説明

ダイボンドフィルム、ダイシング・ダイボンドフィルム、及び、半導体装置

【課題】 高温に長時間晒されたとしても、ダイボンドフィルムと被着体との境界におけるボイドの発生を低減することができるダイボンドフィルムを提供すること。
【解決手段】 ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体と硬化剤とを含有し、示差熱量計を用い、25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した場合の発熱量が10mJ/mg以下であるダイボンドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体チップ等の半導体素子を基板やリードフレーム等の被着体上に接着固定する際に用いられるダイボンドフィルムに関する。また本発明は、当該ダイボンドフィルムとダイシングフィルムとが積層されたダイシング・ダイボンドフィルムに関する。また、本発明は、当該ダイボンドフィルム、又は、当該ダイシング・ダイボンドフィルムを用いて製造された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造過程に於いてリードフレームや電極部材への半導体チップの固着には、銀ペーストが用いられている。かかる固着処理は、リードフレームのダイパッド等の上にペースト状接着剤を塗工し、それに半導体チップを搭載してペースト状接着剤層を硬化させて行う。
【0003】
しかしながら、ペースト状接着剤はその粘度挙動や劣化等により塗工量や塗工形状等に大きなバラツキを生じる。その結果、形成されるペースト状接着剤厚は不均一となるため半導体チップに係わる固着強度の信頼性が乏しい。即ち、ペースト状接着剤の塗工量が不足すると半導体チップと電極部材との間の固着強度が低くなり、後続のワイヤーボンディング工程で半導体チップが剥離する。一方、ペースト状接着剤の塗工量が多すぎると半導体チップの上までペースト状接着剤が流延して特性不良を生じ、歩留まりや信頼性が低下する。この様な固着処理に於ける問題は、半導体チップの大型化に伴って特に顕著なものとなっている。そのため、ペースト状接着剤の塗工量の制御を頻繁に行う必要があり、作業性や生産性に支障をきたす。
【0004】
このペースト状接着剤の塗工工程に於いて、ペースト状接着剤をリードフレームや形成チップに別途塗布する方法がある。しかし、この方法では、ペースト状接着剤層の均一化が困難であり、またペースト状接着剤の塗布に特殊装置や長時間を必要とする。このため、ダイシング工程で半導体ウェハを接着保持するとともに、マウント工程に必要なチップ固着用の接着剤層をも付与するダイシングフィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このダイシングフィルムは、支持基材上に接着剤層を剥離可能に設けてなるものであり、その接着剤層による保持下に半導体ウェハをダイシングしたのち、支持基材を延伸して形成チップを接着剤層とともに剥離し、これを個々に回収してその接着剤層を介してリードフレーム等の被着体に固着させるようにしたものである。このとき、通常、接着材層と被着体の間にはボイドが存在する。従来、このボイドは、封止樹脂による封止工程における熱や圧力により消失させている。
【0006】
一方、近年、複数の半導体チップが多段に積層された半導体装置が製造されており、半導体チップにワイヤーボンディングを行うワイヤーボンディング工程や、ダイボンドフィルムを熱硬化させる工程等に費やされる時間が長時間化する傾向にある。そして、高温に長時間晒された場合、ダイボンドフィルムと被着体との境界における気泡(ボイド)が封止工程において消失しない傾向にある。このボイドは、被着体から半導体チップが剥離する原因となり、接着信頼性に欠けるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−57642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、高温で長時間の処理を行なった場合であっても、ダイボンドフィルムと被着体との境界におけるボイドの発生を低減することができ、かつ、リフロー工程における剥離を抑制するダイボンドフィルム、ダイシング・ダイボンドフィルム、及び、当該ダイボンドフィルム又は当該ダイシング・ダイボンドフィルムを用いて製造された半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、ダイボンドフィルム、及び、当該ダイボンドフィルムとダイシングフィルムとが積層されたダイシング・ダイボンドフィルムについて検討した。その結果、ダイボンドフィルムを高温で処理すると、ダイボンドフィルムに含まれる熱硬化樹脂成分が急激に反応することが原因で、ダイボンドフィルムと被着体との境界において気泡(ボイド)が封止工程において消失しないことを見出した。そして、下記構成を採用し、ダイボンドフィルムに含まれる熱硬化樹脂成分の反応を抑制することにより、封止工程でボイドを消失させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るダイボンドフィルムは、ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体と硬化剤とを含有し、示差熱量計を用い、25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した場合の発熱量が10mJ/mg以下であることを特徴とする。
【0011】
前記構成によれば、示差熱量計を用い、25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した場合の発熱量が10mJ/mg以下であり、前記熱硬化性樹脂成分と前記硬化剤との反応が抑制される。従って、ダイボンドフィルムと被着体との境界におけるボイドの発生を抑制することができる。その結果、高温で長時間の処理を行なった場合であっても、ダイボンドフィルムと被着体との境界におけるボイドの発生を低減することができる。また、前記構成によれば、ニトリル基を含有するため、凝集力が向上する。その結果、リフロー工程での剥離を抑制することかできる。すなわち、前記構成によれば、ボイド抑制とリフロー工程での剥離抑制との両立が可能となる。
【0012】
前記構成においては、175℃にて5時間熱硬化した後を基準とした、重量の5重量%減少温度が280℃以上であり、175℃にて5時間熱硬化した後の吸水率が1重量%以下であることが好ましい。175℃にて5時間熱硬化した後を基準とした、重量の5重量%減少温度が280℃以上とし、175℃にて5時間熱硬化した後の吸水率が1重量%以下とすることにより、リフロー工程における、前記ボイドを起点とした剥離を防止することができる。なお、5重量%減少温度とは、175℃にて5時間熱硬化した後のダイボンドフィルムを所定の昇温速度(例えば10℃/min)で加熱し、ダイボンドフィルムの重量が5%減少するときの温度をいう(熱重量法:TGA法)。また、リフロー工程は、半導体パッケージを組み立てた後に、プリント配線板などに、はんだを用いて実装する際に通る工程であり、通常、260℃程度に加熱する工程である。
【0013】
前記構成においては、175℃にて5時間熱硬化した後の260℃での引張貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることが好ましい。175℃にて5時間熱硬化した後の260℃での引張貯蔵弾性率が0.5MPa以上であると、リフロー工程における、前記ボイドを起点とした剥離をより防止することができる。
【0014】
前記構成において、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量をx、前記硬化剤の重量をyとしたとき、重量比(x/y)が2以上20以下であることが好ましい。前記重量比(x/y)が2以上であると、前記発熱量を10mJ/mg以下とし易い。一方、前記重量比(x/y)が20以下であると、リフロー工程の際に、剥離に抵抗する凝集力を付与し易い。
【0015】
前記構成において、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量平均分子量が50万以上であることが好ましい。前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量平均分子量が50万以上であると、リフロー工程の際に、剥離に抵抗する凝集力をより付与し易い。
【0016】
前記構成において、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体は、エポキシ基を含有し、且つ、エポキシ価が0.1eq/Kg以上1eq/Kg以下であることが好ましい。前記エポキシ価が0.1eq/Kg以上であると、熱硬化後においても、高温での充分な弾性率を得ることができる。一方、前記エポキシ価が1eq/Kg以下であると、硬化剤との反応をより抑制することができる。
【0017】
前記構成において、前記硬化剤は、フェノール性水酸基を有することが好ましい。前記硬化剤がフェノール性水酸基を有していると、エポキシ基との反応により凝集力を更に向上させることができる。
【0018】
また、本発明に係るダイシング・ダイボンドフィルムは、前記の課題を解決する為に、前記に記載のイボンドフィルムが、ダイシングフィルム上に積層されていることを特徴とする。
【0019】
前記構成において、前記ダイボンドフィルムの熱硬化前の25℃での引張貯蔵弾性率は、1MPa以上5GPa以下であることが好ましい。前記ダイボンドフィルムの熱硬化前の25℃での引張貯蔵弾性率が1MPa以上であると、ダイシングフィルムとの剥離力が適度であり、ピックアップ性を良好とすることができる。一方、前記ダイボンドフィルムの熱硬化前の25℃での引張貯蔵弾性率が5GPa以下であると、ハンドリング性に優れる。
【0020】
また、本発明に係る半導体装置は、前記の課題を解決する為に、前記に記載のダイボンドフィルム、又は、ダイシング・ダイボンドフィルムを用いて製造されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【図3】図1に示したダイシング・ダイボンドフィルムに於ける接着剤層を介して半導体チップを実装した例を示す断面模式図である。
【図4】図1に示したダイシング・ダイボンドフィルムに於ける接着剤層を介して半導体チップを3次元実装した例を示す断面模式図である。
【図5】図1に示したダイシング・ダイボンドフィルムを用いて、2つの半導体チップをスペーサを介して接着剤層により3次元実装した例を示す断面模式図である。
