説明

ディーゼルエンジンの燃料バルブのためのノズルを製造する方法、及び、ノズル

【課題】ディーゼルエンジン、特に2ストロークのクロスヘッド式エンジンの燃料バルブのための寿命の長いノズルを提供する。
【解決手段】鋳型13では、耐腐食性の第1の合金10が、ノズルボア4の周囲のノズルの外側表面を構成する外側領域に配置される。第2の合金11は、ノズルの別の領域で使用される。鋳型内の材料は、等方性プレス工程により、固化材料へと処理される。2つの合金10、11の間の境界領域には、ひび割れが存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン、特に2ストロークのクロスヘッド式エンジンの燃料バルブのためのノズルであって、耐腐食性の第1合金の第1の材料が、ノズルボアの周りのノズルの外側表面を構成する外側領域の鋳型内に配置されている、該ノズルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記方法は、WO95/24286号から周知のものであり、該出願は、ノズル全体を構成する第1の材料で充填した後、鋳型がHIP処理を受け、ノズル強度及び耐腐食性に関して非常に良い特性を備えたノズルを生じさせることを記載している。更には、ノズルボアの周りで非常に正確な形状が得られ、燃料の良好な霧状化をもたらす。このHIP処理(熱間等方性プレス加工)では、細かく粒状化した粉末が、高圧及び高温でノズルブランク全体内で固化され、形成されたノズルブランクは、等方的なきわめて細かく粒状化された合金構造を保持する。
【0003】
EP0982493A1には、主要バルブシートを超えてバルブハウジング内へとスライダーガイドを超えて前方に延在するノズルを備えた燃料バルブが記載されている。燃料バルブのこれらの部品は、バルブシート等を要求された硬度で与えるため鋼鉄から作られている。ノズルの最下部分には、溶解材料を完全に又は部分的に鋼鉄に結合させるレーザー溶接、プラズマ溶接又は熱粉末噴霧を用いて、腐食保護コーティングが形成される。結合領域における材料は、耐腐食性合金が、硬化に伴ってか又は一定期間の作業後に剥ぎ落とされ得る特性を有する。作業中には、ノズルは、強力な高温循環負荷にさらされ、耐腐食性合金の接着の劣化のおそれを引き起こす。
【特許文献1】WO95/24286号
【特許文献2】EP0982493A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、長い寿命のノズルを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記事実に鑑みて、第1に言及される本発明に係るノズル製造方法は、第2の合金の第2の材料が鋳型内で内側領域内に配列され、このように配列された材料は、等方性プレス工程により、第1の合金と第2の合金との間の境界領域で微小ひび割れが存在しない固化された(一体形成された)ノズルブランク部へと処理されることを特徴とする。
ノズル内の第2の合金の使用がノズルの構造に変更を生じさせること、及び、材料又は構造の変更は、通常、寿命に負の影響を及ぼすという事実にも係らず、本ノズルの寿命は改善される。おそらくは、改善された寿命は、2つの合金の間の境界領域に微小ひび割れが存在しないが故に、得られる。等方性プレス工程を用いることによる異なる材料の固化(一体成形)は、固体材料上の溶解材料の塗布から、知られた種類の特性の境界領域無しに、拡散調整された固化を生成する。EP0982493A1から周知された種類のノズルが、その使用前に、より均一な硬度へと熱処理されたとしても、微小ひび割れは、塗布の直後に薄く、非常に硬い溶解ベースの混合領域と、熱に影響を及ぼされる鋼鉄の領域とにおいて発生する。本発明に係る拡散調整された固化は、熱に影響を及ぼされる関連領域を備えた溶解ベースの混合領域を一切形成しない。2つの異なる材料の間の遷移領域で微小ひび割れを回避することにより、ノズル中で疲労破壊を開始する実質的な源が除去され、その結果、ノズルの寿命をかなり改善させる。拡散調整固化は、2つの異なる材料の間の結合誤差のおそれを非常に低くさせる。
【0006】
好ましくは、寿命の更なる改善を得るために、第2の合金の第2の材料は、仕上げされたノズルにおいて耐腐食性の第1の合金よりも高い疲労強度を有する。疲労強度は、ノズルの寿命にとって重要である。それは、ノズル上の従来の熱ベースの負荷に加えて、ディーゼルエンジンにおける燃料の注入のより正確な制御と、これによる燃料のより良好な燃焼と汚染成分の形成の減少とを得るため、これまでに印加されたものよりも、より高い注入圧力及びより迅速な圧力振動の使用の結果として、疲労負荷においてかなりの増大が生じるものと予想されるからである。
【0007】
