バッテリーの残容量推定装置
【課題】 テーブル参照方式および電流積分方式のSOC値の切り替えを適正化する。
【解決手段】 SOC推定装置は、バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1のDOD値を算出するテーブル参照方式DOD推定処理部12と、電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2のDOD値を算出する電流積分方式DOD推定処理部14とを備える。基本的には、第2のDOD値が、DOD値として記憶装置18に記憶され、車両が停車したときに、第1のDOD値がDOD値として記憶装置18に記憶される。その後、テーブル参照方式DOD推定処理部14は、DOD値として記憶装置18に記憶された第1のDOD値を使用して、演算を再開する。
【解決手段】 SOC推定装置は、バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1のDOD値を算出するテーブル参照方式DOD推定処理部12と、電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2のDOD値を算出する電流積分方式DOD推定処理部14とを備える。基本的には、第2のDOD値が、DOD値として記憶装置18に記憶され、車両が停車したときに、第1のDOD値がDOD値として記憶装置18に記憶される。その後、テーブル参照方式DOD推定処理部14は、DOD値として記憶装置18に記憶された第1のDOD値を使用して、演算を再開する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリー、たとえば、リチウムイオンバッテリーの残容量(SOC:State of Charge)を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーなどバッテリーのSOCを推定するために、テーブル参照方式、電流積分方式、および、これらを併用した方式が知られている。
【0003】
図16に示すように、テーブル参照方式においては、バッテリーの開放電圧(無負荷端子電圧)と、SOCとの間が一定の関係を持っており、開放電圧が決まればSOC値が決まることから、開放電圧に基づいて、当該開放電圧に対応するSOC値を得るものである。たとえば、特許文献1には、詳細な等価回路のモデルにしたがって開放電圧を推定し、推定された開放電圧にしたがってSOC値を演算する充電率推定装置が開示されている。
【0004】
また、電流積分方式は、バッテリーに流れる電流を微小時間ごとに積分して、SOCを得るものである。SOCは、以下の式で表される。
【0005】
SOC[%]=充電量[Ah]/容量[Ah]×100
充電量変化分[Ah]=∫Ibdt/3600
ただし、Ibは、バッテリー充放電電流[A]
【特許文献1】特開2003−75518号公報
【特許文献2】特開2006−75518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テーブル参照方式においては、微小時間ごとの電流を積分していくことにより蓄積される誤差(積分誤差)は発生しない。また、バッテリーの劣化や環境変化、特に温度変化により容量[Ah]の変動の影響を受けないという利点がある。しかしながら、開放電圧の適切な推定は複雑であり、得られた開放電圧も誤差を含みやすいという問題点があった。
【0007】
電流積分方式においては、上述したように充電量の変化分を算出し、変化分を元のSOCから加減算することで新たなSOCを求めることができる。したがって、演算が簡単であるという利点がある。その一方、バッテリーの劣化や温度変化により容量[Ah]に変化がある場合に対応することが困難であるという問題点、および、バッテリーを最初に使用する場合や新たに電源をONした場合のSOCの初期値の取得や積分誤算の補正が必須であるという問題点があった。
【0008】
そこで、特許文献2には、 電流積分方式を用いて、充放電電流に基づく積算演算を実行して、電流積分方式によるSOC値を算出し、その一方、これと並行して、端子電圧を開回路電圧とみなして、開放電圧に基づいて、テーブル参照方式によるSOC値を演算し、これらを切り替えるような残存容量推定方法が開示されている。双方の方式を併用する場合にも、その切り替えを適切化して、より正確なSOC値が推定できることが望ましい。
【0009】
本発明は、テーブル参照方式および電流積分方式のSOC値の切り替えを適正化した電池の残容量を推定する装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、テーブル参照方式、および、電流積分方式の残容量推定において、その推定値を補正によりより適切化する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
前記第2のDOD値算出手段による第2のDOD値を、DOD値として前記記憶装置に記憶し、前記車両の走行状態を示す情報にしたがって、前記車両が停車したときに、前記第1のDOD値をDOD値として前記記憶装置に記憶する補正手段を備え、その後に、前記第2のDOD値算出手段が、DOD値として前記記憶装置に記憶された第1のDOD値を使用して、演算を再開するように構成されたことを特徴とするバッテリーの残容量推定装置により達成される。
【0012】
好ましい実施態様においては、前記補正手段が、前記車両が停止し、車両のドアが開かれたことを検出したタイミングで、第1のDOD値をDOD値として前記記憶装置に記憶するように構成されている。
【0013】
別の好ましい実施態様においては、前記第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、第2のDOD値の変化幅が所定より小さい場合に、前記電池容量を小さくし、かつ、前記第2のDOD値の変化幅が所定より大きい場合に、前記電池容量を大きくするような第1の補正係数を算出する第1の補正係数算出手段を備えている。
【0014】
より好ましい実施態様においては、前記第1の補正係数算出手段が、
(1)放電中に第2のDOD値の増加の度合いが所定よりも小さい場合に、電池容量を減少させるように第1の補正係数を変化させ、
(2)充電中に第2のDOD値の減少の度合いが所定よりも大きい場合に、電池容量を増大させるように第1の補正係数を変化させ、
(3)放電中に第2のDOD値の増加の度合いが所定よりも大きい場合に、電池容量を増大させるように第1の補正係数を変化させ、
(4)充電中に第2のDOD値の減少の度合いが所定よりも小さい場合に、電池容量を減少させるように第1の補正係数を変化させるように構成されている。
【0015】
別の好ましい実施態様においては、内部抵抗の変化が、抵抗変化の閾値以上になった場合に、前記開放電圧算出のための内部抵抗を調整する第2の補正係数を変化させる第2の補正係数算出手段を備えている。
【0016】
より好ましい実施態様においては、前記第2の補正係数算出手段が、端子電圧の時間変化を充放電電流の時間変化で除して得られた演算値と、推定内部抵抗とを比較して、前記演算値から前記推定内部抵抗を減算した値が、抵抗変化の閾値よりも大きい場合に、前記第2の補正係数を所定の値だけ増加させ、前記推定内部抵抗値から前記演算値を減算した値が、抵抗変化の閾値よりも大きい場合に、前記第2の補正係数を所定の値だけ減算させる。
【0017】
さらに好ましい実施態様においては、前記第2の補正係数算出手段が、電流値変化の絶対値が、電流変化の閾値より大きい場合に、前記第2の補正係数を変化させる。
【0018】
また、本発明の目的は、バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
前記第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、第2のDOD値の変化幅が所定より小さい場合に、前記電池容量を小さくし、かつ、前記第2のDOD値の変化幅が所定より大きい場合に、前記電池容量を大きくするような第1の補正係数を算出する第1の補正係数算出手段を備えたことを特徴とするバッテリーの残量推定装置により達成される。
【0019】
また、本発明の目的は、バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量Ahに基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
内部抵抗の変化が、抵抗変化の閾値以上になった場合に、前記開放電圧算出のための内部抵抗を調整するための第2の補正係数を変化させる第2の補正係数算出手段を備えたことを特徴とするバッテリーの残量推定装置により達成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、テーブル参照方式および電流積分方式のSOC値の切り替えを適正化した電池の残容量を推定する装置を提供することが可能となる。
【0021】
また、本発明によれば、テーブル参照方式、および、電流積分方式の残容量推定において、その推定値を補正によりより適切化する装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかるSOC推定装置の概略を示すブロックダイヤグラムである。本実施の形態においては、処理中でまず放電の割合を示すDOD(放電深度:Depth of Discharge)の値を推定し、全体(100%)からDODの値を減じることでSOCの値を算出している。以下、DODの値をDOD値、SOCの値をSOC値と称する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態にかかるSOC推定装置は、テーブル参照方式でDOD値(第1のDOD値)を推定するテーブル参照方式DOD推定処理部12と、電流積分方式でDOD値(第2のDOD値)を推定する電流積分方式DOD推定処理部14と、テーブル参照方式DOD推定処理部12による第1のDOD値および電流積分方式DOD推定処理部14による第2のDOD値の切り替えタイミングを特定して、DOD値を補正する補正係数を算出する処理などを実行する補正処理部16と、記憶装置18と、記憶装置18に各種パラメータを格納するための処理を実行するパラメータ格納処理部20と、得られたSOC値を表示するための処理を実行するためのデータ表示処理部22と、を備える。
【0024】
記憶装置18には、テーブル参照方式によるDOD推定に用いるパラメータを格納したテーブル参照方式処理用パラメータファイル24、電流積分方式によるDOD推定に用いるパラメータを格納した電流積分方式処理用パラメータ26、補正処理部16における処理に利用されるパラメータを格納した補正処理用パラメータファイル28、および、得られたDOD値およびSOC値を格納するDOD値・SOC値ファイル30が記憶される。
【0025】
図2は、本実施の形態にかかるSOC推定装置のハードウェア構成を示すブロックダイヤグラムである。図2に示すように、SOC推定装置は、CPU32、ROM34、RAM36、各種センサ38、入力装置40、表示装置42およびハードディスク装置44を備える。たとえば、本実施の形態にかかるSOC推定装置は、路面電車などの鉄道車両、ハイブリッド乗用車に搭載されたコンピュータにより実現される。本例では、リチウムイオンバッテリーの電力により走行する鉄道車両にSOC推定装置が搭載されている。
【0026】
ROM34には、SOC推定処理のための種々のプログラムが格納される。RAM36においては、処理の過程で生成されるパラメータが一時的に記憶される。各種センサ38には、バッテリーの端子電圧、充放電電流、温度などを検出するセンサ、車両のドアの開閉を検知するセンサ、演算周期Tを計測するタイマなどが含まれる。入力装置40には、たとえば車両の運転台の操作子が含まれる。また、表示装置42には、車両の運転台の液晶表示装置が含まれる。ドアの開閉を検知するセンサは、ドア開閉スイッチの状態を検知できるものであれば良い。
【0027】
CPU32が、ROM34に記憶されたプログラムを実行することで、SOC推定装置を、図1に示すテーブル参照方式DOD推定処理部12、電流積分方式DOD推定処理部14、補正処理部16、パラメータ格納部20およびデータ表示処理部22として機能させることができる。また、図1の記憶装置18は、図2におけるRAM36およびハードディスク装置44により実現される。
