ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド及びその前駆体、並びにそれらを用いたポジ型感光性樹脂組成物、並びにそれらの硬化物
【課題】i線(365nm)において高い透過率を有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド又はその前駆体を用いて、半導体素子の保護膜及びディスプレー用プラスチック基板として有用なポリベンゾオキサゾールイミド膜を提供する。
【解決手段】下記一般式(4):
(式(4)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド又はその前駆体中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有してなるポジ型感光性樹脂組成物の膜をパターン露光及びアルカリ現像した後、加熱することにより得られることを特徴とするポリベンゾオキサゾールイミド膜である。
【解決手段】下記一般式(4):
(式(4)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド又はその前駆体中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有してなるポジ型感光性樹脂組成物の膜をパターン露光及びアルカリ現像した後、加熱することにより得られることを特徴とするポリベンゾオキサゾールイミド膜である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いi線(365nm)透過率を有するヒドロキシアミド基含有透明ポリイミド又はその前駆体中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有して成るポジ型感光性樹脂組成物、並びに該ポジ型感光性樹脂組成物のパターン露光後、アルカリ現像・洗浄・加熱脱水環化反応工程を経て得られる、半導体素子の保護膜及びフレキシブル液晶ディスプレー(LCD)用プラスチックとして有用なポリベンゾオキサゾールイミド、並びに該ポリベンゾオキサゾールイミドの微細パターンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器における耐熱絶縁材料として、ポリイミドの重要性が益々高まっている。ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線回路(FPC)用基板、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、チップオンフィルム(COF)用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な用途に現在広く利用されている。
【0003】
ポリイミドは、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を、N−メチル−2−ピロリドン等の溶媒中、無触媒で等モル重付加反応させて溶媒可溶性の前駆体(ポリアミド酸)を重合し、この溶液(ワニス)を溶液キャスト製膜・乾燥・加熱脱水閉環反応(イミド化反応)することで容易に製造することができる。製造工程の簡便さに加え、膜純度が極めて高いことから、電気特性の低下を招く恐れのある残留ハロゲンや金属イオン等を嫌う半導体用途に適している。また、入手可能な様々なモノマーを用いて物性改良を行いやすく、近年益々多様化する要求特性に対応しやすいという点においても有利である。
【0004】
半導体チップ表面の保護コーティング材料として、エポキシ樹脂等の封止材の硬化収縮からのチップの保護、ハンダリフロー工程における熱衝撃および封止材料の急激な熱膨張ストレスからのチップの保護、チップ上に無機パッシベーション膜を形成した場合におけるそのクラックの防止、封止材中の無機充填剤に含まれる微量なウランやトリウムからのα線遮蔽によるソフトエラー防止、多層配線回路の層間絶縁、平坦化による配線の断線防止等を目的として、現在、耐熱性のポリイミドが使用されている。
【0005】
保護コーティング材は、ボンディングパッド部にプラズマエッチングやアルカリエッチングによりビアホール形成等の微細加工が施される。プラズマエッチング等の乾式法では一般に解像度に優れているが、設備面でコストがかかるため、アルカリ水溶液等を用いた湿式エッチングがより簡便である。
【0006】
従来、ポリイミド膜の微細加工は、ポリイミド膜上にフォトレジスト層を形成し、現像により露出した部分をヒドラジンや強アルカリでエッチングすることにより行われていたが、ポリイミドあるいはその前駆体自身に感光性能を付与した感光性ポリイミドを用いることで、ポリイミドの微細加工工程が大幅に短縮され、半導体製造速度と歩留率を飛躍的に高めることが可能となる。
【0007】
この目的のため、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸膜中にジアゾナフトキノン系感光剤を分散させたアルカリ現像可能なポジ型感光性ポリイミドが検討されている。しかしながら、ポリアミド酸中のカルボキシル基はpKa値が4〜5と低く、半導体製造工程において現像液として通常使用されているテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液に対するポリアミド酸のアルカリ溶解性が元々高すぎるため、露光部と未露光部との間の十分な溶解度差が得られにくく、高解像度の微細加工には適さないといった問題が指摘されている。
【0008】
近年、高解像度化およびパターン形状の精密制御の観点から、上記のようにアルカリ現像に不向きなポリイミド前駆体の代わりに、適度なpKa値(10程度)を有するフェノール性ヒドロキシ基含有ポリベンゾオキサゾール前駆体を用いてこれとジアゾナフトキノン系感光剤(以下DNQと称する)を組み合わせたポジ型感光性ポリベンゾオキサゾールシステムが注目されている。
【0009】
ポリベンゾオキサゾール前駆体であるポリヒドロキシアミド(以下PHAと称する)の熱閉環反応により得られるポリベンゾオキサゾール(以下PBOと称する)は、ポリイミドと同等な耐熱性を有するのに加え、ポリイミドより優れた低吸水性を有しているという点で、半導体保護コーティング材料として非常に優れた材料である。
【0010】
しかしながら、PBO前駆体であるPHAの製造工程は、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸系ほど単純ではない。ポリアミド酸系では、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒中、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの等モル重付加反応により、無触媒・室温で極めて容易に高重合体が得られるのに対して、PHA系ではジカルボン酸をまず活性アシルとし、これをビス(o−アミノフェノール)と加熱条件で重縮合し、更にPHAの単離・生成工程を必要とするため重合工程がより煩雑である。
【0011】
更に、ビス(o−アミノフェノール)は、工業的に入手可能なものとして、事実上3,3’−ジヒドロキシベンジジン(HAB)か、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BAHF)に限られており、モノマーの選択範囲の広いポリイミド系とは対照的に、益々多様化する半導体用材料の要求特性に対して対応しにくいのが現状である。
【0012】
また、PBO前駆体であるPHAは、多くの場合、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸よりも溶媒に対する溶解性が低い。これは、ポリアミド酸が、溶媒和に有利なカルボキシル基を側鎖に有し、且つ重合過程で生ずる主鎖のアミド結合がパラ/メタランダム連鎖になるため、溶媒に溶けやすい構造であるのに対して、PHA系では、側鎖が溶媒和に不利なヒドロキシ基であり、更にアミド結合がランダム連鎖にはならないためである。
【0013】
上記のように、感光性ポリイミド系と感光性PBO系では一長一短があるが、もしポリイミド系の利点である重合工程の容易さ及び物性改善のしやすさ(入手可能なモノマーの多様さ)と、PBO系の利点である高解像度加工のしやすさを共に有する耐熱材料があれば、上記産業分野において極めて有益な材料を提供しうるが、そのような感光性耐熱材料は殆ど知られていないのが現状である。
【0014】
例えば、下記式(6)で表される反復単位を含有するフェノール性ヒドロキシ基含有ポリイミドとDNQを組み合わせた感光性樹脂組成物を用いることにより、鮮明なポジ型パターンを形成可能であることが知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【化1】
(式(6)中、Xは4価の芳香族基である。)
【0015】
式(6)で表される反復単位を含有するフェノール性ヒドロキシ基含有ポリイミドは、ビス(o−アミノフェノール)をジアミン成分として用いて、テトラカルボン酸二無水物との等モル重付加反応を行うことにより、まず水酸基(OH基)含有ポリアミド酸を重合し、次いで、これを熱イミド化反応させて製造される。しかしながら、通常のPBO前駆体と異なり、アルカリ現像によるポジ型パターン形成後、これを加熱処理してもフェノール性OH基は消滅せずに残存することになる。バッファーコート膜等の半導体用途では、集積回路の永久保護膜として長期にわたって使用されるため、フェノール性OH基の存在が引き金となるイオンマイグレーション、吸水率の増加等の問題の他、予期せぬ様々な不具合を生じる恐れがある。
【0016】
下記式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用いて、下記式(8)で表される反復単位を含有するポリイミド前駆体を重合し、得られたポリイミド前駆体又は該ポリイミド前駆体をイミド化した下記式(9)で表される反復単位を含有する化合物を、DNQと組み合わせた感光性樹脂組成物を用いて、ポジ型パターンを形成する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【化2】
【化3】
【化4】
(式(8)及び式(9)中、Rは2価の芳香族基を表す。)
【0017】
しかしながら、上記式(7)で表されるヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物においては、アミド結合を介して結合している電子供与性のビス(o−アミノフェノール)残基と電子吸引性のトリメリット酸無水物残基とが共に芳香族基であることに基づいて生じる分子内電荷移動相互作用に加え、フェノール性OH基の部分的な酸化により着色しやすいため、これを用いて得られるポリイミド前駆体およびポリイミドのキャストフィルムは、しばしば著しく着色し、i線が殆ど透過しないといった好ましくない結果をもたらす。
【0018】
仮に、ビス(o−アミノフェノール)上に強力な電子吸引基を導入した場合、上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の分子内電荷移動相互作用による着色をある程度抑制することが原理的には可能であるが、BAHF以外のビス(o−アミノフェノール)を用いて得られた着色の少ないヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物は知られていない。
【0019】
上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の分子構造を修飾して分子内電荷移動相互作用を抑制することが可能であれば、感光性樹脂組成物とした際の感度の向上(i線露光時の照射時間の短縮)が期待される。
【0020】
ポリイミド前駆体やポリベンゾオキサゾール前駆体とDNQを組み合わせたポジ型感光性樹脂組成物を半導体素子のバッファーコート膜用材料として適用する場合、アルカリ現像によるポジ型パターン形成後、通常、高温での加熱硬化(熱環化)する工程が行われる。特にポリベンゾオキサゾール前駆体系では、熱環化反応の完結に通常300℃又はそれ以上の高温処理を必要とするため、半導体素子保護の観点から、これらの系をバッファーコート膜へ適用することが困難となる場合がある。そのため、より低温で熱環化反応可能なポリベンゾオキサゾール系の研究が盛んに行われている。
【0021】
ポリベンゾオキサゾール前駆体の熱環化反応が酸触媒によって大幅に低温化することが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。しなしながら、未露光領域では加熱環化工程後も酸触媒が残留し、これが半導体素子に深刻な悪影響を及ぼす恐れがあるため、この技術をポリベンゾオキサゾール前駆体系に適用して環化反応を低温化することは困難である。
【0022】
また、上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるヒドロキシアミド基含有ポリイミド前駆体またはヒドロキシアミド基含有ポリイミド系においても、パターン形成後の熱環化工程をより低温で行うことができれば、上記産業分野に有益な材料を提供し得るが、そのような材料は知られていない。
【0023】
【特許文献1】特開平11−100503号公報
【非特許文献1】“Journal of Applied Polymer Science”、1994年、53巻、1513−1524
【非特許文献2】“High Performance Polymer”、2006年、18巻、603−615
【非特許文献3】“Polymer Journal”、2005年、37巻、517−521
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
そこで、本発明の目的は、i線(365nm)において高い透過率を有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド又はその前駆体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド又はその前駆体中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有して成るポジ型感光性樹脂組成物、並びに該ポジ型感光性樹脂組成物の膜をパターン露光した後、アルカリ現像・洗浄・加熱脱水環化反応工程を経て得られる、半導体素子の保護膜およびフレキシブルLCD用プラスチックとして有用なポリベンゾオキサゾールイミド膜、並びに該ポリベンゾオキサゾールイミド膜の微細パターンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、下記式(3)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体または下記式(4)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を分散して得られるポジ型感光性樹脂組成物は優れた感光特性を示し、更にこれを270℃という、従来のポリベンゾオキサゾール前駆体系よりも低温で完全に熱環化することが可能であり、また、それによって得られる下記式(5)で表される反復単位を含有するポリベンゾオキサゾールイミドからなる膜は、250℃以上の高いガラス転移温度を有することから、半導体素子の集積回路の保護膜として有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
即ち、本発明の要旨は以下に示すものである。
【0027】
1.下記一般式(1):
【化5】
(式(1)中、Aは4価の芳香族基を表す。)で表されるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物。
【0028】
2.下記一般式(2):
【化6】
(式(2)中、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表されるイミド基含有脂環式ジカルボン酸。
【0029】
3.要旨1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとの等モル重付加反応によって得られた、下記一般式(3):
【化7】
(式(3)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体。
【0030】
4.下記一般式(4):
【化8】
(式(4)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド。
【0031】
5.下記一般式(5):
【化9】
(式(5)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するポリベンゾオキサゾールイミド。
【0032】
6.要旨3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、イミド化反応させることを特徴とする要旨4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法。
【0033】
7.要旨2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体とを等モル重縮合反応させることを特徴とする要旨4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法。
【0034】
8.要旨3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体又は要旨4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、脱水閉環反応させることを特徴とする要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法。
【0035】
9.要旨2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体とを、縮合剤の存在下、高温にて一段階で等モル重縮合環化反応させることを特徴とする要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法。
【0036】
10.要旨3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体又は要旨4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有して成るポジ型感光性樹脂組成物。
【0037】
11.要旨10に記載のポジ型感光性樹脂組成物の膜をパターン露光及びアルカリ現像した後、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、脱水閉環反応させることを特徴とする要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミド膜の微細パターンの製造方法。
【0038】
12.要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドを含有してなる半導体素子の保護膜。
【0039】
13.要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドを含有してなるディスプレー用プラスチック基板。
【発明の効果】
【0040】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物は、ジアミンと高い重合反応性を示し、高重合度のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体および対応するポリイミドを与える。また、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体および対応するポリイミド中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を分散して得られる感光性樹脂組成物は、高解像度のポジ型パターン形成が可能であり、更に、従来のポリベンゾオキサゾール前駆体系より低温で加熱硬化(脱水環化反応)させることができる。更に、かようにして得られるポリベンゾオキサゾールイミド膜は、250℃以上の高ガラス転移温度を有することから、集積回路のバッファーコート膜として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
<分子設計>
まず、上記式(4)で表される反復単位を含有する本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド及び上記式(3)で表される反復単位を含有するその前駆体を重合するために用いられるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物モノマーについて説明する。本発明によれば、下記式(1)で表されるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用することで、上記要求特性を満たす感光材料を得ることができる。
【化10】
(式(1)中、Aは4価の芳香族基を表す。)
【0042】
本発明によれば、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物は、トリメリット酸無水物(以下TMAと称する)又はその誘導体を用いる代わりに、核水素化トリメリット酸(以下H−TMAと称する)又はその誘導体を用い、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体と反応させて容易に製造することができる。H−TMAを使用することで分子内電荷移動相互作用を完全に妨げ、TMAを用いた場合とは対称的に殆ど無着色の該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を製造することができる。このヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いることでジアミンとの反応により実質的に無色透明なヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびその前駆体を得ることができる。これらを用いて作製したフィルム(膜)の特徴は、通常使用される照射光源である高圧水銀の輝線、即ちi線(365nm)において、極めて高い光透過率を有することである。膜を構成する樹脂の光透過率が低いと、照射紫外線が膜中に分散している感光剤に効率的に吸収されず、パターン形成に必要な紫外線照射時間の著しい増加(感度の低下)を招く恐れがあるが、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびその前駆体ではそのような問題はない。
【0043】
また、上記式(4)で表される反復単位を含有する本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、下記式(2)で表される本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体との等モル重縮合反応により製造することもできる。
【化11】
(式(2)中、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)
【0044】
上記イミド基含有脂環式ジカルボン酸は、H−TMAとジアミンから容易に製造することができる。式(2)中、Bはジアミン残基であり、2価の芳香族基または脂肪族基を表す。上記イミド基含有脂環式ジカルボン酸の製造時に使用するジアミン成分が、脂肪族又は芳香族であることに関わりなく、実質的に無着色の該ジカルボン酸を得ることができる。これは、式(2)中のBがたとえ芳香族基であっても、イミド基がシクロヘキサン環上に結合していることで、分子内電荷移動相互作用が完全に妨害されるためである。更に、上記イミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体との等モル重縮合反応により得られる本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、極めて高い透明性を示す。
【0045】
本発明の特徴は、上記式(3)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を溶液中、温和な条件で加熱処理することで、ヒドロキシアミド基に影響を与えることなく(環化させずに)、熱イミド化のみ行うことで、上記式(4)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを製造することができ、更には、例えばポジ型パターン形成後に、イミド化温度より高温で熱処理することでヒドロキシアミド基をベンゾオキサゾール環へ完全に変換することができるという点にある。このように最終的にはフェノール性OH基を完全に消失させることができるため、半導体素子の保護膜として適用した際に、イオンマイグレーションや吸水が原因となって引き起こされる予期せぬ深刻な問題を回避することができる。
【0046】
本発明のもう一つの特徴は、通常のポリベンゾオキサゾール前駆体系よりも低い熱処理温度で熱環化(オキサゾール環形成)が可能である点である。このような「低温環化」は、式(4)で表される反復単位を含有する本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドにおいて、ビス(o−アミノフェノール)残基とアミド基を介して結合しているカルボン酸残基が芳香族ではなく脂環族であることに基づいている。
【0047】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドとDNQを組み合わせ、溶液キャスト法により感光性樹脂組成物膜を作製する場合、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)やN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶媒に対して高い溶解性且つワニスの安定性(ゲル化等を引き起こさないこと)を有する必要がある。一般に、芳香族ポリイミドはイミド基同士の強い分子間力に由来して溶媒溶解性に乏しいが、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、嵩高い核水素化トリメリットイミド基の存在によりイミド基間分子間相互作用が通常より弱められ、結果として高い溶媒溶解性を保持している。
【0048】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのもう一つの特徴は、その骨格中にフェノール性OH基に加え、イミド基を含んでいるため、アルカリ水溶液に対する溶解性が適度に制御されている点にある。従って高解像度のポジ型パターン形成に有利である。
