説明

プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法

【課題】誘導結合型のプラズマ処理においてチャンバ内に形成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布を効率よく任意に制御すること。
【解決手段】この誘導結合型プラズマ処理装置においては、誘導結合プラズマを生成するために誘電体窓52の上に設けられるRFアンテナ54が径方向で内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62に分割されている。高周波給電部66の高周波伝送路上に設けられる第1ノードNAと第2ノードNBとの間で、中間コイル60および外側コイル62には可変の中間コンデンサ86および外側コンデンサ88がそれぞれ電気的に直列接続され、内側コイル58にはリアクタンス素子が一切接続されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板にプラズマ処理を施す技術に係り、特に誘導結合型のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやFPD(Flat Panel Display)の製造プロセスにおけるエッチング、堆積、酸化、スパッタリング等の処理では、処理ガスに比較的低温で良好な反応を行わせるためにプラズマがよく利用されている。従来より、この種のプラズマ処理には、MHz領域の高周波放電によるプラズマが多く用いられている。高周波放電によるプラズマは、より具体的(装置的)なプラズマ生成法として、容量結合型プラズマと誘導結合型プラズマとに大別される。
【0003】
一般に、誘導結合型のプラズマ処理装置は、処理容器の壁部の少なくとも一部(たとえば天井)を誘電体の窓で構成し、その誘電体窓の外に設けたコイル形状のRFアンテナに高周波電力を供給する。処理容器は減圧可能な真空チャンバとして構成されており、チャンバ内の中央部に被処理基板(たとえば半導体ウエハ、ガラス基板等)が配置され、誘電体窓と基板との間に設定される処理空間に処理ガスが導入される。RFアンテナに流れる高周波電流によって、磁力線が誘電体窓を貫通してチャンバ内の処理空間を通過するような高周波数の交流磁界がRFアンテナの周りに発生し、この交流磁界の時間的な変化によって処理空間内で方位角方向に誘導電界が発生する。そして、この誘導電界によって方位角方向に加速された電子が処理ガスの分子や原子と電離衝突を起こし、ドーナツ状のプラズマが生成される。
【0004】
チャンバ内に大きな処理空間が設けられることによって、上記ドーナツ状のプラズマは効率よく四方(特に半径方向)に拡散し、基板上ではプラズマの密度がかなり均される。しかしながら、通常のRFアンテナを用いるだけでは、基板上に得られるプラズマ密度の均一性は大抵のプラズマプロセスにおいて不十分である。プラズマプロセスにおいて、基板上のプラズマ密度の均一性または制御性を向上させることは、プロセスの均一性・再現性ひいては製造歩留まりを左右することから、最重要課題の一つである。
【0005】
誘導結合型のプラズマ処理装置においては、チャンバ内の誘電体窓付近で生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布特性(プロファイル)が重要であり、そのコアなプラズマ密度分布のプロファイルが拡散後の基板上に得られるプラズマ密度分布の特性(特に均一性)を左右する。
【0006】
この点に関し、径方向におけるプラズマ密度分布の均一性を向上させる技法として、RFアンテナをコイル径の異なる複数の円環状コイルに分割する方式が幾つか提案されている。この種のRFアンテナ分割方式には、複数の円環状コイルを直列に接続する第1の方式(たとえば特許文献1)と、複数の円環状コイルを並列に接続する第2の方式(たとえば特許文献2)とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5800619号
【特許文献2】米国特許第6164241号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような従来のRFアンテナ分割方式のうち、上記第1の方式は、RFアンテナの全コイル長が全部のコイルを足し合わせた大きな長さになるため、RFアンテナ内の電圧降下が無視できないほど大きく、さらには波長効果によってRFアンテナのRF入力端近くに電流の波節部を有する定在波が形成されやすい。このため、上記第1の方式は、径方向はもちろん周回方向においてもプラズマ密度分布の均一性を得るのは難しく、大口径プラズマを必要とするプラズマプロセスには本質的に適していない。
【0009】
一方、上記第2の方式は、RFアンテナ内の波長効果や電圧降下は並列に分割された個々のコイル毎にその長さに依存するので、アンテナ内の電圧降下が比較的小さいうえ、波長効果を抑制するのにも有利である反面、径方向におけるRFアンテナ内の電流分布ひいてはアンテナ直下のプラズマ密度分布を任意に制御するのが難しい。
【0010】
このため、上記第2の方式を採る従来のプラズマ処理装置は、RFアンテナを構成する全てのコイルにインピーダンス調整用の可変コンデンサを付加(接続)して、各コイルに流すRF電流の比を調節するようにしている。しかしながら、可変コンデンサは高価であり、RFアンテナ内の全てのコイルに可変コンデンサを充てるのはコスト面で望ましくない。また、可変コンデンサの数が多いと、そのぶん調整対象の静電容量(パラメータ)が多くなって調整作業が面倒である。
【0011】
他方で、従来方式は、プラズマの密度が径方向の中心部で相対的に高くなる不所望なプロファイルを効率よく解消できていない。特に、低圧のプロセスでは、プラズマの拡散の影響が効いて、プラズマ密度が径方向の中心部で一層高くなりやすく、その解決が困難になっている。また、大口径用のプラズマ処理装置においては、内側コイルと外側コイルとの間でコイル径の差が大きいため、プラズマ密度が径方向の中心部で相対的に高くなる傾向が強く、従来方式はプラズマ密度分布の均一化を効率よく達成するのが困難であった。
【0012】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するものであり、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布を効率的に任意に制御することが可能であり、特に低圧下のプラズマまたは大口径のプラズマに対して径方向のプラズマ密度分布を効率的かつ多様に任意のプロファイルに制御することができる誘導結合型のプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の観点におけるプラズマ処理装置は、誘電体の窓を有する処理容器と、前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部とを具備し、前記RFアンテナが、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルを有し、前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと、前記外側コイルと電気的に直列に接続される可変の外側コンデンサとが設けられ、前記内側コイルは前記第1のノードと前記第2のノードとの間にリアクタンス素子を介さずに接続されている。
【0014】
本発明の第2の観点におけるプラズマ処理装置は、誘電体の窓を有する処理容器と、前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部と を具備し、前記RFアンテナが、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルを有し、前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記内側コイルと電気的に接続される固定もしくは半固定の内側コンデンサと、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと、前記外側コイルと電気的に直列に接続される可変の外側コンデンサとが設けられている。
【0015】
本発明の第3の観点におけるプラズマ処理装置は、誘電体の窓を有する処理容器と、前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部とを具備し、前記RFアンテナが、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルを有し、前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記内側コイルと電気的に接続される固定もしくは半固定の内側インダクタと、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと、前記外側コイルと電気的に直列に接続される可変の外側コンデンサとが設けられている。
【0016】
