説明

トロイダル型無段変速機及び無段変速装置

【課題】転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節する。
【解決手段】押圧装置14に導入される油圧を、第一の油圧センサ42等により測定する。そして、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉(デューティー比制御)に基づき、目標値と必要値との差に応じて行なう減圧を、上記第一の油圧センサ42等により測定された実測値をフィードバックしつつ行なう。又、転がり接触部の滑りに応じて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉状態を調節する事により、上記滑りの増大と上記押圧装置14に導入される油圧の低下との悪循環を断ち切る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両(自動車)用自動変速機として利用するトロイダル型無段変速機、及び、このトロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置の改良に関し、動力を伝達する転がり接触部(トラクション部)に最適な押し付け力を付与できる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速機としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば特許文献1、非特許文献1、2等の多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。又、変速比の変動幅を大きくすべく、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献2〜9に記載される等により従来から広く知られている。又、このうちの例えば特許文献6〜9には、所謂ギヤードニュートラルと呼ばれ、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる無段変速装置が記載されている。
【0003】
図9〜10は、特許文献8〜10に記載された無段変速装置を示している。このうちの図9は無段変速装置のブロック図を、図10は、この無段変速装置を制御する油圧回路を、それぞれ示している。エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6、即ち、図10の低速用、高速用各クラッチ7、8(図10)を介して、出力軸9に取り出される。
【0004】
又、上記トロイダル型無段変速機4は、それぞれが第一、第二のディスクである入力側、出力側各ディスク10、11と、複数のパワーローラ12と、それぞれが支持部材である複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図10)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。又、上記各パワーローラ12は、互いに対向する上記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力を伝達する。又、上記各トラニオンは、上記各パワーローラ12を回転自在に支持している。
【0005】
又、上記アクチュエータ13は、油圧式のもので、上記各パワーローラ12を支持した上記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、上記押圧装置14は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、上記入力側ディスク10と上記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、上記変速比制御ユニット15は、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する為のものである。
【0006】
図示の例の場合、上記変速比制御ユニット15は、制御器16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、駆動部材であるステッピングモータ17と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、電磁弁19と、シフト用電磁弁20と、これら各部材17〜20により作動状態を切り換えられる制御弁装置21とにより構成している。尚、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18は、後述する押圧力調整弁22を切り換える為のものである。又、上記制御弁装置21は、上記アクチュエータ13への油圧の給排を制御する制御弁23と、通過トルクに応じて変速比を補正する為の差圧シリンダ24と、この差圧シリンダ24への圧油の給排を制御する補正用制御弁25a、25bと、低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の導入状態を切り換える為の高速用、低速用各切換弁26、27(図10)とを合わせたものである。
【0007】
又、この様な制御弁装置21や上記押圧装置14に、上記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ28(図10の28a、28b)から吐出した圧油を、送り込み自在としている。即ち、油溜29から吸引されて上記オイルポンプ28a、28bにより吐出された圧油を、低圧側調整弁30並びに上記押圧力調整弁22により所定圧に調整自在としている。このうちの押圧装置14側に送る油圧を調整する上記押圧力調整弁22は、リリーフ弁としての機能を備えたもので、第一〜第三のパイロット部31〜33を備える。このうちの第一、第二のパイロット部31、32は、上記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)、即ち、前記入力側ディスク10と前記出力側ディスク11との間で伝達される力(伝達トルク)の大きさに応じて(比例して)、上記押圧力調整弁22の開弁圧を目標値(後述する必要値よりも大きい値)に調節する。
【0008】
この為に、上記第一、第二のパイロット部31、32のうちの何れかのパイロット部に導入する油圧が高くなる程、上記押圧力調整弁22の開弁圧が高くなり、上記押圧装置14の油圧室34内に導入する油圧を高くする様に構成している。又、これと共に、パワーローラ12を支持する支持部材(トラニオン)を枢軸の軸方向に変位させる為のアクチュエータ13にピストン35を挟んで設けた1対の油圧室36a、36b同士の間の差圧を、差圧取り出し弁37を介して、何れかのパイロット部31、32に導入する様にしている。従って、上記押圧装置14の油圧室34内に導入される油圧、延てはこの押圧装置14が発生する押圧力は、上記トロイダル型無段変速機4を通過する力が大きくなる程大きくなる。
【0009】
一方、上記第三のパイロット部33は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比、このトロイダル型無段変速機4の内部に存在する潤滑油(トラクションオイル)の温度、駆動源であるエンジン1の回転速度等、上記伝達トルク以外の運転条件に応じて、上記押圧力調整弁22の開弁圧を調節する。この為に、前記制御器16からの指令により制御されるライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉(デューティー比制御)に基づき、上記第三のパイロット部33に圧油を導入自在としている。即ち、上記制御器16は、上記変速比、潤滑油の温度、回転速度等を勘案して、上記押圧装置14に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値を算出する。そして、この必要値と上記目標値との差である補正値に対応する油圧を、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき、上記第三のパイロット部33に導入する。この様にしてこの第三のパイロット部33に導入された油圧は、上記押圧力調整弁22のスプール38を、図10の左方に押し、この押圧力調整弁22の開弁圧を下げ、上記押圧装置14に導入される油圧を低下させる(減圧する)。
【0010】
この結果、この押圧装置14に導入される油圧が、上記差圧取り出し弁37が設定した目標値から、上記第三のパイロット部33に導入された油圧に基づく補正値を減じた値に比例する必要値に補正(減圧)される。例えば、図11は、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(単位時間当たりの開いている時間の割合)と減圧量(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)との関係の1例を示している。上記制御器16は、この様な関係を基に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を調節(デューティー比制御)し、上記目標値と必要値との差に応じた減圧を行なう。尚、図示の例の場合、上記押圧力調整弁22と、差圧取り出し弁37と、制御器16と、ライン圧制御用電磁開閉弁18とが、特許請求の範囲に記載した油圧調整手段に相当する。又、上記制御器16と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、上記押圧力調整弁22(のうちの第三のパイロット部33への油圧の導入に基づき変位する部分)とが、特許請求の範囲に記載した補正手段に相当する。
【0011】
