説明

プロピレン系樹脂組成物およびその成形体

【課題】物性バランス、ウェルド外観さらにはフローマーク外観に優れるとともに、経済性にも富んだプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の提供。
【解決手段】上記樹脂組成物を、(A)チーグラー系触媒を用いて重合される、結晶性プロピレン重合体成分とプロピレン・エチレン共重合体成分からなり、所定特性を満たすプロピレン系ブロック共重合体(I)30〜97重量%、(B)エラストマー1〜40重量%、(C)メタロセン系触媒を用いて重合される、所定特性を満たすプロピレン系ブロック共重合体(II)1〜15重量%および(D)無機フィラー1〜45重量%を含有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体に関し、さらに詳しくは、チーグラー系触媒を用いて重合されるプロピレン系ブロック共重合体(I)、エラストマー、メタロセン系触媒を用いて重合されるプロピレン系ブロック共重合体(II)および無機フィラーを含む組成物からなる、物性バランス、ウェルド外観、さらにはフローマーク外観に優れるプロピレン系樹脂組成物およびその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系樹脂組成物は、工業部品分野における各種成形体、例えば、バンパー、サイドモール、インストルメントパネルなどの自動車部品、テレビなどの家電機器製品の部品などとして、その優れた成形性、機械的強度、環境問題適応性や経済性の特徴を活かし、多く実用に供されてきている。なかでも自動車分野での成形体は、大型化、デザインの複雑化や無塗装化が進みつつあり、それに伴いプロピレン系樹脂組成物およびその成形体には、高度な物性バランス(例えば高い剛性と衝撃強度とのバランス等)の発現に加え、製品価値を一層高めるべく、ウェルド外観(樹脂の流れ突き合わせ部分の線状模様)や、フローマーク(樹脂の流れ方向に沿った縞状模様)について、一段と改善させ、目立ち難くすることが求められている。
【0003】
プロピレン系樹脂組成物の物性バランスの高度化には、剛性と衝撃強度の相反する両特性を共に向上させる必要があり、例えばプロピレン重合体においては、メタロセン系触媒によって、プロピレン−エチレンブロック共重合体を製造して、剛性と衝撃強度をバランスよく向上させようとする試みも多数なされており、専ら結晶性プロピレン単独重合体またはプロピレンと少量のエチレンとの共重合体およびプロピレン−エチレン共重合体を二段重合で製造する手法が用いられる(例えば特許文献1〜4参照)。
さらに、メタロセン系触媒を用いて、プロピレン−エチレン共重合体の相溶化剤成分を含み、物性バランスに優れたプロピレン系樹脂組成物を、少なくとも三段の重合により製造する手法(例えば特許文献5参照)や、組成分布の狭いゴム状共重合体をブレンドすることなくメタロセン系など特定成分含有触媒系を用いて、物性バランスに優れたプロピレン/エチレン・α−オレフィン共重合体を得る手法(例えば特許文献6、7参照)も提案されている。
【0004】
一方、剛性水準の向上にはタルクなど無機フィラーを添加する手法が多く用いられる。
さらに、衝撃強度水準を向上には、エチレン−プロピレンゴム(EPR)や、エチレン−ブテンゴム(EBR)、ポリスチレン−エチレン/ブテン−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)、エチレン−オクテンゴム(EOR)などのゴム成分、エラストマーを添加する手法が用いられる(例えば、特許文献8参照)。
また、メタロセン系触媒を用いたプロピレン系重合体に、エラストマーや無機フィラーを添加して剛性と衝撃強度のバランスを向上する手法が用いられる(例えば、特許文献9参照)。
さらに、メタロセン系触媒によるプロピレン系ブロック共重合体と、エラストマーや無機フィラー、およびチーグラー系触媒によるプロピレン系ブロック共重合体を組み合わせることにより、剛性と衝撃強度などのバランスのとれたプロピレン系樹脂組成物を得る試みもなされている(例えば、特許文献10、11参照)。
【0005】
ウェルド外観やフローマーク(タイガーマーク)の改善に関しては、特定のプロピレン系樹脂に、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム(エラストマー)と、無機フィラーなどを配合した組成物が開示されている(例えば、特許文献12〜15参照)。
また、プロピレン系樹脂組成物の物性やタイガーマークなどの成形外観を改良するため、特定の3種のポリプロピレン成分に、ゴム成分の後添加量を低減して、無機フィラーとともに配合した組成物が開示されている(例えば、特許文献16参照)。
本発明者らは、メタロセン触媒によるプロピレン系ブロック共重合体組成物、チーグラー系触媒によるプロピレン系ブロック共重合体およびエラストマーを組み合わせてなる、物性バランスと成形外観(フローマーク外観)に優れたプロピレン系樹脂組成物を先に提案した(特許文献17参照)。
【0006】
しかしながら、これらのプロピレン系樹脂組成物は、物性バランスの向上や、ウェルド外観、フローマーク外観の向上がある程度達成されているものの、成形体の大型化やデザインの複雑化、薄肉化が益々進むに連れ、これらの性能の総合的バランスを高い水準で発現するには、未だ不充分である。
【0007】
【特許文献1】特開平4−337308号公報
【特許文献2】特開平5−202152号公報
【特許文献3】特開平6−172414号公報
【特許文献4】特開平8−67783号公報
【特許文献5】WO95/27741号公報
【特許文献6】特開平9−316147号公報
【特許文献7】特開平10−158351号公報
【特許文献8】特開平11−29669号公報
【特許文献9】特開平10−1573号公報
【特許文献10】特開2003−147157号公報
【特許文献11】特開2003−147158号公報
【特許文献12】特開平9−194646号公報
【特許文献13】特開2000−26697号公報
【特許文献14】特開2006−124520号公報
【特許文献15】特開2006−193643号公報
【特許文献16】特開2003−301086号公報
【特許文献17】特開2007−211189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、物性バランス、ウェルド外観さらにはフローマーク外観に優れるとともに、経済性にも富んだプロピレン系樹脂組成物およびその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため、種々の研究を重ねた結果、チーグラー系触媒を用いて重合されるプロピレン系ブロック共重合体、エラストマー、メタロセン系触媒を用いて重合されるプロピレン系ブロック共重合体および無機フィラーを、特定の比率で配合することにより得られたプロピレン系樹脂組成物が、物性バランスに優れるとともに、射出成形や射出圧縮成形などの際のウェルド外観やフローマーク外観に優れる性能を備え、さらに経済性にも富んでいることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、(A)チーグラー系触媒を用いて重合される、結晶性プロピレン重合体成分とプロピレン・エチレン共重合体成分からなり、下記の特性1)〜5)を満たすプロピレン系ブロック共重合体(I)30〜97重量%、(B)エラストマー1〜40重量%、(C)メタロセン系触媒を用いて重合される、下記の特性6)〜11)を満たすプロピレン系ブロック共重合体(II)1〜15重量%および(D)無機フィラー1〜45重量%を含有することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
特性1)結晶性プロピレン重合体成分(a)65〜97重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)3〜35重量%とからなること。
特性2)結晶性プロピレン重合体成分(a)のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、10〜600g/10分であること。
特性3)プロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量が、30〜70重量%であること。
特性4)プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量が、5万〜200万であること。
特性5)成分全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、5〜300g/10分であること。
特性6)結晶性プロピレン重合体成分(c)25〜70重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)30〜75重量%とからなること。
特性7)結晶性プロピレン重合体成分(c)のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、40〜350g/10分であること。
特性8)結晶性プロピレン重合体成分(c)の示差走査熱量測定(DSC)によって得られる融点が、156℃以上であること。
特性9)プロピレン・エチレン共重合体成分(d)のエチレン含量が、10〜30重量%であること。
特性10)プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の重量平均分子量が、25万〜100万であること。
特性11)成分全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、5〜200g/10分であること。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、成分(C)が、エチレン含量10〜25重量%のプロピレン・エチレン共重合体成分(d)を45〜70重量%含有するものであることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、成分(A)43〜87重量%、成分(B)3〜15重量%、成分(C)6〜12重量%および成分(D)4〜30重量%を含有することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、上記メタロセン系触媒が、(ア)下記一般式[I]で示される遷移金属化合物、および(イ)(イ−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(イ−2)遷移金属化合物と反応してカチオンを形成可能な化合物および(イ−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)からなる群から選ばれる少なくとも1種の活性化剤を必須成分とし、(ウ)有機アルミニウム化合物を任意成分とするものであることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【化1】

(一般式[I]中において、AおよびAは、共役五員環配位子〔同一化合物内ではAおよびAは同一でも異なっていてもよい〕を示し、結合性基Qに結合していない共役五員環の炭素は置換基を有してもよく、Qは、2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基、Mは、周期律表4〜6族から選ばれる金属原子を示し、XおよびYは、それぞれ独立してMと結合した、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基を示す。)
【0014】
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明のプロピレン系樹脂組成物を、射出成形または射出圧縮成形にて成形したことを特徴とする成形体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプロピレン系樹脂組成物を用いることにより、射出成形や射出圧縮成形などにおいて、物性バランスに優れ、且つウェルド外観、フローマーク外観も良好な成形体を、より経済的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、成分(A)プロピレン系ブロック共重合体(I)、成分(B)エラストマー、成分(C)プロピレン系ブロック共重合体(II)、成分(D)無機フィラーの各成分を含有するプロピレン系樹脂組成物およびその成形体である。以下、プロピレン系樹脂組成物の各成分、プロピレン系樹脂組成物の製造、成形体について詳細に説明する。
