1突条部により形成された表皮材の薄肉部には、第1突条部が張出部の型成形面側中程に突設されているため、第1突条部の先端による剥ぎ取り力が作用せず、当該領域に対応した薄肉部は表皮材を脱型しても引き裂かれず、製品部分と不要部分とは繋がっており、この繋がっている不要部分は脱型後に取り除く。したがって、第2突条部の突設箇所を表皮材から不要部分を取り除き難い箇所に突設することで、取り除き難い不要部分を脱型時に製品部分から分離させることができ、その後の取り除き作業をスムーズに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0015】
(実施形態1)
図12は車両用インストルメントパネルにおけるアッパパネルの右側半分を構成するパネル構成部材(成形品)1を示す。該パネル構成部材1は、図11に示すように、パネル構成部材1の表面層を構成する樹脂製表皮材3と、パネル構成部材1の裏面層を構成する樹脂製基材5とが断面略平行に配置されており、これら表皮材3と基材5との間にウレタン発泡層7が一体に成形されている。上記表皮材3は、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)、TPO(サーモプラスチックオレフィン)、TPU(サーモプラスチックウレタン)等の樹脂材でスラッシュ成形されたものである。上記基材5は、例えばPP(ポリプロピレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)等の樹脂材で射出成形されたものである。上記ウレタン発泡層7は、独立発泡と連通発泡とが約半分ずつ分布する半硬質構造である。
【0016】
上記表皮材3の表皮材端末3aは基材5側に全周に亘って略L字状に折れ曲がって形成されている。一方、上記基材5の基材端末5aには表皮材3側に開口する凹部5bが全周に亘って形成されている。この凹部5bの外側縦壁5c内面に上記表皮材端末3a表面が内側から密着し、ウレタン発泡層7端末の表皮材3と基材5との間をシールしている。さらに、上記基材5の車体前方端寄りで車幅方向中程には、表皮材3と基材5との間に上記ウレタン発泡層7の原料である発泡ウレタン樹脂を注入するための樹脂注入口9が形成され(図12参照)、該樹脂注入口9は基材5裏面側からシール材(図示せず)が貼り付けられて閉塞されている。
【0017】
上記基材5は、矩形嵌合口11を有する基材本体13と、上記嵌合口11に基材本体13表側から嵌め込まれて装着されたエアバッグシュート部材15とを備えている。このエアバッグシュート部材15は、車体前後方向からの衝撃から助手席の乗員を保護するためのエアバッグ及びインフレータ等からなるエアバッグ装置17が内部に収納された矩形筒状の枠体19を備え、該枠体19は、車幅方向に延びる前側枠壁19aと、この前側枠壁19aの後側に対向配置されて車幅方向に延びる後側枠壁19bと、これら前側枠壁19a及び後側枠壁19bの左縁同士を連結するように車体前後方向に延びる左側枠壁(図示せず)と、右縁同士を連結するように車体前後方向に延びる右側枠壁(図示せず)とからなる。上記前側枠壁19a及び後側枠壁19bには、複数個の掛止孔21が車幅方向に間隔をあけて形成され、上記エアバッグ装置17に取り付けられた複数個のフック23を上記掛止孔21に挿入し、エアバッグ装置作動時に上記フック23が掛止孔21周縁に引っ掛かって後述するエアバッグドア部33(表皮材3、ウレタン発泡層7及びフラップ部31からなる3層構造部分)のみがエアバッグで上方に押圧されるようになっている。図11中、25は、車体のサイドパネルに橋絡されたインパネレインフォースメント(図示せず)に上記エアバッグ装置17を固定するためのブラケットである。
【0018】
上記枠体19上端部の外側には、フランジ部27が全周に亘って一体に外側方に向かって張り出し形成され、上記枠体19が上記嵌合口11に基材本体13表側から嵌め込まれた状態で、上記フランジ部27は裏面を上記嵌合口11周縁の基材本体13表面に重合させるとともに、上記前側枠壁19a及び後側枠壁19b上端部寄りに突設された係合突起29を上記嵌合口11周縁に下方から係合させることにより、上記エアバッグシュート部材15が基材本体13に支持されている。
【0019】
上記枠体19上端部の内側には、バックアップ用のフラップ部31が枠体19内部の上端側を閉塞するように一体に形成され、該フラップ部31裏面には、平面視略H字状(図4参照)の山形溝で薄肉化された破断予定部31aが形成されているとともに、所定幅に薄肉化された前後一対のヒンジ部31bが上記破断予定部31aの車体前方端側と車体後方端側とを連結するように形成されている。一方、上記表皮材3裏面にも、平面視略H字状の山形溝で薄肉化された破断予定部3bが上記フラップ部31の破断予定部31aに対応するように形成されている。これら破断予定部31a,3b及びヒンジ部31bで囲まれるパネル構成部材1の3層構造領域を前側ドア部33aと後側ドア部33bとからなるエアバッグドア部33としている。なお、上記フラップ部31裏面の破断予定部31a及びヒンジ部31bは、成形型の型構造によりエアバッグシュート部材15の射出成形と同時に形成されるが、上記表皮材3裏面の破断予定部3bは、スラッシュ成形後に熱刃等による後加工により形成される。
【0020】
これにより、車両衝突時にエアバッグ装置17のエアバッグがインフレータの作動によって膨出し、その膨出圧力でエアバッグドア部33が上方に押圧されて破断予定部31a,3bが破断し、前側ドア部33a及び後側ドア部33bが共にヒンジ部31bを支点に車体前後方向に上向きに観音開きに開くようになっており、エアバッグドア部33は、エアバッグ装置17が作動していない状態では上記破断予定部31a,3bがパネル構成部材1表面側から識別できない,いわゆるシームレスタイプに構成されている。
【0021】
