説明

ベルト式無段変速機の制御装置

【課題】ベルト式無段変速機の変速制御の性能を向上させる。
【解決手段】変速機コントローラ21は、目標とする変速比tipに対応するプライマリ側可動シーブのストロークをプライマリ側可動シーブの目標ストロークtxpとして設定し(B3)、無段変速機構4と変速制御弁8の運動方程式に基づき設計される非線形制御器B4により、プライマリ側可動シーブの実ストロークxpを目標ストロークtxpにするステップモータ12の目標位置txmを算出し、ステップモータ12の実位置xmが目標位置txmとなるようにステップモータ12を駆動する(B6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の変速制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機は、プライマリプーリに供給されるプライマリ圧を変速制御弁で増減してプライマリプーリの溝幅を変更し、プライマリプーリとセカンダリプーリとの径比を変えることによって変速比を無段階に変更する変速機である。
【0003】
変速制御弁は変速リンクの中央に連結され、変速リンクの両端にはそれぞれプライマリプーリの可動シーブ、ステップモータが連結され、これにより変速比フィードバック制御機構を構成している。
【0004】
従来、上記変速機の制御装置においては、変速機全体を一次系(例えば、一次遅れの伝達関数+無駄時間等)で近似し、所望の応答性が得られるように制御系を設計していた(特許文献1)
【特許文献1】特許第3358435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
変速過渡特性に最も影響を及ぼすのは変速制御弁の応答である。しかしながら、従来の制御装置では、変速機全体を一次系で近似していたため、変速制御弁の応答特性が制御に十分反映されておらず、変速性能の向上にはなお改善の余地があった。
【0006】
また、従来の制御装置では、車両の運転状態から目標とする変速比を設定し、これを実現するステップモータの目標位置を求め、該目標位置となるようにステップモータを駆動していた。しかしながら、変速比とステップモータ位置は非線形関係にあり、変速制御弁が非線形特性を有しており、また、変速機の応答特性が変速の方向(アップシフト側変速、ダウンシフト側変速)に応じて異なるため、変速機全体を近似する伝達関数の時定数の設定が難しいという問題があった。
【0007】
また、定常特性を改善するためにフィードバック制御を行うにしても、このように変速の方向によって変速機の応答特性が異なるため、フィードバックゲインの設定が難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる技術的課題を鑑みてなされたもので、ベルト式無段変速機の変速制御の性能のさらなる向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、プライマリ側可動シーブ及び固定シーブからなるプライマリプーリと、セカンダリ側可動シーブ及び固定シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリの間に掛け回されるベルトとからなる無段変速機構と、一端が前記プライマリ側可動シーブに連結される変速リンクと、前記変速リンクの中央にスプールが連結され、ライン圧を元圧としてプライマリ側可動シーブの油圧シリンダに供給されるプライマリ圧を調整する変速制御弁と、前記変速リンクの他端に連結される変速アクチュエータとからなる変速比フィードバック制御機構と、を備えた無段変速機の変速制御装置に係り、目標とする変速比に対応する前記プライマリ側可動シーブのストロークを前記プライマリ側可動シーブの目標ストロークとして設定する目標ストローク設定手段と、前記無段変速機構と前記変速制御弁の運動方程式に基づき設計され、前記プライマリ側可動シーブの実ストロークを前記目標ストロークにする前記変速アクチュエータの目標位置を算出する非線形制御手段と、前記変速アクチュエータの実位置が前記目標位置となるように前記変速アクチュエータを駆動するアクチュエータ駆動手段と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、変速過渡特性に最も影響を及ぼす変速制御弁の応答特性を考慮に入れて制御系を設計したことにより、変速機全体を一次近似していた従来の制御に比べ、変速制御の性能(精度、追従性)を向上させることができる。運動方程式に基づき設計された制御系なので、実現不可能な指示値が出されて制御が不安定になることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1はベルト式無段変速機の概略構成を示している。ベルト式無段変速機は、図示しないエンジンにトルクコンバータあるいは発進クラッチを介して接続されるプライマリプーリ1と、図示しない駆動輪に減速ギヤ、デファレンシャルギヤ、駆動軸を介して接続されるセカンダリプーリ2と、両プーリの間に掛け回されるベルト3とからなる無段変速機構4を備える。
【0013】
プライマリプーリ1、セカンダリプーリ2はそれぞれ固定シーブ1a、2aと、これに対向して配置される可動シーブ1b、2bとで構成される。可動シーブ1b、2bの背面にはそれぞれ油圧シリンダが設けられており、これら油圧シリンダの油室(プライマリ室1c、セカンダリ室2c)への供給油圧を増減すると、可動シーブ1b、2bが固定シーブ1a、2aに対して変位する。これにより、可動シーブ1b、2bと固定シーブ1a、2aの間に形成される溝の幅が変更され、ベルト3とプライマリプーリ1、セカンダリプーリ2との接触半径が変更され、変速機の変速比が変更される。
