説明

バリア膜とドレイン電極膜およびソース電極膜が高い密着強度を有する薄膜トランジスター

【課題】バリア膜とドレイン電極膜およびソース電極膜が高い密着強度を有する薄膜トランジスターを提供する。
【解決手段】上記酸化ケイ素膜のバリア膜と、上記純銅膜のドレイン電極膜およびソース電極膜の間に、水素プラズマ処理後の厚さ方向断面組織が、(a)上記純銅膜のドレイン電極膜およびソース電極膜側に形成された純銅化帯域と、(b)上記酸化ケイ素膜のバリア膜との界面部に形成され、構成成分がCuとCaと酸素とSiからなる成分凝集帯域、の2帯域で構成され、上記成分凝集帯域の厚さ方向に形成されたCaおよび酸素の含有ピークの最高含有量が、それぞれCa:5〜20原子%、酸素:30〜50原子%、であり、かつ、10〜100nmの目標膜厚を有する密着強化膜を介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種ディスプレイに使用される薄膜トランジスターに係り、特にバリア膜とドレイン電極膜およびソース電極膜が高い密着強度を有する薄膜トランジスターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリックス方式で駆動する薄膜トランジスターを用いたフラットパネルディスプレイとして、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイなどが知られている。これら薄膜トランジスターを用いたフラットパネルディスプレイにはガラス基板表面に格子状に金属膜からなる配線が密着形成されており、この金属膜からなる格子状配線の交差点に薄膜トランジスターが設けられている。
この薄膜トランジスターは、図3に縦断面模式図で示される通り、ガラス基板の表面に、順次積層形成された、純銅膜のゲート電極膜、窒化珪素膜、Si半導体膜、酸化ケイ素膜のバリア膜、および分離溝で仕切られた純銅膜のドレイン電極膜とソース電極膜(図3では「電極膜」で示す)で構成されていることも良く知られるところである。
かかる積層膜構造を有する薄膜トランジスターの製造に際しては、ドレイン電極膜とソース電極膜を仕切る分離溝が、湿式エッチングおよびプラズマエッチングにより形成されるが、前記分離溝底面に露出したSi半導体膜の表面は、極めて不安定な状態、すなわち未結合手(ダングリングボンド)が増大し、これが表面欠陥となり、この表面欠陥が薄膜トランジスターのオフ電流を増加させ、その結果、LCDのコントラストの低減や視野角を小さくするなどの問題点の発生が避けられない不安定な状態になっているので、これに、ガス:100%水素ガス、水素ガス流量:10〜1000SCCM、水素ガス圧:10〜500Pa、RF電流密度:0.005〜0.5W/cm2、処理時間:1〜60分の条件で水素プラズマ処理を施して、Si半導体膜表面の未結合手(ダングリングボンド)を水素原子と結合させて安定化する処理が施されることも知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−349637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、近年の各種フラットパネルディスプレイの大画面化および高集積化はめざましく、これに伴い、薄膜トランジスターを構成する積層膜相互間には一段と高い密着強度が要求される傾向にあるが、上記の従来薄膜トランジスターにおいては、ガラス基板と純銅膜のゲート電極膜間、前記ゲート電極膜と窒化珪素膜間、前記窒化珪素膜とSi半導体膜間、および前記Si半導体膜と酸化ケイ素膜のバリア膜間には上記の要求に十分満足に対応できる高い密着強度が確保されているが、前記酸化ケイ素膜のバリア膜と分離溝で仕切られた純銅膜のドレイン電極膜およびソース電極膜間の密着強度は相対的に低く、上記の要求に満足に対応できる高い密着強度を具備していないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者等は、上述の観点から、上記の従来薄膜トランジスターにおける酸化ケイ素膜のバリア膜と、分離溝で仕切られた純銅膜のドレイン電極膜およびソース電極膜(以下、単に電極膜という)間に高い密着強度を確保すべく研究を行った結果、