【図6】示差走査熱量測定により得られる典型的な示差熱量曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(ダイシング・ダイボンドフィルム)
本発明の一実施形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムについて、以下に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。図2は、本発明の他の実施形態に係る他のダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【0023】
図1に示すように、ダイシング・ダイボンドフィルム10は、ダイシングフィルム11上にダイボンドフィルム3が積層された構成を有する。ダイシングフィルム11は基材1上に粘着剤層2を積層して構成されており、ダイボンドフィルム3はその粘着剤層2上に設けられている。また本発明は、図2に示すダイシング・ダイボンドフィルム12のように、粘着剤層2のワーク貼り付け部分2aにのみダイボンドフィルム3’を形成した構成であってもよい。
【0024】
ダイボンドフィルム3、3’は、接着剤層の単層のみからなり、ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体と硬化剤とを含有している。なお、本実施形態では、ダイボンドフィルム3、3’が接着剤層の単層のみからなる場合について説明するが、本発明において、ダイボンドフィルム3、3’の積層構造は特に限定されず、例えば、コア材料の片面又は両面に接着剤層を形成した多層構造のもの等であってもよい。前記コア材料としては、フィルム(例えばポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等)、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維で強化された樹脂基板、シリコン基板又はガラス基板等が挙げられる。
【0025】
ダイボンドフィルム3、3’は、示差熱量計を用い、25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した場合の発熱量が10mJ/mg以下である。前記発熱量は、8mJ/mg以下であることが好ましく、5mJ/mg以下であることがより好ましい。また、前記発熱量は、小さいほど好ましいが、例えば、0.001mJ/mg以上である。前記発熱量が10mJ/mg以下であるため、ダイボンドフィルム3、3’と被着体6(図3参照)との境界におけるボイドの発生を抑制することができる。その結果、高温で長時間の処理を行なった場合であっても、ダイボンドフィルム3、3’と被着体との境界におけるボイドの発生を低減することができる。前記発熱量を10mJ/mg以下にコントロールする方法としては、熱硬化性アクリル共重合体と硬化剤とを反応させること、実質的に硬化促進剤を使用しないこと等を挙げることができる。
【0026】
ダイボンドフィルム3、3’は、175℃にて5時間熱硬化した後を基準とした、重量の5重量%減少温度が280℃以上であることが好ましく290℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。前記重量%減少温度は、高いほど好ましいが、例えば、450℃以下である。
また、ダイボンドフィルム3、3’は、175℃にて5時間熱硬化した後の吸水率が1重量%以下であることが好ましく、0.9重量%以下であることがより好ましく、0.8重量%以下であることがさらに好ましい。前記吸水率は、小さいほど好ましいが、例えば、0.05重量%以上である。前記吸水率は、実施例記載の方法により得られる。
ダイボンドフィルム3、3’は、175℃にて5時間熱硬化した後を基準とした、重量の5重量%減少温度を280℃以上とし、175℃にて5時間熱硬化した後の吸水率を1重量%以下とすることにより、リフロー工程における、前記ボイドを起点とした剥離を防止することができる。
【0027】
ダイボンドフィルム3、3’は、175℃にて5時間熱硬化した後の260℃での引張貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることが好ましく、0.55MPa以上3000MPa以下であることがより好ましく、0.6MPa以上2000MPa以下であることがさらに好ましい。175℃にて5時間熱硬化した後の260℃での引張貯蔵弾性率が0.5MPa以上であると、リフロー工程における、前記ボイドを起点とした剥離をより防止することができる。
【0028】
ダイボンドフィルム3、3’は、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量をx、前記硬化剤の重量をyとしたとき、重量比(x/y)が2以上20以下であることが好ましく、2.3以上15.6以下であることがより好ましく、3以上11.5以下であることがさらに好ましい。前記重量比(x/y)が2以上であると、前記発熱量を10mJ/mg以下とし易い。一方、前記重量比(x/y)が20以下であると、リフロー工程の際に、剥離に抵抗する凝集力を付与し易い。
【0029】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体は、重量平均分子量が50万以上であることが好ましく、80万以上200万以下であることがより好ましい。前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量平均分子量が50万以上であると、リフロー工程の際に、剥離に抵抗する凝集力をより付与し易い。
【0030】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体は、エポキシ基を含有し、且つ、エポキシ価が0.1eq/Kg以上1eq/Kg以下であることが好ましく、0.15eq/Kg以上0.8eq/Kg以下であることがより好ましく、0.2eq/Kg以上0.6eq/Kg以下であることがさらに好ましい。前記エポキシ価が0.1eq/Kg以上であると、熱硬化後においても、高温での充分な弾性率を得ることができる。一方、前記エポキシ価が1eq/Kg以下であると、硬化剤との反応をより抑制することができる。
【0031】
また、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体のガラス転移点(Tg)は、ダイボンドフィルム3、3’と被着体(例えば、ウエハ)との間に適度な接着性が得られる限り、特に限定されないが、−15℃以上40℃以下であることが好ましく、−10℃以上35℃以下であることがより好ましい。−15℃以上とすることにより半導体ウェハへの接着性を充分なものとすることができるからである。また、40℃以下とすることにより、タックを抑えて取り扱い性を向上させることができるからである。なお、ガラス転移点は、実施例記載の方法により得られる。
【0032】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体としては、特に限定されるものではなく、ニトリル基と、直鎖若しくは分岐のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの1種又は2種以上とを成分とする重合体(共重合体)に、熱硬化性の官能基を有するモノマーを添加したものが挙げられる。
【0033】
前記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、又はドデシル基等が挙げられる。
【0034】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ニトリル基含有モノマーとアクリル系モノマーと熱硬化性の官能基を有するモノマーを共重合する方法が挙げられる。また、ニトリル基含有モノマーとアクリル系モノマーとを共重合したものに熱硬化性の官能基を有するモノマーを添加する方法も挙げられる。また、他の方法としては、アクリル系モノマーと第1の官能基を有するモノマーとを共重合した後に、前記第1の官能基と反応しうる官能基及びニトリル基を有する化合物を、ニトリル基を維持したまま縮合又は付加反応させた後、熱硬化性の官能基を有するモノマーを添加する方法が挙げられる。
【0035】
また前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体は、ニトリル基と、熱硬化性の官能基と、直鎖若しくは分岐のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの1種又は2種以上とを成分とする重合体(共重合体)であってもよい。この場合、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ニトリル基含有モノマーと、熱硬化性の官能基を有するモノマーと、アクリル系モノマーとを共重合する方法が挙げられる。
また、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体の製造方法としては、
(A)熱硬化性の官能基を有するモノマーと、アクリル系モノマーと、第1の官能基を有するモノマーとを共重合した後に、前記第1の官能基と反応しうる官能基及びニトリル基有する化合物を、ニトリル基を維持したまま縮合又は付加反応させる方法、
(B)ニトリル基含有モノマーと、アクリル系モノマーと、第2の官能基を有するモノマーとを共重合した後に、前記第2の官能基と反応しうる官能基及び熱硬化性の官能基を有する化合物を、熱硬化性の官能基を維持したまま縮合又は付加反応させる方法、
(C)アクリル系モノマーと、第2の官能基を有するモノマーと、第1の官能基を有するモノマーとを(共)重合した後に、前記第2の官能基と反応しうる官能基及び熱硬化性の官能基を有する化合物を、熱硬化性の官能基を維持したまま縮合又は付加反応させるとともに、前記第1の官能基と反応しうる官能基及びニトリル基有する化合物を、ニトリル基を維持したまま縮合又は付加反応させる方法が挙げられる。
【0036】
前記ニトリル基含有モノマーとしては(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン、などが挙げられる。
【0037】
前記熱硬化性の官能基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジル基を有し、かつ、共重合可能なエチレン性不飽和結合を有するモノマーを好適に用いることができ、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のようなグリシジル基含有モノマーが挙げられる。また、前記熱硬化性の官能基を有するモノマーの他の例としては、マレイミドアクリレートが挙げられる。
