説明

ハイブリッド車両の表示装置

【課題】ハイブリッド車両の表示装置において、運転者によるアクセルの操作状態・解放状態を考慮して違和感のない表示を行う。
【解決手段】運転者が操作するアクセル21と、このアクセル21の操作状態ないし解放状態を検知するアクセル検知手段22と、動力源として内燃機関2および発電動機3とを備えたハイブリッド車両の表示装置13であって、発電動機3のトルク発生量を運転者に通知するハイブリッド車両の表示装置13において、アクセル検知手段22により検知されたアクセル21の操作時のみに発電動機3のトルク発生量が駆動側にあることを表示し、アクセル検知手段22により検知されたアクセル21の解放時のみに発電動機3のトルク発生量が回生側にあることを表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はハイブリッド車両の表示装置に係り、特に、アクセルの操作・解放に関連して発電動機のトルク発生量を違和感なく通知することができるハイブリッド車両の表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力源として内燃機関および発電動機とを備えたハイブリッド車両において、発電動機のトルク発生量を表示して発電動機の動作状態を運転者に通知するハイブリッド自動車の表示装置としては、例えば特開2007−314100号公報に記載されているような表示装置が知られている。
この公報に開示される表示装置では、発電動機の発生トルクの値を周方向に表示した表示板を備え、発電動機が内燃機関を補助的に駆動(アシスト)しているときは表示板の値を指示する指針を右方向に振らせ、一方、発電動機が回生しているときには指針を左方向に振らせることで、運転者に発電動機の動作状態を知らせることができる。
一般に、運転者は、アクセルを操作して加速中には発電動機が内燃機関を駆動し、アクセルを解放したり、ブレーキを操作して減速中には発電動機が回生することを期待している。
【0003】
ところが、前記公報の表示装置では、発電動機の発生トルクをそのまま針でメータに表示しているため、例えば、運転者がアクセルを操作して一定速で走行中に、発電動機に電力を供給するバッテリの充電量が低下し、バッテリを充電するために発電動機が回生動作を行った場合に、針が回生方向に振れて、運転者に違和感を与えるという問題がある。
また、加速中や減速中などに変速動作が発生すると、加速中にもかかわらず発電動機にトルクが回生方向に印加されたり、減速中にもかかわらず発電動機のトルクが内燃機関に駆動方向に印加されたりする。このときに、前記公報のように発電動機の発生トルクをそのまま表示すると、走行状態と発電動機の動作状態に対する期待感との間にずれを生じ、運転者に違和感を与えることになる。
これに対し、特許第4277841号では、変速中の発電動機のパワー表示の変化割合を小さくするという提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−314100号公報
【特許文献2】特許第4277841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ハイブリッド車両において、加速中に発電動機にパワーを回生方向に印加させる要因は変速のみではなく、トラクションコントロールなどが要求する場合もある。この場合には、前記特許文献2の方法では発電動機のパワー表示の変化割合を小さくすることができず、運転者に違和感を与えるという問題がある。また、特許文献2の方法では変速中か否かを検出する必要があるため、制御が煩雑になるという問題もある。
【0006】
この発明は、ハイブリッド車両の表示装置において、運転者によるアクセルの操作状態・解放状態を考慮して違和感のない表示を行うこと、違和感のある表示だけを排除して簡素な表示制御によって実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、運転者が操作するアクセルと、このアクセルの操作状態ないし解放状態を検知するアクセル検知手段と、動力源として内燃機関および発電動機とを備えたハイブリッド車両の表示装置であって、前記発電動機のトルク発生量を運転者に通知するハイブリッド車両の表示装置において、前記アクセル検知手段により検知された前記アクセルの操作時のみに前記発電動機のトルク発生量が駆動側にあることを表示し、前記アクセル検知手段により検知された前記アクセルの解放時のみに前記発電動機のトルク発生量が回生側にあることを表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明のハイブリッド車両の表示装置は、アクセルの操作中に回生状態を表示することはなくなり、減速中のようにアクセルの解放中に駆動状態を表示することもなくなるので、違和感のない表示が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1はハイブリッド車両の表示装置のシステム構成図である。(実施例)
