説明

バイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法、積層欠陥縮小方法およびバイポーラ型半導体装置

【課題】炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置において、電流通電により拡大した積層欠陥面積を縮小し、増加した炭化珪素バイポーラ型半導体装置の順方向電圧を回復させる方法を提供する。
【解決手段】電流通電により積層欠陥面積が拡大し、順方向電圧が増加した炭化珪素バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温度で加熱し、積層欠陥回復させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で電流通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置において、電流通電により増加した順方向電圧を回復させる方法、電流通電により面積が拡大した積層欠陥を縮小する方法および当該方法を行うための素子を備えたバイポーラ型半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界強度が約10倍であり、この他に熱伝導率、電子移動度、バンドギャップなどにおいても優れた物性値を有する半導体であることから、従来のSi系パワー半導体素子に比べて飛躍的な性能向上を実現する半導体材料として期待されている。
【0003】
最近では、直径3インチまでの4H−SiC、6H−SiC単結晶基板が市販されるようになり、Siの性能限界を大幅に超える各種の半導体スイッチング素子の報告が相次いでなされるなど、高性能SiC半導体素子の開発が進められている。
【0004】
半導体素子は、電流通電時に電子あるいは正孔のみが電気伝導に作用するユニポーラ型半導体素子と、電子と正孔の両者が電気伝導に作用するバイポーラ型半導体素子に大別される。ユニポーラ型半導体素子にはショットキーバリヤダイオード(SBD)、接合電界効果トランジスタ(J−FET)、金属/酸化膜/半導体電界効果トランジスタ(MOS−FET)などが属する。バイポーラ型半導体素子にはpnダイオード、バイポーラ型接合トランジスタ(BJT)、サイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ(GTOサイリスタ)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)などが属する。
【0005】
SiC単結晶を用いてパワー半導体素子を作製する場合、SiC単結晶の拡散係数が極めて小さいために不純物を深く拡散させることが困難であることから、SiCバルク単結晶基板上に、基板と同一の結晶型で、所定の膜厚およびドーピング濃度を有する単結晶膜をエピタキシャル成長させることが多い(特許文献1)。具体的には、昇華法あるいは化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって得られたバルク単結晶を
スライスした基板の表面に、CVD法によりエピタキシャル単結晶膜を成長させたSiC単結晶基板が使用されている。
【0006】
SiC単結晶には各種の結晶多形(ポリタイプ)が存在するが、パワー半導体素子の開発では、絶縁破壊電界強度および移動度が高く、異方性が比較的小さい4H−SiCが主に使用されている。エピタキシャル成長を行う結晶面としては、(0001)Si面、(000−1)C面、(11−20)面、(01−10)面、(03−38)面などがあるが、(0001)Si面および(000−1)C面からエピタキシャル成長させる場合には、ステップフロー成長技術によりホモエピタキシャル成長させるために、これらの面を[11−20]方向あるいは[01−10]方向に数度傾けた結晶面が使用されることが多い。
【特許文献1】国際公開WO03/038876号パンフレット
【非特許文献1】ジャーナル オブ アプライド フィジックス(Journal of Applied Physics)ボリューム95 No.3 2004年 1485頁〜1488頁
【非特許文献2】ジャーナル オブ アプライド フィジックス(Journal of Applied Physics)ボリューム92 No.8 2004年 4699頁〜4704頁
【非特許文献3】ジャーナル オブ クリスタル グロウス(Journal of Crystal Growth)ボリューム262 2004年 130頁〜138頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、SiCを用いたパワー半導体素子は各種の優れた点を有しているが、以下の問題点があった。SiCバイポーラ型半導体素子におけるSiC単結晶の内部には、その製造工程において各種の結晶欠陥が発生する。具体的には、第1に、改良レーリー法またはCVD法によりSiCバルク単結晶を成長させる工程において、各種の結晶欠陥が発生する。このような各種の結晶欠陥が含まれたSiCバルク単結晶から切り出したウエハを用いて作製したSiCバイポーラ型半導体素子では、ウエハの内部に存在する結晶欠陥が素子の特性を低下させる要因となる。
【0008】
第2に、SiCエピタキシャル膜には、CVD法によりSiCバルク単結晶基板の表面から成長させる工程において、各種の結晶欠陥が発生する。このような結晶欠陥の一種として、ベーサルプレーン転位(basal plane dislocation)がある。
【0009】
図1は、SiC単結晶基板と、ステップフロー成長技術によりその表面から形成したエピタキシャル膜との界面近傍を示した断面図である。同図において5は結晶面((0001)Si面)、θはオフ角である。図示したように、SiC単結晶基板1には結晶欠陥の一種であるベーサルプレーン転位(basal plane dislocation)3が多数存在している。
例えば、(0001)Si面からオフ角が8°となるように傾けたSiC単結晶基板では、基板表面におけるベーサルプレーン転位密度は、結晶品質にもよるが典型的には102
〜104個/cm2となる。
【0010】
この(0001)Si面と平行に延びるベーサルプレーン転位3はSiC単結晶基板1の表面上に現れ、ベーサルプレーン転位3のうち数%程度はエピタキシャル成長時にn型エピタキシャル膜2aおよびp型エピタキシャル膜(またはp型注入層)2bにベーサルプレーン転位3としてそのまま伝播し、残りはスレッディングエッジ転位4(threading edge dislocation)に変換されてn型エピタキシャル膜2aおよびp型エピタキシャル膜(またはp型注入層)2bに伝播する。
