説明

ブレーキ制御装置及びブレーキ制御方法

【課題】制御モードの切替に際してホイールシリンダ圧の封じ込めを回避する。
【解決手段】制動中における異常検出時に作動流体の供給経路の分離を伴うバックアップ用のブレーキモードに移行する際に、バックアップ用ブレーキモードで使用される液圧源とホイールシリンダとの間に設けられかつバックアップ用ブレーキモードで開弁されるべき開閉弁が、開弁指令に応じて開弁されるように当該開閉弁の出入口間に作用する差圧を当該作動流体供給経路の分離前に緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置及びブレーキ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液圧ブースタとマスタシリンダと動力液圧源と複数のブレーキシリンダとを含む液圧ブレーキ装置が記載されている。この液圧ブレーキ装置によれば、簡単な回路で、複数のブレーキシリンダと液圧ブースタ、マスタシリンダ及び動力液圧源とを選択的に連通可能とし、制御性を向上させることができる。システムが正常な場合には、動力液圧源からブレーキシリンダに作動液が供給される。異常が検出された場合には、正常時とは異なる他の制御モードに切り替えられる。制御モードの切り替えの際には、ブレーキ装置内部の複数の制御弁の開閉状態が変更される。
【特許文献1】特開2006−123889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような制御モードの切り替えは速やかに行われることが望ましいと考えられるから、ブレーキ制御装置に内蔵の複数の制御弁の開閉状態は基本的には同時に変更されることになろう。しかし、モード切替直前の状況によっては、切替動作によりホイールシリンダに液圧を封じ込めてしまう可能性がある。ホイールシリンダ圧の封じ込めが生じると、対応する車輪に引き摺りを発生させてしまうことになる。
【0004】
そこで、本発明は、制御モードの切替に際してホイールシリンダ圧の封じ込めを回避することを可能とするブレーキ制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御装置は、作動流体の供給を受けて複数の車輪のそれぞれに制動力を付与する複数のホイールシリンダと、運転者のブレーキ操作から独立して複数のホイールシリンダの作動流体圧を制御し得るホイールシリンダ圧制御系統と、収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧するマニュアル液圧源と、マニュアル液圧源からホイールシリンダに作動流体が供給されるバックアップ用のブレーキモードにおいて閉状態とされ、複数のホイールシリンダの少なくとも1つに作動流体を供給する経路と複数のホイールシリンダの残りに作動流体を供給する経路とに分離する分離弁と、マニュアル液圧源とホイールシリンダとの間に設けられ、閉弁中に出入口間の差圧が所定圧を超えている場合に当該差圧の作用により開弁指令に抗して閉弁状態が維持される開閉弁と、ホイールシリンダ圧制御系統による制御を中止してバックアップ用のブレーキモードに移行する際に、開閉弁が開弁指令に従って開弁されるよう差圧を緩和すべく当該開弁指令よりも後に分離弁を閉弁する制御部と、を備える。
【0006】
この態様によれば、バックアップ用ブレーキモードへの移行に際して、制御部は、開弁指令に従って開弁されるよう開閉弁の出入口間の差圧を緩和すべくホイールシリンダからの作動流体の排出経路を制御する。特に制御部は、開閉弁への開弁指令よりも後に分離弁を閉弁するように開閉弁及び分離弁を制御する。例えばホイールシリンダ圧がマニュアル液圧源よりも高圧であるときには開閉弁の出入口間の差圧が所定圧を超えている場合がある。この場合、制御部からの開弁指令に抗して差圧の作用により閉弁状態が維持されてホイールシリンダに液圧が封じ込められる可能性がある。この所定圧を以下では適宜、自閉解除圧という。
【0007】
すなわち制御部は、開閉弁の出入口間の差圧が自閉解除圧にまで低減されるようにホイールシリンダからの作動流体の排出経路を制御する。特に制御部は、分離弁の閉弁を開閉弁への開弁指令よりも遅らせる。これにより、分離弁で区切られるべき2つの系統の一方から他方へと開閉弁のホイールシリンダ側における液圧を逃がして開閉弁に作用する差圧を自閉解除圧よりも小さくすることが可能となる。一旦開閉弁の出入口間の差圧が自閉解除圧以下に低減されれば当該開閉弁は開弁指令に従って開弁可能となりバックアップ用ブレーキモードに移行することができるようになる。その結果、開弁指令に抗して開閉弁が閉弁状態に維持されることによるホイールシリンダ圧の封じ込めを回避しつつ、バックアップ用ブレーキモードへの移行を円滑に完了させることができる。
【0008】
マニュアル液圧源は、収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧する第1の液圧源と、第1の液圧源の作動流体圧に合わせて作動流体を調圧する第2の液圧源とを含み、開閉弁は、第1の液圧源と複数のホイールシリンダの少なくとも1つとを接続する第1の供給経路上に設けられた第1の開閉弁と、第2の液圧源と複数のホイールシリンダの残りとを接続する第2の供給経路上に設けられた第2の開閉弁と、を含み、第1の開閉弁は、出入口間の差圧が第1の所定圧を超えている場合に開弁指令に抗して閉弁状態が維持され、第2の開閉弁は、出入口間の差圧が第2の所定圧を超えている場合に開弁指令に抗して閉弁状態が維持され、第2の所定圧は、ホイールシリンダ圧制御系統により実現されるホイールシリンダ圧の最大値よりも小さく設定され、第1の所定圧は、当該最大値よりも大きく設定されていてもよい。
【0009】
この場合、ホイールシリンダ圧が高圧に制御されているときに第2の開閉弁の出入口間の差圧が第2の所定圧を超え、第2の開閉弁は開弁指令に抗して閉弁状態が維持される可能性がある。一方、第1の開閉弁に関しては、第1の所定圧がホイールシリンダ圧の最大値よりも大きく設定されているために開弁指令に従って速やかに開弁される。このため、第2の開閉弁が開弁指令を受けて直ちに開弁されなかったとしても、高圧のホイールシリンダ圧を第1の開閉弁を介して第1の液圧源へと逃がすことが可能となる。その結果ホイールシリンダ圧が低減され第2の開閉弁の出入口間の差圧が緩和されて、第2の開閉弁も開弁するに至る。このようにしてホイールシリンダ圧の封じ込めを回避しつつバックアップ用ブレーキモードへの移行を円滑に完了させることができる。また、第2の所定圧が小さく設定されているから、第2の開閉弁の小型化ひいてはブレーキ制御装置の小型化の実現が可能となるという点でも好ましい。
【0010】
制御部は、制動力が生じる最小の液圧よりもホイールシリンダ圧を高い状態に保ちつつ差圧を緩和するようにホイールシリンダからの作動流体の排出経路を制御してもよい。このようにすれば、制動力をある程度保持しながらバックアップ用のブレーキモードへの移行を完了させることができる。これにより、制動力の低下による減速度の低下いわゆるG抜けを抑制することができる。よって、ホイールシリンダ圧の封じ込めの回避とG抜けの抑制の双方を両立させながら制動中のバックアップ用のブレーキモードへの移行を円滑に完了させることができる。ここで、制動力が生じる最小の液圧とは、車輪に制動力が付与されることとなる最小のホイールシリンダ圧をいい、以下では適宜「最小制動液圧」とも呼ぶ。
【0011】
分離弁は、第1の供給経路と第2の供給経路とを接続する流路に設けられ、バックアップ用のブレーキモードでは第1の供給経路と第2の供給経路とを分離するものであって、制御部は、第1の開閉弁及び第2の開閉弁に開弁指令を送信し、第2の開閉弁の出入口間の差圧が第2の所定圧よりも小さくなった後に分離弁を閉弁してもよい。
【0012】
この態様によれば、まず第1の開閉弁及び第2の開閉弁に開弁指令が送信され、第1の開閉弁及び分離弁がともに開状態となる。よって分離弁及び第1の開閉弁を介して第1の供給経路から第2の供給経路へと液圧が逃がされ第2の開閉弁の出入口間の差圧が第2の所定圧よりも緩和される。その後、制御部は分離弁を閉弁してバックアップ用ブレーキモードへの移行を完了させる。バックアップ用ブレーキモードにおいて分離弁が閉弁され第1の供給経路と第2の供給経路とが分離されるのはフェイルセーフの観点によるものである。第1の開閉弁への開弁指令の送信よりも分離弁の閉弁を遅らせることにより、分離弁に妨げられずに第2の開閉弁の出入口間の差圧を第1の開閉弁を介して第1の液圧源へと逃がすことができる。このようにしてホイールシリンダ圧の封じ込めの回避とブレーキモード移行後のフェイルセーフ性能とを両立させることができる。
【0013】
制御部は、第1の開閉弁への開弁指令に先行して第2の開閉弁への開弁指令を送信してもよい。ホイールシリンダ圧がそれほど高圧ではなく第2の開閉弁の出入口間の差圧が第2の所定圧よりも小さい場合には、第2の開閉弁は開弁指令を受けて直ちに開弁されることになる。よって、第2の開閉弁への開弁指令を第1の開閉弁への開弁指令に先行させることにより、ホイールシリンダ圧をまず第2の液圧源に逃がすことが可能となる。第2の液圧源は第1の液圧源とは異なり運転者のブレーキ操作入力を直接受けないので、第1の液圧源にホイールシリンダ圧を逃がす場合よりも、ブレーキ操作部材を通じて運転者に伝達される衝撃、いわゆるペダルショックを低減することができるという点で好ましい。
【0014】
第1の開閉弁、第2の開閉弁、及び分離弁はそれぞれ制御電流の通電の有無に対応して開閉される電磁制御弁であり、制御部は、第1の開閉弁、第2の開閉弁、及び分離弁のそれぞれへの制御電流の通電を停止してバックアップ用のブレーキモードに移行するものであって、制御電流の通電が停止された時に、非通電時における開閉状態に分離弁が最も遅れて移行するように第1の開閉弁、第2の開閉弁、及び分離弁のそれぞれの電流特性が設定されていてもよい。
【0015】
このように電流特性が設定されることにより、制御部が第1の開閉弁、第2の開閉弁、及び分離弁のそれぞれの開閉順序を制御しなくても意図された開閉順序でそれぞれの弁が開閉される。このため、開閉制御を簡素化できるという点で好ましい。また、故障等により通電が突然停止された場合であっても、意図された開閉順序でそれぞれの弁が開弁されてバックアップ用のブレーキモードへの移行が実行される。このためフェイルセーフ性能を向上させることができるという点でも好ましい。
【0016】
