説明

ブレーキブースタの取り付け部構造

【課題】ブレーキブースタ本体部の外周部がストラットタワー部に干渉しにくくすることができて、作業性を向上させることができるブレーキブースタの取り付け部構造を提供する。
【解決手段】ダッシュパネル3にブレーキブースタ取り付け部7を設け、ブレーキブースタ8の複数の取り付けボルトB1,B2を挿通させる複数のボルト挿通孔S1,S2をブレーキブースタ取り付け部7に設け、ブレーキブースタ8の少なくとも一部分がダッシュパネル3とストラットタワー部6の間に位置するように複数のボルト挿通孔S1,S2を配置し、ブレーキブースタ8を車両の左右中央側W1から車両の後ろ側方側に移動させて取り付けボルトB1,B2をボルト挿通孔S1,S2に挿入させるよう構成し、車両の左右中央側W1の取り付けボルトB1の先端部を車両側方側W2に移動しないようにガイドするガイド部14を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
エンジンルームと車室内とを仕切るダッシュパネルにブレーキブースタ取り付け部を設け、
ブレーキブースタの複数の取り付けボルトを各別に挿通させる複数のボルト挿通孔を前記ブレーキブースタ取り付け部に設け、
前記ブレーキブースタ取り付け部に前記ブレーキブースタを取り付けた状態で、前記ブレーキブースタの少なくとも一部分が前記ダッシュパネルとストラットタワー部の間に位置するように前記複数のボルト挿通孔を配置し、
前記ブレーキブースタを車両の左右中央側から車両の後ろ側方側に斜め方向に移動させて前記取り付けボルトを前記ボルト挿通孔に挿入させるよう構成してあるブレーキブースタの取り付け部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキブースタはペダルを踏んだ際にマスターシリンダへの入力を増大させて軽い力でブレーキ操作可能にする装置である。このブレーキブースタが組み付けられるエンジンルーム内には、ダッシュサイドパネルの内側に、フェンダーエプロンからエンジンルーム内に突出するストラットタワー部が設けられ、ストラットタワー部に前輪用のサスペンションストラットが内装されている。
近年、小型車の室内空間を広くして居住性の向上のため、ダッシュパネルをよりエンジンルーム側に移動させることが行われている。また、走行性能の向上のためストラットマウントの大径化が進み、ダッシュサイドパネルからブレーキブースタまでの距離よりも、ダッシュサイドパネルからのストラットタワー部の突出量が大きくなっている。
そのために、車両の前後方向の組み付け方向では突出するストラットタワー部と干渉してしまうので、ブレーキブースタを車両の左右中央側から車両の後ろ側方側に斜め方向に移動させて前記取り付けボルトを前記ボルト挿通孔に挿入させて取り付け作業を行っている。
従来、上記のブレーキブースタの取り付け部構造では、特許文献1に開示されているように、ブレーキブースタ取り付け部は板状のダッシュパネルに単にボルト挿通孔を形成しただけの構造であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−306182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の構造によれば、ブレーキブースタ取り付け部は板状のダッシュパネルに単にボルト挿通孔を形成しただけの構造であったために、ブレーキブースタの取り付けボルトをブレーキブースタ取り付け部のボルト挿通孔に挿通させる組み付け時にブレーキブースタの挿入方向が定まりにくかった。