【0049】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを熱環化して得られるポリベンゾオキサゾールイミドは、実質的に無色透明で、溶液加工性(厚膜形成能)が高く、高いガラス転移温度を有するため、フレキシブルディスプレー用プラスチック基板への適用が可能である。核水素化トリメリットイミド基の存在は溶媒溶解性を保持しながら、適度な分子間力を有するため、上記用途において要求されるガスバリヤー性の改善も期待される。
【0050】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法>
該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。具体的にはその原料であるビス(o−アミノフェノール)と核水素化トリメリット酸無水物(H−TMA)の誘導体を用いてアミド化反応を行う。この際適用できる方法として、ビス(o−アミノフェノール)のアミノ基とH−TMAのカルボキシル基を高温で直接脱水反応させるか、亜燐酸トリフェニル/ピリジンやジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤を用いてアミド化する方法、H−TMAのカルボキシル基を酸ハライドに変換し、これとビス(o−アミノフェノール)とを脱酸剤(塩基)の存在下で反応させる方法(酸ハライド法)等が挙げられる。上述の方法の中でも酸ハライド法が経済性、反応性の点で好ましく適用できる。
【0051】
酸ハライド法を適用する場合、核水素化トリメリット酸無水物クロリドが好適に用いられる。これとビス(o−アミノフェノール)を反応させる際に、反応の選択性を高める意味でシリル化剤を用いることもできる。即ち、ビス(o−アミノフェノール)中のヒドロキシル基への反応(エステル化反応)を避けるため、ビス(o−アミノフェノール)中のアミノ基およびヒドロキシル基の両方をシリル化剤を用いてシリル化することで、シリル化ヒドロキシル基は反応性を失い、アミド化反応を選択的に行うことができる。通常、−20〜0℃のような低温で反応を行うことで実質的にアミド化反応を選択的に行うことができる。また、リチウムクロライドのような塩を添加することもアミド化反応を優先的に行うために有効な方法の1つである。
【0052】
次に、該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の酸ハライド法による合成方法について具体的に説明するが、特に限定されるものではない。まず核水素化トリメリット酸を酸無水物とし、次いで酸クロリドに変換して核水素化トリメリット酸無水物クロリドを合成する。
【0053】
核水素化トリメリット酸無水物の製造方法は、公知公用の方法を採用することができ、特に限定されない。核水素化トリメリット酸無水物の製造方法の具体例としては、トリメリット酸、又はトリメリット酸無水物を水素化する事で得ることができる。あるいは、トリメリット酸のエステル化物を核水素化し、その後エステル部分を加水分解、分子内脱水して酸無水物化する事でも製造することができる。具体的には、例えば米国特許出願公開第5412108号明細書においてトリメリット酸無水物を核水素化することにより製造できることが開示されている。該米国出願公開明細書においては、核水素化に使用可能な水素化触媒として、Rh金属がある特定の担体に担持されたRh触媒を用いることが有利であるとされているが、この他にもPd,Ru,Ni,Ptなどの芳香核を水素化できる金属を使用した触媒であれば特に制限なく使用することができる。これら金属触媒は、担体に担持されていても、金属単独で使用することも可能であり、さらにはこれら金属に必要に応じて他の成分を添加して用いてもよい。
【0054】
核水素化反応を行うと、通常、シクロヘキサン環上の3つの置換基については4種の立体異性体(光学異性体も含めれば8種)の混合物となる。これらの立体異性体については、このまま混合物のまま次の反応に使用しても良いし、再結晶化などの精製を行うことによって単一、もしくは特定の異性体の濃度を高めてから使用しても良い。また、特定の異性体を選択的に得る方法としては、例えば、米国特許出願公開第5412108号明細書に記載の方法などを用いると3つの置換基がすべてシスに制御された生成物を主成分として得ることができる。この場合、すべてシスの異性体の純度は、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0055】
核水素化反応後、水素化触媒の金属が一部溶出することがあるが、用途によっては溶出した金属を除去することが望ましい。溶出した金属は例えば、ゼータ電位フィルターやイオン交換樹脂などを通すことによって除去もしくは減少させることが可能である。こうして得られた水素化トリメリット酸中に含まれる金属量は、通常は1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0056】
トリメリット酸の核水素化反応後の生成物において、一部又はすべての1,2−ジカルボン酸無水物環部分が開環して1,2−ジカルボン酸となった場合には、減圧下加熱処理をすることにより1,2−ジカルボン酸部分を酸無水物環に変換しても良い。その際採用される温度は、下限が50℃以上、好ましくは120℃以上であり、上限が250℃以下、好ましくは200℃以下である。その際採用される減圧度は、下限の制限はなく、上限は0.1MPa、好ましくは0.05MPaである。
【0057】
1,2−ジカルボン酸部分を酸無水物環に変換する方法としては、上記した減圧下に加熱する方法の他に有機酸の酸無水物と処理する方法も採用することができる。その際に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。その際採用される温度は、下限が30℃、好ましくは50℃、上限が200℃、好ましくは150℃である。このようにして得られる酸無水物環を持つ化合物の割合は、核水素化トリメリット酸及びその酸無水物の合計中、通常95モル%以上、好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。
【0058】
次に、核水素化トリメリット酸無水物を酸クロリドに変換する。その合成法としては、カルボン酸から対応する酸クロリドを合成する通常の方法を用いることができる。具体的な例としては、塩化チオニルを用いる方法、オキザリルクロリドを用いる方法、三塩化リンを用いる方法、安息香酸クロリドなどの他の酸クロリドを使用する方法などが挙げられる。中でも過剰に使用した塩素化試剤の留去のしやすさの点から塩化チオニルを用いるのが好ましい。
【0059】
塩化チオニルを用いて核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する方法としては、例えば、特開2004−203792号公報に開示された方法が知られている。また、塩素化剤を用いて核水素化トリメリット酸無水物を塩素化する際、N,N−ジメチルホルムアミドやピリジン等の触媒を用いることもできるが、これらを用いなくても反応に大きな支障はない。触媒の存在により、得られた塩素化物がかえって著しく着色する場合があるので、その場合はこれら触媒を使用しないで製造する方が好ましい。
【0060】
使用する塩素化試剤の量は、反応等量、もしくは過剰量が採用されるが、通常下限が1モル等量以上、好ましくは5モル等量以上、さらに好ましくは10モル等量以上である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量以下、好ましくは50モル等量以下の量が使用される。反応は室温でも行えるが、通常加熱して行う。採用される温度は、下限が30℃、好ましくは50℃、上限は使用する塩素化試剤の還流温度である。
【0061】
反応後は、過剰に使用した塩素化試剤を除去する。除去の方法は特に制限されず、蒸留、抽出などが適用できる。蒸留により留去する場合には、より効率をあげるために塩素化試剤と共沸組成物を形成する溶媒を添加して留去してもよい。例えば、塩化チオニルを留去する場合には、ベンゼンやトルエンを添加して共沸留去させることができる。得られた酸塩素化物はヘキサンやシクロヘキサン等の無極性溶媒を用いて再結晶することでより純度を高めることができるが、そのような精製操作を行わなくても通常十分高純度なものが得られるので、場合によってはそのまま次の反応工程に使用しても差し支えない。
【0062】
また、核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する方法としては、上記したトリメリット酸の水素化で得られた1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の1,2−ジカルボン酸部分を一度酸無水物環としてから残りのカルボン酸を酸クロリド化する方法の他に、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸に直接塩素化剤を作用させて、酸クロリド化と酸無水物化を同時に行うこともできる。その際は、上記した酸クロリド化の際の塩素化試剤の使用量を変える以外は上記した反応条件をそのまま適用できる。塩素化剤の使用量は、通常下限が2モル等量以上、好ましくは5モル等量以上、さらに好ましくは10モル等量以上である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量以下、好ましくは50モル等量以下の量が使用される。
【0063】
核水素化トリメリット酸無水物、ないし1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸に塩素化剤を作用させて核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する際に、溶媒を用いて実施してもよい。その際使用できる溶媒は、使用する塩素化剤および生成物である核水素化トリメリット酸無水物クロリドが溶解し、塩素化剤が反応しない溶媒であれば制限なく使用できる。使用可能な溶媒の例としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、ガンマブチロラクトンなどのエステル系溶媒、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、等があげられる。中でも、溶解性、安定性の点からトルエンや、ヘプタン、テトラヒドロフランが好ましい。これら溶媒は単独で用いてもよいし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもよい。溶媒の使用量は、基質である核水素化トリメリット酸無水物、ないし1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の質量濃度として、通常下限が5質量%、好ましくは10質量%であり、上限が50質量%、好ましくは40質量%である。
【0064】
このようにして必要に応じて精製を行って得られる核水素化トリメリット酸無水物クロリドの純度は、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。主な不純物としては、酸無水環が開環したトリカルボン酸の複数のカルボキシル基が酸クロリド化を受けて生成するジ酸クロリド体、トリ酸クロリド体(立体異性体を含む)、触媒としてジメチルホルムアミドを使用した場合はこの分解物や、核水素化トリメリット酸のジメチルアミド体などがあるが、これらの存在量は少ない方が好ましく、通常は、5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0065】
次に、上記のようにして得られた核水素化トリメリット酸無水物クロリドとビス(o−アミノフェノール)により、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を製造する方法について具体的に説明するが、これに限定されるものではない。まず、核水素化トリメリット酸無水物クロリド(Amol)を溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓する。この溶液を、ビス(o−アミノフェノール)(0.5×Amol)および適当量の脱酸剤を同一溶媒に溶解したものに、シリンジまたは滴下ロートにてゆっくりと滴下する。滴下終了後、反応混合物を1〜24時間撹拌する。合成に用いた溶媒に対する目的物の溶解度が高い場合には、反応混合物からまず生成した塩酸塩を濾別し、濾液をエバポレーターで溶媒留去し、20〜100℃で24時間真空乾燥して粉末状の粗生成物を得る。目的物の溶解度が低い場合には、目的物を濾別する。脱酸剤としてピリジンを用いた場合はピリジンの塩酸塩との混合物として析出するのでこれを大量の水で洗浄して塩酸塩のみ溶解除去する。次に一部洗浄工程で一部加水分解を受けた粗生成物を20〜100℃で真空乾燥する。このようにして得られた粗生成物を適当な溶媒で再結晶、洗浄、真空乾燥工程を経て重合に供することのできる高純度の該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物が得られる。
【0066】
この反応の際に用いられるビス(o−アミノフェノール)は特に限定されず、目的に応じて選択することができる。使用可能な(o−アミノフェノール)としては、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン等が例として挙げられる。
【0067】
この反応の際、使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(GBL)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応試薬の溶解性、留去のしやすさの観点からアセトン、テトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサンが好適に用いられる。
【0068】
かようなアミド化反応は、−20〜30℃で行われるが、反応選択性を高めて副生成物を抑制するという観点から−20〜0℃で冷却しながら行うことが望ましい。反応温度が30℃よりも高いと一部エステル化等の副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0069】
上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を得る反応は、溶質濃度が5〜50質量%の範囲で行われる。原料の溶解性、副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、好ましくは10〜40質量%の範囲で行われる。
【0070】
反応に用いる脱酸剤としては、特に限定されないが、プロピレンオキサイド等のエポキシ化合物、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が用いられる。反応により塩酸塩が生じず単離工程が簡略化されるという観点からプロピレンオキサイドが好適に用いられる。
【0071】
反応により生成した沈殿物は、脱酸剤としてピリジンを使用した場合、水溶性のピリジン塩酸塩を含んでいる。例えば溶媒としてテトラヒドロフランを用いた場合、ピリジン塩酸塩は殆どその溶媒に溶解しないため、反応溶液を濾過するだけで、塩酸塩をほぼ完全に分離することができる。通常、目的物の溶解度が高い場合、目的物は濾液中に溶解しているので、濾液から溶媒を留去し、適当な溶媒から再結晶するだけで高収率で十分高い純度の目的物が得られる。
【0072】
一般に用いられているテトラカルボン酸二無水物は、重合に使用する前に無水酢酸等の有機無水酸で処理するか、加熱真空乾燥処理して、空気中の水分を吸湿し、わずかに加水分解して開環した部分を完全に無水化する前処理がしばしば行われる。しかしながら、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の場合、無水酢酸で処理すると、反応条件によってはヒドロキシル基がアセチル化される恐れがあるため注意を要する。また高温で加熱するとヒドロキシアミド基のベンゾオキサゾール環への閉環反応だけでなく、ヒドロキシル基と酸無水物基との間の分子間エステル化反応等、好ましくない副反応が起こる恐れがあるため、100℃以上で加熱処理するべきではない。
【0073】
<イミド基含有脂環式ジカルボン酸の製造方法>
次に、上記式(2)で表される本発明のイミド基含有ジカルボン酸の製造方法について説明するが、これに限定されるものではない。まず、ジアミンAmolを溶媒に溶解して得られた溶液にH−TMA粉末(A×2mol)を加えて室温で1〜24時間攪拌する。この段階では、H−TMA中の酸無水物基とジアミン中のアミノ基が反応してアミド酸基を含むジカルボン酸が生成している。このアミド酸基を閉環反応(イミド化)することで本発明のイミド基含有ジカルボン酸が得られる。上記反応混合物を130〜200℃、好ましくは150〜180℃で30分から5時間加熱還流することでイミド化することができる。また、上記反応溶液中に化学イミド化試薬を添加する方法も適用できる。
【0074】
イミド化の際に用いられる化学イミド化試薬としては、無水酢酸で代表される有機酸無水物とピリジン等の塩基触媒との組み合せが挙げられる。上記のアミド酸基含有ジカルボン酸の溶液中にこの化学イミド化試薬を添加し、室温〜50℃で1〜24時間攪拌することで容易に目的のイミド基含有ジカルボン酸に変換することができる。
【0075】
上記反応の際に使用可能なジアミンとしては、特に限定されるものではなく、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等が挙げられる。これら芳香族ジアミンを2種類以上併用することもできる。脂肪族ジアミンとしては、鎖状の脂肪族ジアミンや環状の脂肪族ジアミンが挙げられる。環状の脂肪族ジアミンとしては、例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。これら環状の脂肪族ジアミンを2種類以上併用することもできる。鎖状の脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。これら鎖状の脂肪族ジアミンを2種類以上併用することもできる。
【0076】
上記反応の際に使用可能な溶媒は、原料であるジアミンおよびH−TMAを溶解すればよく、特に限定されないが、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。加熱還流によりイミド化を行う場合は沸点の高い溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、DMAc、NMP、m−クレゾール、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド等が好適に用いられる。
【0077】
上記のようにして得られたイミド基含有脂環式ジカルボン酸は、そのままでもビス(o−アミノフェノール)との重縮合反応に供することは可能であるが、適当な溶媒から再結晶することで更に高純度化することができる。
【0078】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の製造方法>
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。具体的には以下の方法により製造される。まず、脱水した重合溶媒に1成分または多成分からなるジアミンを溶解し、これに本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を、単独又はこれと共重合成分として他のテトラカルボン酸二無水物と組み合わせて、粉末のまま徐々に添加し、メカニカルスターラーを用いて攪拌する。この際、ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の総量とジアミンの総量は実質的に等モルで仕込まれる。ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の粉末を添加する際には、該ヒドロキシアミド基含有脂環式カルボン酸二無水物の粉末をあらかじめ混合した後溶液に添加しても、順次添加しても差し支えない。
【0079】
以下、好ましい具体例について述べる。まずジアミンを重合溶媒に溶解し、これに上記ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を、単独又はこれと共重合成分として他のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物と組み合わせて、粉末のまま徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは5〜60℃で0.5〜100時間、好ましくは1〜50時間攪拌する。この際、溶液中の全モノマー濃度は、1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
【0080】
上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体およびヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製膜性および基板との接着性、これらの熱硬化(環化)物であるポリベンゾオキサゾールイミドの膜靭性の観点から、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましいが、定性的に分子量の大きさを表す固有粘度値が0.2dL/g以上であれば、製膜性、接着性および膜靭性に支障はない。固有粘度値がこの値を下回ると製膜性や膜靭性が急激に低下し、上記産業分野に適用不可となる重大な問題を生じる恐れがある。上記モノマー濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合度が十分高くならず、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびポリベンゾオキサゾールイミド膜が脆弱になる恐れがあり、好ましくない。一方、この範囲より高濃度で重合を行うと、モノマーや生成するポリマーの溶解が不十分となり、重合が均一に進行しなくなる恐れがある。
【0081】
本発明においては、重合に使用する全テトラカルボン酸二無水物中、上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の含有率は、ポジ型パターン形成の観点から5〜100mol%の範囲であり、30〜100mol%の範囲が好ましく、50〜100mol%の範囲が更に好ましい。5mol%未満では、アルカリ水溶液、特にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液に対する溶解速度の著しい低下を招くか、または露光部と未露光部との間の溶解度差が制御不能となり、鮮明な微細パターンの形成が困難となる恐れがあり好ましくない。
【0082】
上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合する際の反応性、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの溶媒溶解性、製膜性およびポリベンゾオキサゾールイミド膜の要求特性を損なわない範囲で、該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物以外で部分的に使用可能なテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。共重合成分として、これらを単独あるいは2種類以上用いてもよい。
【0083】
本発明に係るヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合する際の反応性、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの溶媒溶解性、製膜性およびポリベンゾオキサゾールイミド膜の要求特性を損なわない範囲で使用可能な芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等が例として挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0084】
本発明に係るヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合する際の反応性、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの溶媒溶解性、製膜性およびポリベンゾオキサゾールイミド膜の要求特性を損なわない範囲で使用可能な環状の脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。一方、本発明に係るヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合する際の反応性、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの溶媒溶解性、製膜性およびポリベンゾオキサゾールイミド膜の要求特性を損なわない範囲で使用可能な鎖状の脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0085】
使用可能な重合溶媒としては、特に限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−プチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。
【0086】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体は、重合溶液(ワニス)をそのまま又は適度に希釈して基板上に塗付・乾燥して得られるキャストフィルム、及びワニス中に感光剤等を添加・溶解しこれをキャスト製膜して得られる感光性樹脂組成物膜としての使用形態の他、ワニスを適度に希釈した後、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し、粉末として単離することもできる。
【0087】
本発明のヒドロキシアミド基含有ポリイミド前駆体の膜中には、感光剤の他、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、接着促進剤、湿熱安定化剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤、難燃剤等の添加物を加えることができる。
【0088】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法>
