説明

ニッケル膜の成膜方法

【課題】CVDにより不純物の少ないニッケル膜を高スループットで成膜することができるニッケル膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】基板上に、成膜原料として、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物を用い、還元ガスとして、アンモニア、ヒドラジン、およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1種を用いたCVDにより初期ニッケル膜を成膜する第1工程と、初期ニッケル膜の上に、成膜原料として、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物を用い、還元ガスとして水素ガスを用いたCVDにより主ニッケル膜を成膜する第2工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蒸着法(CVD)によりニッケル膜を成膜するニッケル膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、半導体デバイスには、一層の動作の高速化と低消費電力化が求められており、例えば、MOS型半導体のソースおよびドレインのコンタクト部やゲート電極の低抵抗化を実現するために、サリサイドプロセスによりシリサイドを形成している。このようなシリサイドとして、シリコンの消費量が少なく、低抵抗化が可能なニッケルシリサイド(NiSi)が注目されている。
【0003】
NiSi膜の形成には、シリコン基板またはポリシリコン膜上にスパッタリング等の物理蒸着法(PVD)によりニッケル(Ni)膜を成膜した後、不活性ガス中でアニールして反応させる方法が多用されている(例えば特許文献1)。
【0004】
また、Ni膜自体をDRAMのキャパシタ電極に使用しようとする試みもなされている。
【0005】
しかし、半導体デバイスの微細化にともなってPVDではステップカバレッジが悪いという欠点があり、Ni膜をステップカバレッジが良好なCVDにより成膜する方法が検討されている(例えば特許文献2)。
【0006】
Ni膜をCVDで成膜する場合には、成膜原料(プリカーサ)としてニッケルアミジネートを用い、還元ガスとしてNHを用いることができる。しかし、これらを用いてNi膜を成膜する場合には、処理ガス中にNが含まれているため、Nが膜中に取り込まれてNi膜成膜の際に同時にニッケルナイトライド(NiN)が形成され、得られる膜は不純物であるNを含有したNi膜となってしまい、膜の抵抗は高いものとなってしまう。
【0007】
このような点を改善するために、特許文献3には、ニッケルアミジネートとNHを用いてNを含むNi膜を形成した後、膜を水素雰囲気で改質処理することにより、膜中のNを除去することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−153616号公報
【特許文献2】国際公開第2007/116982号
【特許文献3】国際公開第2011/040385号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このように成膜後にポストプロセスを付加することにより処理時間が長くなるため、スループットが低下してしまう。しかも、上記特許文献3では、Ni膜の純度を上げるために、成膜と改質処理とを複数回繰り返す必要があり、ますます処理時間が長くなってしまう。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、CVDにより不純物の少ないニッケル膜を高スループットで成膜することができるニッケル膜の成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、基板上に、成膜原料として、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物を用い、還元ガスとして、アンモニア、ヒドラジン、およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1種を用いたCVDにより初期ニッケル膜を成膜する第1工程と、初期ニッケル膜の上に、成膜原料として、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物を用い、還元ガスとして水素ガスを用いたCVDにより主ニッケル膜を成膜する第2工程とを有することを特徴とするニッケル膜の成膜方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記ニッケル膜の成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板上に、基板上で成膜可能である、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物とアンモニア等とを用いたニッケルナイトライドを含む初期ニッケル膜の成膜を行った後、その上に基板上では成膜が困難な、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物と水素ガスを用いた主ニッケル膜の成膜を行うので、主ニッケル膜をニッケルナイトライド等の不純物が少ない状態で成膜することができ、また、水素ガスにより初期ニッケル膜中の窒素を除去することができる。このため、全体的に不純物の少ない高純度のニッケル膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るNi膜の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るNi膜の成膜方法のシーケンスを示すタイミングチャートである。