【0017】
[I]プロピレン系樹脂組成物の構成成分
1.成分(A)プロピレン系ブロック共重合体(I)
本発明のプロピレン系樹脂組成物で用いられる成分(A)のプロピレン系ブロック共重合体(I)は、チーグラー系触媒を用いて重合される、下記の特性1)〜5)を有するプロピレン系ブロック共重合体である。
特性1)結晶性プロピレン重合体成分(a)65〜97重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)3〜35重量%とからなること。
特性2)結晶性プロピレン重合体成分(a)のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、10〜600g/10分であること。
特性3)プロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量が、30〜70重量%であること。
特性4)プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量が、5万〜200万であること。
特性5)成分全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、5〜300g/10分であること。
【0018】
(1)重合触媒
このプロピレン系ブロック共重合体(I)の製造には、チーグラー系重合触媒が用いられる。
この重合触媒の種類としては、通常、高立体規則性触媒が用いられる。例えば、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し更に活性化したもの(例えば、特開昭47−34478号、特開昭58−23806号、特開昭63−146906号の各公報参照)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58−157808号、特開昭58−83006号、特開昭58−5310号、特開昭61−218606号の各公報参照)などが含まれる。これらの触媒は特に制限なく公知の触媒が使用可能である。
【0019】
また、通常、助触媒として有機アルミニウム化合物が用いられる。この有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらは1種単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することができる。この重合添加剤としては、例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0021】
(2)製造方法
このプロピレン系ブロック共重合体(I)の製造方法は、特に限定されないが、結晶性プロピレン重合体成分(a)を製造する前段工程、引き続き、プロピレンとエチレンとの共重合体成分(b)を製造する後段工程から構成される重合方法が好ましい。
重合形式としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン若しくはトルエンなどの不活性炭化水素を重合溶媒として用いるスラリー重合、プロピレン自体を重合溶媒とするバルク重合、また原料のプロピレンを気相状態下で重合する気相重合が可能である。
また、これらの重合形式を組み合わせて行うことも可能である。例えば、結晶性プロピレン重合体成分(a)をバルク重合で行い、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)を気相重合で行う方法や、結晶性プロピレン重合体成分(a)を気相重合で行い、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)も同じく気相重合で行う方法などが挙げられる。
【0022】
(i)結晶性プロピレン重合体成分(a)の製造
結晶性プロピレン重合体成分(a)の製造を行う前段の重合工程では、プロピレンおよび連鎖移動剤として水素を供給して、前記触媒の存在下で重合を行い、結晶性プロピレン重合体成分(a)を製造する。
【0023】
前段の重合工程は、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)またはプロピレンとα−オレフィンの共重合体(プロピレン・α−オレフィン共重合体)を、一段もしくは多段に、全重合量(プロピレン系ブロック共重合体(I)の全体)の65〜97重量%、好ましくは70〜95重量%、さらに好ましくは75〜90重量%に相当するように形成させる工程である。ここでα−オレフィンとしては、エチレンを含みプロピレン以外の炭素数4〜20のα−オレフィンであり、例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−ペンテン−1、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられる。これらの中では、エチレンが最も好ましい。α−オレフィンを使用する場合の使用量は、全モノマー(プロピレンとα−オレフィンの合計)に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
結晶性プロピレン重合体成分(a)の全重合量に対する形成量が、全重合量の65重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性、ウェルド外観およびフローマーク外観が低下し、97重量%を超えると、衝撃強度が低下する。
【0024】
前段の重合工程における重合温度は、30〜120℃、好ましくは50〜90℃程度である。重合圧力は、0.1〜6MPa、好ましくは0.1〜4MPaである。また、重合体の流動性が適当なものとなるように分子量(MFR)調整剤を使用することが好ましく、調整剤としては水素が好ましい。
【0025】
結晶性プロピレン重合体成分(a)のMFR(230℃、2.16kg荷重)の範囲は、10〜600g/10分、好ましくは30〜400g/10分、さらに好ましくは50〜300g/10分である。MFRが10g/10分未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体のウェルド外観やフローマーク外観が低下し、600g/10分を超えると、衝撃強度が低下する。
【0026】
(ii)プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の製造
プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の製造を行う後段の重合工程では、プロピレン、エチレンと水素を連続的に供給して、前記触媒(前記前段の重合工程で使用した当該触媒)の存在下にプロピレンとエチレンの共重合を行い、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)を製造し、最終的な生成物として、成分(A)プロピレン系ブロック共重合体(I)を得る。
【0027】
後段工程では、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)を、全重合量(プロピレン系ブロック共重合体(I)の全体)の3〜35重量%、好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜25重量%に相当する量を形成させる。プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の全重合量に対する形成量が、3重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度が低下し、35重量%を超えると、剛性、ウェルド外観およびフローマーク外観が低下する。
ここで、この共重合体成分は、第三成分として、例えば、炭素数4〜20のα−オレフィンやジエン系モノマー等をさらに含有することもできる。その場合、これらの第三成分の含有量は、10重量%以下が好ましい。
【0028】
後段の重合工程における重合温度は、30〜120℃、好ましくは50〜80℃程度である。重合圧力は0.1〜5MPa、好ましくは0.5〜4MPaである。
【0029】
また、後段工程においては、エチレン含量が30〜70重量%、好ましくは32〜60重量%、さらに好ましくは35〜55重量%の範囲であるプロピレン・エチレン共重合体成分(b)を生成させる。プロピレン・エチレン共重合体成分(b)におけるエチレン含量が、30重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度および剛性が低下し、70重量%を超えると、衝撃強度、引張り特性およびウェルド外観の悪化が生じる。
【0030】
さらに、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量の範囲は、5万〜200万、好ましくは8万〜100万、さらに好ましくは10万〜25万である。プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量が、5万未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度が低下し、200万を超えると、ウェルド外観や、輝点発生などでの成形外観が夫々低下する。
【0031】
成分(A)プロピレン系ブロック共重合体(I)全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)の範囲は、5〜300g/10分、好ましくは10〜250g/10分、さらに好ましくは15〜200g/10分である。MFRが5g/10分未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体のウェルド外観やフローマーク外観が低下し、300g/10分を超えると、衝撃強度が低下する。
【0032】
また、この成分(A)プロピレン系ブロック共重合体(I)は、本発明の本質を著しく損なわない範囲内で他の不飽和化合物、例えば、1−ブテンなどのα−オレフィン、酢酸ビニルの如きビニルエステル、無水マレイン酸などの不飽和有機酸またはその誘導体等を含有する三元以上の共重合体であってもよく、これらの混合物であってもよい。
なお、MFR、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の含量、エチレン含量、重量平均分子量は、MFR計、CFC分別装置、フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する値である。測定条件は実施例に後述する。
【0033】
(3)配合量比
本発明のプロピレン系樹脂組成物における成分(A)プロピレン系ブロック共重合体(I)の配合割合は、30〜97重量%、好ましくは30〜91重量%、特に好ましくは43〜87重量%である。成分(A)の配合割合が、30重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性やフローマーク外観が低下し、97重量%を超えると、ウェルド外観や衝撃強度が低下する。
なお、成分(A)は、前述の特性の範囲内であれば、二種以上併用してもよい。
【0034】
2.成分(B)エラストマー
本発明のプロピレン系樹脂組成物で用いられる成分(B)エラストマーは、エチレン・α−オレフィン系エラストマーもしくはスチレン系エラストマーであり、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度を中心とした物性バランスを向上しつつ、かつ良好な成形性、寸法特性などを発現させる目的で用いられる。
なお、エチレン・α−オレフィン系エラストマーもしくはスチレン系エラストマーのうち、どちらかと言えば、成形性や経済性などの点でエチレン・α−オレフィン系エラストマーを用いるのが好ましい。
【0035】
ここで、エチレン・α−オレフィン系エラストマーは、エチレンとα−オレフィンとのゴム状ランダム共重合体であり、通常エチレン系ゴムなどとも称され、それ自体がペレット状やクラム状などで供給されるもので、三井化学社製タフマー、EBMや、ダウケミカル日本社製エンゲージなどが例示される。
このエチレン・α−オレフィン系エラストマーは、CFC分析装置による測定における溶出成分が、40℃以下において98重量%以上認められるものを用いるのが好ましい。
