パターン形成方法およびパターン形成体
【課題】 HSQ膜上の微細パターンが高温度でも維持されるようにするパターン形成方法、および高温度でも維持されるように微細パターンが形成されたパターン形成体を提供する。
【解決手段】 まず基板1上のHSQ膜2に、モールド8を押し当てるナノインプリント法によって微細パターン2aの付与を行う。モールド8を剥離したのち、HSQ膜2の加熱過程をはさむことなく、微細パターン2a(HSQ膜2)の表面に酸素照射を行う。
【解決手段】 まず基板1上のHSQ膜2に、モールド8を押し当てるナノインプリント法によって微細パターン2aの付与を行う。モールド8を剥離したのち、HSQ膜2の加熱過程をはさむことなく、微細パターン2a(HSQ膜2)の表面に酸素照射を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、高温度で使用しても形状が維持されるようにHSQ膜に微細パターン(凹凸の寸法がnmまたはμmレベルのパターン)を形成する方法、およびそうして微細パターンを形成されたHSQのパターン形成体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HSQ(水素シルセスキオキサンポリマー)はゾル・ゲル系の無機高分子材料であり、熱サイクルやUV照射を必要としない高精度・高スループットの室温ナノインプリントを可能にする有意義な転写材料である。HSiO3/2の繰り返し構造からからなっていてSiO2と同等の高いドライエッチング耐性を有するため、転写された微細パターンをドライエッチング用のマスクとしても使用できる。透明度が高い点でも種々の利点をもたらす。
【0003】
HSQ膜を用いる室温ナノインプリントのプロセスを図12(1)〜(5)に示す。すなわち、(1)基板1上に、転写材料であるHSQをスピン塗布することによりHSQ膜2を成膜する。(2)つぎに、電子線リソグラフィー等によって表面(図の下面)に微細パターンを形成したモールド8を、HSQ膜2に対し、熱をかけることなく室温で押し当てて適切な圧力を保持する。(3)モールド8を基板1およびHSQ膜2から剥離したうえ、(4)・(5)基板1上の残渣(残膜)2x等をエッチングによって除去する。
【0004】
HSQの化学構造とスペクトルの測定結果(FTIR)を図13に示す。FTIR測定結果によれば、主なスペクトルは、2260cm-1:Si-H stretching, 1130-1180cm-1:Si-O、その中でも1130cm-1:Si-O stretching of cage structure, 1080cm-1:Si-O stretching of network structure、そして860-830cm-1:O-Si-H である。FTIR結果から、HSQはビニル基のような有機基を含まないポリシロキサンであることが分かる。500℃に加熱すると、Si-Hが減少し、Si-Oが増加する。さらに1000℃に加熱すると、Si-HがほとんどなくなってSi-Oのみとなり、HSQがSiO2になることが分かる。
【0005】
HSQ膜を用いる室温ナノインプリントについては、下記の特許文献1および非特許文献1などに記載がある。
【特許文献1】特開2003−100609号公報
【非特許文献1】S. Matsui, Y. Igakuら“J. Vac. Sci. Technol., B19, 2801 (2001)”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HSQ膜に形成した微細パターンには、一定温度以上に加熱されると形が崩れやすいという課題がある。図14(a)〜(d)はそのことを示す断面SEM画像であり、モールドを押し付けて剥離することにより線幅が約200nmの微細パターンを形成したのち、各設定温度に加熱した場合の当該パターンを撮影したものである。図14(c)のように200℃に加熱すると形状の維持が困難になり、それ以上の温度ではパターンは消失してしまった。温度上昇にともない表面の硬度は増加していることと、図13の測定結果とから推測すると、加熱にともない、Si-Oのcage structureが開いてladder structureとなり、ladder structureがネットワーク構造を形成するとともに、Si-Hが減少することにより、HSQがSiO2化して硬化したものと考えられる。
【0007】
形成された微細パターンが一定温度以上で維持されないとすると、そのようなパターン形成体について用途が大幅に限定される。たとえば、軟X線分光法に使用される回折格子であるSiO2ラメラー格子は、真空中でのX線照射による高熱に対して耐性を有する必要があるが、上記のようにHSQ膜にて形成した場合には、そのような耐性がなく、ラメラー格子として使用できないことになる。
【0008】
請求項に係る発明は、HSQ膜に形成された微細パターンが高温度でも維持されるようにするパターン形成方法、および高温度でも維持されるように微細パターンが形成されたパターン形成体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、発明者らは、HSQ膜に微細パターンを付与したのち、当該膜の表面(微細パターンを有する表面)に酸素照射(酸素イオンまたは酸素プラズマの照射)を行うこととした。
そうすることにより、HSQ膜の微細パターンは、200℃以上に加熱されても形状が維持されるようになる(図3を参照)。HSQ膜の表面に酸素照射を行うと、当該膜の表面のごく薄い範囲(深さ2〜3nm程度と推測される)でSiO2化(またはSiO2と似た組成への変化。以下同様)が生じ、それによって硬度が増す結果、その後のパターンの維持が可能になるものと考えられる。HSQ膜の表面でSiO2化が生じると考えるのは、後述(図4、表1および図5を参照)のように、酸素照射後には、Siに対するOの割合が増加し、また水滴の接触角がSiO2の表面におけるものと同等になるからである。SiO2化の際には前述のように形状が崩れがちであるが、酸素照射による場合には表面のごく薄い範囲でのSiO2化にとどまるため、形状に対する影響はほとんどない。