又、特許文献11には、トロイダル型無段変速機を通過するトルク(通過トルク)が急変動した際に、油圧式の押圧装置が発生する押圧力が一時的に低下するのを防止する発明が記載されている。即ち、この特許文献11に記載された構造の場合には、上記通過トルクが急増する際に、上記押圧装置の油圧室内に導入する油圧を高める信号を、この油圧室内に導入する圧油を制御する為の制御ユニットに送る。この為、上記トルクが急変動する際にも、上記押圧装置が発生する押圧力を適正値に維持する事ができ、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
【0012】
ところで、前述の図9〜10に示した従来構造の場合、次の点で、押圧装置14の発生する押圧力、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節できなくなる可能性がある。
即ち、前述の様な従来構造の場合、例えば上記押圧装置14やこの押圧装置14に圧油を送り込む油路39等(プライマリーライン)で(一時的に)油漏れが生じたり、押圧力調整弁22やライン圧制御用電磁開閉弁18等で機械的作動誤差や応答遅れ等が生じた場合に、この様な異常に伴う油圧の変化を検出できない。この為、制御器16により算出される目標値と必要値との差に応じて上記押圧力調整弁22の開弁圧を低下させている際に、上述の様な異常が生じても、この様な異常に伴う油圧の変化に対応できず、上記押圧装置14に導入する油圧を適正に調節できなくなる可能性がある。
【0013】
例えば、上記油漏れや機械的作動誤差等に基づき上記押圧装置14に導入される油圧が異常低下した場合には、この様な異常低下に加えて上記目標値と必要値との差に相当する分、上記押圧力調整弁22の開弁圧が低下し、上記押圧装置14に導入される油圧が過度に低下する可能性がある。この様な場合には、上記押圧装置14の発生する押圧力が不足し、上記転がり接触部で滑りが生じる可能性がある。そして、この様な滑りが生じた場合には、この転がり接触部で過度の摩耗や温度上昇を生じ、耐久性が低下すると共に、トロイダル型無段変速機4の伝達効率が低下する可能性がある。一方、これとは逆に、例えば上記機械的作動誤差や応答遅れ等に基づき上記押圧力調整弁22の開弁圧が、上記目標値と必要値との差の分低下しなかった場合には、上記押圧装置14に導入される油圧が必要値よりも大きい値となり、この油圧が過大になった状態のままとなる可能性がある。この様な場合には、上記押圧装置14の発生する押圧力が過大になり、上記転がり接触部に過度の押し付け力が加わる。そして、この様な過度の押し付け力に基づき、この転がり接触部で弾性変形量や接触面積が増大し、耐久性が低下すると共に、トロイダル型無段変速機4の伝達効率が低下する可能性がある。
【0014】
又、前述した様な従来構造の場合、入力側、出力側各回転センサ40、41により検出される入力側ディスク10の回転速度と出力側ディスク11の回転速度とから変速比を算出して、この算出された変速比の値に基づき、押圧装置14に導入する油圧の必要値を算出し、この必要値に応じて押圧力調整弁22の開弁圧を調節している。この為、例えば一時的な押圧力不足等、何らかの原因で転がり接触部(トラクション部)で滑りが生じた場合に、上記押圧装置14に導入する油圧を適正に調節できなくなる可能性がある。即ち、上述の様に何らかの原因で上記転がり接触部で滑りが生じると、上記各回転速度から算出される変速比と、実際のパワーローラ12の傾き(傾転量、揺動量)に対応した変速比である、上記転がり接触部で滑りが生じていない状態での変速比とに、ずれを生じる可能性がある。そして、この様に変速比にずれを生じると、上記押圧装置14に導入される油圧が、実際のパワーローラ12の傾きに対応する変速比とは異なる変速比に対応する必要値に調節される可能性がある。
【0015】
この様な場合、上記各回転速度から算出された変速比の、パワーローラ12の傾きに対応する変速比に対するずれの方向によっては、上記押圧装置14に導入される油圧が、その時点でのパワーローラ12の傾きに対応する油圧よりも低くなる。そして、この押圧装置14が発生する押圧力が、当該傾きに対応する変速比で必要とされる押圧力よりも低くなる(押圧力が不足する)可能性がある。この様に押圧装置14の発生する押圧力が不足した場合には、上記トラクション部で滑りが過大になる可能性がある。そして、この様に滑りが過大になると、上記両ディスク10、11の回転速度に基づいて算出した変速比と、上記パワーローラ12の傾きに対応する変速比との差が増々大きくなり、上記押圧力が、この傾きに応じた適正値(必要値)よりも更に低くなる、悪循環が生じる。この結果、上記トラクション部で過度の摩耗や温度上昇を生じ、耐久性が低下すると共に、トロイダル型無段変速機4の伝達効率が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−317601号公報
【特許文献2】特開平1−169169号公報
【特許文献3】特開平1−312266号公報
【特許文献4】特開平10−196759号公報
【特許文献5】特開平11−63146号公報
【特許文献6】特開2003−307266号公報
【特許文献7】特開2000−220719号公報
【特許文献8】特開2004−225888号公報
【特許文献9】特開2004−211836号公報
【特許文献10】特開2004−76940号公報
【特許文献11】特開2004−169719号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】青山元男著、「別冊ベストカー 赤バッジシリーズ245/クルマの最新メカがわかる本」、株式会社三雄社/株式会社講談社、平成13年12月20日、p.92−93
【非特許文献2】田中裕久著、「トロイダルCVT」、株式会社コロナ社、2000年7月13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置は、上述の様な事情に鑑みて、押圧装置の発生する押圧力、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節し、優れた伝達効率及び耐久性を得られる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置のうち、請求項1、4に記載したトロイダル型無段変速機は、第一、第二のディスクと、複数のパワーローラと、複数個の支持部材と、アクチュエータと、変速比制御ユニットと、押圧装置とを備える。
このうちの第一、第二のディスクは、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。
又、上記各パワーローラは、互いに対向するこれら第一、第二のディスクの内側面同士の間に挟持されて、これら第一、第二のディスク同士の間で動力を伝達する。
又、上記各支持部材は、上記各パワーローラを回転自在に支持する。
又、上記アクチュエータは、油圧式のもので、上記各支持部材を、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間の変速比を変える。
又、上記変速比制御ユニットは、この変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータの変位方向及び変位量を制御する。
又、上記押圧装置は、上記第一のディスクと上記第二のディスクとを互いに近付く方向に押圧するものである。
そして、この押圧装置は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる、油圧式のものである。
又、この押圧装置に導入する油圧を調整する為の油圧調整手段は、この押圧装置に導入する油圧を、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力の大きさに応じて(比例して)設定される油圧の目標値から、上記押圧装置に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値に、補正手段により減圧する事により調節するものである。
【0020】
特に、請求項1に記載した本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、上記補正手段は、上記目標値と必要値との差に応じて行なう減圧を、上記押圧装置に導入される油圧の実測値をフィードバックしつつ行なうものである。
又、請求項4に記載した本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、上記補正手段は、上記目標値と必要値との差に応じて減圧を行なう際に、上記第一、第二各ディスクの内側面と上記各パワーローラの周面との転がり接触部で生じる滑りに応じて減圧量を変化させる(例えば減圧を停止したり、減圧量を小さくする)ものである。
【0021】
又、請求項7に記載した無段変速装置は、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットとを備える。
このうちの差動ユニットは、上記トロイダル型無段変速機を構成する第一のディスクと共に入力軸により回転駆動される第一の入力部と、同じく第二のディスクに接続される第二の入力部とを有し、これら第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して出力軸に伝達するものである。
特に、本発明の無段変速装置に於いては、上記トロイダル型無段変速機を、上述の様なトロイダル型無段変速機としている。
【発明の効果】
【0022】
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置によれば、押圧装置の発生する押圧力、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節できる。
