説明

バッテリ固定装置およびバッテリ交換装置

【課題】 ねじ山の潰れ、焼き付きやかじり等の破損を抑制できるバッテリ固定装置およびバッテリ交換装置を提供する。
【解決手段】 バッテリ固定装置13は、小径部18aと大径部18bとからなる取り付け孔18を有する車両側被固定部16と、大径部18bよりも外形の大きなロックベース21と、ロックベース21を貫通し小径部18aを挿通可能なボルト22と、ボルト22に螺合し大径部18bを挿通可能なロックナット23と、を有するバッテリ側固定部17と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ固定装置およびバッテリ交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のバッテリ固定装置では、車体側のロケートボルトをバッテリ側の係止孔に挿入後、ボルトにナットを締め付けることで、バッテリを車両に固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3324182号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、バッテリを交換する都度、ナットをロケートボルトから外し、再び取り付ける必要があるため、ねじ山の潰れ、焼き付きやかじり等の破損が発生しやすいという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、ねじ山の潰れ、焼き付きやかじり等の破損を抑制できるバッテリ固定装置およびバッテリ交換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、小径部と大径部とからなる取り付け孔を有する車両側被固定部と、小径部よりも外形の大きなベースと、このベースを貫通し小径部を挿通可能なボルトと、このボルトに螺合し大径部を挿通可能なナットとを有するバッテリ側固定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明にあっては、ボルトからナットを取り外すことなくバッテリを交換できるため、ねじ山の潰れ、焼き付きやかじり等の破損を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のバッテリ交換装置7の概略図である。
【図2】実施例1のバッテリ固定装置13を示す縦方向一部断面図である。
【図3】実施例1の車両側被固定部16を示す平面図である。
【図4】実施例1のバッテリ側固定部17を示す縦方向一部断面図である。
【図5】実施例1のバッテリ交換装置7によるバッテリ交換手順の流れを示すフローチャートである。
【図6】ボルト22の締め込み方向へ回転させたときの回転角度に対するナットランナ14の負荷トルクの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のバッテリ固定装置およびバッテリ交換装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
【0011】
[バッテリ交換装置]
実施例1では、電動車両の下側、すなわち、車体フロアの下面側からバッテリを交換するバッテリ交換スタンドについて説明する。電動車両は、車両の下面に搭載された大容量バッテリを動力源として電動機の出力のみで走行する車両である。この電動車両では、バッテリSOCが所定量以下になると、ドライバに対し満充電されたバッテリとの交換を促す。
【0012】
図1は、実施例1のバッテリ交換装置7の概略図である。
バッテリ交換装置の概要について説明すると、車両がバッテリ交換スタンドに入り、下面を洗浄する洗浄エリアを経由して交換エリアに自動して入る。この交換エリアの縦断面概要を示すのが図1である。
【0013】
交換エリアには、交換作業を行うための車両用基台1を敷設する。この車両用基台1は、2つのストッパ2と複数の位置センサ3を備える。ストッパ2は、車両用基台1の上面1aから出没自在である。ストッパ2は、出現時には車両用基台1上に停車した車両4の前輪5を前方から固定する。位置センサ3は、車両4の正確な位置および傾きを検出する。コントローラ6は、位置センサ3により車両4が車両用基台1に進入したことを確認すると、ストッパ2を出現させて前輪5を係止する。
