説明

プラズマ処理装置

【課題】 誘導結合型のプラズマ処理装置において、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高める。
【解決手段】 このプラズマ処理装置は、X方向の一端部から他端部に高周波電流IR が流されるアンテナ30を備えている。アンテナ30の下面33に、上下方向の凹凸を付け、かつアンテナ30のX方向における中央部よりも両端部付近に凸部35を多く配置している。アンテナ30の下方に、アンテナ30とプラズマ50との間の電界を遮蔽するくし型のシールド導体60を備えている。シールド導体60は、Y方向に平行な線状導体62をX方向に複数有しており、かつ当該複数の線状導体62のY方向の一端部を電気的に並列接続する電気的に接地された接続導体を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマを用いて基板に、例えばプラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等の処理を施すプラズマ処理装置に関し、より具体的には、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波を用いてプラズマを生成するプラズマ処理装置に属するものとして、容量結合型プラズマ(略称CCP)を生成する容量結合型のプラズマ処理装置と、誘導結合型プラズマ(略称ICP)を生成する誘導結合型のプラズマ処理装置とがある。
【0003】
容量結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、2枚の平行導体間に高周波電圧を印加して、両導体間に発生する高周波電界を用いてプラズマを生成するものである。
【0004】
この容量結合型のプラズマ処理装置においては、プラズマに高い電圧が印加されてプラズマ電位が高くなり、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題がある。
【0005】
一方、誘導結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成するものであり、基本的に、容量結合型に比べてプラズマ電位を低くすることができる等の利点がある。
【0006】
このような誘導結合型のプラズマ処理装置の一例として、特許文献1には、平板状のアンテナを真空容器の開口部に絶縁枠を介して取り付け、当該アンテナの一端と他端間に高周波電源から高周波電力を供給して高周波電流を流し、それによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施すプラズマ処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO 2009/142016号パンフレット(段落0024−0026、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているような従来の単純な平板状のアンテナを用いてプラズマを生成する場合、その長手方向におけるプラズマ密度分布は、例えば図1に示すように、中央部のプラズマ密度よりも両端部のプラズマ密度が小さい山型の分布になる。その理由を簡単に説明すると、中央部には左右両側からプラズマが拡散して来るのに対して、両端部は片側からしかプラズマが拡散して来ないからである。
【0009】
その結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性が低下する。例えば、基板上に膜を形成する場合、アンテナの長手方向における膜厚分布は、上記プラズマ密度分布と同様に、中央部の膜厚が大きい山型の分布になり、膜厚分布の均一性が低下する。
【0010】
上記のような課題は、大型の基板に対応する等のために、アンテナを長くするほど顕著になる。
【0011】
そこでこの発明は、誘導結合型のプラズマ処理装置において、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るプラズマ処理装置は、アンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、互いに直交する2方向をX方向およびY方向とすると、前記アンテナは、そのX方向の寸法がY方向の寸法よりも大きくて、当該アンテナのX方向の一端部から他端部に前記高周波電流が流されるものであり、前記アンテナの前記真空容器内側の面である下面に、上下方向の凹凸を付け、かつ当該アンテナのX方向における中央部よりも両端部付近に凸部を多く配置しており、前記アンテナの下方に、前記アンテナから電気的に絶縁して、前記アンテナと前記プラズマとの間の電界を遮蔽するくし型のシールド導体を備えており、前記シールド導体は、それぞれがY方向に平行な線状導体をX方向に複数有しており、かつ当該複数の線状導体のY方向の一端部を電気的に並列接続する導体であって電気的に接地された接続導体を有している、ことを特徴としている。
【0013】