【0011】
pnダイオードなどのバイポーラ素子では、n型エピタキシャル膜と、n型エピタキシャル膜とp型エピタキシャル膜との界面付近またはn型エピタキシャル膜とp型注入層との界面付近が通電時に電子と正孔が再結合する領域となるが、ベーサルプレーン転位3は、通電時に発生する電子と正孔の再結合エネルギーによって積層欠陥(stacking fault)へと変換される(上記の非特許文献1〜3)。この積層欠陥は図4に示したように、三角形等の形状を有する面状の欠陥として発生する。
【0012】
ベーサルプレーン転位は1/3[11−20]のバーガースベクトルを有しているが、1/3[10−10]と1/3[01−10]の2本のショックレー型部分転位(Shockley partial dislocation、ショックレー型不完全部分転位とも呼ばれている)に分解した状態で存在し、これらの部分転位に挟まれる微小領域は積層欠陥を形成する。この積層欠陥はショックレー型積層欠陥と呼ばれている。これらの部分転位のうち一方が電子と正孔との再結合エネルギーによって移動することで積層欠陥面積が拡大すると考えられている。
【0013】
積層欠陥の領域は、電流通電時に高抵抗領域として作用すると考えられ、その結果として、積層欠陥の面積拡大に伴ってバイポーラ型半導体素子の順方向電圧が増加することになる。
【0014】
また、CVD法によりSiC単結晶基板の表面からSiCエピタキシャル膜を成長させ
る工程において、SiCエピタキシャル膜にはベーサルプレーン転位以外にも各種の結晶欠陥が発生する。具体的には、例えば点欠陥、刃状転位、螺旋転位、およびこれらの混合転位などの線状転位、ループ状の転位などの結晶欠陥がSiC単結晶エピタキシャル膜の内部に発生する。また、CVD法による成膜後の温度降下時に結晶内部に歪みが起きると考えられ、この際にも上記結晶欠陥が発生すると考えられる。特に、SiCエピタキシャル膜の表面層には上記結晶欠陥が多く存在すると考えられる。
【0015】
上述したように、SiCエピタキシャル膜の内部は電流通電時に電子と正孔が再結合する領域となるため、電流通電時に発生する電子と正孔の再結合エネルギーによって上記の結晶欠陥も面状の積層欠陥へと変換されると考えられる。上述したように、積層欠陥の領域は電流通電時に高抵抗領域として作用し、バイポーラ型半導体素子の順方向電圧が増加する要因となる。
【0016】
第3に、SiCバルク単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル膜を形成した後、例えばメサ構造の形成、イオン注入、酸化膜の形成、電極の形成などの各種の工程を経てSiCバイポーラ型半導体素子が作製されるが、SiC単結晶基板への加工を行う工程においても上記の結晶欠陥が発生する。例えば、SiCバルク単結晶は不純物原子の拡散定数が小さく熱拡散法による不純物のドーピングを適用することが困難であるため、イオン注入によって窒素イオンやアルミニウムイオンをSiCエピタキシャル膜へ導入する場合がある。また、pnダイオードにおけるJTEの形成時にもSiCエピタキシャル膜へのイオン注入が行われる。これらのイオン注入時には、結晶内部に打ち込まれた不純物イオンが衝突することによってSiC単結晶の結晶構造が破壊されてSiC単結晶が損傷し、上記の結晶欠陥が発生すると考えられる。
【0017】
以上のように、SiC単結晶基板の形成工程、SiCエピタキシャル膜の形成工程、およびその後のSiC基板への加工工程において、SiC単結晶の内部には各種の結晶欠陥が発生する。この結晶欠陥は、作製したSiCバイポーラ型半導体素子の特性を低下させる要因となり、特に、電流通電によってSiCエピタキシャル膜の内部に存在する結晶欠陥が面状の積層欠陥となり、その面積が拡大すると、順方向電圧が増加することになる。順方向電圧の増加はSiCバイポーラ型半導体素子の信頼性を低下させ、SiCバイポーラ型半導体素子を組み込んだ電力制御装置の電力損失の増大を引き起こすため、電流通電により拡大した積層欠陥を縮小させ、増加した順方向電圧を回復させるという課題があった。
【0018】
本発明は、上記した従来技術における課題を解決するためになされたものであり、電流通電により拡大した積層欠陥面積を縮小し、増加した炭化珪素バイポーラ型半導体装置の順方向電圧を回復させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
電流通電により拡大した積層欠陥は、350℃以上の温度で加熱することにより縮小する。具体的には、面状の積層欠陥が線状の積層欠陥になる。この知見に基づいて、電流通電により順方向電圧が増加した炭化珪素バイポーラ型半導体装置に対して、350℃以上の温度で加熱を行うことにより、面状に拡大した積層欠陥が電流通電前の線状の積層欠陥に縮小されることで増加した順方向電圧が回復することを見出し本発明を完成するに至った。
【0020】
本発明のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法は、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で電流通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法であって、
電流通電により順方向電圧が増加した前記バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温
度で加熱することを特徴とする。
【0021】
本発明のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法は、前記バイポーラ型半導体装置を加熱するための温度制御装置を用いて、前記バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温度で加熱させることを特徴とする。
【0022】
本発明のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法は、六方晶の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする。
【0023】