制御部は、ホイールシリンダから作動流体を流出させる漏れ異常の検出によりバックアップ用のブレーキモードに移行する場合には、第1及び第2の開閉弁への開弁指令の送信とともに又は開弁指令の送信に先行して分離弁を閉弁してもよい。このようにすれば、漏れ異常が検出された場合には開閉弁に作用する差圧が緩和されたか否かにかかわらず、速やかに分離弁が閉弁されて作動流体の供給経路が2系統に分離される。これにより、漏れ異常が発生した系統を分離して他方の正常な系統により制動力を発生させることが可能となるのでフェイルセーフ上好ましい。
【0017】
作動流体を貯留するリザーバとホイールシリンダとを接続する流路に設けられた減圧弁をさらに備え、制御部は、第2の開閉弁の出入口間の差圧が第2の所定圧よりも小さくなるよう減圧弁を制御してホイールシリンダ圧を減圧し、当該減圧後に分離弁を閉弁してもよい。
【0018】
この態様によれば、制御部は、減圧弁を用いた減圧制御により第2の開閉弁の出入口間の差圧を緩和してから分離弁を閉弁してバックアップ用ブレーキモードへの移行を完了させる。例えば第1の開閉弁に閉故障が生じている場合などのようにマニュアル液圧源にホイールシリンダ圧を抜くことができない場合であっても、リザーバへの作動流体排出を制御する減圧弁を用いて液圧を抜いて封じ込めを回避することができる。いずれかの箇所の異常を想定して液圧を逃がす経路を構築することはフェイルセーフの観点から見て好ましい。
【0019】
制御部は、第2の所定圧よりも小さく設定されかつ制動力が生じる最小の液圧よりも大きく設定される設定液圧をホイールシリンダ圧が超える場合に減圧弁が開状態とされ、当該設定液圧を下回る場合に減圧弁が閉状態とされるように減圧弁を制御してもよい。このようにすれば、第2の所定圧よりも小さく設定されかつ制動力が生じる最小の液圧よりも大きく設定される設定液圧に向けてホイールシリンダ圧を減圧制御することができる。この設定液圧は第2の所定圧よりも小さく設定されるため、第2の開閉弁は制御部の開弁指令に従って差圧に妨げられずに開弁される。また設定液圧は制動力が生じる最小の液圧よりも大きく設定されるため、ある程度の制動力を保持しながらバックアップ用ブレーキモードへの移行を進めることができる。よって、ホイールシリンダ圧の封じ込めの回避とG抜けの抑制の双方を両立させながら制動中のバックアップ用のブレーキモードへの移行を円滑に完了させることができる。
【0020】
本発明の別の態様もまた、ブレーキ制御装置である。この装置は、作動流体の供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、運転者のブレーキ操作から独立してホイールシリンダの作動流体圧を制御し得るホイールシリンダ圧制御系統と、収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧する第1の液圧源と、第1の液圧源の作動流体圧に合わせて作動流体を調圧する第2の液圧源とを含むマニュアル液圧源と、第1の液圧源とホイールシリンダとを接続する第1の供給経路上に設けられた第1の開閉弁と、第2の液圧源とホイールシリンダとを接続する第2の供給経路上に設けられた第2の開閉弁と、を備えるブレーキ制御装置であって、第1の開閉弁は、ホイールシリンダ圧がマニュアル液圧源よりも高圧に制御されている場合において閉弁中に出入口間の差圧が第1の所定圧を超えている場合に当該差圧の作用により開弁指令に抗して閉弁状態が維持され、第2の開閉弁は、ホイールシリンダ圧がマニュアル液圧源よりも高圧に制御されている場合において閉弁中に出入口間の差圧が第2の所定圧を超えている場合に当該差圧の作用により開弁指令に抗して閉弁状態が維持され、第2の所定圧は、ホイールシリンダ圧制御系統により実現されるホイールシリンダ圧の最大値よりも小さく設定され、第1の所定圧は、当該最大値よりも大きく設定されている。
【0021】
本発明のさらに別の態様は、ブレーキ制御方法である。この方法は、制動中における異常検出時に作動流体の供給経路の分離を伴うバックアップ用のブレーキモードに移行する際に、制動力が生じる最小の液圧よりもホイールシリンダ圧を高い状態に保ちつつ、当該バックアップ用ブレーキモードで使用される液圧源とホイールシリンダとの間に設けられかつバックアップ用ブレーキモードで開弁されるべき開閉弁が開弁指令に応じて開弁されるように当該開閉弁の出入口間に作用する差圧を当該作動流体供給経路の分離前に緩和する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ホイールシリンダ圧の封じ込めを回避することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0025】
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
【0026】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0027】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
【0028】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0029】
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0030】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
【0031】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0032】
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0033】
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0034】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0035】
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
【0036】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0037】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0038】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0039】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0040】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0041】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
【0042】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0043】
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0044】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0045】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0046】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0047】
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
【0048】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
【0049】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0050】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
【0051】
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
【0052】
その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤによる制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
【0053】
このとき、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。
【0054】
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。ブレーキ回生協調制御を実行しているか否かにかかわらず、ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御する制御モードを以下では適宜「リニア制御モード」と称する。あるいは、ブレーキバイワイヤによる制御と呼ぶ場合もある。
【0055】
リニア制御モードにおいては、運転者からの要求制動力を発生させる以外に例えば、各車輪の路面に対する滑りを抑制して車両の挙動を安定化させるための、いわゆるVSC(Vehicle Stability Control)制御やTRC(Traction Control)制御などが実行されることもある。VSC制御は、車両の旋回時における車輪の横滑りを抑制するための制御である。TRC制御は、車両の発進時や加速時に駆動輪の空転を抑制するための制御である。また、緊急ブレーキ時に運転者によるペダル踏力を補完して制動力を高めるブレーキアシスト制御もリニア制御モードにおいて実行される場合がある。
【0056】
リニア制御モードでの制御中に、例えば故障等の異常の発生によりホイールシリンダ圧が目標液圧から乖離してしまう場合がある。ブレーキECU70は、例えば制御圧センサ73の測定値に基づいてホイールシリンダ圧の応答異常の有無を周期的に判定している。ホイールシリンダ圧の制御応答に異常があると判定された場合には、ブレーキECU70は、リニア制御モードを中止してマニュアルブレーキモードに制御モードを切り替える。マニュアルブレーキモードにおいては、運転者のブレーキペダル24への入力が液圧に変換されて機械的にホイールシリンダ23に伝達され、車輪に制動力が付与される。マニュアルブレーキモードは、フェイルセーフの観点からリニア制御モードのバックアップ用の制御モードとしての役割を有する。
