ナノプリント用スタンパ、及び微細構造転写方法
【課題】ナノプリント法において、基板からスタンパを剥離する工程を高精度かつ容易に行うことを目的とする。
【解決手段】プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパが剥離機構を有することを特徴とするナノプリント用スタンパ、及び該スタンパを用いるパターン転写方法。
【解決手段】プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパが剥離機構を有することを特徴とするナノプリント用スタンパ、及び該スタンパを用いるパターン転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱・加圧機構を有するスタンパを用い、基板上に微細構造体を形成するナノプリント転写法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路は微細化,集積化が進んでおり、その微細加工を実現するためのパターン転写技術としてフォトリソグラフィ装置の高精度化が進められてきた。しかし、加工方法が光露光の光源の波長に近づき、リソグラフィ技術も限界に近づいてきた。そのため、さらなる微細化,高精度化を進めるために、リソグラフィ技術に代わり、荷電粒子線装置の一種である電子線描画装置が用いられるようになった。
【0003】
電子線を用いたパターン形成は、i線、エキシマレーザー等の光源を用いたパターン形成における一括露光方法とは異なり、マスクパターンを描画していく方法をとるため、描画するパターンが多ければ多いほど露光(描画)時間がかかり、パターン形成に時間がかかることが欠点とされている。そのため、256メガ、1ギガ、4ギガと、集積度が飛躍的に高まるにつれ、その分パターン形成時間も飛躍的に長くなることになり、スループットが著しく劣ることが懸念される。そこで、電子ビーム描画装置の高速化のために、各種形状のマスクを組み合わせそれらに一括して電子ビームを照射して複雑な形状の電子ビームを形成する一括図形照射法の開発が進められている。この結果、パターンの微細化が進められる一方で、電子線描画装置を大型化せざるを得ないほか、マスク位置をより高精度に制御する機構が必要になるなど、装置コストが高くなるという欠点があった。
【0004】
これに対し、微細なパターン形成を低コストで行うための技術が下記特許文献1及び2、非特許文献1などにおいて開示されている。これは、基板上に形成したいパターンと同じパターンの凹凸を有するスタンパを、被転写基板表面に形成されたレジスト膜層に対して型押しすることで所定のパターンを転写するものであり、特に特許文献2記載や非特許文献1のナノインプリント技術によれば、シリコンウエハをスタンパとして用い、25ナノメートル以下の微細構造を転写により形成可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許5,259,926号公報
【特許文献2】米国特許5,772,905号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Y.Chou et al.,Appl.Phys.Lett.,vol.67,p.3314(1995)
【非特許文献2】SPIE’S Microlithography,SantaClara,CA,Feb.27−28,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、微細パターンを形成可能とされるインプリント技術によっても、基板上にプレスされたスタンパを、基板上に形成された微細な凹凸を崩すことなく、基板から高精度かつ容易に剥離することが困難であった。例えば、シリコンウエハをスタンパに用いた場合、スタンパの剥離時にスタンパが破損する恐れがあった。
【0008】
上記非特許文献2では、スタンパに剥離処理を施し、機械的に剥離することが開示されている。この方法では、上記のスタンパの剥離時にスタンパが破損する問題は何ら解決されていない。
【0009】
以上の技術課題に鑑み、本発明は、半導体デバイスなどの製造工程において、微細な形状の構造体を形成するためのパターン転写技術であるナノプリント法において、基板からスタンパを剥離する工程を高精度かつ容易に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、基板とスタンパとの配置がリジッド過ぎることが剥離を効率的に行うことのできない理由と考え、本発明に至った。
【0011】
即ち、第1に、本発明は、スタンパの発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパに剥離機構を設けることを特徴とするナノプリント用スタンパである。剥離機構を設けることで、基板とスタンパが剥離しやすくなる。
【0012】
例えば、本発明は、スタンパの発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパの凹凸形成面側の周辺部の一部が基板中心部が厚くなるような傾斜を有することを特徴とするナノプリント用スタンパである。スタンパの中心部を厚くすることで、剥離工程において、プレス中基板が反った状態だったものがプレス解放後に基板がもとの状態に戻ろうとするため、基板とスタンパがはがれようとする応力が意図的に創出され、この部分より基板とスタンパが剥離しやすくなる。
【0013】
また、本発明は、スタンパの発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパは可撓性を有することを特徴とするナノプリント用スタンパである。スタンパが可撓性を有することで、剥離工程において、基板とスタンパとの間に局所的な力が負荷されて、基板とスタンパの両方またはいずれか一方が破損することが防止される。
【0014】
ここで、スタンパは、弾性体を介して支持体に固定されていることが好ましい。スタンパを、弾性体を介して支持体に固定することによって、上述の基板とスタンパとの間に働く力がよりフレキシブルになり、基板とスタンパの破損防止に効果的である。
【0015】
また、前記支持体は、長方形、正方形、円、楕円の枠構造であることが好ましい。枠構造とすることで、スタンパとの弾性体を介しての固定を必要最小限とすることができるとともに、ナノプリント法によるパターン転写の操作性にも優れている。
【0016】
また、本発明は、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパの凹凸形成面側の端部に、前記スタンパと基板の剥離を容易にするための弾性体を有することを特徴とする。
なお、前記プレス装置は、加熱・加圧機構を有するものを用いることができる。
【0017】
第2に、本発明は、パターン転写方法の発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、前記スタンパに剥離機構を設けることを特徴とする。
【0018】
例えば、本発明は、パターン転写方法の発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、前記スタンパの凹凸形成面側の周辺部の一部が基板中心部が厚くなるような傾斜を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、パターン転写方法の発明であり、加熱・加圧機構を有するプレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、可撓性を有するスタンパを用いることを特徴とする。
【0020】
ここで、前記スタンパは、弾性体を介して支持体に固定されていることが好ましい。
また、前記支持体は、長方形、正方形、円または楕円の枠構造であることが好ましい。
【0021】
ここで、樹脂基板または基板上の樹脂膜を成型させる方法としては、(1)樹脂基板または基板上の樹脂膜を、加熱して変形させる、(2)樹脂基板または基板上の樹脂膜を加圧成型後に、光硬化させる、(3)樹脂基板または基板上の樹脂膜を光硬化させる、から選択されることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ナノプリントスタンパに剥離機構、特に、スタンパの中心部を厚くすることで、剥離工程において、プレス中基板が反った状態だったものがプレス解放後に基板がもとの状態に戻ろうとするため、基板とスタンパがはがれようとする応力が意図的に創出され、この部分より基板とスタンパが剥離しやすくなる。また、本発明によれば、可撓性を有するスタンパを用いることで、ナノプリントの剥離工程において、基板とスタンパとの間に局所的な力が負荷されて、基板とスタンパの両方またはいずれか一方が破損することが防止される。更に、本発明によれば、スタンパと基板の間にバネ機構を設けることで、剥離工程において、スタンパと基板の剥離を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ナノプリントの各工程を示す模式図。
【図2】可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定されたスタンパの作製方法。
