説明

フッ素樹被膜形成方法及びその被膜形成物

【課題】平滑で耐摩耗性、耐久性に優れたフッ素樹脂被膜を有し、モノクロ画像のみならずフルカラー画像の高速定着に適した定着ベルト、加圧ベルトなどの定着部材とその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】平均粒子径が0.01μm以上1.0μm以下の小粒子と3.0μm以上80μm以下の大粒子とからなる双峰性の粒子径分布を有するフッ素樹脂分散液中に基材を浸漬し、フッ素樹脂分散液中で少なくとも基材表面に接するフッ素樹脂分散液のチキソトロピー係数を低下させながらフッ素樹脂分散液を塗布し乾燥、焼成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂被膜の形成方法及びその被膜形成物に関する。詳しくはマッドクラックの発生がなく、フッ素樹脂分散液の厚塗りが可能で、且つ、平滑でうねりの少ないフッ素樹脂被膜を形成できるフッ素樹脂被膜形成方法に関する。さらに詳しくは、電子写真画像形成装置に用いる定着ベルト、加圧ベルト、あるいは定着ロールなどの表面へのフッ素樹脂被膜形成方法及びこの形成方法で形成されたフッ素樹脂被膜を有する定着部材に関し、特に、高速通紙及びフルカラー画像定着に有用な技術である。
【背景技術】
【0002】
複写機、ファクシミリ、プリンター等の電子写真画像形成装置において、転写紙に画像を定着する画像定着方法として、ベルト定着による定着法が知られている。上記したベルト定着法の定着装置は図1に示すように定着ベルト31の内側にベルトガイド32とセラミックヒーター33を備え、ヒーターと圧接した駆動源を持つ加圧ロール34との間にトナー像を形成した複写紙37を順次送り込みながらトナー38を加熱溶融させ複写紙上に定着させるものである。前記ベルト定着方式では、極めて薄いフィルム状の被膜を有する定着ベルトを介してヒーターが実質的に直接トナーを加熱するため、加熱部が瞬時に所定の定着温度に達し、電源の投入から定着可能状態に達するまでの待ち時間がなく、また消費電力も小さく優れた特徴がある。なお、前記定着ベルトはポリイミド樹脂あるいはステンレス薄膜などの材料からなるシームレス円筒体を基材とし、その外表面には溶融したトナーの付着(オフセット)を防止するためにフッ素樹脂離型層が形成されている。
【0003】
この定着ベルトによる定着方法は、図1に示すように定着ベルト31と加圧ロール34によってトナー像が形成された転写紙37を圧着し、且つ、ヒーターで加熱して定着する方法である。また、定着ベルトの回転は駆動源を有する加圧ロール34の回転によって従動する機構である。したがって定着ベルトと加圧ロールの接触部(ニップ部)では、トナーを転写紙に溶融定着させる処理、及び加圧ロールの回転によって定着ベルトを従動回転させる操作が同時に行われるため、ロール34による加圧力を高く設定する必要がある。さらに、近年高速化の要求により、定着ベルト31と加圧ロール34の間の加圧力はますます増大し、そのため定着ベルト最外層のフッ素樹脂離型層は摩耗が激しく、短い期間でフッ素樹脂離型層の摩耗によるオフセットが生じるという問題がある。
【0004】
また、フルカラー画像定着装置は図3に示す機構のものが一般的である。図3において、カラー定着ベルト21はガイドロール22と24の間に張架され、トナー像が形成された転写紙25は加圧ロール26と定着ベルト21及びガイドロール24によって圧接されてカラー画像の定着がなされる。なお、ガイドロール22及び加圧ロール26にはその内部にヒーターを備え、トナーを十分に溶融させることができる機構になっている。
【0005】
このフルカラー定着装置に用いられる定着ベルトは図2に示すようにポリイミド樹脂あるいは金属薄膜からなる円筒体3の外面にシリコーンゴムなどの弾性体2とさらに、弾性層の外面にフッ素樹脂離型層1が形成された三層構造のカラー用定着ベルトが使用され特許文献1にその一例が開示されている。
【0006】
すなわち、フルカラートナーの定着においては赤、青、黄、黒の4 色のトナーを十分に熱溶融させ加圧力によって各色のトナーを混色させて定着する必要があるため、カラー定着用の定着ベルトでは、シリコーンゴムなどの弾性層を設け、定着ベルトと加圧ロールのニップ部での接触面積を広げ、且つ、加圧力を高め定着させる方法が一般的である。したがってカラー定着ベルトにおいても、ベルト最外層のフッ素樹脂離型層には転写紙との摩擦、定着時の温度、加圧力、及び回転による機械的な繰り返し負荷が増大し、必然的にフッ素樹脂離型層の磨耗、あるいは転写紙エッジでの裂傷などの発生が増加し、これらが進行することによる耐久性及び画質の低下が問題視されている。これらの問題点は高速化と比例して加速されることになる。