共重合されるα−オレフィンとして、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられ、なかでも、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましい。
エチレン・α−オレフィン系エラストマー中のα−オレフィンの含量は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜50重量%、同じくその密度は、好ましくは0.80〜0.90g/cm、より好ましくは0.86〜0.88g/cmである。
【0036】
また、スチレン系エラストマーは、スチレンとエチレン、プロピレン、1−ブテン、ブタジエン、イソプレンなどとのブロックないしはランダム共重合体もしくはその水添物であり、スチレン系エラストマー中の結合スチレン量が、好ましくは5〜45重量%、より好ましくは10〜40重量%のもの、同じくその密度は、好ましくは0.88から0.95g/cm、より好ましくは0.89から0.92g/cmのものである。
【0037】
エチレン・α−オレフィン系エラストマーの製造は、公知のチタン系触媒またはメタロセン系触媒を用いて重合して得ることができる。スチレン系エラストマーの場合は、通常のアニオン重合法およびそのポリマー水添技術により得ることができる。
【0038】
これらのエラストマーのMFR(230℃、2.16kg荷重)は、0.1g/10分以上である必要があり、好ましくは0.1〜80g/10分、特に好ましくは1〜30g/10分である。MFRが0.1g/10分未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体のウェルド外観、フローマーク外観、成形性、塗装性が劣るようになる。
これらのエラストマーは、二種以上併用してもよい。
【0039】
本発明のプロピレン系樹脂組成物における成分(B)エラストマーの配合割合は、1〜40重量%、好ましくは1〜30重量%、特に好ましくは3〜15重量%である。エラストマーの配合割合が1重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度が不足し、40重量%を超えると、剛性、耐熱性、ウェルド外観、フローマーク外観さらには経済性が低下する。
【0040】
3.成分(C)プロピレン系ブロック共重合体(II)
本発明のプロピレン系樹脂組成物で用いられる成分(C)プロピレン系ブロック共重合体(II)は、メタロセン系触媒を用いて重合されるプロピレン系ブロック共重合体であって、下記の特性6)〜11)を満たすものである。
特性6)結晶性プロピレン重合体成分(c)25〜70重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)30〜75重量%とからなること。
特性7)結晶性プロピレン重合体成分(c)のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、40〜350g/10分であること。
特性8)結晶性プロピレン重合体成分(c)の示差走査熱量測定(DSC)によって得られる融点が、156℃以上であること。
特性9)プロピレン・エチレン共重合体成分(d)のエチレン含量が、10〜30重量%であること。
特性10)プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の重量平均分子量が、25万〜100万であること。
特性11)成分全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、5〜200g/10分であること。
このプロピレン系ブロック共重合体(II)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物において、主に成分(A)と成分(B)間の相溶性を制御して、それが不充分である場合に生じ易いウェルド外観を中心とした成形品外観の不良や、衝撃強度を中心とした物性バランスの低下を防止、抑制し、さらにそれらをより向上させることなどの目的に用いられる。
【0041】
(1)重合触媒
本発明のプロピレン系樹脂組成物で用いられる成分(C)プロピレン系ブロック共重合体(II)の製造には、精密なインデックスの制御が必要なため、重合体の分子量分布や共重合体組成が狭く均一となるメタロセン系触媒が用いられる。
さらに、このプロピレン系ブロック共重合体(II)を、工業的に取り扱いが容易で安価に製造するためには、(ア)下記一般式[I]で示される遷移金属化合物、および後述する、(イ)(イ−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(イ−2)遷移金属化合物と反応してカチオンを形成可能な化合物および(イ−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)からなる群から選ばれる少なくとも1種の活性化剤を必須成分とし、(ウ)有機アルミニウム化合物を任意成分とする、メタロセン系触媒を用いることが好ましく、その中でも上記(ア)と(イ−3)および任意成分としての有機アルミニウム化合物からなるメタロセン系触媒を用いるのが最も好ましい。
【0042】
(i)(ア)遷移金属化合物
本発明において主として使用される遷移金属化合物は、次式で示されるメタロセン錯体である。
【化2】

(一般式[I]中において、AおよびAは、共役五員環配位子〔同一化合物内ではAおよびAは同一でも異なっていてもよい〕を示し、結合性基Qに結合していない共役五員環の炭素は置換基を有してもよく、Qは、2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基、Mは、周期律表4〜6族から選ばれる金属原子を示し、XおよびYは、それぞれ独立してMと結合した、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基を示す。)
【0043】
上記の共役五員環配位子の典型例としては、例えば、シクロペンタジエニル基を挙げることができる。このシクロペンタジエニル基は、水素原子を4個有するものであってもよく、また、上記した通り、その水素原子の幾つかが置換基で置換されているものであってもよい。上記の置換基の1つの具体例は、炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜15の炭化水素基である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ナフチル基、ブテニル基、ブタジエニル基、トリフェニルカルビル基などが挙げられる。上記の炭化水素基は、一価の基としてシクロペンタジエニル基と結合していてもよく、その置換基の末端で2種が結合して縮合環を形成してもよい。縮合環を形成したシクロペンタジエニル基の典型例としては、インデン、フルオレン、アズレンなどの化合物やその誘導体である。これらの中でも、インデン、アズレンやその誘導体がさらに好ましく、その中でもアズレンが最も好ましい。
上記の炭化水素基以外の置換基としては、珪素、酸素、窒素、燐、硼素、硫黄などの原子を含有する炭化水素基が挙げられる。その典型例としては、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、フリル基、トリメチルシリル基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピラゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ジメチルフォスフィノ基、ジフェニルフォスフィノ基、ジフェニル硼素基、ジメトキシ硼素基、チエニル基などが挙げられる。その他の置換基としては、ハロゲン原子またはハロゲン含有炭化水素基などが挙げられる。その典型的例としては、塩素、臭素、沃素、フッ素、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0044】
ところで、本発明で使用する好ましい遷移金属化合物の特徴は、AおよびAのうち少なくとも一方が、共役五員環配位子上の隣接した置換基に結合し五員環の2原子を含めて7〜10員の縮合環を有する点にある。すなわち、AおよびAのどちらか一方は、少なくとも共役五員環の隣接する炭素2原子を含めた7〜10の縮合環を形成することができる。
縮合環の炭素は、共役五員環の2原子以外は飽和されていても不飽和であってもよい。例えば、AおよびAを構成する上記のような配位子としては、ヒドロアズレニル基、メチルヒドロアズレニル基、エチルヒドロアズレニル基、ジメチルヒドロアズレニル基、メチルエチルヒドロアズレニル基、メチルイソプロピルヒドロアズレニル基、メチルフェニルイソプロピルヒドロアズレニル基、各種アズレニル基の水添体、ビシクロ−[6.3.−ウンデカニル基、メチル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、エチル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、フェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、メチルフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、エチルフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、メチルジフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、メチル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカジエニル基、メチルフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカジエニル基、エチルフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカジエニル基、メチルイソプロピル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカジエニル基、ビシクロ−[7.3.0]−ドデカニル基およびその誘導体、ビシクロ−[7.3.0]−ドデカジエニル基およびその誘導体、ビシクロ−[8.3.0]−トリデカニル基およびその誘導体、ビシクロ−[8.3.0]−トリデカジエニル基およびその誘導体などが例示される。上記の各基の置換基としては、前述した炭化水素基、珪素、酸素、窒素、燐、硼素、硫黄などの原子を含有する炭化水素基、ハロゲン原子またはハロゲン含有炭化水素基などが挙げられる。
【0045】
Qは、2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基を示す。すなわち、Qは2価の結合性基であり、AおよびAとを架橋する。
Qの種類は特に制限されないが、その具体例としては、(a)炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜12の2価の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基、具体的には、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレンなどの不飽和炭化水素基、ハロアルキレン基、ハロシクロアルキレン基、(b)シリレン基またはオリゴシリレン基、(c)炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜12の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を置換基として有するシリレン基またはオリゴシリレン基、(d)ゲルミレン基、(e)炭素数が通常1〜20の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を置換基として有するゲルミレン基などが挙げられる。
これらの中では、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、炭化水素基を置換基として有するシリレン基またはゲルミレン基が好ましい。
【0046】
Mは、周期律表(短周期型)4〜6族から選ばれる遷移金属原子を示し、好ましくは、チタン、ジルコニウムまたはハフニウムの4族遷移金属、さらに好ましくは、ジルコニウムまたはハフニウムである。特に好ましくは、ハフニウムである。
【0047】
