説明

ハイブリッド自動車

【課題】目標エンジン回転数に基づく第1電動機の目標回転数と当該第1電動機の回転数との差がなくなるように目標トルクを設定すると共に当該目標トルクに応じたトルクを出力するように第1電動機を制御する際に、ねじれ要素の共振による影響を良好に低減して内燃機関の回転数を目標エンジン回転数に良好に近づける。
【解決手段】エンジン22が運転されるときに目標回転数Ne*に基づくモータMG1の目標回転数Nm1*とフィルタによりダンパ28の共振による影響成分が除去されたモータMG1の制御用回転数Nm1cとの差がなくなるようにモータMG1のトルク指令Tm1*が設定され、トルク指令Tm1*に応じたトルクを出力するようにモータMG1が制御される。そして、フィルタは、ダンパ28に接続されるマスの大きさに応じてモータMG1の回転数から除去されるカット周波数帯fcの成分を異ならせるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、動力を入出力可能な第1電動機と、エンジンの出力軸にねじれ要素を介して接続された第1の回転要素、第1電動機の回転軸に接続された第2の回転要素、および駆動輪に連結された駆動軸に接続された第3の回転要素を有する遊星歯車機構と、駆動軸に動力を入出力可能な第2電動機とを備えたハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、エンジンと、エンジンのクランクシャフトにねじれ要素を介して3つの回転要素のうちの第1の回転要素が接続されると共に車軸に連結された駆動軸に第2の回転要素が接続された遊星歯車機構と、遊星歯車機構の第3の回転要素に回転子が接続された第1電動機と、駆動軸に動力を入出力可能な第2電動機とを備え、エンジンを始動するときに、当該エンジンをクランキングするためのクランキングトルクとエンジンから出力されるトルクの脈動を低減する脈動低減トルクとの和からトルク脈動のうちのねじれ要素の共振周波数帯の成分である共振成分トルクを減じたトルクが第1電動機から出力されてエンジンが始動されるようエンジンと第1および第2電動機とを制御するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このように脈動低減トルクを加味したトルクでエンジンをクランキングすることでエンジンを始動する際に生じるトルク脈動による振動を抑制することができる。また、共振成分トルクを除いたトルクでエンジンをクランキングすることでエンジンを始動する際に生じるねじれ要素の共振による振動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−64563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなハイブリッド自動車では、エンジンが運転されるときに目標エンジン回転数等から第1電動機の目標回転数を設定すると共に当該第1電動機の回転軸の回転位置に基づいて取得される回転数と目標回転数との差がなくなるように第1電動機の目標トルクを設定し、第1電動機に目標トルクに応じたトルクを出力させることでエンジンが目標エンジン回転数で回転するようにしている。このため、エンジンの運転中にエンジンと遊星歯車機構との間のねじれ要素で共振が発生すると、当該共振による振動が第1電動機の回転軸に伝達され、第1電動機の回転軸の回転位置から当該第1電動機の回転数を精度よく取得し得なくなってしまう。そして、第1電動機の回転数を精度よく取得し得なくなると、第1電動機の目標トルクを適正に設定し得なくなることでエンジンの回転数と目標エンジン回転数との差が大きくなってしまい、エンジンから出力されるパワーと要求値とにも差を生じてしまう。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、目標エンジン回転数に基づく第1電動機の目標回転数と当該第1電動機の回転数との差がなくなるように目標トルクを設定すると共に当該目標トルクに応じたトルクを出力するように第1電動機を制御する際に、ねじれ要素の共振による影響を良好に低減して内燃機関の回転数を目標エンジン回転数に良好に近づけることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、
