説明

チップ用保護膜形成用シート

【課題】ウエハなどのワークに形成された保護膜にマーキングを行うプロセスに好適に用いられる保護膜形成用シートを提供すること。
【解決手段】本発明に係るチップ用保護膜形成用シートは、剥離シートと、剥離シートの剥離面上に設けられた保護膜形成層とからなり、該保護膜形成層が、エポキシ樹脂100重量部、バインダーポリマー50〜200重量部およびフィラー100〜2000重量部を含み、該エポキシ樹脂の全量100重量%中30重量%以上が下記式(I)および(II)式で示されるエポキシ樹脂から選択されたものである。




式中、Xは、−O−、−OCH(CH3)O−等であり、Rは、ポリエーテル骨格等で
あり、nは、1〜10の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ等のチップ体の裏面に保護膜を形成する際に用いられるチップ用保護膜形成用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるフェースダウン(face down)方式と呼ばれる実装法を用いた半導体装置
の製造が行われている。フェースダウン方式では、チップの回路面側に導通を確保するためのバンプと呼ばれる凸部が形成されてなるチップを用い、回路面側の凸部が基台に接続する構造となる。
【0003】
このような半導体装置は、一般的には次のような工程を経て製造されている。
(1)ウエハの表面にエッチング法等により回路を形成し、回路面の所定位置にバンプを形成する。
(2)ウエハ裏面を所定の厚さまで研削する。
(3)リングフレームに張設されたダイシングシートにウエハ裏面を固定し、ダイシングソーにより各回路毎に切断分離し、半導体チップを得る。
(4)半導体チップをピックアップし、フェースダウン方式で所定の基台上に実装し、必要に応じチップを保護するために樹脂封止またはチップ裏面に樹脂コーティングを施し、半導体装置を得る。
【0004】
樹脂封止は、適量の樹脂をチップ上に滴下・硬化するポッティング(potting)法や、金
型を用いたモールド法などにより行われる。しかし、ポッティング法では適量の樹脂を滴下することが難しい。またモールド法では金型の洗浄等が必要になり、設備費、運転費が高価になる。樹脂コーティングは、適量の樹脂を均一に塗布することが難しいため、品質にばらつきがでることがある。したがって、均一性の高い保護膜を、チップ裏面に簡便に形成できる技術の開発が要望されていた。
【0005】
また、上記(2)工程の裏面研削では、機械研削によってチップ裏面に微小な筋状の傷が形成される。この微小な傷は、(3)のダイシング工程やパッケージングの後に、クラック発生の原因となることがある。このため、従来は、機械研削後に、微小な傷を除くためのケミカルエッチングが必要になる場合があった。しかし、ケミカルエッチングには、もとより設備費、運転費が必要になり、コスト増の原因となる。したがって、機械研削によってチップ裏面に微小な傷が形成されたとしても、かかる傷に起因する悪影響を解消する技術の開発が要望されていた。
【0006】
このような要望に応える技術として、本出願人等により「剥離シートと、該剥離シートの剥離面上に形成された、熱硬化性成分および/またはエネルギー線硬化性成分とバインダーポリマー成分とからなる保護膜形成層とを有するチップ用保護膜形成用シート」が開示された(特許文献1参照)。特許文献2には、上記特許文献1の発明において、保護膜形成層の硬化により形成される保護膜と被着体であるウエハ(チップ)との接着性を向上させるため、保護膜形成層上に硬化性接着剤層を設けることが開示されている。
【0007】
上記のチップ用保護膜形成用シートを用いたプロセスでは、ウエハ上にチップ用保護膜形成用シートを貼付し、剥離シートをはがすことでウエハ上に保護膜形成層が形成される。次にウエハ上の保護膜形成層は加熱などにより硬化され保護膜となり、この保護膜上に品番等がマーキングされる。その後、保護膜を有するウエハはダイシングシートに固定され、ダイシングおよびピックアップが行われ、保護膜を有するチップが得られる。なお、
マーキングの方法としては通常、レーザー光照射によって保護膜の表面を削り取るレーザーマーキング法が用いられる。
【特許文献1】特開2002−280329
【特許文献2】特開2004−214288
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記プロセスにおいて、保護膜の硬化の際に保護膜が収縮することでウエハに反りが発生することがあった。このような反りがあるウエハはマーキングを行う際にレーザー光の焦点が定まらず、そのため精度良くマーキングを行うことができなかった。
【0009】
本発明は上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、ウエハなどのワークに形成された保護膜にマーキングを行うプロセスに好適に用いられる保護膜形成用シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)剥離シートと、剥離シートの剥離面上に設けられた保護膜形成層とからなり、
該保護膜形成層が、エポキシ樹脂100重量部、バインダーポリマー50〜200重量部およびフィラー100〜2000重量部を含み、
