説明

パルス高エネルギー粒子に基づく検出システム及び検出方法

検出システムは、中性子およびγフォトンの両方を含む高エネルギー粒子のパルス束を発生させ、かつ該パルス束(140)を分析すべき物品(600)の方向に指向させるための粒子供給装置(500)、該粒子は該物品中の物質の核と反応させるためのもの;少なくとも3つの検出器アセンブリを含む検出ユニット(400)、これらの検出器アセンブリは、それぞれのエネルギー範囲において、該高エネルギー粒子パルス束に応答して該物品から来て、それに衝突する中性子およびγフォトンに応答性であって、対応する経時信号を送給することができる;および時間関連信号特性を含む、前記物品への前記パルス束の印加後の前記信号からのサインを、このサインを格納ずみ参照サインと比較するために発生させることができる、前記検出器の出力側に接続されたデータ処理ユニット(800)を備える。本発明は対応する検出方法も提供する。特に空港での手荷物保安検査、地雷検出などに適用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクティブ中性子問いかけ(active neutron interrogation)技術に関し、より詳しくは物品中の物質または化合物の問いかけと検出に中性子およびガンマ・フォトン(γフォトン、γ光子)を使用する検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる「中性子問いかけ」は、遮蔽密封されている物品から、該物品内に含有されている化学元素または化合物に関連するサインを引き出すことが可能な、現在知られている唯一の非侵襲(非破壊)性の技術である。
【0003】
そのため、この技術は、それらの形状および材料密度だけによる物品間の識別を可能にするX線装置などに対して著しい進歩をもたらし、例えば、物品または建物内における爆発物、核物質、または麻薬のような禁輸品の検出といった各種用途に対して利用されている。
【0004】
中性子に基づく多くの検出法が実用用途に応じて開発されてきた。
熱中性子分析(TNA,Thermal Neutron Analysis)は、例えば、空港での機内預け手荷物の検査のために検討された。より具体的には、低エネルギー中性子はある種の爆発物に含有される窒素からガンマ線(γ線)を放出させ、核分裂性物質がそれら自体の中性子を放出するように仕向ける。しかし、第一世代のTNA検査装置は、典型的な手荷物は数多くの窒素含有物品を含んでいることから、許容できない割合で誤作動警報を生じた。さらに、TNAは中性子供給源からの高速中性子を熱中性子に減速させるための減速材を必要とする。
【0005】
爆発物や麻薬のような禁輸品に対する手荷物のパルス高速熱中性子分析(PFTNA,Pulsed Fast Thermal Neutron Analysis)も提案された。これは、単一システム内でいくつかの異なる中性子相互作用からのガンマ線放出の検出を組み合わせ、短パルス高エネルギー中性子を使用してFNA(高速中性子分析,Fast Neutron Analysis)問いかけを行うものであった。これにより、FNAとTNAの問いかけを時間的に分離し、測定するガンマ・サインの品質および統計値を改善することが可能となる。
【0006】
典型的には、重水素(デューテリウム)−トリチウム(三重水素)反応に基づく単一の反復パルス中性子発生機を用いて14MeV中性子の短パルス(数μs)を発生させる。このパルス時間中では、相互作用は問いかけ対象の物体中での高エネルギー中性子の非弾性散乱に主に起因する。ガンマ線放出は主に(n.n'γ)および(n.pγ)反応からの即発γフォトンから構築される。このパルスを10kHzの周波数で反復し、高エネルギー中性子相互作用からの即発γフォトンのスペクトルを、慣用のシングルフォトン・カウンティング型ガンマ線分光法を用いて集める。これらのスペクトルから、CおよびOのような元素からのガンマ線サイン(ガンマ・サイン)を取得することができる。文書WO−99/53344AおよびVourvopoulos G. et al.,「隠匿爆発物の検出用パルス高速−熱中性子システム」Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms, Elsevier, オランダ、アムステルダム、vol. B79, No. 1/4, 1993年6月2日発行、pp, 585-588, XP000381502は、この種の検出システムを開示している。
【0007】
この種のシステムでは、中性子パルス間の間では、高速中性子の一部がバックグラウンド物質、特に軽元素、と衝突し続け、熱エネルギーに減速する。
中性子は、1eVより低エネルギーであると、H、NまたはFeのような元素により容易に捕獲されることができ、このような(n.γ)捕獲反応から即発γフォトンを生ずる。別の熱中性子反応スペクトルが、この期間中に検出されるガンマ線放出から構築される。文書DE10323093A1はこのような手法を開示している。
