説明

バイオマス由来のタールからなる樹脂の可溶化溶媒

【課題】
熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含有する部品から熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を可溶化する溶媒を提供すること。また、前記可溶化する溶媒を製造する技術を提供すること。
【解決手段】
バイオマスを溶媒と共に不活性ガス雰囲気下加熱処理して得られるタールを熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒とする。バイオマスを溶媒と共に、アルカリ成分または酸成分の存在下に加熱処理して、前記可溶化溶媒を製造することもできる。
前記可溶化溶媒を安価で収率良く製造することができる。また、各種有用物質を回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを溶媒と共に加熱処理して得られるタールからなる熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒に関する。さらには、前記タールを用いた熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を可溶化する方法に関する。とくに、バイオマスを溶媒と共に不活性ガス雰囲気下加熱処理して得られるタールからなる熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒に関する。さらには、前記タールを用いた熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を可溶化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂は、優れた電気絶縁性、耐熱性、耐候性、耐薬品性、機械的強度等を示すため、各種部品の材料として広く用いられている。また、熱可塑性樹脂もその優れた性質を利用して各種部品の材料として広く用いられている。近年の技術の進歩は目覚しく、例えば自動車部品、電化製品部品などとして熱硬化性樹脂製部品や熱可塑性樹脂製部品が多用されているし、また、例えば熱硬化性樹脂を用いたプリント印刷配線板を組み込んだ製品など各種製品もいたるところに使用されており、人々はその恩恵を蒙っているところである。
ところが、経時変化等の理由により前記熱硬化性樹脂製部品や熱可塑性樹脂製部品、それら部品を取込んだ各種製品が本来有する機能を果たさなくなると、それら部品や製品は廃棄されることになる。また、他のいろいろな理由により前記部品や製品は廃棄されることもある。これら廃棄された部品や製品の処理が問題となっており、廃棄された部品や製品の処理に関する技術は数多く報告されている。
【0003】
例えば、リン酸類及びアルコール系溶媒を必須成分として含む処理液を不飽和ポリエステル樹脂硬化物と接触させ、当該不飽和ポリエステル樹脂硬化物を分解処理する技術が報告され(特許文献1)、セシウム及び/またはルビジウムの酢酸塩、炭酸塩及び重炭酸塩の1種以上と、アルコール系溶媒とを必須成分として含む処理液を不飽和ポリエステル樹脂硬化物と接触させ、当該不飽和ポリエステル樹脂硬化物を分解処理する技術が報告されている(特許文献2)。これらの技術は、処理液を不飽和ポリエステル樹脂硬化物と接触させる条件が180〜220℃の範囲であり、温和な条件で処理することが可能な点で有利であるが、アルコール系溶媒に含ませる物質に不都合さが残るなど、処理液の組成などの点でさらに改善されることが望まれる。
また、処理液中でエポキシ樹脂硬化物に超音波振動を与えることによりエポキシ樹脂硬化物を分解または溶解する技術が報告されているが(特許文献3)、この技術では超音波振動を与える点が要件となってしまう。
【0004】
一方、炭素繊維と酸無水物硬化エポキシ樹脂とから構成される複合材料に、アルカリ金属化合物とアルコール系溶媒を必須成分として含む処理液を接触させ、前記複合材料から炭素繊維と酸無水物硬化エポキシ樹脂とを分離する方法が報告されており(特許文献4)、エポキシ樹脂硬化物に、アルカリ金属化合物、リン酸類、リン酸類の塩、有機酸、有機酸の塩からなる群より選択される1種以上のエポキシ樹脂分解触媒、有機溶媒および水からなる処理液を接触させ、エポキシ樹脂硬化物を溶解する技術が報告されている。これらの技術も常圧下、150℃〜180℃という温和な条件で処理できる点で有利であるが、処理液の組成などの点でさらに改善されることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−194137号公報
【特許文献2】特開2006−131698号公報
【特許文献3】特開2005−344058号公報
【特許文献4】特開2005−255835号公報