【0014】
車両用基台1において、車両4の車体フロア4aと対向する位置には、開閉部1bを設けた。コントローラ6は、位置センサ3により車両4が適正位置に停止したことを確認すると開閉部1bを開口させる。これにより、地下から昇降するバッテリ交換装置7が車体フロア4aに対してアクセス可能となる。
【0015】
バッテリ交換装置7は、昇降アクチュエータ8と、バッテリ固定用治具9とを備える。昇降アクチュエータ8は、バッテリBATを昇降させる。この昇降アクチュエータ8は、昇降アクチュエータ8の高さ(=バッテリBATの高さ)を検出する高さセンサ8aを備える。コントローラ6は、高さセンサ8aにより検出された実際の高さに応じて、昇降アクチュエータ8の高さをフィードバック制御する。バッテリ固定用治具9は、バッテリBATを昇降する際、コントローラ6からの指令に応じてバッテリBATの固定および固定解除を行う。
【0016】
ここで、バッテリBATは、車体フロア4aの下方位置に複数のバッテリ固定装置13(図2参照)を用いて取り付ける。このバッテリ固定装置13は、昇降アクチュエータ8と共に昇降するナットランナ(自動ねじ締め機)14(図2参照)によって自動的にロック状態とアンロック(ロック解除)状態とを切り替える。バッテリ固定装置13がロック状態のとき、バッテリBATは車両4から取り外し可能となる。バッテリ固定装置13がアンロック状態のとき、バッテリBATは車両4に固定される。なお、バッテリ固定装置13の詳細については後述する。
ナットランナ14は、コントローラ6からの指令に応じて駆動する。なお、バッテリ交換装置7に設けることができる。
【0017】
また、昇降アクチュエータ8には、バッテリBATと車両4の電源ライン(不図示)の接続、切り離しを行う図外のアクチュエータを設けている。なお、電源ラインは車両4とバッテリBATとの距離に応じて自動的に接続、切り離しされるような構造としてもよい。
【0018】
昇降アクチュエータ8は、バッテリBATとバッテリ交換設備であるバッテリ交換装置7との位置決めを行う手段として、バッテリBATに形成した複数のロケート孔10と対応する複数のロケートピン11を備える。
昇降アクチュエータ8は、昇降アクチュエータ8の傾きおよび車両4に対する位置を変更する位置調整装置12を備える。コントローラ6は、位置センサ3により検出された車両4の傾き(ロール,ピッチ)に合わせて昇降アクチュエータ8の傾きを変更することで、バッテリBATと昇降アクチュエータ8とを平行な状態とすることができる。また、位置センサ3により検出された車両4の位置に合わせて昇降アクチュエータ8の位置(車両4の前後方向位置および車幅方向位置)を変更することで、形状の異なる複数車種に対応できる。
【0019】
[バッテリ固定装置]
図2は、実施例1のバッテリ固定装置13を示す縦方向一部断面図である。
バッテリ固定装置13は、バッテリBATを車体下部のサイドメンバ15に取り付けたブラケット15aに固定するためのものである。ブラケット15aおよびバッテリ固定装置13は、例えば、バッテリBATの四隅およびバッテリBATの長さ方向中央と対応する位置にそれぞれ配置する。
【0020】
バッテリ固定装置13は、ブラケット15a側に設けた車両側被固定部16と、バッテリBAT側に設けたバッテリ側固定部17とを備える。
車両側被固定部16は、取り付け孔18と第1ストッパ19と第2ストッパ20とを有する。取り付け孔18は、ブラケット15aに形成した開口であり、図3にも示すように、略円形の小径部18aと略方形の大径部18bとからなる。大径部18bの長辺は、小径部18aの直径よりも長く設定し、バッテリ側固定部17のロックナット23を挿通可能とする。図3のOは、小径部18aと大径部18bの中心である。取り付け孔18の縁部には、ブラケット15aよりも肉厚の補強部18cを設けて補強する。この補強部18cには、バッテリ側固定部17のロックナット23(図4参照)が着座するナット着座面18dを設定する。
【0021】
