フラーレン誘導体組成物とこれを用いた電界効果トランジスタ素子
【課題】特定のフラーレン誘導体を用いたメソフェーズを有する組成物、および、その新しい用途を提供する。
【解決手段】複数のフラーレン誘導体からなる組成物であり、上記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、フラーレン部位と、フラーレン部位の含窒素五員環に結合したアルキル置換基部位との結合からなり、メソフェーズを有することを特徴とする。
【解決手段】複数のフラーレン誘導体からなる組成物であり、上記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、フラーレン部位と、フラーレン部位の含窒素五員環に結合したアルキル置換基部位との結合からなり、メソフェーズを有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体組成物とこれを用いた電界効果トランジスタ素子とに関し、より詳細には、メソフェーズを有するフラーレン誘導体組成物とこれを用いた電界効果トランジスタ素子とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チューナブルなモルフォロジを有する超分子材料およびメソモルフィック材料等のソフトマテリアルの研究が注目されている。中でも、フラーレンは、比較的高いキャリア移動度を示すn型半導体等の電荷輸送材料として期待されており、フラーレンを用いた、固体と液体との中間相を示す材料が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1によれば、フラーレン部位と置換基部位とを有する、シャトルコック状の分子形状の金属含有フラーレン誘導体が、フラーレン部位と置換基部位とのスタックによって、分子同士が自発的にカップスタック型に積層し、これにより、中間相を発現する。しかしながら、特許文献1に示される組成物は、置換基部位が大きいため、フラーレン含有率に乏しく、フラーレンの特性を十分に発揮できないという問題がある。
【0004】
一方、本願発明者は、特定のフラーレン誘導体からなるナノワイヤおよび超分子組織体を報告している(例えば、特許文献2および3を参照)。特許文献2および特許文献3では、いずれも、三本のアルキル鎖を置換基として有するフラーレン誘導体を自己組織化させることに成功している。詳細には、特許文献2によれば、グラファイト基板上に一次元のフラーレンナノワイヤが形成される。また、特許文献3によれば、表面にナノメートルサイズのフレーク構造を持つ球状粒子が得られ、このような球状粒子を薄膜化することにより、超撥水材料となることを報告している。しかしながら、このようなフラーレン誘導体は、開発途上にあり、ソフトマテリアルの創製が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126389号公報
【特許文献2】特開2007−296593号公報
【特許文献3】特開2008−303148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、特定のフラーレン誘導体を用いたメソフェーズを有する組成物、および、その用途を提供することを課題とする。本発明は、さらに、フラーレン含有率の高い組成物およびその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1は、複数のフラーレン誘導体からなる組成物であって、前記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、次式(1)で示されるフラーレン部位と、式(1)の含窒素五員環に結合した次式(2)で示されるアルキル置換基部位との結合からなり、メソフェーズを有することを特徴とする。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中の(Fu)はフラーレンであり、Xは水素原子またはアルキル基を示す。)
【0010】
【化2】
【0011】
(式中のR1、R2およびR3は、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、16個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であるか、または、R1、R2およびR3のうちのいずれか2つは、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、17個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であり、R1、R2およびR3のうちのいずれか1つは、水素原子である。)
発明2は、発明1に記載の組成物において、複数のフラーレン誘導体は、メソフェーズにおいて、フラーレン部位が互いに隣接し、かつ、アルキル置換基部位が前記隣接したフラーレン部位を中心として相反する外側を向くように配列したラメラ構造を形成しており、前記ラメラ構造は、アルキル置換基部位が互いに近接するように積層されていることを特徴とする。
【0012】
発明3は、発明1に記載の組成物において、アルキル置換基は、飽和状アルキルオキシ基(OCnH2n+1)であり、式中のnは、前記R1、R2およびR3のいずれも16以上20以下の整数であるか、または、前記R1、R2およびR3のいずれか2つに対して17以上20以下の整数である)。
【0013】
発明4は、発明3に記載の組成物において、R1およびR2は、いずれもOC20H41であり、R3は水素原子であることを特徴とする。
【0014】
発明5は、発明3に記載の組成物において、R1、R2およびR3は、いずれもOC16H33であることを特徴とする。
【0015】
発明6は、発明1に記載の組成物において、アルキル置換基は不飽和結合を有し、R1、R2およびR3は、O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3(7≦x≦13)であることを特徴とする。
【0016】
発明7は、発明1に記載の組成物において、前記フラーレンは、C60、C70、C76、C84、および、これらのいずれかを骨格とし炭素ケージ内に金属を内包した金属内包フラーレンからなる群から選択されることを特徴とする。
【0017】
発明8は、半導体薄膜と、電極とを有する電界効果トランジスタ素子であって、前記半導体薄膜は、発明1から7のいずれかに記載の組成物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明による組成物は、特定のフラーレン誘導体から構成され、特定の温度領域においてメソフェーズを有している。このため本発明のフラーレン誘導体からなる組成物は、メソフェーズにおいて、フラーレンに由来した電気的(n型半導体)特性、および、電気化学(酸化還元)特性を有するので、これらを利用した素子に適用される。特に、上記組成物は、湿式プロセスからの塗布、温度調節によるメソフェーズにおいて、自発的に配向/積層させることができるので、素子の製造が容易になるとともに、大面積化を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による組成物を構成するフラーレン誘導体の模式図
【図2】本発明による組成物のメソフェーズにおける二次元模式図
【図3】本発明による組成物を用いた例示的な電界効果トランジスタの模式図
【図4】本発明による組成物を用いた例示的なメモリ素子の模式図
【図5】実施例1〜3の組成物1〜3のDSC曲線を示す図
【図6】実施例1の組成物1の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図7】実施例2の組成物2の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図8】実施例3の組成物3の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図9】実施例1の組成物1のXRDパターンを示す図
【図10】実施例2の組成物2のXRDパターンを示す図
【図11】実施例3の組成物3のXRDパターンを示す図
【図12】実施例1の組成物1の電気化学特性を示す図
【図13】実施例3の組成物3の電気化学特性を示す図
【図14】実施例1の組成物1の過渡光電流測定の結果を示す図
【図15】図14の過渡光電流測定の結果の対数プロットを示す図
【図16】実施例1の組成物1のキャリア移動度の印加電圧依存性を示す図
【図17】図16のキャリア移動度の電界強度依存性を示す図
【図18】実施例4におけるベンズアルデヒドを合成するステップを示すフローチャート
【図19】実施例4の組成物7のDSC曲線を示す図
【図20】実施例5の組成物8のDSC曲線を示す図
【図21】実施例4の組成物7の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図22】実施例5の組成物8の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図23】実施例4の組成物7のXRDパターンを示す図
【図24】実施例5の組成物8のXRDパターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本願発明者は、特許文献2および3に記載のナノワイヤおよび超分子組織体が、いずれも、フラーレン誘導体の組織化に基づく材料であることに着目し、ソフトマテリアルの創製に尽力した。その結果、本願発明者は、特許文献2および3に記載のフラーレン誘導体の中でも特定のフラーレン誘導体を用いた組成物がメソフェーズを有し、ソフトマテリアルであることを発見した。そこで、まず本発明における特定のフラーレン誘導体について詳述する。
【0022】
図1は、フラーレンがC60の場合の本発明による組成物を構成するフラーレン誘導体の模式図である。
【0023】
フラーレン誘導体は、前記式(1)で示されるフラーレン部位(図1の110)と、式(1)の含窒素五員環に結合した前記式(2)で示されるアルキル置換基部位(図2の120)との結合からなる。
【0024】
前記式(1)において、(Fu)はフラーレンであり、Xは水素原子またはアルキル基を示すが、合成の容易性の観点から、アルキル基の中でも炭素数6以下の低級アルキル基が好ましく、さらには、メチル基がより好ましい。また、図1では、フラーレンがC60の場合を示すが、フラーレンはこれに限定されない。フラーレンは、C60、C70、C76、C84、および、これらのいずれかを骨格とし炭素ケージ内に金属を内包した金属内包フラーレンからなる群から選択される。これらフラーレンは、いずれも、同様の特性を有しており、用途に応じて適宜採用可能である。中でも、C60は、取り扱いが簡便であり、入手が容易であるため好ましい。金属内包フラーレンは、例えば、フラーレン内に金属元素または遷移金属元素を含有する。これにより、フラーレンの電気的特性、磁気的特性等を制御することができる。
【0025】
式(2)において、(I)R1、R2およびR3は、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、16個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であるか、または、(II)R1、R2およびR3のうちいずれか2つは、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、17個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であり、R1、R2およびR3のうちいずれか1つは、水素原子である。このように、R1、R2およびR3のアルキル置換基が、特定の条件(I)または(II)を満たすことにより、フラーレン間の相互作用と、アルキル置換基間の相互作用との間のバランスにより、メソフェーズが発現すると考えられる。
【0026】
なお、ここでの「アルキル置換基」とは、直鎖状または分岐鎖状の炭素鎖を有している置換基を意味しており、炭素鎖は、酸素原子、硫黄原子等の異種原子に結合していてもよいし、結合していなくともよい。また、「不飽和結合」は、二重結合または三重結合であってよく、これらは複数個存在してもよい。
【0027】
アルキル置換基が飽和状である場合、好ましくは、アルキル置換基は、アルキル(CnH2n+1)、アルキルオキシ(OCnH2n+1)、および、チオアルキル(SCnH2n+1)からなる群から選択される。中でも、合成の容易性の観点から、アルキルオキシが好ましい。
【0028】
さらに、R1、R2およびR3がいずれも飽和状のアルキル置換基である場合、nは16以上20以下の整数であり、R1、R2およびR3のうちいずれか2つが飽和状アルキル置換基であり、R1、R2およびR3のうちいずれか1つが水素原子である場合、nは17以上20以下の整数であることが好ましい。これにより、図1で模式的に示されるフラーレン誘導体からなる組成物は、確実にメソフェーズを有する。特に、R1およびR2は、OC20H41であり、R3は水素原子である場合、または、R1、R2およびR3は、OC16H33である場合、組成物中のフラーレン含有率が45%以上となり、高含有率を維持できるので、フラーレンの特性を生かしたデバイスの構築に好ましい。
【0029】
アルキル置換基が不飽和結合を有する場合、すなわち、二重結合および/または三重結合を有する場合、組成物の融点を下げることができる。これにより、組成物の種々の測定を室温等の低温でできるので好ましい。また、メソフェーズを取り得る特定の温度領域を拡げることができる。例示的には、cis−13−ドコセニル(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)12−)、(−O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3(例えば、7≦x≦13)、(−(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3(例えば、7≦x≦13)等が挙げられる。