本発明のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法は、六方晶四回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶四回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板、六方晶六回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶六回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板、または六方晶二回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶二回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする。
【0024】
本発明のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法は、菱面十五回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から菱面十五回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする。
【0025】
本発明のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法は、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で電流通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法であって、
電流通電により炭化珪素エピタキシャル膜内の積層欠陥面積が拡大した前記バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温度で加熱することを特徴とする。
【0026】
本発明のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法は、前記バイポーラ型半導体装置を加熱するための温度制御装置を用いて、前記バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温度で加熱することを特徴とする。
【0027】
本発明のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法は、六方晶の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする。
【0028】
本発明のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法は、六方晶四回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶四回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板、六方晶六回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶六回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板、または六方晶二回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶二回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする。
【0029】
本発明のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法は、菱面十五回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から菱面十五回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする。
【0030】
本発明のバイポーラ型半導体装置は、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置であって、
バイポーラ型半導体素子と、
電流通電により増加した前記バイポーラ型半導体素子の順方向電圧を回復させるために、電流通電を停止した状態で該バイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱する際に該バイポーラ型半導体素子の温度を検知する温度検知素子と、が同一の炭化珪素単結晶基板に形成されていることを特徴とする
本発明のバイポーラ型半導体装置は、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置であって、
バイポーラ型半導体素子と、
電流通電により増加した前記バイポーラ型半導体素子の順方向電圧を回復させるために、電流通電を停止した状態で該バイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱するヒータと、
前記ヒータによって前記バイポーラ型半導体素子を加熱する際に該バイポーラ型半導体素子の温度を検知する温度検知素子と、が同一の炭化珪素単結晶基板に形成されていることを特徴とする。
【0031】
本発明のバイポーラ型半導体装置は、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置であって、
バイポーラ型半導体素子と、
電流通電により拡大した前記バイポーラ型半導体素子内の積層欠陥面積を縮小させるために、電流通電を停止した状態で該バイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱する際に該バイポーラ型半導体素子の温度を検知する温度検知素子と、が同一の炭化珪素単結晶基板に形成されていることを特徴とする
本発明のバイポーラ型半導体装置は、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置であって、
バイポーラ型半導体素子と、
電流通電により拡大した前記バイポーラ型半導体素子内の積層欠陥面積を縮小させるために、電流通電を停止した状態で該バイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱するヒータと、
前記ヒータによって前記バイポーラ型半導体素子を加熱する際に該バイポーラ型半導体素子の温度を検知する温度検知素子と、が同一の炭化珪素単結晶基板に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、電流通電により増加したSiCバイポーラ型半導体素子の順方向電圧を電流通電前の状態に回復させることができる。
また本発明によれば、電流通電により拡大した積層欠陥面積を縮小することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。なお、格子方位および格子面について、個別方位は[]、個別面は()で示し、負の指数については結晶学上、“−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、明細書作成の都合上、数字の前に負号を付けることにする。また、「バイポーラ型半導体素子」という場合には基板に形成された単一の半導体素子を表し、「バイポーラ型半導体装置」という場合には、この単一の半導体素子の他、基板に複数の素子構造が形成されている素子構造全体、および、素子が形成された基板がパッケージに収納された形態などを含むものとする。
【0034】
本発明では、従来から使用されているSiCバイポーラ型半導体素子が用いられる。電極などを形成する半導体基板として、SiCエピタキシャル単結晶膜を表面から成長させ
たSiC単結晶基板が使用される。
【0035】
SiC単結晶基板としては、昇華法あるいはCVD法によって得られたバルク結晶をスライスしたものを使用する。昇華法(改良レーリー法)による場合、例えば、坩堝にSiC粉末を入れて、2200〜2400℃で加熱して気化し、種結晶の表面に典型的には0.8〜1mm/hの速度で堆積させてバルク成長させる。得られたインゴットを所定の厚さに、所望の結晶面が表出するようにスライスする。エピタキシャル膜へのベーサルプレーン転位の伝搬を抑制するために、切り出したウエハの表面を、研磨砥粒を用いた研磨処理、水素エッチング、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)などに
より処理して鏡面状に平滑化する。
【0036】
このSiC単結晶基板の表面から、SiC単結晶エピタキシャル膜を成長させる。SiC単結晶には、結晶多形(ポリタイプ)が存在するが、例えば、4H−SiC、6H−SiC、2H−SiC、15R−SiCなどがSiC単結晶基板として用いられる。これらの中でも、4H−SiCは、絶縁破壊電界強度および移動度が高く、異方性が比較的小さい。エピタキシャル成長を行う結晶面としては、例えば(0001)Si面、(000−1)C面、(11−20)面、(01−10)面、(03−38)面などが挙げられる。
【0037】
(0001)Si面、(000−1)C面でエピタキシャル成長させる場合、[01−10]方向、[11−20]方向、あるいは[01−10]方向と[11−20]方向との中間方向のオフ方位に、例えば1〜12°のオフ角で傾斜させて切り出した基板を使用し、この結晶面からステップフロー成長技術によりSiCをエピタキシャル成長させる。
【0038】
SiC単結晶膜のエピタキシャル成長はCVD法を用いて行われる。Cの原料ガスとしてはプロパン等が用いられ、Siの原料ガスとしてはシラン等が用いられる。これらの原料ガスと、水素等のキャリアガスと、ドーパントガスとの混合ガスをSiC単結晶基板の表面に供給する。ドーパントガスとしては、n型エピタキシャル膜を成長させる場合には窒素等が用いられ、p型エピタキシャル膜を成長させる場合にはトリメチルアルミニウム等が用いられる。
【0039】
これらのガス雰囲気下、例えば1500〜1600℃、40〜80Torrの条件で、2〜20μm/hの成長速度でSiCをエピタキシャル成長させる。これにより、SiC単結晶基板と同一の結晶型のSiCがステップフロー成長する。
【0040】
エピタキシャル成長を行うための具体的な装置としては、縦型ホットウォール炉を用いることができる。縦型ホットウォール炉には、石英で形成された水冷2重円筒管が設置され、水冷2重円筒管の内部には、円筒状断熱材、グラファイトで形成されたホットウォール、およびSiC単結晶基板を縦方向に保持するための楔形サセプタが設置されている。水冷2重円筒管の外側周囲には、高周波加熱コイルが設置され、高周波加熱コイルによりホットウォールを高周波誘導加熱し、ホットウォールからの輻射熱により、楔形サセプタに保持されたSiC単結晶基板を加熱する。SiC単結晶基板を加熱しながら水冷2重円筒管の下方より反応ガスを供給することによって、SiC単結晶基板の表面にSiCがエピタキシャル成長する。
【0041】
このようにしてエピタキシャル膜を形成したSiC単結晶基板を用いて、バイポーラ素子を作製する。以下、図2を参照しながら、バイポーラ素子の一つであるpn(pin)ダイオードの製造方法の一例を説明する。改良レーリー法により成長させたインゴットを所定のオフ角でスライスし、表面を鏡面処理したn型の4H−SiC単結晶(キャリア密度8×1018cm-3、厚さ400μm)からなる基板21の上に、CVD法によって窒素ドープn型SiC層(ドリフト層23:ドナー密度5×1014cm-3、膜厚40μm)と
アルミニウムドープp型SiC層(p型接合層24:アクセプタ密度5×1017cm-3、膜厚1.5μm、およびp+型コンタクト層25:アクセプタ密度1×1018cm-3、膜厚0.5μm)を順次エピタキシャル成長させる。
【0042】
次に、反応性イオンエッチング(RIE)によりエピタキシャル膜の外周部を除去してメサ構造を形成する。メサ構造を形成するために、エピタキシャル膜の上にNi金属膜を蒸着する。蒸着には電子線加熱蒸着装置を使用する。電子線加熱蒸着装置は、電子線発生器と、Ni金属片を入れる坩堝と、エピタキシャル膜の表面を外側としてSiC単結晶基板を保持する基板ホルダとを備えている。坩堝の中に入れたNi金属片に対して10kV程度に加速された電子線を照射してNi金属片を溶融し、エピタキシャル膜の上に蒸着させる。
【0043】
エピタキシャル膜の上に蒸着したNi金属膜の表面に、メサ構造をパターニングするためのフォトレジストをスピンコーターを用いて1μmの厚さとなるように塗布し、オーブン内でレジスト膜を加熱処理する。このレジスト膜に対してメサ構造のパターンに対応したマスクを介して紫外線を露光し、レジスト現像液を用いて現像する。現像によって基板表面に露出したNi金属膜を酸により除去し、次いで四フッ化炭素と酸素との混合ガスを用いたRIEにより、Ni金属膜が除去されて基板表面に露出したエピタキシャル膜をエッチングし、高さ幅が4μmのメサを形成する。