【0007】
フッ素樹脂離型層の耐久性を向上させるための方法として、耐摩耗性物質を混合する方法(特許文献2参照)、フッ素樹脂の中でも比較的耐摩耗性の高いPFAを塗布する方法(特許文献3参照)などが開示されている。またフルカラー定着ベルトではフッ素樹脂被膜の表面粗度を小さくし、且つ、フッ素樹脂を厚く塗布しマッドクラックを防止する方法(特許文献4参照)が開示されている。また、ポリテトラフルオルエチレン樹脂(PTFE)粒子と分子量が50万以上のPFA樹脂粒子の混合物により形成した耐磨耗性が改良された定着ロール(特許文献5参照)が開示されている。さらに、フッ素樹脂液を比較的厚く(30μm)塗布する方法(特許文献6参照)が開示されている。
【特許文献1】特開2006−163179号公報
【特許文献2】特開2001−125404号公報
【特許文献3】特開2002−139934号公報
【特許文献4】特開2002−098881号公報
【特許文献5】特開平10−142990号公報
【特許文献6】特開2004−109665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
定着ベルトの耐摩耗性を向上させ耐久性をアップする方法は、フッ素樹脂被膜の厚みを厚く形成させる方法が直接的で有効であり効果が大きい。しかしながら、フッ素樹脂液を厚く塗装する方法は、特にフッ素樹脂分散液に基材を浸漬し塗布方法においては、基材に塗布した直後の液垂れの問題、塗布厚みのばらつきの問題、さらに塗布後の乾燥及び焼成処理におけるマッドクラックの発生、また、フッ素樹脂被膜の表面粗さの増大どの問題が多く、十分な耐久性が得られないばかりでなく、定着画像の品位の低下など問題が山積している。
【0009】
そこで、本発明の課題は、モノクロ画像のみならずフルカラー画像の定着においても高速定着の条件下で十分な耐摩耗性、耐久性を有するフッ素樹脂被膜の形成方法、及び該被膜を有する電子写真画像形成装置に用いる定着ベルト、加圧ベルトなどの定着部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、フッ素樹脂分散液の性状、特性、塗布方法などについて多くの実験を行った結果、平均粒子径0.01μm以上1.0μm以下及び3.0μm以上80μm以下の双峰性の粒径分布を有するフッ素樹脂粒子分散液で、且つ、チキソトロピー性を有するフッ素樹脂分散液を用い基材をフッ素樹脂分散液中に浸漬し、所定の速度で回転させながら一定の速度で引上げて塗布して焼成することにより高速定着の条件下においても十分な耐摩耗性を有するフッ素樹脂被膜が形成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
即ち、本発明のフッ素樹脂被膜形成方法は、基材にフッ素樹脂分散液を塗布し、焼成して被膜を形成するフッ素樹脂被膜形成方法であって、フッ素樹脂分散液中に基材を浸漬する浸漬工程と、フッ素樹脂液中で少なくとも基材表面に接するフッ素樹脂分散液のチキソトロピー係数を低下させながらフッ素樹脂分散液を塗布する工程と、フッ素樹脂分散液を塗布した基材を乾燥及び加熱する焼成工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明のフッ素樹脂被膜形成方法で用いるフッ素樹脂分散液はフッ素樹脂粒子の平均粒子径が0.01μm以上1.0μm以下の小粒子と3.0μm以上80μm以下の大粒子とからなる双峰性の粒子径分布を有するフッ素樹脂分散液であることを特徴とする。
【0013】
前記双峰性粒径分布を有するフッ素樹脂粒子の、少なくとも片方の粒子径分布を有するフッ素樹脂粒子がテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である。また、前記フッ素樹脂分散液の粘度が300cP以上1500cP以下であり、チキソトロピー係数は1.5以上10以下の範囲である。
【0014】