【0014】
オイルポンプ5から圧送される作動油は、ライン圧制御弁6によってライン圧Plに調整され、これを元圧として、プライマリ室1cへの供給油圧(以下、プライマリ圧)Pp、セカンダリ室2cへの供給油圧(以下、セカンダリ圧)Psが変速制御弁8、セカンダリ圧制御弁9によってそれぞれ調整される。ライン圧制御弁6、セカンダリ圧制御弁9は流れる電流に応じて供給油圧を調整することができるソレノイド弁(デューティソレノイド、リニアソレノイド)である。
【0015】
変速制御弁8のスプール8sは変速リンク10の中央に接続される。また、変速リンク10の一方の端部はプライマリ側可動シーブ1bに接続され、他方の端部はステップモータ12(変速アクチュエータ)に接続される。これにより、変速機の実変速比ipをステップモータ12の位置で与えられる目標変速比tipに近づける変速比フィードバック機構を構成している。
【0016】
変速機の変速動作は次のようにして行われる。
【0017】
変速比ipをHi側(高速側、変速比小側)に変更するときは、ステップモータ12が図中左側に変位し、プライマリ側可動シーブ1bに接続された端部を支点として変速リンク10が移動し、変速制御弁8のスプール8sが図示の中立位置から図中左側に移動する。これにより、変速制御弁8のライン圧ポート8lとプライマリ圧ポート8pが連通し、ライン圧Plが変速制御弁8を介してプライマリ室1cに導入され、プライマリ室1cの油圧を上昇させる。また、セカンダリ圧制御弁9を制御してセカンダリ室2cの油圧を下げる。
【0018】
これにより、プライマリ側可動シーブ1bが固定シーブ1aに近づく方向に変位し、プライマリプーリ1の溝幅が狭くなる。そして、ベルト3がプライマリプーリ1側に引っ張られ、セカンダリ側可動シーブ2bが固定シーブ2aから離れる方向に変位してセカンダリプーリ2の溝幅が広くなり、変速機の実変速比ipがHi側に変更される。
【0019】
実変速比ipが目標変速比tipに近づくにつれ、ステップモータ12に接続された端部を支点として変速リンク10が移動し、変速制御弁8のスプール8sが図中右側に移動する。実変速比ipが目標変速比tipに一致すると、変速制御弁8のスプール8sはプライマリ圧ポート8pがライン圧ポート8l、ドレンポート8dいずれにも連通しない図示の中立位置に戻り、変速動作を完了する。同時に、セカンダリ圧制御弁9を制御してセカンダリ圧Psを上昇させてベルト3をセカンダリプーリ2で挟持する。
【0020】
逆に変速比ipをLo側(低速側、変速比大側)に変更するときは、ステップモータ12が図中右側に変位し、プライマリ側可動シーブ1bに接続された端部を支点として変速リンク10が移動し、変速制御弁8のスプール8sが図示の中立位置から図中右側に移動する。これにより、変速制御弁8のプライマリ圧ポート8pとドレンポート8dが連通し、プライマリ室1cの油圧が低下する。また、セカンダリ圧制御弁9を制御してセカンダリ室2cの油圧を上昇させる。
【0021】
これにより、セカンダリ側可動シーブ2bが固定シーブ2aに近づく方向に変位してセカンダリプーリ2の溝幅が狭くなる。そして、ベルト3がセカンダリプーリ2側に引っ張られ、プライマリ側可動シーブ1bが固定シーブ1aから離れる方向に変位してプライマリプーリ1の溝幅が広くなり、変速機の実変速比ipがLo側に変更される。
【0022】
実変速比ipが目標変速比tipに近づくにつれ、ステップモータ12に接続された端部を支点として変速リンク10が移動し、変速制御弁8のスプール8sが図中左側に移動する。実変速比ipが目標変速比tipに一致すると、変速制御弁8のスプール8sはプライマリ圧ポート8pがライン圧ポート8l、ドレンポート8dいずれにも連通しない図示の中立位置に戻り、変速動作を完了する。
【0023】
ステップモータ12、ライン圧制御弁6、セカンダリ圧制御弁9は、変速機コントローラ21によって制御される。変速機コントローラ21には、プライマリプーリ1の回転速度Np(角速度ωp)を検出するプライマリ回転速度センサ25、セカンダリプーリ2の回転速度Nsを検出するセカンダリ回転速度センサ26、及び、セカンダリ圧Psを検出するセカンダリ圧センサ27からの信号が入力される。また、変速機コントローラ21には、エンジンコントローラ22からスロットル開度TVO、変速機入力トルクTinに関する信号が入力される。
【0024】
変速機コントローラ21は、これら入力される信号に基づき、目標とする変速比tipを設定し、これが実現されるようにステップモータ12、セカンダリ圧制御弁9を制御する。また、変速時に必要とされるプライマリ圧Pp、セカンダリ圧Psいずれよりもライン圧Plが高くなるように、ライン圧制御弁6を制御する。
【0025】
図2は変速機コントローラ21の変速制御に関する部分の制御ブロック図である。これを参照しながら変速機コントローラ21が行う変速制御についてさらに説明する。
【0026】
到達変速比設定部B1では、車速VSP、プライマリ回転速度Np、スロットル開度TVOに基づき所定の変速マップを参照して到達変速比dipを設定する。到達変速比dipは、これら3つの入力パラメータに応じて決まる最終的に到達すべき変速比である。車速VSPはセカンダリ回転速度Nsから次式(1):
【0027】
【数1】

