説明

ドライポンプの排気脈動の減少

真空ポンプが、第1及び第2のシャフトを収容したステータを有し、第1及び第2のシャフトは、ステータ内で互いに逆回転するようになっている。各シャフトは、複数個のロータ要素を支持していて、第1のシャフトのロータ要素が第2のシャフトのロータ要素と噛み合うようになっている。ポンプは、圧送されるべき流体を受け入れるポンプ入口及び圧送流体を吐出するポンプ出口を更に有している。ポンプ出口の近くに位置する相互噛み合いロータ要素の各々は、回転中心から延びる複数個の突起を有し、これら突起は、ロータ要素の回転中心周りに回転的に非対称に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、特にドライポンプ及び多段ドライポンプの最終段の設計に関する。
ドライポンプは、例えば、ウェーハを製造できるプロセスチャンバ内にクリーンで低圧(多くの場合、真空)の環境を作るために半導体製造業界で広く用いられている。ドライポンプのポンプ機構は、種々の形態で提供されており、これらのうちの1つは一般に、ステータにより収容された1個以上のロータを有する。ロータは、プロセスチャンバからガスをポンプ入口に引き込んで圧送(ポンプで送り出される)ガスをポンプ出口から排出するよう適切に形作られている。ロータは、共通の回転シャフトの回転軸線に沿って連続的に配置された多数個のロータ要素を有している場合が多い。
【0002】
ドライポンプ機構の一例は、ルーツ型機構である。ルーツ型機構では、各ルーツ型ロータ要素は、2個以上の実質的に同じ寸法形状のローブを有し、各ローブは、回転シャフトの回転軸線から半径方向又は放射状に延びている。ローブは、シャフトの回転軸線周りに回転対称状態で配置されている。ポンプの最初の方の段(即ち、ポンプ入口の近くに位置する段)内では、ロータ要素に設けられるローブの数は少ない場合がある。例えば、ポンプの最初の方の段では、通常、2つのローブが用いられる。対をなすロータが互いに密接する関係にあるが、互いに触れない状態で配置するのがよい。各ロータ要素は、段を形成するよう対向したロータ要素に対し角度をなして配置されていて、2本のロータシャフトは回転すると、一方のロータ要素のローブが他方のローブ相互間の空間を通過するようになっている。
【0003】
もう1つの機構は、ノーゼイ(Northey)又は「クロー(claw)」型機構と呼ばれている。この機構では、ルーツ段(Roots stage)について上述したローブに代えて、回転シャフトの回転軸線周りに回転的に対称に配置されたシクル又はクロー成形物(sickle or claw shapes)が用いられる。
【0004】
ルーツ型及びクロー型機構とほぼ同じ原理で動作する第3の機構は、ボールソケット(ball and socket )型装置と呼ばれる場合がある。この装置では、ロータは、1対ずつ平行に整列している。第1のロータは、1個以上のロータ要素を有し、各ロータ要素は、全体として円形であるが、円の周囲に切り込まれると共にシャフトの回転軸線周りに半径方向に等間隔を置いた多数のソケットを有する断面を備えている。第2のロータは、これに対応して1個以上のロータ要素を有し、各ロータ要素は、全体として円形断面のものであり、これらの周囲から突起が延びており、これら突起は、第1のロータのすぐ隣りのロータ要素のソケットと噛み合うように形作られると共に位置決めされている。互いに協働するロータ要素の対は各々、段と呼ばれる。
【0005】
上述の例の各々において、2つのロータが安定した回転数で回転すると、周期的な圧力変動が生じる。各段のロータ要素は、ロータとステータとの間のガスのスラグを捕捉し、何割かをポンプ出口に排出する。シャフトが、互いに逆方向に一定の速度で回転するので、更にロータ要素が回転対称になっているので、捕捉されたガスの放出が定期的に生じる。かくして、一定の周期を持つ脈動が生じる。これらロータ要素がポンプの最終段又は排気段内に配置される場合、この周期的脈動が、ポンプと格納容器との間の連結パイプを通って伝達される場合があり、そしてこれが周囲環境で聞こえる場合がある。かかる脈動は、種々の問題を引き起こす場合があり、例えば、この脈動は、長期間にわたりかかる周期的なパルスを聞かざるを得ない環境中で作業している人の注意を非常に逸らす場合がある。また、もしパルスが格納容器中のコンポーネントの高調波振動数(harmonic frequency)に達した場合、これらコンポーネントは、励起されて激しく振動し、その結果、度を超えた騒音が生じる恐れがある。