本発明のプラズマ処理方法は、誘電体の窓を有する処理容器と、前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部とを有するプラズマ処理装置において前記基板に所望のプラズマ処理を施すプラズマ処理方法であって、前記RFアンテナを、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルに分割し、前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記内側コンデンサに接続されるリアクタンス素子を設けずに、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと前記外側コイルと電気的に直列に接続される可変の外側コンデンサとを設け、前記中間コンデンサおよび前記外側コンデンサの静電容量を選定または可変制御して、前記基板上のプラズマ密度分布を制御する。
【0017】
上記第1、第2、第3の観点におけるプラズマ処理装置または上記プラズマ処理方法においては、高周波給電部よりRFアンテナに高周波電力を供給すると、RFアンテナの各部つまり内側コイル、中間コイルおよび外側コイルをそれぞれ流れる高周波電流によって各コイルの周りにRF磁界が発生し、処理容器内に処理ガスの高周波放電つまりドーナツ状プラズマの生成に供する誘導電界が形成される。生成されたドーナツ状プラズマは処理容器内で四方に拡散し、基板上ではプラズマ密度が均される。
【0018】
内側コイル、中間コイルおよび外側コイルをそれぞれ流れるコイル電流が周回方向ですべて同じ向きになる場合は、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度は各コイルに対応する位置で極大になる。この場合は、中間コンデンサおよび外側コンデンサの静電容量を可変または調整することにより、内側コイルを流れる内側コイル電流に対して中間コイルおよび外側コイルをそれぞれ流れる中間コイル電流および外側コイル電流を可変するやり方で、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布ひいては基板上のプラズマ密度分布を制御する。
【0019】
また、中間コンデンサの静電容量または外側コンデンサの静電容量を調節することにより、中間コイル電流または外側コイル電流を他のコイル電流と逆向きに流すことも可能である。この場合は、ドーナツ状プラズマの中間コイルまたは外側コイルに対応する部分で局所的にプラズマ密度を下げることが可能であり、基板上のプラズマ密度分布制御の自由度を拡張することができる。
【0020】
本発明の第4の観点におけるプラズマ処理装置は、誘電体の窓を有する処理容器と、前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部とを具備し、前記RFアンテナが、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルを有し、前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記内側コイルと電気的に接続される可変の内側コンデンサと、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと、前記外側コイルと電気的に直列に接続される固定もしくは半固定の外側コンデンサとが設けられている。
【0021】
上記第4の観点におけるプラズマ処理装置においては、高周波給電部よりRFアンテナに高周波電力を供給すると、RFアンテナの各部つまり内側コイル、中間コイルおよび外側コイルをそれぞれ流れる高周波電流によって各コイルの周りにRF磁界が発生し、処理容器内に処理ガスの高周波放電つまりドーナツ状プラズマの生成に供する誘導電界が形成される。生成されたドーナツ状プラズマは処理容器内で四方に拡散し、基板上ではプラズマ密度が均される。
【0022】
内側コイル、中間コイルおよび外側コイルをそれぞれ流れるコイル電流が周回方向ですべて同じ向きになる場合は、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度は各コイルに対応する位置で極大になる。この場合は、中間コンデンサおよび内側コンデンサの静電容量を可変または調整することにより、外側コイルを流れる外側コイル電流に対して中間コイルおよび内側コイルをそれぞれ流れる中間コイル電流および内側コイル電流を可変するやり方で、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布ひいては基板上のプラズマ密度分布を制御する。
【0023】
また、中間コンデンサの静電容量の静電容量を調節することにより、中間コイル電流を他のコイル電流と逆向きに流すことも可能である。この場合は、ドーナツ状プラズマの中間コイルまたは外側コイルに対応する部分で局所的にプラズマ密度を下げることが可能であり、基板上のプラズマ密度分布制御の自由度を拡張することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のプラズマ処理装置またはプラズマ処理方法によれば、上記のような構成および作用により、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布を効率的に制御することが可能であり、特に低圧下のプラズマまたは大口径のプラズマに対して径方向のプラズマ密度分布を効率的かつ多様に任意のプロファイルに制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態における誘導結合型プラズマ処理装置の構成を示す縦断面図である。
【図2】実施形態における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す斜視図である。
【図3】図2の実施例の作用を示すである。
【図4】図2のRFアンテナからコンデンサを全部省いた場合の電気的接続図およびその作用を示す図である。
【図5A】実施形態における一実験で用いた可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【図5B】上記実験において中間コンデンサの静電容量を可変して測定されたコイル電流分布および電子密度分布の変化を示す図である。
【図6A】実施形態の一変形例における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【図6B】図6Aの実施例の作用を説明するための図である。
【図7A】別の実施例における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【図7B】別の実施例における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【図8】別の実施例における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【図9】別の実施例における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【図10】別の実施例における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【図11】別の実施例における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【図12】別の実施例における可変コンデンサ付きRFアンテナのレイアウト構成および電気的接続構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
[装置全体の構成および作用]
【0027】
図1に、本発明の一実施形態における誘導結合型プラズマ処理装置の構成を示す。
【0028】
このプラズマ処理装置は、平面コイル形のRFアンテナを用いる誘導結合型のプラズマエッチング装置として構成されており、たとえばアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属製の円筒型真空チャンバ(処理容器)10を有している。チャンバ10は、保安接地されている。
【0029】
先ず、この誘導結合型プラズマエッチング装置においてプラズマ生成に関係しない各部の構成を説明する。
【0030】
チャンバ10内の下部中央には、被処理基板としてたとえば半導体ウエハWを載置する円板状のサセプタ12が高周波電極を兼ねる基板保持台として水平に配置されている。このサセプタ12は、たとえばアルミニウムからなり、チャンバ10の底から垂直上方に延びる絶縁性の筒状支持部14に支持されている。
【0031】
絶縁性筒状支持部14の外周に沿ってチャンバ10の底から垂直上方に延びる導電性の筒状支持部16とチャンバ10の内壁との間に環状の排気路18が形成され、この排気路18の上部または入口に環状のバッフル板20が取り付けられるとともに、底部に排気ポート22が設けられている。チャンバ10内のガスの流れをサセプタ12上の半導体ウエハWに対して軸対象に均一にするためには、排気ポート22を円周方向に等間隔で複数設ける構成が好ましい。各排気ポート22には排気管24を介して排気装置26が接続されている。排気装置26は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10内のプラズマ処理空間を所望の真空度まで減圧することができる。チャンバ10の側壁の外には、半導体ウエハWの搬入出口27を開閉するゲートバルブ28が取り付けられている。