【0030】
また、本発明のフラーレン誘導体において、式(1)のN−Xを四級化し、電荷を持たせてもよい。これにより、フラーレン誘導体にイオン伝導性を付加できる。さらに、本発明のフラーレン誘導体は、式(1)と式(2)との結合に係る五員環の炭素原子が不斉炭素原子であり、キラリティを有するので、キラル液晶としても有効である。
【0031】
次に、上述の特定のフラーレン誘導体から構成される本発明の組成物について詳述する。本発明の組成物は、図1に模式的に示すフラーレン誘導体によって構成される。なお、本発明において、組成物とは、図1に模式的に示す1種のフラーレン誘導体から構成されていてもよいし、2種以上のフラーレン誘導体の混合物から構成されていてもよいし、これらに添加物を含んでいてもよい。
【0032】
図2は、本発明による組成物のメソフェーズにおける二次元模式図を示す。
【0033】
本発明の組成物は、メソフェーズを有する。メソフェーズとは、結晶相と等方相との中間の相状態であり、中間相、柔粘性結晶または液晶とも呼ばれる。本発明の組成物は、サーモトロピック系のメソフェーズ、すなわち、特定温度領域においてメソフェーズを有する。特定温度領域は、式(2)のR1、R2およびR3の種類によって異なるが、例えば、R1、R2およびR3がいずれも、OC20H41の場合には、62℃〜193℃の範囲においてメソフェーズを有する。また、R1、R2およびR3がいずれも、O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)7CH3の場合には、−36℃〜160℃の範囲においてメソフェーズを有する。本発明の組成物がメソフェーズを有するか否かは、示差走査熱分析(DSC)または偏光顕微鏡により確認できる。
【0034】
図2に示されるように、本発明の組成物は、メソフェーズにおいて、フラーレン誘導体が自発的に配向したラメラ構造210を有する。詳細には、ラメラ構造210は、フラーレン部位110(図1)が互いに隣接し、かつ、アルキル置換基部位120(図1)が隣接したフラーレン部位を中心として、相反する外側を向くように配列している。さらに、本発明の組成物は、メソフェーズにおいて、ラメラ構造210が、アルキル置換基部位120(図1)が互いに隣接するように積層されている。このようなラメラ構造210を構成する組成物は、スメクチック相に分類される。
【0035】
さらに、本発明の組成物は、複屈折を示すメソフェーズを有することに加えて、電気的特性としてn型半導体、および、電気化学特性として酸化還元活性を有する。特に、本発明の組成物は、比較的シンプルなフラーレン誘導体から構成されるので、フラーレン含有率が高く、フラーレンの特性を効果的に発揮し得る。上述したように、組成物を構成するフラーレン誘導体を適宜選択することによって(例えば、図1において、R1およびR2は、OC20H41であり、R3は水素原子である場合、または、R1、R2およびR3は、OC16H33である場合)、45%以上のフラーレン含有率を達成することができる。これらの特性を利用して、本発明の組成物は、n型半導体を利用した有機半導体材料、酸化還元活性を利用したメモリ材料またはセンサ材料等として、さらにはその材料を利用したデバイスに使用することができる。
【0036】
本発明の組成物は、特定温度領域においてメソフェーズを有するので、本発明の組成物を、湿式プロセスによる塗布し、温度制御を行えば、フラーレン誘導体が自発的に配向し、組織化したラメラ構造210を有した任意の形状の構造体となり得る。このことは、素子の製造を容易にするとともに、大面積化も可能であるので有利である。さらに、本発明の組成物は、湿式プロセスによる塗布のため、任意の材料の基材、任意の形状(凹凸、曲率表面)の基材にも適用できる。また、組成物中に添加物として重合性モノマーを含有させ、重合を行って、上述の構造体を鋳型薄膜として使用してもよい。あるいは、本発明の組成物を、温度制御により、メソフェーズにおけるフラーレン誘導体の配向・組織化させた後、固体状態にして使用してもよい。
【0037】
次に、本発明の組成物の合成方法の一例を示すが、これに限定されない。
【0038】
すなわち、本発明の組成物の合成では、たとえば次式(a)および(b)でそれぞれ示される化合物と、フラーレンとを反応させればよい。
【0039】
【化3】
【0040】
ここで、式(a)のR1、R2およびR3は、上述したとおりである。また、式(b)のXも、上述したとおりである。フラーレンもまた、C60、C70、C76、C84および金属内包フラーレンからなる群から選択される。反応は、詳細には、これら化合物とフラーレンとを含む混合物を、溶媒中で還流させる。例えば、R1、R2およびR3が飽和状のアルキル置換基である場合、溶媒としてトルエンを用い、110℃の温度で12時間〜24時間還流させればよい。R1、R2およびR3が不飽和結合を有するアルキル置換基である場合、溶媒としてクロロベンゼンを用い、130℃の温度で12時間〜24時間還流させればよい。このようにして得られた反応物は、図1を参照して説明した特定のフラーレン誘導体からなる組成物である。
【0041】
R1、R2およびR3が飽和状のアルキル置換基である場合に、溶媒としてクロロベンゼンを用いてもよいし、R1、R2およびR3が不飽和結合を有するアルキル置換基である場合に、溶媒としてトルエンを用いてもよく、各溶媒の沸点温度で12時間〜24時間還流させればよい。クロロベンゼンは、トルエンに比べて、フラーレンの溶解度が高いため、合成に有利な溶媒である。
【0042】
なお、溶媒としてクロロホルムまたはテトラヒドロフランを用いて、反応物を溶解させて保持してもよい。
【0043】
次に、本発明の組成物を用いた応用例(用途)を示す。
【0044】
図3は、本発明による組成物を用いた例示的な電界効果トランジスタの模式図である。
【0045】
電界効果トランジスタ300は、基板310と、ゲート電極320と、絶縁膜330と、n型有機半導体薄膜340と、ソース電極350と、ドレイン電極360とを有する。
【0046】
基板310は、シリコン、ガラス、石英、セラミック、プラスチック等の材料を用いることができる。
【0047】
ゲート電極320、ソース電極350、ドレイン電極360は、Al、Au、Pt、Cr、Ta、Ni、Cu等の金属、それらの合金、ポリシリコン、アモルファスシリコン、グラファイト、ITO、ZnO、導電性ポリマ等既存の電極材料であり、周知の成膜方法により形成される。
【0048】
絶縁膜330は、SiO2、Si3N4、SiON、Al2O3、Ta2O5、アモルファスシリコン、ポリイミド樹脂等既存の絶縁材料であり、周知の成膜方法により形成される。
【0049】
n型有機半導体薄膜340は、上述した本発明の組成物からなり、メソフェーズによる配向・組織化された状態を維持した特定のフラーレン誘導体からなる。
【0050】
このような電界効果トランジスタ300の動作を説明する。ゲート電極320とソース電極350との間に電界を印加すると、n型有機半導体薄膜340は、電荷を蓄積する。ソース電極350とドレイン電極360との間で蓄積された電荷が電流として流れる。すなわち、ゲート電極320に印加する電圧を制御することによって、ソース電極350とドレイン電極360との間に流れる電流が制御される。
【0051】
さらに、n型有機半導体薄膜340を構成する組成物は、メソフェーズを有するので、既存の結晶性半導体材料に比べて、配向制御が容易である。すなわち、スピンコート、滴下、浸漬等の湿式プロセスを用い、基板に塗布し、特定温度領域内に温度制御することにより、容易に、配向・組織化されたn型有機半導体薄膜340が形成される。したがって、真空装置などの大掛かりな装置を不要とするので、安価に製造できる。さらに、塗布面積に制限はないため、大型化も可能である。特に、基板310として、プラスチック基板を採用すれば、曲げることが可能なフレキシブルなディスプレイ、センサ、曲面を有するディスプレイ、センサ等に応用することができる。
【0052】
例示的に、本発明の組成物をn型有機半導体薄膜として電界効果トランジスタに使用した場合を示したが、本発明の組成物は、これに限定されない。当然のことながら、本発明の電界効果トランジスタを表示装置、電子機器等の各種デバイスに適用してもよい。
【0053】
図4は、本発明による組成物を用いた例示的なメモリ素子の模式図である。
【0054】
メモリ素子400は、基板410と、酸化還元薄膜420と、絶縁膜430と、ソース電極440と、ドレイン電極450と、ゲート電極460とを含む。このような構成は、既存のMOS−FETのゲート酸化膜とシリコン基板との界面に酸化還元膜を付与した構成である。
【0055】
ここで、基板410は、シリコン基板である。絶縁膜430、ソース電極440、ドレイン電極450およびゲート電極460は、図3を参照して説明した、絶縁膜330、ソース電極350、ドレイン電極360およびゲート電極320と同様であるため説明を省略する。酸化還元膜420は、上述した本発明の組成物からなり、メソフェーズによる配向・組織化された状態を維持した特定のフラーレン誘導体からなる。
【0056】
このような、メモリ素子400の動作を説明する。ゲート電極460に負電位を印加すると、酸化還元膜420は酸化され、正電荷が蓄積される。一方、ゲート電極460に正電位を印加すると、酸化還元膜420は還元され、蓄積された電荷は消去される。ゲート電極460への負電位の印加を取り去っても、酸化還元膜420の酸化状態が保持される。その結果、蓄積された正電荷によって、基板410と酸化還元膜420との界面にチャネルが形成され、ソース電極440とドレイン電極450との間に電流が流れる(すなわち、情報「1」を表す)。なお、酸化還元膜420が還元状態では電流は流れない(すなわち、情報「0」を表す)。このように、ソース電極440とドレイン電極450との間の電流の有無によって、情報(電荷の蓄積)を読み出すことができる。
【0057】
また、本発明の組成物の酸化還元活性を利用して、分子認識素子または分子スイッチに適用してもよい。
【実施例】
【0058】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【0059】
実施例1〜3および比較例1〜3では、式(2)において、アルキル置換基が飽和状である組成物について本発明の有効性を確認した。実施例1〜3および比較例1〜3の実験条件を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
<実施例1>
表1に示すように、式(a)に示すベンズアルデヒドと、式(b)に示すN−メチルグリシンと、フラーレンとしてC60とを乾燥トルエン中で還流し、組成物1を得た。なお、組成物1を構成するフラーレン誘導体は、表1に示すとおりである。
【0062】
このようにして得られた組成物1について、DSC204(NETZSCH製)を用いた示差走査熱分析(DSC)を行った。測定は、250℃まで試料を加熱した後、250℃から0℃までの降温過程、および、0℃から250℃までの昇温過程をそれぞれ測定した。走査速度は、10℃/分であった。結果を図5(a)、表2および表3に示し、後述する。表3には、組成物1のフラーレン含有率も併せて示す。
【0063】
組成物1について、温度制御加熱ステージ(Linkam製)を備えた偏光顕微鏡(BX51、Olympus製)を用いて、偏光顕微鏡観察を行った。観察は、組成物1の等方相からの降温過程である190℃で行った。観察結果を図6に示し、後述する。
【0064】
次に、組成物1について、X線回折を行い、構造解析を行った。測定には、モノクロメータおよび温度制御加熱ステージを備えたX線回折計(Rint−2200、Rigaku製)を用いた。測定は、CuKαを線源とし、185℃で行った。測定結果を図9に示し、後述する。
【0065】
組成物1について、電気化学測定を行った。電気化学測定(サイクリックボルタンメトリおよび微分パルスボルタンメトリ)は、3電極セル方式のReference 600 ポテンショスタット/ガルバノスタット/ZRA(Garmry製)を用いて行った。作用電極にはグラッシーカーボンディスク電極(0.07cm2)を、対極にはPtワイヤをそれぞれ用いた。参照電極は、Ag/AgCl/飽和KClであった。作用電極上に組成物1の薄膜を形成し、測定用試料とした。組成物1の薄膜は、組成物1を溶解させたCHCl3溶液(10μL、1mM)を作用電極にキャストし、24時間大気中で乾燥させて、形成された。
【0066】
サイクリックボルタンメトリ測定は、70℃および20℃にそれぞれ保持した0.1MのnBu4NCl水溶液中で、走査速度0.1V/秒で行った。また、微分パルスボルタンメトリ測定は、70℃に保持した0.1MのnBu4NCl水溶液中で、パルス振幅25mVで行った。測定結果を図12に示し、後述する。
【0067】
次に、組成物1について、TOF(Time−Of−Flight)法によるキャリア移動度の測定を行った。2枚のITO電極間にサンドイッチ構造状に組成物1を挟み込み、測定用試料とした。組成物1の薄膜は、2枚のITO電極間(9μm)に、加熱・流動性を持たせた組成物1をキャピラリーフォース的に取り込ませ作製された。薄膜の膜厚は9μmであり、ITO電極の面積は0.16cm2であった。
【0068】
120℃に保持した試料に−20V〜−200Vの各電圧を印加し、波長356nmの励起パルスを照射した際の各過渡光電流を測定した。結果を図14および図15に示す。図14および図15から電子のITO電極間の移動時間tTを確定し、キャリア移動度μを求めた。キャリア移動度μは、μ=d/EtT=d2/VtTより算出した。ここで、dは、組成物1の薄膜の厚さであり、Eは電界強度であり、Vは印加電圧である。このようにして求めた、各印加電圧とキャリア移動度との関係を図16および図17に示し、後述する。
【0069】
<実施例2>
実施例1と同様に、表1に示す原料を用い、組成物2を得た。なお、組成物2を構成するフラーレン誘導体は、表1に示すとおりである。