XおよびYは、それぞれ独立して、Mと結合した水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基を示す。
上記の各炭化水素基における炭素数は、通常1〜20、好ましくは1〜12である。これらの中では、水素原子、塩素原子、メチル基、イソブチル基、フェニル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基が好ましい。
【0048】
本発明における遷移金属化合物の具体例としては、特に以下の化合物であることが好ましい。なお、化合物の記載は単に化学的名称のみで指称されているが、その立体構造は本発明でいう非対称性を持つ化合物と対称性を持つ化合物の双方を意味する。
(1)クロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−ナフチル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム、(2)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(3)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(4)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−5,6,7,8−テトラヒドロアズレニル}]ハフニウム、(5)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(6)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4H−5,6,7,8−テトラヒドロアズレニル}]ハフニウム、(7)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(8)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(9)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3−メチル−フェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(10)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3,5−ジクロロ−フェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(11)ジクロロ[1,1´−シラフルオレニルビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3,5−ジクロロフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(12)ジクロロ[1,1´−シラフルオレニルビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3,5−ジメチルフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウムなどが例示できる。
上記のような化合物におけるXおよびY部分をなすジクロリドの一方または双方が、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、イソブチル基、フェニル基、フルオロフェニル基、ベンジル基、メトキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などに代わった化合物も例示することができる。また、先に例示した化合物の中心金属がジルコニウムやハフニウムの代わりに、チタン、タンタル、ニオブ、バナジウム、タングステン、モリブデンなどに代わった化合物も例示することができる。
これらの中では、ジルコニウム、チタン、ハフニウムの4族遷移金属化合物が好ましく、その中でも、ハフニウムが特に好ましい。
これら(ア)成分は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、重合の第一段階終了時や第二段階の重合開始前に、新たに(ア)成分を追加してもよい。
【0049】
(ii)(イ)助触媒(活性化剤成分)
本発明において(イ)成分としては、(イ−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(イ−2)遷移金属化合物と反応して、カチオンを形成可能な化合物、(イ−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)、のいずれか一種類以上からなる活性化剤が用いられる。
【0050】
本発明において、(イ−1)有機アルミニウムオキシ化合物としては、具体的には次の各一般式で表される化合物が挙げられる。
【化3】

上記各一般式中、Rは水素原子または炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基を示す。また、複数のRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。また、pは0〜40、好ましくは2〜30の整数を示す。
一般式のうち、一番目および二番目の式で表される化合物は、アルミノキサンとも称される化合物であって、これらの中では、メチルアルミノキサンまたはメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。上記のアルミノキサンは、各群内および各群間で複数種併用することも可能である。そして、上記のアルミノキサンは、公知の様々な条件下に調製することができる。
一般式の三番目で表される化合物は、一種類のトリアルキルアルミニウムまたは二種類以上のトリアルキルアルミニウムと、一般式RB(OH)で表されるアルキルボロン酸との10:1〜1:1(モル比)の反応により得ることができる。一般式中、RおよびRは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基を示す。
【0051】
本発明において、(イ−2)の遷移金属化合物と反応して、カチオンを形成可能な化合物としては、(ア)成分と反応して(ア)成分をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸が用いられる。このようなイオン性化合物としては、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などの有機ホウ素化合物との錯化物などが挙げられる。
上記のようなルイス酸としては、種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などが例示される。或いは、塩化アルミニウム、塩化マグネシウムなどの金属ハロゲン化合物が例示される。
なお、上記のルイス酸のある種のものは、(ア)成分と反応して(ア)成分をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物として把握することもできる。
上記の(ア)成分と(イ−1)の反応生成物または(ア)成分と(イ−2)の反応生成物は、シリカなどの微粒子状担体に担持された触媒として、使用されることが最も好ましい。
【0052】
本発明において、(イ−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)は、イオン結合などによって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であり、含有するイオンが交換可能なものである。イオン交換性層状化合物は、六方最密パッキング型、アンチモン型、CdCl型、CdI型などの層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物等を例示することができる。
このような結晶構造を有するイオン交換性層状化合物の具体例としては、α−Zr(HAsO・HO、α−Zr(HPO、α−Zr(KPO)2・3HO、α−Ti(HPO、α−Ti(HAsO・HO、α−Sn(HPO・HO、y−Zr(HPO、y−Ti(HPO、y−Ti(NH4PO4)・HOなどの多価金属の結晶性酸性塩が挙げられる。
【0053】
無機珪酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土などが挙げられる。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェンなどのアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイトなどのカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイトなどのハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライトなどの蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、その他、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、緑泥石などが挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトなどが挙げられる。
これら具体例のうち好ましくは、デイッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイトなどのカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイトなどのハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライトなどの蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられる。
【0054】
これらのイオン交換性層状化合物は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸などによる酸処理および/または、LiCl、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、MgSO、ZnSO、Ti(SO、Zr(SO、Al(SOなどの塩類処理を行ったほうが好ましい。また、粉砕や造粒などの形状制御を行ってもよく、粒子性状に優れたブロック共重合体を得るためには、造粒することが好ましい。また、上記成分は、通常は脱水乾燥してから用いる。
【0055】
(iii)(ウ)有機アルミニウム化合物
本発明の(ウ)成分として用いられる有機アルミニウム化合物の例は、次式
AlR3−m
(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Xは水素、ハロゲン、アルコキシ基、アリールオキシ基、mは0<m≦3の数)
で表される化合物であり、具体的にはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムまたはジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのハロゲンもしくはアルコキシ含有アルキルアルミニウムである。
この他、メチルアルミノキサンなどのアルミノキサンも使用できる。
これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。これら(ウ)成分は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、重合の第一段階終了時や第二段階の重合開始前に、新たに(ウ)成分を追加してもよい。
【0056】
(iv)触媒成分の接触処理
上記の(ア)成分、(イ)成分、および必要に応じ適宜用いられる任意成分の(ウ)成分は、通常、触媒を調製する際に、接触させる。接触方法は特に限定されず、また、接触は、触媒調製時の他、、オレフィンによる予備重合時、または、オレフィンの重合時に行ってもよい。各触媒成分の接触時、または接触後にポリエチレンやポリプロピレンなどの重合体、シリカやアルミナなどの無機酸化物の固体を共存させるか、接触させてもよい。
接触は窒素などの不活性ガス中、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。接触温度は、好ましくは−20℃〜溶媒沸点の範囲、特に室温〜溶媒沸点の間で範囲で選ばれる。