【0032】
サセプタ12には、RFバイアス用の高周波電源30が整合器32および給電棒34を介して電気的に接続されている。この高周波電源30は、半導体ウエハWに引き込まれるイオンのエネルギーを制御するのに適した一定周波数(通常13.56MHz以下)の高周波RFLを可変のパワーで出力できるようになっている。整合器32は、高周波電源30側のインピーダンスと負荷(主にサセプタ、プラズマ、チャンバ)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。その整合回路の中に自己バイアス生成用のブロッキングコンデンサが含まれている。
【0033】
サセプタ12の上面には、半導体ウエハWを静電吸着力で保持するための静電チャック36が設けられ、静電チャック36の半径方向外側に半導体ウエハWの周囲を環状に囲むフォーカスリング38が設けられる。静電チャック36は導電膜からなる電極36aを一対の絶縁膜36b,36cの間に挟み込んだものであり、電極36aには高圧の直流電源40がスイッチ42および被覆線43を介して電気的に接続されている。直流電源40より印加される高圧の直流電圧により、静電力で半導体ウエハWを静電チャック36上に吸着保持することができる。
【0034】
サセプタ12の内部には、たとえば円周方向に延びる環状の冷媒室または冷媒流路44が設けられている。この冷媒室44には、チラーユニット(図示せず)より配管46,48を介して所定温度の冷媒たとえば冷却水cwが循環供給される。冷却水cwの温度によって静電チャック36上の半導体ウエハWの処理中の温度を制御できる。これと関連して、伝熱ガス供給部(図示せず)からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給管50を介して静電チャック36の上面と半導体ウエハWの裏面との間に供給される。また、半導体ウエハWのローディング/アンローディングのためにサセプタ12を垂直方向に貫通して上下移動可能なリフトピンおよびその昇降機構(図示せず)等も設けられている。
【0035】
次に、この誘導結合型プラズマエッチング装置においてプラズマ生成に関係する各部の構成を説明する。
【0036】
チャンバ10の天井または天板はサセプタ12から比較的大きな距離間隔を隔てて設けられており、この天板としてたとえば石英板からなる円形の誘電体窓52が気密に取り付けられている。この誘電体窓52の上には、チャンバ10内に誘導結合のプラズマを生成するためのRFアンテナ54を外部から電磁的に遮蔽して収容するアンテナ室56がチャンバ10と一体に設けられている。
【0037】
RFアンテナ54は、誘電体窓52と平行で、好ましくは誘電体窓52の上面に載って、径方向に間隔を開けて内側、中間および外側にそれぞれ配置される内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62を有している。これらのコイル58、60,62は、互いに同軸(より好ましくは同心状)に配置されるとともに、チャンバ10またはサセプタ12に対しても同軸に配置されている。
【0038】
なお、本発明において「同軸」とは、軸対称の形状を有する複数の物体間でそれぞれの中心軸線が互いに重なっている位置関係であり、複数のコイル間に関してはそれぞれのコイル面が軸方向で互いにオフセットしている場合だけでなく同一面上で一致している場合(同心状の位置関係)も含む。
【0039】
内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62は、電気的には、プラズマ生成用の高周波給電部66からの高周波給電ライン68と接地電位部材に至る帰線ライン70との間(2つのノードNA,NBの間)で並列に接続されている。ここで、帰線ライン70は接地電位のアースラインであり、電気的に接地電位に保たれる接地電位部材(たとえばチャンバ10または他の部材)に接続されている。
【0040】
アースライン70側のノードNBと中間コイル60および外側コイル62との間には、可変のコンデンサ86,88がそれぞれ電気的に直列に接続(挿入)されている。これらの可変コンデンサ86,88は、主制御部84の制御の下で容量可変部90により一定範囲内でそれぞれ独立かつ任意に可変されるようになっている。以下、ノードNA,NBの間で、内側コイル58と直列に接続されるコンデンサを「内側コンデンサ」と称し、中間コイル60と直列に接続されるコンデンサを「中間コンデンサ」と称し、外側コイル62と直列に接続されるコンデンサを「外側コンデンサ」と称する。
【0041】
高周波給電部66は、高周波電源72および整合器74を有している。高周波電源72は、誘導結合の高周波放電によるプラズマの生成に適した一定周波数(通常13.56MHz以上)の高周波RFHを可変のパワーで出力できるようになっている。整合器74は、高周波電源72側のインピーダンスと負荷(主にRFアンテナ、プラズマ)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。
【0042】
チャンバ10内の処理空間に処理ガスを供給するための処理ガス供給部は、誘電体窓52より幾らか低い位置でチャンバ10の側壁の中(または外)に設けられる環状のマニホールドまたはバッファ部76と、円周方向に等間隔でバッファ部76からプラズマ生成空間に臨む多数の側壁ガス吐出孔78と、処理ガス供給源80からバッファ部76まで延びるガス供給管82とを有している。処理ガス供給源80は、流量制御器および開閉弁(図示せず)を含んでいる。
【0043】
主制御部84は、たとえばマイクロコンピュータを含み、このプラズマエッチング装置内の各部たとえば排気装置26、高周波電源30,72、整合器32,74、静電チャック用のスイッチ42、可変コンデンサ86,88、処理ガス供給源80、チラーユニット(図示せず)、伝熱ガス供給部(図示せず)等の個々の動作および装置全体の動作(シーケンス)を制御する。
【0044】
この誘導結合型プラズマエッチング装置において、エッチングを行なうには、先ずゲートバルブ28を開状態にして加工対象の半導体ウエハWをチャンバ10内に搬入して、静電チャック36の上に載置する。そして、ゲートバルブ28を閉めてから、処理ガス供給源80よりガス供給管82、バッファ部76および側壁ガス吐出孔78を介してエッチングガス(一般に混合ガス)を所定の流量および流量比でチャンバ10内に導入し、排気装置26によりチャンバ10内の圧力を設定値にする。さらに、高周波給電部66の高周波電源72をオンにしてプラズマ生成用の高周波RFHを所定のRFパワーで出力させ、整合器74,RF給電ライン68および帰線ライン70を介してRFアンテナ54の内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62に高周波RFHの電流を供給する。一方、高周波電源30をオンにしてイオン引き込み制御用の高周波RFLを所定のRFパワーで出力させ、この高周波RFLを整合器32および給電棒34を介してサセプタ12に印加する。また、伝熱ガス供給部より静電チャック36と半導体ウエハWとの間の接触界面に伝熱ガス(Heガス)を供給するとともに、スイッチ42をオンにして静電チャック36の静電吸着力により伝熱ガスを上記接触界面に閉じ込める。
【0045】
チャンバ10内において、側壁ガス吐出孔78より吐出されたエッチングガスは、誘電体窓52の下の処理空間に拡散する。RFアンテナ54の各コイル58,60,62を流れる高周波RFHの電流によってそれらのコイルの周りに発生する磁力線(磁束)が誘電体窓52を貫通してチャンバ10内の処理空間(プラズマ生成空間)を横切り、処理空間内で方位角方向の誘導電界が発生する。この誘導電界によって方位角方向に加速された電子がエッチングガスの分子や原子と電離衝突を起こし、ドーナツ状のプラズマが生成される。
【0046】
このドーナツ状プラズマのラジカルやイオンは広い処理空間で四方に拡散し、ラジカルは等方的に降り注ぐようにして、イオンは直流バイアスに引っぱられるようにして、半導体ウエハWの上面(被処理面)に供給される。こうして半導体ウエハWの被処理面にプラズマの活性種が化学反応と物理反応をもたらし、被加工膜が所望のパターンにエッチングされる。
【0047】
ここで「ドーナツ状のプラズマ」とは、チャンバ10の径方向内側(中心部)にプラズマが立たず径方向外側にのみプラズマが立つような厳密にリング状のプラズマに限定されず、むしろチャンバ10の径方向内側より径方向外側のプラズマの体積または密度が大きいことを意味する。また、処理ガスに用いるガスの種類やチャンバ10内の圧力の値等の条件によっては、ここで云う「ドーナツ状のプラズマ」にならない場合もある。
【0048】
この誘導結合型プラズマエッチング装置は、RFアンテナ54をコイル径の異なる内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62に分割してRFアンテナ54内の波長効果や電位差(電圧降下)を効果的に抑制または低減し、さらには内側コイル58を除いて中間コイル60および外側コイル62に可変コンデンサ86,88を直列に接続する構成により、半導体ウエハW上のプラズマ密度分布を簡単かつ効率的に制御できるようにしている。

