説明

ブリルアン散乱測定装置

【課題】
被測定用光ファイバのみを用いてブリルアン散乱を測定可能なブリルアン散乱測定装置を提供すること。
【解決手段】
プローブ光aとポンプ光bとを生成する測定用光生成手段と、該測定用光生成手段で生成されたプローブ光とポンプ光とを、偏波面が異なる状態で合成する偏波合成手段40と、該偏波合成手段からの合成光が一端に入射される被測定用光ファイバ41と、該被測定用光ファイバの他端側に配置され、合成光の偏波面を回転すると共に、合成光中のプローブ光のみを反射させて該被測定用光ファイバの他端に再入射させる回転反射手段42と、該被測定用光ファイバの一端側に配置され、該回転反射手段により反射したプローブ光aを検出するプローブ光検出手段とを有することを特徴とするブリルアン散乱測定装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリルアン散乱測定装置に関するものであり、特に、被測定用光ファイバに波長の異なる2つのレーザ光を入射させ、その際に生じるブリルアン散乱を測定するためのブリルアン散乱測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバを利用し、該光ファイバが設置された環境の温度や歪みなどの物理量分布を測定することが行われている。このような光ファイバを用いた物理量の測定方法は、光通信路の保守管理、ダム・堤防等の大規模構造物の保守管理、欠陥・故障についての自己診断機能を有する材料・構造物(スマートマテリアル・ストラクチャ)に利用されている。
【0003】
光ファイバが設置されている環境における空間歪みや温度などの分布を測定する方法としては、光ファイバ中のブリルアン散乱現象を用いるものが知られている。ブリルアン散乱現象とは、光ファイバ中で周波数の異なる2つの光波がすれ違うと、高周波数の光から低周波数の光へと、光ファイバ中の音響波を介して光のパワーが移動する現象を意味する。
【0004】
しかも、移動するパワーが最大となる周波数差は、光ファイバ中の屈折率や音響波の速度に依存し、これらは光ファイバ周辺の温度や光ファイバに付加された歪みに依存することから、ブリルアン散乱による移動パワーが最大となる周波数差や移動が発生している場所を特定することにより、光ファイバが敷設された空間における温度や歪み分布を測定することが可能となる。
【0005】
特許文献1においては、ブリルアン散乱を用いた測定方法として、所定の変調周波数で周波数変調された第1の連続発振光と前記所定の変調周波数と等しい変調周波数で周波数変調された第2の連続発振光とを用いるものが述べられている。特に、前記第1の連続発振光を被測定光ファイバの一端面から入射させ、前記第2の連続発振光の中心周波数を周波数シフトし、該周波数シフトにより中心周波数のシフトした前記第2の連続発振光を被測定光ファイバの他端面から入射させ、前記第2の連続発振光の中心周波数の周波数シフト量を変化させて、被測定光ファイバの前記一端面または前記他端面から出射された光のパワーを測定することで、被測定光ファイバにおいて、前記第1および第2の連続発振光の周波数変調の位相が同期し相関値が高まる位置におけるブリルアンゲインスペクトルを測定することを特徴としている。
【0006】
具体的には、図1に示すように、信号発生回路2で駆動される半導体レーザ1から出射されたレーザ光は、光分岐器3により2つに分岐される。分岐された一方のレーザ光は、マイクロ波発生器4で駆動される光強度変調器5により、マイクロ波の周波数に対応してレーザ光の中心周波数がシフトされる。周波数シフトされたレーザ光はプローブ光L1として、被測定光ファイバ6の一端から入射される。なお、プローブ光は、光強度変調器5により生成される低周波側の側波帯が用いられる。
【0007】
また、分岐された他方のレーザ光は、ポンプ光L2として、被測定光ファイバ6の他端から入射される。なお必要に応じて、レーザ光L2の被測定光ファイバ6に入射するタイミングを調整するため、光遅延器7が介在されている。
【0008】
被測定光ファイバ6から出射するプローブ光を、サーキュレータなどの光路変換器8で光検出器側に導出し、光波長フィルタ9によりプローブ光L1の周波数(上述した低周波側の側波帯に対応した周波数)の光波を分離透過させ、光検出器10で該光波の光強度を検出するものである。
【0009】
