説明

プリント配線板用銅箔

【課題】Crを用いることなく絶縁基板との接着性及びエッチング性の両方に優れ、ファインピッチ化に適したプリント配線板用銅箔を提供する。
【解決手段】銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備えたプリント配線板用銅箔であって、
(1)該被覆層は銅箔基材表面から順に積層したNi層及びAl層で構成され、
(2)該被覆層にはAlが100〜1300μg/dm2、Niが40〜600μg/dm2の被覆量で存在する、
プリント配線板用銅箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント配線板用の銅箔に関し、特にフレキシブルプリント配線板用の圧延銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板はここ半世紀に亘って大きな進展を遂げ、今日ではほぼすべての電子機器に使用されるまでに至っている。近年の電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴い搭載部品の高密度実装化や信号の高周波化が進展し、プリント配線板に対して導体パターンの微細化(ファインピッチ化)や高周波対応等が求められている。
【0003】
プリント配線板は銅箔に絶縁基板を接着させて銅張積層板とした後に、エッチングにより銅箔面に導体パターンを形成するという工程を経て製造されるのが一般的である。そのため、プリント配線板用の銅箔には絶縁基板との接着性やエッチング性が要求される。
【0004】
絶縁基板との接着性を向上させるために粗化処理と呼ばれる銅箔表面に凹凸を形成する表面処理を施すことが一般に行われている。例えば電解銅箔のM面(粗面)に硫酸銅酸性めっき浴を用いて、樹枝状又は小球状に銅を多数電着せしめて微細な凹凸を形成し、投錨効果によって接着性を改善させる方法がある。粗化処理後には接着特性を更に向上させるためにクロメート処理やシランカップリング剤による処理等が一般的に行われている。
【0005】
一方で、銅箔表面に金属層又は合金層を形成することにより絶縁基板との接着性を向上させようとする方法も知られている。
【0006】
特開2007−207812号公報には、銅箔の表面にNi−Cr合金層を形成し、この合金層の表面に所定厚みの酸化物層を形成させることにより、銅層表面が平滑でアンカー効果が少ない状態においても樹脂基材との接着性が大幅に向上することが記載されている。そして、表面に厚み1〜100nmのNi−Cr合金層が蒸着形成され、該合金層の表面に厚み0.5〜6nmのCr酸化物層が形成され、かつ最表面の平均表面粗さRzJISが2.0μm以下である、プリント配線基板用銅箔が開示されている。
【0007】
特開2006−222185号公報には、ポリイミド系フレキシブル銅張積層板用表面処理銅箔において、(1)Ni量にして0.03〜3.0mg/dm2含有するNi層又は/及びNi合金層、(2)Cr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するクロメート層、(3)Cr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するCr層又は/Cr合金層、(4)Ni量にして0.03〜3.0mg/dm2含有するNi層又は/及びNi合金層の上に、Cr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するクロメート層、(5)Ni量にして0.03〜3.0mg/dm2含有するNi層又は/及びNi合金層の上にCr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するCr層又は/及びCr合金層を表面処理層として設けることによって、ポリイミド系樹脂層との間で高いピール強度を有し、絶縁信頼性、配線パターン形成時のエッチング特性、屈曲特性の優れたポリイミド系フレキシブル銅張積層板用銅箔が得られることが記載されている。上記のNi量やCr量から表面処理層の厚みを推定するとμmオーダーである。また、実施例では電気めっきを利用して表面処理層を設けたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−207812号公報
【特許文献2】特開2006−222185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
粗化処理により接着性を向上させる方法ではファインライン形成には不利である。すなわち、ファインピッチ化により導体間隔が狭くなると、粗化処理部がエッチングによる回路形成後に絶縁基板に残留し、絶縁劣化を起こすおそれがある。これを防止するために粗化表面すべてをエッチングしようとすると長いエッチング時間を必要とし、所定の配線幅が維持できなくなる。
