説明

デジタル制御発振器

【課題】TDCに関する冗長構成を削減可能なDCOを提供する。
【解決手段】DCOは、デジタル制御信号によって遅延量が制御される3以上の奇数個の単相インバータ101〜105を環状に接続したリングオシレータと、単相インバータの各々の出力信号をバッファリングし、第1の差動信号として夫々出力する奇数個のバッファ111〜115と、基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける第1の差動信号の値を保持して第2の差動信号として夫々出力する奇数個のフリップフロップ121〜125と、奇数個のフリップフロップから出力される奇数組の第2の差動信号を入力し、奇数組の第2の差動信号を位相の進み順に配列したときの、連続する高レベル値または連続する低レベル値の末尾を示す情報を出力するエッジ検出器130とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、All-digital方式のPLL(ADPLL)において使用されるデジタル制御発振器(DCO)及びTDC(Time to Digital Converter)に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ADPLLは、DCOから出力される発振信号と基準信号との位相差をデジタル値に変換するTDCを備えている。従来のTDCは、例えば特許文献1(特に、図5参照)に示すように、縦続接続されたインバータで構成される遅延段を含んでいる。TDCは、発振信号と基準信号との間の位相差を、これら遅延段を構成するインバータの各々が与える単位遅延量で量子化する。故に、従来のTDCは、DCOの可変周波数の最小値(即ち、可変周期の最大値)に応じた段数の遅延段を必要とする。また、ADPLLは、小数位相情報を規格化して利用するため、周波数制御の実行毎に発振信号の周期を単位遅延量で量子化する必要もある。また、従来のADPLLは、カウンタからの整数位相情報の検出タイミングと、TDCからの小数位相情報の検出タイミングとの間の時間差に起因するスプリアスを回避するために、両情報を微分器によって微分してから位相比較を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−76886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のTDCをADPLLにおいて利用するためには、遅延段、微分器、発振信号の周期を単位遅延量で量子化するための回路などが必要となる。このような冗長な構成を削減できれば、回路面積の縮小、消費電力の低減などを期待できる。
【0005】
従って、本発明は、TDCに関する冗長構成を削減可能なDCOを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るDCOは、デジタル制御信号によって遅延量が制御される3以上の奇数個の単相インバータを環状に接続したリングオシレータと、前記奇数個の単相インバータの出力信号のうち1つの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを計数し、カウント値を出力するカウンタと、基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける前記カウント値を保持して整数位相情報として出力する第1のフリップフロップと、前記単相インバータの各々の出力信号をバッファリングし、第1の差動信号として夫々出力する奇数個のバッファと、前記基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける前記第1の差動信号の値を保持して第2の差動信号として夫々出力する奇数個の第2のフリップフロップと、前記奇数個の第2のフリップフロップから出力される奇数組の第2の差動信号を入力し、当該奇数組の第2の差動信号を位相の進み順に配列したときの、連続する高レベル値または連続する低レベル値の末尾を示すバイナリデータを出力するエッジ検出器と、前記バイナリデータを前記奇数組の第2の差動信号の位相数で除算し、規格化された小数位相情報を出力する規格化器とを具備する。
【0007】
本発明の他の態様に係るDCOは、デジタル制御信号によって遅延量が制御される複数の差動増幅器を環状に接続したリングオシレータと、前記複数の差動増幅器の出力信号のうち1つの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを計数し、カウント値を出力するカウンタと、基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける前記カウント値を保持して整数位相情報として出力する第1のフリップフロップと、前記複数の差動増幅器の各々の出力信号をバッファリングし、第1の差動信号として夫々出力する複数のバッファと、前記基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける前記第1の差動信号の値を保持して第2の差動信号として夫々出力する複数の第2のフリップフロップと、前記複数の第2のフリップフロップから出力される複数組の第2の差動信号を入力し、当該複数組の第2の差動信号を位相の進み順に配列したときの、連続する高レベル値または連続する低レベル値の末尾を示すバイナリデータを出力するエッジ検出器と、前記バイナリデータを前記第2の差動信号の位相数で除算し、規格化された小数位相情報を得る規格化器とを具備する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、TDCに関する冗長構成を削減可能なDCOを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係るDCOを示すブロック図。
