説明

ブレーキ制御装置

【課題】左右のブレーキ装置のブレーキドラムとブレーキシューとのクリアランスが異なる場合にもブレーキ作動時に車両を安定させるブレーキ制御装置を構成する。
【解決手段】直進状態で運転者によるブレーキ操作により停車した際のヨーレートからクリアランス左右差取得手段34が左右のブレーキ装置のクリアランスの左右差に相当するクリアランス値CLEを取得し、記憶手段35が記憶する。次に、閾値設定手段36がクリアランス値CLEからブレーキ装置の自動操作を開始する閾値を設定する。車両を旋回させる場合には旋回安定化制御部31が、旋回外側のブレーキ装置に設定された閾値まで横加速度センサ22の検出信号Gyが達したタイミングでブレーキ装置の自動作動を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置に関し、詳しくは、ドラム型のブレーキ装置を備えた車両においてブレーキドラムとブレーキシューとのクリアランスに起因する制動性能の変化を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように制動性能の変化を改善する技術として特許文献1には、停車状態で、運転者によるブレーキ操作が無いときにブレーキ圧力を作用させることでブレーキドラム(文献では被摩擦部材)にブレーキシュー(文献では摩擦部材)を押し当てる制御を行い、このように押し当てる制御時において圧力を徐々に増加させ、車両の減速度が所定の閾値に達した時の圧力指示信号を記憶する制御形態が記載されている。この特許文献1では、この後において運転者のブレーキ操作が無いときに記憶した圧力指示信号に基づいてブレーキドラムとブレーキシューとの隙間を詰めるプレチャージを実行し、運転者によるブレーキ操作において制動力の効き遅れを防止する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009‐184379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるように、停車時にブレーキ圧を作用させてブレーキドラムとブレーキシューとを接触させる制御が行われるものでは、作動音が発生するため運転者に不快感や違和感を与えるだけではなく、ブレーキ圧を発生させる圧力源や制御弁の作動頻度が高まるため、これらの耐久性の低下を招く点において改善の余地がある。
【0005】
例えば、左右車輪にドラムブレーキを備えた車両において、左右車輪のブレーキドラムとブレーキシューとのクリアランス差が異なるものでは、車両を停車させるためにブレーキ操作を行った場合には、左右車輪に制動力が作用するタイミングや制動力の大きさに差を生ずるため車両にヨーモーメントが作用することになる。
【0006】
また、左右のブレーキドラムとブレーキシューとのクリアランス差が異なるものにおいてブレーキ操作を行った場合には、車両に作用するヨーモーメントにより車両の安定性を損なうこともあり改善の余地がある。
【0007】
このような不都合への対処として、特許文献1に記載されるプレチャージを行う制御は有効と考えられるものの、圧力指示信号を取得するためにブレーキを作動させる制御を必要とするため前述したように運転者に不快感や違和感を与え、また、耐久性の低下を招く点において採用し難いものとなる。
【0008】
本発明の目的は、左右車輪のブレーキ装置のブレーキドラムとブレーキシューとのクリアランスが異なるものであってもブレーキ作動時に車両の安定性を維持し得るブレーキ制御装置を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、車両の直進走行を検出する直進走行検出手段と、車両の直進走行検出時の運転者によるブレーキ操作に基づいて左右車輪のブレーキ装置が有するブレーキドラムとブレーキシューとの間に形成されるクリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値を取得するクリアランス左右差取得手段と、取得した前記クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値を記憶する記憶手段と、前記記憶されたクリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づき左右車輪のブレーキ装置のブレーキ作動の開始態様を変更する変更手段とを具備する点にある。
【0010】
この構成によると、直進走行検出手段での直進走行検出時に運転者がブレーキ操作を行った場合には、クリアランス左右差取得手段が、左右車輪のブレーキ装置のブレーキドラムとブレーキシューとのクリアランス、又は、クリアランス左右差に相当する値を取得し、この値を記憶手段が記憶する。このようにクリアランス、又は、クリアランス左右差に相当する値が記憶された状態でブレーキ操作が行われた場合には、変更手段が、記憶されている値に基づき左右車輪のブレーキ装置のブレーキ操作の開始態様を変更する。
つまり、直進走行状態でのブレーキ操作時に、左右車輪のブレーキ装置のブレーキドラムとブレーキシューとのクリアランス、又は、クリアランス左右差に相当する値を取得して記憶するので特許文献1のようにブレーキ装置を予め作動させる必要がない。また、ブレーキ操作の開始態様を変更することにより、例えば、左右車輪のブレーキ装置の制動タイミングを一致させることや、左右車輪のブレーキ装置の一方のみを作動させる場合でも必要とするタイミングで制動力を得ることも可能となる。また、制動タイミングを早めることで、クリアランスの影響を低減することも可能となる。
【0011】
