説明

プラズマ処理装置

【課題】試料の温度分布を所望の値に制御することができるとともに、信頼性の高い、長寿命のプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】真空処理室と、該真空処理室に配置された試料台を備え、前記真空処理室内にプラズマを生成して、前記試料台に載置した試料にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置において、前記試料台107は、円柱状の基材部201と、該基材部上に配置されヒータ電極膜を備えた誘電体膜部202と、前記誘電体膜部上に配置され吸着用電極膜を備えたセラミクス板209と、前記誘電体膜部とセラミクス板を接着する第1の接着層207と、前記第1の接着層の側面を被覆する耐熱性の第2の接着層211と、前記第2の接着層および誘電体膜部の側面を被覆する保護部材212を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に係り、特に、試料を載置する処理台の温度を調節して、試料を処理に適した温度に調整して処理するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置は、試料台上に載置した半導体ウエハ等の試料の温度を調節しつつ、試料を処理する。ウエハの温度は、一般に試料台の温度を調節することにより調節する。また、この温度調節のためにウエハを試料台上面に吸着する目的で、試料台上には静電吸着用の電極を内部または下面に配置したセラミクス製の膜あるいは板部材が配置される。
【0003】
試料台上面に、前記セラミクス製の板部材を用いる場合、試料台上面とセラミクス製の板部材との接合には接着剤が用いられる。
【0004】
しかし、プラズマ処理装置において、例えば、酸素系あるいはフッ素系のプラズマを用いた場合、該プラズマにより前記接着剤が腐食されて、パーティクルが発生する。また、接着剤が腐食することにより、熱伝達率が下がり試料台の性能が劣化し試料台の寿命が短くなるなどの問題が生じる。このような問題に対しては、プラズマによる腐食から前記接着剤を保護する目的で保護膜を試料台に配置することが行われてきた。
【0005】
このような技術の例として、特許文献1が知られている。この文献には、外周に沿って上部に凸部が形成された基材と、前記凸部内にウエハを吸着するための静電吸着シートを配置し、さらに前記静電吸着シートを保護する目的でセラミクス製の板部材をその上部に配置するとともに、前記基材、前記静電吸着シート、前記セラミクス製の板部材を前記凸部内面に配置した接着剤によって接合し、さらに前記接着剤を保護する目的で前記基材から前記セラミクス製の板部材にかけて保護膜を溶射によって形成したものが示されている。
【0006】
プラズマから接着剤を保護する保護膜を溶射により形成することで、保護膜を容易に形成することができる。なお、接着剤が露出している箇所に溶射で保護膜を形成する場合は、溶射の熱により接着層が炭化してしまう恐れがあるが、特許文献1では、前記基材の凸部とセラミクス製の板部材の間にアスペクト比5以上の隙間が設けて、溶射の噴流が凸部内部の接着剤に到達しない構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/084298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術によれば、前記セラミクス製の板部材と基材との間に隙間を設けているので、熱の伝達が不均一となる。さらに、この隙間には、保護用の膜内を通過した処理ガスが侵入して接着剤あるいは基材を腐食させて、試料台の寿命を損なうおそれがある。
【0009】
本発明はこれらの問題点に鑑みてなされたもので、試料の温度分布を所望の値に制御することができるとともに、信頼性の高い、長寿命のプラズマ処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0011】