[RFアンテナの基本的な構成及び作用]
【0049】
図2および図3に、この誘導結合型プラズマエッチング装置におけるRFアンテナ54のレイアウトおよび電気的接続(回路)の基本構成を示す。
【0050】
図2に示すように、内側コイル58は、間隙または切れ目Giを挟んで一周する半径一定の単巻き円環状コイルからなり、径方向においてチャンバ10の中心寄りに位置している。内側コイル58の一方の端つまりRF入口端58inは、上方に延びる接続導体92および第1ノードNAを介して高周波給電部66のRF給電ライン68に接続されている。内側コイル58の他方の端つまりRF出口端58outは、上方に延びる接続導体94および第2ノードNBを介してアースライン70に接続されている。
【0051】
中間コイル60は、間隙または切れ目Gmを挟んで一周する半径一定の単巻き円環状コイルからなり、径方向において内側コイル58よりも外側でチャンバ10の中間部に位置している。中間コイル60の一方の端つまりRF入口端60inは、径方向で内側コイル58のRF入口端58inに隣接しており、上方に延びる接続導体96および第1ノードNAを介して高周波給電部66のRF給電ライン68に接続されている。中間コイル60の他方の端つまりRF出口端60outは、径方向で内側コイル58のRF出口部58outに隣接しており、上方に延びる接続導体98および第2ノードNBを介してアースライン70に接続されている。
【0052】
外側コイル62は、間隙または切れ目Goを挟んで一周する半径一定の単巻き円環状コイルからなり、径方向において中間コイル60よりも外側でチャンバ10の側壁寄りに位置している。外側コイル62の一方の端つまりRF入口端62inは、径方向で中間コイル60のRF入口端60inに隣接しており、上方に延びる接続導体100および第1ノードNAを介して高周波給電部66のRF給電ライン68に接続されている。外側コイル62の他方の端つまりRF出口端62outは、径方向で中間コイル60のRF出口端60outに隣接しており、上方に延びる接続導体102および第2ノードNBを介してアースライン70に接続されている。
【0053】
図2に示すように、RFアンテナ54の上方に延びる接続導体92〜102は、アンテナ室56(図1)内で誘電体窓52から十分大きな距離を隔てて(相当高い位置で)横方向の分岐線または渡り線を形成しており、各コイル58,60,62に対する電磁的な影響を少なくしている。
【0054】
上記のようなRFアンテナ54内のコイル配置および結線構造において、高周波電源72からRF給電ライン68、RFアンテナ54およびアースライン70を通って接地電位部材まで廻った場合、より端的には第1ノードNAから第2ノードNBまでRFアンテナ54を構成する各コイル58,60,62の高周波分岐伝送路を廻った場合に、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62をそれぞれ通るときの向きはいずれも図2で反時計回りであり、周回方向で同じである。
【0055】
この実施形態の誘導結合型プラズマエッチング装置においては、高周波給電部66より供給される高周波の電流がRFアンテナ54内の各部を流れることにより、RFアンテナ54を構成する内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62の周りにはアンペールの法則にしたがってループ状に分布する高周波数の交流磁界が発生し、誘電体窓52の下には比較的内奥(下方)の領域でも処理空間を半径方向に横断する磁力線が形成される。
【0056】
ここで、処理空間における磁束密度の半径方向(水平)成分は、チャンバ10の中心と周辺部では高周波電流の大きさに関係なく常に零であり、その中間の何処かで極大になる。高周波数の交流磁界によって生成される方位角方向の誘導電界の強度分布も、径方向において磁束密度と同様の分布を示す。つまり、径方向において、ドーナツ状プラズマ内の電子密度分布は、マクロ的にはRFアンテナ54内の電流分布にほぼ対応する。
【0057】
この実施形態におけるRFアンテナ54は、その中心または内周端から外周端まで旋回する通常の渦巻コイルとは異なり、アンテナの中心部に局在する円環状の内側コイル58とアンテナの中間部に局在する円環状の中間コイル60とアンテナの周辺部に局在する円環状の外側コイル62とからなり、RFアンテナ54内の電流分布は各コイル58,60,62の位置に対応した同心円状の分布になる。
【0058】
ここで、内側コイル58には、そのループ内で一様または均一な高周波の電流(以下「内側コイル電流」と称する。)Iiが流れる。中間コイル60には、そのループ内で一様または均一な高周波の電流(以下「中間コイル電流」と称する。)Imが流れる。外側コイル62には、そのループ内で一様または均一な高周波の電流(以下「外側コイル電流」と称する。)Ioが流れる。
【0059】
こうして、チャンバ10の誘電体窓52の下(内側)に生成されるドーナツ状プラズマにおいては、図3に示すように、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62のそれぞれの直下の位置付近で電流密度(つまりプラズマ密度)が極大になる。このように、ドーナツ状プラズマ内の電流密度分布は径方向で均一ではなく凹凸のプロファイルとなる。しかし、チャンバ10内の処理空間でプラズマが四方に拡散することによって、サセプタ12の近傍つまり基板W上ではプラズマの密度が均される。
【0060】
この実施形態においては、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62のいずれも円環状コイルであり、コイル周回方向で一様または均一な高周波電流が流れるので、コイル周回方向では常にドーナツ状プラズマ内はもちろんサセプタ12の近傍つまり基板W上でも略均一なプラズマ密度分布が得られる。
【0061】
また、径方向においては、後述するように中間コンデンサ86および外側コンデンサ88の静電容量C86,C88を所定の範囲内で適切な値に可変ないし選定することにより、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル60をそれぞれ流れる電流Ii,Im,Ioのバランスを調節して、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布を自在に制御することができる。このことによって、サセプタ12の近傍つまり基板W上のプラズマ密度分布を自在に制御することが可能であり、プラズマ密度分布の均一化も高い精度で容易に達成することができる。
【0062】
この実施形態においては、RFアンテナ54内の波長効果や電圧降下は個々のコイル58,60,62毎にその長さに依存する。したがって、個々のコイル58,60,62で波長効果を起こさないように、各コイルの長さを選定することによって、RFアンテナ54内の波長効果や電圧降下の問題を全て解決することができる。波長効果の防止に関しては、各コイル58,60,62の長さを高周波RFHの1/4波長よりも短くすることが望ましい。
【0063】
このコイル長に関する1/4波長未満条件は、コイルの径が小さいほど、巻数が少ないほど、満たされやすい。したがって、RFアンテナ54内でコイル径の最も小さい内側コイル58は、複数巻きの構成を容易に採り得る。他方、コイル径の最も大きい外側コイル62は、複数巻きよりは単巻きの方が望ましい。中間コイル60は、半導体ウエハWの口径、高周波RFHの周波数等にも依存するが、通常は外側コイル62と同様に単巻きが望ましい。