本発明は、車両のヨーレートを取得するヨーレート取得手段を備え、前記クリアランス左右差取得手段は、前記直進走行検出時の運転者によるブレーキ操作時におけるヨーレート取得手段の取得結果に基づいて前記クリアランスの左右差に相当する値を取得しても良い。
【0012】
左右車輪のブレーキ装置にクリアランス差がある場合には、直進走行状態でブレーキ操作によって車両を停車させる場合には車両にヨーモーメントが作用するものである。このような理由から、クリアランス左右差取得手段は、直進状態でのブレーキ操作時にヨーレート取得手段で車両のヨーレートを取得し、この取得結果から左右車輪のブレーキ装置におけるクリアランスの左右差に相当する値を取得できる。このヨーレートは、ヨーレートセンサから取得しても良いし、横加速度センサ、車輪速度センサ、あるいは、操舵角センサの出力値に基づいた推定ヨーレートを取得しても良く、その取得方法は特に限定されない。
【0013】
本発明は、前記左右車輪のブレーキ装置が有するブレーキシューを作動させるホイルシリンダの内圧を取得するホイルシリンダ圧取得手段を備え、前記クリアランス左右差取得手段は、前記直進走行検出時の運転者によるブレーキ操作時における前記ホイルシリンダ圧取得手段の取得結果に基づいて前記クリアランスに相当する値を取得しても良い。
【0014】
左右車輪のブレーキ装置にクリアランス差がある場合には、直進走行状態でブレーキ操作によって車両を停車させる場合にはブレーキ操作開始時に左右のホイルシリンダの内圧に差を生ずるものである。このような理由から、クリアランス左右差取得手段は、直進状態でのブレーキ操作時にホイルシリンダ圧取得手段の取得結果から左右車輪のブレーキ装置におけるクリアランスに相当する値を取得できる。
【0015】
本発明は、前記変更手段は、前記ブレーキ装置のブレーキ操作時の作動開始条件を各別に変更可能に構成され、前記記憶手段に記憶されている前記クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づいて、ブレーキ作動の作動開始条件を変更しても良い。
【0016】
これによると、左右車輪のブレーキ装置の作動開始条件を各別に設定しておき、クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づいてブレーキ作動の作動開始条件を変更できる。また、作動開始条件として左右車輪のブレーキ装置の作動開始タイミングを各別に決める閾値を想定すると、左右車輪のブレーキ装置のうちブレーキ作動を開始する情報が閾値に達したタイミングでブレーキ作動を開始できるものとなる。
【0017】
本発明は、自動的なブレーキ作動により車両姿勢の安定化を図る姿勢制御手段を備え、前記変更手段は、前記クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づいて、前記姿勢制御手段におけるブレーキ作動の作動開始条件を変更しても良い。
【0018】
これによると、例えば、横加速度センサで検出される横加速度を想定し、作動開始条件として閾値を想定し、旋回時に旋回外側のブレーキ装置の制動を行うように姿勢制御手段の制動形態を想定できる。このような制御形態では、作動開始条件としてクリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づいて、左右のブレーキ装置のうちクリアランスが大きいと判断できるものについて他方のブレーキ装置より低い閾値を設定する。これにより、クリアランスが大きい側のブレーキ装置が旋回外側である場合でも、旋回時には、検出された横加速度の値が適正値(制動の開始を必要とする初期値)に達する以前に制御に関するブレーキ作動を開始することが可能となり、制動遅れを抑制できる。
【0019】
本発明は、運転者のブレーキ操作に加えて自動的なブレーキ作動により当該ブレーキ操作を補助するブレーキ補助手段を備え、前記変更手段は、前記クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づいて、前記ブレーキ補助手段におけるブレーキ作動の補助量を変更しても良い。
【0020】
これによると、自動的にブレーキ作動を行う際には、自動ブレーキ補助手段がブレーキ作動の補助量を変更することになり、制動遅れを抑制することが可能となる。
【0021】
本発明は、前記変更手段が、前記左右車輪のブレーキ装置のうち少なくとも一方に対するブレーキ作動の開始態様を変更しても良い。
【0022】
これによると、変更手段が、記憶されている値に基づき左右車輪の一方、あるいは、左右車輪双方のブレーキ装置のブレーキ操作の開始態様を変更する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】車両に備えられる制御系を示す概略図である。
【図2】制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】ブレーキ制御ユニットを含む制御系の概略を示す図である。
【図4】制御の概要を示すフローチャートである。
【図5】制御系において処理の概要を示すブロック図である。
【図6】別実施形態(a)のクリアランス左右差取得手段を示すブロック図である。
【図7】別実施形態(b)のクリアランス左右差取得手段を示すブロック図である。
【図8】別実施形態(d)のクリアランス左右差取得手段を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
【0025】