その結果、組み付け作業時にブレーキブースタ本体部が車両側方側に寄り過ぎて、ブレーキブースタ本体部の外周部がストラットタワー部に干渉(当接)することがあった。ブレーキブースタ本体部の外周部がストラットタワー部に干渉すると、ストラットタワー部の塗装が剥がれ、錆びが発生しやすくなって商品性が低下する。これは、ブレーキブースタの外周部が前後の部品のかしめ固定部になっており、外方に向かってかしめ用のフランジの端縁が突出する構造にとなっていて、軽度の当接でもストラットタワー部の塗装を傷つけたり剥がしたりしやすいことに起因する。
さらに、組み付け時にブレーキブースタ本体部がストラットタワー部に強く当接すると、ストラットタワー部やブレーキブースタが変形し、修理や部品の交換等で多大な損失が生じていた。
その他、組み付け時にダッシュパネルのボルト挿通孔とブレーキブースタの取り付けボルトの先端部がブレーキブースタ本体部の後ろ側に隠れて作業者側から見えにくいことから、取り付けボルトの先端部がボルト挿通孔に挿入されていることが分かりづらく作業性が低下していた。
前記取り付けボルトがボルト挿通孔に挿入されていないまま挿入されているものとしてブレーキブースタの組み付け作業を続けると、前述のようにブレーキブースタ本体部の外周部がストラットタワー部に当接する。
以上のことから、作業者はブレーキブースタの組み付け作業に過度の注意を払わなければならず作業者の負担が大きかった。
本発明は上記実状に鑑みて成されたもので、その目的は、ブレーキブースタをブレーキブースタ取り付け部に取り付ける際に、ブレーキブースタ本体部の外周部がストラットタワー部に干渉しにくくすることができて、作業性を向上させることができるブレーキブースタの取り付け部構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特徴は、
エンジンルームと車室内とを仕切るダッシュパネルにブレーキブースタ取り付け部を設け、
ブレーキブースタの複数の取り付けボルトを各別に挿通させる複数のボルト挿通孔を前記ブレーキブースタ取り付け部に設け、
前記ブレーキブースタ取り付け部に前記ブレーキブースタを取り付けた状態で、前記ブレーキブースタの少なくとも一部分が前記ダッシュパネルとストラットタワー部の間に位置するように前記複数のボルト挿通孔を配置し、
前記ブレーキブースタを車両の左右中央側から車両の後ろ側方側に移動させて前記取り付けボルトを前記ボルト挿通孔に挿入させるよう構成してあるブレーキブースタの取り付け部構造であって、
前記車両の左右中央側の取り付けボルトを前記車両の左右中央側のボルト挿通孔に挿入するに伴って、前記車両の左右中央側の取り付けボルトの先端部を車両側方側に移動しないようにガイドするガイド部を前記ブレーキブースタ取り付け部に設けてある点にある。(請求項1)
【0006】
この構成により、車両の左右中央側の取り付けボルトを車両の左右中央側のボルト挿通孔に挿入すると、それに伴って、ブレーキブースタ取り付け部のガイド部が車両の左右中央側の取り付けボルトの先端部を車両側方側に移動しないようにガイドする。
その結果、ブレーキブースタ本体部の外周部がストラットタワー部に干渉することを回避でき、ブレーキブースタ本体部の外周部がストラットタワー部に干渉することに起因するストラットタワー部の塗装の剥がれを回避できて錆びの発生を防止することができる。また、組み付け作業者はブレーキブースタの組み付け作業に過度の注意を払わなくてもよくなることから作業者の負担を軽減させることができる。そして、ブレーキブースタやストラットタワー部に保護部材を設ける必要がなくなる。
また、組み付け作業者は、組み付け時にダッシュパネルのボルト挿通孔とブレーキブースタの取り付けボルトの先端部がブレーキブースタ本体部の後ろ側に隠れて作業者側から見えにくい状態になっていても、取り付けボルトの先端部がガイド部に当接したことを手ごたえ等で容易に確認することができ、ボルト挿通孔への取り付けボルトの挿入状態を把握できて作業性を向上させることができる。(請求項1)
【0007】
本発明において、
前記ガイド部を前記ボルト挿通孔の車両後方側の端部から車室内側に突出する筒状に形成し、