【0044】
次に、メサ底部での電界集中を緩和するために、アルミイオンを注入してJTE(ジャンクション ターミネーション エクステンション)26を形成する。JTE26は、トータルドーズ量1.2×1013cm-2、幅250μm、深さ0.7μmである。30〜450keVの間で順次エネルギーを変更しながらイオン注入することによって、注入されたアルミイオンは深さ方向の濃度が一定になるような濃度分布を有している。イオン注入した後、アルゴンガス雰囲気下で熱処理を行うことによりアルミイオンを活性化する。
【0045】
次に、素子表面を保護するための酸化膜27を形成する。熱酸化を行うために基板を熱酸化炉に入れ、乾燥した酸素ガスを流しながら基板を加熱して基板表面全体に厚さ40nmの熱酸化膜を形成する。その後、基板表面における電極を形成する部位などの所定部位を、フォトリソグラフィー技術によってパターニングし、フッ酸によりこれらの部位の熱酸化膜を除去してエピタキシャル膜を露出させる。
【0046】
次に、電子線加熱蒸着装置を用いてカソード電極28とアノード電極29を蒸着する。カソード電極28は、基板21の下面にNi(厚さ350nm)を蒸着して形成される。アノード電極29は、p+型コンタクト層25の上面に、Ti(厚さ100nm)の膜とAl(厚さ350nm)の膜とを順に蒸着して形成される。これらの電極は、蒸着後に熱処理を行いSiCとの合金を形成することによってオーミック電極とされる。
【0047】
本発明では、電流通電によって順方向電圧が増加したSiCバイポーラ型半導体素子を350℃以上、好ましくは400℃〜800℃、より好ましくは400℃〜700℃で加熱を行う。700℃を超えると電極を構成する金属材料によっては溶融するなどの正常な作動を行うことができなくなる場合があり、800℃を超えるとバイポーラ型半導体素子の特性に影響する場合がある。電流通電による積層欠陥面積の拡大により順方向電圧が増加したSiCバイポーラ型半導体素子を上記の温度範囲で加熱することによって、拡大した積層欠陥面積が縮小し、増加した順方向電圧を電流通電前の順方向電圧に近い状態へ回復させることができる。すなわち、後述する実施例にも示したように、350℃近傍を境として拡大した積層欠陥面積が縮小し、増加した順方向電圧が回復するようになる。
【0048】
この現象は、次の理由により生じるものと考えられる。前述したように、pnダイオー
ドなどのバイポーラ型半導体素子では、n型エピタキシャル膜と、n型エピタキシャル膜とp型エピタキシャル膜との界面付近またはn型エピタキシャル膜とp型注入層との界面付近が電流通電時に電子と正孔が再結合領域となり、SiC単結晶基板からエピタキシャル膜に伝搬したベーサルプレーン転位がこの再結合エネルギーによって積層欠陥へと変換される。この積層欠陥が形成された領域は、電流通電時に高抵抗領域として作用すると考えられており、その結果として、積層欠陥の面積拡大に伴ってバイポーラ型半導体素子の順方向電圧が増加することになる。
【0049】
しかし、350℃以上の温度で加熱すると、積層欠陥を形成するSi原子およびC原子は、積層欠陥として存在するよりも正常な格子位置で存在する方が安定な状態になるため積層欠陥は縮小し、この結果として順方向電圧が電流通電前に近い状態に回復するものと考えられる。積層欠陥はエピタキシャル膜をX線トポグラフ像、フォトルミネッセンス像、エレクトロルミネッセンス像、またはカソードルミネッセンス像として観察することにより確認できる。
【0050】
結晶型が4HであるSiCを用いて複数のpnダイオードを作製し、電流密度100A/cm2で60分間の通電を行った後、300℃から600℃までの各温度で加熱を行っ
たところ、図3に示したように、300℃未満の温度で加熱を行ったものでは、順方向電圧の回復が確認されなかった。これに対し、350℃の温度で加熱を行ったものでは順方向電圧の回復が明らかに確認され、加熱温度をさらに高くするにしたがって順方向電圧は徐々に回復した。400℃以上の温度で加熱を行ったものでは、順方向電圧が大幅に回復し、600℃以上の温度で加熱を行ったものでは、順方向電圧が電流通電前の値まで回復した。
【0051】
このように、電流通電により順方向電圧が増加したSiCバイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱することによって、順方向電圧を電流通電前に近い状態まで回復させることができるが、この現象はエピタキシャル成長を行う結晶面には依存されないと考えられ、例えば(0001)Si面、(000−1)C面、(11−20)面、(01−10)面、(03−38)面などをエピタキシャル成長を行う結晶面としても同様の現象が起きる。特に、積層欠陥の面と、電流通電経路の方向とが成す角度が大きい場合、例えば積層欠陥の面が電流通電経路を垂直に遮断するような場合に、積層欠陥が通電劣化に大きく影響するので、このような場合に増加した順方向電圧が著しく回復されると考えられる。
【0052】
一方、SiC単結晶には複数の結晶型が存在するが、上記の現象は、350℃以上の温度ではSiCバルク単結晶が安定化することに起因していると考えられ、この点から4H−SiC(六方晶四回周期型)の他に、6H−SiC(六方晶六回周期型)、2H−SiC(六方晶二回周期型)、15R−SiC(菱面十五回周期型)を用いた場合にも、同様に通電劣化を著しく回復できる。
【0053】
また、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で電流通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体素子であれば、pnダイオード以外の他のバイポーラ型半導体素子であっても、上記の温度で加熱することにより炭化珪素エピタキシャル膜が安定化し、電流通電により拡大した積層欠陥が縮小し、増加した順方向電圧が回復する。このようなSiCバイポーラ型半導体素子としては、例えば、サイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ(GTOサイリスタ)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)などが挙げられる。
【0054】
SiCバイポーラ型半導体素子は、家電分野、産業分野、電気自動車や鉄道などの輸送分野、送電などの電力系統分野等において、例えばインバータなどの電力制御装置等に組