【図3】可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定されたスタンパの作製方法。
【図4】本発明のスタンパを用いたナノスタンプの方法。
【図5】曲面スタンパの作製方法。
【図6】曲面スタンパの作製方法。
【図7】曲面スタンパの作製方法。
【図8】深溝付き凸曲面スタンパの作製。
【図9】深溝付き凸曲面スタンパによるスタンプ。
【図10】深溝付き凹曲面スタンパ。
【図11】端部弾性体付きスタンパの作製方法。
【図12】端部弾性体付きスタンパの作製方法。
【図13】可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定された光透過型スタンパによるスタンプ。
【図14】バイオチップの概略図。
【図15】分子フィルターが形成されている近傍の断面鳥瞰図。
【図16】分子フィルターの断面図。
【図17】多層配線基板を作製するための工程を説明する図。
【図18】磁性記録媒体の全体図及び断面拡大図。
【図19】ナノプリント法によるガラスへの凹凸形成方法を、半径方向に切った断面図で示す。
【図20】光回路500の概略構成図。
【図21】光導波路内部での突起物の概略レイアウト図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
先ず、図1を参照しながら、ナノプリント方法について説明する。シリコン基板等の表面に微小なパターンを有するスタンパを作製する。これとは別の基板上に樹脂膜を設ける(図1(a))。図示しない加熱・加圧機構を有するプレス装置を用い、該樹脂のガラス転移温度(Tg)以上の温度で、所定の圧力でスタンパを樹脂膜上にプレスする(図1(b))。冷却・硬化させる(図1(c))。スタンパと基板を剥離して、スタンパの微細なパターンを基板上の樹脂膜に転写する(図1(d))。また、加熱成型する工程の変わりに、光硬化性の樹脂を用い、成型後に、樹脂に光を照射し、樹脂を硬化させても良い。更に、ガラス等の光透過性のスタンパを用い、プレス後に、該光透過性のスタンパの上方より光を照射して、樹脂を光硬化させてもよい。
【0025】
ナノプリント方法によれば、(1)集積化された極微細パターンを効率良く転写できる、(2)装置コストがやすい、(3)複雑な形状に対応できピラー形成なども可能である、等の特徴がある。
【0026】
ナノプリント法の応用分野については、(1)DNAチップや免疫分析チップ等の各種バイオデバイス、特に使い捨てのDNAチップ等、(2)半導体多層配線、(3)プリント基板やRFMEMS、(4)光または磁気ストレージ、(5)導波路、回折格子、マイクロレンズ、偏光素子等の光デバイス、フォトニック結晶、(6)シート、(7)LCDディスプレイ、(8)FEDディスプレイ、等広く挙げられる。本発明はこれらの分野に好ましく適用される。
本発明において、ナノプリントとは、数100μmから数nm程度の範囲の転写を言う。
【0027】
本発明において、プレス装置は特に限定されないが、加熱・加圧機構を有するものや、光透過性スタンパの上方より光を照射できる機構を有するものが、パターン転写を効率良く行う上で好ましい。
【0028】
本発明において、スタンパは、転写されるべき微細なパターンを有するものであり、スタンパに該パターンを形成する方法は特に制限されない。例えば、フォトリソグラフィや電子線描画法等、所望する加工精度に応じて、選択される。スタンパの材料としては、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、セラミック、プラスチック等、強度と要求される精度の加工性を有するものであれば良い。具体的には、Si、SiC、SiN、多結晶Si、ガラス、Ni、Cr、Cu、及びこれらを1種以上含むものが好ましく例示される。
【0029】
本発明において、基板となる材料は特に限定されないが、所定の強度を有するものであれば良い。具体的には、シリコン、各種金属材料、ガラス、セラミック、プラスチック、等が好ましく例示される。
【0030】
本発明において、微細な構造が転写される樹脂膜は特に限定されないが、所望する加工精度に応じて、選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニール、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ガラス強化ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリアレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアミドビスマレイミド、ポリビスアミドトリアゾール等の熱硬化性樹脂、及びこれらを2種以上ブレンドした材料を用いることが可能である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
本発明の実施例の1つである、可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定されたスタンパについて、その作製方法を図2、3を用いて説明する。図2、3は概念図であり、パターン形状は単純化しかつ大きめに書かれていることを断っておく。まず、図2(a)のように縦100mm×横100mm×厚さ0.5mmのSi基板1を準備した。次に図2(b)のようにスピンコーターを用いて、電子線露光用のフォトレジスト2(OEBR1000、東京応化製)を塗布した。続いて、図2(c)のように電子線描画装置JBX6000FS(日本電子製)を用い、電子線ビーム3で直接描画することにより露光し、現像することにより、図2(d)のような凹凸を形成した。レジストは、直径100nmの円形パターンがピッチ150nmでマトリクス状に並ぶように残した。なお、パターンが数百nmオーダー以上であれば、電子線ではなく、Krレーザ(波長351nm)等を用いても良い。図2(d)の凹凸をマスクパターンとしてSi基板1のドライエッチングを行い、図2(e)のようにSi基板1に凹凸を形成後、O2アッシングにより、レジスト2を除去した。以上の工程で、直径100nmの円柱状突起が1面に形成されたシリコン製のマスタ原盤を得た。このシリコン原盤に図2(f)のようにNiを数十nmの厚みでスパッタ成膜し、さらに図2(g)のようにNiめっきで100μmにまで成膜を行った。図2(f)と(g)の工程は無電解めっきを用いても差し支えない。最後にSi原盤を剥離することにより直径100nmの穴がマトリクス状に形成されたNiスタンパを得た。この薄く作られたNiスタンパは、可撓性を有する。なお、Niスタンパはシリコン原盤と凹凸が逆転したパターンとなるので、原盤は逆転パターンで作製しておく必要がある。また、シリコン原盤から直接スタンパを作製せず、シリコン基盤パターンをサブマスタに転写した後で、サブマスタからNiスタンパを作製することもできる。
【0032】
図3(a)は、上記の方法で形成されたNiスタンパ6の斜視図である。このパターン裏面に図3(b)のように弾性体7としてシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)を用いて厚さ1mmの中抜きのシリコーンゴムを貼り、さらに図3(c)のように支持体8としてSUS製枠を貼り付けることにより、本発明のスタンパが得られる。弾性体7、支持体8は、スタンパ形状に合わせて、正方形、長方形、円、だ円等の形状を取ることができる。
【0033】
次に、図4を用いて本発明のスタンパを用いたナノスタンプの方法を説明する。図4(a)はSUS枠に弾性体を介して接合されたスタンパを、ポリスチレン679(エー・アンド・エムスチレン製)の10wt%ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液をスピンコートしたSi基板の上にセットした状態を示す。次に0.1Torr以下に減圧後、250℃に加熱し、図4(b)のように12MPaの圧力で10分保持し、ポリスチレンを変形せしめた。続いて、100℃以下になるまで放冷後、大気開放を行った。この後、剥離を行うのであるが、従来の剥離方法では基板からスタンパを引き剥がす際、スタンパと基板がナノスケールの凹凸によって噛み合わさっているため、非常に大きな力を必要とし、スタンパを破損してしまう危険が高かった。これに対し、本発明では、図4(c)のように支持枠の一端にフックを引っ掛けて支持枠を上方に引き上げた。すると図4(d)のように弾性体が厚み方向に伸び、その弾性力をもってNi部分を樹脂から剥がそうとする力が働いた。スタンプの端に剥離の起点を設けることができたため、図4(e)のように、スムーズに剥離を行うことができた。本発明のスタンパ構造において、弾性体が無くスタンパのNi部分が直接支持枠に固定されていた場合、剥離方向に力をかけると、支持枠が折れたり、破損したりする場合が多いが、弾性体をつけることでスタンパの破損無く剥離を行うことが可能となった。
【0034】
[実施例2]
本発明の実施例の1つである、曲面スタンパについて、その作製方法を図5、6、7を用いて説明する。
【0035】