エンジンと、動力を入出力可能な第1電動機と、前記エンジンの出力軸にねじれ要素を介して接続された第1の回転要素、前記第1電動機の回転軸に接続された第2の回転要素、および駆動輪に連結された駆動軸に接続された第3の回転要素を有する遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な第2電動機と、前記第1および第2電動機と電力をやり取り可能なバッテリと、シフトポジションが駐車ポジションに設定されたときに前記駆動軸の回転を機械的にロックするパーキングロック手段と、前記駆動輪に摩擦制動力を付与可能な摩擦制動手段と、走行に要求される要求トルクと前記バッテリの充放電要求量とに基づいて前記エンジンに要求される要求パワーを設定する要求パワー設定手段と、前記エンジンが運転されるときに該エンジンの回転数が前記要求パワーに基づく目標エンジン回転数になると共に前記要求トルクに応じたトルクが前記駆動軸に出力されるように前記エンジンと前記第1および第2電動機とを制御する制御手段とを含むハイブリッド自動車であって、
前記第1電動機の回転軸の回転位置に基づいて該第1電動機の回転数を取得する回転数取得手段と、
前記エンジンが運転されるときに前記回転数取得手段により取得された前記第1電動機の回転数から前記ねじれ要素の共振による影響成分を除去するフィルタ手段とを備え、
前記制御手段は、前記エンジンが運転されるときに前記目標エンジン回転数に基づく前記第1電動機の目標回転数と前記フィルタ手段により前記ねじれ要素の共振による影響成分が除去された前記第1電動機の回転数との差がなくなるように該第1電動機の目標トルクを設定すると共に、当該目標トルクに応じたトルクを出力するように前記第1電動機を制御し、
前記フィルタ手段は、前記摩擦制動手段が非作動であって前記パーキングロック手段が作動している第1の停車時と、前記パーキングロック手段が非作動であって前記摩擦制動手段が作動しており、かつ前記第2電動機からトルクが出力されていない第2の停車時と、前記パーキングロック手段が非作動であって前記摩擦制動手段が作動しており、かつ前記第2電動機からトルクが出力されている第3の停車時と、前記パーキングロック手段および前記摩擦制動手段が非作動であって前記第2電動機からトルクが出力されていない走行時とで異なる周波数帯の成分を前記ねじれ要素の共振による影響成分として前記第1電動機の回転数から除去するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のハイブリッド自動車では、エンジンが運転されるときに目標エンジン回転数に基づく第1電動機の目標回転数とフィルタ手段によりねじれ要素の共振による影響成分が除去された第1電動機の回転数との差がなくなるように当該第1電動機の目標トルクが設定され、当該目標トルクに応じたトルクを出力するように第1電動機が制御される。そして、フィルタ手段は、摩擦制動手段が非作動であってパーキングロック手段が作動している第1の停車時と、パーキングロック手段が非作動であって摩擦制動手段が作動しており、かつ第2電動機からトルクが出力されていない第2の停車時と、パーキングロック手段が非作動であって摩擦制動手段が作動しており、かつ第2電動機からトルクが出力されている第3の停車時と、前記パーキングロック手段および前記摩擦制動手段が非作動であって前記第2電動機からトルクが出力されていない走行時とで異なる周波数帯の成分をねじれ要素の共振による影響成分として第1電動機の回転数から除去するように構成されている。すなわち、エンジンと遊星歯車機構との間のねじれ要素の共振周波数は、当該ねじれ要素に接続されるマスの大きさに応じて変化するが、本発明のハイブリッド自動車では、上記第1から第3の停車時,および走行時の間で、ねじれ要素の非エンジン側(遊星歯車機構側)のマス(慣性モーメント)の大きさが異なることになる。従って、ハイブリッド自動車の状態(第1から第3の停車時,および走行時)、すなわち、ねじれ要素に接続されるマスの大きさに応じてフィルタ手段により第1電動機の回転数から除去される周波数帯の成分を異ならせることにより、ハイブリッド自動車の状態が変化しても第1電動機の回転数からねじれ要素の共振による影響成分を良好に除去することが可能となる。この結果、本発明のハイブリッド自動車では、目標エンジン回転数に基づく第1電動機の目標回転数と当該第1電動機の回転数との差がなくなるように目標トルクを設定すると共に当該目標トルクに応じたトルクを出力するように第1電動機を制御する際に、ねじれ要素の共振による影響を良好に低減してエンジンの回転数を目標エンジン回転数に良好に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例に係るハイブリッド自動車20を示す概略構成図である。