【特許文献5】特開2005−255902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、バイオマスや石炭を利用する技術として燃焼発電技術、あるいは、原料ガスやコークス、炭を製造する技術等も知られている。また、所謂廃棄物系バイオマスの有効利用を目的とする技術開発も盛んに行われている。
本発明者らは上記の実情に鑑み、熱硬化性樹脂の可溶化方法を開発するとの目的のもとに、バイオマス、特に廃棄物系バイオマスを利用した熱硬化性樹脂の可溶化方法を開発しているが、熱硬化性樹脂の可溶化をさらに効率良く達成するためには、可溶化溶媒を製造する技術のさらなる開発が求められている。特に、熱硬化性樹脂の可溶化溶媒を安価で収率良く製造する技術が求められている。さらに、熱可塑性樹脂の可溶化溶媒を安価で収率良く製造する技術が開発できると、熱可塑性樹脂を用いた製品が可溶化され、各種有用物質を回収することができる。
そこで、本発明の課題は、新規な熱硬化性樹脂の可溶化溶媒または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒を提供することにある。また、本発明の課題は、バイオマス、特に廃棄物系バイオマスを利用した新規な熱硬化性樹脂の可溶化溶媒または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒を提供することにある。さらに、本発明は前記熱硬化性樹脂の可溶化溶媒を用いる熱硬化性樹脂の可溶化方法を提供することにあり、また、前記熱可塑性樹脂の可溶化溶媒を用いる熱可塑性樹脂の可溶化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究する最中、建築系有機廃棄物等を含む木質系バイオマスに着目し、それをベンジルアルコールなどの溶媒と共に加熱処理すると、意外にも熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を可溶化できる溶媒を収率よく調製することができるという知見を得た。それらの知見に基づきさらに研究を重ねついに本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、バイオマスを溶媒と共に加熱処理して得られるタールからなることを特徴とする熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒に関する。
請求項2の発明は、請求項1記載の発明において、不活性ガス雰囲気下で加熱処理することを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2記載の発明において、溶媒が水酸基含有化合物であることを特徴とし、とくに、常温、常圧で液体の水酸基含有化合物または請求項1または2の加熱処理条件において液体となる水酸基含有化合物であることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1または2記載の発明において、溶媒が芳香族アルコールであることを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、タールの沸点が200℃以上であることを特徴とし、請求項6の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、タールのテトラヒドロフラン可溶分が70質量%以上であることを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、タールの重量平均分子量の分布は300〜7000であることを特徴とし、請求項8の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、タールの芳香環に直接結合する水素の割合がタールの全ての水素を基準にして80%以下であることを特徴とする。
請求項9の発明は、上記請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、タールのH/C値およびC/O値(ただし、Hは水素原子、Cは炭素原子、Oが酸素原子を示す)がそれぞれ0.5〜1.5(原子数比)および0.0〜0.5(原子数比)であることを特徴とする。
【0010】
請求項10の発明は、バイオマスを溶媒と共に加熱処理することを特徴とするタールの製造方法に関する発明である。
請求項11の発明は、上記請求項10の発明において、バイオマスを溶媒と共に、アルカリ成分または酸成分の存在下に加熱処理することを特徴とする。
請求項12の発明は、請求項10または11の発明において、不活性ガス雰囲気下で加熱処理することを特徴とする。
【0011】
請求項13の発明は、1〜9のいずれか記載の可溶化溶媒中にて熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有する部品を加熱処理することを特徴とする熱硬化性樹脂の可溶化方法に関する発明である。
