説明

ドリフトタイプ放射線検出器および検出装置の変換係数の率依存変化を補正するための方法と回路配置。

【課題】電荷−電圧変換係数の率依存変化を補正するドリフトタイプ放射線検出器を提供する。
【解決手段】ドリフトタイプ放射線検出器(301)の電荷−電圧変換係数の率依存変化を補正するために、前記ドリフトタイプ放射線検出器に作用する瞬時光子衝突率の変化を検出する。前記ドリフトタイプ放射線検出器(301)の集積アンプ(302)を通って流れるドレイン電流は、前記瞬時光子衝突率で検出された変化に比例する量で変更される(902、903)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的に電磁放射線を検出するための半導体検出器の技術に関する。特に、この発明は、例えばX線検出に使用されるドリフトタイプ検出器で、光子カウント率の割合としてピーク位置のシフトを補正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば画像用や分光学用のX線検出装置に用いられる半導体検出器として、PIN検出器がある。それに用いられる検出素子は、逆バイアスが印加されたPINダイオードであり、一方の電極がFET(電界効果トランジスタ)のゲート電極に接続されている。PINダイオードに衝突したX線の光子は光電効果を引き起こし、半導体材料中の空乏層領域に多数の自由電子と正孔を生成する。PINダイオードに印加される逆バイアスにより、移動電荷キャリアが電極に引き寄せられ、それにより電極の電位が変化する。FETに接続される積分器は、PINダイオードの電極電位の変化を、帰還コンデンサにかかる電圧の変化に変換する。
【0003】
ドリフト検出器はより進化した検出器タイプで、その検出器タイプは、例えば、刊行物、C.Fiorini,P.Lechner“集積されたフロントエンド用JFETのゲート−ドレイン間電流による半導体検出器の連続した電荷の回復”IEEE原子物理学会報、1999年6月Vol.46,No.3,pp.761〜764(C.
Fiorini, P. Lechner: “Continuous Charge Restoration in Semiconductor Detectors
by Means of the Gate-to-Drain Current of the Integrated Front-End JFET”, IEEE
Trans. on Nucl. Sci., vol. 46, No. 3, June 1999, pp. 761-764.)に詳細に記載されている。ドリフトタイプ検出器の固体半導体検出素子は、大部分が共通してシリコンで作られている。そのため、これらの検出器はよくSDD(シリコンドリフト検出器)と言われている。一部を切り欠かれた例として図1に示されたSDDは、いわゆるドリフト輪101を構成するフィールド電極配置およびダイオード成分に統合されたアンプを持っているという点で、通常のシリコンをベースとしたPINダイオード検出器とは異なる。アンプは最も代表的なFET(電界効果トランジスタ)であり、ソース電極、ゲート電極およびドレイン電極が、図1に102、103および104としてそれぞれに現れている。検出器ダイオードのアノード電極およびカソード電極は、図1に105および106としてそれぞれ図示されている。
【0004】
図2は、図1によるSDDの電気的な動作原理を図式的に示す。回路図の一部に示される楕円状の破線は、検出器チップの中に直接位置する。検出器に衝突するX線光子は、自由電荷キャリアの群を発生させ、その群の大きさ−そして、相応して、それが含む総電荷−は、光子の入射エネルギーに依存する。検出器の内部電界は、自由電荷キャリアを陽極および陰極に向けてドリフトさせる。アノードAに到達する電子によって代表される電荷は、電流パルスiqとみなすことができる。検出器容量は、電流パルスを集め、そしてそれらを蓄積電圧として積分する積分器として動作する。前述の検出器容量は、主に陽極容量Caからなるが、FETの浮遊容量についても考慮する必要がある。最後に、図2のCdgおよびCgsについて述べる。回路配置はFETをソースフォロワ(ゲート−ソース間電圧Vgsは一定のままであることを意味する)として動作させるので、ドレイン−ゲート間容量Cdgだけが、検出器容量Cdetに真に寄与する。
Cdet=Ca+Cdg (1)