【図2】図1のDCOにおける各信号のタイミングチャート。
【図3A】図1のDCOにおける各信号のタイミングチャート。
【図3B】図1のDCOにおける各信号のタイミングチャート。
【図4A】図1のDCOにおける各信号のタイミングチャート。
【図4B】図1のDCOにおける各信号のタイミングチャート。
【図5】第2の実施形態に係るDCOを示すブロック図。
【図6A】図5のDCOにおける各信号のタイミングチャート。
【図6B】図5のDCOにおける各信号のタイミングチャート。
【図7】第3の実施形態に係るDCOを示すブロック図。
【図8】図7のDCOにおける各信号のタイミングチャート。
【図9】第4の実施形態に係るDCOを示すブロック図。
【図10】第5の実施形態に係るPLL回路を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係るDCOは、単相インバータ101〜105、バッファ111〜115、Dフリップフロップ121〜125、エッジ検出器130、カウンタ140、Dフリップフロップ150、規格化器160、減算器170及び位相比較器180を有する。
【0011】
単相インバータ101〜105は、環状接続されている。これら単相インバータ101〜105は、いわゆるリングオシレータに相当する。尚、リングオシレータは、奇数個(3以上)の単相インバータを環状接続することで構成される。故に、単相インバータ101〜105は、3段または7段以上の単相インバータに置き換えられてもよい。単相インバータ101〜105は、図示しないデジタル制御信号によって決まる周波数で発振する。換言すれば、遅延段としての単相インバータ101〜105の各々の遅延量は上記デジタル制御信号によって制御される。単相インバータ101〜105は、発振信号11〜15を夫々出力する。発振信号11〜15は、互いに位相が2π/5ずつ異なるものの、周波数は等しい。発振信号11〜15のうち少なくとも1つ(例えば発振信号11)は、リングオシレータの出力信号として外部(例えばADPLLの外部)に出力される。また、このリングオシレータの出力信号(発振信号11)は、カウンタ140にも入力される。
【0012】
バッファ111〜115は、単相インバータ101〜105からの発振信号11〜15を夫々バッファリングする。発振信号11〜15をバッファリングすることの技術的意義の1つは、リングオシレータと後述するDフリップフロップ121〜125との間の配線容量などに起因する波形なまりを抑制することである。この技術的意義は、両者の間の配線が長くなるようなレイアウトに関して特に有意である。更に、バッファ111〜115は、発振信号11〜15を差動信号に変換する。即ち、バッファ111〜115は通常のバッファとしての役割だけでなく、単相−差動変換器としての役割も果たしている。
【0013】
尚、バッファ111〜115は入力信号を1段のインバータに入力し、その出力信号を分岐して、一方を1段のインバータに与え、他方を2段のインバータに与えている。しかしながら、この構成は例示的であり、バッファ111〜115として利用可能な構成はこれに限られない。
【0014】
より具体的には、バッファ111は、発振信号11と位相及び周波数が等しい発振信号21及びこの発振信号21の逆相信号である発振信号26を出力する。バッファ112は、発振信号12と位相及び周波数が等しい発振信号28及びこの発振信号28の逆相信号である発振信号22を出力する。バッファ113は、発振信号13と位相及び周波数が等しい発振信号23及びこの発振信号23の逆相信号である発振信号28を出力する。バッファ114は、発振信号14と位相及び周波数が等しい発振信号29及びこの発振信号29の逆相信号である発振信号24を出力する。バッファ115は、発振信号15と位相及び周波数が等しい発振信号25及びこの発振信号の逆相信号である発振信号30を出力する。
【0015】
Dフリップフロップ121〜125は、前段のバッファ111〜115からの差動信号を入力信号として受け、基準信号10をクロック信号として受ける。即ち、Dフリップフロップ121〜125がポジティブエッジトリガフリップフロップであれば基準信号10の立ち上がりエッジにおける差動信号の値を保持して出力し、ネガティブエッジトリガフリップフロップであれば基準信号10の立ち下がりエッジにおける差動信号の値を保持して出力する。Dフリップフロップ121〜125は、出力となる差動信号をエッジ検出器130に夫々入力する。
【0016】