【0057】
ブレーキECU70は、液圧源及び液圧源からホイールシリンダ23への供給経路を異ならせることによりマニュアルブレーキモードとして複数のモードのうちの1つを選択することができる。本実施形態では、一例として非制御モードへの移行を説明する。非制御モードにおいては、ブレーキECU70は、すべての電磁制御弁への制御電流の供給を停止する。よって、常開型のマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65は開弁され、常閉型の分離弁60及びシミュレータカット弁68は閉弁される。増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67は、制御が停止され閉弁される。
【0058】
その結果、ブレーキフルードの供給経路はマスタシリンダ側とレギュレータ側との2系統に分離される。マスタシリンダ圧が前輪用のホイールシリンダ23FR及び23FLへと伝達され、レギュレータ圧が後輪用のホイールシリンダ23RR及び23RLへと伝達される。マスタシリンダ32からの作動流体の送出先は、ストロークシミュレータ69から前輪用のホイールシリンダ23FR及び23FLに切り替えられる。非制御モードによれば、制御系の異常により電磁制御弁への通電がない場合であっても制動力を発生させることができるので、フェイルセーフの観点から好ましい。なお、本実施形態においては、マスタシリンダ32及びレギュレータ33がそれぞれ第1の液圧源及び第2の液圧源に相当し、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65がそれぞれ第1の開閉弁及び第2の開閉弁に相当する。
【0059】
ところで、本実施形態においては、収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧するマニュアル液圧源よりもホイールシリンダ圧が高圧に制御される場合がある。このようにホイールシリンダ圧が高圧に制御されるのは、例えば前述のVSC制御やブレーキアシスト制御の実行中が考えられる。VSC制御やブレーキアシスト制御においては運転者によるブレーキペダル24への踏力が比較的小さい場合が想定され、このときマニュアル液圧源における液圧は比較的低圧であるためである。
【0060】
このような高圧制御中に、例えばブレーキ制御装置20のいずれかの箇所に異常が検出された等の理由によりブレーキバイワイヤによる制御からバックアップ用ブレーキモードに制動中に移行する場合がある。バックアップ用のブレーキモードへの移行に際してマニュアル液圧源からの作動流体の供給を可能とすべく、マニュアル液圧源とホイールシリンダとを接続する流路の中途に設けられた開閉弁に開弁指令が送信される。ここで開閉弁の出入口間の差圧が所定圧を超えている場合には、開弁指令に抗して差圧の作用により閉弁状態が維持されてしまう。この所定圧を以下では適宜、自閉解除圧と呼ぶことにする。開閉弁が開弁されなければ、当該開閉弁下流のホイールシリンダ23に高圧が封じ込められてしまう可能性がある。ホイールシリンダ圧の封じ込めが生じると、対応する車輪に引き摺りを発生させてしまうことになる。
【0061】
具体的に言えば、非制御モードに移行したときにレギュレータカット弁65の下流側の後輪用ホイールシリンダ23RR、23RLに液圧の封じ込めが生じてしまう可能性がある。レギュレータカット弁65のような常開型の電磁制御弁においては、オン状態つまり閉弁状態において制御弁を閉弁する方向に出入口間に自閉解除圧を超える液圧が作用していると、開弁指令に応じて通電が停止されても開弁状態に復帰することができない。自閉解除圧は、制御弁内蔵の戻しスプリングの開弁力により開弁状態に復帰可能となる出入口間の差圧の最大値として設定されているからである。なお本実施形態においては上流側のレギュレータ33よりも下流側のホイールシリンダ23のほうが高圧となった場合に制御弁を閉弁する方向に差圧が作用する。この方向を以下では適宜、自閉方向と称する場合がある。
【0062】
本実施形態においては、レギュレータカット弁65の自閉解除圧が比較的低く、特にホイールシリンダ圧制御系統により実現されるホイールシリンダ圧の最大値よりも低く設定されているために、液圧の封じ込めが生じやすくなる傾向がある。ホイールシリンダ圧制御系統により実現されるホイールシリンダ圧の最大値(以下では適宜、最大ホイールシリンダ圧という)とは、例えばアキュムレータ圧が蓄圧可能な最大圧とされている状態で増圧リニア制御弁66を全開としたときに実現されるホイールシリンダ圧である。ホイールシリンダ圧は、リニア制御モードによる制御中にこの最大圧に制御される場合もあるし、あるいは例えば増圧リニア制御弁66における開故障や分離弁60の閉故障の場合にこの最大圧に達する場合もある。
【0063】
なおレギュレータカット弁65の自閉解除圧が比較的低く設定されるのは、主として次の2つの理由によるものである。1つの理由は、自閉解除圧を低くすることによりレギュレータカット弁65ひいてはブレーキ制御装置20の小型化を実現するためである。もう1つの理由は、レギュレータ33からの液圧導入性能を十分に確保するためである。レギュレータ33からホイールシリンダ23への液圧導入性能を向上させるためにはレギュレータカット弁65の弁構造の穴径を大きくすればよい。ところがこれにより自閉解除圧は低下してしまう。なおレギュレータ33からの液圧導入性能の確保を考慮するのは、例えば急制動時などの場合にホイールシリンダ圧制御系統を補完してレギュレータ33からの液圧導入も利用することにより制動性能を高めるためである。
【0064】
また、非制御モードにおいてはマスタカット弁64が開弁されなければマスタシリンダ32から前輪用のホイールシリンダ23FR、23FLにブレーキフルードを供給することができない。前輪での制動力の確保が重視される場合には、マスタカット弁64の自閉解除圧は好ましくは最大ホイールシリンダ圧よりも高く設定される。このようにすればマスタカット弁64は出入口間に作用する差圧によって開弁が妨げられることがなく、開弁指令に応じて随時マスタカット弁64は開弁される。
【0065】
詰まるところ本実施形態においてはリニア制御モードの実行中にレギュレータカット弁65の出入口間に自閉方向に作用する差圧が自閉解除圧を超える場合があり、その際に非制御モードへと制御モードを移行させる場合があり得る。また、本実施形態においてはレギュレータカット弁65の自閉解除圧は最大ホイールシリンダ圧よりも小さく設定され、マスタカット弁64の自閉解除圧は最大ホイールシリンダ圧よりも大きく設定される。
【0066】
制御モードの切替、特に異常発生時のバックアップ用ブレーキモードへの移行は、基本的には異常検出時に即時に行われることが望ましい。そのためには、非制御モードに移行する場合であれば、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60への通電は同時に停止され、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65の開弁と分離弁60の閉弁とが同時に行われることが望ましいと考えられる。これと同時に増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67のへの通電も停止されホイールシリンダ圧制御系統による制御は中止され、非制御モードへの移行が完了する。このときにマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65のそれぞれが通電停止とともに直ちに開弁されれば、前輪側の余剰液圧はマスタカット弁64を介してマスタシリンダ32へと逃がされ、後輪側の余剰液圧はレギュレータカット弁65を介してレギュレータ33へと逃がされる。
【0067】
ところが上述のように、ホイールシリンダ圧が高圧とされていた場合には、レギュレータカット弁65への通電が停止されても閉弁状態が維持されて後輪用のホイールシリンダ23RR、23RLに液圧が封じ込められてしまう可能性がある。
【0068】
そこで、本実施形態においては、ブレーキECU70は、バックアップ用ブレーキモードに移行する際に、開閉弁の出入口間に自閉方向に作用する差圧が自閉解除圧よりも小さくなり開弁指令に従って開弁されるようにホイールシリンダ23からのブレーキフルードの排出経路を制御する。この場合ブレーキECU70は、開閉弁、特にマスタカット弁64と分離弁60との開閉動作指令のタイミングを異ならせる。ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65と分離弁60との開閉動作指令のタイミングも異ならせる。ここで常開型の制御弁であるマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65への開弁指令は各制御弁への通電の停止とすればよく、常閉型の制御弁である分離弁60への閉弁指令も当該制御弁への通電停止とすればよい。
【0069】
具体的にはブレーキECU70は、非制御モードへの移行に際して、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64への通電を分離弁60への通電に先行して停止する。マスタカット弁64が開弁されてから分離弁60が閉弁されるまでの間は、マスタカット弁64及び分離弁60がともに開状態とされる。よって分離弁60及びマスタカット弁64を介してホイールシリンダ23からマスタシリンダ32へとブレーキフルードが還流し、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が低減される。レギュレータカット弁65に作用する差圧が自閉解除圧よりも小さくなった後に、ブレーキECU70は分離弁60を閉弁する。レギュレータカット弁65は、差圧が自閉解除圧よりも小さくなったときに自然に開弁される。
【0070】
図2を参照して、本発明の第1の実施形態に係る制御モードの移行処理について更に詳しく説明する。図2は、第1の実施形態に係るバックアップ用ブレーキモードへの移行処理の一例を説明するためのフローチャートである。図2に示される処理は非制御モードに移行する際にブレーキECU70により実行されるものであり、ここではリニア制御モードの実行中に何らかの異常が検出されて非制御モードに移行する場合を例に挙げて説明する。また、ホイールシリンダ圧が高圧とされておりレギュレータカット弁65の出入口間に自閉方向に作用する差圧が自閉解除圧を超えているという状況を前提として説明する。なお、図において便宜上、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60をそれぞれSMC64、SRC65、及びSCC60と表記する。