【0008】
所定数のパルスの印加後、長い休止時間を設けると、遅発ガンマ反応により活性化されて崩壊したO,AlおよびSiのような元素から放出されたγフォトンの検出が可能となる。
【0009】
これらの3工程を繰り返すことにより、高速中性子相互作用、熱中性子相互作用および遅発活性化相互作用をそれぞれ表す3種類の別個のスペクトルが発生する。これらの3種類のスペクトルにより、原理的には、爆薬中の4種類の基本元素のすべてを明確に決定することが可能となる。
【0010】
実際には、PFTNAにおける物質の同定は、文書US−5200626Aに開示されているように、原子比、例えば、炭素原子:酸素原子の比(C/O)を検査することにより行われる。これは、炭素および酸素のガンマ線強度の比を求め、ついでこれらの元素のガンマ線誘導反応の断面積の比を適用することにより行われる。
【0011】
本質的にTNAプロセスからのガンマ信号と混合されるFNAプロセスとは異なり、PFTNAプロセスでは、FNAプロセスとTNAプロセスに起因するスペクトルが特異的に分離され、爆発物検出に関係する元素の同定が改善される。
【0012】
FNAプロセスからのガンマ線が放出され、集められている間の時間が短く特定されているため、従来のFNA法に比べて、CおよびOからのガンマ・サインの信号雑音比が改善される。
【0013】
しかし、この改善は、FNAプロセス時間中の熱中性子捕獲反応が非常にわずかである場合だけに顕著である。ところが、隠蔽された爆発物の場合、熱中性子捕獲反応からのシグナル(信号)の放出が起こる爆発物が占める領域は小さく、この小さな領域以外に、大きな領域が存在することが多い。それにより信号雑音比が著しく低減し、このことは有用な統計値を得るのに、長い問いかけ時間がやはり必要となることを意味する。
【0014】
さらに、手荷物検査の場合、中身に対して外側ケーシングから大量のプラスチック材料が存在することが、C/OまたはN/O比の測定からなされる爆発物の同定に強く影響しよう。
【0015】
別の公知の問いかけ法はPFNA(パルス高速中性子分析、Pulsed Fast Neutron Analysis)であり、持続時間数ナノ秒の非常に短い高エネルギーの中性子パルスが問いかけ中の物体を通る中性子の飛行時間(TOF)から中性子相互作用の空間領域を記録する機会を与えることができるという、高速中性子の速度/エネルギーの関係に基づいている。
【0016】
TOF情報を集めるには、単一(モノ)エネルギー高速中性子パルスを用いて、任意の所定時間での中性子の空間位置を算出することができるようにする。高速中性子が問いかけ対象の物体中の元素とのガンマ放出衝突をすると、このγフォトンの検出(従って、放出)の時間を物体中の所定位置と連携させることが可能となる。このような持続時間が非常に短い反復パルス中性子源を使用し、かつ中性子パルスの発射時間(launch time)に対する出現時間ならびにガンマ放出のエネルギーを測定することにより、高速中性子行路に沿ったバルク(ばら)材料内部のある範囲の元素の元素密度を求めることができる。
【0017】
具体的には、高速中性子からの即発ガンマ反応を用いて、ボクセルと呼ばれる、所定の空間立方体内のC,N,O元素の相対濃度を求めることができる。爆薬中のこれら3種類の元素の比率を用いて、爆発物の存在および位置を同定することができる。
【0018】
より詳しくは、適当なガンマ検出アレイを用いて、2軸に沿って中性子ビームパルスを走査することにより、原理的には、異なる種々のボクセル中の元素濃度の3Dマップを構築することができる。
【0019】
PFNA法は平均密度が比較的低い大きな物体内に隠匿された少量の爆発物を検査するのに特に適している。
しかし、妥当な空間解像度を得ようとするなら、非常に短い単一エネルギー中性子パルスを必要とする。典型的には、そのような中性子源は線形(リニア)加速器から生ずる。PFNAシステムに基づいたこの種の加速器が、貨物容器の検査用及び空軍の安全性(air security)用に開発されて好結果が得られたが、線形加速器に伴う大型サイズと実質的な遮蔽の必要性は、このシステムが運搬可能ではないことを意味し、従ってこの方法は地雷除去(demining)または空港用途用には適していない。
【0020】
さらに、既存の中性子に基づく検出法はいずれも、サンプル中の化学的含有量の分析に関しては正確であるものの、遅い(典型的には1回の検出を行うのに数分を要する)。
このネックは、ガンマスペクトルの蓄積を創成し、従ってサンプル内の化学元素の検出を可能にするのに標準的なフォトンカウンティング(計数)法が必要であることの結果である。
【0021】
その理由は、検出器が一度に1個のフォトンしか受けとることができず、次のフォトンが到着できるようになる前に、前のフォトンのエネルギーを分析するための検出時間ウインドウを待つ必要があるためである。
【0022】