より具体的には、Dフリップフロップ121は、基準信号10の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号21の値を保持してエッジ検出器130のQ1端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器130のQ1b端子に入力する。Dフリップフロップ122は、基準信号10の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号27の値を保持してエッジ検出器130のQ2端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器130のQ2b端子に入力する。Dフリップフロップ123は、基準信号10の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号23の値を保持してエッジ検出器130のQ3端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器130のQ3b端子に入力する。Dフリップフロップ124は、基準信号10の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号29の値を保持してエッジ検出器130のQ4端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器130のQ4b端子に入力する。Dフリップフロップ125は、基準信号10の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号25の値を保持してエッジ検出器130のQ5端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器130のQ5b端子に入力する。
【0017】
エッジ検出器130は、例えばpsuedo thermo-decoderである。エッジ検出器130は、基準信号10と発振信号11との間の位相誤差を検出する。より具体的には、エッジ検出器130は、Q1、Q2b、Q3、Q4b、Q5、Q1b、Q2、Q3b、Q4、Q5bの10個の入力端子を備えており、この順序は入力信号の位相の進み順に対応している。即ち、Q1端子への入力信号の位相が最も進んでおり、Q5b端子への入力信号の位相が最も遅れている。尚、エッジ検出器130の入力端子数は、リングオシレータの段数に依存する。エッジ検出器130は、Q1から順に連続する高レベル値(例えば「1」)または低レベル値(例えば「0」)を検査し、この末尾を示すバイナリデータを規格化器160に入力する。例えば、エッジ検出器130は、Q3が末尾であれば「3(=0011)」を出力し、Q3bが末尾であれば「8(=1000)」を出力する。
【0018】
以下、図2を用いてエッジ検出器130の動作例を説明する。
図2において、発振信号11〜15,21〜30及び基準信号10のタイミングチャートが描かれている。尚、図2において、発振信号21,27,23,29,25は発振信号11,12,13,14,15と同期しているように描かれているが、実際にはバッファ111〜115の通過に伴う遅延が生じている。図2の例によれば、基準信号10の立ち上がりエッジは、発振信号26の立ち上がりエッジよりも遅く発振信号27の立ち上がりエッジよりも早い。エッジ検出器130には、基準信号10の立ち上がりエッジにおける各発振信号21〜30の値が入力される。即ち、10組の2値信号「0」、「1」、「1」、「1」、「1」、「1」、「0」、「0」、「0」、「0」が、エッジ検出器の前述した10個の入力端子に与えられる。そして、エッジ検出器130は連続する「1」の末尾である「6=(0110)」を出力する。このバイナリデータは、基準信号10が発振信号11に比べて単位遅延量の6つ分だけ位相が遅れていることを意味している。即ち、このバイナリデータは、基準信号10と発振信号11との間の位相誤差を表している。尚、ここでいう単位遅延量は、発振信号21〜30における最小位相差(π/5)である。
【0019】
カウンタ140は、発振信号11の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを計数し、カウント値をDフリップフロップ150に入力する。Dフリップフロップ150は、基準信号10によってクロック制御される(前述したDフリップフロップ121〜125と同じタイミングで動作する)。Dフリップフロップ150は、基準信号10の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおけるカウンタ140のカウント値を整数位相情報として減算器170に入力する。
【0020】
規格化器160は、エッジ検出器130からのバイナリデータを規格化するための演算を行う。前述のように上記バイナリデータは基準信号10と発振信号11との間の位相誤差を表しているが、通常、ADPLLにおいて小数位相情報は規格化された状態で利用される。従って、規格化器160は、上記バイナリデータをエッジ検出器130の入力信号の位相数(本例では10)で除算する。更に、本例では、カウンタ140は基準信号10の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジよりも以前の発振信号11の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを「1」だけ余分に計数しているため、規格化器160は除算結果をこの「1」から減算する演算を更に行う。図2の例であれば、規格化器160はバイナリデータ(6)をエッジ検出器130の入力信号の位相数(10)で除算し、除算結果(0.6)を「1」から減算し、規格化された小数位相情報ε(0.4)を得る。規格化器160は、規格化された小数位相情報εを減算器170に入力する。