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、上記の方法で得られた上記式(3)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を、ヒドロキシアミド基に影響を与えず(残したまま)、イミド化反応のみを行うことで製造することができる。これは、ヒドロキシアミド基からベンゾオキサゾール環への熱環化反応に要する温度領域が、イミド化反応よりも十分(100℃以上)高いためである。
【0089】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの使用形態は、溶液(ワニス)、キャストフィルム、感光剤等を配合した感光性樹脂組成物膜の他、ワニスを適度に希釈後、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥して得られる粉末である。
【0090】
まず、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスおよび粉末の製造方法について説明する。重合反応により得られた上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のワニスをそのままか、あるいは溶媒で適度に希釈した後、これを窒素雰囲気中で加熱・還流することで、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスを容易に得ることができる。この際の還流温度は120〜220℃で、還流時間は10分〜12時間であり、より好ましくは150〜190℃で1〜5時間である。この際、還流温度が120℃を下回るとイミド化を完結するために著しく長時間を要するため、生産性の点で採用されない。また220℃を越えるとイミド化だけでなく、残すべきヒドロキシアミド基までもが環化し始め、更に生成物が着色しやすくなるため好ましくない。還流温度および時間を制御して、適度にヒドロキシアミド基を環化させ、フェノール性OH基の含有率を制御することも可能である。イミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することができる。
【0091】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合に通常使用される各種重合溶媒に対して極めて高い溶解性を有するため、上記熱イミド化反応後に沈殿することはなく、均一なワニスが得られる。
【0092】
上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製膜性および基板との接着性、これらの熱硬化(環化)物であるポリベンゾオキサゾールイミドの膜靭性の観点から、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの重合度はできるだけ高いことが望ましいが、固有粘度値が0.2dL/g以上であれば、製膜性、接着性及び膜靭性に支障はない。固有粘度値がこの値を下回ると製膜性や膜靭性が急激に低下し、上記産業分野に適用不可となる重大な問題を生じる恐れがある。
【0093】
溶液中でのイミド化後、添加剤や副生成物および溶媒等を除去する目的で、上記のようにして得られたワニスを水やメタノール等の大量の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを粉末として単離することもできる。また、この粉末を上記の各種溶媒に再溶解して再度ワニスとすることもできる。
【0094】
また、上記イミド化反応は、100℃を超える加熱処理に代えて、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のワニス中に、必要に応じてピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン触媒と共に、無水酢酸等の有機無水酸の化学イミド化試薬を添加し、室温〜100℃で10分〜24時間攪拌することによって行うことも可能である。この際、上記した化学イミド化試薬の添加量等の反応条件を調節することで、イミド化率を制御することもできる。しかしながら反応条件によっては該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体中のヒドロキシル基が無水酢酸と反応してアセチル化されるので、アセチル化を避けたい場合は化学イミド化より熱イミド化の方が好ましく採用されるが、ヒドロキシル基を部分的あるいは完全にアセチル化することを目的とする場合は、化学イミド化試薬の添加量等の反応条件を調節することでアセチル化率を制御することも可能である。
【0095】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物成分と、ジアミン成分とを溶媒中高温で反応(ワンポット重合)させることにより、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を単離することなく、一段階で重合することができる。重合反応温度は120〜220℃で、還流時間は10分〜12時間であり、より好ましくは150〜190℃で1〜5時間である。この際、重合温度が120℃を下回ると重合を完結するために著しく長時間を要するため、生産性の点で採用されない。一方、220℃を超えると重合だけでなく、残すべきヒドロキシアミド基までもが環化し始め、更に生成物が着色しやすくなるため好ましくない。重合温度および時間を制御して、適度にヒドロキシアミド基を環化させ、フェノール性OH基の含有率を制御することも可能である。重合反応時の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ―ピコリン等の塩基を添加することができる。
【0096】
ワンポット重合に使用可能な溶媒は、特に限定さないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好適な例として挙げられるが、m-クレゾール等のフェノール系溶媒やNMP等のアミド系溶媒も使用可能である。ワンポット重合後、得られたワニスを水やメタノール等の大量の貧溶媒中に滴下・濾過しポリイミドを粉末として単離することができる。またその粉末を各種溶媒に再溶解してワニスとすることができる。
【0097】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、上記のようにして製造する他、本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸とビス(o−アミノフェノール)をモノマー原料として製造することができる。以下に、その重合方法について具体的に説明するが、特に限定されるものではない。
【0098】
本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸とビス(o−アミノフェノール)より本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを重合する場合、少なくともジカルボン酸成分を活性化して活性アシルに変換しておく必要がある。その方法として、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールとジカルボン酸中のカルボキシル基をあらかじめ反応させてジエステル体として活性化する方法、該ジカルボン酸を酸ハライドに変換する方法、縮合剤の存在下で反応溶液中でカルボキシル基を活性化する方法等が例として挙げられる。この中では酸ハライド法がジカルボン酸の活性が最も高く、より高重合体を与えやすい。この観点から以下に酸ハライド法による重縮合反応について説明する。
【0099】
本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸を、酸ハライド、例えば酸クロリドに変換する方法としては、上記核水素化トリメリット酸無水物を酸クロリド化する際に用いる方法をそのまま適用することができる。即ちN,N−ジメチルホルムアミド等の触媒の存在下で塩化チオニルを用いて容易に酸クロリド化することができる。
【0100】
上記イミド基含有脂環式ジカルボン酸を酸クロリドに変換しておけば、ビス(o−アミノフェノール)と等モル重縮合反応させることが可能であるが、酸クロリドとビス(o−アミノフェノール)中のアミノ基との反応の選択性を高める目的で、以下のような前処理を行なうことができる。まず、重合溶媒に溶解したビス(o−アミノフェノール)に対してピリジン等の酸受容剤の存在下、トリメチルシリルクロライド等のシリル化剤を滴下して、アミノ基およびヒドロキシル基両方をシリル化する。これによりアミノ基は高反応性になる一方、ヒドロキシル基の求核性は消失する。これにより本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの高重合体を容易に得ることができる。
【0101】
上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、以下のような手順で重合する。ピリジン等の塩化水素補足剤およびリチウムクロライド等の無機塩類の存在下、シリル化したビス(o−アミノフェノール)溶液に対して等モルの該イミド基含有脂環式ジカルボン酸クロリドを反応液の温度が上がらない様に徐々に添加する。室温で24時間撹拌後、粘稠で均一な重合溶液が得られる。
【0102】
上記重縮合反応の際に使用可能なビス(o−アミノフェノール)成分としては、特に限定されないが、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン等が例としてあげられる。またこれらは単独でも、2種類以上併用してもよい。
【0103】
使用可能な重合溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトンおよびこれらの混合溶媒が用いられる。上記した溶媒以外で使用可能な重合溶媒としては、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の非プロトン性溶媒および、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0104】
また、本発明ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの重合反応性および要求特性を著しく損なわない範囲で、本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸以外に部分的に使用可能なジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、1,8−アントラセンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が例として挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0105】
ビス(o−アミノフェノール)のテトラシリル化体およびジカルボン酸ジクロリドから得られるシリル化ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの高粘度溶液を、適当に希釈し、大量の水中に沈澱、洗浄することにより、シリル化ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを単離することができる。また、水の代わりに塩酸水溶液又はメタノールを用いて沈澱させることにより、容易に脱シリル化して、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを粉末として単離することができる。
【0106】
次に、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのフィルムの製造方法について説明する。上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のワニスを不溶性ポリイミドフィルム、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体フィルムを基板上にて、真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、180〜300℃、好ましくは200〜280℃で加熱することにより、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのフィルムを作製することができる。この際の加熱条件としてイミド化の閉環反応を十分に行なうという観点から180℃以上の温度、また、ヒドロキシアミド基の環化を抑えるという観点から300℃以下の温度が採用される。また、イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0107】
また、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスを上記基板上に流延・乾燥することで、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのフィルムを作製することができる。この際、乾燥する温度は、溶媒が完全に蒸発・除去されれば特に制限はなく、40〜300℃、好ましくは100〜280℃で乾燥される。
【0108】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド膜中には、感光剤の他、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、接着促進剤、湿熱安定化剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤、難燃剤等の添加物を加えることができる。
【0109】
<ポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法>
次に、上記式(5)で表される反復単位を含有する本発明のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法について説明する。その使用形態は、ワニス、キャストフィルム、感光剤等を配合した感光性樹脂組成物膜、成型体の他、ワニスを適度に希釈後、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥して得られる粉末である。
【0110】
まず、上記ポリベンゾオキサゾールイミドのフィルムの製造方法について説明する。1つの方法は、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を用いる方法である。即ち、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のワニスを、例えば、不溶性ポリイミドフィルム、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のフィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、250〜400℃で、好ましくは270〜350℃で加熱することでイミド化とベンゾオキサゾール化が共に起こり本発明のポリベンゾオキサゾールイミドフィルムを製造することができる。この熱硬化(環化)工程は、真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、処理温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0111】
もう1つの方法は、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを用いる方法である。即ち、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスを、例えば、上記の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのフィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、250〜400℃で、好ましくは270〜350℃で加熱することでヒドロキシアミド基が完全にベンゾオキサゾール環へ変換され、ポリベンゾオキサゾールイミドのフィルムが得られる。この熱硬化(環化)工程は、真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、処理温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0112】
また、本発明のポリベンゾオキサゾールイミドは、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびその前駆体のワニスを、180〜250℃で加熱還流することによっても得ることができる。その際、該ポリベンゾオキサゾールイミドがその溶媒に可溶である場合は均一なワニスとして得られ、不溶である場合は、沈殿として得られる。ポリベンゾオキサゾールイミドの均一なワニスが得られる場合には、これを上記基板上に流延・乾燥することで、ポリベンゾオキサゾールイミドのフィルムを作製することもできる。この際、乾燥する温度は、溶媒が完全に蒸発・除去されれば特に制限はなく、40〜400℃、好ましくは100〜350℃で乾燥される。
【0113】
本発明のポリベンゾオキサゾールイミドは、縮合剤の存在下、上記式(2)で表される本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸とビス(o−アミノフェノール)の等モル重縮合反応(ワンポット重合)によっても製造することができる。以下にその重合方法について説明するがこれに限定されない。
【0114】
本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸と等モル量のビス(o−アミノフェノール)を反応容器中に入れ、重合溶媒を加える。撹拌機で撹拌しながら窒素雰囲気中、100℃から10℃ずつ最終温度まで段階的に昇温(各温度で10分間保持)し、最後に200〜230℃で10分〜2時間保持する。室温まで冷却した後、水中に沈殿させ、洗浄水が中性になるまで大量の水で洗浄後、更にメタノールで洗浄し、最後に100℃で真空乾燥して、上記ポリベンゾオキサゾールの白色沈殿を得る。
【0115】
重合時のモノマー濃度は、5〜30質量%、好ましくは7〜20質量%である。モノマー濃度が5質量%未満では、該ポリベンゾオキサゾールイミドの重合度が十分高くならない場合があり、30質量%を超えると、モノマーが十分溶解せず、均一な溶液が得られないことがある。
【0116】
使用可能な重合溶媒及び縮合剤は、特に制限されないが、縮合剤を兼ねる重合溶媒として、ポリ燐酸又は五酸化燐−メタンスルホン酸が用いられ、特に、ポリ燐酸が好適に用いられる。
【0117】
重合反応は、上記のように徐々に昇温して行うことが好ましく、急激に200℃に昇温するべきでない。さもなければ、本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸における脂環構造が一部分解し、最終的に得られるポリベンゾオキサゾールが著しく着色し、更に重合度が十分高くならない恐れがある。また、重合温度は少なくとも200℃まで昇温することが好ましい。200℃未満の温度で重合反応を行うと、重合度が十分高くならない恐れがある。
【0118】
上記重縮合反応の際に使用可能なビス(o−アミノフェノール)成分としては、特に限定されないが、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン等が例としてあげられる。またこれらは単独でも、2種類以上併用してもよい。
【0119】
また、本発明に係るポリベンゾオキザゾールイミドの重合反応性および要求特性を著しく損なわない範囲で部分的に使用可能なジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、1,8−アントラセンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等が例として挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0120】
ポリ燐酸中、イミド基含有脂環式ジカルボン酸とビス(o−アミノフェノール)より一段階で重合される本発明のポリベンゾオキサゾールイミドにおいては、前駆体を経由しないため、上記のような高温脱水環化反応工程を必要とせず、得られるポリベンゾオキサゾールイミド膜が着色する心配がない。また、この一段階重合工程は、該ポリベンゾオキサゾールイミドの前駆体に相当する本発明のヒドロキシアミド基含有ポリイミドの重合に必要なジカルボン酸成分の活性化やビス(o−アミノフェノール)のシリル化のような煩雑な工程を含まない。
【0121】
本発明のポリベンゾオキサゾールイミドは、骨格中に嵩高い核水素化トリメリットイミド基を有するため、有機溶媒に対して高い溶解性を示す。該ポリベンゾオキサゾールイミドのワニスを不溶性ポリイミドフィルム、シリコン、銅、アルミニウム、ガラス等の基板上に流延し、温風乾燥器中50〜150℃範囲で10分〜数時間乾燥し、更に100〜350℃、好ましくは150℃〜300℃で熱処理することにより、透明で強靭なポリベンゾオキサゾールイミドフィルムを作製することができる。350℃を超える温度での熱処理においては、該ポリベンゾオキサゾールフィルムが著しく着色する恐れがある。フィルムの着色を抑制するために、熱処理を、真空中または窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましいが、あまり高温にしない限り、空気中で行っても重大な問題は生じない。
【0122】
上記ポリベンゾオキサゾールイミドをワニスとする際に用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、使用可能な溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトンおよびこれらの混合溶媒が用いられる。上記した溶媒以外で使用可能な重合溶媒としては、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の非プロトン性溶媒および、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0123】
上記のようにして得られたポリベンゾオキサゾールイミドを、半導体素子の保護膜、例えば、半導体集積回路のバッファーコート膜や層間絶縁膜、及びディスプレー用プラスチック基板として適用するためには、耐熱性の指標であるガラス転移温度が200℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましい。200℃を下回ると、実装時の熱工程においてフィルムの変形、発泡、接着不良など深刻な問題が生ずる恐れがある。また、膜靭性の指標として180°折曲簡易試験により、破断が認められなければ大きな支障はなく、更に、引張試験における破断伸びが5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0124】
本発明のポリベンゾオキサゾールイミド膜中には、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、接着促進剤、湿熱安定化剤、架橋剤、末端封止剤、難燃剤等の添加物を加えることができる。
【0125】
<ポジ型感光性樹脂組成物の製造方法>
次に、本発明に係るポジ型感光性樹脂組成物の製造方法について説明するが、これに限定されるものではない。本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドまたはその前駆体のワニスに、ジアゾナフトキノン(DNQ)系感光剤を添加・溶解して、ポジ型感光性樹脂組成物を製造することができ、更に該ポジ型感光性樹脂組成物を基板上に塗布し、40〜120℃、好ましくは60〜100℃で1分〜3時間温風乾燥して、ポジ型感光性樹脂組成物膜を得ることができる。なお、ポジ型感光性樹脂組成物膜の膜厚は、0.1〜20μmの範囲が好ましい。
【0126】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドまたはその前駆体は、アルカリ溶解性が適度に制御されていることが特徴である。ジアゾナフトキノン系感光剤を分散しない場合は、アルカリ可溶性であるが、溶解抑制作用を持つDNQ系感光剤含有することで、アルカリ不溶性となる。この感光性樹脂組成物膜にフォトマスクを介して紫外線を照射すると露光部におけるDNQ系感光剤が光反応によりアルカリ可溶なインデンカルボン酸に変化するので、露光部のみがアルカリ水溶液に可溶となる。これによって、ポジ型パターン形成が可能となる。
【0127】
DNQ系感光剤としては、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸の低分子ヒドロキシ化合物、例えば、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、2−及び4−メチル−フェノール、4,4’−ヒドロキシープロパンのエステル等を例として挙げられる。
【0128】
このポジ型感光性樹脂組成物膜中に分散するDNQ系感光剤の配合割合は、少なすぎる場合には、露光部と未露光部の溶解度差が小さすぎて、現像によりパターン形成不能となり、多すぎる場合には最終熱硬化物であるポリベンゾオキサゾールイミドの膜物性(ガラス転移温度、膜靭性、熱安定性等)に悪影響を及ぼす恐れがある他、加熱硬化工程時の膜減りが大きいといった問題が生じるので、DNQ系感光剤の含有量は、上記ポジ型感光性樹脂組成物中5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることが更に好ましい。
【0129】
上記ポジ型感光性樹脂組成物の製膜工程は、120℃以下で行うことが好ましい。この温度を超えるとDNQ系感光剤が熱分解し始める恐れがある。例えば60℃で製膜した場合、塗膜中に多量の溶媒が残留している。その場合、露光工程に先立ち80〜120℃で1〜30分間プリベイクして余分な溶媒を除去することは現像時の膜の膨潤や微細パターンの崩れを防止するのに有効である。また塗膜を1〜5分間水中に浸漬することによっても溶媒を抽出・除去できる。
【0130】
