説明

ファイバ結合された単一光子源

デバイスが単一光子発生器(201)と導波路(203)とを備え、単一光子発生器(201)によって生成された単一光子が導波路(203)に結合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光子ナノテクノロジの分野に関し、より具体的には、単一光子を導波路に結合するための新規で有用な方法に関する。
【0002】
背景
ナノテクノロジ及び量子情報技術は、分子レベルにおいて構築される極めて小さな電子回路及び光学回路の設計を含む、新たに現れた科学の部門である。従来の光電子回路は、チップを形成するために半導体ウェーハを用いて製造される。複数の回路が、半導体ウェーハ又はチップの中にエッチングされる。そのエッチング工程は、チップの特定の領域又は層から材料を除去する。対照的に、ナノテクノロジは一般に、材料、多くの場合に1つずつ原子を追加することによって、上に向かって構築されるデバイスを扱う。この技術により、あらゆる粒子が、目的を有することができるデバイスという結果になる。かくして、極めて小さなデバイス、即ちエッチングによって形成されるデバイスよりもはるかに小さなデバイスを実現することができる。例えば、わずか数個の原子から論理ゲートを構成することができる。単一原子の厚さである「ナノワイヤ」から、電気導体を構築することができる。単一陽子の存否によって、1ビットのデータを表すことができる。
【0003】
量子情報技術は、より小型で、潜在的にはさらに強力なコンピュータを作り出すための新たな手段を提供する。現在、より小型で、より強力なコンピューティングデバイスを作り出す可能性を探るために、量子重ね合わせ及び量子エンタングルメントのような科学理論が用いられている。この分野の進歩により、情報を伝達するために光の粒子、即ち光子が用いられようになってきた。光は、種々の状態に偏光される能力を有する(例えば、水平偏光、垂直偏光)。この特性を利用することによって、単一光子が、1量子ビットの情報を表現することが可能になる。
【0004】
概要
単一光子を導波路に結合するための方法及び装置が提供される。例示的な具現化形態では、単一光子発生器及び導波路を含むデバイスが提供され、単一光子発生器によって生成された単一光子が導波路に結合される。
【0005】
本発明を例示するために、図面において、例示的な一具現化形態が示される。しかしながら、本発明は、図示されたそのものずばりの構成及び手段には限定されないことは理解されたい。
【0006】
詳細な説明
概説
量子ビットの使用は、研究者たちがコンピューティング技術を大きく前進させる可能性を与える。光子の重ね合わせ及びエンタングルメントの理論を理解して利用し、情報を生成する能力は、大きな関心のある新たな分野である。しかしながら、光子を量子ビットとして使用する可能性に関わる1つの重要な問題は、所望される場所において要求に応じて1つの光子を生成する必要があることである。
【0007】
使用可能な光子を生成することは、基本的には2つのステップのプロセスである。最初に、要求に応じて1つの光子を放出するシステム又は素子が必要とされる。電気的に駆動されるか、又は光学的に駆動される量子ドットを用いることによって、この分野は最近になって進歩を遂げている。量子ドットは、電荷又は光学レーザによって励起される場合に、単一光子を生成することができる。量子ドットはナノワイヤレーザに組み込まれることができ、ナノワイヤレーザはエネルギー源に電気的又は光学的に結合され得る。これにより、量子ドットを励起することが可能になり、ひいては1つの光子が生成される。ナノワイヤレーザにおいて量子ドットを用いて単一光子を生成するための技術は、2005年3月21日に出願された「A nano-VCSEL Device and Fabrication Thereof Using Nano-Colonnades」と題する米国特許出願第11/084,886号に開示されており、その特許出願は参照により全体が本明細書に援用される。
【0008】
図1は、1つの光子を生成するために使用され得る例示的なナノワイヤレーザ101を示す。ナノワイヤレーザ101は一般に、ナノワイヤ107と、活性領域103とからなる。ナノワイヤ107は一般に、半導体基板に成長する。IV族半導体材料、III−V族半導体材料又はII−VI族半導体材料が使用され得る。典型的な材料は、Si又はGaAsを含むことができる。ナノワイヤ107は、活性領域103のいずれかの面上に成長する。ナノワイヤ107は、活性領域によって生成される光の波長に比べて、直径が非常に小さい。一般に、ナノワイヤレーザ101のナノワイヤ部分107は、直径が約10nm〜100nmである。
