説明

センサ付軸受装置

【課題】外部磁束に強く、高分解能な回転状態信号を出力可能なセンサ付軸受装置を提供する。
【解決手段】内輪16と外輪18との間にボール20が配置された軸受12と、回転輪としての内輪16に支持または、一体に形成された回転部材22と、静止輪としての外輪18に支持されて回転部材22の外周面を包囲する円筒部材26と、円筒部材26に配置された一対の検出コイル28、30と、各検出コイル28、30の出力にしたがって回転部材22の回転状態を検出する回転状態検出器とを備え、回転部材22は、磁性材料で構成され、回転部材22には軸方向に伸びる溝24が複数状形成され、円筒部材26には回転部材22の相対回転位置に応じて溝24との重なり具合が変化するように窓32、34が複数列形成され、各列の窓32、34が各検出コイル28、30によって包囲され、検出コイル28、30からは回転部材22の回転状態を示す2相信号が出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ付軸受装置に係り、特に、ロボットアームや自動車のハブなどの回転支持部分に組み込んで、角度や回転角速度などを検出することに利用することができるセンサ付軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサとしては、回転軸の角度や回転角速度を検出するものが知られている。これらセンサのうち回転状態検出機能を有するセンサを軸受に付加したセンサ付軸受装置が提案されている。例えば、特許文献1に開示されているように多極に着磁されたマグネットの磁極をホールICで検出し、回転状態を検知するものが公知である。
【特許文献1】特許昭63−111416
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来のセンサ付軸受装置では、高分解能化しようとするにも、エンコーダのN・S極のピッチを小さくするには限界がある。またマグネットにより回転状態を検出する方式では、外部磁束に影響されやすいという課題がある。
【0004】
そこで、本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて為されたものであり、外部磁束に強く、高分解能な回転状態信号を出力可能なセンサ付軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は、静止輪と回転輪との間に複数の転動体が配置された軸受と、前記回転輪に支持または一体に形成された回転部材と、前記静止輪に支持されて前記回転部材の外周面を包囲する円筒部材と、前記円筒部材に配置された一対の検出コイルと、前記一対の検出コイルの出力に従って前記回転部材の回転状態を検出する回転状態検出器とを備え、前記回転部材は、磁性材料で構成され、前記回転部材には軸方向に延びる溝が複数条形成され、前記円筒部材には前記回転部材との相対回転位置に応じて前記溝との重なり具合が変化するように窓が複数列形成され、前記各列の窓が形成された領域を包囲するように前記各検出コイルが配置されてなることを特徴とするセンサ付軸受装置を構成したものである。
【0006】
本発明によれば、円筒部材の内側には磁性材料からなる回転部材が配置され、回転部材には複数状の溝が円筒部材の窓と同期を持って形成されており、磁界中に置かれた磁性材料により回転部材が磁化されて、磁束を発生する際に、その量は飽和に至るまで磁界の強さに応じて大きくなる。このため、円筒部材によって作られる円周方向に周期的な強弱と半径方向に勾配を有する磁界によって、回転部材の磁束は円筒部材との相対的な位相によって増減する。この磁束が最大となる位相は窓の中心と、溝と溝との間の凸部の中心とが一致した状態であり、磁束の増減に応じて、一対の検出コイルのインダクタンスも増減し、その変化は、ほぼ正弦波状となる。しかも、各窓は互いに位相差を持つように形成されているので、各検出コイルからは、回転部材の回転状態として、位相差を持った2相信号が出力されることになり、2相信号を回転状態検出器で演算することにより高分解能化が可能である。また、磁気エンコーダを使用しない構造のため、外部磁束に強く回転部材の回転状態を高精度に検出することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外部磁束に強く高分解能化が可能となり、回転部材の回転状態を高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施例を示すセンサ付軸受装置の斜視図、図2は、本発明の一実施例を示すセンサ付軸受装置の分解斜視図である。図1および図2において、センサ付軸受装置10は、軸受12を備え、軸受12には、軸受12の回転状態を検出するためのセンサ14が付加されている。軸受12は、内輪16と、外輪18と、内輪16と外輪18との間に装着された転動体としてのボール20を複数個備えて構成されており、内輪16、外輪18のうち一方が静止輪となり、他方が回転輪となって軸受装置を構成するようになっている。内輪16を回転輪とした場合、内輪16にはほぼ円筒状に形成された回転部材22が支持される。回転部材22は磁性体として、磁性材料を用いて構成されており、その外周側には複数の凹凸部が等間隔で周方向に沿って形成されている。各凹凸部のうち凹部は溝24として形成され、凸部は溝24と溝24との間に形成されている。すなわち回転部材22の外周側には、軸方向に伸びる溝24が複数条形成されており、各条の溝24は回転部材22の周方向において等間隔で形成されている。回転部材22の外側には円筒部材26が配置されており、円筒部材26の外周側には一対の検出コイル28、30が配置されている。円筒部材26、検出コイル28、30は静止輪としての外輪18に支持されている。
【0009】
円筒部材26は、導電性で且つ非磁性の材料から形成されており、この円筒部材26には、その周方向に沿って等間隔に離隔した長方形の複数の窓32、34が複数列、位相が互いに90度ずれるように形成されている。そして、検出コイル28、30は、各列の窓32、34をそれぞれ包囲するように配置されている。各検出コイル28、30は、回転状態検出器(図示せず)に接続されており、各検出コイル28、30には、回転状態検出器から正弦波状の電圧が印加されるようになっている。回転状態検出器は、各検出コイル28、30に正弦波状の電圧を印加して各検出コイル28、30に起電力を誘導させて、この起電力を基に回転部材22の回転状態としてその角度を算出するように構成されている。