少なくとも耐腐食性合金が0.6%より多くのAlを含むとき、酸素制限拡散バリアは、等方性プレス工程の前に、第1の材料と第2の材料との間で使用されるのが好ましい。酸素制限拡散バリアは、合金のうち第1の合金から合金のうち第2の合金内に解放される酸素の拡散と、合金成分又は望ましくないAl不純物との反応とに対抗する。酸素は、例えば、第2の合金内で分解状態にあり、又は、材料の加熱の間で第2の合金において酸化物の分解で解放され得る。ほんの数ppmしかない非常に小さい量の酸素が、アルミニウム酸化物の析出及び/又は、2つの合金の間の境界領域で他の望ましくない析出をもたらし、ノズル全体の疲労強度の劣化を生じさせる。
【0008】
拡散バリアは、ノズルが高い疲労強度を維持するように酸素の有害な拡散を制限又は防止する。明らかに、合金が0.6%より少ないAl又は厳密に0.6%のAlを含む場合に拡散バリアを使用することができる。バリアの正の効果は、例えば、0.1乃至0.5%範囲のAlの含有量の合金で得ることができる。実際に使用される合金が、例えば金属間化合物、炭化物又はアルミニウム酸化物とは異なる酸化物等の析出物等、他の望ましくない析出物を生じさせる金属冶金プロセスのおそれを与える。拡散バリアは、一つの材料から他の材料まで酸素とは異なる合金成分の輸送に制限効果を有する。例えばCやホウ素等の小さい原子番号の元素が、高い含有量の当該元素をその自由形態で有する合金から、該元素を低い含有量で有する合金内へ拡散し得る。第2の材料において炭素含有量を制限することは、例えば、該ノズルの高い硬度への硬化に関連して、例えばノズルボアの周り等の複雑な形状を備えたノズルの領域において、ひび割れを硬化させる傾向をより低くさせるという利点を提供する。
【0009】
かかる拡散バリアは、ノズル材料として使用するのに適した耐腐食性合金と関連して、例えば、ニッケル及び銅の両方が、濃度が高くて安定したコーティングを形成するのに適するので、ニッケル、銅、又は、ニッケル合金を有することができる。代替例として、コバルトコーティング、コバルト合金、又は、クロムコーティングを使用することができる。
【0010】
ノズルの製造は、予め製作された第1の材料の部材の内側表面、又は、予め製作された第2の材料の部材の外側表面に拡散バリアを配置することにより、適切に簡素化することができる。予め製作された部材は、全ての材料が鋳型内に配置され、等方性プレス工程が実行され、当該材料を固化するまで、拡散のバリアとして機能することができる。これと同時に、予め製作された部材の使用は、当該部材が別の予め製作された部材と一緒に積み重ねられるか、又は、鋳型の部材の周り又は内部へと充填される微粒子材料のためのホルダーとして使用されるとき、鋳型を、プレス工程前に迅速且つ容易に充填することを可能にする。
【0011】
後者の場合には、予め製作された部材は、好ましくは、第1の材料から作られ、第2の合金の粒状出発物質で充填される。製造の観点では、これは、鋳型の迅速な充填の有利な可能性を提供する。これと同時に、第2の材料は、粉末冶金技術により製造され、これにより、等方的構造を得て特に良好な疲労特性を生じさせる。
【0012】
第1の合金の予め製作された部材が使用されるとき、それは、粉末冶金技術により、ボウル形状又は管状の壁へと鋳造され又は製造され、等方性プレス工程で使用される鋳型の一部を形成する。鋳型としてのそのような予め製作された構成部品の使用は、予め製作された構成部品が仕上げられたブランク部の一部であるとき、製造されたブランク部からの鋳型の引き続く除去を簡単化又は省略させる。
【0013】
本発明の別の実施形態に係る方法では、予め形成された第2の材料の中子部材は、鋳型内に配置され、該鋳型内では、第1の合金の粉末が、等方性プレス工程が実行される前に配列されている。第2の材料の少なくとも一部分は、予め形成されているので、中子部材を第1の合金の粉末の配置を制御するため使用することができる。第1及び第2の合金からの粉末を混合する恐れ無く、当該粉末を中子部材に直接隣接して配置することができる。予め形成された中子部材は、微粒子材料を厳密に所望の配置に配列することを容易にする。
【0014】
予め形成された第1の材料の部材、及び/又は、予め形成された第2の材料の部材は、例えば、作業工程又は押し出し成形が続いて実行され得るところの、CIP処理若しくはHIP処理を用いて、又は、次の工程がプレス工程であるところの焼結工程を用いて、粒状出発物質から製造され、それにより、該部材が有利な等方的構造を有するようにする。その特性が等方性プレス工程により改善される、鋳造部材又は加工材料を使用することも可能である。
【0015】