上記アンテナに高周波電流を流すと、表皮効果によって、高周波電流は主としてアンテナの表層部を流れる。従って、アンテナの下面に凹凸を付けておくと、高周波電流は当該凹凸に沿って上下方向に波打った経路で流れる。その結果、凸部ではより近くからプラズマに高周波電力を供給することができるので、凸部を上記のように配置しておくと、アンテナのX方向における中央部よりも両端部付近においてより強力にプラズマを生成することができる。その結果、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。
【0014】
一方、アンテナに凹凸を付けておくと、高周波電流は上記のように凹凸に沿って波打った経路で流れるので当該高周波電流の実効的な経路長が大きくなり、そのぶんアンテナのインピーダンス(特にインダクタンス)が大きくなり、それによってアンテナの両端部間の電位差が大きくなる。何も対策を講じないと、このアンテナの電位は、プラズマとの間の静電容量を介してプラズマに反映されるので、プラズマ電位も高くなる。しかしこの発明では、上記シールド導体によってアンテナとプラズマとの間の電界を遮蔽することができるので、アンテナ電位がプラズマ電位に及ぼす影響を小さく抑えて、プラズマ電位を低く抑えることができる。
【0015】
前記アンテナの凸部は、アンテナのX方向における両端部に近づくに従って下方に大きく突出しているものでも良いし、アンテナのX方向における中央部で相対的に粗、両端部付近で相対的に密に配置されているものでも良い。
【発明の効果】
【0016】
請求項1〜3に記載の発明によれば次の効果を奏する。即ち、アンテナに上記のような凹凸を付けておくと、アンテナのX方向における中央部よりも両端部付近においてより強力にプラズマを生成することができるので、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。従って、アンテナを長くして基板の大型化に対応することも容易になる。
【0017】
一方、アンテナに凹凸を付けておくと、アンテナのインピーダンス(特にインダクタンス)が大きくなり、それによってアンテナの両端部間の電位差が大きくなる。何も対策を講じないと、このアンテナの電位差は、プラズマとの間の静電容量を介してプラズマに反映されるので、プラズマ電位も高くなる。しかしこの発明では、上記シールド導体によってアンテナとプラズマとの間の電界を遮蔽することができるので、アンテナ電位がプラズマ電位に及ぼす影響を小さく抑えて、プラズマ電位を低く抑えることができる。その結果、プラズマから基板に入射する荷電粒子のエネルギーを小さく抑えることができる。それによって例えば、基板上に形成する膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナを長くする場合でも、上記理由によって、アンテナの電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナを長くして基板の大型化に対応することも容易になる。
【0018】
しかも、くし型のシールド導体を構成する各線状導体は、アンテナの長手方向と直交する向きに配置されており、かつ線状であり面積が小さいので、当該シールド導体とアンテナおよびプラズマとの間の静電容量を小さくすることができる。従って、シールド導体が一種の中間導体となって上記プラズマ電位を低く抑える効果が低下することを抑制することができる。更に、シールド導体を構成する各線状導体は、アンテナに流れる高周波電流と直交する向きに配置されていて、当該高周波電流が作る磁束と鎖交しないので、かつシールド導体全体としてもくし型をしていて閉ループを形成していないので、シールド導体内で循環電流が流れて高周波電力損失が発生することを抑制することができる。更に、シールド導体を構成する各線状導体は、線状であり面積が小さいので、それらが高周波の磁気シールドの働きをすることを抑制することができる。従って、アンテナからの電磁エネルギーを、シールド導体によって極力遮ることなく、プラズマ生成に効率良く利用することができる。
【0019】
以上のように、アンテナの下面に上記のような凹凸を付けることと、上記のようなくし型のシールド導体とを組み合わせて採用したことによって、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができると共に、プラズマ電位を低く抑えることができ、しかもシールド導体を設けていてもアンテナから放射される高周波電力をプラズマ生成に効率良く利用することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数の前記アンテナを備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。しかも、前記作用によって、各アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を良くすることができる。更に、各アンテナに可変インピーダンスを介在させていて、当該可変インピーダンスによって複数のアンテナに流れる高周波電流のバランスを調整することができるので、複数のアンテナの並列方向におけるプラズマ密度分布の均一性をも良くすることができる。その結果、より大面積でかつプラズマ密度分布の均一性の良いプラズマを生成することが可能になる。