真空処理室と、該真空処理室に配置された試料台を備え、前記真空処理室内にプラズマを生成して、前記試料台に載置した試料にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置において、前記試料台は、円柱状の基材部と、該基材部上に配置されヒータ電極膜を備えた誘電体膜部と、前記誘電体膜部上に配置され吸着用電極膜を備えたセラミクス板と、前記誘電体膜部とセラミクス板を接着する第1の接着層と、前記第1の接着層の側面を被覆する耐熱性の第2の接着層と、前記第2の接着層および誘電体膜部の側面を被覆する保護部材を備えた。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上の構成を備えるため、試料の温度分布を所望の値に制御することができるとともに、信頼性の高い、長寿命のプラズマ処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プラズマ処理装置の構成の概略を説明する縦断面図である。
【図2】図1に示す試料載置台の構成を拡大して示す縦断面図である。
【図3】図2に示す試料載置台の外周部の構成を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図3に示す試料載置台の制作手順を示す縦断面図である。
【図5】図3に示す試料載置台の制作手順を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るプラズマ処理装置の構成の概略を説明する縦断面図である。図1において、プラズマ処理装置100は、真空容器101、該容器上方の外周に配置されて真空容器101内部に電界および磁界を供給する電磁場供給手段、真空容器101下方に配置されて真空容器101内部を排気する排気手段とを備えている。
【0015】
電磁波供給手段は、電波を発生させる電波源104、発生した電波を処理室103に導く導波管105、導波管105に接続された共振器106、共振器106と真空容器101上部を取り囲むように配置されたソレノイドコイル113を備える。
【0016】
電波源104はマイクロ波やUHF波等の所定の周波数の電波を発生する。導波管105は、電波源104と共振器106に接続され、電波源104によって発生した電波を伝搬し共振器106内へ導く。共振器106は円筒状であり、共振器106中央の上部で導波管105と接続される。共振器106の共振用の空間である共振室106’は窓部材104をはさみ、処理室103の直上に配置される。また、真空容器101上部と共振器106の外周を取り囲むように、リング状のソレノイドコイル113が複数段配置される。
【0017】
真空容器101は、真空容器101の上部にあって誘電体材料製の窓部材114、シャワープレート115、プラズマが形成される空間であって内側に配置された処理対象の試料が前記プラズマにより処理される処理室103、処理室103下部に配置されて試料がその上面に載せられて保持される試料載置台107を備える。
【0018】
前記窓部材114は石英誘電体製で円板状である。窓部材114は共振器106の底面を構成し、共振器106と処理室103の間を気密に区画している。シャワープレート115は石英等の誘電体製の円板で、中央部に複数個の貫通孔が配置される。窓部材114の下方には、窓部材114と隙間を空けてシャワープレート115が並置される。シャワープレート115の下面は処理室103の天井面を構成する。シャワープレート115は試料載置台107上面と対向し並行して配置される。窓部材114とシャワープレート115との隙間は、図示しないガス源から供給される処理用ガスを供給するための通路が設けられている。
【0019】
プラズマ処理室103は略円筒形状であって、処理対象の試料にプラズマ処理を施す際にプラズマが形成される空間である。プラズマ処理室103は、共振室106’の直下に位置し、内部に試料載置台107を備える。なお、処理室103の内壁と試料載置台107との間の空間は、中心軸が合致したリング形状になっている。
【0020】
試料載置台107は、水平方向外側に伸びる複数の梁によって、真空容器107の内部に中空に支持される。梁は試料載置台107の中心軸の周囲に軸対象となるように配置されている。試料載置台107は、バイアス電源108、冷媒温調器111、ヒータ電源109、静電吸着用電源110、ガス供給部116と接続されている。
【0021】
試料載置台107内部に導電性の電極が配置され、電極は特定の高周波電力を供給するバイアス電源108と接続されている。また、試料載置台107内部には後述のとおり、ヒータと冷媒溝が配置され、温調を行っている。