上記ポジ型感光性樹脂組成物膜に、フォトマスクを介して高圧水銀灯のg線、h線、i線または混合線を室温で5秒〜1時間照射することによりパターン露光を行い、アルカリ水溶液にてアルカリ現像する。現像の際、使用可能なアルカリ水溶液としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、トリエチルアミン、エタノールアミン等の有機アルカリの他、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機アルカリが挙げられる。多くの電子機器では、残留金属が電気特性に悪影響を及ぼす恐れがあるため、有機アルカリが好適に用いられ、半導体プロセスで通常使用されているTMAH水溶液が好適に用いられる。
【0131】
この際、TMAH水溶液の濃度は0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは通常使用される2.38質量%水溶液をそのまま用いて室温で10秒〜10分間現像し、更に純水でリンスすることにより鮮明なポジ型パターンを得ることができる。
【0132】
現像液およびリンス液には必要に応じて、アルコール類やグリコール類等の水溶性溶媒を添加することができる。
【0133】
<ポリベンゾオキサゾールイミド膜の微細パターンの製造方法>
上記のようにして基板上に形成されたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドまたはその前駆体を含有するポジ型感光性樹脂組成物膜の微細パターンを、空気中、窒素等の不活性ガス雰囲気中あるいは真空中250〜400℃、好ましくは270〜350℃で加熱することで、ポリベンゾオキサゾールイミド膜の鮮明なレリーフパターンが得られる。この際250℃を下回ると閉環反応が不完全となる恐れがあり好ましくなく、400℃を越えるとポリベンゾオキサゾールイミドが一部熱分解したり、溶融してパターン形状が崩れる恐れがあるため、好ましくない。また、加熱硬化工程は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、処理温度が高すぎなければ空気中で行っても、差し支えない。
【実施例】
【0134】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0135】
<赤外線吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300又はFT−IR350)を用い、KBr法にてヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルを測定した。また、透過法にてヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびポリベンゾオキサゾールイミド薄膜(膜厚約5μm)の赤外線吸収(FT−IR)スペクトルを測定した。
【0136】
<1H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物のプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルを測定した。
【0137】
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
本発明で合成したモノマーの融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析(DSC)装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
【0138】
<固有粘度:ηinh(dL/g)>
NMP中、0.5質量%のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドまたはポリベンゾオキサゾールイミドの溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0139】
<ガラス転移温度:Tg(℃)>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリベンゾオキサゾールイミドフィルム(膜厚約20μm)のガラス転移温度を求めた。
【0140】
<線熱膨張係数:CTE(ppm/K)>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリベンゾオキゾールイミドフィルム(膜厚約20μm)のフィルム面方向の線熱膨張係数を求めた。
【0141】
<5%重量減少温度:Td5(℃)>
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリベンゾオキサゾールイミドフィルムの初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0142】
<誘電率:εcal>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ屈折計4T、ナトリウムランプ使用、波長589nm)を用いて、ポリベンゾオキサゾールイミドフィルム(20μm厚)のフィルム面に平行な方向(nin)と垂直な方向、即ち膜厚方向(nout)の屈折率を測定し、平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×nav2により1MHzにおけるポリベンゾオキサゾールイミドフィルムの誘電率(εcal)を算出した。
【0143】
<複屈折:Δn>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、ポリイミド膜に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差からポリベンゾオキサゾールイミドフィルムの複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
【0144】
<吸水率:WA(%)>
50℃で24時間真空乾燥したポリベンゾオキゾールイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分をティッシュペーパーで拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。
【0145】
<弾性率、破断強度および破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリベンゾオキゾールイミドフィルム(膜厚約20μm)の試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力−歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率および応力からそれぞれ破断伸びEb(%)と破断強度を求めた。
【0146】
<光透過率:T%(%)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用い、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルム(膜厚約10μm)の可視・紫外線透過率を200nmから800nmの範囲で測定し、h線(405nm)とg線(435nm)における光透過率を求めた。
【0147】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の合成>
(実施例1)
核水素化トリメリット酸無水物クロリド(44mmol)を、脱水済みのアセトンに溶解し、セプタムキャップでフラスコを密栓した。次に、別のフラスコに3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン(以下ABPSと称する)20mmolをとり、脱水アセトンに溶解し、これに脱酸剤としプロピレンオキシド4.2mL(60mmol)を加えた。この反応の際、全溶質濃度は15重量%であった。塩化ナトリウムを溶かした氷浴中で冷却しながらABPS溶液に核水素化トリメリット酸無水物クロリド溶液をシリンジでゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応混合物を3時間撹拌した。エバポレーターでアセトンを留去して濃縮し、析出した沈殿物を濾別し、トルエンおよびヘキサンで過剰量の核水素化トリメリット酸無水物クロリドを溶解・除去した。これを80℃で12時間真空乾燥して収率52%で白色の生成物を得た。FT−IRスペクトル(図1)および1H−NMRスペクトル(図2)より、生成物は下記式(10)で表される目的のヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物であることが確認された。
【化12】
【0148】
<イミド基含有脂環式ジカルボン酸の合成>
(実施例2)
トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン20mmolをDMAc43mLに溶解して得られた溶液にH−TMA粉末40mmolを加え、室温で12時間攪拌して均一溶液を得た。この反応溶液に無水酢酸15.1mL(160mmol)とピリジン6.5mL(80mmol)の混合溶液をシリンジにて徐々に滴下し、室温で12時間攪拌した。エバポレーションで溶媒を留去して濃縮し、析出した白色固体を濾別して100℃で12時間真空乾燥し、収率78%で粗生成物を得た。これをメタノール/水(体積比:1/1)混合溶媒にて再結晶し、これを濾別して100℃で12時間真空乾燥して白色の生成物を得た(トータルの収率67%)。FT−IRスペクトル(図3)および1H−NMRスペクトル(図4)より、生成物は下記式(11)で表される目的のイミド基含有脂環式ジカルボン酸であることが確認された。また示差走査熱量曲線(図5)において273.5℃にシャープな吸熱ピーク(融点)が観測されたことから、極めて高純度であることが示された。
【化13】
【0149】
(実施例3)
トランス−1,4−シクロヘキサンジアミンの代わりに、2,2−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を用い、実施例2に記載の方法に従って、下記式(12)で表されるイミド基含有脂環式ジカルボン酸を合成した。FT−IRスペクトル及び1H−NMRスペクトルをそれぞれ図6及び図7に示す。
【化14】
【0150】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合、熱イミド化、熱環化、およびポリベンゾオキサゾールイミドの膜特性評価>
(実施例4)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン(以下HFBAPPと称する)5mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したNMPに溶解した後、この溶液に上記式(10)で表される実施例1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物粉末5mmolを加えた。重合反応は、全モノマー濃度が30質量%で開始した。室温で19時間撹拌し、透明且つ均一で粘稠なヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体(固有粘度0.30dL/g)のワニスを得た。このワニスを窒素雰囲気中、160℃で3時間還流してヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスを得た。これを大量のメタノール中に滴下して粉末として単離した生成物のFT−IRスペクトルおよび1H−NMRスペクトルより生成物はヒドロキシアミド基が閉環されることなくイミド化のみ完結しており、目的とするヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドであることが確認された。得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの固有粘度は0.23dL/gであった。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニス(溶媒:NMP、20重量%)は室温で20日間貯蔵しても沈澱、ゲル化は起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。このワニスをガラス基板に塗布、80℃で2時間乾燥して得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルム(膜厚約10μm)は、カットオフ波長311nm、i線(365nm)、h線(405nm)およびg線(435nm)に対する光透過率はそれぞれ73.9%、80.3%、82.1%と極めて高い透明性を示した。同様にしてヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド膜を基板上に製膜後、減圧下280℃で1時間ヒドロキシアミド基の閉環脱水反応を行い、膜厚約20μmのポリベンゾオキサゾールイミド膜を得た。このフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。このフィルムについて動的粘弾性測定を行った結果、234℃にガラス転移点が観測された。また線熱膨張係数は64.7ppm/Kであった。平均屈折率より見積もった誘電率は2.82、複屈折Δnは0.0002、5%重量減少温度は窒素中で463℃、空気中で405℃と高い熱安定性を示した。表1にこれらの物性値をまとめた。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド、及びポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルをそれぞれ図8〜図10に示す。
【0151】
(実施例5)
ジアミン成分としてHFBAPPの代わりに4,4’−オキシジアニリン(以下4,4’−ODAと称する)を用いた以外は実施例4に記載した方法に従って、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合、イミド化、製膜、熱環化を行ってポリベンゾオキサゾールイミド膜を作製した。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体およびヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの固有粘度はそれぞれ0.30dL/g、0.24dL/gであった。得られたポリベンゾオキサゾールイミド膜は180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルムは、実施例4に記載のものと同様、高い透明性を示した。表1に物性値を示す。
【0152】
(実施例6)
テトラカルボン酸二無水物成分として、本発明の式(10)で表されるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を単独で用いる代わりに、これと3,3’、4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(以下ODPAと称する)を共重合成分として使用し(ジアミン成分:4,4’−ODA)、実施例4に記載の方法に従ってヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合、イミド化、製膜、熱環化を行ってポリベンゾオキサゾールイミド膜を作製した。この場合、共重合組成、即ちヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物とODPAのモル比は50:50である。得られたポリベンゾオキサゾールイミド膜は180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルムは、実施例4に記載のものと同様、高い透明性を示した。表1に物性値を示す。
【0153】
(実施例7)
共重合成分として、ODPAの代わりに2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(以下6FDAと称する)を用いた以外は実施例6(ジアミン成分:4,4’−ODA)に記載の方法に従って、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合、イミド化、製膜、熱環化を行ってポリベンゾオキサゾールイミド膜を作製した。この場合、共重合組成、即ちヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物と6FDAのモル比は50:50である。得られたポリベンゾオキサゾールイミド膜は180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルムは、実施例4に記載のものと同様、高い透明性を示した。表1に物性値を示す。
【0154】
(比較例1)
実施例1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の代わりに、類似化合物である上記式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用い、実施例3に記載の方法に従って、本発明の範囲外のヒドロキシアミド基含有ポリイミドを重合した。固有粘度は0.27dL/gであった。これを用いて実施例3に記載の方法に従ってフィルム(膜厚約10μm)を作製したが、極めて脆弱であった。またこのフィルムのi線、h線およびg線における光透過率はそれぞれ、0%、1.6%、37.0%と不十分であった。これは重合の際に本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用しなかったためである。
【0155】
【表1】
【0156】
<ポリリン酸法によるポリベンゾオキサゾールイミドの重合、製膜、および膜物性評価>
(実施例8)
攪拌機付密閉反応容器中に、式(11)で表される実施例2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸10mmolおよびABPS10mmolを入れ、モノマー濃度が10質量%になるようにポリ燐酸を加えた。撹拌機で撹拌しながら窒素気流中、オイルバスにて100℃から10℃ずつ段階的に昇温(各温度で10分間保持)し、最後に200℃で10分時間保持した。反応終了後室温まで冷却し、水中に沈殿させ、洗浄水が中性になるまで大量の水で洗浄した。更にメタノールで洗浄し、最後に100℃で真空乾燥して、ポリベンゾオキサゾールイミドの白色沈殿を得た。N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中、30℃で測定したポリベンゾオキサゾールイミドの固有粘度は1.25dL/gであり、高重合体であった。溶解性試験の結果、NMP以外にもDMAc、DMF、DMSO、GBL、HMPA、m−クレゾール等の様々な溶媒に高い溶解性を示した。次にこのポリベンゾオキサゾールイミドをDMAcに15質量%になるように溶解させ均一・透明な溶液を得た。この溶液をガラス基板上に流延し、80℃で1時間乾燥後、メタノールに浸漬後、更に真空中280℃で1時間熱処理し、透明で可撓性のポリベンゾオキサゾールイミドフィルムを得た。物性値を表2に示す。高いガラス転移温度、高い透明性、および高い膜靭性を同時に達成した。このポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルを図11に示す。
【0157】
(実施例9)
ビス(o−アミノフェノール)成分としてABPSの代わりに2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BAHF)を用いた以外は実施例7に記載した方法に従って、ポリベンゾオキサゾールイミドを重合、フィルムを作製して物性評価を行った。溶解性試験の結果、NMP以外にもDMAc、DMF、DMSO、GBL、HMPA、m−クレゾール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン等の様々な溶媒に高い溶解性を示した。表2に固有粘度および物性値を示す。実施例8に記載のポリベンゾオキサゾールイミドと同様に優れた物性を示した。このポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルを図12に示す。
【0158】
【表2】
【0159】
<ポジ型パターン形成>
(実施例10)
実施例4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスにジアゾナフトキノン系感光剤として2,3,4−トリス(1−オキソ−2−ジアゾナフトキノン−5−スルフォキシ)ベンゾフェノン(東洋合成製、NT−200)を、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの実量に対して30質量%になるように添加し、溶解させた。これをシランカップリング剤で表面処理したガラス基板上に塗布し、60℃で2時間、熱風乾燥器中で乾燥させて、膜厚5μmのポジ型感光性樹脂組成物のフィルムを得た。これを100℃で10分間プリベイク後、フォトマスクを介し、落射式高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製トスキュア251)の3線混合線(365nmでの照射光強度=約150mW/cm2)を20秒間照射した。これを2−プロパノールを10質量%含む2.38重量%TMAH水溶液にて23℃で25秒間現像を行い、水でリンス後、60℃で数分乾燥し、線幅20μmの鮮明なレリーフパターンが得られた。また、熱環化反応後もパターンの崩れはみられなかった。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】実施例1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物のFT−IRスペクトル(KBr法)である。
【図2】実施例1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の1H−NMRスペクトルである。
【図3】実施例2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸のFT−IRスペクトル(KBr法)である。
【図4】実施例2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸の1H−NMRスペクトルである。
【図5】実施例2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸のDSC熱量曲線である。
【図6】実施例3に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸のFT−IRスペクトルである。
【図7】実施例3に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸の1H−NMRスペクトルである。
【図8】実施例4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のFT−IRスペクトルである。
【図9】実施例4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのFT−IRスペクトルである。
【図10】実施例4に記載のポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルである。
【図11】実施例8に記載のポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルである。
【図12】実施例9に記載のポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いi線(365nm)透過率を有するヒドロキシアミド基含有透明ポリイミド又はその前駆体中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有して成るポジ型感光性樹脂組成物、並びに該ポジ型感光性樹脂組成物のパターン露光後、アルカリ現像・洗浄・加熱脱水環化反応工程を経て得られる、半導体素子の保護膜及びフレキシブル液晶ディスプレー(LCD)用プラスチックとして有用なポリベンゾオキサゾールイミド、並びに該ポリベンゾオキサゾールイミドの微細パターンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器における耐熱絶縁材料として、ポリイミドの重要性が益々高まっている。ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線回路(FPC)用基板、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、チップオンフィルム(COF)用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な用途に現在広く利用されている。
【0003】
ポリイミドは、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を、N−メチル−2−ピロリドン等の溶媒中、無触媒で等モル重付加反応させて溶媒可溶性の前駆体(ポリアミド酸)を重合し、この溶液(ワニス)を溶液キャスト製膜・乾燥・加熱脱水閉環反応(イミド化反応)することで容易に製造することができる。製造工程の簡便さに加え、膜純度が極めて高いことから、電気特性の低下を招く恐れのある残留ハロゲンや金属イオン等を嫌う半導体用途に適している。また、入手可能な様々なモノマーを用いて物性改良を行いやすく、近年益々多様化する要求特性に対応しやすいという点においても有利である。
【0004】
半導体チップ表面の保護コーティング材料として、エポキシ樹脂等の封止材の硬化収縮からのチップの保護、ハンダリフロー工程における熱衝撃および封止材料の急激な熱膨張ストレスからのチップの保護、チップ上に無機パッシベーション膜を形成した場合におけるそのクラックの防止、封止材中の無機充填剤に含まれる微量なウランやトリウムからのα線遮蔽によるソフトエラー防止、多層配線回路の層間絶縁、平坦化による配線の断線防止等を目的として、現在、耐熱性のポリイミドが使用されている。
【0005】
保護コーティング材は、ボンディングパッド部にプラズマエッチングやアルカリエッチングによりビアホール形成等の微細加工が施される。プラズマエッチング等の乾式法では一般に解像度に優れているが、設備面でコストがかかるため、アルカリ水溶液等を用いた湿式エッチングがより簡便である。
【0006】
従来、ポリイミド膜の微細加工は、ポリイミド膜上にフォトレジスト層を形成し、現像により露出した部分をヒドラジンや強アルカリでエッチングすることにより行われていたが、ポリイミドあるいはその前駆体自身に感光性能を付与した感光性ポリイミドを用いることで、ポリイミドの微細加工工程が大幅に短縮され、半導体製造速度と歩留率を飛躍的に高めることが可能となる。
【0007】
