説明

プリプレグ、それを用いた多層基配線板及び電子部品

【課題】加工性を劣化させること無く、誘電正接、重量、コストを低減した高周波対応配線板材料及びそれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオレフィン繊維と高強度繊維を複合化した基材に、熱硬化性低誘電正接樹脂組成物を含浸したプリプレグとその硬化物を絶縁層とする電気部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波信号に対応するための誘電正接の低い絶縁層を形成するプリプレグとその硬化物を用いた配線板材料およびそれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PHS、携帯電話等の情報通信機器の信号帯域、コンピューターのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、高周波数化が進行している。電気信号の伝送損失は、誘電損失と導体損失と放射損失の和で表され、電気信号の周波数が高くなるほど誘電損失、導体損失、放射損失は大きくなる関係にある。伝送損失は電気信号を減衰させ、電気信号の信頼性を損なうので、高周波信号を取り扱うプリント配線板においては誘電損失、導体損失、放射損失の増大を抑制する工夫が必要である。誘電損失は、回路を形成する絶縁体の比誘電率の平方根、誘電正接及び使用される信号の周波数の積に比例する。そのため、絶縁体として誘電率及び誘電正接の小さな絶縁材料を選定することによって誘電損失の増大を抑制することができる。
【0003】
代表的な低誘電率、低誘電正接材料を以下に示す。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代表されるフッ素樹脂は、誘電率及び誘電正接がともに低いため、古くから高周波信号を扱う基板材料に使用されている。これに対して、有機溶剤によるワニス化が容易で、成型温度、硬化温度が低く、取り扱い易い、非フッ素系の低誘電率、低誘電正接の絶縁材料も種々検討されてきた。例えば、特許文献1記載のポリブタジエン等のジエン系ポリマーをガラスクロス等の基材に含浸して過酸化物で硬化した例;特許文献2記載の如く、ノルボルネン系付加型重合体にエポキシ基を導入し、硬化性を付与した環状ポリオレフィンの例;特許文献3の如く、シアネートエステル、ジエン系ポリマー及びエポキシ樹脂を加熱してBステージ化した例;特許文献4のポリフェニレンオキサイド、ジエン系ポリマー及びトリアリルイソシアネートからなる変性樹脂の例;特許文献5に記載のアリル化ポリフェニレンエーテル及びトリアリルイソシアネート等からなる樹脂組成物の例;特許文献6記載のポリエーテルイミドと、スチレン、ジビニルベンゼン又はジビニルナフタレンとをアロイ化した例;特許文献7記載のジヒドロキシ化合物とクロロメチルスチレンからウイリアムソン反応で合成した、例えばビス(ビニルベンジル)エーテルとノボラックフェノール樹脂からなる樹脂組成物の例、特許文献8記載の全炭化水素骨格の多官能スチレン化合物を架橋成分として用いる例など多数が挙げられる。
【0004】
一方、樹脂材料の誘電特性の改善方法と平行して、樹脂材料を含浸する基材の低誘電率、低誘電正接化の検討も進められてきた。例としては、特許文献9記載のPTFE繊維、PTFE繊維とポリアミド繊維から作製されるプリント配線板用クロス、同公報に例示されたDガラスクロス、Dガラス繊維とポリアミド繊維から成るクロス、特許文献10記載のPTFE繊維とEガラス繊維またはDガラス繊維から成るクロス、特許文献11記載のポリプロピレン繊維からなる不織布、特許文献12記載の環状ポリオレフィン繊維からなる不織布、特許文献13記載の酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素等の配合比を規定したNEガラスクロス、特許文献14記載の石英ガラスクロス、特許文献15記載の石英ガラス不織布、特許文献16記載の石英ガラス繊維と石英ガラス以外のガラス繊維からなるクロス、特許文献17記載の中空石英ガラス繊維から成るクロス等が上げられ、多くの検討がなされてきた。上記基材の中で最も誘電正接が低いのは石英ガラス繊維からなるクロス、不織布であると考えられる。
【0005】
更に上記の誘電正接が低い基材と樹脂組成物を複合化した低誘電損失材料についても多数の検討があり、多官能スチレン化合物をベースとする樹脂と各種低誘電率、低誘電正接基材を複合化した例としては特許文献18等が上げられ、特許文献19では、石英クロスに多官能スチレン化合物を架橋成分とする樹脂組成物を含浸したプリプレグの硬化物の10GHzにおける誘電正接が0.0009と低いことを開示している。
【0006】
しかしながら、誘電特性が優れる石英ガラスは硬く、ドリル加工性が他の材料に比べて劣る、高価である等の課題が一般的に指摘されている。
【0007】
【特許文献1】特公昭58−21925号公報
【特許文献2】特開平10−158337号公報
【特許文献3】特開平11−124491号公報
【特許文献4】特開平9−118759号公報
【特許文献5】特開平9−246429号公報
【特許文献6】特開平5−156159号公報
【特許文献7】特開平5−78552号公報
【特許文献8】特開2002−249531号公報
【特許文献9】特開昭62−45750号公報
【特許文献10】特開平2−61131号公報
【特許文献11】特開平7−268756号公報
【特許文献12】特開2006−299153号公報
【特許文献13】特開平9−74255号公報
【特許文献14】特開2004−99376号公報
【特許文献15】特開2004−353132号公報
【特許文献16】特開2005−336695号公報
【特許文献17】特開2006−27960号公報
【特許文献18】特開2003−12710号公報
【特許文献19】特開2005−89691号公報
【特許文献20】特開2004−87639号公報
【特許文献21】特開2003−160662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の石英ガラス繊維系のクロス、不織布は誘電正接が低く、電気特性的には優れていたが、加工性、コストの点で課題を有していた。また、Dガラス繊維、NEガラス繊維を用いたクロスは、誘電正接が石英ガラス繊維系に比べて高かった。PTFE繊維とガラス繊維、ポリアミド繊維を用いたクロスは、誘電正接が石英ガラス繊維系クロスに比べて高く、また、PTFE繊維と含浸樹脂との相溶性が低いことに起因して界面剥離が生じやすく、それに伴う吸湿の影響で誘電正接の増加、はんだ耐熱性の低下の恐れがあった。また、PTFE系の基材は、廃棄後の焼却処理でフッ酸等の有害ガスの発生も懸念された。PP繊維、環状ポリオレフィン繊維からなる不織布は熱膨張率、強度の点で問題があると思われた。
【0009】
従って、本発明の目的は、基材のコスト、加工性の劣化を抑制しつつ、基材の誘電正接の低減と軽量化、高強度化、低熱膨張化を図り、これに硬化後の誘電正接が優れる熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグを提供することである。更に本プリプレグを用い、加工性、低誘電正接性の優れた基板材料、フィルム材料を提供するとともに、それを絶縁材料とする高周波用電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、熱硬化性を有し、且つ硬化後の誘電正接の値が少なくとも1GHzにおいて0.005以下である樹脂組成物Aを基材Bに含浸してなるプリプレグにおいて、基材Bがポリオレフィン繊維Cとポリオレフィン繊維よりも引張強度が高く、熱膨張率が低い繊維Dを含有し、かつ基材Bの炭化水素系有機溶媒への溶出率が5wt%未満であるクロスであることを特徴とするプリプレグ及びそのプリプレグを用いた多層配線板を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリオレフィン繊維と高強度繊維を複合化した基材に、熱硬化性低誘電正接樹脂を含浸したプリプレグを用いることによって、軽量で加工性が優れ、誘電正接が低く、耐熱性の優れたプリント配線板、多層プリント配線板、フレキシブル配線板が得られる。本配線板材料は、誘電損失が低いことから高周波対応電子機器の絶縁部材に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の最良の形態における第一の手段は、(1)熱硬化性を有し、且つ硬化後の誘電正接の値が少なくとも1GHzにおいて0.005以下である樹脂組成物Aを基材Bに含浸してなるプリプレグにおいて、基材Bがポリオレフィン繊維Cとポリオレフィン繊維よりも引張強度が高く、熱膨張率が低い繊維D(以下、高強度繊維Dと略す)を含有し、かつ基材Bの炭化水素系有機溶媒への溶出率が5wt%未満であるクロスを基材とするプリプレグである。なお、一般に知られているように、本発明のプリプレグもBステージ化されていることは言うまでもない。
