説明

ドライエッチング残渣用洗浄液および洗浄法

【課題】
本発明は、半導体集積回路に用いられる半導体素子の配線工程における、ドライエッチング後に残存する強固に固着したエッチング残渣を短時間で除去し、かつ、銅配線素材や絶縁膜材料等を酸化または腐食しない洗浄液、および洗浄法を提供する。
【解決手段】
第4級アンモニウム水酸化物0.01〜15重量%と水溶性有機溶媒40〜95重量%を含んだ洗浄液を用いて洗浄することにより、ドライエッチング後に残存する強固に固着したエッチング残渣を短時間で除去でき、かつ、銅配線素材や絶縁膜材料等の酸化または腐食することがなかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子や表示素子の製造工程において、被処理物表面の付着物を除去する洗浄液および洗浄法に関し、詳しくはドライエッチングの後に被処理物表面に生じる強固なエッチング残渣を被処理物上の金属配線、層間絶縁膜などの半導体基体にダメージを与えずに除去する洗浄液および洗浄法に関する。
【背景技術】
【0002】
高集積化されたLSIなどの半導体素子の製造方法としては、一般にリソグラフィー法が使用されている。このリソグラフィー法により半導体素子を製造する場合には、通常シリコンウェハーなどの基板上に、導電用配線素材となる金属膜などの導電薄膜や配線間の絶縁を行う目的のシリコン酸化膜などの層間絶縁膜を形成した後、その表面にフォトレジストを均質に塗布して感光層を設け、これに選択的露光および現像処理を施して所望のレジストパターンを形成する。次いでこのレジストパターンをマスクとして下層部の薄膜に選択的エッチング処理を施すことにより該薄膜に所望のレジストパターンを形成する。そして、このレジストパターンを完全に除去するという一連の工程がとられている。
【0003】
近年、半導体素子は高集積化が進み、パターン加工寸法の超微細化が必要となってきている。これに伴い上記選択的エッチング処理においてはドライエッチング法が主流となってきている。ドライエッチング処理においては、形成されたパターン周辺部に、ドライエッチングガス、レジスト、被加工膜およびドライエッチング装置内の処理室部材などに起因する残渣(以下、エッチング残渣と称する)が生成することが知られている。このエッチング残渣が、特にヴィアホール内部およびその周辺部に残存すると、高抵抗化を招いたり、電気的に短絡が生じたりするなどの好ましくない事態を招来する。
【0004】
このように回路の微細化が進んできたため、配線素材も従来多用されてきたアルミニウムを主成分とする素材では抵抗が高すぎ、回路を指定の速度で動作させることが困難となって来たため銅単体の利用が高まりつつある。また、微細化が進むと配線間の寄生容量の効果を無視できなくなるという問題が生じる。この問題を回避するために、誘電率の小さい層間絶縁膜(以下、Low−k材料と称する)を使用する場合が多く見られる。微細化の進展に伴い採用されるこれらの配線素材にダメージを与えることなくエッチング残渣を除去することが、高品質の半導体素子を得るために極めて重要な課題となってきている。
【0005】
これらの配線素材に対応した洗浄液として、フッ化アンモニウム、極性有機溶剤、水およびエポキシポリアミドからなる洗浄液(特許文献1参照)やフッ素化合物、有機アミン、含窒素カルボン酸またはイミン、金属キレート剤および水からなる洗浄液(特許文献2参照)などのフッ素化合物と有機溶剤を含んだ洗浄剤やフッ素化合物、ビニルカルボン酸、水からなる洗浄液(特許文献3参照)などのフッ素化合物を含んだ洗浄液や脂肪族ポリカルボン酸及びその塩と還元性化合物及びその塩からなる洗浄液(特許文献4参照)などのシュウ酸に代表される脂肪族ポリカルボン酸を含んだ洗浄液などが従来提案されている。また、本発明とは目的が異なるが同じ半導体素子の洗浄液として第4級アンモニウム水酸化物、水溶性有機溶剤、水からなる洗浄液(特許文献5、6参照)がレジストや犠牲層を洗浄する目的で提案されている。
【0006】
Low−k材料は低誘電化を進めた結果より化学的に脆弱になってきており、近年多く見られるSiO2に炭素を導入したLow−k材料は特にダメージを受けやすい。フッ素化合物を含んだ洗浄液ではこのようなLow−k材料に対してダメージを与えてしまい適用できない。また、フッ素化合物を含んでいない脂肪族ポリカルボン酸を含んだ洗浄液では、より強固となっているエッチング残渣、特にLow−k材料成分であるケイ素を含んだエッチング残渣を除去することは困難である。特許文献5、6に記載されているレジストや犠牲層の洗浄液は第4級アンモニウム水酸化物として2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシドを用いた場合でも効果があるとされているが、より強固となっているエッチング残渣、特にLow−k材料成分であるケイ素を含んだエッチング残渣に対しては除去能力が不充分である。
そこで、配線素材にダメージを与えることなくエッチング残渣を完全に除去できるような洗浄液が強く要望されている。
【特許文献1】特開2002−289569号公報
【特許文献2】特表2005-502734号公報
【特許文献3】特開2003-35963号公報
【特許文献4】特開2003-167360号公報
【特許文献5】特開2001-22096号公報
