説明

フラーレン複合めっき電線及びその製造方法並びにフラーレン複合めっきエナメル電線

【課題】経時的な酸化を抑制したり、はんだ付け時等に起こり易い酸化を抑制することができるフラーレン複合めっき電線及びその製造方法並びにフラーレン複合めっきエナメル電線を提供する。
【解決手段】金属芯線11と、その金属芯線11上に形成されたフラーレン複合めっき皮膜12とを有するように構成した。フラーレン複合めっき皮膜12は、フラーレンとして、フラーレンC60、フラーレンC70及び高次フラーレンの中から選ばれる1種又は2種以上を含有することが好ましく、また、フラーレン複合めっき皮膜が、銅、ニッケル、鉄、クロム、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びそれらの合金の群から選ばれるいずれかを含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンを分散させてなるフラーレン複合めっき電線及びその製造方法並びにフラーレン複合めっきエナメル電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは、60個又はそれ以上の炭素原子が強く結合して球状に閉じたネットワーク構造からなるものであり、例えば、フラーレン60、フラーレン70、さらに高次のフラーレン等が知られている。こうしたフラーレンは、特徴的な電気化学特性、ガス吸収特性、機械的特性、光学的特性を有することから、例えば、二次電池の負極剤への応用、キャパシターへの応用、水素貯蔵材料への応用、レジスト材料への応用、超硬材料への応用、導電性塗料への応用、医薬品分野への応用等、種々の応用が検討され、又は実用化されている。
【0003】
また、フラーレンは、活性酸素を含む活性分子種を分子レベルで吸収することができるフリーラジカル補足剤として作用することが知られており、例えば医薬品や化粧品等のライフサイエンス分野への応用が検討されている。
【0004】
一方、上記のようなフラーレンではないが、カーボンナノチューブ又はカーボンファイバーをめっき皮膜中に含有させためっき構造物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。こうしためっき構造物は、カーボンナノチューブ又はカーボンファイバーをめっき液中に分散させた状態で、電気めっき又は無電解めっきを施して得られたものであり、そのカーボン材料が有する高熱伝導性、高電気伝導性、高強度等を利用した部品に応用できるとされている。例えば、高強度特性を利用した微小な機械部品、電気伝導性と熱伝導性を利用した半導体装置の配線パターンや放熱板、若しくは、電界放出用エミッタ等の電子材料等への応用が検討されている。
【特許文献1】特開2004−156074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、経時的な酸化を抑制したり、はんだ付け時等に起こり易い酸化を抑制することができるフラーレン複合めっき電線及びその製造方法並びにフラーレン複合めっきエナメル電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件出願人は、経時的な酸化やはんだ付け時等に起こり易い酸化を抑制することができる電線を検討している過程で、フラーレンのフリーラジカル補足剤としての作用、すなわち活性酸素を含む活性分子種を分子レベルで吸収することができるという作用を利用すれば、耐酸化性に優れた金めっき電線や耐酸化性の合金めっき電線の代替とすることができるのではないかと考え、そのフラーレンを金属マトリックス中に分散させることにより本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、金属芯線と、当該金属芯線上に形成されたフラーレン複合めっき皮膜とを有することを特徴とするフラーレン複合めっき電線を提供する。この発明によれば、フラーレン複合めっき皮膜を金属芯線上に形成したので、得られたフラーレン複合めっき皮膜は、フラーレンを含有していない場合のめっき皮膜に比べて、経時的な酸化やはんだ付け時等に起こり易い酸化を抑制することができる。
【0008】