【図3】実施例および比較例のNi膜の膜厚と比抵抗との関係を示す図である。
【図4】横軸に成膜時間をとり、縦軸にNi膜厚をとって、実施例と比較例の成膜レートを示す図である。
【図5】実施例および比較例のNi膜と、実施例のNi膜にArアニールを施した膜のX線回折(XRD)チャートである。
【図6】ポリシリコン上にH還元Ni膜を成膜した場合と、NH還元Ni膜(NiN膜)上にH還元Ni膜を成膜した場合と、ポリシリコン上にNH還元Ni膜(NiN膜)を成膜した場合とについて、蛍光X線分析によりNiカウントレートを求めた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るNi膜の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す模式図である。
【0016】
この成膜装置100は、気密に構成された略円筒状のチャンバー1を有しており、その中には被処理基板であるウエハWを水平に支持するためのサセプタ2が、後述する排気室の底部からその中央下部に達する円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。このサセプタ2はAlN等のセラミックスからなっている。また、サセプタ2にはヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5にはヒーター電源6が接続されている。一方、サセプタ2の上面近傍には熱電対7が設けられており、熱電対7の信号はヒーターコントローラ8に伝送されるようになっている。そして、ヒーターコントローラ8は熱電対7の信号に応じてヒーター電源6に指令を送信し、ヒーター5の加熱を制御してウエハWを所定の温度に制御するようになっている。サセプタ2の内部のヒーター5の上方には、高周波電力印加用の電極27が埋設されている。この電極27には整合器28を介して高周波電源29が接続されており、必要に応じて電極27に高周波電力を印加してプラズマを生成し、プラズマCVDを実施することも可能となっている。なお、サセプタ2には3本のウエハ昇降ピン(図示せず)がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられており、ウエハWを搬送する際に、サセプタ2の表面から突出した状態にされる。
【0017】
チャンバー1の天壁1aには、円形の孔1bが形成されており、そこからチャンバー1内へ突出するようにシャワーヘッド10が嵌め込まれている。シャワーヘッド10は、後述するガス供給機構30から供給された成膜用のガスをチャンバー1内に吐出するためのものであり、その上部には、成膜原料ガスとしてニッケル含有化合物が導入される第1の導入路11と、チャンバー1内に還元ガスとしてのNHガスおよびHガスが導入される第2の導入路12とを有している。
【0018】
成膜原料ガスとして用いられるニッケル含有化合物は、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するものであり、例えば図1中に示すNi(II)N、N′−ジ−ターシャリブチルアミジネート(Ni(II)(tBu−AMD))のようなニッケルアミジネートを挙げることができる。ニッケルアミジネートとしては、他に、Ni(II)N、N′−ジ−イソプロピルアミジネート(Ni(II)(iPr−AMD))、Ni(II)N、N′−ジ−エチルアミジネート(Ni(II)(Et−AMD))、Ni(II)N、N′−ジ−メチルアミジネート(Ni(II)(Me−AMD))等を用いることができる。
【0019】
シャワーヘッド10の内部には上下2段に空間13、14が設けられている。上側の空間13には第1の導入路11が繋がっており、この空間13から第1のガス吐出路15がシャワーヘッド10の底面まで延びている。下側の空間14には第2の導入路12が繋がっており、この空間14から第2のガス吐出路16がシャワーヘッド10の底面まで延びている。すなわち、シャワーヘッド10は、成膜原料としてのNi化合物ガスとNHガスまたはHガスとがそれぞれ独立して吐出路15および16から吐出するようになっている。
【0020】
チャンバー1の底壁には、下方に向けて突出する排気室21が設けられている。排気室21の側面には排気管22が接続されており、この排気管22には真空ポンプや圧力制御バルブ等を有する排気装置23が接続されている。そしてこの排気装置23を作動させることによりチャンバー1内を所定の減圧状態とすることが可能となっている。
【0021】
チャンバー1の側壁には、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口24と、この搬入出口24を開閉するゲートバルブ25とが設けられている。また、チャンバー1の壁部には、ヒーター26が設けられており、成膜処理の際にチャンバー1の内壁の温度を制御可能となっている。
【0022】