等方性プレス工程は、粒子を実際に成長させること無く拡散により材料の固化を生じさせるHIP処理であるのが適切である。これにより、溶解無しに凝集材料へと固化された細かい粒状の出発物質を1つ以上の材料が有するという事実に起因する、細かい粒子構造を維持することを可能にする。等方性プレス工程は、CIP処理であってもよく、この処理では、HIP処理よりもかなり低い温度で加圧が生じる。
【0016】
別の態様では、本発明は、更に、ディーゼルエンジン、特に、ノズルの外側表面上に開口する幾つかのノズルボアと連通する中央の長さ方向のチャンネルを有する2ストローククロスヘッドエンジン内の燃料バルブのためのノズルに関する。当該ノズルは、ノズルボアの周りの少なくとも外側領域で耐腐食性の第1の合金から作られ、該外側領域とは異なる領域では第2の合金から作られている。
【0017】
ノズルの寿命を改善する観点で、本発明の第1の態様に係る上記方法の説明と関連して上述されたように、ノズルは、第1の合金と前記第2の合金との間の境界領域における材料は、微小ひび割れが存在しない構造を有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係るノズルにより得られた効果及び利点に関して、本発明の第1の態様に係る方法の説明と関連した上記説明が参照されるべきである。
【0019】
好ましい実施形態では、第2の合金は、耐腐食性の第1の合金よりも高い疲労強度を有し、上述されたように長い寿命の達成に更に寄与する。
【0020】
一実施形態では、酸素制限拡散バリアが、第1の合金と第2の合金との間にノズル内に設けられている。拡散バリアは、この合金のための所望の特性及び製造条件に基づいて、この合金の成分が第2の合金の成分と負に相互作用を及ぼすか否かを考慮する必要無しに、耐腐食性の第1の合金の分析結果を決定することを可能にする。同様に、第2の合金の分析結果を、第1の合金の成分を考慮する必要無しに決定することができる。
【0021】
第2の合金は、粉末冶金技術により作ることができる。この技術は、所望の部材へと溶解するだけによる材料の製造と比較して改善された特性を生じさせる。
【0022】
好ましい実施形態では、第1の合金は、ニッケルベースの合金であり、第2の合金は、鉄ベースの合金である。ノズルの内部で使用される鉄ベースの合金は、複雑な形状を有するノズルの領域で高い強度を提供する。多数のノズルボアが、小さい領域内に配置され、中央の長さ方向のチャンネルへと様々に異なる角度で切削されるからである。
【0023】
ニッケルベースの合金は、炭化物形成に影響を及ぼされやすく、このため、例えば重量にして0.6%までの制限されたC含有量を有するだけである。高い疲労強度を有する従来の鉄ベースの合金は、通常、重量にして数パーセントまでの高いC含有量を有する。必要ならば、鉄ベースの合金は、ノズルの作動温度で、ニッケルベースの合金よりも少ない自由炭素を有する。鉄ベースの合金における炭化物形成合金成分は、例えば、炭化物の分解温度がノズルの作動温度よりも高く、更にノズルがHIPプロセスにより製造されるときにはHIP温度よりも高くなるように、選択することができる。このようにして炭化物の分解による自由炭素の解放が回避される。更には、自由炭素を捕捉し結合させる合金成分として、強力な炭化物形成体を選択することができる。
【0024】
当該ノズルは、燃料バルブの主要バルブシートを含むスピンドルガイドの延長で燃料バルブ内に配置された別個のユニットとして、設計されるのが適切である。この設計によれば、当該ノズルは、主要なバルブシートで発生するかなり大きな応力によっては影響を及ぼされないか、又は、最小の範囲でしか影響を及ぼされない。ノズルの代用では、この代用品は、燃焼室内に突出する燃料バルブの部品から主要に構成される、より小さい部分に限定される。
【0025】
更なる実施形態では、第2の合金は、ノズルの総質量の70%より多くを占める。このことは、第2の合金が第1の合金よりも安価で済む場合には、強度の利点に加えて、コスト上の利点となり得る。
【実施例】
【0026】
以下、概略図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0027】
図1は、内燃エンジン内の燃料バルブのノズルを全体として参照番号1で示している。この内燃エンジンは、4ストロークエンジンであってもよいが、各シリンダーに一つより多い燃料バルブを備えた2ストローククロスヘッド式エンジンであるのが好ましい。後者のエンジンは、典型的には、ノズルの長寿命に関して厳しい要求を課する。その理由としてとりわけ、該エンジンは、硫黄を含むことさえある重燃料オイルでしばしば作動するからである。
【0028】
ノズルは、バルブハウジング2の端部で中央穴を通って突出し、該バルブハウジング2