(1)上記の従来薄膜トランジスターの製造に際して、図1に縦断面模式図で示される通り、酸化ケイ素膜のバリア膜と純銅膜の電極膜の間に、Cu−Ca合金ターゲットを用い、スパッタ雰囲気を酸素ガス配合のAr+酸素ガス雰囲気として、スパッタを行い、構成成分がCu−Ca−酸素からなるCu合金膜を形成しておくと、このCu合金膜においては、上記の分離溝形成後に施される水素プラズマ処理中に、合金成分として含有するCaが同じく含有する酸素と共に前記酸化ケイ素膜のバリア膜との界面部に拡散移動して、水素プラズマ処理後の前記Cu合金膜は、
(a)純銅膜の電極側に形成された純銅化帯域、
(b)酸化ケイ素膜のバリア膜との界面部に形成され、構成成分がCuと酸素とCaとSiからなる成分凝集帯域、
以上(a)および(b)の2帯域で構成された密着強化膜となること。
【0005】
(2)この結果形成された密着強化膜の厚さ方向縦断面の走査型オージェ電子分光分析装置による測定結果によると、図2に測定結果が例示される通り、
(a)電極膜側には純銅化帯域が形成され、
(b)一方、バリア膜側には、それぞれ酸素とCaの含有ピークが存在する成分凝集帯域が形成される、
ことが明らかであること。
なお、上記の走査型オージェ電子分光分析装置による測定では、膜厚が薄い酸化ケイ素膜(バリア膜)の存在を確認することができないが、透過型電子顕微鏡による組織観察で、その存在を明確に確認することができる。
【0006】
(3)また、試験結果によると、上記成分凝集帯域における上記酸素含有ピークの最高含有量が30〜50原子%を示す場合に、上記バリア膜との間にフラットパネルディスプレイの大画面化および高集積化に十分満足に対応できるきわめて高い密着強度が得られ、さらに上記Ca含有ピークの最高含有量が5〜20原子%を示す場合に、Caによる酸素の前記バリア膜側への拡散移動が十分に行われて、前記最高含有量が30〜50原子%の酸素含有ピークの形成が可能となり、さらに、純銅化帯域と隣接する電極膜とは界面が高純度(99.9原子%以上の純度)の純銅同士となるので、これら両者間にはきわめて高い密着強度が確保されると共に、前記純銅膜の電極膜は99.9原子%以上の高純度を保持することから、前記電極膜に電気的特性の低下は見られないこと。
【0007】
(4)上記(2)および(3)に示す条件を満足する密着強化膜の形成は、上記(1)のCu合金膜の形成条件を、ターゲットとして、Ca:0.1〜12原子%を含有し、残りがCuと不可避不純物からなるCu−Ca合金ターゲットを用い、スパッタ雰囲気をArにArとの合量に占める割合で1〜20容量%の酸素を配合してなるAr+酸素ガス雰囲気として、スパッタを行い、酸素:1〜20原子%、Ca:0.1〜10原子%を含有し、残りがCuと不可避不純物からなる組成を有するCu合金膜を10〜100nmの目標膜厚で形成することにより可能となること。
以上(1)〜(4)に示される研究結果を得たのである。
【0008】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、ガラス基板の表面に、順次積層形成された、純銅膜のゲート電極膜、窒化珪素膜、Si半導体膜、酸化ケイ素膜のバリア膜、および純銅膜の電極膜で構成された薄膜トランジスターにおいて、
上記酸化ケイ素膜のバリア膜と、上記純銅膜の電極膜の間に、水素プラズマ処理後の厚さ方向断面組織が、走査型オージェ電子分光分析装置による測定で、
(a)上記純銅膜の電極膜側に形成された純銅化帯域と、
(b)上記酸化ケイ素膜のバリア膜との界面部に形成され、構成成分がCuとCaと酸素とSiからなる成分凝集帯域、
以上(a)および(b)の2帯域で構成され、上記成分凝集帯域の厚さ方向に形成されたCaおよび酸素の含有ピークの最高含有量が、それぞれ、
Ca:5〜20原子%、
酸素:30〜50原子%、