この目的のため、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸膜中にジアゾナフトキノン系感光剤を分散させたアルカリ現像可能なポジ型感光性ポリイミドが検討されている。しかしながら、ポリアミド酸中のカルボキシル基はpKa値が4〜5と低く、半導体製造工程において現像液として通常使用されているテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液に対するポリアミド酸のアルカリ溶解性が元々高すぎるため、露光部と未露光部との間の十分な溶解度差が得られにくく、高解像度の微細加工には適さないといった問題が指摘されている。
【0008】
近年、高解像度化およびパターン形状の精密制御の観点から、上記のようにアルカリ現像に不向きなポリイミド前駆体の代わりに、適度なpKa値(10程度)を有するフェノール性ヒドロキシ基含有ポリベンゾオキサゾール前駆体を用いてこれとジアゾナフトキノン系感光剤(以下DNQと称する)を組み合わせたポジ型感光性ポリベンゾオキサゾールシステムが注目されている。
【0009】
ポリベンゾオキサゾール前駆体であるポリヒドロキシアミド(以下PHAと称する)の熱閉環反応により得られるポリベンゾオキサゾール(以下PBOと称する)は、ポリイミドと同等な耐熱性を有するのに加え、ポリイミドより優れた低吸水性を有しているという点で、半導体保護コーティング材料として非常に優れた材料である。
【0010】
しかしながら、PBO前駆体であるPHAの製造工程は、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸系ほど単純ではない。ポリアミド酸系では、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒中、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの等モル重付加反応により、無触媒・室温で極めて容易に高重合体が得られるのに対して、PHA系ではジカルボン酸をまず活性アシルとし、これをビス(o−アミノフェノール)と加熱条件で重縮合し、更にPHAの単離・生成工程を必要とするため重合工程がより煩雑である。
【0011】
更に、ビス(o−アミノフェノール)は、工業的に入手可能なものとして、事実上3,3’−ジヒドロキシベンジジン(HAB)か、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BAHF)に限られており、モノマーの選択範囲の広いポリイミド系とは対照的に、益々多様化する半導体用材料の要求特性に対して対応しにくいのが現状である。
【0012】
また、PBO前駆体であるPHAは、多くの場合、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸よりも溶媒に対する溶解性が低い。これは、ポリアミド酸が、溶媒和に有利なカルボキシル基を側鎖に有し、且つ重合過程で生ずる主鎖のアミド結合がパラ/メタランダム連鎖になるため、溶媒に溶けやすい構造であるのに対して、PHA系では、側鎖が溶媒和に不利なヒドロキシ基であり、更にアミド結合がランダム連鎖にはならないためである。
【0013】
上記のように、感光性ポリイミド系と感光性PBO系では一長一短があるが、もしポリイミド系の利点である重合工程の容易さ及び物性改善のしやすさ(入手可能なモノマーの多様さ)と、PBO系の利点である高解像度加工のしやすさを共に有する耐熱材料があれば、上記産業分野において極めて有益な材料を提供しうるが、そのような感光性耐熱材料は殆ど知られていないのが現状である。
【0014】
例えば、下記式(6)で表される反復単位を含有するフェノール性ヒドロキシ基含有ポリイミドとDNQを組み合わせた感光性樹脂組成物を用いることにより、鮮明なポジ型パターンを形成可能であることが知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【化1】
(式(6)中、Xは4価の芳香族基である。)
【0015】
式(6)で表される反復単位を含有するフェノール性ヒドロキシ基含有ポリイミドは、ビス(o−アミノフェノール)をジアミン成分として用いて、テトラカルボン酸二無水物との等モル重付加反応を行うことにより、まず水酸基(OH基)含有ポリアミド酸を重合し、次いで、これを熱イミド化反応させて製造される。しかしながら、通常のPBO前駆体と異なり、アルカリ現像によるポジ型パターン形成後、これを加熱処理してもフェノール性OH基は消滅せずに残存することになる。バッファーコート膜等の半導体用途では、集積回路の永久保護膜として長期にわたって使用されるため、フェノール性OH基の存在が引き金となるイオンマイグレーション、吸水率の増加等の問題の他、予期せぬ様々な不具合を生じる恐れがある。
【0016】
下記式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用いて、下記式(8)で表される反復単位を含有するポリイミド前駆体を重合し、得られたポリイミド前駆体又は該ポリイミド前駆体をイミド化した下記式(9)で表される反復単位を含有する化合物を、DNQと組み合わせた感光性樹脂組成物を用いて、ポジ型パターンを形成する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【化2】
【化3】
【化4】
(式(8)及び式(9)中、Rは2価の芳香族基を表す。)
【0017】
しかしながら、上記式(7)で表されるヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物においては、アミド結合を介して結合している電子供与性のビス(o−アミノフェノール)残基と電子吸引性のトリメリット酸無水物残基とが共に芳香族基であることに基づいて生じる分子内電荷移動相互作用に加え、フェノール性OH基の部分的な酸化により着色しやすいため、これを用いて得られるポリイミド前駆体およびポリイミドのキャストフィルムは、しばしば著しく着色し、i線が殆ど透過しないといった好ましくない結果をもたらす。
【0018】
仮に、ビス(o−アミノフェノール)上に強力な電子吸引基を導入した場合、上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の分子内電荷移動相互作用による着色をある程度抑制することが原理的には可能であるが、BAHF以外のビス(o−アミノフェノール)を用いて得られた着色の少ないヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物は知られていない。
【0019】
上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の分子構造を修飾して分子内電荷移動相互作用を抑制することが可能であれば、感光性樹脂組成物とした際の感度の向上(i線露光時の照射時間の短縮)が期待される。
【0020】
ポリイミド前駆体やポリベンゾオキサゾール前駆体とDNQを組み合わせたポジ型感光性樹脂組成物を半導体素子のバッファーコート膜用材料として適用する場合、アルカリ現像によるポジ型パターン形成後、通常、高温での加熱硬化(熱環化)する工程が行われる。特にポリベンゾオキサゾール前駆体系では、熱環化反応の完結に通常300℃又はそれ以上の高温処理を必要とするため、半導体素子保護の観点から、これらの系をバッファーコート膜へ適用することが困難となる場合がある。そのため、より低温で熱環化反応可能なポリベンゾオキサゾール系の研究が盛んに行われている。
【0021】
ポリベンゾオキサゾール前駆体の熱環化反応が酸触媒によって大幅に低温化することが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。しなしながら、未露光領域では加熱環化工程後も酸触媒が残留し、これが半導体素子に深刻な悪影響を及ぼす恐れがあるため、この技術をポリベンゾオキサゾール前駆体系に適用して環化反応を低温化することは困難である。
【0022】
また、上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるヒドロキシアミド基含有ポリイミド前駆体またはヒドロキシアミド基含有ポリイミド系においても、パターン形成後の熱環化工程をより低温で行うことができれば、上記産業分野に有益な材料を提供し得るが、そのような材料は知られていない。
【0023】
【特許文献1】特開平11−100503号公報
【非特許文献1】“Journal of Applied Polymer Science”、1994年、53巻、1513−1524
【非特許文献2】“High Performance Polymer”、2006年、18巻、603−615
【非特許文献3】“Polymer Journal”、2005年、37巻、517−521
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
そこで、本発明の目的は、i線(365nm)において高い透過率を有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド又はその前駆体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド又はその前駆体中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有して成るポジ型感光性樹脂組成物、並びに該ポジ型感光性樹脂組成物の膜をパターン露光した後、アルカリ現像・洗浄・加熱脱水環化反応工程を経て得られる、半導体素子の保護膜およびフレキシブルLCD用プラスチックとして有用なポリベンゾオキサゾールイミド膜、並びに該ポリベンゾオキサゾールイミド膜の微細パターンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、下記式(3)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体または下記式(4)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を分散して得られるポジ型感光性樹脂組成物は優れた感光特性を示し、更にこれを270℃という、従来のポリベンゾオキサゾール前駆体系よりも低温で完全に熱環化することが可能であり、また、それによって得られる下記式(5)で表される反復単位を含有するポリベンゾオキサゾールイミドからなる膜は、250℃以上の高いガラス転移温度を有することから、半導体素子の集積回路の保護膜として有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
即ち、本発明の要旨は以下に示すものである。
【0027】
1.下記一般式(1):
【化5】
(式(1)中、Aは4価の芳香族基を表す。)で表されるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物。
【0028】
2.下記一般式(2):
【化6】
(式(2)中、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表されるイミド基含有脂環式ジカルボン酸。
【0029】
3.要旨1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとの等モル重付加反応によって得られた、下記一般式(3):
【化7】
(式(3)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体。
【0030】
4.下記一般式(4):
【化8】
(式(4)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド。
【0031】
5.下記一般式(5):
【化9】
(式(5)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するポリベンゾオキサゾールイミド。
【0032】
6.要旨3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、イミド化反応させることを特徴とする要旨4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法。
【0033】
7.要旨2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体とを等モル重縮合反応させることを特徴とする要旨4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法。
【0034】
8.要旨3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体又は要旨4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、脱水閉環反応させることを特徴とする要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法。
【0035】
9.要旨2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体とを、縮合剤の存在下、高温にて一段階で等モル重縮合環化反応させることを特徴とする要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法。
【0036】
10.要旨3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体又は要旨4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有して成るポジ型感光性樹脂組成物。
【0037】
11.要旨10に記載のポジ型感光性樹脂組成物の膜をパターン露光及びアルカリ現像した後、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、脱水閉環反応させることを特徴とする要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミド膜の微細パターンの製造方法。
【0038】
12.要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドを含有してなる半導体素子の保護膜。
【0039】
13.要旨5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドを含有してなるディスプレー用プラスチック基板。
【発明の効果】
【0040】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物は、ジアミンと高い重合反応性を示し、高重合度のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体および対応するポリイミドを与える。また、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体および対応するポリイミド中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を分散して得られる感光性樹脂組成物は、高解像度のポジ型パターン形成が可能であり、更に、従来のポリベンゾオキサゾール前駆体系より低温で加熱硬化(脱水環化反応)させることができる。更に、かようにして得られるポリベンゾオキサゾールイミド膜は、250℃以上の高ガラス転移温度を有することから、集積回路のバッファーコート膜として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
<分子設計>
まず、上記式(4)で表される反復単位を含有する本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド及び上記式(3)で表される反復単位を含有するその前駆体を重合するために用いられるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物モノマーについて説明する。本発明によれば、下記式(1)で表されるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用することで、上記要求特性を満たす感光材料を得ることができる。
【化10】
(式(1)中、Aは4価の芳香族基を表す。)
【0042】
本発明によれば、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物は、トリメリット酸無水物(以下TMAと称する)又はその誘導体を用いる代わりに、核水素化トリメリット酸(以下H−TMAと称する)又はその誘導体を用い、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体と反応させて容易に製造することができる。H−TMAを使用することで分子内電荷移動相互作用を完全に妨げ、TMAを用いた場合とは対称的に殆ど無着色の該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を製造することができる。このヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いることでジアミンとの反応により実質的に無色透明なヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびその前駆体を得ることができる。これらを用いて作製したフィルム(膜)の特徴は、通常使用される照射光源である高圧水銀の輝線、即ちi線(365nm)において、極めて高い光透過率を有することである。膜を構成する樹脂の光透過率が低いと、照射紫外線が膜中に分散している感光剤に効率的に吸収されず、パターン形成に必要な紫外線照射時間の著しい増加(感度の低下)を招く恐れがあるが、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびその前駆体ではそのような問題はない。
【0043】
また、上記式(4)で表される反復単位を含有する本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、下記式(2)で表される本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体との等モル重縮合反応により製造することもできる。
【化11】
(式(2)中、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)
【0044】
上記イミド基含有脂環式ジカルボン酸は、H−TMAとジアミンから容易に製造することができる。式(2)中、Bはジアミン残基であり、2価の芳香族基または脂肪族基を表す。上記イミド基含有脂環式ジカルボン酸の製造時に使用するジアミン成分が、脂肪族又は芳香族であることに関わりなく、実質的に無着色の該ジカルボン酸を得ることができる。これは、式(2)中のBがたとえ芳香族基であっても、イミド基がシクロヘキサン環上に結合していることで、分子内電荷移動相互作用が完全に妨害されるためである。更に、上記イミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体との等モル重縮合反応により得られる本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、極めて高い透明性を示す。
【0045】
本発明の特徴は、上記式(3)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を溶液中、温和な条件で加熱処理することで、ヒドロキシアミド基に影響を与えることなく(環化させずに)、熱イミド化のみ行うことで、上記式(4)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを製造することができ、更には、例えばポジ型パターン形成後に、イミド化温度より高温で熱処理することでヒドロキシアミド基をベンゾオキサゾール環へ完全に変換することができるという点にある。このように最終的にはフェノール性OH基を完全に消失させることができるため、半導体素子の保護膜として適用した際に、イオンマイグレーションや吸水が原因となって引き起こされる予期せぬ深刻な問題を回避することができる。
【0046】
本発明のもう一つの特徴は、通常のポリベンゾオキサゾール前駆体系よりも低い熱処理温度で熱環化(オキサゾール環形成)が可能である点である。このような「低温環化」は、式(4)で表される反復単位を含有する本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドにおいて、ビス(o−アミノフェノール)残基とアミド基を介して結合しているカルボン酸残基が芳香族ではなく脂環族であることに基づいている。
【0047】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドとDNQを組み合わせ、溶液キャスト法により感光性樹脂組成物膜を作製する場合、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)やN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶媒に対して高い溶解性且つワニスの安定性(ゲル化等を引き起こさないこと)を有する必要がある。一般に、芳香族ポリイミドはイミド基同士の強い分子間力に由来して溶媒溶解性に乏しいが、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、嵩高い核水素化トリメリットイミド基の存在によりイミド基間分子間相互作用が通常より弱められ、結果として高い溶媒溶解性を保持している。
【0048】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのもう一つの特徴は、その骨格中にフェノール性OH基に加え、イミド基を含んでいるため、アルカリ水溶液に対する溶解性が適度に制御されている点にある。従って高解像度のポジ型パターン形成に有利である。
【0049】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを熱環化して得られるポリベンゾオキサゾールイミドは、実質的に無色透明で、溶液加工性(厚膜形成能)が高く、高いガラス転移温度を有するため、フレキシブルディスプレー用プラスチック基板への適用が可能である。核水素化トリメリットイミド基の存在は溶媒溶解性を保持しながら、適度な分子間力を有するため、上記用途において要求されるガスバリヤー性の改善も期待される。
【0050】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法>
該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。具体的にはその原料であるビス(o−アミノフェノール)と核水素化トリメリット酸無水物(H−TMA)の誘導体を用いてアミド化反応を行う。この際適用できる方法として、ビス(o−アミノフェノール)のアミノ基とH−TMAのカルボキシル基を高温で直接脱水反応させるか、亜燐酸トリフェニル/ピリジンやジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤を用いてアミド化する方法、H−TMAのカルボキシル基を酸ハライドに変換し、これとビス(o−アミノフェノール)とを脱酸剤(塩基)の存在下で反応させる方法(酸ハライド法)等が挙げられる。上述の方法の中でも酸ハライド法が経済性、反応性の点で好ましく適用できる。
【0051】
酸ハライド法を適用する場合、核水素化トリメリット酸無水物クロリドが好適に用いられる。これとビス(o−アミノフェノール)を反応させる際に、反応の選択性を高める意味でシリル化剤を用いることもできる。即ち、ビス(o−アミノフェノール)中のヒドロキシル基への反応(エステル化反応)を避けるため、ビス(o−アミノフェノール)中のアミノ基およびヒドロキシル基の両方をシリル化剤を用いてシリル化することで、シリル化ヒドロキシル基は反応性を失い、アミド化反応を選択的に行うことができる。通常、−20〜0℃のような低温で反応を行うことで実質的にアミド化反応を選択的に行うことができる。また、リチウムクロライドのような塩を添加することもアミド化反応を優先的に行うために有効な方法の1つである。
【0052】
次に、該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の酸ハライド法による合成方法について具体的に説明するが、特に限定されるものではない。まず核水素化トリメリット酸を酸無水物とし、次いで酸クロリドに変換して核水素化トリメリット酸無水物クロリドを合成する。
【0053】
核水素化トリメリット酸無水物の製造方法は、公知公用の方法を採用することができ、特に限定されない。核水素化トリメリット酸無水物の製造方法の具体例としては、トリメリット酸、又はトリメリット酸無水物を水素化する事で得ることができる。あるいは、トリメリット酸のエステル化物を核水素化し、その後エステル部分を加水分解、分子内脱水して酸無水物化する事でも製造することができる。具体的には、例えば米国特許出願公開第5412108号明細書においてトリメリット酸無水物を核水素化することにより製造できることが開示されている。該米国出願公開明細書においては、核水素化に使用可能な水素化触媒として、Rh金属がある特定の担体に担持されたRh触媒を用いることが有利であるとされているが、この他にもPd,Ru,Ni,Ptなどの芳香核を水素化できる金属を使用した触媒であれば特に制限なく使用することができる。これら金属触媒は、担体に担持されていても、金属単独で使用することも可能であり、さらにはこれら金属に必要に応じて他の成分を添加して用いてもよい。
【0054】
核水素化反応を行うと、通常、シクロヘキサン環上の3つの置換基については4種の立体異性体(光学異性体も含めれば8種)の混合物となる。これらの立体異性体については、このまま混合物のまま次の反応に使用しても良いし、再結晶化などの精製を行うことによって単一、もしくは特定の異性体の濃度を高めてから使用しても良い。また、特定の異性体を選択的に得る方法としては、例えば、米国特許出願公開第5412108号明細書に記載の方法などを用いると3つの置換基がすべてシスに制御された生成物を主成分として得ることができる。この場合、すべてシスの異性体の純度は、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0055】
核水素化反応後、水素化触媒の金属が一部溶出することがあるが、用途によっては溶出した金属を除去することが望ましい。溶出した金属は例えば、ゼータ電位フィルターやイオン交換樹脂などを通すことによって除去もしくは減少させることが可能である。こうして得られた水素化トリメリット酸中に含まれる金属量は、通常は1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0056】