【0021】
減算器170は、整数位相情報から小数位相情報εを減算し、位相情報32を得る。減算器170は、位相情報32を位相比較器180に入力する。位相比較器180は、所望位相情報33の整数部及び小数部と位相情報32の整数部及び小数部とを夫々比較し、比較結果を出力する。この比較結果は、図示しないADPLLの構成要素によって処理され、デジタル制御信号を調整するために利用される。
【0022】
次に、図3A及び図3Bを用いて、本実施形態に係るDCOにおいて起こり得るスプリアスについて説明する。このスプリアスは、Dフリップフロップ121〜125への入力信号(発振信号21〜30)と、Dフリップフロップ150への入力信号(カウント値31)との間の遅延差に起因する。
【0023】
図3A及び図3Bは、発振信号11、カウント値31、発振信号21、基準信号10、位相情報32及び所望位相情報33のタイミングチャートの一例である。図3A及び図3Bにおいて、ΔTbはバッファ111〜115において発生する遅延時間(発振信号11と発振信号21との間の遅延時間と同程度である)を表し、ΔTcはカウンタ140において発生する遅延時間(発振信号11とカウント値31との間の遅延時間と同程度である)を表している。即ち、ΔTbは単相インバータ101の出力からDフリップフロップ121の入力までの間の遅延時間を表し、ΔTcは単相インバータ101の出力からDフリップフロップ150の入力までの間の遅延時間を表している。本例において、ΔTcはΔTbよりも小さいものとする。本例において、DCOは、周波数が基準信号10の4倍であって、かつ、位相が基準信号10と同期(ロック)した発振信号11を出力することを目的として動作している。
【0024】
図3Aにおいて、発振信号11の周波数は基準信号10の4倍であるが、位相は同期しておらず位相誤差(ε=0.4)が生じている。故に、位相情報32は、「0.6」、「4.6」、「8.6」・・・のように増加する。このとき、位相情報32の小数部分は「0.6」である。一方、所望位相情報33の小数部分は「0.0」である。従って、DCOの発振周波数を高くするようにデジタル制御信号が調整される。
【0025】
DCOの発振周波数が高くなると、図3Bに示すように、タイミングチャートが変化する。図3Bに示すように、発振信号11(より正確には、発振信号21)の位相が基準信号10に同期した(ε=0.0)としても、発振信号11と発振信号21(及び基準信号10)との間にはΔTbの遅延時間がある。前述のように、ΔTcはΔTbよりも小さい。即ち、基準信号10のエッジがDフリップフロップ150に入力されるよりも前に、発振信号11のエッジが1つ余分に計数されたカウント値31がDフリップフロップ150に入力されてしまう。故に、位相情報32は、「2.0」、「6.0」、「10.0」のように増加し、本来の位相情報よりも「1.0」だけ大きくなってしまう。そして、DCOの発振周波数を再び低くするようにデジタル制御信号が調整される。以上のようなデジタル制御信号の調整を繰り返すことにより、スプリアスが生じる。
【0026】
以上のようなスプリアスの発生原理を考慮すると、ΔTbがΔTcよりも小さいことが望ましい。図4A及び図4Bは、図3A及び図3Bに対応するタイミングチャートを表している。図4A及び図4Bは、ΔTbがΔTcよりも小さいことを除き、図3A及び図3Bと条件は同じである。図4Bに示すように、発振信号11(より正確には、発振信号21)の位相が基準信号10に同期すると(ε=0.0)、基準信号10のエッジは、この基準信号10にTbだけ先行する発振信号11のエッジによってカウント値31が増加するよりも前に、Dフリップフロップ150に入力される。従って、Dフリップフロップ150は、図3Bのように発振信号11のエッジが正しく計数されたカウント値31を保持することができる。故に、位相情報32は、「1.0」、「5.0」、「10.0」のように正しく増加する。位相情報32が所望位相情報33に一致しているため、デジタル制御信号の調整は行われない。そして、DCOは、周波数が基準信号10の4倍であって、かつ、位相が基準信号10と同期した発振信号11を出力する。このように、ΔTbがΔTcよりも小さくなるようにDCOを設計することにより、スプリアス回避のための機構(例えば微分器)が不要となる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係るDCOは、リングオシレータにおいて発生する遅延を利用できるので遅延段を別途設けることなくTDCを利用可能である。また、本実施形態に係るDCOにおいて、発振信号の周期は単位遅延量の固定値倍(リングオシレータの段数×2)であるので、発振信号の周期を単位遅延量で量子化するための回路が不要である。また、本実施形態に係るDCOは、TDCから出力される小数位相情報の規格化において、上記固定値を除数として利用するので、可変値を除数として利用する従来方式に比べて除算処理を単純化できる。従って、本実施形態に係るDCOによれば、TDCに関する冗長構成を削減することができる。