【0010】
上記のパターン形成方法は、たとえば、HSQ膜にモールド(表面に微細パターンを形成した型)を押し当てることにより(つまり、ナノインプリントと呼ばれる方法によって)微細パターンの付与を行い、当該モールドを剥離(HSQ膜から分離)したのち、HSQ膜の加熱過程をはさむことなくその表面に酸素照射を行うことによって行うとよい。たとえば図1の手順にしたがうのである。
モールドを用いれば、HSQ膜への微細パターンの付与を高精度に、かつ効率的に行うことができる。また、モールドを剥離したのち加熱過程をはさむことなく酸素照射を行うと、高精度に付与された微細パターンがそのまま高温でも維持される状態になる。そのため、このようにする方法は、正確なパターンをもつパターン形成体であって高温での使用可能性があるもの(たとえば前述のラメラー格子)を作製するのに適している。
【0011】
その一方、HSQ膜にモールドを押し当てることにより微細パターンの付与を行い、当該モールドを剥離したのち、HSQ膜を加熱することにより表面の一部をリフローさせ、そうした表面に酸素照射を行うのもよい。たとえば図9の手順によるのである。
モールドを用いて微細パターンを高精度に形成したうえ、そのHSQ膜を加熱して表面の一部をリフローさせると、図9(4)および図10のように球面等の凸型曲面を含むパターンを容易に形成することができる。そのようなパターンを有する形成体は、液晶プロジェクターや光通信コネクタなど光応用の分野で広く利用されるマイクロレンズアレイなどとして使用できるものとなる。
【0012】
上記のHSQ膜は、基板上にスピンコートして設けるのもよいが、下記のように液滴の塗布をしてただちにモールドを押し当てる方法で設けるのもよい。すなわち、たとえば図7(1)〜(4)のように(または図9中の(1)〜(3)のように)、基板上にHSQの液を滴下することによりHSQ膜を成膜したうえ、当該液中の溶媒が蒸発する前(したがってHSQ膜の表面が硬化する前)に当該膜にモールドを押し当て、溶媒を蒸発させたのち(したがってHSQ膜の表面が硬化したのち)に当該モールドを分離することによって、HSQ膜への微細パターンの付与を行う。その後、HSQ膜の加熱過程をはさみ、またははさまずに、当該膜の表面に酸素照射を行うのである。
このような方法をとれば、HSQ膜の硬度が増す前にモールドを押し当てるために、a)モールドの押し当てに必要な圧力(転写圧力)が低くなる、b)HSQ膜への転写深さがモールドの線幅によらず均一になるなど微細パターンがHSQ膜に忠実に転写される、c)転写後の基板上のHSQ残渣(残膜)が薄くなって除去されやすくなる----といった利点がもたらされる。それにより、種々の光学部品における微細なパターニングをより高精度かつ高スループットに行うことが可能になる。
【0013】
上記のパターン形成方法において、酸素照射に代えて、電子ビーム照射またはアルゴンイオン照射を行うこととするのもよい。
酸素照射ではなく電子ビーム照射またはアルゴンイオン照射を行うことによっても、HSQ膜における微細パターンが高温度において維持されるようになる。発明者らの測定によれば、電子ビーム照射を行った場合にも、HSQ膜においてSiに対するOの割合が増加し、また水滴の接触角がSiO2の表面におけるものに近づいた(表3を参照)。その点から、酸素照射の場合と同様に、HSQ膜の表面の薄い範囲でSiO2化が生じて硬度が増す結果、微細パターンの維持が可能になるものと考えられる。
【0014】
表面に微細パターンを有するパターン形成体は、上記いずれかのパターン形成方法によって形成されたものであるのが好ましい。
そのようなパターン形成体は、高温度(とくに200℃以上)の環境においても使用することができ、熱ナノインプリント用モールド、高温ドライエッチング用マスクとして使用し、もしくはさらに、高耐熱性低膨張基板への対応可能性(線膨張率の広い選択幅)、紫外線透過性、低波長分散、透明性、高耐熱環境性、高耐薬品性などから、ブレーズド回折格子、ラメラー格子等の光学部品、または、大容量ハードディスクなどの高密度記録媒体であるパターンドメディアの磁性薄膜を加工するドライエッチングマスク等として使用するのに適している。
またとくに、HSQ膜にモールドにて微細パターンの付与を行い、そのモールドを剥離したのち、HSQ膜を加熱することにより表面の一部をリフローさせ、そうした表面に酸素照射を行うという方法(たとえば図9)で形成されたパターン形成体は、マイクロレンズアレイ(それを製造するための中間製品を含む)として使用するのに適している。
【発明の効果】
【0015】
請求項に係るパターン形成方法によれば、HSQ膜に形成された微細パターンは、200℃以上に加熱されても形状が維持されるようになる。そのため、そうして微細パターンを形成されたパターン形成体は、熱ナノインプリント用モールド、高温ドライエッチング用マスク、ラメラー格子またはパターンドメディアなど、高温度に対する耐性が求められる光学部品等として使用され得ることとなる。なお、パターン形成をさらに高精度化および高効率化することも可能であり、マイクロレンズアレイとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の実施に関する第一の形態を図1〜図6に紹介する。この形態では、図1(a)〜(e)の手順によってHSQ(たとえばDow Corning Co.の"FOX16"や、東京応化工業の"OCD T-12")の膜に微細パターンを形成する。すなわち、基板1の表面上にスピンコート(スピン塗布)等の方法によってHSQ膜2を設け(図1(a))、その上にモールド8を押し当てる(図1(b))。モールド8はその表面(図の下面)に微細な凹凸パターン8aを有するもので、たとえば、SiとSiO2とでできていてSiO2の部分に電子線リソグラフィーとドライエッチングにより凹凸パターン8aを形成したものである。押し当てたモールド8をHSQ膜2から剥離すると、いわゆる室温ナノインプリントによって、モールド8の凹凸パターン8aを転写された微細パターン2aがHSQ膜2に形成される(図1(c))。こうしてできた微細パターン2aを有するHSQ膜2に、図2に示す装置11を用いて酸素照射(O2RIEすなわち酸素イオン照射。ただし酸素プラズマ照射としてもよい)を行う(図1(d))。そのようにしたうえで、1000℃など高温度の環境下にHSQ膜2を置く(図1(e))。