次に本発明のフッ素樹脂被膜形成方法において、前記チキソトロピー係数を低下させる工程が、基材を回転させつつフッ素樹脂分散液中から引上げる方法である。また、基材の回転速度が10mm/秒以上90mm/秒以下の範囲であることを特徴とする。
【0015】
次に、本発明で用いる基材は、ポリイミド樹脂、または金属材料からなるシームレス円筒体である。またフルカラーの定着に用いるカラー定着ベルトの場合には前記シームレス円筒体の外周面に弾性層が積層されていることが好ましい。
【0016】
次に、本発明のフッ素樹脂被膜形成方法によってフッ素樹脂被膜が形成されたフッ素樹脂被膜形成物は電子写真画像形成装置に用いる定着部材として使用する場合、フッ素樹脂被膜層の厚みが20μm以上50μm以下であって表面粗度が(Rz)5μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフッ素樹脂被膜形成方法によると、20μm〜50μmの厚さのフッ素樹脂被膜を形成してもマッドクラックの発生がなく、しかも厚みが均一で平滑な被膜を得ることができ、耐摩耗性を向上させることができる。
【0018】
本発明で用いるフッ素樹脂分散液は、高粘度であり、平均粒子径が双峰性を有し、しかもチキソトロピー性を有する、性状が不安定なフッ素樹脂分散液であるが、本発明のフッ素樹脂被膜形成方法によれば、連続して安定した生産が継続できる。また、多数本の基材を同時に回転させつつフッ素樹脂分散液中から引上げることができるため、画像形成用定着部材を低い加工コストで提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のフッ素樹脂被膜成形方法によって得られる、定着部材はプリンターや複写機の定着装置の定着ベルト、加圧ベルトなどの用途に好適に用いることができる。図1に示す定着装置はモノクロプリンター等に用いられるもので、定着ベルト32は、基材が30〜70μmの厚みのポリイミド樹脂、あるいは30〜50μmの厚みのステンレスからなるシームレス円筒体の外面にフッ素樹脂被膜が形成されている。また、フルカラープリンターに用いられる定着ベルトは図2に示すように、基材3の外面にシリコーンゴムなどの弾性層2とフッ素樹脂離型層1が積層された構造を有するものが使用される。カラープリンター用の定着ベルトにおいても基材としてはポリイミド樹脂、あるいはステンレスなどの円筒体が使用される。また、定着ベルトの内径は18〜100mmの円筒体が使用される。
【0020】
本発明のフッ素樹脂被膜成形方法によって得られる定着ベルトにおいて、フッ素樹脂被膜の厚みは20μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは25〜40μmの範囲である。20μm以下であると耐久性に乏しく、50μm以上になると定着ベルトの熱伝導率が低下し、高速定着化が難しくなるからである。また、定着ベルトの表面粗度は(Rz)5μm以下であることが好ましい。表面粗度が5μmを超えると鮮明な画像が得られ難いからである。
【0021】
次に、本発明のフッ素樹脂被膜成形方法で使用するフッ素樹脂分散液は、フッ素樹脂粒子の平均粒子径が0.01μm以上1.0μm以下の小粒子と3.0μm以上80μm以下の大粒子とからなる双峰性の粒子径分布を有するフッ素樹脂分散液であることが好ましい。フッ素樹脂被膜の耐摩耗性が向上でき高速定着に対応できるからである。すなわち、単峰性の粒子径分布のフッ素樹脂分散液を使用した場合には、1回の塗布工程で厚い被膜を形成させることが難しく、また、フッ素樹脂分散液の粘度を上げて厚く塗布するとマッドクラックが発生し、平滑な被膜形成ができない。
【0022】
本発明のように、小粒子と大粒子を混合した双峰性のフッ素樹脂分散液を使用すると、フッ素樹脂分散液中の大粒子は厚みを厚く塗布することにおいて効果を発揮し、小粒子のフッ素樹脂は加熱焼成工程で大粒子と混合された状態で焼成されることによって溶融して流れやすく大粒子を結着させる効果により、マッドクラックの発生を防止でき、且つ、平滑な被膜形成を可能にしていることが考えられる。
【0023】