【0071】
図2に示される処理が開始される際にはリニア制御モードが実行されている。よって、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60はそれぞれ規定の制御電流が供給されるON状態とされており、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65は閉状態とされ、分離弁60は開状態とされている。図2に示される処理は、異常検出などによりリニア制御モードを中止すべきときに開始される。図2に示される処理が開始されると、まずブレーキECU70は、レギュレータカット弁65への通電を停止してオフ状態とする(S10)。その結果、本来はレギュレータカット弁65が開弁されるところであるが、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧を超えているからレギュレータカット弁65は開弁されずに閉状態が維持される。またこのとき、ブレーキECU70は、マスタカット弁64及び分離弁60への通電を継続しON状態を維持する。このためマスタカット弁64は閉状態が継続され、分離弁60は開状態が継続される。
【0072】
続いてブレーキECU70は、マスタカット弁64への通電を停止してオフ状態としてマスタカット弁64を開弁する(S12)。本実施形態においては、マスタカット弁64の自閉解除圧が最大ホイールシリンダ圧よりも大きく設定されているので、マスタカット弁64は通電が停止されれば戻しスプリングの付勢力により直ちに開弁される。ブレーキECU70は、この段階においても引き続き分離弁60への通電を継続し開状態を維持する。そうすると、前輪用の各ホイールシリンダ23FR、23FLはマスタカット弁64を介してマスタシリンダ32に連通され、前輪側の余剰液圧はマスタカット弁64を介してマスタシリンダ32へと逃がされる。後輪側の余剰液圧は分離弁60及びマスタカット弁64を介してマスタシリンダ32へと逃がされる。これにより、レギュレータカット弁65のホイールシリンダ側が減圧されてレギュレータカット弁65の出入口間の差圧が緩和されていく。
【0073】
このようにブレーキECU70はマスタカット弁64よりもレギュレータカット弁65に先に開弁指令を送信することが望ましい。非制御モードへの移行に際しては、そもそもレギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧よりも小さく開弁指令に応じて随意にレギュレータカット弁65が開弁される場合も想定される。この場合、レギュレータカット弁65に先に開弁指令を送信すれば、ホイールシリンダ23の余剰液圧をレギュレータ33に逃がし得る。レギュレータ33はマスタシリンダ32とは異なりブレーキペダル24に直接接続されていないから、レギュレータ33に優先して余剰液圧を逃がすことにより運転者へのペダルショックを低減させることが可能となる。この場合、レギュレータカット弁65とマスタカット弁64との開弁指令の時間差を、レギュレータカット弁65を介してレギュレータ33にホイールシリンダ23の余剰液圧を逃がすための所要時間に設定してもよい。あるいは、ブレーキECU70は制御圧センサ73の測定値に基づいてマスタカット弁64を開弁タイミングを判定してもよい。
【0074】
図2に戻る。ブレーキECU70は、差圧緩和用の設定時間が経過しているか否かを判定する(S14)。このようにすれば、時間の経過を判定するという簡易な制御により移行処理を実行することができるという点で好ましく、また、圧力センサに異常がある場合であっても移行処理を実現できるという点でも好ましい。この差圧緩和用の設定時間としては、差圧を緩和するのに必要とされるであろう時間が予め実験等により適宜設定されブレーキECU70に記憶されている。この差圧緩和用の設定時間は、例えば、ホイールシリンダ圧が最大ホイールシリンダ圧であるときにレギュレータカット弁65の出入口間の差圧を自閉解除圧よりも小さくするための所要時間に設定することができる。このように差圧緩和に最も時間がかかる場合を想定して設定時間を定めることにより確実にレギュレータカット弁65を開弁させて液圧の封じ込めを回避することができるようになるという点で好ましい。
【0075】
ブレーキECU70は、差圧緩和用の設定時間が経過したと判定されるまでは(S14のNo)、次の処理に進まずに待機する。一方、差圧緩和用の設定時間が経過したと判定された場合には(S14のYes)、ブレーキECU70は、分離弁60への通電を停止してオフ状態として分離弁60を閉弁する(S16)。このとき、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧は自閉解除圧よりも小さくなっているはずであるから、レギュレータカット弁65は戻しスプリングの付勢力により自然に開弁される。このようにして、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60のそれぞれが順次オフ状態とされてマスタシリンダ32側とレギュレータ33側との2系統に分離され、非制御モードへの移行が完了する。なお、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に関しても、ブレーキECU70は、分離弁60を閉弁するまでに通電を停止して制御を中止する。
【0076】
上述の実施形態においては差圧緩和用の設定時間が経過したことを条件として分離弁60を閉弁するようにしているが、変形例として、ブレーキECU70は液圧の測定値に基づいて分離弁60を閉弁するようにしてもよい。例えば、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧よりも小さいか否かを判定し、差圧が自閉解除圧よりも小さくなったと判定された場合に分離弁60を閉弁するようにしてもよい。また好ましくは、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧よりも十分に小さい設定液圧に達したと判定された場合に分離弁60を閉弁するようにしてもよい。レギュレータカット弁65の出入口間の差圧は、例えば、レギュレータ圧センサ71の測定値と制御圧センサ73の測定値との差から求めることができる。このように実際に液圧をモニタすれば、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧よりも小さくなった時点で直ちに分離弁60を閉弁して非制御モードへの移行を完了することができる。よって、この変形例は、より迅速に制御モードを移行させることができるという点で好ましい。
【0077】
なお、ブレーキECU70は、上述のようにレギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧よりも小さくなる前にレギュレータカット弁65に開弁指令を送信してもよいし、逆に、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧よりも小さくなってから開弁指令を送信してもよい。レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧よりも小さくなってから開弁指令を送信する場合には、開弁指令に応じて直ちにレギュレータカット弁65は開弁されることになる。また、モード移行を速やかに行うという観点からは分離弁60の閉弁前にレギュレータカット弁65に開弁指令を送信しておくことが好ましいといえるものの、ブレーキECU70は分離弁60の閉弁後にレギュレータカット弁65に開弁指令を送信するようにしてもよい。
【0078】
上述の実施形態においてはブレーキECU70がマスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60の開閉タイミングをそれぞれ異ならせるよう制御しているが、ブレーキECU70の制御によらずとも開閉タイミングを異ならせることも可能である。例えば各制御弁の最低保持電流を開閉タイミングに応じて予め設定しておくことにより、電源系の故障やブレーキECU70の異常時などのように各制御弁への通電が同時に停止された場合であっても、所望の開閉タイミングを実現することができる。ここで、最低保持電流とは、制御弁への制御電流の通電が停止された時の過渡状態において非通電時の開閉状態に切り替わるときの電流値をいう。すなわち、制御弁に供給されている制御電流が通電停止直後の過渡状態において低下して最低保持電流を下回ると、その制御弁は非通電時における開閉状態に戻される。つまり最低保持電流を下回ったときに常開型の制御弁であれば開状態に、常閉型の制御弁であれば閉状態に戻される。
【0079】
本実施形態の開閉タイミングを実現するには、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60のうち分離弁60が最も遅れて非通電時の開閉状態に切り替わるように最低保持電流を予め設定すればよい。好ましくは、レギュレータカット弁65、マスタカット弁64、分離弁60の順に非通電時の開閉状態に切り替わるように最低保持電流を予め設定すればよい。制御弁の最低保持電流は、例えば制御弁に内蔵される戻しスプリングのセット荷重やコイルの巻き数、磁気回路を適宜調整することにより所望の値に設定することが可能である。
【0080】
また、例えば、切替のタイミングをより遅くしたい制御弁の最低保持電流をより小さく設定してもよいし、あるいは、切替のタイミングをより遅くしたい制御弁のオン状態における制御電流と最低保持電流との差をより大きく設定してもよい。また、切替のタイミングをより遅くしたい制御弁の電流オフ時の電流時定数、あるいはコイルのインダクタンスをより大きく設定してもよい。切替のタイミングをより遅くしたい制御弁のコイル抵抗値をより小さく設定してもよい。切替のタイミングをより遅くしたい制御弁のコイル保護用のフライホイールダイオードの内部抵抗値あるいはフライホイール回路の等価抵抗値をより小さく設定してもよい。
【0081】