【0070】
組成物2について、実施例1と同様に、DSC測定、偏光顕微鏡観察(観察温度200℃)およびX線回折(測定温度200℃)を行った。結果を図5(b)、図7、図10、表2および表3に示し、後述する。
【0071】
<実施例3>
実施例1と同様に、表1に示す原料を用い、組成物3を得た。なお、組成物3を構成するフラーレン誘導体は、表1に示すとおりである。
【0072】
組成物3について、実施例1と同様に、DSC測定、偏光顕微鏡観察(観察温度202℃)、X線回折(測定温度200℃)および電気化学測定(サイクリックボルタンメトリ測定の測定温度60℃および15℃、ならびに、微分パルスボルタンメトリ測定の測定温度60℃)を行った。結果を図5(c)、図8、図11、図13、表2および表3に示し、後述する。
【0073】
<比較例1〜3>
実施例1と同様に、表1に示す原料を用い、組成物4〜6を得た。なお、組成物4〜6を構成するフラーレン誘導体は、表1に示すとおりである。得られた組成物4〜6のモルフォロジおよびフラーレン含有率を表3に示す。組成物4〜6についてDSC測定および偏光顕微鏡観察を行ったが、いずれの試料もメソフェーズを有することを示す相転移を有さないことを確認した。
【0074】
以上の実施例および比較例について、実験結果を説明する。
【0075】
図5は、実施例1〜3の組成物1〜3のDSC曲線を示す図である。
【0076】
図5(a)(b)(c)の昇温過程の曲線は、いずれも、明瞭な2つの吸熱ピークを示した。低温側の吸熱ピークは、結晶相からメソフェーズへの相転移に相当し、高温側の吸熱ピークは、メソフェーズから等方相への相転移に相当する。なお、比較例1〜3で得られる組成物4〜6は、いずれも、このような明瞭かつ可逆的な吸熱ピークを示さなかった。DSC曲線から組成物1〜3の相転移温度を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2より、実施例1の組成物1と、実施例3の組成物3とを比較すると、組成物を構成するフラーレン誘導体のアルキル鎖が長くなるほど(すなわち、R1、R2およびR3のCが多いほど)、結晶相からメソフェーズへの相転移温度が高くなり、メソフェーズから等方相への相転移温度が低くなることが分かった。また、実施例1の組成物1と、実施例2の組成物2とを比較すると、組成物を構成するフラーレン誘導体のアルキル鎖の数が多いほど(すなわち、R1、R2およびR3のいずれも水素原子でない)、結晶相からメソフェーズへの相転移温度が高くなり、メソフェーズから等方相への相転移温度が低くなることが分かった。これは、フラーレン誘導体のR1、R2およびR3のアルキル鎖のファンデルワールス力の差異が起因している。
【0079】
図6は、実施例1の組成物1の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0080】
図7は、実施例2の組成物2の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0081】
図8は、実施例3の組成物3の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0082】
図6〜図8によれば、いずれも、複屈折を示すメソフェーズ特有のドメイン構造を示した。このことからも、本発明の組成物がメソフェーズを有することが示される。
【0083】
表3は、実施例1〜3、比較例1〜3および参考1〜5のモルフォロジ、組成式、分子量およびフラーレン含有率を示す。なお、参考1〜5に示す組成物の化学式をまとめて示す。
【0084】
【表3】
【0085】
【化4】
【0086】
表3に示されるように、本発明の組成物は、メソフェーズを有しており、既存のスメチック相を示すフラーレンに基づく材料(参考1〜5)と比較しても、フラーレン含有率が比較的高い。特に、実施例2および3の組成物は、フラーレン含有率が高く、フラーレンに基づく特性を効果的に発揮し得るので、好ましい。また、実施例1〜3と、比較例1〜3とから、上述した特定のフラーレン誘導体からなる組成物においてのみメソフェーズを有することが確認された。
【0087】
図9は、実施例1の組成物1のXRDパターンを示す図である。
【0088】
図10は、実施例2の組成物2のXRDパターンを示す図である。
【0089】
図11は、実施例3の組成物3のXRDパターンを示す図である。
【0090】
図9によれば、2θ=1.58°にもっとも強い回折ピークを示した。この回折ピークは、(001)(面間隔d=5.59nm)に相当する。また、図9のXRDパターンは、(001)以外に、(0014)(2θ=23.44°)までの高次の回折ピークを示した。さらに、溶融アルキル鎖に相当する、2θ≒19°を中心とするブロードなハローパターンを示した。図10および図11のXRDパターンも、図9のXRDパターンと同様に、(001)から(0012)に相当する回折ピークを示した。また、図10および図11のXRDパターンから得られる面間隔は、それぞれ、4.75nmおよび4.80nmであった。
【0091】
さらに、Scherrerの式を用いて、図9〜図11のXRDパターンのピーク幅を解析したところ、組成物1〜3のいずれも、約100nmの相関長を有することが分かった。この約100nmの相関長は、約20層のラメラ構造(図2の210)に相当する。この値は、既存のスメクチック液晶の相関長(例えば、アルコキシビフェニルメソゲンおよびポリビベンゾエートを含有する無水マレイン酸コポリマー、および、1−オレフィンコポリマーの相関長は、それぞれ、8.6nmおよび60nm)に比べて極めて大きく、高次に配向したドメインの形成を示唆する。
【0092】
以上から、本発明の組成物1〜3は、図2に示すような二次元構造を有していることが示唆される。また、XRDパターンから得られた面間隔は、図2の矢印で示される距離に相当することを確認した。
【0093】
以上、図6〜図8の偏光顕微鏡による複屈折を示すメソフェーズ、および、図9〜図10のXRDパターンによる高角側の回折ピークから、本発明による組成物は、広範囲に配向したメソフェーズを有し、スメクチック相に匹敵することが分かった。
【0094】
図12は、実施例1の組成物1の電気化学特性を示す図である。
【0095】
図13は、実施例3の組成物3の電気化学特性を示す図である。
【0096】
図12および図13によれば、いずれも、結晶相からメソフェーズへの相転移点以上の温度において、第1および第2の酸化還元応答を示した。第1の酸化還元応答において、フラーレンC60のモノアニオンが生成され、第2の酸化還元応答において、フラーレンC60のジアニオンが生成される。図12および図13によれば、組成物1の第1および第2の酸化還元イベントは、−0.71Vおよび−0.88Vの電位において、組成物3の第1および第2の酸化還元応答は、−0.70Vおよび−0.87Vの電位にて生じることが分かった(V vs. Ag/AgCl/飽和KCl)。
【0097】
一方、図12および図13によれば、いずれも、結晶相の温度では、何ら酸化還元イベントを示さなかった。このことから、本発明の組成物は、メソフェーズにおいて、支持電解質、溶媒およびフラーレン誘導体そのもの等の分子を効率的に拡散させ得ることが示唆される。
【0098】
図14は、実施例1の組成物1の過渡光電流測定の結果を示す図である。
【0099】
図15は、図14の過渡光電流測定の結果の対数プロットを示す図である。
【0100】
図14を対数プロットした図15によれば、各印加電圧において、明瞭な屈曲点を示した。この各印加電圧で得られた屈曲点を電子のITO電極間の移動時間tTとし、上述した式により、各印加電圧におけるキャリア移動度を求めた。なお、逆方向に電圧を印加した際に、ホール移動度は検出できなかった。以上より、本発明の組成物はn型半導体であることを確認した。
【0101】
図16は、実施例1の組成物1のキャリア移動度の印加電圧依存性を示す図である。
【0102】
図17は、図16のキャリア移動度の電界強度依存性を示す図である。
【0103】
図16および図17から、印加電界が2×105V/cmにおいて、キャリア移動度は、約3×10−3cm2/V・sであった。この値は、有機半導体オリゴマのスメクチック液晶相または超分子カラムナ液晶のキャリア移動度に匹敵することが分かった。なお、実施例1の組成物1は、ランダムドメインからなっており、ドメインをより均一に配向させれば、さらなるキャリア移動度の向上が期待できる。
【0104】
次に、実施例4〜5では、式(2)において、アルキル置換基が不飽和結合を有する組成物について本発明の有効性を確認した。実施例4〜5の実験条件を表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
<実施例4>
組成物7の合成に先立って、表4における式(a)で示すベンズアルデヒドを合成した。
【0107】
図18は、実施例4におけるベンズアルデヒドを合成するステップを示すフローチャートである。
【0108】
ステップS1810:x=13の1−ヘキサデシンAから出発する。N−ブロモこはく酸イミド(8.9g、50.0mmol)と、1−ヘキサデシンA(8.88g、20.0mmol)と、AgNO3(800mg、4.7mmol)と、アセトン(80mL)とを、室温で2時間混合・攪拌し、白い懸濁液をろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した。残渣を溶離剤としてn−ヘキサンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、無色のオイル状の生成物Bを得た。核磁気共鳴(NMR分光法)を用いて生成物Bを同定した。用いた装置は、Bruker DMX400であった。同定結果を示す。同定結果から生成物Bは、ブロムアルキンであることが分かった。
【0109】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ2.20(t,2H,J=7.2Hz)、1.62−1.15(m,24H)、0.90(t,3H)
ステップS1820:塩酸ヒドロキシルアミン(0.5g)および塩化第一銅(0.25g)を、アルゴン雰囲気中、10−ウンデシン−1−オール(10.0mmol)と、70%エチルアミン水溶液(5.0mL)と、メタノール(20.0mL)と、テトラヒドロフラン(THF)(80.0mL)との混合溶液に添加し、混合物を10分間攪拌し、Cadiot−Chodkiewiczカップリングを行った。次いで、ステップS1810で得られた生成物B(3.01g、10.0mmol)を加え、30分間攪拌した。これらの混合溶液の色が青色に変化した際に、さらに微量の塩化ヒドロキシルアミンを加えた。室温にて3時間攪拌し、反応させた。
【0110】
次いで、混合溶液を水300mLで希釈し、CH2Cl2を用いて抽出した。抽出された生成物は有機相と化合しているため、飽和Na2CO3および水を用いて洗浄し、硫酸ソーダを用いて乾燥させた。溶媒を減圧留去させ、アセトンおよびエタノールから再結晶化を数回行って、無色固体の生成物C(1.98g、5.1mmol、71%)を得た。NMR分光法を用いて生成物Cを同定した。同定結果を示す。同定結果から生成物Cは、水酸基で終端されたジアセチレン化合物であることが分かった。
【0111】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ3.60−3.66(m,2H,−O−CH2)、2.23(t,4H,J=7.2Hz,−CH2−t−t−CH2−)、1.59−1.46(m,6H)、1.41−1.22(m,34H)、0.89(t,3H,J=6.1Hz,−CH3)
ステップS1830:PPh3(8.9g、50.0mmol)およびCBr4(800mg、2.2mmol)を、アルゴン雰囲気中、生成物C(2.0g、20.0mmol)と脱水THF(40mL)との混合溶液に加え、室温で30分間攪拌し反応させた。次いで、混合溶液を減圧下で濃縮した。残渣を溶離剤としてn−ヘキサンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、無色のオイル状の生成物D(11.04g、90%)を得た。NMR分光法を用いて、生成物Dを同定した。同定結果を示す。同定結果から生成物Dは、臭素で終端された生成物Cの誘導体であることが分かった。
【0112】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ3.40(t,2H,J=6.8Hz,−CH2−Br)、2.23(t,4H,J=6.8Hz,−CH2−t−t−CH2−)、1.80−1.88(m,2H,CH2CH2Br)、1.51−1.27(m,36H,CH2)、0.88(t,3H,J=6.8Hz,CH3−CH2)
ステップS1840:K2CO3(1.04g、7.5mmol)と、KI(25mg)と、3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒド(430mg、2.5mmol)と、生成物D(4.52g、10mmol)と、脱水ジメチルホルムアミド(DMF)(60mL)との混合物を、アルゴン雰囲気中、16時間70℃で攪拌し、Williamsonエーテル合成を行った。反応した混合物を室温まで冷却し、混合物に水(200mL)を注ぎ、ジクロロメタン(200mL)を用いて2回抽出した。抽出された有機相を、硫酸ソーダを用いて乾燥させた。溶媒を減圧下で濃縮し、残渣を溶離剤としてジクロロメタン/メタノール(50/1)を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、白色固体の生成物E(2.1g、1.6mmol、64%)を得た。NMR分光法を用いて、生成物Eを同定した。同定結果を示す。同定結果から生成物Eは、表4の式(a)に示す、実施例4のベンズアルデヒドであることが分かった。