次に前記双峰性粒径分布を有するフッ素樹脂粒子の、少なくとも片方の粒子径分布を有するフッ素樹脂粒子がテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)であることが好ましい。PFA以外のフッ素樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が耐熱性、離型性などの面から好ましい。耐摩耗性をより向上させるためには、小粒子と大粒子の双峰性の粒子径分布を有するPFA樹脂分散液がより好ましい。また、小粒子と大粒子の混合割合は、大粒子が50wt%以上であることが好ましく、より好ましくは60〜80wt%の範囲である。
【0024】
また、本発明においてはフッ素樹脂分散液に、セラミックス、酸化チタンなどの耐摩耗性改良剤、オフセット防止のためにカーボン、金属粉末等の帯電防止剤、さらに窒化硼素などの熱伝導性改良剤をフッ素樹脂の離型性を損なわない範囲で添加することが好ましい。
【0025】
次に、前記フッ素樹脂分散液の粘度は300cP以上1500cP以下であることが好ましい。前記粘度の範囲であるとフッ素樹脂粒子の沈降を防止でき、また基材に塗布した後に液ダレを防止できるからである。より好ましい粘度は500〜800cPの範囲である。
【0026】
さらに前記フッ素樹脂分散液はチキソトロピー係数が1.5以上10以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは2以上6以下の範囲である。フッ素樹脂分散液がチキソトロピー性を有することによって、フッ素樹脂分散液を静置して保存する場合に発生しやすいフッ素樹脂粒子の沈降を防止できる。また、フッ素樹脂分散液を塗布する工程において、基材、またはフッ素樹脂分散液のいずれかを回転させることによって、基材表面のチキソトロピー係数が低下し均一な厚みで塗布できるからである。さらにフッ素樹脂分散液にカーボンなどの導電性フィラーなどを混合する場合、あるいはフッ素樹脂分散液を濾過するなどの操作の場合にも動的な剪断力によって該分散液の粘度を低下させることができ、作業を容易に行うことができるからである。
【0027】
次に、本発明のフッ素樹脂被膜成形方法は、基材にフッ素樹脂分散液を塗布し、焼成して被膜を形成するフッ素樹脂被膜形成方法であって、フッ素樹脂分散液中に基材を浸漬する浸漬工程と、フッ素樹脂分散液中で少なくとも基材表面に接するフッ素樹脂分散液のチキソトロピー係数を低下させながらフッ素樹脂分散液を塗布する工程と、フッ素樹脂分散液を塗布した基材を乾燥および加熱する焼成工程とを備えることが好ましい。
【0028】
定着ベルトに要求される耐摩耗性、高速定着などの必要特性を満たすためには、上述したように非常に複雑な性状を有するフッ素樹脂分散液を使用せざるを得ないが、本発明のフッ素樹脂形成方法によれば、所定の厚みに厚く塗布してもクラックの発生がなく、しかも平滑なフッ素樹脂被膜を形成することができるからである。
【0029】
次に、本発明のフッ素樹脂形成方法において、フッ素樹脂分散液中で少なくとも基材表面に接するフッ素樹脂分散液のチキソトロピー係数を低下させながらフッ素樹脂分散液を塗布する工程が、基材を回転させつつフッ素樹脂分散液中から引上げる方法であることが好ましい。すなわち、フッ素樹脂分散液中に浸漬した基材を該液中で所定の速度で回転させることによってフッ素樹脂分散液のチキソトロピー係数が低下して基材表面に接しているフッ素樹脂分散液の粘度が、基材表面の長さ方向全域で均一化され、所定の速度で回転させながら基材を引上げることによって均一な厚みで塗布することができるからである。
【0030】
本発明のフッ素樹脂形成方法においてチキソトロピー係数を低下させる方法は、上述したようにフッ素樹脂分散液中で基材を回転させる方法、あるいは基材を固定してフッ素樹脂分散液を回転させる方法、さらに基材及びフッ素樹脂分散液の双方を回転させ基材表面のチキソトロピー係数を低下させるいずれの方法を用いてもよい。
【0031】
次に、本発明のフッ素樹脂形成方法において、基材の回転速度は10mm/秒以上90mm/秒以下の範囲であることが好ましい。回転速度が遅い場合にはフッ素樹脂被膜の厚みのバラツキが大きく、また、回転速度が速い場合には塗布膜に螺旋状の模様が発生し、その部分はうねりとなって厚みが厚くなる。基材の回転速度は、基材の外径、フッ素樹脂分散液の粘度、あるいはチキソトロピー係数の値によって最適な回転数を選定することができる。
【0032】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。各実施例及び比較例で作製したフッ素樹脂分散液及びフッ素樹脂被膜の諸物性は、下記の測定方法で測定した。