【0022】
試料載置台107の上部には試料の載置面を構成するAl2O3やY2O3等の誘電体材料で構成された誘電体膜が配置され、その内部にはウエハを誘電体膜表面上に静電気力により吸着する静電吸着電極が配置されている。この静電吸着電極には、直流電力を供給する静電吸着電極用直流電源110が接続されている。
【0023】
真空容器101の下方には、排気手段であるターボ分子ポンプ等の真空ポンプ102が配置され、開口部117と連通している。開口部117は円形で、真空容器101の内部の処理室103の下部の試料台107の直下方に配置される。なお、試料室103、試料載置台107、開口部117は、その中心軸が合致するよう上下に並べて配置される。
【0024】
本実施形態のプラズマ処理装置では、図示しない搬送部によりウエハをプラズマ処理室103内部へ搬送し、プラズマ処理室103内に処理ガスを導入した後、プラズマ処理室103内にプラズマを生成し、生成されたプラズマにより前記ウエハを処理する。
【0025】
すなわち、処理室103内部は真空ポンプ102によって排気され、減圧された状態にある。このとき、ウエハは、図示しないロボットアーム等の搬送手段により、図示しないゲートを通り試料載置台107上に搬送され、試料載置台107の載置面を構成する誘電体膜上に載せられる。その後、静電吸着電極用直流電源110から誘電体膜内の電極に電力が供給されて静電気力が形成され、ウエハは、この静電気力が形成された誘電体膜上に吸着されて保持される。
【0026】
ウエハが試料載置台107に保持された後、処理用ガスが図示しないガス源からシャワープレート115の貫通孔を通り処理室103内に導入される。処理用ガスの流量と真空ポンプ102の動作による排気とのバランスにより、処理室103内部の圧力は所定の範囲に調節される。
【0027】
処理用ガスの供給後に電波源104は電波を発生させる。発生した電波は導波管105を伝播し、共振器106に導かれる。伝播した電波は共振器内部106’で共振し、所定の強度の電界を形成する。この形成された電界は、窓部材114、シャワープレート115を透過して処理室103に供給される。
【0028】
ソレノイドコイル113には電流が供給され処理室103内に磁界が形成される。形成される磁界は、処理室103内側に上下方向の中心軸の周りに軸対象で下向き末広がりの形状である。
【0029】
このようにして形成された電界と磁場の相互作用により、処理用ガスを励起して、処理室103内のウエハを保持した試料載置台107上方の空間にプラズマを形成する。
【0030】
バイアス電源108からの高周波電力によって形成されたバイアス電位は、ウエハ表面にプラズマ中の荷電粒子を誘引して、ウエハ表面の処理対象の膜に物理的、化学的反応を生起させてエッチング等の処理を施す。
【0031】
本実施形態では、プラズマの生成は、マイクロ波による電界と磁界との相互作用によるECRを用いたが、ECRに限定されるものではなく、高周波を用いた静電結合手段または誘導結合手段を用いたプラズマ生成手段を用いることもできる。また、後述するように、試料台107に保持されたウエハ処理の最中に、試料載置台107内部のヒータや温調器を作動させることによりウエハ温度を調節することができる。
【0032】
図2は図1に示す試料載置台107の構成を拡大して示す縦断面図である。試料載置台107は、2段以上の肩部を持った円板形状であり、Ti、セラミクス含有のアルミニウム、モリブデン、タングステン等の金属で構成される基材部201、基材部201の上面に接合されて配置され、内部にヒータを備えたAl2O3等の誘電体を備えた誘電体膜部202、該誘電体膜部202の上方に配置されたAl2O3等の誘電体で形成された焼結セラミクス板209を備える。また、試料載置台107には、ガス導入部と連結した貫通孔213、ウエハリフト用のピンが貫通する貫通孔214が配置されている。
【0033】
基材部201の内部には、冷媒が内部を流れる冷媒通路である冷媒溝203、基材上面の温度を測定する温度センサ210、貫通孔213,214が配置されている。
【0034】
