説明

バイオフィルム中の微生物の殺菌方法

【課題】バイオフィルム中の微生物を効果的に殺菌することができる方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)
【化1】


(式中、R1は炭素数4〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル基を示し、X及びYは次の式
【化2】


で示される基から選ばれる基を示し、mは1〜5の整数を示す。)
で表わされる塩基性アミノ酸誘導体又はその塩をバイオフィルムに作用させ(工程1)、次いで殺菌剤を作用させる(工程2)、バイオフィルム中の微生物の殺菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム中の微生物の殺菌方法に関するものであり、より詳細には、微生物が関与するさまざまな分野において、バイオフィルムを生成する細菌を効果的に殺菌し、バイオフィルムに起因する危害を防止するための殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して、様々な産業分野で問題を引き起こす。例えば、食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムが剥がれ落ち製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。さらに、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。
更に、バイオフィルムを形成した微生物集合体に対しては、水系に分散浮遊状態にある微生物と比較して、殺菌剤・静菌剤のような微生物制御薬剤の十分な効果が出せないことも多い。例えば医療の面では近年、医療器具の狭い隙間や空孔内に微生物が残存してバイオフィルムを形成し、これを原因とする院内感染例が数多く報告されている。ヒト口腔内においては歯に形成するバイオフィルム、いわゆるデンタルプラーク(歯垢)がう食や歯周病の原因となることは良く知られており、これらの問題について長い間検討されている。
【0003】
これまでバイオフィルムの危害を防止するためには、微生物、特に細菌に対して殺菌作用もしくは静菌作用を与えることによって菌を増殖させない考え方が一般的に検討されてきた。特許文献1には、アルギニンの塩酸塩、アルギニンエチルエステル、アルギニングルタミン酸などのアルギニンまたはその誘導体と抗菌活性を示す化合物を配合した抗菌製剤が記載されているが、その効果はまだ満足できるものではない。バイオフィルム中の微生物を殺菌方法として、特許文献2では次亜塩素酸塩、アルカリ金属水酸化物と界面活性剤を組み合わせて使用する方法が開示されている。しかしながら、効果的にバイオフィルム中の微生物を殺滅するに至っておらず、いまだに大きな課題となっている。
すなわち、殺菌性の高い次亜塩素酸塩やカチオン性界面活性剤など即効性の特徴を持つ殺菌性の高い薬剤を用いた場合、系内もしくはバイオフィルム中の有機物により殺菌性は速やかに失われるため、これらは長期間にわたって菌数低減効果を維持することは難しく、殺菌効果が失われると再び菌が増殖するという問題がある。
【特許文献1】特開平8−151324号公報
【特許文献2】特表2005−75873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、様々な領域において微生物及び微生物産生物質からなるバイオフィルム中の微生物を効果的に殺菌し得る殺菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、バイオフィルム中の微生物を効果的に殺菌する殺菌方法を得るべく鋭意研究を行ったところ、特定のアミノ酸誘導体をバイオフィルムに作用させ、次いで殺菌剤を作用させれば、バイオフィルム中の微生物を効果的に殺菌できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は炭素数4〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル基を示し、X及びYは次の式
【0009】
【化2】

【0010】
で示される基から選ばれる基を示し、mは1〜5の整数を示す。)
で表わされる塩基性アミノ酸誘導体又はその塩をバイオフィルムに作用させ(工程1)、次いで殺菌剤を作用させる(工程2)、バイオフィルム中の微生物の殺菌方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、アルギニン又はその塩とグリシジルエーテルとを反応させて得られるアルギニン誘導体又はその塩をバイオフィルムに作用させ(工程1)、次いで殺菌剤を作用させる(工程2)、バイオフィルム中の微生物の殺菌方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、様々な領域において微生物ならびに微生物産生物質からなるバイオフィルム中の微生物を効果的に殺菌することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の殺菌方法は、バイオフィルムを形成した面に工程1としてまず、一般式(1)で示される化合物を接触させ、その後、工程2として殺菌剤を作用させる。
(工程1)
本発明の殺菌方法では、まず、下記一般式(1)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R1は炭素数4〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル基を示し、X及びYは次の式
【0016】
【化4】