【0057】
(v)触媒成分の使用量
各触媒成分の使用量は、通常、(イ−3)成分1gあたり、(ア)成分については、0.0001〜10mmol、好ましくは0.001〜5mmolの範囲で選ばれる。また、(ウ)成分については、0.001〜10,000mmol、好ましくは0.01〜100mmolの範囲で選ばれる。
また、(ア)成分中の遷移金属と(ウ)成分中のアルミニウムとの原子比は、通常、1:0.01〜1,000,000、好ましくは、0.1〜100,000の範囲で選ばれる。
このようにして得られた触媒は、そのまま洗浄せずに用いてもよく、洗浄した後に用いてもよい。
【0058】
(vi)予備重合
重合の前に、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレンなどのオレフィンを予備的に重合し、必要に応じて洗浄したものを触媒として用いることができる。この予備重合は窒素などの不活性ガス中、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。
【0059】
(2)製造方法
本発明で用いられる成分(C)プロピレン系ブロック共重合体(II)の製造方法は、特に限定されないが、結晶性プロピレン重合体成分(c)を製造する前段工程、引き続き、プロピレンとエチレンとの共重合体成分(d)を製造する後段工程から構成される重合方法が好ましい。
重合プロセスは、スラリー法、バルク法、気相法、溶液法などを任意に用いることができるが、その中でも、前段の結晶性プロピレン重合体成分(c)の製造を、バルク法または気相法で行い、後段のプロピレンとエチレンとの共重合体成分(d)の製造を気相法で行うことが最も好ましい。重合方式については、バッチ重合法、連続重合法のいずれを採用することも可能である。
重合温度は、通常用いられている温度範囲であれば特に問題なく用いることができる。具体的には、0℃〜200℃、好ましくは、40℃〜100℃の範囲を用いることができる。重合圧力は、選択するプロセスによって差異が生じるが、通常用いられている圧力範囲であれば、特に問題なく用いることができる。具体的には、0より大きく200MPa、好ましくは、0.1〜50MPaの範囲を用いることができる。この際に、窒素などの不活性ガスを共存させることも可能である。
また、成分(c)、(d)の成分比については、各成分の製造量比を制御することで調整できる。また、重合体の流動性が適当なものとなるように分子量(MFR)調整剤を使用することが好ましく、調整剤としては水素が好ましい。
【0060】
(i)結晶性プロピレン重合体成分(c)の製造
結晶性プロピレン重合体成分(c)の製造を行う前段の重合工程では、メタロセン触媒を使用して製造する。すなわち、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)またはプロピレンとα−オレフィンの共重合体(プロピレン・α−オレフィン共重合体)を、一段もしくは多段に、全重合量(プロピレン系ブロック共重合体(II)全体)の25〜70重量%、好ましくは30〜65重量%、さらに好ましくは30〜55重量%に相当するように形成させる工程である。ここでα−オレフィンとしては、エチレンを含みプロピレン以外の炭素数4〜20のα−オレフィンであり、例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−ペンテン−1、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。これらの中では、エチレンが最も好ましい。α−オレフィンを使用する場合の使用量は、全モノマー(プロピレンとα−オレフィンの合計)に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
結晶性プロピレン重合体成分(c)の、全重合量(プロピレン系ブロック共重合体(II)全体)に対する形成量が、25重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性、ウェルド外観およびフローマーク外観が低下し、70重量%を超えると、衝撃強度が低下する。
【0061】
結晶性プロピレン重合体成分(c)のMFR(230℃、2.16kg荷重)の範囲は、40〜350g/10分、好ましくは50〜300g/10分、さらに好ましくは60〜250g/10分である。MFRが40g/10分未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体のウェルド外観やフローマーク外観が低下し、350g/10分を超えると、衝撃強度が低下する。
【0062】
結晶性プロピレン重合体成分(c)の示差走査熱量測定(DSC)によって得られる融点は、156℃以上、好ましくは157℃以上、さらに好ましくは158℃以上である。融点が156℃未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性が低下する。融点の上限を規定する必要は特に無いが、180℃を上回るものは事実上製造が困難である。
【0063】
(ii)プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の製造
後段の重合工程は、この工程で製造するプロピレン・エチレン共重合体成分がゴム成分であり、溶媒中に溶出しないことが望ましいことから、気相重合で行なうことが好ましい。気相重合プロセスとしては、公知の気相重合プロセスを用いることができるが、機械的に攪拌される縦型あるいは横型の気相重合プロセスが好ましい。
後段工程では、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)を、全重合量(プロピレン系ブロック共重合体(II)全体)の30〜75重量%、好ましくは35〜70重量%、さらに好ましくは45〜70重量%に相当する量を形成させる。プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の全重合量に対する形成量が、30重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度が低下し、75重量%を超えると、剛性、ウェルド外観およびフローマーク外観が低下する。ここで、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の全重合量に対する形成量が、多いほど、一般的にプロピレン系樹脂に較べ高価な先述の成分(B)エラストマーの配合量を、低減できる場合が多くなり、経済的にも好ましい。
なお、この共重合体成分は、第三成分として、例えば、炭素数4〜20のα−オレフィンやジエン系モノマー等をさらに含有することもできる。その場合、これらの第三成分の含有量は、20重量%以下が好ましい。
【0064】
さらに、後段工程においては、エチレン含量が10〜30重量%、好ましくは10〜28重量%、さらに好ましくは10〜25重量%の範囲である、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)を生成させる。プロピレン・エチレン共重合体成分(d)におけるエチレン含量が、10重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性が低下し、30重量%を超えると、ウェルド外観が著しく悪化する。
【0065】
また、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の重量平均分子量の範囲は、25万〜100万、好ましくは25万〜80万、さらに好ましくは30万〜50万である。プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の重量平均分子量が、25万未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度が低下し、100万を超えると、ウェルド外観や、輝点発生などでの成形外観が低下する。
【0066】
成分(C)プロピレン系ブロック共重合体(II)全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)の範囲は、5〜200g/10分、好ましくは6〜100g/10分、さらに好ましくは8〜50g/10分である。MFRが5g/10分未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体のウェルド外観やフローマーク外観が低下し、200g/10分を超えると、衝撃強度が低下する。
【0067】
なお、MFR、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の含量、エチレン含量、重量平均分子量、結晶性プロピレン重合体成分(c)の融点は、MFR計、CFC分別装置、フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、示差走査熱量計(DSC)で測定する値である。測定条件は実施例に後述する。
【0068】
(3)配合量比
本発明のプロピレン系樹脂組成物における成分(C)プロピレン系ブロック共重合体(II)の配合割合は、1〜15重量%、好ましくは5〜13重量%、特に好ましくは6〜12重量%である。成分(C)の配合割合が、1重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体のウェルド外観が低下し、15重量%を超えると、剛性、衝撃強度、フローマーク外観が低下する。なお、成分(C)は、前述の特性の範囲内であれば、二種以上併用してもよい。
【0069】
4.成分(D)無機フィラー
本発明のプロピレン系樹脂組成物で用いられる成分(D)無機フィラーは、タルク、ワラストナイト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、ガラス繊維、ガラスバルーン、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、カーボンファイバー、クレイ、有機化クレイ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などが例として挙げられ、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性を中心とした物性バランスの向上、寸法特性などを発現させる目的で用いられる。これらの無機フィラーは、表面処理されたものでもよく、また、二種以上併用してもよい。
【0070】
なかでもタルクが好ましく、タルクは、剛性の向上、成形体の寸法安定性およびその調整等に有効である。そのタルクは、平均粒径が1.5μm〜15μmのものが好ましく、2〜8μmのものが特に好ましい。タルクの平均粒径が1.5μm未満であると凝集して成形体外観が低下し、15μmを超えると衝撃強度が低下するので好ましくない。
該タルクは、例えばタルク原石を衝撃式粉砕機やミクロンミル型粉砕機で粉砕して製造したり、更にジェットミルなどで粉砕した後、サイクロンやミクロンセパレータ等で分級調整する等の方法で製造する。
【0071】
該タルクは、各種金属石鹸や界面活性剤などで化学的または物理的に表面処理したものでもよく、さらに、見かけ比容を2.50ml/g以下にしたいわゆる圧縮タルクを用いてもよい。上記タルクの平均粒径は、レーザー回折散乱方式粒度分布計を用いて測定した値であり、測定装置としては、例えば、堀場製作所LA−920型が挙げられる。
該タルクは、平均アスペクト比が4以上、特に5以上のものがより好ましい。該タルクのアスペクト比の測定は、顕微鏡等により測定された値より求められる。
【0072】
本発明のプロピレン系樹脂組成物における成分(D)無機フィラーの配合割合は、1〜45重量%、好ましくは3〜40重量%、特に好ましくは4〜30重量%である。無機フィラーの配合割合が1重量%未満であると、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性が不足し、45重量%を超えると、衝撃強度、ウェルド外観やフローマーク外観が低下する。
【0073】
5.他の成分(E)
本発明のプロピレン系樹脂組成物においては、上記成分(A)、(B)、(C)および(D)以外に、必要に応じ、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、たとえば発明効果をさらに向上させたり、他の効果を付与するなどのため、他の成分(E)を配合することができる。