次に、上記表皮材3を成形するスラッシュ成形型35について説明する。
【0022】
該スラッシュ成形型35は、図1に示すように、表皮材3の大半を成形する平面部35aを備え、該平面部35a外周縁には、表皮材端末3aを成形する縦面部35bが全周に亘って一体に垂設されている。また、該縦面部35b下端周縁には、張出部35cが全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部35cの張出端部には、スカート部35dが全周に亘って一体に延設されている。さらに、該スカート部35d下端の外周縁には、フランジ部35eが全周に亘って一体に張り出し形成されている。そして、上記スラッシュ成形型35のフランジ部35eを除く内面を表皮材3を成形する型成形面37とし、そのうち、上記平面部35a及び縦面部35bに対応する領域を製品形状部としている。上記張出部35cの型成形面37側中程には、断面三角形状の突条部39が製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設されている。このように構成されたスラッシュ成形型35は、後述するが、加熱された型成形面37に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材3を成形するようになっている。そして、上記突条部39は、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持されるようになっている。
【0023】
次に、上記スラッシュ成形型35を用いて表皮材3を成形する要領について説明する。以下に括弧書で付した番号は製造工程の順番を示す。
(1) 図2に示すように、スラッシュ成形型35を型成形面37が下になるようにして上下の加熱ヒータ41間に搬入し、例えば220℃に加熱する。
(2) 図3に示すように、上記加熱されたスラッシュ成形型35を型成形面37が下になるようにした状態で、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、TPO(サーモプラスチックオレフィン)、TPU(サーモプラスチックウレタン)等の粉体樹脂原料R1が収容された原料収容ボックス43開口端縁のフランジ部43aにスラッシュ成形型35のフランジ部35eを当接させてスラッシュ成形型35を原料収容ボックス43にセットし、該原料収容ボックス43側に設けられた図示しないクランプ治具で上記スラッシュ成形型35のフランジ部35eを挟持して、スラッシュ成形型35及び原料収容ボックス43の両フランジ部35e,43aの合わせ面をシール材45でシールする。
(3) 図4に示すように、回転軸47を図示しない回転装置によって回転させることにより、上記原料収容ボックス43を上下方向に反転させ、原料収容ボックス43内に収容された粉体樹脂原料R1を上記スラッシュ成形型35の型成形面37に供給して付着させる。図4において型成形面37に接近して沿う密集した点々は、粉体樹脂原料R1がスラッシュ成形型35の型成形面37に付着している状態を示す。型成形面37に付着した粉体樹脂原料R1が型温により加熱溶融して溶融樹脂層R2(図5参照)が形成され始める。その後、図5に示すように、原料収容ボックス43を上記とは逆に上下方向に反転させて元の姿勢に戻し、余剰の粉体樹脂原料R1を原料収容ボックス43内に落下させて回収する。
(4) スラッシュ成形型35を原料収容ボックス43から取り外し、図6に示すように、型成形面37が下になるようにして上下の加熱ヒータ41間に再度搬入して再加熱し、型成形面37に付着した未溶融の粉体樹脂原料R1を完全に溶融させる。この状態で、突条部39は先端を上に向けている。図7は再加熱直後のスラッシュ成形型35の突条部39周りを拡大し、この段階では溶融樹脂層R2の層厚は型成形面37全体に均等に形成されているが、時間が経つにつれて、図8に示すように変化する。つまり、溶融樹脂層R2は、先端を上に向けた突条部39のところでは、表面張力と重力との作用で突条部39の先端から傾斜面を伝って張出部35c側に向かって垂れ、該突条部39の先端に溶融樹脂層R2の薄肉部R2−1が形成される。
(5) スラッシュ成形型35をエアの吹付けにより冷却し、溶融樹脂層R2を硬化させる。これにより、前工程で起こっている溶融樹脂層R2の垂れ現象が停止し、スラッシュ成形表皮材3が成形される(図9参照)。成形された表皮材3には、型成形面37の製品形状部に対応する製品部分S1と不要部分S2との境目にV形のノッチ37aにより薄肉部37bが形成されている。
(6) 図9に示すように、スラッシュ成形型35の型成形面37を上に向けた状態で表皮材3の端末を手で引っ張って型成形面37から剥がし、該表皮材3をスラッシュ成形型35から脱型する。この段階では、表皮材3の薄肉部37bは引き裂かれず、製品部分S1と不要部分S2とは繋がっているが、その後、上記不要部分S2を引っ張って薄肉部37bを引き裂き、製品部分S1から取り除く(図10参照)。製品部分S1端末(表皮材端末3a)は全周に亘って略L字状に折れ曲がっているが、パネル構成部材1に適用された状態で、図11に示すように、ウレタン発泡層7に埋設されるので邪魔にならない。
【0024】
このように、この実施形態1では、溶融樹脂層R2が硬化する間、突条部39の先端が上を向いているので、上述の如く溶融樹脂層R2の表面張力と重力との作用で表皮材3の製品部分S1と不要部分S2との境目に薄肉部37bを形成でき、表皮材3が伸び率の高い材料で成形されている場合であっても、表皮材3を脱型した後に不要部分S2を手で引っ張ることで上記薄肉部37bを容易にかつ確実に引き裂くことができ、表皮材3から不要部分S2を容易にかつ確実に取り除くことができる。
【0025】
