説明

パワートレーンの制御装置

【課題】フューエルカットから復帰する際におけるショックを抑制するとともに、エンジンのストールを抑制する。
【解決手段】ECUは、フューエルカットからの復帰条件が成立すると(S200にてYES)、エンジンの冷却水の温度が低いほどより短くなるように遅延時間T(FC)を設定するステップ(S300)と、ロックアップクラッチが係合状態であると(S400にてYES)、ロックアップクラッチを係合状態にする第1の油圧からロックアップクラッチを解放状態にする第2の油圧までロックアップクラッチの係合圧が低下するように、指示デューティ値を出力するステップ(S410)と、指示デューティ値を出力してから遅延時間T(FC)だけ経過すると(S500にてYES)、フューエルカットを停止するステップ(S600)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートレーンの制御装置に関し、特に、エンジンと自動変速機との間を直結にするロックアップクラッチを有するパワートレーンを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動変速機においては、トルクコンバータ等の流体継手を介してエンジンに連結されるものがある。トルクコンバータはその内部を循環するオイル等の流体によりエンジンからの駆動力を変速機に伝達するため、入力軸と出力軸との間で回転数差が生じる。この場合、駆動力の伝達効率が悪化し得る。そこで、トルクコンバータの入力軸と出力軸とを機械的に連結可能であるように、ロックアップクラッチが設けられる。
【0003】
ところで、燃費向上の観点から、車両の減速時において車速が予め定められた速度以上である場合には、燃料噴射を停止するフューエルカットが行なわれる。フューエルカットが行なわれている状態で、車速が予め定められた速度まで低下すると、燃料噴射が再開される(フューエルカットから復帰する)。フューエルカットから復帰すると、エンジンの回転数が上昇する。したがって、燃料噴射が再開される際においてロックアップクラッチが係合状態にあると、ショックが発生し、ドライバビリティが悪化し得る。そこで、係合状態にあったロックアップクラッチを解放状態にしてから、フューエルカットから復帰するようにパワートレーンが制御される。
【0004】
特開2004−137963号公報(特許文献1)は、ロックアップ状態が解除されてから燃料噴射を再開する車両の減速時制御装置を開示する。特許文献1に記載の減速時制御装置は、アクセル開度全閉による減速時にロックアップ制御すると共に燃料カット(フューエルカット)する車両を制御する。この減速時制御装置は、車速を検出する車速検出部と、アクセル開度を検出するアクセル開度検出部と、ロックアップ解除指令信号の出力時点から実際のロックアップ状態が解除される時点までの経過時間をロックアップ解除遅れと定義したとき、ロックアップ解除遅れが大の状態を基準としたロックアップ解除車速初期値を予め設定するロックアップ解除車速初期値設定部と、ロックアップ解除時にロックアップ解除遅れ時間を計測するロックアップ解除遅れ時間計測部と、計測されるロックアップ解除遅れ時間に基づいて、設定されているロックアップ解除車速を低速側に変更するロックアップ解除車速変更部と、アクセル開度が全閉で、車速検出値が設定されているロックアップ解除車速以下になったときにロックアップ解除指令信号を出力するロックアップ解除制御部と、実際にロックアップ状態が解除されたことを検出する実ロックアップ解除検出部と、実際にロックアップ状態が解除された後、燃料カットをリカバーする燃料カットリカバー制御部とを含む。
【0005】
この公報に記載の減速時制御装置によれば、ロックアップ解除制御において、ロックアップ解除遅れが大の状態を基準とし、ロックアップ解除車速をロックアップ解除遅れが小さいほど低速側に変更することでアクセル開度全閉時のロックアップ領域を拡大し、かつ、燃料カットリカバー制御において、実際のロックアップ状態解除を燃料カットリカバー条件とするため、ロックアップ解除遅れのバラツキにかかわらず、燃費の向上代を確保した上で、エンジンストールの回避とリカバーショックの回避の両立を達成することができる。
【特許文献1】特開2004−137963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ロックアップクラッチを解放状態にするために要する時間が同じであっても、フューエルカットから復帰してからエンジンの回転数が速やかに上昇する場合とそうでない場合とがある。しかしながら、特開2004−137963号公報においては、ロックアップクラッチを解放状態にするために要する時間のみについて着目しているに過ぎず、フューエルカットから復帰してからエンジンの回転数が上昇するまでの時間については何等考慮されていない。