本発明のフラーレン複合めっき電線において、前記フラーレン複合めっき皮膜が、フラーレンC60、フラーレンC70及び高次フラーレンの中から選ばれる1種又は2種以上を含有することが好ましく、また、前記フラーレン複合めっき皮膜が、銅、ニッケル、鉄、クロム、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びそれらの合金の群から選ばれるいずれかを含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明のフラーレン複合めっき電線において、前記金属芯線が、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、タングステン、モリブデン、チタン、白金及びそれらの合金の群から選ばれるいずれかの材料であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のフラーレン複合めっき電線において、前記フラーレン複合めっき電線の断面形状が平角形状であることを特徴とする。上記の本発明のフラーレン複合めっき電線は、その断面形状が丸形状でも丸形状以外の異形形状でもよいが、この発明のような平角形状とすることにより、例えばフレキシブルフラットケーブルの導体として利用することができる。
【0011】
本発明のフラーレン複合めっき電線の製造方法は、めっき液中にフラーレンを分散させた状態で金属芯線に給電してフラーレン複合めっき皮膜を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明のフラーレン複合めっきエナメル電線は、上述した本発明のフラーレン複合めっき電線に、絶縁エナメル被覆、又は、絶縁エナメル被覆と融着エナメル被覆が塗布焼付けされていることを特徴とする。
【0013】
本発明のフラーレン複合めっき構造物は、被めっき材と、当該被めっき材上に形成されたフラーレン複合めっき皮膜とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフラーレン複合めっき電線及びフラーレン複合めっき構造物によれば、フラーレン複合めっき皮膜を金属芯線又は被めっき材上に形成したので、得られたフラーレン複合めっき皮膜は、フラーレンを含有していない場合のめっき皮膜に比べて、経時的な酸化やはんだ付け時等に起こり易い酸化を抑制することができる。特に本発明のフラーレン複合めっき電線は、長尺の電線を芯線としているので、連続生産が容易で生産性がよいと共に、ほぼエンドレスに製造することができ、コスト的にも有利である。
【0015】
また、本発明のフラーレン複合めっき電線の製造方法によれば、金属芯線の外周上にフラーレン複合めっきを施すので、被めっき材の形状による電流密度のばらつきが無く、その結果、被めっき材である金属芯線に対して均一な電圧(電場)がかかるので、金属芯線の外周上に均一な厚さでめっき皮膜を形成できると共に、外周上に均一な含有量でフラーレンを含有させることができる。
【0016】
また、本発明のフラーレン複合めっきエナメル電線によれば、フラーレン複合めっき電線の外周に絶縁エナメル被膜が塗布焼付けされているので、コイル等の製造に好ましく利用できる。また、さらに融着エナメル被膜が塗布焼付されている場合には、コイル状に捲線した後に溶剤、通電又は熱風等により融着することができるので、自己支持型のコイル用線材として好ましく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のフラーレン複合めっき電線及びその製造方法並びにフラーレン複合めっきエナメル電線について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(フラーレン複合めっき電線)
図1は、本発明のフラーレン複合めっき電線の一例を示す模式的な断面図である。本発明のフラーレン複合めっき電線10は、金属芯線11と、その金属芯線11上に形成されたフラーレン複合めっき皮膜12とを有している。
【0019】
金属芯線11は、各種の金属芯線を用いることができ、その材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、タングステン、モリブデン、チタン、白金及びそれらの合金の群から選ばれるいずれかの材料を挙げることができる。いずれの材質を選択するかは、それぞれの特徴を考慮して選択され、例えば、導電性、耐食性、強度、等を考慮して選択される。金属芯線11の直径も特に限定されないが、50μm程度の細線又はそれ以下の極細線から2mm程度の太線まで、広い範囲の金属芯線を適用可能である。