一つのX線光子が衝突の結果として陽極に集められる電荷をq0と仮定すると、電位Vsの変化ΔVsを下式のように表することができる。
ΔVs=q0/Cdet=q0/(Ca+Cdg) (2)
また、検出器の電荷−電圧変換係数は、(Ca+Cdg)−1であるといった別の言葉で表現できる。
【0005】
検出器は、なんらかの電荷中和化メカニズムがないと、集められた電荷が陽極に蓄えられたとしてもすぐ飽和するだろう。連続動作は、いわゆる衝撃イオン化の結果としてFETのチャネルに発生し、蓄積電荷を中和するように作用する漏れ電流Iによって可能になる。漏れ電流Iの発生に関する様々なメカニズムの解説が、イー・イラッド:“ドレインフィードバック−低雑音低温プリアンプの新たなフィードバック技術”、IEEE原子物理学会報,NS−19,No.1,1972,pp.403〜411(E. Elad: ”Drain Feedback – a Novel Feedback Technique
for Low-Noise Cryogenic Preamplifiers”, IEEE Trans. on
Nucl. Sci., NS-19, No. 1, 1972, pp. 403-411.)の刊行物に見い出される。漏れ電流Iの流れを制御する主要な係数であるイオン化率は、FETのドレイン−ゲート接合間の電圧Vdgに強く依存する。漏れ電流Iの値は、SDD中のFETのドレイン−ソース間電圧Vdsに少なくとも部分的に依存すると推定することができる。
【0006】
X線の持続的な照射の下で、陽極に繰り返し発生される放射線誘導電流パルスは、漏れ電流Iが放射線誘導電流に等しくなるという定常状態条件に到達するまでの間、陽極電位を負方向に引き込む。既述したように、Vgsは回路のソースフォロワ特性により一定であり、陽極電位の変化は、Vdsの変化として直接的に観測できる。既に述べた検出器を利用する検出装置は、図1、2を参照すると、Vsで記号表示された電位の変化を測定するように構成された電位感受性測定配置(図2には示してない)からなる。FETを通る全電流と比較した漏れ電流Iの相対的な大きさは無視できるので、たとえ、文字通りには、より適切な記号表示はIsであるとしても、FETのソース電極から固定負電位に引き込まれる定電流をIdとして記号表示することが通例となっている。
【0007】
従来のSDDベースの検出装置の問題は、ピーク位置の率依存シフトである。X
線光子が検出器に衝突する率が増加すると電圧Vdsも増加する。このことは、それ自体問題ではないだろうが、検出器容量が一定ではなく、検出チップ内の電圧に依存するので問題となる。検出器容量Cdetの変化は、検出器の電荷−電圧変換係数の変化を意味する。測定されたX線スペクトルにおいて、ある一定のエネルギーの放射を表すピークは、X線光子がより遅い率で届くか、より速い率で届くかどうかに依存しながら異なった位置にシフトするだろう。シフトが上方であるか下方であるかは、容量CaとCdgとの関連性の相互の順序に依存する。なぜならば、これらは、光子衝突率について反対方向の依存性を有するからである。
【0008】
電荷−電圧変換係数の変化は、基本的には電圧Vdgの変化の結果であるので、当該技術に熟練した人は、瞬時光子衝突率の関数として、ドレイン電位Vdを変えることによって、それを補正するように考えるだろう。図3は、このアプローチに従った可能な解決法を示す。ドリフトタイプ検出器チップ301は、FET302を含み、そのソース電極は、プリアンプ結合303を通る信号出力に接続されている。また、FETを通して定電流を引き込むように構成された電流発生器304が存在する。既述したように、この電流は基本的にはドレイン電流と同じものであるので、電流発生器304によって引き込まれる電流をドレイン電流Idとして記号表示することは、この接続がFETのソース電極に接続されているにもかかわらず従来通りである。
【0009】
差動アンプ305は、FET302のドレイン−ソース間電圧Vdsを測定し、それに比例した出力電圧を与えるように接続されている。制御アンプ306は、差動アンプ305の出力電圧を固定参照電圧Vrefと比較し、比較結果を可変電圧源308によって生成された電圧の変化に使用するように構成されている。制御アンプ306の増幅率および極性は、Vdに結果として起こる変化が電荷−電圧変換係数の率誘導変化を補正するように慎重に調整される。電荷−電圧変換係数の変化は非線形であるので、制御アンプ306と可変電圧源308との間に線形化回路307が必要とされる。