冷媒溝203は、冷媒が導入される入口部及び排出される出口部が管路により真空容器101外部の温調器111と連結されている。温調器111は冷媒溝203を通り循環される冷媒の流量(速度)や冷媒の温度をコントローラ112からの指令信号に応じて調節する。冷媒溝203の形状は、試料載置台107の上下方向の中心軸の周りに同心状またはら旋状に配置されている。冷媒は冷媒溝203を流れ、基材201を冷却する。基材201が冷却されることで、試料台107に保持されたウエハが冷却される。
【0035】
温度センサ210には、熱電対あるいは白金測温抵抗体などが用いられる。基材部201の下方から上方に向けて穴が配置されており、温度センサ210はその内部に配置される。温度センサ210はコントローラ112と電気的に接続されている。
【0036】
誘電体膜部202は、基材201上面に配置された第一誘電体膜204、誘電体膜204の上に所定の形状となるように溶射により形成されたヒータ電極膜205、これら溶射膜を覆うように形成された第二誘電体膜206によって形成される。
【0037】
第一誘電体膜204は基材部201の上にAl2O3等からなる溶射によって形成され、所定の形状となるよう成形される。第一誘電体膜204によって、ヒータ電極膜205と基材201は電気的絶縁状態になる。
【0038】
ヒータ電極膜205は、第一誘電体膜204の上面に形成される。ヒータ電極膜205には、タングステン、抵抗率を制御したニッケル−クロム合金、ニッケル‐アルミ合金、あるいはタングステンに適当な添加金属を混ぜ抵抗率を制御したものなど抵抗率が管理された金属が用いられる。ヒータ電極205はヒータ用直流電源109と電気的に接続されている。
【0039】
ヒータ電極膜205は、実現を求められるウエハまたは試料載置台107の表面の温度の分布に応じて所定の形状に、マスクを用いて溶射される。溶射後、製膜されたヒータ電極膜205の膜の厚さは各箇所で単位面積当たりの発熱量が均一となるように削って調節される。これにより、ヒータ電極膜205が配置された領域で発熱量が均一化され、ウエハ周方向、径方向について温度分布の均一性が向上する。
【0040】
溶射された第一誘電体膜204及びヒータ電極膜205の上面と基材部201の側面に、再びAl2O3等の誘電体材料が溶射によって吹き付けられ第二誘電体膜206が形成される。基材部201の上面と第二誘電体膜206の上面との距離を、第一、二誘電体膜204,206、ヒータ電極膜205が配置された領域の全体で平面度を出すため第二誘電体膜206上面は削って調節される。
【0041】
溶射によって形成されたこれらの膜は、融解または半融解した材料の微小な粒子が膜により覆われる対象の表面上に吹き付けられて、表面と衝突した衝撃で変形した粒子が積み重なって積層されたものである。これらの粒子同士は対象の表面に衝突した際に、粒子の表面が融解した状態で接触して接合され融着し、粒子間には微小な空間が形成されている。このため膨張、収縮等変形によって部材の欠損や割れの発生が生じにくく脆性が相対的に低い。また、膜を形成した後の切削等形状の変更が容易となる。
【0042】
誘電体膜部202の上方には焼結セラミクス板部209’が配置される。焼結セラミクス板部209’は第二誘電体膜206の上面に接着剤207を用いて接合された焼結セラミクス板209と、接着剤207の側面を覆う接着剤211と、接着剤211を覆うセラミクス製保護部材212を備える。
【0043】
焼結セラミクス板209は、Al2O3あるいはY2O3等のセラミクス材料を所定の厚さと径とを有する円板形状に焼成して形成した焼結体である。所定の厚さは、例えば厚さ0.2〜0.4mmである。焼結セラミクス板209には、その厚さ方向の中間部分である内部にタングステン等の金属から構成される静電吸着用電極膜208が配置されている。焼結セラミクス板209の下面には静電吸着用電極208と電気的に接続されたコネクター部が配置され、静電吸着用電極208は静電吸着用電源110と電気的に接続されている。また、焼結セラミクス板209の上部には凸部がその外周に沿って周上に形成されている。セラミクス板209の上部に形成された凸部は、ウエハを保持するとき、保持されたウエハと密着する。これによって、保持されたウエハと焼結セラミクス板209の間の前記凸部内周側に、後述する貫通孔213から導入される冷却ガスを充填し、保持することができる。
【0044】