【図2】実施例のモータECU40により実行される制御用回転数設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続されたプラネタリキャリア34を有するプラネタリギヤ30と、プラネタリギヤ30のサンギヤ31に接続された発電可能なモータMG1と、プラネタリギヤ30のリングギヤ32に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに連結された減速ギヤ35と、この減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに接続されたモータMG2と、リングギヤ軸32aにギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して接続された駆動輪63a,63bと、モータMG1と電力ライン54との間に介設されたインバータ41と、モータMG2と電力ライン54との間に介設されたインバータ42と、インバータ41,42を介してモータMG1およびMG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40と、電力ライン54に接続された例えばリチウムイオン二次電池あるいはニッケル水素二次電池であるバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52と、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と通信しながら車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70と、摩擦制動力を出力可能な電子制御式油圧ブレーキユニット(以下、単に「ブレーキユニット」という)90等とを備える。
【0012】
モータECU40は、モータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を計算する。ここで、実施例のハイブリッド自動車20において、エンジン22の運転中にエンジン22とプラネタリギヤ30との間のダンパ28で共振が発生すると、当該共振による振動がモータMG1の回転軸に伝達され、モータMG1に対応した回転位置検出センサ43からの信号に基づいて当該モータMG1の回転数Nm1を精度よく取得し得なくなってしまう。このため、実施例のモータECU40は、計算した回転数Nm1からダンパ28の共振による影響成分を除去可能なフィルタ(例えばデジタルフィルタ)を含む。実施例のフィルタは、予め設定されている異なる複数の周波数帯の成分を除去することができるように構成されている。そして、モータECU40は、計算したモータMG1の回転数Nm1から当該フィルタによりダンパ28の共振による影響成分を除去したものを制御用回転数Nm1cとして設定する。
【0013】
ギヤ機構60は、リングギヤ軸32aに取り付けられたギヤ60aやギヤ60aと噛合するギヤ60bといった複数のギヤを有する。また、ギヤ機構60には、ギヤ60bに連結されたパーキングギヤ66と、パーキングギヤ66と噛み合ってその回転駆動を停止した状態でロックするパーキングロックポール67とからなるパーキングロック機構65が設けられている。パーキングロックポール67は、運転者によりシフトレバー81が操作されて駐車ポジション(Pポジション)が選択されると、ハイブリッドECU70により図示しないアクチュエータが駆動制御されることによって作動し、パーキングギヤ66との噛合によりパーキングロックを行なう。すなわち、ギヤ60bはリングギヤ軸32aおよび駆動輪63a,63bに機械的に連結されているから、パーキングギヤ66とパーキングロックポール67とが噛み合っているときにはパーキングロック機構65によりリングギヤ軸32aおよび駆動輪63a,63bがロックされることになる。なお、運転者によりシフトレバー81が操作されてシフトポジションSPが駐車ポジション以外のポジションに設定されるとパーキングロックが解除される。また、ハイブリッドECU70は、パーキングロックを実行している際には、所定のパーキングロックフラグFplを値1に設定すると共に、パーキングロックを解除している際には、パーキングロックフラグFplを値0に設定する。
【0014】
