説明

ドットマトリクス型液晶表示装置

【課題】突入電流が低く、電源負荷が小さいドットマトリクス液晶表示装置の実現。
【解決手段】メモリ性液晶層12、複数のスキャンラインおよび複数のデータラインを有するドットマトリクス型液晶表示素子10と、コモンドライバ28と、セグメントドライバ29と、制御回路27と、を備え、制御回路は、表示データを書き込む前に、第1極性のリセット電圧を印加するスキャンラインの本数を所定本数まで徐々に増加させた後第1極性のリセット電圧の印加を停止し、第2極性のリセット電圧を印加するスキャンラインの本数を所定本数まで徐々に増加させた後第2極性のリセット電圧の印加を停止する、ように制御して、ドットマトリクス型液晶表示素子を初期状態にするリセット動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドットマトリクス型液晶表示装置に関し、特にコレステリック液晶を使用し、表示データの書込み前に第1ステップでプレーナ状態またはフォーカルコニック状態にリセットするリセット動作を行うドットマトリクス型液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子のようなドットマトリクス型表示素子が、テレビ受像機やコンピュータシステムのモニタとして広く使用されている。ドットマトリクス型表示素子は、平行に配列された複数のスキャンラインと、スキャンラインと垂直に交差するように配置された複数のデータライン(セグメントライン)とを有し、複数のスキャンラインと複数のセグメントラインの交差部に画素が形成される。表示する画像の書込みは、スキャンラインに順次スキャンパルスを印加し、スキャンパルスの印加に同期して複数のセグメントラインに1ライン分のデータを出力することにより行われる。ドットマトリクス型表示素子には、CRT、PDP、EL、液晶表示素子など各種の方式があるが、特に液晶表示素子が広く使用されている。
【0003】
近年、電源を切っても表示内容を保持できる書換え可能な表示デバイスとして、各企業および大学などにおいて、電子ペーパーの開発が盛んに進められている。電子ペーパーの利用が期待されている応用分野として、電子書籍を筆頭に、モバイル端末機器のサブディスプレイやICカードの表示部など、多様な応用形態が提案されている。電子ペーパーの有力な方式の1つに、コレステリック液晶がある。コレステリック液晶は、半永久的な表示保持(メモリ性)や鮮やかなカラー表示、高コントラスト、高解像度といった優れた特徴を有している。
【0004】
コレステリック液晶は、カライラルネマティック液晶とも称されることがあり、ネマティック液晶にキラル性の添加剤(カイラル材)を比較的多く(数十%)添加することにより、ネマティック液晶の分子がらせん状のコレステリック相を形成する液晶である。
【0005】
図1は、コレステリック液晶の状態を説明する図である。図1の(A)および(B)に示すように、コレステリック液晶を利用した表示素子10は、上側基板11と、コレステリック液晶層12と、下側基板13と、有する。コレステリック液晶には、図1の(A)に示すように入射光を反射するプレーナ状態と、図1の(B)に示すように入射光を透過するフォーカルコニック状態と、があり、これらの状態は、無電界下でも安定してその状態が保持される。
【0006】
プレーナ状態の時には、液晶分子のらせんピッチに応じた波長の光を反射する。反射が最大となる波長λは、液晶の平均屈折率n、らせんピッチpから次の式で表される。
【0007】
λ=n・p
一方、反射帯域Δλは、液晶の屈折率異方性Δnにより大きく異なる。
【0008】
プレーナ状態の時には、入射光が反射するので「明」状態、すなわち白を表示することができる。一方、フォーカルコニック状態の時には、下側基板13の下に光吸収層を設けることにより、液晶層を透過した光が吸収されるので「暗」状態、すなわち黒を表示することができる。
【0009】
上記のように、プレーナ状態の時には、液晶分子のらせんピッチに応じた波長の光を反射するので、液晶材料およびカイラル材を選択し、カイラル材の含有率を決定し、青(ブルー)、緑(グリーン)および赤(レッド)の各波長を選択反射する3つのパネルを得、それらを積層して、カラー表示素子が得られる。
【0010】
次に、コレステリック液晶を利用した表示素子の駆動方法を説明する。
【0011】
図2は、一般的なコレステリック液晶の電圧−反射特性の一例を示している。横軸は、コレステリック液晶を挟む電極間に所定のパルス幅で印加されるパルス電圧の電圧値(V)を表し、縦軸はコレステリック液晶の反射率(%)を表している。図2に示す実線の曲線Pは、初期状態がプレーナ状態のコレステリック液晶の電圧−反射率特性を示し、破線の曲線FCは、初期状態がフォーカルコニック状態のコレステリック液晶の電圧−反射率特性を示す。
【0012】
図2において、電極間に所定の高電圧VP100(例えば±36V)を印加して、コレステリック液晶中に相対的に強い電界を発生させると、液晶分子のらせん構造は完全にほどけて、すべての分子が電界の方向に従うホメオトロピック状態になる。次に、液晶分子がホメオトロピック状態の時に、印加電圧をVP100から所定の低電圧(例えば、VF0=±4V)に急激に低下させて、液晶中の電界を急激にほぼゼロにすると、液晶のらせん軸は電極に垂直になり、らせんピッチに応じた光を選択的に反射するプレーナ状態になる。
【0013】
一方、電極間に所定の低電圧VF100b(例えば、±24V)を印加し、コレステリック液晶中の相対的に弱い電界を発生させると、液晶分子のらせん構造が完全には解けない状態になる。この状態において、印加電圧をVF100bから低電圧VF0に急激に低下させて、液晶中の電界を急激にほぼゼロにするか、あるいは強い電界を印加し緩やかに電界を除去した場合は、液晶分子のらせん軸が電極に平行になり、入射光を透過するフォーカルコニック状態になる。
【0014】
また、中間的な強さの電界を印加し、急激に電界を除去すると、プレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在し、中間調の表示が可能となる。
【0015】