該エポキシ樹脂の全量100重量%中30重量%以上が下記式(I)および(II)式で示されるエポキシ樹脂から選択されたものである、
チップ用保護膜形成用シート:
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
式中、Xは、同一であっても異なっていてもよく、−O−、−COO−、−OCO−、−OCH(CH3)O−、から選択される二価の基であり、
Rは、同一であっても異なっていてもよいアルキレン、ポリエーテル骨格、ポリブタジエン骨格、ポリイソプレン骨格から選択される二価の基であり、
nは、1〜10の範囲にある。
(2)硬化後の保護膜形成層のガラス転移温度における損失正接(tanδ)が、0.2以
上であることを特徴とする(1)に記載のチップ用保護膜形成用シート。
【発明の効果】
【0014】
本発明のチップ用保護膜形成用シートによれば、ウエハに貼付後硬化を行っても、保護膜形成層の収縮がほとんどなく、ウエハの反りが抑えられる。この結果、レーザー光により保護膜にマーキングを行う際に、精度良くマーキングを行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。本発明に係るチップ用保護膜形成用シートは、剥離シートと、剥離シートの剥離面上に設けられた保護膜形成層とからなる。
剥離シートとしては、たとえばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢ビフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。
【0016】
本発明のチップ用保護膜形成用シートにおいては、その使用に際して、保護膜形成層を熱硬化後、剥離シートを剥離し、保護膜形成層を半導体ウエハに転写する。したがって、剥離シートは保護膜形成層の熱硬化時の加熱に耐える必要があるため、耐熱性に優れたポリメチルペンテンフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルムが好ましく用いられる。保護膜形成層と剥離シートとの間での剥離を容易にするため、剥離シートの表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下であることが望ましい。このような表面張力に低い剥離シートは、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また剥離シートの表面にシリコーン樹脂等を塗布して離型処理を施すことで得ることもできる。
【0017】
剥離シートの膜厚は、通常は5〜300μm、好ましくは10〜200μm、特に好ましくは20〜150μm程度である。
保護膜形成層は、上記剥離シートの剥離面上に設けられてなる。本発明のチップ用保護膜形成用シートは、保護膜形成層と剥離シートとの2層構造でもよいが、保護膜形成層上にさらに剥離シートを積層した3層構造であってもよい。3層構造とする場合、2つの剥離シートの膜厚は、異なることが好ましい。この場合、膜厚の薄い剥離シートの方が容易に剥離されるため、使用に際して保護膜形成層を一方の剥離シートに残着させ、その表面を露出する際に、その操作をより容易に行うことができる。
【0018】
保護膜形成層は、熱硬化性を有し、半導体ウエハ等の被着体に貼付の後、硬化することで被着体に保護膜を形成する。
該保護膜形成層は、エポキシ樹脂、バインダーポリマーおよびフィラーを必須成分として含み、必要に応じ他の成分を含む。
【0019】
エポキシ樹脂は、その全量100重量%中30重量%以上、好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは45〜95重量%、特に好ましくは50〜90重量%が下記式(I)および(II)式で示されるエポキシ樹脂から選択されたものである。
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
式中、Xは、同一であっても異なっていてもよく、−O−(エーテル)、−COO−(エステル)、−OCO−(エステル)、−OCH(CH3)O−(アセタール)、から選
択される二価の基であり、好ましくは-O- または−OCH(CH3)O−である。
【0023】
Rは、同一であっても異なっていてもよいアルキレン、ポリエーテル骨格、ポリブタジエン骨格、ポリイソプレン骨格、から選択される二価の基であり、アルキレンやポリエーテル骨格は、それぞれ側鎖を有していても良く、また、シクロアルカン骨格を含んだ構造でもあってもよい。二価の基Rは、好ましくは、例えば−(CH2CH2)−(OCH2
2)m−や、−(CH(CH3)CH2)−(OCH(CH3)CH2)m−の構造式(mは
0〜5)をもつアルキレンまたはエーテル骨格であり、具体的には、エチレンやプロピレンのアルキレンや、エチレンオキシエチル基、ジ(エチレンオキシ)エチル基、トリ(エチレンオキシ)エチル基、プロピレンオキシプロピル基、ジ(プロピレンオキシ)プロピル基、トリ(プロピレンオキシ)プロピル基などポリエーテル骨格が挙げられる。
【0024】
nは、1〜10、好ましくは1〜8、特に好ましくは1〜5の範囲である。