既述の方法で作製したNiスタンパ(6インチ100μm厚)をSUS(6インチ中心部1cm厚、端部7mm厚)にシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)で接着し、上方より圧力を加えて(図5(a))、凸曲面スタンパを作製した(図5(b))。同様に凹曲面スタンパも形成可能である(図6)。
【0036】
上記方法以外にも凹曲面スタンパにAu20nmスパッタを行い、次に電気Niめっきを行い中心部が1cm程度の厚さにした後、凹曲面スタンパより剥離して曲面金型を作成することもできる。また、凸曲面スタンパに同様の方法でNiめっきすることで凹曲面スタンパを作成することも可能である。
【0037】
以下、凸曲面スタンパによるスタンプを示す(図7)。Si基板5インチφ0.5mmtに500nm厚ポリスチレン679(エー・アンド・エムスチレン製)10%ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液を塗布し、4インチφ緩衝材3mmtを下に引いた(図7(a))。0.1Torr以下に減圧し、250℃に加熱、12MPaで10分加圧した後、冷却し、100℃以下で大気開放した(図7(b))。サンプルを取り出し、緩衝材取り除いたところ、反っていた基板が元に戻ろうとして、端部が容易に剥がれた。端部を治具固定して、0.1mm/sの速さで鉛直引き上げたところ、容易に剥離した(図7(c))。
【0038】
[実施例3]
本発明の実施の形態の1つである、スタンパ表面を曲面にするとともに、スタンパ表面に深溝を設けた場合の、その作製方法を図8、9、10を用いて説明する。
【0039】
Niスタンパ(6インチ100μm厚)中心部に、幅10μm深さ3μmの十文字深さのパターンを作っておく。SUS(6インチ中心部1cm厚、端部7mm厚)にシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)で接着し、深溝付き凸曲面スタンパを作製した(図8)。
【0040】
この深溝付き凸曲面スタンパによるスタンプを行った。先ず、Si基板5インチφ0.5mmtに500nm厚にポリスチレン679(エー・アンド・エムスチレン製)10%ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液を塗布し、4インチφ緩衝材3mmtを下に引く。さらにプレス装置台座面を凹曲面にしておく(図9(a))。次に、0.1Torr以下の減圧で、250℃に加熱し、12MPaで10分加圧した。これにより、台座の曲面に沿って基板が曲がるのでスムーズに曲がる(図9(b))。冷却し、100℃以下で大気開放し、サンプル取り出し、緩衝材取り除いた。反っていた基板が元に戻ろうとして端部が剥がれる。また、中心部の深溝に大気が導入され中心部にも剥離起点が設けられる。端部を治具固定して、0.1mm/sの速さで鉛直引き上げた所、容易に剥離した(図9(c))。
なお、図10のような深溝付き凹曲面スタンパでも同様の効果が得られた。
【0041】
[実施例4]
本発明の実施例の1つである、端部弾性体付きスタンパの作製方法を図11、12を用いて説明する。
【0042】
SUS枠(6インチφ1mm厚)に段付きNiスタンパ(4インチφ外周1cm幅部分1mm厚、パターン形成部分5mm厚、パターン300nm深さ)をシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)で貼り付け、さらにNiスタンパ外周部にシリコーンゴム(断面6mm角正方形)を前記接着剤で貼り付けたものを用いる。
【0043】
先ず、5インチφ0.5mmtのSi基板に、500nm厚となるように、ポリスチレン679(エー・アンド・エムスチレン製)10%ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液を塗布した(図11(a))。0.1Torr以下の減圧で、250℃に加熱し、12MPaで10分加圧してシリコーンゴムを押しつぶし、冷却し、100℃以下で大気開放した(図11(b))。プレス圧力を解放すると、押しつぶされていたシリコーンゴムが元に戻ろうとして、剥離方向に力が働き、スタンパ端部に剥離起点が生まれた。Si基板を真空吸着しておいて、0.1mm/sの速さで鉛直引き上げた所、容易に剥離した(図11(c))。
なお、図12のような、端部にテーパを設けたNiスタンパに弾性体を貼り付けたものを用いても同様の効果が得られた。
【0044】
[実施例5]
本発明の実施例の1つである、可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定された光透過型スタンパによるスタンプを図13を用いて説明する。
【0045】
石英スタンパ(VIOSIL:信越化学製、5inchφ6.35mm厚)に弾性体としてシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)を用いて厚さ1mmの中抜きのシリコーンゴムを貼り、さらに支持体としてSUS製枠を貼り付けたものを用いた。先ず、石英基板(VIOSIL:信越化学製、5inchφ6.35mm厚)に光硬化性樹脂(SCR701JSR製)を、膜厚500nmになるようにスピン塗布した(図13(a))。次に、0.1Torr以下の減圧で、加熱なし、0.5MPaで10分加圧した(図13(b))。次に、UVを100mJ/cm2で照射した(図13(c))。更に、大気解放後、SUS枠にフックをかけて引っ張ると弾性体が伸びてスタンプ端部に応力が集中し、端部が剥離起点となってスムーズな剥離が行われた(図13(d))。
【0046】
[本発明の適用例]
以下、本発明の剥離機構付きスタンパを用いるナノプリントが好ましく適用される幾つかの分野を説明する。
【0047】
[実施例6:バイオ(免疫)チップ]
図14はバイオチップ900の概略図である。ガラス製の基板901には深さ3マイクロメーター,幅20マイクロメーターの流路902が形成されており、DNA(デオキシリボ核酸),血液,蛋白質などが含まれる検体を導入孔903から導入し、流路902を流した後、排出孔904へ流す構造になっている。流路902には分子フィルター905が設置されている。分子フィルター905には直径250ナノメーターから300ナノメーター,高さ3マイクロメーターの突起物集合体100が形成されている。
【0048】
図15は分子フィルター905が形成されている近傍の断面鳥瞰図である。基板901には流路902が形成されており、流路902の一部には突起物集合体100が形成されている。基板901は上部基板1001によって蓋をされ、検体は流路902の内部を移動することになる。例えばDNAの鎖長解析の場合、DNAを含む検体が流路902を電気泳動する際にDNAの鎖長に応じて分子フィルター905によってDNAが高分解に分離される。分子フィルター905を通過した検体は基板901の表面に実装された半導体レーザー906からのレーザー光が照射される。DNAが通過する際に光検出器907への入射光は約4%低下するため光検出器907からの出力信号によって検体中のDNAの鎖長を解析することができる。光検出器907で検出された信号は信号配線908を介して信号処理チップ909に入力される。信号処理チップ909には信号配線910が結線されており、信号配線910は出力パッド911に結線され、外部からの端子に接続される。なお、電源は基板901の表面に設置された電源パッド912から各部品へ供給した。
【0049】
図16に分子フィルター905の断面図を示す。本実施例の分子フィルター905は、凹部を有する基板901と、基板901の凹部に形成された複数の突起物と、基板の凹部を覆うように形成された上部基板1001から構成されている。ここで、突起物の先端部は上部基板と接触するように形成されている。突起物集合体100の主な成分は有機物であるため、変形することが可能であり、よって上部基板1001を流路902にかぶせる際に突起物集合体100が破損することはない。従って、上部基板1001と突起物集合体100を密着させることが可能となる。このような構成とすることにより、検体が突起物と上部基板1001との隙間から漏れることがなく、高感度な分析が可能となる。実際にDNAの鎖長解析を実施した結果、ガラス製の突起物集合体100では塩基対の分解能が半値幅で10塩基対であったのに対し、有機物製の突起物集合体100では塩基対の分解能が半値幅で3塩基対に改善できることが分かった。本実施例の分子フィルターでは、突起物と上部基板が直接接触する構造としたが、例えば、上部基板に突起物と同じ材料の膜を形成し、突起物とこの膜が接触する構造とすれば密着性の向上を図ることができる。
【0050】
なお、本実施例では流路902は一本であったが、異なる大きさの突起物を設置した複数の流路902を配置することで同時に異なる分析を行うことも可能である。
【0051】
また、本実施例では検体としてDNAを調べたが、突起物集合体100の表面に糖鎖,蛋白質,抗原と反応する分子を予め修飾することで特定の糖鎖,蛋白質,抗原を分析してもよい。このように、突起物の表面に抗体を修飾させることで、免疫分析の感度を向上させることができる。
【0052】