【0009】
活性領域103は、ナノワイヤ107の中に存在する。活性領域103は量子ドットを含む。量子ドットは一般に、ナノワイヤを構成する材料のバンドギャップとは異なるバンドギャップを有する材料から形成される。これにより、光子を放出するために量子ドットが励起されることが可能になり、電流供給リード線115a、115bを介して電荷を供給することによって電気的に励起されるか、又はレーザ(図示せず)によって光学的に励起されることが可能になる。例えば、InGaAsのような半導体材料を用いて、InPを含むナノワイヤ内に量子ドットを形成することができる。InGaAsは、InPに比べて低いバンドギャップを有する。
【0010】
一般に、ナノワイヤレーザ101の構造により、生成された光子は概して第1の端部109又は第2の端部111に向かって長手方向にレーザ内を進行するという結果になる。レーザ101の各端部では、結晶材料内にブラッグミラー113a、113bが成長している。ブラッグミラーは当該技術分野において知られており、高い反射率が要求される用途において用いられる。レーザの一端部(図1において第2の端部111として示される)にあるブラッグミラー113bは、レーザの反対側の端部(図1において第1の端部109として示される)にあるブラッグミラー113aよりも高い反射率を有するように構成される。結果として、生成された光子が第1の端部109からレーザを出射することになる確率が高くなる。
【0011】
光子が生成されると、その光子は依然として捕捉され、その光子を用いることができる場所まで伝達されなければならない。従って、光子を使用する第2のステップは、光子を検出して捕捉する能力である。従来の光学レーザに比べて、ナノワイヤレーザのサイズが小さいことを考えると、単一光子を検出して捕捉することは難しい作業である可能性がある。従来では、光子の存在を検出することができる光検出器上に光子を送ることによって、生成された光子が検出されていた。光検出器が光子の存在を判定することを可能にするために、大きなレンズを光子源に非常に接近して配置することによって、光子が光検出器上に集束することができる。そのレンズは、任意の光子の経路を向け直して、光検出器上に光子を衝突させるための役割を果たす。しかしながら、光子がナノワイヤレーザの特定の端部(例えば、第1の端部109)を出射することになる確率が高くなる場合であっても、ナノワイヤから生成された光子の方向は多くの場合に予測不可能である。レンズを使用することによって、生成された光子が光検出器によって検出されることになる確率を高めることはできるが、レンズが光子を捕捉し損なうか、又は検出器の像平面の中央に光子を集束し損なうかのいずれかのために、多くの光子は依然として単に失われることがある。さらに、生成された光子が、量子計算のためにより効率的に使用され得る場所に(例えば、導波路を介して)容易に伝達されることができないので、この技術はいくらか制限される。
【0012】
光子結合技術
図2を参照すると、本発明による、単一光子を光ファイバに結合するためのデバイスの例示的な一実施形態が示される。図2に示される例示的な実施形態は、別個のレンズ又は光検出器を組み込むことなく、ナノワイヤレーザ201と導波路203との間で単一光子を結合することができる。使用される結合技術は、ナノワイヤレーザ201によって生成され、ナノワイヤレーザ201の一端206から放出された1つの光子を光ファイバ導波路203の中に捕捉することを含む。例示的な一実施形態では、光ファイバ導波路203は、レーザ201に面する端部202上に研磨されたレンズ205を有する。レンズ205は、ファイバ端部202の受光角を大きくすることによって、光子がファイバに入るのを容易にする。ファイバ端部に反射防止コーティングを塗布して、その反射率を小さくすることができる。いくつかの既知の技術のうちの1つを用いて、例えば、COレーザを用いることにより、ファイバの先端部を溶融して、再形成することによって、レンズ205を形成することができる。
【0013】
この技術は、レーザ201によって生成された光子を捕捉する可能性を高めるが、レーザ201とファイバ203との間の所望の機械的な位置関係を維持することが難しい。この難しさを克服するために、ファイバ203を基板207の表面上に正確に配置することができる。一般に、ナノワイヤレーザ201は、シリコンのような基板207内に成長する。位置合わせ基準211、213が基板207の表面へエッチングされ得る。これは、ファイバ203を配置することができる位置合わせリセス204を形成する。ファイバ203をレーザ201の場所に正確に位置合わせすることによって、レーザ201とファイバ203との間の機械的な位置決めがさらに良好に維持されることができ、結果として、生成された光子を捕捉する確率が高くなる。位置合わせされた状態を維持するために、接着剤を用いるなどの既知の技術を用いて、ファイバ203を所定位置に固定することができる。