また、上記の表皮材3が適用されたパネル構成部材1では、エアバッグ装置17の作動による大きな衝撃が表皮材3に作用しても、表皮材3を伸び率の高い材料で成形することで、破断予定部31a,3bが破断してエアバッグドア部33が開いても表皮材3を飛散しないようにすることができる。
【0026】
さらに、上記のスラッシュ成形型35では、型成形面37の製品形状部37a外周縁に張出部35cを形成し、該張出部35cに突条部39を突設するだけで、スラッシュ成形型35の型構造を大幅に改造することなく上述の如き効果を奏することができる。
【0027】
(実施形態2)
図13〜15は実施形態2に係るスラッシュ成形型35を示す。この実施形態2では、
型内方に張り出す張出部35cの型成形面37側中程に、溶融樹脂層R2の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第1突条部39Aを製品形状部外周縁に沿って間欠的に一体に突設している(図10右側参照)とともに、上記張出部35cの型成形面37側における張出端部に、上記第1突条部39Aと同様に上記溶融樹脂層R2の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第2突条部39Bが上記第1突条部39Aのない領域に対応するように製品形状部外周縁に沿って一体に突設されている(図10左側参照)。そのほかは、実施形態1と同様に構成されているので、同一箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0028】
そして、この実施形態2では、成形された表皮材3を脱型する際、図15に示すように、スラッシュ成形型35の型成形面37を上に向けた状態で、つまり第1及び第2突条部39A,39Bの先端を下に向けた状態で、表皮材3の端末を手で引っ張って型成形面37から剥がすと、上記第2突条部39Bが張出部35cの型成形面37側における張出端部に突設されているため、第2突条部39Bの先端が表皮材3の薄肉部37cに食い込み、当該領域に対応した表皮材3の薄肉部37cを容易にかつ確実に引き裂くことができる。
【0029】
一方、第1突条部39Aにより形成された表皮材3の薄肉部37cには、第1突条部39Aが張出部35cの型成形面37側中程に突設されているため、第1突条部39Aの先端による剥ぎ取り力が作用せず、当該領域に対応した薄肉部37cは表皮材3を脱型しても引き裂かれず、製品部分S1と不要部分S2とは繋がっており、この部分を起点に表皮材3を引っ張って脱型を行い、繋がっている不要部分S2は脱型後に取り除く。
【0030】
したがって、第2突条部39Bの突設箇所を表皮材3から不要部分S2を取り除き難い箇所に突設することで、取り除き難い不要部分S2を脱型時に製品部分S1から分離させることができ、その後の取り除き作業をスムーズに行うことができる。
【0031】
なお、表皮材3が適用される成形品は、インストルメントパネルのパネル構成部材1に限らず、表皮材3を有する他の樹脂製成形品にも適用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明は、車両用インストルメントパネル等の樹脂製成形品の表面層を構成するスラッシュ成形表皮材の製造方法及び該製造方法に用いるスラッシュ成形型について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態1に係るスラッシュ成形型の断面図である。
【図2】実施形態1におけるスラッシュ成形型の加熱工程図である。
【図3】実施形態1において、スラッシュ成形型を原料収容ボックスにセットした状態を示す工程図である。
【図4】実施形態1において、図3の状態から原料収容ボックスを反転させてスラッシュ成形型の型成形面に粉体樹脂原料を付着溶融させている状態を示す工程図である。
【図5】実施形態1において、図4の状態から原料収容ボックスを元の姿勢に戻して粉体樹脂原料を原料収容ボックスに回収しスラッシュ成形型の型成形面に表皮材となる溶融樹脂層が形成された状態を示す工程図である。
【図6】実施形態1におけるスラッシュ成形型の再加熱工程図である。
【図7】再加熱直後の図6のA部拡大図である。
【図8】実施形態1において、突条部において溶融樹脂層の層厚が変化した状態を示す図7相当図である。
【図9】実施形態1において、成形された表皮材をスラッシュ成形型から脱型している状態を示す工程図である。
【図10】不要部分を取り除いた表皮材の断面図である。
【図11】図12のXI−XI線における断面図である。
【図12】車両用インストルメントパネルにおけるアッパパネルの右側半分を構成するパネル構成部材の平面図である。
【図13】実施形態2の図1相当図である。
【図14】実施形態2の図8相当図である。
【図15】実施形態2において、成形された表皮材をスラッシュ成形型から脱型している状態を示す工程図である。
【図16】従来例の図8相当図である。
【符号の説明】
【0034】
1 パネル構成部材(成形品)
3 表皮材
3b,31a 破断予定部
17 エアバッグ装置
33 エアバッグドア部
35 スラッシュ成形型
35c 張出部
37 型成形面
39 突条部
39A 第1突条部
39B 第2突条部
R1 粉体樹脂原料
R2 溶融樹脂層