【0028】
(第2の実施形態)
図5に示すように、本発明の第2の実施形態に係るDCOは、前述した第1の実施形態に係るDCOにおいて単相インバータ101とカウンタ140との間にバッファ290を更に設けた構成に相当する。以下の説明では、図5において図1と同一部分には同一符号を付して示し、異なる部分を中心に述べる。
【0029】
バッファ290は、発振信号11をバッファリングし、カウンタ140に入力する。バッファ290において、前述したバッファ111〜115と同程度の遅延が発生する。
【0030】
以下、図6A及び図6Bを用いてバッファ290を設けることの技術的意義を説明する。
第1の実施形態において説明したようにスプリアス回避の観点からすると、発振信号11と発振信号21との間の遅延時間が、発振信号11とカウント値41との間の遅延時間に比べて小さいことが望ましい。図6Aに示すように、バッファ290においてバッファ111〜115と同程度の遅延時間ΔTbが発生する。従って、Dフリップフロップ121〜122への発振信号21〜30の入力タイミングと、カウンタ140への発振信号11の入力タイミングとが同程度になる。そして、カウンタ140に入力された発振信号11がカウント値41に反映されるまでの間に更に遅延時間ΔTcが加算される。従って、バッファ290を設けることにより、発振信号11と発振信号21との間の遅延時間が発振信号11とカウント値41との間の遅延時間よりも小さくなることが保証される。故に、バッファ290を設けることによって、スプリアスをより確実に回避できる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係るDCOは、前述した第1の実施形態に係るDCOにおいてカウンタ140の前段に更にバッファ290を設けて構成される。従って、本実施形態に係るDCOによれば、スプリアスをより確実に回避できる。
【0032】
(第3の実施形態)
図7に示すように、本発明の第3の実施形態に係るDCOは、差動増幅器301〜304、バッファ311〜314、Dフリップフロップ321〜324、エッジ検出器330、カウンタ340、Dフリップフロップ350、規格化器360、減算器370、位相比較器380を有する。
【0033】
差動増幅器301〜304は、環状接続されている。これら差動増幅器301〜304は、いわゆるリングオシレータに相当する。尚、リングオシレータは、複数の差動増幅器を環状接続することにより構成可能である。故に、差動増幅器301〜304は、3段以下または5段以上の差動増幅器に置き換えられてもよい。差動増幅器301〜304は、図示しないデジタル制御信号によって決まる周波数で発振する。換言すれば、遅延段としての差動増幅器301〜304の各々の遅延量は上記デジタル信号によって制御される。差動増幅器301〜304は、正相発振信号51p〜54p及び逆相発信信号51n〜54nを夫々出力する。正相発振信号51p〜54pは、互いに位相がπ/4ずつ異なるものの、周波数は等しい。また、逆相発振信号51n〜54nは、正相発振信号51p〜54pの逆相信号である。発振信号51p〜54p,51n〜54nのうち少なくとも1つ(例えば発振信号51p)は、リングオシレータの出力信号として外部(例えばADPLLの外部)に出力される。また、このリングオシレータの出力信号(発振信号51p)は、カウンタ340にも入力される。
【0034】
バッファ311〜315は、差動増幅器301〜304からの差動発振信号51p,51n〜54p,54nを夫々バッファリングし、差動発振信号61p,61n〜64p,64nを出力する。発振信号51p,51n〜54p,54nをバッファリングすることの技術的意義の1つは、リングオシレータと後述するDフリップフロップ321〜324との間の配線容量などに起因する波形なまりを抑制することである。この技術的意義は、両者の間の配線が長くなるようなレイアウトに関して特に有意である。
【0035】
Dフリップフロップ321〜324は、前段のバッファ311〜314からの差動信号を入力信号として受け、基準信号60をクロック信号として受ける。即ち、Dフリップフロップ321〜324がポジティブエッジトリガフリップフロップであれば基準信号60の立ち上がりエッジにおける差動信号の値を保持して出力し、ネガティブエッジトリガフリップフロップであれば基準信号60の立ち下がりエッジにおける差動信号の値を保持して出力する。Dフリップフロップ321〜324は、出力となる差動信号をエッジ検出器330に夫々入力する。
【0036】