ここで、図2に示す曲線Pにおいて、破線枠A内では、印加する電圧パルスの電圧値を高くするに従ってフォーカルコニック状態の割合を増加させてコレステリック液晶の反射率を低下させることができる。また、図2に示す曲線PおよびFCにおいて、破線枠B内では、印加する電圧値を低くするに従ってフォーカルコニック状態の割合を増加させてコレステリック液晶の反射率を低下させることができる。
【0016】
中間調を表示するためには、A領域またはB領域を利用する。A領域を利用する場合には、画素を初期化してプレーナ状態にした後に、VF0とVF100aの間の電圧パルスを印加して一部をフォーカルコニック状態にする。また、B領域を利用する場合には、画素を初期化してフォーカルコニック状態にした後に、VF100bとVP0の間の電圧パルスを印加して一部をプレーナ状態にする。
【0017】
以上説明した電圧応答特性に基づく駆動方法の原理を、図3および図4を参照して説明する。図3の(A)、図4の(A)および(C)は電圧パルスの波形を示す。図3の(B)、図4の(B)および(D)は、図3の(A)、図4の(A)および(C)の電圧パルスをそれぞれ印加した時のパルス応答特性を示す。図3の(A)は、電圧値が±36Vで、パルス幅が数十msの電圧パルスを示す。図4の(A)は、オン(ON)時の電圧値が±20Vで、オフ(OFF)時の電圧値が±10Vで、パルス幅が2msの電圧パルスを示す。図4の(C)は、オン(ON)時の電圧値が±20Vで、オフ(OFF)時の電圧値が±10Vで、パルス幅が1msの電圧パルスを示す。図3の(B)、図4の(B)および(D)において、横軸は電圧(V)を表し、縦軸は反射率(%)を表す。図3の(B)の電圧−反射率特性は、図2の曲線PおよびFCを模式化して示し、図4の(B)および(D)の電圧−反射率特性は、図2の曲線Pのみを模式化して示す。ここで使用する電圧パルスは、液晶の駆動パルスとしてよく知られているように、分極による表示の劣化を防止するために、正極性と負極性のパルスを組み合わせている。
【0018】
図3の(A)および(B)に示すように、パルス幅が大きい場合には、初期状態がプレーナ状態だと、電圧をある範囲に上げると、フォーカルコニック状態となり、さらに電圧を上げると、再度プレーナ状態となる。初期状態がフォーカルコニック状態だと、パルス電圧を上げるにつれて次第にプレーナ状態になる。
【0019】
パルス幅が大きい場合に、初期状態がプレーナ状態とフォーカルコニック状態のいずれでも必ずプレーナ状態になるパルス電圧は、図3の(B)では±36Vである。また、この中間のパルス電圧では、プレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在した状態になり、中間調が得られる。
【0020】
一方、図4の(A)および(B)に示すように、パルス幅が2msの場合には、初期状態がプレーナ状態では、パルス電圧が±10Vでは反射率変化しないが、それ以上大きな電圧なるとプレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在した状態になり、反射率が低下する。反射率の低下量は電圧が大きくなるに従って大きくなるが、±36Vよりさらに大きな電圧になると反射率の低下量は一定となる。これは、初期状態がプレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在した状態でも同じである。従って、初期状態がプレーナ状態である場合に、パルス幅が2msでパルス電圧が±20Vの電圧パルスを1回印加すると、反射率はある程度低下する。このようにしてプレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在した状態で反射率が少し低下した状態で、パルス幅が2msでパルス電圧が±20Vの電圧パルスをさらに印加すると、反射率はさらに低下する。これを繰り返すと、反射率は所定値まで低下する。
【0021】
図4の(C)および(D)に示すように、パルス幅が1msの場合には、パルス幅が2msの場合と同様に、電圧パルスを印加することにより反射率が低下するが、反射率の低下具合はパルス幅が2msの場合と比べて小さい。
【0022】
以上のことから、数十msのパルス幅で36Vのパルスを印加すればプレーナ状態になり、2ms程度のパルス幅で十数Vから20V程度のパルスを印加すればプレーナ状態からプレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在した状態になって反射率が低下し、反射率の低下量は、パルスの累積時間に関係すると考えられる。
【0023】
そこで、コレステリック液晶表示素子では、第1ステップにおいて書き換える画素にパルス幅数十msの±36Vの初期化(リセット)パルスを印加してプレーナ状態にし、次の第2ステップでは、中間調にする画素に狭いパルス幅の約±20.0Vの階調パルスを印加し、その累積印加時間を中間調のレベルに応じた値にする。言い換えれば、この表示方法は、図2の領域Aを利用して中間調レベルを表示する。
【0024】
上記の説明では、初期化状態がプレーナ状態の場合を説明したが、初期化状態がフォーカルコニック状態で、第1ステップにおいてフォーカルコニック状態にリセットした後、第2ステップで中間調にする画素に狭いパルス幅の約±20.0Vの階調パルスを印加して、プレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在した状態にすることにより中間調を表示することも可能である。なお、以下の説明では、初期化(リセット)状態がプレーナ状態の場合を例として説明を行う。
【0025】
表示素子では、表示材料層の一方の面に互いに平行な複数のスキャン電極を設け、表示材料層の他方の面に前記複数のスキャン電極と交差する互いに平行な複数のデータ電極を設け、スキャン電極とデータ電極の交差部分に画素が形成される。ここでは、スキャン電極をスキャンライン、データ電極をデータラインと称する。表示素子では、コモンドライバがスキャンラインにスキャンパルスを印加し、セグメントドライバがデータラインにデータパルスを印加する。ドライバは、2値出力の汎用STNドライバを使用することが、コストの点からも好ましい。
【0026】