(1)粘度
東京計器製のE型回転粘度計VISCONIC EHDを用いて、23±0.2度Cで、回転数が0.5rpm(ずり速度1.92s−1)の条件で測定した。
(2)チキソトロピー係数
東京計器製のE型回転粘度計VISCONIC EHDを用いて、23±0.2度Cで、回転数が0.5rpm(ずり速度1.92s−1)のときの粘度V0.5及び1.0rpm(ずり速度3.84s−1)のときの粘度V1.0を用いて、下式の値をチキソトロピー係数とした。 チキソトロピー係数=V0.5/V1.0
(3)表面粗度
小坂研究所製の表面粗さ測定器SE−3Hを用いて、十点平均粗さRz(JIS B0601:1994)を測定した。
【実施例1】
【0033】
厚み60μm内径25mm長さ350mmのポリイミド樹脂からなる円筒体をアルミニウム芯体に挿入し円筒体の下部をマスキングしたポリイミド樹脂基材を用意した。次に、小粒子の平均粒子径のピークが0.35μmにあるPFA分散液(三井・デュポンフロロケミカル社製PFA920HPプラス NEA162−8)と大粒子の平均粒子径のピークが20μmにあるPFA粉末(三井・デュポンフロロケミカル社製MP−102)の双峰性粒径分布を有するPFA樹脂分散液(A)を用意した。小粒子と大粒子の混合比率は大粒子がPFA樹脂全体の75wt%なるように調整した。なお前記PFA樹脂分散液にはチキソトロピー性を付与するためにヒドロキシプロピルメチルセルロースを添加してチキソトロピー係数を3.5に、また粘度を700cPに調整した。
【0034】
フッ素樹脂分散液の塗布に先立ち、前記ポリイミド樹脂基材をフッ素樹脂用導電性プライマー液(デュポン社製:テフロン855−003)に浸漬し、4μmの厚みにコーティングし、200度Cの温度で30分間乾燥し、常温まで冷却してプライマー塗布ポリイミド円筒体を作製した。次いで前記PFA樹脂分散液中に前記プライマー塗布ポリイミド円筒体を320mmの長さまで浸漬し、35mm/秒の周速度で回転させながら4.0mm/秒の定速度で引き上げ、ポリイミド樹脂基材の表面にPFA樹脂(A)を塗布した。その後150度Cの温度で20分乾燥後350度Cまで30分間で昇温してPFA樹脂塗膜を焼成し、ポリイミド樹脂基材の外表面に30μmの厚みでPFA被膜が形成されたポリイミド/PFA円筒体を作製した。
【0035】
前記ポリイミド/PFA円筒体のPFA被膜の平均表面粗度は(Rz)2.5μmであり厚みのばらつきは±3.2μmであった。このポリイミド/PFA円筒体を定着ベルトとして図1に示す定着装置に装着し35枚/分の定着速度で5万枚の通紙を行った結果、紙エッジの磨耗やPFA被膜表面の磨耗による毛羽立ちもなく良好な定着画像が得られた。
【実施例2】
【0036】
(1)ポリイミド樹脂円筒体の作製
パラフェニレンジアミン(PPD)と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなるポリイミド前駆体溶液を芯体の外面に塗布しイミド化を完結させて厚み70μm内径60mm長さ400mmのポリイミド樹脂円筒体を作製した。次いで、前記ポリイミド円筒体をステンレス芯体に密着させて挿入し、その表面にシリコーンゴム用プライマーを塗布した。前記プライマー(GE東芝シリコーン社製商品名:XP−81−405)は、A、B2液を予め1:1の割合で混合したものを刷毛で均一に塗布した後、室温(23度C)で20分間乾燥後150度Cのオーブンに入れて20分間乾燥してプライマー塗布ポリイミド円筒体を作製した。
【0037】
(2)シリコーンゴムの成形および加硫
液状シリコーンゴム(GE東芝シリコーン社製商品名:XE15−B9055)A,B2液を予め1:1の割合で混合した液状ゴムを用意し、前記プライマー塗布ポリイミド円筒体の外面に200μmの厚みでシリコーンゴムを塗布しその後、150度Cの温度で30分間一次加硫及び220度Cの温度で2時間二次加硫を行い、プライマー塗布ポリイミド円筒体の外層に200μmの厚みでシリコーンゴムが成形されたシリコーンゴム成形ポリイミド円筒体を作製した。同液状ゴムで厚み10mmに作製したテストピースでの硬度は30度であった。
【0038】
(3)シリコーンゴム表面処理およびプライマー塗布