以下、上記(I)式または(II)式で示されるエポキシ樹脂を、特に「柔軟性エポキシ樹脂」と記載することがある。柔軟性エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは100〜1000g/eq、さらに好ましくは200〜600g/eqである。また柔軟性エポキシ樹脂は、その硬化物のガラス転移温度(Tg)が、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0025】
エポキシ樹脂として、上記柔軟性エポキシ樹脂を用いると、加熱硬化後の保護膜のガラス転移温度が低下するとともに硬化した保護膜のガラス転移温度での損失正接(tanδ)
が大きくなる傾向にある。保護膜のガラス転移温度を越えて温度変化が加えられると保護膜は伸縮しやすくなりウエハは反る傾向が見られる。ガラス転移温度でのtanδが大きく
なると、加熱による伸縮が起こった場合であっても、それによる応力が短時間で緩和しやすい。したがって半導体ウエハに貼付後、硬化を行っても、ウエハの反りを招くことがない。このような柔軟性エポキシ樹脂としては、たとえば大日本インキ(株)製、EXA-4850-150、EXA-4850-1000、ナガセケムテックス(株)製、デナコールEX-250、EX250Lなどが
あげられる。
【0026】
本発明で使用するエポキシ樹脂は、上記柔軟性エポキシ樹脂単独でもよいが、硬化前の粘着物性や、硬化した保護膜の強度や耐擦傷性等を適宜に制御するため、他の汎用エポキ
シ樹脂がブレンドされていてもよい。
【0027】
しかし、柔軟性エポキシ樹脂の割合が少な過ぎると、硬化後のtanδが小さくなり保護
膜の応力緩和性が低下するために、半導体ウエハの反りを招くことがある。
柔軟性エポキシ樹脂と併用される汎用エポキシ樹脂としては、通常は、分子量300〜2000程度のものが好ましく、特に分子量300〜1000、好ましくは330〜800の常態液状のエポキシ樹脂、分子量400〜2500、好ましくは800〜2000の常態固体のエポキシ樹脂およびこれらのブレンド物があげられる。また、これら汎用エポキシ樹脂のエポキシ当量は通常50〜5000g/eqである。このようなエポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェニルノボラック、クレゾールノボラックなどのフェノール類のグリシジルエーテル;ジシクロペンタジエン骨格含有のエポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸などのカルボン酸のグリシジルエーテル;アニリンイソシアヌレートなどの窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型もしくはアルキルグリシジル型のエポキシ樹脂;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサンなどのように、分子内の炭素−炭素二重結合
をたとえば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。
【0028】
これらの中でも、ビスフェノール系グリシジル型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂およびジシクロペンタジエン骨格含有のエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0029】
これら汎用エポキシ樹脂は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、汎用エポキシ樹脂を予め変性した変性樹脂を用いることもできる。この様な変性樹脂は、特にアロイ変性樹脂やゴムブレンド変性樹脂と呼ばれる。
【0030】
本発明で使用するエポキシ樹脂は、その平均エポキシ当量が、好ましくは200〜800g/eq、さらに好ましくは300〜800g/eq、特に好ましくは500〜700g/eqとなるように、上記柔軟性エポキシ樹脂および汎用エポキシ樹脂を混合することが望ましい。平均エポキシ当量が200g/eq以下であると加熱硬化時の収縮が大きくなり、半導体ウエハが反り、また接着力の低下が起こる可能性がある。一方、平均エポキシ当量が800g/eq以上であると、硬化後の架橋密度が低くなり、十分な接着強度がでない可能性がある。
【0031】
保護膜形成層は、上記エポキシ樹脂に加え、バインダーポリマーおよびフィラーを必須成分として含む。
バインダーポリマー成分は、保護膜形成層に適度なタックを与え、シートの操作性を向上するために用いられる。バインダーポリマーの重量平均分子量は、通常は5万〜200万、好ましくは10万〜150万、特に好ましくは20万〜100万の範囲にある。分子量が低過ぎるとシート形成が不十分となり、高過ぎると他の成分との相溶性が悪くなり、結果として均一なシート形成が妨げられる。このようなバインダーポリマーとしては、たとえばアクリル系ポリマー、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系ポリマー等が用いられ、特にアクリル系ポリマーが好ましく用いられる。
【0032】
アクリル系ポリマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび(メタ)アクリル酸誘導体から導かれる構成単位とからなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、