[RFアンテナに付加されるコンデンサの機能]
【0064】
この実施形態における主要な特徴は、RFアンテナ54を径方向においてコイル径の異なる3つのコイル58,60,62に並列に分割するとともに、中間コイル60および外側コイル62には可変の中間コンデンサ86および外側コンデンサ88をそれぞれ電気的に直列接続する一方で、内側コイル58にはリアクタンス素子(特にコンデンサ)を一切接続していない構成にある。
【0065】
ここで、図4に示すようにRFアンテナ54の何処にもコンデンサを付加しない場合を考える。この場合、内側コイル58の直下には中間コイル60および外側コイル62の直下よりも著しく濃いプラズマが生成される。その理由は、次のとおりである。すなわち、コイル導線の太さ(半径)がa、コイル径(半径)がrの単巻き円環状コイルの自己インダクタンスLは次の式(1)で表わされる。
【数1】

ただし、μoは真空の透磁率である。また、コイル径(半径)rは、コイル内周の半径とコイル外周の半径との中間値である。
【0066】
上式(1)から、自己インダクタンスLはコイル半径rに略線形的に比例する。このような円環状コイルのインピーダンスZは、高周波の周波数をfとすると、Z=2πfLであり、自己インダクタンスLに比例する。したがって、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62のコイル半径をたとえば50mm、100mm、150mmとすると、内側コイル58には中間コイル60を流れる中間コイル電流Imの約2倍、外側コイル62を流れる外側コイル電流Ioの約3倍の内側コイル電流Iiが流れる。円環状コイルによって生成されるプラズマの密度は、半径が小さいほど若干効率は低くなるものの、おおよそ半径に依らずコイル電流の電流量に依存する。このため、内側コイル58の直下には中間コイル60や外側コイル62の直下よりも数倍濃いプラズマが生成される。これによって、サセプタ12の近傍つまり半導体ウエハW上のプラズマ密度分布は、径方向の中心部が突出して高くなるようなプロファイルとなる。
【0067】
ところで、コイルは正のリアクタンスを有し、コンデンサは負のリアクタンスを有する。したがって、コイルにコンデンサを接続すると、コイルの正のリアクタンスをコンデンサの負のリアクタンスが打ち消すため、合成リアクタンスはコイルのリアクタンスよりも低くなる。したがって、内側コイル58にコンデンサを接続して内側コイル電流Iiの電流量を増やすのは、プラズマ密度分布の均一化には効かず、むしろ逆効果になる。
【0068】
このことは、各コイル58,60,62をそれぞれNi,Nm,Noターンのスバイラル状コイルで構成した場合も同じである。すなわち、各コイルのインダクタンスはターン数(巻数)に比例するため、それぞれのインピーダンスもターン数に比例する。よって、内側コイル58と外側コイル62をそれぞれ流れるコイル電流Ii,Ioの比は、Ii:Io=ro*No*Ni:ri*Ni*No=ro:riとなる。一方、両コイル58,62の直下にそれぞれ生成されるプラズマの密度ni,noはコイル電流×ターン数で決まる。よって、内側コイル58および外側コイル62の直下に生成されるプラズマの密度ni,noの比は、ni:no=ro*No*Ni:ri*Ni*No=ro:riとなり、この場合も半径の比で決まる。内側コイル58と中間コイル60との間でも同様である。このように、内側コイル58の直下には、中間コイル60および外側コイル62の直下よりも常に濃いプラズマが生成される。
【0069】
現実には、整合器74の出口から当該コイルまでの配線のインピーダンスも無視できない。整合器74の出口からRFアンテナ54までの高さ方向で配線の長さが決まるので、配線の長さは内側・中間・外側の間で同程度と仮定してよく、配線インピーダンスは内側・中間・外側で等しいとする。そうすると、たとえば外側コイル62および内側コイル58がそれぞれ75Ω、25Ωのインビーダンスを有する場合に、配線インピーダンスをおおよそ10Ωとすると、Ii:Io=(75+10):(25+10)=85:35=2.41:1となり、依然として2倍以上の開きがある。
【0070】
圧力が比較的高く(通常100mTorr以上)、プラズマの拡散の影響が効きにくい場合には内側と外側とで上記のようなバランスになるが、圧力が低くなって拡散の影響が効いてくると中心部のプラズマ密度は更に突出して高くなる。
【0071】
このように、どのような条件の下でも、電気的に並列に接続されたコイル径の異なる複数のコイルの間では最も内側のコイルの直下でプラズマ密度が相対的に高くなるという法則が成り立つ。
【0072】
この実施形態では、上記の知見に基づいて、RFアンテナ54の両端子間(第1および第2ノードNA,NB間)で、内側コイル58にはコンデンサを一切付加(接続)せずに、中間コイル60および外側コイル62には可変コンデンサ86,88を直列接続し、それら可変コンデンサ86,88の静電容量C86,C88を合成リアクタンスを下げる方向に調節することにより、中間コイル60および外側コイル62をそれぞれ流れるコイル電流Im,Ioの電流量を適度に増やして、コイル電流Ii,Im,Ioを略同じ大きさに揃えることも、あるいは内側コイル電流Iiよりも中間コイル電流Imおよび/または外側コイル電流Ioを大きくすることも可能にしている。ここで、可変コンデンサ86,88によるコイル電流Im,Ioの増加分はすべて中間コイル60および外側コイル62を流れてプラズマ生成に寄与するので、高周波パワーの無駄を生じない。
【0073】
通常、径方向中心部でプラズマ密度が突出して高くなるプロファイルを是正するには、大まかには、内側コイル58を流れる内側コイル電流Iiと外側コイル62を流れる外側コイル電流Ioとの比(バランス)を調節するのが効率的である。この実施形態では、両コイル電流Ii,Ioの比を調節するには、外側コンデンサ88の静電容量C88のみを可変すればよい。
【0074】
この場合、様々な条件下でプラズマ密度分布を均一化するうえで、外側コイル電流Ioと外側コイル62のターン数noの積Io*noの可変範囲が内側コイル電流Iiと内側コイル58のターン数niの積Ii*niよりも小さい下限値と大きい上限値をもつことが望ましい。内側コイル電流Iiと外側コイル電流Ioの比が内側コイル58のインピーダンス(以下「内側インピーダンス」と称する。)と外側コイル62および外側コンデンサ88の合成インピーダンス(以下「外側合成インピーダンス」と称する。)の逆数の比に比例することから、内側インピーダンス(固定値)をZi、外側合成インピーダンス(可変値)の最小値および最大値をそれぞれZo(min),Zo(max)とすると、このコイル電流×ターン数に関する上記の条件は、次のように表わされる。
【数2】

・・・(2)
【0075】
さらに、内側インピーダンスZiおよび外側合成インピーダンスZoは、結線部を除けばそれぞれの平均コイル半径に依存する。結線部の影響は無視できないが支配的な影響ではないので、上記の条件を次のように表わすこともできる。
【数3】