【0010】
上記構成において、内輪16が回転輪として回転すると、それに伴って回転部材22が回転する。この際、円筒部材26に窓32、34がない状態では、円筒部材26は導電性で且つ非磁性の材料で構成されていることから、検出コイル28、30に交流電流を流して検出コイル28、30内部に交番磁界を生じさせると、円筒部材26の外周面には各検出コイル28、30に流れるコイル電流とは反対方向の渦電流が発生する。この渦電流による磁界と検出コイル28、30による磁界とを重ね合わせると、円筒部材26の内側の磁界は相殺される。
【0011】
これに対して、円筒部材26に、窓32、34を2列に設けた場合、円筒部材26の外周面に生じた渦電流は、窓32、34によって外周面を周回できないため、窓32、34の端面に沿って円筒部材26の内周面側に回りこみ、その内周面をコイル電流と同一方向に流れ、さらに相隣接する窓32または窓34の端面に沿って外周面側に戻り、ループを形成する。つまり、検出コイル28、30の内側に、渦電流のループを周方向に周期的に配置した状態となる。
【0012】
円筒部材26の内側には、磁性材料からなる回転部材22が同軸に配置され、その回転部材22には軸方向に沿って溝24が、窓32、34と同じ周期で形成されているので、磁界中に置かれた回転部材22は磁化されて磁束を発生するが、その量は飽和に至るまでには磁界の強さに応じて大きくなる。
【0013】
このため、円筒部材26によって作られる周方向に周期的な強弱と半径方向に勾配を有する磁界によって、回転部材22の磁束は、円筒部材26との相対的な位相によって増減する。このとき、磁束が最大となる位相は、各窓32、34の中心と、溝24と溝24との間の凸部の中心とが一致した状態であり、磁束の増減に応じて、検出コイル28、30のインダクタンスも増減する。その変化は、ほぼ正弦波状となる。このとき、窓32、34は互いに90度の位相を持つように形成されているので、検出コイル28、30からは、回転部材22の回転状態を示す信号として、90度の位相差をもった2相信号が出力される。回転状態検出器は、入力された2相信号を基に回転部材22の回転状態として、回転部材22の角度・回転速度・回転方向などを演算することができ、角度・回転速度・回転方向などの演算結果をアナログ信号、デジタル信号あるいはパルス信号で出力する。この際、回転状態検出器において、特に1周期を分割してパルスを生成すれば、「1周期のパルス数×周期数」のパルスを生成することができ、高分解能化が可能である。
【0014】
また回転状態検出器は軸受に組み込んでもよいし、外付けであってもよい。
また、上記実施の形態においては、玉軸受に適用した例を示したが、これに限定するものではなく、円錐ころ軸受・ニードル軸受・ころ軸受・複列軸受・その他任意の種類の軸受に適用してもよい。
【0015】
また、上記実態の形態において、回転部材22は、内輪16に支持された構造としているが、回転部材22と内輪16を一体で形成すると、部品点数が削減できるので好ましい。また、上記実施の形態においては窓32・34の位相差は90度で形成しているが、これに限定するものではない。しかし、位相差を90度にすると2相信号の位相差が90度となり、角度の算出が容易となるので、90度の位相差が好ましい。
【0016】
本実施の形態によれば、磁気エンコーダ方式とは異なり、外部磁束に強く、高分解能化が可能であって、回転部材22の回転状態を高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例を示すセンサ付軸受装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施例を示すセンサ付軸受装置の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0018】
10 センサ付軸受装置
12 軸受
14 センサ
16 内輪
18 外輪
20 ボール
22 回転部材
24 溝
26 円筒部材
28、30 検出コイル
32、34 窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止輪と回転輪との間に複数の転動体が配置された軸受と、前記回転輪に支持または、一体に成形された回転部材と、前記静止輪に支持されて前記回転部材の外周面を包囲する円筒部材と、前記円筒部材に配置された一対の検出コイルと、前記一対の検出コイルの出力に従って前記回転部材の回転状態を検出する回転状態検出器とを備え、前記回転部材は、磁性材料で構成され、前記回転部材には軸方向に延びる溝が複数条形成され、前記円筒部材には前記回転部材との相対回転位置に応じて前記溝との重なり具合が変化するように窓が複数列形成され、前記各列の窓が形成された領域を包囲するように前記各検出コイルが配置されてなることを特徴とするセンサ付軸受装置。
【請求項2】
前記回転状態検出器は、前記各検出コイルの出力の比から前記回転部材の回転状態を検出してなることを特徴とする請求項1に記載のセンサ付軸受装置。
【請求項3】
前記回転状態検出器は、前記回転部材の回転状態をアナログ信号で出力してなることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ付軸受装置。
【請求項4】
前記回転状態検出器は、前記回転部材の回転状態をデジタル信号で出力してなることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ付軸受装置。
【請求項5】
前記回転状態検出器は、前記回転部材の回転状態をパルス信号で出力してなることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ付軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−64633(P2008−64633A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243373(P2006−243373)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】