【0021】
しかも、上記くし型のシールド導体は複数のアンテナに対応する大きさをしているので、前記と同様の作用によって、アンテナ電位がプラズマ電位に及ぼす影響を小さく抑えて、プラズマ電位を低く抑えることができる。更に、シールド導体内で循環電流が流れて高周波電力損失が発生することを抑制することができるので、高周波電力をプラズマ生成に効率良く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の単純な平板状のアンテナを用いた場合のその長手方向におけるプラズマ密度分布の概略例を示す図である。
【図2】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す断面図である。
【図3】図1中のアンテナおよびシールド導体等を示す図であり、(A)はアンテナの電位分布図、(B)は側面図、(C)は下面図である。
【図4】アンテナおよびシールド導体の他の例を示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図である。
【図5】アンテナおよびシールド導体の更に他の例を示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図である。
【図6】アンテナおよびシールド導体の更に他の例を示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図である。
【図7】シールド導体の他の例を示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図である。
【図8】シールド導体の更に他の例を示す図であり、(A)は側面図、(B)は下面図である。
【図9】複数のアンテナを並列配置した例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を図2に示し、そのアンテナ30およびシールド導体60を抜き出して図3に示す。但し図3では、絶縁物36を省略している。アンテナ30等の向きを表すために、互いに直交するX方向およびY方向を図中に記載している。この例では、X方向およびY方向は水平方向であり、X方向はアンテナ30の長手方向である(他の図においても同様)。
【0024】
この装置は、アンテナ30に高周波電源42から高周波電流IR を流すことによって真空容器4内に誘導電界を発生させて当該誘導電界によってプラズマ50を生成し、このプラズマ50を用いて基板2に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置である。
【0025】
基板2は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板、太陽電池等の半導体デバイス用の基板等であるが、これに限られるものではない。
【0026】
基板2に施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0027】
このプラズマ処理装置は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0028】
このプラズマ処理装置は、例えば金属製の真空容器4を備えており、その内部は真空排気装置8によって真空排気される。
【0029】
真空容器4内には、ガス導入管22を通してガス24が導入される。ガス24は、基板2に施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVD法によって基板2に膜形成を行う場合は、ガス24は、原料ガスまたはそれを希釈ガス(例えばH2 )で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4 の場合はSi 膜を、SiH4 +NH3 の場合はSiN膜を、SiH4 +O2 の場合はSiO2 膜を、それぞれ基板2の表面に形成することができる。
【0030】
真空容器4内には、基板2を保持するホルダ10が設けられている。この例では、ホルダ10は軸16に支持されている。軸16が真空容器4を貫通する部分には、電気絶縁機能および真空シール機能を有する軸受部18が設けられている。この例のように、ホルダ10にバイアス電源20から軸16を経由して負のバイアス電圧を印加するようにしても良い。バイアス電圧は負のパルス状電圧でも良い。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマ50中の正イオンが基板2に入射するときのエネルギーを制御して、基板2の表面に形成される膜の結晶化度を制御することができる。
【0031】