後述するように、第1ステップでは、時間短縮のために、全スキャンラインと全データラインに同時にパルスを印加してリセット動作を行う。第2ステップでは、画素ごとに階調レベルを設定するため、1本のスキャンラインにスキャンパルスを印加している時に、全データラインにデータパルスを印加することにより、1スキャンライン内の画素への電圧パルスの印加が行われる。以下、スキャンパルスを印加するスキャンラインを順次シフトしながら全スキャンラインの画素への電圧パルスの印加が終了する。
【0027】
第2ステップでは、1本のスキャンラインにスキャンパルスに対応する選択スキャン電圧が印加される間、他のスキャンラインには非選択スキャン電圧が印加される。また、階調書込みを行う画素のデータラインにはデータパルスに対応する選択データ電圧が印加され、階調書込みを行わない画素のデータラインには非選択データ電圧が印加される。従って、選択スキャン電圧と選択データ電圧が印加された画素、非選択スキャン電圧と選択データ電圧が印加された画素、選択スキャン電圧と非選択データ電圧が印加された画素、および非選択スキャン電圧と非選択データ電圧が印加された画素が存在することになる。選択スキャン電圧と選択データ電圧が印加された画素のみで反射率(階調)が低下し、他の3種類の画素では反射率(階調)が低下しないように、選択スキャン電圧、非選択スキャン電圧、選択データ電圧および非選択データ電圧を設定する必要がある。
【0028】
コレステリック液晶を利用した表示装置では、プレーナ状態から中間調レベルに変化させるために印加する階調パルスとしてセグメントドライバおよびコモンドライバは、例えば図5の(A)に示すようなパルスを出力する。このようなパルスを印加することにより、画素には図5の(B)に示すような電圧が印加される。なお、正極フェーズと負極フェーズを有するのは、前述の分極を防止するためである。
【0029】
セグメントドライバには、V0として20Vが、V21SおよびV34Sとして10Vが、供給され、ベース電圧は10Vで、正極フェーズ(FR=1)ではV0のパルスが、負極フェーズ(FR=0)では0Vのパルスが、出力される。
【0030】
コモンライバには、V0として20Vが、V21Cとして15Vが、V341Cとして5Vが、供給され、正極フェーズ(FR=1)では、ベース電圧は15Vで0Vのパルスが、負極フェーズ(FR=0)では、ベース電圧は5Vで20Vのパルスが、出力される。
【0031】
図5の(A)のようなパルスが印加されることにより、スキャンラインが選択状態(コモンがオン)で、データラインも選択状態(セグメントがオン)では、正極フェーズ(FR=1)においては20Vが、負極フェーズ(FR=0)では−20Vが印加される。スキャンラインが選択状態(コモンがオン)で、データラインが非選択状態(セグメントがオフ)では、正極フェーズ(FR=1)においては10Vが、負極フェーズ(FR=0)では−10Vが印加される。スキャンラインが非選択状態(コモンがオフン)で、データラインが選択状態(セグメントがオン)では、正極フェーズ(FR=1)においては5Vが、負極フェーズ(FR=0)では−5Vが印加される。スキャンラインが非選択状態(コモンがオフン)で、データラインが非選択状態(セグメントがオフ)では、正極フェーズ(FR=1)においては−5Vが、負極フェーズ(FR=0)では5Vが印加される。
【0032】
従って、選択状態のスキャンラインの各画素に印加される電圧パルスの波形は図6の(A)に示すようになり、非選択状態のスキャンラインの各画素に印加される電圧パルスの波形は図6の(B)に示すようになり、どちらの場合も、選択状態のデータラインの波形を実線で、非選択状態のデータラインの波形を点線で示す。図4の(B)に示すように、パルス幅が2msの電圧パルスの場合、電圧が±20Vでは液晶の状態、すなわち反射率が変化するが、電圧が±10Vでは反射率は変化しないので、上記のような波形であれば、スキャンラインとデータラインの両方がONの場合に、階調パルスによる書き込みが行われ、それ以外の場合には書き込みは行われないことになる。実際にはクロストークの問題があるが、本発明には直接関係しないので、説明は省略する。
【0033】
上記のように、表示装置において実際に印加される電圧パルスは図6に示すような波形であるが、以下の記載では説明を簡単にするために、0Vを中心にして対称な正負のパルスで表す場合がある。また、OFFパルスの電圧は、書き込みが行われないようなレベルに設定されるものとし、パルスの電圧は、ONパルスの電圧を指すものとする。
【0034】
コレステリック液晶による多階調表示方法については各種の駆動方法が提案されている。コレステリック液晶の多階調表示の駆動方法は、ダイナミック駆動とコンベンショナル駆動の2つの方法に分けられる。
【0035】
特許文献1は、ダイナミック駆動法を記載している。しかし、ダイナミック駆動法は、駆動波形が複雑なため、複雑な制御回路およびドライバICを必要とし、パネルの透明電極も低抵抗ものが必要であるため、製造コストが高くなるという問題がある。また、ダイナミック駆動法は、消費電力も大きいという問題がある。
【0036】
非特許文献1は、コンベンショナル駆動法を記載している。非特許文献1は、液晶特有の累積時間を利用し、短いパルスを印加する回数を調整することで、徐々にプレーナ状態からフォーカルコニック状態へ、あるいはフォーカルコニックからプレーナ状態へ準動画レートの比較的高速で駆動する方法を記載している。
【0037】
コンベンショナル駆動法で累積時間を利用して階調を設定する場合、短いパルスの印加回数を調整する方法と、パルス幅Wを異ならせる方法がある。パルス幅を異ならせる方法の方が、短いパルスの印加回数を調整するよりも、消費電力を抑制する上では有利である。さらに、パルス幅とパルスの印加回数の両方でパルス印加の累積時間を変える方法もある。図7はそのような方法における電圧パルスの例を示す図であり、電圧パルスとそれを印加することにより変化する階調状態を示す。
【0038】