また、特許文献2においては、次のような光ファイバ特性測定装置が開示されている。レーザ光を出射する光源と、前記光源から出射されたレーザ光の一部を被測定光ファイバの一端から連続光のプローブ光として入射させる入射手段と、前記光源から出射されたレーザ光の一部の残りをパルス化して前記被測定光ファイバの他端からポンプ光として入射させるパルス変調器と、前記被測定光ファイバの他端から出射される光のうち、前記被測定光ファイバに設定された測定点近傍からの光のみを通過させるタイミング調整器と、前記タイミング調整器を通過した光を検出して、前記被測定光ファイバの特性を測定する検出器とを備えることを特徴とする光ファイバ特性測定装置である。
【0010】
具体的には、図2に示すように、信号発生回路2で駆動される半導体レーザ1から出射されたレーザ光は、光分岐器3により2つに分岐される。分岐された一方のレーザ光は、マイクロ波発生器4で駆動される光強度変調器5により、図1と同様に、マイクロ波の周波数に対応してレーザ光の中心周波数がシフトされる。周波数シフトされたレーザ光はプローブ光L1として、被測定光ファイバ6の一端から入射される。
【0011】
また、分岐された他方のレーザ光は、ポンプ光L2として、被測定光ファイバ6の他端から入射される。なお、レーザ光L2は、パルス変調器11によりパルス化されている。
【0012】
被測定光ファイバ6から出射するプローブ光は、光路変換器8で光検出器側に導出され、被測定光ファイバ6に設定された測定点近傍からの光のみを通過させるタイミング調整器12に入射される。タイミング調整器12を通過した光波は、光波長フィルタ9によりプローブ光L1の周波数の光波が選択され、該光波長フィルタ9を通過した光波の光強度が、光検出器10により検出される。
【0013】
しかしながら、特許文献1の測定方法では、第1及び第2の連続光が周期的に周波数変調されているため、約10〜50mの周期的ポイントで相関ピークを示す。このため、ブリルアン散乱を測定しても、これらの複数の周期的ポイントを同時に測定することとなる。この問題を解決するためには、測定距離を相関ピークの周期、つまり10−50m以下に制限する必要が生じる。
【0014】
特許文献2の測定方法では、パルス変調器とタイミング調整器とにより、上記の制限を解除することができる。しかし、この方法では、測定サンプルが替わるたびにタイミング調整することが必要となり、測定作業が煩雑化する上、自動調整も困難である。
【0015】
本出願人は、このような問題を解決し、広範な領域に渡って測定可能でありながら1m以下の分解能で被測定用光ファイバのブリルアン散乱を測定でき、被測定用光ファイバが替わっても容易に自動化することが可能なブリルアン散乱測定装置を、先の特許出願(特許文献3)で提案した。
【0016】
特許文献3に記載されたブリルアン散乱測定装置の一例では、レーザ光を出射する光源と、該レーザ光の波長を周期的に変化させる変調手段と、該光源から出射されたレーザ光を分岐する分岐部と、分岐した一方のレーザ光の周波数を変換する周波数変換手段と、該周波数変換手段から出力された光波を、被測定用光ファイバの一端に入射し、前記分岐した他方のレーザ光を、該被測定用光ファイバの他端に入射するよう構成された被測定用光ファイバと、該分岐部と該被測定用光ファイバの他端との間に設けられ、被測定用光ファイバの他端から出射する光波を該分岐部以外に導出する導出手段と、該導出手段から導出された光波を検出する光検出器とを有するブリルアン散乱測定装置において、連続光を該変調手段の周期の整数倍の周期でパルス化するパルス変換手段を、該光源と該分岐部との間に設けたことを特徴とする。
【0017】
具体的には、図3に示すように、半導体レーザ20には、レーザ光の波長を周期的に変化させる変調手段である信号発生器21から、所定周波数f1の信号が入力され、半導体レーザ20からは所定周波数f1で周波数変調されたレーザ光が出射される。
【0018】
レーザ光はパルス変換手段であるパルス変換器22により、所定周期T1(通常、周期T1は、T1=N/f1,Nは自然数となる。つまり、変調手段による変調周期の整数倍の周期となる。)のパルス光に変換される。パルス状に変換されたレーザ光は、分岐部を構成する光分岐器23により2つのレーザ光に分岐される。
【0019】
分岐した一方のレーザ光は、周波数を変換する周波数変換手段24により、特定周波数f2による変調を受け、レーザ光の中心周波数が所定量シフトする。
【0020】
周波数変換手段24から出力された光波は、プローブ光L1として、被測定用光ファイバ25の一端に入射する。また、前記分岐した他方のレーザ光は、ポンプ光L2として該被測定用光ファイバ25の他端に入射するよう構成される。
【0021】
パルス変換器22の所定周期を調整することにより、被測定用光ファイバ内に発生するポンプ光とプローブ光とによる定在波の節(ブリルアン散乱が測定される場所)の数を一つに設定する。次に、駆動周波数f1を変化させて、被測定用光ファイバ内で当該節を移動させることが可能となる。