【0017】
で示される基から選ばれる基を示し、mは1〜5の整数を示す。)
で表わされる塩基性アミノ酸誘導体又はその塩をバイオフィルムに作用させる。
【0018】
一般式(1)中、R1で示されるアルキル基又はアルケニル基は、直鎖でも分岐鎖でもよいが、バイオフィルム除去効果の点から炭素数4〜18のものであり、炭素数6〜14のものが好ましく、炭素数8〜14のものがより好ましく、炭素数10〜14のものがさらに好ましい。具体的には、n−へキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、デシル基、ドデシル基、ミリスチル基等が挙げられる。R1で示されるアルキル基又はアルケニル基は単一あるいは混合であってもよい。また、天然由来、例えばヤシ油やパーム核油由来の混合アルキル組成であってもよい。
一般式(1)中、mは、1〜5の整数を示すが、2〜4が好ましく、さらに3が好ましい。また、Xは−OCH2−CH(−OH)CH2−が好ましく、Yは−NH−C(−NH2)=NHが好ましい。
【0019】
塩基性アミノ酸誘導体(1)の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸の塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酸性アミノ酸塩などの有機酸の塩が挙げられ、好ましいものとしては、塩酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩が挙げられる。
【0020】
塩基性アミノ酸誘導体(1)は、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、オルチニン、ヒスチジン、ヒドロキシヒスチジン等とグリシジルエーテル、脂肪酸クロライド、脂肪酸無水物、エポキシアルカンなどの化合物とを反応させることにより得られる。好ましいものとしては、アルギニンとグリシジルエーテル、脂肪酸クロライド、酸無水物、エポキシアルカンなどの化合物とを反応させることにより得られる化合物で、さらに好ましくはアルギニンとグリシジルエーテルとの反応により得られるアルギニン誘導体、すなわち下記一般式(2)の化合物である。
【0021】
【化5】