【0010】
銅箔表面にCr層やNi−Cr合金層などのCrを含有する被覆層を形成する方法によれば比較的高い接着性が得られる。しかしながら、Cr層はエッチング性に改善の余地がある。すなわち、Cr層はNi層よりも接着性が高いが、Crはエッチング性に劣るため、導体パターン形成のためのエッチング処理を行った後に、Crが絶縁基板面に残る「エッチング残り」が生じやすい。また、Crは環境汚染の観点からも好ましいとは言えない。
【0011】
そこで、本発明はCrを用いることなく絶縁基板との接着性及びエッチング性の両方に優れ、ファインピッチ化に適したプリント配線板用銅箔を提供することを課題とする。また、本発明はそのようなプリント配線板用銅箔の製造方法を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来、被覆層を薄くすると接着強度が低下するということが一般的な理解であった。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討の結果、銅箔基材表面に順にNi層及びAl層をナノメートルオーダーの極薄の厚みで均一に設けた場合には、優れた絶縁基板との密着性が得られ、エッチング性も良好であることを見出した。
【0013】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、
銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備えたプリント配線板用銅箔であって、
(1)該被覆層は銅箔基材表面から順に積層したNi層及びAl層で構成され、
(2)該被覆層にはAlが100〜1300μg/dm2、Niが40〜600μg/dm2の被覆量で存在する、
プリント配線板用銅箔である。
【0014】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の一実施形態においては、Alの被覆量が200〜850μg/dm2、Niの被覆量が70〜300μg/dm2である。
【0015】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の別の一実施形態においては、銅箔基材は圧延銅箔である。
【0016】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、プリント配線板はフレキシブルプリント配線板である。
【0017】
本発明は別の一側面において、スパッタリング法によって銅箔基材表面の少なくとも一部を厚さ0.5〜7nmのNi層及び厚さ3.5〜50nmのAl層で順に被覆することを含むプリント配線板用銅箔の製造方法である。
【0018】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の製造方法の一実施形態においては、Ni層の厚さが0.8〜3.5nmであり、Al層の厚さが7.5〜30nmである。
【0019】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅箔を備えた銅張積層板である。
【0020】
本発明に係る銅張積層板の一実施形態においては、銅箔がポリイミドに接着している構造を有する。
【0021】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅張積層板を材料としたプリント配線板である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、絶縁基板との接着性及びエッチング性の両方に優れたプリント配線板用銅箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】No.18の銅箔についてのXPSによるデプスプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.銅箔基材
本発明に用いることのできる銅箔基材の形態に特に制限はないが、典型的には圧延銅箔や電解銅箔の形態で用いることができる。一般的には、電解銅箔は硫酸銅めっき浴からチタンやステンレスのドラム上に銅を電解析出して製造され、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。屈曲性が要求される用途には圧延銅箔を適用することが多い。
銅箔基材の材料としてはプリント配線板の導体パターンとして通常使用されるタフピッチ銅や無酸素銅といった高純度の銅の他、例えばSn入り銅、Ag入り銅、Cr、Zr又はMg等を添加した銅合金、Ni及びSi等を添加したコルソン系銅合金のような銅合金も使用可能である。なお、本明細書において用語「銅箔」を単独で用いたときには銅合金箔も含むものとする。
【0025】
