説明

トラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置

【課題】作動流体の消費を低減する。
【解決手段】トレーラのサービスブレーキを作動させるスタンダードチャンバ14と、制御ポート12Aに供給される制御圧力の増加に伴って、エアリザーバ10からスタンダードチャンバ14に供給する圧縮エアの圧力を大気圧まで徐々に減少させるトレーラコントロールバルブ12と、ハンドコントロールバルブ22を走行位置に切り替えたときに、エアリザーバ10に貯蔵される圧縮エアをそのままトレーラコントロールバルブ12の制御ポート12Aに供給する一方、ハンドコントロールバルブ22を駐車位置に切り替えたときに、エアリザーバ10に貯蔵される圧縮エアを所定減圧率で減圧しつつトレーラコントロールバルブ12の制御ポート12Aに供給するリミッティングクイックリリースバルブ20と、を含んでトラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置において、特に、作動流体の消費を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置として、架装資料[大型車(セミトラクタ系)](非特許文献1)に開示されるものが実用化されている。即ち、図8に示すように、作動流体たる圧縮エアを貯蔵するエアリザーバ1とトレーラのサービスブレーキを作動させるスタンダードチャンバ2との間には、ハンドコントロールバルブ3により作動制御されるトレーラコントロールバルブ4が配設される。また、エアリザーバ1とトラクタの駐車ブレーキを作動させるスプリングチャンバ5との間には、ハンドコントロールバルブ3により作動制御されるリレーバルブ6が配設される。
【0003】
そして、駐車ブレーキ装置を作動又は解除すべく、ハンドコントロールバルブ3のレバー3を操作すると、図9(A)に示す作動特性をもって、エアリザーバ1からトレーラコントロールバルブ4の制御ポート4Aに制御圧力としての圧縮エアが供給される。トレーラコントロールバルブ4では、同図(B)に示す作動特性をもって、その制御ポート4Aに供給された制御圧力に応じた圧力の圧縮エアがスタンダードチャンバ2に供給される。これにより、スタンダードチャンバ2には、同図(C)に示すように、ハンドコントロールバルブ3のレバー操作量に応じた圧縮エアが供給され、トレーラの駐車ブレーキ装置が作動又は解除されることとなる。一方、トラクタでは、ハンドコントロールバルブ3からリレーバルブ6に供給された制御圧力に応じて、エアリザーバ1の圧縮エアによりスプリングチャンバ5が作動し、駐車ブレーキ装置が作動又は解除される。
【非特許文献1】日産ディーゼル工業、架装資料[大型車(セミトラクタ系)]、A790T−N KL−CK(T)系,KL−CW(T)系及び架装資料[共通編]、2000/4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トラクタ・トレーラ連結車が駐車しているときには、トラクタの駐車ブレーキ装置が作動していることから、トレーラの駐車ブレーキ装置(サービスブレーキ)は最大能力で作動し続ける必要がない。しかし、ハンドコントロールバルブ3のレバー3Aを駐車位置まで操作したときには、図9(C)に示すように、駐車に必要なエア圧力(必要圧力)以上の圧縮エアがスタンダードチャンバ2に供給されるため、エアリザーバ1に貯蔵される圧縮エアが過剰に消費されるおそれがある。エアリザーバ1に貯蔵される圧縮エアが過剰に消費されると、その圧力が低下して他のエア機器の作動が不安定になることから、安全性を見越してエアリザーバ1の容量を大きくしなければならず、車両重量増加,コスト上昇などを招いていた。
【0005】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、駐車ブレーキ装置を作動させたときに、最小限の作動流体圧力でトレーラのサービスブレーキを作動させることで、作動流体の消費を低減したトラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、請求項1記載の発明では、トラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置は、トレーラのサービスブレーキを作動させるアクチュエータと、前記アクチュエータの作動流体を貯蔵するリザーバタンクと、制御ポートに供給される制御圧力の増加に伴って、前記リザーバタンクからアクチュエータに供給する作動流体の圧力を大気圧まで徐々に減少させる作動特性を有するトレーラコントロールバルブと、操作要素を介して走行位置又は駐車位置に切り替えるハンドコントロールバルブと、前記ハンドコントロールバルブを走行位置に切り替えたときに、前記リザーバタンクに貯蔵される作動流体をそのままトレーラコントロールバルブの制御ポートに供給する一方、前記ハンドコントロールバルブを駐車位置に切り替えたときに、前記リザーバタンクに貯蔵される作動流体を所定減圧率で減圧しつつトレーラコントロールバルブの制御ポートに供給する流体制御弁と、を含んで構成されたことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明では、前記流体制御弁は、リミッティングクイックリリースバルブからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、ハンドコントロールバルブを走行位置に切り替えると、リザーバタンクに貯蔵される作動流体がそのままトレーラコントロールバルブの制御ポートに供給され、トレーラのサービスブレーキが解除される。