より具体的には、Dフリップフロップ321は、基準信号60の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号61pの値を保持してエッジ検出器330のQ1端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器330のQ1b端子に入力する。Dフリップフロップ322は、基準信号60の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号62pの値を保持してエッジ検出器330のQ2端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器330のQ2b端子に入力する。Dフリップフロップ323は、基準信号60の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号63pの値を保持してエッジ検出器330のQ3端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器330のQ3b端子に入力する。Dフリップフロップ324は、基準信号60の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける発振信号64pの値を保持してエッジ検出器330のQ4端子に入力し、この逆相信号をエッジ検出器330のQ4b端子に入力する。
【0037】
エッジ検出器330は、基準信号60と発振信号51pとの間の位相誤差を検出する。より具体的には、エッジ検出器330は、Q1、Q2、Q3、Q4、Q1b、Q2b、Q3b、Q4bの8個の入力端子を備えており、この順序は入力信号の位相の進み順に対応している。即ち、Q1端子への入力信号の位相が最も進んでおり、Q4b端子への入力信号の位相が最も遅れている。尚、エッジ検出器330の入力端子数は、リングオシレータの段数に依存する。エッジ検出器330は、Q1から順に連続する高レベル値(例えば「1」)または低レベル値(例えば「0」)を検査し、この末尾を示すバイナリデータを規格化器360に入力する。例えば、エッジ検出器330は、Q3が末尾であれば「3(=0011)」を出力し、Q3bが末尾であれば「7(=0111)」を出力する。
【0038】
以下、図8を用いてエッジ検出器330の動作例を説明する。
図8において、発振信号51p,51n〜54p,54n,61p,61n〜64p,64n及び基準信号60のタイミングチャートが描かれている。尚、図8において、発振信号61p,61n〜64p,64nは発振信号51p,51n〜54p,54nと同期しているように描かれているが、実際にはバッファ311〜314の通過に伴う遅延が生じている。図8の例によれば、基準信号60の立ち上がりエッジは、発振信号61nの立ち上がりエッジよりも遅く発振信号62nの立ち上がりエッジよりも早い。エッジ検出器330には、基準信号60の立ち上がりエッジにおける各発振信号61p,61n〜64p,64nの値が入力される。即ち、8組の2値信号「0」、「1」、「1」、「1」、「1」、「0」、「0」、「0」が、エッジ検出器330の前述した8個の入力端子に与えられる。そして、エッジ検出器330は連続する「1」の末尾である「5=(0101)」を出力する。このバイナリデータは、基準信号60が発振信号51pに比べて単位遅延量の5つ分だけ位相が遅れていることを意味している。即ち、このバイナリデータは、基準信号60と発振信号51pとの間の位相誤差を表している。尚、ここでいう単位遅延量は、発振信号61p,61n〜64p,64nにおける最小位相差(π/4)である。
【0039】
カウンタ340は、発振信号51pの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを計数し、カウント値をDフリップフロップ350に入力する。Dフリップフロップ350は、基準信号60によってクロック制御される(前述したDフリップフロップ321〜324と同じタイミングで動作する)。Dフリップフロップ350は、基準信号60の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおけるカウンタ340のカウント値を整数位相情報として減算器370に入力する。
【0040】
規格化器360は、エッジ検出器330からのバイナリデータを規格化するための演算を行う。具体的には、前述の規格化器160と同様に、規格化器360は上記バイナリデータをエッジ検出器330の入力信号の位相数(本例では8)で除算する。また、規格化器360は、除算結果を「1」から減算する演算を更に行う。図8の例であれば、規格化器360はバイナリデータ(5)をエッジ検出器330の入力信号の位相数(8)で除算し、除算結果(0.625)を「1」から減算し、規格化された小数位相情報ε(0.375)を得る。規格化器360は、規格化された小数位相情報εを減算器370に入力する。
【0041】
ところで、リングオシレータの段数が2の冪乗(例えば22)であるならば、エッジ検出器330の入力信号の位相数も2の冪乗(例えば23)となる。この条件を満たすならば、規格化器360は除算をビットシフト演算により実現することができる。即ち、規格化器360は、エッジ検出器330の入力信号の位相数に対応する冪数(例えば3)だけバイナリデータを右ビットシフトすればよい。
【0042】
減算器370は、整数位相情報から小数位相情報εを減算し、位相情報を得る。減算器370は、位相情報を位相比較器380に入力する。位相比較器380は、所望位相情報の整数部及び小数部と位相情報の整数部及び小数部とを夫々比較し、比較結果を出力する。この比較結果は、図示しないADPLLの構成要素によって処理され、デジタル制御信号を調整するために利用される。