【0038】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体を構成するモノマーの混合比率は、ガラス転移温度やエポキシ価を考慮して調整することが好ましい。特に、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体における、前記熱硬化性の官能基を有するモノマーの含有量としては、ガラス転移温度やエポキシ価の観点から、1〜20mol%が好ましく、1〜15mol%がより好ましく、1〜10mol%がさらに好ましい。前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体の重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の従来公知の方法を採用することができる。
【0039】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体を形成する他のモノマーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸若しくはクロトン酸等の様なカルボキシル基含有モノマー、無水マレイン酸若しくは無水イタコン酸等の様な酸無水物モノマー、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル若しくは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等の様なヒドロキシル基含有モノマー、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート若しくは(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等の様なスルホン酸基含有モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等の様な燐酸基含有モノマー、又は、スチレンモノマーが挙げられる。
【0040】
(硬化剤)
前記硬化剤は、前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル重合体の硬化剤として作用するものであれば限定されないが、特に、エポキシ基やグリシジル基と反応させる場合、カルボキシル基、フェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物を含有することが好まく、なかでも、フェノール性水酸基が好ましい。例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールビフェニル樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等、アリザリン、サリチル酸などの2官能以上の低分子材料、熱によりフェノール性水酸基が出現するベンゾオキサジンなどが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0041】
前記硬化剤の重量平均分子量は特に限定されないが、100〜3000の範囲内であることが好ましく、150〜2000の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量が100以上であると、硬化中の揮発が抑制され、ボイドの発生が抑制される。一方、重量平均分子量が3000以下であると、高粘度となることを防ぎ、ダイボンドフィルム作製時の作業性を良好とすることができる。
【0042】
また、ダイボンドフィルム3、3’には、その用途に応じてフィラーを適宜配合することができる。フィラーの配合は、導電性の付与や熱伝導性の向上、弾性率の調節等を可能とする。前記フィラーとしては、無機フィラー、及び、有機フィラーが挙げられるが、取り扱い性の向上、熱電導性の向上、溶融粘度の調整、チキソトロピック性付与等の特性の観点から、無機フィラーが好ましい。前記無機フィラーとしては、特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウィスカ、窒化ほう素、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。熱電導性の向上の観点からは、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ほう素、結晶質シリカ、非晶質シリカが好ましい。また、上記各特性のバランスがよいという観点からは、結晶質シリカ、又は、非晶質シリカが好ましい。また、導電性の付与、熱電導性の向上等の目的で、無機フィラーとして、導電性物質(導電フィラー)を用いることとしてもよい。導電フィラーとしては、銀、アルミニウム、金、胴、ニッケル、導電性合金等を球状、針状、フレーク状とした金属粉、アルミナ等の金属酸化物、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。
【0043】
前記フィラーの平均粒径は、0.005〜10μmであることが好ましく、0.001〜1μmであることがより好ましい。前記フィラーの平均粒径を0.005μm以上とすることにより、被着体への濡れ性、及び、接着性を良好とすることができるからである。また、10μm以下とすることにより、上記各特性の付与のために加えたフィラーの効果を十分なものとすることができるとともに、耐熱性を確保することができる。なお、フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(HORIBA製、装置名;LA−910)により求めた値である。
【0044】
前記フィラー配合量は、ダイボンドフィルム組成物(ダイボンドフィルムを構成する樹脂固形分)全体に対して、0−60wt%であることが好ましく、0−50wt%であることがより好ましい。
【0045】
尚、ダイボンドフィルム3、3’には、前記フィラー以外に、必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては、例えば難燃剤、シランカップリング剤又はイオントラップ剤等が挙げられる。前記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。前記イオントラップ剤としては、例えばハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0046】
ダイボンドフィルム3、3’の厚さ(積層体の場合は、総厚)は特に限定されないが、例えば、5〜100μmの範囲から選択することができ、好ましくは5〜50μmである。
【0047】
前記ダイシング・ダイボンドフィルム10、12のダイボンドフィルム3、3’は、セパレータにより保護されていることが好ましい(図示せず)。セパレータは、実用に供するまでダイボンドフィルム3、3’を保護する保護材としての機能を有している。また、セパレータは、更に、粘着剤層2にダイボンドフィルム3、3’を転写する際の支持基材として用いることができる。セパレータはダイシング・ダイボンドフィルムのダイボンドフィルム3、3’上にワークを貼着する際に剥がされる。セパレータとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等も使用可能である。
【0048】
前記基材1は紫外線透過性を有し、かつダイシング・ダイボンドフィルム10、12の強度母体となるものである。例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフイド、アラミド(紙)、ガラス、ガラスクロス、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース系樹脂、シリコーン樹脂、金属(箔)、紙等が挙げられる。
【0049】
また基材1の材料としては、前記樹脂の架橋体等のポリマーが挙げられる。前記プラスチックフィルムは、無延伸で用いてもよく、必要に応じて一軸又は二軸の延伸処理を施したものを用いてもよい。延伸処理等により熱収縮性を付与した樹脂シートによれば、ダイシング後にその基材1を熱収縮させることにより粘着剤層2とダイボンドフィルム3、3’との接着面積を低下させて、半導体チップ(半導体素子)の回収の容易化を図ることができる。
【0050】
基材1の表面は、隣接する層との密着性、保持性等を高める為、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的処理、下塗剤(例えば、後述する粘着物質)によるコーティング処理を施すことができる。前記基材1は、同種又は異種のものを適宜に選択して使用することができ、必要に応じて数種をブレンドしたものを用いることができる。
【0051】
基材1の厚さは、特に制限されず適宜に決定できるが、一般的には5〜200μm程度である。
【0052】
粘着剤層2の形成に用いる粘着剤としては特に制限されず、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等の一般的な感圧性粘着剤を用いることができる。前記感圧性粘着剤としては、半導体ウェハやガラス等の汚染をきらう電子部品の超純水やアルコール等の有機溶剤による清浄洗浄性等の点から、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤が好ましい。
【0053】
前記アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s−ブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、エイコシルエステル等のアルキル基の炭素数1〜30、特に炭素数4〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルエステル等)及び(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル(例えば、シクロペンチルエステル、シクロヘキシルエステル等)の1種又は2種以上を単量体成分として用いたアクリル系ポリマー等が挙げられる。尚、(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルをいい、本発明の(メタ)とは全て同様の意味である。
【0054】