真空容器4の天井面6の開口部7に、絶縁枠38を介在させて、アンテナ30が設けられている。これらの要素の間には、真空シール用のパッキン40がそれぞれ設けられている。アンテナ30は、そのX方向の寸法がY方向の寸法よりも大きくて、平面形状が面状をしている。より具体的には、当該平面形状はこの実施形態では長方形であるが、これに限られるものではない。後述する他の例のアンテナ30の平面形状についても同様である。
【0032】
アンテナ30の材質は、例えば、銅(より具体的には無酸素銅)、アルミニウム等であるが、これに限られるものではない。
【0033】
アンテナ30には、高周波電源42から整合回路44を経由して、高周波電力が供給され、それによってアンテナ30のX方向の一端部31から他端部32に高周波電流IR が流される(高周波だから、この高周波電流IR の向きは時間によって反転する。以下同様)。この高周波電流IR によって、アンテナ30の周囲に高周波磁界が発生し、それによって高周波電流IR と逆方向に誘導電界が発生する。この誘導電界によって、真空容器4内において、電子が加速されてアンテナ30の近傍のガス24を電離させてアンテナ30の近傍にプラズマ50が発生する。このプラズマ50は基板2の近傍まで拡散し、このプラズマ50によって基板2に前述した処理を施すことができる。
【0034】
アンテナ30の他端部32は、この実施形態ではコンデンサ45を介して接地しているが、直接接地しても良い(後述する他の例においても同様)。
【0035】
高周波電源42から出力する高周波電力の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0036】
なお、図3〜図6に示す例では、説明を簡略化するために整合回路44を省略しているが、通常は、図2に示す例と同様に、高周波電源42とアンテナ30との間には整合回路44が設けられる。
【0037】
アンテナ30の真空容器4内側の面(換言すればプラズマ50側の面)である下面33は、真空容器4内の真空雰囲気中に位置しており、その反対側の上面は大気中に位置している。この下面33に、凹部34および凸部35を形成して、上下方向(即ちXY平面に直交する方向。以下同様)の凹凸を付けている。この凹凸は、図3(C)に示すように、アンテナ30のY方向(幅方向)の全長に及んでいる(後述する他の例においても同様)。
【0038】
しかも、アンテナ30のX方向における中央部よりも、両端部付近に凸部35を多く配置している。より具体的には、この図2、図3に示す例では、アンテナ30のX方向における中央部を凹部34とし、その両側に複数の凸部35を階段状に形成している。即ち、複数の凸部35は、アンテナ30のX方向における両端部に近づくに従って、階段状に下方に大きく突出している。
【0039】
真空容器4内であってアンテナ30の下方近傍に、アンテナ30から電気的に絶縁して、具体的にはこの例ではアンテナ30との間に空間をあけて、アンテナ30とプラズマ50との間の電界を遮蔽するくし型のシールド導体60を設けている。
【0040】
シールド導体60は、図3(C)を参照すれば良く分るように、それぞれがY方向に平行な(即ちアンテナ30の長手方向Xと直交する)線状導体62をX方向に複数有している。かつ、当該複数の線状導体62のY方向の一端部を互いに電気的に並列接続する接続導体64を有している。各線状導体62のY方向の他端部は電気的に開放している。そして接続導体64を電気的に接地することによって、シールド導体60全体を1箇所で接地している。このようにすると、シールド導体60が閉ループを形成してシールド導体60内に循環電流が流れるのを防止することができる。
【0041】
各線状導体62は、細い方が好ましい。その理由は後述する。各線状導体62はシールド導体60の幅方向Yの寸法よりも長く、複数の線状導体62はアンテナ30の長手方向Xのほぼ全域に亘って設けられており、これによってアンテナ30の下面33のほぼ全域をカバーしている。図2、図3では、図示を簡略化するために複数の線状導体62は比較的粗く図示しているが、例えば図7、図8に示す例のように密に配置する方が好ましい。その方が電界遮蔽効果が高まるからである。以上のことは、後述する他の例においても同様である。
【0042】
上記アンテナ30に高周波電流IR を流すと、表皮効果によって、高周波電流IR は主としてアンテナ30の表層部を流れる。従って、アンテナ30の下面33に上記のような凹凸を付けておくと、高周波電流IR は当該凹凸に沿って上下方向に波打った経路で流れる。その結果、凸部35ではより近くからプラズマ50に高周波電力を供給することができるので、換言すれば凹部34の表層部を流れる高周波電流IR よりも凸部35の表層部を流れる高周波電流IR の方が、プラズマ50とより低インピーダンスで電磁気的に結合してプラズマ50を生成する働きが強くなるので、凸部35を上記のように配置しておくと、山型とは反対に、アンテナ30のX方向における中央部よりも両端部付近においてより強力にプラズマ50を生成することができる。その結果、単純な平板アンテナの場合の図1に例示したような山型のプラズマ密度分布を補正して、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。