前記車両の左右中央側の取り付けボルトを前記車両の左右中央側のボルト挿通孔とガイド部に挿通させてあると、次の作用を奏することができる。(請求項2)
【0008】
前記ガイド部を筒状に形成してあるから、取り付けボルトのガイド部への挿入長さが増大するに従って、取り付けボルトの軸方向がガイド部の軸方向に合致していくことになり、ダッシュパネルに対するブレーキブースタの姿勢を合わせやすくすることができる。
また、取り付けボルトを挿入していくことによって、ブレーキブースタが自動的に回転(取り付けボルトの軸方向がガイド部の軸方向に合致するように回転)して姿勢が整えられるとともに、車両側方側の取り付けボルトとボルト挿通孔の位置が合わされるので、組み付け作業性を向上させることができる。
さらに、車両側方側の取り付けボルトとボルト挿通孔の位置合わせが容易となるので、車両側方側のボルト挿通孔の径を取り付けボルトの径とほぼ同等の径に設定して位置決め孔として働かせることができて、ブレーキブースタの組み付け精度を向上させることができる。
また、ガイド部をボルト挿通孔の車両後方側の端部から車室内側に突出する筒状に形成したことで、ダッシュパネルのボルト挿通孔の周辺が補強されて、ブレーキブースタの取り付け剛性を向上させることができる。(請求項2)
【0009】
本発明において、
前記車両の左右中央側の取り付けボルトを前記ブレーキブースタに車両の左右方向で略同じ位置に上下に複数設け、
前記車両の左右中央側のボルト挿通孔を前記ブレーキブースタ取り付け部に車両の左右方向で略同じ位置に上下に複数設けるとともに、前記複数のボルト挿通孔に前記ガイド部をそれぞれ設けてあると、次の作用を奏することができる。(請求項3)
【0010】
車両の左右中央側の上下複数の取り付けボルトを車両の左右中央側の上下複数のボルト挿通孔に各別に挿入すると、前記上下複数の取り付けボルトの先端部が上下複数のガイド部によって、車両側方側に移動しないように各別にガイドされる。このように、上下複数の取り付けボルトの先端部が上下複数のガイド部によって各別にガイドされるから、ブレーキブースタの姿勢を整えることができて作業性をより向上させることができる。
さらに、取り付けボルトの先端部は車両の左右方向に関して略同じ位置でガイドされるから、組み付け時のブレーキブースタの回転軸の位置が定まり、ブレーキブースタの移動経路が安定し、組み付け作業時にブレーキブースタがストラットタワー部に干渉(当接)することを確実に防止することができて、組み付け作業性を向上させることができる。(請求項3)
【0011】
本発明において、
前記ブレーキブースタのペダル連結部を貫通させて車室内に突出させるブレーキブースタ貫通孔を前記ブレーキブースタ取り付け部に設け、
前記ブレーキブースタ貫通孔を車両の左右方向に長い長孔に形成し、
前記車両の左右中央側のボルト挿通孔を車両の左右方向に長い長孔に形成し、
前記ブレーキブースタ貫通孔に対して車両側方側に位置する前記ボルト挿通孔を位置決め孔に構成してあると、次の作用を奏することができる。(請求項4)
【0012】
ブレーキブースタ貫通孔を車両の左右方向に長い長孔に形成したことで、ブレーキブースタ貫通孔が比較的小さな孔であっても、ダッシュパネルに対する斜め方向からのブレーキブースタの取り付け作業(挿入作業)を可能とすることができる。
また、ブレーキブースタ貫通孔を小さくすることができるので、エンジンルームからの騒音・音・埃等の車室内への侵入量を抑えることができて、商品性を向上させることができ、しかも、ダッシュパネルの剛性の低下を最小限にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、