【0013】
ポリオレフィン繊維は一般に、酸化ケイ素繊維、PTFE繊維と同等の低誘電正接性を有し、その比重は樹脂材料の中でも軽いという特徴を有する。しかし、ポリオレフィン繊維自体は、引張強度、耐熱性が低いことから含浸作業時の応力、乾燥時の加熱によって基材が変形、切断する心配があった。また、ポリオレフィン繊維の熱膨張率は大きく、積層板の低熱膨張化に寄与しないという問題もあった。本発明では、この課題をポリオレフィン繊維よりも高強度かつ低熱膨張である繊維Dを複合化することによって改善するものである。
【0014】
これらポリオレフィン繊維と高強度繊維Dを含有する基材Bの誘電正接は、従来のEガラス、Dガラス、NEガラス繊維から作製されるクロスよりも誘電正接が低く、石英ガラス繊維から作製されるクロスよりも加工性が良い。更にPTFE繊維を含有する基材よりも含浸樹脂との接着性が優れ、且つ環境負荷も小さい。本発明のクロスにおけるポリオレフィン繊維Cの含有率は任意に選定できるが、好ましい範囲としては、ポリオレフィン繊維Cの誘電正接低減効果と高強度繊維Dによる補強効果が両立可能な範囲、即ちポリレフィン繊維含有率40wt%から60wt%を挙げることができる。
【0015】
本発明で用いられる基材Bは、有機溶媒に対して十分な耐性を持つ必要があり、基材Bを構成する材料に含まれる有機溶媒への可溶成分は5wt%未満、更に好ましくは1wt%未満であることが好ましい。これは、樹脂組成物Aをワニス化し、基材Bに含浸する際に基材Bが溶解、膨潤して変形、切断することを防止するとともに、基材からの溶出成分がワニスに混入し、樹脂組成物Aの組成比が変動することを防止するためである。硬化後の誘電正接が1GHzにおいて0.005以下となる樹脂組成物は構造中の極性基が少ない。そのような樹脂組成物Aをワニス化するために用いられる有機溶媒は、溶解性の観点から低極性な炭化水素系溶媒が用いられることが多く、その代表的な有機溶媒の例としてはトルエン、キシレン、シクロヘキサン等を挙げることができる。従って、基材Bは特にこれらの炭化水素系有機溶媒に対する十分な耐性を有する必要がある。
【0016】
上記(1)に記載のプリプレグにおいて、ポリオレフィン繊維Cと高強度繊維Dを共に含む糸を作製し、該糸を用いて作製されたクロスの基材Bが好ましい。ポリオレフィン繊維Cと高強度繊維Dを複合化した糸を用いることによって両糸の引張強度、熱膨張、伸びの差による基材の変形を抑制するとともに、基材の構成材料の違いによる、面内の誘電率、誘電正接のバラツキを抑制することが可能となる。
【0017】
本発明の最良の第2の形態における第二の手段は、(2)硬化性を有し、且つ硬化後の誘電正接の値が少なくとも1GHzにおいて0.005以下である樹脂組成物Aを基材Bに含浸してなるプリプレグにおいて、基材Bがポリオレフィン繊維Cと高強度繊維Dを含有する不織布であり、かつ基材Bの炭化水素系有機溶媒への溶出率が5wt%未満である不織布を基材とするプリプレグである。ポリオレフィン繊維Cと高強度繊維Dの複合化によって基材の誘電正接の低減と高強度化、低熱膨張化を両立するものであり、不織布化して用いることによって先のクロスを用いた場合よりも、フレキシビリティーの高いプリプレグの硬化物(以下、積層板と略す)を得ることができる。本発明の不織布を基材Bとするプリプレグは、特にフレキシブル配線板への応用が好ましい。
【0018】
本発明で用いる不織布が含有するポリオレフィン繊維Cの含有率は任意に選定できるが、好ましい範囲としては、ポリオレフィンの誘電正接低減効果と高強度繊維による補強効果が両立可能なポリレフィン繊維含有率40wt%から60wt%を挙げることができる。
【0019】
上記(2)に記載のプリプレグにおいて、ポリオレフィン繊維Cと高強度繊維Dが、融着していることが一層好ましい。これにより、不織布構造を有する基材Bの取り扱い時、樹脂組成物Aの含浸作業時における繊維の解れを防止することができ、基材Bの取り扱い性、加工性を改善することが可能となる。更に通常、不織布は繊維同士の絡み合いによる繊維間の拘束力がクロスに比べて小さく、嵩高い構造を有するが、このようなかさ高い不織布を基材とした場合、基材への樹脂含浸量は大きくなる傾向にあり、含浸量の調整が困難であった。
【0020】
これに対して不織布を構成する繊維間を加熱加圧によって融着し、薄膜化した不織布を用いたプリプレグにおいては、樹脂組成物Aの含有率を容易にコントロールできる。本発明は、ポリオレフィン繊維自体が溶融し、接着剤としての機能を果たすことから、従来、繊維間を接着するために使用されてきたエポキシ樹脂等の接着剤を使用する必要がなく、接着剤の添加による誘電性正接の増加を招かない点で好ましい。
【0021】
上記(1)又は(2)に記載のプリプレグにおいて、繊維Cがα−オレフィン化合物の重合体または共重合体を1種以上含有するポリオレフィン繊維であることができる。本発明における好ましいポリオレフィン繊維Cとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1等のα−オレフィン化合物の(共)重合体およびその混合物から作製される繊維を挙げることができる。α−オレフィン化合物(共)重合体は、誘電正接が低く好ましい。特にポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体は炭化水素系有機溶媒への耐性も高いので好ましい。
【0022】
基材自体の耐熱性改善の点からはポリプロピレン、ポリメチルペンテン構造単位を導入することによって軟化温度、溶融温度を増すことができるので好ましい。ポリプロピレンの溶融温度はおおむね160℃、ポリメチルペンテンの溶融温度はおおむね230℃である。本発明のオレフィン繊維Cは、これらα−オレフィン(共)重合体の共重合比、混合比を調整して融着性、耐熱性を調整することができるものである。
【0023】
前記(1)又は(2)に記載のプリプレグにおいて、繊維Dが、シラン系カップリング剤によって表面処理されているガラス繊維であることが好ましい。
【0024】
本発明における高強度繊維Dとしては、液晶ポリマー繊維、各種ガラス繊維、ポリアミド繊維等、既存の繊維材料の中から任意に選択してよいが、積層板、プリント基板に剛性が求められる場合には、ガラス繊維の適用が好ましい。ガラス繊維との複合化により、基材の強度を改善し、プリプレグ作製工程における基材の変形、破断を抑制することができ、積層板、プリント基板の熱膨張率を低減できる。ガラス繊維としては、公知のEガラス繊維、Dガラス繊維、NEガラス繊維等を用いることができ、ポリオレフィン繊維との複合化によってガラス繊維単独で使用した場合よりも基材の誘電率、誘電正接を低減できる。
【0025】
上記ガラスの中ではDガラス繊維、NEガラス繊維が誘電特性の観点から好ましい。更に一層の誘電正接の低減が必要な場合は、後述のように石英ガラス繊維を用いることが好ましい。ガラス繊維の適用に当っては、その表面をシラン系カップリング剤によって表面処理することが好ましい。これにより樹脂組成物Aの硬化反応時にカップリング剤を介してガラス繊維と樹脂組成物Aを化学的に結合することができ、ガラス繊維と樹脂組成物Aの硬化物との接着性が改善されて界面剥離が防止できる。界面剥離の防止は、剥離面への吸着水に起因する誘電正接の増加、はんだ耐熱性の低下が抑制できるので好ましい。
【0026】
シラン系カップリング剤の具体例としては、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、p−スチリルトリメトキシシラン等があげられ、処理表面が安定で、且つ樹脂組成物Aと化学反応可能な官能基を有するシラン系ビニル化合物が好ましい。
【0027】
更に基材作製時、取り扱い時の繊維間の摩擦によるガラス繊維の切断を防止するため、ガラス繊維の表面へ潤滑成分を導入することを目的として他のシラン系、チタン系、アルミニウム系カップリング剤を併用しても良い。
【0028】
前記(1)又は(2)に記載のプリプレグにおいて、高強度繊維Dが石英ガラス繊維であることが好ましい。これにより一層効果的に誘電正接の低減がなされる。これは石英ガラス繊維の誘電正接が極めて低いことに起因する。また、ポリオレフィン繊維と石英ガラス繊維を複合化することによって石英ガラス繊維の含有量を減らし、加工性の低下を緩和するものである。
【0029】