【0017】
図1(d)の酸素照射を行う図2の装置11は反応イオンエッチングのためのもので、高周波電源14に接続された高周波電極と接地電極、ならびに酸素ガスの供給路および排気路等を備えている。HSQ膜2(パターン2a)が上になって接地電極に向かうよう基板1をプラズマイオンシース内で高周波電極の上に置き、HSQ膜2の表面に数十eVの酸素イオンを照射する。実験で採用した酸素照射の条件はつぎのとおりである。
電源周波数 : 13.56MHz
酸素ガス圧力 : 5Pa
照射時間 : 10sec
RFパワー : 100W
【0018】
図3(a)〜(f)は、図1の手順により形成したHSQ膜2を各設定温度に各10分間放置したときの状態を示す断面SEM画像である。パターンの線幅は約200nmである。酸素照射を施したHSQが、200℃以下の場合(図3(a)〜(c))にも、また300℃・500℃・1000℃に加熱した各場合(図3(d)〜(f))にも、パターン形状が維持されていることが確認できる。
【0019】
図4は、HSQ表面のXPSスペクトルの測定結果(X線源はMg。1253.6eVのKα線を使用)であって、10秒間酸素照射をするときの酸素圧力ごとのスペクトルを示すものである。この図4に基づいてHSQ表面のSiに対するOの割合(強度比。O1sとSi2pとのピーク高さの比)を調査した結果が下記の表1である。
【表1】
図4および表1から、照射時間が同一の場合、酸素の圧力が高いほどHSQ表面のSiに対するOの割合が増加することが分かる。なお、SiO2におけるOの割合(上記と同じ強度比)は4.87である(後述の表3を参照)。
【0020】
図5は、酸素照射をしたHSQ表面での水滴の接触角を測定したもので、図5(a)は酸素照射の際の酸素圧力との関係を示す線図、同(b)・同(c)は接触角がそれぞれ104°、25°の場合を示す水滴の側面図である。図5(a)の酸素照射についてのRFパワーは100W、照射時間は10秒である。未処理のHSQ表面の接触角が104°であるのに対し、酸素照射をしたHSQ表面の接触角は26°程度に激減し、SiO2における接触角(25°。表3を参照)に近づいた。
以上の点から、酸素照射により、HSQの表面に関してSiO2化(またはSiO2と似た組成への変化)が起きているものと考えられる。
【0021】
図6は、ラメラー格子としてHSQ膜に形成した微細パターン(線幅は約1μm)を示す断面SEM画像である。図6(a)・(b)・(c)のそれぞれは、モールドを剥離した直後、酸素照射をせずに180℃に加熱した状態、酸素照射をしたうえで1000℃に加熱した状態の各HSQを示している。酸素照射をしない場合(図6(b))には180℃でパターン形状に変化が現れているが、酸素照射を施したもの(図6(c))では1000℃でもパターン形状が維持されている。
【0022】
図7には、上記と多少異なる手順によって微細パターンを形成する形態を示している。この形態では、図7(1)〜(4)に示すナノインプリント技術によってHSQ膜に微細パターンを付与する。すなわち、基板1上のHSQ膜3を、スピンコートによってではなくHSQの液滴を塗布することによって成膜し(図7(1))、すみやかに、つまりHSQ中の溶媒(たとえばメチルイソブチルケトン(MIBK))が蒸発しないうちにHSQ膜3にモールド8を押し当てる(図7(2))。モールド8を押し当てたまま時間をおくかまたは基板1を90℃程度に加熱するかして溶媒を蒸発させる(図7(3))。その後に基板1およびHSQ膜3からモールド8を剥離して、HSQ膜3にパターン3aを得る(図7(4))。そしてその後、前述(図2等)の要領でパターン3bに対して酸素照射を行う。
【0023】
図7の方法では、HSQ膜3が軟らかいうちにモールド8を押し当てるために転写圧力を約1MPaと低くすることができたほか、モールド8が有するパターンに対して忠実な転写が実現し、また、転写後の基板上のHSQ残渣を厚さ10nm以下と薄くすることができた。このような方法は、ドライエッチングマスクやパターンドメディア、偏光板や回折格子などの光学部品作製のためのパターニング技術として好ましいと期待される。
【0024】
図8には、スピンコートして成膜したHSQにモールドを押し当てたことによる転写パターン(図8(a))と、液滴塗布して図7の手順で転写したパターン(図8(b))とを示している。図8(a)の場合、転写圧力が22MPaと高いにもかかわらず、転写深さ等においてモールド8のパターンを忠実には形成しておらず、またHSQ残渣は約200nmと厚い。これに対し、図7の手順で転写した図8(b)の場合には、上記のとおり転写圧力が低いうえ、パターンがモールドに忠実に形成されており、残渣が薄い。図8(a)・(b)のパターン形成に使用したモールド8およびその作製条件は、表2に示すとおりである。
【表2】
【0025】
図9(1)〜(4)には、さらに他の形態としての微細パターン形成プロセスを示している。このプロセスでは、まず、図7と同じナノインプリント法の手順で基板1上に微細パターン3bを形成する。すなわち、スピンコートによってではなく液滴を塗布することによって基板1上にHSQ膜3を設け(図9(1))、HSQ中の溶媒が蒸発しないうちにモールド8を押し当て(図9(2))、そのまま時間をおくか基板1を90℃程度に加熱するかして溶媒を蒸発させたのちモールド8を剥離する(図9(3))。これにより、一例として、直径・高さがともに0.5μmの不連続な円柱状突出体が多数配列されたパターン3bを形成する。
【0026】
図9のプロセスが特徴的であるのは、モールド8が剥離されたのち、パターン3bを有する基板1をベーク処理することによりパターン3bの表面付近をリフローさせる(図9(4))ことである。ベーク処理は、基板1を220℃で10分間加熱することにより行い、HSQのリフローによって、球面等の凸型曲面を有するパターン3cを形成する。