【0043】
前述したように、スプリアス回避の観点からすると、発振信号51pと発振信号61pとの間の遅延時間が、発振信号51pとカウンタ340のカウント値との間の遅延時間に比べて小さいことが望ましい。即ち、バッファ311〜314において発生する遅延時間が、カウンタ340において発生する遅延時間に比べて小さいことが望ましい。この条件を満たすようにDCOを設計することにより、スプリアス回避のための機構(例えば微分器)が不要となる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係るDCOは、リングオシレータにおいて発生する遅延を利用できるので遅延段を別途設けることなくTDCを利用可能である。また、本実施形態に係るDCOにおいて、発振信号の周期は単位遅延量の固定値倍(リングオシレータの段数×2)であるので、発振信号の周期を単位遅延量で量子化するための回路が不要である。また、本実施形態に係るDCOは、TDCから出力される小数位相情報の規格化において、上記固定値を除数として利用するので、可変値を除数として利用する従来方式に比べて除算処理を単純化できる。また、本実施形態に係るDCOにおいてリングオシレータの段数を2の冪乗に設定すれば、規格化器360における除算をビットシフト演算によって簡易に実現できる。また、本実施形態に係るDCOはリングオシレータを差動増幅器によって構成しているので、単相インバータによって構成する場合に比べて、発振信号の波形の対称性、同相ノイズ除去比が高い。従って、本実施形態に係るDCOによれば、TDCに関する冗長構成を削減することができる。
【0045】
(第4の実施形態)
図9に示すように、本発明の第4の実施形態に係るDCOは、前述した第3の実施形態に係るDCOにおいて差動増幅器301の非反転出力端子とカウンタ340との間にバッファ490を更に設けた構成に相当する。以下の説明では、図9において図7と同一部分には同一符号を付して示し、異なる部分を中心に述べる。
【0046】
バッファ490は、発振信号51pをバッファリングし、カウンタ340に入力する。バッファ490において、前述したバッファ311〜315と同程度の遅延が発生する。バッファ490を設けることにより、発振信号51pと発振信号61pとの間の遅延時間が発振信号51pとカウンタ340のカウント値との間の遅延時間よりも小さくなることが保証される。故に、バッファ490を設けることによって、スプリアスをより確実に回避できる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係るDCOは、前述した第3の実施形態に係るDCOにおいてカウンタ340の前段に更にバッファ490を設けて構成される。従って、本実施形態に係るDCOによれば、スプリアスをより確実に回避できる。
【0048】
(第5の実施形態)
前述した第1乃至第4の実施形態に係るDCOを用いてPLL回路を構成することができる。図10は、第4の実施形態に係るDCO500を用いたPLL回路である。図10のPLL回路は、DCO500、デジタル低域通過型フィルタ(LPF)510及びループ利得制御部520を有する。尚、DCO500は、図9のDCOに相当する。以下の説明では、図10において図9と同一部分には同一符号を付して示し、異なる部分を中心に述べる。
【0049】
位相比較器380は、所望位相情報の整数部及び小数部と位相情報の整数部及び小数部とを夫々比較し、位相差情報をデジタルLPF510に入力する。
【0050】
デジタルLPF510は、基準信号60をクロック信号として受け取り、位相比較器380からの位相差情報を入力信号として受け取る。デジタルLPF10は、位相差情報に対してデジタルドメインでフィルタ処理を行う。このフィルタ処理によって、位相差情報に混入した雑音成分が抑圧される。
【0051】
ループ利得制御回路520は、基準信号60をクロック信号として受け取り、デジタルLPF510からの位相差情報を入力信号として受け取る。ループ利得制御回路520は、位相差情報に対して、ビットシフト処理、積分処理などを行って、デジタル制御信号を生成する。ループ利得制御回路520は、デジタル制御信号を差動増幅器301〜304に夫々供給する。このデジタル制御信号は、差動増幅器301〜304の各々の遅延量(即ち、リングオシレータの周波数)、図10のPLL回路のループ帯域、ループ次数などを制御する。
【0052】
図10のPLL回路が形成する負帰還ループにおいて、DCO500から出力される位相差情報に基づいてデジタル制御信号が生成され、このデジタル制御信号によってDCO500が制御される。この負帰還ループの繰り返しによって、基準信号60及び発振信号51pの間の位相差が段階的に縮小する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係るPLL回路は前述した第1乃至第4の実施形態に係るDCOを含んでいる。従って、本実施形態に係るPLL回路によれば、前述した第1乃至第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