【0028】
次に、テーブル参照方式DOD推定処理部12および電流積分方式DOD推定処理部14についてより詳細に説明する。
【0029】
図3は、リチウムイオンバッテリーを充放電する際の電流電圧波形を示すグラフ、図4は、リチウムイオンバッテリーの等価回路モデルの例を示す図である。図3に示すように、充放電時の端子電圧波形(符号301〜303参照)は、図4の内部抵抗RrおよびRdと、電池充放電電流Ibと、時定数τ=CrRrとにより決定される。したがって、リチウムイオンバッテリーの充放電の電流電圧波形に基づいて、図4の等価回路における回路定数が決定される。本実施の形態において、回路定数は、テーブル参照方式処理用パラメータファイル24などのパラメータとして、パラメータ格納処理部20によって記憶装置18に記憶される。
【0030】
図4に示す等価回路から、内部抵抗Rrの電圧Vd2について、(1)式が成立する。また、Vd2をサンプリング周期Tの台形積分で離散化すると(2)式に示すようになる。ここで、(n)は、離散時間データにおける第n番サンプルであることを示す。
【0031】
【数1】
同様に、内部抵抗Rdの電圧Vd1については、(3)式が成立する。
【0032】
Vd1(n)=RdIb(n) ・・・(3)
推定開放電圧Ebは、以下の(4)式で表される。
【0033】
Eb(n)=Vb(n)−Vd1(n)−Vd2(n) ・・・(4)
本実施の形態において、第1のDOD値(DOD1)は、(4)式で得られた推定開放電圧Ebから、以下の(5)式を用いて算出される。
【0034】
【数2】
ここに、Ck(k=3、2、1、0)は、開放電圧とDOD値との関係を表す係数である。テーブル参照方式DOD推定処理部12は、上記(5)式で第1のDOD値(DOD1)を得る。なお、本実施の形態においては、テーブル方式DOD推定処理部12は、実際に(5)式を用いた演算により第1のDOD値(DOD1)を得ているが、これに限定されるものではなく、開放電圧Eb(n)と、第1のDOD値(DOD1)とを対応付けたテーブルを用意しておき、開放電圧Eb(n)を算出し、算出された開放電圧Eb(n)をテーブルに入力として与え、対応する第1のDOD値(DOD1)を出力させるように構成しても良い。
【0035】
現実の回路定数には、温度依存性、DOD依存性があるため、DOD推定の対象となるバッテリーについて予め回路定数を測定する。また、Rd、RrおよびR=Rd+Rrには、以下の(6)式、(7)式を用いて算出した。KdgrおよびLdgrは、劣化を考慮した係数である。係数Kdgrは、予め定められた定数である。その一方、係数Ldgrは、後述する第2の補正係数算出処理により算出される。
【0036】
【数3】
Krr、Krdは、全抵抗Rを、RrおよびRdに配分する比率である。また、容量Crは定数でよい。
【0037】
図5は、テーブル参照方式DOD推定処理部12における第1のDOD値(DOD1)の算出処理を説明する図である。図5に示すように、第n番サンプルの第1のDOD値であるDOD1(n)を算出するために、記憶装置18のテーブル参照方式処理用パラメータファイル24から、バッテリー平均温度Tb(n)、電池端子電圧Vb(n)、電池充放電電流Ib(n)を取得するとともに、DOD値・SOC値ファイル30から、第(n−1)番サンプルの第1のDOD値であるDOD1(n−1)を取得する。
【0038】
テーブル参照方式DOD推定処理部12は、DOD1(n−1)、Tb(n)、および、演算に利用される他のパラメータA0〜A3、B1〜B3、Kdgr、Ldgrを記憶装置18のテーブル参照方式処理用パラメータファイル24から読み出して、上記(6)式にしたがって、合成内部抵抗R(n)を算出する(符号501参照)。合成内部抵抗R(n)は、比率KrrおよびKrdによりRr(n)およびRd(n)に配分される(符号502、503参照)。ここに、A0〜A3は、内部抵抗RのDOD依存性を表し、B1〜B3は、内部抵抗Rの電池温度依存性を表す。
【0039】
テーブル参照方式DOD推定処理部12は、内部抵抗Rr(n)について、(2)式を利用して、電圧Vd2(n)を算出し(符号504参照)、内部抵抗Rd(n)について、Ib(n)と乗ずることにより、電圧Vd1(n)を算出する(符号505参照)。
【0040】
テーブル参照方式DOD推定処理部12は、(4)式にしたがって、推定開放電圧Eb(n)を算出し(符号506参照)、その後、算出されたEb(n)に基づいて、(5)式にしたがって、第1のDOD値(DOD1(n))を得る(符号507参照)。得られた第n番サンプルの第1のDOD値(DOD1(n))は、記憶装置18のDOD値・SOC値ファイル30に格納される。
【0041】
次に、電流積分方式DOD推定処理部14の処理について説明する。電流積分によるDOD変化は、(8)式に示すようになる。
【0042】
【数4】
(8)式をサンプリング周期Tの矩形積分で離散化したものを(9)式に示す。
【0043】
DOD2(n)=DOD2(n−1)−(T/(36×Ah))×Ib(n)
・・・(9)
なお、(8)式、(9)式および以下に述べる(10)式において、パラメータAhは、電池容量(アンペア容量)を示す。さらに、劣化等を考慮した補正係数KdgcおよびLdgcを付加すると(10)式のようなものとなる。
【0044】
DOD2(n)=DOD2(n−1)−
(T/(36×Ah×Kdgc×Ldgc))×Ib(n) ・・・(10)
補正係数Kdgcは、予め定められた定数である。その一方、係数Ldgcは、後述する第1の補正係数算出処理により算出される。
【0045】
本実施の形態においては、電流積分方式DOD推定処理部14は、(10)式にしたがって、第2のDOD値(DOD2)を算出する。図6は、電流積分方式DOD推定処理部14における第2のDOD値(DOD2)の算出処理を説明する図である。図6に示すように、電流積分方式DOD推定処理部14は、第n番サンプルの第2のDOD値であるDOD2(n)を算出するために、記憶装置18の電流積分方式処理用パラメータファイル26から、電池充放電電流Ib(n)を取得するとともに、DOD値・SOC値ファイル30から、第(n−1)サンプルの第2のDOD値であるDOD2(n−1)を取得する。また、電流積分方式DOD推定処理部14は、電流積分方式処理用パラメータファイル26から、係数KdgcおよびLdgcを取得する。
【0046】
電流積分方式DOD推定処理部14は、電池充放電電流Ib(n)と、(T/(36×Ah×Kdgc×Ldgc)とを乗算し(符号601参照)、第(n−1)番サンプルの第2のDOD値(DOD2(n−1))から乗算結果を減じる(符号602参照)ことにより、第nサンプルの第2のDOD値(DOD2(n−1))を算出する。得られた第n番サンプルの第2のDOD値(DOD2(n))は、記憶装置18のDOD値・SOC値ファイル30に格納される。
【0047】
経年劣化により、或いは、低温下に置かれることにより、電池容量が減少する。そこで、本実施の形態においては、補正処理部16により、容量自動調整係数Ldgcを算出して、容量変化を捕捉してこれに追従するように構成している。なお、この追従は、一時に全て行うのではなく処理によって徐々に行うこととした。
【0048】
本実施の形態においては、車両の走行時には、テーブル参照方式に基づくDOD値である第2のDOD値(DOD2)をDOD値として採用し、車両の停車時を補正タイミングとして、第1のDOD値をDOD値として採用している。したがって、容量自動調整係数Ldgcは、車両の停車時に算出される。
【0049】
図7は、電池容量の変化により第2のDOD値(DOD2)が受ける影響について説明するグラフである。図7において、実線は、第1のDOD値(DOD1)を示す。また、破線は、演算に用いられるAhが、実際の電池容量よりも大きい場合の第2のDOD値、一点鎖線は、演算に用いられるAhが、実際の電池容量よりも小さい場合の第2のDOD値を示す。
【0050】
Ahが実際よりも小さい場合には、(9)式の右辺第2項の分母が実際よりも小さくなるため、1サンプル前の第2のDOD値(DOD2(n−1))に加減算される絶対値が、実際より大きくなる。したがって、力行時のように電力を消費する場合では、第1のDOD値と比較すると、よりDOD値が大きくなるように推移する(符号701参照)。その一方、回生時や急速充電時のように、充電される場合では、第1のDOD値を比較すると、よりDOD値が小さくなるように推移する(符号702、703参照)。
【0051】
同様に、演算に用いられるAhが、実際の電池容量よりも大きい場合には、1サンプル前の第2のDOD値(DOD2(n−1))に加減算される値が、実際より小さくなる。したがって、力行時のように電力を消費する場合では、第1のDOD値と比較すると、よりDOD値が小さくなるように推移する(符号711参照)。その一方、回生時や急速充電時のように、充電される場合では、第1のDOD値を比較すると、よりDOD値が大きくなるように推移する(符号712、713参照)。
【0052】
そこで、本実施の形態においては、車両の走行時には、電流積分方式DOD推定処理部14が、第2のDOD値(DOD2)を算出して、これをDOD値として、DOD値・SOC値ファイル30に格納する。その一方、車両の開扉直後には、第1のDOD値を、DOD値として、DOD値・SOC値ファイル30に格納している。また、補正処理において、第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、演算に使用されているパラメータAhの値が、過大であるか或いは過小であるかを判断し、補正係数Ldgcを算出して、パラメータAhを調整して、Ah×Kdgc×Ldgcを実施の電池容量に近づけるようにしている。
【0053】
図8は、本実施の形態にかかる補正処理部16にて実行される第1の補正係数算出処理を示すフローチャートである。この第1の補正係数算出処理によって、適切な補正係数Ldgcを得ている。
【0054】
図8に示すように、補正処理部16は、処理に利用する実施フラグFa、Fbを「0」に初期化する(ステップ801)。次いで、補正処理部16は、DOD値・SOC値ファイル30、補正処理用パラメータファイル28から、第(n−1)サンプルの第2のDOD値(DOD2(n−1))、第1のDOD値(DOD1(n−1))および補正処理用の第1の閾値Wdgc1を読み出して、DOD2(n−1)≦DOD1(n−1)−Wdgc1が成立するか否かを判断する(ステップ802)。ステップ802においては、電流積分方式による第2のDOD値が、テーブル参照方式による第1のDOD値より、閾値Wdgc1以上小さくなった場合、つまり、Wdgc1以上小さい方に逸脱した場合に「Yes」と判断される。ステップ802で「Yes」と判断された場合には、実施フラグFaが「−1」にセットされる(ステップ803)。
【0055】
次いで、補正処理部16は、DOD2(n−1)>DOD1(n−1)+Wdgc1が成立するか否かを判断する(ステップ804)。ステップ804においては、電流積分方式による第2のDOD値が、テーブル参照方式による第1のDOD値より、閾値Wdgc1以上大きくなった場合、つまり、Wdgc1以上大きい方に逸脱した場合に「Yes」と判断される。ステップ804で「Yes」と判断された場合には、実施フラグFaが「1」にセットされる。
【0056】
また、補正処理部16は、補正処理用パラメータファイル28およびDOD値・SOC値ファイル30から、補正処理用の第2の閾値Wdgc2および前回のDOD補正値(DOD3)を読み出して、DOD2(n−1)−DOD3≧Wdgc2が成立するかを判断する(ステップ806)。ステップ806においては、第2のDOD値が、前回補正値と比較して、第2の閾値以上に大きくなっている場合に「Yes」と判断される。ステップ806において「Yes」と判断された場合には、実施フラグFbが「1」にセットされる(ステップ807)。
【0057】
補正処理部16は、DOD2(n−1)−DOD3<−Wdgc2が成立するかを判断する(ステップ808)。ステップ808においては、第2のDOD値が、前回補正値と比較して、第2の閾値よりも小さくなっている場合に「Yes」と判断される。ステップ806において「Yes」と判断された場合には、実施フラグFbが「−1」にセットされる(ステップ809)。
【0058】