前記(1)又は(2)に記載のプリプレグにおいて、ポリオレフィン繊維Cの溶融温度またはガラス転移温度が130℃以上、更に好ましくは160℃以上であることが好ましい。これにより樹脂組成物Aのワニスを基材Bに塗布し、乾燥する際の加熱によって生じる基材Bの変形、切断が効果的に抑制される。通常、プリプレグの乾燥温度はワニス化に用いた溶媒の沸点と同程度の温度に設定され、Bステージ化の反応を促進する加熱工程を含んでいる場合においても、100℃から150℃の範囲である。従って本発明のポリオレフィン繊維Cを含有するクロス、不織布は、プリプレグ作製時の乾燥温度における変形、切断を抑制することができる。
【0030】
尚、本発明におけるポリオレフィン繊維Cの溶融温度、ガラス転移温度は、窒素気流下で、昇温速度10℃/分の条件下で観察されたDSCの吸熱ピーク温度、ベースラインの変位温度を観察した値である。そのようなポリオレフィンの例としてはポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体等を挙げることが出来る。
【0031】
前記(1)又は(2)に記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが下記一般式1で示される多官能スチレン化合物を含有するものを用いることができる。これにより樹脂組成物Aの硬化物の誘電正接が低減され、効果的に積層板、プリント配線板の誘電正接が低減される。一般式1に記載の多官能スチレン化合物を含有する樹脂組成物の硬化物の誘電正接が低いことは、特許文献18において公知であるが、汎用のガラスクロスを基材とした場合、積層板、プリント基板の誘電正接の低減には限界があった。
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、Rは炭化水素骨格を表し、Rは同一または異なっている水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R、R、Rは同一または異なっている水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表し、mは1〜4の整数、nは2以上の整数を表し、GPC(Gelpermeation Chromatography)測定におけるポリスチレン換算重量平均分子量は1000以下である。)
本発明ではポリオレフィン繊維Cと高強度繊維Dを複合化した基材Bを用いことによって、積層板、プリント配線板の加工性を維持しつつ、誘電正接を一層低減するものである。分子量が1000以下の多官能スチレン化合物を含有する樹脂組成物Aは、後述のゴム成分等の添加量に依存するものの、弾性率の高い硬化物を得やすいことからリジッドタイプの高周波用プリント配線板、多層プリント配線板への応用に適する。その応用分野としてはアンテナ基板、高速サーバー、ルーター等のバックプレーン等が挙げられる。
【0034】
多官能スチレン化合物の例としては、特許文献20に記載の全炭化水素骨格の多官能スチレン化合物が挙げられ、具体的には1、2−ビス(p−ビニルフェニル)エタン、1、2−ビス(m−ビニルフェニル)エタン、1−(p−ビニルフェニル)−2−(m−ビニルフェニル)エタン、ビス(p−ビニルフェニル)メタン、ビス(m−ビニルフェニル)メタン、p−ビニルフェニル−m−ビニルフェニルメタン、1、4−ビス(p−ビニルフェニル)ベンゼン、1、4−ビス(m−ビニルフェニル)ベンゼン、1−(p−ビニルフェニル)−4−(m−ビニルフェニル)ベンゼン、1、3−ビス(p−ビニルフェニル)ベンゼン、1、3−ビス(m−ビニルフェニル)ベンゼン、1−(p−ビニルフェニル)−3−(m−ビニルフェニル)ベンゼン、1、6−ビス(p−ビニルフェニル)ヘキサン、1、6−ビス(m−ビニルフェニル)ヘキサン、1−(p−ビニルフェニル)−6−(m−ビニルフェニル)ヘキサン、及び側鎖にビニル基を有するジビニルベンゼン重合体(オリゴマー)等を挙げることができる。これらは単独あるいは二種類以上の混合物として使用される。これら多官能スチレン化合物を架橋成分として用いた場合、スチレン基の活性が高いため硬化触媒を用いることなく樹脂組成物Aを硬化することが可能となり、硬化触媒の影響による誘電正接の増大を抑制できる点で高周波用絶縁材料の架橋成分として特に好ましい。
【0035】
前記(1)又は(2)に記載のプリプレグは、樹脂組成物Aが下記一般式2で表される繰り返し単位を有するポリブタジエン化合物とポリブタジエンの硬化反応を促進する硬化触媒を含有する組成物からなることが好ましい。これによって樹脂組成物Aの硬化物の誘電正接が低減されると共に、フレキシビリティーに富む硬化物を得ることができる。
【0036】
【化2】

【0037】
(式中、pは2以上の整数である。)
本発明で好ましいポリブタジエン化合物は、GPC(Gelpermeation Chromatography)測定におけるポリスチレン換算数平均分子量が1000から170000であり、1、2結合が90wt%以上である。タックフリー性、流動性の観点から分子量分布は調整して用いることが好ましく。例えば数平均分子量が3000以下のポリブタジエンと130000以上のポリブタジエンの比率を75/25〜25/75重量比の範囲で選択し、常温で接着性を付与したい場合には高分子量ポリブタジエンの重量比を45重量部以下に、タックフリー製を付与したい場合には高分子量体の重量比を50重量部以上に調整する。
【0038】
ポリブタジエン化合物はその硬化度を硬化触媒の添加量によって任意に調整することが出来る。そのためポリブタジエン化合物を架橋成分として含む樹脂組成物Aを用いたプリプレグの硬化物、即ち積層板には柔軟性を付与することが容易であり、本プリプレグを用いたプリント配線板、多層プリント配線板は特にフレキシブル配線板への応用に適する。
【0039】
高周波信号を用いるフレキシブル配線板の応用分野としては大型ストレージ機器の磁気ヘッドや液晶ディスプレイと信号処理回路を接続するフレキシブル配線基板が挙げられる。なお、ポリブタジエンを架橋成分とする樹脂組成物Aの硬化物の誘電正接は、硬化触媒の影響によって前述の多官能スチレン化合物を含有する系に比べて大きくなりやすいものの、本発明においてはポリオレフィン繊維Cと高強度繊維Cを含有する基材を用いること、及び後述する他の添加剤の効果により、積層板化した際の誘電正接を低減できるものである。
【0040】
前記プリプレグにおいて、樹脂組成物Aが含有する硬化触媒が、ポリブタジエン100重量部に対して、1分間の半減期温度が80℃から140℃であるラジカル重合開始剤を3から10重量部、1分間の半減期温度が170℃から230℃であるラジカル重合開始剤を5から15重量部含む複合硬化触媒を用いることができる。
【0041】
ポリブタジエンの硬化性は、硬化触媒の添加量に支配されており、その添加量で硬化度が調整できる。このことから低温でポリブタジエンの硬化を進行させる硬化触媒を所定量添加することにより、樹脂組成物Aのワニス調整時、プリプレグの乾燥時における加熱によってポリブタジエンの架橋度を調整することができ、低分子量ポリブタジエンを多く用いた場合においてもプリプレグのタックフリー性を確保することができるものである。低分子量ポリブタジエンの使用は、ワニス化した際の粘度が低く、作業性が良い点で好ましい。
【0042】
1分間における半減期温度が80℃から140℃である硬化触媒の例としては、イソブチルパーオキサイド,α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン,クミルパーオキシネオデカノエート,ジ−n−プロピルパーオキシジカルボネート,1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート,ジイソプロピルパーオキシジカルボネート,1−シクロへキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート,ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカルボネート,ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカルボネート,t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート,ジメトキシブチルパーオキシジデカネート,ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカルボネート,t−ブチルパーオキシネオデカノエート,t−ヘキシルパーオキシピバレート,t−ブチルパーオキシピバレート,3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド,オクタノイルパーオキサイド,1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート,2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン,1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート,t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート,t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート,m−トルオイルパーオキサイド,t−ブチルパーオキシイソブチレートを挙げることができる。