ブレーキブースタをブレーキブースタ取り付け部に取り付ける際に、ブレーキブースタ本体部の外周部がストラットタワー部に干渉しにくくすることができて、作業性を向上させることができるブレーキブースタの取り付け部構造を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)はブレーキブースタ取り付け前の車両の前部を車両の前上方から見た斜視図(b)は図1(a)のブレーキブースタ取り付け部の拡大図
【図2】ブレーキブースタ取り付け後の車両の前部を車両の前上方から見た斜視図
【図3】(a)はブレーキブースタの平面図(b)はブレーキブースタの取り付けボルトと取り付け座を示す図
【図4】ブレーキブースタの取り付け部を車室内側から見た図
【図5】取り付けボルトをボルト挿通孔に挿入する時の作用図であり、(a)は挿入前半の状態を示す斜視図(b)は挿入前半の状態を示す断面図
【図6】取り付けボルトをボルト挿通孔に挿入する時の作用図であり、(a)は挿入中盤の状態を示す斜視図(b)は挿入中盤の状態を示す断面図
【図7】取り付けボルトをボルト挿通孔に挿入する時の作用図であり、(a)は挿入後半の状態を示す斜視図(b)は挿入後半の状態を示す断面図
【図8】ボルト挿通孔へのボルトの挿入前半の状態を示す斜視図
【図9】比較例を示す図であり、ボルト挿通孔へのボルトの挿入前半の状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1(a),図1(b),図2に示すように、自動車の車体にエンジンルーム1と車室内2とを仕切るダッシュパネル3を設け、ダッシュサイドパネル4の内側に、フェンダーエプロン5からエンジンルーム1内に突出するストラットタワー部6を設け、ストラットタワー部6に前輪用のサスペンションストラットを内装してある。
【0016】
そして、ブレーキブースタ8を取り付けるブレーキブースタ取り付け部7をダッシュパネル3に設け、ブレーキブースタ8の複数の取り付けボルトB1,B2(図3(a),図3(b)参照)を各別に挿通させる複数のボルト挿通孔S1,S2をブレーキブースタ取り付け部7に設けてある。
【0017】
ブレーキブースタ8はブレーキペダルを踏んだ時にマスターシリンダへの入力を増大させて軽い力でブレーキ操作可能にする装置であり、図3(a),図3(b)に示すように、円盤状のブレーキブースタ本体部9と、ブレーキブースタ本体部9の片面から車室内2に向かって突出する円筒部10と、円筒部10から車室内2に向かって突出するブーツ部11とを備え、ブレーキペダルが連結されるクレビス12(ペダル連結部に相当)がブーツ部11の一端部から突出している。ブレーキブースタ8は、ダッシュパネル3のブレーキブースタ取り付け部7にねじを用いて締結固定されており、ブレーキブースタ8に予め取り付けられたスタッドボルトB1、B2を、ダッシュパネル3のボルト挿通孔に挿入貫通させ車室内側からナットで締め付けて固定している。このボルトは取り付け座(取り付け面)45から突出しており、さらに、ブーツ部11およびクレビス12も同様に取り付け座(取り付け面)45から突出している。
【0018】
ブレーキブースタ本体部9は、前側の皿状のカバー部品9Aと後側の皿状のカバー部品9Bの外周部同士をかしめ固定して構成されている。つまり、ブレーキブースタ本体部9の外周部は前後のカバー部品9A,9Bのかしめ固定部になっており、外方に向かってかしめ用のフランジの端縁Fが突出する構造となっている。
【0019】
そして、ブレーキブースタ本体部9の前記片面のうち円筒部10の周りの片面部分に取り付け座45を設け、前記円筒部10の軸芯O(ブレーキブースタ本体部9と共通の軸芯)よりも車両の左右中央側(車両の左右方向における車両の中央側)W1の取り付け座45に上下一対の取り付けボルトB1を設けるとともに、前記軸芯Oよりも車両側方側(車両の左右方向における車両の側方側)W2の取り付け座45に上下一対の取り付けボルトB2を設けてある。
【0020】