【0113】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ9.83(s,1H)、7.08(s,2H)、4.06(t,2H,J=6.6Hz)、4.03(t,4H,J=6.4Hz)、2.20(t,12H,J=6.4Hz、−CH2−t−t−CH2−)、1.87−1.70(m,6H)、1.47−1.26(m,108H)、0.88(t,9H,J=6.8Hz)
なお、ステップS1810においてN−ブロモこはく酸イミドに替えて、N−クロロこはく酸イミド、N−ヨードこはく酸イミド等の他のハロゲン化物を用いてもよい。同様に、ステップS1830において、CBr4に替えて、CCl4、CI4等の他のハロゲン化物を用いてもよい。しかしながら、例えば、実施例4のようにジアセチレン部位が含まれる場合、CI4を採用すると、ジアセチレンがドープされる恐れがある。また、塩化物を採用した場合、反応性が低下し、収率が低減する恐れがある。したがって、臭化物が最も好ましい。
【0114】
表4に示すように、式(a)に示すベンズアルデヒドと、式(b)に示すN−メチルグリシンと、フラーレンとしてC60とを脱水クロロベンゼン中で還流し、組成物7を得た。詳細には、Prato法を採用し、生成物Eのベンズアルデヒド(600mg、0.47mmol)と、N−メチルグリシン(445mg、5.0mmol)と、C60(504mg、0.7mmol)と、脱水クロロベンゼン(500mL)との混合物を、アルゴン雰囲気中、20時間130℃で加熱し、反応させた。冷却後、溶媒を減圧留去させた。残渣を溶離剤としてクロロホルムを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにより粗精製した。粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィ(Bio−beads S−X3、トルエン)により精製し、クロロホルム/メタノールから再結晶し、茶色の固体の生成物(398mg、0.18mmol、38%)を合成した。
【0115】
NMR分光法に加えて、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)、マトリクス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS)および紫外可視分光法により、生成物を同定した。FT−IRスペクトルの測定は、Bruker EQUINOX 55/S分光光度計によりKBrペレットを用いて行った。MALDI−TOF−MSスペクトルの測定は、Bruker Reflex II(マトリクス:2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸)を用い、反射モードで行った。UV−visスペクトルの測定は、Varian Cary 50 Conc分光光度計を用いて行った。同定結果を示す。同定結果から生成物は、目的とする表4のフラーレン誘導体(組成物7)であることが分かった。
【0116】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ7.26−6.68(br,2H)、4.97(d,1H,J=9.6Hz)、4.81(s,1H)、4.25(d,1H,J=9.6Hz)、4.02−3.92(m,6H)、2.85(s,3H)、2.27−2.18(m,12H)、1.75−1.65(m,6H)、1.55−1.20(m,108H)、0.88(t,9H,J=6.8Hz)
13C NMR(100MHz、CDCl3):δ156.0、154.0、153.8、153.4、153.1、147.2、147.0、146.4、146.1、146.0、145.9、145.7、154.4、145.2、144.6、144.3、143.1、143.0、142.5、142.1、142.1、142.0、141.8、141.6、141.5、140.1、140.0、139.6、138.3、136.5、136.1、135.7、131.8、83.6、73.1、70.0、69.2、68.9、65.3、40.0、31.9、30.2、29.6、29.4、29.3、29.1、28.8、28.3、25.9、22.6、19.2、14.1
FT−IR(cm−1):2924.0、2852.4、2776.7、2256.3、1587.4、1116.4
MALDI−TOF−MS:C150H149NO3の計算値2013.75、測定値2013.45[M−]
UV−vis(n−ヘキサン、0.5×10−5M):λmax(ε、M−1cm−1)=210(178820)、254(129676)、313(43120)、430(4254)
このようにして得られた組成物7について、実施例1と同様にDSCを行った。測定は、150℃まで試料を加熱した後、150℃から−50℃までの降温過程、および、−30℃から150℃までの昇温過程をそれぞれ測定した。結果を図19に示し、後述する。
【0117】
次に、実施例1と同様に、組成物7について偏光顕微鏡観察(観察温度115℃)、および、X線回折(測定温度115℃)を行った。これらの結果を図21および23に示し、後述する。
【0118】
<実施例5>
組成物8の合成に先立って、表3における式(a)で示すベンズアルデヒドを合成した。式(a)で示すベンズアルデヒドは、実施例4と同様に、図18において、x=7として以外は同様の手順によって合成された。
【0119】
次いで、実施例4と同様の手順により、式(a)に示すベンズアルデヒドと、式(b)に示すN−メチルグリシンと、フラーレンとしてC60とを脱水クロロベンゼン中で還流し、組成物8を得た。同定結果から生成物は、目的とする表4のフラーレン誘導体(組成物8)であることを確認した。
【0120】
このようにして得られた組成物8について、実施例1と同様にDSCを行った。測定は、175℃まで試料を加熱した後、150℃から−100℃までの降温過程、および、−100℃から175℃までの昇温過程をそれぞれ測定した。結果を図20に示し、後述する。
【0121】
次に、実施例1と同様に、組成物8について偏光顕微鏡観察(観察温度125℃)、および、X線回折(測定温度125℃)を行った。これらの結果を図22および24に示し、後述する。
【0122】
図19は、実施例4の組成物7のDSC曲線を示す図である。
【0123】
図20は、実施例5の組成物8のDSC曲線を示す図である。
【0124】
図19および図20の昇温過程の曲線は、いずれも、明瞭な2つの吸熱ピークを示した。低温側の吸熱ピークは、結晶相からメソフェーズへの相転移に相当し、高温側の吸熱ピークは、メソフェーズから等方相への相転移に相当する。DSC曲線から組成物7および8の相転移温度を表5に示す。
【0125】
【表5】
【0126】
表5と表2とを比較すると、アルキル置換基が不飽和結合を有することによって、結晶相からメソフェーズへの相転移温度、および、メソフェーズから等方相への相転移温度が低くなることが分かった。特に、メソフェーズから等方相への相転移温度の低下は顕著である。また、アルキル置換基が不飽和結合を有することにより、本発明の組成物は、室温においてもメソフェーズを有する。
【0127】
さらに、実施例4と実施例5とを比較すると、アルキル置換基において不飽和結合から末端までのアルキル鎖の数が短いほど、結晶相からメソフェーズへの相転移温度が低下することが示唆される。これにより、本発明の組成物がメソフェーズとなり得る温度範囲が広がるので、本発明の組成物をメソフェーズにて利用する用途に好適である。
【0128】
図21は、実施例4の組成物7の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0129】
図22は、実施例5の組成物8の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0130】
図21および図22によれば、図6〜図8と同様に、複屈折を示すメソフェーズ特有のドメイン構造を示した。このことからも、本発明の組成物は、アルキル置換基が不飽和結合を有していても、特定温度領域においてメソフェーズを有することが示される。
【0131】
図23は、実施例4の組成物7のXRDパターンを示す図である。
【0132】
図24は、実施例5の組成物8のXRDパターンを示す図である。
【0133】
図23および図24は、図9〜図11(実施例1〜実施例3)と同様に、(00l)の回折ピークのみ示した。図23および図24も、(001)の回折ピークがもっとも強度が強く、この回折ピークから面間隔をそれぞれ算出した。実施例4の組成物7の面間隔dは、6.3nmであり、実施例5の組成物8の面間隔dは、5.1nmであった。また、図23によれば、(0016)までの高次の回折ピークを、図24によれば、(0014)までの高次の回折ピークを示した。さらに、溶融アルキル鎖に相当する、2θ≒19°を中心とするブロードなハローパターンを示した。
【0134】
図23および図24は、図9〜図11と同様の回折パターンであり、同様のピーク幅を有していることから、組成物7および8も、約20層のラメラ構造(図2の210)に相当する約100nmの相関長を有し、高次に配向したドメインが形成されていることが示唆される。
【0135】
以上、実施例4および5から、本発明の組成物7および8は、フラーレン誘導体におけるアルキル置換基が不飽和結合を有していても、特定温度領域においてメソフェーズを有し、かつ、図2に示すような二次元構造を有していることが示された。特に、アルキル置換基が−O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3において、xが関係7≦x≦13の間であれば、メソフェーズを有する組成物が得られるとともに、xを変更することによって、結晶相からメソフェーズへの相転移温度、および、メソフェーズから等方相への相転移温度を制御できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
以上説明してきたように、本発明の組成物は、特定のフラーレン誘導体からなり、これにより、メソフェーズを有する。本発明の組成物は、フラーレンに基づく、n型半導体性および酸化還元活性を示すので、これらを利用したデバイスに適用可能である。
【符号の説明】
【0137】
110 フラーレン部位
120 アルキル置換基部位
210 ラメラ構造
300 電界効果トランジスタ
310、410 基板
320、460 ゲート電極
330、430 絶縁膜
340 n型有機半導体薄膜
350、440 ソース電極
360、450 ドレイン電極
400 メモリ素子
420 酸化還元薄膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体組成物とこれを用いた電界効果トランジスタ素子とに関し、より詳細には、メソフェーズを有するフラーレン誘導体組成物とこれを用いた電界効果トランジスタ素子とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チューナブルなモルフォロジを有する超分子材料およびメソモルフィック材料等のソフトマテリアルの研究が注目されている。中でも、フラーレンは、比較的高いキャリア移動度を示すn型半導体等の電荷輸送材料として期待されており、フラーレンを用いた、固体と液体との中間相を示す材料が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1によれば、フラーレン部位と置換基部位とを有する、シャトルコック状の分子形状の金属含有フラーレン誘導体が、フラーレン部位と置換基部位とのスタックによって、分子同士が自発的にカップスタック型に積層し、これにより、中間相を発現する。しかしながら、特許文献1に示される組成物は、置換基部位が大きいため、フラーレン含有率に乏しく、フラーレンの特性を十分に発揮できないという問題がある。
【0004】
一方、本願発明者は、特定のフラーレン誘導体からなるナノワイヤおよび超分子組織体を報告している(例えば、特許文献2および3を参照)。特許文献2および特許文献3では、いずれも、三本のアルキル鎖を置換基として有するフラーレン誘導体を自己組織化させることに成功している。詳細には、特許文献2によれば、グラファイト基板上に一次元のフラーレンナノワイヤが形成される。また、特許文献3によれば、表面にナノメートルサイズのフレーク構造を持つ球状粒子が得られ、このような球状粒子を薄膜化することにより、超撥水材料となることを報告している。しかしながら、このようなフラーレン誘導体は、開発途上にあり、ソフトマテリアルの創製が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126389号公報
【特許文献2】特開2007−296593号公報
【特許文献3】特開2008−303148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、特定のフラーレン誘導体を用いたメソフェーズを有する組成物、および、その用途を提供することを課題とする。本発明は、さらに、フラーレン含有率の高い組成物およびその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1は、複数のフラーレン誘導体からなる組成物であって、前記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、次式(1)で示されるフラーレン部位と、式(1)の含窒素五員環に結合した次式(2)で示されるアルキル置換基部位との結合からなり、メソフェーズを有することを特徴とする。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中の(Fu)はフラーレンであり、Xは水素原子またはアルキル基を示す。)
【0010】
【化2】
【0011】
(式中のR1、R2およびR3は、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、16個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であるか、または、R1、R2およびR3のうちのいずれか2つは、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、17個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であり、R1、R2およびR3のうちのいずれか1つは、水素原子である。)