請求項14の発明は、1〜9のいずれか記載の可溶化溶媒中にて熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂を含有する部品を加熱処理することを特徴とする熱可塑性樹脂の可溶化方法に関する発明である。
【0012】
以下に本発明を詳細に記述する。
本発明でいうバイオマスとは、固体有機物ということができ、また、国連食糧農業機関(FAO)による、麦わら、サトウキビ、米糠、草木等の農業系有機物;製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、薪炭林等の林業系有機物;家畜廃棄物等の畜産系有機物;水産加工残滓等の水産系有機物;生ゴミ、ゴミ由来固形化燃料、庭木、建設廃材、下水汚泥等の廃棄物系等のいずれかに分類される有機物ということもできる。これらの中では、麦わら、サトウキビ、米糠、草木等の農業系有機物;製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、薪炭林等の林業系有機物;生ゴミ、ゴミ由来固形化燃料、庭木、建設廃材、下水汚泥等の廃棄物系等のいずれかに分類される有機物が好ましい。さらには、製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、薪炭林等の林業系有機物に分類される有機物に庭木、建設廃材等を含めた木質系バイオマスがとくに好ましい。
これらバイオマスを乾燥処理、精製処理、切断・破砕処理など各種前処理を施した後に使用することが好ましい。例えば、木質系バイオマスでは、数mm〜数十mm程度の固形片にしておくことが有効である。また、さらに細かく粉砕してもよい。
【0013】
本発明では、上記バイオマスを不活性雰囲気下にて加熱処理することが好ましい。ここでいう不活性雰囲気とは乾留処理によりバイオマスが燃焼されないような雰囲気をいい、例えば、窒素ガス雰囲気、炭酸ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気などを挙げることができるが、それらに限定されない。
本発明において用いられる溶媒は常温、常圧で液状の化合物あるいは請求項1または2の加熱処理条件において液体となる加熱して液状となる化合物であって、バイオマスと共に加熱処理すると本発明が規定するタールを生成する化合物を意味する。上記溶媒としては、水酸基含有化合物が好ましく、ここで、水酸基含有化合物とは各種アルコール類化合物またはフェノールやクレゾール等のフェノール性水酸基含有化合物を意味する。なお、ジヒドロキシナフタレンなどのナフタレン環に水酸基が結合した化合物もフェノール性水酸基含有化合物に含むことにする。
上記溶媒として、特に、芳香族アルコールが好ましく、例えば、下記一般式1または2で表されることができる化合物が好ましい。
(一般式1)

(一般式2)

式中、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、Yは炭素数が1〜5のアルキル基、炭素数が1〜5のヒドロキシアルキル基、mは1〜3の整数、nは0または1〜3の整数、mとnとの和は4以下、pは0または1を示す。
より好ましい芳香族アルコールはフェノール、カテコール、トリヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン、キシレングリコール、ベンジルアルコール、2−フェネチルアルコール、それらのアルキル誘導体、およびヒドロキシアルキル誘導体を挙げることができる。アルキル誘導体のアルキル基は炭素数が1〜5であることが好ましく、アルキル基の結合位置は特に限定されない。ヒドロキシアルキル誘導体のヒドロキシアルキル基は炭素数が1〜5であることが好ましく、ヒドロキシアルキル基の結合位置は特に限定されない。前記アルキル基として、とくにアルキル基の炭素数が1〜2であることが好ましい。
溶媒の使用量は用いるバイオマスの種類、用いる溶媒の種類により変動するのであるが、好ましくはバイオマスの量に対して、1〜4倍量(質量比)である。
上記バイオマスと上記溶媒の加熱処理に際して、アルカリ成分あるいは酸成分を配合させておくと、より好ましい効果をもたらすことが可能となる。上記アルカリ成分としては、NaOH、KOH、NaCO、NaHCO、KCO、KHCO、Ca(OH) などを挙げられ、酸成分としては、HSO,HNO,HCl、HPO等を挙げることができるが、例示された化合物に限定されない。アルカリ成分や酸成分の配合量は上記溶媒1に対してアルカリ成分や酸成分を0.0001〜0.2(質量比)とすることが好ましいが、この範囲に何ら限定されない。
【0014】
本発明では、上記バイオマスを上記溶媒と共に加熱処理することが必須である。例えば、加熱装置内にバイオマスと上記溶媒とを導入した反応容器をセットし、バイオマスと上記溶媒とを所定温度まで上昇させ、ついで当該温度にて加熱処理することになる。