の環状表面3は、ノズルボア4を備えたノズルの先端部が燃焼室A内に突出して燃料バルブが開いたときに燃料を噴射することができるように、シリンダーライナー又は破線により示されたシリンダーカバー内の対応する当接表面に対して押圧され得る。燃料バルブは、バルブニードル6を備えたバルブスライダー5と、図示のバルブ設計では、スライダーガイド8の下側端部に配置されたバルブシート7と、を有する。スライダーガイドは、ノズル1の上側に面した表面に対して押下される。
【0029】
ノズルは、中央の長さ方向チャンネル9を有し、該チャンネルからノズルボア4は、ノズルの外側表面へと導かれる。ノズルは、耐腐食性の第1の合金10からなる第1の材料と、第2の合金からなる第2の材料と、から構成される。第1の合金は、ノズル孔の周囲の領域において少なくとも最外側領域を構成し、バルブハウジング2から突出するノズルの全部分に亘ってノズルの外側表面を構成する。
【0030】
耐腐食性の第1の合金からなる第1の材料は、粒状出発物質から作られてもよく、又は、例えば鋳造により作られてもよい。第1の合金として使用するための適用可能な合金の例は、ニッケルベースの合金である。この合金は、例えば、一般に生じる不純物を別にして、重量%で、15乃至30%のCr、0.02乃至0.55%のC、及び、オプションで、次の構成物の一つ以上を含み得る。即ち、0乃至15%のW、0乃至8%のAl、0乃至5%のTi、0乃至20%のCo、0乃至2%のHf、0乃至5%のNb及び/又はTa、0乃至35%のMo、0乃至10%のSi、0乃至1.5%のY、並びに、0乃至20%のFeである。この合金は、不可避の不純物を含んでおり、残りのものはニッケルである。そのような合金の典型例は、次の分析結果を有する。即ち、23%のCr、7%のW、5.6%のAl、1%のSi、0.5%のC、及び、0.4%のYである。このHIP処理された合金は、約±450MPaの疲労強度σを有する。
【0031】
ニッケルベースの合金は、一般に生じる不純物を別にして、重量%で、35乃至60%のCr、0.02乃至0.55%のC、及び、オプションで、次の構成物の一つ以上を含む種類のものであってもよい。即ち、0乃至1.0%未満のSi、0乃至5.0%のMn、0乃至5.0%のMo及び/又はW、0乃至0.5%未満のB、0乃至8.0%のAl、0乃至1.5%のTi、0乃至0.2%のZr、0乃至3.0%のNb、0乃至最大2%のHf、0乃至1%のN、0乃至最大1.5%のY、並びに、最大で総計5.0%のCo及びFeである。この合金は、不可避の不純物を含んでおり、残りのものはNiである。この材料は、高い疲労強度と、燃料からの高温腐食及び浸食の両方に対して非常に高い耐性とを有する。
【0032】
腐食耐性の第1の合金材料として使用するための合金の他の例が表1に記載されている。
【0033】
【表1】

【0034】
熱膨張係数は、20℃乃至500℃で加熱するための平均の線形熱膨張係数として上記されており、即ち、それは、500℃の範囲に亘って関連している。第1の合金は、第2の合金と略同じ熱膨張係数を持つのが好ましい。代替例として、第1の合金は、HIP温度から20℃への冷却と関連してノズルの中央領域で圧縮応力が発生するように、第2の合金よりも高い熱膨張係数を適切に持つことができる。
【0035】
コバルトベースの合金、例えばセルシット50−P等を使用することも可能であるが、HIP処理条件では、それらは、約±150MPaの疲労強度σを得ることしかできず、この理由のため、それらは好ましい材料ではない。
【0036】
第2の合金のための合金材料として、鉄ベースの合金が好ましく、例えば、0.4%C、1.0%Si、0.4%Mn、5.2%Cr、1%V,1.3%Mo、及び、残りがFeと分析される工具鋼AISI H13か、又は、0.45%C、0.4%Si、0.4%Mn、4.5%Co、4.5%Cr、0.5%Mo、2%V、4.5%W、及び、残りがFeと分析される工具鋼AISI H19か、又は、U.S.Aるつぼ鋼研究から得られる工具鋼CPM1V及びCPM3Vである。CPM1Vは、0.5%C,4.5%Cr、1%V,2.75%Mo、2%W、0.4%Si、0.5%Mn及び残りがFeであり、CPM3Vは、0.8%C、7.5%Cr、2.5%V、1.3%Mo、0.9%Si、0.4%Mn及び残りがFeである。
【0037】
工具鋼は、追加された合金成分の高い比率にも関わらず、カーバイドネットワークが回避されるように、非常に細かい構造を備えた細粒等方粉末として粉末冶金技術により製造することができる。溶解合金を低温大気中に圧力噴霧することにより、カーバイドは、非常に小さくなり、均一に分散されるようになる。
【0038】
第2の合金に関する合金材料の他の例が表2に示されており、この表では、熱膨張係数が表1と同じ仕方で記述されている。
【0039】