【0006】
従来、この騒音に関する問題は、排気部(出口)に隣接してポンプの最終段に多数のローブ付きの回転対称のロータ要素を備えた段を導入することにより取り組まれている。この多数のローブ付きのロータ要素は、その前の段のロータ要素よりも多くのローブを有し、ポンプ機構の先の段により生じるパルスの大きさを減少させるのに役立つ。
【0007】
それにもかかわらず、使用中、この段は、他の段よりも高い振動数でそれ自体の周期的なビート又はうなりを生じる。これは、排ガスを適当なベント空間に差し向けるのに用いられるダクトを励振させる場合があり、又これにより、上述の騒音の問題が生じる場合がある。
【0008】
加うるに又は上述の解決策に代わる手段として、ポンプの排出部のところで生じる騒音を減少させるために消音器又はマフラーを用いることが知られている。或る特定の状況では、消音器を用いることは、望ましくない。半導体製造プロセスの中には、埃にまみれた又は凝縮可能な物質を生じさせるプロセスがあり、かかる物質は、もしこれらが相当多くの量溜まって空気にさらされた場合(例えば、ポンプの点検整備又は保守中)、危険なことがある。消音器又はマフラーがかかる環境に用いられた場合、結果的にかかる有害な最終生成物の堆積を生じさせる場合があり、点検整備又は保守上の問題を一層困難にする。
【0009】
本発明は、ポンプ排出部のところの脈動と関連した上述の問題のうちの幾つかを解決する真空ポンプを提供しようとするものである。
本発明によれば、第1及び第2の互いに噛み合うロータ要素を収容したチャンバを有する真空ポンプであって、第1のロータ要素と第2のロータ要素は、それぞれのシャフトに取り付けられていて、チャンバ内で逆回転するようになっており、ロータ要素のうちの少なくとも一方は、回転中心から延びる複数個の突起を有し、突起は、ロータ要素の回転中心周りに回転的に非対称に配置されている真空ポンプが提供される。
【0010】
突起は例えば、ルーツ型ロータ要素のローブ、駆動ロータ要素のクロー又はボールソケット型装置の突起(又はソケット相互間の空間)の形態をしているのがよい。
理解されるように、各突起は、回転中心から半径方向に間隔を置いて位置する頂点及びセクター角を有する。望ましくは、回転中心に対する各頂点対相互間の角度は、隣りの頂点対相互間の等価セクター角とは異なっている。隣り合う頂点相互間のセクター角は、全て互いに異なる。セクター角は、ランダムに選択される。望ましくは、セクター角は各々、他の全てと異なるが、これは必須要件ではない。
【0011】
複数個の突起は望ましくは、3個以上、より好ましくは3個〜9個である。例えば、ロータ要素は、4、5、6又は7個の突起を有する。突起は、ロータ要素と一体に形成されたものであるのがよく、又は変形例として、突出コンポーネントを別個に形成し、そして互いに組み付け、その後ロータ要素を形成してもよい。
【0012】
回転非対称ロータ要素は望ましくは、使用に当たり、ポンプの排気部(出口)に隣接したポンプの最後のロータ要素として位置決めされる。ポンプは、互いに噛み合う回転対称のロータ要素を更に有するのがよい。
【0013】
別の特徴では、本発明は、少なくとも1つの回転非対称ルーツロータ要素を有するロータを含む真空又はドライポンプを提供し、このロータ要素は、ロータ要素の回転中心周りに回転的に非対称に配置された複数個の突起を有する。
【0014】
本発明は又、圧送されるべき流体を受け入れるポンプ入口と、圧送流体を排出するポンプ出口と、第1及び第2のシャフトを収容したステータとを有する真空ポンプであって、第1のシャフトと第2のシャフトは、ステータ内で逆回転するようになっており、各シャフトには、複数個のロータ要素が設けられていて、第1のシャフトのロータ要素が第2のシャフトのロータ要素と噛み合うようになっており、ポンプ出口の近くで互いに噛み合うロータ要素の各々は、回転中心から延びる複数個の突起を有し、突起は、ロータ要素の回転中心周りに回転的に非対称に配置されている真空ポンプを提供する。
例示の目的上、次に図面を参照して本発明のロータ要素の幾つかの実施形態を説明する。
【0015】