図1にはトラック等の車両10に備えられる制御システムを示している。この車両10には、左右の前車輪11L、11R及び左右の後車輪12L、12Rが備えられ、車両前部にはエンジンEと、このエンジンEからの動力を変速して後車輪12に伝える変速装置TMとが備えられている。運転座席(図示せず)の前部位置にはステアリングホイール13が備えられ、運転座席の足元部位にはエンジンEの回転速度を制御するアクセルペダル14と、前車輪11(左右の前車輪11L、11Rの総称)及び後車輪12(左右の後車輪12L、12Rの総称)のブレーキ装置BKを人為的に操作するブレーキペダル15とが備えられ、運転座席の近傍には変速装置TMの変速を行うシフトレバー16が備えられている。
【0026】
ステアリングホイール13は、パワーステアリングユニット17を介して回転操作力を前車輪11に伝えて駆動操向(操舵)を行い、このステアリングホイール13の操作系には操舵量を検出するステアリングセンサ13Sが備えられている。車両10にはアクセルペダル14の人為的な操作量を検出するようにポテンショメータで成るアクセルペダルセンサ14Sと、ブレーキペダル15の人為的な操作を検出するようにポテンショメータで成るブレーキペダルセンサ15Sと、人為操作によるシフトレバー16のシフト位置を検出するシフト位置センサ16Sとが備えられている。
【0027】
左右の前車輪11と左右の後車輪12の回転速度を計測するための回転センサ24がブレーキ装置BKの近傍位置に配置されている。また、車両10の中央近傍には、車両10に作用するヨーモーメント値(ヨーレート)を取得するヨーレート取得手段としてのヨーレートセンサ21と、車両10の横滑り方向への加速度を検出する横加速度センサ22とが備えられると共に、制御ユニット25を備えている。
【0028】
制御ユニット25は、本発明のブレーキ制御装置を構成するものであり、この制御ユニット25は、例えば、左右車輪のブレーキ装置BKのうち少なくとも一方に対するブレーキ作動の開始態様を変更する処理を行う。この処理については後述する。
【0029】
ブレーキ装置BKは、図3に示すように、ブレーキドラムBKDの内部に対して、このブレーキドラムBKDの内周面に沿う円弧状となる一対のブレーキシューBKSを備え、この一対のブレーキシューBKSをブレーキドラムBKDの内面に圧接させるホイルシリンダBKCを備えたドラムブレーキ型に構成されている。このドラム型ブレーキではブレーキペダル15の踏み込み操作時にホイルシリンダBKCに作用するブレーキ液の圧力により一対のブレーキシューBKSをブレーキドラムBKDの内面に接触させることで制動力を得る。
【0030】
前記制御ユニット25は、マイクロプロセッサを有したECUとして機能し、この制御ユニット25には車両10の各部に備えたセンサ類からの信号が入力すると共に、ブレーキコントローラ26と、スロットルコントローラ28とに制御信号が出力する。ブレーキコントローラ26は、4つの回転センサ24の検出信号がフィードバックする信号系を有すると共に、ブレーキ制御ユニット27の電磁弁等を制御する出力制御系を有している。
【0031】
ブレーキコントローラ26と、ブレーキ制御ユニット27とにより本発明のブレーキ補助手段が構成され、このブレーキ補助手段は運転者のブレーキ操作に加えて、4つのブレーキ装置BKを自動的な作動によって補助する。このような制御を実現するために、ブレーキ制御ユニット27は、左右の前車輪11のブレーキ装置BK及び左右の後車輪のブレーキ装置BKに供給されるブレーキ液の給排や供給されるブレーキ液の圧力を制御する。このブレーキ補助手段を従来からABS(Anti-lock Brake System)やTCS(Traction Control System)、等と呼称され、この制御により車両10の安定走行を現出する。
【0032】
〔制御構成〕
図2に示すように、制御ユニット25は、前記ステアリングセンサ13S(直進走行検出手段の一例)、アクセルペダルセンサ14S、ブレーキペダルセンサ15S、シフト位置センサ16S、ヨーレートセンサ21(ヨーレート取得手段の一例)、横加速度センサ22、回転センサ24夫々からの検出信号が入力すると共に、ブレーキコントローラ26、スロットルコントローラ28に制御信号を出力する。また、制御ユニット25は、旋回安定化制御部31(姿勢制御手段の一例)、緊急ブレーキ安定化制御部32(姿勢制御手段の一例)、横滑り防止制御部33、クリアランス左右差取得手段34、記憶手段35、閾値設定手段36(変更手段の一例)、ブレーキ制御出力部37、エンジン制御出力部38夫々を備えている。
【0033】
旋回安定化制御部31は、旋回時に車両10の安定化を図るためにステアリングセンサ13Sからの信号と横加速度センサ22からの信号と、後述するクリアランス値CLEとに基づき旋回外側のブレーキ装置BKのブレーキ作動による旋回安定化制御を実現する。
【0034】
緊急ブレーキ安定化制御部32は、緊急ブレーキ操作が行われた場合にブレーキペダルセンサ15Sからの信号と後述するクリアランス値CLEとに基づき左右のブレーキ装置BKを独立してブレーキ作動させることにより車両10に作用するヨーモーメントを抑制して車両10の姿勢の安定化を図る緊急ブレーキ安定化制御を実現する。
【0035】
横滑り防止制御部33は、車両10の横滑りの発生時に車両10の横滑りを抑制するためにヨーレートセンサ21、横加速度センサ22、ステアリングセンサ13等からの信号に基づきエンジンEの回転数の制御と、ブレーキ装置BKの制御との一方の制御又は双方の制御により横滑り防止制御を実現する。
【0036】
これら旋回安定化制御部31と緊急ブレーキ安定化制御部32と横滑り防止制御部33とはソフトウエアで構成されるものであるが、ハードウエアで構成しても良く、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより構成しても良い。
【0037】