【表2】

【0040】
特定の工具鋼に関して、疲労強度は、ノズルブランク部に与えられた熱処理を用いて調整可能である。ノズルブランク部の等方性プレス工程の後、ノズルブランク部の外側形状及び内側形状が仕上げられる。長さ方向の中央チャンネル及びノズルボアは、ブランク部内に機械加工され、ブランク部の外側表面は、その仕上げ形状へと旋盤加工され、研磨されてもよい。
【0041】
形状機械加工が仕上げられたとき、ノズルブランク部は、熱処理を施されてもよく、この処理で第2の合金が適切な硬度へと硬化される。硬化工程は、例えば、10分から40分の浸漬時間で1000℃から1100℃までの範囲の温度で実行することができる。次に、最終的な熱処理は、1つ以上の焼き戻し処理の形態で実行される。この焼き戻しは、仕上げられたノズルの結果としての疲労強度にとって重要である。焼き戻し工程は、例えば、450℃乃至600℃の範囲の温度で2時間の浸漬時間に亘って実行されてもよい。好ましくは、2時間の2又は3周期で二重若しくは三重の焼き戻し工程が使用されるのがよい。上述された工具鋼は、仕上げられたノズルにおいて約±500〜900MPaの疲労強度σを持っていてもよい。好ましくは、疲労強度σは、少なくとも±750MPaである。これと同時に、工具鋼は高い耐摩耗性及び硬度を有利に持っている。
【0042】
第1及び第2の合金の両方に関して、適切に使用される粉末は、0から1000μmの範囲のサイズを有する。
【0043】
ノズルブランク部が等方性プレス工程で如何に処理することができるかを示すため以下に例が与えられる。
【0044】
図2は、鋳型13内に挿入された、予め成形された中子部材12を示している、この鋳型13は、底部パネル14、側壁15、カバー16及び充填ノズル17から構築されている。中子部材は、第2の合金から作られており、一緒に焼結され、所謂未焼成のブランク部に冷間プレス加工された粉末から予め作られている。中子部材は、高速粉末プレス加工により、又は、CIP若しくはHIPプロセスにより作られてもよい。中子部材は、工具鋼のための従来の方法によって作られてもよく、ESR(電子スラグ精錬)再鋳造であってもよい。中子部材は、鋳型13内に上方に突出するボディ区分10よりも実質的に大きい直径を備えたヘッド区分18を有する。ボディ区分は、ノズルボアから一定距離で終わっていてもよく、又は、図1に示されるように、それは、中央チャンネル全体を覆うようにノズル内へと更に延在していてもよい。後者の場合には、ノズルボアは、中央チャンネルの周りの領域で第2の合金を通過し、ノズルの最外側領域で第1の合金を通過する。
【0045】
側壁15は、ヘッド区分18の周りに適合し、上方にいくにつれて、より小さい直径へと狭まっていく。ボディ区分の周囲では、側壁が、耐腐食性の第1の合金の所望の厚さにおおかた対応する距離で隔てられている。円形底部パネル14は、側壁15の下側リムに、その全周囲に沿って溶接されている。同様に、カバー16は、側壁の上側リムに溶接され、充填ノズルは、カバーの上側表面に溶接されている。
【0046】
第1の合金10の細かく粒状化された粉末は、中子部材12の周りの空洞部へと、充填ノズル17を介して充填される。粉末を含んだ鋳型は、振動され、より多くの粉末の後充填工程が実行され、必要とあらば、鋳型が吸引され、充填ノズルで圧力気密の状態となるように閉鎖される。
【0047】
次に、鋳型が炉内に配置され、炉室が、アルゴン等の不活性ガスで約200バールの圧力までポンプ充填され、1000乃至1300℃の範囲の温度、典型的には1150℃まで加熱される。加熱と同時に、炉室内の圧力は、約900乃至約1100バールまで上昇する。温度及び圧力は、4乃至8時間の期間に亘って維持され、この期間の間に、鋳型内の材料は、孔が無い濃密なボディへと固化される。
【0048】
鋳型は、冷却後には、HIP処理ブランク部から取り外される。使用済みの鋳型は、例えば、鋼鉄又はガラスから作られてもよい。後者の場合には、上記した溶接は、ガラスの溶解加熱に存する。
【0049】
次に、焼きなまされたノズルブランク部は、該ブランク部を応力解放し硬化し及び焼き戻すことができる例えば旋盤や穴あけによって、その仕上げ形状へと機械加工される。高温におけるHIP処理の結果として、ノズルの熱処理がHIP温度よりも低い温度で起こる場合には、材料内での粒子成長が事実上存在することなく、ノズルの熱処理を実行することができる。このことは、有利な利点である。より大きい粒子がより低い疲労強度を生じさせるが故である。
【0050】