前記シリコーンゴム成形ポリイミド円筒体のシリコーンゴム表面を#500のサンドペーパーで軽く粗らし、表面をアルコールで洗浄した。次いで前記シリコーンゴム表面にフッ素樹脂含有シリコーン用液状プライマー(三井デュポンフロロケミカル社製PR−990CL)を塗布し、室温で10分乾燥し、ポリイミド/シリコーンゴム/プライマー円筒体を作製した。
【0039】
その後、実施例1で作製したPFA樹脂分散液(A)の中にポリイミド/シリコーンゴム/プライマー円筒体を浸漬し、48mm/秒の周速度で回転させながら3.9mm/秒の定速度で引上げ、最終の厚さで35μmとなるようにコーティングし、常温で30分乾燥後、350度Cのオーブンに入れ、15分間焼成しカラー定着用円筒体を作製した。
【0040】
このカラー定着用円筒体の内径は60mm、ポリイミド樹脂層70μm、シリコーンゴム層200μm、フッ素樹脂層36μm、総厚み305μmであった。このカラー定着用円筒体のPFA樹脂層の表面粗度(Rz)は0.82±0.15μmであった。このカラー定着用円筒体を図3に示す定着機構をもつカラープリンターに装着し、25枚/分の速度で通紙定着を行った結果10万枚の良好な画像が得られた。
【実施例3】
【0041】
厚みが48μm、内径30mm、長さ400mmのステンレス製円筒体(遠藤製作所社製)を用意した。前記ステンレス製円筒体の内面に空隙がない状態にステンレス中空製芯体を挿入した。前記ステンレス製円筒体表面にメッシュナンバー#230の酸化アルミナ砥粒を用いて、圧力3kg/cm2で3分間ブラスト処理した。その後、洗浄し、(GE東芝シリコーン社製商品名:XP−81−405)プライマーを刷毛塗りし、常温で30分間乾燥した。液状シリコーンゴムとして(GE東芝シリコーン社製商品名:XE15−B7354)A、B液をそれぞれ等重量部混合し真空脱泡した後、前記ステンレス円筒体の表面に外型ダイス落下法によって200μmの厚みで液状シリコーンゴムを成形し、その後、150度Cの温度で30分間一次加硫、及び250度Cの温度で2時間二次加硫を行い、250μmの厚みでシリコーンゴムが成形されたステンレス/シリコーンゴム円筒体を作成した。厚み10mmに作製したテストピースによるシリコーンゴムの硬度は33度であった。
【0042】
その後前記ステンレス/シリコーンゴム円筒体の表面にフッ素樹脂含有プライマー(三井デュポンフロロケミカル社製PR−990CL)を塗布し室温で15分間乾燥した。次に、小粒子の平均粒子径のピークが0.35μmにあるPFA分散液(三井・デュポンフロロケミカル社製PFA920HPプラス NEA162−8)と大粒子の平均粒子径のピークが30μmにあるPFA粉末(三井・デュポンフロロケミカル社製MP−10)の双峰性粒径分布を有するPFA樹脂分散液(B)を用意した。小粒子と大粒子の混合比率は大粒子がPFA樹脂全体の70wt%なるように調整した。なお前記PFA樹脂分散液にはチキソトロピー性を付与するためにヒドロキシプロピルメチルセルロースを添加してチキソトロピー係数を5に、また粘度を600cPに調整した。
次いでPFA樹脂分散液(B)に浸漬し、46mm/秒の周速度で回転させながら3.1mm/秒の定速度で引上げ、最終の厚さで35μmとなるように塗布し、常温で30分乾燥後、350度Cのオーブンに入れ、15分間焼成しステンレス基材カラー定着用円筒体を作製した。このステンレス基材カラー定着用円筒体の内径は30mm、総厚み286μmであった。また、表面粗度(Rz)は1.0μmであり平滑性に優れ、このステンレス基材カラー定着用円筒体を図3に示す定着機構をもつカラープリンターに装着し、20枚/分の速度で通紙定着を行った結果10万枚の良好な画像が得られた。
【実施例4】
【0043】
実施例2においてPFA樹脂分散液(A)をPFA樹脂分散液(C)(三井・デュポンフロロケミカル社製EN-400CL)に変更した以外は実施例2と同一条件でカラー定着用の定着ベルトを作製した。PFA樹脂分散液(C)の小粒子の平均粒子径のピークが0.19μmにあり、と大粒子の平均粒子径35μmにピークを持つ双峰性粒径分布を有するPFA樹脂分散液でチキソトロピー係数は3に調整した。このカラー定着用定着ベルトを実施例2と同様の条件で通紙定着を行った結果、10万枚の良好な画像が得られた。
(比較例1)
【0044】