ブレーキユニット90は、ブレーキマスタシリンダ91や油圧式(流体圧式)のブレーキアクチュエータ92、駆動輪63a,63bや図示しない従動輪にそれぞれ取り付けられてブレーキディスクを挟持して対応する車輪に摩擦制動力を付与可能なブレーキパッドを駆動するブレーキホイールシリンダ93a〜93d、ブレーキホイールシリンダ93a〜93dごとに設けられて対応するブレーキホイールシリンダの油圧(ブレーキホイールシリンダ圧)を検出するブレーキホイールシリンダ圧センサ94a〜94d、ブレーキアクチュエータ92を制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)95等を含む。ブレーキアクチュエータ92は、図示しない油圧発生源としてのポンプやアキュムレータ、ブレーキマスタシリンダ91とブレーキホイールシリンダ93a〜93dとの連通状態を制御するマスタシリンダカットソレノイドバルブ、ブレーキペダル85の踏み込み量に応じてペダル踏力に対する反力を創出するストロークシミュレータ等を有し、駆動輪63a,63bや他の従動輪に摩擦制動力を作用させることが可能なものである。ブレーキECU95は、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれると、ブレーキペダルストロークセンサ86からのブレーキペダルストロークBSと図示しない所定の踏力設定用マップとを用いて運転者によりブレーキペダル85に加えられたペダル踏力Fpdを計算し、計算したペダル踏力Fpdに基づいて運転者により要求される要求制動力BF*を設定し、設定した要求制動力BF*に基づいた摩擦制動力が駆動輪63a,63bや図示しない従動輪に作用するようにブレーキアクチュエータ92を制御する。なお、ブレーキECU95は、ブレーキペダルストロークBSが値0以上である(ブレーキペダル85が踏み込まれている)と共に車両が停車しているときには、所定のブレーキオンフラグFbを値1に設定すると共に、ブレーキペダルストロークBSが値0未満である(ブレーキペダル85が踏み込まれていない)か、あるいは、ブレーキペダルストロークBSが値0以上であっても車両が停車していないときには、ブレーキオンフラグFbを値0に設定し、ハイブリッドECU70に送信する。
【0015】
上述のように構成された実施例のハイブリッド自動車20が走行可能な状態になると、ハイブリッドECU70は、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速Vに基づいて走行に要求される要求トルクTr*を設定すると共に、要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じたものと充放電要求パワーPb*とロスLossとの総和をエンジン22に要求される要求エンジンパワーPe*として設定する。そして、エンジン22が運転される場合、ハイブリッドECU70は、設定した要求エンジンパワーPe*に基づいてエンジン22の目標回転数Ne*、目標トルクTe*を設定してエンジンECU24に送信すると共に、設定した目標回転数Ne*を用いて次式(1)に従いモータMG1の目標回転数Nm1*を計算する。ただし、式(1)中の“Gr”は減速ギヤ35のギヤ比、“ρ”はプラネタリギヤ30のギヤ比(サンギヤ31の歯数/リングギヤ32の歯数)である。さらに、計算した目標回転数Nm1*とモータECU40により設定された制御用回転数Nm1cとに基づく次式(2)に従いモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する。式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるため、すなわち、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中の“k1”は比例項のゲインであり、“k2”は積分項のゲインである。このように、モータMG1の目標回転数Nm1*と、モータMG1の回転数Nm1からダンパ28の共振による影響成分を除去した制御用回転数Nm1cとの差がなくなるようにモータMG1のトルク指令Tm1*を設定することにより、ダンパ28の共振の影響を低減してモータMG1ひいてはエンジン22の回転数を良好にフィードバック制御することができる。なお、ハイブリッド自動車20の走行中のみならず、パーキングロック機構65によりリングギヤ軸32aがロックされてハイブリッド自動車20が停車しているときやブレーキユニット90が作動してハイブリッド自動車20が停車しているときであっても、バッテリ50の残容量SOCが所定量未満であって充電が必要な際には、上述のようにバッテリ50の充放電要求パワーPb*等に基づいてエンジン要求パワーPe*が設定され、当該エンジン要求パワーに基づく目標回転数Ne*でエンジン22が運転されるようにモータMG1のフィードバック制御が実行される。そして、ハイブリッドECU70は、設定したモータMG1のトルク指令Tm1*と要求トルクTr*とに基づいて次式(3)に従いモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定したトルク指令Tm1*およびTm2*をモータECU40に送信する。