トリメリット酸の核水素化反応後の生成物において、一部又はすべての1,2−ジカルボン酸無水物環部分が開環して1,2−ジカルボン酸となった場合には、減圧下加熱処理をすることにより1,2−ジカルボン酸部分を酸無水物環に変換しても良い。その際採用される温度は、下限が50℃以上、好ましくは120℃以上であり、上限が250℃以下、好ましくは200℃以下である。その際採用される減圧度は、下限の制限はなく、上限は0.1MPa、好ましくは0.05MPaである。
【0057】
1,2−ジカルボン酸部分を酸無水物環に変換する方法としては、上記した減圧下に加熱する方法の他に有機酸の酸無水物と処理する方法も採用することができる。その際に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。その際採用される温度は、下限が30℃、好ましくは50℃、上限が200℃、好ましくは150℃である。このようにして得られる酸無水物環を持つ化合物の割合は、核水素化トリメリット酸及びその酸無水物の合計中、通常95モル%以上、好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。
【0058】
次に、核水素化トリメリット酸無水物を酸クロリドに変換する。その合成法としては、カルボン酸から対応する酸クロリドを合成する通常の方法を用いることができる。具体的な例としては、塩化チオニルを用いる方法、オキザリルクロリドを用いる方法、三塩化リンを用いる方法、安息香酸クロリドなどの他の酸クロリドを使用する方法などが挙げられる。中でも過剰に使用した塩素化試剤の留去のしやすさの点から塩化チオニルを用いるのが好ましい。
【0059】
塩化チオニルを用いて核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する方法としては、例えば、特開2004−203792号公報に開示された方法が知られている。また、塩素化剤を用いて核水素化トリメリット酸無水物を塩素化する際、N,N−ジメチルホルムアミドやピリジン等の触媒を用いることもできるが、これらを用いなくても反応に大きな支障はない。触媒の存在により、得られた塩素化物がかえって著しく着色する場合があるので、その場合はこれら触媒を使用しないで製造する方が好ましい。
【0060】
使用する塩素化試剤の量は、反応等量、もしくは過剰量が採用されるが、通常下限が1モル等量以上、好ましくは5モル等量以上、さらに好ましくは10モル等量以上である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量以下、好ましくは50モル等量以下の量が使用される。反応は室温でも行えるが、通常加熱して行う。採用される温度は、下限が30℃、好ましくは50℃、上限は使用する塩素化試剤の還流温度である。
【0061】
反応後は、過剰に使用した塩素化試剤を除去する。除去の方法は特に制限されず、蒸留、抽出などが適用できる。蒸留により留去する場合には、より効率をあげるために塩素化試剤と共沸組成物を形成する溶媒を添加して留去してもよい。例えば、塩化チオニルを留去する場合には、ベンゼンやトルエンを添加して共沸留去させることができる。得られた酸塩素化物はヘキサンやシクロヘキサン等の無極性溶媒を用いて再結晶することでより純度を高めることができるが、そのような精製操作を行わなくても通常十分高純度なものが得られるので、場合によってはそのまま次の反応工程に使用しても差し支えない。
【0062】
また、核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する方法としては、上記したトリメリット酸の水素化で得られた1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の1,2−ジカルボン酸部分を一度酸無水物環としてから残りのカルボン酸を酸クロリド化する方法の他に、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸に直接塩素化剤を作用させて、酸クロリド化と酸無水物化を同時に行うこともできる。その際は、上記した酸クロリド化の際の塩素化試剤の使用量を変える以外は上記した反応条件をそのまま適用できる。塩素化剤の使用量は、通常下限が2モル等量以上、好ましくは5モル等量以上、さらに好ましくは10モル等量以上である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量以下、好ましくは50モル等量以下の量が使用される。
【0063】
核水素化トリメリット酸無水物、ないし1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸に塩素化剤を作用させて核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する際に、溶媒を用いて実施してもよい。その際使用できる溶媒は、使用する塩素化剤および生成物である核水素化トリメリット酸無水物クロリドが溶解し、塩素化剤が反応しない溶媒であれば制限なく使用できる。使用可能な溶媒の例としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、ガンマブチロラクトンなどのエステル系溶媒、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、等があげられる。中でも、溶解性、安定性の点からトルエンや、ヘプタン、テトラヒドロフランが好ましい。これら溶媒は単独で用いてもよいし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもよい。溶媒の使用量は、基質である核水素化トリメリット酸無水物、ないし1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の質量濃度として、通常下限が5質量%、好ましくは10質量%であり、上限が50質量%、好ましくは40質量%である。
【0064】
このようにして必要に応じて精製を行って得られる核水素化トリメリット酸無水物クロリドの純度は、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。主な不純物としては、酸無水環が開環したトリカルボン酸の複数のカルボキシル基が酸クロリド化を受けて生成するジ酸クロリド体、トリ酸クロリド体(立体異性体を含む)、触媒としてジメチルホルムアミドを使用した場合はこの分解物や、核水素化トリメリット酸のジメチルアミド体などがあるが、これらの存在量は少ない方が好ましく、通常は、5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0065】
次に、上記のようにして得られた核水素化トリメリット酸無水物クロリドとビス(o−アミノフェノール)により、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を製造する方法について具体的に説明するが、これに限定されるものではない。まず、核水素化トリメリット酸無水物クロリド(Amol)を溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓する。この溶液を、ビス(o−アミノフェノール)(0.5×Amol)および適当量の脱酸剤を同一溶媒に溶解したものに、シリンジまたは滴下ロートにてゆっくりと滴下する。滴下終了後、反応混合物を1〜24時間撹拌する。合成に用いた溶媒に対する目的物の溶解度が高い場合には、反応混合物からまず生成した塩酸塩を濾別し、濾液をエバポレーターで溶媒留去し、20〜100℃で24時間真空乾燥して粉末状の粗生成物を得る。目的物の溶解度が低い場合には、目的物を濾別する。脱酸剤としてピリジンを用いた場合はピリジンの塩酸塩との混合物として析出するのでこれを大量の水で洗浄して塩酸塩のみ溶解除去する。次に一部洗浄工程で一部加水分解を受けた粗生成物を20〜100℃で真空乾燥する。このようにして得られた粗生成物を適当な溶媒で再結晶、洗浄、真空乾燥工程を経て重合に供することのできる高純度の該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物が得られる。
【0066】
この反応の際に用いられるビス(o−アミノフェノール)は特に限定されず、目的に応じて選択することができる。使用可能な(o−アミノフェノール)としては、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン等が例として挙げられる。
【0067】
この反応の際、使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(GBL)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応試薬の溶解性、留去のしやすさの観点からアセトン、テトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサンが好適に用いられる。
【0068】
かようなアミド化反応は、−20〜30℃で行われるが、反応選択性を高めて副生成物を抑制するという観点から−20〜0℃で冷却しながら行うことが望ましい。反応温度が30℃よりも高いと一部エステル化等の副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0069】
上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を得る反応は、溶質濃度が5〜50質量%の範囲で行われる。原料の溶解性、副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、好ましくは10〜40質量%の範囲で行われる。
【0070】
反応に用いる脱酸剤としては、特に限定されないが、プロピレンオキサイド等のエポキシ化合物、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が用いられる。反応により塩酸塩が生じず単離工程が簡略化されるという観点からプロピレンオキサイドが好適に用いられる。
【0071】
反応により生成した沈殿物は、脱酸剤としてピリジンを使用した場合、水溶性のピリジン塩酸塩を含んでいる。例えば溶媒としてテトラヒドロフランを用いた場合、ピリジン塩酸塩は殆どその溶媒に溶解しないため、反応溶液を濾過するだけで、塩酸塩をほぼ完全に分離することができる。通常、目的物の溶解度が高い場合、目的物は濾液中に溶解しているので、濾液から溶媒を留去し、適当な溶媒から再結晶するだけで高収率で十分高い純度の目的物が得られる。
【0072】
一般に用いられているテトラカルボン酸二無水物は、重合に使用する前に無水酢酸等の有機無水酸で処理するか、加熱真空乾燥処理して、空気中の水分を吸湿し、わずかに加水分解して開環した部分を完全に無水化する前処理がしばしば行われる。しかしながら、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の場合、無水酢酸で処理すると、反応条件によってはヒドロキシル基がアセチル化される恐れがあるため注意を要する。また高温で加熱するとヒドロキシアミド基のベンゾオキサゾール環への閉環反応だけでなく、ヒドロキシル基と酸無水物基との間の分子間エステル化反応等、好ましくない副反応が起こる恐れがあるため、100℃以上で加熱処理するべきではない。
【0073】
<イミド基含有脂環式ジカルボン酸の製造方法>
次に、上記式(2)で表される本発明のイミド基含有ジカルボン酸の製造方法について説明するが、これに限定されるものではない。まず、ジアミンAmolを溶媒に溶解して得られた溶液にH−TMA粉末(A×2mol)を加えて室温で1〜24時間攪拌する。この段階では、H−TMA中の酸無水物基とジアミン中のアミノ基が反応してアミド酸基を含むジカルボン酸が生成している。このアミド酸基を閉環反応(イミド化)することで本発明のイミド基含有ジカルボン酸が得られる。上記反応混合物を130〜200℃、好ましくは150〜180℃で30分から5時間加熱還流することでイミド化することができる。また、上記反応溶液中に化学イミド化試薬を添加する方法も適用できる。
【0074】
イミド化の際に用いられる化学イミド化試薬としては、無水酢酸で代表される有機酸無水物とピリジン等の塩基触媒との組み合せが挙げられる。上記のアミド酸基含有ジカルボン酸の溶液中にこの化学イミド化試薬を添加し、室温〜50℃で1〜24時間攪拌することで容易に目的のイミド基含有ジカルボン酸に変換することができる。
【0075】
上記反応の際に使用可能なジアミンとしては、特に限定されるものではなく、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等が挙げられる。これら芳香族ジアミンを2種類以上併用することもできる。脂肪族ジアミンとしては、鎖状の脂肪族ジアミンや環状の脂肪族ジアミンが挙げられる。環状の脂肪族ジアミンとしては、例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。これら環状の脂肪族ジアミンを2種類以上併用することもできる。鎖状の脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。これら鎖状の脂肪族ジアミンを2種類以上併用することもできる。
【0076】
上記反応の際に使用可能な溶媒は、原料であるジアミンおよびH−TMAを溶解すればよく、特に限定されないが、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。加熱還流によりイミド化を行う場合は沸点の高い溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、DMAc、NMP、m−クレゾール、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド等が好適に用いられる。
【0077】
上記のようにして得られたイミド基含有脂環式ジカルボン酸は、そのままでもビス(o−アミノフェノール)との重縮合反応に供することは可能であるが、適当な溶媒から再結晶することで更に高純度化することができる。
【0078】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の製造方法>
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。具体的には以下の方法により製造される。まず、脱水した重合溶媒に1成分または多成分からなるジアミンを溶解し、これに本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を、単独又はこれと共重合成分として他のテトラカルボン酸二無水物と組み合わせて、粉末のまま徐々に添加し、メカニカルスターラーを用いて攪拌する。この際、ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の総量とジアミンの総量は実質的に等モルで仕込まれる。ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の粉末を添加する際には、該ヒドロキシアミド基含有脂環式カルボン酸二無水物の粉末をあらかじめ混合した後溶液に添加しても、順次添加しても差し支えない。
【0079】
以下、好ましい具体例について述べる。まずジアミンを重合溶媒に溶解し、これに上記ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を、単独又はこれと共重合成分として他のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物と組み合わせて、粉末のまま徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは5〜60℃で0.5〜100時間、好ましくは1〜50時間攪拌する。この際、溶液中の全モノマー濃度は、1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
【0080】
上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体およびヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製膜性および基板との接着性、これらの熱硬化(環化)物であるポリベンゾオキサゾールイミドの膜靭性の観点から、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましいが、定性的に分子量の大きさを表す固有粘度値が0.2dL/g以上であれば、製膜性、接着性および膜靭性に支障はない。固有粘度値がこの値を下回ると製膜性や膜靭性が急激に低下し、上記産業分野に適用不可となる重大な問題を生じる恐れがある。上記モノマー濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合度が十分高くならず、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびポリベンゾオキサゾールイミド膜が脆弱になる恐れがあり、好ましくない。一方、この範囲より高濃度で重合を行うと、モノマーや生成するポリマーの溶解が不十分となり、重合が均一に進行しなくなる恐れがある。
【0081】
本発明においては、重合に使用する全テトラカルボン酸二無水物中、上記ヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の含有率は、ポジ型パターン形成の観点から5〜100mol%の範囲であり、30〜100mol%の範囲が好ましく、50〜100mol%の範囲が更に好ましい。5mol%未満では、アルカリ水溶液、特にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液に対する溶解速度の著しい低下を招くか、または露光部と未露光部との間の溶解度差が制御不能となり、鮮明な微細パターンの形成が困難となる恐れがあり好ましくない。
【0082】
上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合する際の反応性、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの溶媒溶解性、製膜性およびポリベンゾオキサゾールイミド膜の要求特性を損なわない範囲で、該ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物以外で部分的に使用可能なテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。共重合成分として、これらを単独あるいは2種類以上用いてもよい。
【0083】
本発明に係るヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合する際の反応性、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの溶媒溶解性、製膜性およびポリベンゾオキサゾールイミド膜の要求特性を損なわない範囲で使用可能な芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等が例として挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0084】
本発明に係るヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合する際の反応性、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの溶媒溶解性、製膜性およびポリベンゾオキサゾールイミド膜の要求特性を損なわない範囲で使用可能な環状の脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。一方、本発明に係るヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合する際の反応性、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの溶媒溶解性、製膜性およびポリベンゾオキサゾールイミド膜の要求特性を損なわない範囲で使用可能な鎖状の脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0085】
使用可能な重合溶媒としては、特に限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−プチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。
【0086】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体は、重合溶液(ワニス)をそのまま又は適度に希釈して基板上に塗付・乾燥して得られるキャストフィルム、及びワニス中に感光剤等を添加・溶解しこれをキャスト製膜して得られる感光性樹脂組成物膜としての使用形態の他、ワニスを適度に希釈した後、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し、粉末として単離することもできる。
【0087】
本発明のヒドロキシアミド基含有ポリイミド前駆体の膜中には、感光剤の他、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、接着促進剤、湿熱安定化剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤、難燃剤等の添加物を加えることができる。
【0088】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法>
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、上記の方法で得られた上記式(3)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を、ヒドロキシアミド基に影響を与えず(残したまま)、イミド化反応のみを行うことで製造することができる。これは、ヒドロキシアミド基からベンゾオキサゾール環への熱環化反応に要する温度領域が、イミド化反応よりも十分(100℃以上)高いためである。
【0089】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの使用形態は、溶液(ワニス)、キャストフィルム、感光剤等を配合した感光性樹脂組成物膜の他、ワニスを適度に希釈後、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥して得られる粉末である。
【0090】
まず、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスおよび粉末の製造方法について説明する。重合反応により得られた上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のワニスをそのままか、あるいは溶媒で適度に希釈した後、これを窒素雰囲気中で加熱・還流することで、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスを容易に得ることができる。この際の還流温度は120〜220℃で、還流時間は10分〜12時間であり、より好ましくは150〜190℃で1〜5時間である。この際、還流温度が120℃を下回るとイミド化を完結するために著しく長時間を要するため、生産性の点で採用されない。また220℃を越えるとイミド化だけでなく、残すべきヒドロキシアミド基までもが環化し始め、更に生成物が着色しやすくなるため好ましくない。還流温度および時間を制御して、適度にヒドロキシアミド基を環化させ、フェノール性OH基の含有率を制御することも可能である。イミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することができる。
【0091】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合に通常使用される各種重合溶媒に対して極めて高い溶解性を有するため、上記熱イミド化反応後に沈殿することはなく、均一なワニスが得られる。
【0092】
上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製膜性および基板との接着性、これらの熱硬化(環化)物であるポリベンゾオキサゾールイミドの膜靭性の観点から、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの重合度はできるだけ高いことが望ましいが、固有粘度値が0.2dL/g以上であれば、製膜性、接着性及び膜靭性に支障はない。固有粘度値がこの値を下回ると製膜性や膜靭性が急激に低下し、上記産業分野に適用不可となる重大な問題を生じる恐れがある。
【0093】
溶液中でのイミド化後、添加剤や副生成物および溶媒等を除去する目的で、上記のようにして得られたワニスを水やメタノール等の大量の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを粉末として単離することもできる。また、この粉末を上記の各種溶媒に再溶解して再度ワニスとすることもできる。
【0094】
また、上記イミド化反応は、100℃を超える加熱処理に代えて、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のワニス中に、必要に応じてピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン触媒と共に、無水酢酸等の有機無水酸の化学イミド化試薬を添加し、室温〜100℃で10分〜24時間攪拌することによって行うことも可能である。この際、上記した化学イミド化試薬の添加量等の反応条件を調節することで、イミド化率を制御することもできる。しかしながら反応条件によっては該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体中のヒドロキシル基が無水酢酸と反応してアセチル化されるので、アセチル化を避けたい場合は化学イミド化より熱イミド化の方が好ましく採用されるが、ヒドロキシル基を部分的あるいは完全にアセチル化することを目的とする場合は、化学イミド化試薬の添加量等の反応条件を調節することでアセチル化率を制御することも可能である。
