説明

ヒーター用部材

【課題】基材およびこの基材を加熱する熱源を備えるヒーター用部材において、素早い加熱応答性を保持し、温度の均一性を向上させ、かつ耐久性を向上させる。
【解決手段】ヒーター用部材1、1Aは、熱伝導率が5.0W/m・K以上の基材3、基材3を加熱する熱源2、および基材3の少なくとも一部を被覆する、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜4、5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒーター用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1においては、発熱する抵抗層の保護層として水素化アモルファス炭素膜もしくはダイヤモンド状炭素膜を用いるヒーター構造が提案されている。またその当該膜が金属やフッ素を添加することを特徴とすると共に、特許文献1の(0011)に記載の通り、そのダイヤモンド状炭素膜は熱伝導率が200~600W/m・Kと非常に高い物性値を利用したことを特徴とすると記載されている。
【特許文献1】特開平7-130456
【0003】
特許文献2においては、食品加熱器の伝熱部にダイヤモンド状炭素膜を被覆することを特徴とすることが記載されている。該特許内で紹介されているダイヤモンド状炭素膜もダイヤモンドに近い1.3~4.4cal/cm・sec・K(151~511W/m・K程度)の熱伝導率を利用したことが記載されている。
【特許文献2】特公平6-40853
【0004】
特許文献3においては、セラミック加熱冷却器が記載されており、そのセラミックの焼結体の熱伝導率が10W/m・K以上であることが特徴であることが明示されている。
【特許文献3】特開平6-66085
【0005】
なお、本出願人は、特許文献4において、100Torr以上の比較高い圧力、特に大気圧付近でもダイヤモンド状炭素膜を良好に形成する方法を初めて開示した。
【特許文献4】特開2004−270022
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、表面に炭素膜を備えた従来の加熱器構造では、被加熱物へと素早く熱を伝えることには優れるが、半面、放熱特性との関係から温度分布を悪くする問題を発生させ、温度の均一性と熱効率とが低下する。放熱特性の影響を受けずに均熱性を維持する観点から、低熱伝導率の基材を使用した場合には、基材の熱伝導が低いことにより、素早い加熱が出来ず、応答性が悪い。
【0007】
ヤカンやポット、アルミホイル等に代表される保温器具、保温カバーにおいては、加工の観点から金属材料により仕上げられており、保温器具、保温カバーの表面から逃げる熱により、保温効率を低下させている。また、3次元形状の金属材料、例えば金型の場合には、平面部と比較して角部からの放熱が激しくなる。このため、3次元形状の金型を全体的に均一な温度に保つことは困難であり、成型品にムラが生じやすい。
【0008】
本発明の課題は、基材およびこの基材を加熱する熱源を備えるヒーター用部材において、素早い加熱応答性を保持し、温度の均一性を向上させ、かつ耐久性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るヒーター用部材は、熱源によって加熱されるべき、熱伝導率が5.0W/m・K以上の基材、および基材の少なくとも一部を被覆する、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱伝導率が5.0W/m・K以上の基材を使用しているので、加熱時に熱源から基材の全体に素早く熱を伝達することができ、加熱時の応答性と熱効率とが高い。これと共に、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜を設けることによって、基材表面からの放熱による熱効率低下と温度の均一性の低下を防止できるので、熱効率が高く、温度均一性が高いヒーター用部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のヒーターにおいては、基材を加熱するための熱源の形態や位置は特に限定されない。好適な実施形態においては、熱源が基材中に設けられており、通電により発熱する発熱体である。このようなヒーターの用途は限定されず、あらゆる用途に使用できるが、高度の温度均一性を要する半導体製造用ヒーターが特に好ましい。
【0012】
また、好適な実施形態においては、熱源が、基材に接する熱源である。このような熱源の種類は特に限定されない。例えば、油、エアー等の熱媒体が循環する加熱フランジであってよい。あるいは、基材中に抵抗発熱体が埋設された別体の加熱装置であってよい。
【0013】
基材の熱伝導率は5.0W/m・K以上とするが、本発明の観点からは、10W/m・K以上とすることが好ましく、30W/m・K以上とすることが更に好ましい。
【0014】
基材は、絶縁性であってよく、あるいは導電性、半導性であってよい。好適な実施形態においては、基材が、窒化アルミニウム、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素およびイットリアからなる群より選ばれた一種以上の材料である。
【0015】
また、基材が、鉄系金属およびアルミニウム系金属からなる群より選ばれている。このような鉄系金属としては、オーステナイト系SUS材、マルテンサイト系SUS材、一般構造用圧延鋼材、機械構造用炭素鉄鋼材、炭素工具鉄鋼材、合金工具鉄鋼材、クロムモリブデン鉄鋼材、硫黄及び硫黄複合快削鉄鋼材、高炭素クロム軸受鉄鋼材、冷間圧延鉄鋼板、熱間圧延鋼板、などがあげられる。