【0014】
場合によっては、上述されて図2に示されたような、結合を実行するための構造を製造することが難しい可能性がある。図3に示されるような構成を用いることによって、直に結合するプロセスを改善することができる。ナノワイヤレーザ301は、2次元のフォトニック結晶302を含む基板300内に埋め込まれることができる。2次元のフォトニック結晶は、2次元の平面内で、ブラッグ反射及び大きな屈折率分散を提供することができる。結晶内の各界面において、光が部分的に反射され、且つ部分的に透過される。フォトニック結晶のこの特性を用いることによって、レーザにより放出された光子のモードが、ファイバ203の基本モードに対して、さらに良好に整合することができる。
【0015】
さらに、2次元のフォトニック結晶302にナノワイヤレーザ301を埋め込むことによって、レーザによって放出されたエバネッセント場が制御される。エバネッセント場は、レーザの表面(laser sides)を通ってレーザから漏出するエネルギー場である。例えば、光は、全反射の平面、この場合にはナノワイヤレーザ301の周辺部(edge:エッジ)を越えて短い距離だけ伝搬する。ナノワイヤレーザ301を、InGaAsコーティング又はSi/SiOコーティングを塗布されたガラスのような、2次元のフォトニック結晶302の基板に埋め込むことによって、レーザ301からエバネッセント場が放射されないようにする。ファイバ端部にレンズ307が形成されているファイバ303が、レーザ301に非常に接近して(例えば、1ミクロン未満に)配置され、生成された光子を捕捉する。穴309のパターンを2次元のフォトニック結晶内にエッチングすることができ、それらの穴は、レーザ301に対してファイバを正確な機械的位置に位置合わせするために使用され得る。
【0016】
ナノワイヤレーザを導波路に直に結合することを可能にするための代替の実施形態が図4に示される。図4に示された実施形態では、先細のファイバの代わりに、フォトニック結晶ファイバ403が使用される。フォトニック結晶ファイバは、「ホーリー」ファイバとも呼ばれ、ファイバ403の中に存在する複数の中空通路402を含む。1つのナノワイヤレーザ401が、ファイバ403の1つの中空通路402の中に延在するように配置される。ナノワイヤレーザ401は基板400に成長する。位置合わせ穴408が、レーザ401の周囲の基板400内にエッチングされる。レーザ401がファイバ403の中に含まれる選択された中空通路402の中に延在するように、フォトニック結晶ファイバ403が位置合わせ穴408の中に配置される。この構成を用いることは、いくつかの利点を提供する。ナノワイヤレーザ401は、ファイバ403に対して正確に配置され得る。さらに、フォトニック結晶ファイバは一般に、電気通信産業において一般的に使用されるような従来の単一モードファイバよりも大きな開口数を有するという事実に加えて(例えば、単一モードファイバは一般に、約0.2〜0.5の範囲の開口数を有するが、フォトニック結晶ファイバは一般に、約0.7〜0.9の範囲の開口数を有する)、ナノワイヤレーザ401のエバネッセントモードとファイバ403のエバネッセントモードとの間のモード整合によって、結合効率を改善することができる。
【0017】
また、ナノワイヤレーザとファイバとの間の結合は、エバネッセントモード結合を用いて達成され得る。2つの隣接する導波路間のエバネッセント結合は、一方の導波路から他方の導波路にエネルギーが伝達される速度によって決定され、それはさらに、2つの導波路の電界の重なりに比例する。
【0018】
【数1】

【0019】
ここで、c(z)は2つの導波路間のモードの重なりであり、zは導波路の軸に対して平行な座標軸であり、E(r)は、点r={x,y,z}における導波路1内の固有モードの電界プロファイルであり、E(r)は、同じ点における導波路2内の固有モードの電界プロファイルである。導波路の主な伝搬軸はz方向に向けられており、1つの導波路の存在が他の導波路のモードに影響を及ぼさない弱結合極限を仮定して、横断する座標{x,y}にわたって2次元の積分が実行される。結合される波動方程式は一般に、波長に比べて長い距離zにわたって積分され、実質的に積分されたモードの重なりが与えられる。原理的には、ナノワイヤレーザは非常に短いので、エバネッセント場の積分されたモードの重なりは小さいが、実際には、高いQの共振器のブラッグミラー間で電磁場が何度も行き来することによって、光路長を十分に増やすことが可能になる。