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラッシュ成形表皮材の製造方法及び該製造方法に用いるスラッシュ成形型の改良に関し、特に、成形されたスラッシュ表皮材から不要部分を取り除く対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スラッシュ成形型は、型成形面側外周縁を原料収容ボックスの開口端縁に当接させ、原料収容ボックス側に設けられたクランプ治具で外周が挟持されて原料収容ボックスにセットされる。上記スラッシュ成形型の型成形面には、原料収容ボックスの上下方向への反転動作により原料収容ボックス内の粉体樹脂原料が付着し、この付着した粉体樹脂原料は型温により加熱溶融して溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層が冷却硬化することでスラッシュ成形表皮材が型成形面全体に成形される。成形された表皮材は脱型後、不要部分が取り除かれて製品となる。この不要部分を取り除き易くするために、断面三角形状の突条部を型成形面外周縁寄りの縦面における製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設することにより、成形された表皮材の製品部分と不要部分との境目にV形のノッチにより薄肉部を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭63−165112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、図16に示すように、スラッシュ成形型aの型成形面b外周縁寄りの縦面cに断面三角形状の突条部dを突設すると、該突条部dの先端が型内方に向かって突出しているため、スラッシュ成形型aの型成形面bに供給されて付着溶融した粉体樹脂原料からなる溶融樹脂層eが硬化する間に、上記突条部dの上方の溶融樹脂層eが重力の作用で突条部dの先端に向かって垂れて該突条部dの先端に溶融樹脂層eの厚肉部fが形成され、冷却硬化後に当該箇所から不要部分を取り除き難くなる。特に、表皮材が伸び率の高い材料で成形されている場合には、取り除き難さが増大する。
【0004】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、成形された表皮材から不要部分を容易にかつ確実に取り除くようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、この発明は、成形時における突条部の向きを工夫したことを特徴とする。
【0006】
具体的には、請求項1,2に記載の発明は、スラッシュ成形表皮材の製造方法に関するものであり、そのうち、請求項1に記載の発明が講じた解決手段は、型成形面の製品形状部外周縁に張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側に断面三角形状の突条部が製品形状部外周縁に沿って一体に突設されたスラッシュ成形型を加熱し、次いで、上記スラッシュ成形型の型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、その後、上記突条部の先端を上に向けた状態で上記溶融樹脂層を冷却硬化してスラッシュ成形表皮材を成形した後、該表皮材を脱型することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明が講じた解決手段は、請求項1に記載の発明において、表皮材は、エアバッグ装置が作動していない状態では破断予定部が表面側から識別できず、エアバッグ装置の作動によって上記破断予定部を破断して開くエアバッグドア部を備えた成形品の表面層を構成する表皮材であることを特徴とする。
【0008】
請求項3,4に記載の発明は、加熱された型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材を成形するスラッシュ成形型に関するものであり、そのうち、請求項3に記載の発明が講じた解決手段は、上記型成形面の製品形状部外周縁には、張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側中程には、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の突条部が製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明が講じた解決手段は、上記型成形面の製品形状部外周縁には、張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側中程には、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第1突条部が製品形状部外周縁に沿って間欠的に一体に突設されているとともに、上記張出部の型成形面側における張出端部には、上記第1突条部と同様に上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第2突条部が上記第1突条部のない領域に対応するように製品形状部外周縁に沿って一体に突設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、スラッシュ成形型の型成形面に供給されて付着溶融した粉体樹脂原料からなる溶融樹脂層が硬化する間に、先端を上に向けた突条部のところでは、溶融樹脂層はその表面張力と重力との作用で突条部の先端から傾斜面を伝って張出部側に向かって垂れるため、該突条部の先端に溶融樹脂層の薄肉部が形成され、冷却硬化して成形された表皮材の製品部分と不要部分との境目にV形のノッチにより薄肉部が形成される。したがって、表皮材が伸び率の高い材料で成形されている場合であっても、表皮材を脱型した後に不要部分を手で引っ張ることで上記薄肉部を容易にかつ確実に引き裂くことができ、表皮材から不要部分を容易にかつ確実に取り除くことができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、表皮材にはエアバッグ装置の作動による大きな衝撃が作用するが、表皮材を伸び率の高い材料で成形することで、破断予定部が破断してエアバッグドア部が開いても表皮材は飛散しない。