具体的には、非イオン系などの帯電防止剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、ソルビトール系などの造核剤、物理発泡剤などの発泡剤、有機金属塩系などの分散剤、顔料などの着色剤、フェノール系などの酸化防止剤、無機化合物などの中和剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、非イオン系などの界面活性剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物などの難燃剤、蛍光増白剤、気泡防止(消泡)剤、架橋剤、過酸化物、プロセスオイル(配合油)、ブロッキング防止剤、可塑剤、上記成分(A)〜(D)以外のポリオレフィン、ポリアミドやポリエステルなどの熱可塑性樹脂、エラストマー(ゴム)、無機(有機)フィラーなどを挙げることができる。これらの成分は、組成物に添加してもよいし、各成分に添加されていてもよく、それぞれの成分において二種以上併用してもよい。
【0074】
帯電防止剤として、例えば非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の帯電防止性の付与、向上に有効である。具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレンアルキルアミド;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ステアリン酸モノグリセリド;アルキルジエタノールアミン;アルキルジエタノールアミド;アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル;テトラアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0075】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えばヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の耐候性や耐久性などの付与、向上に有効である。具体例としては、ヒンダードアミン化合物として、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート;ビス−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルセバケートなどが挙げられ、ベンゾトリアゾール系としては、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール;2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられ、ベンゾフェノン系としては2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられ、サリシレート系としては、4−t−ブチルフェニルサリシレート;2,4−ジ−t−ブチルフェニル 3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
【0076】
造核剤として、例えば無機系、ソルビトール系、カルボン酸金属塩系や有機リン酸塩系などは、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性、耐熱性や硬度などの付与、向上などに有効である。具体例としては、無機系としてタルク;シリカなどが挙げられ、ソルビトール系として、1,3,2,4−ジベンジリデン−ソルビトール;1,3,2,4−ジ−(p−メチル−ベンジリデン)ソルビトール;1,3,2,4−ジ−(p−エチル−ベンジリデン)ソルビトール;1,3,2,4−ジ−(2’,4’−ジ−メチル−ベンジリデン)ソルビトール;1,3−p−クロロベンジリデン−2,4−p−メチル−ベンジリデン−ソルビトール;1,3,2,4−ジ−(p−プロピルベンジリデン)ソルビトールなどが挙げられ、カルボン酸金属塩系として、アルミニウム−モノ−ヒドロキシ−ジ−p−t−ブチルベンゾエート;安息香酸ナトリウム;モンタン酸カルシウムなどが挙げられ、さらに有機リン酸塩系として、ソジウムビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェート;ソジウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート;リチウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどが挙げられる。
【0077】
発泡剤として、例えば物理発泡剤や化学発泡剤は、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の軽量化、剛性や寸法特性などの付与、向上などに有効である。具体的には、物理発泡剤として、炭酸ガス;窒素ガス;空気;プロパン;ブタン;ジクロロジフルオロメタンなどが挙げられ、化学発泡剤として、クエン酸;重曹;アゾジカルボンアミド;ベンゼンスルホニルヒドラジド;トルエンスルホニルヒドラジド;N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド;P−トルエンスルホニルセミカルバジドなどが挙げられる。
【0078】
分散剤として、例えば有機金属塩などは、無機フィラーや着色顔料などの分散性を高め、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性、耐熱性、ウェルド外観、フローマーク外観、風合いなどの付与、向上などに有効である。具体例としては、ステアリン酸カルシウム;ステアリン酸マグネシウム;ベヘン酸カルシウム;ベヘン酸マグネシウム;ベヘン酸亜鉛;モンタン酸亜鉛;モンタン酸カルシウム;モンタン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0079】
着色剤として、例えば無機系や有機系の顔料などは、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の、着色外観、見映え、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。具体例としては、無機系顔料としては、酸化チタン;酸化鉄(ベンガラ等);クロム酸(黄鉛など);モリブデン酸;硫化セレン化物;フェロシアン化物およびカーボンブラックなどが挙げられ、有機系顔料としては、難溶性アゾレーキ;可溶性アゾレーキ;不溶性アゾキレート;縮合性アゾキレート;その他のアゾキレートなどのアゾ系顔料;フタロシアニンブルー;フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;アントラキノン;ペリノン;ペリレン;チオインジゴなどのスレン系顔料;染料レーキ;キナクリドン系;ジオキサジン系;イソインドリノン系などが挙げられる。また、メタリック調やパール調にするには、アルミフレーク;パール顔料を含有させることができる。また、染料を含有させることもできる。
【0080】
[II]プロピレン系樹脂組成物の製造、成形
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、上記成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、必要に応じ、他の成分(E)を、上記配合割合で配合して単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダ−プラストグラフ、ニーダーなど通常の混練機を用いて混練・造粒することによって製造する。
この場合、各成分の分散を良好にすることができる混練・造粒方法を選択することが望ましく、通常は二軸押出機を用いて混練・造粒する。この混練・造粒の際には、上記成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、必要に応じ、他の成分(E)の配合物を同時に混練してもよく、また性能向上を図るべく各成分を分割、例えば先ず成分(A)と成分(C)の一部または全部を混練し、その後に残りの成分を混練・造粒することもできる。
【0081】
プロピレン系樹脂組成物の成形は、射出成形(ガス射出成形も含む)または射出圧縮成形(プレスインジェクション、ホットフロースタンピング成形、ガス射出圧縮成形も含む)にて成形することによってそれらの成形体を得ることができる。
この場合、上記射出成形関連技術と、いわゆる発泡成形技術や膨張成形技術との組合せで所望の成形体を得ることもできる。
また、必要に応じて、中空成形、押出成形、圧縮(プレス)成形、発泡(膨張)成形、シート成形、カレンダー成形、フィルム成形、熱成形、スタンピング成形、粉末成形など種々の成形方法にて、各成形体を得ることもできる。
【0082】
本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の用途としては、自動車部品、テレビなどの家電機器製品の部品などの工業部品分野などに於ける各種成形体、好ましくは自動車部品、例えばバンパー、ドアプロテクター、サイドプロテクター、サイドモール、インストルメントパネル、ドアトリム、ピラー等が挙げられる。
【実施例】
【0083】
本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた分析法、物性測定法、評価法および用いた樹脂などは以下の通りである。
【0084】
1.分析法、物性測定法、評価法
(1)プロピレン・エチレン共重合体成分の含量、エチレン含量、重量平均分子量:下記条件で測定する。
(i)使用する分析装置
(i−1)クロス分別装置
ダイヤインスツルメンツ社製CFC T−100(CFCと略す)
(i−2)フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析
FT−IR、パーキンエルマー社製 1760X
CFCの検出器として取り付けられていた波長固定型の赤外分光光度計を取り外して代わりにFT−IRを接続し、このFT−IRを検出器として使用する。CFCから溶出した溶液の出口からFT−IRまでの間のトランスファーラインは1mの長さとし、測定の間を通じて140℃に温度保持する。FT−IRに取り付けたフローセルは光路長1mm、光路幅5mmφのものを用い、測定の間を通じて140℃に温度保持する。
(i−3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
CFC後段部分のGPCカラムは、昭和電工社製AD806MSを3本直列に接続して使用する。
【0085】
(ii)CFCの測定条件
(ii−1)溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
(ii−2)サンプル濃度:4mg/ml
(ii−3)注入量:0.4ml
(ii−4)結晶化:140℃から40℃まで約40分かけて降温する。
(ii−5)分別方法:分別温度は、40、100、140℃とし、全部で3つのフラクションに分別する。また、分別した各フラクションは、そのままFT−IR分析装置へ自動輸送される。
(ii−6)溶出時溶媒流速:1ml/分
【0086】
(iii)FT−IRの測定条件
CFC後段のGPCから試料溶液の溶出が開始した後、以下の条件でFT−IR測定を行い、上述した各フラクション1〜3について、GPC−IRデータを採取する。
(iii−1)検出器:MCT
(iii−2)分解能:8cm−1
(iii−3)測定間隔:0.2分(12秒)
(iii−4)一測定当たりの積算回数:15回
【0087】
(iv)プロピレン・エチレン共重合体成分の性状の算出法
分別温度は、40、100、140℃とし、全部で3つのフラクションに分別する。プロピレン・エチレン共重合体成分は、100℃フラクションのエチレン成分および40℃フラクション成分とする。つまり、40、100、140℃フラクションの含量をそれぞれF40、F100、F140(F40+F100+F140=100重量%)とする。100℃フラクションにおけるエチレン成分量をF100E、それ以外の成分量をF100F(F100E+F100F=F100)とする。プロピレン・エチレン共重合体成分の含量は、F40+F100Eで表せる。