【0010】
図3の回路は、主に振動に対する脆弱性に関係する問題を含んでいる。最も重要な部分は差動アンプ305であり、その入力信号は制御ループの動作周波数と上手にバランスがとられなければならない。電荷−電圧変換係数の非線形動作が複雑であるため、線形化回路307も実現することが困難であることが証明できるかもしれない。また、その回路は、光子衝突率の変化に反応するのも幾分遅いかもしれない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明の目的は、ドリフトタイプ放射線検出器の電荷−電圧変換係数の率依存変化を補正することにある。特に、その発明の目的は、導入が容易であり、動作が実現可能であるような方法で、そのような補正を実現することにある。さらに、この発明の目的は、前述から生じるピーク位置の率依存シフトを補正するために構成される検出装置を提供することにある。
【0012】
発明の目的は、ドレイン電流を瞬時光子(衝突)率の関数として変化することによって達成される。
【0013】
この発明に係る回路配置は、回路配置を指向する独立請求項の特徴部に列挙される特徴によって特徴付けられる。
【0014】
この発明は検出装置にも適用され、検出装置を指向する独立請求項の特徴部に列挙される特徴によって特徴付けられる。
【0015】
加えて、この発明は、ドリフトタイプ放射線検出器で、電荷−電圧変換係数の率依存変化を補正するための方法に適用する。この方法は、方法を指向する独立請求項の特徴部に列挙される特徴によって特徴付けられる。
【0016】
ドリフトタイプ検出器で、電荷を中和する役割を果たす漏れ電流は、ドレイン電流の線形関数であることが示される。この発明によれば、可変電流発生器 (カレントソースまたはカレントシンク、より一般的には、制御信号に応答して所定の大きさの電流を流させるように構成された制御回路構成部品)
は、光子衝突率の関数として、または検出チップ中のFETのドレイン−ソース間電圧(それ自体、光子衝突率の関数である)の関数として、ドレイン電流を制御可能に変化させるために使用される。
【0017】
この発明の性質として考えられている新たな特徴は、添付請求項で特に詳しく説明されている。しかしながら、この発明それ自体、その構成およびその動作方法に関して、その追加目的および利点とともに、添付図面を参照することにより、以下の特定の実施例からよく理解できるであろう。
【0018】
この特許出願に示される発明の典型的な実施例は、添付請求項の適用に限定を設けるように解釈すべきではない。動詞“to comprise”は、この特許出願では、挙げられていない特徴の存在を排除すべきではない。従属請求項で挙げられた特徴は、明示されていない限りは、相互に自由に組み合わせ可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
既述したイー・イラッドの科学刊行物から、漏れ電流Iを下式のように記述することができる。
【0020】
【数1】

【0021】
ここで、αおよびβは、材料および温度依存定数である。この数式は、2通りで説明される。初めに、これはIとVdsとの間の複雑な非線形関係についての前言、すなわち、図3で試みたように、Vdsの値を調整することによって、申し分のない結果を達成することが困難であることを確認する。次に、数式(3)は、IとIdとの間の依存性が、たとえ線形だとしても、もっと単純であることを示す。このようにIdに同等の変形を引き起こすことで、Iの純粋な変形依存率を補正することは可能であり、結果として、Vdsは前記Iの変形依存率なしで値を仮定できると推論できるかもしれない。
【0022】
図4は、ドリフトタイプ検知器チップ301が、放射線を検出するのによく使用される配置を図式的に例示する。ドリフトタイプ検出器チップ301上のFET302は、第一電位V1に接続するドレインを有する。FET302のソースは、可変電流発生器401を通して第二電位V2に接続される。FET302のソースからは、測定回路構成400への接続があり、測定回路構成400は、アンプ、パルス整形回路およびマルチチャンネルアナライザから構成される(図4では、分けて示してない)。この発明の実施例によれば、図4の配置は、光子が検出器チップ301に衝突する瞬時(光子衝突)率を表す情報を収集するように構成された回路素子402を含む。そのような情報に基づいて、回路素子402は、光子衝突率の瞬時値を表す出力信号を生成する。加えて、図4の配置は、Id値が中和電流Iの値の変化に依存する推定率に相当する量によって変化するように、出力信号を受け取り、可変電流発生器401を調整するように構成された回路素子403を含む。