図7の(A)は、第1ステップで使用するリセットパルスであり、パルス電圧が±36Vで、比較的大きなパルス幅を有する。このリセットパルスを印加することにより、画素の液晶はプレーナ状態になり、最大の階調状態になる。図7の(B)から(D)は、第2ステップで使用する第1から第3階調パルスであり、それぞれパルス電圧は±20Vであるが、第1から第3階調パルスの順にパルス幅が狭くなる。図7の(B)から(D)のパルスを印加すると、画素内で液晶は一部がプレーナ状態からフォーカルコニック状態に変化して階調が低下し、階調の低下具合は、(B)から(D)になるに従って小さくなる。言い換えれば、(B)から(D)のパルスを印加すると、相対的に低階調、中程度の階調、高階調になる。ここでは、(B)を低階調パルス、(C)を中階調パルス、(D)を高階調パルスと称する。これでは(B)から(D)のパルスのいずれかを印加するかまたはいずれも印加しないというだけでは4階調を表現できるだけであるが、図7に示す3種類のパルスを組み合わせることも可能である。例えば、周期Tをn個合わせて1ライン周期nTとし、各周期Tにおけるパルス幅を選択することにより、多数の階調を表現することが可能である。また、階調パルスの印加を複数のフレームで行い、各フレームで(B)から(D)のパルスのいずれかを印加するかまたはいずれも印加しないという選択を行うことにより、多数の階調を表現することが可能である。
【0039】
以上説明したように、コレステリック液晶表示素子の表示方法は、ツイストネマティック液晶などを使用する通常の液晶表示素子とは大きく異なり、それに応じて駆動方法も大きく異なる。
【0040】
図8は、コレステリック液晶表示素子の駆動シーケンスを説明する図であり、(A)はリセット動作前の状態を示し、(B)はリセット動作後の状態を示し、(C)は表示データを書き込んでいる途中の状態を示す。図示のように、表示素子(パネル)10には、パネル10のスキャンラインを駆動するコモンドライバ28と、パネル10のデータラインを駆動するセグメントドライバ29と、が接続される。図8の(A)に示すようなパネル10に表示されていた画像は、リセット動作を行うことにより、図8の(B)に示すように消去され、画面全体が均一な状態になる。その後、図8の(C)に示すように表示データを書き込む。
【0041】
コレステリック液晶は、表示保持特性(メモリ性)を有しているため、表示装置への書込みを行う場合、書込み前に以前の表示内容を消去するリセット動作が必要である。リセット動作は、図2のVP100以上の幅の広い電圧パルスを印加することで、コレステリック液晶をプレーナ状態にする。
【0042】
図9は、コモンドライバ28およびセグメントドライバ29を、汎用の2値STNドライバで構成した場合のリセット動作における、コモンドライバ28の駆動信号のタイムチャートである。強制OFF信号/DSPOFを”L(0)”にしてドライバ出力をオフにした状態で、入力データDIOを”H(1)”にしてデータ取り込みクロックLP−COMを入力して全ラインを選択状態にする。そして、極性制御信号FRを”1”にして、/DSPOFを”1”に変化させると、全スキャンラインにリセット電圧が出力される。同時に、セグメントドライバ29からも全データラインにリセット電圧が出力され、全画素に正極フェーズのリセット電圧が印加される。所定時間(数十ms)後、FRを”0”に変化させると、全スキャンラインおよび全データラインにリセット電圧が出力され、全画素に負極フェーズのリセット電圧が印加される。
【0043】
図10は、リセット動作時に、コモンドライバ28およびセグメントドライバ29が出力する電圧と、画素への印加電圧を示す図である。ここでは、±36Vのリセット電圧パルスが印加される。
【0044】
リセット動作の消費電力は、パネルサイズに比例するため、ライン数の多い大型の表示装置では、リセット動作は大きな消費電力を必要とした。特に、突入電流が大きいと電源回路にも大きな負担となるだけでなく、駆動能力の高いドライバを使用する必要があり、その分コスト増となる。上記のように、リセット動作で全画素に同時にリセット電圧パルスを印加する場合、突入電流が非常に大きくなるという問題がある。
【0045】
特許文献2は、各スキャンラインに印加するリセット電圧パルスの位相をずらすことにより、突入電流を低減することを記載している。
【0046】
特許文献3は、同時にリセット電圧パルスを印加するスキャンラインの本数の少なくすることにより、およびリセット電圧パルスの位相をずらすことにより、突入電流を低減することを記載している。
【0047】
【特許文献1】特開2001−228459号公報
【特許文献2】特開2001−100176号公報
【特許文献3】特開2005−266163号公報
【非特許文献1】Y.-M. Zhu, D-K. Yang, Cumulative Drive Schemes for Bistable Reflective Cohlesteric LCDs, SID 98 DIGEST, pp798-801, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0048】
特許文献2および3に記載された技術により突入電流が低減されるが、ドットマトリクス液晶表示装置、特に電子ペーパーでは、突入電流を更に低減することが求められている。
【0049】
特許文献2および3は、同時にリセット電圧パルスを印加するスキャンラインの本数を少なくすること、およびリセット電圧パルスの位相をずらすこと、を記載しているが、各画素には正極フェーズと負極フェーズのリセットパルスを連続して印加しており、極性反転は一方の極性(例えば+)に充電された電荷を放電し、その後他方の極性(例えば−)に充電するため、電源にとっては2倍の充電量になるため、電源負荷が大きくなるという問題がある。
【0050】
本発明は、突入電流が低く、電源負荷が小さいドットマトリクス液晶表示装置の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0051】
ここに開示するドットマトリクス型液晶表示装置は、表示データを書き込む前に、第1極性のリセット電圧を印加するスキャンラインの本数を所定本数まで徐々に増加させた後第1極性のリセット電圧の印加を停止し、第2極性のリセット電圧を印加するスキャンラインの本数を所定本数まで徐々に増加させた後第2極性のリセット電圧の印加を停止することにより、表示素子を初期状態にするリセット動作を行う。
【0052】