焼結セラミクス板209と第二誘電体膜206を接合させる接着剤207は、熱伝導性の接着剤である。例えばAl2O3フィラーを含有したシリコーン接着剤である。接着剤211は、接着剤207の周囲を覆うよう形成される。接着剤211は耐熱性接着剤であり、保護部材212を形成するときの熱により、接着剤207がダメージを受けないよう保護する。保護部材212は、接着剤211の全表面、焼結セラミクス板209の外周面、第二誘電体膜206の側面をそれぞれ覆うように、溶射により形成される。保護部材212は、Al2O3等の誘電体材料製であり、プラズマから接着剤207、接着剤211を保護する目的で形成される。
【0045】
貫通孔213、214は、それぞれ基材201、誘電体膜部202、焼結セラミクス板部を貫通して配置される。貫通孔213は、ガス供給部116と結合しており、ヘリウムガスなどを試料載置台107上部に導入する。貫通孔214の内部には、試料載置台107下方よりピン215が配置される。ピン215は、試料載置台107に対して相対的に昇降しウエハの受け渡しを行う。
【0046】
本実施形態によれば、ウエハ載置面の温度を調整することで、ウエハにプラズマ処理施しているとき、ウエハの温度を調整することができる。
【0047】
前述したように、ウエハは、図示されない搬送手段あるいはピン215等の操作により、焼結セラミクス板209上面に載置される。その後、静電吸着用直流電源110から静電吸着用電極208へ電力が供給されて静電気力が形成される。これにより、ウエハは誘電体膜である焼結セラミクス板209に吸着され保持される。
【0048】
焼結セラミクス209にウエハが吸着保持された後、ウエハにバイアス電位が印加される。プラズマを用いてウエハを処理するときは、ウエハに入熱を伴う。この入熱に伴うウエハ温度の上昇はエッチング形状に大きく影響する。このためウエハを冷却する必要がある。
【0049】
しかし、処理室103は減圧されているため、試料載置台107にウエハを載置しただけでは熱伝達が不十分である。このため、貫通孔213を通してガス供給部116より、冷却ガスを焼結セラミクス板209と焼結セラミクス板209表面に形成された凸部と載置されたウエハの間に導入する。これにより、ウエハと焼結セラミクス板209間に必要な熱伝達率が確保され、ウエハの温度上昇が抑制される。なお、冷却ガスは、圧力のモニタ信号のもとにコントローラ112によって所定の圧力に維持される。
【0050】
基材上面の温度は温度センサ210によって検知されている。温度センサ210が検知した温度は、コントローラ112に受信される。コントローラ112は、検出された基材部201の温度をもとに、コントローラ112内部の演算機を用いて、また、コントローラ112内部或いは通信可能に接続されたハードディスク等の外部記憶媒体に記憶されたプログラムを用いて、載置面である焼結セラミクス板209上面の温度、あるいはこれに載せられたウエハの温度あるいはその分布を推定することができる。
【0051】
コントローラ112は、予め上記記憶装置内に記憶されたプログラムを用いて、焼結セラミクス板209またはウエハの温度の検出結果に応じヒータ電極用直流電源109が出力すべき電力値を演算して検出する。この電力値を出力するようにヒータ電極用直流電源109に指令を発信することで、ヒータ電極膜205の発熱量を調整することができる。 このように、検知された試料載置台107の温度は、制御部であるコントローラ112にフィードバックされこる。これによりヒータ電極膜205の発熱量が調節され、加工に最適なウエハの温度またはその分布が実現される。
【0052】
また、基材部201および焼結セラミクス板209との熱膨張率をほぼ同じ値に設定する。熱膨張率が異なる場合、溶射により保護部材212を形成するときの入熱、あるいは試料載置台107にウエハを保持しプラズマによって処理する際のプラズマあるいは前記ヒータ電極膜205からの入熱によって、基材部201あるいは焼結セラミクス板209のどちらか一方が他方よりも大きく膨張し、保護部材212が割れる恐れがある。このため、焼結セラミクス板209と膨張率がほぼ同じになるように、Ti、セラミクス含有のアルミニウム、モリブデン、タングステン等の金属で基材部201を構成する。これにより、保護部材212の割れを回避することができる。
【0053】