【0043】
1分間における半減期温度が170℃から230℃である硬化触媒は、積層板の硬化度を十分に高める機能を果たす。これにより、ポリブタジエンを架橋成分とする樹脂組成物Aの硬化物に耐溶剤性、耐熱性、低熱膨張性を付与することができる。1分間における半減期温度が170℃から230℃である硬化触媒の例としては、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン,ジクミルパーオキサイド,2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン,t−ブチルクミルパーオキサイド,ジ−t−ブチルパーオキサイド,2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3,t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイドを挙げることができる。
【0044】
前記(1)又は(2)に記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが下記一般式3で表される特定構造のビスマレイミド化合物を含有することができる。
【0045】
【化3】

【0046】
(式中、Rは同一または異なっている炭素数1〜4の炭化水素基を表し、lは1〜4の整数を表す。)
上記特定構造のビスマレイミド化合物を架橋成分とする樹脂組成物(A)は、前述の多官能スチレン化合物、ポリブタジエンを架橋成分とする樹脂組成物に比べて、ワニス粘度を特異的に低減できる。更に一般式3に示したビスマレイミド化合物は、多官能スチレン化合物には及ばないもののその硬化物の誘電正接は、ビスマレイミド化合物としては低いことが判明した。これは構造中に存在するアルキル基(R5)の立体障害による分子内回転運動の抑制効果であると考えられる。
【0047】
上記特定構造のビスマレイミド化合物の例としては、ビス(3−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3、5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−n−ブチル−4−マレイミドフェニル)メタン等が上げられる。高濃度且つ低粘度なワニスは、膜厚制御が容易で成膜性も優れているので塗工作業の効率化の点で好ましい。また、粘度が低いことから、ろ過によるワニス中の異物の除去が容易でありろ過作業の効率化の点でも好ましい。
【0048】
前記プリプレグにおいて、樹脂組成物Aが水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体を含み、更に硬化性ポリフェニレンオキサイド、トリメリット酸トリアリル、ピロメリット酸テトラアリルの内から選ばれる少なくとも一つの架橋助剤を含むことができる。これによって、樹脂組成物Aの硬化物の誘電正接を低減し、架橋密度の調整による柔軟性、接着力のコントロールが可能となる。水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体は、樹脂組成物系に可とう性、タックフリー製を付与するとともに全炭化水素骨格を有することから誘電正接を低減する効果を有する。
【0049】
また、上記共重合体の添加は、導体層とプリプレグ硬化物との接着性の向上に寄与する。水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体の具体例としては、旭化成ケミカルズ(株)製、タフテック(商標)H1031、H1041、H1043、H1051、H1052等が挙げられる。多官能スチレン化合物、特定構造のビスマレイミド化合物を含有する樹脂組成物Aの場合には、スチレン残基の含有率が30〜70wt%のスチレン−ブタジエン共重合体を用いることが好ましい。これにより、後述の硬化性ポリフェニレンオキサイドと併用した際の相分離が発生せず、且つ高いガラス転移温度の硬化物を得ることができる。
【0050】
ポリブタジエンを架橋成分とする樹脂組成物Aの場合には、スチレン残基の含有率が10〜30wt%のスチレン−ブタジエン共重合体を用いることが好ましい。これにより、相分離の発生が抑制され、且つガラス転移温度の高い硬化物を得ることができる。
【0051】
硬化性ポリフェニレンオキサイドは、架橋密度の上昇を抑制しつつ、樹脂組成物系の硬化を進行させ、反応性を持たない水素添加したスチレン−ブタジエンの溶出を抑制するとともにタックフリー性を改善する。また、架橋密度の上昇が抑制されることから導体層とプリプレグ硬化物との接着性を改善するものである。硬化性ポリフェニレンオキサイドの具体例としては、特許文献5記載の無水マレイン酸変性ポリフェニレンオキサイド、アリル変性ポリフェニレンオキサイド、特許文献21記載の比較的分子量の小さな熱硬化性ポリフェニレンオキサイドを例として挙げることができる。
【0052】
トリメリット酸トリアリル、ピロメリット酸テトラアリルは、樹脂組成物Aの硬化物の架橋密度を向上する効果を有し、特にポリブタジエンを含有する樹脂組成物Aの硬化物の高温下における弾性率を向上する効果を有する。従ってポリブタジエンを架橋成分とする樹脂組成物Aに添加することが好ましい。
【0053】
前記プリプレグにおいて、樹脂組成物Aが更に平均粒径0.2から3.0μmである下記(式4)または(式5)で表される難燃剤および酸化ケイ素フィラーを含有していることが好ましい。これによって、樹脂系の誘電正接を一層低減し、難燃化、低熱膨張化がなされる。下記構造の難燃剤及び酸化ケイ素フィラーの誘電正接は低く、特にポリブタジエン、特定構造のビスマレイミド化合物を架橋成分とする樹脂組成物Aの硬化物の誘電正接の低減に有効であった。
【0054】
【化4】

【0055】
更に平均粒径が0.2から3.0μmの難燃剤、酸化ケイ素フィラーを用いることにより、樹脂組成物Aをワニスの状態で保管した場合における系内での難燃剤、フィラーの沈殿を抑制するものである。ワニス粘度にもよるが、0.1〜1.0Psのワニスにおいて前述の粒径範囲の難燃剤、酸化ケイ素フィラーを用いることによってその沈殿の発生を抑制することができる。
【0056】
前記プリプレグにおいて、更に樹脂組成物Aがカップリング処理剤を含有していることが好ましい。これによって酸化ケイ素フィラーが樹脂相から剥離することを防止し、剥離界面での吸湿を防止できることから一層の低誘電正接化が達成される。カップリング剤の好ましい例としては、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、p−スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0057】
前記プリプレグにおいて、樹脂組成物Aが含有するカップリング剤が酸化ケイ素フィラー上に担持されていることが好ましい。これにより過剰量のカップリング処理剤を洗浄等によって除くことが可能となり、余剰カップリング剤の影響による誘電正接の増大を抑制できることから誘電正接の低減効果が増すものである。カップリング剤は構造中に極性基を有しており、その過剰添加は、誘電正接の増加を招く。従ってカップリング剤の添加量は誘電正接低減効果の現れる範囲で出来る限り少ない方が好ましい。そのような処理を実施する手法の一例としては、大気中においてメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いて約1wt%カップリング剤溶液を作製し、これに酸化ケイ素フィラーを投入し、約2時間ボールミルにて攪拌して表面処理を施し、次いで酸化ケイ素フィラーをろ別してアルコール洗浄し、余分なカップリング処理剤を除いた表面処理済み酸化ケイ素フィラーを使用する方法が挙げられる。
【0058】