開示のドットマトリクス型液晶表示装置では、第1および第2極性のリセット電圧をそれぞれ印加するスキャンラインの本数を所定本数まで徐々に増加させるため、充電量が分散されて突入電流を低くできる。さらに、第1極性のリセット電圧の印加と第2極性のリセット電圧の印加は別々に行われるため、電源負荷は第1および第2極性のリセット電圧の印加を連続して行う場合に比べて1/2である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図11は、実施形態で使用する表示素子10の構成を示す図である。図11に示すように、この表示素子10は、見る側から順番に、青(ブルー)用パネル10B、緑(グリーン)用パネル10G、および赤(レッド)用パネル10Rの3枚のパネルが積層されており、レッド用パネル10Rの下側には光吸収層17が設けられている。パネル10B、10Gおよび10Rは、同じ構成を有するが、パネル10Bは反射の中心波長が青色(約480nm)、パネル10Gは反射の中心波長が緑色(約550nm)、パネル10Rは反射の中心波長が赤色(約630nm)になるように、液晶材料およびカイラル材が選択され、カイラル材の含有率が決定されている。パネル10B、10Gおよび10Rは、青層用制御回路18B、緑層用制御回路18Gおよび赤層用制御回路18Rで、それぞれ駆動される。
【0054】
図12は、図11の表示素子10を構成する3枚のパネル10B、10G、10Rのうちの1枚のパネル10Aの基本構成を示す図である。3枚のパネル10B、10G、10Rは、反射波長以外はほぼ共通の構成を有する。実施形態で使用するパネルについて、図12を参照して説明する。
【0055】
図12に示すように、表示素子10Aは、上側基板11と、上側基板11の表面に設けられた上側電極層14と、下側基板13の表面に設けられた下側電極層15と、シール材16と、を有する。上側基板11と下側基板13は、電極が対向するように配置され、間に液晶材料を封入した後シール材16で封止される。なお、液晶層12内にスペーサが配置されるが図示は省略している。上側電極層14と下側電極層15の電極には、駆動回路18から電圧パルス信号が印加され、それにより液晶層12に電圧が印加される。液晶層12に電圧を印加して、液晶層12の液晶分子をプレーナ状態またはフォーカルコニック状態にして表示を行う。前述のように、この表示素子10Aは、メモリ性を有しており、プレーナ状態およびフォーカルコニック状態は、パルス電圧の印加を停止した後も維持される。
【0056】
上側基板11と下側基板13は、いずれも透光性を有しているが、パネル10Rの下側基板13は不透光性でもよい。透光性を有する基板としては、ガラス基板があるが、ガラス基板以外にも、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPC(ポリカーボネート)などのフィルム基板を使用してもよい。
【0057】
上側電極層14と下側電極層15の電極の材料としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO: Indium Tin Oxide)が代表的であるが、その他インジウム亜鉛酸化物(IZO: Indium Zic Oxide)などの透明導電膜を使用することが可能である。
【0058】
上側電極層14の透明電極は、上側基板11上に互いに平行な複数の帯状の上側透明電極として形成され、下側電極層15の透明電極は、下側基板13上に互いに平行な複数の帯状の下側透明電極として形成されている。そして、上側基板11と下側基板13は、基板に垂直な方向から見た時に、上側電極と下側電極が交差するように配置され、交差部分に画素が形成される。電極上には絶縁性のある機能膜が形成される。機能膜は、液晶表示素子の電極間の短絡を防止したり、ガスバリア層として液晶表示素子の信頼性を向上させる機能を有する薄膜である。この薄膜が厚いと駆動電圧を高くする必要があり、汎用STNドライバで駆動回路を構成するのが難しくなる。逆に、薄膜がないとリーク電流が流れるため、消費電力が増大するという問題を生じる。ここでは、薄膜は比誘電率が約5であり、液晶よりもかなり低いため、薄膜の厚さは約0.3μm以下とするのが適している。
【0059】
なお、この絶縁性薄膜は、SiO2の薄膜、あるいは配向安定化膜として知られているポリイミド樹脂、アクリル樹脂などの有機膜で実現できる。
【0060】
上記のように、液晶層12内にスペーサが配置され、上側基板11と下側基板13の間隔、すなわち液晶層12の厚さを一定にする。スペーサは、一般に樹脂製または無機酸化物製の球体であるが、基板表面に熱可塑性の樹脂をコーティングした固着スペーサを使用することも可能である。このスペーサによって形成されるセルギャップは3.5μm〜6μmの範囲が適正である。セルギャップがこの値より小さいと反射率が低下して暗い表示になり、逆のこの値より大きいと駆動電圧が上昇して汎用ドライバICによる駆動が困難になる。
【0061】
液晶層12を形成する液晶組成物は、ネマティック液晶混合物にカイラル材を10〜40重量%(wt%)添加したコレステリック液晶である。ここで、カイラル材の添加量は、ネマティック液晶成分とカイラル材の合計量を100wt%とした時の値である。
【0062】
ネマティック液晶としては、従来から公知の各種のものを使用可能であるが、誘電率異方性(Δε)が15〜50の範囲の液晶材料であることが望ましい。誘電率異方性がこの範囲より低すぎると、駆動電圧が高くなってしまい、逆にこの範囲より高すぎると駆動電圧自体は低下するが比抵抗が小さくなり、特に高温時の消費電力が増大し、素子としての安定性や信頼性が低下し、画像欠陥、画像ノイズが発生しやすくなる。誘電率異方性が15以上であれば、駆動電圧が比較的低くなり、20以上であれば、使用可能なカイラル材の選択範囲が広くなる。
【0063】
また、屈折率異方性(Δn)は、0.18〜0.24であることが望ましい。屈折率異方性が、この範囲より小さいと、プレーナ状態の反射率が低くなり、明るさの不足した暗い表示となり、この範囲より大きいと、フォーカルコニック状態での散乱反射が大きくなるため、色純度とコントラストが不足したぼやけた表示となってしまうのに加えて、粘度も高くなり、応答速度が低下する。粘度は低い方が低温時の電圧上昇やコントラスト低下を抑制できる。