その後、補正処理部16は、補正係数Ldgcを、Ldgc+(Ddgc×Fa×Fb)に更新する(ステップ810)。なお、Ddgcは増減変化幅を規定する係数である。実施フラグFa、Fbの少なくとも一方が「0」であれば、補正係数Ldgcは変化しない。また、実施フラグFa、Fbの符号が異なる場合には、新たな補正係数Ldgcはもとの補正係数より減少する。
【0059】
また、Fa×Fbが「0」でない場合、つまり、FaおよびFbの双方が、「0」以外の値を持つ場合には、DOD補正値(DOD3)を、第(n−1)サンプルの第1のDOD値(DOD1(n−1))とする(ステップ812)。算出された補正係数やDOD補正値は、補正処理用パラメータファイル28やDOD・SOC値ファイル30に格納される。
【0060】
(1)ステップ802で「Yes」かつステップ806で「Yes」の場合には、放電が進んだ際に、第2のDOD値(DOD2)の増加が足りない、つまり増加の度合いが所定よりも小さいことを意味している。したがって、電池容量を示すパラメータAhを減少させるように補正係数Ldgcを変化させる。(2)ステップ802で「Yes」かつステップ808で「Yes」の場合には、充電が進んだ際に第2のDOD値(DOD2)が減りすぎている、つまり、減少の度合いが所定よりも大きいことを意味している。したがって、パラメータAhを増大させるように補正係数Ldgcを変化させる。
【0061】
また、(3)ステップ804で「Yes」かつステップ806で「Yes」の場合には、放電が進んだ際に第2のDOD値(DOD2)が増えすぎていること、つまり、増加の度合いが所定よりも大きいことを意味している。したがって、パラメータAhを増大させるように補正係数Ldgcを変化させる。また、(4)ステップ804で「Yes」かつステップ808で「Yes」の場合には、充電が進んだ際に第2のDOD値(DOD2)の減少が足りないこと、つまり、減少の度合いが所定よりも小さいことを意味している。したがって、パラメータAhを減少させるように補正係数Ldgcを変化させる。
【0062】
図15は、上記(1)〜(4)の態様のそれぞれを説明する図である。図15(a)において、符号1502のグラフが、上記(1)の態様に該当しえる。つまり、放電が進み(DOD値が増大し)、第2のDOD値は前回の補正値DOD3より所定の閾値Wdgc2以上に大きくなっており、かつ、その際に、第2のDOD値が第1のDOD値(グラフ1500参照)から所定の閾値Wdgc1を減じたもの以下である、つまり、第2のDOD値の増大が足りないような状況が起こりえる。したがって、パラメータAhを減少させることで、第2のDOD値の増分をより大きくさせる。
【0063】
また、図15(a)において、符号1501のグラフが、上記(3)の態様に該当しえる。ここでは、放電が進み(DODが増大し)、第2のDOD値は前回の補正値DOD3より所定の閾値Wdgc2以上に大きくなっており、かつ、その際に、第2のDOD値が第1のDOD値(グラフ1500参照)から所定の閾値Wdgc1を加えたものより大きい、つまり、第2のDOD値が増えすぎた状況が起こりえる。したがって、パラメータAhを増大させることで、第2のDOD値の増分をより小さくさせる。
【0064】
図15(b)において、符号1512のグラフが、上記(2)の態様に該当しえる。つまり、充電が進み(DOD値が減少し)、第2のDOD値と前回の補正値DOD3との差(負の値)が所定の閾値−Wdgc2(負の値)より小さくなっており、かつ、その際に、第2のDOD値が第1のDOD値(グラフ1510参照)から所定の閾値Wdgc1を減じたもの以下である、つまり、第2のDOD値が減りすぎであるような状況が起こりえる。したがって、パラメータAhを増大させることで、第2のDOD値の減少分をより小さくさせる。
【0065】
また、図15(b)において、符号1511のグラフが、上記(4)の態様に該当しえる。つまり、充電が進み(DOD値が減少し)、第2のDOD値と前回の補正値DOD3との差(負の値)が所定の閾値−Wdgc2(負の値)より小さくなっており、かつ、その際に、第2のDOD値が第1のDOD値(グラフ1510参照)から所定の閾値Wdgc1を加えたものより大きい、つまり、第2のDOD値の減少が足りないような状況が起こりえる。そこで、パラメータAhを減少させることで、第2のDOD値の減少分をより大きくさせる。
【0066】
ここで、増加が足りないこと(増加の度合いが所定よりも小さいこと)、および、減少が足りないこと(減少の度合いが所定よりも小さいこと)は、第1のDOD値(DOD1)と比較して、第2のDOD値(DOD2)の変化幅が小さい状況であることを示している。したがって、パラメータAhを減らすことにより、その状況が改善される。その一方、増えすぎていること(増加の度合いが初手よりも大きいこと)、および、減りすぎていること(減少の度合いが所定よりも大きいこと)は、第1のDOD値(DOD1)と比較して、第2のDOD値(DOD2)の変化幅が大きい状況であることを示している。したがって、パラメータAhを増やすことにより、その状況が改善される。
【0067】
また、リチウムイオンバッテリー内の内部抵抗も、経年変化により変化する可能性がある。そこで、本実施の形態にいては、内部抵抗の変化に追従するように、補正係数Ldgrを算出する。たとえば、図9において、電池充放電電流Ibが、所定の範囲を越えて変化する場合(符号901参照)には、内部抵抗の実測が容易である。そこで、1サンプル間での電流値変化の絶対値が、閾値Ithを上回るか否かが判断され、閾値Ithを上回る場合に、以下に述べるような第2の補正係数算出処理が実行される。
【0068】
パラメータRdの実測値Rd’は、以下の(11)式で与えられる。
【0069】
Rd’=(Vb(n)−Vb(n−1))/(Ib(n)−Ib(n−1))
・・・(11)
したがって、このRd’にしたがって補正係数Ldgrを変更する。図10は、本実施の形態にかかる第2の補正係数算出処理を示すフローチャートである。図10に示すように、補正処理部16は、Rd’=(Vb(n)−Vb(n−1))/(Ib(n)−Ib(n−1))≧Rd(n)+Wdgrが成立するか否かを判断する(ステップ1001)。ステップ1001で「Yes」と判断された場合には、補正処理部16は、Ldgr=Ldgr+Ddgrとする(ステップ1002)。つまり、補正処理部16は、補正係数Ldgrを、所定の係数Ddgrだけ増大させる。
【0070】
また、補正処理部16は、Rd’=(Vb(n)−Vb(n−1))/(Ib(n)−Ib(n−1))<Rd(n)−Wdgrが成立するか否かを判断する(ステップ1002)。ステップ1002で「Yes」と判断された場合には、補正処理部16は、Ldgr=Ldgr−Ddgrとする(ステップ1004)。つまり、補正処理部16は、補正係数Ldgrを、所定の係数Ddgrだけ減少させる。
【0071】
次に、本実施の形態にかかる補正処理の実行タイミングについて説明する。テーブル参照方式を採用して演算した第1のDOD値(DOD1)が、常に真値に近ければ、電流積分方式を併用せず、テーブル参照方式だけでDODの推定が可能である。しかしながら、実際には、テーブル参照方式は、電流値や電池状態(内部の活性など)の影響を考慮しきれず、真値とは明らかに異なる挙動を示す場合がある。そこで、本実施の形態においては、主として電流積分方式を採用し、車両の開扉直後のみテーブル参照方式を採用する。
【0072】
鉄道車両の車両運行状態として、力行、回生、停車が含まれる。また、本実施の形態にかかる車両運行状態には、軌道上に設けられた充電ステーションにおいて停車中にリチウムイオンバッテリーに急速に充電する急速充電も含まれる。
【0073】
急速充電後においては、テーブル参照方式による第1のDOD値(DOD1)には推定誤差が多く含まれると考える。急速充電の際には、大電流が通電される。大電流の通電により電池内部の状態(分極、活性)が大幅に変化し、図4に示すような簡易な等価回路で推定しきれないような開放電圧変化が生じる。したがって、急速充電後のタイミングで、電流積分方式による第2のDOD値(DOD2)をDOD値としていたのを、テーブル参照方式による第1のDOD値(DOD1)をDOD値とするような補正を実行すると、図11の前半部分(符号1100)にあるように、補正によってDOD値に数パーセントのトビ、つまり、DOD値の飛躍的な変化が生じる(符号1101、1103参照)。なお、図11においては、「100−DOD値」であるSOC値をグラフの縦軸にしている。また、図11の前半部分1100において、補正タイミングとして、停車時に急速充電が行われた場合には急速充電後、急速充電を伴わない単なる停車時には開扉直後としている。図11の上部にある菱形の中心が補正処理の実行されるタイミングを示す。
【0074】
図11において、急速充電時のDOD値のトビ(符号1101、1103参照)の後、DOD値は暫く誤差を含み続け、急速充電を伴わない停車時の補正により、誤差を軽減する方向に再度トビが生じる(たとえば、符号1102参照)。
【0075】
その一方、車両の停車直後(つまり急速充電前)においては、テーブル参照方式による第1のDOD値(DOD1)にはさほど推定誤差が含まれていないと考えられる。したがって、このタイミングで、電流積分方式による第2のDOD値(DOD2)をDOD値としていたのを、テーブル参照方式による第1のDOD値(DOD1)をDOD値とするような補正を実行すれば、DOD値のトビが生じるおそれを著しく少なくすることができる。図11の後半部分(符号1110参照)において、急速充電前の補正であれば、DOD値のトビがほとんど生じていない(符号1111〜1113参照)。
【0076】
したがって本実施の形態においては、車両の停車直後のドアが開くタイミングで補正処理を実行することとしている。無論、ドアが開くタイミングに限定されず、車両の速度がゼロになった直後などを補正処理のトリガーとしても良いことは言うまでもない。
【0077】
次に、本実施の形態において実行される補正処理を説明する。補正処理には、図8、図10を参照して説明した補正係数算出処理が含まれる。図12および図13は、本実施の形態にかかる補正処理を示すフローチャートである。この処理は、演算周期Tで繰り返し実行され、一定の条件がそろったときに、先に説明した補正係数算出処理などが実行されることになる。
【0078】
図12に示すように、補正処理部16は、第n番サンプルの電池平均温度Tb(n)、電池充放電電流Ib(n)、電池端子電圧Vb(n)などを取得する(ステップ1201)。また、ステップ1201においては、補正処理部16は、各種センサ38の情報から、車両のドアの開閉の状態を示す情報を取得する。次いで、補正処理部16は、サンプル番号が2以下であるか否かを判断する(ステップ1202)。ステップ1202で「Yes」と判断された場合には、サンプルが初期状態であるため、テーブル参照方式DOD推定処理部12および電流積分方式DOD推定処理部14は、初期的な第1のDOD値(DOD1)、第2のDOD値(DOD2)を算出する。
【0079】
n=1の場合には、第1のDOD値(DOD1(1))は、電池端子電圧Vb(1)に基づき、(5)式で、Eb(1)=Vb(1)とすることにより算出される。また、第2のDOD値(DOD2(1))は「0」とする。n=2の場合には、第1のDOD値(DOD1(2))は、図5を参照して説明した演算により取得される。第2のDOD値(DOD2(2))は、DOD1(2)と同じ値とする。また、DOD補正値(DOD3)も、DOD1(2)と同じ値とする。また、初期的なSOC表示値(SOCD)は、不定値(**)とされる(ステップ1204)。算出されたDOD値およびSOC値は、記憶装置18のDOD値・SOC値ファイル30に格納される(ステップ1205)。その後、サンプル番号「n」がインクリメントされて(ステップ1206)、ステップ1201に戻る。
【0080】