【0022】
被測定用光ファイバ25から出射するプローブ光L1を測定するため、光分岐器23と該被測定用光ファイバ25の他端との間に設けられ、被測定用光ファイバの他端から出射するプローブ光L1を該光分岐器23以外に導出する導出手段26を設ける。導出手段は、サーキュレータなどの光路変換器26を用いることが可能である。
【0023】
光路変換器26により導出されたプローブ光L1は、光検出器27に入力され、プローブ光の光強度が測定される。なお、プローブ光に係る波長光を正確に測定するため、必要に応じて、光検出器27の前段に波長フィルタを配置することも可能である。
【0024】
なお、特許文献3では、プローブ光とポンプ光とでは異なるパルス変換器を同期制御して用いる方法や、複数の光源及び複数のパルス変換器を用いて、プローブ光とポンプ光とを別々に発生させる方法なども開示されている。
【0025】
他方、上述した特許文献1乃至3のいずれの技術においても、被測定用光ファイバの両端には、プローブ光とポンプ光とを互いに対向するように入射させる必要がある。このため、ブリルアン散乱を実際に測定するには、図4(a)に示すように、構造物31等に配置された被測定用光ファイバ25に対して、測定装置30をその一方に配置し、被測定用光ファイバの他方には別の光ファイバで、プローブ光又はポンプ光のいずれか一方を案内することが不可欠である。
【0026】
また、プローブ光とポンプ光とを異なる光源で生成する場合など、図4(b)に示すように、測定装置(33,34)を2つに分離する場合には、両者を電気ケーブル等で接続し、各測定装置(33,34)を高精度に制御することが不可欠となる。
【0027】
このように被測定用光ファイバ以外の光ファイバを敷設したり、電気ケーブルを配線することは、作業工程が複雑化・煩雑化するなど測定効率が低下する上、測定の信頼性にも問題を生じることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特許第3667132号公報
【特許文献2】特許第3607930号公報
【特許文献3】特願2007−193323号(出願日:2007年7月25日)
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】保立和夫 他2名,「BOCDAシステムのための温度と歪の分離測定法の探究」,第21回計測自動制御学会センシングフォーラム,東洋大学,2B1−2,pp.261−266,2004年9月15日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、被測定用光ファイバのみを用いてブリルアン散乱を測定可能なブリルアン散乱測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、プローブ光とポンプ光とを生成する測定用光生成手段と、該測定用光生成手段で生成されたプローブ光とポンプ光とを、偏波面が異なる状態で合成する偏波合成手段と、該偏波合成手段からの合成光が一端に入射される被測定用光ファイバと、該被測定用光ファイバの他端側に配置され、合成光の偏波面を回転すると共に、合成光中の少なくともプローブ光を反射させて該被測定用光ファイバの他端に再入射させる回転反射手段と、該被測定用光ファイバの一端側に配置され、該回転反射手段により反射したプローブ光を検出するプローブ光検出手段とを有することを特徴とするブリルアン散乱測定装置である。
【0032】
特に、請求項1に係る発明は、該回転反射手段はプローブ光のみを該被測定用光ファイバの他端に再入射させることを特徴とする。
【0033】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のブリルアン散乱測定装置において、該被測定用光ファイバは偏波保持ファイバであることを特徴とする。
【0034】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のブリルアン散乱測定装置において、前記合成光の偏波面の回転は、偏波面を90°回転させることを特徴とする。
【0035】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のブリルアン散乱測定装置において、該ブリルアン散乱測定装置は、該被測定用光ファイバが配置された対象物の歪を測定するための歪測定装置であることを特徴とする。