本実施形態においては、ウエハ上に形成された処理対象の複数の膜の各処理の間において、ウエハの面方向について、温度の分布(温度プロファイル)を各々の処理に適切なものとなるように変化させる。なお、上方の膜の処理を終了させて温度プロファイルを上方の膜用のものから下方の膜に適した値に変化させている間は、バイアス電源108からのバイアス用電力の供給を停止する(この間に膜の処理を行うと温度の条件が最適でないことから、加工形状が所期のものから大きくズレてしまう)。
【0054】
温度のプロファイルをより速く変化させて所望のものにする上では、ヒータ電極膜205から電極表面までの熱容量を小さくすることが望ましい。このため、本実施形態では焼結セラミック板209の厚さの上限を0.4mmとしている。一方、熱容量を減少させるため焼結セラミック板209の厚さはできるだけ薄いほうが望ましい。しかし、焼結セラミック板209に内蔵された静電吸着用電極膜208には、ウエハを静電吸着するための電圧が印加されるため、焼結セラミクス板209が絶縁破壊を起こさないように下限の厚さを0.2mmとしている。
【0055】
図3は、図2に示す試料載置台107の外周部の構成を拡大して示す縦断面図である。図3に示すように、焼結セラミクス板209の外周は第二誘電体膜206の外周よりも大きくなるように形成される。すなわち、図3に示された焼結セラミクス209の外周面と第二誘電体膜206の外周面の距離δ3は0mmよりも大きく取られる。距離δ3を設けることで、接着剤211は焼結セラミクス板209の下面のみに塗布することができる。このため、保護部材212を形成した後、焼結セラミクス板209及び保護部材212を外周に沿って面取り加工しても接着剤211がウエハを載置する表面に現れることはない。
【0056】
また、本実施形態において、使用される接着剤211は接着剤207よりも熱伝達率が小さい。本実施形態のように、電極表面の温度を高速で変化させ、またヒータ電極205の単位面積当たりの発熱量が膜全体で均一となるよう調節されたウエハ処理装置においては、試料載置台107に載置されたウエハからヒータ電極膜205までの間の熱伝達率は均一であることが望ましい。そのため、接着剤211はヒータ電極205よりも外周に配置され、試料載置台107に載置されたウエハからヒータ電極膜205までの間には接着剤207が配置される。すなわち、図3に示された接着剤211と接着剤207の接合面とヒータ電極205の最外周面の距離δ1は0mmよりも大きく取られる。
【0057】
焼結セラミクス板209の凸部の内周部は、接着剤211よりも内側にある。すなわち、図3に示された焼結セラミクス板209の凸部の内周面と接着剤211と接着剤207の接合面の距離δ2は0mmよりも大きい。距離δ2をとることで、冷却ガスによる熱交換において、接着剤211のウエハ温度調整への影響を減らすことができる。
【0058】
図4,5は、図3に示す試料載置台107の制作手順を示す縦断面図である。まず、図4(a)に示すように、基材201の上面に第一誘電体膜204を溶射により形成し、形成され第一誘電体膜204の上面にヒータ電極膜205を溶射により形成する。第一誘電体膜204は、基材201の上面のみに溶射し、溶射した後、所定の平面度が出るように研磨する。ヒータ電極膜205は、第一誘電体膜204の上面に、要求されるウエハまたは試料載置台107の表面の温度分布に応じた所定の形状になるように、マスクを用いて溶射により形成される。その後、ヒータ電極膜の膜厚は削られて、単位面積当たりの発熱量が等しくなるように調整される。
【0059】
図4(b)は、第二誘電体膜が溶射された状態を示す。第二誘電体膜206は基材部201の下面を除いた基材201の側面、肩部及び溶射に形成された第一誘電体膜204、ヒータ電極膜205の表面を覆い、溶射により形成される。溶射された第二誘電体膜206は前述と同様に平面度を出すために調整される。
【0060】
図4(c)は、焼結セラミクス板209を、接着剤207を用いて、第二誘電体膜206の上面に接合した状態を示す。焼結セラミクス板209は、内部に所定の形状の静電吸着膜208が包含され配置されている。また、所定の厚みと径を有する円板状となるよう、第二誘電体膜206と接合される前に焼成されている。
【0061】