即ち、上記押圧装置に導入される油圧を測定し、この測定した実測値をフィードバックしつつ、補正手段により減圧を行なえば、油漏れ、機械的作動誤差、応答遅れ等が生じた場合に、この様な異常に基づく油圧の変化を検出し、この油圧の変化に応じて上記補正手段による減圧の調節(例えば押圧力調整弁の開弁圧の調節)を行なえる。この為、上記異常に拘らず、上記押圧装置に導入する油圧、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節でき、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
又、第一、第二各ディスクの内側面と各パワーローラの周面との転がり接触部で生じる滑りに応じて、補正手段の減圧量を変化させれば、この転がり接触部に滑りが生じた場合に、この滑りの増大と押圧装置の押圧力の低下との悪循環を断ち切る事ができる。この為、上記滑りに拘らず、上記転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節でき、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
【0023】
尚、請求項1に記載した本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、押圧装置に導入される油圧の実測値を、この押圧装置の油圧室又はこの油圧室内に圧油を導入する油路に設けた油圧センサにより検出する。或いは、請求項3に記載した様に、アクチュエータに設けた1対の油圧室内のそれぞれの油圧を検出する油圧センサにより、これら両油圧室内の油圧の和として検出する。
この様に構成すれば、簡素な構造で、押圧装置に導入される油圧の実測値を得られる。
【0024】
又、上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、補正手段が目標値と必要値との差に応じて減圧を行なっている際に、押圧装置に導入される油圧の実測値Aと上記必要値Bとの差(A−B)が、正の値で、且つ、予め設定した第一の閾値α以上{(A−B)≧αα>0}であると判定された場合に、上記補正手段の減圧量を、上記差がこの第一の閾値α未満{(A−B)<α}である場合に比べて大きくする。又、同じく実測値Aと上記必要値Bとの差が、負の値で、且つ、予め設定した第二の閾値β以下{(A−B)≦β<0}であると判定された場合に、上記補正手段の減圧量を、上記差がこの第二の閾値βを超えている{(A−B)>β}場合に比べて小さくする。
この様に構成すれば、油漏れ、機械的作動誤差、応答遅れ等の異常に基づき押圧装置に導入される油圧が変化しても、この変化に応じて上記減圧速度を調節(例えば押圧力調整弁の開弁圧の調節)する事で、この油圧が必要値からずれる事を防止できる。この為、この油圧が過大のままの状態となったり、過度に低下した状態のままとなる事を防止して、上記押圧装置が発生する押圧力、延いては転がり接触部の押し付け力を適正に調節できる。
【0025】
又、上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、補正手段が目標値と必要値との差に応じて減圧を行なっている際に、押圧装置に導入される油圧の実測値Aが第三の閾値γ以下(A≦γ)であると判定される場合に、上記補正手段による減圧動作を停止する。この場合に、上記第三の閾値γは、予め設定した、押圧装置が発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な値とする。或いは、第一のディスクと第二のディスクとの間で伝達する力、これら第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比、内部に存在する潤滑油の温度から求められる、その時点での、押圧装置が発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な値とする。
この様に構成すれば、油漏れ、機械的作動誤差等の異常に基づき押圧装置に導入される油圧が大きく低下しても、必要最低限の押圧力を確保できる。
【0026】
又、上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比を、変速比制御ユニットを構成する駆動部材又はこの駆動部材により変位させられる部材(駆動部材等)の変位量に基づいて求める。例えば、上記変速比制御ユニットを構成する駆動部材が、アクチュエータの油圧室内に圧油を供給する制御弁を切り換える為のステッピングモータである場合には、このステッピングモータの駆動量(ステップ数)に基づき、第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比を求める。
この様に構成すれば、第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比を、転がり接触部(トラクション部)で生じる滑りに拘らず、パワーローラの傾きに対応した変速比として求める事ができる。即ち、上記変速比制御ユニットを構成する駆動部材等の変位量は、この変速比制御ユニットにより制御されるアクチュエータの動きに基づいて揺動するパワーローラの傾き(傾転量、揺動量)、延いてはこの傾きに対応する変速比と相関関係を有する。この為、この相関関係に基づき、上記駆動部材等の現在の変位量に対応する変速比を求める事で、上記滑りに拘らず、上記パワーローラの傾きに対応した変速比を求める事ができる。又、上述の様にステッピングモータの駆動量に基づき変速比を求める場合には、この変速比を求める為の構造を簡素に構成でき、装置の小型化、軽量化を図れる。
【0027】
又、請求項4に記載した本発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、上記転がり接触部の滑りを、変速比制御ユニットを構成する駆動部材又はこの駆動部材により変位させられる部材(駆動部材等)の変位量に基づいて算出される変速比と、第一のディスクの回転速度と第二のディスクの回転速度とに基づいて算出される変速比との差に基づいて検出する。
この様に構成すれば、上記転がり接触部で滑りが生じた場合でも、この転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節できる。即ち、上述の様に変速比制御ユニットを構成する駆動部材等の変位量は、この変速比制御ユニットにより制御されるアクチュエータの動きに基づいて揺動するパワーローラの傾き(傾転量、揺動量)、延いてはこの傾きに対応する変速比と相関関係を有する。この為、上記駆動部材等の変位量に基づき上記パワーローラの傾きに対応する変速比を算出し、この変速比と、上記第一、第二各ディスクの回転速度に基づいて算出される変速比との差を求める事で、上記転がり接触部で滑りが生じているか否かを判定できる。具体的には、上記各変速比同士に差がなければ(変速比同士が同じであれば)、上記転がり接触部で滑りが生じていないと判定できると共に、上記変速比同士の差が大きい程、この滑りが大きいと判定できる。そして、この様な滑り(変速比同士の差)に応じて、上記補正手段の減圧量を制限(例えば減圧を停止乃至その時点での減圧量を維持したり、必要値の再設定)すれば、上記滑りを抑え、上記押圧装置の押圧力の低下とこの滑りの増大との悪循環を断ち切る事ができる。この為、上記滑りに拘らず、上記転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節でき、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
【0028】
又、上述の様な請求項5に記載した発明を実施する場合に好ましくは、補正手段が目標値と必要値との差に応じて減圧を行なっている際に、上記駆動部材等の変位量に基づいて算出される変速比Jと、第一、第二各ディスクの回転速度に基づいて算出される変速比Kとの差の絶対値(|J―K|)が、予め設定した第四の閾値δ以上(|J―K|≧δ)である場合に、この差の絶対値がこの第四の閾値δ未満(|J―K|<δ)になるまで、上記補正手段による減圧動作を停止乃至その時点での減圧量を維持する。又、より好ましくは、上記差の絶対値(|J―K|)が、予め設定した第四の閾値δ未満であるが、同じく予め設定した第五の閾値ε以上(|J―K|≧ε)である場合に、この差の絶対値がこの第五の閾値ε未満(|J―K|<ε)になるまで、この差の絶対値がこの第五の閾値ε未満である場合に設定される必要値X1 よりも大きい値(例えばその時点での目標値Yと必要値X1 との差の半分をこの必要値X1 に加えた値)を必要値X2 {=X1 +(Y−X1 )/2}として設定し、この設定した必要値X2 に向けて、上記補正手段により減圧を行なう。
この様に、変速比の差に応じて、補正手段が行なう減圧を停止したり、必要値の設定を変えれば、必要とする補正を或る程度行ないつつ、上記転がり接触部の滑りを抑え、上記押圧装置が発生する押圧力を適正にできる。
【0029】
又、請求項4に記載した本発明を実施する場合に好ましくは、請求項6に記載した様に、転がり接触部の滑りを、変速比制御ユニットを構成する駆動部材が停止している状態での、第一のディスクの回転速度と第二のディスクの回転速度とに基づいて算出される変速比の変動量(駆動部材が停止した直後の変速比を基準としたこの基準とのずれ量)に基づいて検出する。