(メタ)アクリル酸ブチル等が用いられる。また、(メタ)アクリル酸誘導体としては、たとえば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0033】
メタクリル酸グリシジル等を構成単位として用いることでアクリル系ポリマーにグリシジル基を導入すると、前述したエポキシ樹脂との相溶性が向上し、保護膜形成層の硬化後のガラス転移温度(Tg)が高くなり耐熱性が向上する。また、アクリル酸ヒドロキシエチル等を構成単位として用いてアクリル系ポリマーに水酸基を導入することで、半導体ウエハへの密着性や粘着物性をコントロールすることができる。
【0034】
バインダーポリマーとしてアクリル系ポリマーを使用した場合における当該ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは10万以上であり、特に好ましくは15万〜100万である。アクリル系ポリマーのガラス転移温度は通常20℃以下、好ましくは−70〜0℃程度であり、常温(23℃)においては粘着性を有する。
【0035】
保護膜形成層は、バインダーポリマー成分を、上記エポキシ樹脂の全量100重量部に対して、50〜200重量部、好ましくは60〜190重量部、さらに好ましくは90〜150重量部、特に好ましくは100〜130重量部の割合で含む。
【0036】
このような割合で、エポキシ樹脂とバインダーポリマー成分とを配合すると、硬化前には適度なタックを示し、貼付作業を安定して行え、また硬化後には、被膜強度に優れた保護膜が得られる。
【0037】
保護膜形成層は、上記成分に加え、さらにフィラーを含有する。フィラーとしては、結晶シリカ、溶融シリカ、合成シリカ等のシリカや、アルミナ、ガラスバルーン等の無機フィラーがあげられる。保護膜形成層に無機フィラーを添加することにより、硬化後の層の熱膨張係数をウエハの熱膨張係数に近づけることができ、これによって加工途中のウエハの反りを低減することができるようになる。フィラーとしては合成シリカが好ましく、特に半導体装置の誤作動の要因となるα線の線源を極力除去したタイプの合成シリカが最適である。フィラーの形状としては、球形、針状、無定型タイプのものいずれも使用可能であるが、特に最密充填の可能な球形のフィラーが好ましい。
【0038】
また、保護膜形成層に添加するフィラーとしては、上述した無機フィラーの他にも、下記のような機能性のフィラーが配合されていてもよい。たとえば、ダイボンド後の導電性の付与を目的として、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、またはセラミック、あるいはニッケル、アルミニウム等を銀で被覆したもののような導電性フィラーを添加してもよく、また熱伝導性の付与を目的として、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、シリコン、ゲルマニウム等の金属材料やそれらの合金等の熱伝導性物質を添加してもよい。
【0039】
このようなフィラーは、上記エポキシ樹脂の全量100重量部に対して、100〜2000重量部、好ましくは150〜1800重量部、さらに好ましくは200〜1400重量部、特に好ましくは250〜500重量部の割合で含まれる。
【0040】
保護膜形成層にフィラーを添加することで、硬化後の保護膜の強度が向上し、またレーザーマーキングの際の印字性が向上する。
保護膜形成層には、上記のほかにも、助剤として、熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤が含まれていることが好ましい。
【0041】
熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤とは、室温ではエポキシ樹脂と反応せず、ある温度
以上の加熱により活性化し、エポキシ樹脂と反応するタイプの硬化剤である。熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の活性化方法には、加熱による化学反応で活性種(アニオン、カチオン)を生成する方法;室温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法;モレキュラーシーブ封入タイプの硬化剤で高温で溶出して硬化反応を開始する方法;マイクロカプセルによる方法等が存在する。
【0042】
本発明において使用される熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては各種オニウム塩や、二塩基酸ジヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、アミンアダクト硬化剤、イミダゾール化合物等の高融点活性水素化合物等を挙げることができる。これら熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。上記のような熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは0.2〜10重量部、特に好ましくは0.3〜5重量部の割合で用いられる。
【0043】