【0064】
図13は、実施形態の表示装置の全体構成を示す図である。表示素子10は、A4判XGA仕様で、1024×768画素を有する。電源21は、例えば3V〜5Vの電圧を出力する。昇圧部22は、DC−DCコンバータなどのレギュレータにより、電源21からの入力電圧を36V〜40Vに昇圧する。この昇圧レギュレータは、専用ICが広く使用されており、そのICにはフィードバック電圧を設定することにより、昇圧電圧を調整する機能を有している。従って、抵抗による分圧などにより生成した複数の電圧を選択してフィードバック端子に供給するように構成することで、昇圧電圧を変化させることが可能である。
【0065】
電圧切替部23は、抵抗分割などにより各種の電圧を生成する。電圧切替部23におけるリセット電圧と階調書込み電圧のスイッチングには、高耐圧のアナログスイッチを用いてもよいが、トランジスタによる単純なスイッチング回路を使用することも可能である。電圧安定部24は、電圧切替部23から供給される各種の電圧を安定化させるために、オペアンプのボルテージフォロア回路を使用することが望ましい。オペアンプは、容量性負荷に対して強い特性を有するものを使用するのが望ましい。なお、オペアンプに接続する抵抗を切り替えることにより増幅率を切り替える構成が広く知られており、この構成を使用すれば、電圧安定部24から出力する電圧を容易に切り替えることが可能である。
【0066】
原振クロック部25は、動作の基本となる基本クロックを発生する。分周部26は、基本クロックを分周して、後述する動作に必要な各種クロックを生成する。
【0067】
制御回路27は、基本クロック、各種クロックおよび画像データDに基づいて制御信号を生成して、コモンドライバ28およびセグメントドライバ29に供給する。制御回路27は、マイクロコンピュータやFPGAなどで実現される。コモンドライバ28およびセグメントドライバ29は、3枚のパネル10B、10G、10Rをそれぞれ独立に駆動する。
【0068】
コモンドライバ28は各パネルの1024本のスキャンラインを駆動し、セグメントドライバ29は768本のデータラインを駆動する。RGBの各画素に与える画像データが異なるため、セグメントドライバ29は各データラインを独立して駆動する。本実施形態では、ドライバICは、汎用の2値出力のSTNドライバを使用した。利用可能な汎用STNドライバは、様々なものが使用可能である。
【0069】
セグメントドライバ29へ入力する画像データは、フルカラーの原画像を誤差拡散法によりRGB各16階調の4096色のデータに変換した、4ビットのデータD0−D3である。この階調変換は、高い表示品質を得られる方法が好ましく、誤差拡散法のほかにブルーノイズマスク法などが使用できる。
【0070】
図14は、3枚のパネル10B、10G、10Rを駆動するコモンドライバ28とセグメントドライバ29を汎用STNドライバを使用して構成した時の回路図である。図示のように、青色パネル10Bのスキャンラインを駆動するコモンドライバ28Bは、2個のドライバIC28B−1および28B−2で構成され、データラインを駆動するセグメントドライバ29Bは、1個のドライバIC29Bで構成される。他のパネルについても同様である。汎用STNドライバICを使用した駆動回路は広く知られており、図8および図9で説明したのでこれ以上の説明は省略する。また、表示データの書込み処理についても広く知られており、開示の技術は書込み処理の方法に限定されないので、書込み処理についての説明も省略する。
【0071】
図15は、第1の実施形態の表示装置におけるリセット動作を説明する図である。パネル10における黒部分はコモンドライバ28からスキャンパルスが印加されている選択ラインを示し、白部分はスキャンパルスが印加されていない非選択ラインを示す。図16は、図15のリセット動作時にコモンドライバに印加される制御信号と、パネル10のスキャンラインに印加されるスキャンパルスを示す図である。
【0072】
コモンドライバ28およびセグメントドライバ29には、図10に示した電圧が供給されている。図示のように、FR=1の正極性シーケンスでは、FRを”1”にした後、DIOおよび/DSPOFを選択状態を示す値”1”にし、LP−COMにクロック信号を入力する。クロック信号の立下りに同期してデータが取り込まれるので、コモンドライバ28の1番目の出力ラインにはクロックの最初の立下りで正極性のリセット電圧(0V)が出力される。この時、セグメントドライバ29は、正極性のリセット電圧(36V)を出力しているので、1ライン目のスキャンラインSP1に正極性のリセットパルス電圧36Vが印加される。なお、コモンドライバ28のほかの出力ラインには非選択電圧(36V)が出力されているので、2ライン目以降のスキャンラインSP2−SPnの画素には、0Vが印加される。
【0073】
次のクロック信号の立下りに同期して、コモンドライバ28の2番目の出力ラインにもリセット電圧が出力されて、1ライン目と2ライン目のスキャンラインSP1とSP2の画素に正極性のリセットパルス電圧36Vが印加される。以下、図15に示すように選択状態のスキャンライン数が徐々に増加し、全スキャンラインが選択状態になる。これにより、全画素に正極性のリセットパルス電圧36Vが印加される。
【0074】
次に、DIOを非選択状態を示す値”0”にすると、コモンドライバ28の1番目の出力ラインは非選択状態になり、36Vを出力するので、1ライン目のスキャンラインSP1へ0Vが出力される。以下、図15に示すように非選択状態のスキャンライン数が徐々に増加し、全スキャンラインが非選択状態になる。この時、全画素に0Vが印加される。
【0075】
次に、図16に示すように、FRを”0”に、DIOを”1”にして負極性シーケンスを開始する。DIOが”1”なので、クロック信号の立下りに同期して、コモンドライバ28の1番目の出力ラインは選択状態になり、負極性のリセット電圧(36V)を出力する。この時、セグメントドライバ29は、負極性のリセット電圧(0V)を出力しているので、1ライン目のスキャンラインSP1に負極性のリセットパルス電圧−36Vが印加される。なお、2ライン目以降のスキャンラインSP2−SPnの画素には、0Vが印加される。以下、図15に示すように選択状態のスキャンライン数が徐々に増加し、全スキャンラインが選択状態になる。これにより、全画素に負極性のリセットパルス電圧−36Vが印加される。