前記車両の左右中央側W1の上下一対の取り付けボルトB1は車両の左右方向で略同じ位置に位置し、車両側方側W2の上下一対の取り付けボルトB2は車両の左右方向で略同じ位置に位置している。また、上側の一対の取り付けボルトB1,B2(又は下側の一対の取り付けボルトB1,B2)の左右方向の間隔L1が、車両の左右中央側W1の上下一対の取り付けボルトB1(又は車両側方側W2の上下一対の取り付けボルトB2)の上下方向の間隔L2よりも長く設定されている。(図3(b)参照)
【0021】
図1(a),図1(b),図4に示すように、ブレーキブースタ8のクレビス12を貫通させて車室内2に突出させるブレーキブースタ貫通孔13をダッシュパネル3のブレーキブースタ取り付け部7の中央部に設けてある。ブレーキブースタ貫通孔13は車両の左右方向に長い長孔に形成されている。そして、ブレーキブースタ貫通孔13よりも車両の左右中央側W1のブレーキブースタ取り付け部7に上下一対のボルト挿通孔S1を設けるとともに、ブレーキブースタ貫通孔13よりも車両側方側W2のブレーキブースタ取り付け部7に上下一対のボルト挿通孔S2を設けてある。符号Pは前記ブレーキブースタ貫通孔13の軸芯である。
【0022】
車両の左右中央側W1の上下一対のボルト挿通孔S1は車両の左右方向で略同じ位置に位置し、いずれも車両の左右方向に長い長孔に形成されている。車両側方側W2の上下一対のボルト挿通孔S2は車両の左右方向で略同じ位置に位置している。この車両側方側W2の上下一対のボルト挿通孔S2の径を取り付けボルトB2の径とほぼ同等の径(少許大きな径)に設定して位置決め孔に構成してある。
【0023】
図1(b)に示すように、上側の一対のボルト挿通孔S1,S2(又は下側の一対のボルト挿通孔S1,S2)の左右方向の間隔D1は、車両の左右中央側W1の上下一対のボルト挿通孔S1(又は車両側方側W2の上下一対のボルト挿通孔S2)の上下方向の間隔D2よりも長く設定されている。
【0024】
図2,図8に示すように、ダッシュパネル3のブレーキブースタ取り付け部7にブレーキブースタ8を取り付けた状態で、ブレーキブースタ8の少なくとも一部分(車両側方側W2の部分)が車両の前後方向でダッシュパネル3とストラットタワー部6の間に位置するように前記複数のボルト挿通孔S1,S2を配置してある。
【0025】
そして、ブレーキブースタ8を車両の左右中央側W1から車両の後ろ側方側に移動させて、車両の左右中央側W1の上下一対の取り付けボルトB1を車両の左右中央側W1の上下一対のボルト挿通孔S1に各別に挿入させてから、車両側方側W2の上下一対の取り付けボルトB2を車両側方側W2の上下一対のボルト挿通孔S2に各別に挿入させるよう構成してある。
【0026】
図4〜図7(a),図7(b)に示すように、車両の左右中央側W1の上下一対の取り付けボルトB1を車両の左右中央側W1の上下一対のボルト挿通孔S1に挿入するに伴って、前記上下一対の取り付けボルトB1の先端部を車両側方側W2に移動しないように移動方向を規制するとともに挿入をガイドする一対の第1ガイド部14と、車両側方側W2の上下一対の取り付けボルトB2を車両側方側W2の上下一対のボルト挿通孔S2に挿入するに伴って、前記上下一対の取り付けボルトB2の先端部を車両側方側W2に移動しないように挿入をガイドする一対の第2ガイド部15とを設けてある。
【0027】
図4に示すように、一対の第1ガイド部14のうち一方の第1ガイド部14は、長方形の第1金属板16の長手方向の一端部を一方の板面16Mの外方側に円筒状に折曲して形成され、他方の第1ガイド部14は、第1金属板16の長手方向の他端部を前記一方の板面16Mの外方側に円筒状に折曲して形成されている。第1ガイド部14の内径は車両の左右中央側W1の上下一対のボルト挿通孔S1の長径よりも長く設定されている。
【0028】