第1ストッパ19と第2ストッパ20は、取り付け孔18の縁部に互いに対向して配置する。第1ストッパ19は、大径部18bからブラケット15a内に進入したロックナット23が締め込み方向(図3の矢印方向)へ90度回転したとき、ロックナット23と当接し、ロックナット23の同方向への回転を規制する。一方、第2ストッパ20は、大径部18bからブラケット15a内に進入したロックナット23の反締め込み方向(図3の矢印と反対方向)への回転を規制する。
【0022】
図4は、実施例1のバッテリ側固定部17を示す縦方向一部断面図である。
バッテリ側固定部17は、ロックベース21と、ボルト22と、ロックナット23と、コイルスプリング(付勢手段)24とを有する。
ロックベース21は、取り付け孔18の大径部18bよりも外形の大きな平面略円形状に形成し、その中心には、ボルト22が貫通するボルト孔21aを有する。このボルト孔21aは、小径部21bと大径部21cとからなる。小径部21bと大径部21cとの間には、ボルト22のボルトヘッド22aが着座するボルト着座面21dを設定する。
【0023】
ボルト22は、ナットランナ14で締め込み可能な、例えば、六角ボルトである。このボルト22は、ボルトヘッド22aをロックベース21側、ねじ部22bをロックナット23側に向けた状態でロックベース21のボルト孔21aを貫通する。ボルトヘッド22aは、ボルト孔21aの小径部21bよりも小径であるため、ボルト孔21aのボルト着座面21dと当接する拡径部22cを形成し、ロックベース21からの抜けを防止する。また、ボルトヘッド22aには、コイルスプリング24と当接するスプリング当接面(着座面)22dを形成する。
ねじ部22bの先端には、ロックナット23の脱落を防止するストッパ22eを設定する。
【0024】
ロックナット23は、ボルト22のねじ部22bと螺合し、ボルト22に対してロックベース21とストッパ22eとの間を相対移動可能である。ロックナット23は、図3にも示すように、取り付け孔18の小径部18aの外径よりも大きく、大径部18bの外形よりも小さな平面形状を有する略直方体とする。
【0025】
コイルスプリング24は、ボルトヘッド22aのスプリング当接面22dとロックナット23との間に介在する。コイルスプリング24には、所定のセット荷重を付与し、ロックナット23をボルト22から離れる方向(ストッパ22eの方向)へ付勢する。
【0026】
[バッテリ交換手順および処理]
図5は、実施例1のバッテリ交換装置7によるバッテリ交換手順の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
ステップS1では、ドライバが車両4を車両用基台1に進入させる。
ステップS2では、位置センサ3により車両4が車両用基台1上の適正位置まで進入したか否かを判定し、車両が適正位置まで進入した場合、ストッパ2を出現させ、前輪5を係止する。
【0027】
ステップS3では、音声等によりドライバにイグニッションオフを要求する。
ステップS4では、開閉部1bを開口させてバッテリ交換装置7を上昇させ、各ロケートピン11と各ロケート孔10とを嵌合させ、設備と車両との位置決めを行う。
ステップS5では、ナットランナ14によりバッテリ側固定部17のボルト22を反締め込み方向に回転させることにより、バッテリ固定装置13をアンロック状態とする。
【0028】
ステップS6では、バッテリ固定用治具9により使用済みバッテリを固定すると共に、電源ラインを外し、昇降アクチュエータ8を下降させる。
ステップS7では、使用済みバッテリを取り外した後、満充電バッテリを搭載してバッテリ固定用治具9により固定すると共に、昇降アクチュエータ8を上昇させて電源ラインを接続する。ここで、満充電バッテリの昇降アクチュエータ8への搭載は、図外のベルトコンベア等により行う。
【0029】
ステップS8では、ナットランナ14によりバッテリ側固定部17のボルト22を締め込み方向に回転させることにより、バッテリ固定装置13をロック状態とする。このとき、コントローラ6では、ボルト22の回転角度と駆動電流等から得られるボルト締め込み時の負荷トルクとの関係が、図6のような特性を示すか否かに基づいて、バッテリ固定装置13のロック状態、すなわち、ロックナット23がアンロック状態から90度回転して第1ストッパ19に当接しているか否かを確認する(ナット位置検出手段に相当)。