加熱方法についてはバイオマスと上記溶媒とからタールを得ることができる条件であれば特に制限されない。用いるバイオマスや溶媒の種類、性状、量などにより変動するので好ましい加熱条件を一概に規定することはできない。強いて記載するなら、例えば、1℃〜50℃/分の速度で上昇させ、ついで200℃〜600℃で30分〜150分加熱処理する条件を挙げることができるが、その範囲に限定されない。その中でも250℃〜400℃で加熱処理するとタールを収率良く調製することができるので有利である。加熱手段についても、バイオマスと上記溶媒との混合物からタールを得ることができる手段であれば特に制限されない。用いるバイオマスや溶媒の種類、性状、量などにより変動するので好ましい手段を一概に規定することはできない。
本発明でいうタールがバイオマスを溶媒と共に加熱処理して生成される機構は解明されたとはいえないが、タールが生成される過程の一つに、上記加熱処理により、バイオマスに溶媒の一部が取り込まれる反応、すなわち各種の付加反応や縮合反応など多様な反応が関与していると推察される。すなわち、本発明では、上記溶媒としては共存するバイオマスに結合できる機能を有する化合物を用いることが好ましい。上記水酸基含有化合物あるいは芳香族アルコールも同様である。
本発明では、バイオマスを溶媒と共に加熱処理した後、後処理することが好ましく、例えば、存在する溶媒を除去するなどの精製処理を例示することができる。精製処理として、バイオマスを溶媒と共に加熱処理した後、真空蒸留処理する処理例を例示できる。真空蒸留処理条件は特に制限されないのであって、バイオマスを溶媒と共に加熱処理した後に得られた処理物中に余分な溶媒が除去されたことを確認できるかぎり、どのような真空蒸留処理条件でも採用可能である。また、本発明では前記真空蒸留処理に限定されない。
【0015】
本発明でいうタールは、粘性のある褐色ないし黒色の油状液体を意味する。このタールは沸点が200℃以上であることが好ましい。沸点200℃以上のタールを使用することにより、常圧で還流器を付けて反応器内を200℃以上に加熱することができるので有利である。
本発明でいうタールは沸点が200℃以上の成分からなるタールということもできる。ここで、沸点が200℃以上の成分からなるタールとは、200℃以上の所定温度で30分間加熱したときにタールの重量減少が加熱処理前のタールを基準として所定量%以下であるタールをいう。前記所定温度の上限はタールが熱分解されない温度である。この温度は測定するタールにより変動するので一概に規定することができない。前記所定量は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の可溶化処理と関係するので一概に規定しにくいが、例えば10重量%以下とすることができ、5重量%以下がより好ましい。沸点が200℃以上の成分からなるタールは、例えば、タール10gを200℃で攪拌しながら30分間加熱したときにタールの重量減少が約5重量%以下のタールを示すことができる。ここでいうタールを所定温度で30分間加熱する条件としては、例えば、タール10gを300mLのフラスコに収め、200℃/30分のスピードで200℃に到達するまで加熱し、ついで、200℃で30分間加熱処理する条件を例示できる。なお、重量減少は通常の測定法で知ることができる。
本発明でいうタールは、その40%(質量)以上がテトラヒドロフランに可溶であり、重量平均分子量は300から7000の範囲であることが好ましく、樹脂の可溶化の点からみて300から5000の範囲であることがより好ましく、400から3000の範囲であることがさらに好ましい。タールの溶剤分別は、テトラヒドロフランを抽出溶媒としてソックスレー抽出法を行い測定した。また、分子量分布はポリスチレンを分子量の標準試料、テトラヒドロフランを溶媒としてゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)で測定した。
本発明でいうタールは、芳香環に直接結合する水素の割合がタールの全ての水素を基準にして80%以下であることを特徴とする。芳香環に直接結合する水素の割合は、H-NMRでタールを測定して観測されたH-NMRスペクトルの全面積と芳香環に直接結合する水素のH-NMRスペクトルの面積との比から下記算出式により算出される。
A=(B/C)x100
ただし、Aは芳香族環に結合する水素の割合(%)、Bは芳香環に結合する水素のH-NMRスペクトルの面積、Cはタールの水素のH-NMRスペクトルの全面積である。
【0016】
本発明でいうタールは、そのH/C値およびC/O値(ただし、Hは水素原子、Cは炭素原子、Oが酸素原子を示す)がそれぞれ0.5〜1.5(原子数比)および0.0〜0.5(原子数比)であることが好ましく、0.8〜1.10(原子数比)および0.01〜0.20(原子数比)であることがより好ましい。ここで、タールのH/C値およびC/O値の測定法は従来から知られている元素分析法を採用することにより容易に知ることができる。