クリアランス左右差取得手段34は、車両10が直進走行状態にあることをステアリングセンサ13Sからの信号で判別した状態で運転者がブレーキ操作を行った際には、ヨーレートセンサ21からの信号を取得する。そして、このヨーレートセンサ21から取得したヨーレートから車両10にヨーモーメントが作用していることを検出した場合(車両10の挙動を検出した場合)には、このヨーモーメントの値を左右のブレーキ装置BKにおけるブレーキドラムBKDの内周面とブレーキシューBKS(厳密にはブレーキシューBKSに備えたライニング)とのクリアランスの左右差に相当する値としてクリアランス値CLEを取得する処理を行う。
【0038】
つまり、車両10が直進走行状態で人為的なブレーキ操作が行われた場合に車両10にヨーモーメントが作用する現象は、左右のブレーキ装置BKの応答に差があることに起因すると云えるものであり、クリアランス左右差取得手段34を相対的応答遅れ検出手段として捉えることも可能である。従って、ブレーキ操作時にクリアランス左右差取得手段34によってヨーレート値を取得し、取得したヨーレート値をクリアランス値CLEとして制御(後述する制御形態)を行うことにより、前述した旋回安定化制御と緊急ブレーキ安定化制御とにおけるブレーキ作動にクリアランス値CLEを反映させブレーキ装置BKの応答遅れを抑制して車両10の安定化を良好に行える。
【0039】
ブレーキ装置BKのブレーキ性能(効き具合)を考えると、ブレーキ操作の初期には左右車輪のブレーキ装置BKのうちブレーキ性能の高い(効き具合の良い)ものがブレーキ操作の初期に強い制動力を作用させるため、この制動力の差によってもヨーモーメントが発生することも考えられる。このような理由から、クリアランス左右差取得手段34によって取得されるヨーレート値をクリアランス値CLEとすることは、必ずしもブレーキドラムBKDの内周面とブレーキシューBKSとのクリアランス差を反映したものではないが、本発明では、ヨーモーメントを生じさせる要因の呼称としてクリアランス値CLEとの表現を用いている。
【0040】
また、本実施形態では、左右車輪のブレーキ装置が有するブレーキドラムBKDとブレーキシューBKSとの間に形成されるクリアランスの左右差に相当する値(クリアランス値CLE)に基づいて安定化制御を実現するものであるが、これに代えて、左右車輪のブレーキ装置BKが有するブレーキドラムとブレーキシューとの間に形成されるクリアランスの値(現実のクリアランスの数値を反映した値)から安定化制御を実現することも可能であり、このクリアランスの値を検出する処理を、後述する別実施形態(a)、(b)、(d)において説明している。
【0041】
記憶手段35は、クリアランス値CLEの情報を制御ユニット25に備えられているEEPROM等の不揮発性メモリに記憶する処理を行う。尚、記憶手段35の構成に不揮発性メモリを含むものであっても良い。閾値設定手段36は、前述した旋回安定化制御と緊急ブレーキ安定化制御において、左右のブレーキ装置BKのうち少なくとも一方に対するブレーキ操作の作動開始条件(開始態様)としての閾値を、左右のブレーキ装置BKについて各別に設定する処理を行う。
【0042】
ブレーキ制御出力部37は、ブレーキ装置BKの介入を必要とする際にブレーキ制御ユニット27に制御信号を出力し、エンジン制御出力部38はエンジン回転数の制御を必要とする際にスロットルコントローラ28に制御信号を出力する。
【0043】
〔ブレーキ制御ユニット〕
図3に示すようにブレーキ制御ユニット27は、ブレーキペダル15の踏み操作力を倍力装置41によりマスターシリンダ42に伝えられ、このマスターシリンダ42の前部液路42Fから供給されるブレーキ液を左右の前車輪11L、11Rのブレーキ装置BKのホイルシリンダBKCに供給し、マスターシリンダ42の後部液路42Rから供給されるブレーキ液を左右の後車輪12L、12Rのブレーキ装置BKのホイルシリンダBKCに供給する構成を有している。
【0044】
このブレーキ制御ユニット27では、前部液路42Fからブレーキ液が送られる主液路43と、後部液路42Rからブレーキ液が送られる主液路43とを備えており、これらの2つの主液路43の下流側に形成される液圧回路は等しく構成されている。
【0045】
主液路43からのブレーキ液は比例差圧弁44に供給され、この比例差圧弁44の下流側で分岐してホイルシリンダBKCに至る2つの分岐液路45の双方に常開型のインレット弁46が介装され、このインレット弁46よりホイルシリンダBKC側で更に分岐する排液路47に常閉型のアウトレット弁48が介装されている。
【0046】
比例差圧弁44は、通電によりブレーキ液の圧力の調節が可能に構成されている。インレット弁46は、非通電時には連通状態、通電時には遮断状態となる電磁操作型の2位置切換弁に構成されている。アウトレット47弁は、非通電時には遮断状態、通電時に連通状態となる電磁操作型の2位置切換弁に構成されている。
【0047】
2つのアウトレット弁48からの排液路47にはブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ49を備え、このリザーバ49からのブレーキ液を主液路43に戻すリターン液路50を備えている。更に、2つのアウトレット弁48からブレーキ液が合流して送られる排液路47からブレーキ液を吸引して主液路43に戻すように電動モータMで駆動されるポンプPと、供給液路51を備えている。
【0048】
各ブレーキ装置BKの近傍に配置された回転センサ24の検出信号がブレーキコントローラ26に入力するフィードバック信号系が形成されると共に、ブレーキコントローラ26から比例差圧弁44、分岐液路45、インレット弁46、電動モータMを制御する出力信号系が形成されている。
【0049】