非常に高強度の中性子パルスでは、パルス積み上げ(pulse piling-up)の現象が起こるため、各活性化γフォトンまたは後方散乱した中性子を個々に記録することはできない。実際、ある測定時間ウインドウで2以上の中性子が生ずると、フォトンは一緒に到着したと見なされ、従って、互いに識別されない。
【0023】
そのため、単一フォトン検出および分析の最大速度は単パルス(1パルス)内で使用可能な最大中性子フルエンスを制限する。
そのことが、上述したような、実際的な検出を行うのに十分な高い信号雑音比で有用なスペクトルを構築するための数分の検出時間につながる。その理由は、良好な品質のスペクトルを取得するには、1回が典型的には1マイクロ秒以上を必要とする測定を106回以上行うことが必要となるからである。
【0024】
さらに、このような公知システムで使用される中性子源(中性子発生装置)は、放射性元素、または放射性ターゲットを用いた発電機を含み、このことは特に商用環境では非常に望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】WO−99/53344A
【特許文献2】DE10323093A1
【特許文献3】US−5200626A
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Vourvopoulos G. et al., Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms, Elsevier, オランダ、アムステルダム、vol. B79, No. 1/4, 1993年6月2日発行、pp, 585-588
【発明の概要】
【0027】
本発明は、物品検査用の中性子に基づく従来の検出法の上述した欠点を克服することを目指すものである。
より具体的には、コストパフォーマンスおよび許容できる設置面積という自明な観点に加えて、信頼性および非常に速い検出時間を与えるシステムが非常に望ましいであろう。
【0028】
本発明の1目的は、活性化されたもの、および物体から後方散乱されたもののフォトンおよび中性子を特性決定するために、従来の単一フォトンカウンティング法を避けたインパルス中性子問いかけ法に基づく新規な材料検出法を提供することである。
【0029】
本発明の別の目的は、1回の測定でそれらの時間的展開を包含する広範囲のエネルギーをカバーする多用途の検出システムを提供することである。
本発明の別の目的は、偽(誤動作)警報発生率を著しく低減し、オペレータの決定のための改善されたデータ出力を提供することができる同定システムを提供することである。
【0030】
本発明の別の目的は、慣用のX線検査システムには不透明な金属製容器内に隠匿されうる、麻薬および或る種の核物質のような両方の一般的な禁輸品を検出することができるシステムを提供することである。
【0031】
本発明のさらに別の目的は、パルス積み上げに起因する制限を克服する検出システムを提供することである。
本発明のさらに別の目的は、単一の(1パルスの)高強度中性子パルスによって短い応答時間で、空港手荷物中のバルク(ばら)状爆発物の存在または地雷除去における地雷の存在を検出することを可能にする検出システムを提供することである。
【0032】
ここに、本発明は、下記を備えた検出システムを提供する:
・中性子およびガンマ・フォトン(γフォトン)の両方を含む高エネルギー粒子のパルス束(パルス化フラックス)を発生させ、かつ該パルス束を分析すべき物品の方向に指向させるための粒子源(粒子供給装置)、該粒子は該物品中の物質の核と反応させるためのものである、
・該高エネルギー粒子の該パルス束に反応して該物品から来て、それに衝突する中性子およびγフォトンに、それぞれのエネルギー範囲において反応する、少なくとも3つの検出器アセンブリを含んでいる検出ユニット、これらの検出器アセンブリは衝突γフォトンおよび中性子を表示する電流信号を経時的に送給するために電流検出モードで動作するように配置されている、および
・時間関連信号特性を含む、前記物品への前記パルス束の印加後の前記信号からのサインを、このサインを格納ずみ参照サインと比較するために発生させることができる、前記検出器アセンブリの出力側に接続されたデータ処理ユニット。
【0033】
本システムの好ましいが制限を意図しない側面を述べると次の通りである:
*各検出器アセンブリがそれぞれのエネルギー帯域通過フィルター(バンドパスフィルター)を備える。
【0034】
*各検出器アセンブリが1組の可撓性光ファイバーケーブルにより光電子増倍管に連結されたシンチレータを備える。
*該中性子およびγフォトン源(粒子供給装置)が下記を備える:
・第1および第2の電極、
・第1電極におけるプラズマイオン源
・重陽子(デューテロン)を含有するイオンプラズマを第2電極に向かって進展させるためのプラズマイオン源ドライバ(駆動装置)、
・前記イオンプラズマが前記第2電極から離間して(距離を置いて)重陽子の空間分布を持った遷移状態にある時点において、従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服しつつ前記第2電極に向かって前記重陽子を加速させるように、前記両電極間に短い高電圧パルスを印加する手段、および