さらに、第1金属板16の長手方向の中間部が前記一方の板面16Mの外方側(ブレーキブースタ貫通孔13と反対側)に直角に折曲されて長方形状の第1折曲片17が形成され、この第1折曲片17の他方の板面16Nがブレーキブースタ取り付け部7の後面(車室内側の面であって、ブレーキブースタ貫通孔13よりも車両の左右中央側W1の後面部分)に溶接接合されて、第1ガイド部14がボルト挿通孔S1の車両後方側の端部から車室内2側に突出している。符号Wは溶接部(スポット溶接)である。
【0029】
一対の第2ガイド部15のうち一方の第2ガイド部15は、長方形の第2金属板26の長手方向の一端部を一方の板面26Mの外方側に円筒状に折曲して形成され、他方の第2ガイド部15は、第2金属板26の長手方向の他端部を前記一方の板面26Mの外方側に円筒状に折曲して形成されている。
【0030】
さらに、第2金属板26の長手方向の中間部が前記一方の板面26Mの外方側(ブレーキブースタ貫通孔13と反対側)に直角に折曲されて長方形状の第2折曲片27が形成され、この第2折曲片27の他方の板面26Nがブレーキブースタ取り付け部7の後面(車室内側の面であって、ブレーキブースタ貫通孔13よりも車両側方側W2の後面部分)に溶接接合されて、第2ガイド部15がボルト挿通孔S2の車両後方側の端部から車室内2側に突出している。第1金属板16と第2金属板26は前記他方の板面16N,26N同士が対向している。
【0031】
第1金属板16と第2金属板26は同一形状・同一大きさであり、第1ガイド部14と第2ガイド部15は同一形状・同一大きさである。つまり、上下一対の第1ガイド部14を備えた第1金属板16から成る第1ガイド体29と、上下一対の第2ガイド部15を備えた第2金属板26から成る第2ガイド体30とを同一形状・同一大きさにすることで部品の共通化を図って生産性を向上させてある。
【0032】
以上説明した構造で、ブレーキブースタの取り付けをする際の作業手順について説明する。
(1)取り付け座45が車両の後ろ斜め側方を向くようにブレーキブースタ8を車両に対して斜めの姿勢で、車両の左右中央側W1から斜め後ろ方向に移動させて、ブレーキブースタ取り付け部7にブレーキブースタ8を近づける。
(2)クレビス12およびブーツ部11をブレーキブースタ貫通孔13に挿入する。この時、ブレーキブースタ貫通孔13が車両の左右方向に長い長孔に形成されているので、ブレーキブースタ貫通孔13を大きく形成することなく斜め姿勢での挿入が可能となっている。
(3)車両の左右中央側W1の取り付けボルトB1の先端をボルト挿通孔S1に挿入する。この時、ボルト挿通孔S1が車両の左右方向に長い長孔に形成されているので、斜め姿勢でも取り付けボルトB1の先端は挿入が可能となっている。また、図8に示すように、斜め姿勢の為、車両側方側W2の取り付けボルトB2の先端よりも車両の左右中央側W1の取り付けボルトB1の先端が車両の後方側となってブレーキブースタ取り付け部7に近接配置され、取り付けボルトB2よりも車両の左右中央側W1の取り付けボルトB1が先にダッシュパネル3のボルト挿通孔に挿入される。
(4)ブレーキブースタ8を車両の後方側に移動させて車両の左右中央側W1の取り付けボルトB1をボルト挿通孔S1に更に挿入する。この時、取り付けボルトB1の先端は第1ガイド部14の内周部に当接し、第1ガイド部14によって斜め姿勢でのこれ以上の側方側W2へのブレーキブースタ8の移動を規制する。この時、組み付け作業者は、この規制の手ごたえによって取り付けボルトB1がボルト挿通孔S1に挿入されていることを確認することができるとともに、第1ガイド部14によって、取り付けボルトB1のねじ部分がボルト挿通孔S1の周縁に引っかかることなく容易に挿入作業をすることができる。