そして、制御時にはブレーキコントローラ26が、インレット弁46を遮断状態に操作し、アウトレット弁48を連通状態に操作することで分岐液路45のブレーキ液の圧力を排液路47に逃がしてブレーキ装置BKの制動力を低下させることが可能となる。これとは逆に、ブレーキコントローラ26が、ポンプPを作動させた状態で、インレット弁46を連通状態に操作し、アウトレット弁48を遮断状態に操作することでポンプPのブレーキ液を分岐液路45からブレーキ装置BKに供給して制動力の上昇が可能となる。尚、前述したABSでは、運転者によるブレーキ操作時に車輪がロック状態に陥る現象を抑制するために、回転センサ24の信号をブレーキコントローラ26にフィードバックする状態でインレット弁46、アウトレット弁48等を作動させることでブレーキ装置BKに対するブレーキ液の給排を短時間のうちに行う制御が行われる。
【0050】
このような構成を利用することで前述した旋回安定化制御と、緊急ブレーキ安定化制御と、横滑り防止制御との何れかの制御が実行される場合には、ブレーキコントローラ26がブレーキ制御ユニット27を介してブレーキ装置BKを自動操作することになる。
【0051】
〔制御形態〕
前述したように、ブレーキ装置BKがドラムブレーキ型に構成されているため、左右のブレーキ装置BKにおけるブレーキドラムBKDの内周面とブレーキシューBKSとのクリアランスに差を生じていることもある。このようにクリアランス差を生じている状況において、旋回安定化制御あるいは緊急ブレーキ安定化制御が実行される場合には、クリアランスが大きい側のブレーキ装置BKのブレーキ作動を開始した際に制動力が作用するまでのタイムラグが大きくなり適正な制動力が得られない不都合を招くことになる。このような不都合を招かないために、クリアランスが大きい側のブレーキ装置BKを作動させる場合には、ブレーキ操作の開始タイミングを早めるように前述した閾値を設定することで必要とするタイミングで制動力を作用させる制御を実現している。
【0052】
その制御の流れの概要を図4のフローチャートに示しており、この制御時における情報の流れを図5のブロック図に示している。フローチャートに示す制御では、先にクリアランス値CLEを取得し記憶する(#01ステップ)。
【0053】
この制御では、車両10が直進走行状態であることを検出した状態において、運転者によるブレーキ操作によって停車した際に、車両10にヨーモーメントが作用した場合には、クリアランス左右差取得手段34がヨーレートセンサ21の検出信号Yrを取得してクリアランス値CLEとする。
【0054】
つまり、ステアリングセンサ13Sの検出信号SSWから直進状態であることが判別され、ブレーキペダルセンサ15Sの操作信号SBPによりブレーキ操作が行われたことが判別された場合に、回転センサ24の回転信号RSに基づいてブレーキ操作初期の走行速度を求め、ヨーレートセンサ21の検出信号Yr(ヨーレート)を取得する。そして、取得した検出信号Yr(ヨーレート)のピーク値と走行速度との演算からクリアランス値CLEを求め記憶手段35に受け渡す処理が行われる。
【0055】
この処理では、車両10が所定の速度で直進走行する際に人為的なブレーキ操作が行われた際の検出信号Yr(ヨーレート)のピーク値をクリアランス値CLEとしており、このクリアランス値CLEの情報にはヨーモーメントの作用方向を示す情報を含んでいる。また、前述した処理では、走行速度による検出信号Yr(ヨーレート)のバラツキを解消するために検出信号Yrのピーク値と走行速度とに基づく演算からクリアランス値CLEを補正している。尚、このように演算により補正を行う処理に代えて、予め設定されたテーブルデータに基づきピーク値と走行速度とからクリアランス値CLEの補正を行うように処理形態を設定しても良い。
【0056】
図5に示すクリアランス左右差取得手段34のブロック中にはマスターシリンダ42における液圧の変化をグラフPmとして示しており、このグラフPmからヨーレートセンサ21の検出信号Yrはブレーキ操作の初期に発生することが理解できる。尚、同図においてヨーリング方向が異なる場合の検出信号Yrとして上に凸となるグラフと下に凸となるグラフとを示している。
【0057】
記憶手段35では、所定数のクリアランス値CLEを保存する処理を行うと共に、クリアランス値CLEを取得する毎(ブレーキ操作毎)に最も古いクリアランス値CLEを破棄し、最新のクリアランス値CLEを含む設定数のクリアランス値CLEの平均値(相加平均)を算出し、EEPROM等の不揮発性メモリ等に既に記憶されているクリアランス値CLEの平均値を更新して記憶する処理を行う。このように平均値を算出する際に、取得したクリアランス値CLEが異常である場合には、路面の凍結等の原因により車輪がスリップしたことも考えられるので、異常な値はキャンセルすることにより平均値には反映させない処理が行われる。
【0058】
〔検出結果記憶手段での処理の別実施形態〕
この処理では、クリアランス値CLEの平均値を算出する処理が行われるものであるが、この処理に代えて、例えば、ブレーキ操作時に取得したクリアランス値CLEのうち最新の値を、既に記憶されているクリアランス値CLEを更新して記憶するように処理形態を設定しても良い。
【0059】
ドラム型のブレーキ装置BKでは、ブレーキシューBKSに備えたライニングの摩耗によりブレーキドラムBKDの内周面とブレーキシューBKS(ライニング)とのクリアランスが拡大した場合には、クリアランスを自動的に縮小するためのアジャスト機構を備えている。このアジャスト機構は、ラチェット式の作動を行うものであるためクリアランスが所定値まで拡大することが許容される。従って、左右のブレーキ装置BKにクリアランス差を生ずることは普通であり本発明の制御を必要とする。
【0060】
次に、閾値設定手段36が左右のブレーキ装置BKの閾値TCをセットする(#02ステップ)。
【0061】