本発明に係るノズルの寿命は、長い。とりわけ、2つの材料の間の遷移領域で微小ひび割れが存在しないという理由からである。微小ひび割れは、単一の結晶粒子内のひび割れ、又は、幾つかの結晶粒子を通って延在する、ひび割れである。微小ひび割れは、典型的には、0.05mm乃至0.5mmの長さ範囲を持ち得る。0.05mmよりも小さいサイズのひび割れを無視することができる。微小ひび割れがノズル内で発生したとき、ノズル内で多数のひび割れが存在している。その理由は、上述した熱影響領域により又は結合誤差により引き起こされるひび割れは、ほんの数粒子ではなく、大きな領域に影響を及ぼすからである。かくして、微小ひび割れの存在は、ノズル内の2つの合金の間の幾つかの応力にさらされた境界領域を検査することにより決定することができる。さらされた領域のほとんどに微小ひび割れが存在しない場合、全ノズルは、境界領域に微小ひび割れが存在しないとみなすことができる。
【0051】
簡単にするため、他の例の次の説明は、同じ機能を有する詳細事項のために上記で使用されたものと同じ参照番号を利用する。
【0052】
図3は、同じ鋳型内の多数のノズルブランク部の製造に適切である鋳型13の設計を示す。側壁15は、ヘッド区分18の外径に対応する内径を備えた円柱状である。第1の合金の厚さは、ボディ区分の周りに円柱充填パイプ21を、該パイプに粉末を充填する前に配置することにより、制御される。側壁15を図に示されるものよりも長く作ることにより、第1の中子部材12と、これに連係した拡散バリア24と、充填パイプ21とは、カバー16の取り付け前に側壁内に配置することができ、それにより、粉末が充填パイプ内にその上側エッジまで充填される。次に、次のパイプ21付き中後部材と、バリア24と、粉末とは、側壁15の頂部に届くまで、最初に配置されたものの頂部に配置することができ、全鋳型がカバー16の取り付けにより閉鎖される。次に、HIP処理は、上述のように実行される。
【0053】
拡散バリア24は、ボディ区分19の外側表面に配置され、ヘッド区分18の上側に面した側部に配置される。バリアは、電解質蒸着、又は、メッキ等の他の表面処理方法により、予め形成された中子部材に適用されたコーティングであってもよい。バリアは、例えば、ニッケル、銅、コバルト、又は、ニッケル−リン合金から作られてもよい。その代わりに、コーティングは、噴霧により、又は、所望の材料の薄いフォイル、典型的には、例えばニッケル、コバルト又は銅等の純金属を配置することにより、適用することができる。バリアは、適切には、5乃至400μm、好ましくは10乃至100μmの範囲の厚さを有する。
【0054】
図4は、側壁15は、円柱状であり、ヘッド区分18の肩部にその下側リムのところで溶接されている。この設計は、鋳型をより安価にする。ノズルの最終的な機械加工に関連して、熱に影響される領域に伴う溶接は、旋盤により除去される。予め形成された中子部材は、例えば、先立つHIP処理により、又は、CIP処理(冷間等方性プレス加工)により作ることができるが、溶接部を材料に作ることはできない。
【0055】
図5は、第1の合金の円柱壁22がボディ区分19の周りに配置されている設計を示している。パイプの内径は、拡散バリア24が組み立てで損傷を受けないように、ボディ区分の外径よりも僅かに大きい。壁22は、粉末冶金技術により製造することができるが、共通のパイプ、好ましくは継ぎ目無しのパイプとして製造することもできる。第1の合金10の粉末が壁内部に充填された後、HIP処理は、壁22が中子部材上に残っており、ノズルブランク部の一部であることを除いて上述されたように実行される。
【0056】
図6は、第1の合金の壁22が、ボウル形状であり、拡散バリア24が備え付けられている更なる設計を示している。カバー16の取り付け後には、鋳型は、第2の合金の粉末で充填され、HIP処理が、壁22がノズルブランク部のHIP製造式内側部上に残っていることを除いて上述のように実行される。
【0057】
壁22の形態の耐腐食性の第1の合金及び第2の合金11の両方は、2つの予め製作された部材として、拡散バリア24と共に製造され、該バリアが一方の部材又は他方の部材のいずれかに配置されること、これらの部材が図6に示されるように互いに挿入されてカバー16が取り付けられること、並びに、鋳型が吸引され、閉鎖されて、HIP処理が上述のように実行されることが更に可能となる。この場合には、HIP処理は、これらの部材が上述のように既に予め製造されているときには微粒子材料の実際の統合化工程を含んでいないが、HIP処理は、これらの部材を、界面のところの拡散結合工程により、凝集性のブランク部へと固化させる。
【0058】
図7は、第1及び第2の合金の間のインターフェースのところで延在するパネル仕切り部23により鋳型が内部で分割される、更なる実施例を示している。パネル仕切り部23を、第1の合金又は第2の合金から作ることができる。パネル仕切り部23は、第3の材料から作られる酸素制限拡散バリアであることも可能である。パネル仕切り部が比較的厚いので、第2の合金からの成分は、第1の合金へと拡散することはできない。