発明2は、発明1に記載の組成物において、複数のフラーレン誘導体は、メソフェーズにおいて、フラーレン部位が互いに隣接し、かつ、アルキル置換基部位が前記隣接したフラーレン部位を中心として相反する外側を向くように配列したラメラ構造を形成しており、前記ラメラ構造は、アルキル置換基部位が互いに近接するように積層されていることを特徴とする。
【0012】
発明3は、発明1に記載の組成物において、アルキル置換基は、飽和状アルキルオキシ基(OCnH2n+1)であり、式中のnは、前記R1、R2およびR3のいずれも16以上20以下の整数であるか、または、前記R1、R2およびR3のいずれか2つに対して17以上20以下の整数である)。
【0013】
発明4は、発明3に記載の組成物において、R1およびR2は、いずれもOC20H41であり、R3は水素原子であることを特徴とする。
【0014】
発明5は、発明3に記載の組成物において、R1、R2およびR3は、いずれもOC16H33であることを特徴とする。
【0015】
発明6は、発明1に記載の組成物において、アルキル置換基は不飽和結合を有し、R1、R2およびR3は、O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3(7≦x≦13)であることを特徴とする。
【0016】
発明7は、発明1に記載の組成物において、前記フラーレンは、C60、C70、C76、C84、および、これらのいずれかを骨格とし炭素ケージ内に金属を内包した金属内包フラーレンからなる群から選択されることを特徴とする。
【0017】
発明8は、半導体薄膜と、電極とを有する電界効果トランジスタ素子であって、前記半導体薄膜は、発明1から7のいずれかに記載の組成物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明による組成物は、特定のフラーレン誘導体から構成され、特定の温度領域においてメソフェーズを有している。このため本発明のフラーレン誘導体からなる組成物は、メソフェーズにおいて、フラーレンに由来した電気的(n型半導体)特性、および、電気化学(酸化還元)特性を有するので、これらを利用した素子に適用される。特に、上記組成物は、湿式プロセスからの塗布、温度調節によるメソフェーズにおいて、自発的に配向/積層させることができるので、素子の製造が容易になるとともに、大面積化を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による組成物を構成するフラーレン誘導体の模式図
【図2】本発明による組成物のメソフェーズにおける二次元模式図
【図3】本発明による組成物を用いた例示的な電界効果トランジスタの模式図
【図4】本発明による組成物を用いた例示的なメモリ素子の模式図
【図5】実施例1〜3の組成物1〜3のDSC曲線を示す図
【図6】実施例1の組成物1の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図7】実施例2の組成物2の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図8】実施例3の組成物3の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図9】実施例1の組成物1のXRDパターンを示す図
【図10】実施例2の組成物2のXRDパターンを示す図
【図11】実施例3の組成物3のXRDパターンを示す図
【図12】実施例1の組成物1の電気化学特性を示す図
【図13】実施例3の組成物3の電気化学特性を示す図
【図14】実施例1の組成物1の過渡光電流測定の結果を示す図
【図15】図14の過渡光電流測定の結果の対数プロットを示す図
【図16】実施例1の組成物1のキャリア移動度の印加電圧依存性を示す図
【図17】図16のキャリア移動度の電界強度依存性を示す図
【図18】実施例4におけるベンズアルデヒドを合成するステップを示すフローチャート
【図19】実施例4の組成物7のDSC曲線を示す図
【図20】実施例5の組成物8のDSC曲線を示す図
【図21】実施例4の組成物7の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図22】実施例5の組成物8の偏光顕微鏡観察の結果を示す図
【図23】実施例4の組成物7のXRDパターンを示す図
【図24】実施例5の組成物8のXRDパターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本願発明者は、特許文献2および3に記載のナノワイヤおよび超分子組織体が、いずれも、フラーレン誘導体の組織化に基づく材料であることに着目し、ソフトマテリアルの創製に尽力した。その結果、本願発明者は、特許文献2および3に記載のフラーレン誘導体の中でも特定のフラーレン誘導体を用いた組成物がメソフェーズを有し、ソフトマテリアルであることを発見した。そこで、まず本発明における特定のフラーレン誘導体について詳述する。
【0022】
図1は、フラーレンがC60の場合の本発明による組成物を構成するフラーレン誘導体の模式図である。
【0023】
フラーレン誘導体は、前記式(1)で示されるフラーレン部位(図1の110)と、式(1)の含窒素五員環に結合した前記式(2)で示されるアルキル置換基部位(図2の120)との結合からなる。
【0024】
前記式(1)において、(Fu)はフラーレンであり、Xは水素原子またはアルキル基を示すが、合成の容易性の観点から、アルキル基の中でも炭素数6以下の低級アルキル基が好ましく、さらには、メチル基がより好ましい。また、図1では、フラーレンがC60の場合を示すが、フラーレンはこれに限定されない。フラーレンは、C60、C70、C76、C84、および、これらのいずれかを骨格とし炭素ケージ内に金属を内包した金属内包フラーレンからなる群から選択される。これらフラーレンは、いずれも、同様の特性を有しており、用途に応じて適宜採用可能である。中でも、C60は、取り扱いが簡便であり、入手が容易であるため好ましい。金属内包フラーレンは、例えば、フラーレン内に金属元素または遷移金属元素を含有する。これにより、フラーレンの電気的特性、磁気的特性等を制御することができる。
【0025】
式(2)において、(I)R1、R2およびR3は、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、16個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であるか、または、(II)R1、R2およびR3のうちいずれか2つは、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、17個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であり、R1、R2およびR3のうちいずれか1つは、水素原子である。このように、R1、R2およびR3のアルキル置換基が、特定の条件(I)または(II)を満たすことにより、フラーレン間の相互作用と、アルキル置換基間の相互作用との間のバランスにより、メソフェーズが発現すると考えられる。
【0026】
なお、ここでの「アルキル置換基」とは、直鎖状または分岐鎖状の炭素鎖を有している置換基を意味しており、炭素鎖は、酸素原子、硫黄原子等の異種原子に結合していてもよいし、結合していなくともよい。また、「不飽和結合」は、二重結合または三重結合であってよく、これらは複数個存在してもよい。
【0027】
アルキル置換基が飽和状である場合、好ましくは、アルキル置換基は、アルキル(CnH2n+1)、アルキルオキシ(OCnH2n+1)、および、チオアルキル(SCnH2n+1)からなる群から選択される。中でも、合成の容易性の観点から、アルキルオキシが好ましい。
【0028】
さらに、R1、R2およびR3がいずれも飽和状のアルキル置換基である場合、nは16以上20以下の整数であり、R1、R2およびR3のうちいずれか2つが飽和状アルキル置換基であり、R1、R2およびR3のうちいずれか1つが水素原子である場合、nは17以上20以下の整数であることが好ましい。これにより、図1で模式的に示されるフラーレン誘導体からなる組成物は、確実にメソフェーズを有する。特に、R1およびR2は、OC20H41であり、R3は水素原子である場合、または、R1、R2およびR3は、OC16H33である場合、組成物中のフラーレン含有率が45%以上となり、高含有率を維持できるので、フラーレンの特性を生かしたデバイスの構築に好ましい。
【0029】
アルキル置換基が不飽和結合を有する場合、すなわち、二重結合および/または三重結合を有する場合、組成物の融点を下げることができる。これにより、組成物の種々の測定を室温等の低温でできるので好ましい。また、メソフェーズを取り得る特定の温度領域を拡げることができる。例示的には、cis−13−ドコセニル(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)12−)、(−O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3(例えば、7≦x≦13)、(−(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3(例えば、7≦x≦13)等が挙げられる。
【0030】
また、本発明のフラーレン誘導体において、式(1)のN−Xを四級化し、電荷を持たせてもよい。これにより、フラーレン誘導体にイオン伝導性を付加できる。さらに、本発明のフラーレン誘導体は、式(1)と式(2)との結合に係る五員環の炭素原子が不斉炭素原子であり、キラリティを有するので、キラル液晶としても有効である。
【0031】
次に、上述の特定のフラーレン誘導体から構成される本発明の組成物について詳述する。本発明の組成物は、図1に模式的に示すフラーレン誘導体によって構成される。なお、本発明において、組成物とは、図1に模式的に示す1種のフラーレン誘導体から構成されていてもよいし、2種以上のフラーレン誘導体の混合物から構成されていてもよいし、これらに添加物を含んでいてもよい。
【0032】
図2は、本発明による組成物のメソフェーズにおける二次元模式図を示す。
【0033】
本発明の組成物は、メソフェーズを有する。メソフェーズとは、結晶相と等方相との中間の相状態であり、中間相、柔粘性結晶または液晶とも呼ばれる。本発明の組成物は、サーモトロピック系のメソフェーズ、すなわち、特定温度領域においてメソフェーズを有する。特定温度領域は、式(2)のR1、R2およびR3の種類によって異なるが、例えば、R1、R2およびR3がいずれも、OC20H41の場合には、62℃〜193℃の範囲においてメソフェーズを有する。また、R1、R2およびR3がいずれも、O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)7CH3の場合には、−36℃〜160℃の範囲においてメソフェーズを有する。本発明の組成物がメソフェーズを有するか否かは、示差走査熱分析(DSC)または偏光顕微鏡により確認できる。
【0034】
図2に示されるように、本発明の組成物は、メソフェーズにおいて、フラーレン誘導体が自発的に配向したラメラ構造210を有する。詳細には、ラメラ構造210は、フラーレン部位110(図1)が互いに隣接し、かつ、アルキル置換基部位120(図1)が隣接したフラーレン部位を中心として、相反する外側を向くように配列している。さらに、本発明の組成物は、メソフェーズにおいて、ラメラ構造210が、アルキル置換基部位120(図1)が互いに隣接するように積層されている。このようなラメラ構造210を構成する組成物は、スメクチック相に分類される。
【0035】
さらに、本発明の組成物は、複屈折を示すメソフェーズを有することに加えて、電気的特性としてn型半導体、および、電気化学特性として酸化還元活性を有する。特に、本発明の組成物は、比較的シンプルなフラーレン誘導体から構成されるので、フラーレン含有率が高く、フラーレンの特性を効果的に発揮し得る。上述したように、組成物を構成するフラーレン誘導体を適宜選択することによって(例えば、図1において、R1およびR2は、OC20H41であり、R3は水素原子である場合、または、R1、R2およびR3は、OC16H33である場合)、45%以上のフラーレン含有率を達成することができる。これらの特性を利用して、本発明の組成物は、n型半導体を利用した有機半導体材料、酸化還元活性を利用したメモリ材料またはセンサ材料等として、さらにはその材料を利用したデバイスに使用することができる。
【0036】
本発明の組成物は、特定温度領域においてメソフェーズを有するので、本発明の組成物を、湿式プロセスによる塗布し、温度制御を行えば、フラーレン誘導体が自発的に配向し、組織化したラメラ構造210を有した任意の形状の構造体となり得る。このことは、素子の製造を容易にするとともに、大面積化も可能であるので有利である。さらに、本発明の組成物は、湿式プロセスによる塗布のため、任意の材料の基材、任意の形状(凹凸、曲率表面)の基材にも適用できる。また、組成物中に添加物として重合性モノマーを含有させ、重合を行って、上述の構造体を鋳型薄膜として使用してもよい。あるいは、本発明の組成物を、温度制御により、メソフェーズにおけるフラーレン誘導体の配向・組織化させた後、固体状態にして使用してもよい。
【0037】
次に、本発明の組成物の合成方法の一例を示すが、これに限定されない。
【0038】
すなわち、本発明の組成物の合成では、たとえば次式(a)および(b)でそれぞれ示される化合物と、フラーレンとを反応させればよい。
【0039】
【化3】
【0040】