ステップ1202で「No」と判断された場合には、補正処理部16は、ドアの開閉状態を示す情報を参照して、車両のドアが開いているか否かを判断する(ステップ1207)。ステップ1207で「No」と判断された場合には、フラグSstを「0」とする(ステップ1208)。その一方、ステップ1207で「Yes」と判断された場合には、フラグSstが「1」であるかどうかを判断する(ステップ1209)。ステップ1209で「No」と判断された場合には、補正処理部16は、図8を参照して説明した第1の補正係数算出処理を実行する(ステップ1210)。次いで、補正処理部16は、第(n−1)サンプルの第2のDOD値(DOD2(n−1))を、第(n−1)サンプルの第1のDOD値(DOD1(n−1))として(ステップ1211)、フラグSstを「1」にセットする(ステップ1212)。フラグSstを利用することで、車両のドアが開いた直後の処理で、ステップ1210〜1212が実行され、その後はドアが閉じるまでフラグSstが「1」となるため、ステップ1209で「Yes」と判断されて、ステップ1210〜1212が実行されない。つまり、車両のドアが開いた直後に、1度だけステップ1210〜1212が実行される。
【0081】
次いで、補正処理部16は、電池充放電電流の変化の絶対値|Ib(n)−Ib(n−1)|が閾値Ith以上であるか否かを判断する(ステップ1301)。ステップ1301で「No」と判断された場合には、補正処理部16は、電流急変後経過時間を示すパラメータTivをインクリメントする(ステップ1302)。その一方、ステップ1301でノーと判断された場合には、経過時間Tivが閾値Tth以上であるか否かが判断される(ステップ1303)。ステップ1303で「Yes」と判断された場合には、補正処理部16は、図10を参照して説明した第2の補正係数算出処理を実行する(ステップ1304)。その後、補正処理部16は、経過時間Tivを「0」にする(ステップ1305)。ステップ1303で「No」と判断された場合にも、経過時間Tivが「0」にされる。
【0082】
上述したように、第2の補正係数算出処理は、電池充放電電流の変化の絶対値が閾値Ithより小さい状態が、所定の時間Tthよりも継続した後に、上記絶対値が閾値Ith以上となったときに実行される。これにより、電池充放電電流が安定していた状態から急激に変化したときのみ、第2の補正係数算出処理が実行されることになる。
【0083】
次いで、テーブル参照方式DOD推定処理部12は、第n番サンプルの第1のDOD値(DOD1(n))を算出し、また、電流積分方式DOD推定処理部14は、第nサンプルの第2のDOD値(DOD2(n))を算出する(ステップ1306)。その後、SOCD=100−DOD2(n)が算出される(ステップ1307)。算出されたDOD値やSOCDは、記憶装置18のDOD値・SOC値ファイル30に格納される(ステップ1308)。その後、サンプル番号「n」がインクリメントされて(ステップ1309)、スタートに戻る。
【0084】
ステップ1307で算出され、DOD値・SOC値ファイル30に格納されたSOC値(SOCD)は、データ表示処理部22により読み出され、表示装置42の画面上に表示される。
【0085】
次に、本実施の形態にかかるSOC推定装置の適用例について説明する。図14は、本実施の形態にかかるSOC推定装置を搭載した鉄道車両の例を示すブロックダイヤグラムである。図14に示すように、鉄道車両1400には、車輪1406を駆動するための種々の装置が搭載されている。鉄道車両1400は、バッテリー1402、チョッパ制御装置等を含む電力制御装置1403、インバータ等を含むモータ駆動装置1404およびモータ1405を備える。また、鉄道車両1400の運転台付近には表示器1407やドア開閉スイッチ1408が設けられる。また、バッテリー1402のみでモータ1405を駆動しない場合には、補助的な動力源1409が設けられる。補助的な動力源には、たとえば、ディーゼル発電機が含まれる。或いは、パンタグラフ1410を介して架線から電力供給が可能であるような構成を採用しても良い。鉄道車両1400は、上記構成を備え、バッテリー1402から供給される電力によってモータ1405を回転させ、車輪1406を回転させることにより軌道上を走行することができる。鉄道車両1406は、減速時には、回生電力を回収してバッテリー1402に戻すことができる。さらに、本実施の形態においては、車両の停車時に、パンタグラフ1410を介して充電のための電力を受け入れバッテリー1402への急速充電ができるようになっている。
【0086】
SOC推定装置1401は、バッテリー1402から、バッテリー平均温度、電池端子電圧、電池充放電電流などを取得する。また、開閉スイッチ1408からドアの開閉状態を示す情報を取得する。また、SOC推定装置1401は、算出されたSOC値を表示器の画面上に表示することができる。
【0087】
本実施の形態によれば、車両の走行中には、電流積分方式による第2のDOD値をDOD値として採用し、停車中に急速充電が行われる可能性がある鉄道車両において、急速充電が開始されるのに先立ったタイミングで、テーブル参照方式による第1のDOD値をDOD値として採用することで、DOD値を補正する。その後は、当該補正されたDOD値を利用して、電流積分方式による第2のDOD値をDOD値として算出する。これにより、補正時のDOD値のトビ(DOD値の飛躍的な変化)を抑制することができる。上記急速充電が開始されるのに先立ったタイミングとして、本実施の形態においては、車両が停車してドアが開いたタイミングを採用している。
【0088】
また、本実施の形態によれば、放電が進んだ際および充電が進んだ際に、第2のDOD値が増えすぎているか、或いは、減りすぎているかを判断し、電流積分方式による演算に利用する電池容量を示すパラメータAhを調整し、電流積分方式において、元の第2のDOD値に加減算すべき値を適切化している。これにより、電池容量Ahの変化があってもその変化に追従することが可能となる。
【0089】
さらに、本実施の形態によれば、電流値変化の絶対値が閾値を超えた場合に、内部抵抗の値Rを調整して、内部抵抗の変化に追従するようにしている。
【0090】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0091】
たとえば、前記実施の形態においては、SOC推定装置を、鉄道車両に搭載しているが、これに限定されるものではなく、リチウムイオンバッテリーなどを搭載した乗用車、たとえば、ハイブリッドカーに搭載しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかるSOC推定装置の概略を示すブロックダイヤグラムである。
【図2】図2は、本実施の形態にかかるSOC推定装置のハードウェア構成を示すブロックダイヤグラムである。
【図3】図3は、リチウムイオンバッテリーを充放電する際の電流電圧波形を示すグラフである。
【図4】図4は、リチウムイオンバッテリーの等価回路モデルの例を示す図である。
【図5】図5は、テーブル参照方式DOD推定処理部における第1のDOD値(DOD1)の算出処理を説明する図である。
【図6】図6は、電流積分方式DOD推定処理部における第2のDOD値(DOD2)の算出処理を説明する図である。
【図7】図7は、電池容量の変化により第2のDOD値(DOD2)が受ける影響について説明するグラフである。
【図8】図8は、本実施の形態にかかる第1の補正係数算出処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は、電池充放電電流および端子電圧の変化を示すグラフである。
【図10】図10は、本実施の形態にかかる第2の補正係数算出処理を示すフローチャートである。
【図11】図11は、補正タイミングの違いによるDOD値の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、本実施の形態にかかる補正処理を示すフローチャートである。
【図13】図13は、本実施の形態にかかる補正処理を示すフローチャートである。
【図14】図14は、本実施の形態にかかるSOC推定装置を搭載した鉄道車両の例を示すブロックダイヤグラムである。
【図15】図15は、本実施の形態にかかる第1の補正係数算出処理を説明する図である。
【図16】図16は、テーブル参照方式によるSOC推定を説明する図である。
【符号の説明】
【0093】
12 テーブル参照方式DOD推定処理部
14 電流積分方式DOD推定処理部
16 補正処理部
18 記憶装置
20 パラメータ格納処理部
22 データ表示処理部
24 テーブル参照方式処理用パラメータファイル
26 電流積分方式処理用パラメータファイル
28 補正処理用パラメータファイル
30 DOD値・SOC値ファイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリー、たとえば、リチウムイオンバッテリーの残容量(SOC:State of Charge)を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーなどバッテリーのSOCを推定するために、テーブル参照方式、電流積分方式、および、これらを併用した方式が知られている。
【0003】
図16に示すように、テーブル参照方式においては、バッテリーの開放電圧(無負荷端子電圧)と、SOCとの間が一定の関係を持っており、開放電圧が決まればSOC値が決まることから、開放電圧に基づいて、当該開放電圧に対応するSOC値を得るものである。たとえば、特許文献1には、詳細な等価回路のモデルにしたがって開放電圧を推定し、推定された開放電圧にしたがってSOC値を演算する充電率推定装置が開示されている。
【0004】
また、電流積分方式は、バッテリーに流れる電流を微小時間ごとに積分して、SOCを得るものである。SOCは、以下の式で表される。
【0005】
SOC[%]=充電量[Ah]/容量[Ah]×100
充電量変化分[Ah]=∫Ibdt/3600
ただし、Ibは、バッテリー充放電電流[A]
【特許文献1】特開2003−75518号公報
【特許文献2】特開2006−75518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テーブル参照方式においては、微小時間ごとの電流を積分していくことにより蓄積される誤差(積分誤差)は発生しない。また、バッテリーの劣化や環境変化、特に温度変化により容量[Ah]の変動の影響を受けないという利点がある。しかしながら、開放電圧の適切な推定は複雑であり、得られた開放電圧も誤差を含みやすいという問題点があった。
【0007】
電流積分方式においては、上述したように充電量の変化分を算出し、変化分を元のSOCから加減算することで新たなSOCを求めることができる。したがって、演算が簡単であるという利点がある。その一方、バッテリーの劣化や温度変化により容量[Ah]に変化がある場合に対応することが困難であるという問題点、および、バッテリーを最初に使用する場合や新たに電源をONした場合のSOCの初期値の取得や積分誤算の補正が必須であるという問題点があった。
【0008】
そこで、特許文献2には、 電流積分方式を用いて、充放電電流に基づく積算演算を実行して、電流積分方式によるSOC値を算出し、その一方、これと並行して、端子電圧を開回路電圧とみなして、開放電圧に基づいて、テーブル参照方式によるSOC値を演算し、これらを切り替えるような残存容量推定方法が開示されている。双方の方式を併用する場合にも、その切り替えを適切化して、より正確なSOC値が推定できることが望ましい。
【0009】
本発明は、テーブル参照方式および電流積分方式のSOC値の切り替えを適正化した電池の残容量を推定する装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、テーブル参照方式、および、電流積分方式の残容量推定において、その推定値を補正によりより適切化する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
前記第2のDOD値算出手段による第2のDOD値を、DOD値として前記記憶装置に記憶し、前記車両の走行状態を示す情報にしたがって、前記車両が停車したときに、前記第1のDOD値をDOD値として前記記憶装置に記憶する補正手段を備え、その後に、前記第2のDOD値算出手段が、DOD値として前記記憶装置に記憶された第1のDOD値を使用して、演算を再開するように構成されたことを特徴とするバッテリーの残容量推定装置により達成される。
【0012】
好ましい実施態様においては、前記補正手段が、前記車両が停止し、車両のドアが開かれたことを検出したタイミングで、第1のDOD値をDOD値として前記記憶装置に記憶するように構成されている。
【0013】