【0036】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のブリルアン散乱測定装置において、該ブリルアン散乱測定装置は、該被測定用光ファイバが配置された対象物の温度分布を測定するための温度分布測定装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
請求項1に係る発明により、プローブ光とポンプ光とを生成する測定用光生成手段と、該測定用光生成手段で生成されたプローブ光とポンプ光とを、偏波面が異なる状態で合成する偏波合成手段と、該偏波合成手段からの合成光が一端に入射される被測定用光ファイバと、該被測定用光ファイバの他端側に配置され、合成光の偏波面を回転すると共に、合成光中の少なくともプローブ光を反射させて該被測定用光ファイバの他端に再入射させる回転反射手段と、該被測定用光ファイバの一端側に配置され、該回転反射手段により反射したプローブ光を検出するプローブ光検出手段とを有することを特徴とするブリルアン散乱測定装置であるため、被測定用光ファイバ以外の光ファイバを必要とせず、しかも測定装置を被測定用光ファイバの一端側に配置した状態で測定することも可能となる。
【0038】
特に、回転反射手段はプローブ光のみを被測定用光ファイバの他端に再入射させるため、プローブ光の復路時のみブリルアン散乱の測定が可能となり、往路時も復路時も測定する場合と比較し、測定距離が少なく測定時間の短縮も可能となる。
【0039】
請求項2に係る発明により、被測定用光ファイバは偏波保持ファイバであるため、プローブ光とポンプ光とが同じ方向に進行する際に両者が干渉するのを避け、より高精度にブリルアン散乱を測定することが可能となる。
【0040】
請求項3に係る発明により、合成光の偏波面の回転は、偏波面を90°回転させるため、被測定用光ファイバの他端においてプローブ光やポンプ光が折り返す際に、各光が異なる偏波面に変換され、被測定用光ファイバ内を一方向に進む時と、逆方向に戻る時とでは、各光が異なる偏波面となる。これにより、一本の被測定用光ファイバのみで、折り返した光ファイバを敷設した場合と実質的に同様な効果を得ることが可能となる。
【0041】
請求項4に係る発明により、ブリルアン散乱測定装置は、該被測定用光ファイバが配置された対象物の歪を測定するための歪測定装置であるため、対象物内外に配置する光ファイバは、対象物内に配置する被測定用光ファイバのみでよく、測定作業が効率が高く、測定の信頼性も高い歪測定が可能となる。
【0042】
請求項5に係る発明により、ブリルアン散乱測定装置は、該被測定用光ファイバが配置された対象物の温度分布を測定するための温度分布測定装置であるため、対象物内外に配置する光ファイバは、対象物内に配置する被測定用光ファイバのみでよく、測定作業が効率が高く、測定の信頼性も高い温度測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来のブリルアン散乱測定装置の概略図である。
【図2】従来の他のブリルアン散乱測定装置の概略図である。
【図3】特許文献3に開示されたブリルアン散乱測定装置の一実施例を示す概略図である。
【図4】従来のブリルアン散乱測定装置の問題点を説明する概略図である。
【図5】本発明に係るブリルアン散乱測定装置の実施例を示す概略図である。
【図6】プローブ光及びポンプ光を反射させる回転反射手段の構成を示す図である。
【図7】プローブ光のみ反射させる回転反射手段の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
図5は、本発明のブリルアン散乱測定装置の実施例を示す図である。
本発明のブリルアン散乱測定装置は、プローブ光(a〜a)とポンプ光(b〜b)とを生成する測定用光生成手段と、該測定用光生成手段で生成されたプローブ光とポンプ光とを、偏波面が異なる状態で合成する偏波合成手段40と、該偏波合成手段からの合成光が一端に入射される被測定用光ファイバ41と、該被測定用光ファイバの他端側に配置され、合成光の偏波面を回転すると共に、合成光中の少なくともプローブ光を反射させて該被測定用光ファイバの他端に再入射させる回転反射手段42と、該被測定用光ファイバの一端側に配置され、該回転反射手段により反射したプローブ光(a)を検出するプローブ光検出手段とを有することを特徴とする。
【0045】
本発明に係るプローブ光及びポンプ光を生成する測定用光生成手段としては、図1乃至図3の各種技術を採用することができ、プローブ光L1、ポンプ光L2を生成するまでの光学系をそのまま利用することが可能である。