以上のように、第1の実施形態によれば、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が自閉解除圧よりも小さくして開弁指令に従って開弁されるようにホイールシリンダ23からのブレーキフルードの排出経路を制御する。具体的には、レギュレータカット弁65、マスタカット弁64、分離弁60と順次開閉動作を行うことにより、マスタカット弁64を介してホイールシリンダ23の余剰液圧をマスタシリンダ32へと還流させる。よって、ホイールシリンダ圧の封じ込めを回避しつつ、バックアップ用ブレーキモードへの移行を円滑に完了させることができる。
【0082】
なお第1の実施形態においては、レギュレータカット弁65に閉故障が生じておりそもそもレギュレータカット弁65を開弁することができない場合であっても余剰の液圧をマスタシリンダ32へと還流させることが可能である。よって、レギュレータカット弁65に閉故障が生じていても、レギュレータ33側のホイールシリンダ23RR,23RLにおけるホイールシリンダ圧の封じ込めを防ぐことができる。
【0083】
また、本実施形態においては、ホイールシリンダ23の余剰液圧をマスタシリンダ32に逃がすようにしているから、ホイールシリンダ圧は最小でもマスタシリンダ圧までしか減圧されない。運転者のブレーキ操作によりマスタシリンダ圧が適宜加圧されている限り、ホイールシリンダ圧は車輪に制動力を付与することのできる最小制動液圧を下回って例えば大気圧程度にまで著しく減圧されることがない。よって、G抜けの抑制とホイールシリンダ圧の封じ込めの回避との双方を両立させながら制動中のバックアップ用のブレーキモードへの移行を円滑に完了させることができるという点でも好ましい。
【0084】
次に図3を参照して、本発明の第2の実施形態に係る制御モードの移行処理について更に詳しく説明する。図3は、第2の実施形態に係るバックアップ用ブレーキモードへの移行処理の一例を説明するためのフローチャートである。第2の実施形態は、減圧リニア制御弁67による減圧制御を併用してホイールシリンダ23の余剰液圧を解消する点において第1の実施形態とは異なる。図において便宜上、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、分離弁60、及び減圧リニア制御弁67をそれぞれSMC64、SRC65、SCC60、及びSLR67と表記する。また図においてホイールシリンダ圧をPfr、レギュレータ圧をPregと表記する。以下の第2の実施形態に係る説明においては、上述の第1の実施形態と同一の箇所については説明を適宜省略する。
【0085】
図3に示される処理が開始されると、ブレーキECU70は、まずホイールシリンダ圧Pfrがレギュレータカット弁65の自閉解除圧以上であるか否かを判定する(S20)。ホイールシリンダ圧Pfrは制御圧センサ73の測定値として取得される。ホイールシリンダ圧Pfrがレギュレータカット弁65の自閉解除圧に満たないと判定された場合には(S20のNo)、ブレーキECU70は直ちにマスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60をオフとして非制御モードへの移行を完了する(S28)。ホイールシリンダ圧Pfrがレギュレータカット弁65の自閉解除圧に満たない場合には、レギュレータカット弁65は通電停止により差圧作用力により妨げられずに直ちに開弁されるからである。
【0086】
なおこのホイールシリンダ圧判定処理S20において、ブレーキECU70は、もちろん、ホイールシリンダ圧Pfrとレギュレータ圧Pregとの差圧がレギュレータカット弁65の自閉解除圧を超えているか否かを判定してもよい。レギュレータ圧Pregはレギュレータ圧センサ71の測定値として取得される。上述のようにホイールシリンダ圧Pfrがレギュレータカット弁65の自閉解除圧以上であるか否かを判定しているのは、フェイルセーフ上より安全側で判定するためである。ホイールシリンダ圧Pfrがレギュレータカット弁65の自閉解除圧より小さければ運転者の踏力が零つまりレギュレータ圧が零であってもレギュレータカット弁65を開弁することが可能である。
【0087】
一方、ホイールシリンダ圧Pfrがレギュレータカット弁65の自閉解除圧以上であると判定された場合には(S20のYes)、ブレーキECU70はマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65への通電を停止してオフ状態とするとともに減圧リニア制御弁67による減圧制御を開始する(S22)。本実施形態においても第1の実施形態と同様にレギュレータカット弁65の自閉解除圧は最大ホイールシリンダ圧よりも小さく設定され、マスタカット弁64の自閉解除圧は最大ホイールシリンダ圧よりも大きく設定されている。よって本来はレギュレータカット弁65が開弁されるところであるが、レギュレータカット弁65は開弁されずに閉状態が維持される。マスタカット弁64は開弁される。また、ブレーキECU70は分離弁60をON状態に維持し、分離弁60は開状態が継続される。なお、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65を同時に通電停止するのではなく、第1の実施形態と同様にレギュレータカット弁65をマスタカット弁64に先行して通電停止とするようにしてもよい。あるいは、マスタカット弁64の通電停止は減圧制御の開始時である必要もなく、分離弁60を閉弁するまでのいずれかの適当なタイミングで行うようにしてもよい。
【0088】
分離弁60が開状態とされているため、前輪用及び後輪用の各ホイールシリンダ23は減圧制御の開始とともに減圧リニア制御弁67を介してリザーバ34に連通され、ホイールシリンダ23の余剰液圧はリザーバ34へと逃がされる。これにより、レギュレータカット弁65のホイールシリンダ側が減圧されてレギュレータカット弁65の出入口間の差圧が緩和されていく。
【0089】
減圧リニア制御弁67による減圧制御の開始後に、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が所定の設定圧よりも小さいか否かを判定する(S24)。レギュレータカット弁65の出入口間の差圧は、ホイールシリンダ圧Pfrとレギュレータ圧Pregとの差として演算される。ここでの所定の設定圧は、レギュレータカット弁65の自閉解除圧よりも十分に小さい液圧に適宜設定することが可能であり、例えば圧力センサの測定誤差として見込まれる液圧をマージンとして自閉解除圧から減じて設定してもよい。
【0090】
ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が所定の設定圧よりも小さいと判定されるまでは(S24のNo)、次の処理に進まずに待機する。一方、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧が所定の設定圧よりも小さいと判定された場合には(S24のYes)、ブレーキECU70は減圧リニア制御弁67による減圧制御を終了する(S26)。続いてブレーキECU70は、分離弁60への通電を停止しオフ状態として分離弁60を閉弁する(S28)。このようにして非制御モードへの移行が完了する。
【0091】
ここではホイールシリンダ圧Pfr及びレギュレータ圧Pregが正常に測定されることを前提として制御モード移行処理を説明したが、有効な測定値が得られない場合にも減圧制御は可能である。有効な測定値が得られない場合、例えば圧力センサに異常が検出された場合や異常が検出されないまでもごく一時的にノイズ等の影響により有効な測定値が得られない場合には、一定時間だけ減圧するようにブレーキECU70は減圧リニア制御弁67を制御してもよい。この場合、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65への通電停止とともに減圧リニア制御弁67に予め設定されている通電時間だけ制御電流を供給する。減圧リニア制御弁67への通電時間は、レギュレータカット弁65における差圧を充分に緩和するのに必要とされる程度の値に予め実験等により適宜設定されてブレーキECU70に記憶されている。ブレーキECU70は、減圧リニア制御弁67への通電時間が経過するとともに分離弁60を閉弁して非制御モードへの移行を完了する。
【0092】
なおここでは減圧弁として減圧リニア制御弁67を用いているが、ブレーキ制御装置20内の他の減圧弁例えばABS減圧弁56〜58、特にレギュレータ33側のABS減圧弁58,59を用いることも可能である。
【0093】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態において説明したようなマスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60の開閉タイミングの調整に並行して減圧リニア制御弁67を利用した減圧制御が実行される。減圧リニア制御弁67を利用してホイールシリンダ圧を減圧することにより、レギュレータカット弁65の出入口間に自閉方向に作用する液圧を自閉解除圧よりも容易に小さくすることができる。また、第1の実施形態と同様にレギュレータカット弁65に閉故障が生じておりそもそもレギュレータカット弁65を開弁することができない場合であっても、減圧リニア制御弁67などを介して減圧制御が実行されることによりホイールシリンダ圧の封じ込めを防ぐことができる。
【0094】
また第2の実施形態によれば、マスタカット弁64または分離弁60に閉故障が発生してマスタシリンダ32へとホイールシリンダ圧を抜くことができない場合であっても、減圧リニア制御弁67を介して余剰のホイールシリンダ圧を抜くことができる。このように、いずれかの箇所の異常を想定してホイールシリンダ圧を逃がすための経路を複数構築することはフェイルセーフの観点から見て好ましい。マスタカット弁64を介さずにホイールシリンダ圧を逃がすための経路が確保されていれば、マスタカット弁64の自閉解除圧を最大ホイールシリンダ圧よりも小さく設定することが可能となり、マスタカット弁64の設計自由度を向上させることができるという点でも好ましい。仮に最大ホイールシリンダ圧においてマスタカット弁64が差圧により自閉状態となったとしても、減圧リニア制御弁67等の他の経路から余剰のホイールシリンダ圧を抜くことにより自閉状態を解消することができるからである。
【0095】
一変形例として、マスタカット弁64の自閉解除圧を最大ホイールシリンダ圧よりも小さく設定した場合には、分離弁60の開弁圧をマスタカット弁64の自閉解除圧よりも小さく設定しておくことが好ましい。このようにすれば断線等による分離弁60の閉故障時においてバックアップ用ブレーキモードに移行する際にマスタカット弁64の下流の前輪用ホイールシリンダ23FR、23FLにホイールシリンダ圧の封じ込めが生じるのを防ぐことができる。