【図2】図2は表示器を示す図である。(実施例)
【図3】図3は発電動機の最大トルクを示す図である。(実施例)
【図4】図4(A)はアクセル操作時の表示器を示す図、図4(B)はアクセル解放時の表示器を示す図である。(実施例)
【図5】図5はハイブリッド車両の表示装置によるトルク比表示信号を演算するフローチャートである。(実施例)
【図6】図6はハイブリッド車両の表示装置によるトルク比表示信号のタイムチャートである。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
図1〜図6は、この発明の実施例を示すものである。図1において、1はハイブリッド車両、2は内燃機関、3は発電動機である。ハイブリッド車両1は、走行用の動力源としての内燃機関2と、この内燃機関2を補助的に駆動(アシスト)可能であるとともに内燃機関2からの駆動力により駆動されて発電した電力を回生可能な発電動機3とを備えている。内燃機関2と発電動機3とは、クランク軸4に設けた内燃機関側プーリ5と駆動軸6に設けた発電動機側プーリ7とにベルト状部材8を巻き掛けて、駆動力が相互に伝達されるように連結している。発電動機3は、動作状態が駆動状態となると内燃機関2に対し補助駆動することになり、動作状態が回生状態となると内燃機関2に対する負荷となる。
前記内燃機関2は、変速機9を介して車輪10に接続されている。前記発電動機3には、インバータ11を介してバッテリ12が接続されている。発電動機3は、バッテリ12からインバータ11を介して供給される電力により駆動力を発生し、各プーリ5・7及びベルト状部材8を介して内燃機関2を補助的に駆動する。また、発電動機3は、内燃機関2の駆動力により各プーリ5・7及びベルト状部材8を介して駆動され、発電する。発電された電力は、インバータ11を介してバッテリ12に回生される。また、バッテリ12の電力は、図示しないDCDCコンバータを介して12V負荷に供給される。ハイブリッド車両1は、内燃機関2の駆動力、また、内燃機関2及び発電動機3の駆動力により車輪10を駆動し、走行する。
前記発電動機3とインバータ11とバッテリ12とは、表示装置13の制御手段14に接続されている。制御手段14は、基本的に、バッテリ12の充電状態SOC(State Of Charge)を所定の範囲(SOC下限値とSOC上限値の間)に収めるように、インバータ11の動作を制御する。そのため、制御手段14は、バッテリ12の充電状態SOCがこの所定の範囲から外れそうになった場合、充電状態SOCが所定の範囲から外れないようにする目的で発電動機3のトルク状態を変更するように、インバータ11の動作を制御する。例えば、充電状態SOCがSOC下限値を下回る条件では、バッテリ12を充電する分の発電を行うよう発電動機3のトルクを変更する制御を行う。
【0012】
前記表示装置13は、図1に示すように、発電動機3のトルク発生量を運転者に通知する表示器15を備えている。表示器15は、図2に示すように、円弧状の表示板16と回動軸17を中心に表示板16上を回動する指針18とからなる。表示板16には、発電動機3のトルク発生量を示す目盛として、標準(ECO)を中心に、周方向一側に駆動状態(POWER)を示す駆動側領域19を備え、周方向他側に回生状態(CHARGE)を示す回生側領域20を備えている。指針18は、標準(ECO)を挟んで、駆動状態(POWER)の駆動側領域19における最大値(MAX)までと、回生状態(CHARGE)の回生側領域20における最大値(MAX)までとの間を回動し、発電動機3のトルク発生量を指示する。
前記ハイブリッド車両1は、運転者が操作するアクセル21に、アクセル21の操作状態ないし解放状態としてアクセル開度APを検知するアクセル検知手段22を備えている。また、ハイブリッド車両は、インバータ11に、電動発電機4の駆動トルク及び発電トルクからなるトルク発生量として発生トルクTmを検出可能なトルク検出手段23を備えている。トルク検出手段23は、発電動機3の出力可能な最大トルクTmmaxを計算する。最大トルクTmmaxは、図3に示すように、発電動機3の回転速度の上昇に伴い減少するテーブルから計算する。
前記表示器15、アクセル検知手段22、トルク検出手段23は、制御手段14に接続されている。制御手段14は、アクセル開度AP、発生トルクTm、最大トルクTmmaxを入力し、発電動機3の発生トルクTmと発電動機3の最大トルクTmmaxの比であるトルク比P0に基づいて最終的な表示信号P2を演算して表示器15に出力する一方、トルク比P0を発電動機3の駆動状態と回生状態を含む動作状態の判定に用いる。