そのため、特開2004−137963号公報に記載の減速時制御装置のように、実際にロックアップ状態が解除された後にフューエルカットから復帰するようにした場合、フューエルカットから復帰してからエンジンの回転数が速やかに上昇しなければ、エンジン回転数が落ち込み、エンジンがストールするおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、フューエルカットからの復帰の際におけるショックを抑制するとともに、エンジンのストールを抑制することができるパワートレーンの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係るパワートレーンの制御装置は、フューエルカットを実行するエンジンと自動変速機との間を直結にするロックアップクラッチを有するパワートレーンを制御する。この制御装置は、係合状態から解放状態まで、ロックアップクラッチの係合圧を低下させる指令値を出力するための出力手段と、指令値が出力されてから予め定められた遅延時間が経過した場合に、エンジンをフューエルカットから復帰させるようにエンジンを制御するための制御手段と、エンジンの燃焼室の温度に関する値に基づいて、エンジンの燃焼室の温度が低いほど短くなるように、遅延時間を設定するための設定手段とを含む。
【0009】
第1の発明によると、出力手段が出力する指令値により、ロックアップクラッチが係合状態から解放状態にされる。このとき、ロックアップクラッチの解放を開始してから実際に解放状態になるまでには時間が必要である。そこで、指令値が出力されてから予め定められた遅延時間が経過した場合に、エンジンがフューエルカットから復帰される。すなわち、燃料噴射が再開される。このとき、フューエルカットから復帰してからエンジンの回転数が上昇し始めるまでの時間が、エンジンの燃焼室の温度に応じて異なる。燃焼室の温度が低いと、燃料の燃焼性が悪いために回転数が上昇し始めるまでに必要な時間が長い。燃焼室の温度が高いと、燃料の燃焼性が良いために回転数が上昇し始めるまでに必要な時間が短い。そこで、フューエルカットから復帰するための遅延時間が、エンジンの燃焼室の温度に関する値に基づいて、エンジンの燃焼室の温度が低いほど短くなるように設定される。たとえば、エンジンの冷却水の温度もしくはフューエルカットが継続された時間に基づいて遅延時間が設定される。エンジンの冷却水の温度が低いほど遅延時間がより短く設定されたり、フューエルカットが継続された時間が長いほど遅延時間がより短く設定されたりする。これにより、エンジンの燃焼室の温度が低く、エンジンの回転数が上昇し始めるまでに必要な時間が長いといえる状態においては、比較的早めにフューエルカットから復帰するように、エンジンを制御することができる。逆に、エンジンの燃焼室の温度が高く、エンジンの回転数が上昇し始めるまでに必要な時間が短いといえる状態においては、比較的遅めにフューエルカットから復帰するように、エンジンを制御することができる。そのため、ロックアップクラッチが実際に解放状態になるタイミングとエンジンの回転数が上昇するタイミングとのずれを抑制することができる。その結果、フューエルカットからの復帰の際におけるショックを抑制するとともに、エンジンのストールを抑制することができるパワートレーンの制御装置を提供することができる。
【0010】
第2の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第1の発明の構成に加え、燃焼室の温度に関する値は、エンジンの冷却水の温度である。
【0011】
第2の発明によると、燃焼室の温度に関する値として、エンジンの冷却水の温度が用いられる。これは、燃焼室の温度とエンジンの冷却水の温度との間に相関関係があるからである。そのため、燃焼室の温度を直接計測することなく、燃焼室の温度、すなわちエンジンの回転数が上昇するタイミングに応じた遅延時間を設定することができる。
【0012】
第3の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第2の発明の構成に加え、設定手段は、冷却水の温度が低いほど、遅延時間をより短く設定するための手段を含む。
【0013】
第3の発明によると、エンジンの冷却水の温度が低いほど遅延時間がより短く設定される。これにより、エンジンの燃焼室の温度が低く、フューエルカットから復帰してからエンジンの回転数が上昇し始めるまでに必要な時間が長いといえる状態においては、比較的早めにフューエルカットから復帰するように、エンジンを制御することができる。逆に、エンジンの燃焼室の温度が高く、フューエルカットから復帰してからエンジンの回転数が上昇し始めるまでに必要な時間が短いといえる状態においては、比較的遅めにフューエルカットから復帰するように、エンジンを制御することができる。そのため、ロックアップクラッチが実際に解放状態になるタイミングとエンジンの回転数が上昇するタイミングとのずれを抑制することができる。その結果、フューエルカットからの復帰の際におけるショックを抑制するとともに、エンジンのストールを抑制することができる。
【0014】
第4の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第1の発明の構成に加え、燃焼室の温度に関する値は、エンジンのフューエルカットが継続された時間である。
【0015】