【0028】
により算出することができる。ifは終減速比、Rは駆動輪の半径である。
【0029】
目標変速比及び目標変速速度演算部B2では、実変速比ipを所望の応答性、ここでは時定数Tの一次遅れで到達変速比dipに近づけるために設定される中間の変速比(以下、目標変速比)tip、その変化速度である目標変速速度tip’を次式(2)、(3):
【0030】
【数2】

【0031】
【数3】

【0032】
により算出する。sは微分演算子である。実変速比ipはプライマリ回転速度Npをセカンダリ回転速度Nsで割って算出することができる。
【0033】
変速比・ストローク変換部B3(目標ストローク設定手段)では、目標変速比tip、目標変速速度tip’を所定の変換テーブルを参照してプライマリ側可動シーブ1bの目標ストロークtxp、目標ストローク速度txp’に変換する。このとき、速すぎる目標ストローク速度txp’は流量収支の不足により実現することができず、非線形制御器B4とステップモータ12の制御に悪影響を及ぼす懸念があり、また、ベルト3がプライマリ側可動シーブ1bに急激に押されて径方向に滑る可能性があるので、目標ストローク速度txp’には上限値を設定し、これ以上にならないようにする。
【0034】
非線形制御器B4(非線形制御手段)では、プライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxp及び目標ストロークtxp、プライマリ回転速度Np、ライン圧Pl(あるいは変速制御弁8のドレン圧Pd)に基づき、プライマリ側可動シーブ1bの目標ストロークtxpを実現するステップモータ12の目標位置txmを設定する。非線形制御器B4は、無段変速機構4と変速制御弁8の運動方程式(モデル)に基づき、プライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxpを目標ストロークtxpに一致させるように設計される。非線形制御器B4の設計方法については後述する。
【0035】
ストローク・ステップ変換部B5では、目標ステップモータ位置txmを所定の変換テーブルを参照してステップモータ12のステップ数に変換し、ステップモータ駆動部B6(変速アクチュエータ駆動手段)では、これに基づきステップモータ12を駆動する。
【0036】
目標セカンダリ圧設定部B7は、目標変速比tip、目標変速速度tip’、入力トルクTinに基づき目標セカンダリ圧tPsを設定する。目標セカンダリ圧tPsは、セカンダリプーリ2がベルト3を挟持する力が不足してベルト3が滑らないように設定される。このとき、ベルト3を強く挟持しすぎるとベルト3が破損する可能性があり、また、目標セカンダリ圧tPsまで実セカンダリ圧Psを上げることができないと変速動作が不安定になるので、目標セカンダリ圧tPsには上限値が設定され、これ以上にならないようにする。
【0037】
セカンダリ圧フィードバック制御部B8では、目標セカンダリ圧tPsと実セカンダリ圧Psとの偏差をゼロに近づけるために、偏差に基づき目標セカンダリ圧tPsを補正する。
【0038】
油圧・電流変換部B9では、補正後の目標セカンダリ圧tPsが所定の変換テーブルを参照してソレノイドの目標電流値tisに変換され、ソレノイド駆動部B10では、セカンダリ圧制御弁9のソレノイドを流れる電流が目標電流値tisとなるようにソレノイドへの印加電圧(デューティ比)を制御する。
【0039】
また、変速比・ストローク変換部B11では、実変速比ipから所定の変換テーブルを参照してプライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxpを求める。
【0040】
線形制御部B12(線形制御手段)は、非線形制御器B4を設計するのに用いた無段変速機構4、変速制御弁8の運動方程式(モデル)が含んでいる誤差を補償するためのフィードバック制御器である。線形制御器B12はいわゆるPI制御器であり、プライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxpと目標ストロークtxpの偏差eに基づき、実ストロークxpを目標ストロークtxpに近づけるためのフィードバック補正量xfbを算出する。算出されたフィードバック補正量xfbは目標ステップモータ位置txmに加算され、これによって目標ステップモータ位置txmが補正される。
【0041】
続いて、非線形制御器B4の設計方法について説明する。
【0042】
非線形制御器B4を設計するにあたり、まず、無段変速機構4、変速制御弁8の運動方程式を立てる、すなわちモデル化を行う。
【0043】
無段変速機構4の挙動は次式(4):
【0044】
【数4】