【0022】
(R2は、炭素数4〜18の直鎖または分岐鎖のアルキルまたはアルケニル基を示す。)
これら反応生成物は洗浄効果、製剤の保存安定性を阻害しない範囲で未反応物、副生成物を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の殺菌方法に使用する塩基性アミノ酸誘導体(1)の濃度は、用途、剤型により適宜決定することができるが、バイオフィルムへ作用させる場面においては、通常、水溶液の状態で用いられ、その濃度としてはコストと取り扱い性の面から0.001〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.002〜7重量%、さらに好ましくは0.005〜5重量%の範囲である。
【0024】
本発明の殺菌方法において、塩基性アミノ酸誘導体(1)のバイオフィルムへの浸透性を高める目的で、塩基性アミノ酸誘導体(1)以外の界面活性剤を塩基性アミノ酸誘導体(1)と併用することができる。当該界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン界面活性剤から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0025】
陰イオン性界面活性剤としては、リグニンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン(以下、POEと記す)アルキルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、POEアルキルエーテル硫酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、POEトリベンジルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、POEアルキルリン酸塩、POEトリベンジルフェニルエーテルリン酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩(石けん)、POEアルキルエーテル酢酸塩等が挙げられ、中でもアルキル硫酸エステル塩やPOEアルキルエーテル硫酸エステル塩又はPOEアルキルエーテル酢酸塩を用いることがより好ましい。
【0026】
非イオン性界面活性剤としては、POEアルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、POEアリールフェニルエーテル、POEスチレン化フェニルエーテル、POEトリベンジルフェニルエーテル等の1価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、脂肪酸アルカノールアミド等の多価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤等が挙げられ、中でもPOEアルキルエーテル、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、ソルビタン脂肪酸エステル又はPOEソルビタン脂肪酸エステルを用いることがより好ましい。
【0027】
両性界面活性剤としては、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、脂肪酸アミドベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド等が挙げられ、中でもアルキルジメチルアミンオキサイドを用いることが好ましい。
【0028】
陽イオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、中でもアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。前記塩としては、ハロゲン化物が好ましく、塩化物、臭化物がより好ましい。
【0029】
これらの界面活性剤は塩基性アミノ酸誘導体(1)と目的に応じて任意の割合で併用することができる。
【0030】
工程1で使用される化合物(1)の形態としては、用途、目的に応じて、水、エタノール、イソプロパノールなどの溶剤に溶かした溶液、あるいは固体、ゲル状、乳化・分散状、粉末状、エアゾールなどが挙げられ、これらから適宜選択することができ、作用濃度に合わせた製品形態はもちろんのこと、高濃度の製品形態にしておき、使用場面において希釈する、あるいは使用場面において界面活性剤を配合し使用することも可能である。
【0031】
(工程2)
本発明の殺菌方法は、塩基性アミノ酸誘導体(1)をバイオフィルムに作用させた後、殺菌剤を作用させる。
本発明に用いる殺菌剤としては、例えば、次のものが挙げられる。
【0032】
・フェノール系としては、フェノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、オルトフェニルフェノール、オルトフェニルフェノールナトリウム、4−クロロー3,5−ジメチルフェノール、メチルフェノール、パラクロロフェノール、トリブロムフェノール、3−メチル−4−クロロフェノール、4−クロロ−2−(フェニルメチル)フェノール、モノクロロ−2−フェニルフェノール、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)などが挙げられる。
【0033】
・アルデヒド系としては、ホルムアルデヒド、グルタールアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、α−ブロムシンナムアルデヒドなどが挙げられる。
・カルボン酸系としては、安息香酸あるいはその塩、ヘキサジエン酸あるいはその塩、プロピオン酸あるいはその塩などが挙げられる。
・エステル系としては、グリセリン脂肪酸(C8−12)エステル、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸エチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、パラヒドロキシ安息香酸ブチルなどが挙げられる。
・過酸化系としては、過酸化水素、過酢酸などが挙げられる。