本発明をバイオチップに適用することにより、直径がナノスケールの有機材料製の分析用突起物を簡便に形成できる効果を得られる。また、モールド表面の凹凸や有機材料薄膜の粘度を制御することで有機材料製突起物の位置,直径,高さを制御できる効果も得られる。高感度の分析用マイクロチップを提供することができる。
【0053】
[実施例7:多層配線基板]
図17は多層配線基板を作製するための工程を説明する図である。まず図17(a)に示すように、シリコン酸化膜1002と銅配線1003とで構成された多層配線基板1001の表面にレジスト702を形成した後にスタンパ(図示省略)によるパターン転写を行なう。次に、多層配線基板1001の露出領域703をCF4/H2ガスによってドライエッチングすると図17(b)に示すように多層配線基板1001表面の露出領域703が溝形状に加工される。次にレジスト702をRIEによりレジストエッチングして、段差の低い部分のレジストを除去することで図17(c)に示すように露出領域703が拡大して形成される。この状態から、先に形成した溝の深さが銅配線1003に到達するまで露出領域703のドライエッチングを行うと、図17(d)に示すような構造が得られ、次にレジスト702を除去することで図17(e)に示すような、表面に溝形状を有する多層配線基板1001が得られる。この状態から、多層配線基板1001の表面にスパッタにより金属膜を形成した後(図示省略)、電解メッキを行なうことで図17(f)に示すように金属メッキ膜1004が形成される。その後、多層配線基板1001のシリコン酸化膜1002が露出するまで金属メッキ膜1004の研磨を行なえば、図17(g)に示すように金属配線を表面に有する多層配線基板1001を得ることができる。
【0054】
また、多層配線基板を作製するための別な工程を説明する。図17(a)で示した状態から露出領域703のドライエッチングを行なう際に、多層配線基板1001内部の銅配線1003に到達するまでエッチングすることで、図17(h)に示す構造が得られる。次にレジスト702をRIEによりエッチングして、段差の低い部分のレジストを除去することで図17(i)に示す構造が得られる。この状態から、多層配線基板1001の表面にスパッタによる金属膜1005を形成すると図17(j)の構造が得られる。次にレジスト702をリフトオフで除去することで、図17(k)に示す構造が得られる。次に、残った金属膜1005を用いて無電解メッキを行なうことで図17(l)に示した構造の多層配線基板1001を得ることができる。
本発明を多層配線基板に適用することで、高い寸法精度を持つ配線を形成できる。
【0055】
[実施例8:磁気ディスク]
図18は本実施例による磁性記録媒体の全体図及び断面拡大図である。基板は微細な凹凸を有するガラスで構成される。基板上には、シード層、下地層、磁性層、保護層が形成されている。以下、図19を用いて、本実施例による磁性記録媒体の製造方法を説明する。図19にナノプリント法によるガラスへの凹凸形成方法を、半径方向に切った断面図で示す。まずガラス基板を準備する。本実施の形態ではソーダライムガラスを用いた。基板の材料については平坦性を有していれば特に限定されるものではなく、アルミノシリケートガラスなどの他のガラス基板材料やAlなどの金属基板を用いても良い。そして図19(a)のように樹脂膜を200nm厚みになるようにスピンコータを用いて形成した。ここで樹脂としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)を用いた。
【0056】
一方、金型としては、磁気記録媒体中央の穴に同心円状になるように溝を形成したSiウエハを用意する。溝寸法は幅88nm、深さ200nmとし、溝と溝の間隔は110nmとした。本金型の凹凸は非常に微細であるので、電子線ビームを用いたフォトリソグラフィで形成した。次に図19(b)のように250℃に加熱して樹脂粘度を下げた上で、金型をプレスする。金型を樹脂のガラス転移点以下の温度で離型すると図19(c)のような金型と凹凸が逆転したパターンが得られる。ナノプリント法を用いると、このように、可視光波長よりも小さい微細な、一般の光リソグラフィの露光可能寸法限界を超えたパターン形成が可能である。さらに、ドライエッチングにより、樹脂パターン底部に残った残膜を除去することにより、図19(d)のようなパターンが形成される。この樹脂膜をマスクとして用いて、さらに基板を弗酸でエッチングすることにより、図19(e)のように基板を加工することができ、樹脂を剥離液で除去することにより、図19(f)のような幅110nm深さ150nmの溝を形成した。この後、ガラス基板上にNiPからなるシード層を無電解めっきで形成する。一般的な磁気ディスクは、NiP層を10μm以上の厚みで形成するが、本実施の形態では、ガラス基板に形成した微細な凹凸形状を上層にも反映させるため、100nmに留めた。さらに一般的に磁気記録媒体形成に用いられているスパッタ法を用いて、Cr下地層15nm、CoCrPt磁性層14nm、C保護層10nmを順次成膜することにより、本実施の形態の磁気記録媒体を作製した。本実施の形態の磁気記録媒体は磁性体が幅88nmの非磁性層壁によって半径方向に隔離される。このことによって、面内磁気異方性を高めることができた。なお、研磨テープによる同心円状のパターン形成(テクスチャリング)は、従来から知られているが、パターン間隔はミクロンスケールと大きく、高密度記録媒体には適用困難である。本実施例の磁気記録媒体はナノプリント法を用いた微細パターンで磁気異方性を確保し、400Gb/平方インチもの高密度記録を実現できた。なお、ナノプリントによるパターン形成は、円周方向に限るものではなく、半径方向に非磁性隔壁を形成することができる。さらに本実施の形態で述べた磁気異方性付与効果は、シード層、下地層、磁性層、保護層の材料によって特に限定されるものではない。
【0057】
[実施例9:光導波路]
本実施例では入射光の進行方向が変わる光デバイスを光情報処理装置に適用した一例を述べる。
【0058】
図20は作製した光回路500の概略構成図である。光回路500は縦30ミリメートル,横5ミリメートル,厚さ1ミリメートルの窒化アルミニウム製の基盤501の上に、インジウムリン系の半導体レーザーとドライバ回路からなる10個の発信ユニット502,光導波路503,光コネクタ504から構成されている。なお、10個の半導体レーザーの発信波長は50ナノメートルずつ異なっており、光回路500は光多重通信系のデバイスの基本部品である。
【0059】
図21は光導波路503内部での突起物406の概略レイアウト図である。発信ユニット502と光導波路503とのアライメント誤差を許容できるように、光導波路503の端部は幅20マイクロメーターのラッパ状になっており、フォトニックバンドギャップによって信号光が幅1マイクロメーターの領域に導かれる構造になっている。なお、突起物406は間隔0.5マイクロメーターで配列したが、図21では簡略化し実際の本数よりも突起物406を少なく記載している。
【0060】
光回路500では10種類の異なる波長の信号光を重ね合わせて出力できるが、光の進行方向を変更できるために光回路500の横幅を5ミリメートルと非常に短くでき、光通信用デバイスを小型化できる効果がある。また、モールドのプレスによって突起物406を形成できるため、製造コストを下げられる効果も得られる。本実施例では、入力光を重ね合わせるデバイスであったが、光の経路を制御する全ての光デバイスに光導波路503が有用であることは明らかである。
【0061】
本発明を光導波路に適用することにより、有機物を主成分とする突起物を周期的に配列した構造体の中に信号光を進行させることで光の進行方向を変更できる効果を得られる。また、突起物をモールドのプレスという簡便な製造技術で形成できることから、低コストに光デバイスを製造できる効果を得られる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱・加圧機構を有するスタンパを用い、基板上に微細構造体を形成するナノプリント転写法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路は微細化,集積化が進んでおり、その微細加工を実現するためのパターン転写技術としてフォトリソグラフィ装置の高精度化が進められてきた。しかし、加工方法が光露光の光源の波長に近づき、リソグラフィ技術も限界に近づいてきた。そのため、さらなる微細化,高精度化を進めるために、リソグラフィ技術に代わり、荷電粒子線装置の一種である電子線描画装置が用いられるようになった。
【0003】
電子線を用いたパターン形成は、i線、エキシマレーザー等の光源を用いたパターン形成における一括露光方法とは異なり、マスクパターンを描画していく方法をとるため、描画するパターンが多ければ多いほど露光(描画)時間がかかり、パターン形成に時間がかかることが欠点とされている。そのため、256メガ、1ギガ、4ギガと、集積度が飛躍的に高まるにつれ、その分パターン形成時間も飛躍的に長くなることになり、スループットが著しく劣ることが懸念される。そこで、電子ビーム描画装置の高速化のために、各種形状のマスクを組み合わせそれらに一括して電子ビームを照射して複雑な形状の電子ビームを形成する一括図形照射法の開発が進められている。この結果、パターンの微細化が進められる一方で、電子線描画装置を大型化せざるを得ないほか、マスク位置をより高精度に制御する機構が必要になるなど、装置コストが高くなるという欠点があった。