み込まれて使用されるが、電力制御装置等に実際に組み込まれたSiCバイポーラ型半導体素子に対して本発明を適用する際には、SiCバイポーラ型半導体素子を所定の温度で加熱するための温度制御装置を設けることが望ましい。
【0055】
この温度制御装置は、SiCバイポーラ型半導体素子を加熱する手段を少なくとも備えている。このような加熱手段としては、SiCバイポーラ型半導体素子のパッケージに内蔵されたヒータ、SiCバイポーラ型半導体素子を作製したSiC単結晶基板と同一のSiC単結晶基板に形成されたヒータ等を挙げることができる。
【0056】
また、温度制御装置は、SiCバイポーラ型半導体素子の温度を計測する温度検知手段を備えていてもよい。このような温度検知手段としては、ヒータに内蔵された温度センサ、SiCバイポーラ型半導体素子のパッケージに内蔵された温度センサ、SiCバイポーラ型半導体素子を作製したSiC単結晶基板と同一のSiC単結晶基板に形成された温度検知素子等を挙げることができる。
【0057】
このように、温度制御装置を設置してSiCバイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱させることで、拡大した積層欠陥面積が効果的に縮小し、増加した順方向電圧を有効に回復させることができる。
【0058】
上記の温度制御装置は、例えば、SiCバイポーラ素子の通電作動を制御する運転制御装置と連結され、加熱による順方向電圧の回復処理が所定の時期に行なわれるように、例えば次のような制御が行われる。すなわち、順方向電圧が所定の値まで増加したこと、または所定時間の通電が行われたことを運転制御装置が検知した場合に、電流通電を停止した状態で、温度センサによって素子の温度を検知しながらヒータによりSiCバイポーラ素子を所定の温度(少なくとも350℃以上)に加熱する。加熱によって拡大した積層欠陥面積を縮小させ、順方向電圧が回復した後、運転制御装置によって元の温度にてSiCバイポーラ素子への電流通電を開始させる。
【0059】
図5〜図7は、上記のような温度制御装置を設けた具体例を示した図である。図5では、パッケージ外側にヒータ36を備えるとともにパッケージ内に温度センサ35を備えた温度制御装置32を、SiCバイポーラ素子33への電極34を通じた通電を制御する運転制御装置31に連結し、電流通電によって積層欠陥が拡大し、順方向電圧が増加した際に温度センサ35で素子温度を検知しながらヒータ36によってSiCバイポーラ素子33を加熱するように構成されている。
【0060】
図6では、エピタキシャル膜42が形成されたSiC単結晶基板41に、pnダイオード43と、温度検知素子44の両方が作製されている。電流通電により積層欠陥が拡大し、順方向電圧が増加したpnダイオード43に対して、電流通電を停止した状態で、この温度検知素子44によりpnダイオード43の温度を計測しながらpnダイオード43を350℃以上の温度に加熱し、これによりpnダイオード43の積層欠陥が縮小し、順方向電圧を回復させるように構成されている。
【0061】
図7では、同一のSiC単結晶基板に、pnダイオード51と、ヒータ52と、温度検知素子53が作製されている。電流通電により積層欠陥が拡大し、順方向電圧が増加したpnダイオード51に対して、電流通電を停止した状態で、この温度検知素子53によりpnダイオード51の温度を計測しながらヒータ52によりpnダイオード51を350℃以上の温度に加熱するように制御し、これによりpnダイオード51の積層欠陥が縮小し、順方向電圧を回復させるように構成されている。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定される
ことはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変形、変更が可能である。
実施例
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図2に示したpnダイオードを試験用に作製した。改良レーリー法により成長させたインゴットをオフ方向[11−20]、オフ角度8°でスライスし、表面を鏡面処理したn型の4H−SiC(0001)基板(キャリア密度8×1018cm-3、厚さ400μm)の上にCVD法によって窒素ドープn型SiC層(ドナー密度5×1014cm-3、膜厚40μm)とアルミニウムドープp型SiC層(p型接合層:アクセプタ密度5×1017cm-3、厚さ1.5μm、およびp+コンタクト層:アクセプタ密度1×1018cm-3、厚さ0.5μm)を順次エピタキシャル成長させた。
【0063】
次に、反応性イオンエッチング(RIE)によりエピタキシャル膜の外周部を除去して高さ幅4μmのメサ構造を形成した。メサ底部での電界集中を緩和するために、メサ底部にアルミニウムイオンを注入してトータルドーズ量1.2×1013cm-3、幅250μm、深さ0.7μmのJTEを形成した。イオン注入後、アルゴンガス雰囲気下で熱処理を行いアルミニウムイオンを活性化した。その後、素子表面に保護用の熱酸化膜を形成した。
【0064】
得られた基板の表裏面に、電子線加熱蒸着装置を用いてカソード電極とアノード電極を蒸着した。カソード電極は、基板の下面にNi(厚さ350μm)を蒸着して形成し、アノード電極は、p+型コンタクト層の上面にTi(厚さ100μm)とAl(厚さ350μm)の膜を順に蒸着して形成した。これらの電極を蒸着した後、カソード電極は1050℃、90sec、アノード電極は900℃、180secで熱処理を行い、SiCとの合金を形成することによってオーミック電極とした。
【0065】
このようにして得られたpnダイオードを用いて、以下の電流通電試験を行った。高融点半田を用いてpnダイオードのカソード電極を銅板上に貼り付け、超音波ボンディング装置を用いてアノード電極にアルミニウムワイヤをボンディングした。銅板とアルミニウムワイヤに電流源と電圧計を接続し、pnダイオードを室温においた状態で、順方向に100A/cm2の直流電流を60分間流した。続いて、350℃、1時間の加熱を行った
後に、順方向電圧を測定した。その結果を図3に示した。
[実施例2]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、実施例1と同一の条件で電流通電試験を行った。続いて、400℃、1時間の加熱を行った後に、順方向電圧を測定した。その結果を図3に示した。