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、型成形面の製品形状部外周縁に張出部を形成し、該張出部に突条部を突設するだけで、スラッシュ成形型の型構造を大幅に改造することなく請求項1に記載の効果を奏することができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、成形された表皮材を脱型する際、スラッシュ成形型の型成形面を上に向けた状態で、つまり第1及び第2突条部の先端を下に向けた状態で、表皮材の端末を手で引っ張って型成形面から剥がすと、上記第2突条部が張出部の型成形面側における張出端部に突設されているため、第2突条部の先端が表皮材の薄肉部に食い込み、当該領域に対応した表皮材の薄肉部を容易にかつ確実に引き裂くことができる。一方、上記第1突条部により形成された表皮材の薄肉部には、第1突条部が張出部の型成形面側中程に突設されているため、第1突条部の先端による剥ぎ取り力が作用せず、当該領域に対応した薄肉部は表皮材を脱型しても引き裂かれず、製品部分と不要部分とは繋がっており、この繋がっている不要部分は脱型後に取り除く。したがって、第2突条部の突設箇所を表皮材から不要部分を取り除き難い箇所に突設することで、取り除き難い不要部分を脱型時に製品部分から分離させることができ、その後の取り除き作業をスムーズに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0015】
(実施形態1)
図12は車両用インストルメントパネルにおけるアッパパネルの右側半分を構成するパネル構成部材(成形品)1を示す。該パネル構成部材1は、図11に示すように、パネル構成部材1の表面層を構成する樹脂製表皮材3と、パネル構成部材1の裏面層を構成する樹脂製基材5とが断面略平行に配置されており、これら表皮材3と基材5との間にウレタン発泡層7が一体に成形されている。上記表皮材3は、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)、TPO(サーモプラスチックオレフィン)、TPU(サーモプラスチックウレタン)等の樹脂材でスラッシュ成形されたものである。上記基材5は、例えばPP(ポリプロピレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)等の樹脂材で射出成形されたものである。上記ウレタン発泡層7は、独立発泡と連通発泡とが約半分ずつ分布する半硬質構造である。
【0016】
上記表皮材3の表皮材端末3aは基材5側に全周に亘って略L字状に折れ曲がって形成されている。一方、上記基材5の基材端末5aには表皮材3側に開口する凹部5bが全周に亘って形成されている。この凹部5bの外側縦壁5c内面に上記表皮材端末3a表面が内側から密着し、ウレタン発泡層7端末の表皮材3と基材5との間をシールしている。さらに、上記基材5の車体前方端寄りで車幅方向中程には、表皮材3と基材5との間に上記ウレタン発泡層7の原料である発泡ウレタン樹脂を注入するための樹脂注入口9が形成され(図12参照)、該樹脂注入口9は基材5裏面側からシール材(図示せず)が貼り付けられて閉塞されている。
【0017】
上記基材5は、矩形嵌合口11を有する基材本体13と、上記嵌合口11に基材本体13表側から嵌め込まれて装着されたエアバッグシュート部材15とを備えている。このエアバッグシュート部材15は、車体前後方向からの衝撃から助手席の乗員を保護するためのエアバッグ及びインフレータ等からなるエアバッグ装置17が内部に収納された矩形筒状の枠体19を備え、該枠体19は、車幅方向に延びる前側枠壁19aと、この前側枠壁19aの後側に対向配置されて車幅方向に延びる後側枠壁19bと、これら前側枠壁19a及び後側枠壁19bの左縁同士を連結するように車体前後方向に延びる左側枠壁(図示せず)と、右縁同士を連結するように車体前後方向に延びる右側枠壁(図示せず)とからなる。上記前側枠壁19a及び後側枠壁19bには、複数個の掛止孔21が車幅方向に間隔をあけて形成され、上記エアバッグ装置17に取り付けられた複数個のフック23を上記掛止孔21に挿入し、エアバッグ装置作動時に上記フック23が掛止孔21周縁に引っ掛かって後述するエアバッグドア部33(表皮材3、ウレタン発泡層7及びフラップ部31からなる3層構造部分)のみがエアバッグで上方に押圧されるようになっている。図11中、25は、車体のサイドパネルに橋絡されたインパネレインフォースメント(図示せず)に上記エアバッグ装置17を固定するためのブラケットである。
【0018】
上記枠体19上端部の外側には、フランジ部27が全周に亘って一体に外側方に向かって張り出し形成され、上記枠体19が上記嵌合口11に基材本体13表側から嵌め込まれた状態で、上記フランジ部27は裏面を上記嵌合口11周縁の基材本体13表面に重合させるとともに、上記前側枠壁19a及び後側枠壁19b上端部寄りに突設された係合突起29を上記嵌合口11周縁に下方から係合させることにより、上記エアバッグシュート部材15が基材本体13に支持されている。
【0019】
上記枠体19上端部の内側には、バックアップ用のフラップ部31が枠体19内部の上端側を閉塞するように一体に形成され、該フラップ部31裏面には、平面視略H字状(図4参照)の山形溝で薄肉化された破断予定部31aが形成されているとともに、所定幅に薄肉化された前後一対のヒンジ部31bが上記破断予定部31aの車体前方端側と車体後方端側とを連結するように形成されている。一方、上記表皮材3裏面にも、平面視略H字状の山形溝で薄肉化された破断予定部3bが上記フラップ部31の破断予定部31aに対応するように形成されている。これら破断予定部31a,3b及びヒンジ部31bで囲まれるパネル構成部材1の3層構造領域を前側ドア部33aと後側ドア部33bとからなるエアバッグドア部33としている。なお、上記フラップ部31裏面の破断予定部31a及びヒンジ部31bは、成形型の型構造によりエアバッグシュート部材15の射出成形と同時に形成されるが、上記表皮材3裏面の破断予定部3bは、スラッシュ成形後に熱刃等による後加工により形成される。