また、プローブ光a及びポンプ光bは、各々偏波面が被測定ファイバ41に対し直交するように予め調整されることが好ましく、そのためには、図1乃至3で生成された光波L1,L2を偏光子などを介して偏波面を調整する方法や、半導体レーザ1(20)と光分岐器3(23)との間、又は光分岐器3(23)から被測定用光ファイバ6(25)までの間などに偏光子やファラデーローテータなどを配置し、最終的に生成されるプローブ光L1(a)とポンプ光L2(b)とが、互いに偏波面が直交するよう調整することも可能である。
【0046】
プローブ光aとポンプ光bとは互いに偏波面を維持しながら、偏波合成器40により合成される。偏波合成器40から出射する光波はプローブ光及びポンプ光を含んでいるが、両者は偏波面が直交しているため互いに干渉せず、被測定用光ファイバ41内を同一方向に伝搬していく。
被測定用光ファイバ41を、偏波保持ファイバ(PMF)で構成することにより、プローブ光aとポンプ光bが互いに偏波面を維持しながら伝搬するため、より一層、両者が干渉するのを避けることが可能となり、例えば、図5に示したように、プローブ光aとポンプ光(反射光)bとの干渉、プローブ光(反射光)aとポンプ光bとの干渉のみが発生し、より高精度にブリルアン散乱を測定することが可能となる。
【0047】
次に、被測定用光ファイバ41の端面における回転反射手段42について説明する。
回転反射手段42は、合成光の偏波面を回転すると共に、合成光中の少なくともプローブ光を反射させて該被測定用光ファイバの他端に再入射させる機能を有する。具体的には、調整反射手段42においては、プローブ光aは必ず反射されるが、ポンプ光bは必要に応じて反射されることとなる。
【0048】
また、回転反射手段42の合成光の偏波面の回転において、偏波面を90°回転させる場合には、被測定用光ファイバの他端においてプローブ光やポンプ光が折り返す際に、各光が異なる偏波面に変換され、被測定用光ファイバ内を一方向に進む時と、逆方向に戻る時とでは、各光が異なる偏波面となる。これにより、一本の被測定用光ファイバのみで、折り返した光ファイバを敷設した場合と実質的に同様な効果を得ることが可能となる。
【0049】
回転反射手段42において、プローブ光とポンプ光との両方を被測定用光ファイバ41の他端に再入射させることにより、被測定用光ファイバ内をプローブ光が往復する際にブリルアン散乱が測定可能であり、被測定用光ファイバの同一箇所をプローブ光の往路時でも復路時でも測定でき、より高精度な測定が可能となる。また、偏波保持ファイバを用いることにより、プローブ光の往路時と復路時でブリルアン散乱の状態を比較し、温度変化によるブリルアン散乱か歪負荷によるブリルアン散乱かを特定することも可能となる。
【0050】
特に、偏波保持ファイバを用いた場合には、非特許文献1にも開示されているように、各偏波保持面(スロー軸,ファースト軸)に対し、ブリルアンゲインスペクトルのピーク周波数が異なり、かつ、それぞれの偏波面に対するブリルアンシフトの温度・歪依存性も異なるため、被測定用光ファイバの同一箇所において、プローブ光の往路時と復路時を測定し、結果値から算出することにより、温度変化と歪を分離し判定することが可能となる。
【0051】
プローブ光とポンプ光とを共に反射させるには、図6に示すように、プローブ光a又はポンプ光bを、ファラデー回転子と磁石とを組み合わせたファラデーローテータ43により偏波面を45°回転させ、回転されたプローブ光aとポンプ光bを次の全反射ミラー44で反射する。次に、反射ミラー44で反射されたプローブ光aとポンプ光bは、再度、ファラデーローテータで偏波面が45°回転され、結局入射した時点の偏波面と90°異なる偏波面に回転変化された状態で反射する(a又はb)こととなる。
【0052】
次に、回転反射手段42により、プローブ光のみを被測定用光ファイバの他端に再入射させる場合には、プローブ光(a)の復路時のみブリルアン散乱の測定が可能となり、往路時も復路時も測定する場合と比較し、測定距離が少なく測定時間の短縮も可能となる。
【0053】
プローブ光aのみを反射させるには、図7に示すように、プローブ光a又はポンプ光bをファラデーローテータ43により偏波面を45°回転させる。そして、回転されたプローブ光aとポンプ光bを45°の偏光子45に入射させ、この際に、プローブ光aのみを通過させると共に、ポンプ光bは遮蔽されるよう偏光子45が配置されている。そして、プローブ光aのみを全反射ミラー44で反射する。反射ミラー44で反射されたプローブ光aは、再度、偏光子45を通過し、ファラデーローテータで偏波面が45°回転され、結局入射した時点の偏波面と90°異なる偏波面に回転変化された状態で反射する(a)こととなる。
【0054】