閾値TCは、左右のブレーキ装置BKの作動開始条件を決める情報の一例であり、左閾値LTCと右閾値RTCの上位概念である。この閾値TCは、旋回安定化制御において横加速度センサ22の検出信号Gy(横加速度)に基づくブレーキ装置BKの作動開始タイミングを決める値となり、緊急ブレーキ安定化制御においてブレーキペダルセンサ15Sの操作信号SBPに基づくブレーキ装置BKの作動開始タイミングを決める値となる。特に、この制御では、左側の前車輪11Lのブレーキ装置BKと、左側の後車輪12Lのブレーキ装置BKとが左側のブレーキ装置BKであり、右側の前車輪11Rのブレーキ装置BKと、右側の後車輪12Rのブレーキ装置BKとが右側のブレーキ装置BKである。従って、車両10の左側の前後のブレーキ装置BKに対して等しい左閾値LTCが設定され、右側の前後のブレーキ装置BKに対して等しい右閾値RTCが設定される。
【0062】
閾値設定手段36は、記憶手段35により記憶されているクリアランス値CLEが左回りのヨーモーメントを示す場合には、図5に示す閾値設定手段36のブロック中に示すようにクリアランス値CLEから右閾値RTCが求められる。つまり、ブレーキ操作時に左回りのヨーモーメントを示す場合には右側のブレーキ装置BKのクリアランスが大きいため、右側のブレーキ装置BKの作動を早めるために右閾値RTCの値を小さくする。クリアランスが小さい場合(CLE1以下)、右閾値は初期値GyTHとする。
【0063】
図面では、右側のブレーキ装置BKに対する右閾値RTCを求める処理だけを記載しているが、このように右閾値RTCが設定される際に、左側のブレーキ装置BKに対する左閾値LTCとして、初期値GyTHが設定される。つまり、クリアランス値CLEは相対的な値であるので一方の閾値を設定する際には、他方の閾値には初期値GyTHを設定する。
【0064】
次に、ステアリングホイール13が操作され車両10の旋回が開始された場合には、旋回安定化制御に移行する(#03、#04ステップ)。
【0065】
旋回安定化制御は、旋回安定化制御部31が、ステアリングセンサ13Sからの検出信号SSWと、横加速度センサ22の検出信号Gy(横加速度)とを取得し、ブレーキコントローラ26に制御信号を出力し、ブレーキ制御ユニット27において左右のブレーキ装置BKのうち旋回外側をブレーキ作動させることで実現する。
【0066】
具体的には、図5の旋回安定化制御部31のブロック中に示すように、右旋回が行われる場合に横加速度センサ22の検出信号Gyが左閾値LTCに達したタイミング(X3)で左側のブレーキ装置BKの旋回性能安定化のためのブレーキ作動が開始される。これとは逆に、左旋回が行われる場合には横加速度センサ22の検出信号Gyが右閾値RTCに達したタイミング(X1)で右側のブレーキ装置BKの旋回性能安定化のためのブレーキ作動が開始される。クリアランスが無い側(CLE1、CLE2以下)のブレーキ装置BKは、検出信号Gyが初期値GyTHに達したタイミング(X2、X4)で旋回安定化制御のためのブレーキ作動が開始される。
【0067】
このように、車両10が左右何れの方向に旋回した場合でも旋回外側の車輪に制動力を作用させて車両10の安定化を実現している。尚、この旋回安定化制御では、旋回時と右旋回時との横加速度が小さく閾値(GyTH、RTC、LTC)に達しない場合には左右何れのブレーキ装置BKも作動しない。
【0068】
次に、ブレーキペダル15が緊急操作され、所謂、急ブレーキが作用する状態においては緊急ブレーキ安定化制御に移行する(#05、#06ステップ)。
【0069】
緊急ブレーキ安定化制御は、緊急ブレーキ安定化制御部32がブレーキペダルセンサ15Sからの操作信号SBPに基づいて緊急ブレーキ状態を取得し、ブレーキコントローラ26に制御信号を出力し、ブレーキ制御ユニット27において左右のブレーキ装置BKをブレーキ作動させることで実現する。緊急ブレーキ状態の取得は、公知技術を適用すれば良く、特に限定されない。
【0070】
具体的には、図5の緊急ブレーキ安定化制御部32のブロック中に示すように、緊急ブレーキ操作をブレーキペダルセンサ15Sの操作信号SBPから算出されるペダル速度から判別し、緊急ブレーキのブレーキ作動が開始される。右側のブレーキ装置BKにクリアランスがある場合は、右閾値RTCの値が左閾値TH(初期値)より小さく設定されているので、ブレーキペダル15のペダル速度が低い状況(X6)で右側のブレーキ装置BKの緊急ブレーキ作動が開始することになり、ブレーキ作動の補助量が大きい値となっている。また、ペダル速度がさらに高くなることにより、X9において左側のブレーキ装置BKの緊急ブレーキ作動が開始される。これによりブレーキペダル15が緊急操作された場合には、クリアランスが大きい側のブレーキ装置BKを早期に作動させることにより、左右のブレーキ装置BKから同時に等しい制動力を作用させて車両10を安定化させた状態で停車させることが可能となる。
【0071】
特に、緊急ブレーキ安定化制御はブレーキ操作の初期において車両10の安定化を図るものであるが、継続的にブレーキペダル15が操作され、車両10に横滑りが発生した場合には、横滑り防止制御部33がヨーレートセンサ21、横加速度センサ22等の検出信号に基づいてブレーキ制御ユニット27と、スロットルコントローラ28との制御信号を出力することにより、車輪のロックを解消することや走行速度を調節することにより横滑りが抑制される。
【0072】
この制御はリセットされるまで継続する(#07ステップ)。このように制御が継続することにより、車両10が停車する毎にクリアランス値CLEが取得され、最新のクリアランス値CLEが反映する閾値TCがセットされる。
【0073】
〔実施形態の効果〕