一方、ハンドコントロールバルブを駐車位置に切り替えると、リザーバタンクに貯蔵される作動流体が所定減圧率で減圧されつつトレーラコントローラバルブの制御ポートに供給される。このため、トレーラのサービスブレーキを作動させる作動流体の上限圧力が制限され、過剰な作動流体の消費を抑制することができる。また、過剰な作動流体の消費が抑制されることから、トラクタに搭載されるエアリザーバの容積を小さくすることが可能となり、車両重量軽減,コスト削減などを図ることができる。さらに、エアリザーバに貯蔵される作動流体の圧力が低下しても、トレーラコントロールバルブからアクチュエータに供給される作動流体の圧力が0(大気圧)とならず、駐車中における安全性を確保することができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、流体制御弁として、アンチスキッド装置の構成部品であるリミッティングクイックリリースバルブを使用することで、信頼性を確保しつつコスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、本発明を具現化したトラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置の一実施形態を示す。
エアリザーバ10(リザーバタンク)に貯蔵される作動流体たる圧縮エアは、トレーラコントロールバルブ12を介して、トレーラのサービスブレーキを作動させるアクチュエータとしてのスタンダードチャンバ14に供給されると共に、リレーバルブ16を介して、トラクタの駐車ブレーキを作動させるスプリングチャンバ18に供給される。トレーラコントロールバルブ12は、図2に示すように、その制御ポート12Aの供給される制御圧力としての圧縮エアの圧力増加に伴って、エアリザーバ10からスタンダードチャンバ14に供給する圧縮エアの圧力を徐々に減少させる作動特性を有している。また、リレーバルブ16は、その制御ポート16Aに供給される制御圧力としての圧縮エアに応じて、エアリザーバ10からスプリングチャンバ18に供給する圧縮エアの圧力を制御する。
【0011】
トレーラコントロールバルブ12の制御ポート12Aには、リミッティングクイックリリースバルブ(以下「LQRV」という)20を介して、エアリザーバ10から制御圧力としての圧縮エアが供給される。LQRV20は、ハンドコントロールバルブ22を介して、エアリザーバ10からその制御ポート20Aに供給される制御圧力としての圧縮エアの圧力に応じて、図3に示すような作動特性をもって、トレーラコントロールバルブ12の制御ポート12Aに供給する制御圧力を制御する。また、リレーバルブ16の制御ポート16Aには、ハンドコントロールバルブ22を介して、エアリザーバ10から制御圧力としての圧縮エアが供給される。ハンドコントロールバルブ22は、操作要素たるレバー22Aの操作量に応じて、図4に示す作動特性をもって、エアリザーバ10からLQRV20の制御ポート20A及びリレーバルブ16の制御ポート16Aに夫々供給する圧縮エアの圧力を制御する。
【0012】
ここで、図5及び6を参照して、LQRV20の構造及び作用について説明する。
略円筒形状をなすケーシング20Bの内部には、入力ポート20C及び出力ポート20Dに連通する空間を相互に区画するように、プランジャ20Eが軸方向に摺動可能に内挿される。プランジャ20Eの中央部には、流体通路として機能する貫通孔20Fが形成され、給気バルブ20G及び排気バルブ20Hが両端部に固着されたバルブステム20Iが移動可能に貫通される。入力ポート20Cを臨むプランジャ20Eの一面は、入力ポート20Cから供給された作動流体の圧力を受ける受圧面として機能すると共に、そこに給気バルブ20Gが着座するためのコーン状の座面が陥凹形成される。また、入力ポート20C側のプランジャ20Eの周縁部には、制御ポート20Aから供給された作動流体の圧力を受ける受圧面が形成される。
【0013】
一方、プランジャ20Eの他面に対面するケーシング20Bには、排気バルブ20Hが着座するためのコーン状の座面が形成され、ここに内部空間と連通する排気ポート20Jが開設される。また、バルブステム20Iの周囲であってプランジャ20Eの他面と排気バルブ20Hとの間には、排気ポート20Jに向けて排気バルブ20Hを弾性付勢する圧縮コイルばねなどからなるスプリング20Kが配設される。
【0014】
かかるLQRV20において、制御ポート20A及び入力ポート20Cから作動流体が供給されると、図5に示すように、ケーシング20Bに形成されたストッパに当たるまで、プランジャ20Eが排気ポート20Jに向けて押し下げられる。プランジャ20Eが押し下げられると、プランジャ20Eと排気バルブ20Hとの間に配設されたスプリング20Kの弾性付勢力により、排気バルブ20Hが座面に着座して排気ポート20Jが閉じられる。このとき、給気バルブ20Gが座面から離間するので、プランジャ20Eとバルブステム20Iとの間に流体通路が開かれ、入力ポート20Cから供給された作動流体が出力ポート20Dから出力される。プランジャ20Eを挟んだ各空間内の作動流体圧力が等しくなると、プランジャ20Eの一面及び他面に作用する力が等しくなり、図6に示すように、排気バルブ20Hで排気ポート20Jを閉じたまま、スプリング20Kの弾性付勢力によりプランジャ20Eが入力ポート20Cに向けて移動される。そして、給気バルブ20Gがプランジャ20Eの座面に着座して流体通路が閉じられ、その釣合状態が保たれる。