【0096】
この場合、ホイールシリンダ圧が最大ホイールシリンダ圧程度に高圧とされたときにマスタカット弁64が開弁指令に拘わらず差圧により自閉状態を維持することがあり得る。分離弁60が閉故障により閉弁されていると、前輪用ホイールシリンダ23FR、23FLにホイールシリンダ圧の封じ込めが生じるおそれがある。
【0097】
ここで上述の実施形態のようにブレーキECU70が減圧リニア制御弁67等の減圧弁を適宜制御して後輪側のホイールシリンダ圧を十分に例えば大気圧程度にまで減圧すると、分離弁60に作用する差圧が開弁圧を超えることになる。分離弁60の後輪側は充分に減圧されており、分離弁60の前輪側にはマスタカット弁64の自閉解除圧よりも高い液圧が封じ込められているからである。その結果、分離弁60は閉故障時であろうとも機械的に自然に開弁される。引き続いて減圧制御を適宜継続することにより前輪側のホイールシリンダ圧を分離弁60及び減圧弁を介して逃がすことができる。分離弁60に作用する差圧が開弁圧を下回って分離弁60が閉弁されるときには、マスタカット弁64に作用する差圧は自閉解除圧を下回っており、マスタカット弁64はブレーキECU70からの開弁指令に応じて開弁されるようになる。このようにして、マスタシリンダ32側でのホイールシリンダ圧の封じ込めを防ぐことができる。
【0098】
更なる変形例として、同様にマスタカット弁64の自閉解除圧を最大ホイールシリンダ圧よりも小さく設定した場合には、減圧弁の開弁圧をマスタカット弁64の自閉解除圧よりも小さく設定しておくことが望ましい。この減圧弁は例えば、ホイールシリンダ23とリザーバ34とを接続する流路に設けられた減圧リニア制御弁67とすることができる。このようにすれば断線等による減圧弁の閉故障時にバックアップ用ブレーキモードに移行する際にホイールシリンダ圧の封じ込めが生じるのを防ぐことができる。
【0099】
この場合、ホイールシリンダ圧がマスタカット弁64の自閉解除圧よりも高圧であれば、減圧リニア制御弁67の開弁圧に比較してもホイールシリンダ圧は同様に高圧である。このホイールシリンダ圧は減圧リニア制御弁67の上流圧であり下流圧はリザーバ34の大気圧であるから、減圧リニア制御弁67は自然に開弁されて余剰のホイールシリンダ圧がリザーバ34へと逃がされる。ホイールシリンダ圧が減圧リニア制御弁67の開弁圧を下回って減圧リニア制御弁が自然に閉弁されるときには、ホイールシリンダ圧は既にマスタカット弁64の自閉解除圧を下回っている。よって、マスタカット弁64はブレーキECU70からの開弁指令に応じて開弁されるようになり、ホイールシリンダ圧の封じ込めが防止される。
【0100】
なお、このように減圧リニア制御弁67の開弁圧をマスタカット弁64の自閉解除圧よりも小さく設定した場合には、動力液圧源30及び増圧リニア制御弁66からのホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給能力を充分に高く設定することが好ましい。そうすれば、減圧リニア制御弁67の開弁圧を比較的低圧に設定したことによってリニア制御モードの通常制御中に生じうる漏れをカバーして所望のホイールシリンダ圧を実現することが可能となる。
【0101】
また、更なる変形例として、VSC制御やTRC制御の実行中でホイールシリンダ圧が高圧に制御されている場合に減圧リニア制御弁67に断線等により閉故障が生じたときには、ブレーキECU70は各ABS保持弁51〜54をすべて一旦閉弁するようにしてもよい。ABS保持弁51〜54を閉弁することによりホイールシリンダ圧は閉故障発生直前の状態に維持されて、更なるブレーキフルードの流入により増圧されることがないという点で好ましい。
【0102】
そして、マスタカット弁64の自閉解除圧よりも最大ホイールシリンダ圧が大きく設定されている場合には、各ABS保持弁51〜54の閉弁中にマスタカット弁64に開弁指令を送信してホイールシリンダ圧を抜くようにしてもよい。逆にマスタカット弁64の自閉解除圧よりも最大ホイールシリンダ圧が小さく設定されている場合には、上述のように減圧リニア制御弁67の機械的な開弁による減圧でホイールシリンダ圧を抜くようにしてもよい。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧がレギュレータカット弁65の自閉解除圧を下回ったときにABS保持弁51〜54を再度開弁するとともに分離弁60を閉弁してバックアップ用ブレーキモードへの移行を完了させる。ホイールシリンダ圧がレギュレータカット弁65の自閉解除圧を下回ったか否かに関しては、ブレーキECU70は第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に、ホイールシリンダ圧の測定値に基づいて又は設定時間の経過を条件として判定することができる。
【0103】
ところで第2の実施形態においては減圧リニア制御弁67の弁の開度を極力大きくするほうが、レギュレータカット弁65に作用する差圧を迅速に解消するという観点からは望ましい。しかし、制動中における急激な減圧はホイールシリンダ圧の急低下とともに車両減速度の低下いわゆるG抜けを引き起こす可能性もある。そこで、G抜けの抑制を重視する場合に特に好適な第2の実施形態の変形例を次に説明する。
【0104】
この変形例では、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が設定液圧を超える場合に減圧リニア制御弁67が開状態となり、ホイールシリンダ圧が設定液圧に満たない場合に減圧リニア制御弁67が閉状態となるように減圧リニア制御弁67を制御する。設定液圧は、開閉弁特にレギュレータカット弁65の自閉解除圧よりも小さくかつ最小制動液圧よりも大きく設定される。好ましくは設定液圧は所望の車両減速度に相当する液圧に設定される。ここで最小制動液圧とは、車輪に制動力が付与される最小のホイールシリンダ圧、例えばブレーキパッド等の摩擦部材が車輪とともに回転する回転部材に接触する最小のホイールシリンダ圧を意味する。
【0105】
このようにすれば、ホイールシリンダ圧が設定液圧に向けて減圧され、開閉弁はブレーキECU70の開弁指令に従って差圧に妨げられずに開弁される。よってホイールシリンダ圧の封じ込めを回避することができる。また設定液圧は最小制動液圧よりも大きく設定されるため、ある程度の制動力を保持しながらバックアップ用ブレーキモードへの移行を進めることができる。特に、所望の車両減速度に相当する液圧に設定液圧が設定されている場合には所望の制動力を発生させながらバックアップ用ブレーキモードへの移行を進めることができる。よって、制動力を著しく低下させることなく制動中のブレーキモードの移行を完了させることが可能となる。この変形例によればホイールシリンダ圧の封じ込めの回避とG抜けの抑制の双方を両立させることができる。
【0106】
非制動時におけるモード移行であれば、封じ込めの回避のために液圧を大気圧まで低下させても特に問題がないと考えられる。ところが、制動中においては制御モードの移行動作中にも運転者の要求に応じて制動力を継続して発生させることが望ましい。よって、この変形例によればホイールシリンダ圧の封じ込めの回避とG抜けの抑制の双方を両立させることができるという点で、特に制動中にバックアップ用ブレーキモードに移行する場合に好適である。
【0107】
この変形例においては、ブレーキECU70は制御圧センサ73により測定される実際のホイールシリンダ圧に基づいて減圧リニア制御弁67への制御電流を制御して開閉してもよい。しかし、より制御を簡易にするという点では以下に説明するように、ブレーキECU70は減圧リニア制御弁67を制御すべき間、上述の設定液圧を開弁圧とするよう減圧リニア制御弁67に一定の制御電流を供給するようにしてもよい。この場合ホイールシリンダ圧が設定液圧を超えれば自然に機械的に減圧リニア制御弁67は開状態となる一方、ホイールシリンダ圧が設定液圧を下回れば自然に減圧リニア制御弁67は閉状態となる。通常はホイールシリンダ圧が十分に低く例えば大気圧であっても所望の開度が実現されるようにブレーキECU70は制御電流を制御する。これとは異なってこの変形例ではホイールシリンダ圧に応じて減圧リニア制御弁67が機械的に開閉されるようブレーキECU70は低減された制御電流を供給する。
【0108】
図4は、第2の実施形態の変形例において減圧リニア制御弁67の制御電流と開弁圧との関係の一例を示す図である。図4において縦軸は減圧リニア制御弁67に供給される制御電流を示し、横軸は制御電流に応じた減圧リニア制御弁67の開弁圧を示す。図4に示されるように減圧リニア制御弁67の制御電流と開弁圧との関係は、制御電流が小さいほど開弁圧が高くなるような概ね直線的な関係となる。所定の制御電流が減圧リニア制御弁67に供給されているときに減圧リニア制御弁67に作用する差圧が図4に示される開弁圧を超えると減圧リニア制御弁67は機械的に開弁される。逆に減圧リニア制御弁67に作用する差圧が図4に示される開弁圧を下回ると減圧リニア制御弁67は機械的に閉弁される。減圧リニア制御弁67に作用する差圧は、上流側がホイールシリンダ圧であり下流側がリザーバ34の大気圧であるから実質的にホイールシリンダ圧に等しい。なお図4に示される特性は、予め測定されてブレーキECU70に記憶されていてもよいし、制動中などに測定して学習されるようにしてもよい。
【0109】
本変形例においては、図4に示されるように、設定液圧Pとして所望の車両減速度に相当するホイールシリンダ圧が設定されるものとする。そうすると、図4に示される関係から、この設定液圧Pに対応する制御電流Iが求められる。ブレーキECU70は、上述の第2の実施形態において減圧リニア制御弁67を制御すべき間、この制御電流Iを減圧リニア制御弁67に供給する。なお減圧リニア制御弁67を制御すべき間とは、図3を参照すればS22〜S26である。このようにすれば、バックアップ用ブレーキモードへの移行中も設定液圧Pに対応する車両減速度で車両は制動されることとなり、G抜けを抑制することができる。
【0110】
ここで設定液圧Pは固定された一定値としてもよいし適宜変動させてもよい。変動させる場合には、ブレーキECU70は例えば設定液圧Pをレギュレータ圧に等しく連動させることが好ましい。このようにすれば、ホイールシリンダ圧がレギュレータ圧に等しくなるように減圧リニア制御弁67が機械的に開閉される。ホイールシリンダ圧とレギュレータ圧とが等しい場合には、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64が開弁されたときのホイールシリンダ23からマスタシリンダユニット27へのブレーキフルードの逆流を小さくすることができる。これにより、ペダルショックの発生が抑制され、比較的自然なフィーリングを保ちつつ、バックアップ用のブレーキモードに移行することができる。