第4の発明によると、燃焼室の温度に関する値として、エンジンのフューエルカットが継続された時間が用いられる。これは、燃焼室の温度とエンジンのフューエルカットが継続された時間(燃料噴射が停止された時間)との間に相関関係があるからである。そのため、燃焼室の温度を直接計測することなく、燃焼室の温度、すなわちエンジンの回転数が上昇するタイミングに応じた遅延時間を設定することができる。
【0016】
第5の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第4の発明の構成に加え、設定手段は、フューエルカットが継続された時間が長いほど、遅延時間をより短く設定するための手段を含む。
【0017】
第5の発明によると、フューエルカットが継続された時間が長いほど遅延時間がより短く設定される。これにより、エンジンの燃焼室の温度が低く、フューエルカットから復帰してからエンジンの回転数が上昇し始めるまでに必要な時間が長いといえる状態においては、比較的早めにフューエルカットから復帰するように、エンジンを制御することができる。逆に、エンジンの燃焼室の温度が高く、フューエルカットから復帰してからエンジンの回転数が上昇し始めるまでに必要な時間が短いといえる状態においては、比較的遅めにフューエルカットから復帰するように、エンジンを制御することができる。そのため、ロックアップクラッチが実際に解放状態になるタイミングとエンジンの回転数が上昇するタイミングとのずれを抑制することができる。その結果、フューエルカットからの復帰の際におけるショックを抑制するとともに、エンジンのストールを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0019】
<第1の実施の形態>
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両のパワートレーンについて説明する。本実施の形態に係る制御装置は、たとえば、図1に示すECU(Electronic Control Unit)1000が実行するプログラムにより実現される。
【0020】
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、トルクコンバータ200と、自動変速機300と、ECU1000とから構成される。
【0021】
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサ400により検知されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
【0022】
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプインペラ220と、出力軸側のタービンランナ230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。
【0023】
トルクコンバータ200と自動変速機300とは、回転軸により接続される。トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ410により検知される。自動変速機300の出力軸回転数NOUTは、出力軸回転数センサ420により検知される。
【0024】
自動変速機300は、プラネタリギヤユニットからなる有段式の変速機であってもよく、無段階に変速比を変更するCVT(Continuously Variable Transmission)であってもよい。
【0025】
これらのパワートレーンを制御するECU1000には、エンジン回転数センサ400からエンジン回転数NEを表わす信号が、タービン回転数センサ410からタービン回転数NTを表わす信号が、出力軸回転数センサ420から出力軸回転数NOUTを表わす信号が、水温センサ430からエンジン100の冷却水の温度を表す信号が、アクセル開度センサ440からアクセルペダル1200の開度を表す信号が、車速センサ450から車速を表す信号が入力される。
【0026】
ECU1000は、これらの信号に基づいて、エンジン100、ロックアップクラッチ210、および自動変速機300等を制御する。
【0027】
図2を参照して、ロックアップクラッチ210の状態を制御するためにトルクコンバータ200に供給される油圧を調圧する油圧回路500について説明する。なお、図4には、油圧回路500のうち、本発明に関連する一部のみを示す。
【0028】
油圧回路500は、オイルポンプ510と、プライマリレギュレータバルブ520と、セカンダリレギュレータバルブ530と、ソレノイドモジュレータバルブ540と、ロックアップコントロールバルブ550とを含む。
【0029】
オイルポンプ510は、エンジン100のクランクシャフトに連結されている。クランクシャフトが回転することにより、オイルポンプ510が駆動してオイルパン512内に貯えられたATFの吸い込み、油圧を発生する。オイルポンプ510で発生した油圧は、プライマリレギュレータバルブ520により調整され、ライン圧が生成される。
【0030】
セカンダリレギュレータバルブ530には、プライマリレギュレータバルブ520から流出(排出)した余分な作動油が流入する。セカンダリレギュレータバルブ530により、セカンダリ圧が生成される。