前記アクリル系ポリマーは、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、必要に応じ、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル又はシクロアルキルエステルと共重合可能な他のモノマー成分に対応する単位を含んでいてもよい。この様なモノマー成分として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等のリン酸基含有モノマー;アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。これら共重合可能なモノマー成分は、1種又は2種以上使用できる。これら共重合可能なモノマーの使用量は、全モノマー成分の40重量%以下が好ましい。
【0055】
更に、前記アクリル系ポリマーは、架橋させる為、多官能性モノマー等も、必要に応じて共重合用モノマー成分として含むことができる。この様な多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能性モノマーも1種又は2種以上用いることができる。多官能性モノマーの使用量は、粘着特性等の点から、全モノマー成分の30重量%以下が好ましい。
【0056】
前記アクリル系ポリマーは、単一モノマー又は2種以上のモノマー混合物を重合に付すことにより得られる。重合は、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の何れの方式で行うこともできる。清浄な被着体への汚染防止等の点から、低分子量物質の含有量が小さいのが好ましい。この点から、アクリル系ポリマーの数平均分子量は、好ましくは30万以上、更に好ましくは40万〜300万程度である。
【0057】
また、前記粘着剤には、ベースポリマーであるアクリル系ポリマー等の数平均分子量を高める為、外部架橋剤を適宜に採用することもできる。外部架橋方法の具体的手段としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、メラミン系架橋剤等のいわゆる架橋剤を添加し反応させる方法が挙げられる。外部架橋剤を使用する場合、その使用量は、架橋すべきベースポリマーとのバランスにより、更には、粘着剤としての使用用途によって適宜決定される。一般的には、前記ベースポリマー100重量部に対して、5重量部程度以下、更には0.1〜5重量部配合するのが好ましい。更に、粘着剤には、必要により、前記成分のほかに、従来公知の各種の粘着付与剤、老化防止剤等の添加剤を用いてもよい。
【0058】
粘着剤層2は放射線硬化型粘着剤により形成することができる。放射線硬化型粘着剤は、紫外線等の放射線の照射により架橋度を増大させてその粘着力を容易に低下させることができ、図2に示す粘着剤層2のワーク貼り付け部分に対応する部分2aのみを放射線照射することにより他の部分2bとの粘着力の差を設けることができる。
【0059】
また、図2に示すダイボンドフィルム3’に合わせて放射線硬化型の粘着剤層2を硬化させることにより、粘着力が著しく低下した前記部分2aを容易に形成できる。硬化し、粘着力の低下した前記部分2aにダイボンドフィルム3’が貼付けられる為、粘着剤層2の前記部分2aとダイボンドフィルム3’との界面は、ピックアップ時に容易に剥がれる性質を有する。一方、放射線を照射していない部分は十分な粘着力を有しており、前記部分2bを形成する。
【0060】
前述の通り、図1に示すダイシング・ダイボンドフィルム10の粘着剤層2に於いて、未硬化の放射線硬化型粘着剤により形成されている前記部分2bはダイボンドフィルム3と粘着し、ダイシングする際の保持力を確保できる。この様に放射線硬化型粘着剤は、チップ状ワーク(半導体チップ等)を基板等の被着体に固着する為のダイボンドフィルム3を、接着・剥離のバランスよく支持することができる。図2に示すダイシング・ダイボンドフィルム11の粘着剤層2に於いては、前記部分2bがウェハリングを固定することができる。
【0061】
放射線硬化型粘着剤は、炭素−炭素二重結合等の放射線硬化性の官能基を有し、かつ粘着性を示すものを特に制限なく使用することができる。放射線硬化型粘着剤としては、例えば、前記アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等の一般的な感圧性粘着剤に、放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分を配合した添加型の放射線硬化型粘着剤を例示できる。
【0062】
配合する放射線硬化性のモノマー成分としては、例えば、ウレタンオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また放射線硬化性のオリゴマー成分はウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系等種々のオリゴマーがあげられ、その分子量が100〜30000程度の範囲のものが適当である。放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分の配合量は、前記粘着剤層の種類に応じて、粘着剤層の粘着力を低下できる量を、適宜に決定することができる。一般的には、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、例えば5〜500重量部、好ましくは40〜150重量部程度である。
【0063】
また、放射線硬化型粘着剤としては、前記説明した添加型の放射線硬化型粘着剤のほかに、ベースポリマーとして、炭素−炭素二重結合をポリマー側鎖又は主鎖中もしくは主鎖末端に有するものを用いた内在型の放射線硬化型粘着剤が挙げられる。内在型の放射線硬化型粘着剤は、低分子成分であるオリゴマー成分等を含有する必要がなく、又は多くは含まない為、経時的にオリゴマー成分等が粘着剤在中を移動することなく、安定した層構造の粘着剤層を形成することができる為好ましい。
【0064】
前記炭素−炭素二重結合を有するベースポリマーは、炭素−炭素二重結合を有し、かつ粘着性を有するものを特に制限なく使用できる。この様なベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーを基本骨格とするものが好ましい。アクリル系ポリマーの基本骨格としては、前記例示したアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0065】
前記アクリル系ポリマーへの炭素−炭素二重結合の導入法は特に制限されず、様々な方法を採用できるが、炭素−炭素二重結合はポリマー側鎖に導入するのが分子設計が容易である。例えば、予め、アクリル系ポリマーに官能基を有するモノマーを共重合した後、この官能基と反応しうる官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物を、炭素−炭素二重結合の放射線硬化性を維持したまま縮合又は付加反応させる方法が挙げられる。
【0066】
これら官能基の組合せの例としては、カルボン酸基とエポキシ基、カルボン酸基とアジリジル基、ヒドロキシル基とイソシアネート基等が挙げられる。これら官能基の組合せのなかでも反応追跡の容易さから、ヒドロキシル基とイソシアネート基との組合せが好適である。また、これら官能基の組み合わせにより、前記炭素−炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーを生成するような組合せであれば、官能基はアクリル系ポリマーと前記化合物のいずれの側にあってもよいが、前記の好ましい組み合わせでは、アクリル系ポリマーがヒドロキシル基を有し、前記化合物がイソシアネート基を有する場合が好適である。この場合、炭素−炭素二重結合を有するイソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。また、アクリル系ポリマーとしては、前記例示のヒドロキシ基含有モノマーや2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテルのエーテル系化合物等を共重合したものが用いられる。
【0067】
前記内在型の放射線硬化型粘着剤は、前記炭素−炭素二重結合を有するベースポリマー(特にアクリル系ポリマー)を単独で使用することができるが、特性を悪化させない程度に前記放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分を配合することもできる。放射線硬化性のオリゴマー成分等は、通常ベースポリマー100重量部に対して30重量部の範囲内であり、好ましくは0〜10重量部の範囲である。
【0068】
前記放射線硬化型粘着剤には、紫外線等により硬化させる場合には光重合開始剤を含有させる。光重合開始剤としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α’−ジメチルアセトフェノン、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα−ケトール系化合物;メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフエノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等のアセトフェノン系化合物;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタール等のケタール系化合物;2−ナフタレンスルホニルクロリド等の芳香族スルホニルクロリド系化合物;1−フェノン−1,1―プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等の光活性オキシム系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系化合物;カンファーキノン;ハロゲン化ケトン;アシルホスフィノキシド;アシルホスフォナート等が挙げられる。光重合開始剤の配合量は、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、例えば0.05〜20重量部程度である。
【0069】
また放射線硬化型粘着剤としては、例えば、特開昭60−196956号公報に開示されている、不飽和結合を2個以上有する付加重合性化合物、エポキシ基を有するアルコキシシラン等の光重合性化合物と、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過酸化物、アミン、オニウム塩系化合物等の光重合開始剤とを含有するゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤等が挙げられる。
【0070】