別の好ましい実施態様においては、前記第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、第2のDOD値の変化幅が所定より小さい場合に、前記電池容量を小さくし、かつ、前記第2のDOD値の変化幅が所定より大きい場合に、前記電池容量を大きくするような第1の補正係数を算出する第1の補正係数算出手段を備えている。
【0014】
より好ましい実施態様においては、前記第1の補正係数算出手段が、
(1)放電中に第2のDOD値の増加の度合いが所定よりも小さい場合に、電池容量を減少させるように第1の補正係数を変化させ、
(2)充電中に第2のDOD値の減少の度合いが所定よりも大きい場合に、電池容量を増大させるように第1の補正係数を変化させ、
(3)放電中に第2のDOD値の増加の度合いが所定よりも大きい場合に、電池容量を増大させるように第1の補正係数を変化させ、
(4)充電中に第2のDOD値の減少の度合いが所定よりも小さい場合に、電池容量を減少させるように第1の補正係数を変化させるように構成されている。
【0015】
別の好ましい実施態様においては、内部抵抗の変化が、抵抗変化の閾値以上になった場合に、前記開放電圧算出のための内部抵抗を調整する第2の補正係数を変化させる第2の補正係数算出手段を備えている。
【0016】
より好ましい実施態様においては、前記第2の補正係数算出手段が、端子電圧の時間変化を充放電電流の時間変化で除して得られた演算値と、推定内部抵抗とを比較して、前記演算値から前記推定内部抵抗を減算した値が、抵抗変化の閾値よりも大きい場合に、前記第2の補正係数を所定の値だけ増加させ、前記推定内部抵抗値から前記演算値を減算した値が、抵抗変化の閾値よりも大きい場合に、前記第2の補正係数を所定の値だけ減算させる。
【0017】
さらに好ましい実施態様においては、前記第2の補正係数算出手段が、電流値変化の絶対値が、電流変化の閾値より大きい場合に、前記第2の補正係数を変化させる。
【0018】
また、本発明の目的は、バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
前記第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、第2のDOD値の変化幅が所定より小さい場合に、前記電池容量を小さくし、かつ、前記第2のDOD値の変化幅が所定より大きい場合に、前記電池容量を大きくするような第1の補正係数を算出する第1の補正係数算出手段を備えたことを特徴とするバッテリーの残量推定装置により達成される。
【0019】
また、本発明の目的は、バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量Ahに基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
内部抵抗の変化が、抵抗変化の閾値以上になった場合に、前記開放電圧算出のための内部抵抗を調整するための第2の補正係数を変化させる第2の補正係数算出手段を備えたことを特徴とするバッテリーの残量推定装置により達成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、テーブル参照方式および電流積分方式のSOC値の切り替えを適正化した電池の残容量を推定する装置を提供することが可能となる。
【0021】
また、本発明によれば、テーブル参照方式、および、電流積分方式の残容量推定において、その推定値を補正によりより適切化する装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかるSOC推定装置の概略を示すブロックダイヤグラムである。本実施の形態においては、処理中でまず放電の割合を示すDOD(放電深度:Depth of Discharge)の値を推定し、全体(100%)からDODの値を減じることでSOCの値を算出している。以下、DODの値をDOD値、SOCの値をSOC値と称する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態にかかるSOC推定装置は、テーブル参照方式でDOD値(第1のDOD値)を推定するテーブル参照方式DOD推定処理部12と、電流積分方式でDOD値(第2のDOD値)を推定する電流積分方式DOD推定処理部14と、テーブル参照方式DOD推定処理部12による第1のDOD値および電流積分方式DOD推定処理部14による第2のDOD値の切り替えタイミングを特定して、DOD値を補正する補正係数を算出する処理などを実行する補正処理部16と、記憶装置18と、記憶装置18に各種パラメータを格納するための処理を実行するパラメータ格納処理部20と、得られたSOC値を表示するための処理を実行するためのデータ表示処理部22と、を備える。
【0024】
記憶装置18には、テーブル参照方式によるDOD推定に用いるパラメータを格納したテーブル参照方式処理用パラメータファイル24、電流積分方式によるDOD推定に用いるパラメータを格納した電流積分方式処理用パラメータ26、補正処理部16における処理に利用されるパラメータを格納した補正処理用パラメータファイル28、および、得られたDOD値およびSOC値を格納するDOD値・SOC値ファイル30が記憶される。
【0025】
図2は、本実施の形態にかかるSOC推定装置のハードウェア構成を示すブロックダイヤグラムである。図2に示すように、SOC推定装置は、CPU32、ROM34、RAM36、各種センサ38、入力装置40、表示装置42およびハードディスク装置44を備える。たとえば、本実施の形態にかかるSOC推定装置は、路面電車などの鉄道車両、ハイブリッド乗用車に搭載されたコンピュータにより実現される。本例では、リチウムイオンバッテリーの電力により走行する鉄道車両にSOC推定装置が搭載されている。
【0026】
ROM34には、SOC推定処理のための種々のプログラムが格納される。RAM36においては、処理の過程で生成されるパラメータが一時的に記憶される。各種センサ38には、バッテリーの端子電圧、充放電電流、温度などを検出するセンサ、車両のドアの開閉を検知するセンサ、演算周期Tを計測するタイマなどが含まれる。入力装置40には、たとえば車両の運転台の操作子が含まれる。また、表示装置42には、車両の運転台の液晶表示装置が含まれる。ドアの開閉を検知するセンサは、ドア開閉スイッチの状態を検知できるものであれば良い。
【0027】
CPU32が、ROM34に記憶されたプログラムを実行することで、SOC推定装置を、図1に示すテーブル参照方式DOD推定処理部12、電流積分方式DOD推定処理部14、補正処理部16、パラメータ格納部20およびデータ表示処理部22として機能させることができる。また、図1の記憶装置18は、図2におけるRAM36およびハードディスク装置44により実現される。
【0028】
次に、テーブル参照方式DOD推定処理部12および電流積分方式DOD推定処理部14についてより詳細に説明する。
【0029】
図3は、リチウムイオンバッテリーを充放電する際の電流電圧波形を示すグラフ、図4は、リチウムイオンバッテリーの等価回路モデルの例を示す図である。図3に示すように、充放電時の端子電圧波形(符号301〜303参照)は、図4の内部抵抗RrおよびRdと、電池充放電電流Ibと、時定数τ=CrRrとにより決定される。したがって、リチウムイオンバッテリーの充放電の電流電圧波形に基づいて、図4の等価回路における回路定数が決定される。本実施の形態において、回路定数は、テーブル参照方式処理用パラメータファイル24などのパラメータとして、パラメータ格納処理部20によって記憶装置18に記憶される。
【0030】
図4に示す等価回路から、内部抵抗Rrの電圧Vd2について、(1)式が成立する。また、Vd2をサンプリング周期Tの台形積分で離散化すると(2)式に示すようになる。ここで、(n)は、離散時間データにおける第n番サンプルであることを示す。
【0031】
【数1】
同様に、内部抵抗Rdの電圧Vd1については、(3)式が成立する。
【0032】
Vd1(n)=RdIb(n) ・・・(3)
推定開放電圧Ebは、以下の(4)式で表される。
【0033】
Eb(n)=Vb(n)−Vd1(n)−Vd2(n) ・・・(4)
本実施の形態において、第1のDOD値(DOD1)は、(4)式で得られた推定開放電圧Ebから、以下の(5)式を用いて算出される。
【0034】
【数2】
ここに、Ck(k=3、2、1、0)は、開放電圧とDOD値との関係を表す係数である。テーブル参照方式DOD推定処理部12は、上記(5)式で第1のDOD値(DOD1)を得る。なお、本実施の形態においては、テーブル方式DOD推定処理部12は、実際に(5)式を用いた演算により第1のDOD値(DOD1)を得ているが、これに限定されるものではなく、開放電圧Eb(n)と、第1のDOD値(DOD1)とを対応付けたテーブルを用意しておき、開放電圧Eb(n)を算出し、算出された開放電圧Eb(n)をテーブルに入力として与え、対応する第1のDOD値(DOD1)を出力させるように構成しても良い。
【0035】
現実の回路定数には、温度依存性、DOD依存性があるため、DOD推定の対象となるバッテリーについて予め回路定数を測定する。また、Rd、RrおよびR=Rd+Rrには、以下の(6)式、(7)式を用いて算出した。KdgrおよびLdgrは、劣化を考慮した係数である。係数Kdgrは、予め定められた定数である。その一方、係数Ldgrは、後述する第2の補正係数算出処理により算出される。
【0036】
【数3】
Krr、Krdは、全抵抗Rを、RrおよびRdに配分する比率である。また、容量Crは定数でよい。
【0037】
図5は、テーブル参照方式DOD推定処理部12における第1のDOD値(DOD1)の算出処理を説明する図である。図5に示すように、第n番サンプルの第1のDOD値であるDOD1(n)を算出するために、記憶装置18のテーブル参照方式処理用パラメータファイル24から、バッテリー平均温度Tb(n)、電池端子電圧Vb(n)、電池充放電電流Ib(n)を取得するとともに、DOD値・SOC値ファイル30から、第(n−1)番サンプルの第1のDOD値であるDOD1(n−1)を取得する。
【0038】
テーブル参照方式DOD推定処理部12は、DOD1(n−1)、Tb(n)、および、演算に利用される他のパラメータA0〜A3、B1〜B3、Kdgr、Ldgrを記憶装置18のテーブル参照方式処理用パラメータファイル24から読み出して、上記(6)式にしたがって、合成内部抵抗R(n)を算出する(符号501参照)。合成内部抵抗R(n)は、比率KrrおよびKrdによりRr(n)およびRd(n)に配分される(符号502、503参照)。ここに、A0〜A3は、内部抵抗RのDOD依存性を表し、B1〜B3は、内部抵抗Rの電池温度依存性を表す。
【0039】
テーブル参照方式DOD推定処理部12は、内部抵抗Rr(n)について、(2)式を利用して、電圧Vd2(n)を算出し(符号504参照)、内部抵抗Rd(n)について、Ib(n)と乗ずることにより、電圧Vd1(n)を算出する(符号505参照)。
【0040】
テーブル参照方式DOD推定処理部12は、(4)式にしたがって、推定開放電圧Eb(n)を算出し(符号506参照)、その後、算出されたEb(n)に基づいて、(5)式にしたがって、第1のDOD値(DOD1(n))を得る(符号507参照)。得られた第n番サンプルの第1のDOD値(DOD1(n))は、記憶装置18のDOD値・SOC値ファイル30に格納される。
【0041】
次に、電流積分方式DOD推定処理部14の処理について説明する。電流積分によるDOD変化は、(8)式に示すようになる。
【0042】
【数4】
(8)式をサンプリング周期Tの矩形積分で離散化したものを(9)式に示す。
【0043】
DOD2(n)=DOD2(n−1)−(T/(36×Ah))×Ib(n)
・・・(9)
なお、(8)式、(9)式および以下に述べる(10)式において、パラメータAhは、電池容量(アンペア容量)を示す。さらに、劣化等を考慮した補正係数KdgcおよびLdgcを付加すると(10)式のようなものとなる。
【0044】
DOD2(n)=DOD2(n−1)−
(T/(36×Ah×Kdgc×Ldgc))×Ib(n) ・・・(10)
補正係数Kdgcは、予め定められた定数である。その一方、係数Ldgcは、後述する第1の補正係数算出処理により算出される。
【0045】