【0016】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/(Gr・ρ) …(1)
Tm1*=-ρ/(1+ρ)・Te*+k1・(Nm1*-Nm1c)+k2・∫(Nm1*-Nm1c)dt …(2)
Tm2*=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr …(3)
【0017】
次に、エンジン22が運転されているときに回転位置検出センサ43の検出値に基づいて計算されたモータMG1の回転数Nm1からダンパ28の共振による影響成分を除去して制御用回転数Nm1cを設定する手順について説明する。図2は、上述のようにエンジン22が運転されるのに伴って上記式(2)に従ってモータMG1のトルク指令Tm1*が設定される際に、実施例のモータECU40により所定時間毎に実行される制御用回転数設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0018】
制御用回転数設定ルーチンの開始に際して、モータECU40は、まず、パーキングロックフラグFplの値やブレーキオンフラグFbの値、モータMG2のトルク指令Tm2*の値といった制御に必要なデータをハイブリッドECU70から通信により入力する(ステップS100)。続いて、入力したパーキングロックフラグFplが値1であるか否かを判定し(ステップS110)、パーキングロックフラグFplが値1であると判定されたとき、すなわち、パーキングロック機構65によりリングギヤ軸32aがロックされている(パーキングロック機構65が作動している)ときには、除去対象となるダンパ28の共振によるモータMG1の回転数に対する影響成分の周波数帯であるカット周波数帯fcを第1周波数帯f1に設定する(ステップS120)。ここで、パーキングロック機構65によりリングギヤ軸32aがロックされてハイブリッド自動車20が停車しているとき(第1の停車時)には、ギヤ機構60やデファレンシャルギヤ62といったパーキングロック機構65から駆動輪63a,63bまでの部品のすべてがダンパ28に接続されたマスとなり、第1周波数帯f1は、当該マス(慣性モーメント)の大きさに基づいてモータMG1の回転数Nm1へのダンパ28の共振による影響成分の周波数帯として実験・解析等により予め定められる。そして、回転位置検出センサ43の検出値に基づいて計算したモータMG1の回転数Nm1からカット周波数帯fcに含まれる周波数をもった成分をフィルタにより除去して制御用回転数Nm1cを設定し(ステップS130)、再度ステップS100以降の処理を実行する。
【0019】
ステップS110にてパーキングロックフラグFplが値0であると判定されたとき、すなわち、パーキングロック機構65によりリングギヤ軸32aがロックされていないときには、ブレーキオンフラグFbが値1であるか否かを判定し(ステップS140)、ブレーキオンフラグFbが値1であってブレーキペダル85が踏み込まれて(ブレーキユニット90が作動して)ハイブリッド自動車20が停車していると判定されたときには、更にモータMG2のトルク指令Tm2*が値0であるか否かを判定する(ステップS150)。そして、モータMG2のトルク指令Tm2*が値0であってモータMG2からトルクが出力されていないと判定されたときには、カット周波数帯fcを第2周波数帯f2に設定する(ステップS160)と共に、回転位置検出センサ43の検出値に基づいて計算したモータMG1の回転数Nm1からカット周波数帯fcに含まれる周波数をもった成分をフィルタにより除去して制御用回転数Nm1cを設定し(ステップS130)、再度ステップS100以降の処理を実行する。すなわち、ブレーキユニット90が作動してハイブリッド自動車20が停車している状態でモータMG2からトルクが出力されていないとき(第2の停車時)には、プラネタリギヤ30や減速ギヤ35においてギヤ同士の噛合いが生じず、モータMG2の回転軸とダンパ28とは機械的に接続されていない状態となることから、モータMG2はダンパ28に接続されたマスとはならない。従って、この場合(第2の停車時)には、駆動輪63a,63bがダンパ28に接続されたマスとなり、第2周波数帯f2は、当該マス(慣性モーメント)の大きさに基づいてモータMG1の回転数Nm1へのダンパ28の共振による影響成分の周波数帯として実験・解析等により予め定められる。