図1は、多段真空ポンプの実施形態を概略的に示している。図示の実施形態では、ポンプは、各々が一連のロータ要素の形態をしているロータ組立体1a,1bを支持した2つの互いに平行で整列した回転シャフト2a,2bを有している。シャフト2a,2bは、軸受3a,3b,3c,3d内に取り付けられている。シャフト2bは、駆動機構3によって駆動され、調時歯車装置(図示せず)が、2本のシャフト2a,2bを互いに連結して2本のシャフトが同期して逆回転するようにしている。ロータ要素1a,1bは、ハウジングユニット4内に収納され、このハウジングユニットは、各々がそれぞれ1対のロータ要素1a,1bを収容した一連のチャンバを有するステータ要素を構成している。
【0016】
この実施形態では、ロータ要素1a,1bの各々は、ルーツ型プロフィールを有している。シャフト2a,2bは、ロータの最大半径の2倍よりも短い距離だけ互いに離れていて、シャフト2bが回転すると、ロータが互いに噛み合ってロータ要素1bのローブがロータ要素1aのローブ相互間の空間を通過するようになっている。
【0017】
図2は、図1に示すポンプ中の軸方向ガス流路を示している。ハウジング4に設けられたポンプ入口7が、ポンプの初段又は第1段、即ち入口4の最も近くに位置する1対の相互に噛み合ったロータ要素1a,1bを収納したチャンバに直接連通して例えばプロセスチャンバから受け取ったガスをポンプの第1段に運搬するようになっている。圧送される(ポンプで送り出される)ガスを或る1つの段の出口から次の段の入口に差し向けるよう隣り合う段相互間にはチャネル6が設けられている。ポンプ出口5が、圧送ガスをポンプから排出することができるように排気段、即ち出口5の最も近くに位置する1対の互いに噛み合った要素と連通した状態で設けられている。
【0018】
図3は、図1のポンプの排気段を形成するルーツ型ロータ要素を示している。各要素は、回転中心Rを有し、5つのローブがこの回転中心から半径方向に又は放射状に延びている。各ローブは、頂点A1,A2,A3,A4,A5を有し、これら頂点のアール(丸み)は、ロータ要素の回転中心周りに差し向けられている。セクター角(即ち、隣り合う頂点のアール相互間の内角)が、図示されている。
【0019】
ローブを互いに異なる回転角度だけ互いに引き離すことにより、排気部のところでのパルスの振動数が不規則になる。その結果、規則的なパルスが聞こえない。これとは異なり、生じた騒音が、或る範囲の周波数にわたって広がる。かかるランダムな騒音は、ポンプシステム中の管路系統によって増強される見込みは無く又はダクトシステム内で種々の振動数を励起させる恐れは無く、それにより上述した問題の発生が軽減される。
【0020】
同じような利点は、図4に示すようにボールソケット型圧送機構を利用したポンプの排気段用のロータ要素の形態と関連している。ボールソケット段は、全体を符号21で示す第1の「ボール」ロータ要素と、全体を符号22で示す第2の「ソケット」ロータ要素とから成る。ボールロータ要素は、実質的に円形断面の中央部品23及び5つの突起24a,24b,24c,24d,24eを有し、これら突起は、中央部品23の回転中心R周りに等しくない角度間隔を置いて半径方向に設けられている。これら突起を別々に製造し、次に、ロータの次の組立ての際に中央部品に接合するのがよい。変形例として、これら突起は、中央部品の一体部分として形成されたものであってもよい。ソケットロータ要素は、実質的に円形断面の部品である単一部品25から成り、かかる部品から5つのソケットの26a,26b,26c,26d,26eが切り込み形成され、その後には、5つの突起27a,27b,27c,27d,27eが部品25の回転中心R周りに等しくない角度間隔を置いた状態で半径方向に設けられ、その結果、使用中、突起24a,24b,24c,24d,24eがソケット26a,26b,26c,26d,26eと噛み合ってポンプを通って圧送ガスを引き込むようになっている。
【0021】
上述のことは、本発明の2つの実施形態だけを説明するものであるが、特許請求の範囲に記載された本発明の真の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】多段ポンプの一実施形態を示す図である。
【図2】図1のX−X矢視断面図である。
【図3】図1のポンプの単一段の形態を示す図である。