本実施の形態においては、電流積分方式DOD推定処理部14は、(10)式にしたがって、第2のDOD値(DOD2)を算出する。図6は、電流積分方式DOD推定処理部14における第2のDOD値(DOD2)の算出処理を説明する図である。図6に示すように、電流積分方式DOD推定処理部14は、第n番サンプルの第2のDOD値であるDOD2(n)を算出するために、記憶装置18の電流積分方式処理用パラメータファイル26から、電池充放電電流Ib(n)を取得するとともに、DOD値・SOC値ファイル30から、第(n−1)サンプルの第2のDOD値であるDOD2(n−1)を取得する。また、電流積分方式DOD推定処理部14は、電流積分方式処理用パラメータファイル26から、係数KdgcおよびLdgcを取得する。
【0046】
電流積分方式DOD推定処理部14は、電池充放電電流Ib(n)と、(T/(36×Ah×Kdgc×Ldgc)とを乗算し(符号601参照)、第(n−1)番サンプルの第2のDOD値(DOD2(n−1))から乗算結果を減じる(符号602参照)ことにより、第nサンプルの第2のDOD値(DOD2(n−1))を算出する。得られた第n番サンプルの第2のDOD値(DOD2(n))は、記憶装置18のDOD値・SOC値ファイル30に格納される。
【0047】
経年劣化により、或いは、低温下に置かれることにより、電池容量が減少する。そこで、本実施の形態においては、補正処理部16により、容量自動調整係数Ldgcを算出して、容量変化を捕捉してこれに追従するように構成している。なお、この追従は、一時に全て行うのではなく処理によって徐々に行うこととした。
【0048】
本実施の形態においては、車両の走行時には、テーブル参照方式に基づくDOD値である第2のDOD値(DOD2)をDOD値として採用し、車両の停車時を補正タイミングとして、第1のDOD値をDOD値として採用している。したがって、容量自動調整係数Ldgcは、車両の停車時に算出される。
【0049】
図7は、電池容量の変化により第2のDOD値(DOD2)が受ける影響について説明するグラフである。図7において、実線は、第1のDOD値(DOD1)を示す。また、破線は、演算に用いられるAhが、実際の電池容量よりも大きい場合の第2のDOD値、一点鎖線は、演算に用いられるAhが、実際の電池容量よりも小さい場合の第2のDOD値を示す。
【0050】
Ahが実際よりも小さい場合には、(9)式の右辺第2項の分母が実際よりも小さくなるため、1サンプル前の第2のDOD値(DOD2(n−1))に加減算される絶対値が、実際より大きくなる。したがって、力行時のように電力を消費する場合では、第1のDOD値と比較すると、よりDOD値が大きくなるように推移する(符号701参照)。その一方、回生時や急速充電時のように、充電される場合では、第1のDOD値を比較すると、よりDOD値が小さくなるように推移する(符号702、703参照)。
【0051】
同様に、演算に用いられるAhが、実際の電池容量よりも大きい場合には、1サンプル前の第2のDOD値(DOD2(n−1))に加減算される値が、実際より小さくなる。したがって、力行時のように電力を消費する場合では、第1のDOD値と比較すると、よりDOD値が小さくなるように推移する(符号711参照)。その一方、回生時や急速充電時のように、充電される場合では、第1のDOD値を比較すると、よりDOD値が大きくなるように推移する(符号712、713参照)。
【0052】
そこで、本実施の形態においては、車両の走行時には、電流積分方式DOD推定処理部14が、第2のDOD値(DOD2)を算出して、これをDOD値として、DOD値・SOC値ファイル30に格納する。その一方、車両の開扉直後には、第1のDOD値を、DOD値として、DOD値・SOC値ファイル30に格納している。また、補正処理において、第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、演算に使用されているパラメータAhの値が、過大であるか或いは過小であるかを判断し、補正係数Ldgcを算出して、パラメータAhを調整して、Ah×Kdgc×Ldgcを実施の電池容量に近づけるようにしている。
【0053】
図8は、本実施の形態にかかる補正処理部16にて実行される第1の補正係数算出処理を示すフローチャートである。この第1の補正係数算出処理によって、適切な補正係数Ldgcを得ている。
【0054】
図8に示すように、補正処理部16は、処理に利用する実施フラグFa、Fbを「0」に初期化する(ステップ801)。次いで、補正処理部16は、DOD値・SOC値ファイル30、補正処理用パラメータファイル28から、第(n−1)サンプルの第2のDOD値(DOD2(n−1))、第1のDOD値(DOD1(n−1))および補正処理用の第1の閾値Wdgc1を読み出して、DOD2(n−1)≦DOD1(n−1)−Wdgc1が成立するか否かを判断する(ステップ802)。ステップ802においては、電流積分方式による第2のDOD値が、テーブル参照方式による第1のDOD値より、閾値Wdgc1以上小さくなった場合、つまり、Wdgc1以上小さい方に逸脱した場合に「Yes」と判断される。ステップ802で「Yes」と判断された場合には、実施フラグFaが「−1」にセットされる(ステップ803)。
【0055】
次いで、補正処理部16は、DOD2(n−1)>DOD1(n−1)+Wdgc1が成立するか否かを判断する(ステップ804)。ステップ804においては、電流積分方式による第2のDOD値が、テーブル参照方式による第1のDOD値より、閾値Wdgc1以上大きくなった場合、つまり、Wdgc1以上大きい方に逸脱した場合に「Yes」と判断される。ステップ804で「Yes」と判断された場合には、実施フラグFaが「1」にセットされる。
【0056】
また、補正処理部16は、補正処理用パラメータファイル28およびDOD値・SOC値ファイル30から、補正処理用の第2の閾値Wdgc2および前回のDOD補正値(DOD3)を読み出して、DOD2(n−1)−DOD3≧Wdgc2が成立するかを判断する(ステップ806)。ステップ806においては、第2のDOD値が、前回補正値と比較して、第2の閾値以上に大きくなっている場合に「Yes」と判断される。ステップ806において「Yes」と判断された場合には、実施フラグFbが「1」にセットされる(ステップ807)。
【0057】
補正処理部16は、DOD2(n−1)−DOD3<−Wdgc2が成立するかを判断する(ステップ808)。ステップ808においては、第2のDOD値が、前回補正値と比較して、第2の閾値よりも小さくなっている場合に「Yes」と判断される。ステップ806において「Yes」と判断された場合には、実施フラグFbが「−1」にセットされる(ステップ809)。
【0058】
その後、補正処理部16は、補正係数Ldgcを、Ldgc+(Ddgc×Fa×Fb)に更新する(ステップ810)。なお、Ddgcは増減変化幅を規定する係数である。実施フラグFa、Fbの少なくとも一方が「0」であれば、補正係数Ldgcは変化しない。また、実施フラグFa、Fbの符号が異なる場合には、新たな補正係数Ldgcはもとの補正係数より減少する。
【0059】
また、Fa×Fbが「0」でない場合、つまり、FaおよびFbの双方が、「0」以外の値を持つ場合には、DOD補正値(DOD3)を、第(n−1)サンプルの第1のDOD値(DOD1(n−1))とする(ステップ812)。算出された補正係数やDOD補正値は、補正処理用パラメータファイル28やDOD・SOC値ファイル30に格納される。
【0060】
(1)ステップ802で「Yes」かつステップ806で「Yes」の場合には、放電が進んだ際に、第2のDOD値(DOD2)の増加が足りない、つまり増加の度合いが所定よりも小さいことを意味している。したがって、電池容量を示すパラメータAhを減少させるように補正係数Ldgcを変化させる。(2)ステップ802で「Yes」かつステップ808で「Yes」の場合には、充電が進んだ際に第2のDOD値(DOD2)が減りすぎている、つまり、減少の度合いが所定よりも大きいことを意味している。したがって、パラメータAhを増大させるように補正係数Ldgcを変化させる。
【0061】
また、(3)ステップ804で「Yes」かつステップ806で「Yes」の場合には、放電が進んだ際に第2のDOD値(DOD2)が増えすぎていること、つまり、増加の度合いが所定よりも大きいことを意味している。したがって、パラメータAhを増大させるように補正係数Ldgcを変化させる。また、(4)ステップ804で「Yes」かつステップ808で「Yes」の場合には、充電が進んだ際に第2のDOD値(DOD2)の減少が足りないこと、つまり、減少の度合いが所定よりも小さいことを意味している。したがって、パラメータAhを減少させるように補正係数Ldgcを変化させる。
【0062】
図15は、上記(1)〜(4)の態様のそれぞれを説明する図である。図15(a)において、符号1502のグラフが、上記(1)の態様に該当しえる。つまり、放電が進み(DOD値が増大し)、第2のDOD値は前回の補正値DOD3より所定の閾値Wdgc2以上に大きくなっており、かつ、その際に、第2のDOD値が第1のDOD値(グラフ1500参照)から所定の閾値Wdgc1を減じたもの以下である、つまり、第2のDOD値の増大が足りないような状況が起こりえる。したがって、パラメータAhを減少させることで、第2のDOD値の増分をより大きくさせる。
【0063】
また、図15(a)において、符号1501のグラフが、上記(3)の態様に該当しえる。ここでは、放電が進み(DODが増大し)、第2のDOD値は前回の補正値DOD3より所定の閾値Wdgc2以上に大きくなっており、かつ、その際に、第2のDOD値が第1のDOD値(グラフ1500参照)から所定の閾値Wdgc1を加えたものより大きい、つまり、第2のDOD値が増えすぎた状況が起こりえる。したがって、パラメータAhを増大させることで、第2のDOD値の増分をより小さくさせる。
【0064】
図15(b)において、符号1512のグラフが、上記(2)の態様に該当しえる。つまり、充電が進み(DOD値が減少し)、第2のDOD値と前回の補正値DOD3との差(負の値)が所定の閾値−Wdgc2(負の値)より小さくなっており、かつ、その際に、第2のDOD値が第1のDOD値(グラフ1510参照)から所定の閾値Wdgc1を減じたもの以下である、つまり、第2のDOD値が減りすぎであるような状況が起こりえる。したがって、パラメータAhを増大させることで、第2のDOD値の減少分をより小さくさせる。
【0065】
また、図15(b)において、符号1511のグラフが、上記(4)の態様に該当しえる。つまり、充電が進み(DOD値が減少し)、第2のDOD値と前回の補正値DOD3との差(負の値)が所定の閾値−Wdgc2(負の値)より小さくなっており、かつ、その際に、第2のDOD値が第1のDOD値(グラフ1510参照)から所定の閾値Wdgc1を加えたものより大きい、つまり、第2のDOD値の減少が足りないような状況が起こりえる。そこで、パラメータAhを減少させることで、第2のDOD値の減少分をより大きくさせる。
【0066】
ここで、増加が足りないこと(増加の度合いが所定よりも小さいこと)、および、減少が足りないこと(減少の度合いが所定よりも小さいこと)は、第1のDOD値(DOD1)と比較して、第2のDOD値(DOD2)の変化幅が小さい状況であることを示している。したがって、パラメータAhを減らすことにより、その状況が改善される。その一方、増えすぎていること(増加の度合いが初手よりも大きいこと)、および、減りすぎていること(減少の度合いが所定よりも大きいこと)は、第1のDOD値(DOD1)と比較して、第2のDOD値(DOD2)の変化幅が大きい状況であることを示している。したがって、パラメータAhを増やすことにより、その状況が改善される。
【0067】
また、リチウムイオンバッテリー内の内部抵抗も、経年変化により変化する可能性がある。そこで、本実施の形態にいては、内部抵抗の変化に追従するように、補正係数Ldgrを算出する。たとえば、図9において、電池充放電電流Ibが、所定の範囲を越えて変化する場合(符号901参照)には、内部抵抗の実測が容易である。そこで、1サンプル間での電流値変化の絶対値が、閾値Ithを上回るか否かが判断され、閾値Ithを上回る場合に、以下に述べるような第2の補正係数算出処理が実行される。
【0068】
パラメータRdの実測値Rd’は、以下の(11)式で与えられる。
【0069】
Rd’=(Vb(n)−Vb(n−1))/(Ib(n)−Ib(n−1))
・・・(11)