・前記第2電極は、重陽子/リチウム相互作用によって前記第2電極で前記中性子を発生するように、リチウム含有ターゲットを形成し、ここで中性子は前記ターゲットと相互作用してγフォトンを生ずる。
【0035】
*前記中性子は、核物質の検出に適した、少なくとも3MeVのエネルギーを有する。
*前記中性子は、存在しうる周囲の元素と相互作用せずに炭素系物質の検出に適した、少なくとも5MeVのエネルギーを有する。
【0036】
*前記中性子は、大部分の爆発物に共通するH,C,N,Oの4元素全部と相互作用するので爆発物の検出に適した、少なくとも8MeVのエネルギーを有する。
*検出器アセンブリにより送給された信号が前記粒子供給装置からの中性子およびγフォトンを含む粒子の1個の単パルスに対応する。
【0037】
別の側面によると、本発明は、下記工程を含む、物品中に含まれる材料、物質または化合物の特性の検出方法を提供する:
・中性子およびγフォトンの両方を含む高エネルギー粒子のパルス束を分析すべき物品に印加し、ここで該粒子は該物品中の材料の核と反応させるためのものであり、
・該印加に応答して該物品から来る中性子およびγフォトンを少なくとも2つの異なるエネルギー範囲で、かつ経時的に衝突γフォトンおよび中性子を表す電流信号を送給するような電流検出モードで検出し、
・こうして検出された中性子およびγフォトンを表す時間分解された電流信号を送りだし、
・該信号の時間に関連する特徴からサインを発生させ、そして
該サインを格納ずみ参照サインと比較する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る同定システムのブロック図である。
【図2】図1のシステムに含まれる検出ユニットをより詳細に示す。
【図3】パルス放出およびそれらの被分析物品への到達に関する典型的な信号収集を示すタイムチャート(時間図)である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、添付図面を参照したその好適態様の以下の例示的な説明からより理解されよう。
添付図面を参照すると、本発明に係る同定システム700が図1に示され、これは下記を備える:
・検査すべき物品600の搬送システム650;
・高エネルギー粒子源(粒子供給装置)500;
・検出ユニット400;および
・データ処理ユニット800。
【0040】
(粒子)供給装置500は、検査すべき物品600の方向に向かう、中性子およびγフォトンの両方を含んだ、高流束で高強度の短パルス高エネルギー粒子を発生する。
この供給装置は、制御ユニット300により制御されるパルス化パワー(パルス電力供給)ユニット200に応答(反応)して、高エネルギー粒子のフラックス(束)を発生させる粒子発生器100を備える。
【0041】
動作時に、高密度で高流束の高エネルギー粒子の短パルスが発生し、検査領域内に置かれた物品600の方向に向けられる。検査領域の方向にはビームコリメータ130が向けられている。
【0042】
搬送システム650は慣用のものでよく、個々の手荷物のような物品600を適当な距離ずつ検査領域を通るよう移動させるのに使用される。
供給装置500を検出ユニット400と組み合わせて使用し、透過する高エネルギー粒子源との相互作用によって、検査物品600内に含まれている物質を表示するγフォトンおよび中性子信号を検出する。
【0043】
図2に示すように、検出ユニット400は、広い範囲のエネルギー応答を有し、供給装置500に曝したときに物品600から後方散乱されたγフォトンと中性子の両方を検出することができる、列状に並んだ複数の検出器410を含む。各検出器410は、物体から後方散乱されたγフォトンおよび中性子について所定範囲のエネルギーに感受性である。
【0044】
これらの検出器は一緒に、探査対象の特定の化学または核物質または化合物に対する固有のサインを得るために、データ処理ユニット800で処理することができるデータを提供する。
【0045】
これに関連して、本発明に係る検出ユニットは、高エネルギー粒子の単パルス(1パルス)の間に獲得することができる特性ガンマ・サイン認識に基づいていて(複数パルス検出も可能であるが)、WO−99/53344−A(特許文献1)およびDE−10323093−A1(特許文献2)に開示されているような従来のシステムとは異なり、詳細なエネルギー分解型の分光法を必要としない。
【0046】
データ処理ユニット800は、物品600のガンマ・サインを発生させるために、検出器のアレイ(列)により提供される信号を分析する。その後、算出されたサインの参照サインのデータベースとの統計学的比較を用いて、該物品中の或る種の物質または化合物の有無の判定を行う。
【0047】
本システムの各構成要素のより詳しい説明を次に行う。
粒子供給装置500