・・・(3)
【0076】
ここで、Co(min)は、調整可能範囲の中で外側合成インピーダンスZoを最小にするときの外側コンデンサ88の静電容量C88の値である。Co(max)は、調整可能範囲の中で外側合成インピーダンスZoを最大にするときの外側コンデンサ88の静電容量C88の値である。なお、Co(min),Co(max)は、必ずしもC88の可変範囲の最小値および最大値に一致するものではない。外側合成インピーダンスZoが最小になるのは、外側コイル62と外側コンデンサ88が直列共振を起こすときであり、Co(min)はそのときの外側コンデンサ88の静電容量C88の値である。また、外側合成インピーダンスZoが最大になるのは、その直列共振点から外側コンデンサ88の静電容量C88を可変範囲の上限あるいは下限まで離していったときのどちらか一方であり、Co(max)はそのときの外側コンデンサ88の静電容量C88の値である。
【0077】
このように、内側コイル58にはコンデンサを接続しないで、外側コイル62に外側コンデンサ88を直列に接続し、外側コンデンサ88の静電容量C88を可変することにより、内側コイル電流Iiと外側コイル電流Ioの比を任意に調整し、RFアンテナ54の直下で生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布の大まかなプロファイル(特に中心部と周辺部のバランス)を任意に制御することができる。
【0078】
この実施形態では、更に、内側コイル58と外側コイル62との間に中間コイル60を配置し、この中間コイル60にも可変の中間コンデンサ86を直列に接続している。これは、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布(特に中間部)をより精細に制御するためであり、低圧下のプラズマまたは大口径のプラズマを生成する場合に特に有用である。
【0079】
中間コイル60を設ける代わりに、たとえば外側コイル62をスパイラル状に形成してアンテナ54の中間部の領域を外側コイル62でカバーする構成も考えられる。しかし、その場合は、外側コイル62の全ての区間で同一のコイル電流Ioが流れるために、アンテナ中間部の直下でプラズマ密度が相対的に高くなりやすく、たとえば径方向で均一なプロファイルにするのが難しくなる。
【0080】
また、実際のプロセスでは、アンテナ中間部の直下でドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度を強制的に下げた方が径方向全体で望ましい(たとえばフラットな)プロファイルが得られることもある。特に、周辺部のプラズマ密度を所望のレベルまで引き上げるために外側コイル電流Ioの電流量を強めに増やした場合に、このような状況になりやすい。
【0081】
このような場合に、中間コンデンサ86を効果的に機能させることができる。すなわち、中間コイル60と中間コンデンサ86の合成リアクタンス(以下「中間合成リアクタンス」と称する。)Xmが負の値になるように、中間コンデンサ86の静電容量C86を直列共振点の値よりも低い領域で可変する。これによって、中間コイル電流Imを周回方向で逆向きに、しかも任意の電流量で流し(特に殆ど0の状態から僅かに増やすことも可能であり)、それによって中間コイル60の直下におけるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度を局所的に自在に制御し、ひいてはサセプタ12の近傍つまり半導体ウエハW上で径方向全体のプラズマ密度分布を自在に制御することができる。
【0082】
上記のような中間コンデンサ86の機能は、図5に示すような実験で確かめられている。この実験では、図5Aに示すように、RFアンテナ54において、内側コイル58を直径100mmで2回巻き(2ターン)に形成し、中間コイル60および外側コイル62をそれぞれ直径200mm、300mmで単巻き(1ターン)に形成した。主なプロセス条件として、高周波RFHの周波数は13.56MHz、RFパワーは1500W、チャンバ10内の圧力は100mTorr、処理ガスはArとO2の混合ガス、ガスの流量はAr/O2=300/30sccmであった。
【0083】
この実験において、外側コンデンサ88の静電容量C88を560pFに固定して、中間コンデンサ86の静電容量C86を13pF,40pF,64pFに可変すると、図5Bに示すように中間コイル電流Imが−0.4A,−5.0A,−11.2Aと変化し、中間コイル60の直下付近で電子密度(つまりプラズマ密度)Neを局所的かつ任意に下げられることが確認できた。なお、内側および外側コイル電流Ii,Ioは、C86=13pFのときはそれぞれ16.4A,18.3Aであり、C86=40pFのときはそれぞれ17.4A,19.4Aであり、C86=40pFのときはそれぞれ19.0A,20.1Aであった。逆向きに流れる中間コイル電流Imの電流量を増やしていくと、順方向に流れる内側コイル電流Iiおよび外側コイル電流Ioの電流量もそれにつられて幾らか増えるが、両コイル電流Ii,Ioの比(バランス)は殆ど変化しないことがわかる。
【0084】
この実施形態のRFアンテナ54における他の機能として、外側コイル62と外側コンデンサ88の合成リアクタンス(以下「外側合成リアクタンス」と称する。)Xoが負の値になるように、外側コンデンサ88の静電容量C88を直列共振点の値よりも低い領域で可変し、これによって外側コイル電流I0を逆向きに流すことも可能である。たとえば、プラズマが径方向外側に広がりすぎてチャンバ10の内壁がダメージを受けやすい場合に、外側コイル62に逆向きのコイル電流Ioを流すことにより、プラズマを外側コイル62の内側に閉じ込め、チャンバ10内壁のダメージを抑制することができる。この機能は、たとえば径方向に間隔を空けてコイル径の異なる複数の中間コイル60を配置する場合、あるいは外側コイル62をサセプタ12よりも径方向外側に配置する場合に、特に有用である。
【0085】
また、この実施形態においては、中間コンデンサ86および外側コンデンサ88の静電容量C86,C88の少なくとも一方を直列共振を起こすときの値に近づけることで、内側コイル58に流れる内側コイル電流Iiを減少させることが可能である。また、中間コンデンサ86および外側コンデンサ88の静電容量C86,C88の少なくとも一方を直列共振を起こすときの値から離すことで、内側コイル電流Iiを増大させることも可能である。すなわち、内側コイル電流Iiと中間コイル電流Imと外側コイル電流Ioとの間には、Ii:Im:Io=(1/Zi):(1/Zm):(1/Zo)の関係がある。したがって、C86および/またはC88を直列共振を起こすときの値に近づけると、Zmおよび/またはZoが直列共振に近づくほど小さな値になり、それによって、相対的にImおよび/またはIoが大きくなり、相対的にIiが小さくなる。また、C86および/またはC88を直列共振を起こすときの値から離すと、Zmおよび/またはZoが直列共振から離れるほど大きな値になり、それによって、相対的にImおよび/またはIoが小さくなり、相対的にIiが大きくなる。

[RFアンテナに関する他の実施例または変形例]
【0086】
上記実施形態では、プラズマ密度分布を制御するうえで(特に均一化するうえで)、内側コイル電流Iiの電流量を増やす方向に可変する必要はないとの観点から内側コイル58にはコンデンサを付けなかった。
【0087】
しかし、内側コイル電流Iiの電流量を積極的または強制的に制御することが有用である場合もある。たとえば、チャンバ10内の圧力が低い場合は、プラズマは径方向中心部に集まりやすい傾向がある。この問題に対しては、上記のように外側コンデンサ88の静電容量C88を可変して内側コイル電流Iiと外側コイル電流Ioの比を調整することにより大方対処できるが、それでも対処しきれない場合がある。
【0088】
そこで、図6Aおよび図6Bに示すように、RFアンテナ54において、第1ノードNAと第2ノードNBとの間に内側コイル58と電気的に直列に固定または半固定の内側コンデンサ104を接続する。この構成においても、内側コイル58と内側コンデンサ104の合成リアクタンス(以下「内側合成リアクタンス」と称する。)Xiが所望の値になるように、内側コンデンサ104の静電容量C104を適度な値に選定または調整することが可能である。このように固定または半固定の内側コンデンサ104と可変の外側コンデンサ88を設ける場合も、各コイルのターン数や外側コンデンサ88の静電容量C88の可変制御に関して上記と同様の条件式(2),(3)が当てはまる。
【0089】
また、プラズマ密度分布制御の自由度ないし精度をある程度犠牲にするが、コスト低減のために図7Aおよび図7Bに示すように内側コンデンサ104に可変コンデンサを用いて外側コンデンサ88に固定または半固定コンデンサを用いる構成も可能であり、あるいは図示省略するが中間コンデンサ86に固定または半固定コンデンサを用いる構成であり、さらには中間コンデンサ86を省く構成も可能である。
【0090】
このように固定または半固定の外側コンデンサ88と可変の内側コンデンサ104を設ける場合は、様々な条件下でプラズマ密度分布を均一化するうえで、内側コイル電流Iiと内側コイル58のターン数niの積Ii*niの可変範囲が外側コイル電流Ioと外側コイル62のターン数noの積I0*noよりも小さい下限値と大きい上限値をもつことが望ましい。内側コイル電流Iiと外側コイル電流Ioの比が内側コイル58および内側コンデンサ104の合成インピーダンス(内側合成インピーダンス)と外側コイル62および外側コンデンサ88の合成インピーダンス(外側合成インピーダンス)の逆数の比に比例することから、外側インピーダンス(固定値)をZ0、内側合成インピーダンス(可変値)の最小値および最大値をそれぞれZi(min),Zi(max)とすると、このコイル電流×ターン数に関する上記の条件は、次のように表わされる。
【数4】

・・・(4)
【0091】
さらに、内側合成インピーダンスZiおよび外側合成インピーダンスZoは、結線部を除けばそれぞれの平均コイル半径に依存する。結線部の影響は無視できないが支配的な影響ではないので、上記の条件を次のように表わすこともできる。
【数5】