【0043】
その結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布の均一性を高めることができる。従って、アンテナ30を長くして基板2の大型化に対応することも容易になる。
【0044】
一方、アンテナ30に上記のような凹凸を付けておくと、高周波電流IR は上記のように凹凸に沿って波打った経路で流れるので当該高周波電流IR の実効的な経路長が大きくなり、そのぶんアンテナ30のインピーダンス(特にインダクタンス)が大きくなり、それによってアンテナ30の両端部間の電位差が大きくなる。このアンテナ30の電位の例を図3(A)に示す。何も対策を講じないと、このアンテナ30の電位は、プラズマ50との間の静電容量を介してプラズマ50に反映されるので、プラズマ電位も高くなる。それでは、プラズマ密度分布の均一性を高めることはできても、容量結合型に比べてプラズマ電位を低くすることができるという前述した誘導結合型のプラズマ処理装置の利点を損なうことになる。しかしこの実施形態では、上記シールド導体60によってアンテナ30とプラズマ50との間の電界を遮蔽することができるので、アンテナ電位がプラズマ電位に及ぼす影響を小さく抑えて、プラズマ電位を低く抑えることができる。
【0045】
その結果、プラズマ50から基板2に入射する荷電粒子(例えばイオン)のエネルギーを小さく抑えることができる。それによって例えば、基板2上に形成する膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナ30を長くする場合でも、上記理由によって、アンテナ30の電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナ30を長くして基板2の大型化に対応することも容易になる。
【0046】
しかも、くし型のシールド導体60を構成する各線状導体62は、アンテナ30の長手方向Xと直交する向きに配置されており、かつ線状であり面積が小さいので、当該シールド導体60とアンテナ30およびプラズマ50との間の静電容量を小さくすることができる。従って、シールド導体60が一種の中間導体となって上記プラズマ電位を低く抑える効果が低下することを抑制することができる。この観点から、各線状導体62は、アンテナ30に直交配置するだけでなく、細い方が好ましい。
【0047】
更に、シールド導体60を構成する各線状導体62は、アンテナ30の長手方向Xと直交する向きに、即ちアンテナ30に流れる高周波電流IR と直交する向きに配置されていて、当該高周波電流IR が作る磁束φ(その幾つかを図3(C)中に示す)と鎖交しないので、かつシールド導体60全体としてもくし型をしていて閉ループを形成していないので、シールド導体60内で循環電流が流れて高周波電力損失が発生することを抑制することができる。従って、高周波電力をプラズマ生成に効率良く利用することができる。仮に、シールド導体60が格子状や網目状をしていると、シールド導体60内で循環電流が流れて高周波電力損失が大きくなる。このように、シールド導体60を上記構成のくし型にすることの効果は大きい。
【0048】
更に、シールド導体60を構成する各線状導体62は、線状であり面積が小さいので、各線状導体62内に渦電流が流れて各線状導体62が高周波の磁気シールドの働きをすることを抑制することができる。その結果、アンテナ30からの電磁エネルギーを、シールド導体60によって極力遮ることなく、プラズマ生成に効率良く利用することができる。従ってこの観点からも、高周波電力をプラズマ生成に効率良く利用することができる。この観点からも、各線状導体62は細い方が好ましい。
【0049】
以上のように、アンテナ30の下面33に上記のような凹凸を付けることと、上記のようなくし型のシールド導体60とを組み合わせて採用したことによって、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができると共に、プラズマ電位を低く抑えることができ、しかもシールド導体60を設けていてもアンテナ30から放射される高周波電力をプラズマ生成に効率良く利用することができる。
【0050】
アンテナ30の凸部35は、図2、図3に示す例よりも多くして、当該例よりも多い数の階段状にしても良い。そのようにすると、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布をよりきめ細かく制御して、当該プラズマ密度分布の均一性をより高めることが可能になる。
【0051】
図2に示す実施形態のように、アンテナ30の真空容器4内側の面、シールド導体60等をプラズマ50から遮蔽する遮蔽板46を備えていても良い。遮蔽板46は絶縁物から成る。遮蔽板46は、真空容器4の天井面6の開口部7の入口部付近に直接取り付けても良いし、この実施形態のように枠状の支持板48を用いて取り付けても良い。図2、図3に示すアンテナ30の代わりに、後述する他の例のアンテナ30を採用する場合も、このような遮蔽板46を備えていても良い。