【0031】
ソレノイドモジュレータバルブ540は、ライン圧を元圧として、ソレノイドモジュレータ圧を生成する。ソレノイドモジュレータ圧は、デューティーソレノイド560に供給される。
【0032】
ロックアップコントロールバルブ550は、セカンダリ圧の供給先を、トルクコンバータ200の係合側油室(ポンプインペラ220側)と解放側油室(ロックアップクラッチ210とコンバータカバー260とで区画される空間)との間で選択的に切替える。
【0033】
ロックアップコントロールバルブ550は、デューティーソレノイド560から供給される油圧をパイロット圧として作動する。デューティーソレノイド560からロックアップコントロールバルブ550に対して油圧が供給されていない場合、ロックアップコントロールバルブ550のスプールは、図2において(1)に示す状態(左側の状態)になる。
【0034】
この場合、セカンダリ圧が、トルクコンバータ200の解放側油室に供給され、トルクコンバータ200係合側油室の油圧がオイルクーラ(図示せず)に供給される。そのため、ロックアップクラッチ210がコンバータカバー260から引き離され、ロックアップクラッチ210が解放状態になる。
【0035】
デューティーソレノイド560からロックアップコントロールバルブ550に対して油圧が供給されている場合、ロックアップコントロールバルブ550のスプールは、図2において(2)に示す状態(右側の状態)になる。
【0036】
この場合、セカンダリ圧が、トルクコンバータ200の係合側油室に供給され、トルクコンバータ200の解放側油室から油圧がドレンされる。そのため、ロックアップクラッチ210がコンバータカバー260側に押し付けられ、ロックアップクラッチ210が係合状態になる。
【0037】
ロックアップクラッチ210の係合圧(ロックアップクラッチ210を係合させるための油圧)は、トルクコンバータ200の係合側油室の油圧と解放側油室の油圧との差圧に応じた値になる。
【0038】
トルクコンバータ200の係合側油室の油圧と解放側油室の油圧との差圧は、デューティーソレノイド560からロックアップコントロールバルブ550に供給される油圧に応じた値になる。
【0039】
デューティーソレノイド560は、ECU1000から送信される指示デューティ値に応じた圧力を出力する。したがって、デューティーソレノイド560に対する指示デューティ値により、ロックアップクラッチ210の係合圧が制御される。なお、ロックアップクラッチ210の係合圧を制御する方法はこれに限らない。
【0040】
図3を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000が実行するプログラムの制御構造について説明する。
【0041】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU1000は、フューエルカットの実行条件が成立したか否かを判別する。フューエルカットの実行条件には、たとえば車速がしきい値より高いという条件およびアクセル開度が「0」である(エンジン100がアイドル状態である)という条件等が含まれる。実行条件が成立すると(S100にてYES)、処理はS110に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、この処理は終了する。S110にて、ECU1000は、フューエルカットを実行する。
【0042】
S200にて、ECU1000は、フューエルカットからの復帰条件が成立したか否かを判別する。フューエルカットからの復帰条件には、たとえば車速がしきい値以下になったという条件等が含まれる。復帰条件が成立すると(S200にてYES)、処理はS300に移される。もしそうでないと(S200にてNO)、処理はS200に戻される。
【0043】
S300にて、ECUは、エンジン100の冷却水の温度に基づいて、遅延時間T(FC)を設定する。遅延時間T(FC)は、図4のマップに示すように、冷却水の温度が低いほど、より短くなるように設定される。
【0044】
図3に戻って、S400にて、ECU1000は、ロックアップクラッチ210が係合状態であるか否かを判別する。ロックアップクラッチ210が係合状態であるか否かは、たとえばエンジン回転数NEとタービン回転数NTとの差がしきい値以内であるか否かにより判別される。ロックアップクラッチ210が係合状態であると(S400にてYES)、処理はS410に移される。もしそうでないと(S400にてNO)、処理はS600に移される。
【0045】
S410にて、ECU1000は、ロックアップクラッチ210を係合状態にする第1の油圧からロックアップクラッチ210を解放状態にする第2の油圧までロックアップクラッチ210の係合圧(係合側油室の油圧と解放側油室の油圧との差圧)が低下するように、指示デューティ値を出力する。すなわち、ロックアップクラッチ210の解放指令を出力する。これにより、ロックアップクラッチ210の解放が開始される。
【0046】