ガス供給機構30は、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物であるニッケルアミジネート、例えばNi(II)N、N′−ジ−ターシャリブチルアミジネート(Ni(II)(tBu−AMD))を成膜原料として貯留する成膜原料タンク31を有している。成膜原料タンク31の周囲にはヒーター31aが設けられており、タンク31内の成膜原料を適宜の温度に加熱することができるようになっている。
【0023】
成膜原料タンク31には、上方からバブリングガスであるArガスを供給するためのバブリング配管32が成膜原料に浸漬されるようにして挿入されている。バブリング配管32にはArガス供給源33が接続されており、また、流量制御器としてのマスフローコントローラ34およびその前後のバルブ35が介装されている。また、成膜原料タンク31内には原料ガス送出配管36が上方から挿入されており、この原料ガス送出配管36の他端はシャワーヘッド10の第1の導入路11に接続されている。原料ガス送出配管36にはバルブ37が介装されている。また、原料ガス送出配管36には成膜原料ガスの凝縮防止のためのヒーター38が設けられている。そして、バブリングガスであるArガスが成膜原料に供給されることにより成膜原料タンク31内で成膜原料がバブリングにより気化され、生成された成膜原料ガスが、原料ガス送出配管36および第1の導入路11を介してシャワーヘッド10内に供給される。
【0024】
なお、バブリング配管32と原料ガス送出配管36との間は、バイパス配管48により接続されており、このバイパス配管48にはバルブ49が介装されている。バブリング配管32および原料ガス送出配管36におけるバイパス配管48接続部分の下流側にはそれぞれバルブ35a,37aが介装されている。そして、バルブ35a,37aを閉じてバルブ49を開くことにより、Arガス供給源33からのアルゴンガスを、バブリング配管32、バイパス配管48、原料ガス送出配管36を経て、パージガス等としてチャンバー1内に供給することが可能となっている。
【0025】
シャワーヘッド10の第2の導入路12には、配管40が接続されており、配管40にはバルブ41が設けられている。この配管40は分岐配管40a,40bに分岐しており、分岐配管40aには還元ガスであるアンモニア(NH)ガスを導入するためのNHガス供給源42が接続され、分岐配管40bには水素(H)ガス供給源43が接続されている。また、分岐配管40aには流量制御器としてのマスフローコントローラ44およびその前後のバルブ45が介装されており、分岐配管40bには流量制御器としてのマスフローコントローラ46およびその前後のバルブ47が介装されている。なお、NHの代わりに、ヒドラジンや、NH誘導体、ヒドラジン誘導体を用いることができる。
【0026】
また必要に応じて電極27に高周波電力を印加してプラズマCVDを実施する場合には、配管40にはさらに分岐配管(図示せず)が増設され、この分岐配管にマスフローコントローラおよびその前後のバルブを介設して、プラズマ着火用のArガス供給源を設けることが好ましい。
【0027】
この成膜装置は、各構成部、具体的にはバルブ、電源、ヒーター、ポンプ等を制御する制御部50を有している。この制御部50は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたプロセスコントローラ51と、ユーザーインターフェース52と、記憶部53とを有している。プロセスコントローラ51には成膜装置100の各構成部が電気的に接続されて制御される構成となっている。ユーザーインターフェース52は、プロセスコントローラ51に接続されており、オペレータが成膜装置の各構成部を管理するためにコマンドの入力操作などを行うキーボードや、成膜装置の各構成部の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなっている。記憶部53もプロセスコントローラ51に接続されており、この記憶部53には、成膜装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムすなわち処理レシピや、各種データベース等が格納されている。処理レシピは記憶部53の中の記憶媒体(図示せず)に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスク等の固定的に設けられているものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0028】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて所定の処理レシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0029】
次に、成膜装置100により実施される本発明の一実施形態に係るニッケル膜の成膜方法について説明する。
まず、ゲートバルブ25を開け、図示せぬ搬送装置によりウエハWを、搬入出口24を介してチャンバー1内に搬入し、サセプタ2上に載置する。次いで、チャンバー1内を排気装置23により排気してチャンバー1内を所定の圧力にし、サセプタ2を所定温度に加熱し、その状態で図2のタイミングチャートに示すように、成膜原料であるニッケルアミジネート(分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物)と還元ガスであるNHガスとを供給して初期Ni膜を成膜する初期成膜工程(ステップ1)と、成膜原料ガスであるニッケルアミジネートを供給したまま、還元ガスをNHガスからHガスに切り替えて主Ni膜を成膜する主成膜工程(ステップ2)と、チャンバー1内をパージするパージ工程(ステップ3)を順次行う。