【0023】
回路素子402および403は、アナログ技術もしくはディジタル技術、またはその両方を使用して実装することができる。特にアナログエレクトロニクスに対する典型的な特徴は、部品もしくは回路素子が多数の機能を持つことができること、および回路配置をよく定義された分離された機能ブロックに明確に分けることができないことである。従って、回路素子402と403との区分は、むしろ実際的な実施で満たされるべき厳密な要求ではなく、単にこの発明のある実施例の動作を理解するための実例補助として考えられる。
【0024】
図4で説明される原理は、選択された源泉が瞬時光子衝突率を表す正確な最新情報を伝えることができる限りにおいて、回路素子402によって収集された情報の源泉選択は制限されない。どのような種類の固定電位もしくは変動電位が使用されるかに依存して、そのような情報は、矢印411に従ってFET302のドレイン側から、矢印412に従ってFET302のソース側から、および/または、矢印413に従って測定回路構成400からさえ、利用することができる。以下、主として中間の選択肢についてより詳細に記述する。
【0025】
図5は、SDDチップ301が放射線検出に使用される回路配置を示す簡単化された回路図である。SDDチップ301のFET302は、固定ドレイン電圧Vdを伝えるように構成された固定電圧源501に接続されたドレインを有する。FET302のソースは、プリアンプ502の入力側に接続されており、プリアンプ502の出力側は、さらに先の測定および記憶回路構成に接続されることを意図する信号出力を構成する。FET302のソースは、差動アンプ503の一方の入力側に同様に接続され、差動アンプ503の他方の入力側は、固定参照電圧Vrefに接続されている。差動アンプ503の出力側は、線形化回路504に接続され、線形化回路504からは可変電流発生器401の制御入力への接続がある。前記可変電流発生器401は、FET302のソースからグラウンドに、制御可能な大きさの電流を引き込むように構成されている。
【0026】
Vdの値は一定なので、FET302のVdsの全ての変化は、ソース電位に直接現れ、そのソース電位を差動アンプ503は(固定)参照(電圧)Vrefと比較する。このVrefの値は、SDDチップ301におけるある所定の光子衝突率で、ある望ましいわずかなドレイン電流Idを発生するように選択されている。低い光子衝突率はドレイン電流Idを減少させ、高い光子衝突率はドレイン電流Idを増加させ、減少と増加との相対的な量は基本的に差動アンプ503の増幅率にのみ依存する。
【0027】
厳密に言えば、SDDチップ301の電荷−電圧変換係数は、FET302のゲート電圧が一定であり続ける限りは一定のままである。しかしながら、Idの変化は、FET302のゲート−ソース間電圧Vgsの変化も含み、そのことは、差動アンプ503によってモニタされたソース電位は、厳密に言うとFET302のドレイン−ゲート間電圧Vdg、および、その結果である電荷−電圧変換係数の正確な指標ではないことを意味する。線形化回路504の役割は、ソース電位とFET302のドレイン−ゲート間電圧Vdgとの間に、前記わずかな食い違いから生じる変形を中和することである。また、差動アンプ503の微調整も前記変形を取り除くのに役立っている。
【0028】
シミュレーションおよび測定では、図4および図5の制御原理が、図3の制御原理のものよりも、少なくとも、より良い安定性を達成し、光子衝突率における変化にも早く反応し、そして、線形性に関してより簡単な構造での使用を可能にする点で優れていることを示している。
【0029】