【0020】
また、本発明においては、金属芯線11の断面形状が平角形状であってもよいし、それ以外の異形形状であってもよい。例えば、断面が平角形状の金属芯線11の外周にフラーレン複合めっきを施したフラーレン複合めっき電線、又は、断面が丸形状の金属芯線11の外周にフラーレン複合めっきを施した後に圧延して断面を平角形状にしたフラーレン複合めっき電線は、フレキシブルフラットケーブル用の導体として好ましく用いることができる。
【0021】
フラーレン複合めっき皮膜12は、フラーレンを含有する分散めっき皮膜である。このめっき皮膜を構成するめっき金属としては、銅、ニッケル、鉄、クロム、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、及びそれらの合金の群から選ばれるいずれかを挙げることができる。いずれの材質を選択するかは、それぞれの特徴を考慮して選択され、例えば、導電性、耐食性、強度、等を考慮して選択される。
【0022】
めっき金属中に含有されるフラーレンとしては、例えば、上市されている、フラーレンC60、フラーレンC70、高次フラーレン、又はそれらの混合物(Mix Fullerene)等を挙げることができる。高次フラーレンとしては、例えば、C82、C84、C90、C96等を挙げることができ、その形状は、フラーレンC60は球状、フラーレンC70や高次フラーレンはラグビーボールのような楕円球その他の形状となっているのが一般的である。
【0023】
本発明においては、各種のフラーレンがめっき金属中に均一に分散されている。本発明では、フラーレンのフリーラジカル補足剤としての作用、すなわち活性酸素を含む活性分子種を分子レベルで吸収することができるという作用を利用して、耐酸化性に優れた複合めっき電線とした点に特徴がある。そのため、本発明においては、めっき金属を、比較的耐酸化性に劣るものとしたときに効果的であり、例えばめっき金属として、銅、ニッケル、鉄、クロム等を採用したときにより効果がある。
【0024】
フラーレン複合めっき皮膜に含まれるフラーレンの含有量は、金属マトリックスに対して、5〜30重量%の範囲内であることが好ましい。フラーレンの含有量が5重量%未満では、耐酸化性が十分でなく、例えばはんだ濡れ性に劣る等の難点があり、フラーレンの含有量が30重量%を超えると、フラーレン複合めっき皮膜の展延性が低下してコイル巻線性等の加工性に劣る等の難点がある。
【0025】
フラーレン複合めっき皮膜12の厚さは、主に金属芯線11の直径又は断面寸法との関係で決定され特に限定されないが、通常金属芯線の直径又は断面積の1%〜30%程度の厚さであることが好ましい。なお、電鋳のように厚く付けることも可能である。
【0026】
また、本発明のフラーレン複合めっき構造物は、被めっき材が上記金属芯線以外の種々の形状からなるものである他、上記本発明のフラーレン複合めっき電線と同様である。被めっき材としては、例えばコネクタピン、プローブピン、電極端子等を挙げることができる。被めっき材が金属等の導電体である場合には、電気めっきが施され、被めっき材が樹脂やセラミックス等の非導電体である場合には無電解めっきが施される。
【0027】
(フラーレン複合めっき電線の製造方法)
本発明のフラーレン複合めっき電線の製造方法は、めっき液中にフラーレンを分散させた状態で金属芯線に給電してフラーレン複合めっき皮膜を形成することを特徴とする。
【0028】
めっき液としては、通常、上述しためっき金属の無機塩と、支持電解質と、フラーレンとを少なくとも有する分散めっき液が用いられる。このめっき液には、必要に応じて、界面活性剤、光沢剤、塩素成分等の各種の添加剤が含有される。特に本発明のような分散めっきは、フラーレンをめっき液中で均一に分散させておくことが重要であるので、界面活性剤を添加することが好ましい。めっき液中へのフラーレンの分散量は、めっき液の性質やめっき皮膜中に含有させとうよする量によって任意に設定されるが、通常、2〜10g/Lの範囲内で分散させることが好ましい。
【0029】
めっきは、予め所定の寸法に線引き加工された金属芯線を前処理し、めっき液中のフラーレンを分散させた状態でその金属芯線に給電して行われる。金属芯線への前処理としては、金属一般に対して行われる前処理であればよく、特に限定されない。めっきは、電気めっきであっても無電解めっきであっても構わないが、無電解めっきの場合には還元剤を含有する。めっき条件についても、フラーレンの含有量や、得られためっき金属の物性(硬さ、強度、耐食性)を考慮して任意の条件が設定される。そうした条件としては、例えば、電流密度、液温、撹拌強度等を挙げることができる。めっき後のフラーレン複合めっき電線は、各種の洗浄工程を経て得ることができる。