プロピレン・エチレン共重合体成分中のエチレン含量は、40℃および100℃フラクション中のエチレン含量をプロピレン・エチレン共重合体成分量で除した値である。つまり、40℃フラクションにおけるエチレン量をF40E、それ以外の成分をF40F(F40E+F40F=F40)とすると、100×(F40E+F100E)/(F40+F100E)の式で表される。
プロピレン・エチレン共重合体成分の重量平均分子量は、100℃フラクションのエチレン成分および40℃フラクション成分の重量平均分子量である。
【0088】
(2)MFR:JIS K7210 A法・条件M…試験温度:230℃、荷重:2.16kgに準拠して測定する。
【0089】
(3)融点:示差走査型熱量計を用い、サンプル約5mgを採り、200℃で5分間保持した後に40℃まで10℃/分の降温スピードで冷却して結晶化させてその熱履歴を消去し、さらに10℃/分で昇温させた時の融解熱量曲線の最大ピーク温度を融点とする。複数の融点が観測される場合には最も高い温度で観測されるものを融点とする。
【0090】
(4)曲げ弾性率:JIS K−7171(ISO178)準拠して、下記要領で測定する。
試験機;精密万能試験機オートグラフAG−20KNG(島津製作所製)
試験片;作成方法=射出成形、採取方向=流れ方向、形状=厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm、状態調節=室温23℃・湿度50%の恒温室内に24時間以上放置 試験条件;試験温度=23℃、試験湿度=50%、試験片数=5、支点間距離=32.0mm、試験速度=1.0mm/分
【0091】
(5)シャルピー衝撃強度:JIS K−7111(ISO 179/1eA)に準拠して、下記要領で測定する。
試験機;東洋精機社製 全自動シャルピー衝撃試験機(恒温槽付き)
試験片;作成方法=射出成形試験片にノッチを切削(ISO 2818準拠)、形状=シングルノッチ付き…タイプAノッチ(ノッチ半径0.25mm)、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm、状態調節=室温23℃・湿度50%の恒温室内に24時間以上放置
試験条件;試験温度=23℃および−30℃…−30℃の場合には、恒温槽が試験温度の±1℃以内になった状態で40分以上状態調節を加えてから試験を行う。試験湿度=50%、試験片数=5、衝撃速度=2.9m/s、振り子エネルギー=4J
【0092】
(6)ウェルド消失距離:型締め圧170トンの射出成形機で、図−1に示す、ゲートから7mmのところに、20mm×3mm×1mmの開口部を有する、350mm×100mm×3mmtのシートを、該シート成形用金型(100mm幅ゲート)を用いて、成形温度220℃にて射出成形してサンプルとする。この評価用成形体について、その上に生じたウェルドラインを目視で観察し、開口部端部からのウェルドラインが消失するまでの距離(長さ)を測定する。この距離が短いほどウェルド外観は良好である。
【0093】
(7)フローマーク発生距離:上記評価用成形体上に発生したフローマークを目視で観察し、開口部端部からのフローマークが発生するまでの距離(長さ)を測定する。この距離が長いほどフローマーク外観は良好である。
【0094】
2.原材料の製造
(1)成分(A)プロピレン系ブロック共重合体(I)
下記製造例1で得られたポリマーを用いた。
【0095】
(製造例1)…成分(A)−1
(i)固体触媒成分(ア)の製造
窒素置換した内容積50リットルの撹拌機付槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン20リットルを導入し、次いで、塩化マグネシウム10モルとテトラブトキシチタン20モルとを導入して95℃で2時間反応させた後、温度を40℃に下げ、メチルヒドロポリシロキサン(粘度20センチストークス)12リットルを導入して更に3時間反応させた後、反応液を取り出し、生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
引き続いて、前記撹拌機付槽を用いて該槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン5リットルを導入し、次いで、上記で合成した固体成分をマグネシウム原子換算で3モル導入した。ついで、n−ヘプタン2.5リットルに、四塩化珪素5モルを混合して30℃、30分間かけて導入して、温度を70℃に上げ、3時間反応させた後、反応液を取り出し、生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
さらに、引き続いて、前記撹拌機付槽を用いて該槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン2.5リットルを導入し、フタル酸クロライド0.3モルを混合して90℃、30分間で導入し、95℃で1時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。次いで、室温下四塩化チタン2リットルを追加し、100℃に昇温した後2時間反応した。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。さらに、四塩化珪素0.6リットル、n−ヘプタン8リットルを導入し90℃で1時間反応し、n−ヘプタンで十分洗浄し、固体成分を得た。この固体成分中にはチタンが1.30重量%含まれていた。
【0096】
次に、窒素置換した前記撹拌機付槽にn−ヘプタン8リットル、上記で得た固体成分を400gと、t−ブチル−メチル−ジメトキシシラン0.27モル、ビニルトリメチルシラン0.27モルを導入し、30℃で1時間接触させた。次いで15℃に冷却し、n−ヘプタンに希釈したトリエチルアルミニウム1.5モルを15℃条件下30分かけて導入、導入後30℃に昇温し2時間反応させ、反応液を取り出し、n−ヘプタンで洗浄して固体触媒成分390gを得た。
得られた固体触媒成分中には、チタンが1.22重量%含まれていた。
【0097】
更に、n−ヘプタンを6リットル、n−ヘプタンに希釈したトリイソブチルアルミニウム1モルを15℃条件下30分かけて導入し、次いでプロピレンを20℃を越えないように制御しつつ約0.4kg/時間で1時間導入して予備重合した。その結果、固体1g当たり0.9gのプロピレンが重合したポリプロピレン含有の固体触媒成分(ア)が得られた。
【0098】
(ii)プロピレン系ブロック共重合体(I)の製造
(前段重合工程:結晶性プロピレン重合体成分(a)の製造)
内容積230リットルの流動床式反応器を2個連結してなる連続反応装置を用いて重合を行った。まず第1反応器で、重合温度65℃、プロピレン分圧18kg/cm(絶対圧)、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.060となるように連続的に供給するとともに、トリエチルアルミニウムを5.25g/hrで、固体触媒成分(ア)として、上記記載の触媒をポリマー重合速度が20kg/hrになるように供給し、結晶性プロピレン重合体成分(a)を製造した。第1反応器で重合したパウダー(結晶性プロピレン重合体成分(a))は、反応器内のパウダー保有量を40kgとなるように連続的に抜き出し、第2反応器に連続的に移送した。
【0099】
(後段重合工程:プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の製造)
続いて、第2反応器内が、重合温度60℃、圧力2.0MPaになるように、プロピレンとエチレンをエチレン/(プロピレン+エチレン)のモル比で0.36となるように連続的に供給し、更に、分子量制御剤としての水素を、水素/(プロピレン+エチレン)のモル比で0.055となるように連続的に供給すると共に、活性水素化合物としてエチルアルコールを、トリエチルアルミニウムに対して1.77倍モルになるように供給し、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)を製造した。第2反応器で重合が終了したパウダー(結晶性プロピレン重合体成分(a)とプロピレン・エチレン共重合体成分(b)とからなるプロピレン系ブロック共重合体(I))は、反応器内のパウダー保有量を60kgとなるように連続的にベッセルに抜き出した。水分を含んだ窒素ガスを供給して反応を停止させ、プロピレン系ブロック共重合体(I)を得た。得られたプロピレン系ブロック共重合体(I)を成分(A)−1とした。
該成分の物性値を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
(2)成分(B)エラストマー
MFR=3.1g/10分、密度=0.862g/cm、ブテン含量=25重量%のエチレン−1−ブテンゴム状ランダム共重合体(成分(B)−1)を用いた。
【0102】
(3)成分(C)プロピレン系ブロック共重合体(II)
下記製造例2〜6で得られたポリマーを用いた。
【0103】
(製造例2)…成分(C)−1
(i)メタロセン錯体
ジクロロ{1,1´−ジメチルシリレンビス[2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4H−アズレニル]}ハフニウムは、特開2000−95791号公報に従って合成した。
【0104】
(ii)触媒調製
撹拌翼と還流装置を取り付けた5Lセパラブルフラスコに、純水1,698gを投入し、98%硫酸501gを滴下した。そこへ、さらに市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製、ベンクレイSL、平均粒径:19.5μm)を300g添加後撹拌した。その後90℃で2時間反応させた。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、洗浄した。回収したケーキに硫酸リチウム1水和物324gの水900ml水溶液を加え90℃で2時間反応させた。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、pH>4まで洗浄した。回収したケーキを120℃で終夜乾燥した。
その結果、275gの化学処理体を得た。
内容積1Lのフラスコに上記で得た化学処理モンモリロナイト10.0gを秤量し、ヘプタン65ml、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液35.4ml(25mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、ヘプタンで残液率1/100まで洗浄し、最後にスラリー量を100mlに調製した。
【0105】
(iii)プロピレンによる予備重合
上記で調製し、トリイソブチルアルミニウム処理したモンモリロナイトのヘプタンスラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液0.85mlを加えて10分間、室温で撹拌した。
また、(i)で合成したジクロロ{1,1´−ジメチルシリレンビス[2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4H−アズレニル]}ハフニウムのトルエン(60ml)溶液を、上記の1Lフラスコに加えて室温で60分間撹拌した。
次に、上記モンモリロナイトのヘプタンスラリーに、さらにヘプタン340mlを追加して内容積1Lの撹拌式オートクレーブに導入し、40℃でプロピレンを238.1mmol/hr(10g/hr)の一定速度で120分間にて供給した。プロピレン供給終了後、50℃に昇温して2時間そのまま維持し、その後残存ガスをパージして予備重合触媒スラリーをオートクレーブより回収した。
回収した予備重合触媒スラリーを静置し、上澄み液を抜き出した。残った固体にトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液8.5ml(6.0mmol)を室温にて加え、室温で10分間撹拌した後、減圧乾燥して固体触媒を回収した。
予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は、1.55であった。
【0106】
(iv)ブロック重合
内容積3Lの撹拌式オートクレーブ内をプロピレンで充分置換した後に、トリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液2.76ml(2.02mmol)を加え、水素180ml、続いて液体プロピレン750gを導入し、65℃に昇温しその温度を維持した。上記(iii)で調製した予備重合触媒をノルマルヘプタンにスラリー化し、触媒として(予備重合ポリマーの重量は除く)50mgを圧入し重合を開始した。槽内温度を65℃に維持し、触媒投入1時間経過後に、残モノマーのパージを行い、アルゴンにて槽内を5回置換した。撹拌を停止させ、アルゴンをフローさせながら、テフロン(登録商標)管を槽内に差し込み、ポリプロピレンを少量抜き出した。90℃窒素気流下で30分間乾燥後に測定した結果、抜き出し量は10gであった。