ここで、式(a)のR1、R2およびR3は、上述したとおりである。また、式(b)のXも、上述したとおりである。フラーレンもまた、C60、C70、C76、C84および金属内包フラーレンからなる群から選択される。反応は、詳細には、これら化合物とフラーレンとを含む混合物を、溶媒中で還流させる。例えば、R1、R2およびR3が飽和状のアルキル置換基である場合、溶媒としてトルエンを用い、110℃の温度で12時間〜24時間還流させればよい。R1、R2およびR3が不飽和結合を有するアルキル置換基である場合、溶媒としてクロロベンゼンを用い、130℃の温度で12時間〜24時間還流させればよい。このようにして得られた反応物は、図1を参照して説明した特定のフラーレン誘導体からなる組成物である。
【0041】
R1、R2およびR3が飽和状のアルキル置換基である場合に、溶媒としてクロロベンゼンを用いてもよいし、R1、R2およびR3が不飽和結合を有するアルキル置換基である場合に、溶媒としてトルエンを用いてもよく、各溶媒の沸点温度で12時間〜24時間還流させればよい。クロロベンゼンは、トルエンに比べて、フラーレンの溶解度が高いため、合成に有利な溶媒である。
【0042】
なお、溶媒としてクロロホルムまたはテトラヒドロフランを用いて、反応物を溶解させて保持してもよい。
【0043】
次に、本発明の組成物を用いた応用例(用途)を示す。
【0044】
図3は、本発明による組成物を用いた例示的な電界効果トランジスタの模式図である。
【0045】
電界効果トランジスタ300は、基板310と、ゲート電極320と、絶縁膜330と、n型有機半導体薄膜340と、ソース電極350と、ドレイン電極360とを有する。
【0046】
基板310は、シリコン、ガラス、石英、セラミック、プラスチック等の材料を用いることができる。
【0047】
ゲート電極320、ソース電極350、ドレイン電極360は、Al、Au、Pt、Cr、Ta、Ni、Cu等の金属、それらの合金、ポリシリコン、アモルファスシリコン、グラファイト、ITO、ZnO、導電性ポリマ等既存の電極材料であり、周知の成膜方法により形成される。
【0048】
絶縁膜330は、SiO2、Si3N4、SiON、Al2O3、Ta2O5、アモルファスシリコン、ポリイミド樹脂等既存の絶縁材料であり、周知の成膜方法により形成される。
【0049】
n型有機半導体薄膜340は、上述した本発明の組成物からなり、メソフェーズによる配向・組織化された状態を維持した特定のフラーレン誘導体からなる。
【0050】
このような電界効果トランジスタ300の動作を説明する。ゲート電極320とソース電極350との間に電界を印加すると、n型有機半導体薄膜340は、電荷を蓄積する。ソース電極350とドレイン電極360との間で蓄積された電荷が電流として流れる。すなわち、ゲート電極320に印加する電圧を制御することによって、ソース電極350とドレイン電極360との間に流れる電流が制御される。
【0051】
さらに、n型有機半導体薄膜340を構成する組成物は、メソフェーズを有するので、既存の結晶性半導体材料に比べて、配向制御が容易である。すなわち、スピンコート、滴下、浸漬等の湿式プロセスを用い、基板に塗布し、特定温度領域内に温度制御することにより、容易に、配向・組織化されたn型有機半導体薄膜340が形成される。したがって、真空装置などの大掛かりな装置を不要とするので、安価に製造できる。さらに、塗布面積に制限はないため、大型化も可能である。特に、基板310として、プラスチック基板を採用すれば、曲げることが可能なフレキシブルなディスプレイ、センサ、曲面を有するディスプレイ、センサ等に応用することができる。
【0052】
例示的に、本発明の組成物をn型有機半導体薄膜として電界効果トランジスタに使用した場合を示したが、本発明の組成物は、これに限定されない。当然のことながら、本発明の電界効果トランジスタを表示装置、電子機器等の各種デバイスに適用してもよい。
【0053】
図4は、本発明による組成物を用いた例示的なメモリ素子の模式図である。
【0054】
メモリ素子400は、基板410と、酸化還元薄膜420と、絶縁膜430と、ソース電極440と、ドレイン電極450と、ゲート電極460とを含む。このような構成は、既存のMOS−FETのゲート酸化膜とシリコン基板との界面に酸化還元膜を付与した構成である。
【0055】
ここで、基板410は、シリコン基板である。絶縁膜430、ソース電極440、ドレイン電極450およびゲート電極460は、図3を参照して説明した、絶縁膜330、ソース電極350、ドレイン電極360およびゲート電極320と同様であるため説明を省略する。酸化還元膜420は、上述した本発明の組成物からなり、メソフェーズによる配向・組織化された状態を維持した特定のフラーレン誘導体からなる。
【0056】
このような、メモリ素子400の動作を説明する。ゲート電極460に負電位を印加すると、酸化還元膜420は酸化され、正電荷が蓄積される。一方、ゲート電極460に正電位を印加すると、酸化還元膜420は還元され、蓄積された電荷は消去される。ゲート電極460への負電位の印加を取り去っても、酸化還元膜420の酸化状態が保持される。その結果、蓄積された正電荷によって、基板410と酸化還元膜420との界面にチャネルが形成され、ソース電極440とドレイン電極450との間に電流が流れる(すなわち、情報「1」を表す)。なお、酸化還元膜420が還元状態では電流は流れない(すなわち、情報「0」を表す)。このように、ソース電極440とドレイン電極450との間の電流の有無によって、情報(電荷の蓄積)を読み出すことができる。
【0057】
また、本発明の組成物の酸化還元活性を利用して、分子認識素子または分子スイッチに適用してもよい。
【実施例】
【0058】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【0059】
実施例1〜3および比較例1〜3では、式(2)において、アルキル置換基が飽和状である組成物について本発明の有効性を確認した。実施例1〜3および比較例1〜3の実験条件を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
<実施例1>
表1に示すように、式(a)に示すベンズアルデヒドと、式(b)に示すN−メチルグリシンと、フラーレンとしてC60とを乾燥トルエン中で還流し、組成物1を得た。なお、組成物1を構成するフラーレン誘導体は、表1に示すとおりである。
【0062】
このようにして得られた組成物1について、DSC204(NETZSCH製)を用いた示差走査熱分析(DSC)を行った。測定は、250℃まで試料を加熱した後、250℃から0℃までの降温過程、および、0℃から250℃までの昇温過程をそれぞれ測定した。走査速度は、10℃/分であった。結果を図5(a)、表2および表3に示し、後述する。表3には、組成物1のフラーレン含有率も併せて示す。
【0063】
組成物1について、温度制御加熱ステージ(Linkam製)を備えた偏光顕微鏡(BX51、Olympus製)を用いて、偏光顕微鏡観察を行った。観察は、組成物1の等方相からの降温過程である190℃で行った。観察結果を図6に示し、後述する。
【0064】
次に、組成物1について、X線回折を行い、構造解析を行った。測定には、モノクロメータおよび温度制御加熱ステージを備えたX線回折計(Rint−2200、Rigaku製)を用いた。測定は、CuKαを線源とし、185℃で行った。測定結果を図9に示し、後述する。
【0065】
組成物1について、電気化学測定を行った。電気化学測定(サイクリックボルタンメトリおよび微分パルスボルタンメトリ)は、3電極セル方式のReference 600 ポテンショスタット/ガルバノスタット/ZRA(Garmry製)を用いて行った。作用電極にはグラッシーカーボンディスク電極(0.07cm2)を、対極にはPtワイヤをそれぞれ用いた。参照電極は、Ag/AgCl/飽和KClであった。作用電極上に組成物1の薄膜を形成し、測定用試料とした。組成物1の薄膜は、組成物1を溶解させたCHCl3溶液(10μL、1mM)を作用電極にキャストし、24時間大気中で乾燥させて、形成された。
【0066】
サイクリックボルタンメトリ測定は、70℃および20℃にそれぞれ保持した0.1MのnBu4NCl水溶液中で、走査速度0.1V/秒で行った。また、微分パルスボルタンメトリ測定は、70℃に保持した0.1MのnBu4NCl水溶液中で、パルス振幅25mVで行った。測定結果を図12に示し、後述する。
【0067】
次に、組成物1について、TOF(Time−Of−Flight)法によるキャリア移動度の測定を行った。2枚のITO電極間にサンドイッチ構造状に組成物1を挟み込み、測定用試料とした。組成物1の薄膜は、2枚のITO電極間(9μm)に、加熱・流動性を持たせた組成物1をキャピラリーフォース的に取り込ませ作製された。薄膜の膜厚は9μmであり、ITO電極の面積は0.16cm2であった。
【0068】
120℃に保持した試料に−20V〜−200Vの各電圧を印加し、波長356nmの励起パルスを照射した際の各過渡光電流を測定した。結果を図14および図15に示す。図14および図15から電子のITO電極間の移動時間tTを確定し、キャリア移動度μを求めた。キャリア移動度μは、μ=d/EtT=d2/VtTより算出した。ここで、dは、組成物1の薄膜の厚さであり、Eは電界強度であり、Vは印加電圧である。このようにして求めた、各印加電圧とキャリア移動度との関係を図16および図17に示し、後述する。
【0069】
<実施例2>
実施例1と同様に、表1に示す原料を用い、組成物2を得た。なお、組成物2を構成するフラーレン誘導体は、表1に示すとおりである。
【0070】
組成物2について、実施例1と同様に、DSC測定、偏光顕微鏡観察(観察温度200℃)およびX線回折(測定温度200℃)を行った。結果を図5(b)、図7、図10、表2および表3に示し、後述する。
【0071】
<実施例3>
実施例1と同様に、表1に示す原料を用い、組成物3を得た。なお、組成物3を構成するフラーレン誘導体は、表1に示すとおりである。
【0072】
組成物3について、実施例1と同様に、DSC測定、偏光顕微鏡観察(観察温度202℃)、X線回折(測定温度200℃)および電気化学測定(サイクリックボルタンメトリ測定の測定温度60℃および15℃、ならびに、微分パルスボルタンメトリ測定の測定温度60℃)を行った。結果を図5(c)、図8、図11、図13、表2および表3に示し、後述する。
【0073】
<比較例1〜3>
実施例1と同様に、表1に示す原料を用い、組成物4〜6を得た。なお、組成物4〜6を構成するフラーレン誘導体は、表1に示すとおりである。得られた組成物4〜6のモルフォロジおよびフラーレン含有率を表3に示す。組成物4〜6についてDSC測定および偏光顕微鏡観察を行ったが、いずれの試料もメソフェーズを有することを示す相転移を有さないことを確認した。
【0074】
以上の実施例および比較例について、実験結果を説明する。
【0075】
図5は、実施例1〜3の組成物1〜3のDSC曲線を示す図である。
【0076】
図5(a)(b)(c)の昇温過程の曲線は、いずれも、明瞭な2つの吸熱ピークを示した。低温側の吸熱ピークは、結晶相からメソフェーズへの相転移に相当し、高温側の吸熱ピークは、メソフェーズから等方相への相転移に相当する。なお、比較例1〜3で得られる組成物4〜6は、いずれも、このような明瞭かつ可逆的な吸熱ピークを示さなかった。DSC曲線から組成物1〜3の相転移温度を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2より、実施例1の組成物1と、実施例3の組成物3とを比較すると、組成物を構成するフラーレン誘導体のアルキル鎖が長くなるほど(すなわち、R1、R2およびR3のCが多いほど)、結晶相からメソフェーズへの相転移温度が高くなり、メソフェーズから等方相への相転移温度が低くなることが分かった。また、実施例1の組成物1と、実施例2の組成物2とを比較すると、組成物を構成するフラーレン誘導体のアルキル鎖の数が多いほど(すなわち、R1、R2およびR3のいずれも水素原子でない)、結晶相からメソフェーズへの相転移温度が高くなり、メソフェーズから等方相への相転移温度が低くなることが分かった。これは、フラーレン誘導体のR1、R2およびR3のアルキル鎖のファンデルワールス力の差異が起因している。
【0079】
図6は、実施例1の組成物1の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0080】
図7は、実施例2の組成物2の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0081】
図8は、実施例3の組成物3の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0082】
図6〜図8によれば、いずれも、複屈折を示すメソフェーズ特有のドメイン構造を示した。このことからも、本発明の組成物がメソフェーズを有することが示される。
【0083】
表3は、実施例1〜3、比較例1〜3および参考1〜5のモルフォロジ、組成式、分子量およびフラーレン含有率を示す。なお、参考1〜5に示す組成物の化学式をまとめて示す。
【0084】
【表3】
【0085】
【化4】
【0086】
表3に示されるように、本発明の組成物は、メソフェーズを有しており、既存のスメチック相を示すフラーレンに基づく材料(参考1〜5)と比較しても、フラーレン含有率が比較的高い。特に、実施例2および3の組成物は、フラーレン含有率が高く、フラーレンに基づく特性を効果的に発揮し得るので、好ましい。また、実施例1〜3と、比較例1〜3とから、上述した特定のフラーレン誘導体からなる組成物においてのみメソフェーズを有することが確認された。
【0087】
図9は、実施例1の組成物1のXRDパターンを示す図である。
【0088】
図10は、実施例2の組成物2のXRDパターンを示す図である。
【0089】
図11は、実施例3の組成物3のXRDパターンを示す図である。
【0090】