S500にて、ECU1000は、ロックアップクラッチ210を係合状態にする第1の油圧からロックアップクラッチ210を解放状態にする第2の油圧までロックアップクラッチ210の係合圧が低下するように指示デューティ値を出力してから、遅延時間T(FC)だけ経過したか否かを判別する。遅延時間T(FC)だけ経過すると(S500にてYES)、処理はS600に移される。もしそうでないと(S500にてNO)、処理はS500に戻される。
【0047】
S600にて、ECU1000は、フューエルカットを停止する。すなわち、燃料の噴射を再開する。
【0048】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000の動作について説明する。
【0049】
車両の走行中、たとえば減速時において、フューエルカットの実行条件が成立すると(S100にてYES)、フューエルカットが実行される(S110)。その後、フューエルカットからの復帰条件が成立すると(S200にてYES)、最終的にはフューエルカットから復帰される(フューエルカットが停止される)。
【0050】
フューエルカットを停止し、燃料噴射を再開すると、エンジン回転数NEが上昇する。エンジン回転数NEが上昇する際において、ロックアップクラッチ210が係合状態にあると、ショックが発生する。したがって、ロックアップクラッチ210を解放状態である場合にフューエルカットから復帰することが好ましい。
【0051】
ところが、ロックアップクラッチ210の解放を開始してから、完全に解放状態になるまでには時間が必要である。そこで、ロックアップクラッチ210の解放を開始してから予め定められた遅延時間T(FC)が経過した後に、フューエルカットが停止される。
【0052】
このとき、フューエルカットを停止して、燃料噴射を再開しても、常に同じタイミングでエンジン回転数NEが上昇するとは限らない。たとえば、エンジン100の冷却水の温度が低いと、エンジン100の燃焼室の温度が低くなる。エンジン100の燃焼室の温度が低いと、燃料の燃焼性が悪化する。そのため、エンジン100の冷却水の温度が低い場合は、高い場合に比べて、フューエルカットを停止してからエンジン回転数NEが上昇するまでの時間が長くなる。
【0053】
したがって、エンジン100の冷却水の温度が高い状態に合わせて遅延時間T(FC)を設定すると、エンジン回転数NEが上昇せず、かつロックアップクラッチ210が解放された状態が長くなる。そのため、エンジン回転数NEが上昇する前にエンジン回転数NEが大きく落ち込んで、エンジン100がストールし得る。
【0054】
そこで、エンジン100の冷却水の温度が低いほど、より短くなるように、遅延時間T(FC)が設定される(S300)。また、ロックアップクラッチ210が係合状態であると(S400にてYES)、ロックアップクラッチ210を係合状態にする第1の油圧からロックアップクラッチ210を解放状態にする第2の油圧までロックアップクラッチ210の係合圧が低下するように、指示デューティ値が出力される(S410)。
【0055】
図5に示すように、ロックアップクラッチ210が解放状態になるような指示デューティ値が出力されてから、遅延時間T(FC)だけ経過すると(S500にてYES)、フューエルカットが停止される(S600)。
【0056】
このとき、遅延時間T(FC)は、エンジン100の冷却水の温度が低いほど、より短くなるように設定される。これにより、ロックアップクラッチ210が解放状態になるタイミングとエンジン回転数NEが上昇するタイミングとのずれを抑制することができる。
【0057】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置であるECUによれば、エンジンの冷却水の温度が低いほど、遅延時間T(FC)がより短く設定される。ロックアップクラッチ210が解放状態になるように指示デューティ値が出力されてから、遅延時間T(FC)だけ経過すると、フューエルカットが停止され、燃料噴射が再開される。これにより、ロックアップクラッチが解放状態になるタイミングとエンジン回転数NEが上昇するタイミングとのずれを抑制することができる。そのため、フューエルカットから復帰する際におけるショックを抑制するとともに、エンジンのストールを抑制することができる。
【0058】
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、エンジン100の冷却水の温度の代わりに、フューエルカットの継続時間に基づいて、遅延時間T(FC)を設定する点で、前述の第1の実施の形態と相違する。その他の構造については、前述の第1の実施の形態と同じである。それらについての機能も同じである。したがって、ここではその詳細な説明は繰返さない。
【0059】
図6を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、前述の第1の実施の形態と同じ処理については、同じステップ番号を付してある。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0060】
S700にて、ECU1000は、フューエルカットの継続時間のカウントを開始する。S710にて、ECU1000は、フューエルカットの継続時間のカウントを停止する。