本発明における全炭化水素骨格の多官能スチレン化合物、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体のいずれかを含有する樹脂組成物Aとポリオレフィン繊維Cと高強度繊維Dを含有する基材Bを複合化する効果として、誘電正接の低減効果の他に吸湿時のはんだ耐熱性の改善が挙げられる。これは積層板製作工程における加熱加圧処理によりポリオレフィン繊維Cと前記多官能スチレン化合物、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体との部分相溶化が生じ、基材Bと樹脂組成物Aの硬化物との密着性が増すためであると考えられる。これによりガラス繊維のみからなるクロスを用いた場合に比べて吸湿時におけるはんだ耐熱性が改善される。
【0059】
本発明における樹脂組成物Aの各構成成分の配合比率は、プリプレグ、プリント配線板、多層プリント配線板に求める特性によって適宜調製することができるが、一般的には以下の組成範囲内で使用することが好ましい。
【0060】
多官能スチレン化合物、特定構造のビスマレイミド化合物を架橋成分とする樹脂組成物Aの場合の架橋成分とスチレン−ブタジエン共重合体、架橋助剤である硬化性ポリフェニレンオキサイドの配合比を以下に示す。架橋成分/硬化性ポリフェニレンエーテルの重量比は10/90から50/50の範囲で用いることが好ましい。両架橋成分の総量とスチレン−ブタジエン共重合体の重量比は、架橋成分/硬化性ポリフェニレンエーテルの総量を100重量部として10から50重量部、更に好ましくはスチレン−ブタジエン共重合体が10から30重量部である。この組成範囲において硬化物の耐溶剤性、強度、成膜性、導体箔、ガラスクロスとの接着性等を調整することが望ましい。
【0061】
難燃剤と酸化ケイ素フィラーの配合量は、前記、架橋成分、硬化性ポリフェニレンオキサイド、スチレン−ブタジエン共重合体の総量を100重量部として難燃剤が10重量部から150重量部、酸化ケイ素フィラーが10重量部から150重量部の範囲で難燃性、誘電特性、熱膨張特性等の求める特性に合わせて調製することが望ましい。
【0062】
ポリブタジエンをベースとする樹脂組成物Aの好ましい組成範囲としては、ポリブタジエン100重量部に対して、スチレン−ブタジエン共重合体は10から30重量部、硬化性ポリフェニレンオキサイドは10から30重量部、硬化触媒は、1〜20重量部であり、酸化ケイ素フィラーが80から150重量部、難燃剤が50から150重量部、トリメリット酸トリアリルまたはピロメリット酸テトラアリルが5から20重量部の範囲を挙げることができ、難燃性、誘電特性、熱膨張特性等の求める特性に合わせて調製することが望ましい。
【0063】
カップリング処理剤を樹脂組成物系内に添加する場合には、酸化ケイ素フィラーの総重量を100重量部として0.5から1.5重量部の範囲で用いることが好ましい。
【0064】
更に本発明で用いられる樹脂組成物には、誘電特性の著しい劣化を招かない範囲で目的に応じて更に添加剤を加えてもよい。その例としては各種マレイミド樹脂、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、(メタ)アクリレート樹脂等の第三架橋性成分、低誘電正接性を有するポリフェニレンオキサイド、シクロオレフィンポリマー等の高分子量体、酸化防止剤、着色剤、重合禁止剤、中空フィラー等が挙げられる。
【0065】
ワニス化溶媒は、その沸点が140℃以下であることが好ましく、そのような溶媒としてはキシレンを例として挙げることができ、更に好ましくは110℃以下であることが好ましく、そのような溶媒としてはトルエン、シクロヘキサン等が例示される。これら溶媒は混合して用いても良く、更にカップリング処理に使用されるメチルエチルケトン、メタノール等の極性溶媒を含有しても良い。基材Bに樹脂組成物Aを含浸、乾燥してプリプレグを作製する際の乾燥条件は、好ましくは乾燥温度が80℃から150℃、更に好ましくは80℃から110℃であり、乾燥時間は10分から90分の範囲にあることが好ましい。
【0066】
本発明により、前記プリプレグの硬化物の両面または片面に導体層を設置してなる積層板を提供することができる。これにより絶縁層の誘電正接が低く低熱膨張性を有する各種プリント配線板を作製することが可能となる。
【0067】
更に本発明により、前記積層板の導体層に配線加工を施してなるプリント配線板を提供することができる。これにより誘電正接が低い絶縁層を有するプリント配線板を得ることができる。また、本プリント配線板は高周波信号の誘電損失が低いため高周波回路用のプリント配線板、アンテナ基板として好適である。
【0068】
前記プリント配線板を前記プリプレグを用いて多層化接着し、次いで公知の方法で層間を電気的に接続することによって高周波信号の伝送特性が優れた多層プリント配線板を得ることができる。
【0069】
前記プリプレグの硬化物を絶縁層とする高周波回路を有する電子部品は誘電損失が小さいことに起因して、より高い周波数帯の利用が可能となり、広帯域通信の利用、信号密度の増加による高速通信が可能となる。電子部品の具体例としては、高周波アンテナ回路、高速サーバー、ルーター等のバックプレーンのほか、ハードディスク、液晶ディスプレイに用いられる高速伝送用フレキシブル基板等が挙げられる。
【0070】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。表1に本発明の実施例1〜3と比較例1の組成、表2に実施例4〜13と比較例2,3の硬化物の特性、表3に実施例14〜17の積層板の特性を示す。
【0071】
以下に実施例及び比較例に使用した試薬の名称、合成方法、ワニスの調製方法及び硬化物の評価方法を示す。
【0072】
<1、2−ビス(ビニルフェニル)エタン(BVPE)の合成>
500mlの三口フラスコにグリニャール反応用粒状マグネシウム(関東化学製)5.36g(220mmol)を取り、滴下ロート、窒素導入管及びセプタムキャップを取り付けた。窒素気流下、スターラーによってマグネシウム粒を撹拌しながら、系全体をドライヤーで加熱脱水した。乾燥テトラヒドロフラン300mlをシリンジに取り、セプタムキャップを通じて注入した。溶液を−5℃に冷却した後、滴下ロートを用いてビニルベンジルクロライド(東京化成製)30.5g(200mmol)を約4時間かけて滴下した。
【0073】
滴下終了後0℃で20時間撹拌を続けた。反応終了後、反応溶液をろ過して残存マグネシウムを除き、エバポレーターで濃縮した。濃縮溶液をヘキサンで希釈して、3.6%塩酸水溶液で1回、純水で3回洗浄して、次いで硫酸マグネシウムで脱水した。脱水溶液をシリカゲル(和光純薬製ワコーゲルC300)/ヘキサンのショートカラムに通して精製し、最後に真空乾燥により目的のBVPEを得た。得られたBVPEは1、2−ビス(p−ビニルフェニル)エタン(PP体、固体)、1、2−ビス(m−ビニルフェニル)エタン(m−m体、液体)、1−(p−ビニルフェニル)−2−(m−ビニルフェニル)エタン(m−p体、液体)の混合物で収率は90%であった。
【0074】
H−NMRにより構造を調べたところ文献値と一致した(6H−ビニル:α−2H(6.7)、β−4H(5.7、5.2);8H−アロマティック(7.1〜7.4);4H−メチレン(2.9))。得られたBVPEを架橋性化合物として用いた。
【0075】
<ビスマレイミド>
BMI−5100、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン(大和化成工業(株)製)
<ポリブタジエン>
RB810、スチレン換算数平均分子量130000、1、2−結合90%以上(JSR(株)製)
B3000、スチレン換算数平均分子量3000、1、2−結合90%以上(日本曹達(株)製)
<スチレン−ブタジエン共重合体>
タフテック(商標)H1031、スチレン含量率30wt%(旭化成ケミカルズ(株)製)
タフテック(商標)H1043、スチレン含量率67wt%(旭化成ケミカルズ(株)製)
<硬化性ポリフェニレンオキサイド>
OPE2St、スチレン換算数平均分子量2200、両末端スチレン基(三菱ガス化学(株)製)
<トリメリット酸トリアリル>
TRIAM−705(和光純薬工業(株)製)
<硬化触媒>
2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(略称25B)、1分間半減期温度≒196℃、純度≧90%(日本油脂(株)製)、
過酸化ベンゾイル、1分間半減期温度≒130℃、純度≒75%(略称BPO)(日本油脂(株)製)
<難燃剤>