この様に構成すれば、転がり接触部で滑りが生じた場合でも、この転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節できる。即ち、上記駆動部材が停止した状態であれば、上記転がり接触部で滑りが生じない限り、上記第一、第二各ディスクの回転速度に基づいて算出される変速比は(検出誤差等の不可避的なものを除き)変動しない。この為、上記駆動部材が停止状態であれば、上記変速比の変動量を求める事で、上記転がり接触部で滑りが生じているか否かを判定できる。具体的には、上記変速比が変動しなければ(変動量が0であれば)、上記転がり接触部で滑りが生じていないと判定できると共に、上記変速比の変動量が大きい程、この滑りが大きいと判定できる。そして、この様な滑り(変速比の変動量)に応じて、上記補正手段の減圧量を制限(例えば減圧を停止乃至その時点での減圧量を維持したり、必要値の再設定)すれば、上記滑りを抑え、上記押圧装置の押圧力の低下とこの滑りの増大との悪循環を断ち切る事ができる。この為、上記滑りに拘らず、上記転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節でき、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
【0030】
又、上述の様な請求項6に記載した発明を実施する場合に好ましくは、補正手段が目標値と必要値との差に応じて減圧を行なっている際に、変速比制御ユニットを構成する駆動部材が停止状態にも拘らず、第一、第二各ディスクの回転速度に基づいて算出される変速比の変動量(駆動部材が停止した直後の変速比を基準としたこの基準とのずれ量)が、予め設定した第六の閾値ζを超えた(変動量>ζ)場合に、この変動量がこの第六の閾値以下(変動量≦ζ)になるまで、上記補正手段による減圧を停止乃至その時点での減圧量を維持する。又、より好ましくは、上記第一、第二各ディスクの回転速度に基づいて算出される変速比の変動量が、予め設定した第六の閾値ζ以下であるが、同じく予め設定した第七の閾値ηを超えた(変動量>η)場合に、この変動量がこの第七の閾値η以下(変動量≦η)になるまで、この変動量がこの第七の閾値η以下である場合に設定される必要値X1 よりも大きい値(例えばその時点での目標値Yと必要値X1 との差の半分をこの必要値X1 に加えた値)を必要値X2 {=X1 (Y−X1 )/2}として設定し、この設定した必要値X2 に向けて、上記補正手段により減圧を行なう。
この様に、変速比の変動量に応じて、補正手段が行なう減圧を停止したり、必要値の設定を変えれば、必要とする補正を或る程度行ないつつ、上記転がり接触部の滑りを抑え、上記押圧装置が発生する押圧力を適正にできる。
【0031】
尚、前述の様に、転がり接触部の滑りを、駆動部材等の変位量から算出する変速比と第一、第二各ディスクの回転速度から算出する変速比との差に基づいて検出する場合には、トロイダル型無段変速機の変速比を変更している状態でも(駆動部材等が変位中でも)、上記滑りを検出できる。これに対して、転がり接触部の滑りを、上記第一、第二各ディスクの回転速度から算出する変速比の変動量のみに基づいて検出する場合には、上記滑りの検出に関し、上記駆動部材等の変位量からパワーローラの傾きに対応する変速比を算出する必要はない。但し、上記駆動部材等が停止した状態でないと、上記滑りを検出できない。この為、必要に応じて、何れか一方、又は、双方で上記滑りを検出する。
【0032】
又、前述並びに上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、第一のディスクと第二のディスクとの間で伝達する力の大きさに応じて設定される油圧の目標値を、アクチュエータに設けた1対の油圧室同士の圧力差に基づいて設定する。
この様に構成すれば、複雑な装置を必要とする事なく上記伝達する力(伝達トルク)を取り出して、押圧装置に導入する油圧をこの伝達する力の大きさに応じて設定される目標値(伝達する力に比例した値)に調節できる。
【0033】
又、前述並びに上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、押圧装置に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値を、第一のディスクと第二のディスクとの間で伝達する力、これら第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比、内部に存在する潤滑油の温度を含む、上記押圧装置が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす複数の状態量に応じて求める。
この様に構成すれば、押圧装置が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす複数の状態量に応じて、この押圧装置の発生する押圧力を最適な値に細かく調節できる。この為、この押圧力、延いては転がり接触部の押し付け力をより適正に調節して、更なる伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、無段変速装置のブロック図。
【図2】この無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速機の変速比並びに押圧装置の発生する押圧力を調節する為の機構を示す油圧回路図。
【図3】実施の形態の第1例の特徴となる動作を示すフローチャート。
【図4】本発明の実施の形態の第2例を示す、図3と同様のフローチャート。
【図5】同第3例を示す、図3と同様のフローチャート。
【図6】同第4例を示す、図3と同様のフローチャート。
【図7】押圧装置に導入する油圧の目標値と必要値との関係を説明する為の線図。
【図8】本発明の実施の形態の第5例を示す、図3と同様のフローチャート。
【図9】従来の無段変速装置のブロック図。
【図10】この無段変速装置に組み込むトロイダル型無段変速機の変速比並びに押圧装置の発生する押圧力を調節する為の機構を示す油圧回路図。
【図11】ライン圧制御用電磁開閉弁の開度と押圧力調整弁の開弁圧の減圧量との関係の1例の示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1〜3、7に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本発明の特徴は、転がり接触部の押し付け力を適正に調節すべく、押圧装置14に導入する油圧の実測値をフィードバックしつつこの油圧の制御を行なう点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図9〜10に示した従来構造と同様であるから、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0036】
制御器16によりライン圧制御用電磁開閉弁18を開閉(デューティー比制御)し、押圧力調整弁22の開弁圧を調節する事により、目標値と必要値との差に応じて行なう減圧を、上記押圧装置14に導入される油圧の実測値をフィードバックしつつ行なう。この為に本実施例の場合は、上記押圧装置14に導入される油圧の実測値を検出する為の第一の油圧センサ42を、上記押圧装置14の油圧室34内に圧油を送り込む油路39の途中に設けている。尚、この様な第一の油圧センサ42は、上記押圧装置14の油圧室34内に設ける事もできる他、この様な油圧センサ42を設けずに、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36b内のそれぞれの油圧を検出する第二の油圧センサ43a、43b(図1の43)により、これら両油圧室36a、36b内の油圧の和として検出する事もできる。そして、この様に検出する上記実測値を上記押圧力調整弁22の開弁圧の調節(ライン圧制御用電磁開閉弁18のデューティー比制御)にフィードバックすべく、上記制御器16に次の機能を持たせている。
【0037】
即ち、上記目標値と必要値との差に応じて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき上記押圧力調整弁22の開弁圧を低下させている(減圧を行なっている)際に、上述の様に検出する実測値Aと上記必要値Bとの差(A−B)が、正の値で、且つ、予め設定した第一の閾値α以上{(A−B)≧α>0}であると判定された場合に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を、上記差が上記第一の閾値α未満{(A−B)<α}である場合に比べて大きくする機能を持たせている。例えば、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度が50%の状態で、上記実測値Aと上記必要値Bとの差が第一の閾値α以上であると判定された場合は、この第一の閾値αとのずれ量に応じて上記開度を50%よりも大きくする(例えば60%、75%、100%等にする)。尚、上記第一の閾値αは、チューニング等により決定されるヒステリシスであり、実験等により予め求めた最適値に設定する。
【0038】
又、上記目標値と必要値との差に応じて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき上記押圧力調整弁22の開弁圧を低下させている(減圧を行なっている)際に、上述の様に検出する実測値Aと上記必要値Bとの差(A−B)が、負の値で、且つ、予め設定した第二の閾値β以下{(A−B)≦β<0}であると判定された場合に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を、上記差が上記第二の閾値βを超えている{(A−B)>β}場合に比べて小さくする機能も、上記制御器16に持たせている。例えば、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度が50%の状態で、上記実測値Aと上記必要値Bとの差が第二の閾値β以下であると判定された場合は、この第二の閾値βとのずれ量に応じて上記開度を50%よりも小さくする(例えば40%、25%、0%等にする)。尚、上記第二の閾値βも、チューニング等により決定されるヒステリシスであり、実験等により予め求めた最適値に設定する。
【0039】