また、アルミニウム系金属としては、アルミニウムの他、Al-Cu系合金、Al-Mg系合金、Al-Mg-Si系合金、Al-Zn-Mg系合金を例示できる。これら以外に、黄銅板、快削黄銅を利用することもできる。
【0016】
アモルファス炭素膜の熱伝導率は、0.3W/m・K以下とすることが更に好ましい。しかし、アモルファス炭素膜の熱伝導率が低くなりすぎると、非加熱物への熱伝達が低下するおそれがあるので、0.001W/m・K以上とすることが好ましい。
【0017】
アモルファス炭素膜の熱伝導率は、熱拡散測定と比熱測定から得られる数値を元に算出される。
【0018】
また、好適な実施形態においては、アモルファス炭素膜の硬度が2GPa以上であり、弾性率が100MPa以上である。これによってヒーター用部材の耐久性を一層改善することができる。
【0019】
また、好適な実施形態においては、アモルファス炭素膜が、金属およびフッ素を実質的に含有しない。これによって、半導体製造用途のように、金属汚染およびフッ素汚染を嫌う用途において好適なヒーター用部材を提供できる。
【0020】
好適な実施形態においては、アモルファス炭素膜の膜厚が0.001μm以上、50.0μm以下である。この膜厚を0.001μm以上とすることによって、本発明による作用効果を得やすい。本発明の作用効果の観点からは、膜厚を0.1μm以上とすることが更に好ましく、0.5μm以上とすることが一層好ましい。また、アモルファス炭素膜の膜厚が大きすぎると、非加熱物への熱伝達が抑制され易くなるので、この観点からは、アモルファス炭素膜の膜厚は50.0μm以下とすることが好ましく、5.0μm以下とすることが更に好ましい。
【0021】
図1(a)に示すヒーター用部材1においては、熱源となる加熱フランジ2の表面2a上に基材3が設置されている。基材3の下側面3bには、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜4が設けられており、上側面3aには、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜5が設けられている。被加熱物はアモルファス炭素膜5側に設置する。
【0022】
図1(b)に示すヒーター用部材1Aにおいては、熱源となる加熱フランジ2の表面2a上に基材3が設置されている。基材3の上側面3aには、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜5が設けられている。被加熱物はアモルファス炭素膜5側に設置する。図1(b)のように、熱源である加熱フランジ2と基材3との間にアモルファス炭素膜を設けない方が、熱源から基材への熱伝達は向上するので好ましい。
【0023】
また、図2(a)、(b)は、基材内部に発熱体を埋設した例を示す。図2(a)のヒーター用部材6は、基材7と、基材7内に埋設された発熱体8と、発熱体8の端部に連結された端子9を備えている。本例では端子9も基材7内部に埋設されている。基材7の加熱面7aに、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜5が形成されており、アモルファス炭素膜5の表面5a側を加熱面とする。基材7の背面7bにはアモルファス炭素膜は形成されていない。
【0024】
このように、熱源を内部に含むセラミックスヒーター用部材に、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜5をコートすることで、加熱面の温度の均一性が増し、プロセス時における面内バラツキを低減することが可能になる。このようなヒーター用部材は半導体プロセス用途に特に好適である。また、このような低伝導率のアモルファス炭素膜は、耐食性が高く、ヒーター用部材表面の耐摩耗性の向上が期待できる。
【0025】
また、熱源を内部に含む、例えば半導体プロセス用のセラミックスヒーター用部材表面(加熱面)に、局所的にアモルファス炭素膜をコートすることにより、保温箇所と冷却箇所を分離することが可能となる。
【0026】
例えば、図2(b)のヒーター用部材6Aは、基材7と、基材7内に埋設された発熱体8と、発熱体8の端部に連結された端子9を備えている。本例では、端子9も基材7内部に埋設されている。基材7の加熱面7aのうち、周縁部ないしエッジ部7cには、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜10が形成されている。加熱面7aのうち中央部7dには、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜を形成しない。なお、側面7eにも、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜11を形成することができる。
【0027】
このようなヒーター用部材では、加熱面における設定温度が高くなるほど、基材7の側面側からの放熱が大きくなり、このために基材7の加熱面の中央部7dの温度が周縁部7cの温度よりも高くなりやすい。ここで、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜10を加熱面7aの周縁部のみに形成することによって、周縁部からの放熱を抑制し、中央部からの放熱を促進することができる。これによって、加熱面全体の温度の均一性を更に改善することが可能となる。このような観点からは、側面上にも、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜11を形成することも好ましい。