・・・(5)
ここで、Ci(min)は、調整可能範囲の中で内側合成インピーダンスZiを最小にするときの内側コンデンサ104の静電容量C104の値である。Ci(max)は、調整可能範囲の中で内側合成インピーダンスZiを最大にするときの内側コンデンサ104の静電容量の値である。なお、Ci(min),Ci(max)は、必ずしもC104の可変範囲の最小値および最大値に一致するものではない。内側合成インピーダンスZiが最小になるのは、内側コイル58と内側コンデンサ104が直列共振を起こすときであり、Ci(min)はそのときの内側コンデンサ104の静電容量C104の値である。また、内側合成インピーダンスZiが最大になるのは、その直列共振点から内側コンデンサ104の静電容量C104を可変範囲の上限あるいは下限まで離していったときのどちらか一方であり、Ci(max)はそのときの内側コンデンサ104の静電容量C104の値である。
【0092】
このように、内側コイル58には可変の内側コンデンサ104を接続し、外側コイル62には固定または半固定の外側コンデンサ88を直列に接続し、内側コンデンサ104の静電容量C104を可変することにより、内側コイル電流Iiと外側コイル電流Ioの比を任意に調整し、RFアンテナ54の直下で生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布の大まかなプロファイル(特に中心部と周辺部のバランス)を任意に制御することができる。
【0093】
また、変形例として、内側コイル電流Iiの電流量を積極的または強制的に減らすために、図8に示すように、第1ノードNAと第2ノードNBとの間に内側コイル58と電気的に直列に好ましくは可変のインダクタ106を接続する構成も可能である。この場合、中間コンデンサ86も別の可変インダクタに置き換える構成、あるいはコスト低減のために外側コンデンサ88を省く構成等が可能である。
【0094】
この実施形態のRFアンテナ54を構成する各コイル58,60,62のループ形状は円形に限るものではなく、被処理体の形状等に応じて、たとえば図9に示すような四角形であってもよい。このようにコイル58,60,62のループ形状が多角形である場合でも、中間コイル60および外側コイル62には可変の中間コンデンサ86および外側コンデンサ88をそれぞれ電気的に直列接続する一方で、内側コイル58にはコンデンサを一切接続しない構成を好適に採ることができる。
【0095】
なお、2辺の長さがそれぞれa,bで、巻線の太さが半径dの長方形コイルのインダクタンスLは次の式(6)で表わされる。
【数6】

・・・(6)
この式(6)から分かるように、長方形コイルのインダクタンスLはおおよそ2つの辺a,bの長さに比例する。よって、円形コイルの場合と同様に、内側コイル58にはコンデンサを設けなくても、中間コンデンサ86および外側コンデンサ88によってプラズマ密度分布を簡便かつ任意に制御することができる。
【0096】
図10には、RFアンテナ54を構成するコイル(内側コイル58/中間コイル60/外側コイル62)の各々が空間的かつ電気的に並列な関係にある一対のスパイラルコイルからなる例を示す。波長効果がそれほど問題にならない場合は、このようなスパイラルコイルを使用してもよい。
【0097】
図示の構成例において、内側コイル58は、周回方向で180°ずらして並進する一対の複数ターン(図示の例ではそれぞれ2ターン)のスパイラルコイル58a,58bからなる。これらのスパイラルコイル58a,58bは、高周波電源72側のノードNAよりも下流側に設けられたノードNCとアースライン70側のノードNBよりも上流側に設けられたノードNDとの間で電気的に並列に接続されている。
【0098】
中間コイル60は、周回方向で180°ずらして並進する一対の複数ターン(図示の例ではそれぞれ2ターン)のスパイラルコイル60a,60bからなる。これらのスパイラルコイル60a,60bは高周波電源72側のノードNAよりも下流側に設けられたノードNEとアースライン側のノードNBよりも(さらには中間コンデンサ86よりも)上流側に設けられたノードNFとの間で電気的に並列に接続されている。
【0099】
外側コイル62は、周回方向で180°ずらして並進する一対の複数ターン(図示の例ではそれぞれ2ターン)のスパイラルコイル62a,62bからなる。これらのスパイラルコイル62a,62bは高周波電源72側のノードNAよりも下流側に設けられたノードNGとアースライン70側のノードNBよりも(さらには外側コンデンサ88よりも)上流側に設けられたノードNHとの間で電気的に並列に接続されている。
【0100】
このように、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62をそれぞれki,km,ko個のスパイラルコイルに並列に分割した場合、RFアンテナ54にコンデンサが一切付かないとすると、各コイル58,60,62の直下に生成されるプラズマの密度ni,nm,noの比は、次の近似式(3)のようになる。
i:nm:no≒(ki/ri):(km/ri):(ko/ri) ・・・(3)
【0101】
したがって、図示の例のように、分割数ki,km,koが同じ(2つ)である場合は、内側コイル58の直下で生成されるプラズマつまり中心部のプラズマの密度が相対的に高くなってしまう。このような場合は、内側コイル58にはコンデンサを接続しないで、中間コイル60および外側コイル62に可変の中間コンデンサ86および外側コンデンサ88をそれぞれ直列に接続する構成が最も望ましい。
【0102】
また、別の変形例として、図11に示すように、中間コンデンサ86および外側コンデンサ88を高周波電源72側の第1ノードNAと中間コイル60および外側コイル62のRF入口端60in,62inとの間にそれぞれ接続する構成も可能である。このように、インピーダンス調整用のコンデンサまたはインダクタを第1ノードNAと各コイルとの間に接続する構成は、他の実施例または変形例(図6A,図8,図9,図10)にも適用可能である。
【0103】
図12に、RFアンテナ54の終端側で、つまり第2ノードNBとアースライン70との間(あるいはアースライン70上)にRFアンテナ54内のすべてのコイル58,60,62と電気的に直列に接続される出側の共通コンデンサ108を備える構成を示す。この出側(終端)の共通コンデンサ108は、通常は固定コンデンサであってよいが、可変コンデンサであってもよい。
【0104】
この出側(終端)共通コンデンサ108は、RFアンテナ54全体のインピーダンスを調整する機能を有するだけでなく、RFアンテナ54の全体の電位を接地電位から直流的に引き上げて、天板または誘電体窓52が蒙るイオンスパッタを抑制する機能を有する。
【0105】
図示省略するが、RFアンテナ54において、内側コイル58の径方向内側および/または外側コイル62の径方向外側に更に別のコイルを配置し、全体で4つ以上のコイルを径方向に間隔を空けて配置し、かつ電気的に並列接続する構成も可能である。
【0106】
上述した実施形態における誘導結合型プラズマエッチング装置の構成は一例であり、プラズマ生成機構の各部はもちろん、プラズマ生成に直接関係しない各部の構成も種種の変形が可能である。
【0107】
たとえば、RFアンテナの基本形態として、平面型以外のタイプたとえばドーム型等も可能である。処理ガス供給部においてチャンバ10内に天井から処理ガスを導入する構成も可能であり、サセプタ12に直流バイアス制御用の高周波RFLを印加しない形態も可能である。
【0108】
さらに、本発明による誘導結合型のプラズマ処理装置またはプラズマ処理方法は、プラズマエッチングの技術分野に限定されず、プラズマCVD、プラズマ酸化、プラズマ窒化、スパッタリングなどの他のプラズマプロセスにも適用可能である。また、本発明における被処理基板は半導体ウエハに限るものではなく、フラットパネルディスプレイ用の各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等も可能である。
【符号の説明】
【0109】
10 チャンバ
12 サセプタ
26 排気装置
52 誘電体窓
54 RFアンテナ
58 内側コイル
60 中間コイル
62 外側コイル
66 高周波給電部
70 アースライン
72 プラズマ生成用の高周波電源
74 整合器
80 処理ガス供給源
84 主制御部
86 中間コンデンサ
88 外側コンデンサ
90 容量可変部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体の窓を有する処理容器と、
前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、
前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、
前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、
前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部と
を具備し、
前記RFアンテナが、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルを有し、
前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと、前記外側コイルと電気的に直列に接続される可変の外側コンデンサとが設けられ、
前記内側コイルは、前記第1のノードと前記第2のノードとの間にリアクタンス素子を介さずに接続されている、
プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記内側コイルおよび前記外側コイルの巻数をそれぞれNi,No、前記内側コイルのインピーダンスをZi、前記外側コンデンサの静電容量を可変することによって得られる前記外側コイルおよび前記外側コンデンサの合成インピーダンスの最大値および最小値をそれぞれZo(max)、Zo(min)とすると、次の不等式が成立する、請求項1に記載のプラズマ処理装置。