図6は、図5による回路配置の典型的な詳細な実施を例示している。SDDチップ301におけるFETJ1のドレインは、抵抗R1を通して固定電圧+12Vに接続されている。さらに、FETJ1のドレインからコンデンサC1を通してグラウンドへのAC減衰結合がある。FETJ1のソースから信号出力までの接続は、アンプJ2とそれに関連付けられたコンデンサC2およびC3から成る慣用のプリアンプの配置を経由する。FETJ1のソースから他のFETJ3のドレインへ行く可変電流の経路は、FETJ3のソースから抵抗R4を通してNPNトランジスタJ5のコレクタに続き、そしてNPNトランジスタJ5のエミッタから抵抗R7を通して固定電圧−15Vにまで延びている。FETJ3のゲートはグラウンドに接続されていて、NPNトランジスタJ5のコレクタからも、コンデンサC6を通してグラウンドに接続されている。
【0030】
モニタしている差動アンプJ4は、FETJ1のソース電位のサンプルを、抵抗R2を通してその負入力側で受け取る。差動アンプJ4を調整するために、負入力側と出力側との間に並列に接続されている抵抗R3およびコンデンサC4がある。(固定)参照電圧Vrefは、差動アンプJ4の正入力側に接続されている。AC減衰コンデンサC5は、差動アンプJ4の正入力側をグラウンドに接続している。
【0031】
差動アンプの出力側は、抵抗R5およびR6を通してNPNトランジスタJ5のベースに接続されている。NPNトランジスタJ5のベースは、抵抗R9を通してグラウンドに、そしてダイオードD1のアノードにも接続されており、ダイオードD1のカソードから抵抗R8を通して固定電圧−15Vへの接続がある。抵抗R5とR6との間の接続点は、ダイオードD2のアノードと接続され、ダイオードD2のカソードは、抵抗R11を通してグラウンドに接続され、また抵抗R10を通して固定電圧−15Vに接続されている。
【0032】
図6に現れる部品の典型的な値は、R1=200Ω、R2=1MΩ、R3=10MΩ、R4=R11=24kΩ、R5=1.8kΩ、R6=31kΩ、R7=1kΩ、R8=510kΩ、R9=45kΩ、R10=65kΩ、C1=C6=100nF、C4=33nF、C5=3.3μF、J3=BF861B、J4=LF356、J5=2N3904、D1=D2=1N4148である。
【0033】
図7は、X線スペクトルを測定するための検出装置を例示する。これは、SDD検出器チップ301を含み、その出力側は、SDD検出器チップ301の集積されたFETを通して引き込まれるドレイン電流の値を制御可能に変化させるように構成されたプリアンプ701および補正回路702に接続されている。SDD検出器チップ301,プリアンプ701および補正回路702の接続は、例えば、図6を参照して既に述べたものに類似している。プリアンプ701の出力側は、測定チャネルおよびタイミングチャネルを構成する線形アンプ703に接続されており、測定チャネルおよびタイミングチャネルは、それぞれが自身の信号出力を生成している。これらの信号出力は、マルチチャネルアナライザ704に接続されている。検出装置は、プラットフォーム機能部705も含んでおり、プラットフォーム機能部705は、動作電圧を生成して分配し、また他の種類のサポート機能を検出装置の他の機能ブロックに供給するように構成されている。図の明瞭さを保つために、図7では、SDDチップ301へのドレイン電圧への供給だけが明示的に示されている。
【0034】
選択的な細部として、検出装置は、SDDチップ301に供給されるドレイン電圧の電荷中和効果を制御可能に変えることにより、線形アンプ中のタイミングチャネルの出力信号に応答するように構成された回路706を含む。前記回路706は、例えば、同時係属米国特許出願No.10/881420に詳細に説明された種類のものである。しかしながら、前記同時係属米国特許出願に開示された配置も、スペクトルピークの位置の率依存シフトに反対に作用し、それを本発明と結合することは、補正回路の若干の冗長化を導くかもしれないことに注意すべきである。
【0035】
図7に示される種類の実験的な構成は、ドイツのPNsensor有限責任会社による、SDDチップモデルSD3−05−138を使用することで、回路706無しで製作されたことがあった。SDDチップは、その製造業者からの標準的な取扱説明書によれば、バイアスがかけられていた。検出温度は−20℃、ドレイン電圧+12V、ゼロの光子衝突率で200μAオーダのドレイン電流、63000cps(一秒あたりのカウント数)の光子衝突率で350μAオーダのドレイン電流、そして放射源はFe−55であった。Canberra2020型の線形アンプとTennelec