【0030】
図6は、ボルト22の締め込み方向へ回転させたときの回転角度に対するナットランナ14の負荷トルクの特性図である。バッテリ固定装置13が正常に動作しているとき、負荷トルクは、ボルト22が90度回転して第1ストッパ19に当接するまではほぼ一定の値を示し、回転角度が90度となったときコイルスプリング24の作用により増加方向へ変動する。さらにボルト22を回転させると、ロックナット23が補強部18cに着座するまでは緩やかに増加し、ロックナット23の着座後は急激に上昇するという特性となる。
【0031】
コントローラ6は、ボルト22の回転に対する負荷トルクの変化特性が図6の特性から外れた場合、バッテリ固定装置13がロック状態ではないと判定し、一旦ボルト22を反締め込み方向へ回転させた後、再度締め込み方向へ回転させるようにナットランナ14を駆動する。なお、この工程を複数回繰り返してもバッテリ固定装置13がロック状態とならない場合、バッテリ固定装置13の故障と判定する。コントローラ6は、バッテリ固定装置13の故障と判定された場合、バッテリ交換を停止する。
【0032】
ステップS9では、昇降アクチュエータ8を下降させて開閉部1bを閉じると共に、ロケートピン11を下降させる。同時に、ストッパ2を埋没させる。このとき、音声等によりドライバに交換終了を通知してもよい。
【0033】
次に、実施例1のバッテリ固定装置13の作用を説明する。
[バッテリロック]
バッテリBATと車両4との位置合わせ(車両側被固定部16とバッテリ側固定部17との位置合わせ)後、昇降アクチュエータ8によりバッテリBATを上昇させ、バッテリ側固定部17のロックナット23を車両側被固定部16の取り付け孔18からブラケット15aの内部に進入させる(図3のアンロック位置)。このとき、バッテリ側固定部17のロックベース21とブラケット15aとが当接した状態となる。
【0034】
続いて、ボルト22のボルトヘッド22aにナットランナ14を装着し、ナットランナ14によりボルト22を締め込み方向へ90度回転させる。このとき、ロックナット23には、ボルト22に対してボルト22との接触部分(ねじ部分)に作用する摺動抵抗と、コイルスプリング24の反力による摺動抵抗とが作用する。このため、ロックナット23はボルト22と一体に図3のロック位置まで回転する。
【0035】
この状態からボルト22をさらに締め込むと、ロックナット23は取り付け孔18の縁部に設けた第1ストッパ19と当接して回転不能であるため、ロックナット23とボルト22とが相対回転を開始する。このとき、上記コイルスプリング24の反力は、ボルト22とロックナット23との相対回転を妨げる力として作用し、ナットランナ14の負荷トルクが急増する。
【0036】
ボルト22を締め込んでいくと、ロックナット23は徐々にボルトヘッド22a側へ移動し、ロックナット23はナット着座面18dに当接(着座)する。この状態からさらにボルト22を締め込むことで、ボルト軸力により、バッテリBATとブラケット15aとが強固に固定される。
【0037】
[バッテリアンロック]
ナットランナ14によりバッテリ固定装置13のボルト22を反締め込み方向に回転させると、ロックナット23は徐々にボルトヘッド22aから遠ざかる方向(ストッパ22eの方向)へと移動する。そして、ロックナット23と補強部18cとの摺動抵抗が小さくなったとき、ロックナット23はボルト22と一体に図3のアンロック位置まで回転し、第2ストッパ20と当接して回転を停止する。この状態で昇降アクチュエータ8を下降させることで、ロックナット23を取り付け孔18から引き抜くことができる。
【0038】
以上のように、実施例1のバッテリ固定装置13では、バッテリBATにボルト22とロックナット23とを有するバッテリ側固定部17を設け、車両4側に形成した取り付け孔18にロックナット23を進入し、ロックナット23を取り付け孔18の縁部に係止させた状態で、ボルト22を締め込むことにより、バッテリBATを車両4に固定する構造とした。
【0039】