発電動機3の発生トルクTmは、正負両方の値をとり得る一方、発電動機3の最大トルクTmmaxは常に正の値をとるため、発生トルクTmと最大トルクTmmaxの比であるトルク比P0は、正負両方の値をとり得ることになる。トルク比P0の値は、発電動機のトルクが駆動側(0も含む)であるとき正の値(0以上)となり、同じく回生側であるとき負の値(0未満)となる。
前記制御手段15は、アクセル検知手段22によりアクセル21を踏込む操作が検知された時には、図4(A)に示すように、表示器15の駆動側領域19だけを表示させる。一方、制御手段15は、アクセル検知手段22によりアクセル21の解放が検知された時には、図4(B)に示すように、表示器15の回生側領域20だけを表示させる。
これより、表示装置13は、アクセル検知手段22により検知されたアクセル21の操作時のみに発電動機3のトルク発生量が駆動側にあることを表示し、アクセル検知手段22により検知されたアクセル21の解放時のみに発電動機3のトルク発生量が回生側にあることを表示する。
【0013】
次に作用を説明する。
ハイブリッド車両1の表示装置13は、図5に示すように、制御手段14によって、表示の制御がスタートすると(S01)、アクセル開度AP、発生トルクTm、最大トルクTmmaxを入力し(S02)、発生トルクTmを最大トルクTmmaxで除することで発電動機3のトルク比P0を求め(S03)、アクセル開度APがアクセル操作判定値APonより大きいか否かを判断する(S04)。
前記判断(S04)がAP>APonでYESの場合は、トルク比P0が0以上か否かを判断する(S05)。
この判断(S05)がP0≧0でYESの場合は、表示信号用選択値P1をP0(P1=P0)とし(S06)、表示信号用選択値P1を1次遅れフィルタなどによりフィルタリングして最終的な表示信号P2を算出し(S07)、リターンする(S08)。
また、前記判断(S05)がP0<0でNOの場合は、表示信号用選択値P1を0(P1=0)とし(S09)、表示信号用選択値P1を一次遅れフィルタなどによりフィルタリングして最終的な表示信号P2を算出し(S07)、リターンする(S08)。
一方、前記判断(S04)がAP≦APonでNOの場合は、トルク比P0が0以上か否かを判断する(S10)。
この判断(S10)がP0≧0でYESの場合は、表示信号用選択値P1を0(P1=0)とし(S11)、表示信号用選択値P1を1次遅れフィルタなどによりフィルタリングして最終的な表示信号P2を算出し(S07)、リターンする(S08)。
また、前記判断(S10)がP0<0でNOの場合は、表示信号用選択値P1をP0(P1=P0)とし(S12)、表示信号用選択値P1を一次遅れフィルタなどによりフィルタリングして最終的な表示信号P2を算出し(S07)、リターンする(S08)。
制御手段14は、(S07)で得られた表示信号P2を表示器15に出力し、運転者に通知可能な形態で表示させる。表示器15は、アクセル検知手段22によりアクセル21の操作が検知された時には、図4(A)に示すように、駆動側領域19だけを表示する。一方、表示器15は、アクセル検知手段22によりアクセル21の解放が検知された時には、図4(B)に示すように、回生側領域20だけを表示する。
【0014】
図5による表示信号P2の算出においては、発電動機3の動作状態の判定、すなわち、駆動状態と回生状態の判定に、最終的な表示信号P2を演算するための基になる発生トルクTmと最大トルクTmmaxの比であるトルク比P0を用いる(S05、S10)。運転者の意図が反映されるアクセル21の操作量の判断(S04)の結果に基づいて、トルク比P0を採用して最終的な表示信号P2の演算(S07)をするか・代替値0(ゼロ)として最終的な表示信号P2の演算(S07)をするかを、変更することになる(S06・S09、S11、S12)。
表示信号P2は、P0と0(ゼロ)の選択値となる表示信号用選択値P1を基にして一次遅れフィルタなどのフィルタリングによって演算される値である。運転者の意図から外れる状態のように、表示信号用選択値P1が0(ゼロ)となり表示用演算サイクルが繰り返される程度に継続する場合、表示信号P2の値はフィルタとなる関数に依存しつつも、徐々に縮小されて0(ゼロ)に向かって収束していくことになる。表示装置14の表示は0(ゼロ)に向かって収束するので、相反する表示はなく、違和感も極めて小さくなる。
【0015】
図6に示すように、アクセル20が踏込み操作されて(t0)、ハイブリッド車両1の加速中には発電動機3の発生トルクTmが内燃機関2を駆動する方向に印加され、トルク比P0が正方向に増加し、アクセル開度APがアクセル操作判定値APonを超えている(t1)ところでは表示信号用選択値P1も同様に増加する。