【0061】
S800にて、ECUは、フューエルカットの継続時間に基づいて、遅延時間T(FC)を設定する。遅延時間T(FC)は、図7のマップに示すように、フューエルカットの継続時間が長いほど、より短くなるように設定される。
【0062】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000の動作について説明する。
【0063】
エンジン100の燃焼室の温度は、前述したエンジン100の冷却水の温度の他、フューエルカットの継続時間が長いほど、より低くなる傾向がある。したがって、フューエルカットが実行されると(S110)、フューエルカットの継続時間のカウントが開始される(S700)。フューエルカットからの復帰条件が成立すると(S200にてYES)、フューエルカットの継続時間のカウントが停止される(S710)。
【0064】
カウントされた継続時間が長いほど、より短くなるように、遅延時間T(FC)が設定される(S800)。このようにしても、前述の第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0065】
<その他の実施の形態>
エンジン100の燃焼室に、燃焼室の温度を検出可能な温度センサを取り付け、この温度センサによって検出された燃焼室の温度に基づき、遅延時間T(FC)を、燃焼室の温度が低いほどより短くなるように設定してもよい。
【0066】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施の第1の形態に係る制御装置を搭載した車両のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】ロックアップクラッチの状態を制御するためにトルクコンバータに供給される油圧を調圧する油圧回路を示す図である。
【図3】本実施の第1の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図4】エンジンの冷却水の温度と遅延時間T(FC)との関係を示す図である。
【図5】エンジン回転数NEの推移を示すタイミングチャートである。
【図6】本実施の第2の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図7】フューエルカットの継続時間と遅延時間T(FC)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプインペラ、230 タービンランナ、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、260 コンバータカバー、300 自動変速機、400 エンジン回転数センサ、410 タービン回転数センサ、420 出力軸回転数センサ、430 水温センサ、440 アクセル開度センサ、450 車速センサ、500 油圧回路、510 オイルポンプ、512 オイルパン、520 プライマリレギュレータバルブ、530 セカンダリレギュレータバルブ、540 ソレノイドモジュレータバルブ、550 ロックアップコントロールバルブ、560 デューティーソレノイド、1000 ECU、1200 アクセルペダル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フューエルカットを実行するエンジンと自動変速機との間を直結にするロックアップクラッチを有するパワートレーンの制御装置であって、
係合状態から解放状態まで、前記ロックアップクラッチの係合圧を低下させる指令値を出力するための出力手段と、
前記指令値が出力されてから予め定められた遅延時間が経過した場合に、前記エンジンをフューエルカットから復帰させるように前記エンジンを制御するための制御手段と、
前記エンジンの燃焼室の温度に関する値に基づいて、前記エンジンの燃焼室の温度が低いほど短くなるように、前記遅延時間を設定するための設定手段とを含む、パワートレーンの制御装置。
【請求項2】
前記燃焼室の温度に関する値は、前記エンジンの冷却水の温度である、請求項1に記載のパワートレーンの制御装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記冷却水の温度が低いほど、前記遅延時間をより短く設定するための手段を含む、請求項2に記載のパワートレーンの制御装置。
【請求項4】
前記燃焼室の温度に関する値は、前記エンジンのフューエルカットが継続された時間である、請求項1に記載のパワートレーンの制御装置。
【請求項5】
前記設定手段は、前記フューエルカットが継続された時間が長いほど、前記遅延時間をより短く設定するための手段を含む、請求項4に記載のパワートレーンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−239724(P2007−239724A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67516(P2006−67516)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】