【0020】
これにより、車両衝突時にエアバッグ装置17のエアバッグがインフレータの作動によって膨出し、その膨出圧力でエアバッグドア部33が上方に押圧されて破断予定部31a,3bが破断し、前側ドア部33a及び後側ドア部33bが共にヒンジ部31bを支点に車体前後方向に上向きに観音開きに開くようになっており、エアバッグドア部33は、エアバッグ装置17が作動していない状態では上記破断予定部31a,3bがパネル構成部材1表面側から識別できない,いわゆるシームレスタイプに構成されている。
【0021】
次に、上記表皮材3を成形するスラッシュ成形型35について説明する。
【0022】
該スラッシュ成形型35は、図1に示すように、表皮材3の大半を成形する平面部35aを備え、該平面部35a外周縁には、表皮材端末3aを成形する縦面部35bが全周に亘って一体に垂設されている。また、該縦面部35b下端周縁には、張出部35cが全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部35cの張出端部には、スカート部35dが全周に亘って一体に延設されている。さらに、該スカート部35d下端の外周縁には、フランジ部35eが全周に亘って一体に張り出し形成されている。そして、上記スラッシュ成形型35のフランジ部35eを除く内面を表皮材3を成形する型成形面37とし、そのうち、上記平面部35a及び縦面部35bに対応する領域を製品形状部としている。上記張出部35cの型成形面37側中程には、断面三角形状の突条部39が製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設されている。このように構成されたスラッシュ成形型35は、後述するが、加熱された型成形面37に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材3を成形するようになっている。そして、上記突条部39は、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持されるようになっている。
【0023】
次に、上記スラッシュ成形型35を用いて表皮材3を成形する要領について説明する。以下に括弧書で付した番号は製造工程の順番を示す。
(1) 図2に示すように、スラッシュ成形型35を型成形面37が下になるようにして上下の加熱ヒータ41間に搬入し、例えば220℃に加熱する。
(2) 図3に示すように、上記加熱されたスラッシュ成形型35を型成形面37が下になるようにした状態で、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、TPO(サーモプラスチックオレフィン)、TPU(サーモプラスチックウレタン)等の粉体樹脂原料R1が収容された原料収容ボックス43開口端縁のフランジ部43aにスラッシュ成形型35のフランジ部35eを当接させてスラッシュ成形型35を原料収容ボックス43にセットし、該原料収容ボックス43側に設けられた図示しないクランプ治具で上記スラッシュ成形型35のフランジ部35eを挟持して、スラッシュ成形型35及び原料収容ボックス43の両フランジ部35e,43aの合わせ面をシール材45でシールする。
(3) 図4に示すように、回転軸47を図示しない回転装置によって回転させることにより、上記原料収容ボックス43を上下方向に反転させ、原料収容ボックス43内に収容された粉体樹脂原料R1を上記スラッシュ成形型35の型成形面37に供給して付着させる。図4において型成形面37に接近して沿う密集した点々は、粉体樹脂原料R1がスラッシュ成形型35の型成形面37に付着している状態を示す。型成形面37に付着した粉体樹脂原料R1が型温により加熱溶融して溶融樹脂層R2(図5参照)が形成され始める。その後、図5に示すように、原料収容ボックス43を上記とは逆に上下方向に反転させて元の姿勢に戻し、余剰の粉体樹脂原料R1を原料収容ボックス43内に落下させて回収する。
(4) スラッシュ成形型35を原料収容ボックス43から取り外し、図6に示すように、型成形面37が下になるようにして上下の加熱ヒータ41間に再度搬入して再加熱し、型成形面37に付着した未溶融の粉体樹脂原料R1を完全に溶融させる。この状態で、突条部39は先端を上に向けている。図7は再加熱直後のスラッシュ成形型35の突条部39周りを拡大し、この段階では溶融樹脂層R2の層厚は型成形面37全体に均等に形成されているが、時間が経つにつれて、図8に示すように変化する。つまり、溶融樹脂層R2は、先端を上に向けた突条部39のところでは、表面張力と重力との作用で突条部39の先端から傾斜面を伝って張出部35c側に向かって垂れ、該突条部39の先端に溶融樹脂層R2の薄肉部R2−1が形成される。
(5) スラッシュ成形型35をエアの吹付けにより冷却し、溶融樹脂層R2を硬化させる。これにより、前工程で起こっている溶融樹脂層R2の垂れ現象が停止し、スラッシュ成形表皮材3が成形される(図9参照)。成形された表皮材3には、型成形面37の製品形状部に対応する製品部分S1と不要部分S2との境目にV形のノッチ37aにより薄肉部37bが形成されている。
(6) 図9に示すように、スラッシュ成形型35の型成形面37を上に向けた状態で表皮材3の端末を手で引っ張って型成形面37から剥がし、該表皮材3をスラッシュ成形型35から脱型する。この段階では、表皮材3の薄肉部37bは引き裂かれず、製品部分S1と不要部分S2とは繋がっているが、その後、上記不要部分S2を引っ張って薄肉部37bを引き裂き、製品部分S1から取り除く(図10参照)。製品部分S1端末(表皮材端末3a)は全周に亘って略L字状に折れ曲がっているが、パネル構成部材1に適用された状態で、図11に示すように、ウレタン発泡層7に埋設されるので邪魔にならない。