そのうえで、酸素照射を行ってパターン3cに高温耐性をもたせることとする。この例では、直径が0.5μmのレンズ状のパターン3cを得ることができた。図9(3)・(4)に対応する各パターンについてのSEM画像を図10(a)・(b)に示す。
【0027】
上に紹介した形態ではHSQに酸素照射を施したが、発明者らは、酸素照射に代えて電子ビームを照射する実験も行った。電子ビーム照射によってもHSQの表面が硬化するものと予想したからである。
【0028】
図11は、基板上のHSQに線幅約500nmの微細パターンを形成したうえその表面に50eV程度の電子ビームを照射し、そうしてできたパターン(および基板)を加熱した場合の断面SEM画像である。100℃および200℃に加熱した場合(図11(b)・(c))、加熱前のもの(図11(a))と比べてパターンの崩れは見られなかった。
【0029】
電子ビーム照射を行う前後のHSQについて、図4および図5と同様にXPSスペクトルおよび水滴接触角を測定した。その測定結果を、酸素照射(酸素イオン照射)の場合のデータおよびSiO2についてのデータと比較する形で表3にまとめた。表3によれば、電子ビーム照射の場合にもHSQ表面(深さ1μm程度か)がSiO2化するものと推測される。ただし、その程度は、酸素照射の場合に比べるとやや小さいようである。
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)〜(e)は、HSQ膜に対するパターン形成の手順を示す図である。
【図2】図1(d)の過程での酸素照射の方法および設備を示す模式図である。
【図3】図3(a)〜(f)は、図1の手順により形成したHSQ膜を、それぞれ設定温度に加熱したときの断面SEM画像である。
【図4】HSQ膜表面のXPSスペクトルの測定結果であって、酸素照射の際の酸素圧力ごとの分布を示す図である。
【図5】HSQ膜表面における水滴接触角を測定したもので、図5(a)は酸素照射の際の酸素圧力と接触角との関係を示す線図、同(b)・同(c)は接触角がそれぞれ104°、25°の場合を示す水滴の側面図である。
【図6】ラメラー格子としてHSQ膜に形成した微細パターンを示す断面SEM画像であって、図6(a)〜(c)は、モールドを剥離した直後のHSQ膜、酸素照射をせずに180℃に加熱した状態のHSQ膜、酸素照射をしたうえで1000℃に加熱した状態のHSQ膜をそれぞれ示している。
【図7】図7(1)〜(4)は、HSQ膜に対するパターン形成の手順であって図1とは異なるものを示している。
【図8】スピンコートして成膜したHSQ膜にモールドを押し当てたことによる転写パターン(図8(a))と、液滴塗布して図7の手順により転写したパターン(図8(b))とを示すSEM画像である。
【図9】図9(1)〜(4)は、HSQ膜に対するパターン形成の手順であって図1および図7と異なるものを示している。
【図10】図10(a)・(b)は、HSQをリフローさせる前および後の微細パターンの変化を示すSEM画像である。
【図11】図11(a)〜(c)は、微細パターンを付与したHSQ膜の表面に電子ビームを照射した例につき、加熱無し(図11(a))、100℃加熱(同(b))、200℃加熱(同(c))の各場合のHSQ膜の断面SEM画像である。
【図12】図12(1)〜(4)は、HSQ膜を用いる室温ナノインプリントの一般的なプロセスを示している。
【図13】HSQについてその化学構造とスペクトルの測定結果(FTIR)を示している。
【図14】図14(a)〜(d)は、HSQ膜に形成した微細パターンについて、加熱されるときの形状の変化を示す断面SEM画像である。
【符号の説明】
【0031】
1 基板
2・3 HSQ膜
2a・3a・3b 転写パターン
8 モールド
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、高温度で使用しても形状が維持されるようにHSQ膜に微細パターン(凹凸の寸法がnmまたはμmレベルのパターン)を形成する方法、およびそうして微細パターンを形成されたHSQのパターン形成体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HSQ(水素シルセスキオキサンポリマー)はゾル・ゲル系の無機高分子材料であり、熱サイクルやUV照射を必要としない高精度・高スループットの室温ナノインプリントを可能にする有意義な転写材料である。HSiO3/2の繰り返し構造からからなっていてSiO2と同等の高いドライエッチング耐性を有するため、転写された微細パターンをドライエッチング用のマスクとしても使用できる。透明度が高い点でも種々の利点をもたらす。
【0003】
HSQ膜を用いる室温ナノインプリントのプロセスを図12(1)〜(5)に示す。すなわち、(1)基板1上に、転写材料であるHSQをスピン塗布することによりHSQ膜2を成膜する。(2)つぎに、電子線リソグラフィー等によって表面(図の下面)に微細パターンを形成したモールド8を、HSQ膜2に対し、熱をかけることなく室温で押し当てて適切な圧力を保持する。(3)モールド8を基板1およびHSQ膜2から剥離したうえ、(4)・(5)基板1上の残渣(残膜)2x等をエッチングによって除去する。
【0004】
HSQの化学構造とスペクトルの測定結果(FTIR)を図13に示す。FTIR測定結果によれば、主なスペクトルは、2260cm-1:Si-H stretching, 1130-1180cm-1:Si-O、その中でも1130cm-1:Si-O stretching of cage structure, 1080cm-1:Si-O stretching of network structure、そして860-830cm-1:O-Si-H である。FTIR結果から、HSQはビニル基のような有機基を含まないポリシロキサンであることが分かる。500℃に加熱すると、Si-Hが減少し、Si-Oが増加する。さらに1000℃に加熱すると、Si-HがほとんどなくなってSi-Oのみとなり、HSQがSiO2になることが分かる。