SAYTEX8010、1、2−ビス(ベンタブロモフェニル)エタン、平均粒径1.5μm、平均粒径5.5μm(アルべマール日本(株)製)
<酸化ケイ素フィラー>
アドマファイン、平均粒径0.5μm、((株)アドマテックス製)
<カップリング剤>
KBM−503、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
<その他添加剤>
YPX100D、高分子量ポリフェニレンオキサイド(三菱ガス化学(株)製)
<銅箔>
AMFN−1/2Oz、カップリング処理付銅箔、厚さ18μm、Rz≒2.1μm、((株)日鉱マテリアルズ製)
<石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維クロス>
クロスNo.1、石英ガラス繊維糸/ポリプロピレン繊維糸からなるクロス、ポリオレフィン繊維含有率=43wt%(信越石英(株)製)
クロスNo.2、石英ガラス繊維糸/ポリプロピレン繊維糸からなるクロス、ポリオレフィン繊維含有率=60wt%(信越石英(株)製)
クロスNo.3、石英ガラス繊維/ポリプロピレン繊維混紡糸からなるクロス、ポリオレフィン繊維含有率=43wt%(信越石英(株)製)
クロスNo.4、Eガラスクロス
<石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維不織布>
不織布No.1、石英ガラス繊維/ポリエチレン繊維(溶融温度100℃)、ポリオレフィン繊維含有率50wt%、融着処理あり(信越石英(株)製)
不織布No.2、石英ガラス繊維/ポリエチレン−ポリプロピレン繊維(溶融温度130℃)、ポリオレフィン繊維含有率50wt%、融着処理あり(信越石英(株)製)
不織布No.3、石英ガラス繊維/ポリプロピレン繊維(溶融温度160℃)、ポリオレフィン繊維含有率50wt%、融着処理あり(信越石英(株)製)
不織布No.4、石英ガラス繊維、ポリオレフィン繊維含有率0wt%、融着処理なし(信越石英(株)製)
<ワニスの調製方法>
所定量のカップリング剤、フィラーをメチルエチルケトン溶液中でボールミルにて2時間攪拌し、フィラーのカップリング処理を施した。次いで所定量の樹脂材料、難燃剤、硬化触媒、トルエンを加えて樹脂成分が完全に溶解するまで約8時間攪拌を続けてワニスを作製した。ワニス濃度は40−45重量%とした。
【0076】
<硬化物(樹脂板)の作製方法>
実施例1〜11、14〜17の樹脂ワニスはPETフィルムに塗布して室温で一夜、100℃で10分間乾燥した後、これを剥離してポリテトラエチレン製の厚さ1.0mmのスペーサ内に充填し、真空プレスによって加圧、加熱して硬化物を得た。実施例12,13の樹脂ワニスはPETフィルムに塗布して室温で一夜、窒素気流下140℃で30分間乾燥した後、これを剥離してポリテトラエチレン製の厚さ1.0mmのスペーサ内に充填し、真空プレスによって加圧、加熱して硬化物を得た。硬化条件は、何れも室温から2MPaに加圧し、一定速度(6℃/分)で昇温し、230℃で60分間加熱して硬化した。
【0077】
<プリプレグの作製方法>
上記ワニスにクロス、不織布を浸漬した後、一定速度で垂直に引き上げて、その後乾燥して作製した。実施例1〜11、14〜17のプリプレグの乾燥条件は、100℃/10分間であり、実施例11、13の乾燥条件は窒素気流下100℃/10分、140℃/10分の多段階加熱とした。
【0078】
<銅張積層板の作製方法>
上記で作製したプリプレグを4枚積層し、上下面を銅箔でサンドイッチして、真空プレスにより、加圧、加熱して硬化した。硬化条件は室温から2MPaに加圧し、一定速度(6℃/分)で昇温し、230℃で60分加熱とした。
【0079】
<比誘電率及び誘電正接の測定>
空洞共振法(8722ES型ネットワークアナライザー、アジレントテクノロジー製;空洞共振器、関東電子応用開発製)によって、10GHzの値を測定した。銅張積層板から作製される試料は銅をエッチング除去した後、2.0x80mmの大きさに切り出して作製した。樹脂板から作製される試料は、樹脂板から1.0x1.5x80mmのサイズに切り出して作製した。
【0080】
<はんだ耐熱試験>
積層板の銅箔をエッチング除去し、20x20mmのサイズに切り出した。105℃で1時間乾燥後、260℃はんだ浴に20秒間浸せきした。その後、積層板を構成する4層のプリプレグ硬化物間に剥離がないかを検査した。吸湿後のはんだ耐熱試験は、積層板の銅箔をエッチング除去し、20x20mmのサイズに切り出した試料を121℃、飽和水蒸気圧下に20時間保存した後、260℃はんだ浴に20秒間浸せきし、剥離の有無を検査した。
【0081】
<高温下の弾性率>
アイティー計測制御製DVA−200型粘弾性測定装置(DMA)を用いて288℃における弾性率を観測した。1.5x30×0.5mmに切断した樹脂板を試料とした。支点間距離は20mm、昇温速度は5℃/分、測定周波数は10Hzとした。
【0082】
<ワニスの保存安定性>
直径18mm、高さ40mmのサンプル管に所定の樹脂組成物ワニスを8mL注入して密封した。24時間静置した後、保存安定性の指標として沈殿物の厚さ(mm)を観測した。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
(実施例1)
実施例1は、本発明に使用する多官能スチレン化合物を含有する樹脂組成物の例である。熱硬化性樹脂としては、極めて低い誘電正接、0.0012が観察された。本樹脂系を用いて作製される絶縁層は誘電正接が低く、高周波対応電子機器の絶縁材料に好適である。
【0087】
(実施例2)
実施例2は、実施例1の樹脂組成物をクロスNo.3の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなるクロスを用いたことにより誘電正接は、実施例1の樹脂板よりも低下し、0.0007が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例2のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低いことが明らかとなり、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。
【0088】
(実施例3)
実施例3は、実施例1の樹脂組成物を不織布No.1の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる不織布を用いたことにより誘電正接は、実施例1の樹脂板よりも低下し、0.0005が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例3のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低く、はんだ耐熱性も優れていることから、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。また、本実施例3のプリプレグから製造された積層板は、フレキシビリティーが高く、パンチングによる穴あけ加工が可能であった。
【0089】
(比較例1)
比較例1は、実施例1の樹脂組成物をクロスNo.4のEガラスクロスに含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。Eガラスクロスを用いたことにより誘電正接は、実施例1の樹脂板よりも増大し、0.0045が観測された。1GHz以上の高周波信号を伝送する電子機器の絶縁部材としては、誘電正接がやや大きい。低誘電正接な樹脂材料を用いた場合においても、プリント配線板、多層プリント配線板の誘電正接を低減するためには、誘電正接が低い基材の適用が必要であった。
【0090】
(実施例4)
実施例4は、本発明で用いるポリブタジエン化合物を架橋成分とする樹脂組成物の例である。熱硬化性樹脂としては、極めて低い誘電正接、0.0017が観察された。本樹脂系を用いて作製される絶縁層は誘電正接が低く、高周波対応電子機器の絶縁材料に好適である。
【0091】
(実施例5)
実施例5は、本発明に使用するポリブタジエン化合物を架橋成分とする樹脂組成物の例である。架橋助剤として3官能のTRIAM−705(トリメリット酸トリアリル)を添加したことにより、高温下における弾性率が、1.37E+09Paと実施例4に比べて増加した。また、その誘電正接は熱硬化性樹脂としては、極めて低い0.0017が観察された。本樹脂系を用いて作製される絶縁層は誘電正接が低く、高周波対応電子機器の絶縁材料に好適である。
【0092】
(実施例6)