【0045】
で表すことができる。xp’はプライマリ側可動シーブ1bのストローク速度、kは1回転あたりの変速速度、ωpはプライマリプーリ1の角速度(=Np×2π/60)、Pp’はバランス推力相当圧、Ppはプライマリ圧、Apはプライマリプーリ1の油圧シリンダのピストン面積である。バランス推力相当圧Pp’はそのときの変速比を維持するのに必要なプライマリ圧であり、セカンダリ圧Psに応じて変化する。
【0046】
また、プライマリ室1cの出入油量QIOは次式(5):
【0047】
【数5】

【0048】
により算出することができる。Cdは抵抗係数、wは変速制御弁8のスプール8sの円周(=π×スプール径)、ρは作動油の密度である。ΔPはプライマリ室1cに作動油が流入する場合(アップシフト時)と、プライマリ室1cから作動油が流出する場合(ダウンシフト時)とで異なり、アップシフト時は次式(6):
【0049】
【数6】

【0050】
となる。ダウンシフト時は次式(7):
【0051】
【数7】

【0052】
となる。Pdは変速制御弁8のドレンポート8dの油圧(ドレン圧)であり、次式(8):
【0053】
【数8】

【0054】
により算出することができる。Aoriはドレンポート8dの下流に設けられたオリフィス13の開口面積、QOはオリフィス13を流れる油量で、QO=Ap×xp’により算出することができる。また、オリフィス13の下流に発生する油圧をαMPaとしている。
【0055】
次に、プライマリ室1cの流量変化を考える。なお、以下の説明では説明を簡略化するため、アップシフト時の場合について説明する。出力油量QIOとプライマリ室1cの体積変化は等しくなるので、次式(9):
【0056】
【数9】

【0057】
が成り立つ。そして、この式(9)に式(5)を代入すると、次式(10):
【0058】
【数10】

【0059】
が得られる。
【0060】
さらに、式(4)と式(10)を統合し、xp’について整理すると、次式(11):
【0061】
【数11】

【0062】
が得られる。式(11)は無段変速機構4と変速制御弁8の運動方程式で、プライマリ側可動シーブ1bのストローク速度xp’、すなわち、変速機の変速速度が、プライマリ回転速度Np(プライマリプーリ1の角速度ωp)、変速制御弁8のスプール8sのストロークxv、ライン圧Plとバランス推力相当圧Pp’の差に依存していることを示している。
【0063】
非線形制御器B4は、この運動方程式(11)に基づき、プライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxpを目標ストロークtxpに近づけるように設計される。
【0064】
このため、まず、σなる値を次式(12):
【0065】
【数12】

【0066】
で定義する。eはプライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxpと目標ストロークtxpの偏差(e=xp−txp)、λは正の値、cは原点補正定数であり、無限時間経過後のeに等しい。
【0067】
σがゼロになったとすると、e’=λ・txp−λ・xpとなる。無限時間経過後の定常値を考えると、e’=0となるので、λ・(txp−xp)=0となり、実ストロークxpが目標ストロークtxpに収束する系であることが分かる。
【0068】
さらに、σ=0となる十分条件を考える。リアプノフ関数Vの候補を次式(13):
【0069】
【数13】