【0059】
底部パネルは、粉末を充填するため充填ノズル17が備え付けられている。第1の一つの粉末が、連係する充填ノズルにより充填され、その結果、空気が吸引され、ノズルが閉鎖される。鋳型が、ひっくり返され、第2の粉末が第2のノズルにより充填され、空気が第2のチャンバーから吸引される。HIP処理が上述されるように実行される。
【0060】
ノズルは、図1に示されたものとは異なる設計を持ち得る。バルブスライダーに第2の閉鎖部材を載せることが可能であり、該第2の閉鎖部材は、燃料チャンネル9の下流でノズルボア4を閉鎖させる。第2の閉鎖部材が、工具鋼から作ることもできる長さ方向チャンネルの内側表面に沿って摺動するとき、該第2の閉鎖部材を、工具鋼から有利に作ることができる。これは、2つの工具鋼が互いに沿って良好に移動するという事実を利用したものである。主要バルブシートをノズルの下流側に配置して、バルブシートの下方の燃料チャンネルの体積を最小にすることも可能である。更には、ノズルボアは、ノズルの一方側にのみ差し向けられるのでではなく、一方及び他方の両方の側に差し向けられるか又はノズルの全周囲に沿って分布させられることも可能である。
【0061】
第2の合金の予め成形された中子部材、及び/又は、第1の合金のボウル又はパイプ形状の壁は、例えば、鋳造材料又は鍛造材料等、粒状出発物質に基づかない材料から前もって製造されてもよい。
【0062】
第2の材料が、HIP処理の間に若しくはこれと直接関連して、硬化され、及び/又は、焼き戻し若しくは焼きなましされるように、かくして引き続く熱処理の工程を省略するように、HIP処理の間に温度を制御することが可能となる。
【0063】
様々な実施例の詳細事項及び例を新しい実施例に結合することができる。多数の粉末サイズからの第1の合金又は第2の合金の粉末を混合することも可能であり、上記した種類のものであり得る多数の異なる金属合金の粉末も使用することができる。更に、絶縁効果を得るためセラミック粉末を混合することも可能となる。セラミック粉末は、ノズルの先端から短距離で層内に配置されてもよい。セラミック粉末は、第1の耐腐食性合金の粉末により覆われる。様々な粉末の段階的混合を使用することもできる。更には、HIP処理の前に、鋳型の充填に関連して、第1の合金の粉末、例えば図2のボディ区分19の上方に存在する粉末内にセラミック材料のスクリーンを配置することが可能となる。第1の合金の粉末は、ノズルの最外側が耐腐食性材料から作られるようにスクリーンの頂部に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、燃料バルブの最下端部に取り付けられたノズルの長さ方向断面図である。
【図2】図2は、ノズルのHIP処理で使用するための様々な粉末が充填された鋳型の断面図を示す。
【図3】図3は、ノズルのHIP処理で使用するための様々な粉末が充填された鋳型の断面図を示す。
【図4】図4は、ノズルのHIP処理で使用するための様々な粉末が充填された鋳型の断面図を示す。
【図5】図5は、ノズルのHIP処理で使用するための様々な粉末が充填された鋳型の断面図を示す。
【図6】図6は、ノズルのHIP処理で使用するための様々な粉末が充填された鋳型の断面図を示す。
【図7】図7は、ノズルのHIP処理で使用するための様々な粉末が充填された鋳型の断面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジン、特に2ストローククロスヘッドエンジン内で燃料バルブのためのノズルを製造する方法であって、耐腐食性の第1の合金の第1の材料が、前記ノズルの外側表面をノズルボアの周りに構成するため、少なくとも外側領域で鋳型内で配列され、
第2の合金の第2の材料が前記鋳型内で内側領域内に配列され、前記したように配列された材料は、等方性プレス工程により、前記第1の合金と前記第2の合金との間の境界領域で微小ひび割れが存在しない固化されたノズルブランク部へと処理されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第2の合金の前記第2の材料は、仕上げられたノズルにおいて、耐腐食性の第1の合金よりも高い疲労強度を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも前記耐腐食性合金が0.6%より多いAlを含むとき、前記等方性プレス工程前に、酸素制限拡散バリアが、前記第1の材料と前記第2の材料との間で使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記拡散バリアは、ニッケル、銅又はニッケル合金を有することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記拡散バリアは、前記第1の材料の予め製作された部材の内側表面に配置され、又は、前記第2の材料の予め製作された部材の外側表面に配置されることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の材料の予め製作された部材は、好ましくは、高速粉末プレス工程を用いて、前記第2の合金の粒状出発物質で充填されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の合金の前記予め製作された部材は、粉末冶金技術により、ボウル形状又は管状壁へと鋳造若しくは製造され、前記等方性プレス工程で使用される鋳型の一部を形成することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の材料の予め形成された中子部材は、鋳型内に配置され、該鋳型には、前記等方性プレス工程が実行される前に、前記第1の合金の粒状出発物質が配列されていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の材料の前記予め形成された部材、及び/又は、前記第2の材料の前記予め形成された部材は、例えば、作業工程又は押し出し成形が続いて実行され得るところの、高速粉末プレス工程、CIP処理若しくはHIP処理を用いて、又は、次の工程がプレス工程であるところの焼結工程を用いて、粒状出発物質から製造されることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記等方性プレス工程は、HIP処理であることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ディーゼルエンジン、特に2ストローククロスヘッドエンジン内の燃料バルブのためのノズルであって、
前記ノズルは、該ノズルの外側表面で開口する幾つかのノズルボアと連通する、中央の長さ方向ボアを有し、
前記ノズルは、前記ノズルボアの周りの少なくとも外側領域で耐腐食性の第1の合金から作られ、前記外側領域とは異なる領域では第2の合金から作られており、
前記第1の合金と前記第2の合金との間の境界領域における材料は、微小ひび割れが存在しない構造を有することを特徴とする、ノズル。
【請求項12】
前記第2の合金は、耐腐食性の第1の合金よりも高い疲労強度を有することを特徴とする、請求項11に記載のノズル。
【請求項13】
酸素制限拡散バリアは、前記ノズル内の前記第1の合金と前記第2の合金との間に設けられていることを特徴とする、請求項11又は12に記載のノズル。
【請求項14】
前記第2の合金は、粉末冶金技術により作られることを特徴とする、請求項11乃至13のいずれか1項に記載のノズル。
【請求項15】
前記第1の合金は、ニッケルベースの合金であり、前記第2の合金は、鉄ベースの合金であることを特徴とする、請求項11乃至14のいずれか1項に記載のノズル。
【請求項16】
前記ノズルは、前記燃料バルブの主要バルブシートを含むスピンドルガイドの延長で前記燃料バルブに配置された別個のユニットであることを特徴とする、請求項11乃至15のいずれか1項に記載のノズル。
【請求項17】
前記第2の合金は、前記ノズルの総質量の70%を超える部分を占める、請求項16に記載のノズル。
【請求項18】
前記第2の合金の疲労強度σは、少なくとも±750MPaであることを特徴とする、請求項11乃至17のいずれか1項に記載のノズル。
【請求項19】
前記第1の合金により覆われた絶縁セラミック材料は、前記ノズル内に提供されている、請求項11乃至18のいずれか1項に記載のノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−144251(P2010−144251A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−6448(P2010−6448)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願2004−540547(P2004−540547)の分割
【原出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【出願人】(594140904)マーン・ベー・オグ・ドバルドヴェー・ディーゼール・アクティーゼルスカブ (22)
【氏名又は名称原語表記】Man B&W Diesel A/S
【住所又は居所原語表記】Center Syd,161 Stamholmen,DK−2650 HVIDOVRE,Denmark
【Fターム(参考)】