粒子発生器100は、パルス電力供給ユニット200により駆動されて、高エネルギー粒子の短パルス140を発生させる。
【0048】
これらのパルス140は、制御ユニット300により送られる制御トリガ(始動)によりオンデマンドで(要求に応じて)発生させる。他のすべての時点では、システム500全体は「オフ」状態にある。
【0049】
粒子発生器100は、一対の離間した電極、即ち、放出(エミッタ)電極110およびターゲット電極120を収容した真空チャンバ150内に入れられている。
典型的には、2つの電極110と120との間の距離は数センチメートルであり、圧力は0.1〜10Paの範囲内である。
【0050】
放出電極110のための高電圧ドライバ(電圧印加装置)220が電流供給ユニット200内に設けられ、これはプラズマ放電イオン源を構成する、該電極に属した一対の電極部材(図示せず)の間に適当な電圧パルス225を印加することにより該電極に電力を供給するのに使用される。
【0051】
こうして、1013粒子/cm3以上程度の大きさのプラズマ密度をもつ低圧プラズマを電極110の近傍に創成させ、これはその後、チャンバ150内で荷電粒子の空間分布を発生させる。所定の遅延時間dtの後、やはり電力供給ユニット200内に設けられたパルス発生器210で発生させた高電圧パルス215を、プラズマ内に含まれている所定電荷符号の粒子を第2電極120の方に向かって加速させるため、電極110と120との間に印加する。
【0052】
遅延時間dtは、プラズマ始動パルス225、加速電圧パルス215、2つの電極110および120により形成されたダイオードの幾何学形状、およびチャンバ150内の圧力に応じて選択される。
【0053】
制御ユニット300は、上記の時間遅延に従って、まずドライバ220を、次に発生器210を始動させることができる。
この同期された指令によって、2つの電極110と120との間に所定の遅延時間dtの後に適当なパルス電圧215の印加を開始させるように高電圧パルス供給装置210を制御することにより、該プラズマから電荷粒子ビームが取り出される。
【0054】
本発明の1態様では、高電圧パルス発生器210は、自体公知のように、電圧増倍回路とその後のパルス圧縮回路(図示せず)から構成される。
より詳しくは、220V、50Hzのような幹線(mains)電圧源をまず慣用の電子インバータユニットを用いて30kVに高める。この電圧を用いてトリガ制御に感応性の4段マルクス回路に給電すると、120kVの電圧パルスを生ずる。この電圧を次いでパルス整形回路の充電に使用すると、120kVの5nsパルスを生ずる。このパルス整形回路の出力をパルストランスに連結させて、最終の720kVの5ns電圧パルス215を得る。
【0055】
パルス215の印加により、プラズマ中に含まれる荷電粒子が加速されて高電流(典型的には1kA以上)の荷電ビームを形成し、これが500keVに達することがあるエネルギーでターゲット電極として作用する電極120に衝突することにより、荷電粒子誘導核反応の結果として高エネルギー粒子束が生ずる。
【0056】
電極間でイオンプラズマが遷移状態にある該電極に超短高電圧パルス215を直接印加することにより荷電粒子の高エネルギー束を生成させるという供給装置500の動作原理により、従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服することができることは理解されよう。例えば、短パルス(<10ns)、高電流(>kA)、高エネルギー(>700keV)の荷電粒子ビームを発生させることができる。
【0057】
上述した粒子供給装置を用いると、高エネルギー粒子束140は等方的に放出される。分析される物品600に向かうビームを発生させるため、適当なコリメータ130を用意する。
【0058】
最後に、制御ユニット300は、供給装置500の全モジュールについて制御および状態(ステータス)情報を付与する監視ユニットとしても作用しうることに留意されたい。このためには、ユニット300を1組の安全センサおよび/または検出器に連結して、供給装置500の安全保護と適正な動作とを確保する。
【0059】
高速のスクリーニング(ふるい分け)作業のために、供給装置500は反復して作動させることができる(例えば、毎秒1回〜数回)。
供給装置500は、多様な種類の高エネルギー粒子ビームを発生させるのに使用することができる。本発明の好適態様では、かかる粒子は中性子およびγフォトンであり、それらは、kA程度の大きさの電流値で10ns前後の持続時間を持つ高エネルギーの荷電重陽子粒子ビームをリチウム合金ターゲット電極120に衝突させることにより発生し、それにより108より多い中性子の10nsパルス140が生成し、こうして14MeVまでの広いエネルギー分布を有する1016中性子/秒の高い等価フルエンス率(equivalent fluence rate)が得られる。
【0060】
上述した供給装置500は非常に短い持続時間で物品から後方散乱された実質的に全てのγフォトンおよび中性子を検出することができる。