【0070】
のように選ぶ。明らかにV≧0なので、常にV’<0であればVは単調に減少し、ある時間でV=0となる。V=0はすなわちσ=0を表す。リアプノフ関数Vが無限時間経過後にゼロとなるためには、次式(14):
【0071】
【数14】

【0072】
より、σ’=0であることが条件である。これより、σ=0となる十分条件として、次式(15):
【0073】
【数15】

【0074】
の条件を導出することができる。この式(15)に式(11)を代入し、xvをtxvとおけば、次式(16):
【0075】
【数16】

【0076】
を得ることができる。txvはプライマリ側可動シーブ1bの目標ストロークtxpを実現するスプール8sの目標ストロークである。さらに、この式(16)を変速制御弁8のスプール8sの目標ストロークtxvで整理すると、次式(17):
【0077】
【数17】

【0078】
が得られる。sgn()は括弧内の符号を返す関数である。
【0079】
さらに、プライマリ側可動シーブ1bの目標ストロークtxpと、変速制御弁8のスプール8sの目標ストロークtxvと、ステップモータ12の目標位置txmとの間には、変速リンク10の幾何学的関係から次式(18):
【0080】
【数18】

【0081】
の関係が成立するので、式(17)、式(18)から変速制御弁8のスプール8sの目標ストロークtxvを消去し、さらに、ステップモータ12の目標位置txmについて整理すれば、アップシフト時にプライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxpを目標ストロークtxpに近づけるステップモータ12の目標位置txmを算出する非線形制御器B4を、次式(19):
【0082】
【数19】

【0083】
の通り、設計することができる。xp0は最Lo変速比でのプライマリ側可動シーブ1bのストロークである。
【0084】
ダウンシフト時のステップモータ12の目標位置txmを算出するための非線形制御器B4も上記手順で同様に設計することができ、次式(20):
【0085】
【数20】