【0030】
特に好ましいフラーレン複合めっき液として、硫酸銅めっき液を挙げることができる。めっき条件として、硫酸銅220g/L、硫酸55g/L、塩酸50mg/L、フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製、商品名:ナノムミックス(nanom mix)、このナノムミックスは、フラーレンC60約60%・フラーレンC70約25%・残りは高次フラーレンを含む混合フラーレンである。)2〜10g/L、界面活性剤(和光純薬工業株式会社、商品名:PA5000)0.1g/Lを含有するめっき液を用い、液温30℃、陰極電流密度2〜4A/dmの範囲内で電解めっきすることが好ましい。
【0031】
なお、必要に応じてアニールを施してもよいし、逆電解を印加したり、材料によっては化成処理を施すこともできる。また、金属芯線の変更にも容易に対応可能であり、用途により極細線から太い線材まで容易に製造することができる。
【0032】
めっき装置については特に限定されないが、連続生産可能なめっき装置であることが好ましい。例えば、めっき液循環タンクを備えたオーバーフロー型のめっき槽を好ましく用いることができる。こうしためっき槽は、分散材料であるフラーレンの撹拌効果もあり、めっき槽中で均一に分散させることができると共に、めっき液循環タンクにフラーレンを容易に補給することができる。なお、電解脱脂や酸洗い等の前処理工程や後処理工程についても、オーバーフロー型の処理槽とすることが便利である。
【0033】
なお、本発明においては、断面が丸形状のフラーレン複合めっき電線を製造する場合には、断面が丸形状の金属芯線11の外周にフラーレン複合めっきを施して製造できるが、断面が平角形状のフラーレン複合めっき電線を製造する場合には、断面が平角形状の金属芯線11の外周にフラーレン複合めっきを施すことにより製造したり、断面が丸形状の金属芯線11の外周にフラーレン複合めっきを施した後に圧延して製造することができる。
【0034】
以上説明したように、本発明のフラーレン複合めっき電線及びその製造方法によれば、フラーレン複合めっき皮膜を金属芯線上に形成したので、得られたフラーレン複合めっき電線は、フラーレンを含有していない場合のめっき皮膜に比べて、経時的な酸化やはんだ付け時等に起こり易い酸化を抑制することができる。
【0035】
また、本発明においては、長尺の電線を芯線としているので、連続生産が容易で生産性がよいと共に、ほぼエンドレスに製造することができ、コスト的にも有利である。また、オーバーフローによるめっき槽を金属芯線を連続して走らせることができるので、そのオーバーフローにより、めっき液中のフラーレンの分散状態を常に均一にすることができる。しかも、連続製造中に徐々に減少するめっき液中のフラーレン量の補給を容易である。具体的には、オーバーフローするめっき槽にめっき液を供給するためのめっき液循環タンクに補給することができる。
【0036】
また、本発明のフラーレン複合めっき電線の製造方法によれば、金属芯線の外周上にフラーレン複合めっきを施すので、金属芯線の形状による電流密度のばらつきが少なく、その結果、金属芯線に対して均一な電圧(電場)がかかるので、金属芯線の外周上に均一な厚さでめっき皮膜を形成できると共に、外周上に均一な含有量でフラーレンを含有させることができる。
【0037】
(フラーレン複合めっきエナメル電線)
図2は、絶縁エナメル被膜が形成された本発明のフラーレン複合めっきエナメル電線の一例を示す断面図であり、図3は、絶縁エナメル被膜と融着エナメル被膜が形成された本発明のフラーレン複合めっきエナメル電線の他の一例を示す断面図である。本発明のフラーレン複合めっきエナメル電線20,30は、上記本発明のフラーレン複合めっき電線10の外周に、絶縁エナメル被膜21、又は、絶縁エナメル被膜21と融着エナメル被膜31が塗布焼付けされていることを特徴とする。絶縁エナメル被膜21は、例えば汎用ポリウレタン、ポリウレタンナイロン等のエナメル塗料等を塗布焼付けして形成できる。なお、これらのエナメル塗料で形成された絶縁エナメル被膜はいずれもはんだ付け可能であるが、必ずしもはんだ付け可能な絶縁エナメル被膜でなくてもよい。また、更にその外周に形成する融着エナメル被膜31は、例えばナイロンやエポキシ等の融着エナメル塗料を塗布焼付けして形成できる。