【0028】
また、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜は、平坦面上だけでなく、三次元的に湾曲した曲面上にも形成できるし、あるいは互いに交差する複数の平坦面に対しても形成することができる。このため、複雑な形状をした加熱面を有するヒーター用部材に対して、特に好適に適用することができる。
【0029】
このようなヒーター用部材としては、例えばヤカンやポット、アルミホイル等に代表される保温器具、保温カバーや、樹脂成形用の型材を例示できる。例えば、樹脂を成形する過程においては、型内の成形空間の形状に起因し、熱分布の効果が顕著に表れていた。例えば平坦面に比べて角部の方が温度が低くなり、成形不良が多発しやすい。しかし、本発明により、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜を基材に被覆することによって、熱分布の均一性を改善することができ、樹脂成形性を改善できると共に、樹脂の離型性を高めることが可能である。
【0030】
例えば、図2(c)に示す例では、樹脂成形用の型12は、類似形状の一対の型材13の組み合わせからなっている。そして、各型材13の成形面13aは湾曲ないし曲折しており、一対の型材13を組み合わせることによって、異形の成形空間14を形成できる。熱源となるヒーター用部材は、型12の外側に設置されており、これによって成形空間14内の樹脂を加熱し、流動化させる。
【0031】
ここで、本発明に従い、成形空間14に面する型材13の成形面13aを被覆するように、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜15を被覆する。これによって、成形面13aが全体にわたって温度均一化され、特に成形面の角部における温度低下を抑制し、角部周辺における成形不良を減少させることができる。
【0032】
アモルファス炭素膜とは結晶構造をもたないカーボン膜のことを言う。その為、水素含有量や材料硬度、材料弾性率、耐摩耗性、摩擦係数などは非常に幅広い物性値を示す。その中で硬度2GPa以上、弾性率100MPaの物性値及び耐摩耗性や0.2以下の摩擦係数を示すものをダイヤモンド状炭素膜と呼ぶ。ダイヤモンド状炭素膜の製造方法は、化学的気相成長法や物理的気相成長法が知られる。本発明において、アモルファス炭素の種類は特に限定されないが、化学的気相成長法により作製されたダイヤモンド状炭素膜が特に好ましい。
【0033】
従来、ダイヤモンド状炭素膜をヒーター用部材の基材表面に形成することは提案されているが、ダイヤモンド状炭素膜は熱伝導率が著しく高く、従って加熱面の温度を被加熱物に対して伝達することが目的であった。しかし、これでは加熱面における温度分布は大きくなり、また熱効率も著しく低下する。
【0034】
好適な実施形態においては、アモルファス炭素膜が、パルス幅3μsec以下のパルス電圧を印加することによって、化学的気相成長法によって作製されている。
【0035】
この場合には、更に、成膜時の圧力を50Torr以下にすることによって、膜質が著しく向上するのとともに、熱伝導率が著しく低いダイヤモンド状炭素膜が得られる。
【0036】
この実施形態においては、炭素源を含む原料ガスを含む雰囲気下で50Torr以下の圧力下において電極にパルス電圧を印加することにより放電プラズマを生じさせ、基材上に薄膜を生成させる。
【0037】
この実施形態では、炭素源を含む原料ガスを使用する。炭素源としては、以下を例示できる。
メタノ−ル、エタノ−ル等のアルコ−ル
メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン
エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン
ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン
アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン、
ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素
シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン
シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン
【0038】
炭素源に加えて、以下のガスのうち少なくとも一つを併用することができる。
(a) 酸素ガス
(b) 水素ガス
酸素や水素は放電中に原子状となり、ダイヤモンドと同時に生成するグラファイトを除去する効果を有する。
(c) 一酸化炭素、二酸化炭素
(d) 希釈ガス
【0039】
炭素源と二酸化炭素ガスとを使用する場合には、炭素源ガス/二酸化炭素ガスの混合比率を、1/1〜1/3(vol比)とすることが好ましい。
炭素源の原料ガス雰囲気中に占める濃度は、2〜80vol%が好ましい。
酸素ガス又は水素ガスのガス雰囲気中に占める濃度は、70vol%以下であることが好ましい。
【0040】