【0086】
となる。
【0087】
続いて、上記のように制御系を設計することによる作用効果について説明する。
【0088】
変速機コントローラ21は、目標とする変速比tipに対応するプライマリ側可動シーブ1bのストロークをプライマリ側可動シーブ1bの目標ストロークtxpとして設定し(B3)、無段変速機構4と変速制御弁8の運動方程式(式(11))に基づき設計される非線形制御器B4により、プライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxpを目標ストロークtxpにするステップモータ12(変速アクチュエータ)の目標位置txmを算出し、ステップモータ12の実位置xmが目標位置txmとなるようにステップモータ12を駆動する(B6、請求項1、請求項3から6に記載の発明)。この発明によれば、変速過渡特性に最も影響を及ぼす変速制御弁8の応答特性を考慮に入れて制御系を設計するので、変速機全体を一次近似していた従来の変速制御に比べ、変速制御の精度、追従性を向上させることができる。運動方程式に基づき制御系が設計されるので、実現不可能な指示値が出されて制御が不安定になることもない。
【0089】
変速機コントローラ21は、さらに、線形制御器B12により、プライマリ側可動シーブ1bの実ストロークxpと目標ストロークtxpの偏差に基づきステップモータ12の目標位置txmを補正する(請求項2に記載の発明)。この発明によれば、非線形制御器B4を設計する際に用いた無段変速機構4と変速制御弁8の運動方程式が含んでいる誤差(モデル化誤差)に起因する実ストロークxpと目標ストロークtxpのずれを修正し、実ストロークxpと目標ストロークtxpの定常誤差を無くすことができるので、変速制御の性能をさらに向上させることができる。
【0090】
また、線形制御器B12は、ステップモータ12の位置に対して線形に変化する可動シーブ1bのストロークに基づいて設計されるので、非線形に変化する変速比に基づいて設計する場合に比べて設計が容易である。従来、モデル化誤差を解消するフィードバック制御系を設計するには、変速機の応答特性が変速方向(アップシフト側変速、ダウンシフト側変速)に応じて異なるため、変速方向に応じてフィードバックゲインを変更する必要があったが、本発明によればかかる変更も不要である。
【0091】
また、無段変速機構4と変速制御弁8の運動方程式(式(11))に基づき非線形制御器B4を設計した結果、プライマリ側可動シーブ1bのストローク速度xp’、すなわち、変速機の変速速度がプライマリプーリの回転速度Np(角速度ωp)に依存していることが分かり(式(11))、上記非線形制御器B4ではプライマリプーリの回転速度Np(角速度ωp)に基づきステップモータ12の目標位置txmを算出するようにしている(請求項3から6に記載の発明)。この発明によれば、変速制御の性能を一層向上させることができる。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】ベルト式無段変速機の概略構成図である。
【図2】変速機コントローラの変速制御に関する部分の制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0094】
1 プライマリプーリ
2 セカンダリプーリ
1a、2a 固定シーブ
1b、2b 可動シーブ
3 ベルト
4 無段変速機構
6 ライン圧制御弁
8 変速制御弁
8s スプール
9 セカンダリ圧制御弁
10 変速リンク
12 変速制御弁(変速アクチュエータ)
21 変速機コントローラ
25 プライマリ回転速度センサ
26 セカンダリ回転速度センサ
27 セカンダリ圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリ側可動シーブ及び固定シーブからなるプライマリプーリと、セカンダリ側可動シーブ及び固定シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリの間に掛け回されるベルトとからなる無段変速機構と、
一端が前記プライマリ側可動シーブに連結される変速リンクと、前記変速リンクの中央にスプールが連結され、ライン圧を元圧としてプライマリ側可動シーブの油圧シリンダに供給されるプライマリ圧を調整する変速制御弁と、前記変速リンクの他端に連結される変速アクチュエータとからなる変速比フィードバック制御機構と、
を備えたベルト式無段変速機の変速制御装置において、
目標とする変速比に対応する前記プライマリ側可動シーブのストロークを前記プライマリ側可動シーブの目標ストロークとして設定する目標ストローク設定手段と、
前記無段変速機構と前記変速制御弁の運動方程式に基づき設計され、前記プライマリ側可動シーブの実ストロークを前記目標ストロークにする前記変速アクチュエータの目標位置を算出する非線形制御手段と、
前記変速アクチュエータの実位置が前記目標位置となるように前記変速アクチュエータを駆動する変速アクチュエータ駆動手段と、
を備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記プライマリ側可動シーブの前記実ストロークと前記目標ストロークの偏差に基づき前記変速アクチュエータの前記目標位置を補正する線形制御手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
前記非線形制御手段は、アップシフト時、前記プライマリ側可動シーブの前記実ストローク及び目標ストローク、前記プライマリプーリの回転速度、及び、前記ライン圧に基づき前記変速アクチュエータの前記目標位置を算出することを特徴とする請求項1または2に記載のベルト式無段変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記非線形制御手段は、アップシフト時、前記変速アクチュエータの前記目標位置を次式:
【数1】

ただし、xp0:最Lo変速比でのプライマリ側可動シーブのストローク、xp:プライマリ側可動シーブの実ストローク、txp:プライマリ側可動シーブの目標ストローク、txp’:プライマリ側可動シーブの目標ストローク速度、Ap:プライマリプーリの油圧シリンダのピストン面積、ρ:作動油の密度、k:1回転あたりの変速速度、w:スプールの円周、ωp:プライマリプーリの角速度、Cd:抵抗係数、Pl:ライン圧、λ:正の係数、Pp’:バランス圧相当値、
により算出することを特徴とする請求項3に記載のベルト式無段変速機の変速制御装置。
【請求項5】
前記非線形制御手段は、ダウンシフト時、前記プライマリ側可動シーブの前記実ストローク及び目標ストローク、前記プライマリプーリの回転速度、及び、前記変速制御弁のドレン圧に基づき前記変速アクチュエータの前記目標位置を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のベルト式無段変速機の変速制御装置。
【請求項6】
前記非線形制御手段は、ダウンシフト時、前記変速アクチュエータの前記目標位置を次式:
【数2】

ただし、xp0:最Lo変速比でのプライマリ側可動シーブのストローク、xp:プライマリ側可動シーブの実ストローク、txp:プライマリ側可動シーブの目標ストローク、txp’:プライマリ側可動シーブの目標ストローク速度、Ap:プライマリプーリの油圧シリンダのピストン面積、ρ:作動油の密度、k:1回転あたりの変速速度、w:スプールの円周、ωp:プライマリプーリの角速度、Cd:抵抗係数、Pd:ドレン圧、λ:正の係数、Pp’:バランス圧相当値、
により算出することを特徴とする請求項5に記載のベルト式無段変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−202681(P2008−202681A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39275(P2007−39275)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】