上述の様な制御器16が備える機能に就いて、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、前記第一の油圧センサ42、或いは、1対の第二の油圧センサ43a、43bにより、その時点での押圧装置14に導入される油圧の実測値Aを検出する。次いで、ステップ2で、上記制御器16は、その時点での上記押圧装置14に導入する油圧の必要値Bを算出する。即ち、その時点での、トロイダル型無段変速機4の変速比、並びに、前記アクチュエータ13の油圧室36a、36bの油圧の差に基づき算出される伝達トルク(トロイダル型無段変速機4に入力されるトルク)、油温センサ44(図1)により検出される、無段変速装置を納めたケーシング内の潤滑油(トラクションオイル)の温度、その他上記押圧装置14が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす状態量(例えばエンジン1の回転速度等)に応じて、上記押圧装置14に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値Bを算出する。
【0040】
尚、本例の場合は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を、変速比制御ユニット15を構成する制御弁23を切り換える為のステッピングモータ17の駆動量に基づいて求める。即ち、上記トロイダル型無段変速機4の変速比と、上記ステッピングモータ17の駆動量であるステップ数との相関関係を予め求めて、上記制御器16のメモリに記憶させておき、この記憶させた相関関係に基づいて、現在のステッピングモータ17のステップ数に対応する変速比として求める。尚、上記変速比は、入力側、出力側各回転センサ40、41が検出する入力側ディスク10の回転速度と出力側ディスク11の回転速度とに基づいて算出する事もできる。但し、この様に変速比を算出する場合、前述の様に、転がり接触部(トラクション部)で滑りを生じた場合に、算出された変速比が、パワーローラ12の傾きに対応する変速比とずれる可能性がある。そして、この様な変速比に基づいて、上記押圧装置14に導入する油圧の調節(必要値の算出)を行なうと、上記トラクション部の滑りを増大させる可能性がある。そこで、本実施例の場合には、上述の様に予め求めた(トラクション部で滑りが生じていない状態での)上記トロイダル型無段変速機4の変速比と、上記ステッピングモータ17の駆動量であるステップ数との相関関係に基づいて、上記変速比を求める。
【0041】
上述の様にステップ2で押圧装置14に導入する油圧の必要値Bを算出したならば、続くステップ3に示す様に、実測値Aと必要値Bとの差dPL=(A−B)を求める。そして、続くステップ4で、この差dPLが、予め設定した第一の閾値α以上{dPL≧α>0}であるか否かを判定する。このステップ4で、上記差dPLが第一の閾値α以上であると判定した場合は、ステップ5に示す様に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を、通常の場合に比べて大きくする(増大させる)。この結果、上記押圧装置14が発生する押圧力が低下する。一方、上記ステップ4で、上記差dPLが第一の閾値α以上でないと判定した場合は、ステップ6に示す様に、上記差dPLが予め設定した第二の閾値β以下{dPL≦β<0}であるか否かを判定する。このステップ6で、上記差dPLが第二の閾値β以下であると判定した場合は、ステップ7に示す様に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を、通常の場合に比べて小さくする(減少する)。この結果、上記押圧装置14が発生する押圧力が上昇する。一方、上記ステップ6で、上記差dPLが第二の閾値β以下でないと判定した場合は、ステップ8に示す様に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を通常のままにする(通常の減圧を行なう)。この結果、上記押圧装置14が発生する押圧力は、そのままの値に維持される。
【0042】
上述の様な本実施例によれば、押圧装置14の発生する押圧力、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節できる。
即ち、上述の様に、押圧装置14に導入される油圧の実測値Aを測定し、この測定した実測値Aをフィードバックしつつ、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき上記押圧力調整弁22の開弁圧を低下させている(減圧を行なっている)。この為、油漏れ、機械的作動誤差、応答遅れ等が生じ、この様な異常に基づき上記押圧装置14に導入される油圧が変化しても、この油圧の変化に応じて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度、延いては押圧力調整弁22の開弁圧を調節し、上記油圧が必要値からずれる事を防止できる。この為、上記異常に拘らず、上記油圧が過大のままの状態となったり、過度に低下した状態のままとなる事を防止して、上記押圧装置14に導入する油圧、延いては転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節でき、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
【0043】
[実施の形態の第2例]
図4は、請求項1に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合も、上述した実施の形態の第1例と同様に、押圧装置14に導入する油圧の実測値Aをフィードバックしつつ、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を調節する機能を、制御器16(図1〜2等参照)に持たせている。特に、本例の場合には、上記実測値Aが第三の閾値γ以下(A≦γ)であると判定される場合に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を0にする(減圧を停止する)機能を、上記制御器16に持たせている。尚、本例の場合は、上記第三の閾値γを、予め設定した、上記押圧装置14が発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な油圧としている。
【0044】
この様な制御器16が備える機能に就いて、フローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、第一の油圧センサ42、或いは、1対の第二の油圧センサ43a、43b(図1〜2等参照)により、その時点での押圧装置14に導入される油圧の実測値Aを検出する。次いで、ステップ2で、この実測値Aが第三の閾値γ以下(A≦γ)であるか否かを判定する。このステップ2で、上記実測値Aが上記第三の閾値γ以下であると判定した場合は、ステップ3に示す様に、上記押圧装置14或いはこの押圧装置14に圧油を供給する為の油路39等(プライマリーライン)に異常があると判定し、続くステップ4で、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を0にする(減圧を停止する)。
【0045】
一方、上記ステップ2で、上記実測値Aが上記第三の閾値γを超えている(A>γ)と判定した場合には、ステップ5に示す様に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を通常のままにする(通常の減圧を行なう)。
この様に構成する、本例の場合には、油漏れ、機械的作動誤差等の異常に基づき押圧装置に導入される油圧が大きく低下しても、必要最低限の押圧力を確保できる。
その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0046】
[実施の形態の第3例]
図5は、請求項1に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合も、前述した実施の形態の第2例と同様に、押圧装置14に導入する油圧の実測値Aが第三の閾値γ以下(A≦γ)であると判定された場合に、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を0にする(減圧を停止する)機能を、制御器16(図1〜2等参照)に持たせている。特に、本例の場合には、上記第三の閾値γを、その時点での、トロイダル型無段変速機4の変速比(パワーローラ12の傾きに対応する変速比)、並びに、アクチュエータ13の油圧室36a、36bの油圧の差に基づき算出される伝達トルク(トロイダル型無段変速機4に入力されるトルク)、油温センサ44(図1〜2等参照)により検出される、内部に存在する潤滑油の温度、その他上記押圧装置14が発生すべき押圧力に影響を及ぼす状態量から求められる、この押圧装置14に発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な値としている。
【0047】
この様な制御器16が備える機能に就いて、フローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、第一の油圧センサ42、或いは、1対の第二の油圧センサ43a、43b(図1〜2等参照)により、その時点での押圧装置14に導入される油圧の実測値Aを検出する。次いで、上記制御器16は、ステップ2で、その時点での、押圧装置14が発生すべき最低限の押圧力を得る為に必要な値である第三の閾値γを算出する。即ち、その時点での、上記トロイダル型無段変速機4の変速比、伝達トルク、潤滑油の温度、その他上記押圧装置14が発生すべき押圧力に影響を及ぼす状態量に応じて、上記第三の閾値γを算出する。
【0048】