・二トリル系としては、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタンなどが挙げられる。
【0034】
・ハロゲン系としては、次亜塩素酸あるいはその塩、亜塩素酸あるいはその塩、二酸化塩素、塩素化イソシアヌール酸あるいはその塩、ポリビニルピロリドンヨード、パラクロロフェニル−3−ヨードプロパギルフォルマール、3−ヨード−2−プロパギルブチルカーバメート、1−[(ジヨードメチル)スルホニル]−4−メチルベンゼン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミド、N,N−ジメチル−N’−(ジクロロフルオロメチルチオ)−N’−フェニルスファミド、1−ブロモ−3−エトキシカルボキシ−1,2−ジヨード−1−プロペン、2,3,3−トリヨードアリルアルコール、α−クロロナフタレンなどが挙げられる。
・ピリジンあるいはキノリン系としては、8−オキシキノリン、2,3,5,6−テトラクロル−4−(メチルスルホニル)ピリジン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛、(2−ピリジルチオ−1−オキシド)ナトリウムなどが挙げられる。
【0035】
・トリアジン系としては、N,N’,N”−トリスヒドロキシエチルヘキサヒドロ−S−トリアジンが挙げられる。
・イソチアゾロン系としては、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾチアゾロンなどが挙げられる。
・アニリド系としては、3,4,4’−トリクロロカルバニリド(トリクロロカルバニリド)、3−トリフルオロメチル−4,4’−ジクロルカルバニリドなどが挙げられる。
・ビグアナイド系としては、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン塩酸塩などが挙げられる。
【0036】
・ジスルフィド系としては、ビス(ジメチルチオカーバモイル)ジスルフィドなどが挙げられる。
・チオカーバメート系としては、アンモニウム−N−メチルジチオカーバメート、ソディウム−N−メチルジチオカーバメートなどが挙げられる。
・界面活性剤系としては、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、アルキル(ジアミノエチル)グリシン塩酸塩、アルキル(ポリアミノエチル)グリシン塩酸塩、塩化セチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウムなどが挙げられる。
・有機金属系としては、10,10’−オキシビスフェノキサルシン、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅、8−オキシキノリン銅などが挙げられる。
【0037】
・天然系としては、茶エキス、ヒノキエキス、甘草エキス、プロポリスなどが挙げられる。
・アミノグリコシド系としては、アストロマイシンおよびその塩、ゲンタマイシンおよびその塩、ストレプトマイシンおよびその塩、ジヒドロストレプトマイシンおよびその塩などが挙げられる。
・アントラサイクリン系としては、アクラルビシンおよびその塩、イダルビシンおよびその塩などが挙げられる。
・オキサセフェム系としては、フロモキセフナトリウム、ラタモキセフナトリウムなどが挙げられる。
・カルバペネム系としては、イミペネム、パニペネム、メロペネムなどが挙げられる。
・グリコペプチド系としては、テイコプラニン、バンコマイシンおよびその塩などが挙げられる。
・ジノスタチン系としては、ジノスタチンなどが挙げられる。
・セフェム系としては、セファクロル、セファゾリンおよびその塩、セヒロキシムアキセチル、セファレキシン、セファピリンおよびその塩、セフォジジムおよびその塩、セフピラミドおよびその塩、セフスロジンおよびその塩、セフチブテン、セフェピムおよびその塩などが挙げられる。
【0038】
・テトラサイクリン系としては、オキシテトラサイクリンおよびその塩、ミノサイクリンおよびその塩、ドキシサイクリンおよびその塩が挙げられる。
・ブレオマイシン系としては、ブレオマイシンおよびその塩などが挙げられる。
・ペニシリン系としては、オキサシリンおよびその塩、アモキシリン、アンピシリンなどが挙げられる。
・マクロライド系としては、エリスロマイシン、クラリスロマシンなどが挙げられる。
・リンコマイシン系としては、クリンダマイシンおよびその塩、リンコマイシンおよびその塩などが挙げられる。
・ニューキノロン系としては、ノルフロキサシン、エノキサシン、スパルフロキサシンなどが挙げられる。
【0039】
本発明に用いる殺菌剤としては、フェノール系、界面活性剤系、ビグアナイド系の殺菌剤が好ましく、中でも、フェノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン塩酸塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、アルキル(ジアミノエチル)グリシン塩酸塩、アルキル(ポリアミノエチル)グリシン塩酸塩、塩化セチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウムが好ましい。
【0040】
これらの殺菌剤は単独あるいは2種以上を組合せて用いることができ、その濃度は、特に制限されるものではなく、その種類により適宜選択が可能であるが、バイオフィルムへの作用させる場面においては、通常、水溶液の状態で用いられ、その濃度としては0.001〜10重量%が好ましく、0.01〜5重量%がより好ましく、0.02〜3重量%が特に好ましい。
【0041】
工程2で用いられる殺菌剤の形態は、水、エタノール、イソプロパノールなどの溶剤に溶かした溶液、あるいは固体、ゲル状、乳化・分散状、粉末状、エアゾールなどが挙げられ、これらから適宜選択することができ、作用濃度に合わせた製品形態はもちろんのこと、高濃度の製品形態にしておき、使用場面において希釈する、あるいは使用場面において界面活性剤を配合し使用することも可能である。好ましい形態は水溶液である。
【0042】