実施例1において、プライマー塗布ポリイミド円筒体をPFA樹脂分散液中に浸漬しそのまま4.0mm/秒の定速度で引き上げた以外は実施例1と同じ条件でポリイミド/PFA円筒体を作製した結果、該円筒体上部(PFA樹脂分散液中から引き上げスタート部)から下部に向かって厚みが徐々に薄くなり、また部分的に液垂れの部分があり定着ベルトとして使用することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のフッ素樹脂形成方法によれば、性状の複雑な構成のフッ素樹脂分散液であっても均一な厚みで、しかも平滑なフッ素樹脂被膜を形成でき、このような方法でフッ素樹脂被膜形成を行った定着部材は、モノクロあるいはフルカラープリンターの高速定着が可能であり、画像定着装置の定着部材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】電子写真画像定着装置の概略断面図である。
【図2】実施例2におけるカラープリンターに使用される定着部材の断面図である。
【図3】カラー画像定着装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 フッ素樹脂離型層
2 ゴム弾性層
3 基材
21カラー定着ベルト
22ガイドロール(加熱ロール)
23加圧ロール(加熱ロール)
24ガイドロール
25転写紙
26,27ヒーター
31定着ベルト
32定着ベルトガイド
33セラミックスヒーター
34加圧ロール
35温度センサー
36加圧ロール芯金
37転写紙
38未定着トナー像
39定着画像
N ニップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にフッ素樹脂分散液を塗布し、焼成して被膜を形成するフッ素樹脂被膜形成方法であって、フッ素樹脂分散液中に基材を浸漬する浸漬工程と、フッ素樹脂分散液中で少なくとも基材表面に接するフッ素樹脂分散液のチキソトロピー係数を低下させながらフッ素樹脂液を塗布する工程と、フッ素樹脂分散液を塗布した基材を乾燥および加熱する焼成工程とを備えることを特徴とするフッ素樹脂被膜形成方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂分散液は、フッ素樹脂粒子の平均粒子径が0.01μm以上1.0μm以下の小粒子と3.0μm以上80μm以下の大粒子とからなる双峰性の粒子径分布を有するフッ素樹脂分散液である請求項1に記載のフッ素樹脂被膜形成方法。
【請求項3】
前記双峰性粒径分布を有するフッ素樹脂粒子の、少なくとも片方の粒子径分布を有するフッ素樹脂粒子がテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である請求項2に記載のフッ素樹脂被膜形成方法。
【請求項4】
前記フッ素樹脂分散液の粘度が300cP以上1500cP以下であり、チキソトロピー係数が1.5以上10以下である請求項1〜3に記載のフッ素樹脂被膜形成方法。
【請求項5】
前記フッ素樹脂分散液中で少なくとも基材表面に接するフッ素樹脂分散液のチキソトロピー係数を低下させながらフッ素樹脂分散液を塗布する工程が、基材を回転させつつフッ素樹脂分散液中から引上げる方法である請求項1〜4に記載のフッ素樹脂被膜形成方法。
【請求項6】
前記基材の回転速度が、10mm/秒以上90mm/秒以下である請求項5に記載のフッ素樹脂被膜形成方法。
【請求項7】
前記基材がポリイミド樹脂または金属材料からなるシームレス円筒体である請求項1に記載のフッ素樹脂被膜形成方法。
【請求項8】
前記シームレス円筒体の外周面に弾性層が積層されている請求項7に記載のフッ素樹脂被膜形成方法。
【請求項9】
請求項1から8の被膜形成方法によってフッ素樹脂被膜が形成されたフッ素樹脂被膜形成物。
【請求項10】
フッ素樹脂被膜成形物のフッ素樹脂被膜層の厚みが20μm以上50μm以下であって、且つ、表面粗度(Rz)が5μm以下である請求項9に記載のフッ素樹脂被膜形成物。
【請求項11】
フッ素樹脂被膜成形物が電子写真画像形成装置に用いる定着部材である請求項9および10に記載のフッ素樹脂被膜形成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−45577(P2009−45577A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215407(P2007−215407)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】