比較すると、例えば、US−5200626A(特許文献3)に記載されているような従来の密閉式中性子管は典型的には少量の中性子を10マイクロ秒の発射(バースト)で供給し、108n/sの等価フルエンス率を得るにはこのバーストを1kHz以上の周波数で反復しなければならず、分析に十分なγフォトンデータを得るには数分の動作が必要である。それにより、放射線量率は、本発明で起こるのに比べて少なくとも2桁は高くなる。
【0061】
制限しない例として、3mの距離で、10cm2の露出面積の物品600は、本発明の供給装置500で得られた単パルスから1011n/sの等価フルエンス率で中性子束を受けることになろう。
【0062】
検出ユニット400
図2に示すように、検出ユニット400は、1列状に配置された検出器(図示例では3個)411、412、413から構成されたγフォトン検出器部材410を備える。
【0063】
各検出器は、それぞれの組の可撓性光ファイバーケーブル421、422、423によって、光電子増倍管431、432、433に接続されている。
各検出器は好ましくは、γフォトンおよび中性子の両方に感受性となるように選択された適当な表面積の慣用のプラスチック・シンチレータ(例えば、周知のNE102A型のもの)を備え、供給源500により発生させたビーム140に曝された時に物品600から後方散乱されるγフォトンおよび中性子を表示する信号を出力する。
【0064】
各シンチレータのサイズは、例えば、180mm×180mm×25mmである。より一般的には、大型のシンチレータは信号雑音比を実質的に改善することができる。
各検出器411、412および413は、特定のエネルギースペクトルの範囲内で反応し、これは好ましくは物品600から個々の検出器への中性子およびγフォトンの走路上に材料(図示せず)を配置することにより達成される。これらの材料は各検出器411、412および413に対して異なるエネルギー範囲をもつエネルギー帯域通過フィルターとして作用する。
【0065】
従って、各検出器の出力振幅はその範囲内でのスペクトル成分に関係し、各検出器411、412および413は受けとった放射線/粒子の量を表示するそれぞれの信号A、BおよびCを与える。
【0066】
シンチレータを適当な長さの可撓性光ファイバーケーブルを介して光電子増倍管に接続することにより、光電子増倍管は放射線源から離間させて配置することができ、該光電子増倍管における雑音を発生する高エネルギー粒子および電磁波の影響から遮蔽することができることは認められよう。
【0067】
好ましくは、光電子増倍管431、432および433はそれぞれのシンチレータに衝突するフォトン/粒子の放出をリアルタイムで測定することができる電流検出モードで動作する。
【0068】
これに関して、個々のγフォトンまたは中性子のエネルギーを測定する代わりに、所定の検出器411、412または413に到達する粒子およびフォトンの収集により生じた電流信号を時間の関数として経時的に記録する。
【0069】
そのため、粒子が非常に短い時間間隔内でシンチレータ上に衝突する時のパルス積み重なりにより計数(カウンティング)誤差を生ずるという従来の問題が避けられる。
光電子増倍管431、432および433からの信号出力は全体を440として示すアナログ−ディジタル変換器に供給され、照射された物品600から受けとったフォトン/粒子を異なるエネルギー帯域で時間の関数として表示する対応するディジタルデータの流れ(ストリーム)を得るようにする。
【0070】
1例として、最大サンプリング速度が2.5GS/sで最大データメモリ深さが10kサンプルの4チャネルTektronix TDS3034トランジエント・ディジタイザを使用することができる。
【0071】
好ましくは、ディジタル化したデータを、ディジタイザのメモリ深さの範囲内で保存するように、最大2nsのサンプリング速度で、各粒子パルス140を物品に印加した後、例えば20μs間記録する。
【0072】
検出ユニット400により供給された信号は、超短高エネルギー中性子単パルス140に応答して起こり、γフォトンまたは中性子の放出を生ずる、弾性、非弾性および捕獲反応を含んだ、物品600の材料内での任意の中性子相互作用モードからの結果を組み合わさる。
【0073】
より具体的には、検出ユニット400は、短い中性子単パルスを始動させた後の種々の時間中に、高速中性子および熱中性子から発生した即発および遅発γフォトン、ならびにサンプルから後方散乱または放出された中性子を検出する。
【0074】
中性子パルス発生に対する信号検出の典型的なタイミングの例を図3に示す。
この例では、10nsの持続時間をもつ約108の中性子の単パルスP1が4π立体角で放出される。次のγフォトンのパルスP2が、わずかな時間ずれとわずかにより長い持続時間で放出される。このガンマ・パルスP2は、中性子パルスP1が中性子発生ターゲットのすぐ周囲と相互作用する結果として、ならびにターゲットそれ自体の内部で発生するものである。
【0075】