したがって、このRd’にしたがって補正係数Ldgrを変更する。図10は、本実施の形態にかかる第2の補正係数算出処理を示すフローチャートである。図10に示すように、補正処理部16は、Rd’=(Vb(n)−Vb(n−1))/(Ib(n)−Ib(n−1))≧Rd(n)+Wdgrが成立するか否かを判断する(ステップ1001)。ステップ1001で「Yes」と判断された場合には、補正処理部16は、Ldgr=Ldgr+Ddgrとする(ステップ1002)。つまり、補正処理部16は、補正係数Ldgrを、所定の係数Ddgrだけ増大させる。
【0070】
また、補正処理部16は、Rd’=(Vb(n)−Vb(n−1))/(Ib(n)−Ib(n−1))<Rd(n)−Wdgrが成立するか否かを判断する(ステップ1002)。ステップ1002で「Yes」と判断された場合には、補正処理部16は、Ldgr=Ldgr−Ddgrとする(ステップ1004)。つまり、補正処理部16は、補正係数Ldgrを、所定の係数Ddgrだけ減少させる。
【0071】
次に、本実施の形態にかかる補正処理の実行タイミングについて説明する。テーブル参照方式を採用して演算した第1のDOD値(DOD1)が、常に真値に近ければ、電流積分方式を併用せず、テーブル参照方式だけでDODの推定が可能である。しかしながら、実際には、テーブル参照方式は、電流値や電池状態(内部の活性など)の影響を考慮しきれず、真値とは明らかに異なる挙動を示す場合がある。そこで、本実施の形態においては、主として電流積分方式を採用し、車両の開扉直後のみテーブル参照方式を採用する。
【0072】
鉄道車両の車両運行状態として、力行、回生、停車が含まれる。また、本実施の形態にかかる車両運行状態には、軌道上に設けられた充電ステーションにおいて停車中にリチウムイオンバッテリーに急速に充電する急速充電も含まれる。
【0073】
急速充電後においては、テーブル参照方式による第1のDOD値(DOD1)には推定誤差が多く含まれると考える。急速充電の際には、大電流が通電される。大電流の通電により電池内部の状態(分極、活性)が大幅に変化し、図4に示すような簡易な等価回路で推定しきれないような開放電圧変化が生じる。したがって、急速充電後のタイミングで、電流積分方式による第2のDOD値(DOD2)をDOD値としていたのを、テーブル参照方式による第1のDOD値(DOD1)をDOD値とするような補正を実行すると、図11の前半部分(符号1100)にあるように、補正によってDOD値に数パーセントのトビ、つまり、DOD値の飛躍的な変化が生じる(符号1101、1103参照)。なお、図11においては、「100−DOD値」であるSOC値をグラフの縦軸にしている。また、図11の前半部分1100において、補正タイミングとして、停車時に急速充電が行われた場合には急速充電後、急速充電を伴わない単なる停車時には開扉直後としている。図11の上部にある菱形の中心が補正処理の実行されるタイミングを示す。
【0074】
図11において、急速充電時のDOD値のトビ(符号1101、1103参照)の後、DOD値は暫く誤差を含み続け、急速充電を伴わない停車時の補正により、誤差を軽減する方向に再度トビが生じる(たとえば、符号1102参照)。
【0075】
その一方、車両の停車直後(つまり急速充電前)においては、テーブル参照方式による第1のDOD値(DOD1)にはさほど推定誤差が含まれていないと考えられる。したがって、このタイミングで、電流積分方式による第2のDOD値(DOD2)をDOD値としていたのを、テーブル参照方式による第1のDOD値(DOD1)をDOD値とするような補正を実行すれば、DOD値のトビが生じるおそれを著しく少なくすることができる。図11の後半部分(符号1110参照)において、急速充電前の補正であれば、DOD値のトビがほとんど生じていない(符号1111〜1113参照)。
【0076】
したがって本実施の形態においては、車両の停車直後のドアが開くタイミングで補正処理を実行することとしている。無論、ドアが開くタイミングに限定されず、車両の速度がゼロになった直後などを補正処理のトリガーとしても良いことは言うまでもない。
【0077】
次に、本実施の形態において実行される補正処理を説明する。補正処理には、図8、図10を参照して説明した補正係数算出処理が含まれる。図12および図13は、本実施の形態にかかる補正処理を示すフローチャートである。この処理は、演算周期Tで繰り返し実行され、一定の条件がそろったときに、先に説明した補正係数算出処理などが実行されることになる。
【0078】
図12に示すように、補正処理部16は、第n番サンプルの電池平均温度Tb(n)、電池充放電電流Ib(n)、電池端子電圧Vb(n)などを取得する(ステップ1201)。また、ステップ1201においては、補正処理部16は、各種センサ38の情報から、車両のドアの開閉の状態を示す情報を取得する。次いで、補正処理部16は、サンプル番号が2以下であるか否かを判断する(ステップ1202)。ステップ1202で「Yes」と判断された場合には、サンプルが初期状態であるため、テーブル参照方式DOD推定処理部12および電流積分方式DOD推定処理部14は、初期的な第1のDOD値(DOD1)、第2のDOD値(DOD2)を算出する。
【0079】
n=1の場合には、第1のDOD値(DOD1(1))は、電池端子電圧Vb(1)に基づき、(5)式で、Eb(1)=Vb(1)とすることにより算出される。また、第2のDOD値(DOD2(1))は「0」とする。n=2の場合には、第1のDOD値(DOD1(2))は、図5を参照して説明した演算により取得される。第2のDOD値(DOD2(2))は、DOD1(2)と同じ値とする。また、DOD補正値(DOD3)も、DOD1(2)と同じ値とする。また、初期的なSOC表示値(SOCD)は、不定値(**)とされる(ステップ1204)。算出されたDOD値およびSOC値は、記憶装置18のDOD値・SOC値ファイル30に格納される(ステップ1205)。その後、サンプル番号「n」がインクリメントされて(ステップ1206)、ステップ1201に戻る。
【0080】
ステップ1202で「No」と判断された場合には、補正処理部16は、ドアの開閉状態を示す情報を参照して、車両のドアが開いているか否かを判断する(ステップ1207)。ステップ1207で「No」と判断された場合には、フラグSstを「0」とする(ステップ1208)。その一方、ステップ1207で「Yes」と判断された場合には、フラグSstが「1」であるかどうかを判断する(ステップ1209)。ステップ1209で「No」と判断された場合には、補正処理部16は、図8を参照して説明した第1の補正係数算出処理を実行する(ステップ1210)。次いで、補正処理部16は、第(n−1)サンプルの第2のDOD値(DOD2(n−1))を、第(n−1)サンプルの第1のDOD値(DOD1(n−1))として(ステップ1211)、フラグSstを「1」にセットする(ステップ1212)。フラグSstを利用することで、車両のドアが開いた直後の処理で、ステップ1210〜1212が実行され、その後はドアが閉じるまでフラグSstが「1」となるため、ステップ1209で「Yes」と判断されて、ステップ1210〜1212が実行されない。つまり、車両のドアが開いた直後に、1度だけステップ1210〜1212が実行される。
【0081】
次いで、補正処理部16は、電池充放電電流の変化の絶対値|Ib(n)−Ib(n−1)|が閾値Ith以上であるか否かを判断する(ステップ1301)。ステップ1301で「No」と判断された場合には、補正処理部16は、電流急変後経過時間を示すパラメータTivをインクリメントする(ステップ1302)。その一方、ステップ1301でノーと判断された場合には、経過時間Tivが閾値Tth以上であるか否かが判断される(ステップ1303)。ステップ1303で「Yes」と判断された場合には、補正処理部16は、図10を参照して説明した第2の補正係数算出処理を実行する(ステップ1304)。その後、補正処理部16は、経過時間Tivを「0」にする(ステップ1305)。ステップ1303で「No」と判断された場合にも、経過時間Tivが「0」にされる。
【0082】
上述したように、第2の補正係数算出処理は、電池充放電電流の変化の絶対値が閾値Ithより小さい状態が、所定の時間Tthよりも継続した後に、上記絶対値が閾値Ith以上となったときに実行される。これにより、電池充放電電流が安定していた状態から急激に変化したときのみ、第2の補正係数算出処理が実行されることになる。
【0083】
次いで、テーブル参照方式DOD推定処理部12は、第n番サンプルの第1のDOD値(DOD1(n))を算出し、また、電流積分方式DOD推定処理部14は、第nサンプルの第2のDOD値(DOD2(n))を算出する(ステップ1306)。その後、SOCD=100−DOD2(n)が算出される(ステップ1307)。算出されたDOD値やSOCDは、記憶装置18のDOD値・SOC値ファイル30に格納される(ステップ1308)。その後、サンプル番号「n」がインクリメントされて(ステップ1309)、スタートに戻る。
【0084】
ステップ1307で算出され、DOD値・SOC値ファイル30に格納されたSOC値(SOCD)は、データ表示処理部22により読み出され、表示装置42の画面上に表示される。
【0085】
次に、本実施の形態にかかるSOC推定装置の適用例について説明する。図14は、本実施の形態にかかるSOC推定装置を搭載した鉄道車両の例を示すブロックダイヤグラムである。図14に示すように、鉄道車両1400には、車輪1406を駆動するための種々の装置が搭載されている。鉄道車両1400は、バッテリー1402、チョッパ制御装置等を含む電力制御装置1403、インバータ等を含むモータ駆動装置1404およびモータ1405を備える。また、鉄道車両1400の運転台付近には表示器1407やドア開閉スイッチ1408が設けられる。また、バッテリー1402のみでモータ1405を駆動しない場合には、補助的な動力源1409が設けられる。補助的な動力源には、たとえば、ディーゼル発電機が含まれる。或いは、パンタグラフ1410を介して架線から電力供給が可能であるような構成を採用しても良い。鉄道車両1400は、上記構成を備え、バッテリー1402から供給される電力によってモータ1405を回転させ、車輪1406を回転させることにより軌道上を走行することができる。鉄道車両1406は、減速時には、回生電力を回収してバッテリー1402に戻すことができる。さらに、本実施の形態においては、車両の停車時に、パンタグラフ1410を介して充電のための電力を受け入れバッテリー1402への急速充電ができるようになっている。
【0086】
SOC推定装置1401は、バッテリー1402から、バッテリー平均温度、電池端子電圧、電池充放電電流などを取得する。また、開閉スイッチ1408からドアの開閉状態を示す情報を取得する。また、SOC推定装置1401は、算出されたSOC値を表示器の画面上に表示することができる。
【0087】
本実施の形態によれば、車両の走行中には、電流積分方式による第2のDOD値をDOD値として採用し、停車中に急速充電が行われる可能性がある鉄道車両において、急速充電が開始されるのに先立ったタイミングで、テーブル参照方式による第1のDOD値をDOD値として採用することで、DOD値を補正する。その後は、当該補正されたDOD値を利用して、電流積分方式による第2のDOD値をDOD値として算出する。これにより、補正時のDOD値のトビ(DOD値の飛躍的な変化)を抑制することができる。上記急速充電が開始されるのに先立ったタイミングとして、本実施の形態においては、車両が停車してドアが開いたタイミングを採用している。
【0088】
また、本実施の形態によれば、放電が進んだ際および充電が進んだ際に、第2のDOD値が増えすぎているか、或いは、減りすぎているかを判断し、電流積分方式による演算に利用する電池容量を示すパラメータAhを調整し、電流積分方式において、元の第2のDOD値に加減算すべき値を適切化している。これにより、電池容量Ahの変化があってもその変化に追従することが可能となる。
【0089】
さらに、本実施の形態によれば、電流値変化の絶対値が閾値を超えた場合に、内部抵抗の値Rを調整して、内部抵抗の変化に追従するようにしている。
【0090】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0091】