前記放射線硬化型の粘着剤層2中には、必要に応じて、放射線照射により着色する化合物を含有させることもできる。放射線照射により、着色する化合物を粘着剤層2に含ませることによって、放射線照射された部分のみを着色することができる。即ち、図1に示すワーク貼り付け部分3aに対応する部分2aを着色することができる。従って、粘着剤層2に放射線が照射されたか否かが目視により直ちに判明することができ、ワーク貼り付け部分3aを認識し易く、ワークの貼り合せが容易である。また光センサー等によって半導体素子を検出する際に、その検出精度が高まり、半導体素子のピックアップ時に誤動作が生ずることがない。
【0071】
放射線照射により着色する化合物は、放射線照射前には無色又は淡色であるが、放射線照射により有色となる化合物である。かかる化合物の好ましい具体例としてはロイコ染料が挙げられる。ロイコ染料としては、慣用のトリフェニルメタン系、フルオラン系、フェノチアジン系、オーラミン系、スピロピラン系のものが好ましく用いられる。具体的には3−[N−(p−トリルアミノ)]−7−アニリノフルオラン、3−[N−(p−トリル)−N−メチルアミノ]−7−アニリノフルオラン、3−[N−(p−トリル)−N−エチルアミノ]−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、クリスタルバイオレットラクトン、4,4’,4”−トリスジメチルアミノトリフエニルメタノール、4,4’,4”−トリスジメチルアミノトリフェニルメタン等が挙げられる。
【0072】
これらロイコ染料とともに好ましく用いられる顕色剤としては、従来から用いられているフェノールホルマリン樹脂の初期重合体、芳香族カルボン酸誘導体、活性白土等の電子受容体があげられ、更に、色調を変化させる場合は種々公知の発色剤を組合せて用いることもできる。
【0073】
この様な放射線照射によって着色する化合物は、一旦有機溶媒等に溶解された後に放射線硬化型接着剤中に含ませてもよく、また微粉末状にして当該粘着剤中に含ませてもよい。この化合物の使用割合は、粘着剤層2中に10重量%以下、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.5〜5重量%であるのが望ましい。該化合物の割合が10重量%を超えると、粘着剤層2に照射される放射線がこの化合物に吸収されすぎてしまう為、粘着剤層2の前記部分2aの硬化が不十分となり、十分に粘着力が低下しないことがある。一方、充分に着色させるには、該化合物の割合を0.01重量%以上とするのが好ましい。
【0074】
粘着剤層2を放射線硬化型粘着剤により形成する場合には、粘着剤層2に於ける前記部分2aの粘着力<その他の部分2bの粘着力、となるように粘着剤層2の一部を放射線照射してもよい。
【0075】
前記粘着剤層2に前記部分2aを形成する方法としては、支持基材1に放射線硬化型の粘着剤層2を形成した後、前記部分2aに部分的に放射線を照射し硬化させる方法が挙げられる。部分的な放射線照射は、ワーク貼り付け部分3a以外の部分3b等に対応するパターンを形成したフォトマスクを介して行うことができる。また、スポット的に紫外線を照射し硬化させる方法等が挙げられる。放射線硬化型の粘着剤層2の形成は、セパレータ上に設けたものを支持基材1上に転写することにより行うことができる。部分的な放射線硬化はセパレータ上に設けた放射線硬化型の粘着剤層2に行うこともできる。
【0076】
また、粘着剤層2を放射線硬化型粘着剤により形成する場合には、支持基材1の少なくとも片面の、ワーク貼り付け部分3aに対応する部分以外の部分の全部又は一部が遮光されたものを用い、これに放射線硬化型の粘着剤層2を形成した後に放射線照射して、ワーク貼り付け部分3aに対応する部分を硬化させ、粘着力を低下させた前記部分2aを形成することができる。遮光材料としては、支持フィルム上でフォトマスクになりえるものを印刷や蒸着等で作成することができる。かかる製造方法によれば、効率よく本発明のダイシング・ダイボンドフィルム10を製造可能である。
【0077】
尚、放射線照射の際に、酸素による硬化阻害が起こる場合は、放射線硬化型の粘着剤層2の表面よりなんらかの方法で酸素(空気)を遮断するのが望ましい。例えば、前記粘着剤層2の表面をセパレータで被覆する方法や、窒素ガス雰囲気中で紫外線等の放射線の照射を行う方法等が挙げられる。
【0078】
粘着剤層2の厚さは、特に限定されないが、チップ切断面の欠け防止や接着層の固定保持の両立性等の点よりは、1〜50μm程度であるのが好ましい。好ましくは2〜30μm、更には5〜25μmが好ましい。
【0079】
本実施の形態に係るダイシング・ダイボンドフィルム10、12は、例えば、次の通りにして作製される。
先ず、基材1は、従来公知の製膜方法により製膜することができる。当該製膜方法としては、例えばカレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法等が例示できる。
【0080】
次に、基材1上に粘着剤組成物溶液を塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させ(必要に応じて加熱架橋させて)、粘着剤層2を形成する。塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。また、乾燥条件としては、例えば乾燥温度80〜150℃、乾燥時間0.5〜5分間の範囲内で行われる。また、セパレータ上に粘着剤組成物を塗布して塗布膜を形成した後、前記乾燥条件で塗布膜を乾燥させて粘着剤層2を形成してもよい。その後、基材1上に粘着剤層2をセパレータと共に貼り合わせる。これにより、ダイシングフィルム11が作製される。
【0081】
ダイボンドフィルム3、3’は、例えば、次の通りにして作製される。
先ず、ダイシング・ダイボンドフィルム3、3’の形成材料である接着剤組成物溶液を作製する。当該接着剤組成物溶液には、前述の通り、前記接着剤組成物やフィラー、その他各種の添加剤等が配合されている。
【0082】
次に、接着剤組成物溶液を基材セパレータ上に所定厚みとなる様に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させ、接着剤層を形成する。塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。また、乾燥条件としては、例えば乾燥温度70〜160℃、乾燥時間1〜5分間の範囲内で行われる。また、セパレータ上に粘着剤組成物溶液を塗布して塗布膜を形成した後、前記乾燥条件で塗布膜を乾燥させて接着剤層を形成してもよい。その後、基材セパレータ上に接着剤層をセパレータと共に貼り合わせる。
【0083】
続いて、ダイシングフィルム11及び接着剤層からそれぞれセパレータを剥離し、接着剤層と粘着剤層とが貼り合わせ面となる様にして両者を貼り合わせる。貼り合わせは、例えば圧着により行うことができる。このとき、ラミネート温度は特に限定されず、例えば30〜50℃が好ましく、35〜45℃がより好ましい。また、線圧は特に限定されず、例えば0.1〜20kgf/cmが好ましく、1〜10kgf/cmがより好ましい。次に、接着剤層上の基材セパレータを剥離し、本実施の形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムが得られる。
【0084】
(半導体装置の製造方法)
本発明のダイシング・ダイボンドフィルム10、12は、ダイボンドフィルム3、3’上に任意に設けられたセパレータを適宜に剥離して、次の様に使用される。以下では、図3を参照しながらダイシング・ダイボンドフィルム10を用いた場合を例にして説明する。図3は、図1に示したダイシング・ダイボンドフィルムに於ける接着剤層を介して半導体チップを実装した例を示す断面模式図である。
【0085】
先ず、ダイシング・ダイボンドフィルム10に於けるダイボンドフィルム3の半導体ウェハ貼り付け部分3a上に半導体ウェハ4を圧着し、これを接着保持させて固定する(貼り付け工程)。本工程は、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。マウントの際の貼り付け温度は特に限定されず、例えば20〜80℃の範囲内であることが好ましい。
【0086】
次に、半導体ウェハ4のダイシングを行う。これにより、半導体ウェハ4を所定のサイズに切断して個片化し、半導体チップ5を製造する。ダイシングは、例えば半導体ウェハ4の回路面側から常法に従い行われる。また、本工程では、例えばダイシング・ダイボンドフィルム10まで切込みを行なうフルカットと呼ばれる切断方式等を採用できる。本工程で用いるダイシング装置としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。また、半導体ウェハは、ダイシング・ダイボンドフィルム10により接着固定されているので、チップ欠けやチップ飛びを抑制できると共に、半導体ウェハ4の破損も抑制できる。
【0087】
ダイシング・ダイボンドフィルム10に接着固定された半導体チップを剥離する為に、半導体チップ5のピックアップを行う。ピックアップの方法としては特に限定されず、従来公知の種々の方法を採用できる。例えば、個々の半導体チップ5をダイシング・ダイボンドフィルム10側からニードルによって突き上げ、突き上げられた半導体チップ5をピックアップ装置によってピックアップする方法等が挙げられる。
【0088】
ここでピックアップは、粘着剤層2が紫外線硬化型である場合、該粘着剤層2に紫外線を照射した後に行う。これにより、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する粘着力が低下し、半導体チップ5の剥離が容易になる。その結果、半導体チップ5を損傷させることなくピックアップが可能となる。紫外線照射の際の照射強度、照射時間等の条件は特に限定されず、適宜必要に応じて設定すればよい。また、紫外線照射に使用する光源としては、前述のものを使用することができる。
【0089】
ピックアップした半導体チップ5は、ダイボンドフィルム3を介して被着体6に接着固定する(ダイボンド)。
【0090】
ダイボンドの条件としては、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、ダイボンド温度80〜160℃、ダイボンド圧力5N〜15N、ダイボンド時間1〜10秒の範囲内とすることができる。
【0091】
被着体6としては、リードフレーム、TABフィルム、基板又は別途作製した半導体チップ等が挙げられる。被着体6は、例えば、容易に変形されるような変形型被着体であってもよく、変形することが困難である非変形型被着体(半導体ウェハ等)であってもよい。
【0092】
前記基板としては、従来公知のものを使用することができる。また、前記リードフレームとしては、Cuリードフレーム、42Alloyリードフレーム等の金属リードフレームやガラスエポキシ、BT(ビスマレイミド−トリアジン)、ポリイミド等からなる有機基板を使用することができる。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、半導体素子をマウントし、半導体素子と電気的に接続して使用可能な回路基板も含まれる。