このため、バッテリを交換する都度、ロックナット23をボルト22から外すことなくバッテリBATを交換できるため、ねじ山の潰れ等の破損を抑制でき、特に、ナットランナ14を用いてボルト22を締め込む際の焼き付きやかじり等の発生を抑制できる。また、バッテリBAT側にボルト22およびロックナット23を設けているため、ねじ山の潰れ等により故障が発生した場合も、バッテリBATの交換のみで済むため、車両側を修理する時間と手間を省くことができ、利便性に優れる。さらに、ボルト22の軸力でバッテリBATを車両4に固定する構造であるため、作業者が手動でバッテリBATのロックおよびアンロックを行うことができる。
【0040】
また、実施例1のバッテリ固定装置13では、車両側被固定部16に、ボルト22を締め込み方向に回転させているとき、ロックナット23のロック位置を超える回転を規制する第1ストッパ19と、ボルト22を反締め込み方向へ回転させているとき、ロックナット23のアンロック位置を超える回転を規制する第2ストッパ20とを設けた。
【0041】
バッテリ側固定部17のロックナット23を車両側被固定部16の取り付け孔18に進入させたとき、ロックナット23の位置は、ブラケット15aおよびロックベース21に隠れて外部からは見えない状態であるが、両ストッパ19,20を設けたことで、ボルト22を回転させる工程のみでロックナット23をロック位置またはアンロック位置へと回転させることができる。
【0042】
また、実施例1のバッテリ固定装置13では、ボルトヘッド22aとロックナット23との間にコイルスプリング24を介装し、ボルトヘッド22aにコイルスプリング24と当接するスプリング当接面22dを設定した。実施例1では、ロックナット23を取り付け孔18からブラケット15a内に進入させた後、ボルト22を90度回転させることでロックナット23をアンロック位置からロック位置まで回転させる。
【0043】
上述したように設備側からはロックナット23が見えないため、ボルト22を90度回転させたとき、ロックナット23が実際に90度回転したか否かを正確に判定できない。このため、経時変化によるボルト22とロックナット23との摩擦係数の変動、固着等により、ボルト22を90度回転させたとき、ロックナット23が90度回転していない状態も想定される。
【0044】
そこで、実施例1では、ボルトヘッド22aとロックナット23との間に所定のセット荷重を与えたコイルスプリング24を介装することで、ボルト22とロックナット23との間の摺動抵抗を増大させ、ボルト22とロックナット23との一体回転を担保している。
【0045】
また、コイルスプリング24をボルトヘッド22aとロックナット23との間に介装したことにより、ナットランナ14でボルト22を締め込む際の負荷トルクとボルト22の回転角度とに基づいて、ロックナット23がロック位置まで回転したか否かを、設備側から判断できるという利点もある。
【0046】
図6に示したように、ボルト22を90度回転させるまでの間、コイルスプリング24の反力はボルト22の回転を妨げる力としてほとんど作用しないため、負荷トルクは僅かである。ところが、ロックナット23が90度回転して第1ストッパ19と当接したとき、コイルスプリング24の反力のほとんどはボルト22の回転を妨げる力として作用するため、負荷トルクは急激に増加する。このときの負荷トルクの変動を見ることで、設備側でロックナット23がロック位置まで回転したか否かを判定できる。
【0047】
仮に、コイルスプリング24をロックベース21とロックナット23との間に介装した場合、コイルスプリング24の反力は、常にボルト22の回転を妨げる力として作用し、このときのボルト22の回転と負荷トルクとの関係は、図6の破線(適用なし)に示す特性となり、ロックナット23がロック位置まで回転したか否かを判定できない。
【0048】
これに対し、実施例1では、コイルスプリング24による負荷トルクの変動を利用して設備側でロックナット23の位置を確認できるため、バッテリBATを自動交換するバッテリ交換装置7において、ロック工程のやり直しや故障時における交換作業の中止等が可能となる。
【0049】
さらに、負荷トルクに加えてボルト22の回転角度を見ることで、ボルト22とロックナット23との間に異物が噛み込んで負荷トルクが変動した状態と、ロックナット23がロック位置まで回動したことで負荷トルクが変動した状態とを区別できる。つまり、ロックナット23の補強部18cへの着座時を除き、ボルト22の回転角度が90度以外のときに負荷トルクの変動が生じた場合には、ボルト22とロックナット23との間に異物が噛み込む等の不具合が生じていると判断でき、ロック位置との誤検出を防止できる。