【0017】
かくして得られたタールを熱硬化性樹脂の可溶化溶媒または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒とすることが本発明の一つの大きな特徴であり、熱硬化性樹脂を含有する部品または熱可塑性樹脂を含有する部品と接触させ、加熱処理することが本発明の一つの大きな特徴である。ここで、熱硬化性樹脂は、すでに広く知られている樹脂であり、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などを例示することができるが、本発明ではこれら例示された樹脂に何ら限定されない。また、それら熱硬化性樹脂を含む複合材料であってもよい。また、熱可塑性樹脂も、すでに広く知られている樹脂であり、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などを例示することができるが、本発明ではこれら例示された樹脂に何ら限定されない。また、それら熱可塑性樹脂を含む複合材料であってもよい。
本発明では、上記熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂(以下、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をまとめて熱硬化性樹脂と記載することがある)には、慣用の配合剤が配合されていてもよい。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、充填材などを例示することができる。
【0018】
上記熱硬化性樹脂を含有する部品の具体例は、プリント印刷基板などを含む各種基板、封止されたIC等の電子部品、各種複合材料、電化製品等の各種筐体、自動車部品等を挙げることができるがそれらに何ら制限されない。本発明では特に各種基板が好ましい。ここで基板とはパソコンやテレビなどの電子電気機器に使用されているプリント基板 をいう。なお、本発明では、熱硬化性樹脂を含有する部品に熱硬化性樹脂自体も含み、また、前記熱硬化性樹脂を含有する部品を備える製品も含まれる。
【0019】
上記熱硬化性樹脂の可溶化溶媒を、熱硬化性樹脂を含有する部品と加熱処理する方法は、本発明の所期の目的を達成することができる限り何ら制限されない。熱硬化性樹脂の可溶化溶媒の種類や量、熱硬化性樹脂を含有する部品の種類や大きさなどにより適宜変更されるので好ましい条件を一概に規定することはできない。
【0020】
強いて記載するなら、熱硬化性樹脂を含有する部品1に対して、熱硬化性樹脂の可溶化溶媒を1〜20倍(質量比)となるよう調整して、加熱処理する方法が挙げられる。加熱処理するときの温度は、例えば200℃〜300℃が挙げられるが、その範囲に限定されない。接触時間は、例えば30分〜150分が挙げられるが、その範囲に限定されない。接触させるときの圧力は、常圧でよいが、例えば0.1MPa〜5.0MPa程度としてもよい。
【0021】
本発明での可溶化処理により樹脂を含有する部品から熱硬化性樹脂が可溶化される機構は全て解明されたわけではないが、おそらく樹脂を含有する部品中の熱硬化性樹脂に含まれるエステル結合などの弱い結合が開裂し、樹脂がオリゴマーなどの低分子量成分に変化し、タールに可溶化されると推測される。
【0022】
熱硬化性樹脂を含む部品が可溶化され、各種有用物質を回収することができるので、その点でも本発明は有利である。例えば、プリント印刷配線板に含まれる熱硬化性樹脂が可溶化され、プリント印刷配線板に存在する貴金属やガラス繊維を回収することができる。
さらに、本発明では熱硬化性樹脂を可溶化することにより、熱硬化性樹脂由来の低分子化合物を回収することもできるし、当該低分子化合物に各種処理を施し、化学原料化合物や改質物を製造することもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、バイオマスから得られるタールを使用して熱硬化性樹脂を含む部品から熱硬化性樹脂を可溶化することができるし、バイオマスから得られるタールを使用して熱可塑性樹脂を含む部品から熱可塑性樹脂を可溶化することができる。特に廃棄性バイオマスを使うと、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を常圧下で可溶化できる安価な重質溶媒が容易に得られ、また今まで廃棄されていたバイオマスを有効利用することになり、環境を優しくするという意味で大きな意味がある。しかも、本発明により熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒を収率良く製造することができるので、その点でも有利である。また、廃棄処理されていた熱硬化性樹脂を含む部品または熱可塑性樹脂を含む部品から資源を回収することができるし、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から化学原料化合物や改質物を製造することもできるので、その点でも本発明は実用的であるといえる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明はこれらの実施例になんら限定されない。