【特許文献6】特開2004-103771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、半導体集積回路に用いられる半導体素子の配線工程における、ドライエッチング後に残存する強固に固着したエッチング残渣を短時間で除去でき、かつ、銅配線素材や絶縁膜材料等を酸化または腐食しない洗浄液及びそれを用いた洗浄法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第4級アンモニウム水酸化物0.01〜15重量%と水溶性有機溶媒50〜90重量%を含んだ水溶液であり、金属配線が施された半導体素子または表示素子を洗浄することにより配線素材にダメージを与えることなくエッチング残渣を完全に除去できることを見出し本発明に至った。すなわち本発明は、以下のとおりである。
1. 銅単体又は銅とバリアメタルの積層構造を有する金属配線が施された半導体素子の絶縁材料がSiOおよびSiOに炭素を導入した半導体素子の配線工程における、ドライエッチング後に残存するエッチング残渣の洗浄液であって、第4級アンモニウム水酸化物0.01〜15重量%と水溶性有機溶媒40〜95重量%を含んだ水溶液であることを特徴とする半導体素子の洗浄液。
2. 前記第4級アンモニウム水酸化物が水酸化テトラメチルアンモニウムおよび/または水酸化テトラエチルアンモニウムである第1項記載の洗浄液。
3. 前記水溶性有機溶媒が、イソプロピルアルコール、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジメチルスホキシド、又は2−ピロリドンである第1項記載の洗浄液。
4. さらに金属配線の防食剤を含有する第1〜3項の何れか1項に記載の洗浄液。
5. 第1〜4項の何れか1項に記載の洗浄液を用いることを特徴とする金属配線の施された半導体素子または表示素子の洗浄法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗浄液を使用することにより半導体基板上の強固に固着したエッチング残渣を短時間に容易に除去でき、その際、配線材料を全く腐食せずLow−k材料にダメージを与えずに微細加工が可能となり、高精度、高品質の回路配線を製造することができる。さらに、本発明の洗浄液による洗浄工程後のリンス液としてアルコールのような有機溶剤を使用する必要がなく、水のみでリンスすることができるという特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用される第4級アンモニウム水酸化物は、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムであり、洗浄液中の濃度は通常0.01〜15重量%であり、好ましくは0.05〜10重量%である。第4級アンモニウム水酸化物の濃度が0.01重量%未満の場合、Low-k材料成分であるケイ素を含んだエッチング残渣に対して除去能力が不充分となり、15重量%超の場合、Low-k材料や配線材料である銅にダメージを与える。
【0011】
本発明で用いられる水溶性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;アセトン等のケトン類;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル等のニトリル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物;ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類が挙げられる。本洗浄液はアルカリ性であるので、アルカリ性溶液中で変性しにくい有機溶剤が望ましい。具体的にはイソプロピルアルコール、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジメチルスルホキシド、2-ピロリドンが特に好適に使用される。これらの水溶性有機溶剤は1種類もしくはそれ以上の混合物として用いられ、その総量として40〜95重量%の濃度範囲で使用される。好ましくは50〜95重量%で、更に好ましくは60〜95重量%である。水溶性有機溶剤の濃度が40重量%未満の場合、ケイ素を含んだエッチング残渣に対して除去能力が不充分となるだけでなく配線材料である銅に対してダメージを与える。水溶性有機溶剤の濃度が95重量%超の場合、ケイ素を含んだエッチング残渣に対して除去能力が不充分となる。
【0012】
本洗浄液の金属配線腐食防止性をさらに向上させるために、腐食防止剤を添加しても良い。腐食防止剤としては、特に制限はなく、リン酸系キレート、カルボン酸系キレート、アミン系キレート、オキシム系キレート、アセチレン系キレート等のキレート化合物、芳香族ヒドロキシ化合物、トリアゾール化合物、糖アルコール及びこれらの塩等、各種のものを使用することができる。キレート化合物としては、1、2−プロパンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヒドロキシエタンホスホン酸等のリン酸系キレート化合物;エチレンジアミン四酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ニトリロ三酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等のカルボン酸系キレート化合物;ビピリジン、テトラフェニルポルフィリン、フェナントロリン、2、3−ピリジンジオール等のアミン系キレート化合物;ジメチルグリオキシム、ジフェニルグリオキシム等のオキシム系キレート化合物;フェニルアセチレン、2、5−ジメチル−3−へキシン−2、5−ジオール等のアセチレン系キレート化合物等が挙げられる。