この制御では、直進走行でのブレーキ操作時におけるヨーレートセンサ21の検出信号Yr(ヨーレート)を左右のブレーキ装置BKのクリアランス値CLEと見なすことにより、前車輪11と後車輪12とを含めたブレーキ装置BKのうち、左右の何れの側のクリアランスが大きいかを判定できるものにしている。このような判定に基づいてブレーキ装置BKによるブレーキ作動の介入タイミングを決める閾値TCを設定しておき、閾値TCに基づいてブレーキ装置BKのブレーキ作動を行うことにより、旋回安定化制御では左右何れの方向に車両10が旋回する場合にも、制動遅れを招くことなく車両10の安定化を実現する。
【0074】
これと同様に、緊急ブレーキにより停車する場合にも、緊急ブレーキ安定化制御では閾値に基づいて左右のブレーキ装置BKの制御開始を各別に行うことにより結果として左右のブレーキ装置BKから同時に等しい制動力を作用させ、車両10の姿勢の安定化を実現する。
【0075】
車両10の直進走行時にブレーキペダル15の人為操作により停車した場合には、この停車が行われる毎に記憶されるクリアランス値CLEが更新されることにより、最も新しいクリアランス値CLEが記憶されることになる。これにより、左閾値LTCと右閾値RTCとが最も好ましい値をとることになり、何れの安定化制御によっても車両10の安定化が良好に行われる。
【0076】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0077】
(a)図6に示すようにクリアランス左右差取得手段34を構成する。つまり、4つのブレーキ装置BKのホイルシリンダBKCの内圧(Pcp)を計測するホイルシリンダセンサ55(ホイルシリンダ圧取得手段の一例)を備え、左側のホイルシリンダセンサ55の検出値LCPと、右側のホイルシリンダセンサ55の検出値RCPとを取得する信号系を形成し、ステアリングセンサ13Sの検出信号SSWと、ブレーキペダルセンサ15Sの操作信号SBPとを取得する信号系を形成する。
【0078】
そして、ステアリングセンサ13Sの検出信号SSWから直進状態であることが判別され、ブレーキペダルセンサ15Sの操作信号SBPによりブレーキ操作が行われたことが判別された場合には、左側のホイルシリンダセンサ55の検出値LCPと、右側のホイルシリンダセンサ55の検出値RCPとのタイミングの差(検出信号の立ち上がりタイミングの差)をクリアランスに相当する値(現実のクリアランスの数値を反映した値)としてクリアランス値CLEとして取得する。この制御においても、実施形態で説明したように走行速度によりクリアランス値CLEの補正が行われる。
【0079】
つまり、ブレーキ装置BKによって制動力が作用する際にはホイルシリンダBKCの内圧(Pcp)が上昇するものであり、左右のブレーキ装置BKのクリアランスに差がある場合には、左右のホイルシリンダBKCの内圧(Pcp)の上昇にタイムラグを生ずる。このタイムラグはクリアランス値CLEに相当するため、これをクリアランス値CLEとして捉えているのである。特に、この別実施形態(a)では、前車輪11のブレーキ装置BKと、後車輪12のブレーキ装置BKとのクリアランス値CLEを独立取得することが可能となり、2種のブレーキ装置BKのクリアランス値CLEに基づいて精度の良い制御が実現する。
【0080】
(b)図7に示すようにクリアランス左右差取得手段34を構成する。つまり、左右の前車輪11L、11Rと、左右の後車輪12L、12Rとの回転を検出する回転センサ24の検出値LSR、RSRを取得する信号系を形成し、ステアリングセンサ13Sの検出信号SSWと、ブレーキペダルセンサ15Sの操作信号SBPとを取得する信号系を形成する。
【0081】
そして、ステアリングセンサ13Sの検出信号SSWから直進状態であることが判別され、ブレーキペダルセンサ15Sの操作信号SBPによりブレーキ操作が行われたことが判別された場合には、左側の回転センサ24の検出値LSRと、右側の回転センサ24の検出値RSRとの減速開始タイミングの差をクリアランスに相当する値(現実のクリアランスの数値を反映した値)としてのクリアランス値CLEとして取得する。この別実施形態においても、実施形態で説明したように走行速度によりクリアランス値CLEの補正が行われる。
【0082】
つまり、ブレーキ装置BKによって制動力が作用する際には、車輪の回転速度(rpm)が減ぜられるため、左右のブレーキ装置BKのクリアランスに差がある場合には、左右の車輪の回転速度(rpm)が減速を開始タイミングにタイムラグを生ずる。このタイムラグはクリアランス値CLEに相当するため、これをクリアランス値CLEとして捉えているのである。この別実施形態(b)でも、前車輪11のブレーキ装置BKと、後車輪12のブレーキ装置BKとのクリアランス値CLEを独立取得することが可能となり、2種のブレーキ装置BKのクリアランス値CLEに基づいて精度の良い制御が実現する。
【0083】
(c)車両の車両10の左右の前車輪11L、11Rのブレーキ装置BKと、左右の後車輪12L、12Rのブレーキ装置BKとの一方がディスクブレーキ型であり、他方がドラムブレーキ型であるものに適用する。このように構成した場合にもクリアランス値CLEを求め、このクリアランス値CLEに基づいて閾値を設定することにより車両10の安定化制御が実現する。
【0084】
(d)図8に示すように、クリアランス左右差取得手段60にて、何れかのブレーキ装置BKにクリアランスが発生しているか否かを判定する。この判定は、ブレーキペダルセンサ15Sの出力信号から取得する運転者によるブレーキ操作のストローク量Tdと、マスタシリンダ圧力センサの出力信号から取得する減速度に相当する値Jdとに基づいて行う。むろん、減速度に相当する値Jdは、減速度センサから直接取得しても良い。