【0004】
これに対し、微細なパターン形成を低コストで行うための技術が下記特許文献1及び2、非特許文献1などにおいて開示されている。これは、基板上に形成したいパターンと同じパターンの凹凸を有するスタンパを、被転写基板表面に形成されたレジスト膜層に対して型押しすることで所定のパターンを転写するものであり、特に特許文献2記載や非特許文献1のナノインプリント技術によれば、シリコンウエハをスタンパとして用い、25ナノメートル以下の微細構造を転写により形成可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許5,259,926号公報
【特許文献2】米国特許5,772,905号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Y.Chou et al.,Appl.Phys.Lett.,vol.67,p.3314(1995)
【非特許文献2】SPIE’S Microlithography,SantaClara,CA,Feb.27−28,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、微細パターンを形成可能とされるインプリント技術によっても、基板上にプレスされたスタンパを、基板上に形成された微細な凹凸を崩すことなく、基板から高精度かつ容易に剥離することが困難であった。例えば、シリコンウエハをスタンパに用いた場合、スタンパの剥離時にスタンパが破損する恐れがあった。
【0008】
上記非特許文献2では、スタンパに剥離処理を施し、機械的に剥離することが開示されている。この方法では、上記のスタンパの剥離時にスタンパが破損する問題は何ら解決されていない。
【0009】
以上の技術課題に鑑み、本発明は、半導体デバイスなどの製造工程において、微細な形状の構造体を形成するためのパターン転写技術であるナノプリント法において、基板からスタンパを剥離する工程を高精度かつ容易に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、基板とスタンパとの配置がリジッド過ぎることが剥離を効率的に行うことのできない理由と考え、本発明に至った。
【0011】
即ち、第1に、本発明は、スタンパの発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパに剥離機構を設けることを特徴とするナノプリント用スタンパである。剥離機構を設けることで、基板とスタンパが剥離しやすくなる。
【0012】
例えば、本発明は、スタンパの発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパの凹凸形成面側の周辺部の一部が基板中心部が厚くなるような傾斜を有することを特徴とするナノプリント用スタンパである。スタンパの中心部を厚くすることで、剥離工程において、プレス中基板が反った状態だったものがプレス解放後に基板がもとの状態に戻ろうとするため、基板とスタンパがはがれようとする応力が意図的に創出され、この部分より基板とスタンパが剥離しやすくなる。
【0013】
また、本発明は、スタンパの発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパは可撓性を有することを特徴とするナノプリント用スタンパである。スタンパが可撓性を有することで、剥離工程において、基板とスタンパとの間に局所的な力が負荷されて、基板とスタンパの両方またはいずれか一方が破損することが防止される。
【0014】
ここで、スタンパは、弾性体を介して支持体に固定されていることが好ましい。スタンパを、弾性体を介して支持体に固定することによって、上述の基板とスタンパとの間に働く力がよりフレキシブルになり、基板とスタンパの破損防止に効果的である。
【0015】
また、前記支持体は、長方形、正方形、円、楕円の枠構造であることが好ましい。枠構造とすることで、スタンパとの弾性体を介しての固定を必要最小限とすることができるとともに、ナノプリント法によるパターン転写の操作性にも優れている。
【0016】
また、本発明は、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、前記スタンパの凹凸形成面側の端部に、前記スタンパと基板の剥離を容易にするための弾性体を有することを特徴とする。
なお、前記プレス装置は、加熱・加圧機構を有するものを用いることができる。
【0017】
第2に、本発明は、パターン転写方法の発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、前記スタンパに剥離機構を設けることを特徴とする。
【0018】
例えば、本発明は、パターン転写方法の発明であり、プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、前記スタンパの凹凸形成面側の周辺部の一部が基板中心部が厚くなるような傾斜を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、パターン転写方法の発明であり、加熱・加圧機構を有するプレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、可撓性を有するスタンパを用いることを特徴とする。
【0020】
ここで、前記スタンパは、弾性体を介して支持体に固定されていることが好ましい。
また、前記支持体は、長方形、正方形、円または楕円の枠構造であることが好ましい。
【0021】
ここで、樹脂基板または基板上の樹脂膜を成型させる方法としては、(1)樹脂基板または基板上の樹脂膜を、加熱して変形させる、(2)樹脂基板または基板上の樹脂膜を加圧成型後に、光硬化させる、(3)樹脂基板または基板上の樹脂膜を光硬化させる、から選択されることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ナノプリントスタンパに剥離機構、特に、スタンパの中心部を厚くすることで、剥離工程において、プレス中基板が反った状態だったものがプレス解放後に基板がもとの状態に戻ろうとするため、基板とスタンパがはがれようとする応力が意図的に創出され、この部分より基板とスタンパが剥離しやすくなる。また、本発明によれば、可撓性を有するスタンパを用いることで、ナノプリントの剥離工程において、基板とスタンパとの間に局所的な力が負荷されて、基板とスタンパの両方またはいずれか一方が破損することが防止される。更に、本発明によれば、スタンパと基板の間にバネ機構を設けることで、剥離工程において、スタンパと基板の剥離を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ナノプリントの各工程を示す模式図。
【図2】可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定されたスタンパの作製方法。
【図3】可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定されたスタンパの作製方法。
【図4】本発明のスタンパを用いたナノスタンプの方法。
【図5】曲面スタンパの作製方法。
【図6】曲面スタンパの作製方法。
【図7】曲面スタンパの作製方法。
【図8】深溝付き凸曲面スタンパの作製。
【図9】深溝付き凸曲面スタンパによるスタンプ。
【図10】深溝付き凹曲面スタンパ。
【図11】端部弾性体付きスタンパの作製方法。
【図12】端部弾性体付きスタンパの作製方法。
【図13】可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定された光透過型スタンパによるスタンプ。
【図14】バイオチップの概略図。
【図15】分子フィルターが形成されている近傍の断面鳥瞰図。
【図16】分子フィルターの断面図。
【図17】多層配線基板を作製するための工程を説明する図。
【図18】磁性記録媒体の全体図及び断面拡大図。
【図19】ナノプリント法によるガラスへの凹凸形成方法を、半径方向に切った断面図で示す。
【図20】光回路500の概略構成図。
【図21】光導波路内部での突起物の概略レイアウト図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
先ず、図1を参照しながら、ナノプリント方法について説明する。シリコン基板等の表面に微小なパターンを有するスタンパを作製する。これとは別の基板上に樹脂膜を設ける(図1(a))。図示しない加熱・加圧機構を有するプレス装置を用い、該樹脂のガラス転移温度(Tg)以上の温度で、所定の圧力でスタンパを樹脂膜上にプレスする(図1(b))。冷却・硬化させる(図1(c))。スタンパと基板を剥離して、スタンパの微細なパターンを基板上の樹脂膜に転写する(図1(d))。また、加熱成型する工程の変わりに、光硬化性の樹脂を用い、成型後に、樹脂に光を照射し、樹脂を硬化させても良い。更に、ガラス等の光透過性のスタンパを用い、プレス後に、該光透過性のスタンパの上方より光を照射して、樹脂を光硬化させてもよい。