[実施例3]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、実施例1と同一の条件で電流通電試験を行った。続いて、500℃、1時間の加熱を行った後に、順方向電圧を測定した。その結果を図3に示した。
[実施例4]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、実施例1と同一の条件で電流通電試験を行った。続いて、600℃、1時間の加熱を行った後に、順方向電圧を測定した。その結果を図3に示した。
[比較例1]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、実施例1と同一の条件で電流通電試験を行った。続いて、300℃、1時間の加熱を行った後に、順方向電圧を測定した。その結果を図3に示した。
[比較例2]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、実施例1と同一の条件で電流通電試験を行った。続いて、通電試験後に加熱を行わないで順方向電圧を測定した。その結果を図3に示した。なお、通電試験を行う前の順方向電圧を併せて図3に示した。
[実施例5]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、電流通電試験を行った。続いて、このpnダイオードを350℃で所定時間の間加熱した。加熱後のSiCエピタキシャル膜のフォトルミネッセンス像を観察した結果を図4に示した。
[実施例6]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、電流通電試験を行った。続いて、このpnダイオードを400℃で所定時間の間加熱した。加熱後のSiCエピタキシャル膜のフォトルミネッセンス像を観察した結果を図4に示した。
[実施例7]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、電流通電試験を行った。続いて、このpnダイオードを500℃で所定時間の間加熱した。加熱後のSiCエピタキシャル膜のフォトルミネッセンス像を観察した結果を図4に示した。
[実施例8]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、電流通電試験を行った。続いて、このpnダイオードを600℃で所定時間の間加熱した。加熱後のSiCエピタキシャル膜のフォトルミネッセンス像を観察した結果を図4に示した。
[比較例3]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、電流通電試験を行った。続いて、このpnダイオードを300℃で所定時間の間加熱した。加熱後のSiCエピタキシャル膜のフォトルミネッセンス像を観察した結果を図4に示した。
[比較例4]
実施例1で作製したものと同様のpnダイオードを用いて、電流通電試験を行った。電流通電後の(通電試験後に加熱は行わなかった。)SiCエピタキシャル膜のフォトルミネッセンス像を観察した結果を図4に示した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、SiC単結晶基板と、ステップフロー成長技術によりその表面から形成したエピタキシャル膜との界面近傍を示した断面図である。
【図2】図2は、表面にエピタキシャル膜を形成したSiC単結晶基板を用いて作製したpnダイオードの断面図である。
【図3】図3は、実施例および比較例における通電試験の結果を示したグラフであり、通電試験後のpnダイオードへの加熱温度と順方向電圧との関係を示している。
【図4】図4は、電流通電後に600℃までの各温度においてpnダイオードに対して加熱を行った後のSiCエピタキシャル膜のフォトルミネッセンス像を観察した結果を示した図である。
【図5】図5は、SiCバイポーラ素子の温度を制御する温度制御装置を設けた一例を説明する図である。
【図6】図6は、SiCバイポーラ素子の温度を制御する温度制御装置を設けた一例を説明する図である。
【図7】図7は、SiCバイポーラ素子の温度を制御する温度制御装置を設けた一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
1 SiC単結晶基板
2a n型エピタキシャル膜
2b p型エピタキシャル膜(またはp型注入層)
3 ベーサルプレーン転位
4 スレッディングエッジ転位
5 結晶面
21 基板
23 ドリフト層
24 p型接合層
25 p+型コンタクト層
26 JTE
27 酸化膜
28 カソード電極
29 アノード電極
31 運転制御装置
32 温度制御装置
33 SiCバイポーラ素子
34 電極
35 温度センサ
36 ヒータ
41 SiC単結晶基板
42 エピタキシャル膜
43 pnダイオード
44 温度検知素子
51 pnダイオード
52 ヒータ
53 温度検知素子
θ オフ角



【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で電流通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法であって、
電流通電により順方向電圧が増加した前記バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温度で加熱することを特徴とするバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法。
【請求項2】
前記バイポーラ型半導体装置を加熱するための温度制御装置を用いて、前記バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温度で加熱することを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法。
【請求項3】
六方晶の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法。
【請求項4】