【0038】
絶縁エナメル被膜21と融着エナメル被膜31は、通常のエナメル線の製造装置を用いて製造できる。すなわち、ボビンに巻かれた複合被覆銅線を線材供線装置から繰出し、塗料槽にてエナメル塗料を塗布した後、その直後に設けたダイスやフェルト等の塗料絞り具で線材表面の塗布塗料を略均一厚さに扱き、その後その線材を電熱炉や熱風循環炉等の高温の焼付炉に導入し、炉内で線材上に塗布された塗料中の溶剤を揮発除去して塗料を反応硬化させ、硬化塗膜層を線材表面に形成して焼付炉から導出し、導出された線材を再び塗料槽、塗料絞り具及び焼付炉を通過させる工程を複数回繰り返し、線材表面に所望の厚さの絶縁エナメルを被覆した後、キャプスタン等の引取装置により引取りボビン等の巻取装置に巻き取って、フラーレン複合めっきエナメル電線が製造される。
【0039】
こうしたフラーレン複合めっきエナメル電線20,30は、複合被覆銅線10の外周に絶縁エナメル被膜21が塗布焼付けされているので、例えばその絶縁エナメル被膜がはんだ付け可能である場合には、電線端末をはんだ付けすることができるコイル等の製造に好ましく利用できる。また、さらに融着エナメル被膜31が塗布焼付されている場合には、コイル状に捲線した後に溶剤、通電又は熱風等により融着することができるので、自己支持型のコイル用線材として好ましく使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
分散めっき液として、硫酸銅220g/L、硫酸55g/L、塩酸50mg/L、フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製、商品名:ナノムミックス(nanom mix)、このナノムミックスは、フラーレン60約85%・フラーレン70約10%・残りは高次フラーレンを含む混合フラーレンである。)15g/L、界面活性剤(和光純薬工業株式会社、商品名:PA5000)0.1g/Lを含有するものを用いた。金属芯線は、直径0.9mmの銅線を用い、その銅線を電解脱脂、酸洗いした後、上記のめっき液に供して分散めっきを行った。めっき条件は、陽極として含リン銅を用い、電流密度3A/dm、電気量10C/cm、液温30℃、スターラー撹拌(強)の条件とし、厚さ3.5μmとなるまでめっきした。めっき後は、水洗、超音波洗浄、アルコール洗浄等を行った後に乾燥させて、実施例1のフラーレン複合めっき電線を作製した。
【0042】
(実施例2〜6)
上記フラーレンを表1に示すように、10g/L〜1g/Lの範囲内で変更した他は実施例1と同様にして、実施例2〜6のフラーレン複合めっき電線を作製した。
【0043】
(比較例1)
上記フラーレンを含有させない分散めっき液を用いた他は実施例1と同様にして、実施例2〜6のフラーレン複合めっき電線を作製した。
【0044】
(測定及び結果)
図4は、実施例1〜6で得られたフラーレン複合めっき電線のめっき表面の電子顕微鏡写真(1000倍)であり、図5は、比較例1で得られた銅めっき電線のめっき表面の電子顕微鏡写真(1000倍)である。めっき液中へのフラーレンの添加量が多いほど、多くのフラーレンがめっき皮膜中に含有しているのが顕微鏡写真から確認された。また、めっき表面の炭素含有量をEDS(エネルギー分散型X線分析装置、日本電子株式会社、JED−2110)にて測定し、その結果を表1に示した。表1の結果からもわかるように、めっき液中へのフラーレンの添加量が多いほど、高い割合で炭素が含有しているのが確認された。
【0045】
また、得られた試料を80℃の恒温槽中に96時間投入して酸化加速試験を行った後、取り出して室温に戻し、めっき表面の酸化銅(CuO)の割合とはんだ濡れ性について測定した。めっき表面の酸化銅の割合は、上記と同じEDS(エネルギー分散型X線分析装置)にて測定し、比較例1を100%としたときの各試料の酸化銅の割合を重量%で表した。また、はんだ濡れ性は、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ、温度:300℃、浸漬長さ:2.0mm、浸漬速度:1mm/sec、浸漬時間:7secの条件にて、各試料をはんだ槽に浸漬し、そのときのはんだ濡れ状態の外観を観察した。はんだ濡れ性の良いものを○とし、やや悪いものを△とし、悪いものを×として表した。これらの結果を表1に示した。めっき表面の酸化銅の割合は、高い炭素含有量をもつ試料ほど小さい値を示しており、例えば炭素含有量が5.0重量%以上の試料は、酸化銅の割合が60重量%以下の値となっていた。また、はんだ濡れ性についても、炭素含有量が5.0重量%以上の試料は、良好なはんだ濡れ性を示していた。