希釈ガスとしては、周期律第8族の元素のガス及び窒素ガスが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用でき、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノンが挙げられる。希釈ガスの原料ガス雰囲気中に占める濃度は、20〜90vol%が好ましい。
【0041】
更に、放電時のガス雰囲気にジボラン(BH3BH3)、トリメチルボロン(B(CH3)3)、ホスフィン(PH3)、メチルホスフィン(CH3PH2)等のボロン元素、燐元素を含有するガス及び窒素ガスを加えることもできる。
【0042】
本実施形態においては、成膜時の雰囲気圧力は40Torr以下であることが好ましく、30Torr以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本実施形態においては、パルス電圧を電極、あるいは対向電極に印加し、プラズマを生成させる。この際、パルス電圧の波形は特に限定されず、インパルス型、方形波型(矩形波型)、変調型のいずれであってもよい。直流バイアス電圧を同時に印加することができる。
【0044】
本実施形態においては、パルス電圧の周波数は、1kHz〜100kHzであることが好ましい。1kHz未満であると処理に時間がかかりすぎ、100kHzを超えるとアーク放電が発生し易くなる。
電界の大きさは特に限定されないが、例えば対向電極間の電界強度を1〜100kV/cmとすることが好ましい。
【0045】
前述のようなパルス電圧は、急峻パルス発生電源によって印加できる。このような電源としては、磁気圧縮機構を必要としない静電誘導サイリスタ素子を用いた電源、磁気圧縮機構を備えたサイラトロン、ギャップスイッチ、IGBT素子、MOF−FET素子、静電誘導サイリスタ素子を用いた電源を例示できる。
【0046】
図3は、本発明に利用できる装置を模式的に示す図であり、対向電極を用いた例である。
チャンバー21内で成膜を実施する。基材は電極25もしくは電極24の上に設置することができる。図3では電極25上に基材26が設置されており、基材26と電極24とが対向しており、その間の空間に放電プラズマを生じさせる。チャンバー21のガス供給孔22から矢印Aのように原料ガスを供給し、電極間に静電誘導サイリスタ素子を用いた電源23からパルス電圧を印加してプラズマを生じさせる。これによって基材26上に薄膜27を生成させる。使用済のガスは排出孔28から矢印13のように排出される。下部電極25内には冷媒の流通路29を形成し、流通路29内に矢印C、Dのように冷媒を流通させる。これによって、基材26の温度を所定温度、例えば20〜1000℃に制御する。
【実施例】
【0047】
(実験1:アモルファス炭素膜の作製方法と熱伝導率測定)
以下のようにして,アモルファス炭素の薄膜を製造した。電源23としては、静電誘導サイリスタ素子を用いたパルス電源を用いた。チャンバー21はステンレス製である。電極の直径はφ100mmである。電極25の表面には誘電体は設置されておらず、ステンレス製の金属表面である。電極上に厚さ0.5mm、大きさ10×10mmのSi基材26を配置した。
【0048】
油回転ポンプと拡散ポンプを用いて、チャンバー内の圧力が1×10−2Paになるまで排気を行った。次いで、ガス供給孔からアセチレン50sccmを導入しながら、電極にパルス電圧を印加した。パルス電圧の周波数は10kHzであり、立ち上がり時間は300nsecであり、立ち下がり時間は800nsecであり、パルス継続時間は1100nsecである。このパルス電圧を印加して30−6000分間放電を行い、アモルファス炭素膜を成膜した。
【0049】
成膜されたアモルファス炭素膜の膜厚を、接触式の段差計によって測定したところ、膜厚が0.82−13.24μmであることを確認した。また、ラマン分光装置(日本分光社製、「NRS-1000」)を使用して、ラマン分光分析を行った。この結果、波数1350〜1450cm−1にショルダーピークを確認できる共に、1580cm−1周辺にメインピークを確認でき、膜品質が良好であることが判明した。
【0050】
成膜されたそれぞれのアモルファス炭素膜の熱伝導率を測定した。熱拡散測定(アルバック理工製 熱定数測定装置「TC-7000」)は、室温の大気雰囲気下で実施し、比熱測定(セイコーインスツルメンツ製「DSC220C」)は、25℃のアルゴンガス50ml/min気流雰囲気、測定重量33mg、基準試料サファイヤにおいて実施した。得られたアモルファス炭素膜の熱伝導率は0.05−0.11W/m・Kであった。結果を未成膜のシリコン基材と共に表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
(実験2:薄膜の作製方法と保温性確認試験)
次に示すように、アモルファス炭素の薄膜を製造した。電源としては、静電誘導サイリスタ素子を用いたパルス電源を用いた。チャンバーはステンレス製である。電極の直径はφ100mmである。電極の表面には誘電体は設置されておらず、ステンレス製の金属表面である。電極上に厚さ0.5mmのSUS304基材を配置した。
【0053】
油回転ポンプと拡散ポンプを用いて、チャンバー内の圧力が1×10−2Paになるまで排気を行った。次いで、ガス供給孔からアセチレン50sccmを導入しながら、電極にパルス電圧を印加した。パルス電圧の周波数は10kHzであり、立ち上がり時間は300nsecであり、立ち下がり時間は800nsecであり、パルス継続時間は1100nsecである。このパルス電圧を印加して60分間放電を行い、アモルファス炭素膜を成膜した。