なお、本発明で用いた分析機器は次の通りである。
H-NMR:日本電子社製 ラムダ500
GPC:東ソー GPC−8020
(実施例1)杉からのタールによるエポキシ樹脂の可溶化
(タールの調製)
杉の粉砕粉(100メッシュ以下)10g、ベンジルアルコール40gおよび水酸化ナトリウム0.4gを200mL反応器中に導入し、窒素ガス雰囲気下で20気圧下、15℃/分の速度で300℃まで昇温し、同温度で120分間加熱処理し、生成物を得た。次に前記生成物を2mmHg、140℃で真空蒸留処理し、タール10gを得た。得られたタールをGCP分析しても溶媒のピークが確認できなかったので余分な溶媒は除去されたことが分かった。
得られたタールの重量平均分子量はGPC法の測定から614であり、芳香環に結合する水素の割合はH-NMRスペクトルから44%であり、H/C値およびO/C値はそれぞれ0.97、0.12であった。
【0025】
(タールを用いた可溶化処理)
内容積300mLの丸型フラスコにエポキシ樹脂(日立化成(株)製MCLE67)1g、および上記タール10gを加え、マグネットスターラーで攪拌しながら、300℃まで約30分で昇温し、同温度で常圧下120分間、エポキシ樹脂を可溶化処理した。
エポキシ樹脂の可溶化率は97%であった。
なお、可溶化率は下記式により算出した。
可溶化率= 100−(B−C)/(A−C)×100
ただし、式中、Aはフラスコに投入したエポキシ樹脂(重量)、Bは可溶化処理後の残渣(重量)、Cはエポキシ樹脂に含まれているガラス繊維(重量)を示す。
【0026】
(実施例2)杉からのタールによるエポキシ樹脂の可溶化
(タールの調製)
実施例1において、水酸化ナトリウムを反応器に導入せず、それ以外は実施例1と同様に操作し、タール6.6gを得た。得られたタールをGCP分析しても溶媒のピークが確認できなかったので余分な溶媒は除去されたことが分かった。
得られたタールの重量平均分子量はGPC法の測定から570であり、H/C値およびO/C値はそれぞれ1.0および0.13であった。
(タールを用いた可溶化処理)
実施例1において、タール10gの代わりに上記タール6.6gおよび水酸化ナトリウム0.066gを加え、それ以外は実施例1と同様に操作し、エポキシ樹脂を可溶化処理した。エポキシ樹脂の可溶化率は78%であった。
【0027】
(実施例3)杉からのタールによるエポキシ樹脂の可溶化
(タールの調製)
実施例1において、水酸化ナトリウムを反応器に導入せず、それ以外は実施例1と同様に操作し、タール8.2gを得た。得られたタールをGCP分析しても溶媒のピークが確認できなかったので余分な溶媒は除去されたことが分かった。
得られたタールの重量平均分子量はGPC法の測定から570であり、H/C値およびO/C値はそれぞれ1.0および0.13であった。
(タールを用いた可溶化処理)
実施例1において、タール10gの代わりに上記タール8.2gを加え、それ以外は実施例1と同様に操作し、エポキシ樹脂を可溶化処理した。エポキシ樹脂の可溶化率は63%であった。
【0028】
(実施例4)杉からのタールによるエポキシ樹脂の可溶化
(タールの調製)
実施例2において、97%硫酸0.4gを反応器に導入し、それ以外は実施例2と同様に操作し、タール14.4gを得た。得られたタールをGCP分析しても溶媒のピークが確認できなかったので余分な溶媒は除去されたことが分かった。
得られたタールの重量平均分子量はGPC法の測定から940であり、H/C値およびO/C値はそれぞれ0.87および0.03であった。
(タールを用いた可溶化処理)
実施例2において、タール8.6gの代わりに上記タール14.4gを使用し、それ以外は実施例2と同様に操作し、エポキシ樹脂を可溶化処理した。エポキシ樹脂の可溶化率は94%であった。
【0029】
(実施例5〜8)本発明が規定するタールによるウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、FRPおよびポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)の可溶化
(タールを用いた可溶化処理)
内容積100mLの丸型フラスコに、表1記載の試料1g、および実施例1で用いたタール10gを加え、実施例1と同様に操作し、各試料を可溶化処理した。
各試料の可溶化率は、表1のとおりであった。なお、可溶化率は上記エポキシ樹脂の可溶化率と同様であり、下記式から算出した。
可溶化率= 100−(B−C)/(A−C)×100
ただし、式中、Aはフラスコに投入した試料(重量)、Bは可溶化処理後の残渣(重量)、Cは試料に含まれている樹脂以外の物(重量)を示す。