【0052】
遮蔽板46の材質は、例えば、石英、アルミナ、炭化ケイ素、シリコン等である。水素系プラズマで還元されて遮蔽板46から酸素が放出されると困る場合は、シリコン、炭化ケイ素等の非酸化物系の材質を用いれば良い。例えばシリコン板を用いるのが簡単で良い。
【0053】
遮蔽板46を設けておくと、アンテナ30、シールド導体60等の表面がプラズマ50中の荷電粒子(主としてイオン)によってスパッタされてプラズマ50および基板2に対して金属汚染(メタルコンタミネーション)が生じること等の不都合発生を防止することができる。
【0054】
なお、遮蔽板46を設けていても、遮蔽板46は絶縁物から成りアンテナ30の電位がプラズマ50に及ぶことを防止することはできないので、上記シールド導体60を設けることは有効である。
【0055】
アンテナ30の下面33の窪んだ部分(図2、図3に示す例の場合は凹部34および凸部35間の空間、図4〜図6に示す例の場合は凹部34)は、図2に示す実施形態にように、絶縁物36で埋めておくのが好ましい。後述する他の例のアンテナ30においても同様である。
【0056】
絶縁物36の材質は、例えば、樹脂、セラミックス等であり、特定のものに限定されない。
【0057】
アンテナ30の下面33の窪んだ部分を絶縁物36で埋めておくと、当該窪んだ部分内で不要なプラズマが発生するのを防止することができる。それによって、必要なプラズマ50の不均一性増加、高周波電力の利用効率低下等の不都合発生を防止することができる。
【0058】
次に、アンテナ30の他の例を幾つか説明する。図2に示す装置において、図2、図3に示すアンテナ30の代わりに、図4〜図6、図9に示す例のアンテナ30を採用しても良い。
【0059】
図4〜図6に示すアンテナ30は、その下面33の凹凸を構成する複数の凸部35のピッチ、幅、数等に変化を付けることによって、凸部35を、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部で相対的に粗、両端部付近で相対的に密に配置している例である。より具体的には、長手方向Xにおける中央部を凹部34とし、その両側に凸部35を配置して、当該凸部35のピッチ、幅、数等に変化を付けている。
【0060】
即ち、図4に示す例では、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部付近に複数の凸部35を設け、その間隔を端部に近づくに従って小さくしている。図5に示す例では、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部付近に複数の凸部35を設け、その内の両端部の凸部35の幅を広くしている。図6に示す例では、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部付近に幅の広い凸部35を1個ずつ設けている。図6の例のように、長手方向Xにおける中央部に凸部が無く、両端部付近に凸部35が1個ずつある場合(即ち、凸部35の存在が0と1の場合)でも、凸部35を粗密に配置していると言うことができる。
【0061】
上記のように凸部35を粗密に配置することと、図2、図3に示す例のように凸部35の高さに変化を付けることとを併用しても良い。
【0062】
図4〜図6に示すアンテナ30の場合も、図2、図3に示すアンテナ30の場合と同様の作用効果を奏することができる。即ち、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部よりも両端部付近においてより強力にプラズマ50を生成することができるので、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。かつ、上述したシールド導体60によって、プラズマ電位を低く抑えることができ、しかもシールド導体60内で高周波電力損失が発生することを抑制することができる。
【0063】
アンテナ30の凸部35の数を、図4に示す例より更に多くしても良い。そのようにすると、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布をよりきめ細かく制御して、当該プラズマ密度分布の均一性をより高めることが可能になる。
【0064】
くし型のシールド導体60のより具体例を幾つか説明する。
【0065】
図7に示す例のように、絶縁板68の下面に取り付けたフラットケーブル(細いケーブルを複数本まとめて平らに並べたケーブル)70の各芯線を上記各線状導体62として使用してシールド導体60を構成しても良い。そしてこの絶縁板68およびシールド導体60を、図2に示すシールド導体60の代わりに、アンテナ30と遮蔽板46との間に絶縁板68を上側にして設ければ良い。この絶縁板68は、シールド導体60(フラットケーブル70等)の支持体として働くと共に、アンテナ30とシールド導体60との間で放電が発生するのを抑制する働きもする。図8に示す例の場合も同様である。