図9によれば、2θ=1.58°にもっとも強い回折ピークを示した。この回折ピークは、(001)(面間隔d=5.59nm)に相当する。また、図9のXRDパターンは、(001)以外に、(0014)(2θ=23.44°)までの高次の回折ピークを示した。さらに、溶融アルキル鎖に相当する、2θ≒19°を中心とするブロードなハローパターンを示した。図10および図11のXRDパターンも、図9のXRDパターンと同様に、(001)から(0012)に相当する回折ピークを示した。また、図10および図11のXRDパターンから得られる面間隔は、それぞれ、4.75nmおよび4.80nmであった。
【0091】
さらに、Scherrerの式を用いて、図9〜図11のXRDパターンのピーク幅を解析したところ、組成物1〜3のいずれも、約100nmの相関長を有することが分かった。この約100nmの相関長は、約20層のラメラ構造(図2の210)に相当する。この値は、既存のスメクチック液晶の相関長(例えば、アルコキシビフェニルメソゲンおよびポリビベンゾエートを含有する無水マレイン酸コポリマー、および、1−オレフィンコポリマーの相関長は、それぞれ、8.6nmおよび60nm)に比べて極めて大きく、高次に配向したドメインの形成を示唆する。
【0092】
以上から、本発明の組成物1〜3は、図2に示すような二次元構造を有していることが示唆される。また、XRDパターンから得られた面間隔は、図2の矢印で示される距離に相当することを確認した。
【0093】
以上、図6〜図8の偏光顕微鏡による複屈折を示すメソフェーズ、および、図9〜図10のXRDパターンによる高角側の回折ピークから、本発明による組成物は、広範囲に配向したメソフェーズを有し、スメクチック相に匹敵することが分かった。
【0094】
図12は、実施例1の組成物1の電気化学特性を示す図である。
【0095】
図13は、実施例3の組成物3の電気化学特性を示す図である。
【0096】
図12および図13によれば、いずれも、結晶相からメソフェーズへの相転移点以上の温度において、第1および第2の酸化還元応答を示した。第1の酸化還元応答において、フラーレンC60のモノアニオンが生成され、第2の酸化還元応答において、フラーレンC60のジアニオンが生成される。図12および図13によれば、組成物1の第1および第2の酸化還元イベントは、−0.71Vおよび−0.88Vの電位において、組成物3の第1および第2の酸化還元応答は、−0.70Vおよび−0.87Vの電位にて生じることが分かった(V vs. Ag/AgCl/飽和KCl)。
【0097】
一方、図12および図13によれば、いずれも、結晶相の温度では、何ら酸化還元イベントを示さなかった。このことから、本発明の組成物は、メソフェーズにおいて、支持電解質、溶媒およびフラーレン誘導体そのもの等の分子を効率的に拡散させ得ることが示唆される。
【0098】
図14は、実施例1の組成物1の過渡光電流測定の結果を示す図である。
【0099】
図15は、図14の過渡光電流測定の結果の対数プロットを示す図である。
【0100】
図14を対数プロットした図15によれば、各印加電圧において、明瞭な屈曲点を示した。この各印加電圧で得られた屈曲点を電子のITO電極間の移動時間tTとし、上述した式により、各印加電圧におけるキャリア移動度を求めた。なお、逆方向に電圧を印加した際に、ホール移動度は検出できなかった。以上より、本発明の組成物はn型半導体であることを確認した。
【0101】
図16は、実施例1の組成物1のキャリア移動度の印加電圧依存性を示す図である。
【0102】
図17は、図16のキャリア移動度の電界強度依存性を示す図である。
【0103】
図16および図17から、印加電界が2×105V/cmにおいて、キャリア移動度は、約3×10−3cm2/V・sであった。この値は、有機半導体オリゴマのスメクチック液晶相または超分子カラムナ液晶のキャリア移動度に匹敵することが分かった。なお、実施例1の組成物1は、ランダムドメインからなっており、ドメインをより均一に配向させれば、さらなるキャリア移動度の向上が期待できる。
【0104】
次に、実施例4〜5では、式(2)において、アルキル置換基が不飽和結合を有する組成物について本発明の有効性を確認した。実施例4〜5の実験条件を表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
<実施例4>
組成物7の合成に先立って、表4における式(a)で示すベンズアルデヒドを合成した。
【0107】
図18は、実施例4におけるベンズアルデヒドを合成するステップを示すフローチャートである。
【0108】
ステップS1810:x=13の1−ヘキサデシンAから出発する。N−ブロモこはく酸イミド(8.9g、50.0mmol)と、1−ヘキサデシンA(8.88g、20.0mmol)と、AgNO3(800mg、4.7mmol)と、アセトン(80mL)とを、室温で2時間混合・攪拌し、白い懸濁液をろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した。残渣を溶離剤としてn−ヘキサンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、無色のオイル状の生成物Bを得た。核磁気共鳴(NMR分光法)を用いて生成物Bを同定した。用いた装置は、Bruker DMX400であった。同定結果を示す。同定結果から生成物Bは、ブロムアルキンであることが分かった。
【0109】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ2.20(t,2H,J=7.2Hz)、1.62−1.15(m,24H)、0.90(t,3H)
ステップS1820:塩酸ヒドロキシルアミン(0.5g)および塩化第一銅(0.25g)を、アルゴン雰囲気中、10−ウンデシン−1−オール(10.0mmol)と、70%エチルアミン水溶液(5.0mL)と、メタノール(20.0mL)と、テトラヒドロフラン(THF)(80.0mL)との混合溶液に添加し、混合物を10分間攪拌し、Cadiot−Chodkiewiczカップリングを行った。次いで、ステップS1810で得られた生成物B(3.01g、10.0mmol)を加え、30分間攪拌した。これらの混合溶液の色が青色に変化した際に、さらに微量の塩化ヒドロキシルアミンを加えた。室温にて3時間攪拌し、反応させた。
【0110】
次いで、混合溶液を水300mLで希釈し、CH2Cl2を用いて抽出した。抽出された生成物は有機相と化合しているため、飽和Na2CO3および水を用いて洗浄し、硫酸ソーダを用いて乾燥させた。溶媒を減圧留去させ、アセトンおよびエタノールから再結晶化を数回行って、無色固体の生成物C(1.98g、5.1mmol、71%)を得た。NMR分光法を用いて生成物Cを同定した。同定結果を示す。同定結果から生成物Cは、水酸基で終端されたジアセチレン化合物であることが分かった。
【0111】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ3.60−3.66(m,2H,−O−CH2)、2.23(t,4H,J=7.2Hz,−CH2−t−t−CH2−)、1.59−1.46(m,6H)、1.41−1.22(m,34H)、0.89(t,3H,J=6.1Hz,−CH3)
ステップS1830:PPh3(8.9g、50.0mmol)およびCBr4(800mg、2.2mmol)を、アルゴン雰囲気中、生成物C(2.0g、20.0mmol)と脱水THF(40mL)との混合溶液に加え、室温で30分間攪拌し反応させた。次いで、混合溶液を減圧下で濃縮した。残渣を溶離剤としてn−ヘキサンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、無色のオイル状の生成物D(11.04g、90%)を得た。NMR分光法を用いて、生成物Dを同定した。同定結果を示す。同定結果から生成物Dは、臭素で終端された生成物Cの誘導体であることが分かった。
【0112】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ3.40(t,2H,J=6.8Hz,−CH2−Br)、2.23(t,4H,J=6.8Hz,−CH2−t−t−CH2−)、1.80−1.88(m,2H,CH2CH2Br)、1.51−1.27(m,36H,CH2)、0.88(t,3H,J=6.8Hz,CH3−CH2)
ステップS1840:K2CO3(1.04g、7.5mmol)と、KI(25mg)と、3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒド(430mg、2.5mmol)と、生成物D(4.52g、10mmol)と、脱水ジメチルホルムアミド(DMF)(60mL)との混合物を、アルゴン雰囲気中、16時間70℃で攪拌し、Williamsonエーテル合成を行った。反応した混合物を室温まで冷却し、混合物に水(200mL)を注ぎ、ジクロロメタン(200mL)を用いて2回抽出した。抽出された有機相を、硫酸ソーダを用いて乾燥させた。溶媒を減圧下で濃縮し、残渣を溶離剤としてジクロロメタン/メタノール(50/1)を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、白色固体の生成物E(2.1g、1.6mmol、64%)を得た。NMR分光法を用いて、生成物Eを同定した。同定結果を示す。同定結果から生成物Eは、表4の式(a)に示す、実施例4のベンズアルデヒドであることが分かった。
【0113】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ9.83(s,1H)、7.08(s,2H)、4.06(t,2H,J=6.6Hz)、4.03(t,4H,J=6.4Hz)、2.20(t,12H,J=6.4Hz、−CH2−t−t−CH2−)、1.87−1.70(m,6H)、1.47−1.26(m,108H)、0.88(t,9H,J=6.8Hz)
なお、ステップS1810においてN−ブロモこはく酸イミドに替えて、N−クロロこはく酸イミド、N−ヨードこはく酸イミド等の他のハロゲン化物を用いてもよい。同様に、ステップS1830において、CBr4に替えて、CCl4、CI4等の他のハロゲン化物を用いてもよい。しかしながら、例えば、実施例4のようにジアセチレン部位が含まれる場合、CI4を採用すると、ジアセチレンがドープされる恐れがある。また、塩化物を採用した場合、反応性が低下し、収率が低減する恐れがある。したがって、臭化物が最も好ましい。
【0114】
表4に示すように、式(a)に示すベンズアルデヒドと、式(b)に示すN−メチルグリシンと、フラーレンとしてC60とを脱水クロロベンゼン中で還流し、組成物7を得た。詳細には、Prato法を採用し、生成物Eのベンズアルデヒド(600mg、0.47mmol)と、N−メチルグリシン(445mg、5.0mmol)と、C60(504mg、0.7mmol)と、脱水クロロベンゼン(500mL)との混合物を、アルゴン雰囲気中、20時間130℃で加熱し、反応させた。冷却後、溶媒を減圧留去させた。残渣を溶離剤としてクロロホルムを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィにより粗精製した。粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィ(Bio−beads S−X3、トルエン)により精製し、クロロホルム/メタノールから再結晶し、茶色の固体の生成物(398mg、0.18mmol、38%)を合成した。
【0115】
NMR分光法に加えて、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)、マトリクス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS)および紫外可視分光法により、生成物を同定した。FT−IRスペクトルの測定は、Bruker EQUINOX 55/S分光光度計によりKBrペレットを用いて行った。MALDI−TOF−MSスペクトルの測定は、Bruker Reflex II(マトリクス:2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸)を用い、反射モードで行った。UV−visスペクトルの測定は、Varian Cary 50 Conc分光光度計を用いて行った。同定結果を示す。同定結果から生成物は、目的とする表4のフラーレン誘導体(組成物7)であることが分かった。
【0116】
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ7.26−6.68(br,2H)、4.97(d,1H,J=9.6Hz)、4.81(s,1H)、4.25(d,1H,J=9.6Hz)、4.02−3.92(m,6H)、2.85(s,3H)、2.27−2.18(m,12H)、1.75−1.65(m,6H)、1.55−1.20(m,108H)、0.88(t,9H,J=6.8Hz)
13C NMR(100MHz、CDCl3):δ156.0、154.0、153.8、153.4、153.1、147.2、147.0、146.4、146.1、146.0、145.9、145.7、154.4、145.2、144.6、144.3、143.1、143.0、142.5、142.1、142.1、142.0、141.8、141.6、141.5、140.1、140.0、139.6、138.3、136.5、136.1、135.7、131.8、83.6、73.1、70.0、69.2、68.9、65.3、40.0、31.9、30.2、29.6、29.4、29.3、29.1、28.8、28.3、25.9、22.6、19.2、14.1
FT−IR(cm−1):2924.0、2852.4、2776.7、2256.3、1587.4、1116.4
MALDI−TOF−MS:C150H149NO3の計算値2013.75、測定値2013.45[M−]
UV−vis(n−ヘキサン、0.5×10−5M):λmax(ε、M−1cm−1)=210(178820)、254(129676)、313(43120)、430(4254)