【0015】
一方、制御ポート20Aから作動流体が供給されず、入力ポート20Cのみから作動流体が供給されると、前述した作用を経て、入力ポート20Cから供給された作動流体が出力ポート20Dから出力される。このとき、制御ポート20Aに作動流体が供給されないため、プランジャ20Eを挟んだ各空間内の作動流体圧力がより短時間で等しくなり、早期に釣合状態となる。このため、制御ポート20Aに作動流体を供給しないときには、釣合状態となったときの圧力が低下することとなる。
【0016】
従って、制御ポート20Aに作動流体を供給するか否かに応じて、その出力ポート20Dから出力される作動流体圧力が制御され、図3に示すような作動特性を実現することができる。
次に、かかる駐車ブレーキ装置の作用について説明する。
駐車ブレーキ装置を作動させるべく、ハンドコントロールバルブ22のレバー22Aを走行位置から駐車位置まで操作すると、リレーバルブ16の制御ポート16A及びLQRV20の制御ポート20Aに供給される圧縮エアの圧力は、図4に示すように、徐々に低下して0(大気圧)となる。リレーバルブ16では、その制御ポート16Aに供給される圧縮エアの圧力が0となることから、スプリングチャンバ18に供給されている圧縮エアの圧力も0となり、トラクタの駐車ブレーキが作動する。
【0017】
一方、LQRV20では、その制御ポート20Aに供給される圧縮エアの圧力が0(大気圧)となることから、図3の破線で示すような作動特性により、エアリザーバ10に貯蔵される圧縮エアが所定減圧率で減圧されつつトレーラコントローラバルブ12の制御ポート12Aに供給される。このため、図3に示すように、トレーラコントロールバルブ12の制御ポート12Aに供給される圧縮エアの上限圧力が制限される。
【0018】
従って、図7に示すように、トレーラのサービスブレーキを作動させる圧縮エアの圧力が低下し、過剰な圧縮エアの消費を抑制することができる。そして、過剰な圧縮エアの消費が抑制されることから、トラクタに搭載されるエアリザーバ10の容積を小さくすることが可能となり、車両重量軽減,コスト削減などを図ることができる。また、車両重量が軽減することから、燃費,排気性状も改善され、地球環境保護の観点からも望ましい。さらに、エアリザーバ10に貯蔵される圧縮エアの圧力が低下しても、トレーラコントロールバルブ12Aからスタンダードチャンバ14に供給される圧縮エアの圧力が0とならず、駐車中における安全性を確保することができる。
【0019】
なお、駐車ブレーキ装置を解除すべく、ハンドコントロールバルブ22のレバー22Aを駐車位置から走行位置まで操作すると、同様な過程を経て、トラクタ及びトレーラのサービスブレーキが解除される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を具現化した駐車ブレーキ装置の構成図
【図2】トレーラコントロールバルブの作動特性説明図
【図3】LQRVの作動特性説明図
【図4】ハンドコントロールバルブの作動特性説明図
【図5】LQRVの具体的構造及び供給状態を説明する縦断面図
【図6】LQRVの具体的構造及び釣合状態を説明する縦断面図
【図7】トレーラのサービスブレーキ作動圧力説明図
【図8】従来技術における駐車ブレーキ装置の構成図
【図9】同上における各種機器の作動特性を示し、(A)はハンドコントロールバルブの説明図、(B)はトレーラコントロールバルブの説明図、(C)はトレーラのサービスブレーキ作動圧力の説明図
【符号の説明】
【0021】
10 エアリザーバ
12 トレーラコントロールバルブ
12A 制御ポート
14 スタンダードチャンバ
20 LQRV
20A 制御ポート
22 ハンドコントロールバルブ
22A レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーラのサービスブレーキを作動させるアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動流体を貯蔵するリザーバタンクと、
制御ポートに供給される制御圧力の増加に伴って、前記リザーバタンクからアクチュエータに供給する作動流体の圧力を大気圧まで徐々に減少させる作動特性を有するトレーラコントロールバルブと、
操作要素を介して走行位置又は駐車位置に切り替えるハンドコントロールバルブと、
前記ハンドコントロールバルブを走行位置に切り替えたときに、前記リザーバタンクに貯蔵される作動流体をそのままトレーラコントロールバルブの制御ポートに供給する一方、前記ハンドコントロールバルブを駐車位置に切り替えたときに、前記リザーバタンクに貯蔵される作動流体を所定減圧率で減圧しつつトレーラコントロールバルブの制御ポートに供給する流体制御弁と、
を含んで構成されたことを特徴とするトラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
前記流体制御弁は、リミッティングクイックリリースバルブからなることを特徴とする請求項1記載のトラクタ・トレーラ連結車の駐車ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−23575(P2010−23575A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184694(P2008−184694)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】