ブロックA1およびA2はそれぞれ、供給装置から1メートル離れて位置させたターゲット上に到達するパルスP1の中性子、および該ターゲットに到達するパルスP2のγフォトンにそれぞれ対応する。
【0076】
図3の下部に示すように検出された信号は次の通りである:
・最初に、収集信号S1は、検出器に直接到達するガンマ・パルスP2のフラクション(一部分)に起因する。
【0077】
・それにすぐ続く信号S2は、物品600から後方散乱されたガンマ・パルスP2のある量から生ずる。
・数十ナノ秒後に受けとる信号S3は、高エネルギー中性子が物品600を直接通過して、該物品の物質の核との非弾性衝突を有する時に発生した高エネルギーγフォトンからなる;中性子パルスPが非常に短く、走行速度が比較的遅い(10MeVの中性子は1ナノ秒で約4.4cm走行する)ことにより、良好な空間識別が可能となる;また、中性子束が高強度であるため、検出器からの信号雑音比が良好となる。
【0078】
・信号S3の後ろの方の部分は、供給装置での平行化(コリメート)されない中性子の散乱から生ずる多量の遅発中性子が物品600と相互作用することにより発生したγフォトンである;
・これらの信号の後に続く(マイクロ秒のオーダの時間スケールで)のは、物品から後方散乱された中性子に対応する信号S4である。
【0079】
・最後に検出される信号(10マイクロ秒以上後で、図示せず)は、供給装置のコリメータ内で「熱(中性子)化」された中性子から生じた捕獲γフォトンから、ならびにサンプルおよびその周囲から、生ずる。これらの熱中性子は、物品の物質の核によって捕獲され、それによりγフォトンを発生させる。
【0080】
これらの相互作用の多くは多様な元素/化合物に適用可能である。そのため、中性子パルス140の始動開始後の長い時間(典型的には数十マイクロ秒)にわたって検出信号を記録することにより、特に経時的な展開を考慮した時に、非常に意味のある信号が得られる。
【0081】
好ましくは、シンチレータと光ファイバー(ケーブル)との間の連結効率の変動を補償するために、検出器アセンブリ(シンチレータ+光ファイバーケーブル+光電子増倍管)のそれぞれに利得調整回路を組み込む。
【0082】
さらに、この検出器アセンブリは有利には、各検出器の前方にエネルギーフィルターを配置せずに、次いですべての検出器に同じエネルギーフィルターを配置して、一連の測定を行うことにより、クロス較正される。
【0083】
全検出ユニットを同じ方法で較正して、全ユニット間の信号出力の変動が所定の範囲内(例、最大2倍以内)になるように各ユニットの利得を調整する。
較正は、それぞれ個々の光電子増倍管に連結された複数の光ファイバーに連結された喜寿パルス光源を用いて行うことができる。こうすると、各光電子増倍管は同一の光ファイバー連結により同じ較正用光源により照射されることになる。
【0084】
よくわかっている物質、例えば、メラミンおよびポリエチレン(ポリテン)のような有機物質の1種または2種以上のサンプルを用いて、自動較正プロセスを実施することもできる。このようなプロセスにより、検出器感度の起こりうるドリフト(ゆるやかな変動)を補償することが可能となる。
【0085】
データ処理ユニット800
データ処理ユニット800は、検出ユニット400から受けとった複数の信号A、BおよびCのための適当な信号処理能力を有する。
【0086】
好ましくは、このような処理は、分析された各物品600に関連するサインを発生させるために、それら経時的な展開を含む該信号に対して、所定の一組のアルゴリズムを適用することを含む。
【0087】
一つの物品が分析されたら、そのサインが、種々の公知の材料、物質または化合物に対応する一組の参照サインを有する比較用データベースに適用され、いずれかのそのような材料、化合物または物質の存在を迅速に同定し、場合により定量することができる。
【0088】
好ましくは、ユニット800は、非常に短い応答時間(典型的な処理時間は、処理能力技術の状態により1秒未満から数秒までとなろう)のうちに種々の種類の材料、化合物または物質について単純な有無(イエス/ノー)の回答をオペレータに提供するようにプログラミングされる。
【0089】
本発明を以上にその代表的な態様について説明したが、当業者であれば多くの変更および変形をそれに加えることができることは当然である。
前述したように、本発明の典型的な用途は空港手荷物の安全(保安)検査ならびに地雷および対人爆雷のような埋設物体の検出であるが、本発明は多くの他の用途も有することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を備えた検出システム:
・中性子およびγフォトンの両方を含む高エネルギー粒子のパルス束(140)を発生させ、かつ該パルス束を分析すべき物品(600)の方向に指向させるための粒子供給装置(500)、該粒子は該物品中の物質の核と反応させるためのものである、