工程1及び工程2で用いられる薬剤は本発明の目的を損なわない範囲で、増粘剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶剤、香料、着色剤、酸化防止剤、防腐剤、蛍光剤、賦形剤、ソイルリリース剤、漂白剤、漂白活性化剤、粉末化剤、造粒剤、コーティング剤などを配合することができる。
【0043】
工程1及び工程2の薬剤をバイオフィルムに接触させる方法としては、浸漬、塗布あるいは散布するなどがある。さらに、スポンジ、タオル、ブラシ、水流などの物理力を加えてもよい。また、工程1及び工程2の薬剤をバイオフィルムに作用させておく時間は、付着しているバイオフィルムの量、工程1及び工程2の薬剤を作用させる濃度、作用温度、物理力の有無により異なるが、通常は数秒から数時間の範囲である。作用させる時間としては、作業性と効果の両立の観点から、工程1の薬剤を1〜10分作用させた後、工程2の薬剤を1〜10分作用させることが好ましい。
【0044】
本発明の殺菌方法はバイオフィルムの危害が懸念される広い分野に適用することが可能である。例えば菌汚染リスクの高い食品製造又は飲料製造プラント用洗浄、台所、厨房、浴室、便器、台所又は厨房などの排水溝、排水管に応用できる。また、産業用の冷却タワーなどの冷却水系、脱塩装置、パルプ及び紙製造系や浴槽、プール、人工池などの循環水系路に応用できる。バイオフィルムが形成しやすい医療機器、例えば内視鏡やカテーテル、人工透析機等の殺菌にも応用できる。更に、入れ歯ケア剤、コンタクトレンズの殺菌などに使用することも可能である。
【実施例】
【0045】
製造例1:塩基性アミノ酸誘導体(1)の製造方法
N-[2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシル)オキシプロピル]-L-アルギニン塩酸塩の合成
合成は、特開平9-271655記載の製造例1を参考に行った。
還流冷却管、滴下ロート、温度計及び撹拌羽根を備えた200mLの四つ口フラスコに、L(+)-アルギニン9.4g(53.7mmol)、水50.0g、エタノール50.0gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌を行いながら78℃に昇温した。次に、反応系内を78〜80℃に保ち、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル10.0g(53.7mmol)を滴下した。その後、78〜80℃で4時間熟成を行った後、室温に戻した。次に、6mol/Lの塩酸水溶液9.8g(53.7mmol)を添加し、中和を行った。反応溶液から減圧で水とエタノールを完全に留去し、N-[2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシル)オキシプロピル]-L-アルギニン塩酸塩の白色固体21.6g得た。
同様にR1がC10(イソデシル)、C12(直鎖)、C16(直鎖)のものを合成した。
【0046】
実施例1
<微生物殺菌能の検定>
セラチア菌(Serratia marcescens NBRC12648)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidisNRBC12773)をそれぞれ大豆−カゼインダイジェストアガー(Soybean-Casein Digest Agar)〔SCD寒天培地:日本製薬(株)製〕を用いて、37℃、24時間の前培養してコロニー形成したものから極少量の菌塊を、滅菌済みの竹串を用いて、ミューラーヒントン培地を各1.0mL注加した滅菌済みポリスチレン製試験管内に接種した。これを37℃、24時間培養後に培養液を廃棄し、滅菌精製水2mLで各試験管を5回リンスし、マイクロプレート壁にバイオフィルムを形成、付着させた。ただちに、表2に示す工程1の薬剤を1.2mL注加し、室温で5分間作用させた後、工程2の薬剤1.2mLを注加しさらに5分作用させた。比較品5,6の薬剤については2.4mLを5分間作用させた。薬剤作用後、滅菌精製水2.4mLで各試験管を2回リンスした後、再度滅菌精製水2.4mLを注加し残存したバイオフィルムを滅菌済みの竹串を用いて掻きおとし後、マグネチックスターラーで30分攪拌した。攪拌後の液の10倍希釈各0.1mLをレシチン−ポリソルベート含有大豆−カゼインダイジェストアガー〔SCDLP寒天培地:日本製薬(株)製〕に均一に塗布後、37℃、24時間培養後にコロニー数をカウントした。
結果を表3に示した。
なお、表中の化合物A〜Dは次の表1に示すものである。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
以上の結果より、本発明の殺菌方法を用いることによりバイオフィルム中の微生物を効果的に殺菌できることがわかる。また、工程を分けずに実施した比較品5、6は効果が劣ることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1は炭素数4〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル基を示し、X及びYは次の式
【化2】

で示される基から選ばれる基を示し、mは1〜5の整数を示す。)
で表わされる塩基性アミノ酸誘導体又はその塩をバイオフィルムに作用させ(工程1)、次いで殺菌剤を作用させる(工程2)、バイオフィルム中の微生物の殺菌方法。
【請求項2】
一般式(1)中、mが3であり、かつYが−NH−C(−NH2)=NHである請求項1記載の殺菌方法。
【請求項3】
一般式(1)中、Xが−OCH2−CH(−OH)CH2−である請求項1又は2記載の殺菌方法。
【請求項4】
アルギニン又はその塩とグリシジルエーテルとを反応させて得られるアルギニン誘導体又はその塩をバイオフィルムに作用させ(工程1)、次いで殺菌剤を作用させる(工程2)、バイオフィルム中の微生物の殺菌方法。
【請求項5】
殺菌剤が、フェノール系、界面活性剤系及びビグアナイド系から選ばれる1種以上である請求項1〜4の何れか1項記載の殺菌方法。

【公開番号】特開2010−126525(P2010−126525A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306388(P2008−306388)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】