このとき、何れのブレーキ装置BKにおいてもクリアランスが無い場合は、ストローク量Tdの発生に呼応して減速度に相当する値Jdが発生する。しかし、何れかのブレーキ装置BKにおいてクリアランスが有る場合は、ストローク量Tdの発生からタイムラグを持って減速度に相当する値Jdが発生する。この減速度に相当する値Jdが発生するときのストローク量Tdが何れかのブレーキ装置BKに有るクリアランス値CLEに対応し、閾値設定手段手段61に記憶されているマップに基づいてクリアランス値CLEに対応する旋回制御介入閾値TCが設定・記憶される。かかる場合、クリアランス値CLEが所定の値CLE3より小さい場合は、旋回安定化制御の制御介入閾値は初期値GyTHに設定・記憶され、値CLE3より大きい場合は、マップに基づいて制御介入閾値Gyfが設定・記憶される。
そして、旋回安定化制御部62は、横加速度センサ22から取得する横加速度Gyが制御介入閾値GyTH、若しくは、Gyf以上になった場合に、旋回安定化制御を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、ディスクブレーキ型のブレーキ装置を備えた車両において、左右のブレーキ装置を各別に操作する制御系を備えたもの全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 車両
11 車輪(前車輪)
12 車輪(後車輪)
13S 直進走行検出手段(ステアリングセンサ)
21 ヨーレート取得手段(ヨーレートセンサ)
31 姿勢制御手段(旋回安定化制御部)
32 姿勢制御手段・ブレーキ補助手段(緊急ブレーキ安定化制御部)
34 クリアランス左右差取得手段
36 変更手段(閾値設定手段)
35 記憶手段
55 ホイルシリンダ圧取得手段(ホイルシリンダセンサ)
BK ブレーキ装置
BKC ホイルシリンダ
BKD ブレーキドラム
BKS ブレーキシュー
CLE 値(クリアランス値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の直進走行を検出する直進走行検出手段と、
車両の直進走行検出時の運転者によるブレーキ操作に基づいて左右車輪のブレーキ装置が有するブレーキドラムとブレーキシューとの間に形成されるクリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値を取得するクリアランス左右差取得手段と、
取得した前記クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値を記憶する記憶手段と、
前記記憶されたクリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づき左右車輪のブレーキ装置のブレーキ作動の開始態様を変更する変更手段とを具備することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
車両のヨーレートを取得するヨーレート取得手段を備え、
前記クリアランス左右差取得手段は、前記直進走行検出時の運転者によるブレーキ操作時におけるヨーレート取得手段の取得結果に基づいて前記クリアランスの左右差に相当する値を取得することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記左右車輪のブレーキ装置が有するブレーキシューを作動させるホイルシリンダの内圧を取得するホイルシリンダ圧取得手段を備え、
前記クリアランス左右差取得手段は、前記直進走行検出時の運転者によるブレーキ操作時における前記ホイルシリンダ圧取得手段の取得結果に基づいて前記クリアランスに相当する値を取得することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記変更手段は、前記ブレーキ装置のブレーキ操作時の作動開始条件を各別に変更可能に構成され、
前記記憶手段に記憶されている前記クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づいて、ブレーキ作動の作動開始条件を変更することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
自動的なブレーキ作動により車両姿勢の安定化を図る姿勢制御手段を備え、
前記変更手段は、前記クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づいて、前記姿勢制御手段におけるブレーキ作動の作動開始条件を変更することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
運転者のブレーキ操作に加えて自動的なブレーキ作動により当該ブレーキ操作を補助するブレーキ補助手段を備え、
前記変更手段は、前記クリアランス、又は、クリアランスの左右差に相当する値に基づいて、前記ブレーキ補助手段におけるブレーキ作動の補助量を変更することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記変更手段は、前記左右車輪のブレーキ装置のうち少なくとも一方に対するブレーキ作動の開始態様を変更することを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項に記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−76486(P2012−76486A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220829(P2010−220829)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】