PCA−2型のマルチチャネルアナライザとが使用された。図8aおよび8bは、ある測定結果を図示している。図8aのグラフ801は、補正回路のスイッチがOFFされ、ドレイン電流は必然的に一定であった時、マルチチャネルアナライザのチャネルで観測されたピーク位置を図示する。グラフ802は、補正回路を使用した時の観測されたピーク位置を図示する。図8bのグラフ811は、グラフ802と同じものをより詳細なスケールで図示したものである。補正回路が使用されてなければ、数百cpsオーダから63000cpsまでの光子衝突率の変化により、およそ20数チャネルくらいのピーク位置のシフトを引き起こすが、補正回路に切り替えると、一つのチャネルの半分以内でピーク位置を維持することが可能であり、光子衝突率がテストされた範囲の大部分にわたり、ちょうど本質的に一定であることが容易に理解できる。
【0036】
図9は状態図の形式で実施例に係る方法を例示する。測定状態901は、光子衝突率が変化せず、SDD検出チップに関する電荷−電圧変換係数が安定な状態にあり、従って、光子エネルギーとマルチチャネルアナライザのチャネル番号との間の通信を一定にするのに対応している。もし、増加する光子衝突率についての情報が得られれば、SDDチップ中のFETを通して引き込まれるドレイン電流もまた、増加する光子衝突率によって引き起こされた漏れ電流の増加に、出来るだけ接近させた相対的な量を状態902で増加させる。これに対して、減少する光子衝突率についての情報が得られれば、ドレイン電流は状態903により減少される。
【0037】
上述した発明の典型的な実施例は、添付請求項の範囲から逸脱することなく、様々な方法で変形することができる。例えば、これまでに説明されている全ての実施例が、SDDチップの出力側から補正回路に直接接続することを示唆しているとしても、プリアンプの後から入力信号を受け取るために補正回路を接続することも可能であることが証明できる。これは、別の方法で、補正回路の入力信号によって引き起こされた追加インピーダンスが、SDDチップの出力信号に現れる問題を回避するのに役立つ。この追加インピーダンスは、通常、プリアンプのみの入力インピーダンスに釣り合うように注意深く設計される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】SDDチップの公知の構造を示す図。
【図2】図1のSDDチップの電気的作用を示す図。
【図3】電荷−電圧変換係数における率依存変化を補正する方法を示す図。
【図4】ドレイン電流を制御可能に変化する原理を示す図。
【図5】図4の原理をより詳細に実施例を示す図。
【図6】発明の実施例に係る回路配置を示す図。
【図7】発明に係る検出装置を示す図。
【図8】aおよびbは、図7による検出装置で得られる測定結果を示す図。
【図9】状態図の形式での発明の実施による方法を示す図。
【符号の説明】
【0039】
301 SDD検出器チップ
302 FET
303,502,701 プリアンプ
304 電流発生器
305,503 差動アンプ
306 制御アンプ
307,504 線形化回路
308 可変電圧源
400 測定回路構成
401 可変電流発生器
402,403 回路素子
411,412,413 矢印
501 固定電圧源
702 補正回路
703 線形アンプ
704 マルチチャネルアナライザ
706 回路
801 補正回路未使用で、観測されたピーク位置
802 補正回路使用で、観測されたピーク位置
811 802のグラフを詳細化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリフトタイプ放射線検出器(301)の電荷−電圧変換係数の率依存変化を補正するための回路配置であって、
前記ドリフトタイプ放射線検出器(301)に作用する瞬時光子衝突率についての情報を収集する情報収集回路(402)と、
前記情報収集回路の出力に接続され、前記瞬時光子衝突率を示す制御信号を生成する制御信号生成回路(403)と、
ドレイン電流の制御可能な大きさが前記制御信号の値に依存するように、制御可能な大きさのドレイン電流を前記ドリフトタイプ放射線検出器(301)の集積アンプ(302)を通って流れさせることによって、前記制御信号に応答する可変電流発生器(401)と、
を含むことを特徴とする回路配置。
【請求項2】
前記情報収集回路(402)は、前記集積アンプ(302)のドレイン−ソース間電圧をモニタすることを特徴とする請求項1記載の回路配置。