実施例6は、実施例4の樹脂組成物をクロスNo.1の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなるクロスを用いたことにより誘電正接は、実施例4の樹脂板よりも低下し、0.0011が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例6のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低いこと、はんだ耐熱性が優れていることが明らかとなり、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。
【0093】
(実施例7)
実施例7は、実施例4の樹脂組成物をクロスNo.2の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなるクロスを用いたことにより誘電正接は、実施例4の樹脂板よりも低下し、0.0014が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例7のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低いこと、はんだ耐熱性が優れていることが明らかとなり、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。
【0094】
(実施例8)
実施例8は、実施例4の樹脂組成物をクロスNo.3の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなるクロスを用いたことにより誘電正接は、実施例4の樹脂板よりも低下し、0.0011が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例8のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低いこと、はんだ耐熱性が優れていることが明らかとなり、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。また、実施例6、7との比較からポリオレフィン繊維の含有率が増した場合においても、ポリオレフィン繊維と石英ガラス繊維を混紡した糸を用いることによって誘電正接の低減効果が増すことが見出された。
【0095】
(比較例2)
比較例2は、実施例4の樹脂組成物をクロスNo.4のEガラスクロスに含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。Eガラスクロスを用いたことにより誘電正接は、実施例4の樹脂板よりも増大し、0.0047が観測された。1GHz以上の高周波信号を伝送する電子機器の絶縁部材としては、誘電正接がやや大きい。低誘電正接な樹脂材料を用いた場合においても、プリント配線板、多層プリント配線板の誘電正接を低減するためには、誘電正接が低い基材の適用が必要であった。
【0096】
(実施例9)
実施例9は、実施例4の樹脂組成物を不織布No.1の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる不織布を用いたことにより誘電正接は、実施例4の樹脂板よりも低下し、0.0009が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例9のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低いこと、はんだ耐熱性が優れていることが明らかとなり、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。また、本実施例7のプリプレグから製造された積層板は、フレキシビリティーが高く、パンチングによる穴あけ加工が可能であった。
【0097】
(実施例10)
実施例10は、実施例4の樹脂組成物を不織布No.2の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる不織布を用いたことにより誘電正接は、実施例4の樹脂板よりも低下し、0.0006が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例10のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低いこと、はんだ耐熱性が優れていることが明らかとなり、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。また、本実施例10のプリプレグから製造された積層板は、フレキシビリティーが高く、パンチングによる穴あけ加工が可能であった。
【0098】
(実施例11)
実施例11は、実施例4の樹脂組成物を不織布No.3の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる不織布を用いたことにより誘電正接は、実施例4の樹脂板よりも低下し、0.0006が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例11のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低いこと、はんだ耐熱性が優れていることが明らかとなり、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。また、本実施例11のプリプレグから製造された積層板は、フレキシビリティーが高く、パンチングによる穴あけ加工が可能であった。
【0099】
(比較例3)
比較例3は、実施例4の樹脂組成物を不織布No.4の石英ガラス繊維からなる不織布に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維のみから構成される不織布は強度が低く、プリプレグ作製時の含浸作業において破れてしまった。以上のことから、プリプレグを作製するための石英ガラス繊維の不織布にはポリオレフィン繊維の導入による強度の改善が必要であることが判明した。
【0100】
(実施例12)
実施例12は、2種類の硬化触媒を含有するポリブタジエンを架橋成分とする樹脂組成物の例である。低温でラジカルを発生する硬化触媒を添加したことにより、常温で液状であるポリブタジエンのみを架橋成分として用いたにも関わらず、樹脂組成物はタックフリー性を有していた。その硬化物は、熱硬化性樹脂としては極めて誘電正接が低く、0.0015の値が観測された。本樹脂系を用いて作製される絶縁層は誘電正接が低く、高周波対応電子機器の絶縁材料に好適である。
【0101】
(実施例13)
実施例13は、実施例12の樹脂組成物を不織布No.3の石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材に含浸して作製したプリプレグの硬化物、即ち積層板の例である。石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる不織布を用いたことにより誘電正接は、実施例12の樹脂板よりも低下し、0.0006が観測された。また、吸湿の有無によらず、はんだ耐熱性は良好であった。以上のことから本実施例13のプリプレグを用いて作製される積層板、プリント配線板、多層プリント配線板は、その絶縁層の誘電正接が極めて低いこと、はんだ耐熱性が優れていることが明らかとなり、高周波対応電子機器の絶縁部材として良好な性能を有することが判明した。また、本実施例13のプリプレグから製造された積層板は、フレキシビリティーが高く、パンチングによる穴あけ加工が可能であった。
【0102】
(実施例14、15)
実施例14、15は本発明の樹脂組成物Aが含有する難燃剤の粒子径とワニスの保存安定性の関係を示す例である。これにより難燃剤の粒子径の低減が、ワニス保管時の沈殿の発生を抑制する効果があることが確認された。保存安定性の良いワニスは、作業性がよく、製造されるプリプレグの性能も安定するので好ましい。
【0103】
(実施例16)
実施例16は、特定構造のビスマレイミド化合物を架橋成分とする樹脂組成物の例である。これにより本発明の特定構造のビスマレイミド化合物を含有する樹脂組成物のワニス粘度がBVPEを含有する樹脂組成物のワニス粘度よりも低減できることが確認された。
【0104】
(実施例17)
実施例15は、特定構造のビスマレイミド化合物を架橋成分とする樹脂組成物と石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなるプリプレグ、およびその硬化物の例である。実施例16の樹脂板の誘電特性との比較から石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維からなる基材を用いることによって誘電特性が改善されることが確認された。