【0005】
HSQ膜を用いる室温ナノインプリントについては、下記の特許文献1および非特許文献1などに記載がある。
【特許文献1】特開2003−100609号公報
【非特許文献1】S. Matsui, Y. Igakuら“J. Vac. Sci. Technol., B19, 2801 (2001)”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HSQ膜に形成した微細パターンには、一定温度以上に加熱されると形が崩れやすいという課題がある。図14(a)〜(d)はそのことを示す断面SEM画像であり、モールドを押し付けて剥離することにより線幅が約200nmの微細パターンを形成したのち、各設定温度に加熱した場合の当該パターンを撮影したものである。図14(c)のように200℃に加熱すると形状の維持が困難になり、それ以上の温度ではパターンは消失してしまった。温度上昇にともない表面の硬度は増加していることと、図13の測定結果とから推測すると、加熱にともない、Si-Oのcage structureが開いてladder structureとなり、ladder structureがネットワーク構造を形成するとともに、Si-Hが減少することにより、HSQがSiO2化して硬化したものと考えられる。
【0007】
形成された微細パターンが一定温度以上で維持されないとすると、そのようなパターン形成体について用途が大幅に限定される。たとえば、軟X線分光法に使用される回折格子であるSiO2ラメラー格子は、真空中でのX線照射による高熱に対して耐性を有する必要があるが、上記のようにHSQ膜にて形成した場合には、そのような耐性がなく、ラメラー格子として使用できないことになる。
【0008】
請求項に係る発明は、HSQ膜に形成された微細パターンが高温度でも維持されるようにするパターン形成方法、および高温度でも維持されるように微細パターンが形成されたパターン形成体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、発明者らは、HSQ膜に微細パターンを付与したのち、当該膜の表面(微細パターンを有する表面)に酸素照射(酸素イオンまたは酸素プラズマの照射)を行うこととした。
そうすることにより、HSQ膜の微細パターンは、200℃以上に加熱されても形状が維持されるようになる(図3を参照)。HSQ膜の表面に酸素照射を行うと、当該膜の表面のごく薄い範囲(深さ2〜3nm程度と推測される)でSiO2化(またはSiO2と似た組成への変化。以下同様)が生じ、それによって硬度が増す結果、その後のパターンの維持が可能になるものと考えられる。HSQ膜の表面でSiO2化が生じると考えるのは、後述(図4、表1および図5を参照)のように、酸素照射後には、Siに対するOの割合が増加し、また水滴の接触角がSiO2の表面におけるものと同等になるからである。SiO2化の際には前述のように形状が崩れがちであるが、酸素照射による場合には表面のごく薄い範囲でのSiO2化にとどまるため、形状に対する影響はほとんどない。
【0010】
上記のパターン形成方法は、たとえば、HSQ膜にモールド(表面に微細パターンを形成した型)を押し当てることにより(つまり、ナノインプリントと呼ばれる方法によって)微細パターンの付与を行い、当該モールドを剥離(HSQ膜から分離)したのち、HSQ膜の加熱過程をはさむことなくその表面に酸素照射を行うことによって行うとよい。たとえば図1の手順にしたがうのである。
モールドを用いれば、HSQ膜への微細パターンの付与を高精度に、かつ効率的に行うことができる。また、モールドを剥離したのち加熱過程をはさむことなく酸素照射を行うと、高精度に付与された微細パターンがそのまま高温でも維持される状態になる。そのため、このようにする方法は、正確なパターンをもつパターン形成体であって高温での使用可能性があるもの(たとえば前述のラメラー格子)を作製するのに適している。
【0011】
その一方、HSQ膜にモールドを押し当てることにより微細パターンの付与を行い、当該モールドを剥離したのち、HSQ膜を加熱することにより表面の一部をリフローさせ、そうした表面に酸素照射を行うのもよい。たとえば図9の手順によるのである。
モールドを用いて微細パターンを高精度に形成したうえ、そのHSQ膜を加熱して表面の一部をリフローさせると、図9(4)および図10のように球面等の凸型曲面を含むパターンを容易に形成することができる。そのようなパターンを有する形成体は、液晶プロジェクターや光通信コネクタなど光応用の分野で広く利用されるマイクロレンズアレイなどとして使用できるものとなる。
【0012】
上記のHSQ膜は、基板上にスピンコートして設けるのもよいが、下記のように液滴の塗布をしてただちにモールドを押し当てる方法で設けるのもよい。すなわち、たとえば図7(1)〜(4)のように(または図9中の(1)〜(3)のように)、基板上にHSQの液を滴下することによりHSQ膜を成膜したうえ、当該液中の溶媒が蒸発する前(したがってHSQ膜の表面が硬化する前)に当該膜にモールドを押し当て、溶媒を蒸発させたのち(したがってHSQ膜の表面が硬化したのち)に当該モールドを分離することによって、HSQ膜への微細パターンの付与を行う。その後、HSQ膜の加熱過程をはさみ、またははさまずに、当該膜の表面に酸素照射を行うのである。
このような方法をとれば、HSQ膜の硬度が増す前にモールドを押し当てるために、a)モールドの押し当てに必要な圧力(転写圧力)が低くなる、b)HSQ膜への転写深さがモールドの線幅によらず均一になるなど微細パターンがHSQ膜に忠実に転写される、c)転写後の基板上のHSQ残渣(残膜)が薄くなって除去されやすくなる----といった利点がもたらされる。それにより、種々の光学部品における微細なパターニングをより高精度かつ高スループットに行うことが可能になる。
【0013】
上記のパターン形成方法において、酸素照射に代えて、電子ビーム照射またはアルゴンイオン照射を行うこととするのもよい。