【0093】
ダイボンドフィルム3は熱硬化型であるので、加熱硬化により、半導体チップ5を被着体6に接着固定し、耐熱強度を向上させる。加熱温度は、80〜180℃、好ましくは100〜175℃、より好ましくは100〜150℃で行うことができる。また、加熱時間は、0.1〜24時間、好ましくは0.1〜3時間、より好ましくは0.1〜1時間で行うことができる。
【0094】
熱硬化後のダイボンドフィルム3の剪断接着力は、被着体6に対して0.02MPa以上であることが好ましく、より好ましくは0.03〜10MPaである。ダイボンドフィルム3の剪断接着力が少なくとも0.02MPa以上であると、ワイヤーボンディング工程の際に、当該工程に於ける超音波振動や加熱により、ダイボンドフィルム3と半導体チップ5又は被着体6との接着面でずり変形を生じることが少ない。即ち、ワイヤーボンディングの際の超音波振動により半導体素子が動くことが少なく、これによりワイヤーボンディングの成功率が低下するのを防止する。
【0095】
尚、本発明に係る半導体装置の製造方法は、ダイボンドフィルム3の加熱処理による熱硬化工程を経ることなくワイヤーボンディングを行い、更に半導体チップ5を封止樹脂で封止して、当該封止樹脂をアフターキュアしてもよい。この場合、ダイボンドフィルム3の仮固着時の剪断接着力は、被着体6に対して0.02MPa以上であることが好ましく、より好ましくは0.03〜10MPaである。ダイボンドフィルム3の仮固着時に於ける剪断接着力が少なくとも0.02MPa以上であると、加熱工程を経ることなくワイヤーボンディング工程を行っても、当該工程に於ける超音波振動や加熱により、ダイボンドフィルム3と半導体チップ5又は被着体6との接着面でずり変形を生じることが少ない。即ち、ワイヤーボンディングの際の超音波振動により半導体素子が動くことが少なく、これによりワイヤーボンディングの成功率が低下するのを防止する。
【0096】
前記のワイヤーボンディングは、被着体6の端子部(インナーリード)の先端と半導体チップ5上の電極パッド(図示しない)とをボンディングワイヤー7で電気的に接続する工程である(図3参照)。前記ボンディングワイヤー7としては、例えば金線、アルミニウム線又は銅線等が用いられる。ワイヤーボンディングを行う際の温度は、80〜250℃、好ましくは80〜220℃の範囲内で行われる。また、その加熱時間は数秒〜数分間行われる。結線は、前記温度範囲内となる様に加熱された状態で、超音波による振動エネルギーと印加加圧による圧着工ネルギーの併用により行われる。本工程は、ダイボンドフィルム3の熱硬化を行うことなく実行してもよい。
【0097】
前記封止工程は、封止樹脂8により半導体チップ5を封止する工程である(図3参照)。本工程は、被着体6に搭載された半導体チップ5やボンディングワイヤー7を保護する為に行われる。本工程は、封止用の樹脂を金型で成型することにより行う。封止樹脂8としては、例えばエポキシ系の樹脂を使用する。樹脂封止の際の加熱温度は、通常175℃で60〜90秒間行われるが、本発明はこれに限定されず、例えば165〜185℃で、数分間キュアすることができる。これにより、封止樹脂を硬化させると共に、ダイボンドフィルム3を介して半導体チップ5と被着体6とを固着させる。即ち、本発明に於いては、後述する後硬化工程が行われない場合に於いても、本工程に於いてダイボンドフィルム3による固着が可能であり、製造工程数の減少及び半導体装置の製造期間の短縮に寄与することができる。
【0098】
前記後硬化工程に於いては、前記封止工程で硬化不足の封止樹脂8を完全に硬化させる。封止工程に於いてダイボンドフィルム3が完全に熱硬化していない場合でも、本工程に於いて封止樹脂8と共にダイボンドフィルム3の完全な熱硬化が可能となる。本工程に於ける加熱温度は、封止樹脂の種類により異なるが、例えば165〜185℃の範囲内であり、加熱時間は0.5〜8時間程度である。
【0099】
次に、プリント配線板上に、前記の半導体パッケージを表面実装する。表面実装の方法としては、例えば、プリント配線板上に予めハンダを供給した後、温風等により加熱溶融しハンダ付けを行うリフローはんだ付け(リフロー工程)が挙げられる。加熱方法としては、熱風リフロー、赤外線リフロー等が挙げられる。また、全体加熱、局部加熱の何れの方式でもよい。加熱温度は230〜280℃、加熱時間は1〜360秒の範囲内であることが好ましい。
【0100】
また、本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、図4に示すように、複数の半導体チップを積層して3次元実装をする場合にも好適に用いることができる。図4は、図1に示したダイシング・ダイボンドフィルムに於ける接着剤層を介して半導体チップを3次元実装した例を示す断面模式図である。図4に示す3次元実装の場合、先ず半導体チップと同サイズとなる様に切り出した少なくとも1つのダイボンドフィルム3を被着体6上にダイボンドした後、ダイボンドフィルム3を介して半導体チップ5を、そのワイヤーボンド面が上側となる様にしてダイボンドする。次に、ダイボンドフィルム13を半導体チップ5の電極パッド部分を避けてダイボンドする。更に、他の半導体チップ15をダイボンドフィルム13上に、そのワイヤーボンド面が上側となる様にしてダイボンドする。
【0101】
次に、ダイボンドフィルム3、13の熱硬化を行い、その後、ワイヤーボンディング工程を行う。これにより、半導体チップ5及び他の半導体チップ15に於けるそれぞれの電極パッドと、被着体6とをボンディングワイヤー7で電気的に接続する。
【0102】
続いて、封止樹脂8により半導体チップ5等を封止する封止工程を行い、封止樹脂を硬化させる。尚、封止工程の後、後硬化工程を行ってもよい。
【0103】
半導体チップの3次元実装の場合、半導体チップ5、15と、被着体6とを接続するボンディングワイヤー7の数が多くなるため、ワイヤーボンディング工程に費やされる時間が長時間化する傾向にあり、高温に長時間晒されることになる。しかしながら、ダイボンドフィルム3、13によれば、高温に長時間晒された場合であっても、熱硬化反応の進行を抑えることが可能となる。
【0104】
また、図5に示すように、半導体チップ間にダイボンドフィルムを介してスペーサを積層させた3次元実装としてもよい。図5は、図1に示したダイシング・ダイボンドフィルムを用いて、2つの半導体チップをスペーサを介して接着剤層により3次元実装した例を示す断面模式図である。
【0105】
図5に示す3次元実装の場合、先ず被着体6上にダイボンドフィルム3、半導体チップ5及びダイボンドフィルム21を順次積層してダイボンドする。更に、ダイボンドフィルム21上に、スペーサ9、ダイボンドフィルム21、ダイボンドフィルム3及び半導体チップ5を順次積層してダイボンドする。
【0106】
次に、ダイボンドフィルム3、21の熱硬化を行い、その後、図5に示すように、ワイヤーボンディング工程を行う。これにより、半導体チップ5に於ける電極パッドと被着体6とをボンディングワイヤー7で電気的に接続する。
【0107】
続いて、封止樹脂8により半導体チップ5を封止する封止工程を行い、封止樹脂を硬化させる。これにより、半導体パッケージが得られる。封止工程は、半導体チップ5側のみを片面封止する一括封止法が好ましい。封止は粘着シート上に貼り付けられた半導体チップ5を保護するために行われ、その方法としては封止樹脂8を用いて金型中で成型されるのが代表的である。その際、複数のキャビティを有する上金型と下金型からなる金型を用いて、同時に封止工程を行うのが一般的である。樹脂封止時の加熱温度は、例えば170〜180℃の範囲内であることが好ましい。封止工程の後に、後硬化工程を行ってもよい。
【0108】
尚、前記スペーサ9としては、特に限定されるものではなく、例えば従来公知のシリコンチップ、ポリイミドフィルム等を用いることができる。また、前記スペーサとしてコア材料を用いることができる。コア材料としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。具体的には、フィルム(例えばポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等)、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維で強化された樹脂基板、ミラーシリコンウェハ、シリコン基板又はガラス基板等を使用できる。
【0109】
次に、プリント配線板上に、前記の半導体パッケージを表面実装する。表面実装の方法としては、例えば、プリント配線板上に予めハンダを供給した後、温風等により加熱溶融しハンダ付けを行うリフローはんだ付けが挙げられる。加熱方法としては、熱風リフロー、赤外線リフロー等が挙げられる。また、全体加熱、局部加熱の何れの方式でもよい。加熱温度は230〜280℃、加熱時間は1〜360秒の範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0110】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の要旨をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、部とあるのは、重量部を意味する。
【0111】
(エポキシ価の測定)
本実施例、比較例に用いるニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体のエポキシ価を、JIS K 7236に準じて算出した。具体的には、ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体4gを100mlのコニカルフラスコに秤量し、これにクロロホルム10mlを加えて溶解した。さらに酢酸30ml、テトラエチルアンモニウムブロマイド5ml及びクリスタルバイオレット指示薬5滴を加え、マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.1mol/Lの過塩素酸酢酸規定液で滴定した。同様の方法でブランクテストを行い、下記式によりエポキシ価を算出した。
エポキシ価=[(V−B)×0.1×F]/W
W:秤量した試料のg数
B:ブランクテストに要した0.1mol/L過塩素酸酢酸規定液のml数
V:試料の滴定に要した0.1mol/L過塩素酸酢酸規定液のml数
F:0.1mol/L過塩素酸酢酸規定液のファクター
【0112】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