【0111】
図5を参照して、減圧リニア制御弁67の開弁圧をレギュレータ圧に等しく連動させる場合を説明する。図5は、第2の実施形態の変形例において減圧リニア制御弁67の制御電流と開弁圧との関係の一例を示す図である。この場合、減圧リニア制御弁67への制御電流Iは、例えば次式により演算することができる。
I=−K(Preg+α)+Ioffset
ここで、−Kは減圧リニア制御弁67と開弁圧との特性の傾きを示す。Kは正の定数である。図5に示されるように特性の傾きは負であり、負号により傾きが負であることを示している。また、レギュレータ圧Pregはレギュレータ圧センサ71の測定値としてブレーキECU70に与えられる。αは、レギュレータ圧センサ71の測定誤差及び図5に示される特性の誤差の影響によりホイールシリンダ圧を減圧し過ぎることのないようにするために設定されるマージンである。レギュレータ圧PregではなくPreg+αを開弁圧とする制御電流Iに設定することにより、レギュレータ圧センサ71による測定値そのものに対応した制御電流の値よりも低減された値が設定され、過度の減圧を抑制することができる。またIoffsetは図5に示される特性の縦軸つまり制御電流を示す軸における切片である。
【0112】
なお、レギュレータ圧センサ71に異常が検出された場合や異常が検出されないまでもごく一時的にノイズ等の影響により有効な測定値が得られない場合には、ブレーキECU70は一定の制御電流を減圧リニア制御弁67に適宜供給するようにしてもよい。あるいは、G抜けの抑制を重視する観点からは、ブレーキECU70は減圧リニア制御弁67への制御電流を零として減圧リニア制御弁67による減圧を行わないようにしてもよい。ブレーキ制御装置20において2か所以上で同時に異常が生じる可能性は確率的にはきわめて低い。よって、レギュレータ圧センサ71に異常がある場合にはレギュレータ圧センサ71以外の他の箇所例えば分離弁60やマスタカット弁64などで異常が生じている可能性はきわめて低い。従って、この場合には減圧リニア制御弁67による減圧制御を併用しなくても第1の実施形態のような制御弁の開閉タイミングの調整によりホイールシリンダ圧の封じ込めを防ぐことが可能であるものと考えられる。
【0113】
次に第3の実施形態を説明する。第3の実施形態は、漏れ異常の検出によりバックアップ用のブレーキモードに移行する場合に好適な実施形態である。漏れ異常とは、ホイールシリンダ23からの作動流体を流出を引き起こす異常であり、例えばホイールシリンダ23とリザーバ34との間に設けられている減圧リニア制御弁67等の制御弁における開故障や微量の漏れ、あるいはホイールシリンダ23の近傍の配管等からの漏れなどが挙げられる。
【0114】
本実施形態に係るリニア制御モードにおいては4輪すべてのホイールシリンダ圧は共通に制御されている。よって、リニア制御モードの実行中に漏れ異常が発生すると、漏れ異常発生箇所を通じて4輪すべてのホイールシリンダ23からブレーキフルードが流出し、ホイールシリンダ圧が低下してしまう。上述の第1及び第2の実施形態に例示するホイールシリンダ圧封じ込め回避処理においてはレギュレータカット弁65及びマスタカット弁64が開弁されるまで分離弁60が開状態に維持される。ところが分離弁60の閉弁が遅れるほどブレーキフルードが多く流出してホイールシリンダ圧が低下してしまう。
【0115】
そこで、第3の実施形態においては、漏れ異常の検出によりバックアップ用のブレーキモードに移行する場合には、ブレーキECU70はマスタカット弁64への開弁指令の送信とともに分離弁60にも閉弁指令を送信して分離弁60を閉弁する。あるいはブレーキECU70はレギュレータカット弁65への開弁指令の送信とともに分離弁60に閉弁指令を送信して分離弁60を閉弁する。またブレーキECU70はマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65への開弁指令に先行して分離弁60を閉弁してもよい。一方、漏れ異常の検出以外の理由によりバックアップ用のブレーキモードに移行する場合には、ブレーキECU70は第1及び第2の実施形態と同様のホイールシリンダ圧封じ込め回避制御を実行する。
【0116】
図6参照して、本発明の第3の実施形態に係る制御モードの移行処理について更に詳しく説明する。図6は、第3の実施形態に係るバックアップ用ブレーキモードへの移行処理の一例を説明するためのフローチャートである。図6に示される処理は、異常検出などによりリニア制御モードを中止すべきときに開始される。以下の第3の実施形態に係る説明においては、上述の第1の実施形態と同一の箇所については説明を適宜省略する。
【0117】
図6に示される処理が開始されると、ブレーキECU70は、まずリニア制御モードを中止する理由が漏れ異常の検出によるものか否かを判定する(S30)。ブレーキECU70は例えば、ホイールシリンダ圧が目標液圧よりも所定の偏差を超えて下回る状態が所定時間継続した場合に漏れ異常の発生の可能性があるものと判定する。ブレーキECU70はこの判定を制御圧センサ73の測定値に基づいて実行することができる。なおホイールシリンダ圧が目標液圧を大きく下回る場合としては、漏れ異常以外にも例えば増圧リニア制御弁66や分離弁60の閉故障なども考えられる。
【0118】
漏れ異常が検出されていないと判定された場合には(S30のNo)、ブレーキECU70は上述の第1の実施形態または第2の実施形態に例示されるようなホイールシリンダ圧封じ込め回避処理を実行する(S32)。すなわち、ブレーキECU70はマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65に開弁指令を送信し、レギュレータカット弁65に作用する差圧が自閉解除圧よりも小さくなってから分離弁60を閉弁する。分離弁60を閉弁するまでの間、ブレーキECU70は必要に応じて減圧リニア制御弁67によりホイールシリンダ圧の減圧制御を実行してもよい。このようにしてブレーキECU70はバックアップ用ブレーキモードへの移行を完了させる。
【0119】
一方、漏れ異常が検出されたと判定された場合には(S30のYes)、ブレーキECU70は、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60のそれぞれへの制御電流の供給を停止する(S34)。これにより、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65に関しては、両制御弁に作用する差圧が自閉解除圧よりも小さければ両制御弁は開弁される。また、分離弁60は閉弁される。このとき、漏れ異常が検出されたと判定されるのに加えて、異常検出後も運転者がブレーキペダル24の踏込を継続している場合に各制御弁への制御電流の供給を停止するようにしてもよい。なお、ブレーキECU70は、マスタカット弁64等への通電停止とともに、あるいはマスタカット弁64等への通電停止に先行して、リニア制御モードを中止するために増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67への通電を停止して制御を中止する。
【0120】
このように第3の実施形態においては、漏れ異常が検出された場合には速やかに分離弁60が閉弁される。よって、漏れ異常が発生した系統を分離して、漏れ異常が発生していない正常な系統により制動力を継続して確保することが可能となり、フェイルセーフ上好ましい。
【0121】
引き続いて第3の実施形態の変形例を説明する。上述の第3の実施形態においては、前輪側すなわちマスタシリンダ32側で漏れ異常が発生していた場合には、分離弁60を速やかに閉弁することにより後輪側すなわちレギュレータ33側に液圧の封じ込めが生じる可能性が考えられる。そこで、この変形例においては、漏れ異常が検出された場合において分離弁60の閉弁後に減圧リニア制御弁67による減圧制御を利用してホイールシリンダ23の余剰液圧を解消する。
【0122】
図7は、第3の実施形態の変形例に係るバックアップ用ブレーキモードへの移行処理の一例を説明するためのフローチャートである。図7に示される処理が開始されると、ブレーキECU70は、まずリニア制御モードを中止する理由が漏れ異常の検出によるものか否かを判定する(S30)。漏れ異常が検出されていないと判定された場合には(S30のNo)、ブレーキECU70は上述の第1の実施形態または第2の実施形態に例示されるようなホイールシリンダ圧封じ込め回避処理を実行する(S32)。
【0123】
漏れ異常が検出されたと判定された場合には(S30のYes)、ブレーキECU70は、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、及び分離弁60のそれぞれへの制御電流の供給を停止するとともに減圧リニア制御弁67による減圧制御を開始する(S36)。このとき、漏れ異常が前輪側で発生していた場合には前輪側のホイールシリンダ圧はブレーキフルードの漏れとともに減圧されるため、マスタカット弁64は通電オフにより開弁に至る。レギュレータカット弁65に関しては、漏れ異常の検出時にホイールシリンダ圧が高圧に制御されてレギュレータカット弁65に自閉解除圧よりも大きな差圧が作用していた場合には、通電をオフとしても閉弁状態が維持される。
【0124】
減圧制御が開始されることにより、後輪用の各ホイールシリンダ23RR、23RLは減圧リニア制御弁67を介してリザーバ34に連通され、ホイールシリンダ23の余剰液圧はリザーバ34へと逃がされる。これにより、レギュレータカット弁65のホイールシリンダ側が減圧されてレギュレータカット弁65の出入口間の差圧が緩和されていく。
【0125】
次いでブレーキECU70は、差圧緩和用の設定時間が経過しているか否かを判定する(S38)。本実施形態においては分離弁60の閉弁後はホイールシリンダ圧を測定する制御圧センサ73はレギュレータ33側の系統から分離されてしまうので、予め設定された設定時間だけ減圧制御を実行する。この設定時間は第1の実施形態と同様に設定することができる。この減圧制御を実行すべき間、ブレーキECU70は、図4または図5を参照して説明したように後輪に適切な制動力が付与すべく減圧リニア制御弁67への制御電流を制御してもよい。