次いで、ステップ3で、上記ステップ1で検出した実測値Aが、上記ステップ2で算出した第三の閾値γ以下(A≦γ)であるか否かを判定する。このステップ3で、上記実測値Aが上記第三の閾値γ以下であると判定した場合には、ステップ4に示す様に、上記押圧装置14或いはこの押圧装置14に油圧を導入する為の油路39等(プライマリーライン)に異常があると判定し、続くステップ5で、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を0にする(減圧を停止する)。
【0049】
一方、上記ステップ3で、上記実測値Aが上記第三の閾値γを超えている(A>γ)と判定した場合には、ステップ6に示す様に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を通常のままにする(通常の減圧を行なう)。
この様に構成する、本例の場合も、油漏れ、機械的作動誤差等の異常に基づき押圧装置に導入される油圧が大きく低下しても、必要最低限の押圧力を確保できる。しかも、本例の場合には、その時点での第三の閾値γと実測値Aとに応じて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を0にする為、運転状況に応じて適切に減圧を停止できる。
その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例及び第2例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0050】
[実施の形態の第4例]
図6は、請求項4、5に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合は、制御器16に、入力側、出力側各ディスク10、11の内側面と各パワーローラ12の周面との転がり接触部で生じる滑りに応じて、押圧装置14に導入する油圧を調節する為のライン圧制御用電磁開閉弁18(図1〜2等参照)の開度(押圧力調整弁22の開弁圧の低下量)を調節する機能を持たせている。この為に、本実施例の場合は、上記転がり接触部の滑りを、変速比制御ユニットを構成する制御弁23を切り換える為のステッピングモータ17(図1〜2等参照)のステップ数に基づいて算出される変速比と、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比との差に基づいて検出する。
【0051】
即ち、特許請求の範囲に記載した駆動部材に相当する上記ステッピングモータ17のステップ数は、上記変速比制御ユニット15により制御されるアクチュエータ13の動きに基づいて揺動する各パワーローラ12(図1〜2等参照)の傾き(傾転量、揺動量)、延いてはこの傾きに対応する変速比と相関関係を有する。この為、予め求めたこの相関関係に基づき、上記各パワーローラ12の傾きに対応する変速比を算出し、この変速比と、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比との差を求める事で、上記転がり接触部で滑りが生じているかを判定できる。上記各変速比同士に差がなければ(変速比同士が同じであれば)、上記転がり接触部で滑りが生じていないと判定できると共に、上記変速比同士の差が大きい程この滑りが大きいと判定できる。そして、本実施例の場合は、この様な変速比同士の差に応じて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度を調節する。
【0052】
具体的には、本例の場合には、制御器16(図1〜2等参照)に次の機能を持たせている。即ち、目標値と必要値との差に応じて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき上記押圧力調整弁22の開弁圧を低下させている(減圧を行なっている)際に、上記ステッピングモータ17のステップ数に基づいて算出される変速比Jと、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比Kとの差の絶対値(|J―K|)が、予め設定した第四の閾値δ以上(|J―K|≧δ)である場合に、この差の絶対値がこの第四の閾値δ未満(|J―K|<δ)になるまで、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を停止乃至その時点での開閉量(減圧量)を維持する(図2の第三のパイロット部33内への圧力導入を停止乃至その時点での導入量を維持したままにする)機能を、上記制御器16に持たせている。又、これと共に、上記差の絶対値(|J―K|)が、予め設定した第四の閾値δ未満であるが、同じく予め設定した第五の閾値ε以上(|J―K|≧ε)である場合に、この差の絶対値がこの第五の閾値ε未満(|J―K|<ε)になるまで、この差の絶対値がこの第五の閾値ε未満である場合に設定される必要値X1 よりも大きい値を必要値X2 (X2 >X1 )として設定し、この様に設定した必要値X2 に向けて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を行なう(第三のパイロット部33内の圧力導入を少しだけ上昇させる)機能も、上記制御器16に持たせている。尚、この様に設定する必要値X2 は、例えば図7に示す様に、上記差が上記第五の閾値ε未満である場合に設定される目標値をYとし、同じく必要値をX1 とした場合に、これら目標値Yと必要値X1 との差の半分{(Y−X1 )/2}をこの必要値X1 に加えた値とする。言い換えれば、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき押圧力調整弁22の開弁圧が低下する量(減圧量=目標値−必要値)を、上記差が上記第五の閾値ε未満である場合の減圧量(Y―X1 )に比べて半分{(Y―X2 )=(Y―X1 )/2}とする。
【0053】
この様な制御器16が備える機能に就いて、フローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、トロイダル型無段変速機4の変速比を算出する。本例の場合、この変速比を、上記ステッピングモータ17のステップ数に基づいて求める。即ち、このステッピングモータ17のステップ数と、(転がり接触部に滑りが生じていない状態での)上記トロイダル型無段変速機4の変速比との相関関係を予め求め、上記制御器16のメモリに記憶させておき、この記憶させた相関関係に基づいて、現在のステッピングモータ17のステップ数に対応する変速比として求める。
【0054】
次いで、上記制御器16は、ステップ2で、上記押圧装置14に導入する油圧の必要値X1 を算出する。即ち、上述の様にして算出した変速比、並びに、第二の油圧センサ43(43a、43b)により検出されるアクチュエータ13の油圧室36a、36bの油圧の差に基づき算出される伝達トルク(トロイダル型無段変速機4に入力されるトルク)、油温センサ44(図1〜2等参照)により検出される、内部に存在する潤滑油の温度、その他上記押圧装置14が発生すべき適切な押圧力に影響を及ぼす状態量(例えばエンジン1の回転速度等)に応じて、上記押圧装置14に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値X1 を算出する。次いで、ステップ3で、上記転がり接触部で滑りが生じているか否かの判定を行なう。具体的には、続くステップ4に示す様に、上記ステップ1で算出した、ステッピングモータ17のステップ数に基づいて算出される変速比J(パワーローラ12の傾きに対応する変速比J)と、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比Kとに差が生じているか否か{変速比同士の差が0(J−K=0)か否か}を判定する。
【0055】
このステップ4で、変速比同士の差が0、即ち、上記ステッピングモータ17のステップ数に基づいて算出される変速比Jと上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比Kとが同じである(J−K=0)と判定された場合には、ステップ5に示す様に、本例の特徴である、転がり接触部の滑りに応じて押圧装置14に導入する油圧の減圧を調節する制御は行なわず、通常の減圧制御を行なう。より具体的には、上記押圧装置14に導入する油圧を、上記アクチュエータ13の油圧室36a、36b(図1〜2等参照)の差に基づいて設定される目標値Yから、前述のステップ2で求めた必要値X1 になる様に、上記制御器16により制御される上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき(このライン圧制御用電磁開閉弁18のデューティー比制御により)減圧する。尚、この様な減圧制御を既に開始している場合には、この減圧制御を継続する。
【0056】
一方、上記ステップ4で、変速比同士の差が0でない、即ち、上記ステッピングモータ17のステップ数に基づいて算出される変速比Jと上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比Kとが異なる(J−K≠0)と判定された場合には、ステップ6で、この差の絶対値(|J―K|)が、予め設定した第四の閾値δ以上(|J―K|≧δ)であるか否かを判定する。この差の絶対値が第四の閾値δ以上であると判定された場合には、ステップ7に示す様に、上述の様なライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づく減圧補正を停止する。尚、この減圧補正の停止は、上記差の絶対値が上記第四の閾値δ未満(|J―K|<δ)になるまで継続する(停止したままとする)。一方、上記ステップ6で、上記差の絶対値が第四の閾値δ以上でない、即ち、この第四の閾値δ未満であると判定された場合には、ステップ8に示す様に、この差の絶対値が第五の閾値ε以上(|J―K|≧ε)であるか否かを判定する。