【0030】
ステップ1の初期成膜工程では、成膜原料タンク31内に貯留された成膜原料としてのニッケルアミジネート、例えばNi(II)N、N′−ジ−ターシャリブチルアミジネート(Ni(II)(tBu−AMD))にバブリングガスとしてのArガスを供給して、その成膜原料としてのニッケルアミジネートをバブリングにより気化させ、原料ガス送出配管36、第1の導入路11、シャワーヘッド10を介してチャンバー1内へ供給し、還元ガスとしてのNHガスをNHガス供給源42から分岐配管40a、配管40、第2の導入路12、シャワーヘッド10を介してチャンバー1内に供給する。なお、還元ガスのNHの代わりに、ヒドラジン、NH誘導体、ヒドラジン誘導体を用いることができる。すなわち、還元ガスとしては、NH、ヒドラジン、およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1種を用いることができる。アンモニア誘導体としては例えばモノメチルアンモニウムを用いることができ、ヒドラジン誘導体としては例えばモノメチルヒドラジン、ジメチルヒドラジンを用いることができる。これらの中ではアンモニアが好ましい。これらは、非共有電子対を有する還元剤であり、ニッケルアミジネートとの反応性が高く、比較的低温でも容易にウエハW表面に初期Ni膜を得ることができる。このようにして形成された初期Ni膜は、ニッケルアミジネートやNH由来のNによりニッケルナイトライド(NiN)が膜中に形成された不純物の多いものとなる。
【0031】
ステップ2の主成膜工程では、ニッケルアミジネートを供給したままの状態で、還元ガスのみをNHガスからHガスへ切り替える。すなわち、NHガスの供給を停止して、Hガス供給源43から分岐配管40b、配管40、第2の導入路12、シャワーヘッド10を介してHガスをチャンバー1内に供給する。これによりニッケルアミジネートがHガスにより還元されて初期Ni膜の上にさらにNiが堆積されて主Ni膜が形成される。これにより、成膜後の水素雰囲気でのアニールを行うことなく所望の厚さの不純物が少ないNi膜が得られる。
【0032】
ステップ2の主成膜工程における膜厚は、成膜しようとするNi膜のトータルの膜厚と初期成膜の際の膜厚に応じて適宜決定される。また、成膜時間は、膜厚と成膜レートとから予め決定しておくことが好ましい。
【0033】
ステップ3のパージ工程では、バルブ35a,37a、47を閉じてニッケルアミジネートおよびHガスの供給を停止し、チャンバー1内を真空引きすることにより行う。このとき、必要に応じてArガス供給源33からのArガスを、バブリング配管32、バイパス配管48、原料ガス送出配管36を経て、パージガスとしてチャンバー1内に供給してもよい。
【0034】
パージ工程が終了した後、ゲートバルブを開けて成膜後のウエハWを搬送装置(図示せず)により搬入出口24を介して搬出する。
【0035】
従来は、ウエハWの表面(典型的にはSi基板またはポリシリコン膜の表面)に成膜原料としてニッケルアミジネートを用いてNi膜を成膜する際に、還元ガスとしてHを用いても核生成されず、Niが堆積されないため、上記特許文献3のようにNHのような非共有電子対を有するものを還元ガスとして用いてNi膜を成膜していた。
【0036】
しかし、NHのような非共有電子対を有する還元ガスを用いてNi膜を成膜する場合には、膜中に不可避的にニッケルナイトライド(NiN)を含むものとなってしまうため、特許文献3では、これを除去するために水素雰囲気でのアニール処理が必須であり、成膜後にこのようなアニール処理を行うか、成膜とアニール処理を複数回繰り返している。
【0037】
この点について以下に説明する。
成膜原料として用いるニッケルアミジネートは、Ni(II)N、N′−ジ−ターシャリブチルアミジネート(Ni(II)(tBu−AMD))を例にとると、以下の(1)式に示す構造を有している。
【化1】


すなわち、核となるNiにアミジネート配位子が結合しており、Niは実質的にNi2+として存在している。
【0038】
非共有電子対を有する還元ガス、例えばNHは、上記構造のニッケルアミジネートのNi2+として存在しているNi核と結びつき、アミジネート配位子は分解する。これにより、良好な反応性をもってNiN(x=3または4)が生成する。したがって、上記特許文献3では純度の高いNi膜を得るために、水素雰囲気中でアニールを行ってNi膜中のNを除去するのである。
【0039】
しかし、成膜後にこのようなアニール処理を行うと、その分、スループットが低下してしまう。より高純度のNi膜を得るために、成膜とアニール処理とを複数回繰り返すと、ますますスループットが低下してしまう。
【0040】
そこで、スループットを低下させずに膜中のNを減少させて純度の高いNi膜を得るために検討を重ねた結果、以下の知見が得られた。
(1)成膜原料であるニッケルアミジネートと非共有電子対を有する還元ガスであるNHとで初期成膜を行って初期Ni膜を成膜した後は、還元ガスとしてHガスを用いてもその上にNi膜を成膜することが可能である。
(2)還元ガスとしてHを用いた場合には、膜中へNが取り込まれないため、NiNが形成されずに純度の高いNi膜を形成することができる。