【0025】
ナノプリント方法によれば、(1)集積化された極微細パターンを効率良く転写できる、(2)装置コストがやすい、(3)複雑な形状に対応できピラー形成なども可能である、等の特徴がある。
【0026】
ナノプリント法の応用分野については、(1)DNAチップや免疫分析チップ等の各種バイオデバイス、特に使い捨てのDNAチップ等、(2)半導体多層配線、(3)プリント基板やRFMEMS、(4)光または磁気ストレージ、(5)導波路、回折格子、マイクロレンズ、偏光素子等の光デバイス、フォトニック結晶、(6)シート、(7)LCDディスプレイ、(8)FEDディスプレイ、等広く挙げられる。本発明はこれらの分野に好ましく適用される。
本発明において、ナノプリントとは、数100μmから数nm程度の範囲の転写を言う。
【0027】
本発明において、プレス装置は特に限定されないが、加熱・加圧機構を有するものや、光透過性スタンパの上方より光を照射できる機構を有するものが、パターン転写を効率良く行う上で好ましい。
【0028】
本発明において、スタンパは、転写されるべき微細なパターンを有するものであり、スタンパに該パターンを形成する方法は特に制限されない。例えば、フォトリソグラフィや電子線描画法等、所望する加工精度に応じて、選択される。スタンパの材料としては、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、セラミック、プラスチック等、強度と要求される精度の加工性を有するものであれば良い。具体的には、Si、SiC、SiN、多結晶Si、ガラス、Ni、Cr、Cu、及びこれらを1種以上含むものが好ましく例示される。
【0029】
本発明において、基板となる材料は特に限定されないが、所定の強度を有するものであれば良い。具体的には、シリコン、各種金属材料、ガラス、セラミック、プラスチック、等が好ましく例示される。
【0030】
本発明において、微細な構造が転写される樹脂膜は特に限定されないが、所望する加工精度に応じて、選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニール、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ガラス強化ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリアレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアミドビスマレイミド、ポリビスアミドトリアゾール等の熱硬化性樹脂、及びこれらを2種以上ブレンドした材料を用いることが可能である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
本発明の実施例の1つである、可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定されたスタンパについて、その作製方法を図2、3を用いて説明する。図2、3は概念図であり、パターン形状は単純化しかつ大きめに書かれていることを断っておく。まず、図2(a)のように縦100mm×横100mm×厚さ0.5mmのSi基板1を準備した。次に図2(b)のようにスピンコーターを用いて、電子線露光用のフォトレジスト2(OEBR1000、東京応化製)を塗布した。続いて、図2(c)のように電子線描画装置JBX6000FS(日本電子製)を用い、電子線ビーム3で直接描画することにより露光し、現像することにより、図2(d)のような凹凸を形成した。レジストは、直径100nmの円形パターンがピッチ150nmでマトリクス状に並ぶように残した。なお、パターンが数百nmオーダー以上であれば、電子線ではなく、Krレーザ(波長351nm)等を用いても良い。図2(d)の凹凸をマスクパターンとしてSi基板1のドライエッチングを行い、図2(e)のようにSi基板1に凹凸を形成後、O2アッシングにより、レジスト2を除去した。以上の工程で、直径100nmの円柱状突起が1面に形成されたシリコン製のマスタ原盤を得た。このシリコン原盤に図2(f)のようにNiを数十nmの厚みでスパッタ成膜し、さらに図2(g)のようにNiめっきで100μmにまで成膜を行った。図2(f)と(g)の工程は無電解めっきを用いても差し支えない。最後にSi原盤を剥離することにより直径100nmの穴がマトリクス状に形成されたNiスタンパを得た。この薄く作られたNiスタンパは、可撓性を有する。なお、Niスタンパはシリコン原盤と凹凸が逆転したパターンとなるので、原盤は逆転パターンで作製しておく必要がある。また、シリコン原盤から直接スタンパを作製せず、シリコン基盤パターンをサブマスタに転写した後で、サブマスタからNiスタンパを作製することもできる。
【0032】
図3(a)は、上記の方法で形成されたNiスタンパ6の斜視図である。このパターン裏面に図3(b)のように弾性体7としてシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)を用いて厚さ1mmの中抜きのシリコーンゴムを貼り、さらに図3(c)のように支持体8としてSUS製枠を貼り付けることにより、本発明のスタンパが得られる。弾性体7、支持体8は、スタンパ形状に合わせて、正方形、長方形、円、だ円等の形状を取ることができる。
【0033】
次に、図4を用いて本発明のスタンパを用いたナノスタンプの方法を説明する。図4(a)はSUS枠に弾性体を介して接合されたスタンパを、ポリスチレン679(エー・アンド・エムスチレン製)の10wt%ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液をスピンコートしたSi基板の上にセットした状態を示す。次に0.1Torr以下に減圧後、250℃に加熱し、図4(b)のように12MPaの圧力で10分保持し、ポリスチレンを変形せしめた。続いて、100℃以下になるまで放冷後、大気開放を行った。この後、剥離を行うのであるが、従来の剥離方法では基板からスタンパを引き剥がす際、スタンパと基板がナノスケールの凹凸によって噛み合わさっているため、非常に大きな力を必要とし、スタンパを破損してしまう危険が高かった。これに対し、本発明では、図4(c)のように支持枠の一端にフックを引っ掛けて支持枠を上方に引き上げた。すると図4(d)のように弾性体が厚み方向に伸び、その弾性力をもってNi部分を樹脂から剥がそうとする力が働いた。スタンプの端に剥離の起点を設けることができたため、図4(e)のように、スムーズに剥離を行うことができた。本発明のスタンパ構造において、弾性体が無くスタンパのNi部分が直接支持枠に固定されていた場合、剥離方向に力をかけると、支持枠が折れたり、破損したりする場合が多いが、弾性体をつけることでスタンパの破損無く剥離を行うことが可能となった。
【0034】
[実施例2]
本発明の実施例の1つである、曲面スタンパについて、その作製方法を図5、6、7を用いて説明する。
【0035】
既述の方法で作製したNiスタンパ(6インチ100μm厚)をSUS(6インチ中心部1cm厚、端部7mm厚)にシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)で接着し、上方より圧力を加えて(図5(a))、凸曲面スタンパを作製した(図5(b))。同様に凹曲面スタンパも形成可能である(図6)。
【0036】
上記方法以外にも凹曲面スタンパにAu20nmスパッタを行い、次に電気Niめっきを行い中心部が1cm程度の厚さにした後、凹曲面スタンパより剥離して曲面金型を作成することもできる。また、凸曲面スタンパに同様の方法でNiめっきすることで凹曲面スタンパを作成することも可能である。
【0037】
以下、凸曲面スタンパによるスタンプを示す(図7)。Si基板5インチφ0.5mmtに500nm厚ポリスチレン679(エー・アンド・エムスチレン製)10%ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液を塗布し、4インチφ緩衝材3mmtを下に引いた(図7(a))。0.1Torr以下に減圧し、250℃に加熱、12MPaで10分加圧した後、冷却し、100℃以下で大気開放した(図7(b))。サンプルを取り出し、緩衝材取り除いたところ、反っていた基板が元に戻ろうとして、端部が容易に剥がれた。端部を治具固定して、0.1mm/sの速さで鉛直引き上げたところ、容易に剥離した(図7(c))。
【0038】
[実施例3]
本発明の実施の形態の1つである、スタンパ表面を曲面にするとともに、スタンパ表面に深溝を設けた場合の、その作製方法を図8、9、10を用いて説明する。
【0039】
Niスタンパ(6インチ100μm厚)中心部に、幅10μm深さ3μmの十文字深さのパターンを作っておく。SUS(6インチ中心部1cm厚、端部7mm厚)にシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)で接着し、深溝付き凸曲面スタンパを作製した(図8)。
【0040】