本発明に用いることのできる銅箔基材の厚さについても特に制限はなく、プリント配線板用に適した厚さに適宜調節すればよい。例えば、5〜100μm程度とすることができる。但し、ファインパターン形成を目的とする場合には30μm以下、好ましくは20μm以下であり、典型的には10〜20μm程度である。
【0026】
本発明に使用する銅箔基材には粗化処理をしないのが好ましい。従来は特殊めっきで表面にμmオーダーの凹凸を付けて表面粗化処理を施し、物理的なアンカー効果によって樹脂との接着性を持たせるケースが一般的であった。しかしながら一方でファインピッチや高周波電気特性は平滑な箔が良いとされ、粗化箔では不利な方向に働くからである。また、粗化処理工程が省略されるので、経済性・生産性向上の効果もある。
【0027】
2.被覆層
銅箔基材の表面の少なくとも一部はNi層及びAl層で順に被覆される。Ni層及びAl層は被覆層を構成する。被覆する箇所には特に制限は無いが、絶縁基板との接着が予定される箇所とするのが一般的である。被覆層の存在によって絶縁基板との接着性が向上する。一般に、銅箔と絶縁基板の間の接着力は高温環境下に置かれると低下する傾向にあるが、これは銅が表面に熱拡散し、絶縁基板と反応することにより引き起こされると考えられる。
本発明でいう接着性とは常態での接着性の他、高温下に置かれた後の接着性(耐熱性)及び高湿度下に置かれた後の接着性(耐湿性)のことも指す。Ni層を単独で設けると、常態での接着性及び耐湿性は向上するが、良好な耐熱性が得られない。Al層を単独で設けると、常態での接着性及び耐熱性は向上するが、良好な耐湿性が得られない。また、このAl層単独で被覆した場合、エッチングを行うと、銅箔との界面でAl層が腐食、溶出し、ピール強度が劣化する。しかしながら、Al層の下にNi層を極薄の厚みで設けると耐湿性が格段に向上し、絶縁基板と常態での接着性、耐熱性及び耐湿性の何れもが優れた値を示すようになる。Ni層は厚ければよいというものではなく、1nm付近でピークを迎えると徐々に耐湿性が低下していく。
【0028】
具体的には、本発明に係る被覆層は以下の構成を有する。
【0029】
(1)Al、Ni被覆層の同定
本発明においては、銅箔素材の表面の少なくとも一部はNi層及びAl層の順に被覆される。これら被覆層の同定はXPS、若しくはAES等表面分析装置にて表層からアルゴンスパッタし、深さ方向の化学分析を行い、夫々の検出ピークの存在によってNi層及びAl層を同定することができる。また、夫々の検出ピークの位置から被覆された順番を確認することができる。
【0030】
(2)付着量
一方、これらNi層及びAl層は非常に薄いため、XPS、AESでは正確な厚さの評価が困難である。そのため、本願発明においては、Ni層及びAl層の厚さは特許文献2と同様に単位面積当たりの被覆金属の重量で評価することとした。本発明に係る被覆層にはAlが100〜1300μg/dm2、Niが40〜600μg/dm2の被覆量で存在する。Alは100μg/dm2未満の場合十分なピール強度が得られず、1300μg/dm2を超える場合には耐湿性の改善が不十分である。Niは40μg/dm2未満の場合には耐湿性の改善が不十分になり、600μg/dm2を超える場合には十分なピール強度が得られない。Alの被覆量は好ましくは120〜1000μg/dm2、より好ましくは200〜850μg/dm2であり、Niの被覆量は好ましくは40〜500μg/dm2、より好ましくは70〜300μg/dm2である。
【0031】
3.本発明に係る銅箔の製法
本発明に係るプリント配線板用銅箔は、スパッタリング法により形成することができる。すなわち、スパッタリング法によって銅箔基材表面の少なくとも一部を、厚さ0.5〜7nm、好ましくは0.5〜5.5nm、より好ましくは0.8〜3.5nmのNi層及び厚さ3.5〜50nm、好ましくは5.0〜40nm、より好ましくは7.5〜30nmのAl層で順に被覆することにより製造することができる。電気めっきでこのような極薄の被膜を積層すると、厚さにばらつきが生じ、耐熱・耐湿試験後にピール強度が低下しやすい。
ここでいう厚さとは上述したXPSやTEMによって決定される厚さではなく、スパッタリングの成膜速度から導き出される厚さである。あるスパッタリング条件下での成膜速度は、1μm(1000nm)以上スパッタを行い、スパッタ時間とスパッタ厚さの関係から計測することができる。当該スパッタリング条件下での成膜速度が計測できたら、所望の厚さに応じてスパッタ時間を設定する。なおスパッタは、連続又はバッチ何れで行っても良く、被覆層を本発明で規定するような厚さで均一に積層することができる。スパッタリング法としては直流マグネトロンスパッタリング法が挙げられる。
【0032】
4.プリント配線板の製造
本発明に係る銅箔を用いてプリント配線板(PWB)を常法に従って製造することができる。以下に、プリント配線板の製造例を示す。
【0033】