酸素照射ではなく電子ビーム照射またはアルゴンイオン照射を行うことによっても、HSQ膜における微細パターンが高温度において維持されるようになる。発明者らの測定によれば、電子ビーム照射を行った場合にも、HSQ膜においてSiに対するOの割合が増加し、また水滴の接触角がSiO2の表面におけるものに近づいた(表3を参照)。その点から、酸素照射の場合と同様に、HSQ膜の表面の薄い範囲でSiO2化が生じて硬度が増す結果、微細パターンの維持が可能になるものと考えられる。
【0014】
表面に微細パターンを有するパターン形成体は、上記いずれかのパターン形成方法によって形成されたものであるのが好ましい。
そのようなパターン形成体は、高温度(とくに200℃以上)の環境においても使用することができ、熱ナノインプリント用モールド、高温ドライエッチング用マスクとして使用し、もしくはさらに、高耐熱性低膨張基板への対応可能性(線膨張率の広い選択幅)、紫外線透過性、低波長分散、透明性、高耐熱環境性、高耐薬品性などから、ブレーズド回折格子、ラメラー格子等の光学部品、または、大容量ハードディスクなどの高密度記録媒体であるパターンドメディアの磁性薄膜を加工するドライエッチングマスク等として使用するのに適している。
またとくに、HSQ膜にモールドにて微細パターンの付与を行い、そのモールドを剥離したのち、HSQ膜を加熱することにより表面の一部をリフローさせ、そうした表面に酸素照射を行うという方法(たとえば図9)で形成されたパターン形成体は、マイクロレンズアレイ(それを製造するための中間製品を含む)として使用するのに適している。
【発明の効果】
【0015】
請求項に係るパターン形成方法によれば、HSQ膜に形成された微細パターンは、200℃以上に加熱されても形状が維持されるようになる。そのため、そうして微細パターンを形成されたパターン形成体は、熱ナノインプリント用モールド、高温ドライエッチング用マスク、ラメラー格子またはパターンドメディアなど、高温度に対する耐性が求められる光学部品等として使用され得ることとなる。なお、パターン形成をさらに高精度化および高効率化することも可能であり、マイクロレンズアレイとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の実施に関する第一の形態を図1〜図6に紹介する。この形態では、図1(a)〜(e)の手順によってHSQ(たとえばDow Corning Co.の"FOX16"や、東京応化工業の"OCD T-12")の膜に微細パターンを形成する。すなわち、基板1の表面上にスピンコート(スピン塗布)等の方法によってHSQ膜2を設け(図1(a))、その上にモールド8を押し当てる(図1(b))。モールド8はその表面(図の下面)に微細な凹凸パターン8aを有するもので、たとえば、SiとSiO2とでできていてSiO2の部分に電子線リソグラフィーとドライエッチングにより凹凸パターン8aを形成したものである。押し当てたモールド8をHSQ膜2から剥離すると、いわゆる室温ナノインプリントによって、モールド8の凹凸パターン8aを転写された微細パターン2aがHSQ膜2に形成される(図1(c))。こうしてできた微細パターン2aを有するHSQ膜2に、図2に示す装置11を用いて酸素照射(O2RIEすなわち酸素イオン照射。ただし酸素プラズマ照射としてもよい)を行う(図1(d))。そのようにしたうえで、1000℃など高温度の環境下にHSQ膜2を置く(図1(e))。
【0017】
図1(d)の酸素照射を行う図2の装置11は反応イオンエッチングのためのもので、高周波電源14に接続された高周波電極と接地電極、ならびに酸素ガスの供給路および排気路等を備えている。HSQ膜2(パターン2a)が上になって接地電極に向かうよう基板1をプラズマイオンシース内で高周波電極の上に置き、HSQ膜2の表面に数十eVの酸素イオンを照射する。実験で採用した酸素照射の条件はつぎのとおりである。
電源周波数 : 13.56MHz
酸素ガス圧力 : 5Pa
照射時間 : 10sec
RFパワー : 100W
【0018】
図3(a)〜(f)は、図1の手順により形成したHSQ膜2を各設定温度に各10分間放置したときの状態を示す断面SEM画像である。パターンの線幅は約200nmである。酸素照射を施したHSQが、200℃以下の場合(図3(a)〜(c))にも、また300℃・500℃・1000℃に加熱した各場合(図3(d)〜(f))にも、パターン形状が維持されていることが確認できる。
【0019】
図4は、HSQ表面のXPSスペクトルの測定結果(X線源はMg。1253.6eVのKα線を使用)であって、10秒間酸素照射をするときの酸素圧力ごとのスペクトルを示すものである。この図4に基づいてHSQ表面のSiに対するOの割合(強度比。O1sとSi2pとのピーク高さの比)を調査した結果が下記の表1である。
【表1】
図4および表1から、照射時間が同一の場合、酸素の圧力が高いほどHSQ表面のSiに対するOの割合が増加することが分かる。なお、SiO2におけるOの割合(上記と同じ強度比)は4.87である(後述の表3を参照)。
【0020】
図5は、酸素照射をしたHSQ表面での水滴の接触角を測定したもので、図5(a)は酸素照射の際の酸素圧力との関係を示す線図、同(b)・同(c)は接触角がそれぞれ104°、25°の場合を示す水滴の側面図である。図5(a)の酸素照射についてのRFパワーは100W、照射時間は10秒である。未処理のHSQ表面の接触角が104°であるのに対し、酸素照射をしたHSQ表面の接触角は26°程度に激減し、SiO2における接触角(25°。表3を参照)に近づいた。
以上の点から、酸素照射により、HSQの表面に関してSiO2化(またはSiO2と似た組成への変化)が起きているものと考えられる。
【0021】
図6は、ラメラー格子としてHSQ膜に形成した微細パターン(線幅は約1μm)を示す断面SEM画像である。図6(a)・(b)・(c)のそれぞれは、モールドを剥離した直後、酸素照射をせずに180℃に加熱した状態、酸素照射をしたうえで1000℃に加熱した状態の各HSQを示している。酸素照射をしない場合(図6(b))には180℃でパターン形状に変化が現れているが、酸素照射を施したもの(図6(c))では1000℃でもパターン形状が維持されている。