表1

なお、用いた試料は次の通りである(以下、同様)。
ウレタン樹脂(アキレス(株)製エアロン−R)、ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製パンライトPC−1111)、FRP(AGCマテックス(株)製アーモライト)、PET樹脂( 笠井産業(株)製 カピロンG PET )。
【0030】
(実施例9〜11)本発明が規定するタールによるエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)の可溶化
(タールを用いた可溶化処理)
内容積100mLの丸型フラスコに、表2記載の試料1gおよび実施例1で用いたタール10gを加え、マグネットスターラーで攪拌しながら、250℃まで約30分で昇温し、同温度で常圧下120分間、表2記載の試料を可溶化処理した。
各試料の可溶化率は表2のとおりであった。なお、可溶化率は上記式により算出した。
表2

【0031】
(実施例12)杉からのタールによるエポキシ樹脂の可溶化
(タールの調製)
実施例1において、300℃まで昇温する代わりに、325℃まで昇温し、それ以外は実施例1と同様に操作し、タール12gを得た。得られたタールをGCP分析しても溶媒のピークが確認できなかったので余分な溶媒は除去されたことが分かった。
得られたタールの重量平均分子量はGPC法の測定から457であり、H/C値およびO/C値はそれぞれ0.88および0.08であった。
(タールを用いた可溶化処理)
当該タールを用い、実施例1と同様に操作し、エポキシ樹脂を可溶化処理した。エポキシ樹脂の可溶化率は67%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを溶媒と共に加熱処理して得られるタールからなることを特徴とする熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の可溶化溶媒。
【請求項2】
不活性ガス雰囲気下で加熱処理することを特徴とする請求項1記載の可溶化溶媒。
【請求項3】
溶媒が、水酸基含有化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の可溶化溶媒。
【請求項4】
溶媒が、芳香族アルコールであることを特徴とする請求項1または2記載の可溶化溶媒。
【請求項5】
タールの沸点が200℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の可溶化溶媒。
【請求項6】
タールのテトラヒドロフラン可溶分が70質量%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の可溶化溶媒。
【請求項7】
タールの重量平均分子量が300〜7000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の可溶化溶媒。
【請求項8】
タールの芳香環に直接結合する水素の割合がタールの全ての水素を基準にして80%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の可溶化溶媒。
【請求項9】
タールのH/C値およびC/O値(ただし、Hは水素原子、Cは炭素原子、Oが酸素原子を示す)がそれぞれ0.5〜1.5(原子数比)および0.0〜0.5(原子数比)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の可溶化溶媒。
【請求項10】
バイオマスを溶媒と共に加熱処理することを特徴とするタールの製造方法。
【請求項11】
バイオマスを溶媒と共に、アルカリ成分または酸成分の存在下に加熱処理することを特徴とする請求項10記載のタールの製造方法。
【請求項12】
不活性ガス雰囲気下で加熱処理することを特徴とする請求項10または11記載のタールの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか記載の可溶化溶媒中にて熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有する部品を加熱処理することを特徴とする熱硬化性樹脂の可溶化方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか記載の可溶化溶媒中にて熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂を含有する部品を加熱処理することを特徴とする熱可塑性樹脂の可溶化方法。

【公開番号】特開2010−174150(P2010−174150A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19025(P2009−19025)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】