(5)第1ガイド部14の内径による制限、または、第1ガイド部14の車両側方側W2の内周部とボルト挿通孔S1による制限によって、斜め姿勢での取り付けボルトB1の挿入が困難になった時、または、ある程度取り付けボルトB1の挿入が為された後、上下方向の軸を中心にブレーキブースタ8を回転させ、車両側方側W2の取り付けボルトB2をボルト挿通孔S2に挿入する。この時、取り付けボルトB1およびボルト挿通孔S1が上下に一対配置されているので、ブレーキブースタ8の姿勢を安定させることができる。そして、取り付けボルトB1およびボルト挿通孔S1によってブレーキブースタ8の位置決めがなされているので、取り付けボルトB2とボルト挿通孔S2の位置合わせが容易になるととともに、回転によってボルト軸の方向が比較的車両の前後方向に沿った状態で車両側方側W2の取り付けボルトB2をボルト挿通孔S2に挿入することができるので、ボルト挿通孔S2を長孔にする必要がなく比較的小径にしてブレーキブースタ8の位置決め穴として利用することが可能となる。
(6)車両の左右中央側W1の上下一対の取り付けボルトB1を車両の左右中央側W1の上下一対のボルト挿通孔S1と第1ガイド部14に挿通させ、車両側方側W2の上下一対の取り付けボルトB2を車両側方側W2の上下一対のボルト挿通孔S2と第2ガイド部15に挿通させて、取り付け座45をブレーキブースタ取り付け部7に重ねる。そして、各取り付けボルトB1,B2に車室内側からナットを螺合して、ダッシュパネル3および第1ガイド部14(第2ガイド部15)を締め付けることで、ブレーキブースタ8をダッシュパネル3に取り付け固定する。締め付け固定において第1ガイド部14(第2ガイド部15)を締め付けるので、締め付けが安定するとともに、ダッシュパネルに取り付けられるダッシュインシュレータ等の遮音部材の厚さを確保して遮音材の配置を可能として、遮音性能が向上する。
【0033】
次に、車両の左右中央側W1の取り付けボルトB1を車両の左右中央側W1のボルト挿通孔S1に挿入する際の作用について説明する。
(1) 図5(a),図5(b)に示すように、車両の左右中央側W1の取り付けボルトB1の先端部を車両の左右中央側W1のボルト挿通孔S1に挿入する。
(2) さらに取り付けボルトB1をボルト挿通孔S1に挿入すると、図6(a),図6(b)に示すように、取り付けボルトB1の先端部が第1ガイド部14の車両側方側W2の内周部に当接する。
(3) 前記(2)の状態からさらに取り付けボルトB1をボルト挿通孔S1に挿入すると、図7(a),図7(b)に示すように、第1ガイド部14の車両側方側W2の内周部が車両の左右中央側W1の取り付けボルトB1の先端部に当接してボルトB1の先端部を車両側方側W2に移動しないように車両後方側Rrにガイドする。取り付けボルトB1は先端部側ほど車両側方側W2に位置する傾斜姿勢のままで車両後方側Rrに車両前後方向に対して平行に移動する。本発明は、ストラットタワー部6があるためにスタッドボルト(取り付けボルトB1、B2)をボルト挿通孔に挿入する取り付け作業時にブレーキブースタ8を車両の前方からダッシュパネル3に近づけることができない、ストラットタワー部6の後方にブレーキブースタ8の一部が配置される車両で特に効果を有する。つまり、車両の前後方向でストラットタワー部6とダッシュパネル3に挟まれた空間にブレーキブースタ8の一部が配置される車両に好適なブレーキブースタ8の取り付け部構造である。さらには、締結固定用のスタッドボルトB1、B2が取り付けられたブレーキブースタ8に好適なブレーキブースタ8の取り付け部構造である。
【0034】
図9に示すように、ガイド部を備えていない比較例の構造によれば、ブレーキブースタ8の取り付けボルトB1をブレーキブースタ取り付け部7のボルト挿通孔S1に挿通させた際に、ブレーキブースタ8の挿入方向が定まりにくい。その結果、ブレーキブースタ本体部9が車両側方側W2に寄り過ぎて、ブレーキブースタ本体部9の外周部Aがストラットタワー部6に干渉し、ストラットタワー部6の塗装が剥がれ、錆びが発生しやすくなって商品性が低下しやすい。
【0035】