【0050】
次に、効果を説明する。
実施例1のバッテリ固定装置13は、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 小径部18aと大径部18bとからなる取り付け孔18を有する車両側被固定部16と、小径部18aよりも外形の大きなロックベース21と、ロックベース21を貫通し小径部18aを挿通可能なボルト22と、ボルト22に螺合し大径部18bを挿通可能なロックナット23と、を有するバッテリ側固定部17と、を備える。
【0051】
これにより、ナットランナ14を用いてボルト22を締め込む際のねじ山の潰れ、焼き付きやかじり等の発生を抑制できる。また、ねじ山の潰れ、焼き付きやかじり等により故障が発生した場合も、バッテリBATの交換のみで済むため、車両側を修理する時間と手間を省くことができる。さらに、作業者が手動でバッテリBATのロックおよびアンロックを行うことができる。
【0052】
(2) ロックベース21を大径部18bよりも大きな外形としたため、車両4の走行時、ロックベース21により取り付け孔18を完全に塞ぐことができ、ブラケット15a内への雨水の浸入を抑制できる。
【0053】
(3) ボルト22にロックナット23と対向するスプリング当接面22dを形成し、このスプリング当接面22dとロックナット23との間にコイルスプリング24を介装したため、ボルト22とロックナット23との一体回転を担保できる。また、ロックナット23がロック位置まで回転したか否かの設備側からの検知が容易となる。
【0054】
(4) 車両側被固定部16は、取り付け孔18の縁部に配置し、取り付け孔18を挿通したロックナット23の締め込み方向への90度を超える回転を規制する第1ストッパ19と、取り付け孔18の縁部に配置し、取り付け孔18を挿通したロックナット23の反締め込み方向への回転を規制する第2ストッパ20と、を備える。これにより、ボルト22を回転させる工程のみでロックナット23を必要な位置へと回転させることができる。
【0055】
(5) 車両4の下面からバッテリBATを取り付けるバッテリ交換装置7において、バッテリBATを車両4に固定するバッテリ固定装置として、実施例1のバッテリ固定装置13を適用し、ボルト22を締め込むナットランナ14と、ナットランナ14のボルト締結負荷に基づいて、ロックナット23がロック位置まで回転したか否かを検出するナット位置検出手段(コントローラ6)と、を備える。これにより、ナットランナ14を用いてボルト22を締め込む際の焼き付きやかじり等の発生を抑制できる。また、バッテリBATのロックおよびアンロックの切り替えを自動で行うことができるため、バッテリBATを自動交換するシステムのバッテリ固定装置として好適である。
【0056】
(6) コントローラ6は、ロックナット23がロック位置まで回転したか否かをナットランナ14のボルト締結負荷とボルト22の回転角度とに基づいて検出するため、異物の噛み込み等に起因する誤検出を防止できる。
【0057】
(7) コントローラ6は、ボルト22の締め込み時にロックナット23がロック位置まで回転したことを検出しない場合、一旦ボルト22を反締め込み方向へ回転させた後、再度締め込み方向へ回転させる。これにより、バッテリ交換時におけるバッテリロックの確実性を高めることができる。
【0058】
(8) バッテリ交換装置7は、バッテリ交換作業を自動化したため、作業者がバッテリBATTおよび車両4に触れることなくバッテリBATの交換作業を行うことができる。
【0059】
(他の実施例)
以上、本発明の車両のバッテリ交換装置を実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0060】
例えば、実施例では、本発明のバッテリ固定装置をバッテリ交換装置に適用した例を示したが、本発明のバッテリ固定装置は、作業者が手動でバッテリを車両に固定することも可能である。
実施例では、電動車両について説明したが、バッテリを下方から交換する車両であれば、エンジンと電動モータにより駆動するハイブリッド車両にも適用できる。