まず、銅箔と絶縁基板を貼り合わせて銅張積層板を製造する。銅箔が積層される絶縁基板はプリント配線板に適用可能な特性を有するものであれば特に制限を受けないが、例えば、リジッドPWB用に紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂等を使用し、FPC用にポリエステルフィルムやポリイミドフィルム等を使用する事ができる。
【0034】
貼り合わせの方法は、リジッドPWB用の場合、ガラス布などの基材に樹脂を含浸させ、樹脂を半硬化状態まで硬化させたプリプレグを用意する。プリプレグと銅箔の被覆層を有する面を重ね合わせて加熱加圧させることにより行うことができる。
【0035】
フレキシブルプリント配線板(FPC)用の場合、ポリイミドフィルム又はポリエステルフィルムと銅箔の被覆層を有する面をエポキシ系やアクリル系の接着剤を使って接着することができる(3層構造)。また、接着剤を使用しない方法(2層構造)としては、ポリイミドの前駆体であるポリイミドワニス(ポリアミック酸ワニス)を銅箔の被覆層を有する面に塗布し、加熱することでイミド化するキャスティング法や、ポリイミドフィルム上に熱可塑性のポリイミドを塗布し、その上に銅箔の被覆層を有する面を重ね合わせ、加熱加圧するラミネート法が挙げられる。キャスティング法においては、ポリイミドワニスを塗布する前に熱可塑性ポリイミド等のアンカーコート材を予め塗布しておくことも有効である。
【0036】
本発明に係る銅箔の効果はキャスティング法を採用してFPCを製造したときに顕著に表れる。すなわち、接着剤を使用せずに銅箔と樹脂とを貼り合わせようとするときには銅箔の樹脂への接着性が特に要求されるが、本発明に係る銅箔は樹脂、とりわけポリイミドとの接着性に優れているので、キャスティング法による銅張積層板の製造に適しているといえる。
【0037】
本発明に係る銅張積層板は各種のプリント配線板(PWB)に使用可能であり、特に制限されるものではないが、例えば、導体パターンの層数の観点からは片面PWB、両面PWB、多層PWB(3層以上)に適用可能であり、絶縁基板材料の種類の観点からはリジッドPWB、フレキシブルPWB(FPC)、リジッド・フレックスPWBに適用可能である。
【0038】
銅張積層板からプリント配線板を製造する工程は当業者に知られた任意の方法を用いればよく、例えばエッチングレジストを銅張積層板の銅箔面に導体パターンとしての必要部分だけに塗布し、エッチング液を銅箔面に噴射することで不要銅箔を除去して導体パターンを形成し、次いでエッチングレジストを剥離・除去して導体パターンを露出することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0040】
例1
銅箔基材として、厚さ18μmの圧延銅箔(日鉱金属製C1100)を用意した。
【0041】
この銅箔の片面に対して、以下の条件であらかじめ銅箔基材表面に付着している薄い酸化膜を逆スパッタにより取り除き、次にNi層及びAl層を順に成膜した。被覆層の厚さは成膜時間を調整することにより変化させた。また、比較例No.21〜23としてNiとAlの同時スパッタリングによるNi−Al複合層も成膜した。
・装置:バッチ式スパッタリング装置(アルバック社、型式MNS−6000)
・到達真空度:1.0×10-5Pa
・スパッタリング圧:0.2Pa
・逆スパッタ電力:100W
・ターゲット:
Ni層用=Ni(純度3N)
Al層用=Al(純度3N)
Ni−Al複合層用=Ni(純度3N)及びAl(純度3N)(Ni及びAlを同時にスパッタリングチャンバー内に設置し、Ni−Al複合層を形成した。Alターゲット上のNi板占有面積を変える事により、複合層中のNiとAlの重量比を変化させた。得られたNiとAlの複合層中のNi及びAlの重量比は、被覆層のXPSデプスプロファイルからNi及びAlの膜厚比を求め、比重により重量比を算出した。)
・スパッタリング電力:50W
・成膜速度:各ターゲットについて一定時間約2μm成膜し、3次元測定器で厚さを測定し、単位時間当たりのスパッタレートを算出した。(Ni:2.73nm/min、Al:2.87nm/min)
【0042】
被覆層を設けた銅箔に対して、以下の手順により、ポリイミドフィルムを接着した。
(1)7cm×7cmの銅箔に対しアプリケーターを用い、宇部興産製Uワニス(ポリイミドワニス)を乾燥体で25μmになるよう塗布。
(2)(1)で得られた樹脂付き銅箔を空気雰囲気下130℃、30分間乾燥。
(3)窒素流量を10L/minに設定した高温加熱炉において、350℃、30分でイミド化。
【0043】
<付着量の測定>
50mm×50mmの銅箔表面の皮膜をHNO3(2重量%)とHCl(5重量%)を混合した溶液に溶解し、その溶液中の金属濃度をICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SFC−3100)にて定量し、単位面積当たりの金属量(μg/dm2)を算出した。
<XPSによる測定>