これに対して、本発明によれば、図8に示すように、ブレーキブースタ本体部9の外周部がストラットタワー部6に干渉することを回避でき、ブレーキブースタ本体部9の外周部がストラットタワー部6に干渉することに起因するストラットタワー部6の塗装の剥がれを回避できて錆びの発生を防止することができる。また、組み付け作業者はブレーキブースタ8の組み付け作業に過度の注意を払わなくてもよくなることから作業者の負担を軽減させることができる。そして、ブレーキブースタ8やストラットタワー部6に保護部材を設ける必要がなくなる。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジンルーム
2 車室内
3 ダッシュパネル
6 ストラットタワー部
7 ブレーキブースタ取り付け部
8 ブレーキブースタ
12 ペダル連結部(クレビス)
13 ブレーキブースタ貫通孔
B1 取り付けボルト(車両の左右中央側の取り付けボルト)
B2 取り付けボルト(車両側方側の取り付けボルト)
S1 ボルト挿通孔(車両の左右中央側のボルト挿通孔)
S2 ボルト挿通孔(車両側方側のボルト挿通孔)
W1 車両の左右中央側
W2 車両側方側
14 ガイド部(第1ガイド部)
Rr 車両後方側


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと車室内とを仕切るダッシュパネルにブレーキブースタ取り付け部を設け、
ブレーキブースタの複数の取り付けボルトを各別に挿通させる複数のボルト挿通孔を前記ブレーキブースタ取り付け部に設け、
前記ブレーキブースタ取り付け部に前記ブレーキブースタを取り付けた状態で、前記ブレーキブースタの少なくとも一部分が前記ダッシュパネルとストラットタワー部の間に位置するように前記複数のボルト挿通孔を配置し、
前記ブレーキブースタを車両の左右中央側から車両の後ろ側方側に移動させて前記取り付けボルトを前記ボルト挿通孔に挿入させるよう構成してあるブレーキブースタの取り付け部構造であって、
前記車両の左右中央側の取り付けボルトを前記車両の左右中央側のボルト挿通孔に挿入するに伴って、前記車両の左右中央側の取り付けボルトの先端部を車両側方側に移動しないようにガイドするガイド部を前記ブレーキブースタ取り付け部に設けてあるブレーキブースタの取り付け部構造。
【請求項2】
前記ガイド部を前記ボルト挿通孔の車両後方側の端部から車室内側に突出する筒状に形成し、
前記車両の左右中央側の取り付けボルトを前記車両の左右中央側のボルト挿通孔とガイド部に挿通させてある請求項1記載のブレーキブースタの取り付け部構造。
【請求項3】
前記車両の左右中央側の取り付けボルトを前記ブレーキブースタに車両の左右方向で略同じ位置に上下に複数設け、
前記車両の左右中央側のボルト挿通孔を前記ブレーキブースタ取り付け部に車両の左右方向で略同じ位置に上下に複数設けるとともに、前記複数のボルト挿通孔に前記ガイド部をそれぞれ設けてある請求項1又は2記載のブレーキブースタの取り付け部構造。
【請求項4】
前記ブレーキブースタのペダル連結部を貫通させて車室内に突出させるブレーキブースタ貫通孔を前記ブレーキブースタ取り付け部に設け、
前記ブレーキブースタ貫通孔を車両の左右方向に長い長孔に形成し、
前記車両の左右中央側のボルト挿通孔を車両の左右方向に長い長孔に形成し、
前記ブレーキブースタ貫通孔に対して車両側方側に位置する前記ボルト挿通孔を位置決め孔に構成してある請求項1〜3のいずれか一つに記載のブレーキブースタの取り付け部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−42202(P2011−42202A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190735(P2009−190735)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】