本実施例、比較例に用いるニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体のガラス転移温度は、粘弾性測定装置(Rheometic Scientific社製、RSA−III)を用いて昇温速度10℃/分、周波数1MHzに於けるTan(E”(損失弾性率)/E’(貯蔵弾性率))から測定した。
【0113】
(ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量平均分子量の測定)
本実施例、比較例に用いるニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーは、TSK G2000H HR、G3000H HR、G4000H HR、及び、GMH−H HRの4本のカラム(いずれも東ソー株式会社製)を直列に接続して使用し、溶離液にテトラヒドロフランを用いて、流速1ml/分、温度40℃、サンプル濃度0.1重量%テトラヒドロフラン溶液、サンプル注入量500μlの条件で行い、検出器には示差屈折計を用いた。
【0114】
(実施例1)
ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−1)100部と、硬化剤としてのフェノール樹脂(b−1)5.2部とをメチルエチルケトンに溶解させ、濃度23.6重量%の接着剤組成物溶液を調製した。実施例1に係るニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−1)としては、アクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とし、グリシジルアクリレートを4.1mol%含むアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業(株)製、NDシリーズ、懸濁重合品、エポキシ価0.41、ガラス転移点(Tg)12℃、重量平均分子量90万)を用いた。なお、ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−1)に占めるアクリロニトリルの含有量は、共重合体の重量全体に対して、28重量%である。また、実施例1に係る硬化剤としてのフェノール樹脂(b−1)としては、明和化成(株)製、「MEH7851」を用いた。
【0115】
この接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離ライナー)上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムAを作製した。
【0116】
(実施例2)
ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−2)100部と、硬化剤としてのフェノール樹脂(b−2)10.3部とをメチルエチルケトンに溶解させ、濃度23.6重量%の接着剤組成物溶液を調製した。実施例2に係るニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−2)としては、アクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とし、グリシジルアクリレートを4.1mol%含むアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業(株)製、NDシリーズ、懸濁重合品、エポキシ価0.41、ガラス転移点(Tg)9℃、重量平均分子量105万)を用いた。なお、ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−2)に占めるアクリロニトリルの含有量は、共重合体の重量全体に対して、24重量%である。また、実施例2に係る硬化剤としてのフェノール樹脂(b−2)としては、明和化成(株)製、「MEH7851」を用いた。
【0117】
この接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離ライナー)上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムBを作製した。
【0118】
(実施例3)
ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−3)100部と、硬化剤としてのフェノール樹脂(b−3)48.5部とをメチルエチルケトンに溶解させ、濃度23.6重量%の接着剤組成物溶液を調製した。実施例3に係るニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−3)としては、アクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とし、グリシジルアクリレートを4.1mol%含むアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業(株)製、NDシリーズ、懸濁重合品、エポキシ価0.41、ガラス転移点(Tg)0℃、重量平均分子量110万)を用いた。なお、ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−3)に占めるアクリロニトリルの含有量は、共重合体の重量全体に対して、20重量%である。また、実施例3に係る硬化剤としてのフェノール樹脂(b−3)としては、明和化成(株)製、「MEH7851」を用いた。
【0119】
この接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離ライナー)上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムCを作製した。
【0120】
(実施例4)
ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−4)100部と、硬化剤としての1,2,4-トリヒドロキシベンゼン(b−4)10.3部とをメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)40部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物溶液を調製した。実施例4に係るニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−4)としては、アクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とし、グリシジルアクリレートを2.4mol%含むアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業(株)製、NDシリーズ、懸濁重合品、エポキシ価0.23、ガラス転移点(Tg)0℃、重量平均分子量105万)を用いた。なお、ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−4)に占めるアクリロニトリルの含有量は、共重合体の重量全体に対して、20重量%である。また、実施例4に係る硬化剤としての1,2,4-トリヒドロキシベンゼン(b−4)としては、東京化成(株)製のものを用いた。
【0121】
この接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離ライナー)上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムDを作製した。
【0122】
(比較例1)
熱硬化性アクリル共重合体(a−5)100部と、硬化剤としてのフェノール樹脂(b−5)5.2部とをメチルエチルケトンに溶解させ、濃度23.6重量%の接着剤組成物溶液を調製した。比較例1に係るニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−5)としては、エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とし、グリシジルアクリレートを4.1mol%含むアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業(株)製、NDシリーズ、懸濁重合品、エポキシ価0.41、ガラス転移点(Tg)12℃、重量平均分子量90万)を用いた。また、比較例1に係る硬化剤としてのフェノール樹脂(b−5)としては、明和化成(株)製、「MEH7851」を用いた。
【0123】
この接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離ライナー)上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムEを作製した。
【0124】
(比較例2)
ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−6)100部と、硬化剤としてのフェノール樹脂(b−6)10.3部と、硬化触媒(四国化成(株)製、C11-Z)5部とをメチルエチルケトンに溶解させ、濃度23.6重量%の接着剤組成物溶液を調製した。比較例2に係るニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−6)としては、アクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とし、グリシジルアクリレートを4.1mol%含むアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業(株)製、NDシリーズ、懸濁重合品、エポキシ価0.41、ガラス転移点(Tg)9℃、重量平均分子量105万)を用いた。なお、ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体(a−6)に占めるアクリロニトリルの含有量は、共重合体の重量全体に対して、24重量%である。また、比較例2に係る硬化剤としてのフェノール樹脂(b−6)としては、明和化成(株)製、「MEH7851」を用いた。
【0125】
この接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離ライナー)上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムFを作製した。
【0126】
(発熱量測定)
発熱量測定には、示差走査型熱量計(SII Nano Technology社製、DSC6220)を用いた。まず、試料(ダイボンドフィルムA〜F)10mgをAlクリンプパンに投入し、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度にて25℃(室温)から300℃まで昇温した。昇温過程で得られたDSC曲線(発熱ピーク)にベースラインを引き、ベースラインとDSC曲線とで囲まれた部分の面積から熱量を算出した。図6は、示差走査熱量測定により得られる典型的な示差熱量曲線を示す図である。前記熱量は、図6に示すベースラインBと示差熱量曲線Lとで囲まれる領域の面積から算出される。