【0057】
この差の絶対値が第五の閾値ε以上であると判定された場合には、ステップ9に示す様に、この差の絶対値がこの第五の閾値ε未満(|J―K|<ε)である場合に設定される必要値X1 (ステップ2で算出される必要値X1 )よりも大きい値を必要値X2 (例えば図7の必要値X2 )として設定し、続くステップ5で、この様に設定した必要値X2 に向けて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき減圧を行なう。尚、この様に設定した必要値X2 に向けて行なう減圧は、上記差の絶対値が上記第五の閾値ε未満になるまで続ける。
【0058】
一方、上記ステップ8で、上記差の絶対値が第五の閾値ε以上でない、即ち、第五の閾値ε未満であると判定された場合には、ステップ5で、通常の減圧制御を行なう。より具体的には、前述した様に、上記押圧装置14に導入する油圧を、前記アクチュエータ13の油圧室36a、36bの差に基づいて設定される目標値Yから、前述のステップ2で求めた必要値X1 になる様に、前記制御器16により制御される上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき減圧する。尚、この様な減圧制御を既に開始している場合には、この減圧制御を継続する。
【0059】
上述の様に、転がり接触部の滑り、即ち、変速比同士の差に応じて、上記押圧装置14に導入する油圧の減圧を変化させる本例の場合には、この滑りが生じた場合に、この滑りの増大と上記押圧装置14の押圧力の低下との悪循環を断ち切る事ができる。この為、上記滑りに拘らず、上記押圧装置14の発生する押圧力、延いては、転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節でき、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1〜3例と同様であるから、重複する説明は省略する。
尚、本例の場合は、前述した実施の形態の第1〜3例の様な、押圧装置14に導入される油圧の実測値をフィードバックする必要はない。勿論、本例の特徴である、転がり接触部の滑りに応じて押圧装置14に導入する油圧の減圧を変化させる構成と、前述の実施の形態の第1〜3例の特徴である、この押圧装置14に導入する油圧の実測値をフィードバックする構成との両方を採用する事もできる。但し、前述の実施の形態の第1〜3例で説明した様な油圧の実測値のフィードバックする構成を採用しない場合には、この実測値を検出する為の第一の油圧センサ42(図1〜2等参照)を省略できる。
【0060】
[実施の形態の第5例]
図7は、請求項4、6に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。前述した実施の形態の第4例の場合は、転がり接触部の滑りを、ステッピングモータ17のステップ数に基づいて算出する変速比と、入力側、出力側各ディスク10、11(図1〜2等参照)の回転速度に基づいて算出する変速比との差に基づいて検出している。これに対して本例の場合には、上記転がり接触部の滑りを、上記ステッピングモータ17が停止している状態での、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比の変動量(ステッピングモータ17が停止した直後の変速比を基準としたこの基準とのずれ量)に基づいて検出する。
【0061】
即ち、上記ステッピングモータ17が停止した状態であれば、上記転がり接触部で滑りが生じない限り、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比は(検出誤差等の不可避的なものを除き)変動しない。この為、上記ステッピングモータ17が停止状態であれば、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比の変動量を求める事で、上記転がり接触部で滑りが生じているかを判定できる。上記変速比が変動しなければ(変動量が0であれば)、上記転がり接触部で滑りが生じていないと判定できると共に、上記変速比の変動量が大きい程この滑りが大きいと判定できる。そして、本例の場合は、この様な変速比の変動量に応じて、ライン圧制御用電磁開閉弁18(図1〜2等参照)の開度を調節する。
【0062】
より具体的には、本例の場合は、制御器16(図1〜2等参照)に次の機能を持たせている。即ち、目標値と必要値との差に応じて、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき押圧力調整弁22(図1〜2等参照)の開弁圧を低下させている(減圧を行なっている)際に、上記ステッピングモータ17が停止状態にも拘らず、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比の変動量(ずれ量)が、予め設定した第六の閾値ζを超えた(変動量>ζ)場合に、この変動量がこの第六の閾値以下(変動量≦ζ)になるまで、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を停止乃至その時点での開閉量(減圧量)を維持する(図2の第三のパイロット部33内への圧力導入を停止乃至その時点での導入量を維持したままにする)機能を、上記制御器16に持たせている。又、これと共に、上記変動量が予め設定した第六の閾値ζ以下であるが、同じく予め設定した第七の閾値ηを超えた(変動量>η)場合に、この変動量がこの第七の閾値η以下(変動量≦η)になるまで、この変動量がこの第七の閾値η以下である場合に設定される必要値X1 よりも大きい値を必要値X2 (X2 >X1 )として設定し、この設定した必要値X2 に向けて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を行なう(第三のパイロット部33内の圧力導入を少しだけ上昇させる)機能も、上記制御器16に持たせている。尚、この様に設定する必要値X2 は、例えば前述の図7に示した場合と同様に、上記変動量が上記第七の閾値η以下である場合に設定される目標値をYとし、同じく必要値をX1 とした場合に、これら目標値Yと必要値X1 との差の半分{(Y−X1 )/2}をこの必要値X1 に加えた値とする。言い換えれば、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき押圧力調整弁22の開弁圧が低下する量(減圧量=目標値−必要値)を、上記変動量が上記第七の閾値η以下である場合の減圧量(Y―X1 )に比べて半分{(Y―X2 )=(Y―X1 )/2}とする。
【0063】
この様な制御器16が備える機能に就いて、フローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、トロイダル型無段変速機4の変速比を算出する。本例の場合も、実施の形態の第4例と同様に、この変速比を、ステッピングモータ17のステップ数に基づいて求める。次いで、上記制御器16は、ステップ2で、上記押圧装置14に導入する油圧の必要値X1 を算出する。ここまでは、上記実施の形態の第4例と同じである。
【0064】
続くステップ3では、上記転がり接触部で滑りが生じているか否かの判定を行なう。本例の場合、この滑りの判定を、ステッピングモータ17が停止状態での、入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比の変動量(ずれ量)に基づいて行なう。即ち、続くステップ4に示す様に、上記ステッピングモータ17が停止している状態での、上記変速比の変動量が0か否かを判定する。
【0065】
このステップ4で、変速比の変動量が0(変動量=0)、即ち、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比が変動していないと判定された場合には、ステップ5に示す様に、本例の特徴である、転がり接触部の滑りに応じて押圧装置14に導入する油圧の減圧を調節する制御は行なわず、通常の減圧制御を行なう。一方、上記ステップ4で、変速比の変動量が0でない(変動量≠0)、即ち、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度に基づいて算出される変速比が変動していると判定された場合には、ステップ6で、この変動量が、予め設定した第六の閾値ζを超えている(変動量>ζ)か否かを判定する。この変動量が第六の閾値ζを超えていると判定された場合には、ステップ7に示す様に、上述の様なライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づく減圧補正を停止する。尚、この減圧補正の停止は、上記変動量が上記第六の閾値以下(変動量≦ζ)になるまで継続する(停止したままとする)。一方、上記ステップ6で、上記変動量が第六の閾値ζを超えていない、即ち、この第六の閾値以下であると判定された場合には、ステップ8に示す様に、この変動量が第七の閾値ηを超えている(変動量>η)か否かを判定する。
【0066】
この変動量が第七の閾値ηを超えていると判定された場合には、ステップ9に示す様に、この変動量がこの第七の閾値η以下(変動量≦η)である場合に設定される必要値X1 (ステップ2で算出される必要値X1 )よりも大きい値を必要値X2 (例えば図7の必要値X2 )として設定し、続くステップ5で、この様に設定した必要値X2 に向けて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき減圧を行なう。尚、この様に設定した必要値X2 に向けて行なう減圧は、上記変動量が上記第七の閾値η以下になるまで続ける。一方、上記ステップ8で、上記変動量が上記第七の閾値ηを越えていない、即ち、この第七の閾値η以下であると判定された場合には、ステップ5で、通常の減圧制御を行なう。