【0020】
これに対して、ステップS150にてモータMG2のトルク指令Tm2*が値0でないと判定されたとき、すなわち、モータMG2からトルクを出力しているときには、カット周波数帯fcを第3周波数帯f3に設定する(ステップS170)と共に、回転位置検出センサ43の検出値に基づいて計算したモータMG1の回転数Nm1からカット周波数帯fcに含まれる周波数をもった成分をフィルタにより除去して制御用回転数Nm1cを設定し(ステップS130)、再度ステップS100以降の処理を実行する。すなわち、ブレーキユニット90が作動してハイブリッド自動車20が停車している状態でモータMG2からトルクが出力されているとき(第3の停車時)には、プラネタリギヤ30や減速ギヤ35においてギヤ同士が噛合うため、モータMG2の回転軸とダンパ28とが機械的に接続された状態となることから、モータMG2はダンパ28に接続されたマスとなる。従って、この場合(第3の停車時)には、駆動輪63a,63bおよびモータMG2がダンパ28に接続されたマスとなり、第3周波数帯f3は、当該マス(慣性モーメント)の大きさに基づいてモータMG1の回転数Nm1へのダンパ28の共振による影響成分の周波数帯として実験・解析等により予め定められる。
【0021】
一方、ステップS140にてブレーキオンフラグFbが値0であると判定されたときにも、更に、モータMG2のトルク指令Tm2*が値0であるか否かを判定する(ステップS180)。そして、モータMG2のトルク指令Tm2*が値0であると判定されたとき、すなわち、車両が走行中であるもののモータMG2からトルクを出力していないときには、カット周波数帯fcを第4周波数帯f4に設定する(ステップS190)と共に、回転位置検出センサ43の検出値に基づいて計算したモータMG1の回転数Nm1からカット周波数帯fcに含まれる周波数をもった成分をフィルタにより除去して制御用回転数Nm1cを設定し(ステップS130)、再度ステップS100以降の処理を実行する。すなわち、車両が走行中であるもののモータMG2からトルクを出力していないときには、モータMG2がダンパ28に接続されたマスとなり、第4周波数帯f4は、当該マス(慣性モーメント)の大きさに基づいてモータMG1の回転数Nm1へのダンパ28の共振による影響成分の周波数帯として実験・解析等により予め定められる。また、ステップS180にてモータMG2のトルク指令Tm2*が値0でない、すなわち、車両が走行中であってモータMG2からトルクを出力しているときには、ダンパ28の共振がモータMG1の回転に与える影響は小さいと判断されるため、カット周波数帯の成分fcを設定することなく、現在の回転数Nm1を制御用回転数Nm1cに設定し(ステップS200)、再度ステップS100以降の処理を実行する。
【0022】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22が運転されるときに目標回転数Ne*に基づくモータMG1の目標回転数Nm1*とフィルタによりダンパ28(ねじれ要素)の共振による影響成分が除去されたモータMG1の制御用回転数Nm1cとの差がなくなるように当該モータMG1のトルク指令(目標トルク)Tm1*が設定され、当該トルク指令Tm1*に応じたトルクを出力するようにモータMG1が制御される。そして、フィルタは、ブレーキユニット(摩擦制動手段)90が非作動であってパーキングロック機構(パーキングロック手段)65が作動している第1の停車時と、パーキングロック機構65が非作動であってブレーキユニット90が作動しており、かつモータMG2からトルクが出力されていない第2の停車時と、パーキングロック機構65およびブレーキユニット90が非作動であってモータMG2からトルクが出力されていない走行時とで異なるカット周波数帯fcの成分をダンパ28の共振による影響成分としてモータMG1の回転数Nm1から除去するように構成されている。すなわち、エンジン22とプラネタリギヤ30との間のダンパ28の共振周波数は、当該ダンパ28に接続されるマスの大きさに応じて変化するが、実施例のハイブリッド自動車20では、上記第1から第3の停車時,および走行時の間で、ダンパ28の非エンジン側(プラネタリギヤ30側)のマス(慣性モーメント)の大きさが異なることになる。従って、ハイブリッド自動車20の状態(第1から第3の停車時,および走行時)、すなわち、ダンパ28に接続されるマスの大きさに応じてフィルタによりモータMG1の回転数から除去されるカット周波数帯fcの成分を異ならせることにより、ハイブリッド自動車の状態が変化してもモータMG1の回転数Nm1からダンパ28の共振による影響成分を良好に除去することが可能となる。この結果、実施例のハイブリッド自動車20では、目標回転数Ne*に基づくモータMG1の目標回転数Nm1*と当該モータMG1の回転数Nm1との差がなくなるように目標トルクTm1*を設定すると共に当該目標トルクTm1*に応じたトルクを出力するようにモータMG1*を制御する際に、ダンパ28の共振による影響を良好に低減してエンジン22の回転数を目標回転数Ne*に良好に近づけることができる。