まず、溶射により形成された第二誘電体膜206の上面全体に接着剤207を塗布する。その後、焼結セラミクス板209、第二誘電体膜206、ヒータ電極膜205、第一誘電体膜204、基材201は、接着材207の層を挟んで押しつけられて、これらを所定の温度で加熱することで接着剤207は硬化する。これにより焼結セラミクス板209と第二誘電体膜206は接合し、一体に形成される。
【0062】
なお、静電吸着用電極膜208は焼結セラミクス板209の下面に露出するように配置されても良い。第二誘電体膜206と焼結セラミクス板209を接合するときに、第二誘電体膜206と焼結セラミクス板209の間から接着剤207がはみ出した接着剤207は除去して、形状を整える。
【0063】
図4(d)は、接着剤207の表面を覆って接着剤211を成形した状態を示す。接着剤211は、接着剤207の側面の全面と、焼結セラミクス板209、第二溶射膜206にかけて塗布され、接着剤207は不可視の状態になる。接着剤211は耐熱性接着剤であり、オーブンなどが用いて加熱して硬化する。この接着剤211としては、例えばアロンセラミクスD(東亞合成(株)製)を用いる。アロンセラミクスDは硬化させるときの温度が150℃であり、試料載置台107へ熱によるダメージを与えることなく硬化させることができる。
【0064】
図5(a)は、保護部材212を溶射により形成した状態を示す。保護部材212は焼結セラミクス209の側面、接着剤211の側面、第二誘電体膜206の側面を隙間なく覆うように溶射により形成される。接着剤211が配置されていることで、接着剤207に溶射粒子が届くことがなく、接着剤207は溶射によるダメージを受けることがない。
【0065】
図5(b)は、保護部材212を溶射により形成した後に、ウエハ載置面となる焼結セラミクス板209の上面を加工した状態を示す。焼結セラミクス板209の上面は研磨などにより所定の厚みに加工する。また、焼結セラミクス板209上面の溶射膜は取り除く。 また、焼結セラミクス209の外周部には外周部に沿って凸部が配置される。また、焼結セラミクス209の外周肩部は研磨などにより面取りが行われる。保護部材212を形成した後に焼結セラミクス209の加工を行うことで、溶射による焼結セラミクス板209の反りを防ぐことができる。
【0066】
本実施形態によれば、最外周部の熱伝達率を著しく低下させることがない、このためウエハ温度制御性の経時変化が抑制された試料載置台107を提供することができる。
【0067】
前述のように、プラズマを用いてウエハを処理するときに、ウエハにバイアス電位を印加するとウエハには入熱が生じる。このとき、ウエハの最外周部分は焼結セラミクス板209より外周に位置し温度調整ができないため、ウエハの温度が上昇しウエハ処理に悪影響を与える。
【0068】
本実施形態によれば、ヒータ電極膜205から電極表面までの熱容量を小さくするため接着剤207の厚みは0.05〜0.1mmとした。また、焼結セラミクス板209と第二誘電膜206との間に充填されている接着剤207は、耐熱性の接着剤211によって周囲が被覆されている。このため、接着剤207は保護膜212を形成する際の溶射による熱ダメージから保護されている。
【0069】
したがって、保護膜212を溶射によって形成するとき、接着剤207はダメージを受けることがなく、また接着剤211と接着剤207との間に隙間を作ることはない。また、接着剤211は耐熱性であるため、接着剤211表面にダメージを受けることなく保護膜212を形成することができる。このように、接着剤207、接着剤211、保護膜212の間に隙間が形成されることがないため、載置台の外周部における熱伝達効率を著しく低下させることがない。
【0070】
なお、接着剤211が設けられず、したがって、接着剤207と保護膜212の間に隙間ができた場合、プラズマは保護膜を通過し、保護膜212を透過したプラズマによって接着剤207は浸食される。保護膜212は溶射により形成されるため、その内部に微小な空間が形成される。このため、処理室103内部に生成されたプラズマは保護膜212を透過する。透過したプラズマは接着剤207に到達し、接着剤207を浸食し、熱伝達フィラーが移動できるようにする。移動できるようになった熱伝達フィラーは接着剤207と保護膜212の隙間に広がり、焼結セラミクス板209と第二誘電体膜206との間に隙間が発生する。これに対して、接着剤211を配置することによりフィラーの広がる空間を抑制することにより、焼結セラミクス板209と第二誘電体膜206との間に発生する隙間を抑制することができる。