【0067】
この様な本例の場合も、前述した実施の形態の第4例の場合と同様に、転がり接触部に滑りが生じた場合に、この滑りの増大と上記押圧装置14の押圧力の低下との悪循環を断ち切る事ができる。この為、上記滑りに拘らず、上記押圧装置14の発生する押圧力、延いては、転がり接触部に加わる押し付け力を適正に調節でき、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。
尚、前述の実施の形態の第4例の様に、転がり接触部の滑りを、ステッピングモータ17のステップ数から算出する変速比と入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度から算出する変速比との差に基づいて検出する場合には、トロイダル型無段変速機4の変速比を変更している状態でも(ステッピングモータ17が駆動中でも)、上記滑りを検出できる。これに対して、本例の様に、転がり接触部の滑りを、上記入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度から算出する変速比の変動量のみに基づいて検出する場合には、上記滑りの検出に関し、上記ステッピングモータ17のステップ数からパワーローラ12の傾きに対応する変速比を算出する必要はない。但し、上記ステッピングモータ17が停止した状態でないと、上記滑りを検出できない。この為、必要に応じて、実施の形態の第4例と第5例5とのうちの何れか一方、又は、双方で上記滑りを検出する。
その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第4例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0068】
尚、上述した実施の形態の第5例並びに前述した実施の形態の第1〜4例は、入力軸3を一方向に回転させたまま出力軸9(図1参照)の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる、ギヤードニュートラル型の無段変速装置に本発明を適用した場合を示した。但し、この様な構造に限定されるものではなく、低速モード時にトロイダル型無段変速機のみで動力を伝達すると共に、高速モード時に差動ユニットである遊星歯車式変速機により主動力を伝達し、上記トロイダル型無段変速機により変速比の調節を行なう、パワースプリット型の無段変速装置に本発明を適用する事もできる。又、トロイダル型無段変速機と作動ユニットである遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて成る無段変速装置だけでなく、トロイダル型無段変速機単体に本発明を適用する事もできる。
【符号の説明】
【0069】
1 エンジン
2 ダンパ
3 入力軸
4 トロイダル型無段変速機
5 遊星歯車式変速機
6 クラッチ装置
7 低速用クラッチ
8 高速用クラッチ
9 出力軸
10 入力側ディスク
11 出力側ディスク
12 パワーローラ
13 アクチュエータ
14 押圧装置
15 変速比制御ユニット
16 制御器
17 ステッピングモータ
18 ライン圧制御用電磁開閉弁
19 電磁弁
20 シフト用電磁弁
21 制御弁装置
22 押圧力調整弁
23 制御弁
24 差圧シリンダ
25a、25b 補正用制御弁
26 高速用切換弁
27 低速用切換弁
28、28a、28b オイルポンプ
29 油溜
30 低圧側調整弁
31 第一のパイロット部
32 第二のパイロット部
33 第三のパイロット部
34 油圧室
35 ピストン
36a、36b 油圧室
37 差圧取り出し弁
38 スプール
39 油路
40 入力側回転センサ
41 出力側回転センサ
42 第一の油圧センサ
43、43a、43b 第二の油圧センサ
44 油温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心に、且つ相対回転自在に配置された第一、第二のディスクと、互いに対向するこれら第一、第二のディスクの内側面同士の間に挟持されてこれら第一、第二のディスク同士の間で動力を伝達する複数のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個の支持部材と、これら各支持部材を、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間の変速比を変える油圧式のアクチュエータと、この変速比を所望値にする為にこのアクチュエータの変位方向及び変位量を制御する為の変速比制御ユニットと、上記第一のディスクと上記第二のディスクとを互いに近付く方向に押圧する押圧装置とを備え、この押圧装置は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、この押圧装置に導入する油圧を調整する為の油圧調整手段は、この押圧装置に導入する油圧を、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力の大きさに応じて設定される油圧の目標値から、上記押圧装置に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値に、補正手段により減圧する事により調節するものであるトロイダル型無段変速機に於いて、上記補正手段は、上記目標値と必要値との差に応じて行なう減圧を、上記押圧装置に導入される油圧の実測値をフィードバックしつつ行なうものである事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
押圧装置に導入される油圧の実測値を、この押圧装置の油圧室又はこの油圧室内に圧油を導入する油路に設けた油圧センサにより検出する、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
押圧装置に導入される油圧の実測値を、アクチュエータに設けた1対の油圧室内のそれぞれの油圧を検出する油圧センサにより、これら両油圧室内の油圧の和として検出する、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
互いに同心に、且つ相対回転自在に配置された第一、第二のディスクと、互いに対向するこれら第一、第二のディスクの内側面同士の間に挟持されてこれら第一、第二のディスク同士の間で動力を伝達する複数のパワーローラと、これら各パワーローラを回転自在に支持した複数個の支持部材と、これら各支持部材を、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間の変速比を変える油圧式のアクチュエータと、この変速比を所望値にする為にこのアクチュエータの変位方向及び変位量を制御する為の変速比制御ユニットと、上記第一のディスクと上記第二のディスクとを互いに近付く方向に押圧する押圧装置とを備え、この押圧装置は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、この押圧装置に導入する油圧を調整する為の油圧調整手段は、この押圧装置に導入する油圧を、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力の大きさに応じて設定される油圧の目標値から、上記押圧装置に発生させるべき押圧力の最適値に応じた油圧の必要値に、補正手段により減圧する事により調節するものであるトロイダル型無段変速機に於いて、上記補正手段は、上記目標値と必要値との差に応じて減圧を行なう際に、上記第一、第二各ディスクの内側面と上記各パワーローラの周面との転がり接触部で生じる滑りに応じて減圧量を変化させるものである事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項5】
転がり接触部の滑りを、変速比制御ユニットを構成する駆動部材又はこの駆動部材により変位させられる部材の変位量に基づいて算出される変速比と、第一のディスクの回転速度と第二のディスクの回転速度とに基づいて算出される変速比との差に基づいて検出する、請求項4に記載したトロイダル型無段変速機。
【請求項6】
転がり接触部の滑りを、変速比制御ユニットを構成する駆動部材が停止している状態での、第一のディスクの回転速度と第二のディスクの回転速度とに基づいて算出される変速比の変動量に基づいて検出する、請求項4に記載したトロイダル型無段変速機。
【請求項7】
トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットとを備え、このうちの差動ユニットは、トロイダル型無段変速機を構成する第一のディスクと共に入力軸により回転駆動される第一の入力部と、同じく第二のディスクに接続される第二の入力部とを有し、これら第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して出力軸に伝達するものである無段変速装置に於いて、上記トロイダル型無段変速機が、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載したトロイダル型無段変速機である事を特徴とする無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−38646(P2011−38646A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260996(P2010−260996)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【分割の表示】特願2005−76945(P2005−76945)の分割
【原出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】