【0076】
次に、DIOを非選択状態を示す値”0”にすると、コモンドライバ28の1番目の出力ラインは非選択状態になり、0Vを出力するので、1ライン目のスキャンラインSP1の画素に0Vが出力される。以下、図15に示すように非選択状態のスキャンライン数が徐々に増加し、全スキャンラインが非選択状態になる。この時、全画素に0Vが印加される。
【0077】
以上のようにして、パネル10の全面がリセットされる。
【0078】
図17および図18は、実施形態におけるリセット動作の原理を説明する図である。コレステリック液晶の電子ペーパーは、画素が容量性負荷であるため、図17では、画素を容量Cとして示している。コモンドライバ28により駆動されるスキャンラインとセグメントドライバ29により駆動されるデータラインの交差部に対応して画素が形成され、画素はスキャンラインとデータラインとの間に接続される容量Cとして示される。
【0079】
図18の(A)に示されるように、1番目のスキャンラインが選択状態になると、0Vが印加される状態になり、36Vが印加されるデータラインとスキャンラインの間に接続される容量Cが充電される。ほかのスキャンラインは非選択状態で36Vが印加されるので、データラインとスキャンラインは共に36Vであり、容量Cは充電されない。このように、充電が行われるのは1スキャンライン分の画素なので、充電電流は小さい。
【0080】
1番目のスキャンラインの画素の充電が終了すると、充電電流は減少する。この状態で2番目のスキャンラインも選択状態になると、図18の(B)に示されるように、2番目のスキャンラインの画素に充電が行われる。この場合も、充電が行われるのは1スキャンライン分の画素なので、充電電流は小さい。以下、選択状態のスキャンラインを増加させながら、全スキャンラインの画素の充電を行うが、同時に充電するのは1スキャンライン分の画素なので、充電電流は小さい。
【0081】
図18の(C)は、充電電流Imaxの変化を示す図である。図示のように、Imaxは、一旦所定値まで上昇した後、1スキャンライン分の画素の合計容量と抵抗の積を時定数として減衰するパルス形状を示す。ここで、パルスの間隔Δtは、選択状態のスキャンラインを1ライン増加させる時間間隔である。充電電流を小さくするには、パルスの間隔Δtが、充電電流のパルスがほぼゼロに減衰するまでの時間より長いことが望ましい。
【0082】
非選択状態のスキャンラインの本数を増加させる場合には容量Cから放電電流が流れるが、放電が行われるのは1スキャンライン分の画素なので、放電電流は小さい。
【0083】
また、負極性の場合には、コモンドライバ28とセグメントドライバ29の出力する電圧が逆になるだけであり、充電電流および放電電流は小さい。
【0084】
第1実施形態では、負極性の充電および放電は、パネル全面で正極性の充電および放電が行われた後に行われるので、特許文献3のように1ラインずつ行う場合に比べて、電源負荷は小さい。
【0085】
なお、上記の説明では、選択状態または非選択状態に変化させるスキャンラインの本数は1本ずつであったが、ドライバの駆動性能および電源負荷に余裕があれば、変化させるスキャンラインの本数を複数本、例えば2本のスキャンラインを選択状態または非選択状態に変化させるようにしてもよい。これにより、充電電量および放電電流は、1本ずつ変化させる場合に比べて増加するが(n本であればn倍になるが)、リセット動作の時間を短縮できる。
【0086】
図19は、第2の実施形態の表示装置におけるリセット動作を説明する図である。図20は、図19のリセット動作時にコモンドライバに印加される制御信号を示す図である。
【0087】
第1の実施形態の表示装置においては、全スキャンラインを選択状態にした後、非選択状態にする場合、すなわち放電させる場合も、非選択状態のスキャンラインの本数を徐々に増加させて放電を行った。これにより放電電流を小さくできるが、現状では放電電流は無駄に消費されるだけで、全画素の放電を全画素同時に行っても電源負荷にはならない。そこで、第2の実施形態の表示装置では、正極性および負極性の充電は第1の実施形態と同様に行うが、放電は図8および図9で説明したのと同様に全画素同時に行う。
【0088】
図20に示すように、正極性シーケンスの前半では第1の実施形態と同様に、FR、DIOおよびDSPOFを”1”にし、LP−COMを供給する。これにより、図19に示すように、第1の実施形態と同様に、正極性の選択状態のスキャンラインの本数が徐々に増加し、全スキャンラインが選択状態になる。LP−COMの供給を停止し、この状態を所定期間(数十ms)維持する。そして、DSPOFおよびDIOを”0”にして、LP−COMとして周波数の高いクロックを供給して、スキャンドライバの内部の出力を全ライン非選択状態にした上で、DSPOFを”1”にして、全スキャンラインを非選択状態にする。負極性シーケンスについても同様で、第1の実施形態と同様に負極性の選択状態のスキャンラインの本数を徐々に増加させ、全スキャンラインが選択状態になった後、DSPOFを”0”にして、スキャンドライバの内部の出力を全ライン非選択状態にした上で、DSPOFを”1”にして、全スキャンラインを非選択状態にする。
【0089】
図21は、第3の実施形態の表示装置におけるリセット動作を説明する図である。
【0090】
第1および第2の実施形態では、全スキャンラインが選択状態になるまで、選択状態のスキャンラインの本数を徐々に増加させたが、図21に示すようにスキャンラインを複数のグループ(ここでは4グループ)に分割し、各グループごとに第1または第2の実施形態のリセット動作を行うことも可能である。第3の実施形態では、正極性と負極性のパルスを印加する時間間隔が短くなるので、分極しやすい液晶材料をしようする場合などに有利である。
【0091】
以上、実施形態を説明したが、各種の変形例が可能であるのは言うまでもない。
【0092】