【0024】
このように、この実施形態1では、溶融樹脂層R2が硬化する間、突条部39の先端が上を向いているので、上述の如く溶融樹脂層R2の表面張力と重力との作用で表皮材3の製品部分S1と不要部分S2との境目に薄肉部37bを形成でき、表皮材3が伸び率の高い材料で成形されている場合であっても、表皮材3を脱型した後に不要部分S2を手で引っ張ることで上記薄肉部37bを容易にかつ確実に引き裂くことができ、表皮材3から不要部分S2を容易にかつ確実に取り除くことができる。
【0025】
また、上記の表皮材3が適用されたパネル構成部材1では、エアバッグ装置17の作動による大きな衝撃が表皮材3に作用しても、表皮材3を伸び率の高い材料で成形することで、破断予定部31a,3bが破断してエアバッグドア部33が開いても表皮材3を飛散しないようにすることができる。
【0026】
さらに、上記のスラッシュ成形型35では、型成形面37の製品形状部37a外周縁に張出部35cを形成し、該張出部35cに突条部39を突設するだけで、スラッシュ成形型35の型構造を大幅に改造することなく上述の如き効果を奏することができる。
【0027】
(実施形態2)
図13〜15は実施形態2に係るスラッシュ成形型35を示す。この実施形態2では、
型内方に張り出す張出部35cの型成形面37側中程に、溶融樹脂層R2の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第1突条部39Aを製品形状部外周縁に沿って間欠的に一体に突設している(図10右側参照)とともに、上記張出部35cの型成形面37側における張出端部に、上記第1突条部39Aと同様に上記溶融樹脂層R2の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第2突条部39Bが上記第1突条部39Aのない領域に対応するように製品形状部外周縁に沿って一体に突設されている(図10左側参照)。そのほかは、実施形態1と同様に構成されているので、同一箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0028】
そして、この実施形態2では、成形された表皮材3を脱型する際、図15に示すように、スラッシュ成形型35の型成形面37を上に向けた状態で、つまり第1及び第2突条部39A,39Bの先端を下に向けた状態で、表皮材3の端末を手で引っ張って型成形面37から剥がすと、上記第2突条部39Bが張出部35cの型成形面37側における張出端部に突設されているため、第2突条部39Bの先端が表皮材3の薄肉部37cに食い込み、当該領域に対応した表皮材3の薄肉部37cを容易にかつ確実に引き裂くことができる。
【0029】
一方、第1突条部39Aにより形成された表皮材3の薄肉部37cには、第1突条部39Aが張出部35cの型成形面37側中程に突設されているため、第1突条部39Aの先端による剥ぎ取り力が作用せず、当該領域に対応した薄肉部37cは表皮材3を脱型しても引き裂かれず、製品部分S1と不要部分S2とは繋がっており、この部分を起点に表皮材3を引っ張って脱型を行い、繋がっている不要部分S2は脱型後に取り除く。
【0030】
したがって、第2突条部39Bの突設箇所を表皮材3から不要部分S2を取り除き難い箇所に突設することで、取り除き難い不要部分S2を脱型時に製品部分S1から分離させることができ、その後の取り除き作業をスムーズに行うことができる。
【0031】
なお、表皮材3が適用される成形品は、インストルメントパネルのパネル構成部材1に限らず、表皮材3を有する他の樹脂製成形品にも適用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明は、車両用インストルメントパネル等の樹脂製成形品の表面層を構成するスラッシュ成形表皮材の製造方法及び該製造方法に用いるスラッシュ成形型について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態1に係るスラッシュ成形型の断面図である。
【図2】実施形態1におけるスラッシュ成形型の加熱工程図である。
【図3】実施形態1において、スラッシュ成形型を原料収容ボックスにセットした状態を示す工程図である。
【図4】実施形態1において、図3の状態から原料収容ボックスを反転させてスラッシュ成形型の型成形面に粉体樹脂原料を付着溶融させている状態を示す工程図である。
【図5】実施形態1において、図4の状態から原料収容ボックスを元の姿勢に戻して粉体樹脂原料を原料収容ボックスに回収しスラッシュ成形型の型成形面に表皮材となる溶融樹脂層が形成された状態を示す工程図である。
【図6】実施形態1におけるスラッシュ成形型の再加熱工程図である。
【図7】再加熱直後の図6のA部拡大図である。
【図8】実施形態1において、突条部において溶融樹脂層の層厚が変化した状態を示す図7相当図である。
【図9】実施形態1において、成形された表皮材をスラッシュ成形型から脱型している状態を示す工程図である。
【図10】不要部分を取り除いた表皮材の断面図である。
【図11】図12のXI−XI線における断面図である。
【図12】車両用インストルメントパネルにおけるアッパパネルの右側半分を構成するパネル構成部材の平面図である。
【図13】実施形態2の図1相当図である。
【図14】実施形態2の図8相当図である。
【図15】実施形態2において、成形された表皮材をスラッシュ成形型から脱型している状態を示す工程図である。
【図16】従来例の図8相当図である。
【符号の説明】
【0034】
1 パネル構成部材(成形品)
3 表皮材
3b,31a 破断予定部
17 エアバッグ装置
33 エアバッグドア部
35 スラッシュ成形型
35c 張出部
37 型成形面
39 突条部