【0046】
また、得られた試料の加工性についても評価した。加工性は、直径1.0mmの鋼線に得られためっき線を巻き付け、めっき皮膜のクラック発生の有無を目視により調べ、クラックが発生しないものを○とし、クラックが発生したものを×として、その結果を表1に示した。フラーレンを最も多く含有する実施例1の試料のみにクラックが発生し、加工性に劣ることが確認された。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のフラーレン複合めっき電線の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】絶縁エナメル被膜が形成された本発明のフラーレン複合めっきエナメル電線の一例を示す断面図である。
【図3】絶縁エナメル被膜と融着エナメル被膜が形成された本発明のフラーレン複合めっきエナメル電線の他の一例を示す断面図である。
【図4】実施例1〜6で得られたフラーレン複合めっき電線のめっき表面の電子顕微鏡写真(1000倍)である
【図5】比較例1で得られた銅めっき電線のめっき表面の電子顕微鏡写真(1000倍)である。
【符号の説明】
【0049】
10 フラーレン複合めっき電線
11 金属芯線
12 フラーレン複合めっき皮膜
20,30 フラーレン複合めっきエナメル電線
21 絶縁エナメル被膜
31 融着エナメル被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属芯線と、当該金属芯線上に形成されたフラーレン複合めっき皮膜とを有することを特徴とするフラーレン複合めっき電線。
【請求項2】
前記フラーレン複合めっき皮膜が、フラーレンC60、フラーレンC70及び高次フラーレンの中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフラーレン複合めっき電線。
【請求項3】
前記フラーレン複合めっき皮膜が、銅、ニッケル、鉄、クロム、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びそれらの合金の群から選ばれるいずれかを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフラーレン複合めっき電線。
【請求項4】
前記金属芯線が、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、タングステン、モリブデン、チタン、白金及びそれらの合金の群から選ばれるいずれかの材料であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフラーレン複合めっき電線。
【請求項5】
前記フラーレン複合めっき電線の断面形状が平角形状であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフラーレン複合めっき電線。
【請求項6】
めっき液中にフラーレンを分散させた状態で金属芯線に給電してフラーレン複合めっき皮膜を形成することを特徴とするフラーレン複合めっき電線の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載のフラーレン複合めっき電線に、絶縁エナメル被覆、又は、絶縁エナメル被覆と融着エナメル被覆が塗布焼付けされていることを特徴とするフラーレン複合めっきエナメル電線。
【請求項8】
被めっき材と、当該被めっき材上に形成されたフラーレン複合めっき皮膜とを有することを特徴とするフラーレン複合めっき構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−179871(P2007−179871A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376891(P2005−376891)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】