例えば、図13に示した3層構造のカラーコレステリック液晶表示素子の例を説明したが、開示の技術は単層のコレステリック液晶表示素子、2層のコレステリック液晶表示素子にも同様に適用可能である。また、各層の駆動信号に、特許文献2および3に記載された位相をずらす構成を適用することも可能である。
【0093】
また、リセット動作終了後に画像データを書き込む方法は、どのような方法でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、コレステリック液晶の双安定状態(プレーナ状態とフォーカルコニック状態)を説明する図である。
【図2】図2は、パルス電圧によるコレステリック液晶の状態変化を説明する図である。
【図3】図3は、コレステリック液晶に印加する大きな電圧と広いパルス幅のパルスによる反射率の変化を説明する図である。
【図4】図4は、コレステリック液晶に印加する中間電圧と狭い2種類のパルス幅のパルスによる反射率の変化を説明する図である。
【図5】図5は、階調パルス印加時のドライバ出力電圧と液晶印加電圧を示す図である。
【図6】図6は、実際に印加される対称パルスの例を示す図である。
【図7】図7は、液晶に印加する初期化パルス、パルス幅の異なる複数の階調パルスの例を示す図である。
【図8】図8は、従来の全面プレーナリセット処理を説明する図である。
【図9】図9は、従来の全面プレーナリセット処理におけるコモンドライバの信号を示すタイムチャートである。
【図10】図10は、全面プレーナリセット処理におけるドライバ出力電圧と印加電圧を示す図である。
【図11】図11は、実施形態のカラー表示装置のコレステリック液晶素子の積層構造を示す図である。
【図12】図12は、実施形態のカラー表示装置の1枚のコレステリック液晶素子の構造を示す図である。
【図13】図13は、実施形態のカラー表示装置の概略構成を示す図である。
【図14】図14は、実施形態において汎用STNドライバで構成した駆動回路の構成を示す図である。
【図15】図15は、第1の実施形態におけるリセット動作を説明する図である。
【図16】図16は、第1の実施形態のリセット動作におけるコモンドライバの信号を示すタイムチャートである。
【図17】図17は、第1の実施形態におけるリセット動作を説明するためのパネルの等価回路を示す図である。
【図18】図18は、第1の実施形態におけるリセット動作を等価回路を使用して説明する図である。
【図19】図19は、第2の実施形態におけるリセット動作を説明する図である。
【図20】図20は、第2の実施形態のリセット動作におけるコモンドライバの信号を示すタイムチャートである。
【図21】図21は、第3の実施形態におけるリセット動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0095】
10 表示素子
11 上側基板
12 液晶層
13 下側基板
14 上側電極層
15 下側電極層
17 吸光層
18 制御回路
21 電源
22 昇圧部
23 電圧切替部
24 電圧安定部
27 制御回路
28 コモンドライバ
29 セグメントドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリ性液晶層、複数のスキャンラインおよび複数のデータラインを有するドットマトリクス型液晶表示素子と、
前記複数のスキャンラインを駆動するコモンドライバと、
前記複数のデータラインを駆動するセグメントドライバと、
前記コモンドライバおよび前記セグメントドライバを制御する制御回路と、を備え、
前記制御回路は、前記コモンドライバおよび前記セグメントドライバを、表示データを書き込む前に、第1極性のリセット電圧を印加する前記スキャンラインの本数を所定本数まで順次増加させた後、前記第1極性のリセット電圧の印加を停止させ、第2極性のリセット電圧を印加する前記スキャンラインの本数を所定本数まで順次増加させた後、前記第2極性のリセット電圧の印加を停止させるように制御することにより、前記ドットマトリクス型液晶表示素子を初期状態にすることを特徴とするドットマトリクス型液晶表示装置。
【請求項2】
前記メモリ性液晶層は、コレステリック相を形成する液晶層であることを特徴とする請求項1に記載のドットマトリクス型液晶表示装置。
【請求項3】
前記第1および第2極性のリセット電圧の印加停止は、前記第1および第2極性のリセット電圧を印加する前記スキャンラインの本数を0本まで順次減少させることで行われることを特徴とする請求項1または2に記載のドットマトリクス型液晶表示装置。
【請求項4】
前記第1および第2極性のリセット電圧の印加停止は、前記所定数の前記スキャンラインへの前記第1および第2極性のリセット電圧の印加を同時に停止することで行われることを特徴とする請求項1または2に記載のドットマトリクス型液晶表示装置。
【請求項5】
前記第2極性のリセット電圧を印加する前記スキャンラインの本数を順次増加する時間間隔は、1度に増加される本数の前記スキャンラインの画素の充電時間より長い時間ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のドットマトリクス型液晶表示装置。
【請求項6】
メモリ性液晶層、複数のスキャンラインおよび複数のデータラインを有するドットマトリクス型液晶表示素子に表示データを書き込む前に、前記ドットマトリクス型液晶表示素子に第1極性のリセット電圧と第2極性のリセット電圧を印加して前記ドットマトリクス型液晶表示素子を初期状態にするドットマトリクス型液晶表示素子のリセット方法であって、
前記第1極性のリセット電圧を印加する前記スキャンラインの本数を所定本数まで順次増加させ、
前記第1極性のリセット電圧の印加を停止し、
前記第2極性のリセット電圧を印加する前記スキャンラインの本数を所定本数まで順次増加させ、
前記第2極性のリセット電圧の印加を停止する、ことを特徴とするドットマトリクス型液晶表示素子のリセット方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−180887(P2009−180887A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19021(P2008−19021)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】