【0061】
実施例1では、ナットを略直方体とし、ナットの長さ方向両端を取り付け孔の縁部に係止させる例を示したが、ナットの形状はアンロック位置で取り付け孔を挿通可能であり、ロック位置で取り付け孔の縁部に係止可能であれば、その形状は任意であり、一端のみを取り付け孔の縁部に係止させる構成としてもよい。
付勢手段はコイルスプリングに限らない。
【符号の説明】
【0062】
BAT バッテリ
4 車両
6 コントローラ(ナット位置検出手段)
7 バッテリ交換装置
13 バッテリ固定装置
14 ナットランナ
16 車両側被固定部
17 バッテリ側固定部
18 取り付け孔
18a 小径部
18b 大径部
19 第1ストッパ
20 第2ストッパ
21 ロックベース(ベース)
22 ボルト
22d スプリング当接面(着座面)
23 ロックナット
24 コイルスプリング(付勢手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小径部と大径部とからなる取り付け孔を有する車両側被固定部と、
前記小径部よりも外形の大きなベースと、このベースを貫通し前記小径部を挿通可能なボルトと、このボルトに螺合し前記大径部を挿通可能なナットと、を有するバッテリ側固定部と、
を備えることを特徴とするバッテリ固定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ固定装置において、
前記ベースを前記大径部よりも大きな外形としたことを特徴とするバッテリ固定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバッテリ固定装置において、
前記ボルトに前記ナットと対向する座面を形成し、この座面と前記ナットとの間に前記ボルトと前記ナットとを離間する方向に付勢する付勢手段を介装したことを特徴とするバッテリ固定装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のバッテリ固定装置において、
前記車両側被固定部は、
前記取り付け孔の縁部に配置し、前記取り付け孔を挿通した前記ナットの締め込み方向への所定角度以上の回転を規制する第1ストッパと、
前記取り付け孔の縁部に配置し、前記取り付け孔を挿通した前記ナットの反締め込み方向への回転を規制する第2ストッパと、
を備えることを特徴とするバッテリ固定装置。
【請求項5】
車両の下面からバッテリを取り付けるバッテリ交換装置において、
前記バッテリを車体に固定するバッテリ固定装置として、請求項4に記載のバッテリ固定装置を適用し、
前記ボルトを締め込むナットランナと、
前記ナットランナのボルト締結負荷に基づいて、前記ナットと前記第1ストッパとの当接を検出するナット位置検出手段と、
を備えることを特徴とするバッテリ交換装置。
【請求項6】
請求項5に記載のバッテリ交換装置において、
前記ナット位置検出手段は、前記ボルト締結負荷と前記ボルトの回転角度とに基づいて前記ナットと前記第1ストッパとの当接を検出することを特徴とするバッテリ交換装置。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載のバッテリ交換装置において、
ボルトの締め込み時に前記ナット位置検出手段が前記ナットと前記ストッパとの当接を検出しない場合、一旦ボルトを反締め込み方向へ回転させた後、再度締め込み方向へ回転させるように前記ナットランナを駆動することを特徴とするバッテリ交換装置。
【請求項8】
請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載のバッテリ交換装置において、
バッテリ交換作業を自動化したことを特徴とするバッテリ交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−184621(P2010−184621A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30584(P2009−30584)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】