この深溝付き凸曲面スタンパによるスタンプを行った。先ず、Si基板5インチφ0.5mmtに500nm厚にポリスチレン679(エー・アンド・エムスチレン製)10%ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液を塗布し、4インチφ緩衝材3mmtを下に引く。さらにプレス装置台座面を凹曲面にしておく(図9(a))。次に、0.1Torr以下の減圧で、250℃に加熱し、12MPaで10分加圧した。これにより、台座の曲面に沿って基板が曲がるのでスムーズに曲がる(図9(b))。冷却し、100℃以下で大気開放し、サンプル取り出し、緩衝材取り除いた。反っていた基板が元に戻ろうとして端部が剥がれる。また、中心部の深溝に大気が導入され中心部にも剥離起点が設けられる。端部を治具固定して、0.1mm/sの速さで鉛直引き上げた所、容易に剥離した(図9(c))。
なお、図10のような深溝付き凹曲面スタンパでも同様の効果が得られた。
【0041】
[実施例4]
本発明の実施例の1つである、端部弾性体付きスタンパの作製方法を図11、12を用いて説明する。
【0042】
SUS枠(6インチφ1mm厚)に段付きNiスタンパ(4インチφ外周1cm幅部分1mm厚、パターン形成部分5mm厚、パターン300nm深さ)をシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)で貼り付け、さらにNiスタンパ外周部にシリコーンゴム(断面6mm角正方形)を前記接着剤で貼り付けたものを用いる。
【0043】
先ず、5インチφ0.5mmtのSi基板に、500nm厚となるように、ポリスチレン679(エー・アンド・エムスチレン製)10%ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液を塗布した(図11(a))。0.1Torr以下の減圧で、250℃に加熱し、12MPaで10分加圧してシリコーンゴムを押しつぶし、冷却し、100℃以下で大気開放した(図11(b))。プレス圧力を解放すると、押しつぶされていたシリコーンゴムが元に戻ろうとして、剥離方向に力が働き、スタンパ端部に剥離起点が生まれた。Si基板を真空吸着しておいて、0.1mm/sの速さで鉛直引き上げた所、容易に剥離した(図11(c))。
なお、図12のような、端部にテーパを設けたNiスタンパに弾性体を貼り付けたものを用いても同様の効果が得られた。
【0044】
[実施例5]
本発明の実施例の1つである、可撓性を有し弾性体を介して支持枠に固定された光透過型スタンパによるスタンプを図13を用いて説明する。
【0045】
石英スタンパ(VIOSIL:信越化学製、5inchφ6.35mm厚)に弾性体としてシリコーン系接着剤(KE1820、信越シリコーン製)を用いて厚さ1mmの中抜きのシリコーンゴムを貼り、さらに支持体としてSUS製枠を貼り付けたものを用いた。先ず、石英基板(VIOSIL:信越化学製、5inchφ6.35mm厚)に光硬化性樹脂(SCR701JSR製)を、膜厚500nmになるようにスピン塗布した(図13(a))。次に、0.1Torr以下の減圧で、加熱なし、0.5MPaで10分加圧した(図13(b))。次に、UVを100mJ/cm2で照射した(図13(c))。更に、大気解放後、SUS枠にフックをかけて引っ張ると弾性体が伸びてスタンプ端部に応力が集中し、端部が剥離起点となってスムーズな剥離が行われた(図13(d))。
【0046】
[本発明の適用例]
以下、本発明の剥離機構付きスタンパを用いるナノプリントが好ましく適用される幾つかの分野を説明する。
【0047】
[実施例6:バイオ(免疫)チップ]
図14はバイオチップ900の概略図である。ガラス製の基板901には深さ3マイクロメーター,幅20マイクロメーターの流路902が形成されており、DNA(デオキシリボ核酸),血液,蛋白質などが含まれる検体を導入孔903から導入し、流路902を流した後、排出孔904へ流す構造になっている。流路902には分子フィルター905が設置されている。分子フィルター905には直径250ナノメーターから300ナノメーター,高さ3マイクロメーターの突起物集合体100が形成されている。
【0048】
図15は分子フィルター905が形成されている近傍の断面鳥瞰図である。基板901には流路902が形成されており、流路902の一部には突起物集合体100が形成されている。基板901は上部基板1001によって蓋をされ、検体は流路902の内部を移動することになる。例えばDNAの鎖長解析の場合、DNAを含む検体が流路902を電気泳動する際にDNAの鎖長に応じて分子フィルター905によってDNAが高分解に分離される。分子フィルター905を通過した検体は基板901の表面に実装された半導体レーザー906からのレーザー光が照射される。DNAが通過する際に光検出器907への入射光は約4%低下するため光検出器907からの出力信号によって検体中のDNAの鎖長を解析することができる。光検出器907で検出された信号は信号配線908を介して信号処理チップ909に入力される。信号処理チップ909には信号配線910が結線されており、信号配線910は出力パッド911に結線され、外部からの端子に接続される。なお、電源は基板901の表面に設置された電源パッド912から各部品へ供給した。
【0049】
図16に分子フィルター905の断面図を示す。本実施例の分子フィルター905は、凹部を有する基板901と、基板901の凹部に形成された複数の突起物と、基板の凹部を覆うように形成された上部基板1001から構成されている。ここで、突起物の先端部は上部基板と接触するように形成されている。突起物集合体100の主な成分は有機物であるため、変形することが可能であり、よって上部基板1001を流路902にかぶせる際に突起物集合体100が破損することはない。従って、上部基板1001と突起物集合体100を密着させることが可能となる。このような構成とすることにより、検体が突起物と上部基板1001との隙間から漏れることがなく、高感度な分析が可能となる。実際にDNAの鎖長解析を実施した結果、ガラス製の突起物集合体100では塩基対の分解能が半値幅で10塩基対であったのに対し、有機物製の突起物集合体100では塩基対の分解能が半値幅で3塩基対に改善できることが分かった。本実施例の分子フィルターでは、突起物と上部基板が直接接触する構造としたが、例えば、上部基板に突起物と同じ材料の膜を形成し、突起物とこの膜が接触する構造とすれば密着性の向上を図ることができる。
【0050】
なお、本実施例では流路902は一本であったが、異なる大きさの突起物を設置した複数の流路902を配置することで同時に異なる分析を行うことも可能である。
【0051】
また、本実施例では検体としてDNAを調べたが、突起物集合体100の表面に糖鎖,蛋白質,抗原と反応する分子を予め修飾することで特定の糖鎖,蛋白質,抗原を分析してもよい。このように、突起物の表面に抗体を修飾させることで、免疫分析の感度を向上させることができる。
【0052】
本発明をバイオチップに適用することにより、直径がナノスケールの有機材料製の分析用突起物を簡便に形成できる効果を得られる。また、モールド表面の凹凸や有機材料薄膜の粘度を制御することで有機材料製突起物の位置,直径,高さを制御できる効果も得られる。高感度の分析用マイクロチップを提供することができる。
【0053】
[実施例7:多層配線基板]
図17は多層配線基板を作製するための工程を説明する図である。まず図17(a)に示すように、シリコン酸化膜1002と銅配線1003とで構成された多層配線基板1001の表面にレジスト702を形成した後にスタンパ(図示省略)によるパターン転写を行なう。次に、多層配線基板1001の露出領域703をCF4/H2ガスによってドライエッチングすると図17(b)に示すように多層配線基板1001表面の露出領域703が溝形状に加工される。次にレジスト702をRIEによりレジストエッチングして、段差の低い部分のレジストを除去することで図17(c)に示すように露出領域703が拡大して形成される。この状態から、先に形成した溝の深さが銅配線1003に到達するまで露出領域703のドライエッチングを行うと、図17(d)に示すような構造が得られ、次にレジスト702を除去することで図17(e)に示すような、表面に溝形状を有する多層配線基板1001が得られる。この状態から、多層配線基板1001の表面にスパッタにより金属膜を形成した後(図示省略)、電解メッキを行なうことで図17(f)に示すように金属メッキ膜1004が形成される。その後、多層配線基板1001のシリコン酸化膜1002が露出するまで金属メッキ膜1004の研磨を行なえば、図17(g)に示すように金属配線を表面に有する多層配線基板1001を得ることができる。
【0054】
また、多層配線基板を作製するための別な工程を説明する。図17(a)で示した状態から露出領域703のドライエッチングを行なう際に、多層配線基板1001内部の銅配線1003に到達するまでエッチングすることで、図17(h)に示す構造が得られる。次にレジスト702をRIEによりエッチングして、段差の低い部分のレジストを除去することで図17(i)に示す構造が得られる。この状態から、多層配線基板1001の表面にスパッタによる金属膜1005を形成すると図17(j)の構造が得られる。次にレジスト702をリフトオフで除去することで、図17(k)に示す構造が得られる。次に、残った金属膜1005を用いて無電解メッキを行なうことで図17(l)に示した構造の多層配線基板1001を得ることができる。