【0022】
図7には、上記と多少異なる手順によって微細パターンを形成する形態を示している。この形態では、図7(1)〜(4)に示すナノインプリント技術によってHSQ膜に微細パターンを付与する。すなわち、基板1上のHSQ膜3を、スピンコートによってではなくHSQの液滴を塗布することによって成膜し(図7(1))、すみやかに、つまりHSQ中の溶媒(たとえばメチルイソブチルケトン(MIBK))が蒸発しないうちにHSQ膜3にモールド8を押し当てる(図7(2))。モールド8を押し当てたまま時間をおくかまたは基板1を90℃程度に加熱するかして溶媒を蒸発させる(図7(3))。その後に基板1およびHSQ膜3からモールド8を剥離して、HSQ膜3にパターン3aを得る(図7(4))。そしてその後、前述(図2等)の要領でパターン3bに対して酸素照射を行う。
【0023】
図7の方法では、HSQ膜3が軟らかいうちにモールド8を押し当てるために転写圧力を約1MPaと低くすることができたほか、モールド8が有するパターンに対して忠実な転写が実現し、また、転写後の基板上のHSQ残渣を厚さ10nm以下と薄くすることができた。このような方法は、ドライエッチングマスクやパターンドメディア、偏光板や回折格子などの光学部品作製のためのパターニング技術として好ましいと期待される。
【0024】
図8には、スピンコートして成膜したHSQにモールドを押し当てたことによる転写パターン(図8(a))と、液滴塗布して図7の手順で転写したパターン(図8(b))とを示している。図8(a)の場合、転写圧力が22MPaと高いにもかかわらず、転写深さ等においてモールド8のパターンを忠実には形成しておらず、またHSQ残渣は約200nmと厚い。これに対し、図7の手順で転写した図8(b)の場合には、上記のとおり転写圧力が低いうえ、パターンがモールドに忠実に形成されており、残渣が薄い。図8(a)・(b)のパターン形成に使用したモールド8およびその作製条件は、表2に示すとおりである。
【表2】
【0025】
図9(1)〜(4)には、さらに他の形態としての微細パターン形成プロセスを示している。このプロセスでは、まず、図7と同じナノインプリント法の手順で基板1上に微細パターン3bを形成する。すなわち、スピンコートによってではなく液滴を塗布することによって基板1上にHSQ膜3を設け(図9(1))、HSQ中の溶媒が蒸発しないうちにモールド8を押し当て(図9(2))、そのまま時間をおくか基板1を90℃程度に加熱するかして溶媒を蒸発させたのちモールド8を剥離する(図9(3))。これにより、一例として、直径・高さがともに0.5μmの不連続な円柱状突出体が多数配列されたパターン3bを形成する。
【0026】
図9のプロセスが特徴的であるのは、モールド8が剥離されたのち、パターン3bを有する基板1をベーク処理することによりパターン3bの表面付近をリフローさせる(図9(4))ことである。ベーク処理は、基板1を220℃で10分間加熱することにより行い、HSQのリフローによって、球面等の凸型曲面を有するパターン3cを形成する。
そのうえで、酸素照射を行ってパターン3cに高温耐性をもたせることとする。この例では、直径が0.5μmのレンズ状のパターン3cを得ることができた。図9(3)・(4)に対応する各パターンについてのSEM画像を図10(a)・(b)に示す。
【0027】
上に紹介した形態ではHSQに酸素照射を施したが、発明者らは、酸素照射に代えて電子ビームを照射する実験も行った。電子ビーム照射によってもHSQの表面が硬化するものと予想したからである。
【0028】
図11は、基板上のHSQに線幅約500nmの微細パターンを形成したうえその表面に50eV程度の電子ビームを照射し、そうしてできたパターン(および基板)を加熱した場合の断面SEM画像である。100℃および200℃に加熱した場合(図11(b)・(c))、加熱前のもの(図11(a))と比べてパターンの崩れは見られなかった。
【0029】
電子ビーム照射を行う前後のHSQについて、図4および図5と同様にXPSスペクトルおよび水滴接触角を測定した。その測定結果を、酸素照射(酸素イオン照射)の場合のデータおよびSiO2についてのデータと比較する形で表3にまとめた。表3によれば、電子ビーム照射の場合にもHSQ表面(深さ1μm程度か)がSiO2化するものと推測される。ただし、その程度は、酸素照射の場合に比べるとやや小さいようである。
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)〜(e)は、HSQ膜に対するパターン形成の手順を示す図である。
【図2】図1(d)の過程での酸素照射の方法および設備を示す模式図である。
【図3】図3(a)〜(f)は、図1の手順により形成したHSQ膜を、それぞれ設定温度に加熱したときの断面SEM画像である。
【図4】HSQ膜表面のXPSスペクトルの測定結果であって、酸素照射の際の酸素圧力ごとの分布を示す図である。
【図5】HSQ膜表面における水滴接触角を測定したもので、図5(a)は酸素照射の際の酸素圧力と接触角との関係を示す線図、同(b)・同(c)は接触角がそれぞれ104°、25°の場合を示す水滴の側面図である。
【図6】ラメラー格子としてHSQ膜に形成した微細パターンを示す断面SEM画像であって、図6(a)〜(c)は、モールドを剥離した直後のHSQ膜、酸素照射をせずに180℃に加熱した状態のHSQ膜、酸素照射をしたうえで1000℃に加熱した状態のHSQ膜をそれぞれ示している。
【図7】図7(1)〜(4)は、HSQ膜に対するパターン形成の手順であって図1とは異なるものを示している。
【図8】スピンコートして成膜したHSQ膜にモールドを押し当てたことによる転写パターン(図8(a))と、液滴塗布して図7の手順により転写したパターン(図8(b))とを示すSEM画像である。
【図9】図9(1)〜(4)は、HSQ膜に対するパターン形成の手順であって図1および図7と異なるものを示している。