次に、以下の式から発熱量を計算した。
(発熱量(mJ/mg))=(熱量(mJ))/(測定試料の重量(mg))
なお、これらの操作および計算は全自動で行った。結果を表1に示す。
【0127】
<熱硬化前の25℃での引張貯蔵弾性率の測定>
ダイボンドフィルムA〜Fを、長さ22.5mm(測定長さ)×幅10mmの短冊状にカッターナイフで切り出し、固体粘弾性測定装置(RSA−III、レオメトリックサイエンティフィック(株)製)を用いて、−50〜300℃における引張貯蔵弾性率を測定した。測定条件は、周波数1Hz、昇温速度10℃/minとした。この際の50℃における引張貯蔵弾性率の値を表1に示す。
【0128】
<175℃にて5時間熱硬化した後の260℃での引張貯蔵弾性率の測定>
ダイボンドフィルムA〜Fを、175℃にて5時間熱硬化させた。次に、熱硬化させたダイボンドフィルムA〜Fを、長さ22.5mm(測定長さ)×幅10mmの短冊状にカッターナイフで切り出し、固体粘弾性測定装置(RSA−III、レオメトリックサイエンティフィック(株)製)を用いて、−50〜300℃における引張貯蔵弾性率を測定した。測定条件は、周波数1Hz、昇温速度10℃/minとした。この際の260℃における引張貯蔵弾性率の値を表1に示す。
【0129】
<175℃にて5時間熱硬化した後を基準とした、重量の5重量%減少温度の測定>
175℃にて5時間熱硬化した後のダイボンドフィルムA〜Fについて、熱重量法により5重量%減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0130】
<175℃にて5時間熱硬化した後の吸水率の測定>
ダイボンドフィルムA〜Fについて175℃にて5時間熱硬化した後の吸水率を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した前後の重量減少率から測定した。結果を表1に示す。
【0131】
<封止工程後の気泡(ボイド)消失性(120℃で10時間の熱処理の場合)>
各実施例及び比較例で得られたダイボンドフィルムA〜Fを40℃の条件下で5mm角の半導体素子に貼り付けた後、温度120℃、圧力0.1MPa、時間1sの条件でBGA(Ball grid array)基板にマウントした。これをさらに乾燥機にて150℃で1時間熱処理し、その後、120℃で10時間の熱処理を施した。次いで、モールドマシン(TOWAプレス社製、マニュアルプレスY−1)を用いて、成形温度175℃、クランプ圧力184kN、トランスファー圧力5kN、時間120秒、封止樹脂GE−100(日東電工(株)製)の条件下で封止工程を行った。封止工程後のダイボンドフィルムとBGA基板との界面を、超音波映像装置(日立ファインテック社製、FS200II)を用いて観察した。観察画像においてボイドが占める面積を二値化ソフト(WinRoof ver.5.6)を用いて算出した。ボイドの占める面積がダイボンドフィルムの表面積に対して30%未満であった場合を「○」、30%以上であった場合を「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0132】
<封止工程後の気泡(ボイド)消失性(175℃で1時間の熱処理の場合)>
各実施例及び比較例で得られたダイボンドフィルムA〜Fを40℃の条件下で5mm角の半導体素子に貼り付けた後、温度120℃、圧力0.1MPa、時間1sの条件でBGA(Ball grid array)基板にマウントした。これをさらに乾燥機にて150℃で1時間熱処理し、その後、175℃で1時間の熱処理を施した。次いで、モールドマシン(TOWAプレス社製、マニュアルプレスY−1)を用いて、成形温度175℃、クランプ圧力184kN、トランスファー圧力5kN、時間120秒、封止樹脂GE−100(日東電工(株)製)の条件下で封止工程を行った。封止工程後のダイボンドフィルムとBGA基板との界面を、超音波映像装置(日立ファインテック社製、FS200II)を用いて観察した。観察画像においてボイドが占める面積を二値化ソフト(WinRoof ver.5.6)を用いて算出した。ボイドの占める面積がダイボンドフィルムの表面積に対して30%未満であった場合を「○」、30%以上であった場合を「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0133】
(耐湿リフロー試験(120℃で10時間の熱処理後の場合))
各実施例及び比較例で得られたダイボンドフィルムA〜Fを40℃の条件下で5mm角の半導体素子に貼り付けた後、温度120℃、圧力0.1MPa、時間1秒の条件でBGA基板にマウントした。これをさらに乾燥機にて150℃で1時間熱処理し、その後、120℃で10時間の熱処理を施した。次いで、モールドマシン(TOWAプレス社製、マニュアルプレスY−1)を用いて、成形温度175℃、クランプ圧力184kN、トランスファー圧力5kN、時間120秒、封止樹脂GE−100(日東電工(株)製)の条件下で封止工程を行った。その後、温度85℃、湿度60%RH、時間168hの条件で吸湿操作を行い、260℃以上の温度を30秒間保持するように温度設定したIRリフロー炉にサンプルを通した。9個の半導体素子について、ダイボンドフィルムと基板との界面に剥離が発生しているか否かを超音波顕微鏡で観察し、剥離が生じている割合(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0134】
(耐湿リフロー試験(175℃で1時間の熱処理後の場合))
各実施例及び比較例で得られたダイボンドフィルムA〜Fを40℃の条件下で5mm角の半導体素子に貼り付けた後、温度120℃、圧力0.1MPa、時間1sの条件でBGA基板にマウントした。これをさらに乾燥機にて150℃で1時間熱処理し、その後、175℃で1時間の熱処理を施した。次いで、モールドマシン(TOWAプレス社製、マニュアルプレスY−1)を用いて、成形温度175℃、クランプ圧力184kN、トランスファー圧力5kN、時間120秒、封止樹脂GE−100(日東電工(株)製)の条件下で封止工程を行った。その後、温度85℃、湿度60%RH、時間168hの条件で吸湿操作を行い、260℃以上の温度を10秒間保持するように温度設定したIRリフロー炉にサンプルを通した。9個の半導体素子について、ダイボンドフィルムと基板との界面に剥離が発生しているか否かを超音波顕微鏡で観察し、剥離が生じている割合(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
(結果)
実施例1〜4のダイボンドフィルムでは、ダイボンド後に高温で長時間の熱処理(120℃で10時間又は175℃で1時間)を行なった場合でも、それ以降の工程である封止工程後に、ダイボンドフィルムと被着体との境界を観察すると、気泡(ボイド)は少なかった。また、耐湿試験においても良好な結果を示した。
【符号の説明】
【0137】
1 基材
2 粘着剤層
3、3’ ダイボンドフィルム(熱硬化型ダイボンドフィルム)
4 半導体ウェハ
5 半導体チップ
6 被着体
7 ボンディングワイヤー
8 封止樹脂
10、12 ダイシング・ダイボンドフィルム
11 ダイシングフィルム
13 ダイボンドフィルム(熱硬化型ダイボンドフィルム)
15 半導体チップ
21 ダイボンドフィルム(熱硬化型ダイボンドフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体と硬化剤とを含有し、
示差熱量計を用い、25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した場合の発熱量が10mJ/mg以下であることを特徴とするダイボンドフィルム。
【請求項2】
175℃にて5時間熱硬化した後を基準とした、重量の5重量%減少温度が280℃以上であり、
熱硬化前に対する175℃にて5時間熱硬化した後の吸水率が1重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のダイボンドフィルム。
【請求項3】
175℃にて5時間熱硬化した後の260℃での引張貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイボンドフィルム。
【請求項4】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量をx、前記硬化剤の重量をyとしたとき、重量比(x/y)が2以上20以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のダイボンドフィルム。
【請求項5】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体の重量平均分子量が50万以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のダイボンドフィルム。
【請求項6】
前記ニトリル基含有熱硬化性アクリル共重合体は、エポキシ基を含有し、且つ、エポキシ価が0.1eq/Kg以上1eq/Kg以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のダイボンドフィルム。
【請求項7】
前記硬化剤は、フェノール性水酸基を有することを特徴とする請求項6に記載のダイボンドフィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載のダイボンドフィルムが、ダイシングフィルム上に積層されていることを特徴とするダイシング・ダイボンドフィルム。
【請求項9】
前記ダイボンドフィルムの熱硬化前の25℃での引張貯蔵弾性率が1MPa以上5GPa以下であることを特徴とする請求項8に記載のダイシング・ダイボンドフィルム。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1に記載のダイボンドフィルム、或いは、請求項8又は9に記載のダイシング・ダイボンドフィルムを用いて製造されたことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−38097(P2013−38097A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170254(P2011−170254)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】