【0020】
ナノワイヤレーザとファイバとのエバネッセント結合を例示する例示的な一実施形態が図5に示される。エッチングされた位置合わせ基準502を用いて、先細のファイバ503が基板500の中に配置される。ファイバ503は、ナノワイヤレーザ501に隣接して配置される。レーザ503によって生成されるエバネッセント場が、上記の式(1)に従って、ファイバ501に結合される。
【0021】
上記の構成に基づいて、他のエバネッセント構成を構成することもできる。例えば、ナノワイヤレーザの集合体を、先細のファイバの周りに円周方向に配列することができる。図6は、基板500内に配置されたファイバ603を示しており、2つのナノワイヤレーザ605、607がファイバ603に隣接して配置されている。簡単にするために、2つのナノワイヤレーザ605、607が示されるが、任意の数のナノワイヤレーザを用いることができる。ナノワイヤレーザ605、607が同一であり、協力して動作する場合には、同じ波長の単一光子が生成される速度を上げることができる。代案として、ファイバがそれぞれ異なる波長において伝搬するモードに対応することを条件として、活性材料及び/又は構造が異なるナノワイヤレーザを用いることによって、異なる波長の単一光子を1つのファイバの中に結合することが可能になる。さらに、ファイバと導波路との間に存在する領域608を屈折率整合材料で満たして、ナノワイヤレーザとファイバとの間の結合を高めることができる。
【0022】
本明細書において提供される開示から、当業者には、説明された実施形態に対する種々の変更形態が明らかになるであろう。従って、本発明の思想又は不可欠な属性から逸脱することなく、本発明は他の具体的な形態において具現化されることができ、それ故に、本発明の範囲を示すものとして、上述の明細書ではなく、添付の特許請求の範囲が参照されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の例示的な一実施形態によるナノワイヤレーザを示す図である。
【図2】本発明の例示的な一実施形態による、導波路に結合されたナノワイヤレーザを示す図である。
【図3】本発明の例示的な一実施形態による、導波路に結合されたナノワイヤレーザを示す図である。
【図4】本発明の例示的な一実施形態による、導波路に結合されたナノワイヤレーザを示す図である。
【図5】本発明の例示的な一実施形態による、導波路に結合されたナノワイヤレーザを示す図である。
【図6】本発明の例示的な一実施形態による、導波路に結合されたナノワイヤレーザを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一光子発生器(201)と、
導波路(203)とを備え、
前記単一光子発生器(201)によって生成された単一光子が前記導波路(203)に結合される、デバイス。
【請求項2】
前記単一光子発生器(201)がナノワイヤレーザである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記単一光子発生器が基板(207)内に封入され、前記導波路(203)が、前記基板(207)内にエッチングされた位置合わせリセス(204)を介して、前記単一光子発生器(201)と位置合わせされる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記基板がフォトニック結晶である、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記結合がエバネッセントモード結合である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記導波路が光ファイバである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記ファイバがフォトニック結晶ファイバである、請求項6に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−546039(P2008−546039A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515985(P2008−515985)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/022563
【国際公開番号】WO2006/135789
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】