【0066】
図8に示す例のように、絶縁シート72の表面に上記線状導体62および接続導体64を導体パターンとして形成してシールド導体60を構成しても良い。そしてこのシールド導体60付きの絶縁シート72を絶縁板68の下面に取り付けたものを、図2に示すシールド導体60の代わりに、アンテナ30と遮蔽板46との間に絶縁板68を上側にして設ければ良い。
【0067】
図9に示す例のように、前記構成のアンテナ30を、複数、互いにY方向において並列に配置し、各アンテナ30にそれぞれ直列に接続された可変インピーダンス52を介して、当該複数のアンテナ30に、共通の高周波電源42から高周波電力を並列に供給するようにしても良い。
【0068】
各アンテナ30は、図2〜図6を参照して説明したいずれの構成でも良い。
【0069】
シールド導体60は、複数のアンテナ30に対応する大きさをしたものにする。より具体的には、複数のアンテナ30の実質的に全体をカバーする大きさをしたものにする。
【0070】
可変インピーダンス52は、図9に示すような可変インダクタンスでも良いし、可変コンデンサ(可変キャパシタンス)でも良いし、両者を混在させても良い。可変インダクタンスを挿入することによって、給電回路のインピーダンスを増大させることができるので、高周波電流が流れ過ぎるアンテナ30の電流を抑えることができる。可変コンデンサを挿入することによって、誘導性リアクタンスが大きい場合に容量性リアクタンスを増大させて、給電回路のインピーダンスを低下させることができるので、高周波電流が流れにくいアンテナ30の電流を増加させることができる。
【0071】
図9に示す例の場合は、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数のアンテナ30を備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。しかも、前記作用によって、各アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を良くすることができる。更に、各アンテナ30に可変インピーダンス52を介在させていて、当該可変インピーダンス52によって複数のアンテナ30に流れる高周波電流のバランスを調整することができるので、複数のアンテナ30の並列方向Yにおけるプラズマ密度分布の均一性をも良くすることができる。その結果、より大面積でかつプラズマ密度分布の均一性の良いプラズマを生成することが可能になる。
【符号の説明】
【0072】
2 基板
4 真空容器
24 ガス
30 アンテナ
33 下面
34 凹部
35 凸部
42 高周波電源
50 プラズマ
52 可変インピーダンス
60 シールド導体
62 線状導体
64 接続導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、
互いに直交する2方向をX方向およびY方向とすると、前記アンテナは、そのX方向の寸法がY方向の寸法よりも大きくて、当該アンテナのX方向の一端部から他端部に前記高周波電流が流されるものであり、
前記アンテナの前記真空容器内側の面である下面に、上下方向の凹凸を付け、かつ当該アンテナのX方向における中央部よりも両端部付近に凸部を多く配置しており、
前記アンテナの下方に、前記アンテナから電気的に絶縁して、前記アンテナと前記プラズマとの間の電界を遮蔽するくし型のシールド導体を備えており、
前記シールド導体は、それぞれがY方向に平行な線状導体をX方向に複数有しており、かつ当該複数の線状導体のY方向の一端部を電気的に並列接続する導体であって電気的に接地された接続導体を有している、ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記アンテナの前記凸部は、前記アンテナのX方向における両端部に近づくに従って下方に大きく突出している請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記アンテナの前記凸部は、前記アンテナのX方向における中央部で相対的に粗、両端部付近で相対的に密に配置されている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記アンテナを複数備えていてこれらはY方向において並列に配置されており、
当該各アンテナにそれぞれ直列に接続された可変インピーダンスを介して、当該複数のアンテナに、共通の高周波電源から高周波電力を並列に供給するように構成されており、
前記シールド導体は、前記複数のアンテナに対応する大きさをしている請求項1、2または3記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−226888(P2012−226888A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91733(P2011−91733)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】