六方晶四回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶四回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板、六方晶六回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶六回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板、または六方晶二回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶二回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする請求項3に記載のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法。
【請求項5】
菱面十五回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から菱面十五回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のバイポーラ型半導体装置の順方向電圧回復方法。
【請求項6】
炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で電流通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法であって、
電流通電により炭化珪素エピタキシャル膜内の積層欠陥面積が拡大した前記バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温度で加熱することを特徴とするバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法。
【請求項7】
前記バイポーラ型半導体装置を加熱するための温度制御装置を用いて、前記バイポーラ型半導体装置を350℃以上の温度で加熱することを特徴とする請求項6に記載のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法。
【請求項8】
六方晶の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする請求項6または7に記載のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法。
【請求項9】
六方晶四回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶四回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板、六方晶六回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶六回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板、または六方晶二回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から六方晶二回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする請求項8に記載のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法。
【請求項10】
菱面十五回周期型の炭化珪素単結晶基板の表面から菱面十五回周期型の炭化珪素エピタキシャル膜を成長させた基板によって作製したバイポーラ型半導体装置を用いることを特徴とする請求項6または7に記載のバイポーラ型半導体装置の積層欠陥縮小方法。
【請求項11】
炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置であって、
バイポーラ型半導体素子と、
電流通電により増加した前記バイポーラ型半導体素子の順方向電圧を回復させるために、電流通電を停止した状態で該バイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱する際に、該バイポーラ型半導体素子の温度を検知する温度検知素子と、が同一の炭化珪素単結晶基板に形成されていることを特徴とするバイポーラ型半導体装置。
【請求項12】
炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置であって、
バイポーラ型半導体素子と、
電流通電により増加した前記バイポーラ型半導体素子の順方向電圧を回復させるために、電流通電を停止した状態で該バイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱するヒータと、
前記ヒータによって前記バイポーラ型半導体素子を加熱する際に該バイポーラ型半導体素子の温度を検知する温度検知素子と、が同一の炭化珪素単結晶基板に形成されていることを特徴とするバイポーラ型半導体装置。
【請求項13】
炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置であって、
バイポーラ型半導体素子と、
電流通電により拡大した前記バイポーラ型半導体素子内の積層欠陥面積を縮小させるために、電流通電を停止した状態で該バイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱する際に、該バイポーラ型半導体素子の温度を検知する温度検知素子と、が同一の炭化珪素単結晶基板に形成されていることを特徴とするバイポーラ型半導体装置。
【請求項14】
炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル膜の内部で通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体装置であって、
バイポーラ型半導体素子と、
電流通電により拡大した前記バイポーラ型半導体素子内の積層欠陥面積を縮小させるために、電流通電を停止した状態で該バイポーラ型半導体素子を350℃以上の温度で加熱するヒータと、
前記ヒータによって前記バイポーラ型半導体素子を加熱する際に該バイポーラ型半導体素子の温度を検知する温度検知素子と、が同一の炭化珪素単結晶基板に形成されていることを特徴とするバイポーラ型半導体装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−295061(P2006−295061A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117176(P2005−117176)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】