【図4】図1のポンプの単一段の変形実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の互いに噛み合うロータ要素を収容したチャンバを有する真空ポンプであって、前記第1のロータ要素と前記第2のロータ要素は、それぞれのシャフトに取り付けられていて、前記チャンバ内で逆回転するようになっており、前記ロータ要素のうちの少なくとも一方は、回転中心から延びる複数個の突起を有し、前記突起は、前記ロータ要素の前記回転中心周りに回転的に非対称に配置されている、真空ポンプ。
【請求項2】
各前記突起は、前記回転中心から半径方向に間隔を置いて位置する頂点及びセクター角を有し、前記回転中心に対する各頂点対相互間の角度は、隣りの頂点対相互間の等価セクター角(equivalent sector angle)とは異なっている、請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
隣り合う前記頂点相互間の前記セクター角は、全て互いに異なる、請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記セクター角は、ランダムに選択される、請求項3記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記ロータ要素は、3個以上の前記突起を有する、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記ロータ要素は、3個〜9個の前記突起を有する、請求項5記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記ロータ要素は、4、5、6又は7個の前記突起を有する、請求項6記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記突起は、前記ロータ要素の一体部分として形成されている、請求項1〜7のうちいずれか一に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
第1のロータ要素と第2のロータ要素の両方は、前記複数個の突起を有する、請求項1〜8のうちいずれか一に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
各前記ロータ要素は、ルーツ型ロータ要素(Roots rotor element)であり、前記突起は、前記ルーツ型ロータ要素のローブ(lobes)である、請求項9記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記ロータ要素は、ボールソケット段のボールロータ要素であり、前記突起は、前記ボールロータ要素に設けられたボールから成る、請求項1〜8のうちいずれか一に記載の真空ポンプ。
【請求項12】
前記ロータ要素は、前記ポンプの出口の近くに位置している、請求項1〜11のうちいずれか一に記載の真空ポンプ。
【請求項13】
各前記シャフトには、少なくとも1つの追加のロータ要素が設けられている、請求項1〜12のうちいずれか一に記載の真空ポンプ。
【請求項14】
圧送されるべき流体を受け入れるポンプ入口と、圧送流体を排出するポンプ出口と、第1及び第2のシャフトを収容したステータとを有する真空ポンプであって、前記第1のシャフトと前記第2のシャフトは、前記ステータ内で逆回転するようになっており、各前記シャフトには、複数個のロータ要素が設けられていて、第1のシャフトのロータ要素が第2のシャフトのロータ要素と噛み合うようになっており、前記ポンプ出口の近くで互いに噛み合うロータ要素の各々は、回転中心から延びる複数個の突起を有し、前記突起は、前記ロータ要素の前記回転中心周りに回転的に非対称に配置されている、真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−502932(P2007−502932A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523664(P2006−523664)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003316
【国際公開番号】WO2005/019652
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(591004445)ザ ビーオーシー グループ ピーエルシー (59)
【Fターム(参考)】