【請求項3】
前記集積アンプの電界効果トランジスタ(302)のドレイン電極は固定電位(501)に接続され、前記情報収集回路(402)は、前記電界効果トランジスタ(302)のソース電位と参照電位とを比較すると共に、前記出力に出力信号を送るコンパレータ(503)を含み、前記出力信号の大きさは、前記ソース電位と前記参照電位との間の絶対差に比例することを特徴とする請求項2記載の回路配置。
【請求項4】
前記コンパレータ(503)の前記出力信号と、前記可変電流発生器(401)の間に、線形化回路(504)を含むことを特徴とする請求項3記載の回路配置。
【請求項5】
集積アンプ(302)を備えるドリフトタイプ放射線検出器(301)を含み、X線スペクトルを測定するための検出装置において、
前記集積アンプ(302)を通してドレイン電流を流れさせる電流発生器(401)と、
前記ドリフトタイプ放射線検出器(301)に作用する瞬時光子衝突率を示す出力を生成する、率依存情報収集回路要素(402,503)と、
前記率依存情報収集回路要素(402,503)から前記電流発生器(401)への接続と、を備え、
前記電流発生器(401)は、制御可能であり、かつ前記ドレイン電流の大きさを制御可能に変化させることによって前記接続を通して受ける制御信号に応答することを特徴とする検出装置。
【請求項6】
前記集積アンプ(302)から得られるソース電位を受けて増幅するように接続されるプリアンプ(701)を含み、前記率依存情報収集回路要素(402,503)は、前記ドリフトタイプ放射線検出器に作用する瞬時光子衝突率を示す情報として、前記ソース電位を受けるように接続されることを特徴とする請求項5記載の検出装置。
【請求項7】
前記プリアンプ(701)の信号出力に接続される、線形アンプ(703)とマルチチャンネルアナライザ(704)との直列接続を含み、前記率依存情報収集回路要素、前記電流発生器および前記率依存情報収集回路要素から前記電流発生器への前記接続がともに、前記マルチチャンネルアナライザでのピーク位置の率依存シフトを補正することを特徴とする請求項6記載の検出装置。
【請求項8】
前記集積アンプは、ドレイン電極、ソース電極およびゲート電極を含む電界効果トランジスタ(302)であり、前記定電流源(401)は、前記電界効果トランジスタ(302)のソース電極と固定電位との間に接続されることを特徴とする請求項5記載の検出装置。
【請求項9】
前記率依存情報収集回路要素(402,503)は、前記電界効果トランジスタ(302)のソース電極に接続される第1の入力電位と、参照電位に接続される第2の入力電位とを備え、前記率依存情報収集回路要素(402,503)は、前記電界効果トランジスタ(302)のソース電極と前記参照電位との電位差を測定し、前記電位差は、前記ドリフトタイプ放射線検出器に作用する瞬時光子衝突率を示す前記情報を構成することを特徴とする請求項8記載の検出装置。
【請求項10】
ドリフトタイプ放射線検出器(301)の電荷−電圧変換係数の率依存変化を補正する方法において、
前記ドリフトタイプ放射線検出器(301)に作用する瞬時光子衝突率の変化を検出し、
前記瞬時光子衝突率の検出された変化に比例する量によって、前記ドリフトタイプ放射線検出器(301)の集積アンプ(302)を通って流れるドレイン電流を変化させる(902、903)ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記光子衝突率の変化を検出することが、前記集積アンプ(302)のソース電位の変化を検出することを含むことを特徴とする請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−119141(P2006−119141A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−307572(P2005−307572)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(505394301)
【氏名又は名称原語表記】OXFORD INSTRUMENTS ANALYTICAL OY
【住所又は居所原語表記】Nihtisillankuja 5, FI  ― 02630 ESPOO, Finland
【Fターム(参考)】