さらに、保護膜形成層には、顔料や染料が含まれていてもよい。顔料や染料を添加することによって硬化被膜の弾性率をある程度制御することも可能であるが、顔料、染料は主として硬化被膜(保護膜)表面に形成される印字の認識性を向上させるために添加される。このような顔料としては、カーボンブラックや、各種の無機顔料が例示できる。またアゾ系、インダスレン系、インドフェノール系、フタロシアニン系、インジゴイド系、ニトロソ系、ザンセン系、オキシケトン系などの各種有機顔料があげられる。顔料や染料により保護膜形成層を着色しておくと、ICチップの外観の向上が図られる。また、たいていの場合はICチップの識別をするために保護膜表面はレーザーマーキングにより印字される。その際にレーザー印字部のコントラストを強調し視認性の向上が図られる。
顔料、染料の添加量もその種類により様々であるが、一般的には保護膜形成層を形成する全成分の0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%程度が適当である。
【0044】
また、保護膜形成層には、硬化前の凝集力を調節するために、有機多価イソシアナート化合物、有機多価イミン化合物、有機金属キレート化合物等の架橋剤を添加することもできる。
【0045】
さらに保護膜形成層に帯電防止剤を添加することもできる。帯電防止剤を添加することにより、静電気を抑制できるため、チップの信頼性が向上する。また、リン酸化合物、ブロム化合物、リン系化合物等を加え難燃性能を付加することでパッケージとしての信頼性が向上する。
【0046】
保護膜形成層は前述したフィラーを含むため、硬化被膜(保護膜)にレーザーマーキング等によって鮮明な印字を形成できる。すなわち、これらの場合には、印字部と非印字部との間で充分なコントラスト差が得られることになり、印字の認識性が向上される。
【0047】
保護膜形成層の厚さは、好ましくは3〜100μm、より好ましくは10〜60μmである。
本発明における保護膜形成層が熱硬化した保護膜は、ガラス転移温度でのtanδが大き
く、これにより保護膜形成用シートを半導体ウエハに貼付後、硬化を行っても、ウエハの反りを招くことがない。硬化した保護膜のガラス転移温度におけるtanδは、好ましくは
0.2以上であり、より好ましくは0.25〜3である。なお、ガラス転移温度は保護膜が混合物であるため明確な変異点として現れにくいため、粘弾性測定におけるtanδの最
大値の温度をガラス転移温度とした。保護膜形成層を熱硬化してなる保護膜のガラス転移温度は特に限定はないが、好ましくは0〜120℃、さらに好ましくは常温〜90℃である。全エポキシ樹脂中の柔軟性エポキシ樹脂の配合割合を多くすることで、ガラス転移温
度におけるtanδは大きくなる傾向がある。
【0048】
本発明のチップ用保護膜形成用シートは、上記成分からなる組成物をグラビアコーター、ダイコーター、リバースコーター,ナイフコーター、ロールナイフコーター、キスロー
ルコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーターなど一般に公知の方法にしたがって上記剥離シート上に塗工し、乾燥させることで得られる。また、本発明のチップ用保護膜形成用シートは、他の剥離性シート上に上記組成物を上記と同様の方法で塗工し、乾燥させて保護膜形成層を形成し、これを剥離シート上に転写することによっても得られる。
【0049】
次に本発明のチップ用保護膜形成用シートを用いたマーキング方法について説明する。
まず、チップ用保護膜形成用シートを、表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に貼付する。この際、充分な接着強度を得るために、ウエハ裏面に対してチップ用保護膜形成用シートを熱圧着することが好ましい。
【0050】
チップ用保護膜形成用シートは、貼付される半導体ウエハの形状に予め切断されていてもよく、また半導体ウエハにチップ用保護膜形成用シートを貼付後、チップ用保護膜形成用シートを半導体ウエハの外径に合わせて切断してもよい。
【0051】
次いで、保護膜形成層を熱硬化する。熱硬化条件は、使用するエポキシ樹脂の硬化温度に応じて適宜に選択する。また、保護膜形成層の熱硬化は、剥離シートが貼着された状態で行ってもよく、剥離シートの剥離後に行ってもよい。
【0052】
その後、硬化被膜(保護膜)にマーキングを行う。マーキングは、ウエハ表面に形成された回路に対応するように、裏面の保護膜をレーザー光によって削り取ることで行う。このようなレーザー光を用いたマーキング法は、公知の手法による行われる。マーキングは、剥離シートが貼着された状態で行ってもよく、剥離シートの剥離後に行ってもよい。
【0053】
最後に、半導体ウエハを個別の回路毎にダイシングすることで、裏面に保護膜を有し、かつ保護膜にマーキングされてなる半導体チップが得られる。ウエハのダイシングは、ダイシングブレード等を用いた公知の方法で行われる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のチップ用保護膜形成用シートによれば、ウエハに貼付後硬化を行っても、保護膜形成層の収縮がほとんどなく、ウエハの反りが抑えられる。この結果、レーザー光により保護膜にマーキングを行う際に、精度良くマーキングを行うことが可能になる。
【0055】
(実施例)
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。バインダーポリマー、エポキシ樹脂、フィラー、その他の成分を下記に示す。