本発明を多層配線基板に適用することで、高い寸法精度を持つ配線を形成できる。
【0055】
[実施例8:磁気ディスク]
図18は本実施例による磁性記録媒体の全体図及び断面拡大図である。基板は微細な凹凸を有するガラスで構成される。基板上には、シード層、下地層、磁性層、保護層が形成されている。以下、図19を用いて、本実施例による磁性記録媒体の製造方法を説明する。図19にナノプリント法によるガラスへの凹凸形成方法を、半径方向に切った断面図で示す。まずガラス基板を準備する。本実施の形態ではソーダライムガラスを用いた。基板の材料については平坦性を有していれば特に限定されるものではなく、アルミノシリケートガラスなどの他のガラス基板材料やAlなどの金属基板を用いても良い。そして図19(a)のように樹脂膜を200nm厚みになるようにスピンコータを用いて形成した。ここで樹脂としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)を用いた。
【0056】
一方、金型としては、磁気記録媒体中央の穴に同心円状になるように溝を形成したSiウエハを用意する。溝寸法は幅88nm、深さ200nmとし、溝と溝の間隔は110nmとした。本金型の凹凸は非常に微細であるので、電子線ビームを用いたフォトリソグラフィで形成した。次に図19(b)のように250℃に加熱して樹脂粘度を下げた上で、金型をプレスする。金型を樹脂のガラス転移点以下の温度で離型すると図19(c)のような金型と凹凸が逆転したパターンが得られる。ナノプリント法を用いると、このように、可視光波長よりも小さい微細な、一般の光リソグラフィの露光可能寸法限界を超えたパターン形成が可能である。さらに、ドライエッチングにより、樹脂パターン底部に残った残膜を除去することにより、図19(d)のようなパターンが形成される。この樹脂膜をマスクとして用いて、さらに基板を弗酸でエッチングすることにより、図19(e)のように基板を加工することができ、樹脂を剥離液で除去することにより、図19(f)のような幅110nm深さ150nmの溝を形成した。この後、ガラス基板上にNiPからなるシード層を無電解めっきで形成する。一般的な磁気ディスクは、NiP層を10μm以上の厚みで形成するが、本実施の形態では、ガラス基板に形成した微細な凹凸形状を上層にも反映させるため、100nmに留めた。さらに一般的に磁気記録媒体形成に用いられているスパッタ法を用いて、Cr下地層15nm、CoCrPt磁性層14nm、C保護層10nmを順次成膜することにより、本実施の形態の磁気記録媒体を作製した。本実施の形態の磁気記録媒体は磁性体が幅88nmの非磁性層壁によって半径方向に隔離される。このことによって、面内磁気異方性を高めることができた。なお、研磨テープによる同心円状のパターン形成(テクスチャリング)は、従来から知られているが、パターン間隔はミクロンスケールと大きく、高密度記録媒体には適用困難である。本実施例の磁気記録媒体はナノプリント法を用いた微細パターンで磁気異方性を確保し、400Gb/平方インチもの高密度記録を実現できた。なお、ナノプリントによるパターン形成は、円周方向に限るものではなく、半径方向に非磁性隔壁を形成することができる。さらに本実施の形態で述べた磁気異方性付与効果は、シード層、下地層、磁性層、保護層の材料によって特に限定されるものではない。
【0057】
[実施例9:光導波路]
本実施例では入射光の進行方向が変わる光デバイスを光情報処理装置に適用した一例を述べる。
【0058】
図20は作製した光回路500の概略構成図である。光回路500は縦30ミリメートル,横5ミリメートル,厚さ1ミリメートルの窒化アルミニウム製の基盤501の上に、インジウムリン系の半導体レーザーとドライバ回路からなる10個の発信ユニット502,光導波路503,光コネクタ504から構成されている。なお、10個の半導体レーザーの発信波長は50ナノメートルずつ異なっており、光回路500は光多重通信系のデバイスの基本部品である。
【0059】
図21は光導波路503内部での突起物406の概略レイアウト図である。発信ユニット502と光導波路503とのアライメント誤差を許容できるように、光導波路503の端部は幅20マイクロメーターのラッパ状になっており、フォトニックバンドギャップによって信号光が幅1マイクロメーターの領域に導かれる構造になっている。なお、突起物406は間隔0.5マイクロメーターで配列したが、図21では簡略化し実際の本数よりも突起物406を少なく記載している。
【0060】
光回路500では10種類の異なる波長の信号光を重ね合わせて出力できるが、光の進行方向を変更できるために光回路500の横幅を5ミリメートルと非常に短くでき、光通信用デバイスを小型化できる効果がある。また、モールドのプレスによって突起物406を形成できるため、製造コストを下げられる効果も得られる。本実施例では、入力光を重ね合わせるデバイスであったが、光の経路を制御する全ての光デバイスに光導波路503が有用であることは明らかである。
【0061】
本発明を光導波路に適用することにより、有機物を主成分とする突起物を周期的に配列した構造体の中に信号光を進行させることで光の進行方向を変更できる効果を得られる。また、突起物をモールドのプレスという簡便な製造技術で形成できることから、低コストに光デバイスを製造できる効果を得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、
前記スタンパは可撓性を有するパターン部と枠状の支持体と前記支持体と前記パターン部の間に介在する弾性体から構成されることを特徴とするナノプリント用スタンパ。
【請求項2】
プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、
前記スタンパの凹凸形成面側の周辺部の一部が基板中心部が薄くなるような傾斜を有するものであることを特徴とするナノプリント用スタンパ。
【請求項3】
プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、
前記スタンパは可撓性を有するパターン部と枠状の支持体と前記支持体と前記パターン部の間に介在する弾性体から構成されるナノプリント用スタンパを用いることを特徴とするパターン転写方法。
【請求項4】
プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、
前記スタンパの凹凸形成面側の周辺部の一部が基板中心部が薄くなるような傾斜を有するナノプリント用スタンパを用いることを特徴とするパターン転写方法。
【請求項1】
プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、
前記スタンパは可撓性を有するパターン部と枠状の支持体と前記支持体と前記パターン部の間に介在する弾性体から構成されることを特徴とするナノプリント用スタンパ。
【請求項2】
プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのスタンパにおいて、
前記スタンパの凹凸形成面側の周辺部の一部が基板中心部が薄くなるような傾斜を有するものであることを特徴とするナノプリント用スタンパ。
【請求項3】
プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、
前記スタンパは可撓性を有するパターン部と枠状の支持体と前記支持体と前記パターン部の間に介在する弾性体から構成されるナノプリント用スタンパを用いることを特徴とするパターン転写方法。
【請求項4】
プレス装置を用い、基板上に微細構造を形成するためのナノプリント用スタンパを用いるパターン転写方法において、
前記スタンパの凹凸形成面側の周辺部の一部が基板中心部が薄くなるような傾斜を有するナノプリント用スタンパを用いることを特徴とするパターン転写方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2009−206519(P2009−206519A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131808(P2009−131808)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【分割の表示】特願2003−78460(P2003−78460)の分割
【原出願日】平成15年3月20日(2003.3.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【分割の表示】特願2003−78460(P2003−78460)の分割
【原出願日】平成15年3月20日(2003.3.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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