芳香族ヒドロキシ化合物として、具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、ピロカテコール、t-ブチルカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、 1、2、4−ベンゼントリオール、サリチルアルコール、p-ヒドロキシベンジルアルコール、o−ヒドロキシベンジルアルコール、p−ヒドロキシフェネチルアルコール、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、ジアミノフェノール、アミノレゾルシノール、p−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、2、4−ジヒドロキシ安息香酸、2、5−ジヒドロキシ安息香酸、3、4−ジヒドロキシ安息香酸、3、5−ジヒドロキシ安息香酸、没食子酸等があげられる。トリアゾール化合物としては、1、2、4−トリアゾール、ベンゾトリアゾール、アミノトリアゾール、アミノテトラゾール等があげられる。糖アルコールとしてはソルビトール、キシリトール、パラチニット等が例としてあげられる。これらの腐食防止剤は単独、又は2種以上を組み合わせて配合できる。腐食防止剤の濃度は、好ましくは0.001〜10重量%、より好ましくは0.005〜5重量%である。
【0013】
本発明の洗浄液には、所望により本発明の目的を損なわない範囲で従来から洗浄液に使用されている添加剤を配合してもよい。
本発明の洗浄法を実施する際の温度は、20〜50℃の範囲であり、エッチングの条件や使用される半導体基体により適宜選択すればよい。
【0014】
本発明の洗浄液を使用する半導体素子および表示素子は、シリコン、非晶質シリコン、ポリシリコン、ガラスなどの基板材料;酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン及びこれらの誘導体などの絶縁材料;チタン、窒化チタン、タンタル、窒化タンタルなどのバリア材料;銅、タングステン、チタン-タングステン、アルミニウム、アルミニウム合金、クロム、クロム合金などの配線材料;ガリウム-砒素、ガリウム-リン、インジウム-リン等の化合物半導体;クロム酸化物などの酸化物半導体などを含む。
【0015】
本発明の洗浄法は、必要に応じて超音波を併用することができる。
本発明の洗浄法により、半導体基体上のエッチング残渣を除去した後のリンス液としては、アルコールのような有機溶剤を使用する必要はなく、水でリンスするだけで十分である。
【実施例】
【0016】
次に実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によりなんら制限されるものではない。
実施例1〜5および比較例1〜4
図1に下層銅配線体1上にCVD法により炭化シリコン膜2とLow−k膜3を順に堆積させた後、レジストを塗布し通常のフォト技術を用いてレジストを加工し、その後ドライエッチング技術を使用して前記Low−k膜と炭化シリコン膜を所望のパターンにエッチング加工し、残存したレジストを除去した半導体素子の一部の断面を示した。側壁にエッチング残渣4が残存している。
上記銅回路素子を表−1および2で示した洗浄液を用いて所定の条件で洗浄した後、超純水でリンスして乾燥した。しかる後に、走査型電子顕微鏡(SEM)で表面状態を観察し、エッチング残渣の除去性、銅配線体の腐食およびLow−k材料のダメージについて下記の判断基準に従って評価した。
表-1に示したように、本発明の洗浄液および洗浄法を適用した実施例1〜5においては、銅を全く腐食せず、Low−k材料にもダメージを与えず、エッチング残渣の除去性も優れていた。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ドライエッチング後のエッチング残渣の図
【符号の説明】
【0018】
1:下層銅配線体
2:炭化シリコン膜
3:Low−k膜
4:エッチング残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅単体又は銅とバリアメタルの積層構造を有する金属配線が施された半導体素子の絶縁材料がSiOおよびSiOに炭素を導入した半導体素子の配線工程における、ドライエッチング後に残存するエッチング残渣の洗浄液であって、第4級アンモニウム水酸化物0.01〜15重量%と水溶性有機溶媒40〜95重量%を含んだ水溶液であることを特徴とする半導体素子の洗浄液。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム水酸化物が水酸化テトラメチルアンモニウムおよび/または水酸化テトラエチルアンモニウムである請求項1記載の洗浄液。
【請求項3】
前記水溶性有機溶媒が、イソプロピルアルコール、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジメチルスホキシド、又は2−ピロリドンである請求項1記載の洗浄液。
【請求項4】
さらに金属配線の防食剤を含有する請求項1〜3の何れか1項に記載の洗浄液。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の洗浄液を用いることを特徴とする金属配線の施された半導体素子または表示素子の洗浄法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−47831(P2008−47831A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224536(P2006−224536)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】