被覆層のデプスプロファイルを作成した際のXPSの稼働条件を以下に示す。
・装置:XPS測定装置(アルバックファイ社、型式5600MC)
・到達真空度:3.8×10-7Pa
・X線:単色AlKα、X線出力300W、検出面積800μmφ、試料と検出器のなす角度45°
・イオン線:イオン種Ar+、加速電圧3kV、掃引面積3mm×3mm、スパッタリングレート2.3nm/min(SiO2換算)
【0044】
<接着性評価>
上記のようにしてポリイミドを積層した銅箔について、ピール強度を積層直後(常態)、温度150℃で空気雰囲気下の高温環境下に168時間放置した後(耐熱性)、及び温度40℃°相対湿度95%空気雰囲気下の高湿環境下に96時間放置した後(耐湿性)の三つの条件で測定した。ピール強度は180°剥離法(JIS C 6471 8.1)に準拠して測定した。
【0045】
<エッチング性評価>
上記のようにポリイミドを積層した銅箔について、所定のレジストを用いて1mm幅のパターンを形成し、次にエッチング液(塩化第二鉄45ボーメ、温度40℃)を用いて所定時間エッチング処理した。処理後、銅箔とポリイミドを剥離し、銅箔表面の表面処理状態を光学顕微鏡で観察評価した。エッチング性の評価は次の基準によって行った。
×:銅箔表面の表面処理が全体的に溶出、はがれている。
△:銅箔表面の表面処理が一部、はがれている箇所がある。
〇:銅箔表面の表面処理が完全に保持されている。
【0046】
測定条件及び測定結果を表1に示す。参考用に、XPSによるデプスプロファイルをNo.18の銅箔について図1に示す。
【表1】

【0047】
No.13〜20は、Ni層及びAl層の付着量(厚み)が適正であり、ピール強度及びエッチング性の何れにおいても優れていた。
一方、No.1及びNo.2はNiの単層であり、十分な耐熱ピール強度が得られていない。No.2は常態ピール強度においても本発明より劣る。
No.3はAlの単層であり、十分な耐湿ピール強度が得られておらず、エッチング性にも劣る。
No.4〜6はNiの厚みを20nmに固定して、Alの厚みを徐々に薄くしたときの推移を示すが、No.4ではピール強度が全体的に不十分であり、No.5は耐湿ピール強度が不十分であり、No.6はピール強度が全体的に不十分である。Ni層が厚い場合には優れた結果は得られないことが分かる。
No.7はNi層をNo.4〜7に比べて薄くしたが、未だ厚すぎてピール強度が全体的に不十分である。
No.8はNi層を薄くしすぎ、Al層が厚すぎるため耐湿ピール強度及びエッチング性が不十分である。
No.9はNi層が適正であるがAl層が厚すぎて耐湿ピール強度及びエッチング性が不十分である。
No.10はNi層及びAl層が共に厚すぎてピール強度が全体的に不十分である。
No.11はNi層及びAl層が共に薄すぎて耐湿ピール強度及びエッチング性が不十分である。
No.12はNi層が適正であるが、Al層が薄すぎて全体的なピール強度及びエッチング性が不十分である。
No.21〜23はAl及びNiの付着量自体は本発明の範囲内であるが、複合層であるために、耐湿ピール及びエッチング性が不十分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備えたプリント配線板用銅箔であって、
(1)該被覆層は銅箔基材表面から順に積層したNi層及びAl層で構成され、
(2)該被覆層にはAlが100〜1300μg/dm2、Niが40〜600μg/dm2の被覆量で存在する、
プリント配線板用銅箔。
【請求項2】
Alの被覆量が200〜850μg/dm2、Niの被覆量が70〜300μg/dm2である請求項1記載の銅箔。
【請求項3】
銅箔基材は圧延銅箔である請求項1又は2記載の銅箔。
【請求項4】
プリント配線板はフレキシブルプリント配線板である請求項1〜3何れか一項記載の銅箔。
【請求項5】
スパッタリング法によって銅箔基材表面の少なくとも一部を厚さ0.5〜7nmのNi層及び厚さ3.5〜50nmのAl層で順に被覆することを含むプリント配線板用銅箔の製造方法。
【請求項6】
Ni層の厚さが0.8〜3.5nmであり、Al層の厚さが7.5〜30nmである請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4何れか一項記載の銅箔を備えた銅張積層板。
【請求項8】
銅箔がポリイミドに接着している構造を有する請求項7記載の銅張積層板。
【請求項9】
請求項7又は8記載の銅張積層板を材料としたプリント配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2010−238928(P2010−238928A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85616(P2009−85616)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】