なお、回転反射手段42は、図6又は7の構成に限定されるものではなく、本発明に必要な回転反射手段42の機能を実現するものであれば良い。
【0055】
次に、反射されたプローブ光aは、被測定用光ファイバ41を逆方向に伝搬し、さらに、偏波合成器40を逆方向に伝搬して、プローブ光aとして偏波合成器40から出射される。このようなプローブ光を検出するには、図1乃至3に開示した各種のブリルアン散乱測定装置にあるようなプローブ光検出手段が利用可能である。具体的には、図1乃至3のように、光分岐器8(26)を介してポンプ光bの光路からプローブ光aを分離し、該分離したプローブ光を光検出器10(27)で検出する。また、必要に応じて、光波長フィルタやタイミング調整器などが配置される。
【0056】
上述した本発明のブリルアン散乱測定装置は、被測定用光ファイバが配置された対象物の歪を測定するための歪測定装置、あるいは、被測定用光ファイバが配置された対象物の温度分布を測定するための温度分布測定装置として利用することができる。しかも、このような装置では、対象物内外に配置する光ファイバは、対象物内に配置する被測定用光ファイバのみでよく、測定作業が効率が高く、測定の信頼性も高い歪測定又は温度測定が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、被測定用光ファイバのみを用いてブリルアン散乱を測定可能なブリルアン散乱測定装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1,20 半導体レーザ
2,21 信号発生器
3,23 光分岐器
4 マイクロ波発生器
5 光強度変調器
6,25 被測定用光ファイバ
7 光遅延器
8,26 光路変換器(導出手段)
9 光波長フィルタ
10,27 光検出器
11 パルス変調器
12 タイミング調整器
22 パルス変換器
24 周波数変換器
30,33,34 測定手段
31 対象物
32 光ファイバ
35 電気ケーブル
40 偏波合成器
41 偏波保持ファイバ
42 回転反射手段
43 ファラデーローテータ
44 反射ミラー
45 偏光子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ光とポンプ光とを生成する測定用光生成手段と、
該測定用光生成手段で生成されたプローブ光とポンプ光とを、偏波面が異なる状態で合成する偏波合成手段と、
該偏波合成手段からの合成光が一端に入射される被測定用光ファイバと、
該被測定用光ファイバの他端側に配置され、合成光の偏波面を回転すると共に、合成光中のプローブ光のみを反射させて該被測定用光ファイバの他端に再入射させる回転反射手段と、
該被測定用光ファイバの一端側に配置され、該回転反射手段により反射したプローブ光を検出するプローブ光検出手段とを有することを特徴とするブリルアン散乱測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブリルアン散乱測定装置において、該被測定用光ファイバは偏波保持ファイバであることを特徴とするブリルアン散乱測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のブリルアン散乱測定装置において、前記合成光の偏波面の回転は、偏波面を90°回転させることを特徴とするブリルアン散乱測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のブリルアン散乱測定装置において、該ブリルアン散乱測定装置は、該被測定用光ファイバが配置された対象物の歪を測定するための歪測定装置であることを特徴とするブリルアン散乱測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のブリルアン散乱測定装置において、該ブリルアン散乱測定装置は、該被測定用光ファイバが配置された対象物の温度分布を測定するための温度分布測定装置であることを特徴とするブリルアン散乱測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−132927(P2012−132927A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22857(P2012−22857)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2008−85474(P2008−85474)の分割
【原出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】