たとえば、前記実施の形態においては、SOC推定装置を、鉄道車両に搭載しているが、これに限定されるものではなく、リチウムイオンバッテリーなどを搭載した乗用車、たとえば、ハイブリッドカーに搭載しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかるSOC推定装置の概略を示すブロックダイヤグラムである。
【図2】図2は、本実施の形態にかかるSOC推定装置のハードウェア構成を示すブロックダイヤグラムである。
【図3】図3は、リチウムイオンバッテリーを充放電する際の電流電圧波形を示すグラフである。
【図4】図4は、リチウムイオンバッテリーの等価回路モデルの例を示す図である。
【図5】図5は、テーブル参照方式DOD推定処理部における第1のDOD値(DOD1)の算出処理を説明する図である。
【図6】図6は、電流積分方式DOD推定処理部における第2のDOD値(DOD2)の算出処理を説明する図である。
【図7】図7は、電池容量の変化により第2のDOD値(DOD2)が受ける影響について説明するグラフである。
【図8】図8は、本実施の形態にかかる第1の補正係数算出処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は、電池充放電電流および端子電圧の変化を示すグラフである。
【図10】図10は、本実施の形態にかかる第2の補正係数算出処理を示すフローチャートである。
【図11】図11は、補正タイミングの違いによるDOD値の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、本実施の形態にかかる補正処理を示すフローチャートである。
【図13】図13は、本実施の形態にかかる補正処理を示すフローチャートである。
【図14】図14は、本実施の形態にかかるSOC推定装置を搭載した鉄道車両の例を示すブロックダイヤグラムである。
【図15】図15は、本実施の形態にかかる第1の補正係数算出処理を説明する図である。
【図16】図16は、テーブル参照方式によるSOC推定を説明する図である。
【符号の説明】
【0093】
12 テーブル参照方式DOD推定処理部
14 電流積分方式DOD推定処理部
16 補正処理部
18 記憶装置
20 パラメータ格納処理部
22 データ表示処理部
24 テーブル参照方式処理用パラメータファイル
26 電流積分方式処理用パラメータファイル
28 補正処理用パラメータファイル
30 DOD値・SOC値ファイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
前記第2のDOD値算出手段による第2のDOD値を、DOD値として前記記憶装置に記憶し、前記車両の走行状態を示す情報にしたがって、前記車両が停車したときに、前記第1のDOD値をDOD値として前記記憶装置に記憶する補正手段を備え、その後に、前記第2のDOD値算出手段が、DOD値として前記記憶装置に記憶された第1のDOD値を使用して、演算を再開するように構成されたことを特徴とするバッテリーの残容量推定装置。
【請求項2】
前記補正手段が、前記車両が停止し、車両のドアが開かれたことを検出したタイミングで、第1のDOD値をDOD値として前記記憶装置に記憶するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項3】
前記第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、第2のDOD値の変化幅が所定より小さい場合に、前記電池容量を小さくし、かつ、前記第2のDOD値の変化幅が所定より大きい場合に、前記電池容量を大きくするような第1の補正係数を算出する第1の補正係数算出手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項4】
前記第1の補正係数算出手段が、
(1)放電中に第2のDOD値の増加の度合いが所定よりも小さい場合に、電池容量を減少させるように第1の補正係数を変化させ、
(2)充電中に第2のDOD値の減少の度合いが所定よりも大きい場合に、電池容量を増大させるように第1の補正係数を変化させ、
(3)放電中に第2のDOD値の増加の度合いが所定よりも大きい場合に、電池容量を増大させるように第1の補正係数を変化させ、
(4)充電中に第2のDOD値の減少の度合いが所定よりも小さい場合に、電池容量を減少させるように第1の補正係数を変化させるように構成されたことを特徴とする請求項3に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項5】
内部抵抗の変化が、抵抗変化の閾値以上になった場合に、前記開放電圧算出のための内部抵抗を調整する第2の補正係数を変化させる第2の補正係数算出手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項6】
前記第2の補正係数算出手段が、端子電圧の時間変化を充放電電流の時間変化で除して得られた演算値と、推定内部抵抗とを比較して、前記演算値から前記推定内部抵抗を減算した値が、抵抗変化の閾値よりも大きい場合に、前記第2の補正係数を所定の値だけ増加させ、前記推定内部抵抗値から前記演算値を減算した値が、抵抗変化の閾値よりも大きい場合に、前記第2の補正係数を所定の値だけ減算させることを特徴とする請求項5に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項7】
前記第2の補正係数算出手段が、電流値変化の絶対値が、電流変化の閾値より大きい場合に、前記第2の補正係数を変化させることを特徴とする請求項5または6に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項8】
バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
前記第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、第2のDOD値の変化幅が所定より小さい場合に、前記電池容量を小さくし、かつ、前記第2のDOD値の変化幅が所定より大きい場合に、前記電池容量を大きくするような第1の補正係数を算出する第1の補正係数算出手段を備えたことを特徴とするバッテリーの残量推定装置。
【請求項9】
バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量Ahに基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
内部抵抗の変化が、抵抗変化の閾値以上になった場合に、前記開放電圧算出のための内部抵抗を調整するための第2の補正係数を変化させる第2の補正係数算出手段を備えたことを特徴とするバッテリーの残量推定装置。
【請求項1】
バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
前記第2のDOD値算出手段による第2のDOD値を、DOD値として前記記憶装置に記憶し、前記車両の走行状態を示す情報にしたがって、前記車両が停車したときに、前記第1のDOD値をDOD値として前記記憶装置に記憶する補正手段を備え、その後に、前記第2のDOD値算出手段が、DOD値として前記記憶装置に記憶された第1のDOD値を使用して、演算を再開するように構成されたことを特徴とするバッテリーの残容量推定装置。
【請求項2】
前記補正手段が、前記車両が停止し、車両のドアが開かれたことを検出したタイミングで、第1のDOD値をDOD値として前記記憶装置に記憶するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項3】
前記第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、第2のDOD値の変化幅が所定より小さい場合に、前記電池容量を小さくし、かつ、前記第2のDOD値の変化幅が所定より大きい場合に、前記電池容量を大きくするような第1の補正係数を算出する第1の補正係数算出手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項4】
前記第1の補正係数算出手段が、
(1)放電中に第2のDOD値の増加の度合いが所定よりも小さい場合に、電池容量を減少させるように第1の補正係数を変化させ、
(2)充電中に第2のDOD値の減少の度合いが所定よりも大きい場合に、電池容量を増大させるように第1の補正係数を変化させ、
(3)放電中に第2のDOD値の増加の度合いが所定よりも大きい場合に、電池容量を増大させるように第1の補正係数を変化させ、
(4)充電中に第2のDOD値の減少の度合いが所定よりも小さい場合に、電池容量を減少させるように第1の補正係数を変化させるように構成されたことを特徴とする請求項3に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項5】
内部抵抗の変化が、抵抗変化の閾値以上になった場合に、前記開放電圧算出のための内部抵抗を調整する第2の補正係数を変化させる第2の補正係数算出手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項6】
前記第2の補正係数算出手段が、端子電圧の時間変化を充放電電流の時間変化で除して得られた演算値と、推定内部抵抗とを比較して、前記演算値から前記推定内部抵抗を減算した値が、抵抗変化の閾値よりも大きい場合に、前記第2の補正係数を所定の値だけ増加させ、前記推定内部抵抗値から前記演算値を減算した値が、抵抗変化の閾値よりも大きい場合に、前記第2の補正係数を所定の値だけ減算させることを特徴とする請求項5に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項7】
前記第2の補正係数算出手段が、電流値変化の絶対値が、電流変化の閾値より大きい場合に、前記第2の補正係数を変化させることを特徴とする請求項5または6に記載のバッテリーの残容量推定装置。
【請求項8】
バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量に基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
前記第1のDOD値と第2のDOD値とを比較して、第2のDOD値の変化幅が所定より小さい場合に、前記電池容量を小さくし、かつ、前記第2のDOD値の変化幅が所定より大きい場合に、前記電池容量を大きくするような第1の補正係数を算出する第1の補正係数算出手段を備えたことを特徴とするバッテリーの残量推定装置。
【請求項9】
バッテリーの等価回路モデルから推定される開放電圧に基づいて、第1の放電深度の値(第1のDOD値)を算出する第1のDOD値算出手段と、
電池容量Ahに基づいて、バッテリーの充放電電流の積分値を積算することにより第2の放電深度の値(第2のDOD値)を算出する第2のDOD値算出手段と、
前記第1のDOD値算出手段による演算のためのパラメータ、第2のDOD値による演算のためのパラメータ、並びに、算出された第1のDOD値および第2のDOD値を記憶する記憶装置と、を備えた車両に搭載されるバッテリーの残容量推定装置において、
内部抵抗の変化が、抵抗変化の閾値以上になった場合に、前記開放電圧算出のための内部抵抗を調整するための第2の補正係数を変化させる第2の補正係数算出手段を備えたことを特徴とするバッテリーの残量推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【公開番号】特開2008−199723(P2008−199723A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30039(P2007−30039)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤先導的研究/エネルギー回生利用バッテリー駆動型省エネLRV車両の研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤先導的研究/エネルギー回生利用バッテリー駆動型省エネLRV車両の研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
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