【0095】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む酸二無水物成分と、ジアミン成分とを溶媒中高温で反応(ワンポット重合)させることにより、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を単離することなく、一段階で重合することができる。重合反応温度は120〜220℃で、還流時間は10分〜12時間であり、より好ましくは150〜190℃で1〜5時間である。この際、重合温度が120℃を下回ると重合を完結するために著しく長時間を要するため、生産性の点で採用されない。一方、220℃を超えると重合だけでなく、残すべきヒドロキシアミド基までもが環化し始め、更に生成物が着色しやすくなるため好ましくない。重合温度および時間を制御して、適度にヒドロキシアミド基を環化させ、フェノール性OH基の含有率を制御することも可能である。重合反応時の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ―ピコリン等の塩基を添加することができる。
【0096】
ワンポット重合に使用可能な溶媒は、特に限定さないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好適な例として挙げられるが、m-クレゾール等のフェノール系溶媒やNMP等のアミド系溶媒も使用可能である。ワンポット重合後、得られたワニスを水やメタノール等の大量の貧溶媒中に滴下・濾過しポリイミドを粉末として単離することができる。またその粉末を各種溶媒に再溶解してワニスとすることができる。
【0097】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、上記のようにして製造する他、本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸とビス(o−アミノフェノール)をモノマー原料として製造することができる。以下に、その重合方法について具体的に説明するが、特に限定されるものではない。
【0098】
本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸とビス(o−アミノフェノール)より本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを重合する場合、少なくともジカルボン酸成分を活性化して活性アシルに変換しておく必要がある。その方法として、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールとジカルボン酸中のカルボキシル基をあらかじめ反応させてジエステル体として活性化する方法、該ジカルボン酸を酸ハライドに変換する方法、縮合剤の存在下で反応溶液中でカルボキシル基を活性化する方法等が例として挙げられる。この中では酸ハライド法がジカルボン酸の活性が最も高く、より高重合体を与えやすい。この観点から以下に酸ハライド法による重縮合反応について説明する。
【0099】
本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸を、酸ハライド、例えば酸クロリドに変換する方法としては、上記核水素化トリメリット酸無水物を酸クロリド化する際に用いる方法をそのまま適用することができる。即ちN,N−ジメチルホルムアミド等の触媒の存在下で塩化チオニルを用いて容易に酸クロリド化することができる。
【0100】
上記イミド基含有脂環式ジカルボン酸を酸クロリドに変換しておけば、ビス(o−アミノフェノール)と等モル重縮合反応させることが可能であるが、酸クロリドとビス(o−アミノフェノール)中のアミノ基との反応の選択性を高める目的で、以下のような前処理を行なうことができる。まず、重合溶媒に溶解したビス(o−アミノフェノール)に対してピリジン等の酸受容剤の存在下、トリメチルシリルクロライド等のシリル化剤を滴下して、アミノ基およびヒドロキシル基両方をシリル化する。これによりアミノ基は高反応性になる一方、ヒドロキシル基の求核性は消失する。これにより本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの高重合体を容易に得ることができる。
【0101】
上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドは、以下のような手順で重合する。ピリジン等の塩化水素補足剤およびリチウムクロライド等の無機塩類の存在下、シリル化したビス(o−アミノフェノール)溶液に対して等モルの該イミド基含有脂環式ジカルボン酸クロリドを反応液の温度が上がらない様に徐々に添加する。室温で24時間撹拌後、粘稠で均一な重合溶液が得られる。
【0102】
上記重縮合反応の際に使用可能なビス(o−アミノフェノール)成分としては、特に限定されないが、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン等が例としてあげられる。またこれらは単独でも、2種類以上併用してもよい。
【0103】
使用可能な重合溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトンおよびこれらの混合溶媒が用いられる。上記した溶媒以外で使用可能な重合溶媒としては、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の非プロトン性溶媒および、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0104】
また、本発明ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの重合反応性および要求特性を著しく損なわない範囲で、本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸以外に部分的に使用可能なジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、1,8−アントラセンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が例として挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0105】
ビス(o−アミノフェノール)のテトラシリル化体およびジカルボン酸ジクロリドから得られるシリル化ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの高粘度溶液を、適当に希釈し、大量の水中に沈澱、洗浄することにより、シリル化ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを単離することができる。また、水の代わりに塩酸水溶液又はメタノールを用いて沈澱させることにより、容易に脱シリル化して、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを粉末として単離することができる。
【0106】
次に、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのフィルムの製造方法について説明する。上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のワニスを不溶性ポリイミドフィルム、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体フィルムを基板上にて、真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、180〜300℃、好ましくは200〜280℃で加熱することにより、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのフィルムを作製することができる。この際の加熱条件としてイミド化の閉環反応を十分に行なうという観点から180℃以上の温度、また、ヒドロキシアミド基の環化を抑えるという観点から300℃以下の温度が採用される。また、イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0107】
また、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスを上記基板上に流延・乾燥することで、該ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのフィルムを作製することができる。この際、乾燥する温度は、溶媒が完全に蒸発・除去されれば特に制限はなく、40〜300℃、好ましくは100〜280℃で乾燥される。
【0108】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド膜中には、感光剤の他、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、接着促進剤、湿熱安定化剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤、難燃剤等の添加物を加えることができる。
【0109】
<ポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法>
次に、上記式(5)で表される反復単位を含有する本発明のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法について説明する。その使用形態は、ワニス、キャストフィルム、感光剤等を配合した感光性樹脂組成物膜、成型体の他、ワニスを適度に希釈後、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥して得られる粉末である。
【0110】
まず、上記ポリベンゾオキサゾールイミドのフィルムの製造方法について説明する。1つの方法は、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を用いる方法である。即ち、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のワニスを、例えば、不溶性ポリイミドフィルム、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のフィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、250〜400℃で、好ましくは270〜350℃で加熱することでイミド化とベンゾオキサゾール化が共に起こり本発明のポリベンゾオキサゾールイミドフィルムを製造することができる。この熱硬化(環化)工程は、真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、処理温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0111】
もう1つの方法は、本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを用いる方法である。即ち、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスを、例えば、上記の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのフィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、250〜400℃で、好ましくは270〜350℃で加熱することでヒドロキシアミド基が完全にベンゾオキサゾール環へ変換され、ポリベンゾオキサゾールイミドのフィルムが得られる。この熱硬化(環化)工程は、真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、処理温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0112】
また、本発明のポリベンゾオキサゾールイミドは、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびその前駆体のワニスを、180〜250℃で加熱還流することによっても得ることができる。その際、該ポリベンゾオキサゾールイミドがその溶媒に可溶である場合は均一なワニスとして得られ、不溶である場合は、沈殿として得られる。ポリベンゾオキサゾールイミドの均一なワニスが得られる場合には、これを上記基板上に流延・乾燥することで、ポリベンゾオキサゾールイミドのフィルムを作製することもできる。この際、乾燥する温度は、溶媒が完全に蒸発・除去されれば特に制限はなく、40〜400℃、好ましくは100〜350℃で乾燥される。
【0113】
本発明のポリベンゾオキサゾールイミドは、縮合剤の存在下、上記式(2)で表される本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸とビス(o−アミノフェノール)の等モル重縮合反応(ワンポット重合)によっても製造することができる。以下にその重合方法について説明するがこれに限定されない。
【0114】
本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸と等モル量のビス(o−アミノフェノール)を反応容器中に入れ、重合溶媒を加える。撹拌機で撹拌しながら窒素雰囲気中、100℃から10℃ずつ最終温度まで段階的に昇温(各温度で10分間保持)し、最後に200〜230℃で10分〜2時間保持する。室温まで冷却した後、水中に沈殿させ、洗浄水が中性になるまで大量の水で洗浄後、更にメタノールで洗浄し、最後に100℃で真空乾燥して、上記ポリベンゾオキサゾールの白色沈殿を得る。
【0115】
重合時のモノマー濃度は、5〜30質量%、好ましくは7〜20質量%である。モノマー濃度が5質量%未満では、該ポリベンゾオキサゾールイミドの重合度が十分高くならない場合があり、30質量%を超えると、モノマーが十分溶解せず、均一な溶液が得られないことがある。
【0116】
使用可能な重合溶媒及び縮合剤は、特に制限されないが、縮合剤を兼ねる重合溶媒として、ポリ燐酸又は五酸化燐−メタンスルホン酸が用いられ、特に、ポリ燐酸が好適に用いられる。
【0117】
重合反応は、上記のように徐々に昇温して行うことが好ましく、急激に200℃に昇温するべきでない。さもなければ、本発明のイミド基含有脂環式ジカルボン酸における脂環構造が一部分解し、最終的に得られるポリベンゾオキサゾールが著しく着色し、更に重合度が十分高くならない恐れがある。また、重合温度は少なくとも200℃まで昇温することが好ましい。200℃未満の温度で重合反応を行うと、重合度が十分高くならない恐れがある。
【0118】
上記重縮合反応の際に使用可能なビス(o−アミノフェノール)成分としては、特に限定されないが、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン等が例としてあげられる。またこれらは単独でも、2種類以上併用してもよい。
【0119】
また、本発明に係るポリベンゾオキザゾールイミドの重合反応性および要求特性を著しく損なわない範囲で部分的に使用可能なジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、1,8−アントラセンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等が例として挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0120】
ポリ燐酸中、イミド基含有脂環式ジカルボン酸とビス(o−アミノフェノール)より一段階で重合される本発明のポリベンゾオキサゾールイミドにおいては、前駆体を経由しないため、上記のような高温脱水環化反応工程を必要とせず、得られるポリベンゾオキサゾールイミド膜が着色する心配がない。また、この一段階重合工程は、該ポリベンゾオキサゾールイミドの前駆体に相当する本発明のヒドロキシアミド基含有ポリイミドの重合に必要なジカルボン酸成分の活性化やビス(o−アミノフェノール)のシリル化のような煩雑な工程を含まない。
【0121】
本発明のポリベンゾオキサゾールイミドは、骨格中に嵩高い核水素化トリメリットイミド基を有するため、有機溶媒に対して高い溶解性を示す。該ポリベンゾオキサゾールイミドのワニスを不溶性ポリイミドフィルム、シリコン、銅、アルミニウム、ガラス等の基板上に流延し、温風乾燥器中50〜150℃範囲で10分〜数時間乾燥し、更に100〜350℃、好ましくは150℃〜300℃で熱処理することにより、透明で強靭なポリベンゾオキサゾールイミドフィルムを作製することができる。350℃を超える温度での熱処理においては、該ポリベンゾオキサゾールフィルムが著しく着色する恐れがある。フィルムの着色を抑制するために、熱処理を、真空中または窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましいが、あまり高温にしない限り、空気中で行っても重大な問題は生じない。
【0122】
上記ポリベンゾオキサゾールイミドをワニスとする際に用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、使用可能な溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトンおよびこれらの混合溶媒が用いられる。上記した溶媒以外で使用可能な重合溶媒としては、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の非プロトン性溶媒および、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0123】
上記のようにして得られたポリベンゾオキサゾールイミドを、半導体素子の保護膜、例えば、半導体集積回路のバッファーコート膜や層間絶縁膜、及びディスプレー用プラスチック基板として適用するためには、耐熱性の指標であるガラス転移温度が200℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましい。200℃を下回ると、実装時の熱工程においてフィルムの変形、発泡、接着不良など深刻な問題が生ずる恐れがある。また、膜靭性の指標として180°折曲簡易試験により、破断が認められなければ大きな支障はなく、更に、引張試験における破断伸びが5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0124】
本発明のポリベンゾオキサゾールイミド膜中には、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、接着促進剤、湿熱安定化剤、架橋剤、末端封止剤、難燃剤等の添加物を加えることができる。
【0125】
<ポジ型感光性樹脂組成物の製造方法>
次に、本発明に係るポジ型感光性樹脂組成物の製造方法について説明するが、これに限定されるものではない。本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドまたはその前駆体のワニスに、ジアゾナフトキノン(DNQ)系感光剤を添加・溶解して、ポジ型感光性樹脂組成物を製造することができ、更に該ポジ型感光性樹脂組成物を基板上に塗布し、40〜120℃、好ましくは60〜100℃で1分〜3時間温風乾燥して、ポジ型感光性樹脂組成物膜を得ることができる。なお、ポジ型感光性樹脂組成物膜の膜厚は、0.1〜20μmの範囲が好ましい。
【0126】
本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドまたはその前駆体は、アルカリ溶解性が適度に制御されていることが特徴である。ジアゾナフトキノン系感光剤を分散しない場合は、アルカリ可溶性であるが、溶解抑制作用を持つDNQ系感光剤含有することで、アルカリ不溶性となる。この感光性樹脂組成物膜にフォトマスクを介して紫外線を照射すると露光部におけるDNQ系感光剤が光反応によりアルカリ可溶なインデンカルボン酸に変化するので、露光部のみがアルカリ水溶液に可溶となる。これによって、ポジ型パターン形成が可能となる。
【0127】
DNQ系感光剤としては、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸の低分子ヒドロキシ化合物、例えば、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、2−及び4−メチル−フェノール、4,4’−ヒドロキシープロパンのエステル等を例として挙げられる。
【0128】
このポジ型感光性樹脂組成物膜中に分散するDNQ系感光剤の配合割合は、少なすぎる場合には、露光部と未露光部の溶解度差が小さすぎて、現像によりパターン形成不能となり、多すぎる場合には最終熱硬化物であるポリベンゾオキサゾールイミドの膜物性(ガラス転移温度、膜靭性、熱安定性等)に悪影響を及ぼす恐れがある他、加熱硬化工程時の膜減りが大きいといった問題が生じるので、DNQ系感光剤の含有量は、上記ポジ型感光性樹脂組成物中5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることが更に好ましい。
【0129】
上記ポジ型感光性樹脂組成物の製膜工程は、120℃以下で行うことが好ましい。この温度を超えるとDNQ系感光剤が熱分解し始める恐れがある。例えば60℃で製膜した場合、塗膜中に多量の溶媒が残留している。その場合、露光工程に先立ち80〜120℃で1〜30分間プリベイクして余分な溶媒を除去することは現像時の膜の膨潤や微細パターンの崩れを防止するのに有効である。また塗膜を1〜5分間水中に浸漬することによっても溶媒を抽出・除去できる。
【0130】
上記ポジ型感光性樹脂組成物膜に、フォトマスクを介して高圧水銀灯のg線、h線、i線または混合線を室温で5秒〜1時間照射することによりパターン露光を行い、アルカリ水溶液にてアルカリ現像する。現像の際、使用可能なアルカリ水溶液としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、トリエチルアミン、エタノールアミン等の有機アルカリの他、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機アルカリが挙げられる。多くの電子機器では、残留金属が電気特性に悪影響を及ぼす恐れがあるため、有機アルカリが好適に用いられ、半導体プロセスで通常使用されているTMAH水溶液が好適に用いられる。
【0131】
この際、TMAH水溶液の濃度は0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは通常使用される2.38質量%水溶液をそのまま用いて室温で10秒〜10分間現像し、更に純水でリンスすることにより鮮明なポジ型パターンを得ることができる。
【0132】
現像液およびリンス液には必要に応じて、アルコール類やグリコール類等の水溶性溶媒を添加することができる。
【0133】
<ポリベンゾオキサゾールイミド膜の微細パターンの製造方法>
上記のようにして基板上に形成されたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドまたはその前駆体を含有するポジ型感光性樹脂組成物膜の微細パターンを、空気中、窒素等の不活性ガス雰囲気中あるいは真空中250〜400℃、好ましくは270〜350℃で加熱することで、ポリベンゾオキサゾールイミド膜の鮮明なレリーフパターンが得られる。この際250℃を下回ると閉環反応が不完全となる恐れがあり好ましくなく、400℃を越えるとポリベンゾオキサゾールイミドが一部熱分解したり、溶融してパターン形状が崩れる恐れがあるため、好ましくない。また、加熱硬化工程は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、処理温度が高すぎなければ空気中で行っても、差し支えない。
【実施例】
【0134】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0135】
<赤外線吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300又はFT−IR350)を用い、KBr法にてヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルを測定した。また、透過法にてヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドおよびポリベンゾオキサゾールイミド薄膜(膜厚約5μm)の赤外線吸収(FT−IR)スペクトルを測定した。
【0136】
<1H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物のプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルを測定した。
【0137】
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
本発明で合成したモノマーの融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析(DSC)装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
【0138】
<固有粘度:ηinh(dL/g)>
NMP中、0.5質量%のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドまたはポリベンゾオキサゾールイミドの溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0139】
<ガラス転移温度:Tg(℃)>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリベンゾオキサゾールイミドフィルム(膜厚約20μm)のガラス転移温度を求めた。
【0140】
<線熱膨張係数:CTE(ppm/K)>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリベンゾオキゾールイミドフィルム(膜厚約20μm)のフィルム面方向の線熱膨張係数を求めた。
【0141】
<5%重量減少温度:Td5(℃)>
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリベンゾオキサゾールイミドフィルムの初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0142】
<誘電率:εcal>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ屈折計4T、ナトリウムランプ使用、波長589nm)を用いて、ポリベンゾオキサゾールイミドフィルム(20μm厚)のフィルム面に平行な方向(nin)と垂直な方向、即ち膜厚方向(nout)の屈折率を測定し、平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×nav2により1MHzにおけるポリベンゾオキサゾールイミドフィルムの誘電率(εcal)を算出した。