【0126】
ブレーキECU70は、差圧緩和用の設定時間が経過したと判定されるまでは(S38のNo)、次の処理に進まずに待機する。一方、差圧緩和用の設定時間が経過したと判定された場合には(S38のYes)、ブレーキECU70は、減圧リニア制御弁67による減圧制御を終了する(S40)。このとき、レギュレータカット弁65の出入口間の差圧は自閉解除圧よりも小さくなっているはずであるから、レギュレータカット弁65は自然に開弁され、非制御モードへの移行が完了する。このようにして、漏れ異常が発生していない正常な系統への漏れ異常の影響を抑えつつ、正常な系統におけるホイールシリンダ圧の封じ込めを回避することができる。
【0127】
なお、この変形例においてブレーキECU70は、前輪側で漏れ異常が発生していることが特定された場合に上述の分離弁60の閉弁後の減圧制御を実行するようにしてもよい。前輪側での漏れ異常は、例えば、前輪側のABS保持弁51、52を閉弁したときに制御圧センサ73の測定値が減少しないことにより特定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】第1の実施形態に係るバックアップ用ブレーキモードへの移行処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るバックアップ用ブレーキモードへの移行処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図4】第2の実施形態の変形例において減圧リニア制御弁の制御電流と開弁圧との関係の一例を示す図である。
【図5】第2の実施形態の変形例において減圧リニア制御弁の制御電流と開弁圧との関係の一例を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るバックアップ用ブレーキモードへの移行処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図7】第3の実施形態の変形例に係るバックアップ用ブレーキモードへの移行処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0129】
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 27 マスタシリンダユニット、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバ、 60 分離弁、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 73 制御圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体の供給を受けて複数の車輪のそれぞれに制動力を付与する複数のホイールシリンダと、
運転者のブレーキ操作から独立して前記複数のホイールシリンダの作動流体圧を制御し得るホイールシリンダ圧制御系統と、
収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧するマニュアル液圧源と、
前記マニュアル液圧源から前記ホイールシリンダに作動流体が供給されるバックアップ用のブレーキモードにおいて閉状態とされ、前記複数のホイールシリンダの少なくとも1つに作動流体を供給する経路と前記複数のホイールシリンダの残りに作動流体を供給する経路とに分離する分離弁と、
前記マニュアル液圧源と前記ホイールシリンダとの間に設けられ、閉弁中に出入口間の差圧が所定圧を超えている場合に当該差圧の作用により開弁指令に抗して閉弁状態が維持される開閉弁と、
前記ホイールシリンダ圧制御系統による制御を中止して前記バックアップ用のブレーキモードに移行する際に、前記開閉弁が開弁指令に従って開弁されるよう前記差圧を緩和すべく当該開弁指令よりも後に前記分離弁を閉弁する制御部と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記マニュアル液圧源は、収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧する第1の液圧源と、前記第1の液圧源の作動流体圧に合わせて作動流体を調圧する第2の液圧源とを含み、
前記開閉弁は、前記第1の液圧源と前記複数のホイールシリンダの少なくとも1つとを接続する第1の供給経路上に設けられた第1の開閉弁と、前記第2の液圧源と前記複数のホイールシリンダの残りとを接続する第2の供給経路上に設けられた第2の開閉弁と、を含み、
前記第1の開閉弁は、出入口間の差圧が第1の所定圧を超えている場合に開弁指令に抗して閉弁状態が維持され、前記第2の開閉弁は、出入口間の差圧が第2の所定圧を超えている場合に開弁指令に抗して閉弁状態が維持され、
前記第2の所定圧は、前記ホイールシリンダ圧制御系統により実現されるホイールシリンダ圧の最大値よりも小さく設定され、前記第1の所定圧は、当該最大値よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、制動力が生じる最小の液圧よりもホイールシリンダ圧を高い状態に保ちつつ前記差圧を緩和するように前記ホイールシリンダからの作動流体の排出経路を制御することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記分離弁は、前記第1の供給経路と前記第2の供給経路とを接続する流路に設けられ、前記バックアップ用のブレーキモードでは前記第1の供給経路と前記第2の供給経路とを分離するものであって、
前記制御部は、前記第1の開閉弁及び前記第2の開閉弁に開弁指令を送信し、前記第2の開閉弁の出入口間の差圧が前記第2の所定圧よりも小さくなった後に前記分離弁を閉弁することを特徴とする請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の開閉弁への開弁指令に先行して前記第2の開閉弁への開弁指令を送信することを特徴とする請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記第1の開閉弁、前記第2の開閉弁、及び前記分離弁はそれぞれ制御電流の通電の有無に対応して開閉される電磁制御弁であり、
前記制御部は、前記第1の開閉弁、前記第2の開閉弁、及び前記分離弁のそれぞれへの制御電流の通電を停止して前記バックアップ用のブレーキモードに移行するものであって、
前記制御電流の通電が停止された時に、非通電時における開閉状態に前記分離弁が最も遅れて移行するように前記第1の開閉弁、前記第2の開閉弁、及び前記分離弁のそれぞれの電流特性が設定されていることを特徴とする請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記ホイールシリンダから作動流体を流出させる漏れ異常の検出により前記バックアップ用のブレーキモードに移行する場合には、前記第1及び第2の開閉弁への開弁指令の送信とともに又は開弁指令の送信に先行して前記分離弁を閉弁することを特徴とする請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項8】
作動流体を貯留するリザーバと前記ホイールシリンダとを接続する流路に設けられた減圧弁をさらに備え、
前記制御部は、前記第2の開閉弁の出入口間の差圧が前記第2の所定圧よりも小さくなるよう前記減圧弁を制御してホイールシリンダ圧を減圧し、当該減圧後に前記分離弁を閉弁することを特徴とする請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第2の所定圧よりも小さく設定されかつ制動力が生じる最小の液圧よりも大きく設定される設定液圧をホイールシリンダ圧が超える場合に前記減圧弁が開状態とされ、当該設定液圧を下回る場合に前記減圧弁が閉状態とされるように前記減圧弁を制御することを特徴とする請求項8に記載のブレーキ制御装置。
【請求項10】
作動流体の供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、
運転者のブレーキ操作から独立して前記ホイールシリンダの作動流体圧を制御し得るホイールシリンダ圧制御系統と、
収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧する第1の液圧源と、前記第1の液圧源の作動流体圧に合わせて作動流体を調圧する第2の液圧源とを含むマニュアル液圧源と、
前記第1の液圧源と前記ホイールシリンダとを接続する第1の供給経路上に設けられた第1の開閉弁と、
前記第2の液圧源と前記ホイールシリンダとを接続する第2の供給経路上に設けられた第2の開閉弁と、を備えるブレーキ制御装置であって、
前記第1の開閉弁は、ホイールシリンダ圧が前記マニュアル液圧源よりも高圧に制御されている場合において閉弁中に出入口間の差圧が第1の所定圧を超えている場合に当該差圧の作用により開弁指令に抗して閉弁状態が維持され、
前記第2の開閉弁は、ホイールシリンダ圧が前記マニュアル液圧源よりも高圧に制御されている場合において閉弁中に出入口間の差圧が第2の所定圧を超えている場合に当該差圧の作用により開弁指令に抗して閉弁状態が維持され、
前記第2の所定圧は、前記ホイールシリンダ圧制御系統により実現されるホイールシリンダ圧の最大値よりも小さく設定され、前記第1の所定圧は、当該最大値よりも大きく設定されていることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項11】
制動中における異常検出時に作動流体の供給経路の分離を伴うバックアップ用のブレーキモードに移行する際に、制動力が生じる最小の液圧よりもホイールシリンダ圧を高い状態に保ちつつ、当該バックアップ用ブレーキモードで使用される液圧源とホイールシリンダとの間に設けられかつバックアップ用ブレーキモードで開弁されるべき開閉弁が開弁指令に応じて開弁されるように当該開閉弁の出入口間に作用する差圧を当該作動流体供給経路の分離前に緩和することを特徴とするブレーキ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−87723(P2008−87723A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273585(P2006−273585)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】