であり、かつ、10〜100nmの目標膜厚を有する密着強化膜を介在させてなる、バリア膜と電極膜が高い密着強度を有する薄膜トランジスター、に特徴を有するものである。
【0009】
つぎに、この発明の薄膜トランジスターを構成する密着強化膜を上記の通り条件限定した理由を説明する。
(1)成分凝集帯域の酸素含有ピークの最高含有量
その最高含有量が30原子%未満では隣接する酸化ケイ素膜(バリア膜)との間にフラットパネルディスプレイの大画面化および高集積化に十分満足に対応できる強固な密着強度を確保することができず、一方、その最高含有量が50原子%を越えると成分凝集帯域の強度に低下傾向が現れ、これが剥離の原因ともなることから、その最高含有量を30〜50原子%と定めた。
【0010】
(2)成分凝集帯域のCa含有ピークの最高含有量
その最高含有量が5原子%未満では、水素プラズマ処理時の酸素のバリア膜側への拡散移動が十分に行われず、この結果最高含有量が30〜50原子%の酸素含有ピーク形成することが困難になり、一方その最高含有量が20原子%を越えると、成分凝集帯域の強度に低下傾向が現れるようになることから、その最高含有量を5〜20原子%と定めた。
【0011】
(4)密着強化膜の目標膜厚
その目標膜厚が、10nm未満では上記酸化ケイ素膜のバリア膜と純銅膜の電極膜との間に強固な密着強度を確保することができず、一方、その目標膜厚が、100nmを超えても両者間の密着強度により一層の向上効果は得られないことから、経済性を考慮して、その目標膜厚を10〜100nmと定めた。
【発明の効果】
【0012】
この発明の薄膜トランジスターは、酸化ケイ素膜のバリア膜と純銅膜の電極膜との間に、上記の構成の密着強化膜を介在させることにより、これら両者の密着強度が飛躍的に向上し、この結果構成積層膜相互間はそれぞれ強固な密着強度で接合されるようになることから、フラットパネルディスプレイの大画面化および高集積化に要求されるきわめて高い膜間密着性を全体に亘って具備するようになるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、この発明の薄膜トランジスターについて、酸化ケイ素膜のバリア膜と純銅膜の電極膜間の密着強度に関し、実施例により具体的に説明する。
表面に、従来の膜形成条件にしたがって、表面側から膜厚:300nmの純銅膜(ゲート電極膜)、同300nmの窒化珪素膜、同150nmのSi半導体膜、および同10nmの酸化ケイ素膜(バリア膜)を順次積層形成した、縦:320 mm×横:400mm×厚さ:0.7mmの寸法をもったコーニング社製1737のガラス基板を用意し、これをスッパタ装置に装入し、ターゲットとして、いずれも溶解調製した表1に示されるCa含有量のCu−Ca合金(Ca以外はCuと不可避不純物)を用い、スパッタ雰囲気を、ArにArとの合量に占める割合で、それぞれ同じく表1に示される割合の酸素を配合してなるAr+酸素雰囲気として、スパッタを行い、同じく表1にそれぞれ示される組成(いずれも走査型オージェ電子分光分析装置を用いて測定)のCu合金膜を同じく表1に示される目標膜厚で前記酸化ケイ素膜(バリア膜)に重ねて形成し、さらに、前記の種々のCu合金膜に重ねて、純度:99.9原子%の純銅膜(電極膜)を250nmの膜厚で形成し、引き続いて、従来行われている水素プラズマ処理と同じ条件、すなわち、ガス:100%水素ガス、水素ガス流量:500SCCM、水素ガス圧:100Pa、処理温度:300℃、RF電力流密度:0.1W/cm2、処理時間:2分、の条件で水素プラズマ処理を施して、前記Cu合金膜を密着強化膜とすることにより本発明薄膜トランジスター試料1〜10をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、密着強化膜(Cu合金膜)の形成を行なわない以外は同一の条件で従来薄膜トランジスター試料を製造した。
【0014】
この結果得られた本発明薄膜トランジスター試料1〜10について、厚さ方向断面を走査型オージェ電子分光分析装置を用い、試料傾斜回転方式(Zalar回転方式)にて測定し、表面部の純銅膜(電極膜)における膜厚方向の純度変化を観察し、さらに密着強化膜の成分凝集帯域における酸素含有ピークおよびCa含有ピークの最高含有量を測定し、この測定結果を同じく表1に示した。