車速が一定になると(t2)、バッテリ12を充電するために発電動機3の発生トルクTmは回生方向に印加され、トルク比P0は負の値となる(t3)。一方、表示信号用選択値P1は、アクセル開度APがアクセル操作判定値APonを超えているところでは0となる。
アクセル20が解放されると(t4)、内燃機関2は燃料カットし、発電動機3の発生トルクTmは回生方向に増加するため車速は減少し、トルク比P0は負方向に増加し、アクセル開度APがアクセル操作判定値APon以下のところでは表示信号用選択値P1も同様に負方向に増加する。
減速時の変速動作により発電動機3の発生トルクTmが短時間正方向に印加されると(t5)、トルク比P0は正方向に増加するが、アクセル開度APがアクセル操作判定値APon以下なので、表示信号用選択値P1は0となる。表示信号P2は、表示信号用選択値P1をフィルタリングした低い波形となる。
【0016】
このように、ハイブリッド車両1の表示装置13は、図4(A)に示すように、アクセル検知手段22により検知されたアクセル21の操作時のみに発電動機3のトルク発生量が駆動側にあることを表示し、図4(B)に示すように、アクセル検知手段22により検知されたアクセル21の解放時のみに発電動機3のトルク発生量が回生側にあることを表示する。
これにより、このハイブリッド車両1の表示装置13は、アクセル21の操作中に回生状態を表示することはなくなり、減速中のようにアクセル21の解放中に駆動状態を表示することもなくなるので、運転者に違和感のない表示が実現できる。
また、前記表示装置13は、発電動機3の発生トルクTmと発電動機3の最大トルクTmmaxの比であるトルク比P0に基づいて最終的な表示信号P2を演算する一方、トルク比P0を発電動機3の駆動状態と回生状態を含む動作状態の判定に用いている。
これにより、ハイブリッド車両1の表示装置13は、演算に用いる変数をそのまま用いているので、発電動機3の動作状態の判定に専用のフラグなどを設定する必要がない。
なお、上述実施例においては、発電動機3の発生トルクTmと最大トルクTmmaxとのトルク比P0に基づいて表示信号P2を演算したが、発生トルクTmではなく、発電動機3の駆動力やバッテリ12の充放電電流、充放電電力の表示に置き換えても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明は、運転者によるアクセルの操作状態・解放状態を考慮して表示装置に違和感のない表示を行うこと、違和感のある表示だけを排除して簡素な表示制御によって実現するものであり、動力源として内燃機関および発電動機とを備えたハイブリッド車両だけでなく、動力源とてして発電動機を搭載した電動車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 ハイブリッド車両
2 内燃機関
3 発電動機
5 内燃機関側プーリ
7 発電動機側プーリ
8 ベルト状部材
9 変速機
10 車輪
11 インバータ
12 バッテリ
13 表示装置
14 制御手段
15 表示器
16 表示板
17 回動軸
18 指針
19 駆動側領域
20 回生側領域
21 アクセル
22 アクセル検知手段
23 トルク検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操作するアクセルと、このアクセルの操作状態ないし解放状態を検知するアクセル検知手段と、動力源として内燃機関および発電動機とを備えたハイブリッド車両の表示装置であって、
前記発電動機のトルク発生量を運転者に通知するハイブリッド車両の表示装置において、
前記アクセル検知手段により検知された前記アクセルの操作時のみに前記発電動機のトルク発生量が駆動側にあることを表示し、
前記アクセル検知手段により検知された前記アクセルの解放時のみに前記発電動機のトルク発生量が回生側にあることを表示することを特徴とするハイブリッド車両の表示装置。
【請求項2】
前記発電動機の発生トルクと前記発電動機の最大トルクの比であるトルク比に基づいて最終的な表示信号を演算する一方、
前記トルク比を前記発電動機の駆動状態と回生状態を含む動作状態の判定に用いることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−126272(P2012−126272A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280013(P2010−280013)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】