(3)還元ガスであるHガスの存在により、初期Ni膜に含まれるNを除去することができる。
(4)成膜原料としてニッケルアミジネートを用い、還元ガスとしてHを用いて初期Ni膜の上にNi膜を成膜する場合には、ニッケルアミジネートとNHとを用いて成膜するよりも成膜レートが高い。
【0041】
本実施形態では、これらの知見に基づき、上述したように、ステップ1として成膜原料であるニッケルアミジネートと非共有電子対を有する還元ガスであるNHとで初期成膜を行って核生成した後、ステップ2としてニッケルアミジネートを流したまま還元ガスをHガスに切り替えて主成膜を行うのである。これにより、NiNを含む初期膜の上に、純度の高いNi膜を成膜することができ、しかも、Hガスの存在により、初期膜中のNを除去することができ、全体として純度の高いNi膜を成膜することができる。また、水素雰囲気中でのアニールを付加することがなく、しかも還元ガスとしてHガスを用いた主成膜では、NHガスを用いた場合よりも成膜レートが高いから、ニッケルアミジネートとNHとを用いて成膜する従来の方法よりもスループットを著しく高めることができる。
【0042】
上記ステップ1およびステップ2の初期成膜工程および主成膜工程においては、チャンバー1内の圧力:66.5〜1333Pa(1〜10Torr)、サセプタ2によるウエハWの加熱温度(成膜温度):200〜350℃、キャリアArガス流量:50〜500mL/min(sccm)、NHガス流量:10〜2000mL/min(sccm)、Hガス流量:50〜500mL/min(sccm)が好ましい。また、ステップ1およびステップ2では、温度および圧力が同一であることが好ましい。
【0043】
シリコン基板またはポリシリコン上に本実施形態に従ってNi膜を成膜した場合には、成膜後にArガス等の不活性ガス雰囲気でアニールを行うことによりニッケルシリサイド(NiSi)を得ることができる。この場合に、本実施形態では不純物の少ないNi膜が得られるので、シリサイド化のためのアニール処理を短時間で行うことができる。
【0044】
次に、本発明の効果を確認した実験結果について説明する。
ここでは、以下の手順でNi膜を成膜した。
(1)5cm□にしたシリコンウエハ片を0.5%フッ酸液で洗浄し、表面の自然酸化膜を除去する。
(2)(1)で洗浄したウエハ片、および100nm熱酸化膜付シリコンウエハ片をシリコン製トレーウエハ(直径300mm)に載せ、ロードロック室から真空搬送室内の搬送装置により、そのトレーウエハを図1に示す成膜装置100のチャンバー1のサセプタ2上へ真空搬送する。なお、サセプタ2はヒーター5により254℃に昇温されている。
(3)チャンバー1内にArガスを500mL/min(sccm)の流量で流し、チャンバー1内の圧力を665Pa(5Torr)に調圧しながらトレーウエハ上のウエハ片が250℃になるよう、3分間放置する。
(4)3分後、チャンバー1へのArガスの供給を停止し、NHガス30mL/min(sccm)と、Arガス100mL/min(sccm)をキャリアガスとするバブリング方式によるNi(II)N、N′−ジ−ターシャリブチルアミジネート(Ni(II)(tBu−AMD))とをチャンバー1内に同時供給し、チャンバー1内の圧力を665Pa(5Torr)に調圧しながら3〜5分間、初期Ni膜の成膜処理を行う。
(5)キャリアArガス100mL/min(sccm)によるNi(II)N、N′−ジ−ターシャリブチルアミジネート(Ni(II)(tBu−AMD))の供給を継続したまま、NHガスの供給を止め、Hガスを100mL/min(sccm)供給し、チャンバー1内の圧力を665Pa(5Torr)に調圧しながら90秒〜5分間、主Ni膜の成膜処理を行う。
(6)全てのガスの供給を止め、20秒間真空引きを行ってチャンバー1内をパージする。
以上のような手順で、成膜時間を変えて総膜厚を種々変化させたNi膜を成膜した(実施例)。
【0045】
比較のため、上記(1)から(3)を行った後、(4)のNHガスを還元ガスとして用いる成膜のみで種々の厚さのNiNを含むNi膜を成膜した(比較例)。
【0046】
まず、これら実施例および比較例のNi膜の比抵抗を測定した。その結果を図3に示す。この図に示すように、比較例のNi膜は200μΩcm以上と高抵抗であるのに対し、実施例のNi膜は50〜70μΩcm程度の低抵抗であることが確認された。これは、比較例のNi膜は、NiNが形成された不純物が多い膜であるのに対し、実施例のNi膜は不純物が少ないからであると考えられる。
【0047】
次に、これら実施例および比較例のNi膜の成膜レートを把握した。図4は横軸に成膜時間をとり、縦軸にNi膜厚をとって、実施例と比較例の成膜レートを示す図である。この図に示すように、実施例の場合にはステップ2のH還元の際の成膜レートが高いため、NH還元のみである比較例の3倍程度の成膜レートが得られることが確認された。
【0048】
次に、これら実施例および比較例のNi膜と、実施例のNi膜にArアニール(400℃、400Pa、1分)を施した膜について、X線回折(XRD)により結晶構造を同定した。図5はこれら膜のX線回折(XRD)チャートである。比較例のNi膜は、NiNのピークが大きく現出し、ニッケルナイトライドが主体であることがわかる。これに対して実施例のNi膜はNiNのピークがほぼ消失し、PVD−Ni膜と同様のNiピークのみ検出されている。これは、ステップ2のH還元によりNを含まないNi膜が形成されるとともに、ステップ1で形成されたN含有Ni膜からNが脱離したためと考えられる。アニール後の膜ではNiSiのピークが検出されており、NiSi膜が形成されていることが確認された。なお、Siピークは、下地のポリシリコンに由来するものである。