【請求項3】
前記内側コイルおよび前記外側コイルはそれぞれ円環状コイルであって、それらの半径をri,ro、両コイルのコイル導線の太さの半径をa、真空中の透磁率をμo、前記外側コイルおよび前記外側コンデンサの合成インピーダンスが最大値Zo(max)および最小値Zo(min)になるときの前記外側コンデンサの静電容量をそれぞれCo(max)、Co(min)とすると、次の不等式が成立する、請求項2に記載のプラズマ処理装置。

【請求項4】
前記内側コイル、前記中間コイルおよび前記外側コイルには、周回方向で同じ向きの電流がそれぞれ流れる、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記中間コイルには、前記内側コイルを流れる電流と周回方向で逆向きの電流が流れる、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記中間コンデンサは、前記中間コイルと直列共振を起こすときの値よりも小さな値の静電容量を有する、請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記外側コイルには、前記内側コイルを流れる電流と周回方向で同じ向きの電流が流れる、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記外側コンデンサは、前記外側コイルと直列共振を起こすときの値よりも大きな値の静電容量を有する、請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記外側コイルには、前記内側コイルを流れる電流と周回方向で逆向きの電流が流れる、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記外側コンデンサは、前記外側コイルと直列共振を起こすときの値よりも小さな値の静電容量を有する、請求項9に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
誘電体の窓を有する処理容器と、
前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、
前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、
前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、
前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部と
を具備し、
前記RFアンテナが、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルを有し、
前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記内側コイルと電気的に接続される固定もしくは半固定の内側コンデンサと、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと、前記外側コイルと電気的に直列に接続される可変の外側コンデンサとが設けられている、
プラズマ処理装置。
【請求項12】
前記内側コイルおよび前記外側コイルの巻数をそれぞれNi,No、前記内側コイルのインピーダンスをZi、前記外側コンデンサの静電容量を可変することによって得られる前記外側コイルおよび前記外側コンデンサの合成インピーダンスの最大値および最小値をそれぞれZo(max)、Zo(min)とすると、次の不等式が成立する、請求項11に記載のプラズマ処理装置。

【請求項13】
前記内側コイルおよび前記外側コイルはそれぞれ円環状コイルであって、それらの半径をri,ro、両コイルのコイル導線の太さの半径をa、真空中の透磁率をμo、前記外側コイルおよび前記外側コンデンサの合成インピーダンスが最大値Zo(max)および最小値Zo(min)になるときの前記外側コンデンサの静電容量をそれぞれCo(max)、Co(min)とすると、次の不等式が成立する、請求項12に記載のプラズマ処理装置。

【請求項14】
誘電体の窓を有する処理容器と、
前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、
前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、
前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、
前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部と
を具備し、
前記RFアンテナが、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルを有し、
前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記内側コイルと電気的に接続される固定もしくは半固定の内側インダクタと、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと、前記外側コイルと電気的に直列に接続される可変の外側コンデンサとが設けられている、
プラズマ処理装置。
【請求項15】
誘電体の窓を有する処理容器と、
前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、
前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、
前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、
前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部と
を具備し、
前記RFアンテナが、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルを有し、
前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記内側コイルと電気的に接続される可変の内側コンデンサと、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと、前記外側コイルと電気的に直列に接続される固定もしくは半固定の外側コンデンサとが設けられている、
プラズマ処理装置。
【請求項16】
前記内側コイルおよび前記外側コイルの巻数をそれぞれNi,No、前記外側コイルのインピーダンスをZo、前記内側コンデンサの静電容量を可変することによって得られる前記内側コイルおよび前記内側コンデンサの合成インピーダンスの最大値および最小値をそれぞれZi(max)、Zi(min)とすると、次の不等式が成立する、請求項15に記載のプラズマ処理装置。

【請求項17】
前記内側コイルおよび前記外側コイルはそれぞれ円環状コイルであって、それらの半径をri,ro、両コイルのコイル導線の太さの半径をa、真空中の透磁率をμo、前記内側コイルおよび前記内側コンデンサの合成インピーダンスが最大値Zi(max)および最小値Zi(min)になるときの前記内側コンデンサの静電容量をそれぞれCi(max)、Ci(min)とすると、次の不等式が成立する、請求項16に記載のプラズマ処理装置。

【請求項18】
前記第2のノードと接地電位の部材との間で接続されている出口側共通コンデンサを有する、請求項1〜17のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項19】
誘電体の窓を有する処理容器と、前記処理容器内で被処理基板を保持する基板保持部と、前記基板に所望のプラズマ処理を施すために、前記処理容器内に所望の処理ガスを供給する処理ガス供給部と、前記処理容器内で誘導結合により処理ガスのプラズマを生成するために、前記誘電体窓の外に設けられるRFアンテナと、前記処理ガスの高周波放電に適した周波数の高周波電力を前記RFアンテナに供給する高周波給電部とを有するプラズマ処理装置において前記基板に所望のプラズマ処理を施すプラズマ処理方法であって、
前記RFアンテナを、径方向に間隔を開けて相対的に内側、中間および外側にそれぞれ配置され、前記高周波給電部の高周波伝送路に設けられた第1および第2のノードの間で電気的に並列に接続される内側コイル、中間コイルおよび外側コイルに分割し、
前記第1のノードと前記第2のノードとの間に、前記内側コンデンサに接続されるリアクタンス素子を設けずに、前記中間コイルと電気的に直列に接続される可変の中間コンデンサと前記外側コイルと電気的に直列に接続される可変の外側コンデンサとを設け、
前記中間コンデンサおよび前記外側コンデンサの静電容量を選定または可変制御して、前記基板上のプラズマ密度分布を制御する、
プラズマ処理方法。
【請求項20】
前記中間コンデンサおよび前記外側コンデンサの静電容量の少なくとも一方を直列共振を起こすときの値に近づけることで、前記内側コイルに流れる電流を減少させる、請求項19に記載のプラズマ処理方法。
【請求項21】
前記中間コンデンサおよび前記外側コンデンサの静電容量の少なくとも一方を直列共振を起こすときの値から離すことで、前記内側コイルに流れる電流を増大させる、請求項19に記載のプラズマ処理方法。
【請求項22】
前記被処理基板上のプラズマ密度が径方向で均一になるように、前記中間コンデンサおよび前記外側コンデンサの静電容量を調整する、請求項19に記載のプラズマ処理方法。
【請求項23】
前記中間コイルおよび前記外側コイルのそれぞれのターン数とコイル電流の電流量との積の値を前記内側コイルのターン数とコイル電流の電流量との積の値に揃えることにより、前記被処理基板上のプラズマ密度を径方向で均一になるように調整する、請求項19に記載のプラズマ処理方法。
【請求項24】
前記中間コンデンサの静電容量を前記中間コイルと直列共振を起こすときの値よりも小さい範囲で可変制御して、前記中間コイルには前記内側コイルを流れる電流と周回方向で逆向きの電流を流す、請求項19に記載のプラズマ処理方法。
【請求項25】
前記中間コンデンサの静電容量を前記中間コイルと直列共振を起こすときの値よりも大きい範囲で可変制御して、前記中間コイルには前記内側コイルを流れる電流と周回方向で同じ向きの電流を流す、請求項19に記載のプラズマ処理方法。
【請求項26】
前記外側コンデンサの静電容量を前記外側コイルと直列共振を起こすときの値よりも小さい範囲で可変制御して、前記外側コイルには前記内側コイルを流れる電流と周回方向で逆向きの電流を流す、請求項19に記載のプラズマ処理方法。
【請求項27】
前記外側コンデンサの静電容量を前記外側コイルと直列共振を起こすときの値よりも大きい範囲で可変制御して、前記外側コイルには前記内側コイルを流れる電流と周回方向で同じ向きの電流を流す、請求項19に記載のプラズマ処理方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−209354(P2012−209354A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72582(P2011−72582)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】