A:バインダーポリマー
アクリル系ポリマー(アクリル酸ブチル55重量部とメタクリル酸メチル15重量部とメタクリル酸グリシジル20重量部とアクリル酸2−ヒドロキシエチル15重量部とを共重合してなる重量平均分子量90万、ガラス転移温度−28℃の共重合体)
B:エポキシ樹脂
B1:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量約370、エポキシ当量180〜200g/eq)
B2:固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量約1600、エポキシ当量800〜900g/eq)
B3:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名エピクロンHP−7200HH)
B4:エチレングリコール鎖含有エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名エピクロンEXA−4850−150、式Iの化合物)
B5:エチレングリコール鎖含有エポキシ樹脂(ナガセケムテックス(株)製、商品名デナコールEX−250、式IIの化合物)
C:シリカフィラー(溶融石英フィラー(平均粒径8μm)、合成シリカフィラー(平均粒径0.5μm)を重量比9:1で配合したもの)
D:熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤
D1:ジシアンジアミド
D2:2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製、2PHZ)
E:顔料 カーボンブラック(平均粒径28nm)
また、粘弾性におけるtanδ、ウエハの反りおよびレーザーマーキング性は、以下の方法により評価した。
(ガラス転移温度、tanδ)
実施例、比較例で作成した保護膜形成層を重ね合わせ厚み100μmとし、130℃2時間加熱した硬化したシートを測定サンプルとした。これを粘弾性測定機器(ティー・エイ・インスツルメント社製、商品名DMA Q800)を使用し、周波数は11Hz、昇温は3℃/分で0〜250℃の範囲で引張モードによる粘弾性を測定し、この測定で得られたtanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大点における温度をガラス転移温度、tan
δの最大値をtanδ値とした。
(ウエハの反り)
チップ用保護膜形成用シートを8インチ150μm厚のミラーウエハ(裏面♯2000番研磨)に熱ラミネーター(大成ラミネーター(株)製、商品名ファーストラミネーターVA−400)を用いて70℃で貼付した後に、130℃で2時間加熱硬化を行った。その後、平滑な台上に保護膜形成層側を上面にして置き、ウエハの反りにより最も台から離れている部分の高さを求めた。
(レーザーマーキング性)
マーキング装置(日立建機ファインテック(株)製、商品名YAGレーザーマーカーLM5000)を使用して、マーキングを行い印字可能かどうか検証した。保護膜全面に目視で確認できる印字がなされたときは「印字可」と判断した。反りのためウエハ外周に向かうに従いレーザー光の焦点が合わず印字できなかったときは「印字不可」と判断した。また印字ではできるが、溶融等で字が明確でないときを「印字不鮮明」と判断した。
(実施例1〜3、比較例1〜3)
前記材料を用いた下記表1の各配合を、片面に剥離処理を行ったポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック(株)製、商品名SP−PET3811、厚さ38μm、表面張力30mN/m未満、融点200℃以上)の剥離処理面に、溶媒除去後の厚さが50μmとなるように塗布、100℃1分間乾燥して、チップ用保護膜形成用シートを得た。
【0056】
上記各評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離シートと、剥離シートの剥離面上に設けられた保護膜形成層とからなり、
該保護膜形成層が、エポキシ樹脂100重量部、バインダーポリマー50〜200重量部およびフィラー100〜2000重量部を含み、
該エポキシ樹脂の全量100重量%中30重量%以上が下記式(I)および(II)式で示されるエポキシ樹脂から選択されたものである、
チップ用保護膜形成用シート:
【化1】

【化2】

式中、Xは、同一であっても異なっていてもよく、−O−、−COO−、−OCO−、−OCH(CH3)O−、から選択される二価の基であり、
Rは、同一であっても異なっていてもよいアルキレン、ポリエーテル骨格、ポリブタジエン骨格、ポリイソプレン骨格から選択される二価の基であり、
nは、1〜10の範囲にある。
【請求項2】
硬化後の保護膜形成層のガラス転移温度における損失正接(tanδ)が、0.2以上で
あることを特徴とする請求項1に記載のチップ用保護膜形成用シート。

【公開番号】特開2007−261035(P2007−261035A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87925(P2006−87925)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】