【0049】
次に、下地と還元ガスの違いによる成膜特性について把握した。ここでは、ポリシリコン上にH還元Ni膜を成膜した場合(温度:240℃)と、NH還元Ni膜(NiN膜)上にH還元Ni膜を成膜した場合(温度:250℃)と、ポリシリコン上にNH還元Ni膜(NiN膜)を成膜した場合(温度:250℃)とについて、蛍光X線分析によりNiカウントレートを求めた。Niカウントレートが多いほど膜中のNi量が多い。その結果を図6に示す。
【0050】
ここで、H還元は、Arガス100mL/min(sccm)をキャリアガスとしてバブリング方式によりNi(II)N、N′−ジ−ターシャリブチルアミジネート(Ni(II)(tBu−AMD))を供給するとともに、還元ガスとしてHガスを200mL/min(sccm)供給することにより行い、NH還元は、同様にしてNi(II)(tBu−AMD)を供給するとともに、還元ガスとしてNHガスを45mL/min(sccm)供給することにより行った。
【0051】
図6に示すように、H還元ではポリシリコン上への成膜が成立しないが、基板上に予めNi膜を形成しておくことによりH還元によりNi膜が成膜可能であることが確認された。また、NH還元に比べ、H還元のほうがNiカウントレートが高くなっており、NH還元よりもH還元のほうがNi量が多い、つまりNiの純度が高い(不純物が少ない)ことが推測される。
【0052】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施の形態においては、成膜原料を構成する、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物として、Ni(II)(tBu−AMD)を例示したが、これに限らず他のニッケルアミジネートであってもよいし、ニッケルアミジネート以外であってもよい。
【0053】
また、成膜装置の構造も上記実施形態のものに限らず、成膜原料の供給手法についても上記実施形態の手法に限定する必要はなく、種々の方法を適用することができる。
【0054】
さらにまた、被処理基板として半導体ウエハを用いた場合を説明したが、これに限らず、フラットパネルディスプレイ(FPD)基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1;チャンバー
2;サセプタ
5;ヒーター
10;シャワーヘッド
30;ガス供給機構
31;成膜原料タンク
33;Arガス供給源
42;NHガス供給源
43;Hガス供給源
50;制御部
51;プロセスコントローラ
53;記憶部
100;成膜装置
W;半導体ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、成膜原料として、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物を用い、還元ガスとして、アンモニア、ヒドラジン、およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1種を用いたCVDにより初期ニッケル膜を成膜する第1工程と、
初期ニッケル膜の上に、成膜原料として、分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物を用い、還元ガスとして水素ガスを用いたCVDにより主ニッケル膜を成膜する第2工程と
を有することを特徴とするニッケル膜の成膜方法。
【請求項2】
分子構造中に窒素−炭素結合をもつ配位子を有し、配位子中の窒素がニッケルに配位した構造を有するニッケル含有化合物は、ニッケルアミジネートであることを特徴とする請求項1に記載のニッケル膜の成膜方法。
【請求項3】
前記第1工程および前記第2工程は、200〜350℃で行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のニッケル膜の成膜方法。
【請求項4】
前記第1工程および前記第2工程を実施する際の圧力は、66.5〜1333Paで行われることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のニッケル膜の成膜方法。
【請求項5】
前記第1工程および前記第2工程は、同一の温度および同一の圧力で行われることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のニッケル膜の成膜方法。
【請求項6】
コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項5のいずれかのニッケル膜の成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53337(P2013−53337A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191917(P2011−191917)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】