39A 第1突条部
39B 第2突条部
R1 粉体樹脂原料
R2 溶融樹脂層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型成形面の製品形状部外周縁に張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側に断面三角形状の突条部が製品形状部外周縁に沿って一体に突設されたスラッシュ成形型を加熱し、
次いで、上記スラッシュ成形型の型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、
その後、上記突条部の先端を上に向けた状態で上記溶融樹脂層を冷却硬化してスラッシュ成形表皮材を成形した後、該表皮材を脱型することを特徴とするスラッシュ成形表皮材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスラッシュ成形表皮材の製造方法において、
表皮材は、エアバッグ装置が作動していない状態では破断予定部が表面側から識別できず、エアバッグ装置の作動によって上記破断予定部を破断して開くエアバッグドア部を備えた成形品の表面層を構成する表皮材であることを特徴とするスラッシュ成形表皮材の製造方法。
【請求項3】
加熱された型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材を成形するスラッシュ成形型であって、
上記型成形面の製品形状部外周縁には、張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側中程には、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の突条部が製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設されていることを特徴とするスラッシュ成形型。
【請求項4】
加熱された型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材を成形するスラッシュ成形型であって、
上記型成形面の製品形状部外周縁には、張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側中程には、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第1突条部が製品形状部外周縁に沿って間欠的に一体に突設されているとともに、上記張出部の型成形面側における張出端部には、上記第1突条部と同様に上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第2突条部が上記第1突条部のない領域に対応するように製品形状部外周縁に沿って一体に突設されていることを特徴とするスラッシュ成形型。
【請求項1】
型成形面の製品形状部外周縁に張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側に断面三角形状の突条部が製品形状部外周縁に沿って一体に突設されたスラッシュ成形型を加熱し、
次いで、上記スラッシュ成形型の型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、
その後、上記突条部の先端を上に向けた状態で上記溶融樹脂層を冷却硬化してスラッシュ成形表皮材を成形した後、該表皮材を脱型することを特徴とするスラッシュ成形表皮材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスラッシュ成形表皮材の製造方法において、
表皮材は、エアバッグ装置が作動していない状態では破断予定部が表面側から識別できず、エアバッグ装置の作動によって上記破断予定部を破断して開くエアバッグドア部を備えた成形品の表面層を構成する表皮材であることを特徴とするスラッシュ成形表皮材の製造方法。
【請求項3】
加熱された型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材を成形するスラッシュ成形型であって、
上記型成形面の製品形状部外周縁には、張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側中程には、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の突条部が製品形状部外周縁に沿って全周に亘って一体に突設されていることを特徴とするスラッシュ成形型。
【請求項4】
加熱された型成形面に粉体樹脂原料を供給して付着溶融させて溶融樹脂層を形成し、該溶融樹脂層を冷却硬化することでスラッシュ表皮材を成形するスラッシュ成形型であって、
上記型成形面の製品形状部外周縁には、張出部が全周に亘って型内方に張り出し形成され、該張出部の型成形面側中程には、上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第1突条部が製品形状部外周縁に沿って間欠的に一体に突設されているとともに、上記張出部の型成形面側における張出端部には、上記第1突条部と同様に上記溶融樹脂層の冷却硬化過程で先端を上に向けた姿勢に保持される断面三角形状の第2突条部が上記第1突条部のない領域に対応するように製品形状部外周縁に沿って一体に突設されていることを特徴とするスラッシュ成形型。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−216646(P2007−216646A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42965(P2006−42965)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]