その後、プロピレンを0.9MPa、続いてエチレンを1.1MPa導入し、内温を80℃に昇温した。その後、予め調製しておいたプロピレンとエチレンの混合ガスを導入し、内圧が2.0MPaで重合中にモノマー組成比が変化しないように調整しながら、50分間重合反応を制御した。その結果、粒子性状の良い250gのプロピレン系ブロック重合体が得られた。
上記で得られたプロピレン系ブロック共重合体(II)(成分(C)−1)は、CFC−IRの結果から、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)含量は52重量%、別途採取した結晶性プロピレン重合体成分(c)のMFRは110(g/10分)、該成分(c)の融点は158℃、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)のエチレン含有量は18重量%、該成分(d)の重量平均分子量は380,000、成分全体のMFRは11(g/10分)であった。
【0107】
(製造例3)…成分(C)−2
2段目重合でのプロピレンとエチレンの混合ガスの比率を40/60にする以外は、製造例2と同様に重合し、プロピレン系ブロック重合体を得た。結果を製造例2と併せ表2に示した。
【0108】
(製造例4)…成分(C)−3
2段目重合でのプロピレンとエチレンの混合ガスの比率を60/40にする以外は、製造例2と同様に重合し、プロピレン系ブロック重合体を得た。結果を表2に示した。
【0109】
(製造例5)…成分(C)−4
2段目重合でのプロピレンとエチレンの混合ガスの比率を30/70にする以外は、製造例2と同様に重合し、プロピレン系ブロック重合体を得た。結果を表2に示した。
【0110】
(製造例6)…成分(C)−5
2段目重合での重合時間を15分間にする以外は、製造例2と同様に重合し、プロピレン系ブロック重合体を得た。結果を表2に示した。
【0111】
(製造例7)…成分(C)−6
2段目重合でのプロピレンとエチレンの混合ガスの比率を20/80にする以外は、(製造例6)と同様に重合し、プロピレン系ブロック重合体を得た。結果を表2に示した。
【0112】
【表2】

【0113】
(4)成分(D)無機フィラー
平均粒径=5.5μm、平均アスペクト比=6の微粉タルク(成分(D)−1)を用いた。
【0114】
(実施例1〜2)
各成分(A)〜(D)を表3に示す割合で配合し、下記の条件で造粒し、成形したものについて性能評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0115】
(1)添加剤配合
(i)酸化防止剤:テトラキス{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン500ppm、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト500ppm
(ii)中和剤:ステアリン酸カルシウム500ppm
【0116】
(2)造粒
(i)押出機:テクノベル社製KZW−15−45MG2軸押出機
(ii)スクリュー:口径15mm L/D=45
(iii)押出機設定温度:(ホッパ下から)40,80,160,200,200,200(ダイ℃)
(iv)スクリュー回転数:400rpm
(v)吐出量:スクリューフィーダーにて約1.5kg/hrに調整
(vi)ダイ:口径3mm ストランドダイ 穴数2個
【0117】
(3)成形
得られた原料ペレットを、以下の条件により射出成形し、物性評価用平板試験片を得た。
(i)規格番号:JIS K−7152(ISO 294−1)
(ii)成形機:東芝機械社製EC20P射出成型機
(iii)成形機設定温度:(ホッパ下から)80,210,210,200,200℃
(iv)金型温度:40℃
(v)射出速度:52mm/s(スクリューの速度)
(vi)保持圧力:30MPa
(vii)保圧時間:8秒
(viii)金型形状:平板(厚さ4mm 幅10mm 長さ80mm)2個取り
【0118】
(比較例1〜6)
各成分(A)〜(D)を表3に示す割合で配合し、実施例1と同様に評価を行なった。評価結果を表4に示す。
【0119】
【表3】

【0120】
【表4】

【0121】
表3および4より、本発明の各規定要件を満たす、実施例1〜2に示す組成を持ったプロピレン系樹脂組成物およびその成形体は、何れも良好な物性バランス(流動性、剛性、低温衝撃強度)、ウェルド外観、フローマーク外観を有し、工業部品部材、例えばバンパー、サイドモール等の自動車部品等に適する性能を有することが分かる。
一方、比較例1〜6に示す組成を持ったプロピレン系樹脂組成物およびその成形体は、これらの性能バランスが不良で見劣りすることが分かる。
例えば、比較例1において、成分(C)を全く配合しなかったため、その外観改良効果が発現されず、実施例1、2に比し、ウェルド消失距離に著しい差異が生じた。
また、比較例2において、実施例1と、各成分の配合量比および(C)成分以外の各成分の種類が同じであるにもかかわらず、フローマーク発生距離、とりわけ曲げ弾性率に著しい差異が生じた。これは比較例2において、成分(A)と柔軟性成分(B)との相溶性向上が、実施例1の場合に比し、本発明規定の特性を満たさない成分(C)により過剰に促進されたためと考えられる。
一方、比較例3においては、実施例1と、各成分の配合量比および(C)成分以外の各成分の種類が同じであるにもかかわらず、曲げ弾性率、衝撃強度、とりわけウェルド消失距離に著しい差異が生じた。これは比較例3において、成分(A)と成分(B)との相溶性向上が、実施例1の場合に比し、本発明規定の特性を満たさない別の成分(C)により促進され得ず、その結果、主に成分(B)の均一分散状態の発現が不充分となったためと考えられる。
また、比較例4においては、実施例1に比し、曲げ弾性率、衝撃強度およびフローマーク発生距離に著しい差異が生じた。これは成分(C)が過剰であるため、成分(A)や成分(B)などの特性の発現度合が低減したためと考えられる。
また、比較例5においては、成分(C)としてエチレン含量の異なるプロピレン系のブロック共重合体を用いた場合、実施例1、2に比し、ウェルド消失距離に著しい差異が生じた(特許文献17参照)。これは成分(C)によっては、成分(A)と成分(B)との相溶性向上効果が十分には発現されないためと考えられる。
さらに、比較例6においては、成分(B)および成分(D)を全く配合しなかったため、その補強効果が発現されず、実施例1に比し、曲げ弾性率および衝撃強度に著しい差異が生じた。
【0122】
以上における、各実施例と各比較例の結果からして、本発明の構成と各要件の合理性と有意性が実証され、さらに本発明の従来技術に対する優位性も明らかにされている。
【産業上の利用可能性】
【0123】
ポリプロピレン樹脂組成物およびその成形体は、良好な物性バランス(流動性、剛性、低温衝撃強度)、ウェルド外観、フローマーク外観を有し、工業部品部材、例えばバンパー、サイドモールなどの自動車部品などに適する性能を有している。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】外観についての評価用成形体を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チーグラー系触媒を用いて重合される、結晶性プロピレン重合体成分とプロピレン・エチレン共重合体成分からなり、下記の特性1)〜5)を満たすプロピレン系ブロック共重合体(I)30〜97重量%、(B)エラストマー1〜40重量%、(C)メタロセン系触媒を用いて重合される、下記の特性6)〜11)を満たすプロピレン系ブロック共重合体(II)1〜15重量%および(D)無機フィラー1〜45重量%を含有することを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
特性1)結晶性プロピレン重合体成分(a)65〜97重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)3〜35重量%とからなること。
特性2)結晶性プロピレン重合体成分(a)のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、10〜600g/10分であること。
特性3)プロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量が、30〜70重量%であること。
特性4)プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量が、5万〜200万であること。
特性5)成分全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、5〜300g/10分であること。
特性6)結晶性プロピレン重合体成分(c)25〜70重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(d)30〜75重量%とからなること。
特性7)結晶性プロピレン重合体成分(c)のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、40〜350g/10分であること。
特性8)結晶性プロピレン重合体成分(c)の示差走査熱量測定(DSC)によって得られる融点が、156℃以上であること。
特性9)プロピレン・エチレン共重合体成分(d)のエチレン含量が、10〜30重量%であること。
特性10)プロピレン・エチレン共重合体成分(d)の重量平均分子量が、25万〜100万であること。
特性11)成分全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、5〜200g/10分であること。
【請求項2】
成分(C)が、エチレン含量10〜25重量%のプロピレン・エチレン共重合体成分(d)を45〜70重量%含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)43〜87重量%、成分(B)3〜15重量%、成分(C)6〜12重量%および成分(D)4〜30重量%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
上記メタロセン系触媒が、(ア)下記一般式[I]で示される遷移金属化合物、および(イ)(イ−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(イ−2)遷移金属化合物と反応してカチオンを形成可能な化合物および(イ−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)からなる群から選ばれる少なくとも1種の活性化剤を必須成分とし、(ウ)有機アルミニウム化合物を任意成分とするものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【化1】

(一般式[I]中において、AおよびAは、共役五員環配位子〔同一化合物内ではAおよびAは同一でも異なっていてもよい〕を示し、結合性基Qに結合していない共役五員環の炭素は置換基を有してもよく、Qは、2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基、Mは、周期律表4〜6族から選ばれる金属原子を示し、XおよびYは、それぞれ独立してMと結合した、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基を示す。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物を、射出成形または射出圧縮成形にて成形したことを特徴とする成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242509(P2009−242509A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89229(P2008−89229)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】