図2は本発明薄膜トランジスター試料4の走査型オージェ電子分光分析装置による測定結果を示すものであり、この分析装置では膜厚の薄い(10nm)酸化ケイ素膜(バリア膜)の存在は確認できないが、透過型電子顕微鏡による組織観察では、密着強化膜(成分凝集帯域)とSi半導体膜の間に酸化ケイ素膜(バリア膜)が存在することが確認された。
また、図2に示される通り、上記試料4の表面部の純銅膜(電極膜)は、厚さ方向に沿って99.9原子%以上の純度を示しているが、これ以外のいずれの試料でも前記試料4と同じく純銅膜(電極膜)は99.9原子%以上の純度を有することを示した。
【0015】
さらに、上記の本発明薄膜トランジスター試料1〜10および従来薄膜トランジスター試料の酸化ケイ素膜(バリア膜)と純銅膜(電極膜)間の密着強度を確認する目的で以下の条件で碁盤目付着試験を行った。
すなわち、碁盤目付着試験は、JIS−K5400に準じ、上記試料の表面にそれぞれ0.5mm、1mm、1.5mm、および2mmの間隔で縦横にそれぞれ11本の溝を表面から酸化ケイ素膜に達する深さで、かつ0.1mmの溝幅で切り込みをカッターで入れて、100個の升目を形成し、この升目全体に亘って3M社製スコッチテープを密着して貼り付け、ついで一気に引き剥がし、試料表面の100個の升目のうちの剥離した升目の数(個/100)を測定した。この測定結果を表2に示した。
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
表1,2に示される結果から、本発明薄膜トランジスター試料1〜10は、酸化ケイ素膜(バリア膜)と純銅膜(電極膜)間に介在させた密着強化膜によって、前記密着強化層の形成がない従来薄膜トランジスター試料に比して、これら両者間にはきわめて高い密着強度が確保され、この結果構成膜相互間の密着性は全体的にすぐれたものとなることが明らかである。
上述のように、この発明の薄膜トランジスターは、フラットパネルディスプレイの大画面化および高集積化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の薄膜トランジスターの縦断面模式図である。
【図2】本発明薄膜トランジスター試料4の走査型オージェ電子分光分析装置による測定結果を示すグラフである。
【図3】従来の薄膜トランジスターの縦断面模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面に、順次積層形成された、純銅膜のゲート電極膜、窒化珪素膜、Si半導体膜、酸化ケイ素膜のバリア膜、および純銅膜のドレイン電極膜とソース電極膜で構成された薄膜トランジスターにおいて、
上記酸化ケイ素膜のバリア膜と、上記純銅膜のドレイン電極膜およびソース電極膜の間に、水素プラズマ処理後の厚さ方向断面組織が、走査型オージェ電子分光分析装置による測定で、
(a)上記純銅膜のドレイン電極膜およびソース電極膜側に形成された純銅化帯域と、
(b)上記酸化ケイ素膜のバリア膜との界面部に形成され、構成成分がCuとCaと酸素とSiからなる成分凝集帯域、
以上(a)および(b)の2帯域で構成され、上記成分凝集帯域の厚さ方向に形成されたCaおよび酸素の含有ピークの最高含有量が、それぞれ、
Ca:5〜20原子%、
酸素:30〜50原子%、
であり、かつ、10〜100nmの目標膜厚を有する密着強化膜を介在させたことを特徴とする、バリア膜とドレイン電極膜およびソース電極膜が高い密着強度を有する薄膜トランジスター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−103324(P2010−103324A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273728(P2008−273728)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】