・少なくとも3つの検出器アセンブリ(411, 421, 431; 412, 422, 432; 413, 423, 433)を含む検出ユニット(400)、これらの検出器アセンブリは、それぞれのエネルギー範囲において、該高エネルギー粒子パルス束に反応して該物品から来て、それに衝突する中性子およびγフォトンに反応性であり、これらの検出器アセンブリは、衝突γフォトンおよび中性子を表示する電流信号を経時的に送給するために電流検出モードで動作するように配置されている、および
・時間関連信号特性を含む、前記物品への前記パルス束の印加後の前記信号からのサインを、このサインを格納ずみ参照サインと比較するために発生させることができる、前記検出器アセンブリの出力側に接続されたデータ処理ユニット。
【請求項2】
各検出器アセンブリがそれぞれのエネルギー帯域通過フィルターを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
各検出器アセンブリが、1組の可撓性光ファイバーケーブル(421; 422; 423)により光電子増倍管(431; 432; 433)に連結されたシンチレータ(411; 412; 413)を備える、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記中性子およびγフォトン供給装置が下記を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステム:
・第1および第2の電極(110, 120)、
・第1電極におけるプラズマイオン源、
・重陽子を含有するイオンプラズマを第2電極に向かって進展させることができるプラズマイオン源ドライバ(220)、
・前記イオンプラズマが、前記第2電極から離間して重陽子の空間分布を持った遷移状態にある時点において、従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服しつつ前記第2電極に向かって前記重陽子を加速させるように、前記両電極間に短い高電圧パルスを印加する手段(210)、
・前記第2電極(120)は、重陽子/リチウム相互作用によって前記第2電極で前記中性子を発生させるように、リチウム含有ターゲットを形成し、ここで中性子は前記ターゲットと相互作用してγフォトンを生ずる。
【請求項5】
前記中性子が少なくとも3MeVのエネルギーを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記中性子が少なくとも5MeVのエネルギーを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記中性子が少なくとも8MeVのエネルギーを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
検出器アセンブリにより送給された信号が前記粒子供給装置からの中性子およびγフォトンの一つの単パルスに対応する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
下記工程を含む、物品中に含まれる材料、物質または化合物の特性の検出方法:
・中性子およびγフォトンの両方を含む高エネルギー粒子のパルス束を分析すべき物品に印加し、ここで該粒子は該物品中の物質の核と反応させるためのものであり、
・該印加に応答して該物品から来る中性子およびγフォトンを少なくとも2つの異なるエネルギー範囲で、かつ経時的に衝突γフォトンおよび中性子を表す電流信号を送給するような電流検出モードで検出し、
・こうして検出された中性子およびγフォトンを表す時間分解された電流信号を送りだし、
・該信号の時間に関連する特徴からサインを発生させ、そして
該サインを格納ずみ参照サインと比較する。
【請求項10】
前記中性子が少なくとも3MeVのエネルギーを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記中性子が少なくとも5MeVのエネルギーを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記中性子が少なくとも8MeVのエネルギーを有する、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−544958(P2009−544958A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521278(P2009−521278)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057762
【国際公開番号】WO2008/012360
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(509026079)セージ・イノベーションズ・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】SAGE INNOVATIONS INC.
【Fターム(参考)】