尚、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また上記各実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、各実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10・・・基準信号
11〜15,21〜30・・・発振信号
31,41・・・カウント値
32,42・・・位相情報
33・・・所望位相情報
51p,51n〜54p,54n,61p,61n〜64p,64n・・・発振信号
60・・・基準信号
101〜105・・・単相インバータ
111〜115,290,311〜314,490・・・バッファ
121〜125,150,321〜324,350・・・Dフリップフロップ
130,330・・・エッジ検出器
140,340・・・カウンタ
160,360・・・規格化器
170,370・・・減算器
180,380・・・位相比較器
301〜304・・・差動増幅器
500・・・DCO
510・・・デジタル低域通過型フィルタ
520・・・ループ利得制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル制御信号によって遅延量が制御される3以上の奇数個の単相インバータを環状に接続したリングオシレータと、
前記奇数個の単相インバータの出力信号のうち1つの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを計数し、カウント値を出力するカウンタと、
基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける前記カウント値を保持して整数位相情報として出力する第1のフリップフロップと、
前記単相インバータの各々の出力信号をバッファリングし、第1の差動信号として夫々出力する奇数個のバッファと、
前記基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける前記第1の差動信号の値を保持して第2の差動信号として夫々出力する奇数個の第2のフリップフロップと、
前記奇数個の第2のフリップフロップから出力される奇数組の第2の差動信号を入力し、当該奇数組の第2の差動信号を位相の進み順に配列したときの、連続する高レベル値または連続する低レベル値の末尾を示す情報を出力するエッジ検出器と、
前記情報を前記奇数組の第2の差動信号の位相数で除算し、規格化された小数位相情報を出力する規格化器と
を具備するデジタル制御発振器。
【請求項2】
前記奇数個の単相インバータの各々の出力信号が前記奇数個の第2のフリップフロップに入力されるまでの遅延量が、前記奇数個の単相インバータの出力信号のうち1つが前記第1のフリップフロップに入力されるまでの遅延量よりも小さい請求項1記載のデジタル制御発振器。
【請求項3】
デジタル制御信号によって遅延量が制御される複数の差動増幅器を環状に接続したリングオシレータと、
前記複数の差動増幅器の出力信号のうち1つの立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを計数し、カウント値を出力するカウンタと、
基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける前記カウント値を保持して整数位相情報として出力する第1のフリップフロップと、
前記複数の差動増幅器の各々の出力信号をバッファリングし、第1の差動信号として夫々出力する複数のバッファと、
前記基準信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジにおける前記第1の差動信号の値を保持して第2の差動信号として夫々出力する複数の第2のフリップフロップと、
前記複数の第2のフリップフロップから出力される複数組の第2の差動信号を入力し、当該複数組の第2の差動信号を位相の進み順に配列したときの、連続する高レベル値または連続する低レベル値の末尾を示す情報を出力するエッジ検出器と、
前記情報を前記第2の差動信号の位相数で除算し、規格化された小数位相情報を得る規格化器と
を具備するデジタル制御発振器。
【請求項4】
前記複数組の第2の差動信号の位相数は2の冪乗であり、
前記情報はバイナリデータであり、
前記規格化器は、前記複数組の第2の差動信号の位相数に対応する冪数だけ前記バイナリデータをビットシフトさせて除算を行う
請求項3記載のデジタル制御発振器
【請求項5】
前記複数の差動増幅器の各々の出力信号が前記複数の第2のフリップフロップに入力されるまでの遅延量が、前記差動増幅器の出力信号のうち1つが前記第1のフリップフロップに入力されるまでの遅延量よりも小さい請求項3記載のデジタル制御発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−45006(P2011−45006A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193204(P2009−193204)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】