【0105】
(実施例18)
実施例18では、実施例2のプリプレグを用いて作製したアンテナ回路内蔵高周波基板を作製した。その工程を図1に示した。
【0106】
(A)実施例2のプリプレグを10x10cmに切断し、10枚積層して2枚の銅箔で挟み込んだ。真空プレスによって、2MPaの圧力で加圧しながら、真空下、昇温速度6℃/分の条件で昇温し、230℃で1時間保持して両面銅張積層板を作製した。
【0107】
(B)銅張積層板の片面にフォトレジストHS425(日立化成製)をラミネートしてアンテナ回路接続用スルーホール部分にマスクを施し、露光した。次いで残る銅箔表面にフォトレジストHS425(日立化成製)をラミネートしてアンテナのテストパターンを露光し、両面の未露光部分のフォトレジストを1%炭酸ナトリウム液で現像した。
【0108】
(C)硫酸5%、過酸化水素5%のエッチング液で露出した銅箔をエッチング除去して、両面銅張積層板にアンテナパターンとスルーホールパターンを作製した。3%水酸化ナトリウム溶液で残存するフォトレジストを除去した。
【0109】
(D)スルーホールパターン側にプリプレグ1枚を介して銅箔を積層し、(A)と同様の条件でプレス加工して多層化した。
【0110】
(E)新たに設置した導体層に(B)、(C)と同様の方法で、配線回路とスルーホールパターンを加工した。
【0111】
(F)外層のスルーホールパターンをマスクとして、炭酸ガスレーザーによりスルーホールを形成した。
【0112】
(G)スルーホール内に銀ペーストを導入し、アンテナ回路と裏面の配線を接続し、アンテナ回路直下にシールド層を有するアンテナ内臓プリント配線板を作製した。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】アンテナ内蔵基板の作製例を示す模式的な工程図である。
【符号の説明】
【0114】
1…銅箔、2…積層硬化したプリプレグ、3…フォトレジストアンテナパターン、4…フォトレジストスルーホールパターン、5…アンテナパターン、6…スルーホールパターン、7…配線パターン、8…スルーホール、9…銀ペースト、10…グランド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性を有し、且つ硬化後の誘電正接の値が少なくとも1GHzにおいて0.005以下である樹脂組成物Aを基材Bに含浸してなるプリプレグにおいて、基材Bがポリオレフィン繊維Cとポリオレフィン繊維よりも引張強度が高く、熱膨張率が低い繊維Dを含有し、かつ基材Bの炭化水素系有機溶媒への溶出率が5wt%未満であるクロスであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
請求項1に記載のプリプレグにおいて、繊維Cと繊維Dを共に含む糸を作製し、該糸を用いて作製されたクロスを基材Bとすることを特徴とするプリプレグ。
【請求項3】
硬化性を有し、且つ硬化後の誘電正接の値が少なくとも1GHzにおいて0.005以下である樹脂組成物Aを基材Bに含浸してなるプリプレグにおいて、基材Bがポリオレフィン繊維Cとポリオレフィン繊維よりも引張強度が高く、熱膨張率が低い繊維Dを含有し、かつ、基材Bの炭化水素系有機溶媒への溶出率が5wt%未満である不織布であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
請求項3に記載のプリプレグにおいて、繊維Cと繊維Dが、融着していることを特徴とするプリプレグ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のプリプレグにおいて、繊維Cがα−オレフィン化合物の重合体又は共重合体を1種以上含有するポリオレフィン繊維であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のプリプレグにおいて、繊維Dが、少なくともシラン系カップリング剤によって表面処理されているガラス繊維であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項7】
請求項6に記載のプリプレグにおいて、繊維Dが石英ガラス繊維であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のプリプレグにおいて、繊維Cのガラス転移温度または溶融温度が130℃以上であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが下記一般式1で示される多官能スチレン化合物を含有することを特徴とするプリプレグ。
【化1】

(式中、Rは炭化水素骨格を表し、Rは同一または異なっている水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R、R、Rは同一または異なっている水素または炭素数1〜6の炭化水素基を表し、mは1〜4の整数、nは2以上の整数を表し、GPC(Gelpermeation Chromatography)測定におけるポリスチレン換算重量平均分子量は1000以下である。)
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが下記一般式2で表される繰り返し単位を有するポリブタジエン化合物とポリブタジエンの硬化反応を促進する硬化触媒を含有することを特徴とするプリプレグ。
【化2】

(式中pは2以上の整数である。)
【請求項11】
請求項10に記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが含有する硬化触媒が、ポリブタジエン100重量部に対して、1分間の半減期温度が80℃から140℃であるラジカル重合開始剤3から10重量部と1分間の半減期温度が170℃から230℃であるラジカル重合開始剤5から15重量部を含む複合硬化触媒であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項12】
請求項1から8のいずれかに記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが下記一般式3で表される特定構造のビスマレイミド化合物を含有することを特徴とするプリプレグ。
【化3】

(式中、Rは同一または異なっている炭素数1〜4の炭化水素基を表し、lは1〜4の整数を表す。)
【請求項13】
請求項9から12のいずれかに記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体と、更に硬化性ポリフェニレンオキサイド、トリメリット酸トリアリル、ピロメリット酸テトラアリルの内から選ばれる少なくとも一つの架橋助剤を含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項14】
請求項13に記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが更に平均粒径0.2から3.0μmである下記一般式4または5で表される難燃剤および酸化ケイ素フィラーを含有していることを特徴とするプリプレグ。
【化4】

【請求項15】
請求項14に記載のプリプレグにおいて、更に樹脂組成物Aがシラン系カップリング剤を含有していることを特徴とするプリプレグ。
【請求項16】
請求項15に記載のプリプレグにおいて、樹脂組成物Aが含有するシラン系カップリング剤が酸化ケイ素フィラー上に担持されていることを特徴とするプリプレグ。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のプリプレグの硬化物の両面または片面に導体層を設置してなる積層板。
【請求項18】
請求項17記載の積層板の導体層に配線加工を施してなるプリント配線板。
【請求項19】
請求項18記載のプリント配線板を請求項1〜16のいずれかに記載のプリプレグを用いて多層接着されたことを特徴とするフレキシブル配線板。
【請求項20】
1GHz以上の電気信号を伝送する回路を有する電子部品であって、該電子部品の絶縁層に請求項1〜16のいずれかに記載のプリプレグの硬化物を含むことを特徴とする電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−266408(P2008−266408A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109246(P2007−109246)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】