【0054】
片面のみアモルファス炭素膜をコートした試料と、両面をコートした試料との2種類の試料を準備した。各試料について、成膜されたアモルファス炭素膜の膜厚を接触式の段差計によい測定したところ、膜厚が2.5~3.0μmであることを確認した。またラマン分光装置(日本分光社製、「NRS-1000」)を使用して、ラマン分光分析を行った。この結果、波数1350〜1450cm−1にショルダーピークを確認できる共に、1580cm−1周辺にメインピークを確認でき、膜品質が良好であることが判明した。
【0055】
図1(a)、(b)に示すヒーター用部材を作製した。局所的に60℃に加熱されたホットプレート2上に、片面3aのみアモルファス炭素をコートしたSUS304基材3、両面3a、3bにコートしたSUS304基材3、未コートのSUS304基材3の3種類を設置し、一定時間後の表面温度分布を測定した。この結果を図4に示す。片面3aのみにアモルファス炭素膜5をコートした基材の場合は、ホットプレート面と接するのは、コートをしていない面3bである。この結果、未コート基材は放熱とのバランスから、温度が30℃程度までしかあがらなかった。一方、片面もしくは両面にアモルファス炭素膜をコートした基材3は、ホットプレート部では約60℃まで上昇し、熱の拡散も確認できる。また片面3aにアモルファス炭素膜5をコートした基材のほうが、ホットプレートに直接接触している箇所の熱伝導率が高い為に、良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るヒーター用部材1を概略的に示す断面図であり、(b)は、本発明の他の実施形態に係るヒーター用部材1Aを概略的に示す断面図である。
【図2】(a)、(b)は、それぞれ本発明の一実施形態に係るヒーター用部材6、6Aを概略的に示す断面図であり、(c)は、本発明を適用した型12を示す断面図である。
【図3】アモルファス炭素膜を成膜する際に使用可能な成膜装置を示す模式図である。
【図4】ヒーター用部材における温度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1、1A、6、6A ヒーター用部材 2 加熱フランジ 3、7、13 基材 4、5、10、11、15 アモルファスカーホン膜 5a 加熱面 12 型 14 成形空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源によって加熱されるべき、熱伝導率が5.0W/m・K以上の基材、および前記基材の少なくとも一部を被覆する、熱伝導率0.5W/m・K以下のアモルファス炭素膜を備えていることを特徴とする、ヒーター用部材。
【請求項2】
前記熱源が、前記基材中に設けられており、通電により発熱する発熱体であることを特徴とする、請求項1記載のヒーター用部材。
【請求項3】
前記熱源が、前記基材に接する加熱装置であることを特徴とする、請求項1記載のヒーター用部材。
【請求項4】
前記基材が、窒化アルミニウム、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素およびイットリアからなる群より選ばれた一種以上の材料からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材。
【請求項5】
前記基材が、鉄系金属およびアルミニウム系金属からなる群より選ばれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材。
【請求項6】
前記アモルファス炭素膜の熱伝導率が0.001W/m・K以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材。
【請求項7】
前記アモルファス炭素膜の硬度が2GPa以上であり、弾性率が100MPa以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材。
【請求項8】
前記アモルファス炭素膜が、金属およびフッ素を実質的に含有しないことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材。
【請求項9】
前記アモルファス炭素膜の膜厚が0.001−50.0μmであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材。
【請求項10】
前記アモルファス炭素膜が、パルス幅3μsec以下のパルス電圧を印加することによって、化学的気相成長法によって作製されたことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材。
【請求項11】
前記アモルファス炭素膜がダイヤモンド状炭素膜であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一つの請求項に記載のヒーター用部材および前記基材を加熱する熱源を備えていることを特徴とする、ヒーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−257860(P2007−257860A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76945(P2006−76945)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】