【図10】図10(a)・(b)は、HSQをリフローさせる前および後の微細パターンの変化を示すSEM画像である。
【図11】図11(a)〜(c)は、微細パターンを付与したHSQ膜の表面に電子ビームを照射した例につき、加熱無し(図11(a))、100℃加熱(同(b))、200℃加熱(同(c))の各場合のHSQ膜の断面SEM画像である。
【図12】図12(1)〜(4)は、HSQ膜を用いる室温ナノインプリントの一般的なプロセスを示している。
【図13】HSQについてその化学構造とスペクトルの測定結果(FTIR)を示している。
【図14】図14(a)〜(d)は、HSQ膜に形成した微細パターンについて、加熱されるときの形状の変化を示す断面SEM画像である。
【符号の説明】
【0031】
1 基板
2・3 HSQ膜
2a・3a・3b 転写パターン
8 モールド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HSQ膜に微細パターンを付与したのち、当該膜の表面に酸素照射を行うことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
モールドを押し当てることによってHSQ膜への微細パターンの付与を行い、当該モールドを剥離したのち、HSQ膜の加熱過程をはさむことなくその表面に酸素照射を行うことを特徴とする請求項1に記載のパターン形成方法。
【請求項3】
モールドを押し当てることによってHSQ膜への微細パターンの付与を行い、当該モールドを剥離したのち、HSQ膜を加熱することにより表面の一部をリフローさせ、そうした表面に酸素照射を行うことを特徴とする請求項1に記載のパターン形成方法。
【請求項4】
基板上にHSQの液を滴下し、溶媒が蒸発する前の当該液にモールドを押し当て、溶媒を蒸発させたのちに当該モールドを剥離することにより、HSQ膜への微細パターンの付与を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項5】
酸素照射に代えて、電子ビーム照射またはアルゴンイオン照射を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のパターン形成方法によって形成されたことを特徴とするパターン形成体。
【請求項7】
熱ナノインプリント用モールド、高温ドライエッチング用マスク、ブレーズド回折格子、もしくはラメラー格子等の光学部品として使用され、または、パターンドメディアの磁性薄膜を加工するドライエッチングマスクとして使用されることを特徴とする請求項6に記載のパターン形成体。
【請求項8】
請求項3に記載のパターン形成方法によって形成され、マイクロレンズアレイとして使用されることを特徴とするパターン形成体。
【請求項1】
HSQ膜に微細パターンを付与したのち、当該膜の表面に酸素照射を行うことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
モールドを押し当てることによってHSQ膜への微細パターンの付与を行い、当該モールドを剥離したのち、HSQ膜の加熱過程をはさむことなくその表面に酸素照射を行うことを特徴とする請求項1に記載のパターン形成方法。
【請求項3】
モールドを押し当てることによってHSQ膜への微細パターンの付与を行い、当該モールドを剥離したのち、HSQ膜を加熱することにより表面の一部をリフローさせ、そうした表面に酸素照射を行うことを特徴とする請求項1に記載のパターン形成方法。
【請求項4】
基板上にHSQの液を滴下し、溶媒が蒸発する前の当該液にモールドを押し当て、溶媒を蒸発させたのちに当該モールドを剥離することにより、HSQ膜への微細パターンの付与を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項5】
酸素照射に代えて、電子ビーム照射またはアルゴンイオン照射を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパターン形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のパターン形成方法によって形成されたことを特徴とするパターン形成体。
【請求項7】
熱ナノインプリント用モールド、高温ドライエッチング用マスク、ブレーズド回折格子、もしくはラメラー格子等の光学部品として使用され、または、パターンドメディアの磁性薄膜を加工するドライエッチングマスクとして使用されることを特徴とする請求項6に記載のパターン形成体。
【請求項8】
請求項3に記載のパターン形成方法によって形成され、マイクロレンズアレイとして使用されることを特徴とするパターン形成体。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図12】
【図13】
【図3】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図14】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図12】
【図13】
【図3】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図14】
【公開番号】特開2008−53666(P2008−53666A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231395(P2006−231395)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(597138508)明昌機工株式会社 (11)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(597138508)明昌機工株式会社 (11)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】
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