このようにして得られた組成物7について、実施例1と同様にDSCを行った。測定は、150℃まで試料を加熱した後、150℃から−50℃までの降温過程、および、−30℃から150℃までの昇温過程をそれぞれ測定した。結果を図19に示し、後述する。
【0117】
次に、実施例1と同様に、組成物7について偏光顕微鏡観察(観察温度115℃)、および、X線回折(測定温度115℃)を行った。これらの結果を図21および23に示し、後述する。
【0118】
<実施例5>
組成物8の合成に先立って、表3における式(a)で示すベンズアルデヒドを合成した。式(a)で示すベンズアルデヒドは、実施例4と同様に、図18において、x=7として以外は同様の手順によって合成された。
【0119】
次いで、実施例4と同様の手順により、式(a)に示すベンズアルデヒドと、式(b)に示すN−メチルグリシンと、フラーレンとしてC60とを脱水クロロベンゼン中で還流し、組成物8を得た。同定結果から生成物は、目的とする表4のフラーレン誘導体(組成物8)であることを確認した。
【0120】
このようにして得られた組成物8について、実施例1と同様にDSCを行った。測定は、175℃まで試料を加熱した後、150℃から−100℃までの降温過程、および、−100℃から175℃までの昇温過程をそれぞれ測定した。結果を図20に示し、後述する。
【0121】
次に、実施例1と同様に、組成物8について偏光顕微鏡観察(観察温度125℃)、および、X線回折(測定温度125℃)を行った。これらの結果を図22および24に示し、後述する。
【0122】
図19は、実施例4の組成物7のDSC曲線を示す図である。
【0123】
図20は、実施例5の組成物8のDSC曲線を示す図である。
【0124】
図19および図20の昇温過程の曲線は、いずれも、明瞭な2つの吸熱ピークを示した。低温側の吸熱ピークは、結晶相からメソフェーズへの相転移に相当し、高温側の吸熱ピークは、メソフェーズから等方相への相転移に相当する。DSC曲線から組成物7および8の相転移温度を表5に示す。
【0125】
【表5】
【0126】
表5と表2とを比較すると、アルキル置換基が不飽和結合を有することによって、結晶相からメソフェーズへの相転移温度、および、メソフェーズから等方相への相転移温度が低くなることが分かった。特に、メソフェーズから等方相への相転移温度の低下は顕著である。また、アルキル置換基が不飽和結合を有することにより、本発明の組成物は、室温においてもメソフェーズを有する。
【0127】
さらに、実施例4と実施例5とを比較すると、アルキル置換基において不飽和結合から末端までのアルキル鎖の数が短いほど、結晶相からメソフェーズへの相転移温度が低下することが示唆される。これにより、本発明の組成物がメソフェーズとなり得る温度範囲が広がるので、本発明の組成物をメソフェーズにて利用する用途に好適である。
【0128】
図21は、実施例4の組成物7の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0129】
図22は、実施例5の組成物8の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0130】
図21および図22によれば、図6〜図8と同様に、複屈折を示すメソフェーズ特有のドメイン構造を示した。このことからも、本発明の組成物は、アルキル置換基が不飽和結合を有していても、特定温度領域においてメソフェーズを有することが示される。
【0131】
図23は、実施例4の組成物7のXRDパターンを示す図である。
【0132】
図24は、実施例5の組成物8のXRDパターンを示す図である。
【0133】
図23および図24は、図9〜図11(実施例1〜実施例3)と同様に、(00l)の回折ピークのみ示した。図23および図24も、(001)の回折ピークがもっとも強度が強く、この回折ピークから面間隔をそれぞれ算出した。実施例4の組成物7の面間隔dは、6.3nmであり、実施例5の組成物8の面間隔dは、5.1nmであった。また、図23によれば、(0016)までの高次の回折ピークを、図24によれば、(0014)までの高次の回折ピークを示した。さらに、溶融アルキル鎖に相当する、2θ≒19°を中心とするブロードなハローパターンを示した。
【0134】
図23および図24は、図9〜図11と同様の回折パターンであり、同様のピーク幅を有していることから、組成物7および8も、約20層のラメラ構造(図2の210)に相当する約100nmの相関長を有し、高次に配向したドメインが形成されていることが示唆される。
【0135】
以上、実施例4および5から、本発明の組成物7および8は、フラーレン誘導体におけるアルキル置換基が不飽和結合を有していても、特定温度領域においてメソフェーズを有し、かつ、図2に示すような二次元構造を有していることが示された。特に、アルキル置換基が−O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3において、xが関係7≦x≦13の間であれば、メソフェーズを有する組成物が得られるとともに、xを変更することによって、結晶相からメソフェーズへの相転移温度、および、メソフェーズから等方相への相転移温度を制御できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
以上説明してきたように、本発明の組成物は、特定のフラーレン誘導体からなり、これにより、メソフェーズを有する。本発明の組成物は、フラーレンに基づく、n型半導体性および酸化還元活性を示すので、これらを利用したデバイスに適用可能である。
【符号の説明】
【0137】
110 フラーレン部位
120 アルキル置換基部位
210 ラメラ構造
300 電界効果トランジスタ
310、410 基板
320、460 ゲート電極
330、430 絶縁膜
340 n型有機半導体薄膜
350、440 ソース電極
360、450 ドレイン電極
400 メモリ素子
420 酸化還元薄膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフラーレン誘導体からなる組成物であって、
前記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、次式(1)で示されるフラーレン部位と、式(1)の含窒素五員環に結合した次式(2)で示されるアルキル置換基部位との結合からなり、
メソフェーズを有することを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【化1】
(式中の(Fu)はフラーレンであり、Xは水素原子またはアルキル基を示す。)
【化2】
(式中の、R1、R2およびR3は、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、16個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であるか、または、R1、R2およびR3のうちのいずれか2つは、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、17個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であり、R1、R2およびR3のうちのいずれか1つは、水素原子である。)
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、複数のフラーレン誘導体は、メソフェーズにおいて、フラーレン部位が互いに隣接し、かつ、アルキル置換基部位が前記隣接したフラーレン部位を中心として相反する外側を向くように配列したラメラ構造を形成しており、
前記ラメラ構造は、アルキル置換基部位が互いに近接するように積層されていることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物において、アルキル置換基は、飽和状アルキルオキシ基(OCnH2n+1)であり、式中のnは、前記R1、R2およびR3のいずれも16以上20以下の整数であるか、または、前記R1、R2およびR3のいずれか2つに対して17以上20以下の整数であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物において、R1およびR2は、いずれもOC20H41であり、R3は水素原子であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の組成物において、R1、R2およびR3は、いずれもOC16H33であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物において、アルキル置換基は不飽和結合を有し、R1、R2およびR3は、O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3(7≦x≦13)であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物において、前記フラーレンは、C60、C70、C76、C84、および、これらのいずれかを骨格とし炭素ケージ内に金属を内包した金属内包フラーレンからなる群から選択されたものであることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項8】
半導体薄膜と、電極とを有する電界効果トランジスタ素子であって、
前記半導体薄膜は、請求項1から7のいずれかに記載の組成物からなることを特徴とする、電界効果トランジスタ素子。
【請求項1】
複数のフラーレン誘導体からなる組成物であって、
前記複数のフラーレン誘導体のそれぞれは、次式(1)で示されるフラーレン部位と、式(1)の含窒素五員環に結合した次式(2)で示されるアルキル置換基部位との結合からなり、
メソフェーズを有することを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【化1】
(式中の(Fu)はフラーレンであり、Xは水素原子またはアルキル基を示す。)
【化2】
(式中の、R1、R2およびR3は、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、16個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であるか、または、R1、R2およびR3のうちのいずれか2つは、同一または別異に、飽和状であるか、または、不飽和結合を有し、かつ、17個以上の炭素原子を有するアルキル置換基であり、R1、R2およびR3のうちのいずれか1つは、水素原子である。)
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、複数のフラーレン誘導体は、メソフェーズにおいて、フラーレン部位が互いに隣接し、かつ、アルキル置換基部位が前記隣接したフラーレン部位を中心として相反する外側を向くように配列したラメラ構造を形成しており、
前記ラメラ構造は、アルキル置換基部位が互いに近接するように積層されていることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物において、アルキル置換基は、飽和状アルキルオキシ基(OCnH2n+1)であり、式中のnは、前記R1、R2およびR3のいずれも16以上20以下の整数であるか、または、前記R1、R2およびR3のいずれか2つに対して17以上20以下の整数であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物において、R1およびR2は、いずれもOC20H41であり、R3は水素原子であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の組成物において、R1、R2およびR3は、いずれもOC16H33であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物において、アルキル置換基は不飽和結合を有し、R1、R2およびR3は、O(CH2)9C≡C−C≡C(CH2)xCH3(7≦x≦13)であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物において、前記フラーレンは、C60、C70、C76、C84、および、これらのいずれかを骨格とし炭素ケージ内に金属を内包した金属内包フラーレンからなる群から選択されたものであることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項8】
半導体薄膜と、電極とを有する電界効果トランジスタ素子であって、
前記半導体薄膜は、請求項1から7のいずれかに記載の組成物からなることを特徴とする、電界効果トランジスタ素子。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図18】
【図19】
【図20】
【図23】
【図24】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図16】
【図17】
【図21】
【図22】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図18】
【図19】
【図20】
【図23】
【図24】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図16】
【図17】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−30988(P2010−30988A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137663(P2009−137663)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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