【0023】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジンECU、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、32a リングギヤ軸、35 減速ギヤ、40 モータECU、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリECU、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、65 パーキングロック機構、70 ハイブリッドECU、81 シフトレバー、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルストロークセンサ、88 車速センサ、90 ブレーキユニット、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、動力を入出力可能な第1電動機と、前記エンジンの出力軸にねじれ要素を介して接続された第1の回転要素、前記第1電動機の回転軸に接続された第2の回転要素、および駆動輪に連結された駆動軸に接続された第3の回転要素を有する遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な第2電動機と、前記第1および第2電動機と電力をやり取り可能なバッテリと、シフトポジションが駐車ポジションに設定されたときに前記駆動軸の回転を機械的にロックするパーキングロック手段と、前記駆動輪に摩擦制動力を付与可能な摩擦制動手段と、走行に要求される要求トルクと前記バッテリの充放電要求量とに基づいて前記エンジンに要求される要求パワーを設定する要求パワー設定手段と、前記エンジンが運転されるときに該エンジンの回転数が前記要求パワーに基づく目標エンジン回転数になると共に前記要求トルクに応じたトルクが前記駆動軸に出力されるように前記エンジンと前記第1および第2電動機とを制御する制御手段とを含むハイブリッド自動車であって、
前記第1電動機の回転軸の回転位置に基づいて該第1電動機の回転数を取得する回転数取得手段と、
前記エンジンが運転されるときに前記回転数取得手段により取得された前記第1電動機の回転数から前記ねじれ要素の共振による影響成分を除去するフィルタ手段とを備え、
前記制御手段は、前記エンジンが運転されるときに前記目標エンジン回転数に基づく前記第1電動機の目標回転数と前記フィルタ手段により前記ねじれ要素の共振による影響成分が除去された前記第1電動機の回転数との差がなくなるように該第1電動機の目標トルクを設定すると共に、当該目標トルクに応じたトルクを出力するように前記第1電動機を制御し、
前記フィルタ手段は、前記摩擦制動手段が非作動であって前記パーキングロック手段が作動している第1の停車時と、前記パーキングロック手段が非作動であって前記摩擦制動手段が作動しており、かつ前記第2電動機からトルクが出力されていない第2の停車時と、前記パーキングロック手段が非作動であって前記摩擦制動手段が作動しており、かつ前記第2電動機からトルクが出力されている第3の停車時と、前記パーキングロック手段および前記摩擦制動手段が非作動であって前記第2電動機からトルクが出力されていない走行時とで異なる周波数帯の成分を前記ねじれ要素の共振による影響成分として前記第1電動機の回転数から除去するように構成されていることを特徴とするハイブリッド自動車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−111293(P2012−111293A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260442(P2010−260442)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】