【0143】
<複屈折:Δn>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、ポリイミド膜に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差からポリベンゾオキサゾールイミドフィルムの複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
【0144】
<吸水率:WA(%)>
50℃で24時間真空乾燥したポリベンゾオキゾールイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分をティッシュペーパーで拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。
【0145】
<弾性率、破断強度および破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリベンゾオキゾールイミドフィルム(膜厚約20μm)の試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力−歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率および応力からそれぞれ破断伸びEb(%)と破断強度を求めた。
【0146】
<光透過率:T%(%)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用い、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルム(膜厚約10μm)の可視・紫外線透過率を200nmから800nmの範囲で測定し、h線(405nm)とg線(435nm)における光透過率を求めた。
【0147】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の合成>
(実施例1)
核水素化トリメリット酸無水物クロリド(44mmol)を、脱水済みのアセトンに溶解し、セプタムキャップでフラスコを密栓した。次に、別のフラスコに3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン(以下ABPSと称する)20mmolをとり、脱水アセトンに溶解し、これに脱酸剤としプロピレンオキシド4.2mL(60mmol)を加えた。この反応の際、全溶質濃度は15重量%であった。塩化ナトリウムを溶かした氷浴中で冷却しながらABPS溶液に核水素化トリメリット酸無水物クロリド溶液をシリンジでゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応混合物を3時間撹拌した。エバポレーターでアセトンを留去して濃縮し、析出した沈殿物を濾別し、トルエンおよびヘキサンで過剰量の核水素化トリメリット酸無水物クロリドを溶解・除去した。これを80℃で12時間真空乾燥して収率52%で白色の生成物を得た。FT−IRスペクトル(図1)および1H−NMRスペクトル(図2)より、生成物は下記式(10)で表される目的のヒドロキシアミド基含有テトラカルボン酸二無水物であることが確認された。
【化12】
【0148】
<イミド基含有脂環式ジカルボン酸の合成>
(実施例2)
トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン20mmolをDMAc43mLに溶解して得られた溶液にH−TMA粉末40mmolを加え、室温で12時間攪拌して均一溶液を得た。この反応溶液に無水酢酸15.1mL(160mmol)とピリジン6.5mL(80mmol)の混合溶液をシリンジにて徐々に滴下し、室温で12時間攪拌した。エバポレーションで溶媒を留去して濃縮し、析出した白色固体を濾別して100℃で12時間真空乾燥し、収率78%で粗生成物を得た。これをメタノール/水(体積比:1/1)混合溶媒にて再結晶し、これを濾別して100℃で12時間真空乾燥して白色の生成物を得た(トータルの収率67%)。FT−IRスペクトル(図3)および1H−NMRスペクトル(図4)より、生成物は下記式(11)で表される目的のイミド基含有脂環式ジカルボン酸であることが確認された。また示差走査熱量曲線(図5)において273.5℃にシャープな吸熱ピーク(融点)が観測されたことから、極めて高純度であることが示された。
【化13】
【0149】
(実施例3)
トランス−1,4−シクロヘキサンジアミンの代わりに、2,2−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を用い、実施例2に記載の方法に従って、下記式(12)で表されるイミド基含有脂環式ジカルボン酸を合成した。FT−IRスペクトル及び1H−NMRスペクトルをそれぞれ図6及び図7に示す。
【化14】
【0150】
<ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合、熱イミド化、熱環化、およびポリベンゾオキサゾールイミドの膜特性評価>
(実施例4)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン(以下HFBAPPと称する)5mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したNMPに溶解した後、この溶液に上記式(10)で表される実施例1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物粉末5mmolを加えた。重合反応は、全モノマー濃度が30質量%で開始した。室温で19時間撹拌し、透明且つ均一で粘稠なヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体(固有粘度0.30dL/g)のワニスを得た。このワニスを窒素雰囲気中、160℃で3時間還流してヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスを得た。これを大量のメタノール中に滴下して粉末として単離した生成物のFT−IRスペクトルおよび1H−NMRスペクトルより生成物はヒドロキシアミド基が閉環されることなくイミド化のみ完結しており、目的とするヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドであることが確認された。得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの固有粘度は0.23dL/gであった。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニス(溶媒:NMP、20重量%)は室温で20日間貯蔵しても沈澱、ゲル化は起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。このワニスをガラス基板に塗布、80℃で2時間乾燥して得られたヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルム(膜厚約10μm)は、カットオフ波長311nm、i線(365nm)、h線(405nm)およびg線(435nm)に対する光透過率はそれぞれ73.9%、80.3%、82.1%と極めて高い透明性を示した。同様にしてヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド膜を基板上に製膜後、減圧下280℃で1時間ヒドロキシアミド基の閉環脱水反応を行い、膜厚約20μmのポリベンゾオキサゾールイミド膜を得た。このフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。このフィルムについて動的粘弾性測定を行った結果、234℃にガラス転移点が観測された。また線熱膨張係数は64.7ppm/Kであった。平均屈折率より見積もった誘電率は2.82、複屈折Δnは0.0002、5%重量減少温度は窒素中で463℃、空気中で405℃と高い熱安定性を示した。表1にこれらの物性値をまとめた。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド、及びポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルをそれぞれ図8〜図10に示す。
【0151】
(実施例5)
ジアミン成分としてHFBAPPの代わりに4,4’−オキシジアニリン(以下4,4’−ODAと称する)を用いた以外は実施例4に記載した方法に従って、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合、イミド化、製膜、熱環化を行ってポリベンゾオキサゾールイミド膜を作製した。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体およびヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの固有粘度はそれぞれ0.30dL/g、0.24dL/gであった。得られたポリベンゾオキサゾールイミド膜は180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルムは、実施例4に記載のものと同様、高い透明性を示した。表1に物性値を示す。
【0152】
(実施例6)
テトラカルボン酸二無水物成分として、本発明の式(10)で表されるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を単独で用いる代わりに、これと3,3’、4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(以下ODPAと称する)を共重合成分として使用し(ジアミン成分:4,4’−ODA)、実施例4に記載の方法に従ってヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合、イミド化、製膜、熱環化を行ってポリベンゾオキサゾールイミド膜を作製した。この場合、共重合組成、即ちヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物とODPAのモル比は50:50である。得られたポリベンゾオキサゾールイミド膜は180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルムは、実施例4に記載のものと同様、高い透明性を示した。表1に物性値を示す。
【0153】
(実施例7)
共重合成分として、ODPAの代わりに2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(以下6FDAと称する)を用いた以外は実施例6(ジアミン成分:4,4’−ODA)に記載の方法に従って、ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合、イミド化、製膜、熱環化を行ってポリベンゾオキサゾールイミド膜を作製した。この場合、共重合組成、即ちヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物と6FDAのモル比は50:50である。得られたポリベンゾオキサゾールイミド膜は180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドフィルムは、実施例4に記載のものと同様、高い透明性を示した。表1に物性値を示す。
【0154】
(比較例1)
実施例1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の代わりに、類似化合物である上記式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用い、実施例3に記載の方法に従って、本発明の範囲外のヒドロキシアミド基含有ポリイミドを重合した。固有粘度は0.27dL/gであった。これを用いて実施例3に記載の方法に従ってフィルム(膜厚約10μm)を作製したが、極めて脆弱であった。またこのフィルムのi線、h線およびg線における光透過率はそれぞれ、0%、1.6%、37.0%と不十分であった。これは重合の際に本発明のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用しなかったためである。
【0155】
【表1】
【0156】
<ポリリン酸法によるポリベンゾオキサゾールイミドの重合、製膜、および膜物性評価>
(実施例8)
攪拌機付密閉反応容器中に、式(11)で表される実施例2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸10mmolおよびABPS10mmolを入れ、モノマー濃度が10質量%になるようにポリ燐酸を加えた。撹拌機で撹拌しながら窒素気流中、オイルバスにて100℃から10℃ずつ段階的に昇温(各温度で10分間保持)し、最後に200℃で10分時間保持した。反応終了後室温まで冷却し、水中に沈殿させ、洗浄水が中性になるまで大量の水で洗浄した。更にメタノールで洗浄し、最後に100℃で真空乾燥して、ポリベンゾオキサゾールイミドの白色沈殿を得た。N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中、30℃で測定したポリベンゾオキサゾールイミドの固有粘度は1.25dL/gであり、高重合体であった。溶解性試験の結果、NMP以外にもDMAc、DMF、DMSO、GBL、HMPA、m−クレゾール等の様々な溶媒に高い溶解性を示した。次にこのポリベンゾオキサゾールイミドをDMAcに15質量%になるように溶解させ均一・透明な溶液を得た。この溶液をガラス基板上に流延し、80℃で1時間乾燥後、メタノールに浸漬後、更に真空中280℃で1時間熱処理し、透明で可撓性のポリベンゾオキサゾールイミドフィルムを得た。物性値を表2に示す。高いガラス転移温度、高い透明性、および高い膜靭性を同時に達成した。このポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルを図11に示す。
【0157】
(実施例9)
ビス(o−アミノフェノール)成分としてABPSの代わりに2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BAHF)を用いた以外は実施例7に記載した方法に従って、ポリベンゾオキサゾールイミドを重合、フィルムを作製して物性評価を行った。溶解性試験の結果、NMP以外にもDMAc、DMF、DMSO、GBL、HMPA、m−クレゾール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン等の様々な溶媒に高い溶解性を示した。表2に固有粘度および物性値を示す。実施例8に記載のポリベンゾオキサゾールイミドと同様に優れた物性を示した。このポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルを図12に示す。
【0158】
【表2】
【0159】
<ポジ型パターン形成>
(実施例10)
実施例4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのワニスにジアゾナフトキノン系感光剤として2,3,4−トリス(1−オキソ−2−ジアゾナフトキノン−5−スルフォキシ)ベンゾフェノン(東洋合成製、NT−200)を、上記ヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの実量に対して30質量%になるように添加し、溶解させた。これをシランカップリング剤で表面処理したガラス基板上に塗布し、60℃で2時間、熱風乾燥器中で乾燥させて、膜厚5μmのポジ型感光性樹脂組成物のフィルムを得た。これを100℃で10分間プリベイク後、フォトマスクを介し、落射式高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製トスキュア251)の3線混合線(365nmでの照射光強度=約150mW/cm2)を20秒間照射した。これを2−プロパノールを10質量%含む2.38重量%TMAH水溶液にて23℃で25秒間現像を行い、水でリンス後、60℃で数分乾燥し、線幅20μmの鮮明なレリーフパターンが得られた。また、熱環化反応後もパターンの崩れはみられなかった。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】実施例1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物のFT−IRスペクトル(KBr法)である。
【図2】実施例1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の1H−NMRスペクトルである。
【図3】実施例2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸のFT−IRスペクトル(KBr法)である。
【図4】実施例2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸の1H−NMRスペクトルである。
【図5】実施例2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸のDSC熱量曲線である。
【図6】実施例3に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸のFT−IRスペクトルである。
【図7】実施例3に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸の1H−NMRスペクトルである。
【図8】実施例4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体のFT−IRスペクトルである。
【図9】実施例4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドのFT−IRスペクトルである。
【図10】実施例4に記載のポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルである。
【図11】実施例8に記載のポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルである。
【図12】実施例9に記載のポリベンゾオキサゾールイミド薄膜のFT−IRスペクトルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式(1)中、Aは4価の芳香族基を表す。)で表されるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物。
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】
(式(2)中、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表されるイミド基含有脂環式ジカルボン酸。
【請求項3】
請求項1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとの等モル重付加反応によって得られた、下記一般式(3):
【化3】
(式(3)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体。
【請求項4】
下記一般式(4):
【化4】
(式(4)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド。
【請求項5】
下記一般式(5):
【化5】
(式(5)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するポリベンゾオキサゾールイミド。
【請求項6】
請求項3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、イミド化反応させることを特徴とする請求項4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体とを等モル重縮合反応させることを特徴とする請求項4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体又は請求項4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、脱水閉環反応させることを特徴とする請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法。
【請求項9】
請求項2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体とを、縮合剤の存在下、高温にて一段階で等モル重縮合環化反応させることを特徴とする請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法。
【請求項10】
請求項3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体又は請求項4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有して成るポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のポジ型感光性樹脂組成物の膜をパターン露光及びアルカリ現像した後、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、脱水閉環反応させることを特徴とする請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミド膜の微細パターンの製造方法。
【請求項12】
請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドを含有してなる半導体素子の保護膜。
【請求項13】
請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドを含有してなるディスプレー用プラスチック基板。
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式(1)中、Aは4価の芳香族基を表す。)で表されるヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物。
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】
(式(2)中、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表されるイミド基含有脂環式ジカルボン酸。
【請求項3】
請求項1に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとの等モル重付加反応によって得られた、下記一般式(3):
【化3】
(式(3)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体。
【請求項4】
下記一般式(4):
【化4】
(式(4)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド。
【請求項5】
下記一般式(5):
【化5】
(式(5)中、Aは4価の芳香族基を表し、Bは2価の芳香族基又は脂肪族基を表す。)で表される反復単位を含有するポリベンゾオキサゾールイミド。
【請求項6】
請求項3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体を、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、イミド化反応させることを特徴とする請求項4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体とを等モル重縮合反応させることを特徴とする請求項4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドの製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体又は請求項4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミドを、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、脱水閉環反応させることを特徴とする請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法。
【請求項9】
請求項2に記載のイミド基含有脂環式ジカルボン酸又はその誘導体と、ビス(o−アミノフェノール)又はその誘導体とを、縮合剤の存在下、高温にて一段階で等モル重縮合環化反応させることを特徴とする請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドの製造方法。
【請求項10】
請求項3に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド前駆体又は請求項4に記載のヒドロキシアミド基含有脂環式ポリイミド中に、ジアゾナフトキノン系感光剤を含有して成るポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のポジ型感光性樹脂組成物の膜をパターン露光及びアルカリ現像した後、加熱又は化学イミド化試薬を用いることにより、脱水閉環反応させることを特徴とする請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミド膜の微細パターンの製造方法。
【請求項12】
請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドを含有してなる半導体素子の保護膜。
【請求項13】
請求項5に記載のポリベンゾオキサゾールイミドを含有してなるディスプレー用プラスチック基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−297231(P2008−297231A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143834(P2007−143834)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】
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