【0071】
なお、焼結セラミクス板209のウエハ載置面は、保護膜212を溶射により形成した後、加工により溶射膜を取り除くことにより均一の材料とすることができる。ウエハ載置面が均一の材料となることで、焼結セラミクス板209の凸部表面のウエハと接する面に生じる経時変化を抑制することができる。これにより、伝熱ガスであるヘリウムの圧力制御性およびウエハの温度制御性の変化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0072】
100 プラズマ処理装置
101 真空容器
102 真空ポンプ
103 処理室
104 電波源
105 導波管
106 共振容器
107 試料載置台
108 バイアス電源
109 ヒータ用直流電源
110 静電吸着電極用直流電源
111 温調器
112 コントローラ
113 ソレノイドコイル
114 窓部材
115 シャワープレート
116 ガス供給部
117 開口部
201 基材部
202 誘電体膜部
203 冷媒溝
204 第一誘電体膜
205 ヒータ電極膜
206 第二誘電体膜
207 接着剤
208 静電吸着電極膜
209 焼結セラミクス板
210 温度センサ
211 接着剤
212 保護部材
213 貫通孔
214 貫通孔
215 ピン
216 ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空処理室と、該真空処理室に配置された試料台を備え、前記真空処理室内にプラズマを生成して、前記試料台に載置した試料にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置において、前記試料台は、
円柱状の基材部と、
該基材部上に配置されヒータ電極膜を備えた誘電体膜部と、
前記誘電体膜部上に配置され吸着用電極膜を備えたセラミクス板と、
前記誘電体膜部とセラミクス板を接着する第1の接着層と、
前記第1の接着層の側面を被覆する耐熱性の第2の接着層と、
前記第2の接着層および誘電体膜部の側面を被覆する保護部材を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
真空処理室と、該真空処理室に配置された試料台を備え、前記真空処理室内にプラズマを生成して、前記試料台に載置した試料にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置において、前記試料台は、
円柱状の基材部と、
該基材部上に配置されヒータ電極膜を備えた誘電体膜部と、
前記誘電体膜部上に配置され吸着用電極膜を備えたセラミクス板と、
前記誘電体膜部とセラミクス板を接着する第1の接着層と、
前記第1の接着層の側面を被覆する耐熱性の第2の接着層と、
前記第2の接着層および誘電体膜部の側面を被覆する溶射膜製の保護部材を備え、
前記第2の接着層により保護部材を形成する際の熱から第1の接着層を保護し、前記保護部材により前記第2の接着層および誘電体膜部の側面をプラズマから保護したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項2記載のプラズマ処理装置において、
前記第1の接着層の側面を被覆する耐熱性の第2の接着層の内周縁は、前記ヒータ電極膜の外周縁よりも外側に配置されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項2記載のプラズマ処理装置において、
前記第2の接着層は第1の接着層よりも耐熱性が高いことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項2記載のプラズマ処理装置において、
前記セラミクス板と保護部材を有する試料台の外周上部には、セラミクス板から保護部材に至る面取り部を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−222233(P2012−222233A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88299(P2011−88299)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】